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(1)

各種障碍事例との教育的係わり合いにおける調整度 を指標とした交信活動図作成の試み

著者名(日) 藤島 省太, 笹原 未来

雑誌名 宮城教育大学紀要

巻 42

ページ 145‑171

発行年 2007

URL http://id.nii.ac.jp/1138/00000085/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

Ⅰ.はじめに

 教育的係わり合いの場においては、対象となる係わ ら れ 手 が 現 に 直 面 し て い る “障 碍*ᴮ状 況”(梅 津、

±¹··)と、そこに対面相触する係わり手の “障碍状況”

という “相互障碍状況” からの立ち直りをめざすこと が重要な視点であることはいうまでもない。

 しかし

¬

ともすれば何らかの理論的根拠をもとに、

対象となる係わられ手が示す行動を、“健常” という 一般的基準にそぐわない “異質なもの” として捉え、

適応主義的な考え方をもとに “あるべき姿” を求める 傾向も少なくない。

 また、“障碍” の特性を並べ挙げ、その “特性” に見 合った対処をすれば問題が解決されるといった研究方

ᴪ ±´µ ᴪ

調整度を指標とした交信活動図作成の試み

ª

藤 島 省 太・ªª笹 原 未 来

Áôôåíðô ôï íáëå ôèå íáð ïæ ãïííõîéãáôéöå áãôéöéôù æòïí ôèå ðïéîô ïæ óðåãéæéã ãèáòáãôåòéóôéã ïæ òåçõìáôéïî éî åäõãáôéïîáì éîôåòáãôéïîó

÷éôè ãáóåó ïæ öáòéïõó ôùðåó ïæ âåèáöéïòáì äéóôõòâáîãå®

 ÆÕÊÉÓÈÉÍÁ Óèïôá áîä ÓÁÓÁÈÁÒÁ Íéëõ

要 旨

 筆者らの実践研究においては、教育的係わり合いの場における交信活動の滞りを、係わり手・係わられ手の “相 互不全態(相互障碍状況)” と捉えている。そして、係わられ手の生命活動の調整に見合った対処を行なう係わり 手が、自らの調整度も考慮に入れた係わりを行なうことによって、相互革生的な交信活動が展開すると考えている。

 本報においては、筆者らの実践の中で表層的には大きく隔たってみえる視覚・聴覚二重障碍といわれるYさん、

知的・視覚障碍・そう/うつ的傾向を示すKさん、自閉症といわれる

Ëáé

君、ÁÄÄといわれるR君、吃音といわ れるJ君のᴲ人の事例をもとに、梅津の「行動図」を援用し、係わり手・係わられ手双方の行動を調整度から捉え 直した交信活動図の作成を試み、調整度からみた教育的係わり合いの諸相について検討を行なった。

         

Ëåù ÷ïòäó

 交信活動図(Íáð ïæ ãïííõîéãáôéöå áãôéöéôù)

 

調整度(Òåçõìáôéöå äåçòåå)

 

革生行動体制変換

 

(Âåèáöéïòáì­ïòçáîéúáôéïî­ôòáîóæïòíáôéïî ïæ òåöéöáì)

 

交信活動相互不全態

 

(Íõôõáì õîæõìæéììåä óôáôå ïæ ãïííõîéãáôéöå áãôéöéôù)

 

信号系活動(Óéçî óùóôåí áãôéöéôù)

特別支援教育講座

** 東北大学大学院教育学研究科

*ᴮ  梅津(±¹··)においては、“障害” として、「害」の記載がなされているが、この表記が当時は一般的であり、社会的背景や当用 漢字にはない「碍」の字が公的には認められていなかったことに鑑み、本報では近年様々に議論されるようになった “ショウガイ”

についての暫定的な表現として、「碍」の字を当てることにする。

(3)

法論や、人間の心を単純で画一化された機械でも扱う ような悪しき科学観が蔓延する風潮がなきにしもあら ずである。

 確かに、一般的な診断名や障碍名によって類型化を 試み、類型化した対象に特定の方法論に基づく対処を 試みることは、一見科学的であり、合理的であるよう にも思われる。

 しかし、そうした手法は、対象のもつ特性が個有・

固定的なもので、生涯不変で静的であるという前提の もとには成り立ち得るが、力動的活動が展開する教育 的係わり合いの場においては、そうした考え方が必ず しも成り立つとはいえないと筆者らは考えている。何 故なら、教育的事象においては、細谷(±¹·²)が指摘 しているように、交互作用を抜きに、それを論ずるこ とは不可能であるからである。

 また中野(²°°¶)が指摘するように、「こどもの個 としての体験をおとなが自身の個の体験として共有す る、それが教育の場における知識と個の体験を繋ぐ溶 媒ではないか。どのような知識もこの溶媒によって個 の体験事実に置き換えられなければならない。だから どのような理論も方法も、それがそのまま教育の場で 実施されてはならない。知識がこどもの体験事実に とってどんな意味を持つか、どんな時にもこども自身 にそれを問うてそれに従わねばならないのだと思う。

(…中略…)実践研究とは個の体験の確定法である。

特定既存の仮説に従った実行は実践研究ではないのだ と思う。こどもの個の体験事実を自身の体験事実とし て共有し、現象するその事実を確定する、実践研究と はそのようなことだと思う。そしておそらく個の体験 事実の確定による実践研究は、個々の事実の確定にと どまらず、行動の系譜発生論的な知識の系として集積 していくのではないかと思う。」ということからみて もわかるように、そうした個の体験事実の集積がなさ れないままに、安易な一般化や類型化が行なわれると きに、その “被害者” は誰になるのかを研究者自らが 問う作業を怠ってはならないと考えられる。したがっ てそうした作業のない、教育における実践研究は不毛 なものにならざるを得ないのではないかと思われる。

