アルク英語教育実態レポート
Vol.11
[2018 年7月]
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日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査 Ⅲ
-高校1年次から3年次で高校生の英語力はどのように変化したか-
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はじめに
株式会社アルクは1969 年の創業以来、月刊誌『ENGLISH JOURNAL』、通信講座「1000 時間ヒ アリングマラソン」、書籍「キクタン」シリーズなど、さまざまな英語学習教材を開発してきました。 近年は「英語スピーキング能力測定試験TSST(Telephone Standard Speaking Test)」、「英語学習ア ドバイザー資格認定制度ESAC(English Study Advisors’ Certificate)」を独自に開発し、学習成果の 検証や継続的学習支援のサービスも提供するようになりました。 私たちは、語学学習者に成果をもたらす有益な方法を常に追求したいと考えています。そのために アルク教育総合研究所を設立しました。「アルク教育総研」は、学習行動が成果に結びつきやすくなる ことを目指し、教材・学習法の研究、学習者個人・企業・教育機関のニーズ調査等を随時行い、その 結果を公表しています。 2020 年、高等学校の英語教育を取り巻く環境が大きく変化します。2018 年3月に発表された新学 習指導要領では、英語は従来の「4技能」(「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」)から「話 すこと」が細分化され、「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこ と」の「5つの領域」ごとに学習目標が設定されています。また、2020 年度から導入される「大学入 学共通テスト」では、「聞く」「読む」に加えて、「話す」「書く」能力も評価されます(2023 年度まで の移行期間は「聞く」「読む」の2技能試験も受験可能)。こうした変化を受けて、ここ数年で、高校 段階においての「スピーキング能力」育成への関心はより一層の高まりを見せています。しかし、そ の高校生の「スピーキング能力の実態」に関わるデータはまだ少ないのが実情です。 そこでアルク教育総研は、2015 年度から 2017 年度までの3年間、日本の高校生の英語スピーキン グ能力の実態およびその背景について、スピーキングテストTSST を使用した調査を実施し、高校生 のスピーキング能力がどのように変化していくのか、3年間の推移を追跡しました。1年目調査では、 調査協力校3校における生徒と教師のスピーキング力、英語学習実態の概要を把握し、2年目調査で は、高校1年次からのスピーキング力の伸びが著しかった高校と他の2校との差がどこにあるのか、 生徒の英語学習・教師の授業実態を問うたアンケート結果から分析しました。ここに、調査最終年度 の結果をレポートします。最終年度では、1年目、2年目の調査結果を踏まえ、英語学習「時間」と 「内容」、「その他の要因」が高校1年次から3年次への英語スピーキング力の変化にどのように関係 しているかという観点から、詳細を調査・分析しています。英語教育関係各位の参考になれば幸いで す。
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◆本レポートの概要◆
1.【英語学習時間】 今回の調査結果によると、高校1年次から3年次にかけてスピーキング力を向上(※)させるに は、高校3年次の時点で、学校と自宅等において少なくとも週に7時間の英語学習が必要で、週 に14 時間以上学習した場合には、さらにその可能性が高まる。 ※ここでの「スピーキング力向上」とは、TSST を1レベルアップさせることを指す 2.【英語学習内容】 今回の調査結果によると、学校と自宅等における英語学習時間の合計が週に14 時間未満でも、以 下のような工夫をすることで、スピーキング力向上につなげられる可能性がある。 ①「発音練習」「音読」などの「既存の英文を声に出す学習」、「会話・ディスカッション」「英文 を書く」などの「英文を作って発信する学習」、「単語・文法学習」といったスピーキング力向 上に寄与するさまざまな学習を、各学習につき少なくとも週に30 分以上実施する。 ②①の実施が難しい場合、 「既存の英文を声に出す学習」「英文を作って発信(話す・書く)する学習」「単語・文法学習」 などスピーキング力向上に寄与するさまざまな学習を、各学習につき週に10 分以上実施した 上で、「音読」については少なくとも週に30 分以上実施する。 ③①の実施が難しい場合、 「文法」を週に30 分以上学習した上で、英文を「(自分で組み立てて)書く」学習については 少なくとも週に30 分以上実施する。 ※上記は、高校1、2年次に「単語」「音読」などスピーキング力養成の基礎となると思われる内 容を学習した割合が高かった集団に関しての検証内容であることを付記しておく。 3.【その他の要因】 今回の調査結果から、英語(学習)に対して前向きであること、大学入試で英語が必要となるこ と、英語圏へ滞在・留学した経験があることは、スピーキング力向上に良い影響を及ぼした可能 性がありそうだ。しかしそれが必須条件とまでは言えないと思われる。3
◆目次◆
はじめに p. 1 本レポートの概要 p. 2 1 調査概要 1.1 目的 p. 5 1.2 方法 p. 5 1.3 対象、実施時期 p. 5 2 TSST について 2.1 TSST の概要 p. 7 2.2 TSST の評価方法 p. 7 2.3 TSST のレベル p. 8 2.4 高校段階で目標とする英語スピーキング力 p. 8 3 調査1、2年目の結果と調査3年目の仮説 3.1 1年目の調査内容 p. 9 3.2 1年目の調査結果 p. 9 3.3 2年目の調査内容 p.10 3.4 2年目の調査結果 p.10 3.5 3年目の調査内容と調査仮説 p.11 4 調査協力校の高校3年生の英語スピーキング力 4.1 調査協力校の高校3年生の英語スピーキング力分布 p.12 4.2 高校 1 年次からのレベル推移 p.13 5 スピーキング力が大きく向上したB 高校の特徴 5.1 学習時間 p.15 5.2 学習内容 p.16 5.3 その他の要因 p.20 6 A 高校、C 高校の比較 6.1 学習時間 p.21 6.2 学習内容 p.21 6.3 その他の要因 p.234 7 各学校でスピーキング力が向上した生徒の特徴 7.1 学習時間 p.25 7.2 学習内容 p.25 7.3 その他の要因 p.27 8 調査結果のまとめ・今後に向けての課題 8.1 調査結果のまとめ p.28 8.2 今後の調査への課題 p.29 ■付録■ アンケート設問・集計結果 (1)高校生アンケート 設問 p.31 (2)英語教師アンケート 設問 p.34 (3)高校生アンケート 学校別集計結果 p.36 (4)高校生アンケート 学校内レベル変化有無別集計結果(抜粋) p.44 (5)英語教師アンケート 学校別集計結果 p.56 ■参考■ TSST の評価基準と9つのレベル p.61 << 謝辞 >> 本調査は企画段階から金谷憲・東京学芸大学名誉教授の助言をいただきました。調査協力校の選定に 当たっては、根岸雅史・東京外国語大学大学院教授、長沼君主・東海大学教授にお力添えいただきま した。調査結果の集計・分析では阿部真理子・中央大学教授、印南洋・中央大学教授から貴重なご意 見をいただきました。ここに記して感謝いたします。
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1 調査概要
1.1 目的
1. 日本の高校生の英語スピーキング力について3年間追跡調査し、各学年での能力とその変化を明 らかにする。 2. 日本の高校生の英語スピーキング力の背景となる学校の内と外での英語学習実態を3年間追跡調 査・分析し、高校の教育現場が授業方法や評価方法を検討する際の参考情報を提供する。 3. 調査データは個々の協力者からの了承の下、個人情報を伏せた形で大学の研究者と共有し、今後 の研究に生かす。1.2 方法
