• 検索結果がありません。

幼児を対象とした運動遊びにおける 安全面に配慮した指導方略

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "幼児を対象とした運動遊びにおける 安全面に配慮した指導方略"

Copied!
7
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

研究論文

幼児を対象とした運動遊びにおける 安全面に配慮した指導方略

西田 明史,野間 靖智

(西九州大学短期大学部幼児保育学科,西日本幼児体育研究所

(令和 2 年 2 月 4 日受理)

(Accepted February 4, 2020)

Abstract

Akihito N

ISHIDA1

, Yasutomo N

OMA2

( Department of Early Childhood Education and Care, Nishikyushu University Junior College

1

, Nishi-Nippon Preschool Physical Education Institute

2

Instructional Strategies on Safety Consideration in Physical-motor Play among Early Childhood Education and Care

The purpose of this study was to organize the structural features of “safety education and safety management through play” in an easy-to-understand format. Therefore, we used the KJ method to analyze free description data of “Physical-motor play in consideration of safety” answered by kindergarten teachers and nursery school teachers. The results generated 71 concepts and 27 subcategories, which were then aggregated into 12 categories. The instructional strategy had five stages: (1) Improve the environment according to weather conditions and physical characteristics of facilities; (2) Predict accidents and injuries that are likely to occur during physical activity, and formulate action guidelines to prevent accidents before they occur; (3) Perform risk management considering the actual condition of preschooler's growth and development, and selecting the content and method of physical-motor play; (4) Provide opportunities for safety guidance and safety learning with practice of physical-motor play; and (5) Regularly perform activities designed to develop safety awareness and danger avoidance skills for preschool children, based on stages 1 through 4.

Key words : Safety Education (安全教育)

Safety Management (安全管理)

KJ Method (KJ 法)

Structuring Practical Knowledges (実践知の構造化)

(2)

研究背景

 日本保育保健協議会の事故予防・安全対策委員会

(2017)の報告によると、保育現場における事故・ヒヤ リハット事例は、1歳児の報告件数が最も多く、加齢と ともに件数が減少するが、3歳以上になると骨折等の大 きな怪我が多くなる傾向にある

1)

。内閣府子ども・子育 て本部(2018)の報告によると、平成 29(2017)年内 に教育・保育施設において発生した治療に要する期間が 30 日以上の負傷等を伴う重篤な事故は約5割が「屋外 活動中」に発生しており、その事故誘因は「自らの転倒・

衝突」と「遊具からの転落・落下」を合わせると約7割 を占める

2)

。つまり、3歳以上児の保育に関しては、屋 外活動時における事故防止に向けた安全教育と安全管理 が課題と言える。

 幼児教育・保育における安全教育と安全管理は、アレ ルギー対応や感染症対策とならび、乳幼児の健康と安全 を確保する上で重要な取組である。平成 30(2018)年 4月1日から施行されている幼稚園教育要領

3)

、保育所 保育指針

4)

、幼保連携型認定こども園教育・保育要領

5)

では、「ねらい及び内容」の「健康」において、安全教 育が次のように位置づけられている(下枠内は幼稚園教 育要領から引用)。

3 内容の取扱い

(6) 安全に関する指導に当たっては、情緒の安定 を図り、遊びを通して安全についての構えを身 に付け、危険な場所や事物などが分かり、安全 についての理解を深めるようにすること。また、

交通安全の習慣を身に付けるようにするととも に、避難訓練などを通して、災害などの緊急時 に適切な行動がとれるようにすること。

 すなわち、安全面に配慮した子ども教育・保育の実践 では、子ども自身が危険を回避しながら安全に遊ぶこと ができるように、実践を伴った具体的な指導が必要だと 考えられる。

 また、安全管理については、保育所保育指針

4)

の「第 3章健康及び安全」の「3環境及び衛生管理並びに安全 管理」において、次のように示されている(下枠内は保 育所保育指針より引用)。

(2) 事故防止及び安全対策

ア 保育中の事故防止のために、子どもの心身の 状態等を踏まえつつ、施設内外の安全点検に努 め、安全対策のために全職員の共通理解や体制 づくりを図るとともに、家庭や地域の関係機関 の協力の下に安全指導を行うこと。

