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ソシオ・テクニカル・デザインの原則の展開と今日 的意義

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(1)

ソシオ・テクニカル・デザインの原則の展開と今日 的意義

その他のタイトル The Development of the Principle of Socio‑technical Design and its Current Significance

著者 森田 雅也

雑誌名 関西大学社会学部紀要

巻 38

号 2

ページ 81‑94

発行年 2007‑03‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/12410

(2)

ソシオ・テクニカル・デザインの原則の展開と今日的意義

森 田 雅 也

The Development o f  t h e  P r i n c i p l e  o f  S o c i o ‑ t e c h n i c a l  D e s i g n   and i t s  C u r r e n t  S i g n i f i c a n c e  

Masaya MORITA 

A b s t r a c t  

One ways t o  a n a l y s e  t h e  r e l a t i o n s h i p  between t e c h n o l o g i e s  and w o r k i n g  p a t t e r n s  i s  t o  c l a r i f y  how t o  d e s i g n   an o r g a n i s a t i o n  where t e c h n o l o g i e s  and human b e i n g s  a r e  w e l l ‑ m a t c h e d  f o r  t h e i r  good p e r f o r m a n c e .  The  s o c i o ‑ t e c h n i c a l  s y s t e m s  t h e o r y  i s   r e p r e s e n t a t i v e  o f  s u c h  d e s i g n  m e t h o d s .  I n  t h i s  p a p e r ,  t h e  f o c u s  i s   on t h e   development o f  " t h e  p r i n c i p l e  o f  s o c i o ‑ t e c h n i c a l  d e s i 詞 whichf o r m s  t h e  backbone o f  an o r g a n i s a t i o n  d e s i g n   based on s o c i o ‑ t e c h n i c a l  s y s t e m s  t h e o r y ,  and t h e  c u r r e n t  s i g n i f i c a n c e  o f  t h e  p r i n c i p l e  i s   d i s c u s s e d .  The  f o l l o w i n g  p o i n t s  a r e  n e c e s s a r y  f o r  c u r r e n t  o r g a n i s a t i o n  d e s i g n :  t o  d e v i s e  a  s t r a t e g i c  v i e w p o i n t ,  t o  i n t r o d u c e  a  s e l f ‑ m a n a g e m e n t  team t o  d e a l  w i t h  e n v i r o n m e n t a l  c h a n g e s  and t o  p r o v i d e  a  w o r k i n g  p a t t e r n  where human  b e i n g s  u s e  t e c h n o l o g i e s  f o r  t h e m s e l v e s ,  r a t h e r  t h a n  a l l o w i n g  t e c h n o l o g i e s  t o  d e c i d e  how  t o  w o r k .  

抄 録

技術と働き方の関係を分析する視角の一つに、技術とそこで働く人間がうまく適合した組織をいかに設 計するかというアプローチがある。その代表的なものとして社会ー技術システム論があげられる。本稿で は、社会ー技術システム論に基づく組織設計の根幹をなす、ソシオ・テクニカル・デザインの原則の発展 過程に着目しながら、それが今日どのような意義を持つかを検討している。今日の組織設計では、戦略的 視点を持つこと、変化への対応のためには自己統制チームが有効であること、技術に規定される働き方よ

りも技術を利用する働き方を生み出すことが求められている。

キーワード:社会ー技術システム論、ソシオ・テクニカル・デザインの原則、現代的ソシオ・テクニカル・

アプローチ (MST) 、自己統制チーム、戦略

(3)

関西大学「社会学部紀要』第 38 巻第 2 号

I  はじめに

技術は独立した存在ではなく、社会において他の制度や事物と相互に影響しあう存在で ある ( B i j k e rand L a w ,  1 9 9 2 ) 。仕事の場においても、技術が働き方にどのような影響を与 えるかは古くから議論され続けてきた問題であり、それへの関心と検討の重要性は、社会 科学の各分野において現在でも決して衰えてはいない ( c f .Wajcman, 2 0 0 6 ;  Y a t e s ,  2 0 0 6 ; ) 。 人的資源管理の立場からみると、「働き方」は組織構造、人事制度、マネジメントのあ り方などによって規定されると考えられるが、技術との関連でいえば、これまでは技術と 組 織 構 造 と の 関 係 に 着 目 し て 特 に 研 究 が 進 め ら れ て き た

