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堂内気象の観測 その3 校倉(あぜくら)

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(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

堂内気象の観測 その3 校倉(あぜくら)

著者 永田 四郎

雑誌名 奈良学芸大学紀要

巻 7

号 2

ページ 43‑53

発行年 1957‑12‑15

その他のタイトル Meteorological Observations in Old Temples (III) Azekura

URL http://hdl.handle.net/10105/4882

(2)

(43)

堂 内 気 象 の 観 測 その3  校 倉(あぜくら)

永  田  四  郎 (昭和32年10月1日受理)

Shiro Nagata : Meteorological Observations in Old Temples CH) Azekura

I 緒 校倉の構造上の特徴としては

1.三角形の木材を積み重ねた窒壁構造 2.通風の極めてよい高い床下

3・屋根瓦を除いて,木材のみを建築材料とし,これが比較的豊富に使用されている̲

等が上げられる。従って,室内気象上の特徴は当然考えられるのであって,古くからその通風説*

(1)

は有名であるし,近来は実測による校倉内気象の解明も若干試みられている。

著者は, 1956年度文部省内地研究員として京都大学滑川忠夫教授の指導を受け,その研究の一 部として夏,冬の2回,校倉の気象観測を実施した。この観測では,京都大学気象学特別研究所 の精密測器多数を使用し,京都大学大学院学生山口,村田,川西の諸氏の協力を得て主として精 密観測により,校倉内気象の特質の検出に努めてみた。

滑川教授及び精密測器の使用とその計測値の整理に当られた山口信之氏,宿舎提供等の御厚情 を戴いた東大寺執事上司海雲氏に対しては特に謝意を衷するものであるo

C弟著者は実測等によりこの説を検討したが誤説のようである。別の機会に触れたいO )

Ⅱ 観 A.観測した校倉(第1図及び写真参照)

(第1 図)

南 面

東大寺法華堂(三月堂)経蔵である。床板と麻附近には隙間があり,完全な姿ではないが,四 壁の校木問には隙間が殆んど無く,校倉の特徴は大体保持していると見られるC相当以前から倉 内は殆んど空で,観測には好都合の状態であった。

校倉周辺は,南方近くに樹木と石塔があり,東方の山と共に日射等に若干の影響を与えている 以外には,近くに大きな障害物は無い。

昭和32年4月  日本気象学会関西支部年会発表

(3)

(44)

永  田  四  郎

B.観測期日

第1回(夏期) 1956年8月31日〜9月1日

第2回(冬期) 1957年3月9日〜3月10日 精密観測

両回共にその前後数日間,自記温,湿度計による観測を実施したo

観測日を中心とした天院(奈良気象台の資料による)は大体次の通りであるO

第 1  表 C1956年〕

8月30日  雨後曇り

時,気温,湿度.風向,風速,天候.日照 8月31日

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0.2

0.9 ⑬  0.8 2.2 0 1.0 3.0 0 1・0

0.4

3.0 ◎

1.3

3   n U   O   4

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C1957年)

3月8日 北東の風雨.,南西の風強く快晴 時,気温,湿度,風向,風速,天候,日照

3月9日

ーC %     m/ち

3 2‑8 70     1.5

6 3.4   SSW 3.8 9 5.0 69 WSW 2.4 ◎ 12 8‑4    NW 7.6    1.0 15 10.2 41 SW 6.5 0 1.0 18 6.8   WSW 5.0

21 4‑1 72     1.3 ゥ

24 4.0         3.6

3 5.8 60 SW 5.9    NW 9 5.6 79 NNW 12 4.9   NNW 15 4.6 64 NNW 18 4.0 N

21 2.8 80  ‑ 24 2.1   SSE

III

cO ^ CTl ^ O H CSI Lfi

3

^ I H   S   L H   H   n U  

9月2日 南西の風,晴;北後東の風弱く,快晴 日 3月11日 北後南の風,雨後晴;北西の風 曇1

C.測点, 観測項目,

2 表参照 ) (第 2 図

ーL 一一一一旦 ‑ ¥ @ 狙 ◎

十 ∴ ∴

一称㊦ 熟 成E㊥ 無

、Cu 8 6 )粟

㊦ 、ゝ㊤ 匝P㊥ 白号

盛 ㊤ 冒主 、、 ⑦ ゥ I! ¥ 蓋 ゥゥョ 蓋

rlu 的 幾.度Akf 畠⑤魔

ノ ′ " /′ ′′ ′ ′ ′′ ′ ′ ′ ′′ ′′ ′ ′ ′′ ′ ′ ′ ′ ′′ ′′ ′ ′′ ′ ′′ ′ ㊨ ノ ′′ ′′ J ′ ′

電符

iォl喜l漣it 腎計 記温/追奪計

蝣I. ft滝計 碑スィ、ソケ

(第2図及び第

(4)

