奈良教育大学学術リポジトリNEAR
へき地における障害児の実態〔?〕 ― その2 障害 児(者)に対する住民の意織 ―
著者 柳川 光章, 大久保 哲夫, 田辺 正友
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 12
ページ 91‑99
発行年 1976‑03‑25
その他のタイトル A Research on the Actual Condition of the Handicapped in the Remote Area (III) ― Part 2: Senses of Persons toward the Handicapped ― URL http://hdl.handle.net/10105/6358
へき地における障害児の実態呵*
・その2 障害児(者)に対する住民の意識
柳川光章大久保哲夫 田辺正文淋
1障害児学教室)
問 題
われわれの共同研究の意図と課題については.今回の報告「その1」にもふれたところであるが,
本報告1こ関して.かさねて研究の基本的観点について述べたい。
障害の有無を間わず.すべての子どもはその生命と健康が守られ.その発達の可能性が十分に保障 されていかなくてはならない。子どもが障害をうけているばあいには特に,その事実に即して障害を 軽減.補完 回復するために必要かつ書初な援助がなされなくてはならないが.その基本的権利が侵 害され.将来にわたっても充分に保障され得ないところに今日の障害児問題が成立する.といえよう。
もとより.障害児に対する特別な援助の責任は、子どもを養育する親に帰すべき問題ではなく.公 的責任として政治や行政が、胎児から成人までの.医療・教育 福祉 労働などの諸分野の具体的施 策の展開の中で総合的.統一的に保障すべきものである。しかしながら.従来.低い行政水準を余儀 なくされてきたいわゆるへき地では.この保=障は十分になされ得ず.障害児とその家族は.その矛盾 を集中的に受けているといえそうである。われわれはこの観点に立って.へき地障害児とその家族が おかれている実態についての調査をすすめてきた。
1975年度の中心課題は.次の3点であった。
1)へき地障害児への行政施策の具体化の様相と.展開』二の問題点を.地方行政担当者と共 に明らかにする。
2)小 中学校における障害児教育のあり方について.小 中学校教師と共に研究と実践を 深める。
3)障害児やその家族をとワまく環境条件のひとつとして.地域住民の障害児に対する意識 の実態を明らかにし.地域住民と共に問題解決をはかる。
生存と発達を基軸とする障害児の諸権利を保障してい<べき公的責任が.現実的課題にどのように 対処しているか.将来にわたる課題をどのように解決しようとしているカ㍉ また.その際の阻害条件
* A Research on the Actual Condition of the Handi capped in the Remo te Area(m) Part 2:Senses of Persons tow竈rd the HandicapPed
榊Mi tsuaki Yanagawa,Tet suo Okubo and Masatom Tanabe(Department of DefectoIogy. Nara University of Education.Nara)
は何か.を明確にする一方で.そのことと結びあうものとしての住民意識の地域特性をとらえること は.われわれの一連の研究において欠くことのできないものである。それは.政治や行政のあり方が 障害児(者)に対する地域住民の意識を変え.また.障害児(者)やその問題への地域住民の望まし い理解や認識が障害児(者)やその家族を支え.さらには行政の公的責任をいっそう明確にしていく
ことにもつながると考えるからである。
われわれは過去2年間の.障害児の学校生活や家庭訪問などの調査を通じて,へき地住民の間に障 害や障害児(者)に関しての理解不足.偏見などが多くあることを実態として感じとってきた。今回 の調査はそれを客観的に確かめ」それと行政とのかかわりを考察し.さらにはその意識の背景となっ ているであろう歴史的 地理的風土との関連をもみようと意図したものであった。今回の資料は必ず しも十分でなく.したがってわれわれの意図をみたすためには今後の調査を必要とするし.過去の調 査結果との総合的知見にもよらねぱならぬと思われるが.今回は.この段階で得られた結果に若干の 考察を加えて報告としたい。
調査の内容は.障害児(者)にかかわる人びとの情報の程度を知ることと.行政のあワ方 障害児
(者)の生活能力I障害児(者)に対する感清にっいてとらえることの.二つである。障害児(者)
