ロールシャッハ法による精神分裂病の症状 と思考障害の同定に関する研究について
菊 池 哲 彦
序
精神分裂病についての心理学的研究は,認知理論に情報理論が導入されたこ とに伴う認知理論の長足の進歩の深化をうけて,特にアメリカ合衆国において は精神分裂病患者の認知についての実験心理学的研究業積を急速にかつ大量に 生産させ,精神分裂病の精神病理学的理解に対しても影響を与えるに至ってい
る。 (例えばWynne,L. C.,Cromwel1,R. L,&Matthysse,S.1978を見よ。)
チャプマン(Chapman,L, J.1978)はこれらの研究の重要なものについて展 望し,それらが,思考障害の臨床的記述,思考障害の測度を同定する試み,記 憶欠損の研究の三部門として整理できるとした上で,とくに思考障害の測度の 研究は,精神分裂病への罹患傾向の強度の指標としても有用であって,現在強 い関心を集めている精神分裂病患者の親,高危険児,過程性精神分裂病・反応 性精神分裂病・境界線症例の鑑別などの研究にも寄与しうる余地のあるもので ある。この系列の研究においては注意についての実験心理学的測度と,ロール シャッハ法による認知の逸脱の測度とが最も優れたものであると述べた。精神 分裂病の精神病理学的徴侯はは多彩であるが,なかでも思考障害はその質と重 篤度とによって精神分裂病と類縁精神障害とを区別することを可能にすると期 待されており,また,思考障害は予後判定にも重要な手掛りとなると示唆され ているなど,病理学的にも臨床的にも重要な現象である。そこで,本論ではこ の思考障害をめぐる研究により留意して検討をすすめることにしたい。しかし,
まずはじめに,主として1965年以降の欧米における精神分裂病へのロールシャッ ハ法を主として用いた接近を概観し,多少の類型化をほどこして記述しておき
たい。
まず,研究対象をどう組織するか,あるいは,どのような疾患群について研
究するかという点からみると,精神分裂病(Process Schizophrenia),反応
、
ォ精神分裂病(Reaction Schizophrenia),境界線症例の三者を対比して,
それぞれの特色を明らかにしようとする研究,高危険児(High−Risk child一 ren),精神分裂病者の両親あるいは親族の研究,家族ロールシャッハ法(Con一 sensus Rorschach s Method)の研究などの研究群がある。
次にロールシャッハ法によっていかなる機能を検討するかという点では圧倒 的に多い研究が思考についての研究である。精神分裂病の思考障害の同定の研 究では,精神分裂病圏の疾患下位分類(パラノイア,非パラノイア精神分裂病,
分裂性情動障害Schizo−affective Disorder,反応性精神分裂病,境界線例)間 の鑑別,他の障害(うつ病,てんかん,器質性精神障害,自殺者,自殺企図者)
と精神分裂病との鑑別の研究,治療効果による思考障害の変化の研究,経年的 変化の研究があるが,精神分析的視角からの研究では,思考障害を一次過程へ の退行とみる研究,対象関係の病的偏りとみる研究,ボディイメージおよび境 界の障害とみる研究などがある。これらのほかに,思考障害を同定するための ロールシャッハ法上の指標の確立のための研究すなわち思考障害の測定法とし てのロールシャッハ法を確立するための研究がある。
こうした研究は一方で疾病分類学(Nosology)の立場でロールシャッハ法 を使用する研究へとつながって行くが,この場合は必ずしも思考障害にとらわ れるものではない。この系列の研究も数が多い。
一方,実験的にロールシャッハ法を,たとえば思考障害の検出手段として検 討するという系列の研究もある。たとえば,正常者に精神分裂病者をよそおわ せてどの程度類似した認知,思考の異常が現われるか(Faking Test)といっ た研究などである。
実験的検討のなかには閾下情報によって精神分裂病患者のロールシャッハ法 上の言語表現がどの程度変化するかを検討したもの,ロールシャッハカードの 認知的特性を検討したもの,生理学的,あるいは教示などの心理学的操作と言 語表現の関連をみたものなど多岐にわたっている。
こうした研究の一つの到達点としてロールシャッハ法に代る方法あるいは通 常のロールシャッハ法と異なる手続で実施するロールシャッハ法を提案してい
る研究もある。
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 3
1.ロールシャッハ法による精神分裂病研究
一主たる関心が疾病分類学nosologyにある接近について一 1) 症状記述
疾病分類学的接近の第一着手は何といっても精神分裂病なる疾患群のロール シャッハ法上の特徴の記述である。現在までに,極めて多数のこうした記述が あるにもかかわらず,症例報告がなお行なわれていることは驚きであるが,報 告者(たとえばNova,V.,1967)にはなお,満足できない問題点が諸家の記述 に見えるということであって,これはやはり,レイン(Laing, R. D.1969,p.
18)の言うように精神分裂病は満足すべき展望をもっては把握することの不可 能な永遠の謎なのかもしれない。
症例報告は省略する。次に患者群について行なわれた研究に移る。パルとチャ クラヴァリィ(Pal,A. K.,&Chakravarry,Ch.1968)は学歴と社会的背景を一 致させた分裂病患者と正常者の組合せ30組に面接,ロールシャッハ法,コース のブロックデザインテスト,および類似と語の流暢さのテストを実施して,そ の結果を分散分析した。その結果は観念の精神分裂病的構成は若干の心身症的 傾向をともなった人格発達上の偏椅にもとつくものであると解された。コーエ
ンら(Cohen,1.,Fliegelman,S.,Gluck, Z.,&Kelman,D.,1970)は14歳から20 歳までの精神病者39名についてロールシャッハ法,TAT,ベンダー・ゲシュタ ルト・テストを実施し,初期の予後診断が可能なことを見た。青年期の精神病 者に精神分裂病の診断が与えられることもあるが,その後必ずしも精神分裂病 の経過をたどらないことがありうる。この場合の鑑別にこの予後診断が有効で あるとした。モハンとデュベイ(Mohan, J.,&Dubey, B. L.,1976)は年令22一 30歳で,性,学歴,結婚歴について一致させた不安神経症者と精神分裂病患者 の組合せ10組についてロールシャッハ法,アイゼンク・パーソナリティ・イン ベントリー,知能テスト,逆行書写テストを実施した。不安神経症者は精神分 裂病者よりもパフォーマンスの点で成績が良かったが,アイゼンク・パーソナ
リティ・インベントリーの各尺度値,ロールシャッハ法の結果には二群間に有 意差が認められなかった。この場合の他の結果は,精神分裂病者は一般に知能 が高く,ロールシャッハ法での反応時間は遅く,逆行書写はより貧しかった。
こうした結果はその一部については被験者の人数が少ないことによるだろう。
ラガスワミ(Ragaswami, K,1982)は精神分裂病者の犯罪者30名(平均31.