1. 協力を依頼した高校3校の、2015 年度の高校1年生(2017 年度は高校3年生に進級)に、TSST (Telephone Standard Speaking Test)を受験してもらった。2. TSST を受験した高校生には、英語学習に関するアンケートにも回答してもらい、その回答結果 をまとめ、TSST の受験結果と併せて分析した。
3. 協力を依頼した高校3校の英語教師にも、TSST(Telephone Standard Speaking Test)の受験お よび、英語の指導に関するアンケートへの回答を依頼し、その結果を上記2.と併せて分析した。 なお、高校英語教師のTSST 受験は、2015 年度は調査協力校に勤務する英語教師全員が対象であ ったが、2016 年度以降は受験を希望する学校、教師のみとした。 ※TSST 受験の呼びかけ、アンケートの実施はすべて各学校の英語教師の協力のもとに行った。 ※高校生、教師いずれも、アンケートは質問紙を各学校の担当英語教員を通じて配布、回収した。 4. TSST は年1回、3年間実施し、経年変化を調査した。アンケートも同様に年1回、3年間実施 したが、内容には必要に応じて変更を加えた。 5. 調査結果は大学の研究者と共有し、専門的見地から監修いただいた。
1.3 対象、実施時期
2017 年度調査は 2015 年度、2016 年度と同じ高校3校(本レポートでは「A 高校」、「B 高校」、「C 高校」と記載)の協力を得た。2017 年度は、原則として、2015 年度、2016 年度調査と同じ生徒と英 語教員を対象に追跡調査を実施した(実際には諸事情により、各校数名ずつ、生徒、英語教員の入れ 替わりがあった)。個々の協力者から、個人情報を伏せた形で調査結果を分析・公表の対象とすること の承諾を得たものを本レポートで取り扱っている。 さまざまな面で特色の異なる3校に協力を仰ぐことで、大きな偏りなく、日本の高校生の実態に近 い姿をあぶり出すことを目指した。協力校のプロフィールおよび2017 年度調査の対象者数、実施時期 等は次ページの通り。6 学校名 運営 実施 時期 対象 者数 TSST 受験者数 協力 同意者数 学校の特徴 A 高校 私立 7月 102 人 ※1 101 人 81 人 ・入学時の偏差値は58 ※2 ・クラブ活動や学校行事が盛ん ・卒業生の80%以上が系列大学に進学 B 高校 公立 7月 128 人 128 人 119 人 ・入学時の偏差値は60 ・英語教育や異文化理解に重点を置く専門学科あり ・卒業生のほとんどが国公立大学等4年制大学に進学 C 高校 公立 10 月 90 人 90 人 90 人 ・入学時の偏差値は49 ・工業系の専門学科あり(調査対象は普通科のみ) ・工業系学科を中心に卒業生の30%が技術職等で就職 ※1 A 高校では、TSST 受験、アンケートは希望者のみ対象。B 高校では高校3年生全員が、C 高校では高校3 年生の普通科生徒全員が対象 ※2 各校の偏差値は調査開始時点の 2015 年度に、インターネットから得られる複数の情報から、当研究所が独 自に判断したもの
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2 TSST について
2.1 TSST の概要
本調査では、高校生の英語スピーキング力を測定するツールとしてTSST(Telephone Standard Speaking Test)を使用した。TSST は電話を使った英語スピーキング能力測定試験である。1997 年か ら始まった対面インタビュー型テストSST(Standard Speaking Test)の実績と経験から、アルクが 独自に開発し、2004 年から運用を開始した。法人団体受験を中心に、毎年約1万人が受験している。 電話で手軽に受験できることと、準備なしに 「その時、その場」 で英語を話す力(英語運用力) を試せることが、TSST の特徴である。主に英語に関する知識を問うペーパーテストとは異なり、受験 者に「考え」「自分の言葉で発話する」ことを迫るような課題を出し、実際に英語で話してもらうこと で、国際社会において必要とされている英語の運用能力がどれだけあるかを評価する。 TSST の概要は以下の通り。詳細は TSST ウェブサイト( https://tsst.alc.co.jp/tsst/tsst.html )参照。 1. 電話を利用して受験する。受験期間中は 24 時間受験が可能。 2. 質問項目はデータベースで難易度別にグルーピングされた中からコンピューターが抽出し、全 10 問が出題される。 3. 1問あたりの回答時間は 45 秒で、受験時間は約 15 分。 4. 質問音声は日本語・英語両方の言語で流れる(質問の英語が聞き取れないために回答できないこ とを防ぐため)。 5. 録音された回答音声を3人の評価官が聞いて評価し、独断的な判定になることを防ぐ。
2.2 TSST の評価方法
TSST は以下の4つの評価基準に基づいて「英語を使って何ができるか」を、発話全体を見渡して、 レベル1(初級)~レベル9(上級)までの9段階で、総合的に評価する。言語機能
理由を述べる、意⾒を述べる、問題解決し 提案する、手順を説明する、苦情を言うなど 英語でどのようなことを遂⾏できるか話題/場面
自分に直結している話題、時事問題、 予期しない困難な場面など どれくらい複雑な状況で、何について話せるかテキストタイプ
単語、フレーズ、短い簡単な⽂、⻑くて複雑な⽂、 順序⽴てた理論的な話し⽅など どのような複雑さの構文を使い、 どう話を構成しているか正確さ
⽂法、語彙、発⾳、流暢さなど 聞き⼿にどれくらい正確に理解されるか総合評価
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2.3 TSST のレベル
TSST の評価は、レベル1~3が「初級」、4~8が「中級」、9が「上級」で、実践的な英語運用能 力を測りやすいよう、日本人の英語学習者が最も多い「中級」を特に細分化している。以下に、9レ ベルの分類を図式化し、今回の調査に関わりの大きいレベルについては、その特徴を高校生のスピー キング力に即して理解しやすい表現で簡潔に表した(TSST 全レベルの特徴は、p.61 の表を参照)。2.4 高校段階で目標とする英語スピーキング能力
2015 年度の TSST に関する調査によると、社会人受験者 22,716 人のレベル分布では、「簡単な文を 作って学校生活について簡単に話すことや、相手への質問などができる 」レベル4が 39.2%と最多で あった(アルク教育総合研究所、2016 年6月※)。 しかしながら、上図に示した通り、留学や、海外赴任などを含めた英語を必要とする業務を、大き な支障なくこなすためには、TSST レベル6以上のスピーキング力が必要である。大学等でスピーキン グ力を向上させることを勘案しても、高校卒業までに、少なくともレベル4を目指したい。この目標 を実現するためには、高校段階でどのような学習を行うべきなのだろうか。 この疑問に答えるため、本調査では、調査対象校3校の高校生の英語スピーキング力の現状と、そ の背景となっている学習状況との関係を把握することを目指した。次章(第3章)ではまず、調査1 年目、2年目のスピーキング力とその背景についての結果を振り返り、その内容を元に調査3年目で 立てた英語スピーキング力向上に関する仮説を提示する。第4章以降では、調査3年目の仮説を検証 し、本調査結果を通じて、どのような学習が英語スピーキング力の向上に寄与すると言えるのかを考 察したい。 ※『アルク英語教育実態レポート Vol. 7 日本人の英語スピーキング能力 -リスニング・リーディング力との関 係性に見る英語運用能力の実態-』p.18、アルク教育総合研究所, 2016 年6月 http://www.alc.co.jp/company/report/pdf/alc_report_20160627.pdf レベル1 レベル2 レベル3 レベル4 レベル5 レベル6 レベル7 レベル8 レベル 9 初級 上級 レベル6 不自由はありながらも、海 外留学や海外赴任ができる レベル4 簡単な⽂を作って学校生活につ いて簡単に話すことや、相手へ の質問などができる レベル3 不完全ながらも、短い簡単 な⽂で、簡単な自己紹介や 食事の注⽂ができる レベル2 主に暗記した単語やフレーズを 使って決まり⽂句の挨拶などが できる レベル9 不自由なく海外留学や海外 赴任ができる レベル2~4:高校生に多いレベル 中級9
