修士論文要旨 (2008年度)
Centred Scheme を用いた CIVA- 格子ボルツマン法 による浅水長波解析手法の構築
Development of CIVA-Lattice Boltzmann Method for Shallow Water Flow based on Centred Scheme
土木工学専攻 18号 楠 和也 Kazuya KUSUNOKI
1.
研究目的海岸,河川などにおいて生じる津波や高潮などの多く の流れは浅水長波方程式で記述される.これらの流れの 定量的な把握は,水害による被害の大きさを予測する 上で重要であり,これまで主に模型実験による方法が 一般的に用いられてきた.しかし,近年の計算機性能の 向上に伴い,数値シミュレーションも数多く行われる ようになってきている.これら浅水長波流れの解析手 法としては,有限差分法や有限要素法などが主流であ るが,近年新たな数値解析手法として格子ボルツマン 法(LBM:Lattice Boltzmann Method)1),4)が注目を集 めている.LBMは流体を有限個の速度をもつ仮想的な 粒子の集合体としてとらえ,各粒子の衝突と並進を逐次 計算し,粒子の計算を局所的に行う陽的な解法であり,
かつアルゴリズムも簡便な手法であることから,計算が 高速に処理可能である.従って,LBMはこれらの浅水 長波流れ問題に対して有効な手法になり得るといえる.
しかしながら,LBMでは構造格子を用いるのが一般的 なので,自然地形を取り扱うことが多い浅水長波流れ 解析においては,その適用に難点があった.そこで,立 石,樫山により非構造格子へ拡張されたCIVA-格子ボル ツマン法8)が提案され,浅水長波流れ解析に適用されて きた.
しかし,外力項の評価において従来適用していたBasic
Schemeでは底面形状に不連続な点があると解析が不安
定になるという問題が生じていた.そこで本研究では,
上記問題点を改善するため,全水深と河床勾配を並進ベ クトルの中点の値で評価するCentered Schemeの導入 を試みた.数値解析例として様々な底面形状を有する潮 流解析を取り上げCentred Schemeの有効性の検討を 行った後に,Centred SchemeのCIVA-LBMへの適用 について検討する.
2. CIVA-
格子ボルツマン法 2.1 格子ボルツマン方程式格子ボルツマン法において,衝突演算項に格子BGK モデルを用いた格子ボルツマン方程式は以下のように表 わされる.
fα(x+eα∆t, t+ ∆t)−fα(x, t)
=−1 τ h
fα(x, t)−fαeq(x, t)i + ∆t
6e2eαiFi (1)
図– 1 概念図
上式において,左辺は粒子の並進過程,右辺の第1項目 は衝突過程を表している.並進過程にCIVA法を導入 することによってLBMの非構造格子への拡張を図って いる.fα はα方向の粒子がどれくらい存在するかとい うことを表す粒子分布関数,fαeqは局所平衡分布関数で ある.また,eαは粒子の並進速度ベクトルであり,以下 の式によって表される.
eα=
[0,0], α= 1
e[cos(α−41)π,sin(α−41)π], α= 2˜5 p2e[cos(α−41)π,sin(α−41)π], α= 6˜9
(2)
式(1),(2)のeはe= ∆x∆t で定義され,∆tは微小時間 増分量,∆xは格子サイズである.式(1)の支配方程式 により粒子の計算を局所的に行い,陽的に未知量fαを 求める.なお,本論文では2次元9速度モデル(図-1) を用いており,粒子分布関数などの添え字αは図の数字 と対応している.また,Fiは外力項であり,以下のよう に与えられる.
Fi=−gh∂zb
∂xi
+τwi ρ −τbi
ρ +Ei (3) 上式において,ρは流体密度,zbは基準面からの底面の 高さ(zbの定義は図-2参照),τbiは底面でのせん断応 力,τwiは自由表面でのせん断応力,Eiはコリオリ力で ある.τbiおよびτwiは以下の式によって算出される.
