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高次元理論のインフレーションへの応用

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Academic year: 2021

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高次元理論のインフレーションへの応用

Application of higher dimensional theories to inflation

物理学専攻 小山 陽次 Department of physics Youji Koyama

概 要

本論文は、高次元理論をインフレーションのモデルに応用し、その部分的結果[1]をまとめたものである。高 次元ゲージ場の余剰次元スカラー場をヒッグス粒子またインフラトンと同一視できる可能性を議論する。そのた めに、5次元の超対称性をもつゲージ理論をS1(円周)にコンパクト化したモデルにおいて、ワンループ近似で 有効ポテンシャルを計算する。結果として、ヒッグスとインフラトンを統一するという描像は中間エネルギース ケール(1013GeV)のヒッグス粒子に応用されたとき正しく、ゲージ階層性問題とインフラトンポテンシャル の微調整問題を同時に解決することが可能である。

本研究の目的は高次元の理論に基づいたインフレーションのモデルをつくることである。我々はこれまでに行っ た研究ではインフレーション宇宙論と素粒子の統一理論でのスカラー場に生じる微調整問題を、高次元のゲージ 場理論を考えることによって、一つの機構で同時に解決した。

この研究を説明する上で、インフレーション宇宙論と統一理論におけるインフラトン場とヒッグス場で量子補 正により生じる質量

(ポテンシャル)

の微調整問題とその問題に対して、高次元ゲージ理論がどのように答えを出 したかという研究の背景は非常に重要であるので以下で説明する。

インフレーションとは初期宇宙の急激な膨張のことを言う。このインフレーションはビッグバン理論の問題に 解を与えた。またこのような理論的観点からだけでなく、インフレーションは現在の宇宙のあらゆる構造と観測 されている

CMB

の温度の揺らぎの起源を与えることができるため、実験的に検証可能な理論である。実際、イ ンフレーション理論は観測結果を再現することができるので、インフレーションが起こったことはほぼ明らかと なっている。

素粒子論ではインフレーションはあるスカラー粒子によって担われる。それはインフラトンと呼ばれる。イン フラトンによって引き起こされるインフレーションはスローロールインフレーションと言われる。図

1

にその模 式図を示す。スローロールインフレーションを実現するためには平坦なポテンシャルが必要となる。

インフレーションのモデルをつくることは正しいインフラトンポテンシャルを与えることと同じである。しか

し4次元

(時間1次元+空間3次元)

の場の理論に基づいたモデルづくりは量子効果を取り入れる際、それが巨大

1

(2)

V(Φ)

Φ インフレーション

インフレーション終了

宇宙の熱化( 粒子の生成 )

1:

スローロールインフレーションの模式図

な量として現れてしまうために理論的な問題が生じる。インフレーション理論でのインフラトンポテンシャルに 含まれるパラメタは「インフラトンのポテンシャルの平坦性」と「観測値の再現」のために勝手な値をとること はできない、量子効果によってパラメータが巨大な補正を受けると、手でパラメタの値を微調整しなくてはなら なくなる。これはインフラトンポテンシャルの微調整問題である。微調整問題の原因はインフラトンがスカラー 場であることに起因する。スカラー場は特別な場合を除き量子補正をコントロールする対称性をもたないためで ある。

スカラー場に関する微調整問題は、素粒子の統一理論において対称性の破れを担うヒッグスの質量に対して既 に知られていた。これは素粒子の理論にエネルギーの階層性が存在するために起こる

(図 2)。これはゲージ階層

性問題と呼ばれる。ゲージ階層性問題とはヒッグス場の質量に対する微調整問題である。それはスカラー場自体

E

~ 1015-16GeV

~ 1019GeV

 100 GeV

弦理論

大統一理論

標準模型

中間スケール ?

・素粒子理論には階層性が存      在。

・各々の階層はヒッグスの質量    で特徴づけられている 。

2:

素粒子理論の階層性

には通常、質量の量子補正を禁止する対称性がないために、常に質量の量子補正がカットオフ(新たな階層のエ ネルギースケール)の自乗で現れてしまうために起きる。ゲージ場に適切な質量を与えるヒッグス場の質量を得 るためには、対称性の破れのスケールとカットオフスケールとの間で繰り込みによる質量の何桁もの不自然な微 調整が必要になる。高次元ゲージ理論は最初にこのヒッグスに対して適用された

[2]。

2

(3)