13歳)と精神分裂病者30名(28.30歳)および正常者30名(平均28.20歳)につ いてロールシャッハ法,敵意・敵意方向質問紙,知能検査を実施した。ロール シャッハ得点は三群間で有意差がみられた。また,敵意の表出は正常者,精神 分裂病者,精神分裂病者の犯罪者の順で高かった。しかし,ロールシャッハ法
と敵意水準の間には有意な相関は何もなかった。ヴィヴェスーゴミラ(Vives一 Gomila,M.1985)は2年以上精神分裂病の慢性症状をもった30名の入院患者 についてロールシャッハ法の診断上の有効性を検討した。精神分裂病の診断に はスピッッァーら(Spitzer, R. L.,Endicott,J.,&Robins,E.1978)の「研究
診断基準」RDCを用いた。ロールシャッハ法が標準手続で実施され,その結 果がRDCによる診断結果と相関させられた。一致率は92%であった。精神分 裂病の下位タイプとの一致率は67%であった。ハミルトンら(Hamilton,N. G.,
&Allsbrook, L.,1986)は精神分裂病の診断で,長期入院棟に入院中の30名の 患者(平均年令22歳)を再検査した。そのために用いられた方法は,5時間の 精神医学的面接,5時間の家族研究,内科的,神経学的診察,一般検査,EE G,心理検査(ロールシャッハ法,WAIS, TAT,)である。精神分裂病とい
う当初診断にもかかわらず,患者は次のような障害をもっていることが明らか となった。誘発された感情障害,境界線人格障害,微小脳機能不全,マリファ ナ濫用,脳損傷である。30名中12名はDSM一皿の精神分裂病の規準に合致し なかった。また,他の5名は最終的にはDSM一皿で精神分裂病と診断された ものの,6週間の治療についての臨床的診断会議では,精神分裂病とは診断さ れなかった。結局,何の問題もなく精神分裂病と診断されたのは13名のみであっ た。結局,DSM一皿にも問題があったし,また,著者らの精神分析の立場,
なかんつく全体論的対象関係論的考察にも問題があったということになる。こ うしたことになったのは,合伴症の鑑別ないし器質的要因の考察と精神分析的 人格的要因の考察をさらに十分なものとする努力が必要であることを示唆して いるだろう。ユーシンら(Yusin, A.,Nihira,K.,&Mortashed, C.1974)は精 神分裂病と連合しているところの操作的に定義された教科書的症状27項目から
なる症状査定質問紙を1972年5月から7月までの2ケ月にメディカルセンター を訪れた241名(16歳一63歳)の患者に実施し,この質問紙で精神分裂病を非 精神分裂病から統計的に有意に判別することができることをみた。このとき主 要な症状として6個が抽出された。その6個の症状はルーズな連合,両価性,
籠居,自我境界の喪失,幻覚,妄想であって,これらは精神分裂病にあっては
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 5
平均50%(35%から71%)存在したが,非精神分裂病では平均9%(3%から 28%)しか存在しなかった。ニューマークら(Newmark, Ch,S.,Raft,D.,Toom ey,T.,Hunter,W.,&Mazzaglia, J.,1975)はこれを受けて,この質問紙を拡大,
43項目とし,入院・外来患者男性ll5名女性157名(年令16歳から72歳まで,平 均38.6歳),うち入院患者は184名,外来患者88名計272名に対して実施した。
ただし,この場合は,診断手段にMMPIとロールシャッハ法を用いた。精神分 裂病と非精神分裂病とで出現率に有意差のあった項目は25項目であったが,辮 別函数を用いて辮別力のある主要な症状を選び出したところ,ルーズな連合,
自閉,自我境界の喪失,妄想,社会的籠居,具体的思考(≒concretization of ideas)となった。しかし,これらの症状は,それ単独ではいずれも十分な 辮別力はもたなかった。他覚的診断においては辮別力のある主要な症状のなか に両価性と幻覚が入っていたものが,ロールシャッハ法など自覚的指標をとり 入れると思考のindexが増え両価性と幻覚が脱落したことは興味深い。しかし,
こうした症状の検討には知能の要因を無視することはできない。デュディック
(Dudek, S. Z,1969)は54人の急性期分裂病患者(年令16歳から50歳,平均入 院期間55日,48%の患者は退院時最終診断がパラノイド精神分裂病であった。)
と年令,教育,IQを一致させた神経症患者57名,に対してWAIS,ロールシャッ ハ法,他精神分裂病の思考障害に感受性のあるテスト6種を実施した。このう ちIQは二群を一致させてあるので有意差はなく,概念間の差を問う基本的差 異テストも有意差はなかった。ロールシャッハ法では病理的推理(Po,DW,
Peculiar,)が0.1%水準で有意であり,固執も色彩反応の合計もそれぞれ有意 であった。しかし,被検者をIQによって90−lo9,110−119,120−140の3群に 分けて検討すると,IQの高い群では両群問に6種のテストで差はなく,ロー ルシャッハ法の病理的推理はIQの高い群において一層明確に精神分裂病群を 特徴づけた。知能の問題は経過の2時点での比較,長期の治療効果の評価では 重要な問題となる。コールマンージョスら(Kohlmann−Joss,M.,&Kohlman,
Th.,1985)はE. Kraepelin(1917)のdimentia praecoxと同じ展望のもとにあ る独自の機能的精神病的心の偏椅という概念を意識して,225名の精神分裂病 者について心理テストを実施した。その結果Ssの学校における以前の達成に くらべて検査実施当時の達成の低下がIQだけでなくロールシャッハ法におい ても明らかとなった。この傾向は精神分裂病者の年令を17−26歳,27歳一36歳,
37歳一46歳,46歳以上と分けた各下位群でも同様に見られたが,知能の欠損が
年令に比例して大きくなるという傾向は必ずしも明瞭ではなかった。
セントガレン(St.Gallen,A. B.,1975)は上記の報告とは異なり,精神分裂 病に特有な反応を記述した。これは同時多重反応又は単に多重反応と訳される べき反応(die Simultan−Antworten)で,これは,異なる反応が重さなって,
同時かほぼ同時に発生し,相互にさまたげることなく図版の上に見えるという 反応である。セントガレンは精神科入院患者127人のうち10人が合計llのこの 種の反応(SA)を与えたとしている。このうち6人は精神分裂病,1人はパ
ラノイア,3人は精神分裂病の疑いのある患者であった。132人の統制群には SAはなかった。したがってSAがあれば精神分裂病と考えてよいというのがこ の研究者の考えである。筆者の経験によれば,SAの出現率は精神分裂病の患 者群においてもセントガレンが記載した率よりははるかに小さいと言える。た だし,これはセントガレンと筆者の患者群の属性の相違によるのかもしれない。
2)疾病分類学的関心による接近
(1)過程対反応精神分裂病の鑑別
精神分裂病の研究のうち,その下位分類の研究では,まず,過程精神分裂病 と反応性精神分裂病の鑑別の研究をあげることができる。ファブレガら(Fab rega, H. Jr.,&Swartz,J. D.1968)はRorschach法の別法であるホルツマン 法(Holtzman Inkblot Technique)の簡略版を最近入院した57名の精神分裂 病者に集団で実施した。その結果を用いて遺伝水準スコアが算出された。この スコアの最高の者21名と最低の者21名を選び,この二群について,人格構造の 程度,背景の社会学的特徴,最近の病棟行動と適応,精神科医の臨床的評価が 個別に測定された。その結果2群はこれら変数において有意に異なっていた。
この遺伝水準の相違はprocess−reactive構成概念に類似または関連するように 見えた。カーター(Carter,R. E.1970)は60名の男性の入院中の精神分裂病 者をまずPhilips Premorbid History Scale(Philips, L,1953)を用いてpro一 cθssかreactiveかに分類した。次に現時点での入院歴にもとついて4群に分け た。すなわち,初期反応性,陳旧反応性,初期プロセス,陳旧プロセスである。
すべての被検者にロールシャッハ法と思考障害および籠居についての評定とを
実施した。統制群は15名の非精神分裂病精神科患者とした。評定の結果は反応
性とプロセス精神分裂病を区別しなかった。しかし,初期プロセス群は陣旧反
応性群に比し評定結果が悪かった。ロールシャッハ法でも反応性とプロセスと
の差はほとんどなかった。正常群との問ではプロセス2群がDWが1以上の規
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 7
準で5%水準の有意差があった。フランク (Frank, G.,1980)は過程精神分 裂病の方が反応精神分裂病よりも,ロールシャッハ法上重篤な認知的精神病理
を示したとしている。
(2)境界線例
精神分裂病研究の次なる関心は境界線人格の同定である。シンガーら(Sin一 ger,M. T.,&Larson,D. G.,1981)は,境界線人格者は「WAISのような高度に 構造化されたテスト事態では通常の推理と伝達を示すが,ロールシャッハ・テ ストのような,ほとんど構造のない投影法ではまばゆいばかりの逸脱した推理 と連合の過程を証明する。」という指摘(Singer,M. T.1977, Gunderson, J.
