茨城大学教育学部紀要(教育科学)47号(1998)141−151
風景構成法の基礎的研究 一「構成」の視点から一
渡部加奈子*・相馬壽明**
(1997年10月13日受理)
AStudy of Landscape Montage Technique:Consideration of Constnlction
Kanako WATANABE*and Toshiaki SOuMA**
(Received Octob釘13,1997)
1問題および目的
風景構成法(以下,LMT)は,精神分裂病者への描画を介した治療的接近の可能性,適用性の追 求という極めて実践的な見地から,中井久夫によって1969年に創案され,1970年に報告された芸術 療法の1技法である。これまでに,診断と治療という2側面から様々な研究が行われ,それぞれの側 面でその有用性が明らかにされつつある。
本研究では,診断的側面に焦点を当てて検討するが,診断と治療は表裏一体であるので,診断的 側面について述べることは,すなわち治療的側面について述べることでもあると考える。
中井(1992)は,「風景構成法の診断的価値の最大なものは,端的に『できるかできないか』で
ある」と述べている。LMTで最初に提示されるアイテムは川であるが,このことについて山中
(1984)は,「この方法の眼目は,何と言っても『川』を最初に描くことにあるといっても良い」
と述べており,中井(1984)は,rr山』から始めると第1歩で構成があんまり決まり過ぎる」「川 を最初に持ってくるのは構成上の困難を設定するためである」(伊集院・中井,1988)と述べてい る。また,皆藤(1990)は,「川を最初に提示することで意図的に構成上の困難さを設定し,それ に対する描き手の処理の在り方に描き手の自我の強さを見て取ろうとしたのではないかと推測され る」と述べている。これらのことは,LMTの診断の最大の着眼点が「構成」であることを示してい る。従って,できあがった風景の「構成」やアイテムの提示順序はLMTの診断的側面を考える上で 最も基本的かつ重要な事柄であると言える。しかし,先行研究でこの点を取り上げて研究している
ものは,皆藤(1990)の「風景構成法の基礎的研究一アイテムの提示順序について」のみである。
ただし,この研究においても,川が最初に提示されることの意味と,川の統合が構成に与える影響 しか考察していない。そこで,本研究では,皆藤(1990)の設定した条件を再検討し(通常のLMT
*茨城大学大学院教育学研究科障害児教育専攻(〒310−8512茨城県水戸市文京2丁目1−1).
**?髑蜉w教育学部障害児教育講座(〒310−8512茨城県水戸市文京2丁目1−1).
[N型]と,アイテム自由選択のLMT[F型]を設定し,その描画表現や, F型のアイテム選択の順序か らLMTのアイテム提示順序の意味を探る),1. N型とF型の描画の比較からN型のアイテム提示方 法について,2.F型のアイテム選択順序からN型のアイテム提示順序について,3.構成の可否の基 準からできあがった風景の構成を見ることの意味について順に考察していき,LMTの診断と治療の 意味について考察することを目的とする。
Il方 法
1.被験者
19歳〜47歳までの大学生および大学院生50名(男28名,女22名)
2.検査期間および場所
(1)検査期間:平成8年9月22日〜平成8年11月9日
(2)検査場所:茨城大学治療教室および茨城大学障害児教育専攻会室
3.検査用具
A4版の用紙,サインペン(黒),色鉛筆
4.手続き
(1)教示
通常施行(N型)とアイテム自由選択(F型)による施行の2つの方法で被験者全員にLMTを施 行した。通常のLMTの構成を見るために,施行順序はN型→F型の順で行った。
N型の教示:「今から風景を描いてもらいます。作品の上手下手を見るわけではありませんので,
自分の思うように描いて下さい。今から描いてもらう物を10個言います。その順番に描いていき風 景となるようにして下さい」と教示し,実験者がA4版の用紙に枠を取り,被験者の前に提示し,サ インペンを渡す。そして,「川,山,田,道,家,木,人,花,動物,石」の順に描いてもらい,
最後に「何か足りないと思うものがあれば描き加えて,風景を仕上げて下さい」と教示する。描画 後,色鉛筆で彩色してもらう。
、
ハ色後,その絵を見ながら幾つかの質問に答えてもらった。 第1表提示カード F型の教示:カードを提示しながら「ここに書かれているアイ
テムを全て使って風景を描いて下さい,描く順番は自由です。rそ 石 人 道 川 の他』については何もなければ描かなくても結構です」と教示す
る。提示カードは第1表の通りである。 その他 花 家 山
描画後,色鉛筆で彩色してもらう。彩色後,その絵を見ながら幾
