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会計機能の拡張と実現概念の後退
辻 山 栄 子
目 次 にはむしろ旧来の実現概念に収束すると同時に,
1 はじめに この拡張された実現概念に置き替わる用語とし H AAA1957年版会計基準にお・ける実現概念の拡張 て,「認識(recognition)」という用語が今日一・般 皿・AAA1964年委員会報告における実現概念の後退 に使われるに至っている。我国においては,従来,
IV租税法における実現概念の拡張 このうち実現概念の拡張のみがことさらに強調さ V 結びにかえて れ,1960年代後半以降の実現概念の収束の事実は
必ずしも充分に認識されてこなかった。
ところで,このような,実現概念の拡張ならび1.はじめに に収束という事実は,単なる「実現」という用語
我国をはじめとし,現代制度会計上の利益計算 法上の問題ではなく,会計の基本的枠組みの変化 は,一般に取得原価主義ならびに実現主義を基軸 ないしは会計機能の拡張,会計目的の多様化とい とする発生主義会計という名で総称されている。 った間題と密接不可分に結びついている。本稿は,
この利益計算システムの詳細はここで改めて再述 以下で,会計における「実現」概念の変遷を,そ
するまでもないが,そこにおける取得原価主義と の拡張過程と収束過程の両局面から概観し,その 、 で
実現主義とは,通常,対をなすものとして論じら ような動きの背景にある会計の枠組みの変化ない 1 れ,この両者の結びつきの必然性に疑義を呈する しはそこにおける実現概念の位置づけの変化につ のはむしろタブー視されてきた。換言すれば,取 いて考察を加えようとするものである。
得原価主義に基づく利益計算は実現主義に基づか ねばならず,実現主義に基づく利益計算は取得原
@ H AAA 1957年版会計基準における実現価主義に基づかなければならないという認識が, 概念の拡張暗黙のうちに受け入れられてきたのである。
しかし,歴史的にみると,等しく発生主義会計 会計上,「実現」という用語が用いられたのは の中核を形作る実現主義と言っても,そこにおけ 古く前世紀にまで遡ることができるが,「実現」が る「実現」の概念が様々に変化を遂げてきている 利益計算上の要件として用いられるようになった のは周知の事実である。既に多くの文献が指摘し のは,少なくとも第1次大戦以降のことであり,
ているように,会計における実現の概念は,アメ これが会計上最初に公的に使用されたのは,1932 リカ会計学会(American Accounting Associa一 年のアメリカ会計士協会(American Institute
曽狽奄盾肢鼈ネ下AAAとする)の1957年改訂版会計基 of Accountants一以下AIAとする)「証券取 準『会社財務諸表の会計及び報告基準』(AAA〔19 引所特別委員会(the Special Committee on
57〕以下AAA1957年版会計基準あるいは単に「基 Co6peration with Stock Excbange of tbe Ame一
準」とする)を境として,その機能が大幅に拡張 rican Institute of Accountants)」の書簡においされたと言われる。しかし,そのような実現概念 てであったと言われる。また,会計にお・ける利益計算注1)
は,実は,1960年代後半以降再び後退し,概念的 上「実現」が収益認識の基本的要件となり,しかも
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これがいわゆる「分離」基準を意味するものと解 によれば,「実現とは……受取時に流動資産もしく されて用いられるに至るうえで重要な影響力をも は流動資産に即変換可能な資産とみなしうる資産 っていたものに,1913年の合衆国憲法修正16条な との交換」(p.354)とぎ『親そして第3にP、to.
らびにこれをうけて行なわれた1920年の著名な and Littleton〔1940〕によれば,実現概念は,
Eisner v・Macomber,252U・S・189を初めとする 「収益は商製品(product)を現金もしくは他の確いくつかの判例群があることは周知の事実であ蹴 かな資産と交換することによって実財る、(P.46)
ところで,会計上,租税判例の影響の下で定着 という脈絡で定義されていた。そこで,これら3 したと言われる古典的な実現概念は,先に触れた つの実現概念を「基準」における概念と対比させ 通り,AAA1957年版会計基準において重大な変化 てみると,いずれも交換に際して受取る資産の内 を遂げたことがしばしば指摘されている。そこで 容に関連付けて実現を捉えている点で共通点をも 本稿では,議論の性格上,「実現」についての古典 っていることが分る。すなわち,Gilmanは,「あ 的な解釈については直接立ち入らず必要に応じ る特定の場合」として「企業の製品の販売」という て触れることにし,ここではひとまずAAA1957年 ことを想定したうえで,実現の必須要件(element)
版会計基準を検討することから議論を始めること は当座資産の取得にあると言っていたし,Kohler にしよう。さて,AAA1957年版会計基準において は実現概念の適用範囲を企業の商品に限定せず,
は,「実現」について次のような見解がとられてい 広く収益の認識の一般基準としながら,その必須 た。すなわち,「実現の本質的な意義は,資産又は 条件としては,やはり流動資産等の取得を考えて
負債の変化が勘定(accounts)にお・ける認識を正 いた。また, Paton and Littletonは,「収益の当化する程十分に確実性と客観性とを備えるに至 認識」に実現概念の適用範囲を限定したうえで,
ったといラことである。このような認識(recog・ やはり現金等価物等の受領をその必須条件として nition)は独立した当事者間の交換取引,確立さ いたのである。