イ 事故防止の取組を行う際には、特に、睡眠中、

  プール活動・水遊び中、食事中等の場面では重 大事故が発生しやすいことを踏まえ、子どもの 主体的な活動を大切にしつつ、施設内外の環境 の配慮や指導の工夫などを行うなど、必要な対 策を講じること。

ウ 保育中の事故の発生に備え、施設内外の危険 箇所の点検や訓練を実施するとともに、外部か らの不審者等の侵入防止のための措置や訓練な ど不測の事態に備えて必要な対応を行うこと。

また、子どもの精神保健面における対応に留意 すること。

 田中(2008)によると、保育における事故を減らすた めには、事故やインシデントの実態把握に基づき、事故 発生につながる要因の分析と防止方策の検討、防止方策 の実行、実行された方策の効果の評価と見直しの組織的 な取組が必要である

6)

。その際、 「子ども」「保育者」「施 設・設備、遊具」の特性等に応じて整理した事故防止の ための配慮事項の確認も必要になる

6)

 実際、幼児教育・保育の現場では、活動中の事故を未 然に防ぐための具体的取組がなされている。そこで、西 田・野間(2019)は、幼児教育・保育において身体活動 を伴う遊び(運動遊びや外遊び等)を安全に実施するた めの指導・援助事項について、幼児体育の専門指導員の 自由記述回答を KJ 法の一般的な手順を援用しながら質 的統合法により図解化した

7)

。その結果、「安全面への 配慮」に関する援助・指導方略は、35 件のデータラベ ルが導出され、8件のカテゴリーが編成された。しかし ながら、調査が限定された集団の範囲で実施されたもの であったため、実践事例や先行・関連研究との照査、幼 稚園教諭・保育士を対象にした調査の実施など、信頼性・

客観性を担保するための検証が今後の課題として残っ た。

研究目的

 本研究では、これからの幼児教育・保育において必要 性が高まるであろう「遊びを通した安全教育・安全管理」

の構造的特徴を理解しやすい形で整理することを目的と した。3歳以上児の保育に関して、幼稚園教諭・保育士 と幼児体育専門指導員の実践知の比較を通して、身体活 動を伴う遊びを事故なく、安全に実施するための指導・

援助方略を検討した。

研究方法

 九州4県に所在する幼稚園 12 箇所、保育所 12 箇所、

幼保連携型認定こども園2箇所、その他の型の認定こど

(3)

も園2箇所の計 28 箇所に勤務する幼稚園教諭または保 育士を対象として留置法による無記名・自由記述式の質 問紙調査を実施した。質問紙を 28 箇所から回収し(回 収率 100%)、回答者数は 173 名であった。倫理的配慮 として、対象者には調査の目的や内容などを文書で説明 し、質問への回答および質問紙の提出を持って本研究 への同意を得たこととした。なお、調査期間は平成 30

(2018)年 11 月上旬から 12 月上旬までであった。

 回収された質問紙の中から回答不備、用紙汚損、3歳 以上児の保育の未経験者を除いた 150 名(経験年数 12.6

± 10.9 年)を分析対象のデータとして取り扱った。得 られたデータは、幼児体育の専門指導員6名(経験年数 4~ 18 年)のグループワーク形式において KJ 法の一 般的な手順を援用しながら、質的統合法により分析され た。

結  果

 表1に身体活動を伴う遊びを安全に展開するための援 助・指導方略を示した。自由記述回答を意味内容の類 似性に基づいて部別した結果、71 件の〈データラベル〉

を導出した。類似した内容の〈データラベル〉をまとめ て 27 件の[サブカテゴリー]を生成した。さらに、類 似した内容の[サブカテゴリー]から 12 件の【カテゴ リー】を編成した。

 幼稚園教諭・保育士は、子ども自身が危険を回避しな がら遊ぶことができるように、〈自分の身体に対して興 味や関心を持つ〉〈姿勢変化や力の入れ具合などの身体 感覚を身につける〉〈事故の状況やケガの程度を保育者 に伝えることができる〉〈安全な遊び方、危険な状況や 環境に気づくことができる〉〈遊ぶ中で危険を回避する 行動をとることができる〉を習得させたいと考えていた。

この5件のデータラベルをまとめて【遊びを通して幼児 に身につけさせたい安全についての構え】のカテゴリー を編成した。

 子ども理解に関する要因は、【幼児の心身の状態の把 握】の1件のカテゴリーが導出され、[身体発育発達の 状況の把握][気持ちの状態の把握][健康状態の確認や 体調変化の把握][危険に対する認知度や危険を回避す る力の把握][幼児同士の人間関係の把握]の5件のサ ブカテゴリーにより構成された。

