現代人事管理における能力開発
著者 奥田 耕一
雑誌名 金沢大学経済論集 = The Economic Review of Kanazawa University
巻 15
ページ 1‑9
発行年 1978‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/2297/37167
現 代 人 事 管 理 に お け る 能 力 開 発
奥 田 耕 一
1 . 労 働 力 需 給 の 問 題
経済審議会が1976年5月に策定した「昭和50年代前期経済計画」の基調をな しているものは,日木経済の成長率が10%強の高度成長から6%程度の成長路 線に減速移行しなければならないという判断であり,石油ショックを契機とし て,日本経済の高度成長の基礎的条件の多くがすでに失われてしまっているこ とが再認識されたものとみることができる。その中でも主要な問題として,雇 用問題の重要性が指摘されているのであって,高度成長とともに高まってきて いた労働力の不足傾向は,いまや一転して失業を含む過剰労働力という問題を 抱えこむに至った。その中で労働力供給の問題として深刻化しているのは,労 働力の高令化と高学歴化である。
厚生省人口問題研究所の推計によって,昭和60年における生産年令人口につ いてみると,年令階層別構成比は表1.1に示すごとくであるが,これを同表の
表1.1生産年令人口構成比(%)
年 令 | 昭 和 4 5 ( 1 9 7 0 ) 年 昭和60(1985)年
4907
●●●●
968523215〜19 20〜34 35〜55
55以上
11.5 35.7 33.2 19.6
資料:国勢調査
昭和45年国勢調査結果について作製した部分と比較すれば,生産年令人口の高 令化のテンポが相当に急速なものであることが察知される。
20世紀前半にいたるまでは人間の平均余命は50年を超えることはなかった。
人間の生命の前には久しい間にわたって病気や貧困が立ちはだかっていたが,
近代文明は次第にそれらを克服するようになってきた。人間の精神の所産が一
− 1 −
貫した進歩の軌跡であると論断することにはためらわざるを得ないが,科学技 術と呼ばれる範晴に属する文明の事実は進歩の積み重ねであろう。少くとも生 物化学や医療技術の進歩が乳幼児の死亡率を大巾に低下させたことは争えな い。人間の平均余命は払世紀の間に難世紀近く伸長した。そして経済政策の技 術もまた,所得を増加させ,生活水準を向上せしめることによって,鉄の鎖の ような窮乏化法則を槌色せしめたかのごとくである。加えるに,家族制度を解 体した戦後社会の生活様式が定着するにつれて,核家族の生活倫理は出生率を 低位安定させるに至った。その結果,日本列島における人口爆発は抑止される けれども,若年労働者の慢性的不足と老令人口の増大は避け難い趨勢となった といわねばならない。
日本の労働力率の特徴として,男子55才以上層の労働力率の高いことがあげ られる。とくに65才以上層については異常に高率である。(1974年ILO年報に
よれば,USA24.8%,駅D15.1%,UK15.8%,日本46.7%である。)この理由としては2点が考えられる。第1は高度成長期における労働力需要 がきわめて旺盛であったことであり,第2は年金制度の不備に象徴される社会 保障水準の低さである。
第一の理由については,終身雇用制と年功序列制という日本的雇用制度とか らみ合って,減速経済の現在においては企業の人件費負担の圧力となっている
が,第二の理由についてみれば,欧米諸国の労働者が定年到達後は円滑に年金生活を開始して労働から引退するのに対して,年金制度の不備な日本において
は,定年到達後の生活の困難が高年令者の就職を余儀なくさせているものとみなければならないのである。現在における高年令就業者は高度成長を支えてき た貢献者であるにもかかわらず,その獲得してきた報酬の蓄積は高度成長に付 随した持続的インフレーションによって滅殺され,不十分な年金制度を補完す るに足らない。しかも昔日において老令者を扶養保護する基盤であった家族制 度はすでに崩壊しているのである。労働省「定年到達者調査」(昭和49年)に よれば,「現在働いているか,または就業を希望している者」のうち,生活の ために就職を希望している者は60〜64才層では64%,65才以上層においても44
%に及んでいる。また男子65才以上層の労働力率の趨勢についてみても,自営 業者世帯における65才以上層の労働引退は比較的円滑化しているのに対して,
雇用労働者所帯の老令者の生活は自ら保障しなければならない厳しい傾向にあ ることが読み取られる。
労働力の高令化のテンポは産業によって異なるが,1975年にはあらゆる産業
− 3 −
において中高年令化指数が1を超える状態になっている。(ユ)
終身雇用と年功序列という日本的経営の特色とされてきた人事管理システム は,高度成長期の企業の労務政策を進める上に好都合に作用した。しかし,終 身雇用による安定感と年功序列による将来の希望という誘因は,そもそも低賃 金による貢献と平衡するものであって,高度成長の過程を通じて労働力需給が 逼迫し,若年労働力の初任給が上昇するにつれて,総費用中に占める人件費の 割合は当然に増加してきた。それが低成長経済の現在に至って強く意識される ようになったのは,現代企業における人件費が固定費的性格をもつために操業 度の低下につれてその圧力が増大したためである。さらには,年功序列制の合 理的根拠となってきた前提,すなわち学歴が能力をあらわし年功が技術差を示 すということが,技術革新の余波を受けた現代企業の経営計算の一般的基準と してそのままでは持続し得ない状況に至っている。しかもなお一方において労 働者の帰属意識を有効とする経営者感覚が存する限り,年功序列制は必要な人 事管理システムとして再評価されている。合理的な賃金制度のためには,職務
