• 検索結果がありません。

.競技力強化のための今

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア ".競技力強化のための今"

Copied!
23
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

2019. 6 No. 4 37 ─ 59

研究論文

我が国のエリートスポーツ政策ネットワークの構造と変容

:シドニーオリンピック競技大会からリオデジャネイロオリンピック競技大会までに着目して1

日比野 幹 生(スポーツ政策学研究室)2 舟 橋 弘 晃(早稲田大学)3

間 野 義 之(早稲田大学)4

Abstract

This study focuses on elite sports policy in Japan in the period from the Sydney Olympic Games to the Rio de Janeiro Olympics Games and utilizes interviews and a literature review to shed light on the structure of policy networks and on subsequent important changes in that network. Dynamic analysis of each Olympic cycle, employing the four analysis dimensions in the analysis framework of Marsh and Rhodes, clarified the following points.

First, it was shown that, until the Atlanta cycle, network membership was limited but, since the Athens cycle, such membership changed with the passage of each Olympic cycle. After the Athens cycle, largely as a result of factors surrounding specific challenges and system changes, political actors as well as actors from other policy domains became involved, and membership had a different appearance for each Olympic cycle. However, although membership characteristics changed, employment and economic interests remained important within the network throughout all of the relevant Olympic cycles, and there was no change in type when compared with the period leading up to the Atlanta cycle.

Second, it was shown that the various actors formed an integrated network in the period from the Sydney cycle to the London cycle, but that integration weakened temporarily in the Rio de Janeiro cycle. The frequency of interactions between actors increased with the passage of each Olympic cycle and, although there was a change in network membership, the members shared the same basic aim of promoting elite sports. However, in the Rio de Janeiro cycle, friction temporarily arose between the actors because of the necessity of system change, and the integration weakened. The conflict was thereafter corrected, and efforts toward intra-network consensus were renewed, so the unity was maintained.

1  The Structure and Changing of Japan’s Elite Sports Policy Networks: From Sydney Olympic Cycle to Rio de Janeiro Olympic Cycle

2  Hibino Mikio, Sport Policy

3  Funahashi Hiroaki, Waseda University

4  Mano Yoshiyuki, Waseda University

(2)

Third, all actors have specific resources, and it was found that the distribution of resources within the network changed with the passage of each Olympic cycle. Resource distribution from the period leading up to the Atlanta cycle until the Athens cycle consisted mainly of the distri- bution of subsidies and grants awarded by the Japanese Olympic Committee. However, our study suggests that distribution of resources for new projects, starting with the Beijing cycle, centered on the Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology and the Japan Sport Council.

Fourth, in the period from the Sydney cycle to the Rio de Janeiro cycle, there was a positive sum game, with power relationships based on the resources that the various actors possessed as well as mutual dependence. In the period from the Sydney cycle to the London cycle, the posi- tive sum game continued, with the entire network obtaining essential resources through mutual dependence, enabling policy formation and implementation. However, in the Rio de Janeiro cycle, friction arose between the actors that was prompted by system change. Thereafter, as a result of the policy network management of policy-making bodies, there were efforts toward new insti- tutionalization, and the positive sum game continued.

The research results above are likely to contribute to research into elite sports policy and practice, as well as to the promotion of elite sports.

抄録

本研究では,シドニーオリンピック競技大会からリオデジャネイロオリンピック競技大会までの エリートスポーツ政策に焦点をあて,政策ネットワークの構造と変容を明らかにするために文献調 査及び聞き取り調査を行い,Marsh & Rhodes の分析枠組における 4 つの分析次元を援用してオリ ンピックサイクルごとに動態的に分析することで以下のような点を明らかにした.

第一に,アトランタサイクル以前では限定的であったメンバーシップが,アテネサイクル以降で はオリンピックサイクルが経過するごとに移り変わっていたことが明らかになった.

アテネサイクル以降ではイシューや制度変化などによって政治的なアクターや他の政策領域のア クターなどが参加しオリンピックサイクルごとに違う様相をみせていた.一方,メンバーの移り変 わりはあるものの,ネットワーク内の利害については全てのオリンピックサイクルを通して職業及 び経済的利害でありアトランタサイクル以前からその類型には変わりがないことが示唆された.

第二に,諸アクターは,シドニーサイクルからロンドンサイクルまでは統合されたネットワーク を形成していたが,リオデジャネイロサイクルでは一時的に統合が弱まっていたことが明らかに なった.オリンピックサイクルが経過するごとに各アクター間の相互作用の頻度は高まり,メンバー の移り変わりはあるものの,エリートスポーツ推進の基本的価値は共有されていた.しかし,リオ デジャネイロサイクルでは制度変化の必要性から一時的にアクター間の摩擦が生じ統合が弱まっ た.その後対立は調整され再びネットワーク内のコンセンサスが図られ統合は維持されたことが示 唆された.

第三に,全てのアクターは各々の資源を有しており,諸資源のネットワーク内の配分はオリンピッ クサイクルが経過するごとに移り変わっていたことが明らかになった.アトランタサイクル以前か

(3)

1 緒言

近年,多くの先進国ではオリンピック競技大会 をはじめとする国際競技大会に向けた国際競技力 向上が推進されている.国家間のメダル獲得レー スは多額の投資を伴った激しい国際競争を巻き起 こしており1),この現象は超大国間の軍拡競争に 例えて「グローバル・スポーツ軍拡競争」とも呼 ばれている.このような国においては,中央政府 やスポーツ機関による個別政策の策定や新たな組 織の設立を伴ったエリートスポーツの制度化が進 んでいる2)

我が国のエリートスポーツは 1964 年東京オリ ンピック競技大会(以下,「東京大会」という.)

