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携帯電話の利用実態に関する質的調査法の探求

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(1)

携帯電話の利用実態に関する質的調査法の探求

―メモリー(アドレス帳)機能の内容分析とライフ・ヒストリー分析の可能性

辻     泉

A Case Study of a Qualitative Research Method of Mobile Phone Usage:

From a Viewpoint of Content Analysis about the Memory Bank of a Mobile Phone and Depth Interview of User’s Life History

Izumi Tsuji

This paper aims at an introduction of a new qualitative approach to the actual status of mobile phone usage in Japan. I have intended to reveal the actual status of this situation, by conducting content analysis of the memory bank of mobile phones and depth interview of the userʼs life history. For this purpose, I have conducted some case studies about young people who are typical users of mobile phone.

Consequently, I have found that it is better to conduct these two qualitative approaches in the same time for revealing the actual states of mobile phone.

キーワード:携帯電話,スマートフォン,質的調査,利用と満足研究,メモリー(アドレス帳)

機能,ライフ・ヒストリー

1

.は じ め に

 日本社会に携帯電話が定着してから一定の年数が過ぎ,今日ではいわゆるスマートフォンが 利用される様子をいたるところで目にするようになった1)

 だが,その利用実態について,これまでにも多くのアプローチが積み重ねられてきているも のの,その社会的機能2)や影響については,まだまだ十二分に把握しえたとは言い難いのでは ないだろうか3).そもそもこのメディアについては,「どのように調べたらよいのか」という 調査方法そのものに関する検討が,いまだ十二分に積み重ねられていないように思われる. 

 そこで本論文では,携帯電話の利用実態に関する調査方法論の検討を行う.その際,「若者 の友人関係(を中心とした対人関係)」に焦点を当てることとする.なぜなら,中心的な利用 者層における,一つの特徴的な実態だからである.

(2)

 筆者が,10年以上前から継続して行ってきた,試論的な調査方法を検討した後,蓄積してき た調査事例を紹介して検討を深めたい.今日の時点からすれば,やや古さを感じさせるデータ も含まれているかもしれないが,調査方法の趣旨,あるいはその狙いについては,なお有用で あると考え,ここで紹介していく.その上で,末尾に補論を加え,近年の状況に対する分析に も触れておきたい.

 さて,パーソナル・メディアとしての特性に注目すれば,携帯電話の社会的影響については,

やはり特に対人関係というパーソナル・ネットワーク4)に対する影響に注目する必要があるだ ろう.たとえば,2002年に東京都杉並区と兵庫県神戸市に在住する16〜29歳の若者を対象に実 施された調査によれば,「友人関係の形成に役立ったメディア」として,「携帯電話等での通話 やメール」を挙げたものの割合は50.8%に達していた.2012年に行われた同様の調査では,

32.2%と割合を減らしたものの,これはむしろ「通話やメール」が果たしていた機能を,各種 のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が代替したからと考えられ,それらを含 む「インターネットのサイト」が役立ったと答えたものは2012年では44.5%に達していた

(辻泉 2016)SNSを含むこれらのインターネットのサイトにアクセスする際にも,おそらく 多くの場合において,携帯電話が利用されていることは想像に難くないだろう.

 では,これら多数の若者は,実際にどのようにして,携帯電話を対人関係(パーソナル・ネッ トワーク)の形成に役立てているのだろうか.一方で,この点について,これまでの多くの研 究は,詳細な実態に目を向ける代わりに,いささか個人を「原子化」して捉え,質問紙調査へ の回答の分析から,その意識レベルに対する影響ばかりに目を向けてきた傾向があるのではな いだろうか.

 これに関して,筆者は,都市社会学のパーソナル・ネットワーク研究(森岡編2000など)に 示唆を受け,独自の調査方法を検討してきた.具体的には,携帯電話のメモリー(アドレス帳)

機能5)の内容分析を行ってきた.本論文ではその紹介とともに,その弱点を補強して,実態を より「立体的に」捉えるための方法を提案したい.すなわちそれは,ライフ・ヒストリーの聞 き取りを同時に行うことである.