れた商慣行,あるいは実質的に確実だと考えられ したがって,AAA1957年版会計基準の実現概念 る契約履行条件に依存している。さらにこのよう は,まず第1に「実現」の内実をひとまず「勘定 な認識は銀行制度の安定度,商業上の契約の強制 における認識を正当化する程十分に明確で客観的
(執行)力,あるいは資産間の交換を促睡する高度 になる」としたうえで,その基準を満たすか否か に組織化された市場能力に依存している。」(p.3) の判断は社会経済的背景に依存するという見解 既に指摘したように,この見解は,従来の実現 をとることによって,取得資産の内容と実現とを 概念の適用範囲を拡大し,定義を抽象化したもの 結びつけて考える従来のアプローチから離脱した として一般に注目を浴びてきた。ここではこのこ 点で特徴的であった。第2に,その適用範囲を収 とを再確認するために,この「基準」の定義を出 益の認識に限定せず,負債の変化にまで拡張した 発点としてその具体的適用についての議論を展開 という意味で注目に値するものであった。そして
したWindalの『実現概念及びその会計における適 この拡張された実現概念においては,実現とは,
用・(Wi・d・1注1}959〕)に習し・・「基準・に先立つ もはや・所得や収益を「識・する時を決定する
次の3つの定義と対比させて,上述の定義の特徴 一種のフィルターの役割を果たすものを指す名称
を捉えておこう。すなわち,まずGilman〔1939〕 に過ぎず, Windal〔1959〕の表現を借りれば,実 によれば,「ある特定の場合,実現のテストは次の 現とは収益等の認識の「適時牲と適格性の審査装
ような問にあらわれる。『商品の譲渡は現金もしく 置(timing and screening device)」を指す抽は当座資産(換金可能資産)をもたらしたか。す 象的な概念であり,その内実規定については中立 なわち現金を得るために更なる販売手続(selling) 的な概念であったと言える。
を必要とするか」(p.102)とされ,第2にKohler〔1952ユ そこで,問われなければならないのは, AAA
辻 山:会計機能の拡張と実現概念の後退 29 1957年版会計基準が何故に実現についてこのよう (Committee on Concepts and Standards Un・
な抽象的・中立的定義を与えるに至ったかである。 derlying Corporate Financial Statements)」
そのことを考えるためには,「基準」から実現概念 が,AAA1948年版会計基準を追補する作業の一環 に関する定義を断片的に切り取るだけではなく, として1950年から1954年にかけて公表した一連の
「基準」の全体を貫く会計思考,そしてそうした 「補足的ステートメント(SupPlementary State一 会計思考を形成させるに至った社会経済的背景に ment)」第1号から第8号を分析的に検討するこ
立ち入った検討を加えなければならないであろう。 とによって,1957年版会計基準を形成するに至っ
しかし,この点については,「基準」が公表されて たAAAの意図を的確に掴みとろうとする作業を通 以来四半世紀を経ている今日,既に数多くの文 じて形成されたものと言ってよい。
注5)献においてほぼ統一的見解がとられているので, 本稿はAAA1957年版会計基準そのものにここで 本稿でも当面これらの見解を受け入れて差し支え 深く立ち入って検討を加える余裕を持たないが,
ないであろう。その見解とは,AAA19157年版会計 このような見解の的確性は,同「基準」の資産に 基準の意義に関する中島〔1959〕の次のような指 関する次のような定義に端的に示されていると言
摘に代表されるものである。すなわち,「(1)『序論』 えるであろう。すなわち,「資産とは,特定の会計において会計の役割が,これまでよりも,広い視 実体のなかで経営目的に貢献する経済資源のこと
野から反省されているという印象を受ける。(2)『企 である。資産とは,期待経営活動(expected oper・業の継続性』の基礎概念にお・いてゴーイング・コ ation>に利用可能な,あるいは資することのでき ンサーンが絶対的な前提とは限らないことが示唆 るサービス・ポテンシャルズ(service−poten・
されている。(3)『金額的測定』の限界,とくに価 tials)の総計である。ある種の資産の意義は,経 格変動との関係におけるその欠陥はかなり深刻な 営実体の目的と独特な関係で結びついており,し 問題としてとらえられており,「表示の基準」にお たがって企業の継続性を前提としている。資産 ける,補足的資料のための修正の考え方も非常に は多様な方法で取得されるものである。資産の形 積極的となっている。また,「資産」の金額的測定 態も多様である。さらに企業に対する有用性の程 についても,原価への信頼がかなり動揺している。 度と種類も異なっている。そのため,資産の認識,
(4)「実現」が同じく,かなり広い視野から概念規 分類,および測定のための指標(criteria)も多様
定されており,保守的な意味の実現主義とは異な である。」(p.3)要するに,この定義においては
る性格を持たしめられるようになっている。(以下 資産の本質がサービス・ポテンシャルズと定義さ
(5トー(9)省略一引用者)」(p.81) れたうえで,当該資産の認識,分類,測定につい
この見解を短言すれば,伝統的会計の枠組みが て取得原価以外の指標の存在可能性が暗示されて 擁してきた貨幣価値安定という概念が,とりわけ いるのである。なお,同基準の資産に関する見解
第2次大戦後急速にその現実牲を失ったことに伴 について,中島〔1959〕は先の引用に続いて次の