1)

。 そ こ で は 、 ウ ッ ド ワ ー ド (Woodward, 1 9 6 5 ) の「技術は組織構造を規定する」という命題に代表されるように、技 術は与件として、その技術の効率性を最大化するように組織構造が規定されるという技術 決定論的な考え方が一方には存在する。他方、その技術のもとで働く組織メンバーを中心 として構成される社会システムと技術との適合性を考慮することにより、同一の技術であ っても組織構造には選択の余地があるとする組織選択論の考え方が存在する。その代表的 なものが、ロンドンのタヴィストック人間関係研究所の研究者たちによって提唱された社 会ー技術システム論 ( s o c i o ‑ t e c h n i c a lt h e o r y :   以下、 STS 論と略記) 2) である。

英国ダラムの炭坑における 1 9 5 0 年代の研究に端を発する STS 論は、北欧での産業民主主 義、ヨーロッパでの労働の人間化、アメリカでの QWL ( Q u a l i t y  o f  Working L i f e ) など様々

な現場において新しい働き方を設計する基礎理論として展開してきた。理論の脆弱性への 批判 3) なども受けながら、現在では、オランダにおいて現代的社会ー技術システムアプ ローチ (moderns o c i o t e c h n i c a l  s y s t e m s  a p p r o a c h :   以下、 MST と略記)の名称のもと、組 織設計の基礎理論として依然、進化的な発展を続けている。

本論では、 STS 論に基づく作業組織の設計に大きな役割を果たしてきたソシオ・テクニ カル・デザインの原則(以下、 STSD の原則と略記)の展開過程を振り返りながら、技術

1) 技術と組織構造に関する研究の系譜については、たとえば上林 ( 2 0 0 1 ) 第 1 章に詳しい。

2) STS 論においては、一般に、社会システムは「課業あるいは目標を達成するという基本的な目的のために所与の 環境の下、互いに活動する人々の間の関係」 (Cummingsand S r i v a s t v a ,  1 9 7 7 ,  p . 4 9 ) と、技術システムは「課業を 達成するために用いられる道具、技術等の目に見えるものとそれに必要な手順、方法、考え等の目に見えないも のから形成されるもの」 ( i b i d . ,p . 5 2 ) ととらえられる。さらに、「社会ー技術システム」の社会と技術の間にあ るハイフンは、ある望まれる結果に到達するために独立しているが相関しているシステムの間に生じねばならな い目的志向的相関性 ( t h ed i ‑ r e c t i v e  c o r r e l a t i o n ) 、あるいは調和 ( m a t c h i n g ) を表しており、「システム」はこの 調和の過程が、その関係自身が組織化された全体、すなわち一つの社会ー技術システムとみなされる結合関係を 作り出すことを意味している ( i b i d . ,p . 5 8 ) 。

3) もっとも厳しい批判の一つは、 S c a r b r o u g h ( 1 9 9 5 ) である。

(4)

と働き方のあり方を設計する際に STS 論が果たす今日的役割を確認していく。

1 [   初期におけるソシオ・テクニカル・デザインの原則

STSD の原則は、 1 9 7 6 年にチャーンズ ( C h e r n s ,A . B . ) によって発表され、その後、 1 9 8 7 年のチャーンズによる改訂、ヘラー ( H e l l e r , F . ) による再概念化という過程を経ながら展 開してきた ( C h e r n s ,1 9 7 6 ,  1 9 8 7 ;  H e l l e r ,  1 9 8 9 ) 。チャーンズ(サセックス大学)もヘラー(タ ヴィストック人間関係研究所)も英国の研究者であり、ここまでは、主として発祥の地で ある英国において STS 論が進化し続けていた段階である。そうしたことから、本稿ではヘ ラーによる再概念化までの展開過程を「初期」と位置づけることにする。その上で、初期 における展開過程を簡単に振り返っておこう。

1 I ー 1 チャーンズによる STSD の原則

チャーンズによって提唱された STSD の原則は、表 l にまとめられた通りである。

表 1 チャーンズによるソシオ・テクニカルデザインの原則 原 則 ① 適合性 ( c o m p a t i b i l i t y )

原 則 ② 最小重要事項の明確化 ( M i n i m a lC r i t i c a l  S p e c i f i c a t i o n )   原 則 ③ 変動の統制 ( V a r i a n c eC o n t r o l )  

