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Journal of the Japanese Association for Petroleum Technology Vol. 80, No. 3 May, 2015 pp Lecture NORM Received April 20

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1. は じ め に

産油・ガス国を中心とした油・ガス田操業現場では,自 然起源放射性物質(NORM)が濃集することによる環境汚 染,作業員の被ばくや環境破壊および人への影響が懸念さ れており,NORM を適切に管理することへの必要性が増 大している。NORM の管理にあっては,まず,その分布 状況を可視化し汚染状況を把握することが第一である。 三菱重工業株式会社(MHI)は,東日本大震災での福島 第一原発事故により放出された人工放射性物質が原因で生 じたホットスポットを可視化するため,国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)との協力のもと,宇宙技 術を活用した「放射性物質見える化カメラ ASTROCAM 7000HS 」を開発商業化した経験を有している。 本論文では,ASTROCAM 7000HS 開発の経緯,放射性 物質の可視化技術の概要,福島におけるフィールド試験結 果ならびに独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC)の技術ソリューション事業で受託して実施し たASTROCAM 7000HS を利用した NORM 可視化への取り 組みについて述べる。

2. ASTROCAM 7000HS 開発の経緯

はじめに,ガンマ線の可視化を実現したASTROCAM 7000HS 開発の経緯を紹介する。 ガンマ線は,可視光や紫外線と同じ電磁波のひとつであ るが,光子のもつエネルギーが極めて大きいためCCD カ メラのような検出器を透過してしまうので,検出して画 像化することが難しい。ASTROCAM 7000HS では検出素 子として,半導体のシリコン(Si)とテルル化カドミウム (CdTe)を使用している。これらの半導体素子は二次元 のピクセル検出器であり,複数のピクセルで検出した 信号をもとに,コンプトン散乱の運動方程式を応用する ことで,ガンマ線のエネルギーと入射方向が測定できる Si/CdTe 半導体コンプトンカメラとして機能している(高

玄蕃  恵

**,†

・松浦 大介

**

・関野 宏之

***

(Received April 20, 2015;accepted June 2, 2015)

Development of technology for NORM visualization

Kei Genba, Daisuke Matsuura and Hiroyuki Sekino

Abstract: Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. (MHI) released the ASTROCAM 7000HS, a radioactive substance

visualization camera, in March 2013, following the accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant caused by the Great East Japan Earthquake. The ASTROCAM 7000HS incorporates the technologies for the gamma-ray detector used for the ASTRO-H satellite, which we have been developing under entrustment from and together with scientists at the Institute of Space and Astronautical Science (ISAS) at the Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA), and the design was modified for use on land to commercialize the product. We performed on-site tests in June 2013 in the area where living is restricted in Fukushima Prefecture and succeeded in the visualization of hot spots polluted by cesium mainly.

At oil and gas production facilities, there are cases where high concentration of naturally occurring radioactive materials (NORMs) appear. These NORMs cause a health risk to workers and environmental affect. MHI started the R&D to apply this camera for NORM visualization with Japan Oil, Gas and Metals National Corporation (JOGMEC). The outline of the ASTROCAM 7000HS, the measurement principle and the test results are reported below.

Keywords: Gamma-ray imaging, Semiconductor Compton camera, NORM, ASTROCAM 7000HS

平成26 年 10 月 30 日,平成 26 年度秋季講演会「エネルギー確保の多

様性と新技術」にて講演 This paper was presented at the 2014 JAPT Autumn Meeting entitled Diversifying in securing energy resources and its related new technologies held in Tokyo, Japan, on October 30, 2014.