問題の<あるべき姿>についての観念あるいは知識と.人びとがもつ実際の意識とは必ずしも同じで ない。これは.われわれが過去の実態調査を通じて痛感してきたところであワ.それゆえに.今回の 調査ではよワ真実に近い姿の住民意識をとらえようと意図したのであ乱また.既述してきたように われわれは調査でかかわりをもった人びとと.それぞれの問題についてその後も話しあいの機会をも
って.共に障害児(者)問題の解決について考えることを計画し.可能な眼ワ実行してきている。こ の調査と事後の対応を含んだ一連をわれわれは調査活動と呼んでいるが.今回の調査においても.同 様の考え方で進めている。
方 法
アンケートの構成 本調査は、調査1と2の2分野で構成された。調査1は.精神薄弱児(者)と それにかかわる若干の事柄についての情報がどの程度一般の人びとに浸透しているかを調べようとし たものであワI調査2は.精神薄弱児(者)問題に関しての一般的な意識や感情の傾向をさぐろうと するものであった。
われわれの目的は.障害児(者)問題にかかわる住民意識の調査であるが.各種の障害のすべてを 含めての調査としたぱあいには.内容が複雑になって.結果に意識の具体性を欠いたワ、回答者の負 担を大きくし.したがって回収率の低下をまねいたりなどのことが危惧されたので.精神薄弱児(者)
の事柄に限って質問し、それをとおして障害児(者)全般に対する意識の現状を知ろうとした。
調査内容 調査の内容は.調査1では、たとえば問31精神薄弱児(者)とはどんなひとか(ちえ おくれ.などの選択肢によって).問6:原因について(遺伝.家系などの選択肢によって).間8:養 護学校とは(その内容についての簡単な説明をもとめる).などの9項目を用意した。調査2では.
「次のような意見がありますが.あなたはそれについてどう思いますか」という問いと回答のしかた について説明を加え.以下.3領域にわけ.A:社会制度 政策的側面についての質問(たとえば.
一92一
精神薄弱者のために国があまり金を使うのは税金のむだづかいである)の5項目.B1社会生活的側 面についての質問(たとえば.社会にでて働くよリ家庭にいた方がしあわせである)の5項目.C1日 常生活の中での感情的側面についての質問(たとえば.本人や家族には同情するが,かかわワをもつ
ことは避けたい)の5項目.計15項目を用意した。
質問項目の1〜5は、社会制度・政策的側面(A領域).6〜1Oは.社会生活的側面(B領域).
11〜15は.日常生活の中での感情的側面(C領域)に関するものである。この3領域の関係に関し ていえば.A領域のような自分が直接責任をもたなくともよいような抽象的観念的な事榊こ比べてC 領域のような現実的身辺的な事柄のばあいの方が.より非好意的意見が示されやすく.また.B領域 に関しても誤まった考え方が多いことは従来の研究でもいわれているところであるが,これらのことが 山間と都市ではどのように相違するかを確かめ.いわゆる山間へき地の特性を明らかにしようとした。
住民の障害児(者)にたいする素朴な問題意識や感情をとらえるために.調査の内容は.何よりも 答えやすく簡単なものであることを旨とし.客観的に直裁に問う方法をとった。また.調査2で「否 定的意見」を質問の材料として用いたのは,先にもふれたように、「たてまえ」によらない.より
「本意」に近い回答を得ようとした意図によるものであった。
調査手順 山間部として選択した対象地域は、われわれが過去2年間調査を進めてきた奈良県十津 川村であワ.その住民意識の地域特性を明確にするためには.比較対照に者師部が適当と考え奈良市
をえらんだ。
対象者は.山間のばあいは.婦人会会員(抽出した4地区の会員.312名)と青年団員(全員)で あワ.都市のばあいは.婦人会会員(抽出した5地区で、各40名を抽出.200名)と家庭教育学級 生.婦人学級生(抽出した3地区 4学級の令員.187名)であった。
配布方法は.婦人会会員のばあいは.会長をとおして会員へ.家庭教育学級と婦人学級生のばあい は.学級主催者をへて学級長から学級生へ.青年団団員のばあいは.団長から団員へ.という手順で あった。回収の方法はその逆であった。
なお.調査は1975年6月3日〜20日に実施した。
結 果
回収率は.山間の婦人会会員で,89.1%.青年団員で59.O%.都市の婦人会会員で99.5%、家 庭教育 婦人両学級生で89.4%であった。回答の処理にあたって不備な回答内容(たとえば.全項
目に回答していないばあいや.婦人対象に男性が回答したワ.子どもが答えたりのばあい)のものは 除外したので,資料として用いた数は.調査1で.山間の婦人会員303.青年団56(男31.女25).
