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波の打上げを考慮した越波流量算定法の提案 Prediction Formula of Wave Overtopping Discharge Including Wave Runup

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Academic year: 2022

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(1)

1. はじめに

現行の設計基準では,堤防・護岸の設置位置により越 波流量あるいは打上げ高に基づく設計手法を適宜選定し,

その必要天端高を算定する(土木学会海岸工学委員会,

2000;海岸保全技術委員会,2004).これらの技術指針 における越波流量の算定図や算定式は,波の不規則性は 考慮されているが,一様な海底勾配の上に直立,直立消 波,傾斜および緩傾斜等の種々の堤防・護岸が設置され た場合の実験結果を経験的に取り纏めたものである.一 方,打上げ高の算定図や算定式は,改良仮想勾配法(中 村ら, 1972)に代表されるように現地地形を考慮できるも のであるが,規則波の実験結果に基づくため,実際の打 上げ高よりも過小評価する傾向がある(玉田ら, 2009).

これらのことから,汀線近傍の複雑な現地地形に設置さ れることの多いわが国の海岸堤防・護岸に対して,越波 流量や打上げ高を推定する場合には,現行の設計基準で は適用条件が当てはまらない場合が多々ある.

海岸保全技術委員会(2004)では,設計手法の差異に より安全性水準が異なる可能性についても指摘されてい る.しかしながら,両者を体系的に整理するまでには至 っていない.これまでにも波の打上げ高と越波流量の関 係に関する研究が行われてきたが(富永,1972; 間瀬ら, 2003),現地における種々の条件を網羅したものではな い.そのため,打上げ高と越波流量を同時に体系化した 上で,実際の現地条件に対応できる越波流量算定法を確 立することは急務である.

そこで本研究では,わが国の多くの海岸保全施設の設 置条件に対応する,すなわち,汀線近傍(陸上部を含む)

における複合断面の堤防・護岸を対象に,波の打上げと 越波を結びつける越波流量算定式を提案し,設計概念の 融合化を図る.さらに,現地海岸を対象に本算定法を適 用して,実際に高波被災があった場所での越波流量を算 定する.

2. 打上げ高を考慮した越波流量算定式

(1)越波流量算定モデルの概念

本研究で提案する「波の打上げを考慮した越波流量算 定式」は,天端高より最大打上げ高が小さい場合には越 波は生じない,また,天端高がゼロであると有限値にな るという制約条件を満足するHedges・Reis(1998)の越 波流量算定モデル(H&Rモデル)の考え方を踏襲するも のである.H&Rモデルは,以下のように表される.

………(1)

ここで,

………(2)

であり,q*は無次元越波流量,qは越波流量,gは重力加 速度,Rmaxは波の最大打上げ高,R*は無次元打上げ高,

波の打上げを考慮した越波流量算定法の提案

Prediction Formula of Wave Overtopping Discharge Including Wave Runup

玉田 崇

・間瀬 肇

・安田誠宏

Takashi TAMADA, Hajime MASE and Tomohiro YASUDA

The height of seawall is determined based on allowable wave overtopping rate or wave runup height for the design of surge and wave prevention facilities. Although a design method based on wave overtopping rate takes into account of wave randomness, a design method based on wave runup height does not consider the wave randomness but uses equations and figures obtained from regular waves. Therefore, a unified prediction formula for random wave overtopping and runup is required for establishing the design scheme of seawalls. This study proposes prediction formula for random wave overtopping discharge including wave runup for seawalls with composite cross section installed near shoreline.

1 正会員 (工) いであ(株) 建設技術事業本部 海岸部 2 正会員 工博 京都大学教授 防災研究所

3 正会員 (工) 京都大学助教 防災研究所 図-1 H&R越波流量モデルにおける係数の定義

(2)

Rcは堤防・護岸の天端高である.すなわち,H&Rモデル では,R*≥1の場合q*=0,R*=0の場合q*=Aとなる物理的 制約条件が満たされている.係数AおよびBは図-1に示 すように,Aは天端高が0である場合の流量を定める係 数,Bは算定曲線の曲率を定める係数である.