 そうした、個の体験事実の集積という営みにおいて は、係わり手は自らのあり様(よう)や生き方も含め 教育的係わり合いにおける成果についての問い直しを 迫られることにもなる。

 また、教育的係わり合いという個と個が織り成す創 造的な営みの過程においては、十分に手を尽くしたか ら、これでもう大丈夫といったことは起こり得ず、い かなる状況下においても、障碍状況が発生する可能性 を孕んでいる。そして、そうした障碍状況の克服によ る体験事実の確定と知識の集積こそが、人類をより賢 明な智の存在へと誘うともいえる。

 そうした障碍状況に陥った際に、どうすればその状 況から立ち直れるのか…?といった問いに関して、梅 津(±¹·¶)は、その著書『心理学的行動図』において、

「“行動図” とでもいうようなものがあって、(…中略…)

現在の行動状態と、望ましい(行動)状態との座標関 係を読みとることができるとしたら、さしあたっての 対処の方針も建てやすくなる」とし、そうした行動図 は、「 現場の特定の状況のなかで、行動が移り変わっ てゆく関係(発生、変換関係)についての情報を、

行動図の制作者と行動図を読む人との共通な信号(行 動図を作図するときの土台となる、全行動体系につい ての仮定系や、そこで使われる用語の定義や、できた ら行動間の座標関係をあらわす尺度の表示法などに関 する)で、 必要で、現在可能な程度の精密さで、写 像されていなければならない。」としている。

 その上で、ᴰつの仮定及び±²の定義を写像原則とし た “行動図” を試案として提起している。(表ᴮ、ᴯ 参照)

 梅津の「仮定ᴯ」に示されるように、「現時点にお ける実現態行動体制は、行動者における現調整状態自 体の指標である」と考えた場合、係わられ手の調整状 態に見合った状況工作を係わり手が行なうことによっ て、交信活動は展開し、活性化が図られていくと考え ることもできる。そして、そうした状況工作が可能に なるためには、係わり手自身が自らの調整状態につい ても、問い直す必要に迫られることはいうまでもな い。

 また、現時点における調整状態に視点を当てるとい うことは、眼前にいる係わられ手が発現している行動 をとりあげるのであって、その子にどんな “障碍名”

が付されているかということを問題にするのではな く、あくまでも現時点における行動の発現(展開、終 止)に関わる諸条件の検討が問題とされなくてはなら ないと考えられる。

 一方、あらゆる行動の発現は、生命活動拡大方向へ

ᴪ ±´¶ ᴪ

(4)

の調整に関与しているとの前提に立てば、日常の教育 的係わり合いの場における、障碍状況からの立ち直り を迫られる場面は、一般に規定される発達課題や問題 行動のみが対象となるのではなく、むしろ係わられ手 が示している全行動体系が対象となり得るということ もできる。

 筆者らは、そうした教育的係わり合いの場において

係わられ手との交信活動の滞りを、係わり手・係わら れ手双方の “相互不全態(相互障碍状況)” として捉え、

係わられ手の生命活動の調整に見合った対処を試みる ことによって、相互革生的な交信活動が展開できると 考えている。また、こうした調整状態の指標は、表層 的な “障碍種別” や “障碍特性” にはかかわらないも のであり、したがってその対処の方針や交信活動の様 相も、係わり手の対処における係わり手自身の調整状 態によって規定されてくると考えている。

 そこで本報においては、交信活動場面における、係 わり手・係わられ手双方の行動の推移を、それぞれ調 整度という観点から捉え直し、それらを俯瞰し、係わ り手の行動が係わられ手の行動調整にどのように反映 されてくるのか、そして交信活動相互不全態の解消を めざした係わり合いとはどのようなものかを再度吟味 してみることとした。

 その方法としては、先に述べた梅津(±¹·¶)の「行 動図」を援用するが、梅津の「行動図」が、単独対象 の行動経過を調整度という視点から捉えていることか ら、それを原型としつつも、係わられ手の調整状態と 係わり手の調整状態を相互に関連づけて検討できない かと考えた。

 そこで、梅津の「行動図」を改変し、「交信活動図」

ᴪ ±´· ᴪ

表ᴮ.行動図写像原則(心理学的行動図。梅津八三、±¹·¶)

定義ᴮ  生活体の状態変化の型(パタ―ン)特性を行動とよぶ。

(仮定ᴮ)  特定行動の発現(展開、終止)は、そのときどきの、生体系内、生体系外の状態より発信する諸信号の処理、配合特 性を条件として調整される。

定義ᴯ   特定行動の発現(展開、終止)が、そのときどきの、生体系内、生体系外の状態より発信する諸信号の処理、配合の 特性を条件として調整される関係にあることを “行動体制” とよぶ。

(仮定ᴯ) 現時点における実現態行動体制は、行動者における現調整状態自体の指標である。

定義ᴰ   中継ぎ過程系における数段の変換操作をへて、形成された行動体制のもとで、はじめて自全態に到るような体制変換 を高次行動体制変換とよぶ。

定義ᴱ   すでに形成されている行動体制と、同じ形式の変換操作によって形成された行動体制のもとで、その体制自全態を来 すにいたった場合このような行動体制変換を同次変換とよぶことにする。

定義ᴲ  高次と同次の行動体制変換をあわせて次序行動体制変換とよぶことにする。

定義ᴳ  すでに形成されている行動体制への変換(実現態化)を回帰行動体制変換とよぶことにする。

定義ᴴ  次序行動体制変換と、回帰行動体制変換とを合わせて革生行動体制変換とよぶことにする。

定義ᴵ   行動者自らの労働、あるいは/および自らの中継ぎ系活動をなかだちとして、自全態に到る行動体制を工作的行動体 制とよぶ。

定義ᴶ   行動者自らは、他者の労働、あるいは/および他者の中継ぎ系活動をなかだちとして、生じた変化によって、自らの 自全態に到る行動体制を呪術的行動体制という。