** 三菱重工業株式会社防衛・宇宙ドメイン誘導事業部電子システム技

術部 Mitsubishi Heavy Industries Space & Integrated Defense Systems Engineering Department, Guidance & Propulsion Division, Integrated Defense & Space Systems

*** 独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構石油開発技術本部技術

ソリューション事業グループ Japan Oil, Gas and Metals National Cor-poration Oil & Gas Upstream Technology Unit Technical Solutions Project Group

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橋ほか1),2))。コンプトンカメラの動作原理については2.3 項で詳しく述べる。 MHI では 2004 年ごろより,次期 X 線天文衛星の搭載に 向けてSi/CdTe コンプトンカメラの研究を JAXA と共同 で着手した。JAXA の 7 番目の X 線天文衛星で総重量が 2.7 トンを超える大型のX 線天文衛星 ASTRO-H(Takahashi et al. 3))プロジェクトが2008 年末に正式に発足した。この 衛星は測定対象となるエネルギー領域ごとに4 種類のミッ ション系サブシステムから構成されており,エネルギーの 低い方から高い方に順に,SXS,SXI,HXI,SGD(Tajima

et al.4), Watanabe et al.5))と呼ばれる。この中でもSGD(Soft

Gammer-ray Detector :軟ガンマ線検出器)は,およそ 100 keV から 600 keV の最も高いエネルギー領域を担当してお り1 式で 150 kg を超えるような巨大検出器である。プロ ジェクトの正式化を受け,2009 年ごろより ASTRO-H 搭載 SGD の開発が本格的にスタートした。SGD には Si/CdTe 半導体コンプトンカメラのほかさまざまな最先端技術を適 用して2015 年度の衛星打ち上げを目指して開発が進めら れていた。 ところが,2011 年 3 月の東日本大震災とこれに続く放 射性物質の広範囲の拡散という事案が発生し,除染を含 めたさまざまな問題が発生した(高橋ほか1)Takahashi et al.6))。これに対して当社ではJAXA とともに宇宙開発で 培った技術を地上に転用することで,この事案に役立て る可能性があると考え,地上における放射性物質可視化 技術の開発を開始した。除染において主に対象とする放 射性物質はセシウム137(137Cs)の放出する 662 キロエレ クトロンボルト(以後keV と記す。)のガンマ線である。 ASTROCAM 7000HS は ASTRO-H 衛星 SGD の技術に基づ き短期間で,構造設計,熱設計,ユーザインタフェースな どのさまざまな開発の後,製品化を行い2013 年度に販売 を開始した。ASTROCAM 7000HS は,以下のような特徴 を持つ放射性物質可視化カメラである。 ・超広視野角(2π半球以上) ・高感度 ・高角度分解能 ・高エネルギー分解能 2.1 ASTROCAM 7000HS の概要 ASTROCAM 7000HS は,カメラハウジングの中に可視 光カメラとコンプトンカメラと呼ぶガンマカメラの異なる 2 波長のカメラを内蔵しており,パソコン上でこれらを合 成することにより,可視光カメラで取得した風景画像上に 放射性物質の分布を可視化している(図1)。次項以下で ASTROCAM 7000HS において最も重要なコンプトンカメ ラおよびコンプトン散乱についてまとめる。 2.2 3 種類の物理現象 電磁波のひとつであるガンマ線と物質との反応には,3 種類の物理現象がある(松浦ほか7))。これらの原理を応 用して,ガンマ線の可視化カメラは作られている。カメラ への応用例は2.3 項で紹介する。 (1)光電吸収(光電効果) 光電吸収は,ガンマ線が1 回の相互作用で検出部に完全 に吸収され消失する反応である。ガンマ線はエネルギーが 高く検出器を透過しやすいため,反応確率が低い相互作用 である。 (2)コンプトン散乱 コンプトン散乱では,図2 に示すとおり,入射したガン マ線が検出部で完全に吸収されずに散乱し,ちょうどビリ ヤードの玉のように散乱ガンマ線と反跳電子を作り出す反 応である。ガンマ線に対して最も反応確率が高い相互作用 である。 (3)電子対生成 電子対生成は,ガンマ線が電子と陽電子の対を作り出す 反応である。電子対生成が起きるには電子の静止質量であ る511keV の 2 倍(つまり 1022 keV))を超える必要があ り,除染の対象となる134Cs や137Cs が放射する 600 keV か ら800 keV 程度よりもさらに大きなエネルギーを持つガン マ線が起こす反応である。 図1 2 波長のカメラを内蔵する ASTROCAM 7000HS2 コンプトン散乱のイメージ