以降に低迷が続き,再び向上傾向に転じたのは 2000 年のシドニーオリンピック競技大会(以下,

「シドニー大会」という.)からであり,直近のリ オデジャネイロオリンピック競技大会(以下,「リ オデジャネイロ大会」という.)では金メダル 16 個を獲得するまでになった.この間には我が国で もエリートスポーツ政策の推進を位置づけたス ポーツ基本法の制定やスポーツ基本計画の策定が

行われ,メダル獲得に向けて多額の国費が投資さ れると言った「軍拡」傾向がみられる3).2020 年東京大会の開催決定以後は,さらにこの傾向は 強くなっている4)

我が国では,エリートスポーツの推進をスポー ツ庁(以前は,文部省,文部科学省.),日本オリ ンピック委員会(以下,「JOC」という.),中央 競技団体(以下,「NF」という.)などの諸アクター が担ってきたことは周知の通りである.前述のよ うなエリートスポーツの推進の制度化を鑑みれ ば,このような諸アクター間が構築する関係やそ の構造はどのようなものか,またこれらは政策展 開の中でどのように変容してきたのかといった点 は学術的に関心が高まるところである.加えて,

今後ますますエリートスポーツ政策が積極的に展 開されようとしている我が国においては,国,独 立行政法人,地方自治体,スポーツ団体,民間事 業者等などの多様な諸アクターの連携・協働が求 められており注 1),諸アクター間の関係の深層に 迫る政策研究には政策実務の関係者からも期待が かかるものである.

エリートスポーツに関する研究では,これまで らアテネサイクルまでの資源の配分は JOC が関与する補助金・助成金の配分が中心であったが,

北京サイクル以降の新たな事業の資源の配分は文部科学省や JSC が中心であったことが示唆され た.

第四に,シドニーサイクルからリオデジャネイロサイクルまで,各アクターは各々が有する諸資 源によるパワー関係にあり相互に依存するポジティブ・サム・ゲームの状態であった.シドニーサ イクルからロンドンサイクルまでは,ネットワーク全体が相互依存によって必要な資源を獲得して 政策の形成・実施を可能にするというポジティブ・サム・ゲームの状態が続いていたが,リオデジャ ネイロサイクルでは制度変化の際にアクター間に摩擦が生じていた.しかし,その後政策決定機関 の政策ネットワーク・マネジメントによって新たな制度化を図りポジティブ・サム・ゲームを維持 していたことが示唆された.

以上の研究成果は,エリートスポーツ政策の研究や実務及びエリートスポーツの推進に貢献する ものであると考えられる.

Key words:Elite sports, policy process, Olympic cycle, resource dependence キーワード:エリートスポーツ,政策過程,オリンピックサイクル,資源依存

(4)

マクロ,メゾ・ミクロの各レベルの研究が多数行 われてきた3,5,6,7).しかし,日本のエリートスポー ツ の 展 開 を 対 象 と し た 研 究 は 希 少 で あ る.

Yamamoto(2008)は,エリートスポーツのシス テムや構造,政策に着目して,日本のアテネオリ ンピック競技大会までのエリートスポーツの展開 について研究している8).Yamamoto(2008)の 研究は,我が国のエリートスポーツの発展の経緯 を捉えた貴重な知見を提供している.しかし,政 府やスポーツ団体などの諸アクターがどのような 関係からエリートスポーツ政策を形成・実施して きたのかと言った点は解明されていない.

政策学においては,諸アクターが関わる政策を めぐる連携・協働の関係を捉え,政策を実現する ための関係のあり方を明らかにする研究方法とし て政策ネットワーク研究がある.他の政策領域で は政策ネットワーク研究によって,政策過程にお ける諸アクター間の関係を構造的・立体的に捉え るとともに,諸アクターの機能的展開を動態的に 把握し分析することで貴重な成果を収めている.

そこで,本研究では,我が国のエリートスポー ツが 1964 年東京大会以降に再び向上傾向に転じ たシドニー大会からリオデジャネイロ大会までの エリートスポーツ政策に焦点をあて,政策ネット ワークの構造と変容を明らかにすることを目的と する.

2 先行研究の検討

我が国のスポーツに関する政策ネットワーク研 究は,スポーツ産業行政を対象とした研究9),ス ポーツ振興法の改正と分権を対象とした研究10)

など中央及び地方レベルの諸アクターに関わる研 究が行われている.一方,地方レベルの諸アクター に焦点化した研究も行われてきた.地方自治体の 事業団等を対象とした研究11),地方のリゾート 開発事業を対象とした研究12),地方自治体の国 際競技大会の開催準備を対象とした研究13),地 方自治体と J リーグクラブのスポーツ施設を対象

とした研究などが散見される14)

これらの研究では,各スポーツ政策をめぐる諸 アクター間の相互作用等を明らかにするととも に,各政策ネットワークの特質を捉えるなど,我 が国のスポーツ政策における政策過程研究に貴重 な知見を与えている.政策ネットワークは,政策 ごとに政策ネットワークが異なり,その諸アク ターの相互作用もそれぞれである.政策過程研究 を発展させるためには,これまで対象となってい ない政策において,さらに研究を推進し多くの政 策ネットワークの様相を明らかにすることが必要 である.とりわけ,前述のとおり,これまで分析 対象となっていないエリートスポーツ政策におけ る政策ネットワークを明らかにすることは重要で あり,当該研究は我が国のスポーツ政策における 政策過程研究として意義があると考えられる.