都市の婦人会.両学級の合計354であった。 山間の婦人会員の上記人数には.青年団女子25が 含まれている。両地域の年令別人数は表1中に記載したとおワである。詞章2では.15項目中1項
11でも回答もれのあったものも除外したので.表2 こ示した人数となった。
山間の婦人会員のばあいは.20才台〜50才台の各年令層が含まれていたが.都市の婦人余負の場 合には,予期に反して中・高年令層がほとんどであった。また,家庭教育学級生・婦人学級生は,一 般に,教育の関心が高い人びとといえそうであワ,その年令も20才・30才台がほとんどであった。
このような若干のサンプリングの問題を含みつつも.以上から得られた調査の結果は、およそ次の 諸点をあきらかにしているといえよう。
調査1の結果 妻1は.精神薄弱児(者)とそれにかかわる若干の事柄についての情報がどの程度 一般の人びとに浸透しているかを.地域別.年令別に示したものである。表1中には選択頻数の高か
ったもの.両地域間で大きな差のみられたものだけを記載した。また.妻1中に有意差表示がなされ ている項目は、その両地域の人数について.各項目ごとにカイ自乗検定をした結果1有意となったも のである。なお.問2.3および6については.2つ以上の項目を選択したものが含まれておワ.問
8については、自由記述形式で答えられたもののなかから.精神薄弱.肢体不自由.病弱などの児童 を教育する学校であると「正しく理解」しているものをえらんで.その比率を示したものである。
1)精神薄弱児(者)というコトバを聞いたことがあるか.の問いに対しては、両地域の婦人とも コトバの上での既知度は1OO%近くになっており.その媒体として「マス・メディア」をあげてい るものが大半であったが.「他人の話をとおして」とするものは都市の方が有意に多くなっている。
2)精神薄弱児(者)とはどんなひとか.の問いに.両地域とも「ちえおくれのひと」と答えたも のがもっとも高率であったが.「精神病者」とした答は山間の方が高率で.両地域の間に.全体では 有意な差が認められた。
3)居住する地方自治体がその教育に力。をつくしているか.の問いに対して.「つくしていない」
とする程度は.山間の方に多い。また.これを年令層別にみると、両地域とも「つくしている」よワ
「つくしていない」とする傾向が20才 30才台に強く.40才以上には「つくしている」とする意 見の方が多くなってい飢都市の50才以ヒにはそのことは顕著であった。
4)障害児学級(特殊学級)や養護学校の存在を知っていることや養護学校の内容に関する理解に ついてはI山間の方が情報不足である。
5)原因についてこれを「遺伝 家系」とする傾向は一般に山間に強く.その山間と都市の差は.
30才以上の年令層に顕著である。両地域とも.20才台に他の年令層に比べて高率の傾向が認めら
れた。
調査2の結果 結果の整理にあたっては、各質問項目に対して、強く賛成5から強く反対1までの 5段階評定点を加算し,各個人の得点をもとめた。地域別.年令別の領域ごとの平均値を示したもの が表2である。 15項目すべての項目に強く賛成であれば得点75.すべての項目に強く反対であれ ば15となる。「否定的意見」に対して強く賛成5から強く反対1までの5段階評定をもとめたもの であるから.得点の少ない方が好意的であり.逆に得点の多い方が非好意的であることを示している。
1)女子全体としてみたぱあい.A.B.Cの各領域およびA.B.Cの合計のすべてにおいて、
好意度または理解度にほとんど差がみられないが.両地域の同年令層を比較したぱあい.20才一30 才台では山間の好意度または理解度は低く.領域によっては1%あるいは5%水準で有意差が認めら れた(20才台一C領域1t=2.OO;30才台一B領域:t=3.30.I計:t=2.77)。50才台では 逆に都市の方が低くなっている(A:t=2.56.B l t=2.21、計:t=2.67)。
2)A.B.Cの各領域についての地域別の年令的変遷は.一般的に両地域とも年令の増加にとも 一94一