定義±°   行動体制の変換の調整過程におこる動揺による過程自身のこうむる衝撃を緩和する方向におこる行動体制変換を、緩 衝行動体制変換と名づける。

定義±±   生体内系あるいは/および外系に異常の変化がおこり、両系内のバランスが急速に著しく崩れるときにおこる調整の 粗大な行動体制変換を、救急行動体制変換とよぶ。

定義±²  緩衝行動体制変換のうち、構成信号系活動のとくに優勢となる過程への変換を中継ぎ過程系変換とよぶ。

(仮定ᴰ) 行動体制間の変換特性を、一次元の調整度の高い低いの面から関係づけてみることができる。

表ᴯ.調整度座標軸上の座標指定 

(心理学的行動図。梅津八三、±¹·¶)

ᴮ.革 生  ᴮª.工作的  − ᴮ.高次        ᴮª.工作的  − ᴯ.同次        ᴮª.工作的  − ᴰ.回帰        ᴯª.呪術的  − ᴮ.高次        ᴯª.呪術的  − ᴯ.同次        ᴯª.呪術的  − ᴰ.回帰 ᴯ.緩 衝  ᴮª.中継ぎ

       ᴯª.同伴        ᴰª.挿入        ᴱª.変奏

ᴰ.救 急  ᴮª.解放 − ᴮ.弱        ᴮª.解放 − ᴯ.強        ᴯª.沈潜 − ᴮ.弱        ᴯª.沈潜 − ᴯ.強

※  *のついた数字は、名義尺度。付いていないものは、

序数尺度を示す。

(5)

の作成を試みることとした。

 今回の交信活動図の作成は、あくまでも梅津の「行 動図」を基本とした試作の段階である。しかし、こう した作図を試みることによって、教育的係わり合いに おける係わり手・係わられ手双方の調整の諸相、及び 係わり合いの基本原則といったものが描けるとした ら、そこから得られる知見にも意味があるのではない だろうか。

Ⅱ.交信活動図作図の原則

 梅津の「行動図写像原則」は、表ᴮ、表ᴯに示した とおりである。

 梅津は、作図法について、いくつかの案を提示して いるが、ここでは第ᴮ案として提示されている直交座 標図を採用する。

 この直交座標図では、

 ⑴ 直交座標図では第Ⅳ象限だけを使う。

 ⑵  たて軸の “目盛り” は、上から下への調整度の 高い方から低い方へとならべる。目盛巾は任意に してある。(例示では目盛りは等間隔にとってあ る。)

 ⑶  よこ軸は、左から右へ経過の先の方から後の方 へとならべる。序数尺度としても、また名義尺度 としてもよい。

 ⑷ プロットは、表ᴰの記号例のように定めた。

としている。

表ᴰ.プロットの種類(心理学的行動図。梅津八三、±¹·¶)

       ※ 一部筆者修正

䁲 革生行動体制変換実現態

○ 革生行動体制変換自全態

● 革生行動体制変換不全態 㱾 中継ぎ過程系変換 㾓 緩衝行動体制変換 㾔 救急解放行動体制変換 㾕 救急沈潜行動体制変換

【作図の原則】

 交信活動図の作成に関しては、梅津の「行動図」を 援用する。しかし、作図法に関しては、それだけでは 不十分であることから、作図に当たって新たにいくつ

かの修正を加えた。それは、以下のようなことである。

 ⑴  交信活動図は、係わり手・係わられ手双方の調 整状態を、時間経過を追って表せるよう直交座標 図の第Ⅰ象限と第Ⅳ象限を使う。

 活動図の横中央線は、右方向へと時間推移を示 す。横中央線を境として、係わられ手の行動経過 を上段に、係わり手の行動経過を下段に示した。

序数尺度としても、また名義尺度としてもよい。

 ⑵  たて軸は調整度を示し、中央線に近い程、調整 度が高くなるようにした。

 ⑶  調整度の高い革生行動体制変換は、高次・同次

(次序)行動体制変換、回帰行動体制変換、及び 工作的・呪術的行動体制変換に分類されるが、今 回の試みでは、こうした作図が可能かどうかの吟 味を先行させたため、とりあえずは一括して革生 行動体制変換として扱うこととした。

 ⑷  緩衝行動体制変換も、同伴行動・挿入行動・変 奏行動・中継ぎ過程系変換に分類されるが、ここ では、同伴・挿入・変奏行動を原行動体制の実現 を支えるものとして、緩衝行動体制変換として一 括して扱うこととした。

 ⑸  中継ぎ過程系変換は「緩衝行動体制変換のう ち、構成信号系活動の特に優勢となる過程への変 換」であり、「構成信号系の自己発信・自己受信 による信号変換操作」(梅津、±¹·¶)という現象 的特性を有し、“考え込む”、“ひとりごとをいう”

等といった行動は、中継ぎ過程系変換としての調 整特性をもつとされるが、こうした中継ぎ過程系 変換は、“意図的” な行動として革生行動体制変 換への踏み台となり得ることから、他の緩衝行動 体制とは分けて扱うこととした。

 ⑹  救急行動体制変換には、解放性・沈潜性、及び 強・弱の違いがあるが、それらは開放系性を拡大 する方向におこる解放性の救急行動体制と、開放 系性を収縮する方向におこる沈潜性の救急行動体 制のᴯつに分けて記すこととした。