G.,&Singer,M. T.,1975)をうけて,境界線症例に帰せられるある推論された ものではあるが思考と伝達の特徴の存在とその程度を明らかにしようと試みた。
被検者は境界線例,急性及び陳旧性分裂病,正常人,神経症者合計il4名(全 標本平均年令19.9歳)である。この被検者に対してロールシャッハ法を実施し,
その反応を,発達水準得点を評価するベッカーの項目20項目(Becker,W. C.
1956)に10項目を加えた項目群によって評価した。この30項目の素点を用いた 単一変量分散分析は5群が有意に区別されることを示した。次に,境界線例と 急性分裂病,境界線と陳旧性分裂病,急性と陳旧性の分裂病との間で有意差の ある項目を検討し,W+%, Do%, Wa%, DW%, FaC%, Per%, R+%,
H%,Beckerの項目の頻度×Weight/R,統合指数,個々のカードに対する 反応の質の衰退の反映である指標(DDWC)が上記3群を有効に区別するこ
とが分った。境界線例と急性分裂病とを有効に区別する指標は上記からPer%
(Rept反応合計×100/R),R+%,統合指数を省いたものであった。結局,
境界線例のロールシャッハ法上の特質は,作話的統合反応(FaC)を産出する ということと,各カードで反応の質が減退しやすいということであり,これは つまり,発達段階の低い思考があるという思考障害と,述べられる連合が流動 的であるということであるとされた。
エンも,ワトキンスらのデルタ値を用いて正常者100名(平均24.1歳),神 経症100名(平均24.6歳),境界線例100名(平均21.3歳)精神分裂病100名
(平均24.5歳),のロールシャッハ反応を採点し,有意ではなかったが,境界 線例群では全体的にみて精神分裂病群より高い作話反応の得点を得たことを報 告した。 (Yen, Ysh,1983)
マウラー(Maurer,G. M.,1987)は,境界線例をロールシャッハ法とWAIS一
Rを用いて研究した。この場合の指標も言語化された思考過程の逸脱であり,
その評価にはジョンストンとホルツマンの思考障害指標(TDI) (Johnston,
M.H.,&Holtzman,P. S.1979)が用いられた。これもつパポートらの構想を
受けているもの(Rapaport,D.,1946, Watkins, J. G.,&Stauffacher, J. C.,1952.)であるが,大きな特長は,同じ評価法を構造のないロールシャッハ法と 構造のある知能検査であるWAIS−Rの両方に適用できるという点である。こ のようにして,ロールシャッハ法とWAIS−Rを精神科以外の医学的疾患を有 する正常者(平均年令55.8歳)境界線例(同35。5歳)精神分裂病者(同$5.3歳)
それぞれ20名の被検者群に実施し,評定した。診断基準はDSM一皿, SADS,
MMPI−Rなどである。その結果,正常者はWAIS−RにおいてはTDIは8.51,
精神分裂病者は10.68であったが,境界線例は6.86で最少であった。しかし,
ロールシャッハ法においては正常者25.5,精神分裂病者38.3であったのに対し て境界線例では41.1と最大であった。構造・非構i造の主効果をANOVAで検定 したところ,0.Ol%水準で有意であった。また,群問差(1%水準)も群と主 効果の交互作用(2%水準)も有意であった。
広義の精神分析学的見地から精神分裂病およびその近縁の疾患の発生と病理 を考察すると,対象関係の混乱,自我境界の未成熟および障害,原始的防衛機 制の優越,防衛機制の退行,偏衙,といった問題が浮上する。こうした見地か
らの境界線例研究も多い。若干を例示すれば,次のような研究がある。
ラーナーら(Lerner,H. D.,&St.Peter,Sh.,1984)は発達理論と自我理論の 立場からロールシャッハ反応において対象関係を検討したブラットら(Blatt,
S.J.,Breneis, C. B.,Schimek, J. G.,&Glick,M.,1976)の研究をうけて,特
に境界線例について対象関係を探索した。被検者は神経症者15人,通院境界線 例15人,入院境界線例21人,入院精神分裂病者19人で,ロールシャッハ反応の うち人間(全体,部分)反応について,分化度,精緻化度,統合度について評 定し,その結果をそれぞれ知覚の正確さ(F+)と不正確さ(F−)一これは 現実吟味の指標一とについて分析した。この結果は精神分裂病者が他の三群よ
り有意に少ない正確な反応を与え,また,現実の人間像をより低い発達段階に
おいて描いていることを示した。対象表象のこの損傷は精神分裂病者と境界線
例との耕別要因として有用であり,従来の臨床経験や研究結果とも一致するも
のである。しかしながら,全く予測しなかったことであるが,入院境界線例は
不正確な反応に関しては最も高い発達水準において分化,精緻化,統合を示し
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 9
た。そして一般に他の三群に比しこの三つのカテゴリーにおいて不正確な反応 をより多く与えた。以前の研究とはこの点で鋭い対立があり,こうした結果は 不正確な反応に関して発達水準が高いということが,精神病者の精神病理とは 反対に重篤な境界線例の典型であることを明らかにしている。そしてまた,対 象概念の発達における差異,現実吟味の質の差異,および,入院境界線例を通 院境界線例から区別する退行ポテンシャルの差異として境界線例を重篤さの連 続の上に位置づけて診断することを可能にしている。さらにラーナーら(Lθr一 ner,H.,Sugarman,A.,&Barbour, C. G.,1985)は境界障害尺度を構成してこの 問題を堀りさげることを試みた。境界障害尺度はロールシャッハ反応の従来か らの思考障害の分析法に境界表象の発達連続体を適用しようとするものである。
評価視点は6つあって,境界弛緩(作話的結合),内外の境界(作話傾向,作 話),自他境界(混肴傾向,作話統合系列,混肴,)である。このうち作話,