4次元より大きな次元を考える高次元ゲージ理論では、我々に見えない高次元の空間方向は小さく丸めてコン パクト化する

(図3)。ゲージ場とはベクトル場であるので次元をコンパクト化したときにはゲージ場は4次元ゲー

ジ場と高次元方向に現れる余剰次元成分に分けられる。4次元でみるとこれはスカラー場となる。このスカラー

  コンパクト化

 ⇒

4次元方向 高次元方向 ( 無限に拡がっている )

4次元方向 高次元方向 ( 有限の大きさ )

3:

次元のコンパクト化

場は高次元においてゲージ対称性をもつため、コンパクト化のあとでもその対称性の縛りが効くことになる。こ のゲージ対称性の縛りによって量子効果を小さく抑えることができる

[2]。

対称性の縛りとはポテンシャルの形を強く制限するということである。つまり対称性から許されない項はポテ ンシャルには現れず、インフラトンポテンシャルにおいても平坦性を壊すような項を禁止できる。従って、高次元 ゲージ理論はインフレーション理論が抱えている微調整問題を解決し、矛盾のないモデルを構築できる可能性を

もつ

[3]。この点に着目し、微調整問題を解決し尚かつ近年の宇宙観測からの制限を満たすようなインフレーショ

ンモデルを作ることは初期宇宙の理論、つまり統一理論の枠組みにも必要である。

我々の研究では高次元理論のインフレーションへの応用として、5次元の超対称性をもつゲージ理論を用いた 解析を行った。コンパクト化されたゲージ理論のゲージ場の余剰次元成分はスカラー場である。このスカラー場 をインフレーションに登場するスカラー場

(インフラトン)

統一理論に登場するスカラー場

(ヒッグス)

として同一 視するのである。さらに超対称性

(SUSY)

を導入しその役割を考察する。スカラー場のポテンシャルは

SUSY

を 破る事によって得られるものであるため、その破り方も考える。

この研究のユニークな点は、基本的な対称性であるゲージ対称性を使ってスカラー場における微調整問題を解 決するとともに、スカラー場の起源を明確にすることである。また

[3]

ではインフレーションをうまく説明する代 わりに、結合定数は現実的な値よりかなり小さな値でなければいけないという問題点があったのに対し、この研 究では超対称性とその破れを導入することで、その問題を解決するより現象論的に優れた模型をつくることであ る。また統一理論と初期宇宙論の関係についてより深い理解を見いだせる可能性もある。

トイモデルとして

5

次元超対称

SU(2)

ヤンミルズ理論が

1

次元分円周にコンパクト化された理論を考えた。そ してゲージ階層性とインフレーションにおける微調整問題が解決されるかどうか、またもし解決するのなら、ど のスケールの階層性に相当するのかを研究した。SUSY は

Scherk-Schwarz

機構

[4]

と呼ばれるものを用い、コン パクト化により破ることとした。この操作によりポテンシャルが生じ、SUSY の破れのパラメタが導入される。

得られた結果は

[1]

・ ゲージ階層性とインフレーションにおける微調整問題は同時解決可能である。

3

(4)

・ この理論に現れる結合定数の値を現実的な値に取る事ができる。

である。この結果はこのモデルの有用性を十分に示すものである。微調整の問題はヒッグスとインフラトンを同 一視する事で解決可能である。揺らぎの観測からの制限により、インフラトンの質量が大体

1013GeV

で決まって しまうことから、ヒッグスは

SO(10)

大統一理論などにおける中間エネルギースケールの対称性を破るヒッグス と考える事ができる。このとき

4

次元における結合定数、コンパクト化の半径、SUSY の破れのパラメタの間に スローロールインフレーションを実現するための条件とインフラトンの質量から関係がつく。その関係を考慮し てパラメタを評価すると、SUSY の破れのパラメタを非常に小さく取ることによって、結合定数を現実的な値に 取ることと同時にヒッグスの質量

1013GeV

を実現できる。前に述べたように、SUSY を導入しない

[3]

では結合 定数の値は小さくならざるを得なかったのに対し、この模型はその問題への解決の可能性を示すこともできた。

参考文献

[1] T. Inami, Y. Koyama, C. S. Lim and S. Minakami, Prog. Theor. Phys.122, 543 (2009).

[2] H. Hatanaka, T. Inami and C. S. Lim, Mod. Phys. Lett. A13, 2601 (1998);

[3] N. Arkani-Hamed, H. C. Cheng, P. Creminelli and L. Randall, Phys. Rev. Lett.90, 221302 (2003).

[4] J. Scherk and J. H. Schwarz, Phys. Lett. B82, 60 (1979).

4

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