分析・職務評価・能力判定・昇進制度等を含む職務制度が確立されねばならないが,問題はその確立過程において労使の利害と意見の調整をいかに行うかと いうことであり,また高年令の就業者が過去の高度成長期に果してきた貢献を いかに補償するかということである。前者の解決のためには,経営者の見識と ともに労働組合の中に経営意思形成機能を認識評価する能力が培われることが 必要であり,後者の問題については,余りに低位にある年金比率(社会保障費 中に占める年金コストBRD56.2%,日本8.6%)の抜本的改革なくして社会 的正義の実現はないというべきであろう。
労働力の高令化と並んで,低成長ないし安定成長経済を指向するに当って雇 用問題として進行しているものは高学歴化である。中学から高校への進学率は 1975年には91.9%に達しているが,大学への進学率も急速に上昇し,同年34.2
%に達している。
雇用政策調査研究会の報告「労働力需給の展望」(1975年)によれば,中学 卒就職者は1974年の13万人から1985年には5万人程度に減少し,逆に大学卒
(大学院および短大を含む)就職者は1974年32万人から1985年には50万人程度 になり,高校卒就職者は昭和50年代を通じて58〜59万人程度で推移するものと 予測している。
日本の高学歴化の進展の特徴は,そのスピードがいちじるしく高いことであ り,その結果として年令階層別の高学歴者の割合に年々格差を生じていること
− 3 −
である。その間の事情は日本の大学教育が若年層から引続いて習得されるのみ で,欧米のように比較的高い年令の者が大学教育を習得する例が稀有であるこ とにも起因しているが,日本の1960年から1970年までの高学歴化の進行スピー
ドはUSAにくらべて約2倍の速さで進んだのである。(2)
昭和51年版労働白書は,このような高学歴化の傾向下における就業分野の特 徴として,次のような諸点を指摘している。
・日本の高学歴者の専門的技術的職業に従事する者の割合は,欧米にくら べて相対的に少ない。
2.高学歴者の中で事務・販売従事者と管理的職業従事者との割合が,年令 によっていちじるしい差がある。
3.高年令層では高学歴者の職業が特定の職業に集中していて,ヨーロッパ 諸国の職業分布に類似しているが,若年層は多くの職業に分散して,USA の職業分布に近い。
4.高学歴者の多くが大企業に集中している。
5.高学歴者の多くが大都市,とくに東京を中心とした関東地方に集中して いるO(3)
このような高学歴化現象は,高度成長期において企業の低学歴・若年労働力 確保をいちじるしく困難なものにしたが,他方では技術革新に見合った質の高 い適応力をもつ労働力を大量に供給する道を拓いたものと云えないことはな い。しかし高度成長が終焉した現在において,年々輩出する高学歴の新規労働 力を配置すべき就業分野についても,またすでに就業している高学歴労働者の 昇進についても,深刻な労働力過剰が現成しつつあるといわねばならない。
高度成長の終焉が労働力の需給に影響を及ぼしている問題として,さらに言 及しておかねばならないのは女子労働力に関する問題である。
女子労働力は,女子が出産と育児という女性特有の問題をもっている以上,
男子労働力とは異った性格を示す。この性格の特異性は長年月にわたって女子
の就労を未婚者に限るという形態を一般化してきた。しかし出産と育児に拘束
される期間をはさんで,女子の就労可能期間は第一子の出産にいたる就労可能
期間よりも乳幼少児の保育以後の就労可能期間の方が長いのであって,欧米先
進工業国の女子労働の主体は既婚者である。日本においても高度成長期後半に
なって女子労働力に占める未婚者の割合は減少傾向を強め,昭和49年版「就業
構造基本調査報告」の示すところによれば,女子有業者1882万人の中で未婚者
499万人,26.9%にとどまっている。
このような女子労働力の性格は,男子労働力にくらべて有業率の年令階層別 分布に顕著な相異を示してい
る。すなわち女子の有業率の 年令階層別分布は,図1.1に 示すように双頭型であって,
まさに先進国型の女子労働力 の類型を示している。
女子労働力の相当部分は,
景気変動に応じて労働力と非 労働力の間を移行する縁辺労 働力たる性格をもつものと思 われる。経済成長の低速化す る過程で労働需要が鈍化する につれて,縁辺労働力には引 退現象があらわれるものと考 えられるが,それはそのまま 長期的に非労働力化してしま うことを意味しない。むしろ 女子労働力は若年労働力に代 替することを通じて,男子中 高年労働力の就労と競合し圧 迫 す る 要 因 と な る の で は な い かということに注意すること が必要である。
ところで,このような労働 力需給の情況の中で賃金はい かなる推移を示しているであ ろうか。1955年以降の賃金指 数は表1.2の示すごとく,
1975年の実質賃金は1955年の 3倍,1965年の2倍になって いる。
ところがこの間における企
図1.1年令階層別有業率(昭和49年全国)
I(%
l()0−
90−
80−
70−
60−
50−
40−
30−