3 調査1、2年目の結果と調査3年目の仮説
3.1 1年目の調査内容
1年目、2015 年度の調査実施の際に、調査者が念頭に置いたのは、以下3点である。 1.高校生の英語スピーキング力の分布はどのようになっているのか 2.学校内外での学習は、高校生のスピーキング力とどのような関係があるのか 3.教師の英語スピーキング力や指導内容は、高校生のスピーキング力とどのような関係があるか これらを検証するため、生徒、英語教師向けのアンケートの設問は、1年次での英語学習に関する 状況の把握を目指し、授業や自宅などでの学習(教師は指導)内容や、英語に対する考え、過去の英 語学習経験を幅広く問うものとした(詳細は『アルク英語教育実態レポート Vol.6』※pp.3~4 参照)。3.2 1年目の調査結果
2015 年度の調査で、調査対象者の高校1年生のスピーキング力分布は、「初級」に分類される「不 完全ながらも、短い簡単な文で、簡単な自己紹介や食事の注文ができる」レベル3が67.2%と最多で、 学校別に見ても、どの学校でもレベル3が最多であることが判明した。その一方で、調査協力校3校 のうち、A 高校、C 高校ではレベル3に続き1レベル下のレベル2が約 20%と多かったのに対し、B 高校では、1レベル上のレベル4が多く約30%を占め、学校ごとにレベル分布の違いも見られた(『ア ルク英語教育実態レポート Vol.6』pp.11~12)。 レベル4の割合が他の2校より多かったB 高校では、授業中に「会話・ディスカッション」を実施 していると回答した生徒が他校より顕著に多かった。また、自宅学習では、多くの学習項目においてB 高校の生徒の実施割合が他の2校よりも高かったが、「教科書本文の和訳」や「教科書本文の書き写し」 においては他校よりも実施割合が低かった(p.17、pp.27~28)。B 高校では、授業中に「英文を作っ て話す」活動を実施したり、自宅などでより多くの学習を行ったりすることがスピーキング力向上に 寄与している、もしくはスピーキング力が高い生徒が多いため、授業中に、英文を作って話す活動が 実施しやすく、それがスピーキング力向上にさらに良い影響を与えている可能性がありそうだ、とい うことが1年目の調査から判明した。 高校英語教師のスピーキング能力は、「多少の不自由さはあっても英語で仕事ができる」レベル6以 上と、その1つ下のレベル5を合計すると90%以上で、その多くは「事前準備をしっかり行えば、英 語で授業をする」ことが可能なレベルであった。また、82.4%の教師が、授業中の発話の 25%以上を 英語で行うなど、実際に英語を使って授業を行っていた。しかし一方では、生徒の英語理解力が不足 していたり、教師が自身のスピーキング力に自信がなかったりすることから、教師が理想としている ほどには授業で英語を使えていない、といった課題も浮き彫りになった(pp.52~53、59、63~64)。 ※『アルク英語教育実態レポート Vol.6 日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査Ⅰ-3年間追跡調査にお ける1年目調査レポート-』 アルク教育総合研究所、2016 年4月 http://www.alc.co.jp/company/report/pdf/alc_report_20160422.pdf10
3.3 2年目の調査内容
2年目は、1年目の調査結果から、英語学習の「量(=時間)」と「質(=内容)」が英語スピーキ ング力に影響するのではと考え、以下のリサーチ・クエスチョンを念頭において調査を実施した。ア ンケートの設問にも必要な変更を加え、特に英語教師のアンケートは、生徒のアンケートと対応させ、 授業や自宅学習に関する教師の指導内容と生徒の実施内容に、どの程度隔たりがあるのかを確認でき るようにした(詳細は『アルク英語教育実態レポート Vol.9』(※)p.22~27 参照)。 1.スピーキング力が向上した学校では、他校と比べて、授業中に英語を声に出す、自宅などでの 学習、授業外で英語を教わる際の時間に違いがあるのか 2.スピーキング力が向上した学校では、他校と比べて、授業、自宅などでの学習、授業外で英語 を教わる機会での学習内容に違いがあるのか 3.スピーキング力が向上した学校では、他校と比べて、英語の学習動機に違いがあるのか 4.教師の指導内容は、生徒の学習内容にどのように影響しているのか3.4 2年目の調査結果
2年目の調査では、B 高校で、高校1年次からスピーキング力が向上した生徒の割合が他の2校と 比べて著しく高いという結果となった。その理由として考えられることとして、1に関して、B 高校 では、他校と比べて、授業中に英語を声に出す時間も、自宅などでの学習時間も共に長かった(『アル ク英語教育実態レポート Vol.9』pp.10~11、13)。英語を声に出したり、英語に触れたりする時間が 長いことが、B 高校での英語スピーキング力向上につながったと見られる。 また、英語を声に出す活動は、「単語の発音練習」「音読」などの既存の英語を声に出し「主に知識 の習得や定着を目的とする活動」と、「会話」「スピーチ」などの「英文を作って発信することを目的 とする活動」に大きく分けられる。B 高校では、授業中や自宅などでの学習で、「知識の習得や定着を 目的とする活動」と「英文を作って発信することを目的とする活動」を、他の2校に比べてバランス よく行っていた。このことが、TSST が用いる英語スピーキング力の4つの評価基準をバランスよく向 上させ、レベルの向上につながったと見られる(p.12、14)。 英語や英語学習に対する動機づけはA 高校、B 高校でともに高かったが、A 高校では B 高校のよう なスピーキング力の顕著な向上は見られなかったことから、動機づけの高さが英語スピーキング力向 上に必ず寄与するとは言えない、という結果となった(この点は、『アルク英語教育実態レポート Vol.9』 本編では触れていないが、付録としてp.32 に掲載したグラフから確認が可能)。 教師の指導内容に関して、B 高校では授業中の英語教師による英語発話割合が高く、また、授業中 に実践する活動は、複数の生徒が同時に英語を声に出せるものが多かった。こうした状況が、生徒が 授業中に英語を声に出しやすい環境につながったと見られる。またB 高校では、自宅などでの学習に 関して、教師の指導内容と生徒の指導内容にずれが少なく、指導が行き渡りやすい環境があることが、 生徒が自宅でもさまざまな内容をバランスよく学習することにつながった可能性が高い(pp.16~19)。 ※『アルク英語教育実態レポート Vol.9 日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査Ⅱ-調査2年目にスピー キング能力が向上した学校の特徴とその背景』 アルク教育総合研究所、2017 年4月 http://www.alc.co.jp/company/report/pdf/alc_report_20170428.pdf11
3.5 3年目の調査内容と調査仮説