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材で覆った構成となる。ピンホールコリメータを通り抜け, カメラに入射したガンマ線は,ピクセル型検出器で検出さ れる。測定された検出器の位置情報とピンホールとの幾何 学的な関係からガンマ線の飛来方向を特定する。ピンホー ルカメラ方式では遮蔽材による重量増加や視野角に限界が ある。 (2)コンプトンカメラ方式 コンプトンカメラ方式は,コンプトン散乱を応用してガ ンマ線を撮像する方式である。ASTROCAM 7000HS は, この方式を採用している。カメラは,図3(b)に示すよう に散乱層と吸収層のピクセル型検出器で構成される。カメ ラに入射したガンマ線は散乱層でコンプトン散乱を起こ ルギー情報から算出した散乱角(θ)と,位置情報から算出 した円錐の中心軸から求められる。 あるガンマ線源から複数のガンマ線の光子が検出できれ ば,時間とともに円環が重なりあい,その交点からガンマ 線の飛来方向を特定できる。画像処理部の解析ソフトウェ アが,散乱層におけるエネルギーと位置(E1,X1)およ び吸収層におけるエネルギーと位置(E2,X2)から算出 した円環を仮想的な半球面上に描画してゆき,さらにこれ を平面に投影してゆく。検出したガンマ線のイベント数が 3 個,32 個,128 個と増加するに従い,円環の交点が赤く 強調され,ガンマ線の画像が鮮明になる様子が分かる(図 4)。コンプトンカメラでは以上のような方法によりガンマ 図3 ピンホールカメラとコンプトンカメラの撮像原理1 ピンホールカメラとコンプトンカメラの比較 撮像方式 ピンホールカメラ コンプトンカメラ 主な相互作用 光電効果 コンプトン散乱 短 所 ・ 検出部を思い遮蔽材で囲む必要があり,装置が大型で 重くなる。 ・ 視野角が 40 度から 60 度に制限される。 ・ 遮蔽材をすり抜けたガンマ線によりノイズが増加す る。特に遮蔽材が薄くなるとピンホールコリメータ付 近では顕著になる。 ・ 取得するデータからガンマ画像の作成が複雑 になる 長 所 ・ 検出部の構造が比較的簡単である。 ・ 取得データからガンマ画像の作成が比較的容易である。 ・ ガンマ線の到来方向を特定できる為,遮蔽材 は不要で小型軽量化が可能である。 ・ 視野が 180 度(半球)と超広角である。 ・ コンプトン散乱はガンマ線に対して反応確率 が高い相互作用であり,検出効率を向上できる。

