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問題解決学習について ― その系統化の見地から ―

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

問題解決学習について ― その系統化の見地から 

著者 小川 庄太郎

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 19

ページ 21‑32

発行年 1983‑03‑23

その他のタイトル On Problem Solving ― from the standpoint of its systematization ―

URL http://hdl.handle.net/10105/6539

(2)

問題解決学習について*

 一その系統化の見地から一

心 川 庄太郎**

(数学教育学教室)

1.序  論

 最近、問題解決学習がアメリカでさかんに唱導されている。もちろんこの学習方法論は今にし て始まったものでなく、周知のように、その最も著しいものとして、G.Po1ya①に遡ることが できる。然し昨今この提唱が数学教育学の関係者の関心を惹く理由は、それがアメリカにおいて、

一つの時代的要講として捉えられていることにある。

 試みに、近年の数学教育思潮の変遷を概観してみよう。1980年のN.C.T−M.の年報②は、問 題解決(Problem So1ving)の特集号であったが、その序文に、r50年代は数学改革(revolution

in mathematics)の時代であり、60年代は現代化(modem math)、70年代は基礎に帰れ(

back to basics)、そして80年代は問題解決の時代である」と述べている。

 ちなみに、日本における変遷をこれに対比して示       1977年       基礎的・基本的

すと図ユのように、1947年の生活単元学習、ユ958

年の系統学習・1…年の現代化・そして1…年 Jヒ数学 雌間㌣鰍

の基礎的・基本的(ゆとりと充実)というような指 導要領の改訂が、学校教育の要因の最大のものとし て考えられる三者、生徒(児童を含む)・数学(教       1958年

対)・社会的要請にかかわりつつ、その重点をその   系統学習  祉会 うちのどれか一つに置いて、時代と共に次第に巡回

      1947年生活』恒元学習 していくかの如くに見られる二③

      図1

 もし、この動きを更に延長していく場合、次に来

るものは、生徒に重点を置いた、いわば学習指導が主題であるという見方も成り立つ。現代化と いう世界的な教材改革の大きなうねりのあと、その功罪をふまえつつ次に展開されるのは、学習 方法論における改善であろうとの予測は可能である。問題点は、この問題解決学習がそうした大

きい節目になりうるかどうかということであり、更に数学教育(算数教育を含む)において、そ の教材の本質の一つである系統性に対して、この学習がグローバルに適切でありうるかという点 である。本稿では、この点を中心にして若干の考察と提言を述べよう。

* On Problem So1ving

  −from the standpoint of its systematization_

**Shotaro Ogawa (Department of Mathematics Education,Nara University of   Education,Nara)

一21一

(3)

2.問題解決学習とその周辺

 問題解決学習の提唱のねらいについては、上記の年報と共にその基調資料であるAn Agenda for Action④(副題として、Recommendations for school math of the1980sが添えら れている)の内容を概観する必要がある。要旨はその冒頭の箇条書きによることができる。

 (1〕r問題解決」が1980年代の学校教育の焦点でなければならない。

 (2〕数学の基礎技能は、計算の熟練より以上のものを含むものと解されねばならない。

 13〕数学の指導計画では、すべての学年段階において、電卓やコンピューターの能力がフルに   活用されねばならない。

 (41有効性と能率についてのきびしい基準が数学教育について適用されねばならない。

 ⑤ 数学の指導計画や生徒の学習の成果は、旧来のテストよりはもっと広範囲な測定によって   評価されなければならない。

 16〕もっと多くの数学の学習がすべての生徒に対して要求されなければならない。そして、生   徒集団の多様な要求に適応できるよう広範囲な選択を持った柔軟なカリキュラムが計画され   ねばならない。