原則④ 境界の設定 (BoundaryL o c a t i o n )   原則⑤ 情報経路 ( I n f o r m a t i o nF l o w )   原則⑥ 権力と権限 (Powerand A u t h o r i t y )  

原 則 ⑦ 多機能原則 (TheM u l t i f u n c t i o n a l  P r i n c i p l e s )   原 則 ⑧ 支持システムとの調和 ( S u p p o r tC o n g r u e n c e )   原 則 ⑨ 移行期の組織化 ( T r a n s i t i o n a lO r g a n i z a t i o n )  

原 則 ⑩ 絶えざる改善 ( I n c o m p l e t i o no r  t h e  F o r t h  B r i d g e  P r i n c i p l e )  

出所: Chems ( 1 9 7 6 )   ( 1 9 8 7 ) 、近藤 ( 1 9 8 8 ) をもとにした森田 ( 1 9 9 1 ) 9 8 ページ、表 1 を一部修正。

組織をシステム論的に把握して、技術システムと社会システムとの最適結合 ( b e s t

match) を成し遂げるように組織(全体システム)を設計することが、 STS 論的な組織設

計の根底にあるものである。そのためには、全体システムにおいて最も大切なタスク(第

一次課業; p r i m a r y  t a s k ) の達成を妨げる要因一変動ーを除去するように、あるいは、そ

れが困難であれば、できるだけ変動の近くでそれに対処することができるように、システ

ムの境界を設定することが必要になってくる。この設計行動は、何が第一次課業にあたる

かを把握し最も重要なことがらを明確にする(②最小重要事項の明確化)、変動への対応

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関西大学『社会学部紀要』第 38 巻第 2 号

やその除去を行う(③変動の統制)、技術システムと社会システムを最適な形で組み合わ せて全体システムの範囲を決定する(①適合性、④境界の設定)といった形で原則に従い ながら具体化されることになる。チャーンズは、より実践に適した形で運用できるように、

アクションリサーチやケーススタディを経ながら、 STSD の原則の改善に取り組んだが、

それは、「原則⑩絶えざる改善」の実践でもあった。

この段階での組織設計は、ほとんどが作業組織レベルでのものにとどまっており、オフ ィスワークや作業組織よりもさらに上位の組織までも含んだ組織設計に対応することはま だまだ難しかった。それでも、 STS アプローチは技術決定論へのアンチテーゼとして確立 され、労働の人間化などの基礎理論として実践的に新しい働き方の確立に貢献していたの である。

1 [ 一 2 ヘラーによる STSD の原則の再概念化

チャーンズの STSD の原則とその修正の後に、ヘラーは STSD の原則の再概念化と呼べ る仕事を行った。その内容を森田 ( 1 9 9 1 ) に従って簡潔にみておこう。ヘラーは「弾力性 とバランスの必要性」と「有機的な人間性」という大きな 2 つの範疇に分けて、 9 つの原 則を提示している 4) 。

表 2 ソシオ・テクニカル・デザインの原則の再概念化

( 1 )   最小重要事項の明確化 ( 2 )   過度の専門化の回避 ( 3 )   専門技術による弾力性阻害 ( 4 )   適所適情報

( 5 )   不完全性の認識

( 6 )   設計と目的との適合性 ( 7 )   変動の排除

( 8 )   技術と支持システムとの調和 ( 9 )   モ チ ベ ー シ ョ ン の 喚 起

出所:森田 ( 1 9 9 1 ) 9 8 ペ ー ジ 、 表 2 を一部修正。原出所は、 H e l l e r( 1 9 8 9 )  p p . 1 9 1 ‑ 1 9 4 .  

「柔軟性とバランスの必要性」の範疇においては、環境変化に対応することができる弾 力的な組織をいかに設計するかに力点が置かれている。 ( 1 ) 最小重要事項の明確化、 ( 2 ) 過度 の専門化の回避、 ( 3 ) 専門技術による弾力性阻害のいずれもが、ものごとを事細かく規定し すぎたり、役割や技術の専門化を進めすぎたりすることは、たとえそれがより良い組織設 計を目指すものであっても、結果として組織の柔軟性をそぐことに注意する必要性を説い