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線の飛来方向を絞り込めるため,ピンホールコリメータな どの遮蔽物によりガンマ線の飛来方向を制限する必要がな い。よって,カメラの軽量化および半球(2π)方向とい う超広角の測定視野を可能としている。 2.4 ASTROCAM 7000HS のシステム構成 ASTROCAM 7000HS は,カメラ本体,制御部および操作・ 画像処理部で構成されている。以下,各構成品について説 明する。 (1)カメラ本体 カメラ本体には,コンプトンカメラ,高圧電源,電子冷 却,インタフェース(I/F)回路および可視光の魚眼カメ ラなどが収納されている。 (2)制御部 制御部には,カメラ制御回路,温度制御回路,高圧制御 回路および電源回路などが格納されている。制御部は,操 作・画像処理部からコマンドを受け取り,カメラ本体へ電 圧供給制御指令や測定制御信号を送る。 (3)操作・画像処理部 測定に関するすべての制御は,パソコン上のユーザイン タフェース画面から行える。そのため,パソコンのリモー ト操作機能を使えば遠隔操作が可能なため,測定員の被爆 量を低減が期待できる。図5 にユーザインタフェース画面 を示す。幅広い測定者に使用されることを想定して容易な 操作性に配慮し,測定者は画面上の 操作ボタン で,カ メラへの電圧供給のオン・オフと,測定の開始をクリック するだけで操作が可能である。測定を開始すると,魚眼カ メラが撮像した画面中央の光学画像に,コンプトンカメラ が検出したガンマ線の円環がほぼリアルタイムで重ね書き され,ホットスポットが徐々に強調される。その他,セン サの状態表示,エネルギースペクトルや検出数の時間変化 などを確認できる。また,画面の右上に配置されている 核種の選択ボタンにより,測定中にリアルタイムで表示 核種を切り替えることもできる。ユーザは最大12 種類の 任意の核種をデータベースに登録することができる。 AS-TROCAM 7000HS の画像処理で特記すべき点の 1 つがこの 選択機能である。放射性物質から発生したガンマ線は,核 種固有のエネルギーを持つ。例えば137Cs のエネルギーは 662keV である(図 6 にエネルギースペクトルの中で137Cs として選択されたイベントをハッチングした)。画像処理 部は,測定したエネルギーとデータベースにある核種固有 のエネルギー情報が一致した情報に限り,データを処理し て可視化に使用する。この処理方法により,地面や建物な どで散乱・吸収された2 次ガンマ線を排除し,放射性物質 からカメラに直接飛来したガンマ線だけを処理する。その 結果,放射性物質の位置を正確に解析でき,高い角度分解 能を実現している。

3. 福島フィールド試験

3.1 フィールド試験(その 1) 屋外における放射性物質分布の可視化を実証例とし て,福島の原発20 km 圏内の測定結果を示す(Takeda et al.8))。図7(a)除染前と図 7(b)除染後のセシウム 137(137Cs) の分布を可視化した画像である。どちらのデータにも,同 じ解析処理を行い画像を作成している。図7(a)のバック 図5 ASTROCAM 7000HS のユーザインタフェース画面 137Cs としてイベントをハッチング6 エネルギースペクトル(図 5 左下の拡大)4 検出したガンマ線のイベント数とガンマ画像の変化

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7 福島フィールド試験(その 1)におけるガンマ画像(137Cs の分布) 除染前に検出されたセシウム137 の分布が除染後には検出されなかった。除染効果の可視化に適用した例 図8 高所作業車上の ASTROCAM 測定風景11 NORM 可視化実験における測定器セットアップ状況12 NORM 可視化実験におけるエネルギースペクトル10 ASTROCAM 7000HS の外観9 福島フィールド試験(その 2)におけるガンマ 画像(137Cs の広範囲分布) 左上から右下に向けて黄色矢印の間に側溝が存在する。

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14 遮蔽材透過実験における NORM 可視化実験 における測定器セットアップ状況(遮蔽厚12 mm) 図15 遮蔽材透過実験における NORM 可視化実験に おけるエネルギースペクトル(遮蔽厚12 mm) 図13 NORM 可視化実験におけるウラン系 NORM のガンマ画像 娘核種の214Bi を可視化している。18 図 17 の E-Band 3 の拡大図17 遮蔽材厚を変えた NORM エネルギースペクトル比較19 遮蔽材 2 枚の場合の NORM ガンマ画像16 遮蔽材透過実験における NORM 可視化実験に おけるガンマ画像(遮蔽厚12 mm)

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メラから測定対象までの距離は約20 m でホットスポット の中で最も強い部分は空間線量が約42μSv/h であった。 このホットスポットは側溝に沿って特に集中しており雨水 の流れに従い放射性セシウムが側溝に集積したものと推定 される。また,その状況は図9 のガンマ画像の左上側に分 布が鋭角に飛び出している位置と側溝の伸びる方向が良く 一致している。さらに地上からの高さ6 m の位置から測 定することで,カメラ近傍の地面からやってくるバックグ ランドの影響を相対的に緩和することができホットスポッ トが把握しやすくなる。ASTROCAM 7000HS の超広視野 角と遠距離,高感度という特徴が顕著に表れた測定であり, 広範囲のNORM 分布把握への有効性を示唆するものと考 えられる。