混肴傾向と混肴は群間で有意差が出ており,したがって,これら6項目の合成 尺度値も群間で有意差がでている。 (群の構成はLerner&St.Peterl984a,bと 同じ。)すなわち,重篤な境界線心理と病理は内外境界の維持の失敗として妥 当に概念化しうることを示すと同時に精神分裂病の場合には自己他者間の区別 の維持に欠陥を有することが示された。さらにこれらの各臨床群間の有意な発 達的差異はロールシャッハ法によって知りうることも示されたわけである。
一方,クーナティはロールシャッハ反応を分離一個性化のテーマで分析した。
(Coonerty,Sh.,1986)この分析法は対象関係の発達連続体のなかで,どの発 達段階のテーマが多くみられるかを人間反応についてしらべるものである。マー ラーらによって低い段階から,1.前分離一個性化期(内的反応,無境界反応)
2.分離一個性化期,初期分化(吸収反応,のみ込み反応,出生反応),実行 期:自己愛(自己愛的鏡視,ペア反応,全能反応,無意味な生きもの反応),
3.和解(別れて/一緒に来て一方又は両方が傷つく人物,別れて/一緒に来
て不決断又は押し一引く格闘をする人物,形が変る人物,感情が変る人物,巻
き込まれ,くっつき,離れられない人物)。この順に発達段階は高なる。被検
者は18歳から65歳までの各50名の境界線例群と精神分裂病群。結果の分散を検
定すると,前分離反応は精神分裂病で,分離反応は境界線例で有意に多いこと
が示された。また,自己愛と和解が境界線例で多かった。また,内的反応,無
境界反応,初期分化は相互に有意な関連があった。ウィルソンは,年令,性,1
Qを一致させた境界線例と精神分裂病者とを被検者として用いた。 (Wilson,
A.,1985)被検者は入院患者で,年令15ないし33歳,精神分裂病者29名,境界 線例26名,大うつ病26名であった。事後WAISでテストしたところ精神分裂病 群は他の二群より有意にIQが低かった。ロールシャッハ反応は(a)良性の作 話的結合(境界の一般的弛緩) (b)作話的, (c)作話傾向, (d)作話(この 三者は,内外の境界の漸進的弱さ) (e)悪性の作話的結合, (f)混肴(この二 者は自己他者境界の弱さ)の6個のカテゴリーで分類され,その頻度が求めら れる。その結果,境界線例は弛緩で有意に高い度数を示し,内外境界の弱さで も度数は多かった。精神分裂病群は自己他者境界の弱さで有意に多い度数を示 し,内外境界障害でもやや高い度数を示した。しかし,これは,思考障害を境 界の組織の評価に利用しているのであるが,評価の置き換えをせず,思考障害 のスコアも含めたロールシャッハスコアを変換せずにそのまま用いている研究
もある。 (Exner,J. E.,1986)
ひるがえって,ラーナーらは防衛機制の人格内布置(構造)の視点から境界 線例と精神分裂病の差異に接近を試みている。 (Lerner,H. D。 Sugarman,A.,
&Gaughran,J.,1981, Lerner,H. D.,&Lerner,P. M.,1982)彼らはまず,原始 的防衛である分裂Splitting,既価Devaluation,理想化Idealization,投影的同 一視Projective Identificationと否定Denialを査定するための規準を作った。
(Lerner,et al l981)被検者はRDC(Spitzer et al l978)によって選抜さ れた。これは境界線例には使用できないため,境界線例の選抜にはDSM一皿 を用いた。精神分裂病に比し境界線例は多くの防衛機制得点を得た。とくに否 定は約3倍となった。また投影的な同一視は精神分裂病ではスコアされなかっ た。分散を検定すると多くの比較で有意差が得られた。結局,境界線例と精神 分裂病とを分離するものは防衛の構造の安定性とそれに連合している対象関係 の質であるということになろう。ところが,数値の平均値をt検定すると有意 な比較は少数となった。 (Lerner&Lerner,1982)神経症者との比較では分裂 と投影的同一視が境界線例で多く(1%水準),最重度の貝乏価(0.2%),最 重度の否定(2%)も同様境界線例で多かった。精神分裂病との比較では,分 裂,投影的同一視は境界線例で多いが,既価,理想化,否定では重度のものの みが境界線例で有意に多いという結果となった。
スペアら(Spear, W. E.,&Lapidus,L. B.,1981, Spear, W.,&Hymowitz,P.
1982)は一般的心理的健康の尺度を正常,神経症,境界線,精神病で目盛り,
それに直交する尺度に構造的/認知的および意味的/情感的軸をあてて,この
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 11
4象限に劇的表現的,ヒステリー,ヒステリー/強迫行動,混乱した精神分裂 病。競争的/野心的,強迫観念,強迫観念/パラノイド,パラノイド精神分裂 病をそれぞれの座標に位置づけることを試みている。
(3)パラノイド分裂病と非パラノイド分裂病
この場合にも繰り返し症例報告がある。それらのなかにはかなり独創的なも のもある。たとえばヴァスは,パラノイアタイプの精神分裂病の特徴として次 の7個を墨げている。①反応欠如,②テストとテスターの批判,③感情調節の 欠如,④固執⑤人間運動反応の欠如,⑥間隙反応多産,⑦疑惑。これに,図 版中央の軸上に反応を与える傾向もあるという。 (Vaz, C. E.,1973)しかし ながら,やはり,非パラノイド精神分裂病者にくらべればパラノイド精神分裂 病者は人格の崩壊が目立たない,ないし,適応状態がよりよいという臨床経験
を語るものは多い。そこでハーダーら(Harder,D. W.,&Ritzler, B. A.,1979)
はロールシャッハ反応の形態水準を評定することによって「現実吟味」を評価 し,パラノイド精神分裂病者においては現実吟味がよいことを期待した。形態 水準の評定は従来の四つの体系を用いた。 (Becker,W. A.,1956, Bθck, S.