つかの質問に答えてもらった。
動物 木 田
(2)質問事項
質問はすべて口頭で行い実験者が記録した。
共通(N型・F型)の質問:風景の季節,時間,天気。特定の場所をイメージしたかどうか。
N型施行終了時の質問:描きにくかった点。その人の持つ『風景』のイメージ。
F型施行終了時の質問:なぜ「・・」から描いたのか。構成配置について前回よりも描きやすかっ
渡部・相馬:風景構成法の基礎的研究 143
た点,描きにくかった点。前回の絵を覚えているかどうか。
被験者の描画後の自由な感想を聴取するため,誘導的にならないよう質問した。
5.結果の分析方法
(1)描画表現および描画時間:N型とF型を比較しλ12検定を行った。
(2)質問内容:共通の質問については,N型とF型を比較しκ2検定を行った。 N型施行終了時 の質問,F型施行終了時の質問についてはその回答を幾つかのカテゴリーにわけ
て分析。
(3)F型アイテム選択順序:アイテム選択順序,最初に選択したアイテムの理由,各アイテムの 次に選択されたアイテム,アイテムの関連性について分析。
(4)評定結果:評定者による評定結果および評定基準の分析。
評定者,評定の際の教示は以下の通りである。
〈評定者〉
人数:12名(男7名,女5名)
年齢範囲:20〜48歳(平均年齢27歳)
評定者12名は,LMTの基礎的な知識のある者5名,美術知識のある者4名,一・
般3名である。
教示:「これから同じ人に『風景を描いて下さい』といって描いてもらった2枚 の絵を見せます。どちらが風景として構成されているかを選んで下さい。絵は全 部で50組あります。全て選び終ったらそれぞれの絵について選択した理由をお聞 きします」と教示し,評定用紙を渡す。評定終了後それぞれの作品の選択基準お よび,50組全体の選択基準について説明してもらった。
lll結 果
1.N型とF型の比較
第2表は,川と道との関係についての結果である。κ2検定の結果,有意な差は見られなかった。
第3表は,橋の有無についての結果である。κ2検定の結果,有意な差は見られなかった。
第4表は,付加物(その他)についての結果である。付加物はN型の方がより多く描いており,そ の内容も豊かであった。また,N型では付加物を描いているのにF型では描いていない者が38%,
N型では描いておらずF型では描いている者が10%,両描画で描いている者が34%,両描画で描い ていない者が18%であった。κ2検定の結果,.N型とF型の間に有意な差が見られた(p<.01)。
第5表は,同一被験者のN/F型の描画時間の比較結果である。N型の描画時間よりもF型の描画 時間の方が長かった者(N〈F)が1番多く54%であった。なお,N〈F, N>F, N=Fの間で,
κz検定を行ったところ,有意差が見られたため,CR検定を行った。その結果, N〈F, N=Fと,
N>F,N=Fの間では有意差は見られず, N<F, N>Fの間で有意差が見られた(p<.Ol)。ま た,N型の平均描画時間は8.8分, F型は10.12分であった。
第2表川と道との関係
単位:人数()内は%
N=50(100) F=50(100)
平行 16(32) 15(30)
交わる(橋) 15(30) 16(32)
道が川で途切れる 6(12) 4(8)
無関係 13(26) 15(30)
第3表橋の有無
単位:人数,()内は%
N=50(100) F=50(100)
有る 20(40) 20(40)
無い 30(60) 30(60)
第4表付加物の有無
単位:人数,()内は%
N=50(100) F=50(100)
有る 36(72) 22(44)
無い 14(28) 28(56)
第5表 描画時間の比較
単位:人数,()内は%
NくF 27(54)
N>F 7(14)
N=F 16(32)
(秒単位は切り捨てたため,1分以内の差はN=Fとして処理)
以上の表は,N型とF型の描画表現および,描画時間についての比較を示したものである。 N型 とF型共通の描画後の質問(風景の時間,季節,天気,特定の場所をイメージして描いたか)につい ては,どの質問にも有意差が見られず,特筆すべき点がないと判断したため結果は表示していない。
渡部・相馬:風景構成法の基礎的研究 145
2.F型のアイテム選択順序について
第6表は,F型描画の際にアイテムを選択した順序の結果である。アイテムの選択順序は,同じア イテムを2回以上描いた場合も最初に描いた順序をそのアイテムの選択順序とした。
この表から,F型のアイテム選択順序とN型のアイテム提示順序の関係を見ると, N型では,川・