4) ヘラーはチャーンズのように原則①、原則②、…、と明示しているわけではないが、便宜上、 (1)、 (2)、•••、と筆

者の判断により内容の趣旨を代表するように原則名を付した。詳細については、森田 ( 1 9 9 1 ) 注 ( 8 ) を参照。

(6)

ている。また、チャーンズ同様、 ( 5 ) 不完全性の認識において、環境が変化し続ける以上、

組織設計には完全はありえないという立場から、絶えず組織の状態を再評価し改善を続け ることが確認されている。

一方、「有機的な人間性」の範疇では、以下の点に注意を払うべきである。 ( 6 ) 設計と目 的の適合性では、組織設計はその目的と適合したものでなければならず、そのためにも、

設計段階からそこで働くことになる人たちを参加させるべきであるとされる。それは、単 に実際に働く人の意見を聞くという意味だけにとどまらず、設計の思想や設計のプロセス を働く人たちに浸透させ他のメンバーにもそれらを広げていく社会化の第一歩として重視 されるからである(近藤、 1 9 8 8 、 9 ページ)。

( 8 ) 技術と支持システムの調和では、チャーンズによる原則では、設計される組織とそれ をとりまく部門や全体組織との関係に主として言及してきたことに加えて、ここでは組織 外においても技術とそのユーザーとの間には社会的信頼が必要であることが主張されてい る。社会システムが技術システムの円滑な活動を支持する関係を組織内だけにとどめず、

技術とそのユーザーとの関係にまで広げた点が、この時点における新しい視点であった。

さらに、 ( 9 ) モチベーションの喚起では、組織で働く人たちを動機づけられるような仕組み を織り込んだ組織設計であることが謳われている。動機付けをミクロな人間関係の問題と してだけとらえるのではなく、そこで働く人たちを動機づけしやすい組織とはどうあるべ きかを意識しながら設計することが重要となってくる。

以上がヘラーによる STSD の原則の再概念化であるが、チャーンズの原則からの概念の 拡大は次の点に求められるであろう。ひとつは、技術と人間の関係における人間的側面を これまで以上に強調している点であり、もうひとつは設計対象となる組織外における技術 と人間の関係にまで視野を広げた点である。これらの点について、もう少し詳しくみてお

゜ ︑

こ つ

ヘラーが提唱した「弾力性とバランスの必要性」と「有機的な人間性」という 2つの大 きな括りは、それぞれ、前者が主として全体としての社会ー技術システムの効率を達成す るための、そして後者が主として社会システムの効率を達成するための諸原則と捉えるこ とができよう。

ヘ ラ ー が こ の 主 張 を 行 っ た の は 、 急 速 に 普 及 し 始 め た ME 技 術 ( M i c r o e l e c t r o n i c s

T e c h n o l o g y ) と称された新技術が、特に生産現場での仕事にどのような影響をもたらすの

かに大きな関心が払われていた頃である ( c f .Bamber and L a n s b u r y ,  1 9 8 9 ;   奥林、 1 9 8 5 ) 。

そうした状況だったからこそ、新技術の下で人間に配慮することの必要性を強調し、「有

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関西大学『社会学部紀要』第 3 8 巻第 2 号

機的な人間性」という範疇に諸原則をまとめるに至ったのだと考えられる。組織が社会一 技術システムとして最も効率よく機能するためには、どちらか一方のシステムー往々に してそれは技術システムであるが一の効率のみを追求するのではなく、双方の同時最適 化 ( j o i n to p t i m i z a t i o n ) が求められるべきである。しかし、技術の発展が著しい環境下に おいては、敢えて社会システムの効率に注意しなければ、次々と生まれてくる新しい技術 の機能を最大限に発揮することばかりに目が向けられ、それを扱う人間から成る社会シス テムヘの配慮がなおざりになる危険性が高い。それゆえ、人間的側面への配慮ーそれは 社会システムの効率追究にもなるーが今一度強調されているのであろう。設計された組 織で働く人たちへの動機づけや彼(女)らの価値観に注意を払うべきであるというのは、

その具体的な一例である。ヘラーは、スリーマイル島の原子力発電所の事故に言及しなが ら、技術至上主義 ( t e c h n o l o g i c a li m p e r a t i v e ) を非難し、人間的側面への配慮を繰り返し 主張している ( H e l l e r ,1 9 8 9 ,  p p . 1 9 0 ‑ 1 9 1 . ) 。これは、技術の発展が加速度的に進む中で、