 安全な環境に関わるカテゴリー群を見ると、【園庭や 教室等の施設、器具・遊具等の教材の整備】は、[事前 事後における安全点検]と[危険や不衛生な環境の除去]

の2件のサブカテゴリーにより構成された。【気象状態 に応じた環境の設定】は、[天気などの気象状態の把握]

[活動時間帯・所要時間の調整][活動場所や使用施設の 調整]の3件のサブカテゴリーにより構成された。 【適時・

適切・適度な休憩】と【ケガの応急処置に使用する物品 の準備】は、それぞれ1件のデータラベルにより構成さ れた。また、活動時の服装が安全面に影響を及ぼすと考 えられていた。〈活動に適した種類・サイズの服や靴の 着用を求める〉〈服や靴、帽子などを正しく着用させる〉

〈爪や髪など活動に適した身なりを求める〉〈気象状態や 体温変化に応じて服装を調整させる〉の4件のデータラ ベルをまとめて【活動に適した服装の整正】のカテゴリー を編成した。

 安全面に配慮した保育内容・方法に関するカテゴリー 群を見ると、【空間・人数・動線に配慮した活動内容】は、

[道具の数、配置箇所や置き方の調整][活動場所、隊形 や移動経路の調整][指導者の立ち位置の調整][活動の 目標・内容、運動強度の調整]の4件のサブカテゴリー により構成された。【日常的に身体を動かすことができ る環境の構成】は1件のデータラベルにより構成された。

また、事故防止・安全確保のための具体的取組を見ると、

【危険の先取りや事故防止に関する具体的な指導・援助】

は、[技能習熟度に応じた補助や幇助][活動に集中させ るための指導・援助][活動時における危険要因の除去・

低減][主活動につながる準備運動の実施]の4件のサ ブカテゴリーにより構成された。【安全に関わる約束事 の設定と伝達】は、[事故やケガを防ぐための約束事の 設定][事故やケガを防ぐための約束事の伝達][事故や ケガにつながる要因の職員間での共有]の3件のサブカ テゴリーにより構成された。【話を聞く力、内容を理解 する力の涵養】は1件のデータラベルにより構成された。

 なお、【遊びを通して幼児に身につけさせたい安全に ついての構え】【ケガの応急処置に使用する物品の準備】

【日常的に身体を動かすことができる環境の構成】【話を 聞く力、内容を理解する力の涵養】の4件のカテゴリー は、幼児体育専門指導員の自由記述から導出されておら ず、幼稚園教諭・保育士を対象とした調査において新た に編成された。

考察とまとめ

 【カテゴリー】および〈サブカテゴリー〉の各間の関 連性を検討し、安全面に配慮した援助・指導方略の構造 化を試みた(図1)。内閣府の特定教育・保育施設等に おける事故情報データベースでは、「ソフト面」「ハード 面」「環境面」「人的面」の側面から事故の発生要因と再 発防止のための改善策が検証されている

8)

。潜在危険論

(須藤,1972)によると、事故要因は、危険な「行動」 「環境」

「心身の状態」「服装」に分類される

9)

。ハインリッヒの

ドミノ理論では、「社会的環境」「管理過失」「不安全行

動」「事故」「怪我」が順次、因果関係的につながること

により事故が発生し、怪我に至る

10)

。以上の事故要因モ

(4)

表 1 身体活動を伴う遊びを安全に展開するための援助・指導方略

【カテゴリー】 [サブカテゴリー] 〈データラベル〉

遊びを通して幼児に身につけさせたい「安全についての構え」

自分の身体に対して興味や関心を持つ

姿勢変化や力の入れ具合など、身体感覚を身につける 事故の状況や怪我の程度を保育者に伝えることができる 安全な遊び方、危険な状況や環境に気づくことができる 遊ぶ中で危険を回避する行動をとることができる