 こうした調査方法論について,机上の空論に終わることがないよう,実際の事例研究の結果 をフィードバックさせつつ検討を深めて行くこととしたい.

2

.携帯電話と若者の友人関係に関する先行研究の問題点

 次に,これまでのアプローチの問題点について検討したい.それは,大きく以下の 2 点に分 かれるように思われる.第一に,理論設定上の問題点,第二に,調査方法上の問題点である.

だが,これら 2 点は目的や状況に応じて,適切に関連づけて論じられるべき問題点でもある.

(3)

2.1. 「効果研究」的な先行研究

 第一の問題点は,端的には以下のように言い表せよう.すなわち,マス・コミュニケーショ ン研究の系譜になぞらえるならば,理論設定を「『効果研究』から『利用と満足研究』へ」と 転換させたほうがよいのではないだろうか,ということである.

 先取りして述べるならば,多くの議論がその影響を一様なものと捉えがちであり,さらに,

パーソナル・ネットワークそのものというよりも,個々人の意識レベルに関する検討に集中し てきた傾向があるように思われる.

 たとえば,青年心理学や精神分析などによくみられるように,新しいメディアの普及に伴っ て,若者たちが対面でのコミュニケーションが苦手になるといった,「希薄化説」と呼びうる議 論は(たとえば,岡田 1992,小此木 2000,柳田 2005など),その代表といえる.こうした議 論にはやや思弁的なものが多く,また先に述べたような傾向も共通してみられるといってよい.

 また実証的な研究においても,この傾向は多くみられてきた.たとえば,常時接続性ゆえに,

果てしなく友人とのコミュニケーションが継続されるとする「フルタイム・インティメイト・

コミュニティ説」(吉井 2000など)や,結局のところ,新しい友人が広がるというよりも,現 在の友人との関係が強まるだけであるとする「既存縁の強化説」(池田 2002など)あるいは「希 薄化説」を批判して,どれも深い友人関係を場面に応じて使い分けるようになるとする「選択 化説」(松田 2000など)や,その意図せざる結果として,“選択”による“内閉”によって,友人 の人数が増えても多様性が減るのではないかとする「同質化説」(辻泉 2003,2005,2007)な どにもこうした特徴は共通していよう.

 これらの実証的な研究は,「希薄化説」がどちらかといえば思弁的で,一方的に批判的な議 論を行いやすいのと比べれば,調査結果に基づいて,より実態に迫ろうとしている点において,

評価に値するものである.しかしながら,影響を一様なものと捉えやすい問題点は,やはり共 通しており,その点で「効果研究」的な特徴を有しているといえよう.

 よって重要なのは,やはり詳細な実態把握を積み重ねていくことであろう.というのも,こ こで紹介してきた議論の内容についても,それらは検証された確たる「事実」というよりは,

今後もさらに検証を重ねていくべき「仮説」として理解したほうが妥当だからである. 

 よって,今後求められているのは,仮説構築をさらにフィードバックしていくことであり,

仮説構築に有効な調査方法論の検討を同時並行的に深めることであろう.この点に関して,友 人関係に代表される,パーソナル・ネットワークの実態把握は手薄だったのではないだろうか.

 こうした問題点を踏まえればこそ,携帯電話というメディアと若者の友人関係については,

「『効果研究』から『利用と満足研究』へ」と視座を転換させることが求められているように思 われるが,この点は,次項でさらに詳しく述べていきたい.

(4)

2.2. 「利用と満足研究」の必要性

 ここでの文脈に沿うならば,「『効果研究』から『利用と満足研究』へ」という視座の転換が 含意しているのは,「それぞれの若者はどのように友人関係を形成・保持し,その中でどのよ うに携帯電話を利用し,(顕在的・潜在的)に満足(もしくは不満)を得ているのか」という 点を,地道かつ詳細に蓄積していくことが重要ということである.