 ⑺  プロットにあたっては、梅津の「行動図の記号 例」(表ᴰ)をそのまま援用した。

 ⑻  行動単位の区切り方は、係わり手の視点によっ て異なることから、便宜上係わり手の行動記録に 則って区切ることとする。

 ⑼  交信活動図という性質上、二者の行動がほぼ同

ᴪ ±´¸ ᴪ

(6)

時に発現することも起こり得るため、その場合の プロットは、同一縦軸上に表記する。

 ⑽  その際、どちらかの行動が先行して相手の行動 を誘発している場合には、先行している側から誘 発された側へ矢印で繋いで表記する。

 記載にあたっては、煩雑ではあるが、⑻の原則に基 づき、原記録を図の後に文章で再掲するとともに、行 動単位を丸数字、及び実線(係わり手)、破線(係わ られ手)で示した。また、文章記録中の丸数字の番号 は、図の横軸に付した番号と対応させてある。

 また、活動図作成に当たっては、記録漏れや活動図 と記録の不整合、プロット方法に誤りがないよう、記 録と活動図の対照、プロット位置の確認を筆者らが相 互に十分検討し合いながら作成を行なった。

Ⅲ.各種障碍事例との交信活動図

Ⅲ−ᴮ.事例について

 先にも述べたとおり、教育的係わり合いの場におけ る交信活動を調整度という観点から捉え直すというこ とは、対象となる事例の “障碍種別” や “障碍特性”

あるいは “生活年齢” に依拠しないということを示し ている。

 しかし、そうした捉え方が一般的にはなかなか受け 入れられにくいという現実も一方ではあることから、

ここでは敢えて、一般的にいわれている “障碍名” を 明記して紹介を行なう。それぞれの事例に対しては、

一般的に特定の “専門家” が存在し、その “障碍名”

に見合った方法があるかのごとき幻想がもたれがちで ある。何故なら、一定の “生活年齢” における、何ら かの “異常” に対して、確定診断をより細密に行なお うとすることは、その診断の結果、それに見合った方 法(治療法)が適用できるという原則に立たなければ ならないからである。

 また、そうした確定診断が合理的で科学的であるか のごとき誤謬を招くことによって、係わられ手を “対 象として扱う” ことは、ある価値観を強要する教育的 事象においては成り立っても、創造的営みとしての教 育的事象(教育的係わり合い)にはなじまないもので あると考えられる。したがって、教育という仕事に携 わるものには、そうした確定診断のもつ意味につい て、一人一人の見識が求められることはいうまでもな

い。

 筆者らは、対象となる方々を “治療” しようなどと いう高邁な意図は一切もたない。あくまでも、当初は 未熟な係わり手であったとしても、様々な人との係わ り合いを通して、係わり手・係わられ手双方の生命活 動の拡大を促し合える(相互輔生)をめざした教育的 係わり合いの実現を意図している。

 筆者らがこれまでに係わり合いをもった事例から は、それぞれに学ぶべきことがらが多数存在している が、本報においては、その中から表層的に大きく隔 たったᴲ名の事例を紹介したいと思う。

 事例の概要は、以下の通りである。

【事例ᴮ;Ó® Ù®さん】(±¹¸¹年当時±²歳)

 障碍名; 知的障碍及び視覚・聴覚二重障碍(いわゆ る重度・重複障碍といわれる方)

 S

® Ù®

さん(以下「Yさん」と記す)。男児。±¹··

年生まれ。第一執筆者(以下「F」と記す)が係わっ た当時±²歳であった。先天性風疹症候群による心臓疾 患(動脈管開存症、左心房中隔欠損症)及び視覚・聴 覚二重障碍がある。心臓は完治していないが生活に支 障ない程度である。生後ᴮか月のときに両眼が急に白 く濁り(先天性白内障)、手術を受けるが回復せず、

光覚は確認できない。聴覚は両耳とも±°°äÂ以上の聴 力レベルであると思われる。

 訪問教育及び肢体不自由養護学校を経て中学部から 盲学校重複学級に在籍。

 ᴵ歳までミルクしか飲まない生活をしてきたが、

徐々に流動食を摂取できるようになり、咀嚼もみられ るようになった。±´歳時での体重は、²· ëç、身長ᴮ mµ° ãí。ᴮ日が²´ ® µ時間程のサーカディアン・リズ ムで動いているため、睡眠時間が周期的に変動してい た。

【事例ᴯ;Æ® Ë®さん】(²°°µ年当時³´歳)

 障碍名; 知的障碍、視覚障碍及び「そう・うつ」的 傾向

 Æ® Ë®さん(以下「Kさん」と記す)。男性。「指定 障害福祉サービス事業所」通所。Fとの係わり合いは、

±¹¹±年ᴳ月から現在(±·年目)に至る。

 医学的所見としては、精神遅滞、弛緩性まひによる 両足関節機能障害ᴳ級、そう・うつ病的傾向、アト

ᴪ ±´¹ ᴪ

(7)

ピー性皮膚炎、急性緑内症発症(²°歳時)後、徐々に 視力が低下し、現在は全盲ᴮ級。

 小学ᴲ年時より、突然泣き出す、外に出るのを嫌が るといった行動と大食・不眠といった行動が交替して 繰り返され、いわゆる「そう・うつ的傾向」が現れ始 める。

 養護学校卒業後、授産施設T福祉作業所に通所開 始、その後、²°歳ᴳか月時に急性緑内症発症。

 「そう・うつ的傾向」は、現在もみられるが、こと に²°°¶年ᴶ月には、極端な怯えが出始め、ᴯか月程入 院している。それまでの作業所での仕事量は、そう状 態の時はᴮ日²°°個、うつ状態の時は、ᴮ日²°個と差 があったという。

