平成26年度 課 題 名 2-(1) 微小生物及び魚類の多様性評価 2-(1)-1) 細菌類の多様性評価 実施機関 主担当:瀬戸内海区水産研究所 生産環境部 藻場・干潟G 従担当:瀬戸内海区水産研究所 生産環境部 環境動態G :日本海区水産研究所 資源生産部 生産環境部G :増養殖研究所 資源生産部 生態系G 協力機関:愛知県水産試験場 兵庫県農林水産技術総合センター水産技術センター 熊本県水産研究センター 千葉県水産総合研究センター東京湾漁業研究所 浜毛保漁業協同組合、大分県漁業協同組合中津支店 担当者氏名 内田基晴(瀬戸水研) 1.目的 漁場には、漁業の対象となる生物以外にも多様な生物が存在しており、各生物が関係性 を有しながら全体として生態系を形成している。ここでは、干潟漁場を調査対象として選 び、底泥中に存在する細菌類の多様性に着目する。前期事業(H20-24)で細菌類の炭素源 資化(利用)能の多様性を市販のキット(Biolog プレート)を用いて簡便に調べる方法を 検討した。この手法を用いて、アサリ漁場及び近隣河川の底質を対象とした調査を行い、 漁場評価に役立つ生物多様性指標を開発することを目的とする。最初に H25 年度の調査デ ータを使用しながら、アサリの単位面積当たり漁業生産量(以下アサリ生産量)、マクロ ベントス分布量、メイオベントス分布量、クロロフィル a 量と有意な相関を示す炭素源資 化能を検索した。 2.方法 H26 年度調査海域:課題 1-(1)で記載した 5 か所(熊本、中津、赤穂、一色、盤津)のアサ リ漁場内に設けた 3 定点及びその近傍の河川に設けた 3 定点で調査を行った。各々の定点 で注射筒(直径 29mm)を用いて表層 1cm の底泥試料を 3 回採取して 1 本に合わせたものを 3 本収集して(3 定点 x3 本コア)Biolog 試験に供試した。 Biolog 試験の方法:底泥試料をスパーテル(70%EtOH とティッシュで洗浄)でよく混ぜ て均一にした後 1.0g(各漁場 n=3)を採取し、滅菌 2.5%食塩水 9mL に加え、ボルテックスで 30 秒混合した(=-1 希釈試料)。さらに段階希釈を繰り返し、1000 倍(=-3)希釈試料を調製 した。炭素源資化試験プレート(Biolog 社製、GN2)に-3 希釈試料を 150μL ずつ接種し、 23℃で 48 時間及び 2 週間培養時にマイクロプレートリーダー(波長 590nm)で発色量を 測定した。なお、Biolog プレートへの試料の接種操作は、23℃に調温したホテルの部屋で 行い、1 晩培養した後、23℃±2℃に保ちながらクーラーボックスで研究室に持ち帰り、恒 温器で 23℃培養を継続した。クーラーボックスでの輸送に要したおおよその時間は、熊本 (4h)、中津(3h)、赤穂(2.5h)、一色(5h)、盤津(6h)であった。各ウェルの発色量(WCD :well color development)は、各ウェルの発色測定値からブランクウェル(A1 ウェル)の 値を差し引いた値とし、これから以下の指標を計算した。
・総発色量 TWCD(total well color development)=95 個のウェルの発色量の総和 ・平均発色量 AWCD(average well color development)=TWCD/95
・陽性ウェル数 PWN(positive well number)=WCD が 0.2 以上のウェル数。
アサリ生産量、マクロベントス分布量、線虫分布量、Chla 量との単相関解析:7 つの漁場 (熊本有明、中津、廿日市、赤穂、一色、横浜海の公園、盤津)におけるアサリ生産量、 マクロベントス分布量(湿重量密度)、線虫分布量個体数密度)、Chla 量(表層 1cm 厚土 壌 1g 当量)に対して相関を示す炭素源資化能(Biolog 試験における 95 種類の炭素源に対 する発色量、総発色量で除して基準化処理したもの)を検索した。アサリ生産量は課題 1-(1) で求めた値を使用した(表1)。メイオベントス分布量、クロロフィル a 量は、同漁場にお いて H25 及び 26 年度に得た現場調査データを用いた(表1)。相関解析は、regular 相関解 析(parametric) 及び Spearman 解析(nonparametric)を行った。
3.結果
1) アサリ生産量との単相関解析