堂内気象の観測:その3 校倉

第    2    表

(45)

測       .a

1 屋根瓦表面 2 muvi Lf†内)

3 倉内申央床上 4.8m(5m;

4 ク  ク    4m

5 ク  ク    3m

6 ク  ク    2m

7 ク  ク    1m

8 ク  ク  0.5m(0.1nO

9 ク  ク   0.3m

lO 貪内床板   Om ll 東壁内表面(床上約1m) 12 酉 ク  ( ク ) 13 南 ク  ( ク ) 14 北 ク  ( ク ) 15 床下(地上約 0.8m)

観 測 m hl

‑Jimi山崎 表面温度

気温 気流(かもいの所)

ォv&l

気温,蒸発量 気温,蒸発量

㌔;ISl.補間竜. Vi総 気温

気温,湿度,蒸発量 表面温度,蒸発量

一夫而Sd '8:

気温,湿度,蒸発量,気流

測     器

a.熱電対 b.熱線微風計

C.自記温,湿度計(1日捲) d.平田式蒸発計

e.高須式レコ‑ダー f.アスマン通風温配計

○測点3, 4, 5, 6, 7, 8 0句ifel測'ft:

には熱電対を 滑車を通じて 倉外より上下

して行う。

tLO測定開始約30 分前に開扉し 以後観軸終了 まで開扉しな

aサ

m 田  矧  kv^^^^^^^V^HI

主な観測結果を第3表に示す。蒸発量については考察の中に示してある。第3表で冬期の屋根 瓦,南壁,北壁の表面温度は測器の故障の為,充分な結果が得られなかったので示していない。

また,気流の測定は実施しなかった。

冬期の観測期日前後に於ける自記温,湿度計の示度を第4表に示す。

(5)

3    表

(6)

m      ミ

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(7)

(48)       永  田  四  郎

Ⅳ 考 A.校倉内の気温垂直分布

第3図に, 18時, 0時, 6時, 12時の倉内気 温及び表面温度の分布状態を代表的に示す。

倉内の上下温度差は非常に小で,この結果で は,夏1.6。C,冬0.3。C以下(屋根裏と床板の 表面温度を除く)である。また,殆んど上部が 高温となっていて,分布曲線はよく似た型を保 持したまゝで変動している。

普通家屋では,温度変化の小さい床下地温, 及び床下空気の影響を受けて,室温変動は室内 低所で小,高所が大となり,従って上下温度差 は大,分布曲線も複雑な型で変動するものであ るが,校倉ではその高く開放的な床下の為に,

この様な分布状態を示すのであろう。かかる室 温分布状態が室内空気に如何なる性状を与える

(第 3 図)

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ト 調         M 仏

・       つ J

かほ分らないが, "落ち着いた,安定したもの"

ではなかろうかと想像する。また,殆んど常に室内高所程高温になっていることは,熱伝達や倉 内空気の移流の面から興味ある問題と思うが,まだ究明していない。

B.校倉内外の気温変化

(第 4 図) 第4図から,倉内気温

の日変化は意外に大きい ようである。しかし,短 小時間内に起る微小変動 は殆んど消失している。

厳密な比較ではないが 今,試みに,法隆寺綱封 蔵(校倉同様に高い開放 的な床下であるが,周壁 ほ木材と漆喰の窓の殆ん ム0  ど無い平面壁である。蔵 内は三室に分れ,本観測 値を得た南室の気積は,

この校倉と大差無いと思 われる。)の大体同時期の

(2)

測定値と比較すると,校 倉の日変化が著しく大き いことが分る。これは校 倉の外壁面は大きな"ひ だ''を有し,外界に対す

(8)