人間的側面の強調はどれほどなされようともなされすぎることはないというヘラーの強い 気持ちの表れであろう。ここにおいて、技術の発展に対応するためには、人間性への配慮

を従来以上に高めなければならないことが原則に盛り込まれたのである。

もう一点、ヘラーの STSD の原則の再概念化において新たに生まれてきた点は、技術と 人間との関係を生産組織外にまで拡大していこうという姿勢である。これまで STS 論が適 応されてきた領域は、基本的に企業組織内の生産組織であった。それは、 STS 論が炭坑で の生産組織の研究にその端を発したことや、技術決定論的な発想に基づいて設計された生 産組織で働くことは作業者の人間性疎外や結果的な効率の悪化などをもたらし、それらが 解決すべき危急の課題だったことに拠るのであろう。しかし、 STS 論が提唱しているのは、

技術システムと社会システムとの最適結合であり、理論的には、何を技術システムと社会 システムととらえるかによって、構成される社会一技術システムの範囲は際限なく広がる ことになる。つまり、 STS アプローチは技術と人間の関係が存在するところには幅広く適 用できる可能性を秘めているのである。

もちろん、技術と人間の関係が存在するところに STS アプローチを闇雲に拡大できるわ けではない。なぜなら、 STSD の原則はあくまでも組織設計を目的としてまとめられたも のであり (Chems,1 9 7 6 ,  p p . 7 8 3 ‑ 7 8 5 . ) 、STS 論の問題意識は、変化の激しい環境において 安定的に技術と人間の可能性を拡大する組織のあり方を追求するという目的を内在した方 法論の構築に向けられている(近藤、 1 9 8 8 、 3 ページ)からである。ただし、たとえば、

ある工場で何かを製造する生産組織から、工場の全体組織へ、さらには、本社も含めた企

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業の全体組織へと STS アプローチを広げていくことは、組織において技術システムも社会 システムも欠くことのできないものである限り、可能なはずである。初期の STSD の原則 では欠けていたこの視点を明らかにさせたのが、ヘラーによる STSD の原則の再概念化の 段階であったといえよう。

しかし、生産組織からより上位の組織へと STS アプローチを広げていくことは、 STS 論 生誕の地イギリスではなく、オランダにおいて本格的に実現されていくこととなる。節を 改めてこの点を見ていくことにしよう。

皿 新 し い ソ シ オ ・ テ ク ニ カ ル ・ デ ザ イ ン の 展 開 皿ー 1 MST への発展

イギリスでの研究から展開してきた STS 論は、 1 9 7 0 年代半ば頃から、発祥の地での進展 のみならず、オーストラリア、オランダ、北欧、北米において、それぞれ独自の発展を遂 げてきている ( E i j n a t t e n ,1 9 9 3 ) 。その中でも、現在特に、実務家も研究者もその実践的 な適用に積極的に取り組んでいるのがオランダである。オランダでは、オランダ型ソシオ・

テクニカル・デザイン (DutchSTSD) あるいは前述の通り、 MST という名称が一般的と なっている。いくつかの大学や職業訓練機関では MST を必修科目として取り入れたり、

多くの企業でも MST の発想に基づく組織設計が頻繁に行われたりしており、 1980~90年 代を通じて、オランダでは、 MST が組織再設計の一般的な表現となっていった。

イギリスで発展してきた従来型の STSD は、静的かつ部分的な設計であったのに対し、

MST は、技術体系から成る生産構造(従来の STS 論では、技術システムと呼ばれたもの)

を社会的、心理的現象の基盤にあるものとして、その変革を第一に行い、同時に労働者の 参加やトレーニングを併用しながら変化を起こしていく、より精緻な組織設計のための理 論である。部分的ではなく統合的に組織設計を行うという特徴を強調して、統合的組織再 設 計 ( I n t e g r a lO r g a n i z a t i o n a l  R e n e w a l :  IOR) と も 呼 ば れ て い る ( B e n d e r s ,e t . a l . ,  2 0 0 6 ;   E i j n a t t e n  and Zwaan, 1 9 9 8 ) 。