う,会計における資本利益計算の経済的現実性の ようなコメントを与えている。「(5)『資産』の評価喪失に対する克服策を提示しようとするAAAの見 についての考え方が従来の取得原価本位の費用配 解の一環として,AAA1957年会計基準を位置づけ 分的評価観から,予想現金収入割引額的資産観に
ようとするものである。それはまた,「基準」を, 変っている。」(P.81)
伝統的な取得原価主義への挑戦とみる立場でもあ さてしかし,このように拡張された実現概念を ろう。そしてこのような見解は,主として,AAA 用意した1957年版会計基準,ないしはこの「基準」
1957年版会計基準に先立つAAA1948年版会計基準 を出発点として,1959年当時の経済状況の下での 公表後,1949年に発足したAAAの「会社財務諸表 実現の具体的指標を提示したWindal〔1959〕にお・
の基礎にある諸概念及び諸基準に関する委員会 いて,直ちに取得原価基準からの離脱がはかられ
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ていたとみるのは無謀である。何故なら,Windal ば,発見,寄贈,発生ないしは価値の増価過程お・
〔1959〕においては,先のAAAの定義における客 よび(ある種の契約にもとつく)生産が新しい資 観性(oblective)と確実性(definite)の意義が, 産の認識を伴うことがあるかもしれない。全ての 各々,測定可能性(measurability)すなわち特定 場合において客観的測定の要件が満たされなけれ の場合における測定が十分に正確か否かと,恒久 ばならない。実現概念が資産増加の認識のための 性(permanence)すなわち取消せないものである 一般的基準を提供してくれる。」(p.4)
か否かという形で具体化され,これに一般的容認 要するに,「基準」においてもWindal〔1959〕に
(acceptability)すなわち他の人が同様の問題に おいても,概念としては限りなく無色透明な,
直面した時どのような結論に達するかを考える場 Windalの言葉を借りれば「時代背景に対し極めて
合の実務上の基礎という視点が加えられて,「収益 融通性の高い(flexible and adaptable)」装置をと所得」の実現のための指標(criteria)が次のよ 用意しながら,1957〜59年当時の経済的状況の下 うに示されていたのである。すなわち「(1)収益又 では,やはり完全にフローから解き放たれた解釈
注6)は所得の貨幣額が明確に決定されうるか合理的な を「実現」に付与することはできなかったのであ 正確さで見積りうる。(2)次の④〜④のうちの1つ る。ここで実現をフローとの結びつきで捉える解 が事実(true)である。④独立の外部の当事者間 釈とは,・企業における財及び用役が販売等の「取 との問で交換取引がなされ,かつ①現金又は現金 引」を通じて企業の外部へ流れ出る事象,したが 等価物が増量として受取られる。又は,②会計士 ってその見返りとしてその対価が確定している事 の判断によれば,取引の完了が実質的に確定して 象をもって実現とみる見方であり,実現をフロー いる。◎契約又は商的合意が結ばれ,その履行が に結びつけずに捉える見方とは,企業における財 実質的に確実だと思われる。◎企業がある債務か 及び用役の評価益をも,その測定可能性が保証さ
ら法的に免除された。④会計士の判断によれば, れる限りで実現とみる見方である。なお,実現を 資産の増加が取消されることは実質的にありえな フローと結びつけて捉える見方のうち狭義の解釈 い。」(p・96) は,単に企業の財及び用役が企業の外へ流出する
さらに,「基準」それ自体も,先に引用した資産 だけではなく,その見返りとして受け取った財及
の定義に続く項で,資産の認識について次のよう び用役の流動性に依拠して実現を捉える見方で に述べている。すなわち,「典型的には,経済実体 ある。に資産が原初的に出現するのは,交渉によって取 すなわちAAA1957年版会計基準のこの立場を別 引条件と金額が確定し,文書ならびに市場データ の視点からみれば,取得原価主義に対する挑戦が によって裏付けされた交換取引の結果としてであ あくまでも挑戦の域を出ることができなかったこ る。このことは,取引を明瞭で客観的なものにす とにも通じている。そしてこのことが,一般の諒
るのに役立ち,測定の要件は明確かっ直接的に 解とは裏腹に,1960年代以降の実現概念の後退 満たされる。資産は企業活動の領域(area)内で 一保守的実現主義の再来一の原因となってい形態を変えてゆく。.そしてそのサービス・ポテン ることをここで予め強調しておこう。
シャルズが変換するのに伴って,資産金額は再分 類される。この再分類は,資産総額の増価を意味
@ 皿 AAA1964年委員会報告における実現するものではないが,やはり客観的データに基づ 概念の後退いて行なわれなければならない。生産の事実が棚
卸資産への原価配分にあたっての基礎となる。 資 ところで,「実現」概念の変遷に関する一般的
産総額の増減は全て市場取引ないしはそれに準ず 見解に従えば,AAAの概念及び基準研究委員会るものによって確証されなければならない。例え (Concepts and Standards Research Study
辻 山:会計機能の拡張と実現概念の後退 31
亀
bommittee)一実現部会が1964年に公表した報 おいては未実現の価値変化の累積額は留保利益の 告書r実現概念』(AAA〔1965〕一以下AAA1964 部の独立の項目として示されるべきである。」
年報告あるいは単に「報告」とする。)において (P・312)という勧告が多数意見であった。
も,AAA1957年版会計基準における実現概念が基 さて,このような結論に到達するにあたり,委
本的に踏襲され,その拡大路線が堅持されていた 員会は実現にかかわる問題を,主として次の2つ注7>
と言われる。事実,同報告書自身がその冒頭で, のタイプの事象に分けて議論していた。それらの
