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東洋紡の取引先の利益はどう変化したか(1)

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Academic year: 2021

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顧客サービス統括部 東京都港区南青山 2-5-20 TEL:03-5775-1092 http://www.tdb.co.jp/

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共同研究(2012-001)

東洋紡の取引先の収益はどう変化したか(1)

~1990-2009 年度における業種別・企業別・都道府県別分析~

(全3回)

徳山大学経済学部教授 大田 康博 キーワード 東洋紡、事業多角化、取引先、リーマン・ショック 【本レポートについて】 本レポートは、工業集積研究会(代表:慶應義塾大学経済学部・植田浩史教授)と帝国データバ ンクによる共同研究プロジェクトの成果の一部であり、徳山大学経済学部・大田康博教授によ る「東洋紡の取引先の収益はどう変化したか」を分析したレポート全 3 回のうちの初回である。 本プロジェクトでは、工業集積研究会に所属し、経済学・経営学を専門とする各研究者が、帝 国データバンクが保有する企業データをもとに、定量分析を試みることを目的としている。

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1.はじめに

産業の盛衰に伴い、成長志向の大企業は、既存事業の合理化のみならず新規事業の開発も進め ようとする。その過程では、組織構造の変化や各事業における取引先(仕入先・販売先)との取 引額の増減が生じ、それは取引先の企業収益、さらには取引先が立地する地域経済に大きな影響 を与えると考えられる。 本稿では、東洋紡績株式会社(以下、東洋紡)を事例に、事業の再構築に取り組んだ大企業と 取引する企業の特性や収益動向について、企業規模・業種・地域の観点から検討したい。綿紡績 業は日本の近代工業化を牽引した産業であり、東洋紡はその中心的な位置を占めていた企業であ る。同社の事業多角化は決して迅速・巧妙なものとはいえなかったけれども、第一次オイル・シ ョック以降は高分子化学技術が活かせる分野を中心に事業を拡張し、バブル崩壊後の苦境をも乗 り越えてきた。 以下、2 で東洋紡の事業再構築プロセスを概観する。3 と 4 では、東洋紡を仕入先または得意先 とする企業(主に製造業)を対象に、バブル崩壊後の業種別・地域別売上高の動向を検討する。

2.東洋紡の事業再構築

1 東洋紡は、大阪紡と三重紡が 1914 年に合併して誕生した繊維企業である。合併当時の主力事業 は、天然繊維(特に綿)の紡織であり、1927 年にレーヨン事業に進出した。戦時期には軍需品の 分野を中心に非繊維事業を拡張したが、戦後になると、繊維中心の事業構造に回帰した。 綿紡織業は、朝鮮戦争特需では巨額の利益をあげた。しかし、停戦による反動不況以降、慢性 的な生産過剰に陥り、以後、各社は新規有望事業の探索に取り組んでいった。当時の東洋紡が活 路を見出したのは合成繊維であった。同社は、1956 年にアクリル、1961 年にポリプロピレンおよ びポリエステルの技術導入契約を欧米企業と締結し、1966 年には呉羽紡と合併してナイロン事業 も手がけるようになった。 しかし、1970 年代以降は、合成繊維事業による成長も期待できなくなった。東洋紡は、産業資 材用繊維(シートベルト、不織布など)事業の拡大を進めるとともに、生化学事業(酵素、診断 薬、試薬など)や、高分子化学技術を活かした化成品(接着剤・塗料用樹脂、成型用樹脂、フィ ルムなど)といった非繊維分野への事業拡張を本格化した。 1980 年代になると東洋紡は、非繊維事業をさらに拡張すべく、医薬、電子材料・回路(電材イ ンキ、FCL[Flexible Copper Laminate]など)、情報記録(フロッピー・ディスクなど)への参入

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本章の叙述は、東洋紡績株式会社社史編集室編『百年史 東洋紡 上・下』1986 年および同社 130 年史編纂資料に基づく。