皿ー 1 MST の特徴

MST とこれまでの STS 論との比較をまとめたものが表 4 であるが、 MST の特徴はとり

わけ次のような点に求められる ( A m e l s v o o r t ,2 0 0 0 ) 。

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関西大学『社会学部紀要』第 3 8 巻第 2 号

表4 従来型の STS論と MSTとの比較

労働の人間化と現場での異常への統制強化

1

戦略を考慮しながら、人的能力を最大化 による能率の改善

夏:生産 1 : :   髯品質、柔軟性、イノベーション 組織の質

仕事関係の質 労働生活の質

統合されたシステムとしての全体組織(マ クロ、メソ、ミクロレベル)

オープンシステムと組織選択 戦略的な武器としての組織

技術システムと社会システムの最適結合 社会的変数と技術的変数の相互関係とそれ 現場での調整能力を高めることによりシス らの統合システムとしての組織

テムを乱すものを管理 複雑性の減少と組織全体としての調整能力

出所: A m e l s v o o r t ( 2 0 0 0 ) p . 1 9 ,  T a b l e  2 .  

の再分配による組織の効率と能率の増大 戦略的選択による全体

組織全体を視野に入れたアプローチ 学習と教育との組み合わせ:参加と管理者 のひらめき

第 1 に組織の設計を戦略的課題としてとらえる点である。組織を設計し変革することは、

環境諸条件や戦略的選択との関係において生起することがらであり、戦略的選択によって 組織がとるべき行動はさまざまに異なるという認識から出発している。組織の設計を戦略 との連関性から動的にとらえるところは、従来の STS 論が対象組織だけをとらえて再設計 しようとしたところと大きく異なる点である。

第 2 に、組織設計は、組織の質 ( q u a l i t yo f  t h e  o r g a n i s a t i o n ) 、労働生活の質 ( q u a l i t yo f   w o r k i n g  l i f e ) 、労働関係の質 ( q u a l i t yo f  w o r k i n g  r e l a t i o n s ) といったことがらを達成する

ための決定的な要因になるととらえる点である。表現を変えると、組織設計の成果は、こ れらのことがらがどの程度達成されたかを見ることによって決められるということであり、

設計の成果を測る指標が明らかにされている。このとき、組織の質とは、環境変化がもた

らす諸事、製品やサービスに対する顧客の要求、短期的、長期的な計画に伴う不確実性な

どに対処する組織の能力を意味している。労働生活の質とは、労働者が参加のレベルを高

めたり、仕事のプロセスを調整したりできる意味のある仕事を作り出すことによって、労

働者が仕事に深く関与することができる程度である。さらに、労働関係の質は、労働者が

互いに尊敬し合い、寛容で公正な関係をもちながら働くことができるとともに、経営側と

(10)

組合など労働者側との間にパートナーシップが築かれている状態によって決定される。図 1 はここまでの関係を示したものである。戦略的選択に基づき、組織設計が行われ、その 成果として組織の質、労働生活の質、労働関係の質が問われることになるが、それらの成 果は戦略的選択や組織設計にフィードバックして、より良い組織の設計が絶えず追求され ていくことになる。

組織の質

戦略的選択 組織設計 労働生活の質

労働関係の質

出所: A m e l s v o o r t ,  2 0 0 0 ,  p . 1 2 ,  F i g u r e l . 2 .   図 1 MSTによる組織設計、成果、戦略の関係

第 3 の特徴は、組織設計の中心概念に複雑性をおいている点である。組織外の環境の不 確実性の増大と上述した 3 つの成果領域における複雑性を考慮に入れて、組織設計を行わ なければならないとする点である。従来の STS 論では、技術システムと社会システムの最 適結合が行われることが目的とされており、 MST で着目されている 3 つの成果領域まで は特に考慮されておらず、変化を静的にとらえるきわめてシンプルなモデルが提唱されて いた。しかし、 MST では、考慮すべき変数が多岐にわたる現実世界の状況をできる限り 取り込んだ設計理論を構築するために、複雑性に正面から取り組んだ動的なモデルが提示

されている。

最後に、組織を社会的、技術的変数によって構成される、統合され、首尾一貫したひと

つのものとしてとらえる点である。組織を、技術システムと社会システムから成る社会一

技術システムと見ることと統合された一つのものと見ることの違いは、後者では、社会的

な変数と技術的な変数は相互に関連しあって同時に操作されるべきものであるととらえら

れ、組織が動的に把握されているところに求められる。また、 MST では、環境変化に動

的に対応していくためには、技術的な変数ではなく社会的な変数一組織成員である人

間ーが、迅速に変化に対応できることが必要であると考え、そのために設計の過程から、

(11)

