ソシオ・テクニカル・デザインの原則の展開と今日 的意義
その他のタイトル The Development of the Principle of Socio‑technical Design and its Current Significance
著者 森田 雅也
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 38
号 2
ページ 81‑94
発行年 2007‑03‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/12410
ソシオ・テクニカル・デザインの原則の展開と今日的意義
森 田 雅 也
The Development o f t h e P r i n c i p l e o f S o c i o ‑ t e c h n i c a l D e s i g n and i t s C u r r e n t S i g n i f i c a n c e
Masaya MORITA
A b s t r a c t
One ways t o a n a l y s e t h e r e l a t i o n s h i p between t e c h n o l o g i e s and w o r k i n g p a t t e r n s i s t o c l a r i f y how t o d e s i g n an o r g a n i s a t i o n where t e c h n o l o g i e s and human b e i n g s a r e w e l l ‑ m a t c h e d f o r t h e i r good p e r f o r m a n c e . The s o c i o ‑ t e c h n i c a l s y s t e m s t h e o r y i s r e p r e s e n t a t i v e o f s u c h d e s i g n m e t h o d s . I n t h i s p a p e r , t h e f o c u s i s on t h e development o f " t h e p r i n c i p l e o f s o c i o ‑ t e c h n i c a l d e s i 詞 whichf o r m s t h e backbone o f an o r g a n i s a t i o n d e s i g n based on s o c i o ‑ t e c h n i c a l s y s t e m s t h e o r y , and t h e c u r r e n t s i g n i f i c a n c e o f t h e p r i n c i p l e i s d i s c u s s e d . The f o l l o w i n g p o i n t s a r e n e c e s s a r y f o r c u r r e n t o r g a n i s a t i o n d e s i g n : t o d e v i s e a s t r a t e g i c v i e w p o i n t , t o i n t r o d u c e a s e l f ‑ m a n a g e m e n t team t o d e a l w i t h e n v i r o n m e n t a l c h a n g e s and t o p r o v i d e a w o r k i n g p a t t e r n where human b e i n g s u s e t e c h n o l o g i e s f o r t h e m s e l v e s , r a t h e r t h a n a l l o w i n g t e c h n o l o g i e s t o d e c i d e how t o w o r k .
抄 録
技術と働き方の関係を分析する視角の一つに、技術とそこで働く人間がうまく適合した組織をいかに設 計するかというアプローチがある。その代表的なものとして社会ー技術システム論があげられる。本稿で は、社会ー技術システム論に基づく組織設計の根幹をなす、ソシオ・テクニカル・デザインの原則の発展 過程に着目しながら、それが今日どのような意義を持つかを検討している。今日の組織設計では、戦略的 視点を持つこと、変化への対応のためには自己統制チームが有効であること、技術に規定される働き方よ
りも技術を利用する働き方を生み出すことが求められている。
キーワード:社会ー技術システム論、ソシオ・テクニカル・デザインの原則、現代的ソシオ・テクニカル・
アプローチ (MST) 、自己統制チーム、戦略
関西大学「社会学部紀要』第 38 巻第 2 号