子どもの心身の状態の把握

身体の発育発達の状況の把握 運動能力や技能の習熟度など、何をどこまでできるかを把握する 身長や体重など、体格を把握する

気持ちの状態の把握 活動に対する興味・関心、好嫌を把握する 子どもたちの表情や行動から心情を把握する 健康状態の確認や体調変化の把握

子どもたちの表情や行動から体調を把握する

持病やケガの有無、感染症など、子どもの健康状態を確認する 熱中症や鼻血など、活動時の体調変化に気づく

危険に対する認知度や危険を回避 する力の把握

子どもが認知できる危険な状況や環境を把握する 子どもが実行できる危険回避行動を把握する 子ども同士の人間関係の把握 子どもの他児への関わり方を把握する

子どもの友達関係を把握する

園庭や教室等の施設、

器具・遊具等の教材の整備

事前事後における安全点検

道具や遊具に不備がないか点検する 園庭、施設・設備等の状況や状態を確認する 事故や怪我が起こりそうな場所を確認する 危険や不衛生な環境の除去

危険物や障害物を取り除く(石や木の実、雑草、釘、水たまり、凸凹など)

施設や道具などを清掃、洗浄、消毒する

尖りや硬さのある物や場所など、危険箇所が身体に直接触れないように対処する

気象状態に応じた環境の 設定

天気などの気象状態の把握 気温や湿度、天気、太陽の光、風向・風力などを確認、把握する 活動時間帯・所要時間の調整 活動の所用時間や時間帯を調整する

活動の実施頻度や期間を調整する 活動場所や使用施設の調整 活動に適した場所を選定する

無理なく快適に活動できる気象条件になるように環境を整備する

適時・適切・適度な休憩 水分補給や休憩などを適度にとる

ケガの応急処置に使用する物品等の準備 怪我をした際に速やかに対処できるよう救急箱を準備する 活動に適した服装の整正

活動に適した種類・サイズの服や靴を着用させる 服や靴、帽子などを正しく着用させる

爪や髪など活動に適した身なりを求める 気象状態や体温変化に応じて服装を調整させる

空間・人数・動線に配慮 した活動内容

遊具の数、配置箇所や置き方の調整

道具や遊具を置く場所・間隔を調整する

使用する道具や遊具の数、配置箇所(コーナー)の数を決める 使用できる遊具・道具の種類を制限する

活動場所、隊形や移動経路の調整

活動に対して十分な広さのある場所を確保する 使用できる場所や活動範囲、移動経路を制限・指定する 子どもが待機する場所や並び方を調整する

役割を交代する、順番を守る(待つ)などの機会を設ける 指導者の立ち位置の調整 子ども全体が見える位置で指導・援助する

活動内容によって立ち位置を変える 活動の目標・内容、運動強度の調整

月別、週別、曜日別にプログラムを調整・指定する 年齢別・異年齢交流の有無によってプログラムを調整する

子どもの年齢や発達段階、習熟度、興味などに応じてプログラムを決める 活動する場所、使用する道具、人数などの環境に応じてプログラムを決める 日常的に身体を動かすことができる環境の構成 運動能力全般を高めるような活動に取り組む機会を設ける

危険の先取りや事故防止に 関する具体的な援助・指導

技能習熟度に応じた補助や幇助

目的とする動作の正しい仕方を理解できるように指導・援助する 運動経過や運動の勢いに応じた指導・幇助をする

習熟度に合わせて指導・幇助をする 活動に集中させるための援助・指導

悪ふざけすることなく、真剣に取り組む姿を引き出す 騒ぐ、興奮するなど、高ぶった気持ちを落ち着かせる 興味や経験と関連づけるなど、楽しく参加できるようにする 不安や恐れなどがなく、安心して参加できるようにする 活動時における危険要因の除去・低減 事故につながる行動が出た時に即座に対応する

事故につながる状況・環境が生じた時に即座に対応する 主活動につながる準備運動の実施

活動の前に身体を温める、可動域を広げる運動を実施する

敏捷性や判断力など、危険回避に関わるスキルを経験できる運動を実施する 活動に注意を向け、受け入れることができるような運動を実施する

安全に関わる約束事の設定 と伝達

事故や怪我を防ぐための約束事の 伝達

遊具や用具の使い方を説明する

活動時に起こりやすい事故や怪我を説明する 活動に関わる約束事を丁寧に説明し、徹底する 事故や怪我を防ぐための約束事の

設定

園の物理的な環境に応じた遊び方の約束事を決める

流行や能力など、子どもの遊びの実態に即した約束事を決める

子どもが(クラスで)考えた活動に関わる約束事、遊びのルールを取り入れる

事故や怪我につながる要因の職員間 での共有

過去に起きた事故の状況や内容、怪我の程度などを整理、記録する 事故報告やヒヤリハット事例から危険要因を導出する

子どもが好む場所や死角になりやすい場所を把握する 子どもが好む遊びの内容や遊び方を把握する

遊びのルールや活動手順、活動時の行動や動作を把握する 話を聞く力、内容を理解する力の涵養 話の聞き方、話を聞く態度が身につくように指導する

表 1 身体活動を伴う遊びを安全に展開するための援助 ・ 指導方略

(5)