 171数学教師は、自分や同僚に対して、高度の専門職性を要求しなければならない。

 18〕個人や社会にとっての数学の理解の重要性にふさわしく、数学の教育に対する社会の支援   が高められなければならない。

 引き続く解説は、こうした提言の背景として、次のような視点を示している。

 ・ 問題解決は、すべての市民の日々の生活で必須と考えられるnonroutine(型にはまらな   い)な機能をも包含しなければならない。

 ・ 問題解決は、現実の世界(real wor1d)に対する応用数学を含む。

 ・ 与えられた時に与えられた問題を解くために必要な個々の数学の機能を目的とするもので   はなく、構造的な統一や全体の連けいを保つものでなければならない。

 ・ 真の問題解決の力は広い知識を必要とするものであって、特殊な手法や概念だけでなく、

  それらの関係やそれらを統合する基礎的な原理を含む。

 ・ この勧告は今日及び不確定な未来(mcertain future)における問題解決の必要性を展   望してのことである。

 一方、上記の年報の序文にも、r問題解決は、生徒が生涯を通じて身につけておくべきものの 一つで、それは学校を卒業してからずっと後でも用いなければならないものである」と述べてい

る。このように、問題解決学習は、学校生活のみならず個人の生涯を通じてのためのもの、現代 だけでなく来たるべき時代に備えてのものとされている。

 Polya自身、年報の論文中に、r問題を解決するということは人間性そのものである。私たち は、『出題を解決する動物』として人間を性格づけている」⑤と述べている。

 また、N.A.Brancaも、問題解決学習を、

 (1〕目的そのものとして  ② 過程、プロセスとして

皿22一

(4)

 t3〕basic skillとして

の三重構造的に把握すべきだとしている。⑥

 以上に見られるように、問題解決学習は、その訳語から連想し勝ちなr個々の問題を解く技巧 手法の開発」には止まらず、もっと広い性格・意図を持つことは明らかである。この点で、川口 がr日本に於ても、次に来るべき最大の課題は問題解決である」⑦と主張したことや、伊藤の詳 細な照介⑧、中島他の討論⑨、第15回数学教育論文発表会での、石田⑯、問瀬⑩などの問題解決 についての分析等は、今日的課題としての意義を評価してのものといえる。

 他方、こうした機運に対して、阿部⑫のように、日本数学教育思潮の後進性(追随性)を過去 に遡って反省しながら、生活単元学習との対比において、問題解決学習に批判的な見解を示す 向きもあ乱本稿ではこうしたr受け入れVS拒否」の分析に立ち入るつもりはない。もともと、

Agendaに示された総論は正当なものであるし、また各項目は今に始まって叫ばれたことでもな いわけであるが、その各論つまり具体的な方法論が数学教育の方法としてグローバルに妥当であ るかどうかが今回の考察の主眼である。そしてそのためには、年報に示されたいわば各論という べき論文に目を通すことが必要である。

3 問題解決とその方略

 年報に示された問題解決についての方略の源泉はやはり、Polyaそのものといえる。以下にそ の一例として、Polyaの方略を更に改良、精密化したといえるA.H.Sh㏄nfeldの提案を示す。⑬

〔問題解決における重要な発見法〕

 問題の分析と理解  1.できる限り図をかけ。

 2,特殊な場合を調べよ。

  同 問題を例証せよ。

  1う)極限の場合を考えることによって、可能性の範囲を探れ。

  同 整数のパラメーターでは、順次1.2.3.……とおいて、帰納的なパターンを発見せ㌫

 3.対称性を用いたり一般性を失わないで考えることにより、問題を単純化せよ。

 解をもくろみ計画すること  1.解を分類的に計画せよ。

 2.解法のどの部分も、自分が何をしているのか、なぜそうしているのか、その操作の結果を   どう扱おうとしているのかが説明できること

 困難な問題についての解の探究の仕方  1.いろいろな同等な問題を考え㌫

  同条件を同等なもので置き換えてみよ。

  1引 問題の要素をいろいろと結合し直せ。

  同 補助的な要素を導入せよ。

  ω次のようにして問題を構成し直してみよ。

   (ユ〕見方あるいは記号を変えてみる。

一23一

(5)