堂内気象の観測:その3 校倉      (49) る熱の放,受面積が平面壁に比して著しく大となっていて,より外界の気温変動を受け易い状態 にある為と考えられる。

これと同様の傾向は他の場合も見られるが, 1956年9月1日の18時頃,校倉内で異様な暑さを 体感したが,夏の西日による暑さも相当きついようである。

C.校舎内,温度分布の変化

校倉内の四周壁及び屋根裏,床板の表面温度と,倉内中央床上2m気温,床下気温の変化を図 示すれば男5図の如くなる。

(第 5 図〕

これから気づく二,三の傾向として

i.日中は温度分布の差が大きく,夜間から早朝にかけて小となっているo Lかし,日中でも 日射の無い場合(例えば3月10日)は差が小さい。

このことは,これだけの観測結果から一般的傾向と断定し難いし,また校倉のみに現れる傾向 ともいい難いが,この場合は比較的明瞭に現れているようで,次の様な考察もなされようO即ち, 前述の如く校倉の外壁面が外界に対して,放,受熱がより行われ易い状態にあるので,日射の如 き定方向よりの受熱を或る時間行う時は,その影響が比較的よく現れるのではあるまいか。また, 若し倉内温度との差の大きい風が一定方向から長時間吹きつける時も室内温度分布の差を大きく するのではあるまいかと考えられるのである。 (3月9日〜10日の観測で西壁表面温度が時に低

くなっているが,この理由は分らない. )

2.夏冬共に朝8時〜10時頃室内外各点の温度が殆んど等しくなっている。両もこの時の室内 気温の垂直分布を見ても,上下の温差ほ殆んど無く,室内気流も非常に弱くなっている。この様 なり安定状態''がこの時刻頃一般的に見られるのか否か株明らかでないが,校倉の如く高い開放 的な床下で床下空気や床下土地の影響を受けにくい場合,室内外気温が大体等しくなったまだ日

(9)

(50)      永  田  四  郎 射の無い早朝には,充分起り得ることであろう。

U.校倉内外の湿度変化(第4図参照)

校倉内の湿度変化は,微小変動が消えて,日変化が著しく小さくなっている。この様なことは

(3)

一般の木造家屋や箱内でも認められることであるが,校倉の場合は比較的顕著のようである。こ れは,木材の吸放湿による恒湿性を示すものであろう。

今,夏の観測について,倉内水蒸気張力と室壁と室内との平均温度との関係を図示すると第6 図の如く,二,三の点を除いて大体規則正しく並び,密接な関係のあることを示す。即ち,室内 の水蒸気量は室壁温,室温に応じて増減し,室壁,床板,屋根裏等の木材がその温度に従って水 分を吸放出していると考

えられる。

同様に,冬の観測につ いて関係を求めると, 3 月9日〜10日の観測値か らほ点が極めて散在し一 定関係を示さないのであ るが, 3月7日〜10日の 4日間の平均値を用いる と図の如く大体並ぶ。

喫放湿は水蒸気張力の

(4)

大きい時はど顕著Tある ので冬期水蒸気張力の著

(第 6 図)

しく小さい時には以上の

如く並びにくいのであろうO この様に,水蒸気の多い時はど吸放湿が活礎に行われ,室内湿度変 動を小さくしていることから,我が国の如く,夏季高温多湿の環境に於てほ,木材等の吸放湿性

は室内気候上重視すべきであろう。

所で,完全に攻放湿が行われる場合は,図中の等湿度線に沿い,全く吸放湿の行われない時は 等水強練と一致する筈である。今,図の如く諸点の近似曲線を求め,これと等水張線(その時の 平均温度,平均湿度に応じたもの)との角度をβ,その時の平均湿度の等湿度線とこの等水張線

との角度をαとし, βとαとの比を求めると,これがその状態での吸放湿能力を示す一つの目安 となろう。この場合,夏は吸放湿能力は非常に大きいが,冬は著しく小さくなっている。

E.校倉内の温度,湿度変化の関係

第4図から,校倉内での温度,湿度変化の間に若干の位相のずれが認められる。

木箱の中では昇温と共に湿度も増大し,両も湿度最高が温度最高に先行することが指摘されて いるが,校倉のこの場合は稗これと異なる点もあるが,・位相のずれのあることは明かであろう。

(5)

しかし,ここでは湿度変化が,夏の降温時には遅れ,冬の昇温時には先行しているが,これが一 般的なものかほ,その機構と共に検討せねばならない。

F.校倉内外の蒸発量の比較

平田式蒸発計による測定結果は第5表の通りであるO

(10)

堂内気象の観測:その3 校倉

(第 5 表)

(51)

(1956) 8 月31日14時30分〜9 月1 日16時30分 C1957) 3 月9 日12時30分〜3 月11日15時15分

倉 内

梁 上 (床上約3 m ) 5.5 gr 中階床 ( ク 2 m ) 6.0

室中央 ( ク lm ) 4.5 平均 室中央 ( ク0.3m ) 5‑5 5.5gr 床 上 0 m ) 5‑5

倉 円i≡≡≡ …≡アア 0 .3≡∴ 00 …""I ・」│ 9.0sr3

床 下 (地上由 0.8m 〕 14.02T ‑床 下 巨 地上 0.8m ) 35‑0 gr

(2)

室内外の蒸発量の差は冬大で夏に小となっているが,法隆寺綱封蔵での観測でもこれと同傾向を 示しているO即ち,綱封蔵に於ては,内外蒸発量の比が夏1:1.9,冬1:4.5となっていて,この 場合と大体似ている。どの様なことから,かかる傾向が現れるかほ,蒸発量が多くの要素によっ て増減するので簡単にはいえないようである。

G.校倉内外の気流

熱線微風計による高須式レコ・‑ダーの記録のうちから, 1956年9月1日06時と同14時を中心と した2例を下に示すO

(第 7 図)

卓絶、∴・t ・1.