20−
1()−
)
一一一一一一一
Wl和lml印ll釦lmlm −一一一一一一
11111︲111111
︽●lQ111
〆〆
〆ダ
ダ/
〃
一
一﹄11111
1
1 5 2 0 2 5 3 0 3 5 4 0 5 5 1 1 1 1 1 1 1 1 9 2 4 2 9 3 4 3 9 5 4
資料総理府統計局 「就業構造基本調査報告」
表1.2賃金指数推移
年次|名目賃金指数 │ 実 質 賃 金 指 数
1955 60 65 70 72 73 74 75
10.4 13.7 22.5 42.4 56.4 68.5 87.1 100.0
33.8 41.3 50.6 73.1 87.7 95.3 97.4 100.0
資料:日本統計年鑑
− 5 −
業の営業成績は表1.3に示すように利益率は対売上高,対総資本の何れにおい ても低落し,とりわけ50年度において落ち込みがはげしい。現在の不況は少数 の輸出好況業種と相当数の構造不況業種を二極とした多面的なものになってい るが,それを捨象して全産業を包括した収益性の低下傾向と付加価値増加の趨
表1.3収益諸比率の推移
嘉 臺 、 雪 総 資 本 回 転 率 営 業 利益率 売 上 経 常 利益率 高 営 業 利益率 総 資 本 経 常 利益率
%
6778766864 9580413194●●■●●●●●●●% %
%
6880714240●●●●●●●●●●4445444543回
2333322321 7003148653●●●●●●●●●● 4445434541 0794861609●●●●●●●●●●似蛇娼仏妬妬銘娚別 乾閃闘舵師靭妬弱帥妃●●●●●●●●■●1111111111
資料:法人企業統計
(単位%)
表1.4付加価値増加率の推移
駁│ョ 人件費 支払利息 ・割引料 動産・不 動産賃借 料 租 税 公 課 営業純益
△16.2
14.6 15.8 13.9 3.9 11.8 10.9 32.2 25.5△3.5
54.7 49.6 17.6 37.1 0.6
△33.6
41.3 121.9△35.2
32.415.3 22.5 23.8 31.5 19.5 16.7 25.7 25.1 7.8 10.1
11.8 19.9 18.5 21.3 17.2 12.9 23.4 45.0 10.9 17.1
17.5 20.0 20.1 20.8 14.0 18.0 26.5 30.5 15.5
12345678904444444445
19.2 19.9 19.5 22.0 17.4 8.4 18.6 35.4 21.7 3.0
資料:法人企業統計
− 7 −
表1.5付加価値の構成比 (単位%)
|
合 計
動産・不
動 産 賃 借 租 税 公 課 営 業 純 益
墨 、 雪 人件費 支払利息 ・割引料 料
41 42 43 44 45
46
47 48 49 50100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
61.2
60.0
61.1 60.2 61.9 65.164.8 60.5 64.9
72.716.7 15.5 15.2 14.7 15.2 16.5 15.7
14.3
17.0 18.36566276246●●●●●●●●●●4444555555 0841563231●●●●●●●●●●6555444444
11.5 14.3 13.7 15.4 13.2 8.1
9.6 15.8 8.4
△0.8 資料:法人企業統計
勢を付加価値の構成比の変化に対比して 表1.6消費者物価指数 み る と , 明 ら か に 人 件 費 と 金 融 費 用 の 増 一
大 が 利 益 を 圧 迫 し て い る こ と が 判 明 す 年I
る 。 ( 表 1 . 4 お よ び 表 1 . 5 ) 3 0 労働者の生活感覚からみれば,賃金指
3540
数の推移は第1.6表に示すごとき消費者 45 物価指数に対比されるから,とりわけ石
47油 シ ョ ッ ク 以 後 , 賃 金 の 上 昇 は 物 価 の 上 4 8 昇 を 追 い か け る 感 を 免 れ な い 。 4 9
しかも,それにもかかわらず,企業経
50年次|指数|対前年比
I
30.8 33.2 44.5 58.0
64.3
71.9 89.4 100.0|肥弘釦皿哩塑狸●●●●●●●1111111
営の計数からみれば人件費の高騰は付加 資料:日本統計年鑑 価値を蚕食して純利盛を減殺している。
もちろん,人件費に伍して付加価値構成比を増している支払利息,割引料もま た重圧であるが,その解決は自己資本比率の改善以外にはない。むしろ,ここ で強調しておかねばならないことは,かつて産業資本主義の勃興期においては 変動費たる性格をもっていた労務人件費が,現代にあっては大部分が固定費と 化していることであって,その結果,企業の損益分岐点は高く押し上げられ,
収益を費用に対応させるためには90%を目安とする高い操業度が要請されるの
・ − 7 − −
である。それと共に,労働者が企業に定着する最大の誘因である賃金に対し て,少くとも労働者の企業に対する貢献が見合った均衡を示すものでなければ ならない。能力主義という人事管理のイデオロギーがここに脚光を浴びること
になる。
2.能力主義管理の社会的背景