デルを参考にしながら、 「安全面への配慮」に関する指導・

援助方略の構造を検討した。

 安全面に配慮した幼児教育・保育の実践について、5 段階の指導・援助方略が考えられた。まず、「身体活動 を伴う遊びで使用する施設や設備、教材などに潜む危険 を察知、除去する」「気象状態に応じて活動の時間帯や 所要時間、活動場所を選択・調整する」による安全な環 境の整備が必要である(観点1)。次いで、「幼児の身体 の発育発達、心情や意欲、危険認知力などを把握する」 「幼 児の遊びの実態や過去の事故・ヒヤリハット事例を把握 する」によって、身体活動を伴う遊びの実践時に起こり やすい事故や怪我を予測し、事故を未然に防ぐための対 処法や約束事を設定する(観点2)。その上で、目的と する身体活動を伴う遊びについて、「事故や怪我を未然 に防ぐために教材配置や空間構成、動線や職員配置、活 動内容・強度、服装整正を調整する」により安全性を確 保した保育内容やその進め方を策定する(観点3)。観 点1~3に基づいた環境や管理体制下において身体活動 を伴う遊びを実践し、その際に「教材の正しい使い方や 目的に適う動作の仕方など、安全な遊び方を指導・援助 する」「活動に集中できるように働きかける」「危険を先 取りし、事故を防ぐために動作を補助する」など、具体 的な安全指導と安全学習の機会を設ける(観点4)。観

点1~4の条件を満たす身体活動を伴う遊びの計画的・

定期的な実践を通して、「幼児の安全意識、危険感受性 を高める」「幼児自身が危険を回避しながら、安全に気 を配り状況に応じた行動をとる」を育成する(観点5)。

 ただし、危険要因を除去しようとするあまり、「高さ や速さなど、自身の能力を最大限に発揮して課題を克服 する」や「鬼ごっこのように混沌とした状況の中でスリ ルを味わう」など、運動の特性から生み出される遊び(活 動)の価値が損なわれないように留意すべきである。国 土交通省(2014)の『都市公園における遊具の安全確保 に関する指針』

11)

によると、危険要因は、危険予測と事 故回避が可能な「リスク」、危険予測と事故を回避する ための対処法の判断が不可能な「ハザード」に分けられ る。「リスク」は、冒険や挑戦の対象となる遊びの価値 であり、子どもの危険予測・事故回避能力を育む危険で ある。一方、「ハザード」は、遊びの価値とは関係ない ところで事故を発生させる恐れのある危険である。「リ スク」と「ハザード」は、子どもの生活・遊び経験や身 体能力等の発育発達段階によって捉えられ方が異なり、

一本の線で区分できるものではない。小笠原ほか(2011)

によると、危険が多く、けがを負う可能性が高いような 無鉄砲な行為は、「自らリスクを冒す原動力」として子 どもの遊びとその自己成長を促すが、心身が未分化な状

図 1 身体活動を伴う遊びを安全に展開するための援助 ・ 指導方略の構造 備が必要である(観点

1

。次いで、「幼児の身体の発育

発達、心情や意欲、危険認知力などを把握する」「幼児の 遊びの実態や過去の事故・ヒヤリハット事例を把握する」

によって、身体活動を伴う遊びの実践時に起こりやすい 事故や怪我を予測し、事故を未然に防ぐための対処法や 約束事を設定する(観点

2

。その上で、目的とする身体 活動を伴う遊びについて、「事故や怪我を未然に防ぐため に教材配置や空間構成、動線や職員配置、活動内容・強 度、服装整正を調整する」により安全性を確保した保育 内容やその進め方を策定する(観点

3

。観点

1

3

に基 づいた環境や管理体制下において身体活動を伴う遊びを 実践し、その際に「教材の正しい使い方や目的に適う動 作の仕方など、安全な遊び方を指導・援助する」「活動に 集中できるように働きかける」「危険を先取りし、事故を 防ぐために動作を補助する」など、具体的な安全指導と 安全学習の機会を設ける(観点