I はじめに
技術は独立した存在ではなく、社会において他の制度や事物と相互に影響しあう存在で ある ( B i j k e rand L a w , 1 9 9 2 ) 。仕事の場においても、技術が働き方にどのような影響を与 えるかは古くから議論され続けてきた問題であり、それへの関心と検討の重要性は、社会 科学の各分野において現在でも決して衰えてはいない ( c f .Wajcman, 2 0 0 6 ; Y a t e s , 2 0 0 6 ; ) 。 人的資源管理の立場からみると、「働き方」は組織構造、人事制度、マネジメントのあ り方などによって規定されると考えられるが、技術との関連でいえば、これまでは技術と 組 織 構 造 と の 関 係 に 着 目 し て 特 に 研 究 が 進 め ら れ て き た
1)。 そ こ で は 、 ウ ッ ド ワ ー ド (Woodward, 1 9 6 5 ) の「技術は組織構造を規定する」という命題に代表されるように、技 術は与件として、その技術の効率性を最大化するように組織構造が規定されるという技術 決定論的な考え方が一方には存在する。他方、その技術のもとで働く組織メンバーを中心 として構成される社会システムと技術との適合性を考慮することにより、同一の技術であ っても組織構造には選択の余地があるとする組織選択論の考え方が存在する。その代表的 なものが、ロンドンのタヴィストック人間関係研究所の研究者たちによって提唱された社 会ー技術システム論 ( s o c i o ‑ t e c h n i c a lt h e o r y : 以下、 STS 論と略記) 2) である。
英国ダラムの炭坑における 1 9 5 0 年代の研究に端を発する STS 論は、北欧での産業民主主 義、ヨーロッパでの労働の人間化、アメリカでの QWL ( Q u a l i t y o f Working L i f e ) など様々
な現場において新しい働き方を設計する基礎理論として展開してきた。理論の脆弱性への 批判 3) なども受けながら、現在では、オランダにおいて現代的社会ー技術システムアプ ローチ (moderns o c i o t e c h n i c a l s y s t e m s a p p r o a c h : 以下、 MST と略記)の名称のもと、組 織設計の基礎理論として依然、進化的な発展を続けている。
本論では、 STS 論に基づく作業組織の設計に大きな役割を果たしてきたソシオ・テクニ カル・デザインの原則(以下、 STSD の原則と略記)の展開過程を振り返りながら、技術
1) 技術と組織構造に関する研究の系譜については、たとえば上林 ( 2 0 0 1 ) 第 1 章に詳しい。
2) STS 論においては、一般に、社会システムは「課業あるいは目標を達成するという基本的な目的のために所与の 環境の下、互いに活動する人々の間の関係」 (Cummingsand S r i v a s t v a , 1 9 7 7 , p . 4 9 ) と、技術システムは「課業を 達成するために用いられる道具、技術等の目に見えるものとそれに必要な手順、方法、考え等の目に見えないも のから形成されるもの」 ( i b i d . ,p . 5 2 ) ととらえられる。さらに、「社会ー技術システム」の社会と技術の間にあ るハイフンは、ある望まれる結果に到達するために独立しているが相関しているシステムの間に生じねばならな い目的志向的相関性 ( t h ed i ‑ r e c t i v e c o r r e l a t i o n ) 、あるいは調和 ( m a t c h i n g ) を表しており、「システム」はこの 調和の過程が、その関係自身が組織化された全体、すなわち一つの社会ー技術システムとみなされる結合関係を 作り出すことを意味している ( i b i d . ,p . 5 8 ) 。
3) もっとも厳しい批判の一つは、 S c a r b r o u g h ( 1 9 9 5 ) である。
と働き方のあり方を設計する際に STS 論が果たす今日的役割を確認していく。
1 [ 初期におけるソシオ・テクニカル・デザインの原則
STSD の原則は、 1 9 7 6 年にチャーンズ ( C h e r n s ,A . B . ) によって発表され、その後、 1 9 8 7 年のチャーンズによる改訂、ヘラー ( H e l l e r , F . ) による再概念化という過程を経ながら展 開してきた ( C h e r n s ,1 9 7 6 , 1 9 8 7 ; H e l l e r , 1 9 8 9 ) 。チャーンズ(サセックス大学)もヘラー(タ ヴィストック人間関係研究所)も英国の研究者であり、ここまでは、主として発祥の地で ある英国において STS 論が進化し続けていた段階である。そうしたことから、本稿ではヘ ラーによる再概念化までの展開過程を「初期」と位置づけることにする。その上で、初期 における展開過程を簡単に振り返っておこう。