「当委員会報告は1957年版会計基準における実現 うち第1の事象とは,ある会計実体と外部の独立
概念の実質的拡大と部分的修正を意図したもので した実体との間の財貨及びサービスの交換にかある」(P.312)と述べていることからみても,少 かわる「収益的取引」のことであり,第2の事
なくとも「報告」公表当時においては,同様の見 象とは,企業による保有期間における資源の価 解に対して疑義を呈する者は皆無であったと思わ 値の変化を表わす「保有利得及び損失」のことれるのである。 である。
しかし,同「報告」を今日的な視点から改めて そこで第1の「収益的取引」については,1964 仔細に検討してみると,会計の枠組みの中におけ 年当時の実務において認められている実現のテス る実現概念の位置づけが,この時から既に微妙な トを,「用役提供のための市場取引において,客観 変化をみせていることが分る。本稿は,同報告書 的に測定可能な当座(もしくは流動)資産の受入
を起点として,実現概念が再び旧来の概念に収束 れがあること」が要請されていると要約したうえ していったという見解をとるのであるが,そのこ で,これをさらに,(1)受領資産の性格,②市場取 とを主張するためには,ここでAAA1964年報告に 引の存在,(3)用役の遂行の程度という3点に分け 少しく立ち入って,その述べるところを再現して て吟味した後,委員会の改善勧告を示している。
、
ィ・かなければならない。 すなわち第1に,実現に影響を及ぼす受入資産の 同「報告」は,まず,「投資家による投資意思決 要件として,流動性と測定可能性が求められるが,
定及び経営者に対する管理統制への利用というこ 委員会は,当時の慣行においてはこのうち流動性 とに公表財務諸表の第一義的な力点を置くべきで が過度に重視されているとみる。例えば,取引の ある」という1957年版会計基準の基本的立場に全 際に受け入れた資産が市場性ある棚卸資産や固定 面的に賛同したうえで,会計においてなされなけ 資産である場合には,実現の要件に欠けていると ればならない2つの重要な決定事項を指摘してい みなされがちであったことに警告を発し,実現に た。すなわち,第1に,どのような経済事象が勘 とって重要なのは流動性よりも測定可能性である 定(accounts)に記録されなければならないのか, とした。第2に,収益の実現にあたっては,市場 そして第2に,記録された事象は財務諸表にどの 取引が必須条件であるという見解に対し,委員会 ように報告されなければならないのか,というこ は全面的に賛成していた。委員会のメンバーのう
とである。そしてこれら2点に対する委員会の見 ちの1人(H.Bierman)は,ある企業の保有資産 解は下記のようなものであった。すなわち,第1 がそれ以上の何の努力も要せずに100%特定の価の点については,「適切な証拠によって裏付けされ 格で市場での販売が可能なことが分っている場合
うる,暖廉を除く全ての資産価値の変化の影響額 には,当該資産の評価益は実現しているとみるべ 注8)
ヘ勘定に記録されるべきである。」(P.312)という きであるという見解を表明していたのであるが,
ことを委員会は満場一致で勧告していた。また第 多数意見はこれに反対し,そのような場合でもや
2の点については,「資産価値の『未実珊の変化 はり市場取引の存在を実現の必須条件とすべきで
は純利益額の計算に含めず,損益計算書の純利益 あるという見解を捨てなかった。但し,委員会の
額の下の行に示されるべきであり,貸借対照表に メンバーのうちの何人かは,もしそのような評価
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益が未実現利得として記録され報告されるのでな 利益の計算に含められるべきであり,未実現利得 かったとしたら,実現に関するこの条件は弱めて 及び損失は,損益計算書の純利益の下に付記され,
もよいという立場をとっていた。第3に,顧客に 貸借対照表の留保利益の独立項目として示される 対する用役の提供が完了したか否かというテスト べきであるという見解をとっていた。そうするこ 1について委員会は,用役提供の完了を重視する当 ,とによって,純利益額は,現在原価基準で測定さ 時の慣行に反対し,むしろ収益稼得過程において れた操業利益と実現保有利得とに区分されること 決定的な事象が生起したか否かというテストによ になる。
って補足されるべきであるという勧告を下してい 以上のような処理を通じて,委員会は,関連情 た。委員会は以上によって,収益の実現の認識時 報の完金開示を達成する一方で,決定的に異なっ 期が早まることになるだろうという結論を下して た経済事象の問の有意味な区別を保証してくれる
いた。 純利益吟味のテストを従前のままに保つことに成
次に第2の「保有利得及び損失」の問題にっい 功しているという見解をとっていた。すなわち,
て,委員会は次のような勧告を行なっている。す 財貨の販売を含む市場取引によって造り出された なわち,まず,営業活動と保有活動という企業活 証拠と,資産の再調達原価もしくは現在原価の見 動の主たる2側面のうち,保有活動に伴う利得の 積りの確証性は質的に異なるものであり,純利益 存在を強調したうえで,問題を次の3つに分けて テストにおいてはこの違いが反映されていなけれ
見解を示している。すなわち,(1)まず保有利得は ばならないという見解を堅持していたのである。会計上認識されるべきものか否か,(2)認識される さて,改めて指摘するまでもなく,AAA1964年 べきだとしたらそれはどのように測定されるべき 報告のこの見解は,同委員会の諸部会が実現概念 か,(3)そしてその結果は純利益額に含められるべ の報告に先立って公表した諸報告の延長線上にあ
注10)きか否か。まず第1に,委員会は保有利得及び損 ったことは言うまでもないが,そこにおける基本 失を認識し,これを勘定に記録すべきことを満場 的な見解,とりわけ保有利得及び損失に関する発