 係わり合い当初は、まだ保有視力もあり、文字も読 むことができ、生活上の支障はそれ程なかった。しか し、徐々に視力が低下し、現在は全盲の状態である。

 ²°°¶年ᴶ月に現れた極端な怯えの要因としては、そ れまであった光覚が消失したと思われることや、自宅 の引っ越しによるそれまで確定していた空間が大きく 変動したこと、さらには作業所の民営化に伴う環境の 変動が挙げられるが、これらについては今後の係わり 合いの中で検証していく必要があろう。

 Kさんは、遠慮がちで直接的な要求発信を特定の人 以外に行なうことは殆どない。また、そう的な状態で は、音声言語発信も頻繁で、冗談や洒落なども交えた やりとりを行なえ、笑いも絶えない。しかし、一方で は粗大な調整により、集中にかけることが多い。

 逆に、うつ的状態の時は、殆ど音声発信がみられず、

自分から動こうとすることも殆どない。

 こうしたそう的状態とうつ的状態の交替は、周期的 に現われるようである。

 また、Kさんは下肢にまひがあるためか、足に触れ られることを極端に嫌がる。

【事例ᴰ;Ë® Ë®さん】(²°°´年当時±³歳)

 障碍名;自閉症及び精神遅滞

 Ë® Ë®さん(以下「Ëáé君」と記す)。男児。±¹¹±年

ᴯ月生まれ。

 Fとの係わり合いは、²°°°年±±月から現在に至る

(²°°°年±±月から²°°µ年ᴰ月までは月ᴮ回程度平日ᴯ 時間からᴯ時間半程の時間帯で延べ´´回(うちᴯ回は 不定期)行なわれた。)²°°µ年ᴱ月以降は、遠隔地へ

の転居に伴い、年数回Fらが訪問し、数日間の係わり 合いを行なっている。

 係わり合い当初(小学ᴱ年時)の養護学校の担当者 の資料によれば、

Ëáé君は「『多動で大変』

(椅子に座っ ていない)、『わがまま』(教師の言うことをしないで 勝手なことばかりする)、『だから手をつないでやらせ なきゃだめ』というのが概ね学校内の彼の評価だっ た」という。学校では、教室にいることは少なく、体 育館のステージ横にある梯子を登りたがるが、その場 所は危ないので、登ることは禁止されていたとのこと である。

 Fとの係わり合いの間は、学校を休んで来学してい たが、学校の担任の話によると、「Ëáé君のいない学 校は、静かでもの足りなさがあった」ようである。ま た、母親の話では、「Ëáé君は学校には進んで行こう とはしていなかったが、(Fが教育相談を行なってい る)大学に出かけるときは、日頃外出する際に持ち歩 く手提げカバンを用意して玄関で待っている」とのこ とであった。

 Ëáé君との係わり合いの経過においては、学内探索 における地図作りや高さの見積もり、買い物場面にお ける個数の学習、調理活動(ラーメン作り)、型はめ 課題から線図形、直線図形、ひらがな文字などを用い た課題学習などの他、バスでの学外探索活動(主に仙 台駅前周辺)などを行なってきた。

【事例ᴱ;Ô® Ò®さん】(²°°¶年当時±¶歳)

 障碍名; 注意欠陥障碍(ÁÄÄ:Áôôåîôéïî­Äåæéãéô 

Äéóïòäåò)

・発達性協調障碍との所見あり。

 Ô® Ò®さ ん(以 下「R 君」と 記 す)。男 子。±¹¸¹年

ᴵ月生まれ。高校ᴮ年生、±¶歳(²°°¶年ᴮ月当時)。

 第³´週目で緊急帝王切開。生下時体重± ¬ ¶·¸g、身 長³¹ ãí。低出生体重のため保育器に入る。小さく生 まれたものの、その後急速に標準体重になった。

 幼少時から描画に興味を示さず、嫌がった。円が描 けない、読字・書字が苦手で、板書の写字もむずかし く学習障害の疑いがあるのではということで、²°°²年

ᴰ月、Fのもとを訪れる。

 その後、第二執筆者(以下「S」と記す)が、²°°³ 年ᴮ月から²°°¶年ᴮ月まで、週ᴮ回ᴯ時間程度の教育 的係わり合いをもった。

 中学ᴮ年時に、発達相談支援センターで注意欠陥障

ᴪ ±µ° ᴪ

(8)

碍(ÁÄÄ)・発達性協調障碍といわれる。

 視覚および聴覚には、日常生活上での問題はない。

学習面で書字(特に漢字)を回避しがちであった。筆 圧も弱く、字形・文字列のバランスが不安定で、罫線 内に文字を収めることが苦手であった。また、鏡文字 や誤字・脱字、濁点・半濁音や促音・拗音の欠落ある いは付け間違いがしばしばみられた。

 ことに中学入学後の英語学習においては、アルファ ベット字形と音の対応、英単語の発音が苦手で、類似 字形・単語の混同もしばしばみられ、R君には書字や 描画・英語学習を嫌がる様子と視覚認知面での未熟さ がうかがえた。

 この他に、学習場面でのR君には、なかなか課題に とりかかろうとしない様子や、途中で注意が他のもの にそれてしまうといった “注意の転動” もみられた。

 このようなR君に対し、当初Sは、R君が自発的に 活動へとり組めるようになることを目標とした。そし て、課題の完遂による達成感が、苦手な活動や課題に 対する抵抗感を軽減し、集中を促し得るのではないか と考え、課題学習を中心とした係わり合いを始めた。

しかし、この係わり合いにおける “良かれと思う対処”