τbi =ρCbui
q
ujuj (4)
τwi=ρaCwuwi q
uwjuwj (5) ここで,式(5)において,ρaは空気の密度,Cwは空気 抵抗,uwは風速を表す.また,Cb は底面摩擦であり,
図– 2 水深定義図
Chezyの係数(Cz=h16/n)を用いて以下の式によって 決定される.なおnはマニングの粗度係数である.
Cb= g
Cz2 (6)
また式(1)において,τは単一時間緩和係数と呼ばれる 定数であり,1タイムステップの衝突で粒子が格子点上 において一定の割合 τ1 で局所的な平衡状態に近づいて いくことを示している.τ は,鉛直方向に積分された渦 動粘性係数νeと以下のような関係にある.
τ= 3νe
e2∆t +1
2 (7)
なお,式(3)第1項目の底面勾配の評価方法については,
Basic SchemeとCentred Schemeの2通りについて検 討した.ここで,Basic Schemeとは,図-1(a)のように 9方向すべてで節点での全水深と底面勾配を用いて次式 により評価する手法である.
−gh(x, t) ∂
∂xi
zb(x, t) (8) 一方,Centred Schemeは,Basic Schemeが節点値で評 価するのに対し,図-1(b)のように9方向それぞれの並 進ベクトルの中点での全水深と底面勾配を用いて次式に より評価する手法である.
−gh(x+1
2eα∆t, t) ∂
∂xi
zb(x+1
2eα∆t, t) (9) 2.2 局所平衡分布関数
局所平衡分布関数は,ある空間内において平衡状態に なった場合の粒子の分布を表す関数であり,巨視的変数 である全水深と流速によって決定され,以下の式で表さ れる.
fαeq=
h−5gh6e22 −3e2h2uiui α= 1
gh2
6e2 +3eh2eαiui
+2eh4eαieαjuiuj−6eh2uiui α= 2˜5
gh2
24e2 +12eh2eαiui
+8eh4eαieαjuiuj−24eh2uiui α=6˜9 (10)
ここに,hは全水深,uiは流速,gは重力加速度である.
なお,上式の係数は,巨視的速度においてべき級数をと り,質量保存,運動量保存,エネルギー保存を満たすよ うに決定されている.
2.3 流れの巨視的変数
流体の巨視的変数である全水深及び速度は,その粒子 分布関数と式(2)の粒子の並進速度ベクトルを用いて以 下のように計算される.
h= X9
α
fα (11)
u= 1 h
X9 α
eαfα (12)
2.4 境界条件
本 論 文 で は ,non-slip 条 件 に 相 当 す る も の と し て Bounce-back条件2)を,slip 条件に相当するものとし てMirror 条件2),流入流出境界条件として粒子分布関 数の0勾配条件を用いた.
2.4.1 Bounce-back条件
Bounce-back条件は,粒子が来た方向に180◦跳ね返 るという条件であって,non-slip条件としてはもっとも よく用いられており,多孔質媒体内流れなどで成功を収 めている.図-3(a)のように下面が境界の場合,未知粒 子分布関数は以下のように表される.
f3=f5,
f6=f8, (13)
f7=f9
2.4.2 Mirror条件
slip条件の場合は一般的にMirror条件がよく用いら
れる.Mirror条件とは,壁に向かう方向の粒子が鏡面
反射する条件であり,図-3(b)のように下面が境界の場 合,以下のように表される.
f3=f5,
f6=f9, (14)
f7=f8 2.4.3 粒子分布関数の0勾配条件
流入・流出境界条件としては,境界に直行する方向の 粒子分布関数の勾配を0にする境界条件処理4) が提案 されている.例えば,図-3(c)のように左から右へ流体 が流入する場合を考えるならば,以下の式により算出さ れる.
f2(0) =f2(1)
f6(0) =f6(1) (15) f9(0) =f9(1)
上式において,0は流入部,1はその風下方向の隣接す る格子点である.流出に関しても同様に処理する.