3 研究方法

3.1 分析枠組み

政策ネットワーク論とは,公私のアクターが織 りなす相互依存のネットワークに着目し,その中 で彼らの共働により展開される政策及びその作 成・決定・実施プロセスを考察しょうとするもの である15).これらは,理論的な射程の相違によっ て大きく2つの学派に大別できる.1 つは,諸ア クター間の資源の相互依存に着目してネットワー クの分析に焦点を絞り,利益集団政治モデルの分 析用具として政策ネットワークを活用する利益媒 介学派である16).もう一方は,従来の官僚制と 水平的市場,その両者とも異なる,国家と社会,

公的セクターと私的セクターとの新しい関係,新 しい統治形態,すなわちガバナンスの側面を政策 ネットワークに照射するガバナンス学派である16)

本研究は,スポーツ政策におけるガバナンスだ けを射程とする研究ではなく,近年,積極的に推 進されているエリートスポーツ政策における諸ア クター間の相互作用に注目し政策過程を明らかに することをねらいとしていることから,諸アク

(5)

ター間のあらゆる形態の相互作用を政策ネット ワーク概念の中に包摂する利益媒介学派の理論に 依拠した研究を行うこととした.

政策ネットワーク研究の利益媒介学派を代表す る研究である Rhodes & Marsh(1992)では,政 策ネットワークを「資源依存を通じて相互に結び つけられ,資源依存構造の断絶により他の一群あ るいは複合体とは区別される,諸組織の一群ある いは複合体」と定義している17).Marsh & Rho- des(1992)は,資源依存関係に基づき諸アクター 間のパワー関係,政策ネットワークの構造や特質 を分析する最も基本的な分析枠組みを提唱してい 18).この分析枠組みは,多くの政策ネットワー ク研究で用いられ,当該研究の進展に寄与してい る(表 1).このようなことから,本研究では,

Marsh & Rhodes(1992)の分析枠組みを用いて 政策ネットワークの分析を行う.

Marsh & Rhodes(1992)の分析枠組みでは,

政策ネットワークは一本の「線形」の一方の端に

「政策コミュニティ」を置き,その対極の端に「イ シューネットワーク」を置く連続体であるとされ,

分析次元としてメンバーシップ,統合,諸資源,

パワーといった 4つの分析次元を提示している18) そこで,本研究ではオリンピックサイクル注 2) ベースにして,①メンバーシップの分析次元に関 しては,エリートスポーツ政策の展開からメン バーシップ及びその利害の類型を分析する.②統 合の分析次元に関しては,アクター間での政策の 立案や実施に係る協議や連絡調整などから相互作 用を分析するとともに,メンバーシップの変化か ら継続性,アクターに関する法令・方針・計画な どからコンセンサスを分析する.③諸資源の分析 次元に関しては,アクターの資源に着目してネッ トワーク内などの資源配分を分析する.④パワー の分析次元に関しては,アクター間のパワー関係 から相互の資源依存を分析するといった 4 つの分 析次元からどのように政策ネットワークの構造が 変容したのかを分析することとした19,注 3,注 4).

表1 政策ネットワークの類型と特質

* Marsh & Rhodes(1992:251)をもとに筆者作成

(6)

3.2 調査方法

 本研究では,シドニー大会からリオデジャネ イロ大会までを中心に文部省・文部科学省・スポー ツ庁,JOC,日本体育・学校健康センター・日本 スポーツ振興センター(以下,2011 年までは

「NAASH」という.2012 年以降は「JSC」という.)

等の関係文書,その他エリートスポーツに関する 文献等を対象とした文献調査,及び政府関係者を 対象とした聞き取り調査により行われた.

なお、本研究は,対象者の人権及び尊厳を重ん じ,個人情報の保護に留意する必要があることか ら日本体育大学「人を対象とする研究に関する倫 理規定」に基づき,「人を対象とする研究に関す る審査委員会」による審査を受け承認を得た研究

(番号:018-H032)である.

4 結果と考察

4.1  アトランタオリンピックサイクル以前(~

1995 年)におけるエリートスポーツ政策 ネットワーク

シドニーオリンピックサイクル(以下,「シド ニーサイクル」という.)からリオデジャネイロ オリピックサイクル(以下,「リオデジャネイロ サイクル」という.)の政策ネットワークの構造 と変容を分析するために,まず従来のエリートス ポーツ政策に関わる諸アクター,政策の展開,政 策ネットワークの構造がどのようなものかを捉え ておくこととする.

4.1.1  エリートスポーツ政策に関わる諸アク ター

アトランタオリンピックサイクル(以下,「ア トランタサイクル」という.)以前でのエリート スポーツに関わる諸アクターは,文部省,NAASH,

JOC,NF,都道府県教育委員会(以下,「県教委」

という.),都道府県体育協会(以下,「県体協」

という.)といったセクターである.

文部省は,体育局に 1962 年に設置したスポー ツ課を,1988 年に生涯スポーツ課と競技スポー

ツ課に改組し,競技スポーツ課は競技力向上を所 管する行政組織として我が国の競技力向上に取り 組んできた.1992 年の競技スポーツ課予算約 28 億 2000 万円のうち約 16 億 300 万円が JOC 補助金,

約 1 億 3700 万円が都道府県への補助金となって いる20).スポーツ振興法では,第 20 条 4 項で国 のスポーツ団体への補助が規定されている.

JOC は,1991 年に特定公益法人として日本体 育協会(以下,「日体協」という.)から独立した.

JOC の独立の動きは 1980 年に政府の圧力の下で モスクワ大会をボイコットせざるを得なかったこ とに起因する.完全な自主・独立性をもった自ら の予算を有する団体であるために 1989 年に日体 協理事会で独立・法人化が承認されるとともに,

1991 年に特定公益法人として認定され完全に日 体協から独立した.JOC の目的及び事業は,オ リピック・ムーブメントの推進,オリンピックへ の選手派遣,選手強化等が寄付行為に規定されて おり,国際競技力向上は JOC の専管となってい る.このため,前述のとおり文部省から国費の補 助を受けるとともに,当該補助金を強化費として JOC に加盟する NF に配分している21)

NF は,競技者(選手)やコーチが所属し,直 接の競技活動を行う.オリンピック競技種目であ る NF 自体は JOC に加盟してオリンピックへの 出場を目指す.JOC からは,前述のとおり国費 の補助金の配分を受けるとともに,NAASH から もスポーツ振興基金の助成金(以下,「基金」と いう.)を受けている.