が、逆にSがR君の行動発現を牽制する、展開を抑制 する、終止を短絡させるといった状況を招いてしま い、結果的にR君の行動をさらに発現しづらい状況、

あるいは発現した行動も十分展開を経ないで終止する といった不全態状況に追い込んでしまった。

 そこで、こうした係わられ手の行動を不全態にとど めてしまう係わり手の一方的な働きかけを、Sは “先 制的対処”(「機先を制し、係わられ手の行動を遮るこ とで、活動を係わり手の意図した方向へと一方的に先 導する」)として捉え直し、係わり合いの方針を改め ることとした。

【事例ᴲ;Ó® Ê®さん】(±¹¸¹年当時±²歳)

 障碍名;吃音

 Ó® Ê®さ ん(以 下「J 君」と 記 す)。男 児。±¹·¶ 年

±²月生れ、中学ᴮ年生。

 発吃はᴰ歳前後で、「み・みかん」「あ・あっち」な どの語頭音の繰り返しがみられた。母親は、大きくな れば治ると思いあまり気にしていなかったが、次第に 吃音がひどくなってきたと報告している。小学ᴮ年時 に言語障害特殊学級(通称「ことばの教室」)を紹介

され、小学ᴯ年時より通級。当時の学級担任の情報に よると、「学習面では集中力に欠ける。語彙力が劣る。

文章を読み取るのに時間がかかり途中で飽きてしま う。生活面では、運動が活発であるが感情をストレー トに出しやすく、友達とトラブルが多い。口論ではか なわないため、手を出しやすい。」ことなどが指摘さ れていた。

 Fが出会った当初のJ君は、口数も少なく、また声 も小さく、自分から話題を作ってFに話しかけること も殆どなかった。したがって、係わり合いの進行は、

Fの問いかけに対し、J君が応えるといった受信行動 に終始しがちであった。このため、吃音もあまり目立 たない印象を受けた。吃音のタイプは、語頭音の繰り 返しあるいは難発が見られた。

 会話場面では、「わがんねー(わからない)」という 応え方が多く、J君が経験した活動を説明する場合 も、問いかけに単発的に応え、そのやりとりが数回続 くと話題が完結する、あるいは単語がすぐに出てこな い時に、いくつかの選択肢を呈示するとやりとりが成 立することが多かった。このように、J君が音声言語 を介して他者に発信することは少なく、交信活動に不 全態が生じていたといえる。

 対面して話す状況では、J君は背をやや丸めるよう にして、手で机の縁をなぞる、上体を前後に揺らすと いった、会話を続ける際に生じる動揺を和らげるため の調整特性をもった行動(緩衝行動体制)が多くみら れた。

Ⅲ−ᴯ.交信活動図からみた係わり合いの諸相  以下では、各事例における交信活動図を示しなが ら、それぞれの事例における係わり手および係わられ 手の調整度からみた活動の諸相について検討を行な う。

 各交信活動場面における、抽出した行動単位は、丸 数字、及び実線で示してあり、それぞれ横軸にその番 号を付しておいた。

 なお、原記録には係わり合いにおける特定場面がと り上げられているが、ここでは便宜上その中から抜粋 した場面を活動図として掲載している。したがって、

活動図に記載されている丸数字は、一連の活動の一部 として抽出したことを示している。

 さらに、活動図に転記した原記録と対照できるよ

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(9)

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交信活動図.自成信号系活動の促進と構成信号系活動の形成状況(Yさん)

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③④⑤⑥⑦⑩⑪ ①②

(10)

う、煩わしいようであるが、図の後に活動記録を文章 で掲載してある。文章記録中の丸数字の番号は、図の 横軸に付した番号と対応させてある。

 ⑴【 交信活動図ᴮ】自成信号系活動の促進と構成信 号系活動形成の諸相

 記録は、Fの前任地である国立特殊教育総合研究所

(現独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)にお ける、盲聾児のための合宿における一場面である*ᴯ  当初Yさんは、Fに揺らされると、揺れを快とする 笑いを頻発していた。この笑いは、Fが多めに揺らし たり、Yさんが揺らしてほしそうにするといった “兆 し” を示した際に、Fが積極的に揺らすことを行なう

ことによって、容易に実現し自全態に到ったことによ り、調整過程に動揺を生じ、粗大に分化した笑いとい う救急行動体制変換として発現したものであるという ことができる。

 また、揺れが止まった際の静止やいつも行なってい る「チョーダイ」のサインの誤発信は、Yさんの中に 生じた動揺を緩和しようとする緩衝行動体制変換と捉 えることができる。

 Fは、こうしたYさんの救急行動や緩衝行動を自成 的な発信として読み取り、積極的に揺らすことを行 なった。そして、揺らす際に約束ごととなるような構 成信号「トントン」を添えることにより、Yさん自身 がFの手をつかむ、自分のおしりを叩くといった発信

ᴪ ±µ³ ᴪ

*ᴯ  藤島省太:Ùさんとの合宿における係わり合いから学んだこと(±¹¹²)

表ᴱ.自成信号系活動の促進と構成信号系活動の形成状況の場面

※ 敬称 略    ①Fは、Yのおしりを「トントン」と叩いた後、揺らすことを行う(それまで係わっていたAMらは、±°回位を区切りに、揺 らしては止めるようにしていたとのこと)。Fは、初めての係わりということで、少し多めに揺らすことを何回か繰り返してい た。 Yは、揺らされると時折声を出して笑う。 Fが揺らすのをやめると、Yはじっと静止する。 ②FがYのおしりを「トント ン」と軽く叩いた後で揺らしてあげると、 Yは笑い続ける。 揺れが止まると「ウー」と声を出し静止する。 再び、FがYのお しりを「トントン」して揺らすと、Yは笑う。 