関西大学『社会学部紀要』第 38 巻第 2 号

そのことを折り込んで組織を設計していくことが重要視されている。生産構造(技術シス テム)が、社会的、心理的構造を形成する基盤であるとする点は上述したが、それは決し て技術決定論的な発想ではなく、設計された組織が実際に機能していくためには、そこで 働く人間の能力が十分に発揮されるように注意が払われているのである。

こうした特徴を持つ MST が提唱する組織設計の原則は、表 3 の通りである。 MST によ る原則に特徴的な点を確認しておこう。

表 3 MSTによる原則 原則 l 基本プロセスのグルーピング 原則 2 設計原理に従った機材の設置 原則 3 自己統制に基づく現場での調整 原則 4 分権化による統合的マネジメント 原則 5 水平的な調整

原則 6 最小組織単位としての自已統制チーム 原則 7 多様なメンバーによるリーダーシップ 原則 8 共通認識された行動基準への準拠 原則 9 メンバーが作成した最小限の)レール 原則 1 0 調整のための情報提供

原則 1 1 個々の成長と結果志向的協調改善を目指す人的資源システム 出所: A m e l s v o o r t  ( 2 0 0 0 )  p p .   8 0 ‑ 8 2 より作成。

原則 1 、 2 では、生産構造の基盤を確立するために技術に着目しながら合理的な仕事の プロセスの把握に努める必要性をまず提唱している。その上で、原則 3 から 7 は、変化へ の対応の主役を担う人間にかかわる項目が並んでいるが、特に重要となるのが、自己統制 ( s e l f ‑ m a n a g e m e n t ) という考え方である。これは STS 論の流れをくむものであり、管理者 による管理ではなく現場で働く作業者自身に判断を委ねることによって作業者のやる気や 働きがいを高め、同時に変動への迅速な対応を可能にするものである。初期の STSD の原 則では、自己統制という概念は存在したものの、原則の中に謳われることはなかったが、

MST による原則では自己統制を原則に盛り込みその必要性を強調しているところが、従 来とは大きく異なる点である。

さらに、原則 6 に「自己統制チーム ( s e l f ‑ m a n a g e m e n tt e a m ) 」と示されていることに

加えて、原則 7 から 9 がメンバーによる決定や共通理解を重視しているように、メンバー

が相互に協力し合い、意思決定していく自己統制チームを目指すべき組織の基本的単位と

している点が、従来の原則には見られなかったところである。従来の STS 論においても自

(12)

律的作業集団 (autonomouswork g r o u p ) の有効性は主張されており、それは労働の人間 化や北欧での産業民主主義における理想的な組織形態の一つとして実践もされてきた。さ らに、リーン生産方式への注目が高まるとともに、自己統制チームは変化に対する柔軟性 を持ち、激変する環境下にある今日では非常に有効な組織形態であることが実証されてき た (Womack,e t . a l . ,  1 9 9 0 ;  Niepce and Molleman, 1 9 9 6 ) 。そうした経緯を経てきたことにより、

MST による原則では、自已統制チームの重要性が前面に打ち出されたものと考えられる。

初期の STSD の原則から多くの時間と経験を経て、 MST による原則ではこれまで以上に 社会システムを構成する人間への配慮の重要性を謳うようになってきている。技術が発展 すればするほど、残された仕事は技術ではカバーしきれない、人間でしか対応できない仕 事となり、技術で代替しきれないヨリ高度な仕事が人間の手に委ねられるようになる。こ のことを考えれば、 STSD の原則がこれまで以上に人間への配慮の重要性を唱えるのは、

ある意味当然の帰結なのかもしれない。

N  むすび

本稿では、主として STSD の原則の変遷をたどりながら、 STS 論にもとづく組織デザイ ンのあり方の発展過程を確認してきた。 STS 論のイギリスでの誕生から半憔紀以上が経過 した今日、それは世界各地に広がりながら理論的かつ実践的な発展を繰り返し、現在では MST としてオランダにおける組織設計の手法として広く普及するに至っている。技術と 働き方のあり方を考えるにあたって STS 論が示唆してくれる点を整理して、本稿の結びと