NAASH は,1987 年に設立された基金の運営 を行い,NF,競技者(選手),コーチに助成金を 支給している.従来,国立スポーツ施設の運営管 理や学校教育下での傷病に対する見舞金の支給を 主な業務としていたが,基金設立により資金支援 団体としての役割を担うことになる.当初は政府 250 億円,民間 100 億円の出資を得て 350 億円の 基金として制度が開始され,発足翌年の 1988 年 の助成総額は約 15.2 億円22)であった.本制度は,

日本体育・学校健康センター法で規定されている.

(7)

県教委は,文部省からジュニア競技者の競技力 向上を目的とした補助金を受けている.県体協と の連携の下,強化合宿やコーチへの支援を行って いる20).スポーツ振興法では,第 20 条 2 項で国 の地方公共団体への補助が規定されている.

4.1.2 エリートスポーツ政策の展開

エリートスポーツ政策は,従来,1964 年東京 大会,1972 年札幌冬季大会での選手強化を除け ば,日体協を中心に実施されていたが,1977 年 に国の補助金が開催国のオリピック強化以外では 初めて交付される21).JOC が日体協から独立し た後は JOC に補助金が交付され,海外・国内強 化合宿,国際競技大会への選手派遣,コーチの養 成・配置等が行われている.アトランタサイクル 以前でエリートスポーツ政策を明確に打ち出した ものとしては,1989 年の保健体育審議会答申「21 世紀に向けたスポーツの振興方策について」があ る.本答申は,1987 年の中曽根総理大臣の要請 による議論をとりまとめた「スポーツの振興に関 する報告書」23)を後ろ盾としており,一貫指導 体制の整備,国立スポーツ科学センター(以下,

「JISS」という.)の整備,スポーツ医・科学研究 などが施策として提言されている24)

一貫指導体制の整備については,文部省が都道 府県競技力向上ジュニア対策事業として県教委及 び県体協の実施する強化合宿やコーチ配置を支援 しているが,当時は前述の答申で示された日体協,

JOC,NF によるスポーツカリュキラムの開発が 進捗せずその後も本件は課題となっている.JISS の整備については,1988 年から設置準備調査協力 者会議が設置され検討が引き続き行われている25)

文部省の施策は,JISS の設置準備を除けば,

補助金による施策である.JOC 補助,都道府県 ジュニア対策事業がアテネオリンピックサイクル

(以下,「アテネサイクル」という.)以前の主要 な施策・事業であり,JOC,NF,地方自治体が 主導する活動を文部省が補助金で支援するという スキームが一定期間行われてきたといえる.

このほか文部省の補助金以外では,NAASH が

運営する基金によって NF,競技者(選手),コー チへの助成が行われており,これらも当該サイク ル以前からの重要な施策といえる.

4.1.3 エリートスポーツ政策ネットワークの構造 アトランタサイクル以前における政策ネット ワークの構造について,まずメンバーシップとい う分析次元に関しては,前述の文部省,NAASH,

JOC,NF,県教委及び県体協であるといったア クターは,全て競技力向上に関係する機関・団体 であり,メンバーは至って限定的であると言える.

文部省は文部省設置法に競技水準の向上が任務と して規定され,NAASH は日本体育・学校健康セ ンター法に競技水準の向上を図るための活動への 支援等が業務として規定されている.前述のとお り JOC は寄付行為に選手の育成・強化が目的や 事業として規定され21),NF も一般的には寄付行 為や定款に競技力向上に関することが規定されて いる.県教委も一般的には条例や規則にスポーツ

(競技力向上を含む)に関することが任務として 規定され,県体協にも寄付行為や定款に競技力向 上に関することが規定されている.財源的な事項 については,前述のとおりスポーツ振興法第 20 条では,国の地方公共団体やスポーツ団体への補 助が規定されるとともに,地方公共団体のスポー ツ団体への補助が規定されている.このようなこ とから,全てのアクターの任務等は,法令,寄付 行為及び定款などで規定されている競技力向上に 関係する事項であることから,このアクター間の 関係は職業的利害といった類型でるといえる.加 えて,アクター間の補助についても法令で規定さ れていることから,このメンバー間の関係は経済 的利害といった類型であるといえる.

統合という分析次元では,まず相互作用につい て分析すると,文部省からの JOC 補助金に係る 関係,文部省からの県教委及び県体協の補助金に 係る関係,NAASH からの基金助成に係る関係な どが確認できる.JOC の補助金については,年 度ごとの公式な補助金申請書の提出にあたっては 事前に当該年度の事業や経費について協議・調整

(8)

が行われる.事業実施に際しては,文部省は進捗 管理を行うために JOC には定期的に報告を求め るとともに,事業終了時には事業報告書の提出が 義務づけられている.日常的には,前述のような やり取りと併せて文部省からの指導・助言や JOC からの要望などが適宜あり必要な連絡調整 が行われている.とりわけ毎年度の予算要求の時 期には予算や事業の拡充及び縮小などについて頻 繁に協議が行われ,お互いの利害が適切なものと なるよう調整されている注 5).JOC は文部省から の補助金を NF に強化費として配分することで,

NF の選手強化事業を支援していることから,一 般的にはここでも強化費の申請・執行等に係る両 アクターの協議・調整が行われる.前述のように,

海外・国内強化合宿,国際競技大会への選手派遣,

コーチの養成・配置等,NF の選手強化事業は多 岐にわたるため両アクターの協議・調整は日常的 に行われる.なお,JOC が統括団体として文部 省への要望や調整,補助金業務を行うことから,

文部省と NF の直接的な作用は少ないのが現実で ある注 5).県教委及び県体協の補助金についても,

補助金申請・執行等に係るアクター間の協議・調 整が行われ注 5),お互いの利害が調整されている.