一致で勧告している。そしてそのことを通じて, 想は,既にEdwards and Bell〔1961〕によって 注11)
第1に諸費用がカレントコストに基づいて示され, 示された見解と一致している。すなわち,Edwards 第2に物価変動に伴なう利得ならびに損失が資産 and Be11〔1961〕においては,企業利潤の中に含 の売却期ではなくむしろ当該価値変動が起こった まれる操業利潤と保有利得との区別の必要性が主
期に識され,第3に貸借対照表上資産が現在の 張され,会計的な実鏡}・先立って未実現保有利得経済的意味(current economic significance) (あるいは実現可能原価節約)を認識すべきこと
を示す金額によって評価されるという相関連した が説かれていたのであったが,AAA1964年報告に 3つの目的の達成が保証されると委員会は言う。 おいても同様の立場がとられている。
第2に,保有利得及び損失の測定値については, では,前節でみたAAA1957年版会計基準におい
委員会は資産を3つのカテゴリーに分け,このう て表明された実現に関する見解は1064年報告にお
ち市場性ある有価証券については市場価額(実現 いてどのように踏襲されているのか,あるいは踏
可能価額),棚卸資産と固定資産については,同 襲されていないのか。既に述べたようにAAA1964 注9)
委員会の棚卸資産と固定資産部会の意見を受入れ 年報告を注意深く読むと,同報告における実現概 て,取替原価(replacement cost)と現在原価 念の位置づけは「基準」におけるそれとは明確に
(current cost)を各々採用している。第3に保 異なっていることに気付くであろう。すなわち,
有利得及び損失の報告の方法すなわちこれを純利 「基準」においては,「実現」と「認識」とが無差
益に含めるべきか否かについては,既に指摘した 別に概念され,「実現の本質的な意義は,資産又は
ように,多数意見は,実現利得及び損失のみが純 負債の変化が勘定における認識を正当化する程十
辻 山:会計機能の拡張と実現概念の後退 33 分に確実性と客観性とを備えるに至ったというこ ら,投資家等め意思決定に資する情報提供へと重
とである。このような認識とは……」と表現され 点移行ないしは多様化するなかで,1966年AAAの ていたのに対し,1964年報告においては,「実現」 『基礎的会計理論』(AAA〔1966〕−ASOBAT)
利得は会計における「認識」の一部でしかない。 を通じ不動なものとなっていった。
すなわち会計にお・ける「認識」の対象には「未実 そして,会計における議論の核心が利益計算 現」の保有利得も含まれているという見解が明確 からディスクロージャーの問題へと大きく旋回を
注13)
に打ち出されているのである。しかも,そうであ 遂げるなかで,実現概念はむしろ実現の「指標」
るからこそ,逆に1964年報告における「実現」概 と一体化した保守的な文脈でのみ語られるように
念は,「基準」における実現概念に比べ,極めて限 なり,その「概念装置」としての役割は次第に希 一
定的な意味で用いられている。すなわち,前者に 薄化していったのである。
おいては,会計の認識対象はあくまでも利益計算 このこと1ま,例えば1980年に出された1917年〜
に影響を及ぼす事象に限られるべきであるという 1978年のAccounting Review誌上の論文索引
発想が貫かれていたために,物価変動を会計にお (Previts and Committe〔1980〕)をみても容 ける利益計算にどのような形で反映させるべきか 易に窺い知ることができる。すなわち,タイトル
注14)
という問題と,「実現」の問題とが絶えず不可分の Realizationの下に収録されている論文17編のうち
問題として論じられ,その結果,実現概念が拡張 5編を除く12編はいずれも本稿で取りあげた2つされる必然性があったのであるが,後者において の文書が公表された1950〜1960年代に登載された は,会計の認識対象は必ずしも利益計算に直ちに ものであるが,1968年を最後に実現の問題を主題 反映されるものに限定される必要はないという発 とした論文はAccounting Review誌上から姿を消 想が明示的に打ち出され,その結果,「実現」と している。
「認識」とが切り離されて,実現に対してはむし さらに,このことを最もよく裏付けしてくれる ろ限定的な見方がとられるにいたっているのであ のは,今日のアメリカ制度会計にお・いて指導的役
る。 割を果たしているアメリカ財務会計基準審議会ところで,本稿のこのような見解にとってとり (Financial Accounting Standards Board一
わけ興味深いのは,AAA1964年報告の「未実現利 FASB)の概念的枠組みカジェクト(Conceptual得の報告方法」についての勧告における少数意見 Framework Project for Financial Accounting のうち,J. Grayによって表明された次のような見 and Reporting)が1978年以来公表してきた研究 解である。Grayによれば,実現と未実現の価値変 成果である『財務会計の諸概念に関するステート 化を区別して報告し,未実現の価値変化は利益に メント(Statement of Financial Accounting
含めないということは矛盾している。何故なら, Concepts一以下SFAC)』第3号『企業の財務もし価値の変化を勘定に記録するのを正当化する 諸表の諸構成要素』(FASB〔1980〕)で示された に足る強い証拠が存在するなら,そのうえさらに 次のような見解であろう。すなわち,「最も厳密な これを利益の認識についていくつかに等級づけす 意昧における実現とは,非貨幣的財貨(resources)