   ② 背理法や対偶法で推論する。

   ③解を仮定して,その持つべき性質を考える。

 z 問題を少しだけ修正したものを考えよ。

  同部分的な解決目標をえらんで、それを解くことを考えよ。

  ω条件をゆるめて解いてみよ。

  lC〕問題を分解してそれぞれについて考えよ。

 3.問題を大きく修正したものを考えよ。

  10〕より単純な(たとえば変数の少ない)類似の問題を吟味せよ。

  1あ〕他の変数や条件を固定しておいて、ただ一つの変数や条件の役割りを調べよ。

  lC〕形やr与えられたもの」や条件の似ている問題を考えて、その結果と方法を利用せよ。

 解の検討

 1.次のような特殊なテストをしてみよ。

  ・ 与えられたデータはすべて用いたか。

  ・ 理にかなった予測と一致するか。

  ・ 対称性、次元についての考察、測度についてのテストにパスするか。

 2.次のような一般的なテストをしてみよ。

  ・ 別な方法で得られるだろうか。

  ・ 特殊な場合にも適合するだろうか。

  ・ 既知の結果に還元できるか。

  ・ 知っている何かを一般化できるだろうか。

 こうしたPolya一方略の精密化の考察とともに、一方その集約化の方向での考察も見られる。

たとえば、Musser等⑭は、問題解決の方略をもっと簡素化して、

 1.試行錯誤  2、パターンの利用

 3、より簡単な問題を解いてみる。

 4.逆思考(結果から逆に考えてみる)

 5.シミュレーション(構造のモデル化)の利用 の5項目にまとめてよいことを示している。

 こうした問題解決の方略が、その適用例として示されている数多くの具体的なeXerCiSeの解法 と共に現場で利用され、特に高校段階でそれなりの効果を挙げている事例は、筆者も身近に見聞 している(奈良女子大学付属高校での実践例)。しかし、問題点は冒頭に述べたように、こうし た方略がproblem(exerciseでなく)そのものの解法、あるいは系統的な数学の学習に対して本 質的に対応できるかというところにある。この場合、prob1em vs exerciseは、theorem vs

eXerCiSeの性格を帯びるといえる。この後者の対比が数学教育にとって本質的であることは、筆 者が過去に指摘したところである。⑮

 私達が年報の諸論文を検討する際に念頭に浮んでくるものは、その壮大な総論にも拘らず、む

一2一一

(6)

しろ exercise solving の方略という印象である。もともと、Po1yaの方略は高校クラスの 数学の問題の巧妙な解決(そこには、ある程度の組織的な考え、場合によっては純粋数学での問 題解決に対する示唆すら含む優れたものがあるが)を目標として編み出したものである以上、そ れが数学教育全般の学習方法論をカバーし得ないのは当然といえる。

しかし、Polya自身次のような印象深い言葉を述べている。⑯r生徒の興味や動機づけは、数 学自身、あるいは教材自身に内蔵されている固有の性質、それから数学を解決する過程、こうし たものによって生まれる。」 この言葉によるならば、Po1yaの視点は、単にexercise so1ving に止まらず、もっと深く数学の本質にも及んでいたと思われる。数学の本質はもともとそのr系 統性」にあるのであって、学校数学という教科の固有の性質もこのらち外でない。とすれば、

Polya流の問題解決学習の方略も、これを単なる方略に終らさずに、それをもとにして、数学学 習指導の方法論を展開する可能性が無いわけでもなさそうである。そしてその最大のポイントは、

数学の系統的な学習との接点を採ることにある。

4.系統学習としての問題解決学習

 アメリカでのこうした問題解決学習の提唱に対し、日本の数学教育の視点を、たとえばコ968 年の算数科の学習指導要領⑰(いわゆるr現代化」とよばれるもの)を例にとって考察してみよ

う。(ついでながら、この指導要領の基本的な視点は、その後のユ977年の改訂⑱にも基調とし て受けつがれていることは明白である。)それには、算数科の目標として、次のように示されて

いる。

 r日常の事象を数理的に捉え、筋道を立てて考え、統合的・発展的に考察し、処理する能力と 態度を育てる。」 さらに、「事象の考察に際して、数量的な観点から、適切な見通しをもち、筋 道を立てて考えるとともに、目的に照して結果を検討し処理することができるようにする。」

 これはまさしく問題解決の方法論ともいえるもので、その要点はr統合的・発展的に考察し処 理する」にある。しかし この日本における画期的ともいえる表白も、その源流は実はアメリカ における現代化の理念、たとえばR.Rouke⑲の示す次のスローガンに求めることができる。

 .  to clarify to simplify

to㎜1fy

to broaden  ol d  ideas

to introduce important new ideas

 年報に示される基調の中には、back to bas{csの考えは十分採り入れられているものの、現 代化のスローガンのうち僅かにmifyの考えだけが示されているに止まることについては、私達