 ③Yは「ちょーだい」のサイン(Yがお菓子などを要求する際に行う、指先で頬をつつく動作)を発信する。 Fはそれを「揺 らせ」の発信と考え、±°回揺らした後止めるが、Yは笑い続ける。 ④Yは、自分のおしりのところにあるFの手を左手でつかむ。

Fがおしりのところをしっかりおさえると、左手を左頬にもっていき体を丸くする。 FはそれをYからの発信とみて揺らす。

Yは、揺らしている間笑い続ける。 ⑤±°回揺らして止めると、Yは、自分の左手でおしりをᴯ回叩く。 Fはそれを発信とみなし、

「トントン」と発信した後揺らす。 ⑥±°回揺らして止めると、YはFの右手をとってひっぱる。 FがYのおしりを「トントン」

と叩くと、Yは、Fの胸に顔を押しつけるようにして体を丸くする。 その後、Fが揺らす。 ⑦Yは、揺れている間は笑わないが、

揺れがとまると笑い出す。 Yが下方に手を伸ばしたのを見て、FはYが降りようとしているのかと思い、中腰になり下へYの 体をもっていく。 すると、YはFの手をにぎり下へ引きおろすようにして、再びFにしがみついてくる。 Fは、トントン」を 発信した後揺らす。 揺らしている間中、Yは笑い続ける。 (中略)

 ⑩Fが、「トントン」を発信すると、抱きついたままじっとしている。 Fが揺らすと、Yは笑いはじめる。 Fは「ᴮ、ᴯ、ᴰ、

……ᴴ、ᴵ、ᴶ、±°」と数えながら、±°回揺らし、最後を「じゅーどすーん」と言って、Yの体を大きく持ち上げて止めるよう にすると、Yは大きな声を出して笑う。 ⑪Yは、再び抱きついてくるが、Fがすぐには揺らさず、Yの発信を待っていると、ゆっ くり自分のおしりのところにあるFの手をとる。 Fがこれから揺らす予告として、「トントン」とYのおしりを叩くと、Yは揺 らされる前に笑い声をあげる。 Yは、揺らしている間笑っている。 Fが「じゅーよいしょ」と言って止めると、再び笑う。 ⑫ Fは、Yを抱きづらくなり、そのまま下に座り込む。 Yは、笑うがFの首の後ろをつねり、Fの膝に載ってくる。 Fは「立つよ」

のサインを発信した後、立ち上がる。 ⑬立ち上がった後、Fがすぐに揺らすことをしないでいると、Yは少し考えている仕草 をした後、ゆっくりとFの手をとって自分のおしりのところへもっていく。 Fが「トントン」を発信して揺らすと、Yは、笑う。

⑭「じゅーよいしょ」で揺らすのをやめた後、Fは、Yの手でおしりを「トントン」して発信してくれないかと考え、Yの手を とって、Yのおしりを叩く。 するとYはゆっくりと身構えるようにする。 Fは、Yに「トントン」の意味が伝わりつつあると 判断した後、揺らすことを行なう。 Yは、笑う。 Fは「じゅーよいしょ」で揺らすのを止め、疲れたため「おりる」サイン(Y の体を、ᴯ回下へ軽くおとすように揺らす)を発信して、Yを下へ降ろす。 ⑮Yは、Fから離れず、笑い続けながらFの首の 後ろをつねる。 ⑯FはYを抱き、「立つよ」を発信して立ち上がる。そして、再びFの手をとって「トントン」の発信をすると、

Yは、揺らされることを期待するように身構える。 その後、AはYを揺らす。 ⑰揺れが止まると、YはFの手をとったままじっ としたまま何かを考えている様子をみせる。 Fは、Yが発信の手立てに戸惑っているのかと思い、再び「トントン」を発信して、

Yを揺らす。 揺らし終えても、Yは、Fの手をとったままでじっとしている。 再びFが「トントン」をすると、Yは笑い声を あげる。 その後Fが揺らす。 しかし、Fが揺らしていても、Yにあまり笑顔はみられなかった。 Fは、Yが疲れたのではない かと思い、途中で揺らすのをやめ、Yを下へ降ろす。 

 ⑱Yは、布団の上で横になる。 Fは、いつでもYが接近できるようYのそばに座る。 Yは、布団に横になったままじっとし ている。 ⑲Fが、Yのそばにいることを伝えるために、Yの足を軽く叩くと、Yは、Fの手を払いのけ、場所をずらし、じっ としている(約ᴲ分)。 

(11)

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①③ ⑤ ⑦⑨⑪ ⑬⑮ ⑰ ⑲ ㉑ ㉓㉕ ㉗ ㉙㉛ ② ④ ⑥⑧ ⑩ ⑫ ⑭ ⑯⑱ ㉒ ㉔ ㉖ ㉘ ㉚

交信活動図.緩衝行動が頻発し相互不全態に終始した場面(Kさん)

(12)

を行なうようになった。

 このことは、「トントン」という身振り信号素材が YさんとFの交信関係を中継ぎする構成信号として成 立したことを示している。

 このような交信関係の成立過程においては、Yさん がFの「トントン」の発信に対し身構えたり、発信直 後に笑うという行動も起きている。こうした行動をF が、Yさんのさらなる自成的発信として受信すること によって、活動はさらに展開したということができ る。

 このように、救急行動体制あるいは緩衝行動体制を 自成信号系活動として受信し、その行動体制が生じた 理由を係わり手が推察するとともに、その調整度に見 合った構成信号を添えることによって、係わり手自身 の中継ぎ過程系における自己調整も図られると考えら れる。