妻1 精神薄弱児(者)にかかわる情報の程度(調査1)
% { 〕は実敦
年 令 女 子 全体 〜29 30〜39 40,49 50〜 驚 記
N 303 354 44 31 101 137 98 70 36 90 24 18
山 間 都 市 山 問 部 市 山 問 都 市 山 問 都 市 山 間 都 布 山 間 罰 市
1.榊竈弱児(者〕というコトバを録 たことがある 肋. (2舳〕 90,3〔3珊〕 95.5(42) 100(31) 帥」o(9^) loo( 7〕 鮎.O(95〕 9目.o(69)
97.2〔1,5〕
蝸、9(04) o1.7(22〕 04.4(17〕2.その媒体 新聞.テレビ.書物により η.7(227) 73.9(257〕 肺.2〔ヨ2) 71.o〔22) 目2.7(o1) 73,7(1o1〕
76.目〔7,) .7(55j 35、?(23〕 η.3(oo〕 目1.目(1O〕
一7(11〕
他人の話をとおして
喧.O(25〕業 17.2(00〕
1高.7(7)19.4(6)
6−1(間〕^ 岨.目(2ヨ〕9.5(9)}
20.1(18)5.7(2〕
11.7(11)4.2(1) n.1(2〕
3.植神薄弱児とは ちえおくれのひと 蝸。4(26日〕 09一日(310) 蛎.5(一2)
㎝。』(2日)
92.1〔9]〕90.5(124〕
帥.彗(86) 04−11(帥)鵬.3〔ヨ。〕
目7.8(80〕 70.目(17) η.目(M)精神病のひと o。日(27〕} そ.2(15)
4,5(2〕
,。7(])1呈.9(1ヨ)
2.9( 4〕7」1(7〕
o(o)8,3(3)
4.1()o.3(2) 22.2(4)
4.自治体の象育への努力 している 珊。o(呂筥) 蛆.o(皿2〕
13−6(o) 22.o(7)
四.目(25〕19.7〔〃) ,2.7(1ヨ1〕 ヨ7.1(蝸〕 何. 16)
ヨ6.τ(:価〕 37−5(9〕 鎚.3(6〕
していない
27.7(肋)構 17,2(ol)
31.目(M〕 32.3(1o〕 コ。。?(]1〕11.2(29)
25.5(25〕 15.?(11) 33.3(12)o.2(o) 8」3(2〕 11.1(2〕
わからない
珊.3(116)一
52.0(1目4) 52.コ(23)45.2(M) 41.6(ω 57,7(70〕
.7〔州 45.7(l11〕lo.7(o)
50−O(49) 45。目(u)55.O(m〕
5、障害児学理の存在 知っている 舶. 20日ル 目1.后(289) 50.o(呈2〕
ηo(22〕
禍.呈(η)79.6(mO〕
7ヨ.5(η)構帆9(肪〕
弱.6(20〕● η.6(冊) 70.目(17) 9 .4(H)6、錆神薄弱の原因 遺伝や家系による 醐.?( )
22,3(79)
蛸.4(lo)〕2.,(1o) ]O.7〔」1〕 21.2〔29) 27.6〔η〕 17」1(12〕 鳴.3(12) 21.4(21〕 16.7( 〕 一拍.9(7)
7.盤養学校というコトバを醜いた一とカ; ある 畠O」5(1仙)構 93.5(ヨコ1)
97.7(蛆) 目6.昌(30) 7目.2(和州
9一.2〔129) η.6(冊〕構 }.3(oo)島6.1(l11)
醐.8(帥) 02.5(15)100(1目〕
8.鑑養学校とは 正しく理解している 32.4(7目〕● 〃.o(1ω) ]9.5(17〕 53.3〔1店〕 仙.目(]1{〕
柵.6(55)
25.O(19〕業 〃.o(31)lo.4(6〕‡
4o.9(,6〕 1品.7(4〕蝸、7(3)
9.法律の存在 柵.3(122) ]o.7(1馳) 四.5(13) ヨ8.7(I2) 仙.拮(柵) ]9.4(54〕 凸.9(価〕
1(26〕
舶.1(1,〕 33.7(ヨ3〕29」1(7) η」o(5〕
わからない
価.2(M0)
把.7(176〕 52.3(2ヨ) 舶.4(帖) .6(45〕 〃.3〔5目)、9.目(19〕
51.4(肪)50.o(]畠〕
50.2(5目) 62.5(15) 別.O(ヨ)■ P㌔.05 Pく.O1