山の順に提示されるのに対し,F型では山・川の順に選択された。道・木・家・花の選択順序は, N 型の提示順序とほぽ同じである。家はやや早く選択され,人はやや遅く選択された。また,田の選 択順序が遅かった。N型では,9・10番目に動物・石の順で提示されるが, F型では9・10番目に 石・動物の順で選択された。
第6表 F型アイテムの選択順序
単位:%
1
2 3 4 5 6 7 8 9 10川 22 30 18 10 2 4 4 0 6 4
山 44 26 8 2 6 4 4 2 2 2
田 2 2 16 16 22 22 4 6 4 6
道 6 16 26 20 12 6 4 4 2 4
家 16 6 8 26 26 4 8 2 0 4
木 4 10 10 10 10 36 8 10 2 0
人 0 4 2 2 6 14 28 8 18 18
花 4 2 4 8 8 2 16 38 16 2
動物 0 2 0 2 4 2 12 14 30 34
石 2 2 8 4 4 6 12 16 20 26
第7表は, F型描画で最初に選択したアイテムの理由である。「好きなものから描いた」 ,「意味 はない」,「このアイテムから描かなければならない気がした」などのように,個人的な回答も多 かった。その中でも,実験者がより一般的であると判断した回答について表に示した。
第7表 最初に選択したアイテムの選択理由
単位:人数()内は%
山 他のアイテムの配置が決めやすい 10(45.5)
22 山は不動なものなので,位置決定が簡単 8(36.4)
(44)
形態が簡単 2(9.1)山はその中に他のアイテムが描ける 1(4.5)
空と地を分割 1(4.5)
遠近感を出しやすい 1(4.5)
川 他のアイテムの配置が決めやすい 2(18.2)
ll 地平線(横)を描いたので次に川(縦) 2(18.2)
(22)
形態が簡単 1(9.1)(複数回答者あり,主観的回答は除く)
3.評定結果について
第8表は,描画50組(N/F型)について,どちらが構成されているかを12人の評定者が評定し た結果である。19作品がN型の方が構成されていると選択され,30作品がF型と選択された。評定 者の人数が同じだったものが1作品あった。
また,全員一致でより構成されていると評定されたのはN型1作品,F型4作品であった。10名 以上がN型の方が構成されていると評定したのは4作品,F型では13作品である。
第8表評定結果
単位:人数
作品NO N:F 1213
1:11
25 2:10 38 7:53:9 26 7:5 39
1:11
NO.1 3:9 14
1:11
27 2:10 40 8:42 8:4 15 4:8 28 0;12 41 3:9
3
1:11
16 5:7 29 9:3 42 11:14 9:3 17 4:8 30
1:11
43 3:95 5:7 18 9:3 31 10:2 44 0:12
6 12:0 19 6:6 32 7:5 45 2:10
7 3:9 20 3:9 33 8:4 46
1:11
8
1:ll
21 10:2 34 5:7 47 3:9 9 0:12 22 0:12 35 8:4 48 7:5 10 4:8 23 8:4 36 lll1 49 7:511 2:10 24 10:2 37
1:11
50 9:3第9表は, 評定終了後その評定基準について説明してもらった内容を,実験者が幾つかのカテゴ リーに分け記載したものである。評定基準は大まかに,「全体」と「細部」に分けられ,それぞれ 幾つかの下位カテゴリーに分けることができた。
この表から,どちらかというと風景全体を見て評定する傾向が強いといえる(評定基準「全体」
の回答数;21,「細部」の回答数;11)。
第9表評定基準
単位:人数()内は%
遠近感がある(消失点1点) 7(58.3)
全 全体の印象(明るい,動きがある) 4(33.3)
全体のまとまり(安定感) 4(33.3)
体 視点が定まっている(地平線の位置) 4(33.3)
空間に対する意識 2(16.7)
細 アイテムの関連1生・バランス 7(58.3)
川。道が途れていないか 3(25.0)
部 川の統合 1(8,3)
(複数回答者あり)
渡部・相馬:風景構成法の基礎的研究 147
IV 考 察
1.N型のアイテム提示方法について
皆藤(1990)の先行研究では,N型とF型の描画表現,とくに道のつながりを比較しrF型では,
道とつながる橋を描くものが多い」という結果を示している。そして,このことから,F型の方が
「空間が連続性を持つ」としている。本研究結果の第2,3表を見ると,N/F両型の川と道との関 係,橋の有無に違いが見られない。このことから,アイテムの提示方法の違いは描画空間に影響を 与えないように思われる。しかし,第8表の評定結果では,明らかにF型の方がより構成されている という結果が示されている。従って,川や道などの描画表現上のつながりが,直接空間のつながり