4. 油・ガス田操業現場への適用

セシウムなどの人工放射性物質の可視化,特に除染用途 を目的に開発したASTROCAM 7000HS(図 10 参照)であっ たが,2013 年に油・ガス田操業現場における NORM 管理 にむけたJOGMEC 技術ソリューション事業「NORM 可視 化技術の開発」に採択されたことを契機に,NORM に適 用するための開発に着手した。測定対象が放射性物質が天 然由来であるか,あるいは,人工由来であるかの違いはあ るものの,どちらもガンマ線を放出し広い範囲に分布して いるものを可視化するという視点から,適用できる可能性 は高いと考えた。NORM(Naturally Occurring Radioactive Materials)とは,天然資源(岩石,鉱物,オイル,ガス) などに含まれる,ウラン238(238U)やトリウム 232(232Th) などの天然の放射性物質やその娘核種のことを指し,油・ ガス田操業現場ではNORM が濃集することによる放射線 が人体あるいは環境に与える影響が近年注目されている。 特に産業活動により生じて濃度が高められたNORM は

TENORM(Technologically Enhanced Naturally Occurring Radionuclide Materials)とも呼ばれ,国際的に NORM 管 理の必要性が増大している。 多くの油・ガス田操業現場ではサーベイメータやゲルマ ニウム検出器を利用したNORM 管理が行われていると考 えられる。サーベイメータは低価格,容易な操作性および 可搬性に優れており,空間線量を測定する用途で広く使わ れている計測器である。一方でサーベイメータではガンマ 線の飛来方向の特定ができない為,周囲の放射線環境を合 成した値を測定していることになる。よって,線源がある 程度の広がりを持って分布している場合には線源位置を特 定するには不向きなため,線源の管理が困難になる。また, 可視化できる特性を生かして,測定者の被ばく軽減や作業 効率の向上が期待できると考える。

5. NORM 測定事例

5.1 NORM 可視化 はじめに,実際のNORM サンプルを使い可視化を試み た。図11 に示すようにウラン系列の NORM サンプルをカ メラから距離10cm の位置に配置した。ウラン 238(238U) は壊変を行い鉛206(206Pb)に行き着く。本実験ではこれ らの娘核種の中で比較的多くの割合でガンマ線を放出す るビスマス214(214Bi)に 4 個のエネルギーバンド E-band1 ∼E-band 4 を設定して解析を行った。図 12 にエネルギー スペクトルとエネルギーバンドを示す。なお,E-band 1 ∼E-band 4 はエネルギーの低い方から順に 238 keV,295

keV,352 keV,609 keV に設定した。214Bi により生じたエ

ネルギーピークがそれぞれE-band 1 ∼ E-band 4 のエネル ギーバンドに納まっており,これらのバンドに入ったイベ ントのみを解析し4 つのバンドを重ねあわせた結果を画像 化したものが図13 のガンマ画像である。ガンマ画像の広 がりは,ほぼNORM サンプルの入った円形樹脂容器のサ イズに分布しており,ウラン系列のNORM を可視化でき ることが確認できた。 5.2 遮蔽材を透過した NORM の可視化 遮蔽材を透過してきたガンマ線の可視化について検証 を行った。図14 に示すとおりウラン系列の NORM サン プルやカメラからの距離は5.1 項と同じセットアップにし た。それに加えてカメラとNORM との間には遮蔽材とし て12 mm 厚の SUS を配置した。この遮蔽材は油・ガス田 操業現場における配管やタンクの壁面などを模擬したもの である。これらの配管やタンク内に蓄積したスケール,ス ラッジなどにはNORM が含まれる場合があり,集積され たNORM から放射されるガンマ線が金属製の壁面を透過 してくる状況の可視化を想定している。 図15 にこの時のエネルギースペクトルを示す。図 15 に は2 本のスペクトルが描かれており,一つは遮蔽材なし(5.1 項の試験結果),他方は遮蔽材ありを示している。バック グランドノイズのプロファイル(なだらかな大きな山)に 大きな差は見られないが,4 か所のエネルギーピークでは, ピークの高さ(カウント数)が大きく異なっている。この 差は遮蔽材による遮蔽効果をそのまま示していることにな る。前項の実験と同様に,ウランの娘核種のビスマス214 (214Bi)を解析し遮蔽材越しの NORM 可視化を行った結果 が図16 である。遮蔽材を透過してきたガンマ線に対して