2年目の調査結果では、「授業中に英語を声に出す時間の割合」や「自宅などでの学習時間」、「学校 の授業以外で英語を教わる場合の学習時間」について問うており、これらのうち前者2つが英語スピ ーキング力向上に寄与しそうであることは分かった。しかし調査の過程で、学校や生徒の専攻(文系・ 理系など)によって学校の授業時間そのものが異なるため、英語を声に出す時間の割合だけでなく、 授業時間やそれも含めた総合的な英語の学習時間を調査し、それが英語スピーキング力向上に与える 影響を考察する必要があるのではないかと考えるに至った。また、どの学習がスピーキング力向上に 影響しそうかは分かったが、具体的にどの学習をどれくらい実施すべきかの目安は、2年目調査から は得られなかった(そのような調査デザインとしていなかった)。そうした疑問を解決すべく、3年目 調査では、以下の調査仮説を立て、検証することとした。 1.英語の学習時間が長ければ長いほど、スピーキング力は向上するのではないか。 2.既存の英語を声に出す時間が長ければ長いほど、スピーキング力は向上するのではないか。 3.英文を作って話す時間が長ければ長いほど、スピーキング力は向上するのではないか。 4.英文を書く時間(※1)が長ければ長いほど、スピーキング力は向上するのではないか。 5.単語や文法を学習する時間が長ければ長いほど、スピーキング力は向上するのではないか。 6.英語(学習)に対する考え方や(※2)英語圏へ滞在・留学した経験、大学入試で英語が重要な位 置を占めるかどうかが、英語学習に影響を及ぼすのではないか。 ※1 あらかじめ書かれたり話されたりした英文を「書き写す」のではなく、英作文などで「自分で文を作っ て書く」活動を指す。 ※2 2016 年度調査からは、英語学習動機の高さはスピーキング力向上に直接の影響があるとは言えなかっ たが、スピーキング力が向上したB 高校では、英語学習に対して前向きな考えを持つ生徒が多く、スピ ーキング力向上の前提条件となっている可能性は否定できないことから、この仮説を加えた。 仮説検証に際し、アンケートの設問について、自宅などでの英語学習時間、授業以外で英語を教わ る機会においての学習時間に加え、授業1回あたりの分数と週あたりの授業時間数、学習内容ごとの 実施時間などを細かく問うものに変更した。また、大学入試と英語スピーキング力向上との関係を探 るため、大学を受験するかどうかや受験する場合の入試科目に関する設問も含めた。英語教師のアン ケートでは、「1年前と比べて生徒の英語力が伸びたと思うか、またその理由」「生徒の英語力向上に おいて課題と感じていること」などを述べてもらうようにし、教師の目から見た生徒の英語力やその 課題についても浮き彫りにすることを試みた(アンケートの項目の詳細は本レポートpp.31~35 参照)。 次章では、まず調査協力校各校における生徒のTSST 受験結果を示し、続く第5章以降で上記の仮説 を参照しながら、具体的にどのような時間・内容を学習すると、英語スピーキング力向上につながる のかを考察する。12
4 調査協力校の高校3年生の英語スピーキング力
4.1 調査協力校の高校3年生の英語スピーキング力分布
2015 年度の調査(アルク教育総合研究所、2016 年4月※1)では、調査対象者の高校1年生全員 のスピーキング能力分布は、「初級」に分類される「不完全ながらも、短い簡単な文で、簡単な自己紹 介や食事の注文ができる」レベル3が 67.2%と最多で、学校別に見ても、どの学校でもレベル3が最 多であった。2016 年度の調査(アルク教育総合研究所、2017 年4月※2)では、A 高校、C 高校で はレベル3が 2015 年度に引き続き最多である一方、B 高校で、レベル4の生徒が 58.5%と最多とな り、レベル4以上の生徒の割合は他の2校より約50 ポイント以上高かった。 2017 年度、高校3年次の結果は以下の図表の通り。2016 年度(高校2年次)に引き続き、A 高校、 C 高校ではレベル3が最多(各 66.7%、59.1%)で、B 高校ではレベル4が最多の 66.1%であった。 全校でレベル4以上の割合がやや高くなったものの(A 高校:12.5%→24.4%、B 高校:68.6%→76.1%、 C 高校:18.4%→21.6%)、 B 高校でレベル4の生徒の割合が顕著に高いという点では、高校2年次か らの変化は見られなかった。 ※1 『アルク英語教育実態レポート Vol.6 日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査Ⅰ-3年間追跡調査に おける1年目調査レポート-』p.11~12、アルク教育総合研究所、2016 年4月 http://www.alc.co.jp/company/report/pdf/alc_report_20160422.pdf ※2 『アルク英語教育実態レポート Vol.9 日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査Ⅱ-調査2年目にスピ ーキング能力が向上した学校の特徴とその背景』p.9、アルク教育総合研究所、2017 年4月 http://www.alc.co.jp/company/report/pdf/alc_report_20170428.pdf 1 2 3 4 5 6 7 8 9 A高校(n=78) 0.0% 9.0% 66.7% 23.1% 1.3% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% B高校(n=118) 0.0% 0.0% 23.7% 66.1% 7.6% 0.8% 0.8% 0.0% 0.8% C高校(n=88) 0.0% 19.3% 59.1% 19.3% 2.3% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0%2017年度、高校3年次のTSSTレベル分布
A高校(n=78) B高校(n=118) C高校(n=88)13
4.2 高校1年次からのレベル推移
高校3年間のレベル推移を見るため、2015~2017 年度の3年間、連続して TSST を受験した高校生 のレベル推移を調査協力校別に表したものが以下の図である。 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 1 2 3 4 5 6 7 8 9A高校(n=68)
2015年度 2016年度 2017年度 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 1 2 3 4 5 6 7 8 9B高校(n=116)
2015年度 2016年度 2017年度 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0% 1 2 3 4 5 6 7 8 9C高校(n=87)
2015年度 2016年度 2017年度14 A 高校と C 高校では 2015 年度から 2017 年度にかけてレベル3の割合が減少し(A 高校で 76.5%か ら64.7%へ 11.8 ポイント、C 高校で 65.5%から 58.6%へ 6.9 ポイント減)、レベル4の割合が増加(A 高校で7.4%から 23.5%へ 16.1 ポイント、C 高校で 11.5%から 19.5%へ 8.0 ポイント増)しているが、 増減幅は20 ポイント以内に収まっている。一方 B 高校では、レベル3の割合が 62.1%から 23.3%へ 38.8 ポイント減り、代わってレベル4の割合が 33.6%から 66.4%へ 32.8 ポイント増加、レベル5も 2.6%から 7.8%へ 5.2 ポイント増加した。A 高校、C 高校でも、一定のスピーキング力の向上が見ら れたが、B 高校で高校3年間でのスピーキング力の向上が特に顕著であったことが分かる。 以下の図は、高校1年次、3年次の2回に渡り TSST を受験(2年次未受験者を加算)した生徒そ れぞれの、高校1年次から3年次への推移を見たものであるが、この図からも、B 高校で1レベルア ップした人が際立って多かったことが分かる。 調査協力校のうち、スピーキング力が特に高く、また、高校1年次から向上した人の割合も高いB 高校の生徒は、調査仮説通りの学習行動をしていたのだろうか。また、英語や英語学習に対する意識 など、その他の要素はどうだったのか。次章以降では、以下3つの観点で、TSST と同時期に実施した 高校生のアンケート結果、必要に応じて各校の教師のアンケート結果を参照しながら仮説を検証して いく。 まず第5章では、高校1年次からのスピーキング力向上が顕著であったB 高校と、他の2校を比較 し、どのような違いが見られたか確認する。続く第6章では、B 高校を除く A 高校と C 高校を比較し、 どのような違いがあったのか確認する。最後に第7章では、3校それぞれで、高校1年次から3年次 にかけてTSST が1レベル向上した人と、変化がなかった人ではどのような違いがあったのかを確認 する。以上3つの観点からの比較結果を踏まえ、第8章では、仮説に関してどのようなことが言える のかを明らかにする。 なお、次章以降では、アンケートの設問および集計結果について分析に関わる部分のみに言及・記 載し、アンケートの全設問と集計結果の詳細については、p.31 以降に付録として掲載した。 -2 -1 0 1 2 A高校(n=70) 0.0% 5.7% 64.3% 28.6% 1.4% B高校(n=117) 0.0% 1.7% 48.7% 47.0% 2.6% C高校(n=88) 0.0% 6.8% 70.5% 22.7% 0.0% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0%