 この点は単なる能動性の強調というよりも,むしろ竹内(1967=1990)のいう「利用と満足 研究」のイメージに近い視座といえるだろう.すなわち,竹内が「明確な問題意識に支えられ,

しかも確実な実証的分析手続きによって明らかにされた発見の,体系的な累積によってのみ」

(竹内 1967=1990:78)メディアの社会的機能を把握しうる6)と述べたように,地道に多様な 事例を蓄積していくことがやはり重要ではないかと考えられる.

 しかしながら,携帯電話の「利用と満足研究」,さらに若者の友人関係に関する詳細な事例 研究となると,どうしても数が限られてくるのが実態である.中でも小寺(2007,2010)のよ うな精緻になされた評価に値する研究も存在するが,本研究とは,調査方法論それ自体の検討 を深めるか否かというところに違いがある.

 それ以外にも,計量的な「利用と満足研究」として,中村(1996)や日吉・杉山(2000)な どが,また初期になされたものとしては松田(1996)などが,あるいはカルチュラル・スタディー ズのオーディエンス・エスノグラフィーの手法に影響を受けた,メディアの家庭空間への普及 過程に関する土橋(2003)らの事例研究の蓄積7)などが貴重な先行研究として存在している.

では具体的に,いったいどのように調べたらよいのか,次節で詳細な調査方法論の検討を行い たい.

3

.新たなアプローチの検討 3.1. 先行研究の調査方法論上の問題点

 友人関係というパーソナル・ネットワークの実態を把握する場合,先行研究においても,い くつかの調査方法論的な問題点が存在していた.

 第一には,「主観的」な意識と「客観的」な実態の区別があいまいであったという点が挙げ られる.たとえば携帯電話による「既存縁の強化説」を唱えた池田(2002)においては,「今 までの友だち関係をより強くするのに役立っている」と「友だちを身近に感じることができる」

という二つの質問への回答を足し合わせて,「携帯電話友人紐帯強化(尺度)」(池田 2002:

289)を構成していた.だが,これによって明らかになるのは,利用者自身が「主観的」に認 識している(顕在的な)社会的機能の把握が中心となるのではないだろうか.もちろん,それ も重要ではあるが,それだけでなく,「客観的」な実態の把握から類推しうる(潜在的な)社 会的機能の把握も重要なのではないだろうか.それはたとえば,友人数のような数値である.

(5)

 だが第二の問題点として,質問紙調査においては,どうしても対象者を一様なものと捉えて しまいやすい傾向が存在してきた.たとえば,筆者自身が唱えてきた友人関係の「同質化説」(辻 泉 2003など)においても,以下のような図8)を提示した上で,若者たちにおけるメモリー(ア ドレス帳)機能の登録件数について,平均値は101.5件であり,標準偏差69.9といった数値を出 すことに重点を置いてきた.

図-1 携帯電話のメモリー(アドレス帳)機能の登録件数(n=407,詳細は辻泉2005参照)

 しかしながら,平均値を出し全体像を記述するというほかに,この図をよく眺めていると,

ほかの特徴もみえてこよう.たとえば,たしかに平均値に近い「91〜100件」のカテゴリーが 最も割合が高く,分布図においても「山の頂点」を形成していることがわかる.だが一方で,「41

〜50件」のカテゴリーももう一つの「山の頂点」にみえてくるし,あるいは,この平均値を出 す際には「ハズレ値」として処理9)されたようなケース(たとえば,この分析の段階では登録 件数500件以上だが,近年では1000件というケースももはや稀ではない)があったことも忘れ てはならないだろう.

 ここで取り上げた二つの問題点からみえてくるのは,調査対象者がどのような友人関係を 持っているか,そしてその際に,携帯電話がどのように利用されているのかという点について,

計量的な質問紙調査から明らかにする際には注意すべき点があるということである.