図– 3 概念図
(x-u t,y-v
)
) , (x-uDty-vDt f
) 1 , 1 ( ) 1 , 1
1(
t v y t u x y
x n
n+ =f - D - D
f
) 2 , 2
2(x y P ) , (x y P
x
y
) 1 , 1
1(x y P
) 3 , 3
3(x y P
Ó
図– 4 CIVA法
2.5 CIVA法
CIVA法7)は,移流方程式の高精度かつ安定な解法で あるCIP法6)を三角形及び四面体に拡張した手法であ る.CIP法やCIVA法では,各節点の局所厳密解を上 流側の格子内に張った3次の補間曲面により求める.空 間内の完全3次多項式を得るためには10個の係数を求 める必要があるため,各節点上に関数値及び空間微係数 値を配置する.(図-4)
四角形格子の場合,4点計12変数の情報から3次多 項式の未知係数が決定されるが,三角形格子の場合は3 点9変数しかなく,3次多項式を完全に求めることがで きない.CIVA法では,この問題を3次関数を調整し未 知係数を減らすことにより解決している.CIVA法で用 いられる補間関数及び微係数の補間関数は,三角形に対 して正規化された座標系である面積座標系を用いて以下 のように表される.
f˜(L1, L2, L3) = X3 i=1
αiLi+d X3
j,k=1 j̸=k
βjk[L2jLk+cL1L2L3]
(16) なお,式(16)のdは3次補間の場合1となり,cは0.5 である.
CIVA法のように三角形格子上の補間により移流方 程式を解く場合には,上流側の点がどの要素に存在する かを探索する必要がある.本論文では,CFL数が1を
超えないように∆xを設定し,上流側の点を隣接する要 素内から探索した.解析領域中に大きさが異なる要素が 混在している場合は,最も小さい要素でCFL数1以下 の条件を満たさなければならない.そのため,計算に用 いる∆xは最も小さい要素を基準にして設定される.
3.
数値解析例数値解析例1及び数値解析例2において,底面形状が 滑らかで,その傾きが解析的に求めることのできる形状 を有する潮流解析及び,底面形状に不連続な点を有する 潮流解析を取り上げることでCentred Schemeの有効性 の検討を行い,数値解析例3においてCentred Scheme のCIVA-LBMへの適用について検討する.
3.1 潮流解析1
数値解析例として滑らかな底面形状を有する潮流解析 を取り上げる.解析モデルを図-5に示す.
(a)水深図 (b)流速図
図– 5 9117.5秒後の解析結果
初期条件として水深は以下の式により与えることと する.
H(x) = 50.5−40x
L −10sin(π(4x L −1
2)) (17) 上式において,水路長はL= 14000mである.水面はフ ラットであるから,標高値はzb(x) =H(0)−H(x)で 表される.また,境界条件は以下の式で与える.
h(0, t) =H(0) + 4−4sin¡ π( 4t
86400+1 2)¢
(18)
u(L, t) = 0 (19)
また,u(0, t)においては粒子分布関数0勾配4)を適用し た.分割数はx方向に1000分割とし,単一時間緩和係 数τ は0.6とした.なお,底面勾配の評価法としては Basic Schemeを用いて計算した.
計算結果として図-5に9117.5秒後の(a)水位図及び,
(b)流速図を示す.図-5より,水位図,流速図ともに解 析解と定量的な一致が得られていることがわかる.底面 勾配が滑らかで解析的に求められるため,Basic Scheme でも安定に解析が行えていることが確認できる.