NAASH の基金助成においては,NAASH が NF の選手強化及び大会開催事業,NF に所属する競 技者(選手)やコーチを支援している.ここでも 助成金申請・執行等に係るアクター間の連絡調整 は行われるが,助成対象の選定については JOC からの情報提供により行われている.NAASH の 運営はセンター法に基づき文部大臣の管理のもと で実施されることから,文部省と NAASH の間 では運営交付金に係る要求や評価などが行われ,

お互いの利害について調整されている注 5) 続いて継続性について分析すると,前述のとお りアクターの任務等は法令,寄付行為や定款など で規定されていることから,アクターの利害目的 は変化せず安定した結び付きが維持されている.

これまでも JOC の独立を除けばメンバーシップ には変わりがなく継続性は高い状況にあるといえ

る.コンセンサスについては,前述のとおりアク ターは法令,寄付行為や定款などで任務等が規定 され目的を同じにする施策・事業を実施している ことから,各アクターにはエリートスポーツを推 進するという価値の共有や成果の正当性の受容が あると考えられる.

次に諸資源という分析次元について分析する.

まずネットワーク内の資源配分については,文部 省の財源という資源に焦点をあてる.競技活動に 要する経費を必要としているのは NF であるが,

JOC の寄付行為には,JOC は我が国のスポーツ 選手の育成・強化を図ることや加盟団体の発展と 相互の連絡融和を図ることが規定されていること から,JOC はいわゆる統括団体として NF を代 表する形で文部省からの補助金の対象者となり,

JOC は当該補助金を一定の基準に基づいて NF に強化費として配分している.一方,NF や NF に所属する競技者(選手),コーチには NAASH が基金を直接助成しているが,前述のとおり,当 該助成は JOC の情報により行われていることか ら,JOC は配分に一定の影響力を有しているこ とになる.このようにネットワーク内の諸資源に ついては JOC の配分の権限が顕著であることが 見て取れる.続いて NF 内での資源の配分につい てみてみると,JOC から NF に配分される強化 費は,一般的に NF の種目ごとに配分され,さら に男女別や年代別カテゴリーなどに配分される.

このことから,ネットワーク内の諸資源の配分は 重層的な構造になっているといえる.このほか,

文部省と県教委及び県体協との間にも補助金とい う資源の配分がある.ここでは補助対象になる都 道府県が文部省の裁量で決定されていることか ら,政策決定者に配分の権限があるという補助金 のスキームとなっている.

次にパワーという分析次元について分析する.

木原(1995)は政策ネットワークの基本的な政策 を実質的に権威的に決定するのは政府機関である ことから,これを実質的・権威的政府機関(以下,

「政府決定機関」という.)と呼んでいる26).文

(9)

部省はこの政府決定機関であり,前述のように他 の諸アクターとは別の意味を持っているが,政策 を自立的に決定できるわけではない.文部省は政 策決定という絶対的な権限を有するとともに,そ の他にも予算化による資金という資源を有してい る.一方,JOC は政策立案する権限は有してお らず,財源は限定的であり自己財源だけでは選手 強化事業は実施できない.したがって,文部省は JOC に政策決定の権限だけではなく資金に関し てもパワーを及ぼしているといえる.しかし,文 部省には政策立案などに必要な競技現場の情報は 少なく,選手強化事業を実施する権限,人やスキ ルもない.そもそも NF を統括するような正当性 も有していない.一方,JOC は統括団体として の権限を有し,且つ加盟する NF からの支持とい う正当性を有している.NF から収集した競技現 場の情報を活用して,人やスキルという組織の能 力で選手強化事業を行うことができる.したがっ て JOC は文部省に統括団体としての権限,NF からの支持という正当性,競技現場の情報,人や スキルという組織の能力に関するパワーを及ぼし ているといえる.政策決定機関という絶対的な権 限を有する文部省に JOC はパワー関係を有し影 響力を行使する立場にあるといえる.一方,JOC は前述のような資源に加えて,国内オリンピック 委員会としてオリンピックに選手団を派遣すると いう権限,統括団体として受給する補助金という 資金,補助金を強化費として配分する権限などを 有している.しかし,NF は自身の権限だけでは オリンピックに出場できない.多くの NF では,

資金,人やスキルという組織の能力は限定的であ る.したがって,JOC は NF に選手団派遣とい う権限,強化費という資金やその配分という権限,

人やスキルという組織の能力に関してパワーを及 ぼしていることとなる.一方,JOC には競技者(選 手)やコーチが所属しているわけではなく,JOC は直接強化活動を行うことはできない.しかし,

NF は特定の競技を統括し競技会の開催や強化活 動などを行う権限,競技者やコーチが所属し人や

スキルという組織の能力を有している.したがっ て,NF は JOC に特定の競技を統括し競技会や 強化活動などを行う権限,競技者(選手)やコー チという人やスキルという組織の能力に関するパ ワーを及ぼしているといえる.このほか,NAASH と NF の関係にも基金という資金と基金助成に必 要な競技者(選手)やコーチ等の情報といった資 源(JOC を経由)などに関するパワー関係や,

文部省と県教委及び県体協の関係にも補助金とい う資金と地方の競技活動をコントロールする権限 などに関するパワー関係がみられる.このように アトランタサイクル以前の各アクターは,各々が 有する諸資源により,その資源を必要とするアク ターに対してパワーを及ぼし,自身も必要な資源 を有するアクターからパワーを及ぼされるという パワー関係にあり相互に依存している.ネット ワーク全体としては,このような相互依存によっ て必要な資源を獲得して政策の形成・実施を可能 にするというポジティブ・サム・ゲームの状態で あると考えられる.