ることは,もはや不必要なのである。すなわち, および権利を貨幣に変換するプロセスである。そ このGrayの見解こそ,AAA1957年版会計基準にお」 して会計及び財務報告における実現の厳密な用法 ける実現概念に最も忠実なものであって,1964年 は貨幣もしくは貨幣請求権のための資産の販売を
● ■ ● ■ ●
「報告」の多数意見は,明らかに「基準」の見解 意味している。したがって,実現お』よび未実現と
からの離脱であったのである。しかもこの「報告」 いう相関連する用語は,各々既販売資産及び未販
の見解は,その後,会計の機能が,主として受託 売資産のうえに発生した収益,利得ないしは損失
責任の遂行あるいは分配をめぐる利害調整問題か を指している。これが審議会の概念的枠組みにお
34 茨城大営政経学会雑誌 第51号 ける実現及びその関連用語の意味である。認識と
@ IV 租税法上の実現概念の拡張は,ある項目をある会計実体の財務諸表の中に正
式に記録し,あるいは組み込むプロセスである。 そこでまずなされなければならないのは,アメ したがって,資産,負債,収益,費用,利得もし リカ租税法ないしは租税判例における「実現」概
くは損失は認識(記録)されることもあり認識 念の変遷を明らかにすることである。しかし,筆 . . . . 1 注17)(記録)されないこともある。実現と認識とは会 者は既に別稿でこの問題に立ち入った検討を加え
計学や財務論の文献でしばしばみうけられるよう ているし,いまここで改めてそれを再述する余裕 な同意語としては用いない。」(par.83一文中傍 を持たないので,ここではさしあたり租税法におけ
点イタリック)このSFACの見解は,既にAAA る「実現」の現代的解釈について触れたChirelstein1964年報告において示ざれていた見解と同様であ 〔1982〕の次の表現を引用し,議論の手掛かりと ることは繰り返すまでもない。 しよう。すなわち,Chirelsteinによれば,「実現
さらに興味深いのは,SFAC第5号『財務諸表 は厳密に行政上のルールであって,憲法上の,ま
における認識と測定』(FASB〔1984〕)における してや経済学上の『所得』に関する要請ではない 次のような表現である。すなわち,「認識とは,あ ということをまず初めに銘記すべきである。
る項目を資産,負債,収益,費用もしくはそれら Macomberのような初期の判例にお・いては,憲法 に類するものとして勘定に正式に記帳するかまた は「所得』を実現利得に限定しているという考えを支
は財務諸表に組み入れるプロセスである。」(par.6) 持していたが,現在の租税論者(tax commentators)この定義にお・いては,AAA1957年版会計基準の実 の大半は,議会の課税権がそのような暗黙の要請 現の定義と酷似した表現を用いながら,認識とい によって厳密に制限されてはおらず,議会は自ら
う用語が実現にとってかわっているのが一見して が選択した時をもって利得及び損失を実現したも
明らかである。 のとして扱うことが許されていると理解しているところで,このように,会計における実現概念が ようである。前述のように,議会はもし自らが望
会計機能の拡張を背景として変貌し,拡大一収 むなら,贈与もしくは遺贈に際して財産の再評価 束する一方で,いわば「実現の呪縛」から解き放 による課税を行なうことが明らかに可能であったれた「認識」ないしは「会計情報」が会計にお て,この場合,贈与もしくは遺贈は語義上の操作
注15)
ける議論の中心に躍り出たのと対照的に,会計に (semantic manipulation)を通じて,実現的事 おける利益計算に実現の要件を導入させる契機を 象(realization event)とみなされうる。そして
注16)・
作ったと言われる租税法上の「実現」概念は,今 今日においては,そのような評価額に対する課税
日,皮肉にも本稿第第H節でみたAAA1957年版会 の合憲性は,贈与ないしは遺贈が実現の型にはめ計基準にお・けると同様の「拡張された実現概念」 こめうるものか否かに依存して決まると考えるこ
として機能するに至っている。次節では,等しい とは難しいのである。」(P.69)社会経済的背景の下で,しかも原初的には等しい このChirelstein〔1982〕の表現は,前節までの
「実現」概念をその計算機構の中に採り入れなが 本稿の議論にひきつけて整理すると,租税論者の
ら,その後の軌跡を全く異にする租税法上の実現 議論の対象はあくまでも課税所得の認識に限られ
概念の現代的意義を明らかにすることを通じ,会 ており,所得計算に直接かかわりのない事象はい
計の枠組みにおける実現概念の位置づけならびに かに情報としての有用性を有していようとも認識
その背景を相対化して捉え,本稿の締めくくりと 対象には含まれえないのであるから,認識対象の
しよう。 拡張は即ち「実現」基準の拡張に通じることになるということを示していると言える。この点,先
にみたAAA1964年報告におけるBiermanの反対意辻 山1会計機能の拡張と実現概念の後退 35 見,及び評価益が未実現利得として記録され報告 れそうにないのであるが,逆に言えば,万一これ
されるのでなかったとしたら実現に関する「市場 らの難点が克服されることがあれば,評価益に対 取引の存在」という必須条件を弱めてもよいとい する課税に反対する理由は何もないというのが租
う少数意窺)もほぼ同様の立場に立った見解であっ 税論者の見方であるということになる。そしてそ たとみることができる。したがって,租税理論に の場合,そのことに伴う維持資本への影響といっ 却いては所得計算を離れた認識の存在意義がない た問題は議論の博外に置かれているのである。す
以上,「実現」の問題もこのChirelsteinの表現のよ なわち, Chirelstein〔1982〕は先に引用した言葉うな形で発現せざるをえないのである。そしてそ の後で次のように言う。「しかし,これらの議論が こにおける「実現」の位置づけは,AAA1964年報 実現主義の要請の全面的変更を考慮中であるとか 告よりはむしろAAA1957年版会計基準における「実 望んでいるとかいうことを意味していると解釈し 現」の位置づけに極めて近いものになっているこ てはならない。我々の租税制度は単なる資産価値