図– 6 10800秒後における水面形
図– 7 10800秒後における流速図
3.2 潮流解析2
数値解析例として,図-6のように底面が不規則な形状 をしている場合における潮流解析を取り上げた.格子幅
∆x=7.5[m],微小時間増分量∆t=0.3[s],単一時間緩和 係数τ=1.5として計算した.水路長はL=1500[m]であ る.以下に境界条件を示す.
h(x,0) =H(x), H(0) = 16, H(x) =H(0)−zb(x)
u(x,0) = 0 (20)
h(0, t) =H(0) + 4−4sin£ π¡ 4t
86400+1 2
¢¤ (21)
解析結果として,10800秒後の水面形状の図を図-6に示 す.図-6より,Basic Schemeにおいては計算が不安定に なり,水面が振動してしまっているが,Centred Scheme はその振動が抑制されていることが確認できる.また,
10800秒後の流速の比較図を図-7に示す.図-7により,
Basic Schemeでは底面が不連続な点において流速が大 きく振動してしまっているが,Centred Schemeを導入 することにより振動は抑えられ,解析解と良い一致を示 していることがわかる.
3.3 潮流解析3
数値解析例として,図-8と同様に底面が不規則な形状 をしている場合における潮流解析を取り上げ,Centred SchemeのCIVA-LBMへの適用について検討する.
格 子 幅 ∆x=7.5[m],微 小 時 間 増 分 量 ∆t=0.1[s],単 一 時 間 緩 和 係 数 τ=1.6 と し て 計 算 し た .水 路 長 は L=1500[m]である.以下に境界条件を示す.
h(x,0) =H(x), H(0) = 16, H(x) =H(0)−zb(x)
u(x,0) = 0 (22)
また,
h(0, t) =H(0) + 4−4sin£ π¡ 4t
86400+1 2
¢¤ (23)
u(L, t) = 0 (24)
(a)水深図 (b)流速図
図– 8 10800秒後における解析結果
解析結果として,10800秒後の水面形状の比較図と流速 の比較図を図-8に示す.図-8(a)より,Centred Scheme を適用したLBM及びCIVA-LBMにおいては,水面 が振動することなく安定に解析できているが,Basic Schemeを用いたCIVA-LBMにおいては計算が不安定 になり,水面が振動してしまっていることがわかる.ま た,図-8(b)より,Centred Schemeを導入することによ りLBM及びCIVA-LBMどちらの手法による結果も流 速の振動は抑えられ,解析解と良い一致を示しているこ とがわかる
4.
結論と今後の課題本論文では,数値解析例として潮流解析とを取り上 げ,Centred Schemeを適用したCIVA-LBMの有効性 について検討した結果,以下の結論を得た.
• 底面の形状が複雑で,不連続な点を有する場合,
Basic Schemeでは解析が不安定になるが,Cen- tred Schemeでは安定に解析可能であることが確 認できた.
• Centred SchemeをCIVA-LBMへ適用し,その 有効性が確認された.
今後の課題としては,本手法の実地形に対する問題への 適用があげられる.
参考文献
1) Chen,S., and Doolen,G.D.:Lattice Boltzmann Method for Fluid Flow, Annu. Rev. Fluid Mech.,30, pp.329- 364, 1998.
2) S.Succi: The Lattice Boltzmann Equation for Fluid Dynamics and Beyond,Oxford University Press, 2001.
3) 稲 室 隆 二 :格 子 ボ ル ツ マ ン 法,物 性 研 究,pp.197- 232, 2001.
4) J.G.Zhou:Lattice Boltzmann Methods for Shallow Wa- ter Flows, Springer, 2003.
5) Y.H.QIAN: Lattice BGK Models for Navier-Stokes Equation.Europhysics letters, 1992.
6) T.Yabe:A universal solver for hyperbolic equations by cubic-polynomial interpolation, Comput.Phys. Com- mun.,66, pp219-232, 1991.
7) 田中伸厚:数値流体力学のための高精度メッシュフリー手法 の開発,機論,64-620B, pp1071-1078, 1998.
8) 立石絢也,樫山和男:CIVA-格子ボルツマン法による非構 造格子を用いた非圧縮性粘性流体の解析,応用力学論文集,
土木学会,Vol.7, pp323-329,2004.