まずRmaxを定めるが,Rmaxは確率変量であるため,入 射波浪の不規則性に依存する.打上げ高分布がRayleigh 分布に従うと仮定すれば,p%確率最大打上げ高(未超 過確率がp%となる打上げ高)は,有義打上げ高Rsと以 下の関係が成立する.

…(3)

ここで,Nは打上げ波の個数であり,p=37%が最大打上 げ高の最頻値に対応する.式(3)を用いれば,N=100の 場合,Rmax,Rsおよび2%最大打上げ高R2%の関係は以下 のようになる.

………(4)

………(5)

R2%は,複合断面においても適用することが可能な玉田ら

(2009)による打上げ高算定式より,次式で求められる.

(6)

ここに,tanβは波の打上げ高と砕波水深地点の2点間の 実断面の面積から求まる改良仮想勾配,H0とL0は沖波波 高と沖波波長である.

(2)回帰係数AおよびBの設定

H&Rモデルでは係数AおよびBを設定する必要がある

が,本研究では,海底勾配,護岸設置水深,護岸法面勾 配を種々に変化させた実験結果のうち,特に汀線近傍に 設置した護岸の越波実験結果(玉田ら,2002; 2009)を 用いて,最適な回帰係数を設定することとした.なお,

設置水深が深い場合はH&Rモデルを用いれば良い.

図-2は回帰係数の算出に際して使用したデータと回帰 式を示したものである.(a)図は37%確率最大打上げ高 を用いた場合,(b)図は99%確率最大打上げ高を用いた 場合であり,縦軸はln q*,横軸はln(1-R*)である.回 帰係数は海岸堤防・護岸の設計に際して問題となること が多い越波流量が大きな場合に,精度良くかつ安全な設 計に繋がるよう,以下のように設定した.

37%確率最大打上げ高を用いた場合

A= 0.018, B= 3.200 ………(7)

99%確率最大打上げ高を用いた場合

A= 0.018, B= 6.240 ………(8)

(3)打上げを考慮した越波流量算定式の提案

わが国の多くの海岸保全施設の設置条件に対応する,

すなわち,汀線近傍(陸上部を含む)における複合断面 の堤防・護岸を対象に,波の打上げと越波を結びつける 越波流量算定式として,次式を提案する.

37%確率最大打上げ高を用いる場合

(9)

99%確率最大打上げ高を用いる場合

(10)

ただし,Rmaxは式(4)〜(6)で算定される.

式(9)および(10)の算定式は最大打上げ高算定時 に,波浪条件,海底条件,堤防・護岸の法面勾配および 法先水深を考慮しており,従来のようにこれらの諸量が 変化する度に,越波流量算定図や算定式を区分する必要 はない.また,設計に用いる堤防・護岸天端高が定まれ ば,打上げ高とともに越波流量を算出することが可能で ある.

図-2 回帰係数AおよびBの設定

(3)

3. 越波流量算定値と実験値の比較および考察

(1)従来モデルと本提案式の比較

ここで用いる越波流量算定式は,Reisら(2008)の H&Rモデルと合田(2008)の傾斜護岸に対する越波流量 推定式,ならびに本研究の提案式である.本提案式は堤 防・護岸が陸上部に設置された場合,すなわち,法先水深 が負の場合においても越波流量を推定することができる.

まず,H&Rモデルと比較する.図-3および図-4は,そ れぞれ37%および99%確率最大打上げ高を用いた越波 流量の算定値と実験値を比較したものである.いずれも

(a)図はReisら(2008)の方法,(b)図は本研究の方法 によるものであり,縦軸は実験値,横軸は算定値である.

ここに,越波実験は汀線近傍に3割〜7割勾配護岸が設 置された場合のもので,海底勾配は1/10と1/30である

(玉田ら,2002).

図-3によると,Reisら(2008)の方法は,いずれの条 件においても,算定値が実験値を大きく下回っており,

全体的に実験値に対して過小評価する傾向がみられる.