4

。観点

1

4

の条件を 満たす身体活動を伴う遊びの計画的・定期的な実践を通 して、「幼児の安全意識、危険感受性を高める」「幼児自 身が危険を回避しながら、安全に気を配り状況に応じた 行動をとる」を育成する(観点

5

ただし、危険要因を除去しようとするあまり、「高さや 速さなど、自身の能力を最大限に発揮して課題を克服す る」や「鬼ごっこのように混沌とした状況の中でスリル を味わう」など、運動の特性から生み出される遊び(活

動)の価値が損なわれないように留意すべきである。国 土交通省(

2014

)の『都市公園における遊具の安全確保 に関する指針』11)によると、危険要因は、危険予測と事 故回避が可能な「リスク」、危険予測と事故を回避するた めの対処法の判断が不可能な「ハザード」に分けられる。

「リスク」は、冒険や挑戦の対象となる遊びの価値であ り、子どもの危険予測・事故回避能力を育む危険である。

一方、「ハザード」は、遊びの価値とは関係ないところで 事故を発生させる恐れのある危険である。「リスク」「ハ ザード」は、子どもの生活・遊び経験や身体能力等の発 育発達段階によって捉えられ方が異なり、一本の線で区 分できるものではない。小笠原ほか(

2011

)によると、

危険が多く、けがを負う可能性が高いような無鉄砲な行 為は、「自らリスクを冒す原動力」として子どもの遊びと その自己成長を促すが、心身が未分化な状態にある場合 には危険性がより高まるために回避すべきだとしている

12)。仙田(

2003

)によると、子どもが好む遊び空間は「隠 所」「別所」「高所」の性質を持ち、外遊びには「自然」

「オープン」「道」「アジト」「アナーキー」「遊具」の空 間がある13)「アジト」や「アナーキー」の遊び空間は、

「隠所」の性質を有するがゆえに大人の視界から隠れた り、無鉄砲な行為を惹起したりする危険性をはらむが、

同時に子どもの同士の人間関係の構築や想像力・創造力 の涵養にも寄与しうる。また、「自然」や「遊具」の遊び

(6)

態にある場合には危険性がより高まるために回避すべき だとしている

12)

。仙田(2003)によると、子どもが好む 遊び空間は「隠所」「別所」「高所」の性質を持ち、外遊 びには「自然」「オープン」「道」「アジト」「アナーキー」

「遊具」の空間がある

13)

。「アジト」や「アナーキー」の 遊び空間は、「隠所」の性質を有するがゆえに大人の視 界から隠れたり、無鉄砲な行為を惹起したりする危険性 をはらむが、同時に子ども同士の人間関係の構築や想像 力・創造力の涵養にも寄与しうる。また、 「自然」や「遊具」

の遊び空間が有する「高所」の性質は、確かに危険性も 含むが、身体を動かそうとする意欲の喚起、運動能力の 形成や運動技能の獲得を助長しうる。したがって、幼児 教育・保育においては、危険要因をすべて除去するので はなく、活動や子どもの状況を見極めた上で、「リスク」

は安全教育、「ハザード」は安全管理の範疇として対処 する必要がある。

 本研究では、身体活動を伴う遊びを安全に展開するた めの援助・指導のあり方の視覚化を目的として、幼児教 育・保育現場で具体的に取り組まれている事例を検証し た。さいごに、これからの幼児教育・保育において必要 性が高まるであろう「遊びを通した安全教育・安全管理」

に関するスキルの形成とその評価に資する指標を試作し た(表2)。安全教育と安全管理に関する援助・指導ス キルを5つの水準に分けて考えた。幼児教育・保育にお いて、身体活動を伴うような運動遊びや外遊び等の安全 性を保障するためには、①施設の物理的状況や気象状態 に応じた環境整備、②身体活動時に起こりやすい事故や 怪我の予測に基づいた事故防止のための確認項目と行動 指針の策定の2点が必須条件となる。次段階として、③ 乳幼児の心身の発育発達段階に基づいてリスクを見極 め、管理した上で活動内容・方法を選択し、④乳幼児が 具体的な活動を伴う安全学習に取り組めるように援助・