et al l961, Wilensky, H.,1959, Mayman,M.1966)嚴密な診断手続きによっ て,最終的には被験者は,(1)病前の良かったパラノイド精神分裂病9名,(2)病 前の悪かった同上14名,(3)病前の良かった非パラノイド精神分裂病11名,(4)病 前の悪かった同上15名,(5)病前の良かった情動精神病10名,(6)病前の悪かった 同上8名,(7)非精神病患者18名となった。診断次元は精神分裂病(非精神分裂 病),パラノイア(非パラノイア),病前適応(良vs不良)。ベックの体系で
は有意差はなかった。他の体系では非精神病と精神病とでは精神病者は有意に 乏しい現実吟味を示したが,精神分裂病とパラノイアの次元については何らの 差異も見出せなかった。フィリップスの病前適応尺度(Phillips,L,1953, Phi一 llips,L,&Framo, J.,1954)は,現実吟味の四尺度とすべて負に相関した。ロー ルシャッハ反応の現実吟味の尺度は精神病,低い病前適応とに連合していたが,
精神分裂病と非精神分裂病,パラノイド精神分裂病と非パラノイド精神分裂病 とを辮別しないと結論された。これにつづいてリツラーら(Ritzler, B.,Zam一 bianco, D.,Harder,D.,&Kasley,M.,1980)は精神病者67名,非精神病患者18 名のロールシャッハ反応にブラットら(Blatt, S. et al l976)による対象概 念採点体系を適用した。診断次元はまえの研究と同じ。精神病者は非精神病者
にくらべると不正確に知覚された反応(F−)に対象概念を人為的に加工して
統合するという傾向が強いことを示した。精神分裂病者はこの傾向を非精神分 裂病者よりも強く示した。病前適応の良否,精神分裂病のなかでパラノイドか 非パラノイドかという差異についてはロールシャッハ反応上では何ら重要な差 が見出せなかったことは前回同様であった。これらの結果は,精神病者は高水 準に統合され組織される行動には,存在する自我ポテンシャルを効果的に利用 できない:自我資源は効果的順応を促進するのではなく,それを妨害する非現 実的幻想と症状的行動に吸収されていると解釈された。
パラノイドについても対象関係の立場からの研究がある。ジョンソンら
(Johnson, D. R,&Quinlan, D. M.,1985)は正常者31名(平均年令18.8歳)
入院精神分裂病者のうち次の三群に指定できるものパラノイド18名(21.2歳),
非パラノイド16名(22.1歳),中間14名(21.9歳)について,役割演技をさせ る心理劇とロールシャッハ法によって境界の研究を行なった。役割テストにつ いては流動的境界と硬い境界を測定する尺度(Johnson. D.,&Quinlan, D.,
1980)を用いて役割演技中の個々の行動を評価する。ロールシャッハ反応につ いては,混肴,作話,作話的結合の頻度によって測定した。重みづけた頻度の 合計を損傷された境界得点とした。ロールシャッハ境界測度は作話的結合を除 いてすべて正常群と患者群の間に有意差があった。パラノイド群は非パラノイ
ド群に比し作話と混肴が少なかった。やはりロールシャッハ反応における流動 的境界は精神病理の測度となりうるものであり,非パラノイド精神分裂病で最
も頻度の高いものであった。
ロールプレイではパラノイド症状と境界の流動性は有意に負に相関した。非 パラノイド精神分裂病者では境界の流動性得点が最高になった。パラノイド精 神分裂病では境界の硬さ得点が最高になった。
ロールシャッハ反応とロールプレイの測度との相関は,正常者では無相関で あった。これはロールシャッハ反応の得点も低く,ロールプレイでも,流動性,
硬さともに低いからである。ロールプレイの流動性得点と硬さ得点の差得点は 作話とr=0。36,p<0.05;混肴とr=0.34, P<0.05;損傷された境界得点とr=
0.34,p<0.05。流動性得点は作話とr=0.32, p<0.05。硬さ得点は無相関。こ れらの結果は境界という構戒概念の併存的妥当性を示すものであろう。境界流 動性は二つの方法で確められたのであるから精神分裂病思考の安定した特徴と いえるかもしれない。
以上のような疾病分類学的研究は,研究対象とした患者の人口学的要因,お
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 13
よび疾患と治療の経過の要因に大きく左右される。この意味で疾患の急性時に パラノイドと非パラノイドの差異の研究を行なったラッァールらの研究結果は 興味のあるものである。この研究(Lazar, B. S.,&Harrow,M.,1985)は急性 の入院患者67名を検討した。パラノイド精神分裂病者33名,非パラノイド同34 名,入院歴0回又は1回,年令に差なく (22.3歳)学歴にも差がなかった(13 年),しかし性は,パラノイド精神分裂病では男性76%,非パラノイド同では 50%で有意差があった。用いたテストはGoldstein−Scheerer Object Sorting Test(1941), WAIS(1955),ロールシャッハ法である。ロールシャッハ反応 の得点化は,TDI(Johnston&Holtzman l979)(F−)(Exner,1974),一次 思考過程測度(Holt,1977),同性愛尺度(Wheeler,1949)によって行なった。
その結果は次のことを示唆した。認知退行はパラノイアであるか否かというこ とよりも,急性の心理学的障害により強く関連した。27名の追跡調果の結果か らは,急性の時期に社会化された欲求(攻撃を含む)が支配する思考が存在す る事例は退院後の適応がよりよい傾向がみられた。パラノイア精神分裂病では 急性期のあとは非パラノイア精神分裂病よりもよりよい認知機能を示した。古 典的精神分析学の仮説,同性愛葛藤の投影がパラノイア発生につながるとする 病因論は支持されなかった。しかし,同じWheelerの20項目のサインを用いて パラノイド精神分裂病者男子20名,非パラノイド精神分裂病者男子20名のロー ルシャッハ反応を分析した研究(Mujtaba, B.,&Mujtaba, V.,1985)は,パ ラノイド精神分裂病群の方が有意に多数のサインを示したと報告している。
ロートシュタインら(Lothstein, L. M.,&Roback,H.,1984)は性的倒錯の ために性同一性クリニックへ来訪した5名の女性(25歳から28歳)についてW AIS,ロールシャッハ法, MMPI,臨床的面接を施行しその結果を分析した。
この女性たちはすべて重い精神病理を有していた。3名は精神分裂病,1名は 精神分裂病的性格,もう1人は精神病的性格もしくは境界線性格と診断された。
彼女たちは性同一性の病理を発達させたことから,その病理が,精神分裂病ま たは境界線精神分裂病状態という結果を表出しているという仮説が提出された。
しかしながら性的倒錯の病理について,性的倒錯関連の家族や文化の力動を研 究する必要性が強調された。
最後に類破瓜病heboidphreniaについての10名の症例報告についてふれてお
く。この研究(Carraz,Y.,&Grosclaude,M.,1969)は類破瓜病のWAISとロー
ルシャッハ法,TAT上の特性を次のように記述している。 WAISによる知能水
準は高い。しばしばIQIooから128で,このことは精神分裂病の他の型にくら べて人格の乖離,精神衰弱がより少ないことを示している。ロールシャッハ法 では,他の精神分裂病の類型に見られるような知的損傷よりも感情の激動を統 制することに欠陥があることが明瞭に示されている。TATでは表層的にはよ
く適応している人格と見られるが,他者や社会関係の一般的理解に精神病質的 要素が認められる。しかし,どの症例でも明らかな精神分裂病,あるいは精神 病質の特徴は認められなかった。結局,類破瓜病の診断へためには,それぞれ のテスト結果が異質であることが有力な手掛りになるだろうと結論された。
(4)その他の疾患との比較研究
a.神経性食思不振症Anorexia Nervosa
神経性食思不振症(思春期やせ症)は精神分裂病にきわめて近い疾患とも言 われている。ロールシャッハ法上の両者の鑑別は一つの問題領域を形成する。