(連続性)になるとは言えない。そこで,直接の描画表現である川と道との関係,橋の有無で空間 のつながりを判断するのではなく,風景空間全体から見ると,評定結果が示すように,空間のつな がりを感じられる作品はF型(42作品)の方が,N型(34作品)よりも多かった。 F型ではアイテ ムが一斉提示されるため,描画後の内省で90%以上の者が提示されたアイテムを使用し,風景をイ メージしてから描いたというように,あらかじめ描き手の持っている心象風景と,提示されたアイ テムを組み合わせて風景のイメージを再構成する作業(以下,「イメージの再構成」)を行ってい る。よって,F型ではこの時点でイメージの中の風景空間がつながりを持ち,できあがった描画空間 からもそのつながり(連続性)が認められる。
ところが,アイテムが逐次提示されるN型では,アイテムが提示されるごとに「イメージの再構 成」を行わなければならない。そのため,イメージの自由な展開,適度な抑制がなければアイテム
ごとに「イメージの再構成」を行うことが困難となるであろう。つまり,内的イメージを描画空間 と対応させ,逐次提示されるアイテムごとに修正しながら描画するには,意識の関与が必要となり,
自我の強さが描画を成り立たせているといえる。
本研究の描画表現の比較結果で「イメージの再構成」が直接描画に現れているのは,不可物の有 無である。不可物とはN型描画では「何か足りないと思うものがあれば描き足して風景を仕上げて 下さい」という教示の後に描かれる物で,F型では提示カードの「その他」にあたる物である。この 不可物については,N型描画の際に描く者が有意に多かった。先にN型では,「イメージの再構成」
が逐次行われていると述べた。このことによって,10個のアイテムが全て提示された時点で,「イ メージの再構成」作業が完了せず,心象風景を描き切れないことや,再構成していく過程でイメー ジ空間と描画空間に差異が生じるといったことがおこりやすいといえる。そこで,それを修正する ために付加物が使用されるのではないだろうか。つまり,N型において付加物は「イメージの再構 成」の総括の意味を持ち,イメージ空間と描画空間の差異を修正し,描画空間にまとまりを与える 働きをするものであると考えられる。従って,N型では付加物を描かなければ風景を描き切ったと いう感が持ちにくく,多くの者が付加を必要とするのである。一方F型では,「イメージの再構成」
を描き始める前に完了させることができるため,与えられた10個のアイテムだけで風景を描き切る ことが可能である。そのため,付加物は描画の修正というよりも,装飾的意味を多く含み,必ずし も描き手が必要とする物ではないと思われる。
また,第5表より描画時間はF型(平均10.12分)の方が,N型(平均8.8分)よりも長い描き手 が多いことがわかった。描画後の内省で,rF型の方がしっかり構図を考えてから描いた」, rN型
は次々提示されるので早く描かなければいけない気がした」という回答が多かったことからも,N型 とF型では風景を描く際の「イメージの再構成」の在り方が異なることが推察される。
この様に,同じアイテムを使用しても,その提示の仕方が異なれば風景を描く際行う「イメージ の再構成」の在り方が違ってくることになり,その結果生じる風景空間も異なるのである。従って,
できあがった風景および,その描画過程から描き手の「イメージの再構成」力を見て取れることが,
アイテム逐次提示法の意味であると言える。
続いて,考察2では,F型のアイテム選択順序より, N型のアイテム提示順序がどのような意味を 持っているかを考察する。
2.N型のアイテム提示順序について
第6表より,川と山の逆転,田の選択順序の遅さを除けば,F型のアイテム選択順序は, N型のア イテム提示順序とほぽ類似していた。皆藤(1990)は,川と山の逆転以外のF型のアイテム選択順 序が,N型のアイテム提示順序とほぽ同じであったことから,川と山以外のN型のアイテム提示順 序を「風景を描くときの心の動きに沿ったもの」と述べている。この表現は端的に川と山以外の提 示順序の妥当性を示していると思われる。よって,ここでは川と山の逆転,田の選択順序の遅さに ついてのみ考察を行う。
まず山を最初に描くことについて述べる。中井(1984)は,rr山』から始めると,構成が第1 歩であんまり決まり過ぎる」さらに「『山』を描くことは同時にr空』を決めるということ,r地 平線の高さ』『空との比率』を決めているということである」(1992)と述べている。つまり山を 最初に描くと衛藤(1985)のいう「世界図式」がほぼ決まってしまうということである。「イメー ジの再構成」という点から考えると,山を最初に描くことは,F型同様,描かれる風景を決め過ぎて しまうという点で,「イメージの再構成」が簡単かっ,安易になり過ぎると思われる。このことは,