 このように,若者たちの多用な利用実態を(とりわけ『主観的』意識だけでなく『客観的』

実態についても)詳細に把握するためには,やはり質的調査を通した事例研究を積み重ねてい くことが重要だといえるだろう.

 とはいえ,完全な自由回答形式で「主観的」な意識のみを聞きだすのでも,データの分析に 困難が伴うことが想像される.よって,ある程度,構造化された聞き取り調査10)が求められ

未登録 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0

(%)

1~10 1120

3140 4150

5160 6170

7180 8190

91100 101110

111120 121130

131140 141150

151160 161170

171180 181190

191200 201210

211220 221230

231240 241250

251251 DK/NA(件数)

(6)

ているのだといえよう.次に,その方法を具体的に検討してみたい.

3.2. 新たなアプローチ①―メモリー(アドレス帳)機能の内容分析

 本論文が提案する方法とは,携帯電話のメモリー(アドレス帳)機能の内容分析であり,そ れをインタビュー調査の一環として行うことである.一言でいえばその特徴は,これまでの調 査方法と比べた場合に,友人関係という「主観的」なものをより「客観的」に把握しうるとこ ろにある.

 一般的な質問紙調査と比較すると,さらにその特徴ははっきりとする.たとえば「客観性」

を重視したアプローチとして,いわゆるパーソナル・ネットワーク論の手法に基づいて,「(同 居の家族以外で)親しい人」や「最もよく話す人」を数人程度挙げさせた上で,それぞれの属 性,コミュニケーションの実態に関する質問項目を聞いていくという方法があるが(たとえば 中村1997,モバイル・コミュニケーション研究会2002など),これは「客観的」で正確ではあ るものの,把握できる範囲がごく親しい数人に限られるという欠点がある.それと比べると,

メモリー(アドレス帳)機能を用いれば,より広い範囲が把握可能となる.

 さらに一般的な質問紙調査においては,「主観性」を重視したアプローチとして,「(あなたが)

友だち(と感じる人)」の人数について選択肢を列挙せずに自由記入させる方法もよくみられ る(青少年研究会編 2001,辻泉 2004,2005など).この場合,上記のパーソナル・ネットワー ク論の手法に基づいた質問紙での尋ね方と比べれば,幅広い範囲の把握が可能になるが,一方 で,本人の記憶に頼る場合には,正確さにやや欠ける可能性もあり,むしろ携帯電話のメモリー

(アドレス帳)機能のようなデータソースに基づいた分析を行った方が,正確さが期待できよ 11)

 さて,本論文が提案する具体的な調査方法については,すでに辻(2003)において紹介をし たことがあるので,詳細はそちらも参照してほしいが,概略は,次のページ以降の図-2 に示 したような指示書を対象者に渡し,データを書き出してもらったのちに回収し,その後,統計 ソフトなどを用いて集計および分析を行うというものである.最近では,スマホについてはメ モリー(アドレス帳)機能の登録内容をエクセルファイル形式でアウトプットするアプリも存 在するので,それを応用する方法もあるだろう.また書き出してもらうデータソースについて も,携帯電話やスマホのメモリー(アドレス帳)機能の登録内容以外に,各種のSNSの友人リ ストなどにも同様の方法が応用可能であろう.

(7)

「携帯電話と青少年の友人関係」調査にご協力いただけるみなさんへ 記入方法,その2  次に,右ページの④~⑨の指示に従って,書き出してもらった1件1件の連 絡先について,あてはまる項目に◯(マル)を記入していってください.(例1) ①~③までの作業が終了した段階 名前 1 2 3田中 太郎 鈴木 健 佐藤 花子

部活 塾友達 女友達

クラス・部活・高・中・小・塾 クラス・部活・高・中・小・塾 クラス・部活・高・中・小・塾

ABC ABC ABC

多・中・小 多・中・小 多・中・小

上・同・下 上・同・下 上・同・下

メケ家 メケ家 メケ家

グループ性別学校など親しさ頻度年齢項目① (例2) ⑨までの作業が終了した段階 ・・・作業は以上です.不明な点など,いつでもお尋ね下さい.よろしくお願いします.