労働者は雇用契約によって企業という組織の構成員となっている。したがっ て労働者の心理には,体制変革の主体となる階級意識と,企業という目的構成 体を維持し発展させるシステムの構成員としての協働意識とが存在し得るので ある。これらの意識の何れかを強調して他を圧縮するほどに,個人の意識のイ デオロギーは鮮明なものとなるが,環境の変化に適応しなければ生存できない 生物としての人間にとって,現代の文明社会の生活はそのような鮮明な観念の 確立を困難なものとしていると云えよう。
労働者が組織に定着するためには,組織が個人に提供する誘因と個人が組 織 に 対 し て 果 す 貢 献 と が 均 衡 し て い な け れ ば な ら な い 。 そ れ は 個 人 ま た は employeeの側からみればく誘因三貢献>という関係式を満足させていなけれ
ばならない。
しかしながら,これを組織の側からみればく誘因≦貢献>という関係式が満 されなければ組織の維持は行われない。そしてこれら両者の関係式の等号はす べての組織の均衡すなわち全く静態的な経済社会を想定するものであって,云
うまでもなく現実性をもたないものである。それ故,組織の維持は
{ 菫 畠 ≧ 薑 讓
という,形式論理上からみて解のない矛盾の上に成立っていることになる。
このような一見して明白な論理矛盾にもかかわらず多くの組織が維持され発
展しているのは,組織に対する個人の貢献に見合って提供される誘因は,それ
を受容する個人にとっては客観的なものと主観的なものとが並存することによ
るのである。このような誘因の二面性について,C・バーナード「経営者の役
割」において透徹した解明を加えたことはすでに近代的管理学にとって古典的
業績として定位されている。バーナードはその第11章「誘因の経済」において
客観的な誘因そのものについて8項目にわたって例示して,貨幣ないし物質的
な誘因が必ずしも優位を占めるものでないことを論じている。すなわちバーナ
ードによれば,生存水準をこえても物質的誘因が最も効果的であるという認識
は錯覚であり,きわめて限られた例外を別として,大部分の人はより多くの物 財を求めて一層熱心に働くというものではないのである。(4)
高度成長の終焉は,前節に示したように人件費と企業収益との緊迫した関係
を顕在化しているが,それを解きほぐして貢献量を高めるために能力主義管理が普及しつつあるということができる。能力主義のイデオロギーが現在のよう な浸透をはじめた契機は,日経連能力主義管理研究会の報告書「能力主義管理
−その理論と実践」であるが,能力開発manpowerdevelopmentという概
念はすでに高度成長の初期に導入され,( )経済審議会は1963年1月,人的能力開発部会長大原総一郎の下で「経済発展における人的能力開発の課題と対策」
を提唱している。
高度成長を可能ならしめた条件の一つとして不可欠であったものは,豊富に して低廉な労働力であったが,他ならぬその高度成長の過程において労働力の 需給は逼迫し,賃金水準は必然的に押し上げられる。もしもその経営者が従業 員の能力の状況を成行きにまかせておくならば,誘因と貢献の均衡は急速に崩 壊せざるを得ない。経営者の判断は能力開発を人事管理の体系の中に組込む必 要を認識したのである。その根底には,管理論の生成期を代表するF・テーラ ーの機械的人間観と1930年代の人間関係論を止揚した行動科学的人間観が汲み 取られている。
現代の人事管理が能力主義を志向せざるを得ない社会経済的背景は,何より も高度成長そのものがもたらした過剰生産であるが,しかも日本経済の高度成 長が他人資本による設備投資という安易で冒険的な経営政策を多分に取り入れ ながら行われたものであるために,他人資本による設備を転換させるために再 び他人資本に依存するという構造的性格をもつところに極めて深刻な危機的条 件が存在する。加うるに高度成長の経済のメカニズムは,前節に述べたように 人件費の比重を重くしてコストを圧迫している。それ故に現代の人事管理は,
能力主義というイデオロギーによって労働者個人の貢献を増大しようとする。
労働者個人を精鋭化することによって少数化するという合理化,すなわち少数 精鋭主義が標傍されるのである。
企業はもとより,組織は目的構成体であって,その目的を達成するための方 法一手続一システムは合理化されねばならない。合理化とは最少のi叩ut によって最大のoutputを産出するという理性的行動の方向づけである。能 力主義人事管理もまたこの理性的管理行動の一環であることに疑念はない。た だし,人間管理の対象は紛れもなく人間であるから,man‑powerの管理を物
− 9 −
財ないし資金の管理と同様に全く理性的にのみ考える合理化の体系に組込むこ とが,管理される人間の非合理な感情ないし動機を満足させるものでないこと は否定しがたい。
過剰生産と労働力需給バランスの変動という国内経済的要因の外に,能力主 義管理を必然した社会経済的背景は,高度成長期の進展につれてGATTと IMFに迫られた開放経済情況である。数次にわたって進められた貿易自由化 と円価値の切上げに反挽力を発揮する過程で国際競争力を培養することは不可 避の課題であった。しかもその国際競争は単に製品の輸出市場におけるものに とどまらず,とりわけ1970年代の国内過剰生産がもたらす不況の解決策として も,また関税障壁に対して多国籍化を進める経営計算からみても,資本の海外 進出が合理性を示してくるにつれて,企業の国際競争力は経営管理能力の競争
にたえることを意味することになっている。
しばしば日本的経営の特徴として指摘される終身雇用と年功主義管理方式が 日本の企業に定着したのは,明治末期ないし大正時代であるが,太平洋戦争後