高校1年次からのレベル推移
A高校(n=70) B高校(n=117) C高校(n=88)15
5 スピーキング力が大きく向上した B 高校の特徴
5.1 学習時間
英語の学習時間が高校生のスピーキング力とどのように関係するのかを調べるため、高校生に対す るアンケートでは、「高校3年生になってから、週に何時間、英語の学習をしていますか。下記の項目 それぞれについてお答えください。」(Q1)という設問を設け、「学校での英語の授業時間(1回あた り_分×週_回)」「自宅などで、1人で英語を学習する時間(週に_時間_分)」「塾・予備校・英会 話学校などで、学校の授業以外で英語を教わる時間(週に_時間_分)」の3つの学習機会における学 習時間を問うた。3つの学習時間それぞれについて、また3つを合計した総合的な学習時間数の平均 と標準偏差を、調査協力校別に示したものが以下の表である。 英語の学習時間数 1.学校の英語 授業時間 2.自宅などでの 英語学習時間 3.学校の授業 以外で英語を 教わる時間 1~3 の 学習時間合計 参考: 高校 3 年生の 授業時間数 平均 標準 偏差 平均 標準 偏差 平均 標準 偏差 平均 標準 偏差 ⽂系 理系 A 高校(n=70) 3.26 0.45 1.46 2.01 0.89 2.55 5.64 3.60 4 4 B 高校(n=117) 5.59 1.68 7.34 3.61 0.24 1.54 12.99 3.69 9 4~8 C 高校(n=88) 4.48 0.58 3.24 2.91 0.45 1.12 8.08 3.38 6 6 全体(n=275) 4.65 1.50 4.56 3.95 0.47 1.77 9.56 4.73 ― ― 高校1年次からスピーキング力が向上した生徒の割合が顕著に高いB 高校では、表の右端に示した 通り、特に文系においてカリキュラム上英語の授業時間数が多いため、生徒のアンケートでも英語の 授業時間が長かった(週平均5.59 時間)。それに加えて、自宅などでの学習時間が平均 7.34 時間と3 校中最も長く、それらが影響してB 高校では週当たりの英語の学習時間合計が 12.99 時間と最も長か った。英語の学習時間合計がB 高校に次いで長いのは C 高校の平均 8.08 時間であるが、B 高校とは 4.91 時間の差があった。学校の授業以外で英語を教わる時間は、3校ともに週平均1時間未満だった。 このことから、スピーキング力を向上させるためには、B 高校のように週に 13 時間学習すれば可能 性が高まるが、C 高校のように週に 8 時間だと不足している可能性があると考えられるが、このデー タのみから結論を出すのは早急と考える。次章以降では、他の観点からも検証した上で、週当たりの 最適学習時間を導く。 なお、学習時間が最も長かったB 高校は、国公立大学への進学を目指す生徒が多い、いわゆる「進 学校」でもあることから、自宅学習の目標時間が「1日3時間」と設定されており、学校を訪問した 際には教室にも掲示されていた。また、部活のある日でも授業後に学習がしやすいよう、学校に自習 用の教室が確保されており、「〇時〇分のバスに乗る生徒は部活後10 分あるので A 教室へ」「△時△分 のバスに乗る生徒は部活後45 分あるので B 教室へ」など、授業外での学習についての具体的な指示が なされていたり、毎朝、さまざまな科目で小テストが行われたりするなど、学習を促進する環境が用16 意されていた。一方、学習時間が最も短かったA 高校では、英語科の先生方にお話を伺ったところ、 部活動が非常に盛んな学校のため、夜の8時、9時まで部活にいそしむ生徒も多く、そんな生徒には 自宅学習をする時間がなく、教師の側もやや諦め気味になってしまっている、とのことであった。ま た、系列の付属大学に進学する生徒が多く、高校である程度の成績を収める必要はあるものの一般の 大学入試に向けた勉強は不要なため、生徒自身が学習よりも部活を優先しがちな状況もあるようだっ た。そうした環境の違いも学習時間の短さに影響していると思われる。
5.2 学習内容
英語の学習内容が高校生のスピーキング力とどのように関係するのかを調べるため、高校生に対す るアンケートのQ2、Q3、Q5では、それぞれ「(学校の)授業中」「自宅などで1人で」「塾・予備 校・英会話学校などにおいて(学校の授業以外で)」、スピーキング力向上に影響すると思われる7種 類の学習をどの程度行っているかについて、「1. 週に 10 分未満」「2. 週に 10 分~30 分未満」「3. 週 に30 分~1時間未満」「4. 週に1~2時間未満」「5. 週に2時間以上」のいずれかで回答してもらっ た。調査仮説(p.11 参照)を検証するため、学習内容には、「発音練習」「音読」といった「既存の英 文を声に出す学習」、「生徒同士の会話」や「スピーチ」といった「英文を作って話す学習」、「英文を 書く学習」「単語・文法学習」を設定した。具体的な項目は以下の通り。 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【生徒同士の会話】やディスカッション 4. 【スピーチ】やプレゼンテーション 5. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学習 6. 【単語】学習 7. 【文法】学習 ※各活動の名称は、「自宅などで1人で」の学習について問うたQ3、「塾・予備校・英会話学校など(学校の授 業以外で)」の学習について問うたQ5で、それぞれ状況に合うように必要に応じて変更している(「Q2【スピー チ】やプレゼンテーション」→「Q3【スピーチ】やプレゼンテーションのための練習で英語を声に出す」など)。 ※「3. 【生徒同士の会話】やディスカッション」は自宅などで、「4. 【スピーチ】やプレゼンテーション」は塾・ 予備校・英会話学校などでは実施しづらいと想定されたため、それぞれQ3、Q5の項目から外した。 ※設問は、回答を1つ選ぶ方式であったが、複数回答した人がいたため、その場合は時間が長い方を採択した(例 えば、「1. 週に 10 分未満」「2. 週に 10 分~30 分未満」の双方にチェックがあった場合は、後者と見なして集計 した)。 ■授業中の学習内容と時間 次ページの図はQ3の回答結果を「10 分以上(選択肢2~5)」「30 分以上(選択肢3~5)」で合 計したものである。授業中の学習を見ると、高校1年次からスピーキング力が向上した生徒の割合が 顕著に高い B 高校の生徒は、約 80%以上が「スピーチ」「単語」を除くすべての学習を授業中に「週 に 10 分以上」実施していた(次ページの上の図参照)。それに加えて、「生徒同士の会話」や「書く」 学習を「週に30 分以上」実施している割合が、他校に比べて 20 ポイント以上高かった(次ページの17 下の図参照)。なお、「文法」学習は 10 分以上、30 分以上のいずれを切り取っても、3校ともに実施 割合が他の活動に比べて最も高かった。 B 高校では、どのような工夫により、英文を作って話したり書いたりする活動を一定時間(それぞ れ週に30 分以上)行えるのだろうか。アルク教育総研では、2016 年度と 2018 年度の2回、B 高校を 訪問し、2016 年度に当時の高校2年生(調査対象学年)の授業を、2018 年度に高校1年生(調査対 象学年ではない)の授業を見学した。B 高校では、2つのクラスを、生徒の英語力習熟度別に上位1 クラス、中位2クラスの計3クラスに分けて英語を教えているが、特に習熟度の高い生徒を集めたク ラスでは英語による活動が教師の英語による指示の下次々と行われ、「会話やディスカッション」「英 70.0 80.0 65.7 42.9 67.1 72.9 88.6 93.2 88.0 92.3 55.6 79.5 69.2 95.7 51.1 58.0 39.8 22.7 53.4 58.0 87.5 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【生徒同士の会話】やディスカッション 4. 【スピーチ】やプレゼンテーション 5. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学習 6. 【単語】学習 7. 【文法】学習