とを知ることができる。 の変化にまで課税の枠を広げてはいない。また贈
しかし,このような租税理論における実現概念 与や遺贈を実現的事象として扱うべしという,繰
の拡張は,先に本稿第H節でとりあげたAAA1957 りかえしてなされる提案を別にすれば,実現主義年版会計基準を貫く会計思考,あるいはそうした の要請を実質的に変化させるべきだということを 会計思考を形成させるに至った社会経済的背景と 示唆する租税論者はほとんどいないだろう。その はいわば異質の枠組みの中における動きであった 理由の主たるものは,資産を年々評価することの ことに注意すべきである。すなわち,そのような 難しさにある。また資産の評価に対して課税した 動きは,会計における資本利益計算の貨幣価値変 場合には課税額を支払う能力が欠如し,納税義務 動との関係における欠陥,ないしはとりわけ第2 を遂行するために資産を流動化することが強制さ 次大戦後の急速な物価上昇に伴う企業基盤の蚕食 れることになるということも理由のひとつである。
に対する危機感といった会計上の問題とは無縁の, (中略一引用者)実現主義の要請の正当性は大 むしろ租税理論において伝統的な,包括的課税標 半の観察者にとって,いまだ相当に強固なものの
魁いしはH。ig−Sim。nsの所得の定義灘強力 ようであり,前述したよう1・,その全面的変更はな拠り所とした課税当局による所得課税の強化策 決して切迫したものではない。」(p.71)
の一環として捉えなければならないのである。そ 筆者は過日別稿〔1979〕で,アメリカ租税法上 こにおいては,課税の公平を図るうえで「会計的 の実現基準にかかわりのあった初期アメリカ租税
利益覆1がもつ欠陥として,資産評価益の利益 判例をとりあげ,そこにおける実現基準が含意し注22)
s算入が主として指摘されているのであって,納 ていた「分離」思考と「計算確実性」ないしは「測 税者の資本維持という視点はもとより議論の核心 定可能性」思考を指摘し,租税判例における実現
から外されている。 に対する解釈が分離思考から計算確実性思考へと
すなわち,包括的課税標準が課税上の理想だと その後次第に転化した過程を指摘したのであるが,
● o
キれば,評価益は本来課税されるべきものだと考 この点に照らしてみると,租税理論上,今日の実 えられており,その課税が延期される理由として 現の解釈に評価益を含めえない最大の難点は,
は,①年々の評価益算定の困難性,②納税のため Cbirelsteinの指摘する2つの難点のうち主として の資産流動化の強制という,もっぱらインプレメ 第1の,年々の資産評価の困難性にあるとみるこ
ンテーションにかかわる2つの難点が一般に指摘 ができる。そのことは,今日の租税判例にお・いて されているのみである。Chirelstein〔1982〕の次 は,当該課税によって納税者に資産の流動化を強 の指摘が端的に示すように,評価益課税における 制するような,すなわち「分離」要件が満たされ
この2っの難点は,目下のところ容易には克服さ ていない資産の評価益に対しても,課税に値する
一
36 茨城大学政経学会雑誌 第51号
注23)1
時の到来を理由に課税するという立場が貫かれて るつもりである。
いることからも明らかである。そして,資産再評
価上の実務的困難が解決されれば,資産評価益に 注1)例えば,Windal〔1959〕,中島〔1959〕,玉田
対する課税を阻止しなければならない理由は,租 〔1978〕等,数多くの文献に同様の見解がみられる。税理論毫繁少なくとも存在しないという見方が一 注2)「実現」概念の歴史について詳しくは,AIA
般的であるということに留意すべきである。 〔1952〕,Windal〔1959〕, AAA〔1965〕,森川〔1g66〕,および辻山〔1979〕等参照。
注3)歴史上,Gilman〔1939〕に先立って, HatfieldV 結びにかえて 〔1909〕等も「実現」という用語を用いていたが,
本稿は,以上で,等しく「実現」を利益ないし そこでは未だ利益計算の要件としての意味は付与 は所得計算上の指標としながら,会計上のそれは されていなかったことが森川〔1966〕によって指 会計機能の多様化を背景にしてひとたび拡張した 摘されている。
後に再び収束するという過程をたどったのに対し, 注4)ちなみに,手元にあるK・hler〔1952〕の1975年
注25)d税法上のそれは課税における公平性の確保と課 改訂版すなわちAAA1957年版会計基準公表後の改 税当局の課税強化の要請との結びつきを背景にし 訂版においても全く同様の定義が下されている。
て拡張の一途をたどってきたことを明らかにした。 但し,この点については本稿第皿節参照。
換言すれば,会計上の認識は,会計機能の拡張な 注5)例えば,津曲〔1965〕は,第2次大戦後の急速 いしは多様化に伴なって次第に利益計算以外のも な物価の上昇を前にしてAIA及びAAAがアメリカ のにまで拡張され,租税法上の認識は依然として 財務会計制度の存立に対する危機感をもってイン
所得計算」こ限定されているがために,「実現」に関 フレーション会計の問題に取り組んでいたことをする限り,逆に前者においてはより限定的な,そ 伝え,AIA〔1952〕ならびにAAAの補足的ステー
して後者にお・いてはより拡張的な用いられ方をさ トメント第2号「物価変動と財務諸表(Price Level れざるをえないことを指摘した。 Changes and Financial Statements)」について但し,ここで見落とされてはならないのは,両 詳細な検討を加えている。
者にお・ける「実現」のこのような異った解釈は, 注6)その展開について詳しくはWinda1〔1959〕Ch.