第7表の,山から描き始めた理由として「他のアイテムの配置が決めやすい」という回答が多かった ことからも窺える。つまり,山を最初に描くことでイメージが固定してしまうのである。逆に考え ると,アイテムを自由に選択できるF型描画の際描き手は10個のアイテムの中で風景の土台とな るものを描くことによって安定感を持ち,定まったイメージのもとで安心して風景を描きたいと考 え,山を最初に選択したものと考えられる。
発案者中井(1992)が,川を最初に描くことについて,「すべての方法は多くのr意地悪』が含 まれているものだが,『川』を天から流してしまった場合には山の処理に困ることになる。整合性 への指向の強さと優先性とがここで試される」と述べているように,N型描画において「これから 風景を描いてもらいます」という教示のときにできあがった風景イメージが,「川を描いて下さい」
と提示することによって揺らぐことが予想される。この揺らぎを10個のアイテムで再構成していく 描画過程から,自我の強さや,中井のいう整合性への指向の強さ優先性を見て取るためにも,川か
ら提示する必要がある。
次に,田の順序が遅くなることについて考察する。中井(1992)は,田を空間の奥行きを決める ものと考えている。奥行きは遠近感と関係する。田を線で区画して描くものが多いことから,田で 空間の奥行きを決めるには線遠近法を使用しなければならないと思われる。ところが,日本人は古 くから(浮世絵などに見られるように),遠くのものは小さく描き,近くのものは大きく描くとい
渡部・相馬:風景構成法の基礎的研究 14g
うような物の大きさの変化で遠近感を出してきた。現在の美術教育でも,この方法で遠近感をつけ ることを教えているようである。確かに,F型のようにアイテムが一斉提示される場合は,あらかじ めイメージした風景の中に奥行きが備わっているために,得意とする幾つかのアイテムを用い,大 きさに変化をつけ奥行きを出すやり方の方が描きやすいのかもしれない。しかし,N型のように逐 次提示され,「イメージの再構成」が行われる過程で描画をする場合には,多くのアイテムを使い それらのアイテムの大きさで奥行きを決めることは,その度に奥行きのイメージも再構成しなけれ ばならず,難しくなる。早くから田を用い画面に奥行きを与えておく方が,後のアイテムも描きや すいのである。N型では,川で風景イメージが揺らぐため,それを再構成するために多くのエネル ギーが必要となる。そこで,田を早めに提示し,揺らいだイメージを順序よく再構成していく必要 がある。このように考えると,川を最初に提示することがいかに風景イメージに影響を与えている かがわかる。前述したように,川をどの様に描画過程で統合するかから,整合性への指向の強さ優 先性,さらには「イメージの再構成」力を見ることができる。このことが,N型で川から提示し,
後のアイテムは「イメージの再構成」がなされやすいように提示されることの意味であると考える。
考察1,2でN型のアイテム提示方法や提示順序自体,つまり描いていく過程が意味を持っている と考えられた。そこで,考察3では評定者の内省による評定基準より,N型のようなアイテムの提示 法や順序で描かれた風景をみる基準にはどの様なものがあるか,また,描画過程に加え,できあが
った風景の構成を見る意味について考察する。
3.評定結果について
まず,先行研究でいわれているLMTの「構成ができる」という基準についてみてみる。皆藤
(1990)は,川が風景に統合されているかどうかを基準にしている。また,高石(1988)は,視点 が1点に定まっているかどうかを基準にしており,構成の最も高い段階を「完全統合段階」とし,
rlつの視点から,現実にr見える風景』そのままを描き出すこと」がその条件とされている。
第9表より,本研究での評定基準は,大きく分けて「全体」と「細部(アイテム)」に分けられ る。「全体」の基準は,視点が定まっていること,遠近法が使用され,その消失点が定まっている こと,全体的な印象(安定感,統一感),空間に対する意識である。 「細部(アイテム)」の基準 は,川の統合,道や川が途切れていないこと,アイテムとアイテムのつながり(関連性),アイテ ム間のバランス(大きさ,活動性)が挙げられている。前述した皆藤と高石の基準である「川の統 合」と「視点」も今回の評定基準に含まれており,LMTを「構成」という視点から見るときに重要 な基準であると思われる。しかし,これらについてはすでに先行研究で考察されているので,ここ では本研究の評定基準の結果の中から,特に「空間に対する意識」,「アイテムの関連性」という 2つの基準のみを取り上げて考察する。