授業中、週に10分以上実施する学習
A高校(n=70) B高校(n=117) C高校(n=88) 30.0 47.1 30.0 15.7 27.1 31.4 54.3 45.3 55.6 65.8 22.2 54.7 47.0 80.3 19.3 25.0 12.5 8.0 34.1 31.8 75.0 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【生徒同士の会話】やディスカッション 4. 【スピーチ】やプレゼンテーション 5. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学習 6. 【単語】学習 7. 【文法】学習授業中、週に30分以上実施する学習
A高校(n=70) B高校(n=117) C高校(n=88)18 文を書く」時間も十分に取られていた。『アルク英語教育実態レポート Vol.6』(※)p.17 にも記載し た通り、英語の習熟度が高い生徒が多いことでこうした活動が容易になっている可能性は否定できな い。 しかし一方で、習熟度が特に高いわけではない生徒を集めたクラスでも、「会話やディスカッション」 「英文を書く」につながる学習が行われていた。2018 年度に見学した高校1年生の授業では、教師主 導で前時のレッスンの要約活動が行われていたが、多くの生徒が教師の誘導に従い、教師の発言の合 間を埋めるように単語やフレーズを声に出して発していた。この授業を担当した先生に伺ったところ、 「レッスンの1時間目に教科書の内容をある程度理解させた上で音読などの定着活動をしっかり行う ので、習熟度が高くない生徒でも、まだ単語レベルではあるものの、徐々に英語が発話できるように なってきている」とのことであった。現状は教師主導の授業になっているが、生徒の進捗を見ながら 徐々にペアなどで活動する機会を増やしていく予定だという。前時に音読し、本時に教師と一緒に口 頭で実施した教科書本文の要約を書く活動なども、習熟度の高いクラスよりは緩やかなペースであり ながらも行われていた。 この事例に見られるように、特に1年次の最初は「話す」「書く」元となる英文を定着させる活動を しっかり行ったり、教師が発話や英文を書く際の支援をしたりすることによって、時間をかけて「英 文を作って話す・書く」活動につなげられる可能性が高くなると思われる。 一方で、B 高校内の同じレベルのクラスでも、英語活動の量や生徒の発話量には、クラスによりや や差が出ているようであった。基本となる授業構成はすべてのクラスで共通しており、プリントも同 じものを使用してはいるが、授業の実際の進め方は担当教師に任されているので、英語の使用量には 差が出るようである。 C 高校でも、2018 年度に2年生の授業を見学する機会があった。B 高校と同じく2コマを組み合わ せての授業を行っており、前半の「理解と定着」を目的とした授業を見学した。授業中の教師の指示 はメリハリがあり、生徒も比較的よく声を出している印象を受けた。しかし、授業の位置づけが違う ので単純な比較はできないものの、音読は生徒が1人1文ずつ行っており、全員で同時に音読するこ とが多いB 高校の授業に比べると、1人あたりの活動の時間が少ないように見受けられた。同じ「音 読」でも活動の仕方によって、1人あたりの活動時間は異なる。授業中に「英文を作って話す、書く」 時間を十分に確保するにあたり、どの活動をどのくらい組み込むかといったシラバス上の工夫に加え、 活動方法にも工夫の余地があるのかもしれない。 ※『アルク英語教育実態レポート Vol.6 日本の高校生の英語スピーキング能力実態調査Ⅰ-3年間追跡調査にお ける1年目調査レポート-』 アルク教育総合研究所、2016 年4月 http://www.alc.co.jp/company/report/pdf/alc_report_20160422.pdf ■自宅などでの学習内容と時間 自宅での学習内容についてはどうだろうか。自宅などでの学習時間の平均は、B 高校で顕著に長か った(p.15 参照)が、その理由はどこにあるのだろうか。Q4で問うた自宅での学習内容と時間を見 ると、B 高校では生徒の約 60%以上が、「スピーチ」を除くすべての学習を、週に 10 分以上実施して いた(次ページの上の図参照)。加えて、「書く」学習や「単語」「文法」学習を「週に30 分以上」実 施している割合が、他校に比べて約20 ポイント以上高かった(次ページの下の図参照)。
19 ■学校の授業以外で英語を教わる内容と時間 B 高校に限らず、塾や英会話学校など、学校の授業以外で英語を教わる機会のある人は少なく、授 業以外での学習時間の平均も短かったが(p.15 参照)、その中でも B 高校では、どの学習内容におい ても、授業以外で教わる時間は3校中最も短かった。 これらの結果を総合すると、B 高校の生徒は、授業中と自宅などそれぞれで、さまざまな学習を週 に10 分以上まんべんなく実施した上で、「会話」や「書く」など英文を作って発信する学習は特に授 業中に、発信の基礎となる「単語」「文法」については自宅などで長時間(各学習につき少なくとも週 37.1 25.7 18.6 24.3 58.6 48.6 64.1 65.0 33.3 74.4 90.6 96.6 39.8 31.8 21.6 39.8 69.3 72.7 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【スピーチ】やプレゼンテーションのための練習で 英語を声に出す 4. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学習 5. 【単語】学習 6. 【文法】学習
自宅などで、週に10分以上実施する学習
A高校(n=70) B高校(n=117) C高校(n=88) 15.7 12.9 5.7 10.0 34.3 30.0 34.2 27.4 11.1 48.7 63.2 85.5 26.1 13.6 9.1 19.3 44.3 58.0 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【スピーチ】やプレゼンテーションのための練習で 英語を声に出す 4. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学習 5. 【単語】学習 6. 【文法】学習自宅などで、週に30分以上実施する学習
A高校(n=70) B高校(n=117) C高校(n=88)20 に30 分以上)学習することにより、スピーキング力が向上したと考えられる。なお B 高校の先生方に 伺ったところでは、調査対象学年について、「高校2年次までは音読をより多く実施していたが、高校 3年次は大学受験に備えて難易度の高い長文を理解することに時間を取られ、高校2年次までよりも 音読の時間が減ってしまった」とのことであった。高校3年次のアンケートでは、B 高校で「既存の 英語を音読する」学習を授業中または自宅で30 分以上実施している生徒の割合は他校と比べるとやや 多いものの、実施している割合は授業中が55.6%、自宅などが 27.4%と他の学習に比べて必ずしも多 くはなく、スピーキング力向上と「既存の英語を声に出す学習」を長時間行うことの関係性は見えな かった。仮に高校2年次に同じ設問を行ったとすれば、「既存の英語を声に出す学習」も長時間の実施 が必要、という結論になったのかもしれない。
5.3 その他の要因