スモールら(Small, A.,et al,1982)は精神分裂病の女性患者(平均年令24.1 歳)18名と食思不振症患者(女性平均年令20.6歳)27名にWAISとロールシャッ ハ法を実施した。食思不振症患者は精神分裂病患者より高いIQを示した。ロー ルシャッハ反応は両群とも障害のある反応であった。しかし,指標は病理的思 考の存在を明示してはいなかった。食思不振症の特徴としては,陰影反応,無 色彩反応,全体反応が多い傾向を示し,反応組織力はより大きいことが示され た。また,愛情欲求と抑うつとに本人が気づいていることが示唆された。思考 過程の障害の傾向と抑うつおよび愛情欲求の感受性も含めて,食思不振症の精 神病理は境界線人格と共通した特徴を共有していることが示唆された。
ゲルフィら(Guelfi,J. D.,&Monier,C.,1983)はMMPIとロールシャッハ法 を用いて,食思不振症はうつ病よりは精神分裂病に近いと結論した。MMPIの 結果は,ヒステリー,恐怖症,強迫といった神経症的要素は,食思不振症には 稀であるという臨床的観察を支持した。一次的神経性食思不振症においては,
予後不良の予言指標は患者年令が20歳以下であるということと,無月経の持続,
体重減少量の大きさである。不安,抑うつ,病前性格特性は予後とは組織的関 係はない。MMPIのプロフィル,ロールシャッハ法上のスコアは患者間で差異 があり,食思不振症に予後の良否にかかわる下位分類が可能であることが示唆
された。
b.器質障害との鑑別
精神分裂病のロールシャッハ法上の特質の一つが思考障害の反映であるとす
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 15
れば,別の原因で思考障害を来している疾患群と精神分裂病とのロールシャッ ハ法上の異同を明らかにすることはまた大切である。これらのことに関しては,
Khersonsky,B. G.(1981), Nakamura,H.,et al(1983), de Mol, J., Vio一 lon,Aり&Bribaye, J,(1982), Parnas,J.,et al(1982), Jorge, F. D.&Mer一
cedes,A.(1976)らの報告がある。 Nakamuraは脳損傷群男性34女性10,精神 分裂病群男性32女性17の被検者のロールシャッハ反応を分析した。脳損傷群は 生産性より低く,心的活動はより抑止されており,視知覚はより困難であると 考えられた。しかし,脳損傷群と精神分裂病群は同じ思考過程を示した。脳損 傷群のうち後頭損傷群は精神分裂病群よりよりよい順応性を示した。それ以外 の脳損傷群は精神分裂病群よりより低い人格的順応性を示した。Piotrowski の器質サインは脳損傷群では勿論,精神分裂病群でも自我障害を有する患者の 場合には,普通にプラスと判断された。
ド モルは後外傷性精神分裂病(SPT, Schizophrenie post−traumatique)
6例を記述した。この場合には多様な精神分裂病的表出が観察された。その主 要なものは妄想,幻覚,パラノイドおよび神秘的考え,自閉,精神運動の不安 定,疲労である。SPTは一般に30歳以下の男性に発生する。発病と頭部外傷の 重篤さは無関係である。症例の1/3は側頭葉外傷を含んでいる。病歴とロー ルシャッハ法の結果によれば,前外傷人格障害が主要な発病予測因子である。
ホルへら(Jorge,et al 1976)はマリファナの長期濫用が著るしい抑うつ,不 安,統制不良,幻視,記憶障害,自己攻撃,およびその他の精神分裂病性特徴
を呈せしめることを記述した。使用された検査はWAIS,ロールシャッハ法な どである。
c.その他
精神科疾患と自殺の関連はさまざまな形で問題になるが,ここでは自殺者ま たは自殺企図者を同定する試みについて述べる。ドレイクら(Drake, A.&Ru一 snak,A. N.,1966)は精神分裂病者であって自殺を企図したもの14名,同非企 図者14名について特異な反応の有無を検討した。特にサポルスキ(Sapolsky,
A.,1963)が精神分裂病の入院患者の自殺念慮について判別能力があるとした ロールシャッハカード田のD6への反応を調べたが,両群を区別しなかった。
マラヴィヤ(Malaviya,P.,1973)は,精神分裂病の自殺者20名,同じく非自 殺者20名,統制群20名を,年令,性,教育期間,職業,社会経済地位,結婚,
宗教,発病後の期間,入院期間について一致させて選んだ。この三群について
ロールシャッハ法と行動観察が行なわれた。その結果,ロールシャッハ法のサ インは自殺群を効果的に辮別したと報告している。エクスナー(Exner, J. E.,
&Wylie, J.,1977)は自殺遂行者59名,自殺企図者31名について,自殺事件よ りまえ60日以内に実施されたロールシャッハ反応を集収した。このプロトコル を,うつ病入院患者50名,精神分裂病入院患者50名,非患者50名のプロトコル と比較した。その結果,自殺実行群の75%,企図群の45%を同定できる変数群 が発見されたが,これは統制3群においても低い頻度ながらみられるものであ る。また,自殺企図者について,自殺企図後5日以内に実施された33の症例の ロールシャッハ反応を,統制3群と比較したところ基本的差は何もないことが 明らかとなった。これは筆者の考えでは,自殺を実行しようとしたことによっ て自殺企図群の人格ことに動機の構造が変化したために起ったことと解される から,逆に,エクスナーらの発見した変数はむしろreasonableなものというこ
とになるだろう。
この他,心身症群と神経症,人格障害,精神分裂病とを対比して解剖反応が 心身症的混乱の直接の反映ではないとしたワグナーらの研究(Wagner,E. E.,
&Williams,L.1975)。腎臓病の治療薬の精神分裂病の症状に及す効果が話題
になったが,ハリプラサドら(Hariprasad,M.,&Nadler,1, M.,1981)の精神
分裂病者が尿毒症を併発し,数十週にわたる血液透析を受けた二つの症例につ いて,透析治療中の精神分裂病症状の改善をWAIS,ロールシャッハ法, MM PI,ベンダー・ゲシュタルト・テストによって評価したが,改善は認められな かったと報告した研究などがある。
2.ロールシャッハ法による精神分裂病の思考障害についての研究
思考の病態をロールシャッハ反応によって吟味しようという考えはロールシャ ッハ法を創始したRorschach, H.(1921)においてすでに提出されていると いうことができるが,精神分裂病の思考障害を現在のような形でロールシャッ ハ法上検討しようとする試みが本格化するのはラバポート(Rapaport, D.,
1946)をもって嗜矢とする。その病理については精神分析学的接近や認知理論 的研究があるが,ここではまず,ロールシャッハ反応上精神分裂病の思考の病 態がどのように同定されているか,およびどのようにして同定するのかという
ところから見て行きたい。つまり,思考障害をいかにして記述するのかという
問題である。この点ではいわゆるサイン研究の系列がある。これは思考障害を
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究につレ・て 17
有する精神分裂病に有意に多く出現する病態反応を確認する作業から始まる。
そしてこの確認はラバポート(1946など)に代行せしめ,確認された病態反応 のグループがどの程度精神分裂病(本来思考障害を内包するとして)またはそ の思考障害を代表するか(または相関するか),程度が異なる反応が複数あれ ば個々の反応に重みづけなどをほどこして,病態反応のグループすなわちサイ ンを同定する。以後はさまざまの条件で思考障害の把握にこのサインを用いて いく。このような流れの研究系列を認めることができる。この系列を思考障害 の計量的研究系列と仮りに名付けて以下にみていくこととする。
1) 計量的研究
ロールシャッハ反応上で思考障害を反映するとされる反応は,はたして精神
表1 症状,サイン出現率(数字は百分率)