としても関心を持つ点である。現代化がその目指す成果を挙げ得なかった所以の最大なものは、

その基本理念に在るのではなく、むしろあまりに性急な教材改革とその教材の指導についての十 分な準備、配慮に欠けていた点に在るとすべきであるから、問題解決においても、現代化の目指

したものをより今日的な立場で生かすべきではないかとの議論も、十分検討に価するのではある

まいか。

一25一一

(7)

 上述のように、problem solvingの「problem」は、exerciseを含んだ広い意味でのもので なければならない。たしかに年報で検討されているproblem論には、条件過多の問題、条件不足 の問題、open end型やnonroutine型のものなど、数学教育上でも追求しなけれぱならないもの を含んでいる。しかし、最大のポイントは、生徒が如何にして数学の系統的は学習(標語的にい えば、統合的・発展的な考え)にマッチできるかという点にある。一方、学校教育は原理的にこ どもの発見的・創造的な学習の場でなければならない。この点からすれば、数学の学習の最も重 要なポイントを、次の2点にまとめることができる。

 ①多くの情報(当然日常の事象を含む)の中から問題を見つけ、合理的・能率的な解決を発   見する。

 ②この問題解決がさらにそれにかかわる新しい問題の発見・解決に発展していく。

 この①については、年報の諸分析に示されるものが役立つであろう。②については、上述の Schoenfeldのr解の検討」でも触れているものの、それはPolya流のr単なる事後処理」の域を 脱していない。筆者の提案は、②によって問題解決の「くさり」が構築され、結果として当然に 系統的な学習が展開していく所以として、最大限に重視しようとするのである。いうなれば、r 系統的問題解決学習」(systematic problem solvi㎎)を目指すものである。以下、この学習 を、SPS学習と略記し、その構造及び実践例について述べる。

5.SPS学習の構造

 まずSPS学習一の構造の要点を示そ㌔ (図2)

 11〕問題の発見       基本構造

  ・ 観点の焦点化

    データの選択       課題  解決       ?

  ・ 解決の予測      W:学習しつつある世界A一. 一→B

l・)①適切な既習の構造(世界・)を検索!・1一一…一一一一一一1 {一一ト

   れにA」㌧aと翻訳する。        w:既習の世界    a→b       f       f

  ②wの中で、a−bと、aの解決bを得る。

     ψ一1

  ③b→Bと再翻訳して、Wでの解決Bを得る。   図2

 (3〕A一→Bのすじみち、B=ψ一1(f(炉(A)))を、単純明快なアルゴリズムに整理する。

 (4〕解決された問題をさらに発展的に適用できる問題場面を追求する。

 以上の4段階は、要するに「思考」の構造そのものに外ならないが、以下谷ステップについて 若干のコメントを加えよう。

 コメント(1〕:Polya流の方略では、この段階が省かれている。「与えられた問題」を前提とし ての方略であるから当然のことでもあるが、問題解決学習は原理的には発見学習であるわけだか ら、上記(1〕を逸することはできない。また、後述のように、11〕は(4)とかかわる。

 コメント12):この段階ではPolya流の分析が有用である。これは、ゲシュタルト学派のいう「

観点の変更」の場面といえる。Dmkerはその根拠を直観に求めたが、基本的にはAの本質を把 握して、その構造の中にaを発見することになる。この過程のポイントは単なる直観では解決し

上26一

(8)

切れぬもので、「操作的直観」(論理的なものと直観との総合されたしくみ)ともいうべきもので はなかろうか。⑳

 コメント(3〕:記憶にとどめられて直接検索の対象になるのは、アルゴリズム(場合によっては シェーマ)である。 A→a→b→B として、A→Bの回路がつながった以後は、前者の迂回 路でなくて、後者の直接的なつながり方として表出されるアルゴリズムが常用のルールになり、

以後の一学習に、メモリーとして利用される。ついでながら、私達の患者の原理について考察する

齟ャ11※∵、な鰯

といったことが考えられる。アルゴリズム化は、こうした思考構造のために必須なものである。⑳  コメント14〕:上述のように、この段階によってはじめて問題解決学習が系統性を獲得しうる大 切なステップである。と同時に、この段階は12〕の段階の逆方向の学習であることにも留意しなけ ればはらない。