この章の最後に、B 高校の生徒の英語力向上に影響したと思われるその他の要因を、仮説と対照さ せながら検証する。英語学習への動機づけを問うた「英語を勉強することは楽しい(か)」(Q6-2)と いう設問に対する回答は、「1.全くそう思わない」を 1、「6.非常にそう思う」を 6 として平均を算出し た結果、B 高校が 4.28、 A 高校が 4.27 に対し、C 高校は 3.73。B 高校と A 高校では、C 高校に比べ て英語(学習)に前向きな考えを持つ生徒が多かった。 第一希望の大学の入試科目は、B 高校では「英語を含む 1 科目以上」(「4 科目以上」「3 科目」「1~2 科目」の合計」)が88.1%、C 高校では 55.7%。 一方、A 高校では「一般入試は受験しない」が最多 の65.7%。大学入試における英語の必要性は、B高校で最も高かった。 「英語圏の国に1週間以上滞在したり留学したりした経験」がある生徒の割合はB 高校で最も多く 53.8%、次いで A 高校の 18.6%、C 高校は 1.1%であった。「いつ、どのような形で、どのくらい滞在 したか」については、B 高校で、「高校生の時、1 カ月未満の短期留学で」が 35.0%で最多であった。 B 高校では、高 1 の春休みに、英語力など一定の条件をクリアした生徒が参加できる 1 週間程度の海 外研修を設けており、その参加者が多く回答していることが影響したと見られる。 今回の調査では、第6章以降の分析結果も考え合わせると、こうした要因がスピーキング力向上に 必須であるという結論には至らなかったが、英語(学習)へ前向きな考えを持つ生徒や入試に英語が 必要となる生徒が多いこと、高校在学中の海外留学経験のある生徒が多いことなどが、B 高校の生徒 のスピーキング力向上に良い影響を及ぼした可能性はあるであろう。21
6 A 高校、C 高校の比較
6.1 学習時間
本章では、高校1年次から3年次にかけてスピーキング力向上が顕著であったB 高校を除く、A 高 校とC 高校の比較から分かることを見ていく。高校1年次から3年次にかけて TSST が1レベル以上 上がった生徒の割合は、A 高校が 30.0%、C 高校が 22.7%と、大きく差がなかった(p.14 参照)。し かし以下に示す学習時間の平均を見ると、C 高校では学校の英語授業時間と自宅などでの学習時間が A 高校より長く、結果として週当たりの英語学習時間の合計は8.08 時間と、A 高校の 5.64 時間に比べ ると2.44 時間長い。学習時間が C 高校に比べて短い A 高校で、C 高校とほぼ同じ割合の生徒が1レ ベルアップできたことになる。A 高校の生徒の学習内容にそのヒントがあるのではないだろうか。 英語の学習時間数 1.学校の英語 授業時間 2.自宅などでの 英語学習時間 3.学校の授業 以外で英語を 教わる時間 1~3 の 学習時間合計 参考: 高校 3 年生の 授業時間数 平均 標準 偏差 平均 標準 偏差 平均 標準 偏差 平均 標準 偏差 ⽂系 理系 A 高校(n=70) 3.26 0.45 1.46 2.01 0.89 2.55 5.64 3.60 4 4 C 高校(n=88) 4.48 0.58 3.24 2.91 0.45 1.12 8.08 3.38 6 66.2 学習内容
■授業中の学習内容と時間 授業中の学習内容を見ると、A 高校では、60%以上の生徒が、「スピーチ」を除くすべての学習を、 週に10 分以上実施していた(下の図参照)。さらに「音読」については、C 高校に比べて、30 分以上 実施している割合が20 ポイント以上多かった(次ページ上の図参照)。 70.0 80.0 65.7 42.9 67.1 72.9 88.6 51.1 58.0 39.8 22.7 53.4 58.0 87.5 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【生徒同士の会話】やディスカッション 4. 【スピーチ】やプレゼンテーション 5. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学習 6. 【単語】学習 7. 【文法】学習授業中、週に10分以上実施する学習
A高校(n=70) C高校(n=88)22 ■自宅などの学習内容と時間 自宅などでの学習内容については、週に10 分以上、30 分以上で実施割合を見ると、どの項目につ いても、A 高校で、C 高校より学習する生徒の割合が低かった。また、「文法」については、C 高校で 10 分以上(下の図)、30 分以上(次ページの図)学習する生徒の割合が、A 高校よりそれぞれ 20 ポイ ント以上高かった。 30.0 47.1 30.0 15.7 27.1 31.4 54.3 19.3 25.0 12.5 8.0 34.1 31.8 75.0 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【生徒同士の会話】やディスカッション 4. 【スピーチ】やプレゼンテーション 5. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学習 6. 【単語】学習 7. 【文法】学習
授業中、週に30分以上実施する学習
A高校(n=70) C高校(n=88) 37.1 25.7 18.6 24.3 58.6 48.6 39.8 31.8 21.6 39.8 69.3 72.7 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【スピーチ】やプレゼンテーションのための練習で 英語を声に出す 4. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学習 5. 【単語】学習 6. 【文法】学習自宅などで、週に10分以上実施する学習
A高校(n=70) C高校(n=88)23 15.7 12.9 5.7 10.0 34.3 30.0 26.1 13.6 9.1 19.3 44.3 58.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% 1. 単語などの【発音練習】 2. 教科書本文などの【音読】 3. 【スピーチ】やプレゼンテーションのための練習 で英語を声に出す 4. 英作文・エッセイ・スピーチ原稿などを【書く】学 習 5. 【単語】学習 6. 【文法】学習
自宅などで、週に30分以上実施する学習
A高校(n=70) C高校(n=88) ■学校の授業以外で英語を教わる内容と時間 学校の授業以外で英語を週に10 分以上教わる内容は、2校とも、どの項目も多いものでも 20%以 下にとどまり、A 高校と C 高校で特筆すべき差は見られなかった。 これらを総合すると、A 高校の生徒は、C 高校の生徒に比べると、授業中、さまざまな学習を週に 10 分以上まんべんなく実施した上で、「音読」については週に 30 分以上実施している。これが、すで に知っている英文を応用して発話する練習になり、短い学習時間にもかかわらず、C 高校と同様かや や上回るスピーキング力の向上につながっていると考えられる。一方、C 高校の生徒は A 高校の生徒 に比べ、授業中や自宅での学習時間が長く、特に「文法」学習を長く実施しているものの、A 高校と の比較においては、それがスピーキング力向上に良い影響を与えているようには見られない。文法は、 スピーキング力養成の基礎となるものだが、音読に比べると、直接的な関係は薄いのかもしれない。6.3 その他の要因
その他の要因に関して、「動機づけ」が与える影響を見てみたい。Q6では、「英語(学習)に対する 考え」を、「1. 英語が話せるようになりたいと思う。」「2. 英語を勉強することは楽しい。」「3. 1 年前 より英語力がアップしていると思う。」の3項目について、「1. 全くそう思わない」から「6. 非常にそ う思う」までの6段階で問うた。 この中で、「2. 英語を勉強することは楽しい。」に「そう思わない」と答えた生徒の割合は C 高校の 方が A 高校よりも 12.9 ポイント高かった(次ページの上の図参照)。また、Q7で問うた「第一希望 とする大学の入試科目」に関しては、C 高校は、A 高校に比べて、「大学入試に英語が含まれる」生徒 の割合が35.9 ポイント高かった(次ページ下の図参照)。このことから、A 高校と C 高校の比較では、 A 高校は本調査への協力が希望者制だったことなども影響してか、調査対象者は「内発的動機づけ」24 31.4 44.3 68.6 55.7 0.0 0.0 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 100.0% A高校(n=70) C高校(n=88)