表2 精神薄弱児(者)に関する好意・理解得点(調査2)
( )内はSD
年 令 男 子
女 子 企 体
〜29 30,39 40〜49 5u〜 集 記 29
地域 山 間 郁 市 山 間 鄙 市 l11 間 吊 北 川 間 吊 11j l11 間 昂 市 山 問 都 市 山 間
,5Il 1ザザ : 1 1iu
!は ll 1 7!1
^7 !、,一〇 1
2目N
lo.40
lO.5缶 ,.lili^目7 I 一.2f 凹.11 川.711 lo冊7 I皿.1〃 I2.19 12.27 I3.. o.50
A (2一舳〕
t3」 〕 {1 .n1〕 u.n〕 (1.7u) (:1.1o〕
(2.目η 〔;1.I一〕
(!. 〕 (』.リ (そ.) (4.04〕 (2.;il〕
14.凹4 川74
ls.77 13.oo
1;.11■^ I1.70 I5.2凹 I5.!514. , 川.川 15.27
16」1 }1207E (!.60)
(2」目白〕
u. 〕 (2. 〕 (2. 〕 (2.珊) (2」 〕 (1. 〕 o. 〕 (1. 〕 (J. 〕 〔2. 〕(3.1ザ、)
13.4I
I3. 112.09● Il.一1 13,5 I]、20 13.!, I3.lo
13.1 M.07 15.1o 13.75 ●11.07
C
(2.凹。〕
(3.22〕 (2.9目) (3.1M) (2.目2) (2. 〕 (3.o2) 〔3.川〕 (2. ) (3.o凹) (1.51〕 (2. ) o.09)1帖.75
∬.η 35.バ :,3.oo :{o.9,} 36.3:{ 39.32
舳.9:i :{o. o
43.I后.73 43.50 }s1一
計
(O.55〕 (7. 〕 (6. 〕 (6.帥) (5. 〕 (7.o一〕 (6.05)(7,12i
(6」1〕 {8.1I〕 (5.^) (o.1帖) (7. 〕なって好意度または理解度が低くなっている。その傾向は都市のばあいに顕著であワ.各地域ごとの 好意・理解得点の年令層別平均値について.領域別に分散分析した結果からも明らかである。すなわ ち.都市においては.A.B.Cの各領域および合計のすべてにおいて.年令層間1こ1%水準で有意 差が認められた(A・1F=15.72.B l F=20.57,C l F=10.56.計:F=21.27;いず れも〃=3/313)。これに対して.山間においては,B領域と合計にのみ年令層間に5%水準で有 意差が認められた(B:F士3.35.計:F=2,82;いずれも〃=3/231)。
芦)A領域とC領域では、両地域ともすべての年令層でA領域に対する理解に比べてC領域に示さ れた好意の程度は低い傾向が認められた。また.B領域に示される理解度は3領域のうちでもっとも 低くなっている。
4)資料が得られた山間の20才台の男女間を比較してみると.A.B.Cのいずれの領域でも男 子が好意度または理解度の高さを示しておワ.B.Cの各領域および合計においてはいずれも5%水 準で有意差が認められた(B1t=2.46.C=t=2.16.計1t=2.32)。
考 表
1.調査1において.精神薄弱を精神病としたワ.その原因を遺伝.家系によるものとする傾向は 山間のばあいに大きい。特に後者については.年令の増加とともに都市と山間の差が大きくなってい る。これは.山間の人びとにある精神薄弱についての誤解・偏見を端的に示すものといえよう。われ われの調査活動の中でも.神経性胃潰瘍が精神疾庵、と受けとられ.地域のひとから白眼視されている 障害児の親の例や.障害の治療に祈薦が真剣に行われている例など.障害についての科学的な理解の おくれが親や地域住民の間に少なからず見られた。障害者に対するこのようなおくれた見方は.障害 児(者)の権利の問題としての医療 教育・福祉の保障をゆがめていくおそれがある。それゆえに.
主として情報不足からくるこのような現状に対しての啓蒙運動の必要が痛感されるのである。
2.障害児学級(特殊学級)・養護学校を知っているか.何をするところか、についての質問でも.