4.2  シドニーオリンピックサイクル(1996 ~ 1999 年)におけるエリートスポーツ政策 ネットワーク

ここでは,前述の分析枠組みに基づきシドニー サイクルでのエリートスポーツ政策の展開を捉え つつ,政策ネットワークの構造がアトランタサイ クル以前からどのように変容しているのかに焦点 をあて 4 つの分析次元から分析する.なお,以後 の(3)~(6)のオリンピックサイクルについて も同様の分析を行った.

4.2.1 エリートスポーツ政策の展開

シドニーサイクルにおいてエリートスポーツ政 策を明確に示しているものは,1997 年の保健体 育審議会答申「生涯にわたる心身の健康の保持増 進のための今後の健康に関する教育及びスポーツ の振興の在り方」である.一貫指導体制の実現,

育成拠点の整備(ナショナルレベルのトレーニン グ拠点,地域における育成拠点),スポーツ医科

(10)

学支援などが施策として提言されている.これら の施策は,1989 年の保健体育審議会答申でも既 に取り組むべき施策として示されながらその後も 未着手のままとなっていたものである.したがっ て,1997 年の保健体育審議会答申では再度未着 手の施策が提言されたことになる.

アトランタ大会では史上最低の成績であったこ とから,本答申では国が取り組むべき施策として,

ナショナルレベルのトレーニングセンターの設 置,競技力向上システムの構築(一貫指導システ ムの構築)などが示され,アクションプランまで が作成されている27)

現実に当時は 1997 年に JISS の整備に着手しな がら同時に育成拠点整備のためにナショナルト レーニングセンター(以下,「NTC」という.)の 調査研究を開始する28).加えて,地域における 強化拠点整備事業を県教委及び県体協を対象に新 たな補助事業として開始する27).予てから重要 施策としてあげながら構築できていない一貫指導 体制については,遂に答申どおり国の委嘱事業注 6)

として 1998 年 JOC に一貫指導システム構築モデ ル事業が委嘱され実施されている29).アトラン タ大会の成績から文部省の競技スポーツ課として は,何とかしなければという意識から,新たな施 策・事業をはじめたとのことであった注 7).国の 責任のもと委嘱事業としてプログラム開発を JOC に委ねるということは,従来の補助金によ る支援とは性格を異にするものである.なお,

1998 年にはスポーツ振興法が改正され,第 14 条 に国はスポーツの水準を向上する措置を講じるに 当たっては JOC と緊密に連携する旨が規定され た.

アトランタサイクル以前では,文部省からの JOC や県教委及び県体協への補助金による支援 が中心であったが,シドニーサイクルではアトラ ンタ大会の成績を踏まえて,文部省が国の事業と して委嘱事業をはじめた点はこれまでとは違った スタンスである.加えて,NTC の調査研究,地 域における強化拠点整備事業といった新規事業の

実施,スポーツ振興法の改正などもシドニーサイ クルにおける文部省の新たな動きといえる.

4.2.2  エリートスポーツ政策ネットワークの構 造と変容

シドニーサイクルにおける政策ネットワークの 構造については,まず統合という分析次元で前サ イクルと相互作用に違いがみられた.JISS の着 工によって,文部省と NAASH の間に JISS の機 能,設備や機材,人材などに係る協議・調整で新 たな相互作用がみられた注 8).加えて,文部省か ら JOC への委嘱事業として一貫指導システム構 築モデル事業が実施されたことで文部省と JOC の新たな相互作用が生まれる.本事業では,事業 の企画立案,事業実施の各段階で協議・調整が両 アクター間で行われている.一般的に委嘱事業は 補助事業と比較してアウトプットが具体的且つ明 確に求められる.このため本事業の開始により文 部省と JOC の間では従来より頻繁にやり取りが 行われた注 8).本事業では JOC から指定された 7 つの NF でモデルを構築することを目的としたこ とから,JOC と指定の NF との間で定期的な会 議や必要な協議・調整が行われている.加えて,

指定の NF 間では事業実施にあたって情報交換な どが行われ注 8),水平的な相互作用がはじまって いる.

諸資源という分析次元では,JOC の資源の配 分権にこれまでとの違いがみられた.JOC は文 部省から受託した前述の委嘱事業によってモデル を構築する NF を指定する権限を付与されてい る.NF にとってはモデルに指定されることで財 源的な負担なしで一貫指導システムを構築できる ということになり,このことは新たな資源を得る ことを意味する.したがって,JOC の NF 指定は,

NF への資源配分と言えることから,シドニーサ イクルでは新たな資源配分がはじまったことにな る.

パワーという分析次元では,文部省から JOC への委嘱事業として一貫指導システム構築モデル 事業が実施されたことで,新たな文部省と JOC

(11)

のパワー関係が構築されたことになる.文部省は 答申の提言を実行するためにモデルを構築すると いう任務を担うが,委嘱謝金という資金は有して いるものの,一貫指導システムに関する情報やモ デルを構築する人やスキルという組織の能力は有 していない.しかし,JOC は,資金は有してい ないが,一貫指導システムに関する情報やモデル を構築する人やスキルという組織の能力を有して いる.一般的には委託や補助金などは公私の相互 依存を高める26)といわれている.文部省と JOC の相互依存は従来より高まったといえる.JOC と指定の NF との間にもパワー関係が構築され る.JOC は委嘱事業を実施する立場であり,文 部省からの資金やマネジメント人材などの組織の 能力は有しているものの,システムを構成する コーチという人材やプログラム自体を作成するス キルという組織の能力は NF しか有していないこ とから両アクターはパワー関係にある.これに加 えて,前述のとおり指定の NF 間では,相互の情 報という資源の交換が行われており,ここにもパ ワー関係がみられる.以上のようにこれまでのオ リンピックサイクルではみられなかった委嘱事業 により新たなパワー関係が生まれ,垂直的・水平 的な関係において相互依存がみられた.これらは,

アクター間のパワー関係からは全体として前サイ クルと同様ポジティブ・サム・ゲームの状態であ ると分析される.