英語を勉強することは楽しい
そう思わない そう思う 無回答 24.3 60.2 65.7 6.8 10.0 33.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% A高校(n=70) C高校(n=88)第一希望とする大学の入試科目
大学入試に英語が含まれる 一般入試は受験しない 無回答 を持つ生徒がやや多く、C 高校は「外発的動機づけ」を持つ生徒が多いと考えられる。C 高校では、 大学入試のために「やむを得ず」英語を学習している生徒がA 高校より多いと見られ、そうした背景 からも、学習時間の長さがスピーキング力向上に直接的に結びつきにくくなっているのかもしれない。25
7 各学校でスピーキング力が向上した生徒の特徴
7.1 学習時間
本章では、3校それぞれに、高校1年次から3年次にかけて TSST が1レベル上がった生徒と変化 がなかった生徒を比較し、その特徴からスピーキング力向上に必要と思われる要素を検証する。下の 表は、3校それぞれの高校3年次の学習時間の平均を示したものである。 英語の学習時間数 1.学校の英語 授業時間 2.自宅などでの 英語学習時間 3.学校の授業 以外で英語を 教わる時間 1~3 の 学習時間合計 平均 標準 偏差 平均 標準 偏差 平均 標準 偏差 平均 標準偏 差 A 高校 レベル変化なし(n=45) 3.33 0.45 1.10 1.43 0.43 1.22 4.85 2.11 1レベルアップ(n=20) 3.13 0.45 2.35 2.81 1.63 3.76 7.10 4.96 B 高校 レベル変化なし(n=57) 5.50 1.89 6.72 3.58 0.05 0.29 12.26 3.84 1 レベルアップ(n=55) 5.66 1.47 8.13 3.46 0.05 0.24 13.62 3.42 C 高校 レベル変化なし(n=62) 4.51 0.49 3.01 2.63 0.35 1.00 7.81 2.96 1 レベルアップ(n=20) 4.49 0.45 3.53 2.84 0.78 1.49 8.54 3.56 3校ともに、スピーキング力が向上した生徒(TSST が「1レベルアップ」した生徒)は、「英語授 業時間」の平均は「レベル変化なし」の生徒と顕著な差はないが、「自宅などでの英語学習時間」がA 高校と B 高校で、「学校の授業以外で英語を教わる時間」が A 高校で平均1時間以上長かった。C 高 校では、「自宅などでの英語学習時間」「学校の授業以外で英語を教わる時間」ともに、「1レベルアッ プ」した生徒の平均が、わずかながら(平均の差がそれぞれ1時間未満)長かった。その結果、英語 学習時間合計の平均は、3校ともに、「1レベルアップ」した生徒が7時間以上となり、「レベル変化 なし」の生徒を上回った。 このことから、スピーキング力を向上(=TSST を1レベルアップ)させるためには、1レベルアッ プした生徒の学習時間の平均が最も短いA 高校のように少なくとも週に7時間の学習が必要で、週に 14 時間以上学習すると、B、C 高校で「1レベルアップ」した人の平均学習時間も上回るため、向上 の可能性がさらに高まると言えそうである。7.2 学習内容
各学校で「1レベルアップ」した生徒と「レベル変化なし」の生徒を比較すると、30 分以上実施し た英語の学習内容について、それぞれ異なる特徴が見られたため、それらを次ページの表にまとめた。26 「1 レベルアップ」した生徒が 「レベル変化なし」の生徒に比 べて実施割合の高い学習内容 授業中の学習 (週に 30 分以上) 自宅などでの学習 (週に 30 分以上) 授業以外で教わる内容 (週に 30 分以上) A 高校 ・生徒同士の会話 ・⾳読 ・単語 ・発⾳練習 ・⾳読 ・⽂法 B 高校 ・⾳読 ・単語 ・発⾳練習 なし なし C 高校 ・書く なし なし A 高校では、「1レベルアップ」した生徒が「レベル変化なし」の生徒に比べて「週に 30 分以上」 の実施割合の高い(差が約20 ポイント以上)学習内容は、自宅などと授業以外での「音読」であった。 前に見たように、学校間を比較すると、A 高校では、授業中に「音読」を週 30 分以上実施する割合が C 高校に比べて高かった(p.22 参照)。このことと考え合わせると A 高校で「1レベルアップ」した 生徒は、授業中、自宅など、授業以外とさまざまな機会に「音読」し、すでに知っている英文を応用 して発話する練習を積んだことで、スピーキング力が向上した可能性がある。 次に、B 高校で「1レベルアップ」した生徒は、授業中、「音読」「単語」「発音練習」の「週 30 分 以上」の実施割合が高かった(「レベル変化なし」の生徒との差が約20 ポイント以上)。B 高校の生徒 全体を見ると、自宅などでの「音読」「発音練習」は、他の学習に比べると「週30 分以上」の実施割 合が低かった。授業中に既存の英語を声に出す学習に積極的に参加することにより、自宅学習でのそ うした学習の不足を補い、どの学習も週に30 分以上実施したことが、 スピーキング力向上に寄与し た可能性がある。 C 高校で「1レベルアップ」した生徒は、授業中、英文を「書く」学習の「週 30 分以上」の実施割 合が高かった(「レベル変化なし」の生徒との差が約20 ポイント以上) 。C 高校の生徒は、他校に比 べて授業中、「音読」「生徒同士の会話」「発音練習」など、英語を声に出したり、英文を作って話した りする学習の実施割合が少ないが、一方で「文法」学習の実施割合は高く、「週30 分以上」の実施割 合はB 高校に匹敵する。「書く」学習は、習得した文法知識を活用し、英文を自分で組み立てるという 観点でスピーキングの準備段階ともなりうる活動のため、実際に英語を「話す」機会は少なくても、 週30 分以上「書く」ことにより、スピーキング力向上に寄与した可能性がある。 なお、C 高校の先生方に「書く」学習をどのように実施しているのか伺ったところ、2017 年度調査 を実施した3年次の「書く」学習は、大学入試の英作文を意識した「和文英訳」だったそうである。 しかし、「和文英訳」をすればスピーキング力が向上すると結論づけるのは早急である。C 高校では、 1、2年次に「英語表現」の授業で、Lesson ごとにまとめの英作文をさせていた。書く内容は Lesson の要約など学習内容を踏まえたもので、1年次の最初は「3文英作文」から初めて、2年次には徐々 に60 語~150 語まで分量を増やしたとのこと。英作文をした次の授業で、書いた内容をペアで発表さ せたり、一部の生徒にはクラス全体に対して発表させたりしていた。1、2年次でまとまった分量の 英文を書く練習をした上で、3年次の「和文英訳」でより正確性を追求した英文を書く学習をしたこ とが、スピーキングの「量」と「質」に貢献し、TSST のレベルアップに役立った可能性がある。この
27 事例が示すように、C 高校に限らず、今回の調査結果を見る際には、「1、2年次での学習経験があっ たために、3年次の学習が可能であった、もしくはその効果が3年次に出た」といった可能性も考慮 する必要があろう。 また、教師に回答してもらった授業内容に関するアンケートでは、C 高校ではないが、A 高校の先 生1名から、「ライティング活動を実施したことで、フォーマットにのっとった発信ができるようにな った」との回答があった。このように、「英文を書く」学習が、スピーキング力向上に良い影響をもた らすと感じている教師もいるようである。
7.3 その他の要因
英語(学習)に対する考えを問うた Q6で、「2. 英語を勉強することは楽しい。」の回答を「1. 全 くそう思わない」から「6. 非常にそう思う」まで数値化して平均すると、A 高校では「1レベルア ップ」した生徒が「レベル変化なし」の生徒に比べて 0.36 高かったものの、B、C 高校では「1 レベ ルアップ」と「レベル変化なし」の平均の差が0.2 以下で、特筆すべき差は見られなかった。同様に、 「1. 英語が話せるようになりたいと思う」の平均も、「1レベルアップ」「レベル変化なし」で顕著な 差は見られなかった。「英語の大学入試への必要性」「英語圏の国への滞在・留学経験」においても、 3校ともに、「1レベルアップ」「レベル変化なし」で、スピーキング力向上に寄与すると思われる顕 著な差は見られなかった。28