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を試みた。しかし、結果として、自主開発の断念(医薬)、事業の大幅縮小(電子材料・回路)、 撤退(情報記録)を余儀なくされた。1991 年度まで増加傾向にあった東洋紡の売上高は、バブル 崩壊を受けて減少に転じ、96、97 年度には増収となったものの、2003 年度まで長期的な減少傾向 にあった。本業の収益性を示す売上高営業利益率も、1990 年代半ばまで継続的に低下した(図1)。 繊維事業の収益性は大きく悪化したけれども、東洋紡は、自動車、情報機器などの分野で化成 品の新用途を開発し、生化学でも新たな事業領域を開拓していった。他方で、コスト削減のため、 本格的な調達合理化を進めた。1993 年には、三重工場の三重地区資材管理室を廃止し、岩国工場 では VA(Value Analysis)委員会を立ち上げ、組織的なコスト改善の推進体制を整えた。1998 年 には、資材部と原料部を統合し、購買部を発足させた。1990 年代半ばまで低下し続けた売上高営 業利益率は、その後、上昇傾向へと転換した。 -4% -2% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% -200,000 -100,000 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 19 9 0 91 92 93 94 95 96 97 98 99 20 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 百万円 売上高(左軸) 総資産(左軸) ROA(右軸) 売上高当期利益率(右軸) 売上高営業利益率(右軸) 出所)有価証券報告書より作成。 図 1 東洋紡の主要財務指標と従業員数の推移 1999 年に社長に就任した津村準二氏のリーダシップによって、東洋紡は、事業構造と財務体質 の変革を一気に進めた。彼は、既存工場の閉鎖・縮小や非繊維事業への展開をさらに進め、不採 算事業の整理による資金効率の改善を徹底し、黒字体質への転換を目指した。繊維事業について は、ファッション衣料分野からほぼ撤退し、経営資源を機能性繊維素材事業(エアバッグ、超高 強度繊維など)に集中した。調達費の削減策としては、2002 年から 3 年に渡る調達プロジェクト に取り組み、コストダウン情報の共有化システムを開発したことが特筆される。しかし、不採算

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事業からの撤退および会計ビッグバンへの対応に伴い、1990 年代末と 2000 年代初頭に多額の特別 損失を計上したことから、総資本当期純利益率(Return On Asset: ROA)および売上高当期純利益 率は大幅なマイナスとなった。 ROA は、ようやく 2003 年度以降に回復をみせ、売上高は 2004 年度から増加に転じた。その背 景には、化成品事業での新用途開発に加え、海外の顧客の開拓が成果をあげ始めたことがある。 431,417 百万円の売上高を記録した 2007 年度には、「衣料繊維事業」の売上高が総売上高に占める 割合(連結ベース)は 33.1%になった。他方で、2005 年 7 月には調達部が発足し、調達の全社集 約・一元化を行う体制が整った。 リーマン・ショック以降の世界的不況によって、東洋紡でも 2007、2008 年度の収益額や各利益 率が大きく悪化した。しかし、同社は、事業構造の改革と収益性の改善をさらに進め、2009 年度 には回復軌道に入った。同年度における「衣料繊維事業」の構成比は、27.7%へと低下した2

3.東洋紡を仕入先・得意先とする企業の構成と盛衰

(1)データの性格および対象企業の概要 ここでは、以下の分析に用いるデータの抽出方法、および抽出されたデータがどのような業種 の企業群から構成されているのかを確認しておこう。 分析にあたっては、企業信用調査報告書(以下、CCR データ)および企業概要データ(以下、 C2 データ)を用いる。取引関係を判断する CCR データからは、1990 年度の仕入先・得意先に関 する情報は得られない。そこで、2007 年度、2009 年度の両年度に東洋紡を仕入先または得意先と してあげた企業のうち、1990 年度の売上高が判明する企業を抽出し、それらがどのような企業群 から構成されているか、また、この間に、取引先の収益がどのように変化したのかを、業種・企 業・地域別に検討する。 最初に、このデータおよび分析方法を採用することから生じる限界について述べておく。まず、 CCR データでは、東洋紡と取引先の取引額を知ることができない。そのため、東洋紡の事業構造 改革や調達合理化・一元化の影響をどの程度受けているのかを正確に把握できない。また、3 つの 年度全てにおいて売上高のデータが得られる取引先を対象としているため、取引の形成・断絶を 含めた分析ができない。東洋紡の取引先の中には、対象期間の途中で東洋紡との取引関係が深ま った企業(1990 年度のみ、または 1990 年度・2007 年度のデータが得られず、2007 年度以降のデ ータで東洋紡を仕入先または得意先としてあげた企業)、対象期間の途中で東洋紡との取引関係が 希薄になった企業(2007 年度以前のデータでは東洋紡を仕入先・得意先としてあげ、2007、2009 年度のデータでは東洋紡を仕入先または得意先としてあげていない企業)、対象期間の途中で倒