 問題解決の鍵は、図2でいうと、問題 W:A(Wの中で

の問題・)に対して、最も適切な構造・:・を如何にして検⊂D、・㍉戸0

案するかという点にある。しかし、生徒の持つ数学的な既習      一一一一.一, く

:㍗㍗二熟練111∴づ篶b

どのようにして最適なものを選び出すか(図3)。Polya流       図3

の方略は具体的で詳細なものではあるが、端的にいうならば、r対症療法」的であって、特に算 数を含む数学の学習の一般的な基礎理論には程遠いものであ乱

 さて、ステップ14〕は、問題W:Aが解決され整理されて       X:p、

      ?、・、、.......・

既習のもの、つまり以後のためのメモリー(これを、W:a

1書1改めるllにする)l!て記憶1れたl/一次の作業(三三11ムq?

として、ではどんな問題がこのW:aに翻訳(写像)できる      \、、一一一一一、、

だろうかを探索することを示す。・:・だろうか、・:Qだ    ㌧Y:ツ ろうか、…… (図4)。       図4

 この思考は、12〕のステップの逆方向の行為である。一方的に既習の構造を検索するだけでなく 逆方向に獲得した構造を用いて解ける未知の問題を探究する。こうした順逆2方向の行為の中に、

真の問題解決の方法の理解が生まれるのではなかろうか。また、こうした統合・発展の中ではじ めて、W:aの構造が系統的に理解されるのではなかろうか。

 コメント(付記):こうしたSPS学習によって問題解決のくさりが構築され、連続的・系統 的な学習が展開されるわけであるが、これはいうならば「大単元」の範囲での学習の構造である。

いずれその学令、知能にとっての限界にぶつかり、展開は一一時休止される。また、学習内容とし ても、他領域、他分野のものをいつまでも放っておくこともできない。

 ある期間の休止ののち、改めて問題が開発される。このときの既習の世界の検索は、原則的に

一27一

(9)

は、既習の世界全部に及ぶもので、くさりとしては、一応非連続の形をとる。こうした、連続、

非連続の繰返しによって、本当の問題解決能力が身につくものと思われる。

6.SPS学習の実態

 5、に述べたSPS学習を算数学習の場に適用した場合の実態について例を示そう。

 上記(2〕、13〕の段階の一例を示す。同分母の分数の加法の場合である。⑳

 図5は、問題の構造(世界)と既習の構造(世界)との対応を示す。右側は、この思考のしく みを忠実に表した論理の展開と、それをアルゴリズム化したものを示す。

 W1分数(同分母)の加法      2   3        5

     一   十   一  一一一一一一合    一

一ぺ「∵

   2こ 十3こ   =     5こ

W:整数の加法          図5

 もう一例として、問題解決の系統的展開の実践事例を示そう。

 奈良県のH小学校では、現在の指導要領に拘束されないで算数教育の研究開発を進めている。

たとえば、分数をかける計算、分数で割る計算は、指導要領によれば第6学年での内容であるが、

この学校では、こうした計算を含めて分数に関する乗法・除法の学習は、いわば人単元として、

第5学年で行うという構想を立てて、一部分は既に実践している。

 教師があらかじめ設定した学習のスケジュールは、次の…》印に示されるものである。

1      一       .一一一■■一r

12。旦一?      1

 7  7       1

−        2 3 51

12・3−5だから・7・万一ザ

l      l

「一 一      ■一一 ■ ■一■

1且十旦=2+3

− 7 7   7

I        5

1       = 一

1        7

1___一_______________」

整数÷整数

(商としての分数)

一一一

ヒ② 分数X整数

一一一

ィ③ 数(芸簑)1分数

d   ・の・旦(倍)

     In

 この予定された展開は、演算を数範囲とにらみ合わせながら発展的に考察していくという、形 式的には全く妥当なものといえる。また、こうした学習を大単元的に第5学年で一挙に学習させ ようという意図の背景には一児童の問題解決学習は一指導要領の示す②と⑧との間での学年にヰ る分断の形ではなく、①、②に引き続いて当然③に直接発展する方向に進むだろうとの予測があ ったわけで、これも、その限りにおいて、妥当なものといえよう。