に再びこの方式カヌ戦時経済時代の空白期を越えて復活じ維持されてきたのは,もとより終身雇用制が労働力の定着性を高くするという効果をもったことは云 うまでもないとしても,学歴が能力をあらわし年功が技術差を示すという合理 的根拠が年功主義管理を成立せしめてきたのである。
このような合理的根拠を槌色させたものは20世紀後半における広汎な技術革 新である。その世界的潮流に対処して行われた膨大な設備投資による企業規模 の拡大は,USAから導入された多彩な管理技術を日本の産業社会に適するよ うに換骨奪胎して活用することを必要とした。戦後の日本の産業社会は,教育 制度を根本的に変容することを含めて,USAの管理技術を賞るように移植し たのである。そのような管理技術の導入の力点は,概して生産一→財務→販 売一→人事という順序をたどって変化してきたとみることができる。管理機能 を担当する主体は人間であり,.「経営は人なり」というスローガンやカーネギ ーの有名な墓碑銘が暗示するところも,人事管理が管理の体系の要になること を示唆しているといって過言ではない。
現在すでに企業は高令化社会の急速な到来に対する対策に迫られており,
「労働経済動向調査」(1977年2月)によれば現在実施されているものとして高 い比率を示している対策は「定年延長.再雇用.勤務延長」であって製造業57
%卸小売業56%と抜群に高いが,検討を進めている対策としては「中高年令者
の能力開発」が製造業33%卸小売業27%となって,一番高い比率を示してい
表2.1高令化対策の事項別事業所割合
(「対策を進めている」事業所で現在実施している対策) ( % ) の 企 業 内 中 高 年 管 理 職 ' 年 功 賃 能 力 主 昇 進 と 昇 管 理 職 定 年 延 業 務 経 一 定 年 定 年 前 希 望 退 方 の 配 置 令 者 の 待 遇 十 金 力 一 義 的 な 給 を 分 離 定 年 制 長 再 験 を 生 令 後 退 希 望 退 職 者 の 高 転 換 を 能 力 開 ス ト フ を 横 賃 金 体 す る を 導 入 雇 用 か し 関 職 金 の 職 者 に 募 集
者 積 極 的 発 を 図 ( 専 門 ぱ い 又 系 を と ( 賃 金 は す る 勤 務 延 連 会 社 増 加 を 退 職 金 解 雇 そ の 他 に に す る る 職 等 ) は ゆ る る あ け る か 長 を す に 出 向 お さ え を 優 遇 に よ り す を 増 や や か に 昇 進 は し る さ せ る る す る 削 威 す
す す る な い ) る
仕 事 やり を中 年令 向き 改善 る 産 業 ・ 規 模
1 2 8 5 7 3 2 9 1 4 1 0 5 6 5 1 1 0 9 8 5 5 7 4 7 1 0 5 6 1 8 5 1 7 2 5 8 2 8 8 1 3 9 5 7 3 9 1 1 1 3 4 5 6 1 9 6
1122−13 1 2123413
製 造 業 1 4 3 0 1 7 5 2 4 2 3
〔 ' , 脳 晶 夫 品 蒻 器 I 謬 諾
[罵工葉襄菫莞;菫室
卸 売 業 , 小 売 業 1 2 3 4 2 1 8 1 2 1 2 7
12 18 3 8 13 13
l巨I 8
資料:労働経済動向調査
高令化対策の事項別事業所割合
(「対策を進めている」事業所で検討している高令化対策)
表2.2
( % )
他
のそ 退の雇りす 望者集解よ減 希職募・に削る
前退に金遇 年望者職優る 定希職退をす 年退のをえ一
一症搬職削瀧る一
経生関社向る 務をし会出せ 業験か連にさ
延再・延す 年・用務を 定長雇勤長る 職制入 理年導る 管定をす
一
一職雷妬儲梛轌鯏
仕 事 の 企 業 内 中 高 年 管 理 や り 方 の 配 置 令 者 の 待 遇 を 中 高 転 換 を 能 力 開 ス ト 年 令 者 積 極 的 発 を 図 ( 専 向 き に に す る る 職 等 改 善 す を 増
る す
産 業 ・ 規 模
1 6 7 6 9 8 7
1 0 3 4 8 9 52 5 1 2 5 1 3 1 2 0 1 3 1 1 3 2 2 2 0 1 6 1 0 4 1 2
2 0 4 7 2 4 1 3 1 11 4 5 4 6 8 5 2 4 1 8 8 1 6 1 6 8 2 7 3 3 7 1 8
2 2 3 6 6 1 4
3 5 2 5 8 2 0
2 7 3 7 8 2 4 3 1 3 1 7 2 92 6 3 2 7 1 5 2 7 2 7 1 4 2 2 製 造 業 2 2
['i::蝋夫歪
〔 重 工 業 2 0 尭 亭 工 士 菫 竈
卸 売 業 , 小 売 業 1 0
6654046
2325423 11−2404
11﹄﹄114
:労働経済動向調査
資料
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る。(表2.1,表2.2)同様の意 識は表2.3に示すように,現在高 令化対策を全く実施していない企 業についても看取される傾向であ って,「能力主義賃金体系」「年功 賃金カーブの修正」を加味して考 えると,企業の関心が今や能力主 義,能力開発に向っていると云わ ざるを得ない。(表2.1,2.2,
2.3)