しよう。

まず、組織を設計する際には戦略との整合性が求められることである。設計の対象とな る組織は、企業組織という全体システムから見ると一つの下位システムにすぎないとして も、戦略によって示される全体システムの進むべき方向と一致した方向を目指さなければ ならないのである。設計で目指されるべき組織の姿は、技術が決定するのではなく戦略が 規 定 し な け れ ば な ら な い 。 こ れ は 、 今 日 で は 、 人 的 資 源 管 理 (HumanResource  Management; HRM) が戦略的人的資源管理 ( S t r a t e g i cHRM; SHRM) と呼ばれるようになり、

単に人材の調達、育成を行うのではなく、戦略的に必要とされる人材をいかにして獲得し 育て上げるかが重視されるようになってきていることと方向を一にしている。組織の末端 に至るまで、戦略の意味を理解し、それが目指す方向と一致した行動がとれるように組織 設計も行われることが、技術と働き方のあり方を考える際に考慮されるべき第 1 の点であ

る 。

(13)

関西大学『社会学部紀要』第 38 巻第 2 号

次に、組織設計には、従来のような職務設計 ( j o bd e s i g n ) というミクロ的な視点より も全体組織をデザインするというマクロ的な視点が求められるようになってきていること があげられる。今日ますます激しくなってきている環境変化に対応するためには変化への 迅速な対応が必要となるが、そのためには組織内の各部分(関連しあう部署や人)が変化 に対応するように同時に動かなければならないからである。システムとしての組織の複雑 性が増大している現在では、サブシステムだけの設計というミクロ的な発想では、現実的 な対応が難しくなってきている。ただし、それは同時に、組織設計の際に取り入れるべき 変数やその関係性などの複雑性が高まり、組織設計そのものがますます高度化してきてい ることも意味している。

さらに、組織設計における社会システムの重要性が相対的に高まってきていることが第 3の点として指摘できる。環境変化への柔軟な対応のためにマクロ的な視点が必要である が、変化への対応能力は技術システムよりも社会システムが有しているからである。環境 変化への対応を折り込んで組織設計を行うといっても、起こりうる変化をすべて予測する

ことは不可能であり、現実には予期せぬことが生じた時にどれだけ適切かつ迅速にそれに 対応するかが組織の質を大きく左右する。しかし、技術システムに可能な変化への対応は、

予測可能であって技術システムにあらかじめインプットしておくことができるものに限ら れてしまう。必然的に、予期せぬ出来事への対応は社会システムを構成する組織のメンバ ーが行わなければならなくなる。上述したとおり、技術の発展は技術では対処できない仕 事を人の手に委ねざるを得ない情況を生み出していくのである。

このことは、第 4 に、組織設計にあたっては、管理者によるコントロールではなく組織 成員の自己統制を重視しなければならないことを導き出す。組織のメンバーによる変化へ の対応が求められるわけだが、その対応能力は、管理者のコントロールではなく、変化に 近いところにいる組織メンバーの自己管理に求めることが現実的かつ重要となってくる。

そのためには、管理者によるコントロールを緩和するだけでなく、技術システムが組織メ ンバーの行動を阻害することがないように組織を設計しておく必要がある。

最後に、伝統的な社会ー技術システム論から MST への変遷過程を見ると、その適用対 象に占める生産現場の割合が少なくなってきていることが見て取れる。これは、生産現場 の重要性が低下したというよりも、生産現場の技能者に比べて、オフィスワークを中心と

したホワイトカラーの量的な増加に起因しているのであろう。そうした中で、今後は、オ

フィスワークを中心とするホワイトカラーの仕事における組織設計のあり方、技術システ

ムと社会システムとの関係について検討することがますます重要となってくる。一般に、

(14)

ホワイトカラーの仕事では、技術システムが最終生産物のあり方を規定する程度が、生産 現場の仕事よりも小さくなっている。そうした職場では、技術決定論的な、技術に規定さ れた働き方よりも、技術を利用した働き方がますます求められるようになってくるだろう。

そして、そうした状況のもとでは、同じ技術を用いても、生産現場に比べて、組織選択の 余地がかなり高まることが容易に想像される。そこで技術システムと社会システムの最適 な結合をはかり組織を設計するためには、これまで以上に戦略的な発想の重要性が高まっ てくるであろう。この点については、今後の課題として稿を改めて検討したい。

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‑2007.1.22 受稿一

参照

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