1 I ー 1 チャーンズによる STSD の原則
チャーンズによって提唱された STSD の原則は、表 l にまとめられた通りである。
表 1 チャーンズによるソシオ・テクニカルデザインの原則 原 則 ① 適合性 ( c o m p a t i b i l i t y )
原 則 ② 最小重要事項の明確化 ( M i n i m a lC r i t i c a l S p e c i f i c a t i o n ) 原 則 ③ 変動の統制 ( V a r i a n c eC o n t r o l )
原則④ 境界の設定 (BoundaryL o c a t i o n ) 原則⑤ 情報経路 ( I n f o r m a t i o nF l o w ) 原則⑥ 権力と権限 (Powerand A u t h o r i t y )
原 則 ⑦ 多機能原則 (TheM u l t i f u n c t i o n a l P r i n c i p l e s ) 原 則 ⑧ 支持システムとの調和 ( S u p p o r tC o n g r u e n c e ) 原 則 ⑨ 移行期の組織化 ( T r a n s i t i o n a lO r g a n i z a t i o n )
原 則 ⑩ 絶えざる改善 ( I n c o m p l e t i o no r t h e F o r t h B r i d g e P r i n c i p l e )
出所: Chems ( 1 9 7 6 ) ( 1 9 8 7 ) 、近藤 ( 1 9 8 8 ) をもとにした森田 ( 1 9 9 1 ) 9 8 ページ、表 1 を一部修正。
組織をシステム論的に把握して、技術システムと社会システムとの最適結合 ( b e s t
match) を成し遂げるように組織(全体システム)を設計することが、 STS 論的な組織設
計の根底にあるものである。そのためには、全体システムにおいて最も大切なタスク(第
一次課業; p r i m a r y t a s k ) の達成を妨げる要因一変動ーを除去するように、あるいは、そ
れが困難であれば、できるだけ変動の近くでそれに対処することができるように、システ
ムの境界を設定することが必要になってくる。この設計行動は、何が第一次課業にあたる
かを把握し最も重要なことがらを明確にする(②最小重要事項の明確化)、変動への対応
関西大学『社会学部紀要』第 38 巻第 2 号
やその除去を行う(③変動の統制)、技術システムと社会システムを最適な形で組み合わ せて全体システムの範囲を決定する(①適合性、④境界の設定)といった形で原則に従い ながら具体化されることになる。チャーンズは、より実践に適した形で運用できるように、
アクションリサーチやケーススタディを経ながら、 STSD の原則の改善に取り組んだが、
それは、「原則⑩絶えざる改善」の実践でもあった。
この段階での組織設計は、ほとんどが作業組織レベルでのものにとどまっており、オフ ィスワークや作業組織よりもさらに上位の組織までも含んだ組織設計に対応することはま だまだ難しかった。それでも、 STS アプローチは技術決定論へのアンチテーゼとして確立 され、労働の人間化などの基礎理論として実践的に新しい働き方の確立に貢献していたの である。
1 [ 一 2 ヘラーによる STSD の原則の再概念化
チャーンズの STSD の原則とその修正の後に、ヘラーは STSD の原則の再概念化と呼べ る仕事を行った。その内容を森田 ( 1 9 9 1 ) に従って簡潔にみておこう。ヘラーは「弾力性 とバランスの必要性」と「有機的な人間性」という大きな 2 つの範疇に分けて、 9 つの原 則を提示している 4) 。
表 2 ソシオ・テクニカル・デザインの原則の再概念化
( 1 ) 最小重要事項の明確化 ( 2 ) 過度の専門化の回避 ( 3 ) 専門技術による弾力性阻害 ( 4 ) 適所適情報
( 5 ) 不完全性の認識
( 6 ) 設計と目的との適合性 ( 7 ) 変動の排除
( 8 ) 技術と支持システムとの調和 ( 9 ) モ チ ベ ー シ ョ ン の 喚 起
出所:森田 ( 1 9 9 1 ) 9 8 ペ ー ジ 、 表 2 を一部修正。原出所は、 H e l l e r( 1 9 8 9 ) p p . 1 9 1 ‑ 1 9 4 .
「柔軟性とバランスの必要性」の範疇においては、環境変化に対応することができる弾 力的な組織をいかに設計するかに力点が置かれている。 ( 1 ) 最小重要事項の明確化、 ( 2 ) 過度 の専門化の回避、 ( 3 ) 専門技術による弾力性阻害のいずれもが、ものごとを事細かく規定し すぎたり、役割や技術の専門化を進めすぎたりすることは、たとえそれがより良い組織設 計を目指すものであっても、結果として組織の柔軟性をそぐことに注意する必要性を説い
4) ヘラーはチャーンズのように原則①、原則②、…、と明示しているわけではないが、便宜上、 (1)、 (2)、•••、と筆