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3 . 能 力 開 発 の 理 論 的 基 礎 能力開発の理論的基礎となって いるものは行動科学的人間観であ る 。 行 動 科 学 に つ い て は , U S A 帝国主義のイデオロギーときめつ ける批判的見解が存在する反面,
それが組織の人間化と民主化に理 論と方法を提供するものであると いう評価も多く見受けられるO(6) 人間の能力の発現は機械の機能の 発現と異って,意欲に基づいて行 われるものであることを経験的事 実として認めるならば,行動科学 のアプローチは何らかの意味にお いて肯定されねばならない。
そのような行動科学の文献の中で 能力開発に基礎的な人間観を呈示 したものとして代表されるのは,
マクレガーによって示された人間 類型であった。彼は在来の伝統的 管理論が前提としていると思われ る人間観をX理論として整序し批
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判する。X理論による人間の考え方は次のように要約される。(7)
1.人間は性来,怠惰なもので,できれば仕事をせずに生活することを欲し
ている。
2.人間は仕事を嫌うものであるから,強制され,統制され,命令されなけ れば,また処罰の脅威がなければ組織の目標達成のために努力しないもの である。
3.人間は責任を回避するものであり,さして野心をもたず,安全を願うも のであって,そのためにむしろ命令に服する他律的な行動を好むものであ る。
このような人間観は伝統的管理論の大宗たるテーラーの論策の中に読み取る ことができるものである。(8)
これに対してマグレガーはY理論という対照的な立場から人間を捉えること を主張する。それは次のような徴表をもっているのである。
1.仕事で心身を使うのは人間の本性であって,この点は遊びや休息の場合 と変らない。
2.外部から統制したり脅迫することだけが企業目標の達成に努力させる手 段ではない。
3.献身的に目標達成に尽すかどうかは,それを達成して獲得する報酬次第 である。
4.普通の人間は条件によっては責任を引き受けるのみならず,自ら進んで 責任をとろうとする。
5.企業内の問題を解決しようとして比較的高度の想像を駆使し,手練を尽 し,創意工夫をこらす能力は多くの人にそなわっているものであって,一 部の人だけのものではない。
6.現代の企業においては,従業員の知的能力は日常わずか一部しか生かさ れていない。
個人の経験的事実には,おそらくX理論とY理論が併存する。怠惰と勤勉と いう相反した性向は,個人によっても,民族によっても,また時代によっても 異るものである。その相異が何に由来するものであるかを解明することは不可 能であると云う外はない。われわれは精々その価値判断を行うことができるに 過ぎないのである。
マグレガーの主張するところは,命令や強制がなければ組織目標を達成でき ないのではなくて,個人の欲求を満足させようとする目標と企業の目標とを統
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合させることができるということであって,そのような「統合の原則」principl ofintegrationがマグレガーの組織論の中核をなすものである。
現実の社会には勤勉な人間もあり怠け者もいることを誰でも経験的事実とし て知っている。のみならず,一人の人間が情況の変化によっては勤勉にもなり 怠惰にもなることも明白な事実として経験されている。それ故,マグレガーが 提起したX論対Y理論という二者択一の命題は,それがどちらが科学的に正し いかをめぐる議論である限り堂々めぐりの迷路に入りこんでしまうといわねば ならない。ドラッカーも指摘するごとく,「人間の本性の理論としてどちらが 正しいか」ということではなく,「現実の情況の中で労働者と労働を管理する 課題を如何にして果すか」ということが問われねばならない。X理論よりもY
理論が卓越しているとすれば,それは現代の労働者の意識と情況が「鞭と人 参」によって効果をもたらすものではないということに外ならない。(9)しかしながら世界はY理論が適用されるような成人からのみ成立っているわけではな く,未成熟な多数の弱者を擁しているのであって,その限りにおいてX理論は Y理論と並立する。あるいは少くともY理論の科学的正当性を立証するために は,X理論の下における安定性と確実性に代替し得るものを定立しなければな
らないのである。
組織の目標と個人の目標の統合のためには,組織の目標とリンクした個人の 目標が設定され,それぞれの個人の目標を達成するために自己統制が行われね ばならない。個人の目標は組織階層のそれぞれの職位において,同位者の目標
の集計が上位者の目標と斉合することが不可欠であるが,それは上位者から下位者に対する強制によってはなし難く,かえって両者の協議によって成立つも のである。このような目標管理managementbyObjectiveのシステムはマグ レガーに先立ってドラッカーが提唱したものであるが,マグレガーはそれを理
論的に押し進めたものであると云うことができる。('・)バーナードの厳密な用語法を援用するならば,組織の目標を達成する有効性と個人の動機を満足させる 能率とが調和させねばならないのであり,マグレガーのY理論はそのためのプ
ラグマティックな追求であると考えられる。
能力開発の理論的根拠としてもう一つの代表的なものはリッカートの参加理