H25 年度データの解析:細菌群集の炭素源資化能のうち、アサリ生産量と有意な(P<0.05) 相関を示した炭素源が parametric 検定では、正の相関が 7 種類(glycogen, fucose, lactose, succinamic acid, alaninamide, leucine, phenylalanine)、負の相関が 2 種類(GalcNAc, rhamnose) 認められた。Nonparametric 検定では、負の相関が 1 種類(rhamnose)だけ観察された。こ れら有意な相関を示した炭素源のうち、自然界での分布に関する情報があり、相関を示し た理由を考察し易いグリコーゲンとラムノースの解析結果をグラフを示す(図 1)。グリコー ゲンは、アサリなどの動物が作り出す貯蔵糖であり、細菌類にとっても良好なエネルギー 源となり得ると考えられる。アサリ生産量が多い漁場環境においては、グリコーゲンの生 産量が多いと考えられ、細菌群集がグリコーゲンに対する高い資化能を保有していること は合理的であると考えられる。一方、ラムノースは、アオサなど緑藻類にラムナン硫酸の かたちで多量に含まれている。これまでの調査結果からラムノースは、グルコースやグリ コーゲンよりも細菌による資化頻度が少ない。またラムナン硫酸は、生体防御物質であり、 表1 各漁場における生物量の調査結果 アサリ生産量 マクロベンベントス 線虫 クロロフィルa t/km2 g wet /400cm2 ind./ 6.6 cm2 μ g/g soil
熊本有明 H26 10.8 38 280.2 8.4 中津 H25 0.06 79.2 379 9.2 H26 0.06 35.7 506.2 6.2 廿日市 H25 45.1 94 509 8.0 赤穂 H25 1.39 18 130 5.5 H26 1.39 107.3 940.8 8.5 一色 H25 875 52 520 9.6 H26 875 63.5 345.6 7.7 海の公園 H25 4470 306.4 951 3.9 盤津 H26 968 202.7 1084 4.1 調査年度 漁場
細菌類により資化されにくい物質と考えられる。横浜市海の公園の例では、アサリとアオ サが共に大量に存在していることが観察されており、従って、グリコーゲンもラムノース も共に環境中で大量に生産されていると考えられる。グリコーゲンのような細菌群集にと って好適な炭素源が豊富に存在している場では、ラムノースのような資化し難い炭素源を 無理に利用しようとしないということが理由として考えられた。 図 1 5 つの漁場(H25 年度)におけるアサリ生産量(2009-2011 年 3 年間平均)と有意 (P<0.05)な相関を示した細菌群集の炭素源資化能の例(左:Glycogen、右 Rhamnose) H26 年度データの解析:細菌群集の炭素源資化能のうち、マクロベントス分布量と有意 (P<0.05)な相関を示した炭素源が、parametric 検定では、正の相関が 2 種類(D-sortol, glycyl-L-aspartic acid)、負の相関が 4 種類(α-D-lactose, raffinose, sebacic acid, succinic acid) 観察された。Nonparametric 検定では、正の相関が 2 種類(D-sorbitol, glycyl-L-aspartic acid)、 負の相関が 6 種類(Tween 40, D-piscose, raffinose, p-hydroxyphenylacetic acid, succinic acid, inosine)観察された。
H25 及び H26 年度の両方の解析で相関を示した炭素源資化能は見いだされなかった。
2) マクロベントス分布量との単相関解析:
H25 年度データの解析:細菌群集の炭素源資化能のうち、マクロベントス分布量と有意 (P<0.05)な相関を示した炭素源が、parametric 検定では、正の相関が 7 種類(fucose, lactose, succinamic acid, alaninamide, leucine, phenylalanine, serine)、負の相関が 3 種類(GalcNAc, sucrose, 2,3,butandiol)観察された。Nonparametric 検定では、正の相関が 4 種類(fucose, serine, phenylethylamine, Glucose-6-P)、負の相関が 5 種類(sucrose, GABA, urocanic acid,
アサリが多い漁場での結果 アサリが少ない漁場での結果
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0
2000
4000
6000
○栄養価の高い糖
(グリコーゲン)の場合
発
色
の大き
さ
=
細
菌が食べる
能力の強
さ
0
0.001
0.002
0.003
0.004
0
2000
4000
6000
○栄養価の低い糖
(ラムノース)の場合
アサリ生産量 t/km
2アサリ生産量 t/km
2 グリコーゲンの穴 ラムノースの穴 グリコーゲンの穴 ラムノースの穴inosine, 2,3,butandiol)観察された。