指導する必要がある。これらを踏まえ、⑤幼児の安全意

識や危険回避力を育成するための活動計画を作成し、日 常的に身体を動かすことのできる環境下において計画し た活動を実行する必要があると考えられる。

 本研究において検証した安全面に配慮した援助・指導 方略とその構造、スキル水準の実用性を明らかにする ためには、実際の事故やインシデントの事例、幼児教 育・保育現場における身体活動を伴う遊びの実践事例と の照査が必要である。幼稚園教諭・保育士と幼児体育専 門指導員の援助・指導方略の差異に着目すると、「遊び を通した安全教育・安全管理」は、保育形態(子ども主 体 ‐ 保育者主導)、活動の実施回数(未経験 ‐ 経験済 み)や熟達度(未熟 ‐ 熟達)によって、安全教育と安 全管理の比重が変動すると考えられる。また、保育経験 年数や職位などの影響を受けている可能性がある。今後 は、保育状況や保育者自身の属性との関連度を考慮した 分析・検証が必要である。

文 献

1)日本保育保健協議会事故予防・安全対策委員会(2017)

事故予防・ヒヤリハット報告システム(IA システム)

へ報告された全事例の概要.保育と保健,23(2):107- 114.

2)内閣府子ども・子育て本部(2018)教育・保育施設 等における重大事故防止策を考える有識者会議年次報 告. 入 手 先〈https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/

outline/pdf/houkoku/jiko_houkoku.pdf〉( 参 照 2018- 12-20).

3)文部科学省(2017)幼稚園教育要領.東山書房.

4)厚生労働省(2017)保育所保育指針.フレーベル館.

5)内閣府・文部科学省・厚生労働省(2017)幼保連携 型認定こども園教育・保育要領.フレーベル館.

6)田中哲郎(2008)保育園における事故防止と安全管

空間が有する「高所」の性質は、確かに危険性も含むが、

身体を動かそうとする意欲の喚起、運動能力の形成や運 動技能の獲得を助長しうる。したがって、幼児教育・保 育においては、危険要因をすべて除去するのではなく、

活動や子どもの状況を見極めた上で、「リスク」は安全教 育、「ハザード」は安全管理の範疇として対処する必要が ある。

本研究では、身体活動を伴う遊びを安全に展開するた めの援助・指導のあり方の視覚化を目的として、幼児教 育・保育現場で具体的に取り組まれている事例を検証し た。これからの幼児教育・保育において必要性が高まる であろう「遊びを通した安全教育・安全管理」に関する スキルの形成とその評価に資する指標の作成を試みた

(表

2

。安全教育と安全管理に関する援助・指導スキル

5

つの水準に分けて考えた。幼児教育・保育において、

身体活動を伴うような運動遊びや外遊び等の安全性を保 障するためには、①施設の物理的状況や気象状態に応じ た環境整備、②身体活動時に起こりやすい事故や怪我の 予測に基づいた事故防止のための確認項目と行動指針の 策定の

2

点が必須条件となる。次段階として、③乳幼児 の心身の発育発達段階に基づいてリスクを見極め、管理 した上で活動内容・方法を選択し、④乳幼児が具体的な 活動を伴う安全学習に取り組めるように援助・指導する 必要がある。これらを踏まえ、⑤幼児の安全意識や危険 回避力を育成するための活動計画を作成し、日常的に身 体を動かすことのできる環境下において計画した活動を 実行する必要があると考えられる。

本研究において検証した安全面に配慮した援助・指導 方略とその構造、スキル水準の実用性を明らかにするた めには、実際の事故やインシデントの事例、幼児教育・

保育現場における身体活動を伴う遊びの実践事例との照 査が必要である。「遊びを通した安全教育・安全管理」は、

保育形態(子ども主体‐保育者主導)活動の実施回数(未 経験‐経験済み)や熟達度(未熟‐熟達)によって、安

全教育と安全管理の比重が変動すると考えられる。また、

保育経験年数や職位などの影響を受けている可能性があ る。今後は、保育状況や保育者自身の属性との関連度を 考慮した分析・検証が必要である。

文 献

1

)日本保育保健協議会事故予防・安全対策委員会

2017

)事故予防・ヒヤリハット報告システム(

IA

システム)へ報告された全事例の概要

.

保育と保健

, 23(2)

107

114.

2

)内閣府子ども・子育て本部(

2018

)教育・保育施設 等における重大事故防止策を考える有識者会議年次 報告

.