名前 1 2 3田中 太郎 鈴木 健 佐藤 花子

部活 塾友達 女友達

クラス・部活・高・中・小・塾 クラス・部活・高・中・小・塾 クラス・部活・高・中・小・塾

ABC ABC ABC

多・中・小 多・中・小 多・中・小

上・同・下 上・同・下 上・同・下

メケ家 メケ家 メケ家

グループ性別学校など親しさ頻度年齢項目①

次に,「学校など」の項目は,それぞれの連絡先()について,今までに同じであっ たことがある場所すべてに◯(マル)を記入してください.

 ※ クラスは,一番最近のクラスについて記入してください.   同じクラスで部活も高校も同じである場合“クラス“部活“高の3つに 記入することになります. 次に,「親しさ」の項目は,それぞれの連絡先()について,以下の基準で自分の感 じる親しさを,A~Cの3段階のどれかに◯マル)を記入してください.   A=とても親しい  B=親しい  C=知り合い程度 次に,「頻度」の項目は,それぞれの連絡先()について,ケータイでの通話やメー

ル,そして直接会っての会話など,すべてのコミュニケーションを含めて接する頻度を, 以下の基準に従って,多~少の3段階のどれかに◯

マル)を記入してください.

  多=1週間に3~4回以上は接する  中=1週間に1回以上は接する   少=1週間に1回も接しないことがある 次に,「それから ),同じか),下かのいずれかであてはまるものにル) を記入してください. 最後,「項目それ 場合は,あてはまるものに◯マル)を記入してください.   あてはまらない場合ケータイ番号とメールアドレスの両方を登録している場合 は,◯を記入する必要はありません)

  メ=該当の連絡先について,メールアドレスだけを登録している場合   ケ=該当の連絡先について,ケータイ番号だけを登録している場合   家=該当の連絡先について,家電や固定電話の番号だけを登録している場合

 この調査の目的は,携帯電話の電話帳機能に登録されている連絡先の分析を通して,青 少年の友人関係の実態について把握することです. 記入方法,その1  まず記入用紙に,携帯電話の電話帳機能(メモリー)に登録されているすべ ての連絡先とグループ名を書き出してもらいます. ① B4の用紙を使います(見開きで左右ページあわせて1枚50人ほど記入できます) ② 携帯電話(PHSを含みます)のメモリー機能に連絡先を登録している全ての連絡先   (=人)について,一人ずつ名前を書き出してください.ただし,グループ分けをし   てあれば,グループごとに書き出しグループ分けの名前も記入してください.

③ 記入する順番は,グループ分けがあればグループごとに,そうでなければ,記入しや   すい順番で構いません(またプライバシーの観点から,名前を残したくなければ,調   査終了後に名前の部分だけ切り離していただいても構いません)

まずぞれ連絡いて,「目でてはるほ いずれか)に◯マル)を記入してください.  ※ ただし,店舗や自宅など,判断がつかないものは記入してもらわなくて結構です.

図-2 メモリー(アドレス帳)機能の内容分析の際に配布する指示書(辻泉2003)

(8)

3.3. 新たなアプローチ②―ライフ・ヒストリーの聞き取り

 加えて本論文が提案したいのは,上記の通り,携帯電話のメモリー(アドレス帳)機能の内 容分析をインタビュー調査の一環として行いつつ,さらに,ライフ・ヒストリーの聞き取りを 合わせて行うことである.

 その目的12)は,メモリー(アドレス帳)機能の内容分析の結果を解釈する際の手助けとな ることが期待できるということにある.具体的には,その分析結果がどのようなプロセスに基 づいたものであるかが,理解可能になるとともに(たとえば,これまでの携帯電話の利用歴や 集団所属,友人関係の形成過程など),携帯電話の故障時や機種変更時などの対応方法も合わ せて聞き出しておくことで,データソースに生じた変化についても把握可能になる.