H26 年度データの解析:細菌群集の炭素源資化能のうち、マクロベントス分布量と有意 (P<0.05)な相関を示した炭素源が、parametric 検定では、正の相関が 11 種類(L-arabinose, L-arabitol, galctose, lactulose, galactoric acid lacton, β-hydroxyl butyl acid, α-keto valeric acid, saccharic acid, glycyl-L-glutamic acid, urocanic acid, ptrescine)、負の相関が 1 種類(D-serine) 観察された。Nonparametric 検定では、正の相関が 7 種類(GalcNAc, β-hydroxyl butyl acid, α-keto butyric acid, saccharic acid, glucuronamide, glycyl-L-glutamic acid, urocanic acid)、負の 相関が 4 種類(tween 40, cis-aconitic acid, citric acid, glutaric acid)観察された。
H25 及び H26 年度の両方の解析で相関を示した炭素源資化能は見いだされなかった。
図 2 5 つの漁場(H26 年度)におけるマクロベントス分布密度と有意(P<0.05)な相関を 示した細菌群集の炭素源資化能の例(左:Glycyl-L-glutamic acid、右 Urocanic acid) 3) 線虫分布量との単相関解析:
H25 年度データの解析:細菌群集の炭素源資化能のうち、線虫分布量と有意(P<0.05)な相 関を示した炭素源が、parametric 検定では、正の相関が 6 種類(glycogen, lactose, gluconic acid, hydroxyl-L-proline, D-serine, phenylethylamine)、負の相関が 1 種類(2,3,butandiol)あった。 Nonparametric 検 定 で は 、 正 の 相 関 が 4 種 類 ( glycogen, alanine, hydroxyl-L-proline, phenylethylamine)、負の相関が 2 種類(2,3,butandiol, Glucose-6-P)観察された。
H26 年度データの解析:細菌群集の炭素源資化能のうち、線虫分布量と有意(P<0.05)な相 関を示した炭素源が、parametric 検定では、正の相関が 8 種類(D-arabitol, D-cellobiose, D-galactose, acetic acid, hydroxybutilic acid, putrescine, 2,3,butandiol, urocanic acid)、負の相関 が 1 種類(D-serine)あった。Nonparametric 検定では、正の相関が 8 種類(D-arabitol, D-cellobiose, D-galactose, acetic acid, D-saccharic acid, glucronamide, glycyl-L-glutamic acid,
y = 3E-06x - 0.0001
R² = 0.9163
0
0.0001
0.0002
0.0003
0.0004
0.0005
0.0006
0.0007
0
100
200
300
y = 6E-05x + 0.0044
R² = 0.9216
0
0.002
0.004
0.006
0.008
0.01
0.012
0.014
0.016
0.018
0
100
200
300
B
io
lo
g
発色量
(A
5
9
0
n
m
)
B
io
lo
g
発色量
(A
5
9
0
n
m
)
マクロベントス量(g/0.12m
2)
マクロベントス量(g/0.12m
2)
Urocanic acid
Glycyl-L-glutamic acid
putrescine)、負の相関が 9 種類(D-fructose, gentinobiose, L-rhamnose, Turanose, L-alanylglycine, L-glutamic acid, L-histidine, thymidine)観察された。
H25 及び H26 年度の両方の解析で相関を示した炭素源資化能は見いだされなかった。
図 3 5 つの漁場(H26 年度)における線虫密度と有意(P<0.05)な相関を示した細菌群集 の炭素源資化能の例(左:Putrescine、右 D-Arabitol)
4) Chla の単相関解析:
H25 年度データの解析:細菌群集の炭素源資化能のうち、Chla 量と有意(P<0.05)な相関を 示した炭素源が parametric 検定では、正の相関が 4 種類(GalcNAc, turanose, glucronamide, thymidine)、負の相関が 7 種類(fucose, maltose, acetic acid, succinamic acid, glycyl-L-glutamic acid, ornithine, phenylethylamine)観察された。Nonparametric 検定では、正の相関を示した 炭素源が、4 種類 GalcNAc, turanose, glucronamide, thymidine)、負の相関が 7 種類(fucose, acetic acid, succinamic acid, glutamic acid, glycyl-L-glutamic acid, ornithine, phenylethylamine) 観察された。
H26 年度データの解析:細菌群集の炭素源資化能のうち、Chla 量と有意(P<0.05)な相関を 示 し た 炭 素 源 が parametric 検 定 で は 、 正 の 相 関 が 6 種 類 ( Dextrin, Gentinobiose, L-alanylglycine, D-serine, L-threonine, D,L- α -glycerol phosphate ) 、 負 の 相 関 が 8 種類 (L-arabinose, D-cellobiose, D-glucose, lacturose, D-galactonic acid lacton, α-keto valeric acid, D-saccharic acid, glycyl-L-glutamic acid)観察された。Nonparametric 検定では、正の相関を 示した炭素源が、7 種類(Dextrin, Tween 40, formic acid,α-ketoglutonic acid, hydroxproline, pyroglutamic acid, D,L-α-glycerol phosphate)、負の相関が 6 種類(i-erythritol, lacturose, succinic acid mono-methyl-ester,γ-hydroxybutiric acid, L-asparagine, glucose-6-phospate)観察 された。 H25 及び H26 年度の両方の解析で相関を示した炭素源資化能は、glycyl-L-glutamic acid であった。 y = 3E-07x - 9E-05 R² = 0.992
0
0.00005
0.0001
0.00015
0.0002
0.00025
0
2000
y = 1E-05x - 0.0026 R² = 0.97770
0.002
0.004
0.006
0.008
0.01
0.012
0.014
0
1000
2000
線虫密度(ind./6.6cm
2)
線虫密度(ind./6.6cm
2)
Bi
o
lo
g
発色量
(A
59
0n
m
)
Bi
o
lo
g
発色量
(A
59
0n
m
)
Putrescine
D-Arabitol
図 4 5 つの漁場(H26 年度)におけるクロロフィル a 量と有意(P<0.05)な相関を示し た細菌群集の炭素源資化能の例(左:Dextrin、右 Glycyl-L-glutamic acid)
以上、単年度の解析としては、アサリ生産量、マクロベントス分布量、線虫分布量、Chla 量と相関を示す炭素源資化能は見いだされたが、複数年の調査で共通的に相関を示す炭素 源資化能は、ごく少数しか見いだされなかった。ただし、解析結果の不安定さには、デー タの数が少ないことが原因していることが考えられるので、2 年間のデータを合わせて解 析することも有用と考えられる。また、各漁場における 3 定点の測定値について、今回は 平均値を計算し 1 個のデータとして解析したが、3 個の個別データとして使用して解析を することも有用と考えられる。 4.成果の発表、活用等 内田基晴:国内アサリ漁場における生産性と生物多様性の比較、平成 26 年度瀬戸内海区水 産研究所成果発表会(2014.10) 内田基晴・辻野睦・手塚尚明:国内アサリ漁場の栄養塩,生物量・多様性の比較と漁場評価 手法の開発、第 3 回アサリ研究会(2015 年 2 月予定) 内田基晴・辻野 睦・手塚尚明・重田利拓・高田宣武・丹羽健太郎・黒木洋明・石樋由香) ・安信秀樹・宮脇 大・内川純一・鳥羽光晴、アサリの生産量の低減は海域の貧栄養化と 強く関連―アサリ漁場の全国比較から、平成 26 年度日本水産学会春季大会講演要旨集 (2015 年 3 月予定) 5.事業推進上の問題点等 特になし。 6.次年度の計画 藻場漁場においてBiolog試験を実施することを検討する。 y = -0.0019x + 0.0225 R² = 0.7072