精神分裂柄群 SCH2 兄弟 統制群 N=100 N=29 N=52 N=100
シーセンA 1項目以上
39.0 27.6 17.3 5.0
サイン1項B 目以上
47.0 48.3 36.5 5.0
AとBとで
P項目以上
60.0 58.6 46.2 9.0AとBとで
Q項目以上
38.0 48.3 19.2 2.0 Perse,J.(1985) による分裂病に特有か。パースらは,あらかじめ定めた病態的反応ないし言語表現が はたしてどう現前するか,精神分裂病者100名(男女各50名平均年令26.6歳)
非精神分裂病患者(男52名女48名平均年令35.9歳)=統制群,正常者(男女各 50名平均年令26.3歳)のプロトコルについて検討した。 (Perse, J.,&Massuy一 eau,Y。,1984)とりあげた病態反応又はサインは次の通り。シーセンの症状5 項目(Thiesen, J. W.,1952)プラス1項(F+%<69, K=0,FC+=0)病 態的サイン(位置又は数反応,混肴反応,色彩命名反応,分裂反応,自閉的論 理,平凡反応の独創化,象徴反応,非対称投影,自分自身の意味づけ,協力反 応,防害反応,作話的結合,以上12項目)18項目のうち正常者では7項目が各
1回だけ出現したにすぎなかったが精神分裂病者では全項目がすべて複数出現
しThiesen第4は21回,分裂反応は20回などとなった。統制群は正常者とほと
んど全く変らなかった。つまり,非精神分裂病患者群(MDI,神経症,精神 病的人格,その他各25名)では病態的反応は2%出現したにすぎなかった。彼
らはまた,産科的反応内容,病気・死,作話も精神分裂病を辮別するのに有効 であることを見た。パースはさらに患者の兄弟姉妹で社会的に良好に適応して いるものにロールシャッハ法を施し,その結果を分析した。 (Perse, J.1985)
前年とは別の精神分裂病患者群(Sch 2)28家族に属する29名,男14名女15名,
平均28歳,とその兄弟姉妹52名,これは31家族の男女で各21名と31名,平均30 歳についの結果を要約すると表1のようである。カイ2乗による検定の結果は,
精神分裂病群(前年の群)精神分裂病群SCH 2,精神分裂病者の兄弟,の3群 の間には症状・サインの出現率には有意差はなく,この三群と統制群(前年の 非精神病患者群)との間には四つの整理法それぞれによる数字すべてとの間で,
出現率に有意差があった。このことは上記の症状・サインは社会的に良好な適 応をしている事例でも,精神分裂病者の兄弟であれば精神分裂病者と同率で出 現する可能性があることを示すものである。
一方,パーシャドらは,精神分裂病思考障害のロールシャッハ法上代表的な 指標である作話反応,混肴反応,位置反応が,思考障害の鑑別診断にとっての 有効性を,インド人患者神経症100名,精神分裂病者100名,診断未定の患者 200名について,主にその出現率を手掛りに検討した。その結果,精神分裂病 では31%の者が作話反応を,8%のものが混肴反応を,4%のものが位置反応 を与えた。診断未定のものというのは診断困難のものというニュアンスがある がこの群では作話,20%,混肴,ll%,位置,6%という結果となった。パー スの研究と類似している面もあるが,この研究ではこの三つのサインが見られ ないということが,その事例の精神分裂病を否定することにはならないという 点が強調されている。このように,いわゆるサインは精神分裂病の思考障害と 蓋然的連合を有しているにすぎないようにみえる。そのため,ここでいう計量 的研究が必然的となる。
(1)ワイナーらの研究
ワイナーは診断が神経症,性格障害,精神病であるに応じて,障害の程度,
疾病の重篤さが,上の順に大となると考え,それと次の三つのサインを与える 傾向とが有意に連合することを見た。 (Weiner,1。 B.,196ユ)その三てのサイ
ンとは,(a)CFが1または2,(b)ΣCが1.5から3.0,(c)C 反応がなく,
CF又はCが少なくも1あること。の三つである。ワイナーは神経症,性格障害,
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 19
精神分裂病の3群において,各群とこのサインの連合が有意に異なることを見 た。つまり,この三つで精神分裂病を辮別する手掛りにできるとした。(WeL ner,1. B 1961)これをうけてランブレイは,神経症7名,性格障害20名,脳 損傷10名,精神分裂病22名の被検者によってワイナーのサインの妥当性を検討
した。有意な結果は得られなかったが,結果は有意に近いものではあった。
(Lambley, P.,1973)
ワイナーはまた精神分裂病と非精神分裂病を辮別するサインとして偏衙速度
(Deviant Tempo)を提案した。これは連想速度の異常な偏りを指標に用いよ うとするもので,次のどれか一つが満されると精神分裂病の可能性ありとされ るものである。 (a)カードIVよりVで, (b)カードVIよりVで, (c)カー ド〜屈よりIXで, (d)カードXよりIXで,それぞれ反応が多い。というもので ある。この追試は失敗した。 (Schwartz,M.,&Ewert, J. C.,1969)
ワイナーらは1,570名のロールシャッハ・プロトコルの規準値研究において,
青年と成人との対比においては,非患者青年は,非患者成人よりも有意に多く 障害された思考の信頼できる指標得点を示すことがわかった。 (Weiner, B.1.,
&Exner, J. E.,1978)
DV Deviant Verbalization
ゆがんだ用語法または明確な伝達をさまたげる個人的表現を特徴とす る反応
ALOG Autistic Logic
反応形成に用いられた恣意的なあるいは付随的な表現 INCOM Incongruous Combination
二つ以上のはなれたプロットの印象を単一のチグバグな認識に 圧縮すること。
FABCOM Fabulized Combination
二つのプロット部分間の不適切な関係を推論する反応。
CONTAM Contamination
単一のプロツト領域についての二つ以上の印象を現実に反す る認知に融合させること。
結果1.非患者青年は非患者成人に比しALOG, INCOM, FABOMが有意に多 い。DVは有意差なし。 CONTAMはどちらも0。
2.非患者青年は問題行動のある内閉的な係属した患者青年よりもDV,
FABCOMが有意に少ない。
3.DV, ALOG, INCOM, FABCOM, CONTAMは,非患者成人,通院 成人,入院精神分裂病成人の順で有意に多くなっている。
この結果は臨床的経験とも一致し,青年と成人におけるそれぞれの思考障害の 指標の生起についての標準値を用意している。まえにあげたPerseの結果など も,こうした標準値を精緻化することによって見直せるかもしれない。エクス
ナーはこの変数を27(Mason, B. J.,Cohen, J. B.,Exner, J. E.,Jr.,1985)
さらに46に増して,因子分析を施して検討している。 (Exnθr, J. E.,Jr.,1986)
(2)ピオトロウスキーのアルファ公式
アルファ公式はc (暗い明暗)ショックあり1点,F+%<70なら1点,
W頻度に応じ0から4点まで,ΣCの値で一2から3点,Σc一ΣCの値で0か ら4点までを与えその合計点が3未満なら神経症,3以上なら精神分裂病,M DI,器質性精神病のいずれかと診断するものである。当初ピオトロウスキー は,その適用範囲を年令16歳以上でW<7,Σc>ΣCという技法上の要請に 合致する患者としていた。彼によるとこの条件に合致する患者は精神分裂病な
らその三分の一で,年令が若ければもう少し増えるとのことである。この条件 を緩和して,二つのうちどちらか一つを満せばよいことにすると,診断の当り 率は94%から83%になったがそれでも1%水準で有意であった。(Piotrowski,
Z.A.,&Berg,D. A.,1955)ピオトロウスキーは,アルファはこのままでは精 神分裂病と神経症の鑑別には使用できない。補助手段が必要と考えていたが,
プラブは精神分裂病と神経症の区別に有効であることを見た。 (Prabhu,G.