一方,本研究の方法は無次元越波流量q*が10-4より大き

い場合には,実験値と算定値の誤差は比較的小さいが,

q*がそれよりも小さい場合には誤差が大きく,実験値に 対して過小評価するケースもみられる.

図-4では,Reisら(2008)の方法と本研究の方法のいず れも,37%の確率最大打上げ高における越波流量の場合 に比べて,実験値と算定値の誤差が小さく,実験値を良 好に再現することができた.ただし,Reisら(2008)の 方法は,実験値を幾分過小評価する傾向に変わりはない.

これらより,本研究による算定式のうち,特に99%確 率最大打上げ高を用いた越波流量算定式によると,実験 値と算定値とのバラツキが小さくなり,q*が10-5以上の 領域で実験値の再現性が良好であることが確認された.

次いで,合田(2008)の方法と比較する.合田(2008)

の方法は,EurOtop越波マニュアル(2007)の越波流量 推定式に倣い,堤防・護岸前面での有義波高Hs,toeを用い て越波流量を算出する.そのため,汀線よりも陸側に設 置された堤防・護岸に対しては,越波流量を推定するこ とができない.そこで,図-3および図-4で使用した越波 実験の結果から,法先水深が負のデータを除いて比較 した.

図-4 越波流量の実験値と算定値の比較(99%確率最大打上げ高)

図-3 越波流量の実験値と算定値の比較(37%確率最大打上げ高)

(4)

図-5および図-6は,合田(2008)の方法と本研究の 99%確率最大打上げ高を用いた越波流量算定式による算 定値と実験値との関係および算定誤差の範囲を示したも のである.

合田の方法は,全体的に実験値が算定値よりも幾分大 きく,過小評価となっているが,算定誤差は概ねq*が10 倍の範囲内に収まっている.一方,本研究の方法は,q*

が10-5よりも大きい範囲では,算定値が実験値よりもや や大きいものの,算定誤差範囲は小さい.ただし,7割 勾配護岸の数ケースについては,算定誤差が10倍以上の 箇所もある.また,q*が10-5よりも小さい場合には,実 験値に対して過小評価する(ただし、プロット点は4点 である).

(2)打上げ高と越波流量

打上げ高と越波流量の関係図を図-7に整理した.本研 究による算定式から得られた打上げ高と越波量の推定曲 線は,実験結果を再現している.なお,この図を用いれ ば,打上げ高により設計された天端高での越波流量を推 定することが可能となる.

4. 現地海岸を対象としたモデルの適用

平成20年2月24日に高波による越波被害が発生した下 新川海岸の入善町芦崎地先(3割勾配の緩傾斜護岸,堤 防天端高T.P.+6.75m,計算断面図は図-8を参照)を対象 に,本研究の99%確率最大打上げ高を用いた越波流量提 案式から求まる越波流量と,現行の打上げ高算定法(中 村ら(1972)の改良仮想勾配法) から換算される越波流 量を相互比較した.

図-6 越波流量算定値の誤差範囲(法先位置が汀線より沖の場合)

図-5 越波流量の実験値と算定値の比較(法先位置が汀線より沖の場合)

図-7 越波流量と打上げ高の関係図(99%確率最大打上げ高)

(5)

図-9に,本研究の提案式による越波流量算定値,現行 の打上げ高算定法からの越波流量換算値,ならびに玉田 ら(2002)の緩傾斜護岸の越波流量算定図から求まる値 を整理した.

この図より,中村ら(1972)の改良仮想勾配法におい て,有義波を対象とした場合には,波の打上げ高は堤防天 端高を下回り,越波は発生しない結果となり,最大波を対 象とした場合でも,7.74×10-4(m3/m/s)の越波流量しか 発生しない.一方,本研究の算定式による越波流量推定値 は1.47×10-2(m3/m/s)であり,玉田ら(2002)の緩傾斜 護岸の越波流量算定図から読み取った数値と整合性があ る.ただし,同算定図の読み取りは外挿しているため,幾 分精度に問題がある.いずれにせよ,現行の設計法では打 上げ高を過小評価するために,実際にはかなりの越波を生 じる可能性があり,波の打上げのみを考慮した設計思想を 見直す必要があることが改めて確認された.