山間に情報の稀薄さがうかがえる・精神薄弱というコトバを知っているか.の問いにおいても「他人 の話をとおして」とする回答は都市に有意に多いことからもわかるように.都市においてはそれらの 学級や学校の事柄に関して日常的に見聞する機会があワ.それだけ山間に比べて障害者に関しての知 識をもっているものといえよう。
3.市町村が障害児の教育に力をつくしているか否かでは.山間に「つくしていない」とする傾向 が強く.行政のたちおくれは山間の住民にも認められているところである。また.両地域とも.20 才・30才台では「つくしていない」とするものが多く.他の年令層では「つくしている」が多く.特 に都市の50才台にその点が顕著となる傾向を示したが.ここからも、障害児の問題にふれて考えさ せられる機会の多少が世代間にうかがえるのである。っくしている.いないの判断の基準がどのよう な内容のものであるかは.この概括的な質問によっては明らかではないが.障害児の教育権の問題を 含めて.いまだ十分とはいえない権利としての障害児教育や福祉について.地域住民の理解を深める 必要が痛感される。
4.調査2において.A.B.Cの各領域とも.山間と都市の女子の間に差はない。しかし.年令 一96一
別にみると20才 30才台で山間に好意度.理解度が低くなっている。障害児(者)問題の理解につい ての若年層の可塑性に加えて.都市のばあいには.障害児の生活の実態の一部にふれたワ.障害児
(者)側の要求や行政の対応や障害児(者)を支える各種の運動などを見聞するなかで.障害児(者)に対 する理解が深められていくことがうかがえよう。
上述のような傾向にもかかわらず,都市の50才台では逆転して山間よりも好意度・ 理解度が低く なっており.一方では.山間の年令的変遷は平均化されて顕著でない。このことに関しては推測しう る理由のいくつか(たとえば.山間にはおしなべて障害者問題を考えさせられる機会が乏しいとか.
山間と都市の家族構成に起因するのではないかとか)が考えられるが.いずれにせよ.特に中 高年 令膚への啓発活動の必要性が前述3のばあいと同様に認められよう。
5.このことは.両地域とも年令増とともに好意度 理解度が低くなる傾向に対してもいいうる点 であろう。都市のばあいは特にそれが顕著であるが.障害児(者)問題に関する地域住民の望ましい理 解一認識を育てる適切有効な方法は何かを,とりわけ中.高年令層の人びとに対して考えていく必要 があワそうである。
6、両地域とも.A領域(制度.行政)での理解度が他に比べて高い。障害児(者)問題が広く社会 全般の問題となってきた今日.あるべき姿として人びとがこれを示すことは当然といえようが.この 理解と.B(生活能力)やC(生活感情)との間の落差こそ.障害児(者)とその家族が現在と将来に わたって困難に直面する一つの大きな要因である。生活能力は基幹障害に加えて二次的障害ともいえ るものによって大きく誤解されてきている。すなわち.障害者は能力を欠くものときめつけられ.共 に生活できないものとして差別され.そして可能性を実現する機会を阻まれてきた。身体障害者雇用 促進法や心身障害者対策基本法などの諸法の精神に沿い.障害者の適当な就労が各方面で考慮され.
また.障害老の可能性を実証する多くの事例や研究がある一方で,生活能カベの偏見は根づよく残存 していることも事実である。
また.障害者に対するけっして妥当でない感情の多くについても.何よりも障害や.障害児(者)の 問題についての正しい理解・認識をもつことが人びとに要請されるのであるが,同時に.それは日常 的な障害者やその家族との接触の中でこそ真の理解に近づきうるものである点や.一般の人びとの間 でのこのことについての話しあい(学びあい)が必要であることを銘記しなくてはなるまい。また.
わたくしたち一般がもっている健常者中心の考え方や社会のしくみや施設・設備のありようにっいて もきびしい反省が求められよう。その意味で.啓発活動は具体性をもったものがくふうされなくては ならないだろう。
7. 20才台の山間の男女間では.男子の方がより好意度 理解度がたかい傾向を示している。こ れは.男子においては一般に社会的活動の範囲が広く.それだけに障害児(者)問題についての理解を 深めているということであろうか。とすれば.障害児(者)問題への理解はいよいよ「実際にふれる」
ことによってたすけられるといえるであろう。
8.以上は.主として山間と都市の相対的な比較のうえで住民意識の現状を考察したのであるが.