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a 前山

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1

図の複雑な波形は気流の変動によるもので,その幅は気流変動の振幅を示し,右端の基線から の距離で気流の速さが読み取れる。これらの記録から,偶数正時を中心とした10分間平均の気流 の速さと振幅を求めると,第3表の如くなり,これを図示したものが第8図である。

(11)

(52)

永  田  四  郎

(第 8 図)

これらから,大体次の諸点が考えられる。

1.校倉内でも秒速10cm‑20こm程度のかなりの気流が認められる。しかし,その振幅は一般 に非常に小さく,両も変化が少ないことから,乱れの小さい定常的な流れではないかと考えら れる。

2.校倉内気流の振幅は,室内中央部では昼夜共に大きな変化は無いが,かもい附近では夜間極 めて小さいのに対して,戟,日射と共に急に増大し,昼間は大きくなっている。主として日射 による堤根の昇温と関係があるようである。

3.一般に校倉内気流と外気流とはその変動が簡単には対応していない。例えば気流の速さは倉 内では夜間が昼間より大であるのに反し,外気では昼間が大であるし,記録中の微小変動を比 較しても対応は殆んど認められない。しかし,時には倉内気流の振幅が急増し,これと外気流 の変動とが或る程度対応しているのが認められる。 (例えば第7図中14時10分頃)

これらのことから,倉内気流は,一般の外気流には直接の影響を殆んど受けていないが,或る 状態(主として外気流が上下方向,時V̲は南方向)のもとでは,外気流に影響され,乱されて いるようである。また,倉内気流は上下流が主の様である。

4.校倉内の気流の速さが夜間大で昼間小となっているが,この理由は分らない。また, "通風 説"では,低湿で風速の大きい昼間に校倉内気流も速くなる筈であるが,上の事実はこの説の

根拠の無いことを示す一例であろう。

Ⅴ 結

この観測は,夏,冬の代襲的な気象状態のもとで行い得なかった点に於て意図に反したが,次 の諸点では,校倉気象の特徴らしいものを見出し得たと思う。即ち,

1.校倉内の上下の気温の差は非常に小さい。

(12)

堂内気象の観測 こ その3 校倉

(53)

2.校倉内の気温垂直分布曲線はよく似た型のま上で,外気温に応じて変動している0

3.校倉内の気温日変化は比較的大きい。しかし小変化は殆んど消失している。

4.校倉内の湿度変化は著しく小さく,木材の恒湿性または吸放湿性がよく認められる。

5.校倉内の気流は,外気流や,外界の湿度とは殆んど無関係で,主として変動の小さい上下 流と思われるO

等である。そして,これらの何れも,校倉建築の構造的な特徴と結びつけて考えると,一応の気 象学的な説明が可能のようである。

校倉は文化財保存庫として注目されているが,この観紬ま気象学的立場からの第一段階の試み で,文化財保存の観点には立っていない。しかし,常時密閉のまゝの本校倉内におびただしい塵 攻が堆積していたことに就いて文化財保存の観点から注意をうながして置きたいO

参  考  文  献

(1) ‑桝:奈良における校倉建築内の温湿度  建築雑誌 昭.ll (1)明戸:正倉院の気象学的研究  中央気象台研究時報3ノ6

(1)青木:正倉院聖語蔵内の徽気候学的観測  中央気象台研究時報3ノ6 (1)青多村;正倉院宝庫の気象状態  中央気象台研究時報4ノ9 (2〕永田・'法隆寺講堂内の気象観叔rl 奈艮学芸大学紀要6ノ2 (3)畠山;木箱の中の湿度  農業と物理 嘱. 22

(3)音多村:木材の恒温作用について  中央気象台研究時報3ノ6 t4)上野:建築材料の吸盤性放湿性に駒する研究  Eg民衛生. 3ノ11; 12

(5)前田:室内泣度変動に関する研究 その3  建築学会研究報告21.

(13)

参照

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