入手先

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline /pdf/houkoku/jiko_houkoku.pdf

(参照

2018-12- 20

.

3

)文部科学省(

2017

)幼稚園教育要領

.

東山書房

. 4

)厚生労働省(

2017

)保育所保育指針

.

フレーベル館

. 5

)内閣府・文部科学省・厚生労働省(

2017

)幼保連携

型認定こども園教育・保育要領

.

フレーベル館

. 6

)田中哲郎(

2008

)保育園における事故防止と安全管

.

日本小児医事出版

.

7

)西田明史・野間靖智(

2019

)幼児教育における運動 遊びの実践に必要な援助・指導スキルの検討

.

九州体 育・スポーツ学研究

,33(1)

補遺版:

10.

8

)内閣府子ども・子育て本部(

2018

)特定教育・保育 施設等における事故情報データベース平成

29

年度分

.

入手先

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline /pdf/h29-jiko_data2.pdf

(参照

2018-12-20

. 9

)須藤春一(

1963

)潜在危険論

.

学校保健研究

,5(3):2-

6.

10

H.W.

ハインリッヒ(

1982

)産業災害防止論

,

総合安 表2 身体活動を伴う遊びを安全に展開するための援助 ・ 指導スキルの水準

(7)

理.日本小児医事出版.

7)西田明史・野間靖智(2019)幼児教育における運動 遊びの実践に必要な援助・指導スキルの検討.九州体 育・スポーツ学研究,33(1) 補遺版:10.

8)内閣府子ども・子育て本部(2018)特定教育・保育 施設等における事故情報データベース平成 29 年度分.

  入手先〈https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/

  pdf/h29-jiko_data2.pdf〉

  (参照 2018-12-20).

9) 須 藤 春 一(1963) 潜 在 危 険 論. 学 校 保 健 研 究,

5(3):2-6.

10)H.W. ハインリッヒ(1982)産業災害防止論,総合 安全工学研究所(訳).海文堂.

11)国土交通省(2014)都市公園における遊具の安全 確 保 に 関 す る 指 針. 入手先〈http://www.mlit.go.jp/

common/000022126.pdf〉(参照 2018-08-22).

12)小笠原文孝・根上優・崎村英樹・玉村敏郎・安冨隆

(2011)保育環境の整備とリスク・ガバナンスに関す る研究.保育科学研究,1:126-136.

13)仙田満(2003)子どもの遊び空間.子どもと発育発 達,1(3):148-152.

謝 辞

 本研究の実施に際し、ご協力いただいた幼稚園、保育 所(園)ならびに認定こども園の多くの職員の皆様に心 より感謝申し上げます。

付 記

 本論文は、日本保育学会第 72 回大会において発表し

た内容を加筆したものである。

表 1  身体活動を伴う遊びを安全に展開するための援助・指導方略  【カテゴリー】  [サブカテゴリー] 〈データラベル〉 遊びを通して幼児に身につけさせたい「安全についての構え」  自分の身体に対して興味や関心を持つ  姿勢変化や力の入れ具合など、身体感覚を身につける 事故の状況や怪我の程度を保育者に伝えることができる  安全な遊び方、危険な状況や環境に気づくことができる  遊ぶ中で危険を回避する行動をとることができる 子どもの心身の状態の把握  身体の発育発達の状況の把握 運動能力や技能の習熟度など、何

参照

関連したドキュメント

で実施されるプロジェクトを除き、スコープ対象外とすることを発表した。また、同様に WWF が主導し運営される Gold

市内15校を福祉協力校に指定し、児童・生徒を対象として、ボランティア活動や福祉活動を

必要量を1日分とし、浸水想定区域の居住者全員を対象とした場合は、54 トンの運搬量 であるが、対象を避難者の 1/4 とした場合(3/4

・マネジメントモデルを導入して1 年半が経過したが、安全改革プランを遂行するという本来の目的に対して、「現在のCFAM

一方、Fig.4には、下腿部前面及び後面におけ る筋厚の変化を各年齢でプロットした。下腿部で は、前面及び後面ともに中学生期における変化が Fig.3  Longitudinal changes

その限りで同時に︑安全配慮義務の履行としては単に使

小・中学校における環境教育を通して、子供 たちに省エネなど環境に配慮した行動の実践 をさせることにより、CO 2

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2