 具体的な実施方法としては,先に述べたメモリー(アドレス帳)機能の内容分析を実施後に,

対象者の主な経歴(学歴・集団所属・友人関係)とともに,携帯電話の利用過程を時系列的に 聞き取り,年表形式でまとめていくことになる.

 また時系列的なライフ・ヒストリー以外にも,対象者の基本的な属性,携帯電話の利用に関 する満足/不満点,友人関係に対する意識やパーソナリティー特性,さらには内容分析結果を フィードバックした際の感想などを聞き取るとさらに理解が深まるものと考えられる.では,

本論文が提案するこれらのアプローチによって,どのような実態が明らかになるのか,次節以 降で検討してみたい.

4

.新たなアプローチによる知見―事例研究から 4.1. 対象とした事例・実施時期

 筆者はこれまでに,携帯電話の主要な利用者である若者を中心に,アプローチを行ってきた.

具体的には,首都圏在住の高校生 9 名(男子 4 名,女子 5 名),地方都市(愛媛県松山市)在 住の高校生13名(男子 5 名,女子 8 名),同じく大学生24名(男子 8 名,女子16名)の合計46 名が調査対象者であり,調査については,それぞれ以下の時期に行った.まず首都圏在住の高 校生女子については,2000年 8 〜12月に(一部は2003年 3 月に再度同様の調査を実施),次に 首都圏在住の高校生男子については,2003年 2 月に(同様に2005年 3 月に再度調査),地方都 市(愛媛県松山市)在住の高校生(男女とも)については2004年11〜12月に,同じく大学生(男 女とも)については2003年 4 月〜2004年 1 月に調査を行った.

4.2. メモリー機能の内容分析結果

 次に,詳細な結果の検討に移る前に,単純集計レベルでの結果について,調査対象地と属性 に応じて,四つのカテゴリーに分けて,概観しておきたい.四つのカテゴリーとはすなわち,

首都圏高校生女子,首都圏高校生男子,地方都市高校生,地方都市大学生である.本来ならば,

(9)

想定しうる様々なカテゴリーを網羅すべきかもしれないが,この調査が試論的な内容を含むた めに,調査協力が得られた対象者から徐々に問題発見的にアプローチを広げてきたため,この ようなカテゴリーとなった.以下はそれぞれのカテゴリーごとに,単純集計レベルでの調査結 果をまとめたものである(登録件数の多い順に表記)

 では表 1 〜表 4 の単純集計レベルの結果について,解釈を加えてみたい.まず,全体的に 表-1-1 首都圏高校 2 年生女子の分析結果(空欄は,調査していない項目)

表-2-1 首都圏高校 1 年生男子の分析結果(空欄は,調査していない項目)

表-1-2 首都圏高校生女子の 3 年後の分析結果(ID(2)と(5)のみ実施)