結果として,維持資本を全く異ったものに導くこ V【参照。
とになるということである。しかし,そのことを 注7)例えば玉田〔1978〕をみよ。
明らかにするためには,租税判例上その原形が形 注8)この見解は,先に示した実現をフローに結びっ
作られ,会計にお・ける利益計算に取り入れられた けずに捉える見方と同様のものである。「実現」基準の原初的な意味,そしてそれが取得 注9)AAA〔1964a〕及びAAA〔1964b〕における見解 原価主義と結びついて,会計における利益計算な を指す。
いしは資本維持のうえで果たしてきた役割につい 注10)すなわち,AAA〔1964a〕及びAAA〔1964b〕。
て立ち入った検討を加えなければならない。その 注11)AAA〔1965〕注(1)ではこのことに触れ,アメリ ような検討を通じて,会計機能の多様化ないしは カにお・いてはEdwards and Bell〔1961〕以来,保 拡張を標榜する今日の会計理論においても,本稿 有利得及び損失という用語が一般的に用いられ,
でみたように,こと「利益計算」に関する限り, 関心を集めるに至っていることが指摘されている。
取得原価主義ならびに実現主義を基軸とする伝統 ちなみに,Edwards and Bellにおいては保有利そ尋
的な発生主義会計の枠組みを容易には却下できな は次のように定義されている。すなわち,保有利
いことの理由が初めて明らかにされるであろう。 得とは,「当該資産く又は負債)が企業の所有下にこの点については,いずれ稿を改めて明らかにす ある間に資産の価格が上昇(もしくは負債の価格
辻 山:会計機能の拡張と実現概念の後退 37
が下落)することによって稼得される利得であ く利益計算という意味で「会計的利益計算」とい る。」(p.36) う用語が用いられており,必ずしも発生主義的な 注12)ここでは彼らが取得原価主義(購入価値基準) 利益計算と対応していない。この点についても詳と表裏一体と考える保守的な実現主義が想定され しくは拙稿〔1985b〕参照。
ている。この点については,FASB〔1980〕par. 注22)この見解は,アメリカ租税判例上著名なEisner 82もあわせて参照。 v.Macomber,252U S.189(1920)における次の
注13)例えばASOBAT(AAA〔1966〕)以後10年を ような表現を通じて一般に受け入れられてきた。
経て公表されたAAA〔1977〕においては,会計の すなわち,「所得の定義については, Stratto船 このような状況がパラダイム(範型)間競争の場 Independence v. HowbertおよびDoylev. Mitche11 として捉えられ,利益計算の合理性を追究する真 以上のものをみいだせない。すなわち,『所得と 実利益学派(true income approach)ないしは古 は,資本,労働,もしくは両者の結合されたもの 典学派(classical approach)と,会計情報の有 から導き出されたものと定義できる。』但し,こ 用性を追究する意思決定学派(decision usefulness の場合,資本一から一導き出されたものという点 approach)とはもはや異った範型に属する学派で に注目する必要がある。ここに本質的な意義があ あるという見方が示されている。 る。資本に生じた利得ではなく,投資の価値の成
注14)Previts and Committe〔1980〕p174 長もしくは増加ではなく,それがどのように再投 注15)例えばBeaver〔1981〕参照。 資され運用されているかにかかわりなく,資産の
● ●
注16)AIA〔1951〕Sec.7およびAAA〔1965〕p.314の 売却によってもたらされ,資本から分離した交換
指摘をみよ。 価値のある何物か,そして入ってくる,もしくは
注17)この問題については,辻山〔1979〕,辻山〔1985a〕 導かれてくる,すなわち受取人が自らの使用のたで詳しく触れているので参照されたい。 めに受取り,引出した交換価値のある何物かであ 注18)本稿第皿節p.31最終パラグラフ参照。 る。」(p.207一傍点引用者)
注19)ここに包括的課税標準とは,制限的所得概念す 注23)この立場は,1940年に示された2つの判例,
なわち所得の定義の中に原資の維持の他に継続性, Helvering犠Brunn,309U. S.461(1940)及び 反復性,生産性といったその他の要件を加える所 Hervering v. Horst,31UL S.112(1940)におい 得概念と対比されるもので,課税対象たる所得の て,「既に納税者に発生している経済的利得の結実 定義の中に原資維持以外のいかなる制限も加えな を獲得できる最後の段階(step)に達した時,実 いものである。さらに,理想的には,資産価値の 現はおこっている。」(Hervering v. Horst,μ115)
増加も,その増価時点で課税対象としようとする という見解が示され,例えば土地の賃貸借契約に ものである。この点について詳しくは辻山〔1985b〕 当って,当該土地の上に賃借人が建築した建物は,
参照。 当該土地を地主が売却する時を待たずに,当該土
注20)Haig−Simonsによる所得の定義は,一般に次の 地を地主が再所有した時すなわち賃貸借契約解除ように定式化されている。すなわち,ある経済主 時に地主の課税所得に算入されるという判決が
体において,Cを期間中に消費に費やされた権利, (Herveri㎎v. Brunn事件において)示されて以 ムWを財産権の蓄積であるとすると,所得yは次 来,租税法において一般的見解となっている。の式で示される。 注24)但し,この点については異論もある。詳しくは
y−C+ムW 辻山〔1985b〕第H節の(2)参照。この点について詳しくは拙稿〔1985b〕,とりわけ 注25)一般に,課税における公平は,水平的公平と垂 pp 43−44参照。 直的公平を通じて達成されるとされるが,そのよ 注21)そこでは,しばしば,貨幣的取引の記録に基づ うな公平がどのような課税方式を通じて具体的に
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達成されるのかについての見解は区々である。そ 、 、4湧α eme説 のうち今日支配的な見解の1つである能力説によ q〆Bαs cAccouπ孟 ㎎翫θo膨, AAA,1966.
れば,能力に応じた課税によって公平が達成され Committee on ることになるが,この能力を示す指標を何によっ Concepts and Standards for External Finan一 て捉えるのかについてもさらに様々な見解が存在 cial Reports,&α emθ説oπAcco琶π伽g%θひ する。そのうちで今日支配的な見解の一つが「所 ηαπdT陶01ッAccθp如πc¢AAA,1977,
得」であると言えるが,公平を最もよく達成する American Institute of Accountants, Report of う、えでどのような所得が測定され,課税されるべ Study Group on Business Income,(洗α㎎ π8
一
@ 一
ォかについてもさらに見解が分かれる。またこの間 α)πcθμsq∫B己sπεss乃㏄ome,1952.(Scho− ,
題は単なる課税の理想の選択の問題に留まらずr larsB・・k C・・1975・d・)測定の操作上の制約とも複雑に絡みあっている。 ! Allan, C. M.,皿θ丁馳07ッq/Tbκα o嬬Peng一
ともあれ,租税理論においては,課税の公平の達 uin Books,1971.
成のためには,課税所得は包括的でなければなら Beaver, W. H.,瓦παπo αZ Repo所πg !1π ず,そこには評価益が含まれることが望ましいと 。Acco鵬琵㎎ReひoZω¢ o窮Prentice Hall,1981.
される。この点については,辻山〔1985b〕に詳 Chirelstein, M. A.,死鹿r配瓦comεTbκαε o肱 しいので参照されたい。また,公平達成のための 3rd ed., Foundation Press,1982.
課税方式の選択についてはAllan〔1971〕等参照。 Edwards, E.0. and P. W. Bell,%ε皿eo型
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