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もASTROCAM 7000HS は,エネルギーバンドに入ったイベ ントのみを選択して解析しているため,図16 のような良 質なガンマ画像を取得することができる。 さらに遮蔽材厚を2 倍の SUS24 mm とした場合のエネ ルギースペクトルの比較結果を図17 に,350 keV 付近の 拡大を図18 に示す。3 本のラインはそれぞれ遮蔽材なし, 遮蔽材1 枚,遮蔽材 2 枚のエネルギースペクトルである。 遮蔽材の厚さによりピークが減衰していることが確認でき る。また約200 keV よりも小さいエネルギー帯のバックグ ランドのスペクトルは減衰している。図19 に示すように 遮蔽材2 枚(SUS24 mm 厚)を透過したガンマ線からも良 好なガンマ画像が得られることが確認できた。 5.3 線量率計算 ASTROCAM 7000HS では放射性物質の相対的な強度分 布を表示しているが,線源強度の絶対値を算出する試みに ついてまとめる。ASTROCAM 7000HS は検出されたイベ ントの合計カウント数が分かっているため,この合計値を 相対的な強度分布に従って配分して,さらに別の手段で求 めた距離情報と強度分布とを対応づけした後,距離による 減衰を補正するという手順で線量率を算出した。 今回の試験では,0.5 m から 3.2 m の距離に 0.1 MBq か ら3.6 MBq の密閉線源を置き,それぞれの位置で線源か ら10 cm の位置における空間線量の推定値を算出した。 図20 に強度測定のセットアップのイメージを示す。測定 精度は実線で示す期待値に対して ±20%以内である(図 21)。ちなみにサーベイメータの測定精度要求は,期待値 ±15%以内である。よって,サーベイメータの測定とほぼ 同じ精度で絶対強度の推定ができることが分かった。サー ベイメータにより線源から10 cm の位置で絶対値を測定 するのと同じレベルの絶対値測定が,ASTROCAM 7000HS では3 m 遠方から可能となる。つまり遠方からホットス ポットの位置および強度が特定できることから,測定作業 者の被ばく量を1000 分の 1 にできる(ある点線源から距 離r だけ離れた位置におけるガンマ線のフラックスは,距r の 2 剰に反比例するため,0.1 m における単位面積あ たりのフラックスと3 m におけるフラックスは,((0.1/3)) の2 剰より約 1000 分の 1 となる)。

6. ま と め

X 線天文衛星向けに開発をしていたコンプトンカメラに よる放射性物質可視化の技術を,セシウムなどの人工放射 線の可視化カメラとして地上向けに開発し,主に除染用途 向けにASTROCAM 7000HS として商品化した。さらに, ASTROCAM 7000HS を資源開発分野の NORM 可視化に適 用すべくJOGMEC からの委託業務(技術ソリューション 事業)を実施した結果,次の内容が確認できた。 (1) ウラン(238U)やトリウム(232Th)系列の NORM か らエネルギースペクトルを観測し,NORM の分布お よび濃集の可視化を確認した。 (2) SUS12 mm 厚,SUS24 mm 厚の遮蔽材を透過した測定 を行いスペクトル測定および可視化を実証し,パイプ ラインやタンク越しのNORM 可視化を確認できた。 (3) 137Cs の線量率測定は期待値に対して,±20%の精度 で計測が可能である。 (4) 137Cs の高所作業車からの測定より,超広視野角,遠 距離対象の広範囲一括監視に有効であることが実証で きた。 以上の成果をもとに,今後は,引き続き検出効率の向上 や測定エネルギー領域の拡大などを図るとともに,油・ガ ス田操業現場固有の要求を取り込みながら,さらに性能を 向上させることで,作業者被ばくの低減,環境への影響の 低減,最終的には日本発の高度なNORM 管理システムの 構築につながることを期待している。 図21 強度算出結果 横軸は密閉線源の強度,縦軸は算出した線量率, 実線は期待値を示す。 図20 強度測定時のセットアップ