 また、係わられ手に受信された信号を係わられ手自 身が類似の状況において自己発信・自己受信したり、

係わり手の予告的発信によって状況に見合った調整も 可能になり、それまでの救急的・緩衝的調整から革生 的調整に至ることも保障できるのではないかと考えら れる。

 さらには、そうした係わり合いによって次第に双方 向的な革生行動体制の自全態化が促しうるともいえ る。

 ことに、Yさんのような重度・重複障碍といわれる 人や自ら積極的な構成信号による発信がむずかしい人 との教育的係わり合いにおいては、自成信号系活動の 促進はより重要であるといえる。

 しかし、こうした自成信号系活動の促進は、ひとえ に係わり手の信号の読みとりにかかっており、「子ど もから発する自成信号を係わり手がどう受信しどう働 きかけるか、さらにその働きかけによる子どもの変化 を再び自成信号として読みとるというように、時々 刻々の変化に係わり手自らが柔軟に対処していくこと が必要である」(藤島、±¹¸¶)といえる。

 そうした係わり合いの実現には、係わられ手の示す 微かな行動を抽出し、そこに意味づけを行ない、自成 信号として受信する係わり手側の中継ぎ過程系変換が 重要となる。つまり、係わり手自身が実践の場におけ る構成信号を中継ぎとした行動の捉え方、対処の方 針・実行を瞬時・瞬時に判断し実行することを迫られ ることにもなる。

 ⑵【 交信活動図ᴯ−ᴮ及びᴯ−ᴯ】緩衝行動の頻発 による相互不全態状況から観想的 “待ち” によ る相互革生的な交信活動への展開について  Kさんは、靴下を履く際や歩行の際に足の爪が伸び ていることで痛がり、爪を切ってほしいと願ってい る。しかし、先に述べたように

¬

下肢まひのためか、

ᴪ ±µµ ᴪ

表ᴲ.緩衝行動が頻発し相互不全態に終始した場面

 ①Kさんは、音声時計のボタン付近に指を差し近づけているものの、何かを考えているらしく、これまでのようにすぐに押す ことはしない。少しして、ボタンを押す。 『あとᴮ分です』のアナウンスが流れる。②F「はい、あとᴮ分になりました」 ③ Kさん「終わったらなんの?」 ④F「終わったら鳴る……、そうしたら終わり」 ⑤Kさんは、再び音声時計のボタンを押す。

『あとᴮ分です』のアナウンス。顔を右手甲で掻いた後、右手指先でも掻く。 ⑥Fが「どうします?」と言うと、⑦Kさんは 左手に持った音声時計のボタンのあたりへ一旦指を持っていくが、押すのをやめ、ゆっくりとFの方へ音声時計を差し出す。 

⑧Fはそれを受け取り、「はい、じゃあ爪切りしますか?」と言って、再度Kさんの左足に左手をもっていくが、⑨Kさんは「あ と何分?」と言って応じる風はなく、⑩Fが「あとᴮ分です。それで終わりです」と言っても、⑪Fの左手を右手で持って押し 返す。 ⑫FはKさんがまだ切る態勢に入っていないと判断し、一旦手を退く。Fが「どうする?」と聞くと、⑬Kさんは「ど うすっかなー?」とやや困ったように応える。 ⑭F「(Kさんが)そう言う時はまだやっぱりむずかしいですね」 ⑮Kさんは「あ とᴮ分?」と迷ったように言う。 ⑯Fは確かめる意味も込めて、音声時計のボタンを押す。 『あとᴮ分です』のアナウンス。

F「どうする?」、「切る……?」 ⑰Kさん「時間あとᴮ分しかないんだ」「もう±²時になるんだ……」Kさんは左手で左足を 押さえ続けながら、右手で左前腕部を掻き続ける。 ⑱F「どうする?」 ⑲Kさん「先生どこいんの?」 ⑳F「ここにいるよ」

「切る……?」Fが左手でKさんの左足に触ろうとすると、㉑Kさんは左手でFの手を上から押さえる。 ㉒Fが「あと³°秒だ」

と言うと、㉓Kさんは音声時計の方へ手を伸ばし、「どこ?」と言う。 ㉔Fが音声時計のボタンを代わりに押すと、『あと²°秒 です』のアナウンスが流れる。Fが「あー²°秒だ!」と言うと、㉕Kさんはその声に驚いたようにニタッと笑って、「びっくり した!」と言うが、すぐにまたうつむく。Kさん「²°秒しかたってない……」 ㉖F「²°秒しかたってないねー」 ㉗Kさん「先 生、どこに時計あんの?」と言って音声時計に手を伸ばしかける。 ㉘FはKさん君に再度爪切りの態勢をとってもらおうと思い、

音声時計のボタンを押すと、『あとᴱ秒です』のアナウンスに続いて、『お時間です。ピンポーン・ピンポーン・ピンポーン』と 鳴る。㉙Kさんは力無くうなずく。 ㉚F「ということは、今日はなしということでよろしいですか?」と言うと、㉛Kさんは Fの話にひとつひとつうなずきながら聞いているものの、最後はうなずかなくなり、手で額を掻きむしる。 

(13)

ᴪ ±µ¶ ᴪ

交信活動図.観想的“待ち”による相互革生的な交信活動場面(Kさん)

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①③⑤⑦⑨⑪⑬⑮⑰⑲㉑㉓㉕㉗㉙㉛㉝㉟㊲㊴ ②④⑥⑧⑩⑫⑭⑯⑱⑳㉒㉔㉖㉘㉚㉜㉞㊱㊳⓪ ✭ⴣߩᝌ౉ ਛ⛮߉ࠍ⚻ߚ௛߈߆ߌߦࠃࠆ ⥄ోᘒൻ

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参照

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