論である。それは組織体のシステムを実証的研究によって独善的専制型,温情 的専制型,相談型,集団参画型に四分し,そのうち前三者を専制的という性格 によって一括して集団参画型の参画的という性格に対立させる。云うまでもな くリッカートが組織の運営を有効にする類型として重視するのは集団参画型で− 1 4 −
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あるo(11)
四種類の組織体のシステムの類型を比較分析した上で,リッカートが集団参 画型の機能特性として整序しているものは次の通りである。(皿)
1.動機づけの力
(a)経済的欲求,自我動機および他の主要な動機の十分な活用 (b)参加を通じて開発された報酬制度に基づいた経済的報酬 (c)一般的に好意的で組織目標を履行する行動を刺戟する態度 (d)実質的,累積的方法で相互に補強し合う動機づけ
{e)組織目標に対するすべての階層の人の責任ある行動 If)組織全体に及ぶ相互信頼
Ig)組織におけるメンバーシップとメンバーの業蹟についての満足感 2.コミュニケーションの過程
(a)組織目標の達成を意図した相互作用と豊富なコミュニケーション (b)上下にも横断的にも流れる情報
(c)あらゆる階層で発議され,一般的に受入れられる下方へのコミュニケ
ー シ ョ ン
(d)ラインを通じて上方へ流れる豊富かつ正確なコミュニケーションと発 信者の責任感
(e)上司の部下に対する親近感と相互理解 3.相互作用一一影響過程
(a)広汎かつ友好的で信頼度の高い相互作用 (b)組織全体にわたる協働的チームワーク
(c)組織のメンバーが組織の目標方法・活動に及ぼす影響の強さ (d)上司が部下の活動に与える影響の間接性と強さ。
(e)あらゆる階層からあらゆる階層への情報の流れと影響力 4 . 意 思 決 定 過 程
(a)組織全般にわたる意思決定とその統合 lb)比較的完全な情報の正確さ
(c)低階層の意思決定性の認識 (d)あらゆる部門における知識の活用
(e)重複集団と集団決定過程によって,十分な動機づけのもとに行われる 意 思 決 定
5.目標設定
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(a)集団参加による目標設定 (b)下位階層における高い目標意識 (c)目標に対する表裏ない容認 6 . 統 制 過 程
(a)組織全体にわたる統制機能への関心 (b)統制を方向づける正確な情報 (c)各階層における厳しい評価 (d)非公式組織と公式組織の一体性 7 . 業 績
(a)卓越した生産性 (b)低い欠勤率と離職者
(c)組織構成員による損失防止努力 (d)品質管理と従業員モラルとの連結
すなわち集団参画型の組織は,集団構成員が平等の立場で参加して民主的討 議を行い,組織における相互作用を自己の価値と欲求に照してみて自分が支持
されているという実感をもたらすものであると理解される。
4.能力開発の枠組みと手法
能力開発における能力とは,人間的能力の全般にわたるものではなく組織に おける職務能力を意味している。職務遂行能力は行動によって具体的に発揮さ
れるが,その能力を構成する要素は知識と技能と態度である。
知識は能力の基礎をなす。その習得は学習と経験によるが,現代における情 報の量は加速度的に巨大化すると共に,先進国の技術革新のみならず後進国の 離陸によって産業構造の変容に迫られ,専門知識のライフ・サイクルは短縮さ
れている。
知識習得の方法は学校教育,組織内訓練,自己啓発の三者であるが,現代の 能力開発を在来の教育訓練に比べて特徴づけているものは,自己啓発を能力開
発の主内容とするとともに,その開発結果を組織の目的に符合させるところに
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組織の運営という実践的立場からは,知識を自己目的のものとして定立させ
ることは排除される。理論の概念を語源にさかのぼってひたすら観想すること
に局限することは行われないのである。理論は社会的需要との間を技術という− 1 7 −
中間回路によって連結されるといわねばならない。('2)
それ故,能力の基礎たる知識はこれを現実に適用する方法が必要であるが,
それは経験と訓練を重ねて到達する熟練によるのである。技能と叫ばれるもの 'はかかる熟練を意味するのであって,一般にそれは専門性をもっているが,方 法工学によって進められている作業標準化によってブルー,カラーの作業の熟 練は機械に移転しているのであって,現代における専門的技能は高度の知的水 準のものに傾きつつあると云うことができる。ということはむしろ洞察力とか 決断力・実行力・指導力等の精神的能力が,特に組織階層の上位になるにした がって強く要請されることになるのである。
、知識と技能とに方向を示し限界を与えるものは態度である。それは元来生得 的な性格に由来するものではあるが,しかし必ずしも全く先天的なものではな
く:て,環境や教育訓練によっ.て変容される。
日経連の能力主義管理研究会によってまとめられた報告書「能力主義管理
−その理論と実践一」(1969年)は現代の能力主義管理の標準的ガイドブ ヅクとなっているが,そこで指摘されてる職務遂行能力の要素は,体力・適性
・知識・経験・性格・意欲の6項であるが,同報告書も力説するように人間の 能力はその意欲によって発現されるのであって,意欲を欠く場合には他のいか なる要素がすぐれていても能力は行動としてあらわれない。('3)
・能力関発の概念把握には広狭二様の考え方がある。狭義に考えれば,能力開 発とは能力の伸長であって今までに認められなかった新しい能力の獲得を意味