都市における好意度 理解度.あるいは情報の確かさといったものも.けっして望ましくたかいもの とはいえない。障害児(者)問題への正しい理解 認識が障害児(者)とその家族を支え.住民の声とし
て行政のありようを変えていくものである以上は.さらに活発な啓発活動が展開されなくてはならな い。これは特に山間のばあいに強調されなくてはならないことである。
9.山間における情報の乏しさや理解度の低さといった一般的傾向は.障害児(者)やその問題につ いての情報の不足のみに起因を求めることはできない。今日の山間では.マス.メディアの利用にお いて都市と大差はなくなっている。山間の理解不足は.障害児(者)問題が身近かな.切実な問題とし て地域住民に反映しないという山間部の現状によることを第一にあげたい。都市においては今日.教 育や福祉についての障害者側の要求や■それを支える各種の障害者連動や.それへの行政の対応など が活発である。養護学校のパスが走ワ.視覚障害者のために横断歩道でオルゴールが鳴ワ.車椅子利 用者のための便所がつくられるといった日常見聞することからは.単に障害者についての知識(情報)
をそれによって得るだけでなく.それを通じて.おそまきながら回復されていく障害者の権利の問題 を具体的に教えられるのである。
1O.既述してきたように.政治や行政のあワ方が住民の意識を変え.住民の意識もまた行政のあワ ようを左右する力となるというように.両者は力動的にかかわりあって障害児(者)問題のゆくえを決 定するものである。それゆえに.山間における行政的たちおくれは住民意識のおくれを生み.おくれ た住民意識は行政のたちおくれを許す.という相互関係がこの調査結果にも示されているといえよう。
都市との比較においてその点はいよいよ明確にな飢
お わ り に
われわれが調査対象地としてきた十津川村の.十津川村教職員組合は.広範な教青研究活動の一環 として.1975年に障害児教育に関しての基本方針をうち出し.また、地域への啓発運動を活発に展 開しはじめている。これは.われわれがこの「へき地障害児の実態」研究の中で.現地教師集団と共 に学びあってきた一つの成果ともいえようが.このような動きが十津川村に次第に活発化することは.
<お<れた>山間の障害児(者)の教育と福祉を前進さ世る大きな推進力となるにちがいない。われわ れもまた.こうした教師集団の活動に研究者の側から参加し、障害児(者)問題の解決に共にカをかた むけたい.と念願している。
また.われわれは一連の調査活動.とりわけ今回の調査を実施してきた過程で.具体的な話題を通 じての一般住民への啓発活動の必要性を痛感し.その話しあい学習の一助とするために.小冊子「障 害児(者)問題の解決をめざして」を編集し.調査を契機にかかわりをもち得た各方面に配布して学習 の機会をつくることにつとめている。
付記 今回の調査にあたって.ご協力いただいた青年 婦人の各団体員に謝意を表するとともに.
「障害児(者)問題の解決をめざして」にこたえて.積極的な障害児(者)問題への理解をお示しいた だいた多<の方々にあつく御礼申しあげる次第である。
一g8一
文 藤
①柳川光章 大久保哲夫 田辺正友1976
へき地における障害児の実態〔㎜〕
奈良教育大学教育研究所紀要 第12号.
その1 小・中学校における教育
②柳川光章1974へき地における障害児の実態〔1〕その1問題の所在と概況について 同上話 第10号.43−52.
③田辺正友1974 同 上 〔1〕その2発見と相談援助活動について 同上話 第10号.123−129.
④藤井伸1974 同 上 〔1〕その3医療の問題
同上話 第10号.131−137.
⑤大久保哲夫1974 同 上 〔1〕その4教育の問題と今後の課題 同上話 第10号、105−115.
⑥柳川光章.大久保哲夫・田辺正友・藤井伸1975
へき地における障害児の実態〔皿〕その1 家庭訪問調査よワ
一同上話 第11号.131−142.
⑦柳11光章・大久保哲夫・田辺正友・藤井伸1975
へき地における障害児の実態〔皿〕その2 中問総括と展望
同上話 第11号.143−153.
⑧伊藤隆二 剛11元康1967心身障害児に対する社会人の態度(偏見)に関する研究 特殊教育学研究 5,1−13.
⑨忍博次1967身体障害者に対する偏見の研究一価値志向.受容度、ステレオタイプに関して一 北星論集 4,53−75、
⑯三沢義一1969身体障害者(児)に対する一般人の態度について 三重大学教育学部教育研究所紀要 42,43−58.
⑪「第9回十潮11村教職員組合定期犬会議案」1975年4月
⑫中村勝1974地域社会に対する住民意識調査の質問文の分類と選択 愛媛犬学教養部紀要第W号.41−73、
⑬桜井芳郎1972精神薄弱児の社会的適応行動に関する研究V一精神薄弱児.者問題に関する 地域住民および施設職員の相互認知のずれの問題一
周本特殊教育学会第10回大会発表論文集 156−157.
⑭柳川光章 大久保哲夫.田辺正友1975「障害児(者)問題の解決をめざして」