       2

 ところが実践では、①の段階で「2mのテープを3等分すると、1つ分は一mになる。」(した        3

        2

がって、2÷3=百)などの操作的活動によって商としての分数を帰納的に理解した後に一上記 の→印のような方向に進んだのである。詳しくいうと、児童の関心は①の学習の後、上記の演       ユ 2       n

算をr2mの百は百mになる。」と捉える方向に焦点化され、さらにrある量の五の考え」、さら に「ある量の旦倍の求め方」の学習の方向を選択したわけである。

     m

皿28一

(10)

 こうした児童の主体的な問題解決学習の方向選択は、教師の意表をついたものであったと同時 に、r分数倍」の概念の形成、そしてそれに伴う演算の学習についてのより詳細な分析の必要を 教師に痛感させたものであった。

 さて、その後の実践の方向は、d→②→③もあり得るが、むしろd→③→②→③の問題解 決のくさりが考えられる。後者の場合は、分数倍の意味についての学習から分数をかける計算③ に進展し、そこで不可避の課題②に遭遇し、②を解決した後③の学習が完成されるというループ 式の系統になる点が注目される。

 この実践事例の示す重要な教訓は、SP S学習において実際に構築される学習の系統は、通常 考えられる演えき的に整合性のある展開に従うとは限らず、時としてはループ的な展開になること さえ有り得るということである。また、それ故に発見的な問題解決学習の名に価するといえる。

7.SPS学習を可能にするために

 以上の実践例による教訓も含めながら、S PS学習を可能にする条件、S P S学習を実行する に当たっての留意点等について考察しよう。

 ① 問題に対して最適な既習構造が検索できるための条件

 このためには、既習の教材がそれぞれの本質をふまえて理解し記憶されていなければならない。

有名なWertheimerの引用例についていうならば、⑳平行四辺形の一隅を切り取って移すことに よって長方形ができることの理解と共に、r加法性を持つもの」としての面積の概念が十分に成 熟していなければならない。(図6)

〔⇒        [二〉

      図6

 W:A→w:aの写像は、操作的直観によって実行されるが、それを支えるものは、Werthei−

merによれば「内的必然性」であり、要するにrその教材の本質」である。

 ② 必要な場合、より容易に検索されうるためのアルゴリズム

 上述のように、記憶として収められ直接検索の対象になるのは、アルゴリズム(場合によって はシェーマ)である。しかし、こ.れはいわば検索のためのindexというべきもので、その本質の 理解の裏付けがなければ、随時必要な時にメモリーとして利用され再生されることは困難である。

生きて働くアルゴリズムr発生機(naSCent)」のアルゴリズムであるためには、アルゴリズムに 表象されるその教材の本質の理解が前提になる。

 ③ 複線的な発展に備えて

 S PS学習は、本質的に複線型の展開の可能性を持っている。教師は、教材のスコープ・シー クェンスなどについて、一応最善な案としてのカリキュラムを用意するが、実際の教室での流れ はそうした予定路線をスムーズに進むとは限らない。こどもの発見的な探究は、ある場合には誠

一29一

(11)

行錯誤の過程をたどるであろうし、ある場合には教師の予定しないジャンプ、あと戻り、そして 結果として上例のようなループ型学習になることもあろう。いうなれば、rカリキュラムはこど

もが作る」⑳といえよう。

 このこどもの操る「カリキュラム九」の後見人(決してパイロット(水先案内人)ではない)

としての教師は、各教材の全学年を通じての透徹した見通しを持たねばならない。

8.結  ぴ

 冒頭に述べたように、現代化という教材内容の改革の時期を経て、現在は学習法・指導法の改 善の時期に至っていると見ることもできるが、それにしても数学学習の方法論の組織的な探究は 教材論でのそれに比べて、著しくおくれていることは事実である。

 たとえば、フランスやドイツの算数のテキスト㊧・⑳に見られるような徹底した集合・演算中 心の学習一論や、日本における量の重視による方法論などの特色ある論が展開、実践されてはいる が、未だ決定的なものは見当らない。この方法論の探究に際して、今回の問題解決学習の提唱は、