4.3  ア テ ネ オ リ ン ピ ッ ク サ イ ク ル(2000 ~ 2003 年)におけるエリートスポーツ政策 ネットワーク

4.3.1 エリートスポーツ政策の概観

アテネサイクルでは,我が国ではじめて策定さ れた国のスポーツ振興基本計画に基づきエリート スポーツ政策が展開された.スポーツ振興基本計 画には政策目標として,我が国の 1996 年アトラ ンタオリンピックでのメダル獲得率 1.7%を早期 に 3.5%にすることを掲げ,これらの政策目標達 成のために必要不可欠な施策としては,①一貫指

導システムの構築,②ナショナルレベルのトレー ニング拠点の整備や地域の強化拠点の整備,③指 導者の養成・確保(専任化の促進,ナショナルコー チアカデミー制度の創設等),④競技者が安心し て競技に専念できる環境の整備を位置づけた.さ らに,側面的施策として①スポーツ医・科学の活 用②プロスポーツの競技者等の社会への貢献の促 進などがあげられている30).一方,実際に国際 競技力向上に取り組む JOC は,本計画に即した JOC ゴールドプランを策定し国の政策と連動し た事業を展開した31).加えて,1998 年にはスポー ツ振興投票の実施等に関する法律が制定し,2001 年からスポーツ振興投票くじ(以下,「toto」と いう.)が実施され,財源確保についても期待が 高まった.

スポーツ振興基本計画はスポーツ振興法に基づ く計画であるとともに,政策実現に向けて数値目 標が定められたことから,文部省としては施策の 実行性や効果についてこれまでにない責任を認識 していたという注 8).1997 年に整備に着手した JISS が 2001 年に竣工する32).2002 年には toto 助成がはじまり,NF が実施するタレント発掘事 業への支援が可能となっている22).2003 年には ニッポン復活プロジェクトと題して施策をパッ ケージ化した取組を立ち上げる.この中で 15 億 円に減額された JOC 補助金を 19 億円に増額する とともに,新たな財源として NAASH の運営交 付金により重点競技強化事業が創設される33)

文部省は,シドニーサイクルではじまった委嘱 事業をアテネサイクルでは JOC の委託事業とし てさらに拡充している.2001 年から一貫指導シ ステムの構築を引き続き行うために競技者育成プ ログラム策定モデル事業を実施するとともに,

2003 年からはナショナルコーチ等育成プログラ ム策定モデル事業を実施している33)

なお,1997 年からの補助事業である地域にお ける強化拠点整備が 2001 年に廃止となる.これ によって,文部省から都道府県へのエリートス ポーツに関する支援は姿を消すことになった.

(12)

アテネサイクルでは,これまでの懸案事項で あった JISS が完成して NF に対するスポーツ医 科学支援がはじまった.これまでの補助金・基金 に加えて,運営交付金,toto 助成,委託費といっ た多彩な財源が生まれた.これは,ニッポン復活 プロジェクトといった動きにもみられるように,

スポーツ振興基本計画の政策目標の実現に向けた 文部省の積極的な動きといえる.

4.3.2  エリートスポーツ政策ネットワークの構 造と変容

アテネサイクルにおける政策ネットワークの構 造については,まずメンバーシップという分析次 元でこれまでとの違いがみられた.地域における 強化拠点整備事業の廃止により県教委及び県体協 がメンバーではなくなっている.

統合という分析次元では,スポーツ振興基本計 画及び JOC ゴールドプランの策定段階からの文 部科学省と JOC の間で政策立案に係る協議・調 整が行われ新たな両アクターの相互作用がみられ 注 8).競技者育成プログラム策定モデル事業,

ナショナルコーチ等育成プログラム策定モデル事 業は,前述のスポーツ振興基本計画と JOC ゴー ルドプランの関連の中で新たに創設されたもので あり,いずれも事業の立案や実施においては,前 サイクルの委嘱事業と同様に文部科学省と JOC の間で協議・調整が行われ注8),新たな相互作用 が生じている.

競技者育成プログラム策定事業は,前サイクル での一貫指導システム構築モデル事業と同様に,

指定 NF 間の水平的な相互作用を指定 NF の数を 増加させることで増々広げることになる.JISS の竣工については,NAASH と JOC,NF の協議・

調整を増すことになる.とりわけ特定の NF は JISS から直接スポーツ医科学支援を受けること で両アクターの相互作用の頻度は高くなった.

toto 助成事業では,将来性を有する競技者の発掘 育成助成がはじまる.助成対象は競技者育成プロ グラムを作成した NF であることから,助成対象 となった NF では NAASH との助成申請・執行

等に係る協議・調整で新たな相互作用がはじまっ ている.ニッポン復活プロジェクトにより新たに 文部省からの運営交付金を財源とする重点競技強 化事業が創設されたことで NAASH と JOC,NF の協議・調整が増し,新たな相互作用を生むこと となっている.本事業はメダル獲得が期待される 競技種目に重点的に助成することから,当該競技 種目を選考する際には JOC の意見を聴いたうえ でランク付けし助成額が決定される.このため,

NAASH とは NF のみならず JOC との意見交換 等による相互作用がある.このほか,統合という 分析次元では,スポーツ振興基本計画と JOC ゴー ルドプランは策定段階から意見交換が行われ関係 する施策・事業は連動して実施されていることか ら,アクター間のコンセンサスはさらに高まった と考えられる.

諸資源という分析次元では,前サイクルの委嘱 事業と同様に委託事業である競技者育成プログラ ム策定モデル事業でも JOC は NF を指定する権 限を付与されたことから,アテネサイクルでも JOC にさらに資源が与えられたことになる.加 えて,新たに創設された重点競技強化事業におい ては前述のとおり重点競技種目の選考には JOC の意見が反映されることから,JOC はこの資源 配分についても影響力を持つことになったといえ る.