2 同社有価証券報告書、各年度版による。なお、1990 年度における「繊維事業」の売上高の構成 比は 68.1%であった。

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産・廃業や吸収合併により存在自体が確認できなくなった企業が含まれている可能性がある。 東洋紡を得意先または仕入先としてあげ、3 時点の売上高のデータが揃っている企業の売上高変 化率、売上高、従業員数の基礎統計量は、表 1 の通りである。 売上高変化率 単位:% 対象企業数 平均 最大値 最小値 中央値 標準偏差 1990~2009 年度 241 7.9 1,345.0 -97.9 -33.3 138.8 1990~2007 年度 241 17.6 1,470.0 -97.9 -17.3 141.4 2007~2009 年度 241 -10.6 108.4 -63.6 -9.1 19.9 売上高 単位:百万円 対象企業数 平均 最大値 最小値 中央値 標準偏差 1990 年度 241 2,185 54,120 12 574 5,039 2007 年度 241 1,936 28,255 3 485 4,139 2009 年度 241 1,734 24,720 3 438 3,694 従業員数 単位:人 対象企業数 平均 最大値 最小値 中央値 標準偏差 1990 年度 233 64 1,394 1 25 131 2007 年度 237 44 466 1 16 70 2009 年度 236 43 467 1 16 70 ①東洋紡を得意先とする企業(東洋紡の仕入先) 売上高変化率 単位:% 対象企業数 平均 最大値 最小値 中央値 標準偏差 1990~2009 年度 202 14.1 1637.5 -99.0 -22.2 157.6 1990~2007 年度 202 26.6 1677.6 -92.7 -13.5 177.3 2007~2009 年度 202 -10.3 202.3 -98.6 -8.9 25.3 売上高 単位:百万円 対象企業数 平均 最大値 最小値 中央値 標準偏差 1990 年度 202 8,363 167,391 22 1,500 20,489 2007 年度 202 7,398 127,407 18 1,340 17,886 2009 年度 202 6,770 135,256 11 1,212 16,903 従業員 単位:人 対象企業数 平均 最大値 最小値 中央値 標準偏差 1990 年度 198 121 3,017 1 33 294 2007 年度 200 98 1,966 1 23 232 2009 年度 197 95 2,243 1 23 237 ②東洋紡を仕入先とする企業(東洋紡の販売先) 表 1 仕入先・得意先の売上高変化率の基礎統計量 売上高変化率の平均値をみると、東洋紡を得意先とする企業も、同社を仕入先とする企業も、 1990 年度から 2007 年度までは平均して増収を記録し、後に減収となったことがわかる。しかし、

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平均的に売上が増加していた時期があったにもかかわらず、従業員数の平均値および標準偏差は 連続して減少しており、対象期間を通じて、平均的な従業員規模の縮小と規模のばらつきの縮小 が進んだことが看取できる。 (2)業種構成 次に、取引先の業種構成を確認しよう。東洋紡を得意先とする企業(東洋紡の仕入先)の大分 類レベルの業種構成を示したものが表 2 である。製造業が 44.4%と最大であり、次に大きいのが 卸売業・代理商・仲立業の 33.6%となっている。これら上位 2 業種で全体の 78.0%を占めている。 実数 構成比 累計 製造業 107 44.4% 44.4% 卸売業・代理商・仲立業 81 33.6% 78.0% サービス業 20 8.3% 86.3% 運輸・通信業 12 5.0% 91.3% 鉱業・建設業 11 4.6% 95.9% 小売店・飲食店 6 2.5% 98.3% 不動産・電気・ガス・水道・熱供給業 4 1.7% 100.0% 合計 241 100.0% ①東洋紡を得意先とする企業 実数 構成比 累計 卸売・代理商・仲立業 103 51.0% 51.0% 製造業 80 39.6% 90.6% サービス業 7 3.5% 94.1% 小売店・飲食店 5 2.5% 96.5% 金融・保険業・不動産業 4 2.0% 98.5% 鉱業・建設業 3 1.5% 100.0% 合計 202 100.0% ②東洋紡を仕入先とする企業 表 2 取引先の業種別構成 東洋紡を得意先とする企業では、製造業が最大の割合を占めていたけれども、東洋紡を仕入先 とする企業では、最大の業種は卸売業・代理商・仲立業(構成比 51.0%)であり、製造業が 39.6% で続いている。 以下では、検討対象を製造業に限定する。卸売業を分析対象から除外することで、商社・問屋 との取引が多い繊維関連業種の取引先の動向が十分に捉えられないという問題はある。一方、非 繊維事業では、各業界の有力企業に対して開発営業を行うことが多い。このような分野では製造 業のみの分析で主要な取引先の動向を理解することが可能である。

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4.小括

東洋紡は、既存事業の縮小に対し、事業を多角化することで成長を維持しようとしてきた。同 社の事業多角化は、天然繊維から化学・合成繊維へ、衣料用繊維から産業用資材へ、繊維からプ ラスチック(フィルム、成型用樹脂)、バイオなどへ、という方向性をもっていた。 東洋紡の取引先における売上高変化率の平均値は、1990-2007 年度の期間にプラス、2007-2009 年度の期間にマイナス、全期間を通じてプラスであった。しかし、売上高や従業員数の 3 時点の 平均値は、減少傾向にあり、しかも企業ごとのばらつきが小さくなっていた。 取引先の業種は、東洋紡を仕入先とする企業も、得意先とする企業も、製造業と卸売業が最大 の比重を占めていた。第 2 部では、製造業に属する取引先を重点的に分析する。 <分析・執筆> 大田康博(徳山大学経済学部 教授) <データ設計・加工> 伊東総一郎(帝国データバンク 客員研究員)

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