G,,1970)また,エーデルらも,性的冷感症と知覚異常の群と正常群をアルファ が5%水準ないし2.5%水準で有意に辮別したと報告した。この場合にはピオ
トロウスキーの技法上の要請を全く無視してもアルファによって辮別できた。
(Edell, W. S.,&Chapman, L. J.,1979)性的冷感症と知覚異常は,ピオトロ ウスキーのいう心理神経症より重い精神病理を有する病気とロールシャッハ反 応上神経症に対して同じ位置であったということだろうか。
(3)デルタ指数
ラバポートは偏衙した言語化は病理学的,低格化された過程の有意な指標で あると述べた。 (Papaport,D.1945, vol H,p.331)この点に関して彼はプロッ
トからの距離という概念を用いたことはよく知られている。プロットからの距
離を喪失する場合も,距離の病理的増大の場合も,現実吟味機能の減弱である。
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 21
もし,偏衙した思考を客観的に評価できるならば,その背后にある障害をうけ た過程を評価できることになろう。そこでこの偏椅した思考の表現をもれなく 集めることが必要であるが,ワトキンスらはラバポートのカテゴリーのリスト をもってこれに当てた。そして15種類23項目の言語表現カテゴリーをきめ,こ れに0.25,0.5,1.0のウェイトを与えて,その合計を偏衙値Deviant(=delta)
Valueとした。 (Watkins, J. G.,&Stauffacher, J, C.,1952)この∠値はその 後精神分裂病思考障害の評価に広く用いられ,また思考障害評価に大きな影響
を与えた。ワトキンスらの研究によると,正常者25名,神経症25名,精神病25 名(これはすべて精神分裂病患者である。)について∠値を算出して,各被検 者の反応数に対する百分率をスコアとした。その中央値は,正常者1.6,神経 症者3.9,精神病者8。2で,正常者と神経症者,神経症者と精神病者は1%水準 の有意差で辮別された。 (ibid)
エンはデルタ値を臨床群に適用して妥当性を検討した。精神分裂病者100名
(平均24.5歳),境界線例100名(平均21.3歳),神経症者100名(平均24.6歳)
と正常者100名(平均24.1歳)についてデルタ値をしらべると,病理的思考を 有する被検者において高いデルタ得点を得た。偏椅言語化のユ5種類のタイプの なかで,作話は最も自閉的であり,精神分裂病的思考の最も明瞭な部分である と言える。自閉的論理,滅裂な思考,不条理な言語表現,荒廃色彩反応は精神 分裂病における非現実的,非統合的思考の質的に重要な指標といわねばならな い(頻度は小さい)。作話的結合反応,混肴反応,および混乱反応は,原著な ど以前の研究においては量的にも質的にも精神分裂病の病理的思考の信頼すべ き指標であることが確実であったにもかかわらず,エンらの被検者の場合には 稀にしか見出されなかった。正常群ではデルタ指標は何一つ見出されなかった。
(Yen, Y.S.1983)
ワトキンスらはラバポートの病理的言語表現に先験的に重みづけをして,結 果的に神経症者と正常者から精神分裂病者を分離することに成功した。しかし,
このような合計得点に対する個々の偏衙言語化カテゴリーの寄与率は不明のま
まである。これは構造化されている検査を含めて使用可能なジョンストンらの
TDIでも同じである。さらにラバポートらのリストからどのカテゴリーを選ぶ
かという問題も実は残っている。というのはカテゴリーは重複しているし,概
念は入り混っており,なかには矛盾した定義もある。つまり,経験的には有効
に使われてはいるけれどもロールシャッハ法上の思考障害についての構成概念
の性質はいまだに不明の点を残している。そこで,こうした問題に挑戦する試 みがいくつか見られるが,その一つであるシュルトバーグらの研究をみてみた
い。
彼らはラバポートのカテゴリーから19種類を選んだ。これはワトキンスらが 選んだ項目とは大部分一致しているものの一部にズレがある。19項目中2つは
ワトキンスらにおいては大きな一つの種類のなかに入っていたもので,あと4 項目はワトキンスらのリストにはないものである。つまり,ワトキンスらが用 いた15種類のカテゴリーのうち13種類は共通していることになる。この項目に おちる反応の頻度を求めた。記録はラバポートの記録をそのまま用いた。つま り,再分析したのである。個々人の頻度から各カテゴリーの間の連関の測度を 計算した。この数値は二つのカテゴリーの行動がどの被験者においても同じ頻 度で観察されたときがゼロになるような不確実性の指数である。この数値のマ
トリックスから最少空間分析が行なわれる。この進行は因子分析と類似してい る。この最少空間分析は被験者をこえて,言語化カテゴリーの共通発生の空間 表象を提供する。その結果偏椅言語化カテゴリーは二次元空間にプロットされ た。もちろん各個の被検者の最少空間次元得点も計算された。次元1と2はブ ロットからの距離について二つの局面を分離したと言える。次元1は意味の客 観的焦点と個人的焦点の尺度で,この次元の座標が低い(マイナス)ところに
は混乱反応がある。高いところには自我関与づけと首尾一貫していないことが 位置する。次元2はこの課題への被検者のとり組みが硬い態度で臨むか流動的 な態度でのぞむかということに関係している。この次元の低いつまり硬いとこ ろでの言語化は新しい観念を創造するために精神的構えをこわすことの困難性 を反映している。逆に高い端のカテゴリーは安定した作業にかかわる態度(構 え)の喪失を反映している。次元2の硬さの極には固執がある。これはカード にまたがる反応の反復である。同じ極の関係づけ言語化は別のカード又はカー
ドの別の部分に同じまたは関係するものを見るという報告である。硬さの次元 で少し流動性の極の方へ動いたところの座標にある位置反応は意味の創出に領 域位置の影響をうけるものである。ほぼ同じ座標で,直交する客観的意味と主 観的意味の軸について主観的意味の極の方へ少し寄ったところに位置づけられ る混肴反応は同じ領域位置についての別々の意味を結びつけたものである。次 元2の流動性の極のカテゴリーは情動的に負荷された過度に特殊な反応かプロッ
トとはほとんど関係のない不条理な反応からはじまる。次元1は,三次元分析
菊池:ロールシャッハ法による精神分裂病の症状と思考障害の同定に関する研究について 23
を行っても分解しないが,次元2は二つに分離した。新次元2は刺激に結びつ けられた言語化(固執,関係づけ)対恣意的に馳りたてられた幻想(不条理な,
作話的,作話的結合,作話,関連する観念)の軸に関係する。新次元3は,低 得点の端はプロットの過度に特殊で思い切った解釈に導く一極集中的反応,た
とえば,位置反応,作話反応,詞語新作である。高得点の端は拡散する反応の 二つのタイプで,被検者は所与の情報を越えて進み,作業構えは崩壊する。D Wのような反応とか連想連鎖の出発点としてプロットの部分を滅茶苦茶に使い,
第一の鎖の規制効果が失なわれてはじめの刺激からはるか彼方で終る反応,た とえば不条理な反応。混乱した反応では,および,関連づけ,自己関連づけ,
別のカードへの言及などでは,別の病理がある。すなわちロールシャッハカー ドに内在する固有のさまざまな概念水準を調和させること,とくにプロットの 現実的状態に関連する概念水準を調和させること,および個人のテーマとカー
ドに帰せられるテーマを調和させることが困難であるという病理である。(Schuld一
berg,D.,&Boster,J. Sり1985)