パワーという分析次元では,前述のように文部 省から JOC への委託事業として競技者育成プロ グラム策定モデル事業,ナショナルコーチ等育成 プログラム策定モデル事業が実施されたことで,

前サイクルの委嘱事業のように文部省と JOC,

JOC と NF 間では相互のパワー関係から依存関 係がみられた.スポーツ振興基本計画と JOC ゴー ルドプランの策定及び連動した実施という中で新 たな委託事業が実施されていることは,文部省の JOC への資源依存の程度は高まり,JOC の文部 省への緊密度やネットワーク内の地位を高めてい ることになる.以上のようにこれまでのオリン ピックサイクルではみられなかった新たなパワー

(13)

関係がさらに生まれ垂直的・水平的な関係におい て相互依存の程度が高まっている.全体としては 前サイクルと同様ポジティブ・サム・ゲームの状 態であると分析される.

4.4  北京オリンピックサイクル(2004 ~ 2008 年)におけるエリートスポーツ政策ネット ワーク

4.4.1 エリートスポーツ政策の展開

北京オリンピックサイクル(以下,「北京サイ クル」という.)では,2006 年に当初の予定どお りスポーツ振興基本計画が 5 年間の進捗を踏まえ て見直される.アテネ大会・トリノ冬季オリンピッ ク競技大会のメダル獲得率が 3.22%であるととも に,未着手の施策などもあることから,当初のス ポーツ振興基本計画に位置付けた施策は事業を拡 充するなどして引き続き実施された34)

JOC は,2005 年に JOC ゴールドプラン・ステー ジⅡを策定する.これは,JOC が 2016 年オリン ピックの東京招致の実現を目指してのことで,メ ダル獲得も金メダル数世界 3 位を目標に掲げた31)

北京オリンピック競技大会に向けたトレーニン グでの使用を目指し 2004 年に NTC が着工する.

2008 年 1 月に全面供用が開始され,主体的運営 は JOC が行うこととなった32).NTC 中核拠点に は整備できない屋外競技や海洋・水辺系競技,冬 季競技などについては,2007 年に国内各地にあ る既存の競技施設を NTC 競技別強化拠点として 国が指定し,NTC 中核拠点とネットワーク化を 図ることでトレーニング拠点の充実が段階的に行 われた35,36,37)

北京サイクルでは,このほか,これまでにはな い政治的な動きがみられた.2006 年から遠藤利 明議員の私的諮問機関「スポーツ振興に関する懇 談会」(以下,「懇談会」という.)では今後の我 が国のスポーツ振興のあり方が検討されている.

この懇談会は我が国のエリートスポーツは国策と して取り組むべきであるという問題意識からはじ まっている.懇談会には各分野の有識者が参画し

て議論が行われ,最終的に「スポーツ立国」ニッ ポン―国家戦略としてのトップスポーツ―と題す る報告書(以下,「遠藤レポート」という.)が 2007 年に取りまとめられ発表される38).遠藤レ ポートの発表を契機に今後のスポーツ政策に関す る議論が自民党や民主党内などで活発になり,

2007 年には,スポーツ議員連盟 (超党派)に「新 スポーツ振興法制定プロジェクトチーム」(以下,

「新法制定 PT」という.)が発足し,新たな法律 の検討がはじまっている.遠藤議員は当時文部科 学副大臣でもあったことから,日常的に文部科学 省のエリートスポーツ政策に関わっていた.2007 年に文部科学省では,2008 年度概算要求にチー ム「ニッポン」マルチ・サポート事業(以下,「マ ルチ・サポート事業」という.)を新規事業とし て要求している39).本事業は,オリンピック競 技大会において,メダル獲得が期待される競技を ターゲットとして,アスリート支援や研究開発な ど多方面から専門的かつ高度な支援を戦略的・包 括的に実施する事業である.本事業は前述のとお り遠藤議員の懇談会での我が国のエリートスポー ツへの指摘を踏まて,文部科学省が国主導の政策 を実施するために立案したものである.事業の立 案に当たっては,制度上の議論が幾つかあった.

1 点目は,事業の実施主体についてである.本事 業は NF に密着した支援を行うものであることか ら,このような事業は従来であれば JOC に委託 してきた.しかし,今回は議論の結果 NAASH へ委託することになる.これは,本事業を国主導 で行うために国に近い実施主体を選択したという ことである.2 点目は,本事業はターゲット競技 種目を選定して重点的に支援することとしたが,

このターゲット競技種目の選定をどのように行う かであった.この点については,国主導を担保す るために事業主体は NAASH としながら,ター ゲット競技種目の選定は文部科学省が行うという 事業スキームに決定する注 9).こうして,国が主 導するという狙いから本事業が創設されるととも に,後には 20 億円代の規模となり,我が国のエ

参照

関連したドキュメント

それらの産業は、自動車産業の吉利、電気通信産

[r]

アンブレラ産業を軸とする俯瞰図の全体構造 産業技術俯瞰図は、横軸のアンブレラ産業、縦軸のエレメント産業の 2

JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 製造業の競争力を強化する「生産技術経営」 : グロー バル競争力強化にむけたセンター・マザー機能の一考

As a result of these, this study concludes that TID programmes have been making significant impacts on sports policies in terms of athlete development environment in

Copyright © -2016 Special Olympics Nippon All rights reserved..

ものであったとされている。 以上のことに気をつけてコミュニケーションを 取ることによって, チームの雰囲気や選手の理解 度などが大きく変わってくるだろう。 3 選手を育てる 私の考える指導者の役割とは, 選手を育てて, チームを強くすることである。 選手が上達するた めに, 練習メニューを考えなければならない。 練 習こそが, 選手を育て,

However,  HSS,  used  for  such  body  parts,  have  some  problems,  such  as  formability,  weldability,  etc.  Press  forming  technologies,  especially