まず,空間に対する意識とは,近景・中景・遠景・空などの空間がそれぞれの空間としてとらえ られているということである。例えば,地平線の位置よりも上方に描かれている木は空の空間には み出していることになり,空としての空間が意識されていないことを示す。LMTは,枠づけされた 空間を川で分割することから始まるが,このときすでに空と地の空間に対する意識がなされていな
ければ後のアイテムの配置が困難になってくる。このような空間的視点について皆藤(1996)の rLMTの実践読取り」を参照すると,遠景群はアイテムその物の視点に加えて空間的視点を持って
いる。まず川は,空間に安定感または不安定感をもたらすものである。山は画面に描かれる初めて の垂直線としての意味を持つ,田は構成を整える又は乱すものであり,道は構成をまとめる又は乱 す又は展開させるものである。これら遠景群で空間を定位し安定させ,それに中景群と近景群をバ ランスよく配置させることが,「空間に対する意識」を持っているかどうかということである。「イ メージを再構成」し,川を統合していく過程のなかで,常にこの「空間に対する意識」を持ってい なければ,できあがった風景はまとまりを欠き,構成が成されていないものと判断されるのである。
つまり,N型において,できあがった空間が風景のそれぞれの空間(空や地,近景や遠景など)と して,しっかり意識されているかを見ることも,川の統合や視点が定まっていることと同じく診断 の基準になり得るのである。
同様に「アイテムの関連性」も「イメージの再構成」の過程でしっかりと意識されなければなら ないものである。N型のアイテムの中に田・道・人・家がある以上,構成された風景は生活空間を 含んだものとなるであろう。道のない所に描かれた家や人,家の回りに描かれた動物(ペットや家 畜)がその人の内的な生活空間,つまり内的な生活力を表現しているとも考えられる。よって,そ れそれのアイテムが有機的なつながりを持って配置されているかどうかが,描き手の内的生活力を 診断する基準となるのである。また,中井(1992)が,特に近景群についてrr手暗がり』r灯台
もと暗し』というように,一中略一r暗い空間』になる危険を秘めている」と述べているように,
小さなアイテムも空間のまとまりを乱す危険性をはらんでいる。言い換えれば,N型においては最 後の「その他」を描き,風景を完成させるまで気を抜くことができないのである。このことも「ア
イテムの関連性」から,「イメージの再構成」力,また整合性への指向の強さと優先性(中井,
1992)を見て取ることができることを示している。
以上のことから,描画過程同様できあがった風景の構成を見ることが重要であると考える。
lV.まとめ
考察1〜3で述べてきたN型とは,LMTの通常施行型であるため,まとめとしては, LMTが実際 の臨床場面でどの様な意味を持つかを付け加える。
今まで述べてきたように,LMTはその提示方法と提示順序に意味を持ち,風景を構成する過程,
及びできあがった風景を見ることにより,描き手の内的世界を探ることのできる技法である。
本実験では,N型においても実際の臨床場面とは異なり,セラピストークライエント間の関係性 は描画に現れることはなかった。しかし,臨床場面では,この関係性もまた,風景描画に影響を及 ぼすと考えられる。いわば,セラピストとクライエント双方が,「イメージの再構成」を行い,風 景が生まれるのである。この空間は上述したように,我々の内的な生活空間および,生活力(生き る力)を表現するものである。臨床場面でLMTを描く者は,何らかの原因により生活力が低下して いたり,持てる力を発揮できなかったり,生活力に歪みが生じている。これらをセラピストとの関 係の中でより良い方向へ転換していくことが,クライエントとセラピストの仕事である。その過程 の中で描かれる風景が次第に「生きる空間」として機能してゆき,それを描画から読み取れること がLMTの診断かつ治療の意味なのである。
渡部・相馬:風景構成法の基礎的研究 151
引用文献
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『教育学論集』16,1−12.
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271.
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高石恭子.198&「風景構成法から見た前青年期の心理的特徴について」r臨床心理事例研究』15,242−24&
山中康裕.1984.「風景構成法事始め」『中井久夫著作集別巻H.NAKAl風景構成法』 (岩崎学術出版),1−36、