する。それは近代的人事管理体系に組込まれている教育訓練が職務の標準化に即応して定型的に行われてきたのに対して,自主的な向上訓練すなわち自己啓 発によって新しい能力を開発しようとする。ここに現代の能力開発が在来の養 成訓練を主とする教育訓練システムを脱皮しようとする力点があると考えられ ると共に,そのような自己啓発を主軸とした能力開発がしかも組織の目的に背 反しないように設計しなければならないという難問を内在させている。自己啓 発による能力開発を組織目的に適応せしめるようにすることこそ,現代人事管 理の専門的管理過程の主題であるといわねばならない。
ところで能力開発を広義に捉えれば,組織体を構成するメンバーが保持して いる能力を活用することを意味することになる。云いかえればそれは能力主義 というイデオロギーによる人事管理体系そのものを意味することになるのであ る。それ故,ここでは能力開発をすでに述べた狭義に捉えねばならないが,そ こで行使される基本的な手法は自己啓発と職場内訓練(OJT)である。
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在来の教育訓練は組織内の学校または研修所や組織外の諸種の研修講座によ る定型的訓練として行われるところに重点があった。いわゆる職場外訓練O丘 thejObtrainingである。しかしその内容は原理的なものに傾斜して職場の具 体的ニーズに応ずることが少いという難点がある。
OnthejObtraining(OJT)とは仕事をさせながら訓練することであって,
組織体におけるグループ(少集団)のリーダーの個別的かつ対面的な指導によ って,具体的な問題解決の
表4.10JTとOffJT 意識の下に進められる。す
IIOJT│鮒JTなわちそれはラインの上司
指 導 形 式 個 別 的 集 合 的 ま た は 先 任 者 に よ っ て 行 わ
指 導 者 ラ イ ン ス タ フ ま た は 組 織 外 れる個別的・対面的指導で 場 所 職 場 内 職 場 外 あ っ て , ス タ フ な い し 組 織
方 法 対 而 的 非 対 而 的 外のインストラクターによ
機 会 仕 事 中 仕 事 外
って行われる集合教育とは 目 的 問 題 解 決 人 材 育 成
対照的なものである。(表 4.1)
このようなOJTの属性の中で中核的意味づけをもつものは,ラインの上司
または先任者によって行われるという性質であって,その根底にはラインの各階層のリーダーに一貫して組織の目的が適確に把握されていることが前提され るといわねばならない。組織のメンバーの自己啓発の成果と組織の目的を符合 せしめるという現代の能力開発の成否は,したがって管理者のリーダーシップ
に存するといわねばならない。
能力開発を組織の生産性に結びつけようとする期待は,必然的に創造性を含
む問題解決能力を能力開発の主要な内容とすることになるであろう。創造性とは新しい価値を作り出す能力を意味するが,新しい価値が価値として認められ るためには相当の時間を要するのが歴史の示すところであろう。創造性の評価 を客観的数値によって科学的に決定するシステムは未だ存在するとはいえな い。創造性の評価基準は管理者の価値観に由来するのであるが,近年の行動科 学の成果は管理者の人間関心度と業績関心度を高めるリーダーシップ訓練の効 果を論証しているものとみられる。('3)
註(1)
( 2 )
( 3
)
昭和52年版労働白書153頁および付属統計表第103表。
昭和51年版労働白書104頁。
同上106頁。
(4)C・Bamard:TheFunctionoftheExecutive・HarvardUniversityPress, 1938p.142
(5)D.H・Fryer,M、R・Feinberg,&S.S.Zalking:DevelopingPeoplem Industny‑PrinciplesandMethodsofTrainmg・Harper,1956(鶴巻敏夫.弓隆
明訳「新しい教育訓練のあり方」昭和33年)
(6)木元進一郎:労務管理,森山書店,1972,71頁。
C.Agyris:htegratingthelmividualandtheOrganization(三隅二不二訳 新しい管理社会の探求,3頁)
(7)D.Mgregor:TheumanSideofEnterprise,Mcgrow‑Hilll960(高橋達雄 訳53‑54頁)
(8)F、W・Taylor:ShopManagement,Harper,1910(上野一郎訳「科学的管理法」
5 4 頁 )
(9)P・Drucker:Management,Harper&Row,1974(野田一夫監訳389頁)
⑩P・Dmckeribid(訳本387頁)ドラッカーはマグレガーの主張に同意するもので ないことをこの近著において表明し,人間の本性についての理論はきわめて不十分 なものであることを説いている。
⑪R・Lickert:NewPattemsofManagement,McGraw‑Hill,1961(三隅二不 二訳「経営の行動科学」14章)
⑫拙稿:技術と経営,金沢大学経済論集12.13号78頁。
⑬R.R・Blake&J・S・Mouton:TheManagerialGrid,Gulf,1964(上野一郎 訳173頁)
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