5. おわりに

本研究は,汀線近傍(陸上部を含む)における複合断 面の堤防・護岸を対象に,波の打上げと越波を結びつけ る越波流量算定式を提案し,設計概念の融合化を図った.

主要な結果を要約すると,以下の通りである.

1)天端高より最大打上げ高が小さい場合には越波は生 じない,また,天端高がゼロであると有限値になると いう制約条件のもと,「波の打上げを考慮した越波流 量算定式」を提案した.

2)99%確率最大打上げ高を用いる越波流量算定式の方 が,37%確率最大打上げ高を用いるもの比べて,予測 精度が良かった.

3)汀線近傍に3割〜7割勾配護岸が設置された場合につ

いて,提案式より求めた越波流量算定値を実験値と比 較した結果,無次元越波流量q*が10-5以上の領域で実 験値の再現性が良好であることが確認された.

4)打上げ高と越波流量の関係図より,提案算定式から 得られた打上げ高と越波量の推定曲線は,実験結果を 再現できた.

5)打上げ高と越波流量の関係図を用いれば,打上げ高 により設計された天端高での越波流量を推定すること が可能となる.

6)高波による越波被害が発生した現地海岸を対象に,

提案式から求めた越波流量と,現行の打上げ高算定法 から換算される越波流量とを比較した結果,現行の設 計法では生じないはずだった越波を推定することがで きた.

謝辞:最後に,本研究の一部は,科学研究費 基盤研究(B)

「地球温暖化に伴う極端化気象による高波・高潮災害予測 と工学的評価」によるものであり,ここに謝意を表する.

参 考 文 献

海岸保全施設技術委員会編(2004):海岸保全施設の技術上の 基準・同解説,pp.2-57-70,pp.3-28.

合田良実(2008):CLASHデータベースに基づく統一的越波流 量推定式の提案,海洋開発論文集,第24巻,pp.939-944.

玉田 崇・井上雅夫・手塚崇雄(2002):緩傾斜護岸の越波流 量算定図とその越波低減効果に関する実験的研究,海岸 工学論文集,第49巻,pp.641-645.

玉田 崇・間瀬 肇・安田誠宏(2009):複合断面に対する波 の不規則性を考慮した打上げ高算定法に関する研究,海 岸工学論文集,第56巻,pp.936-940.

富永正照(1972):海岸堤防の水理に関する実験的研究,土木 研究所資料,第766号,pp.6-15.

土 木 学 会 海 岸 工 学 委 員 会 編 (2 0 0 0): 海 岸 施 設 設 計 便 覧 , pp.98-104.

中村 充・佐々木康雄・山田穣二(1972):複断面における波 の打上げ高に関する研究,第19回海岸工学講演会論文集,

pp.309-312.

間瀬 肇・Hedges, T.S.・Shareef, M.・永橋俊二(2003):波の 打上げを考慮した傾斜護岸に対する越波流量算定法に関 する研究,海岸工学論文集,第50巻,pp.636-640.

EurOtop (2008): Wave Overtopping of Sea Defences and Related Structures: Assessment Manual (Die Kuste version), 178p.

Hedges, T.S. and Reis, M.T. (1998): Random wave overtopping of simple sea walls: a new regression model, Proc. Inst. of Civil Engrs, Wat. Marit. & Energy Jour., Vol. 130, pp.1-10.

Reis, M.T., Hu, K., Hedges, T.S. and Mase, H.(2008): A comparison of Empirical, Semiempirical, and Numerical Wave Overtopping Models, Journal of Coastal Research, 24-2B, pp.250-262.

図-8 下新川海岸の計算断面図(入善町芦崎)

図-9 下新川海岸を対象とした提案式と従来法による越波流 量算定結果の比較

参照

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