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参 考 文 献 1) 高橋忠幸・武田伸一郎・渡辺 伸,2013:コンプトン カメラで放射性物質の飛散状況を可視化する(話題), 日本物理学会誌,68(6),382–386. 2) 高橋忠幸・武田伸一郎,2014:コンプトンカメラによる ガンマ線イメージング,応用物理,83(10),820–825.

3) Tadayuki,T. ほか(247 名),2014:The ASTRO-H X-ray Astronomy Satellite, Proceedings of the SPIE, 9144, accessed May 25,2015;http://proceedings.spiedigi-tallibrary.org /volume.aspx?conferenceid=3363&volu-meid=16601#80234SessionName.

4) Tajima, H., Nakamoto, T., Tanaka, T., Uno, S., Mitani, T., E. do Couto e Silva, Fukazawa, Y., Kamae, T., Madejski, G., Marlow, D. Nakazawa, K., Nomachi, M., Oakada, Y. and Takahashi, T., 2004:Performance of a Low Noise Front-end ASIC for Si /CdTe Detectors in Compton Gam-ma-ray Telescope,IEEE Trans. Nucl. Sci. ,51, 842–847.

5) Watanabea,S., Tajima,H., Fukazawa,Y., Ichinohe,Y.,

6)Takahashi,T., Takeda, S., Watanabe,S. and Tajima,H., 2012:Visualization of Radioactive Substances with a Si /CdTe Compton Camera, Proceedings of Nuclear

Science Symposium and Medical Imaging Conference (NSS / MIC), 2012 IEEE, 4199–4204, accessed May 25,

2015;http://ieeexplore.ieee.org/xpl/login.jsp?tp=&ar-number=6551958&url=http%3A%2F%2Fieeexplore.ieee. org%2Fxpls%2Fabs_all.jsp%3Farnumber%3D6551958. 7) 松浦大介・玄蕃 恵・黒田能克・池淵 博・塘中哲 也,2014:放射性物質見える化カメラ ASTROCAM 7000HS の開発,三菱重工技報,51(1),80–87.

8) Takeda,S., Harayama,A., Ichinohe,Y., Odaka,H. Wata-nabe,S., Takahashi,T. Tajima,H. Genba,K., Matsuura,D., Ikebuchi,H., Kuroda,Y. and Tomonaka,T., 2015:A portable Si /CdTe Compton camera and its applications to visualization of radioactive substances, Nuclear Instru-ments and Methods in Physics Research A,787,207–211.

図 7 福島フィールド試験(その 1)におけるガンマ画像( 137 Cs の分布) 除染前に検出されたセシウム 137 の分布が除染後には検出されなかった。除染効果の可視化に適用した例 図 8 高所作業車上の ASTROCAM 測定風景 図 11 NORM 可視化実験における測定器セットアップ状況 図 12 NORM 可視化実験におけるエネルギースペクトル図10 ASTROCAM 7000HS の外観図9  福島フィールド試験(その 2)におけるガンマ画像(137Cs の広範囲分布)左上から右下に向けて黄色
図 14  遮蔽材透過実験における NORM 可視化実験 における測定器セットアップ状況(遮蔽厚 12  mm) 図 15  遮蔽材透過実験における NORM 可視化実験に おけるエネルギースペクトル(遮蔽厚 12 mm)図13 NORM 可視化実験におけるウラン系 NORMのガンマ画像娘核種の214Bi を可視化している。 図 18 図 17 の E-Band 3 の拡大図図 17 遮蔽材厚を変えた NORM エネルギースペクトル比較 図 19 遮蔽材 2 枚の場合の NORM ガンマ画像図 16  遮蔽

参照

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