これに対する賛否にかかわらず、方法論の進展に何等かのはずみを与えることは確かであろう。

 学校とは、程度こそ低く構造こそは単純ではあるが、その年令のこどもなりに問題解決の方法 を身につけさせること、そのことのための場所であるとするならば、そのためには、まず教材に ついて質か量がの徹底した二者択一が不可避なのではあるまいか。上述のS PS学習を十分に実 行するためには、授業時間の物理的制限がある限り、現在の「基本的・基礎的」な教材のすべて

をこなすことは到底不可能である。

 多く学び多くを知ったが、方法論は身につかず、ましてや将来の不測の問題を自力で解決する ことなどは思いも及ばぬ人間を育てるのか、これに対し、少ししか学ばなかったが、その間に数 学的に考えるとはどういうことなのか、もう少し詳しくいうと、問題を見つけそれを解決し、さ らにそれを発展させていくとはどういうことなのかを体得し、生涯にわたって生きて働く問題解 決能力を持つ人間を育てるのか、そのいずれかの選択に迫られている時代ともいえよう。

 こうした見地に立つとき、現在の日本のスローガンrゆとりと充実」や、外国でのback to

㎏SiCSの動きの背景に一つの大きいフィロンフィーを設定し、更に来るべき数学教育改善の方向 付けに重大な示唆を発見できるのではあるまいか。

 付記:本稿の完成後、第ユ6回数学教育論文発表会(昭和57年11月18,19日)において、鈴木明 裕の「算数数学教育における問題解決についての一一考察」の発表があった。その所論は本稿とか かわるものであるが、それについての考察を述べる余裕がないのは残念である。(同要項参照)

      引用及ぴ参考文献

① G.ポリア:いかにして問題を解くか(柿内訳)、丸善    〃   発見的解き方(柴垣訳)、みすず書房

        数学における発見はいかにしてなされるかユ、2(柴垣訳)、丸善

②N.C.T−M.:Problemsolvinginschoolmathematics(42ndYearBook)(ユ980)

一30一

(12)

小川庄太郎:学習指導方法論としての科学的学習、算数数学指導(3一ユ981)

N.C.T.M、:An agenda for action(198ユ)

G.Polya :On solving mathematical problems in high school(上掲②P−R1−2)

N.A.Branca:Problem soMng as a goal,process,and basic skill(上掲②P.R3−

       8)

川口 廷:数学教育研究の潮流と21世紀を展望した改善への提言、数学教育63,1(1981)

伊藤説朗:学校数学への勧告(1〕、12〕、(3)、新しい算数研究、N皿1ユ5、ユエ6一ユ17(1980)

中島健三他:80年代の算数教育のあり方をめぐって(1〕、12〕、同上、N皿118、ユエ9(198ユ)

石田淳一:問題解決におけるプロセス研究の位置づけとプロセス研究をすすめるための留意      点、数学教育論文発表会要項(1981)

間瀬花子1問題解決に関する一考察、同上

阿部浩一:いまなぜr問題解決」か、算数数学指導(2.1982)

A.H.Shoenfeld:Heuristics in the classroom(上掲②RP−9−22)

G.L.Musser et al:Problem−so1ving strate或es in school mathematics(上掲②       RP−136−145)

小川庄太郎:計算の基本法則について(1〕、(2)、(3〕算数と数学、N皿177一ユ79(ユ966)

G.Polya:上掲⑥P.ユ

文部省:小学校学習指導要領、第2章、第3節、算数(1968)

文部省:同上(1977)

R.E.K.Rouke:Some implications of twentieth century mathematics for high         schoo1s,Mathematics Teacher V0151,No2(1958)

小川庄太郎:上掲⑮、12)、Noユ78

小川庄太郎:数と計算、算数数学指導、臨時増刊「認識と定着」(1982)

小川庄太郎、重松敬一也:算数教育の理論と実際、聖文社(P.74)

ウェルトハイマア:生産的思考、矢田部課、岩波書店

小川庄太郎:カリキュラムは子どもが作る、新しい算数研究、Noユ33(1982)

Math O02(J Manesse et a1)、Classique Hachette,(上掲⑳参照)(ユ972)

Neue Mathematic(H.Winter et al),Schroedel(1971)

皿31一

(13)

一32川

参照

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