ID 性別 グループ数 合計 1.性別 2.年齢 3.頻度

男性 女性 DK DK DK

(1) 女性 4 83 6 77 0

(2) 女性 2 67 0 67 0 10 54 1 2

(3) 女性 3 59 0 59 0

(4) 女性 5 44 2 42 0

(5) 女性 5 37 0 37 0 7 30 0 0

ID 4.親しさ 5.一緒だった場所 6.連絡先の種類

A B C DK 高校 中学 小学 部活 バイト ケータイのみ アドレスのみ 固定電話

(1) 34 31 18 0 27 2 54

(2) 14 26 27 0 32 13 22

(3) 11 25 23 0 32 8 19

(4) 24 8 12 0 27 8 9

(5) 7 8 22 0 16 10 11

ID 性別 グループ数 合計 1.性別 2.年齢 3.頻度

男性 女性 DK DK DK

(6) 男性 6 94 56 28 10 9 74 1 10 4 11 79 0

(7) 男性 5 86 53 28 5 16 64 0 3 26 30 30 0

(8) 男性 なし 56 46 5 5 5 47 0 4 19 14 16 7

(9) 男性 なし 21 18 3 0 4 16 1 0 13 4 4 0

ID 4.親しさ 5.一緒だった場所 6.連絡先の種類

A B C DK クラス 部活 中高 小学 ケータイのみ アドレスのみ 固定電話

(6) 19 16 47 12 7 0 39 9 22

(7) 36 34 16 0 23 10 25 3 16

(8) 27 26 3 0 8 20 10 13 1

(9) 12 5 4 0 2 4 7 2 1

ID 性別 グループ数 合計 1.性別 2.年齢 3.頻度

男性 女性 DK DK DK

(2) 女性 9 98 21 69 8 26 62 3 7 9 16 73 0

(5) 女性 7 30 2 27 1 9 19 1 1 1 4 25 0

ID 4.親しさ 5.一緒だった場所 6.連絡先の種類

A B C DK 短大・職場 高校 中学 小学 ケータイのみ アドレスのみ 固定電話

(2) 19 55 23 1 19 10 15 5

(5) 8 8 14 0 7 3 3 5

なお,ID( 1 )〜( 4 )が千葉県,( 5 )が東京都のそれぞれ中堅で共学の公立高校.部活は未加入. 全員が男性アイ ドルのファンで,そのつながりで,ID( 2 )を起点に,スノーボールサンプリングで選定.ID( 2 )( 5 )は,その後,

東京都内の私立の中堅の女子短大に通う.全員,恋人はなし.

(10)

みて,登録件数の合計については,最大がID(15)の503件(26グループに分類),最少がID

( 9 )の21件(グループわけなし)と,ばらつきの大きいことが目につくだろう. 

 そして,表 1 〜 3 の高校生と,表 4 の大学生を対比させてみると,おおむね大学生の方が,

登録件数,グループ数が多いとともに,そのばらつきも大きく,さらに異性や年上・年下の割 合が多いことがわかる.

表-3 地方都市(愛媛県松山市)高校 2 年生の分析結果(空欄は調査できなかった項目)

ID 性別 グループ数 合計 1.性別 2.年齢 3.頻度 4.親しさ

男性 女性 DK DK DK A B C DK

(10) 男性 5 73 46 27 0 16 51 4 2 16 20 35 2 28 33 12 0

(11) 男性 7 66 56 10 0 5 60 1 0 21 5 40 0 16 36 14 0

(12) 男性 6 59 40 12 7 5 45 2 7 6 14 39 0 20 27 5 7

(13) 男性 なし 39 36 3 0 0 39 0 0 11 5 23 0 24 11 3 1

(14) 男性 6 36 31 4 1 2 32 2 0 8 8 20 0 18 12 6 0

(15) 女性 26 503 246 243 14 70 361 39 33 87 125 290 1 236 164 98 5

(16) 女性 9 129 44 81 4 26 97 0 6 14 34 78 3 33 69 23 4

(17) 女性 13 107 47 60 0 24 70 13 0 5 26 76 0 5 89 9 4

(18) 女性 7 85 21 60 4 14 66 1 4 1 2 82 0 3 43 27 12

(19) 女性 なし 76 8 66 2 8 65 1 2 0 10 64 2 17 45 12 2

(20) 女性 9 75 10 57 8 9 54 4 8 12 18 37 8 15 34 18 8

(21) 女性 なし 74 17 57 0 15 56 2 2 12 14 46 2 41 25 7 1

(22) 女性 8 73 13 55 5 7 60 1 1 9 19 44 1 9 26 33 5

ID 5.一緒だった場所 6.連絡先の種類

クラス 高校 中学 小学 部活 バイト ケータイのみ アドレスのみ 固定電話

(10) 6 60 21 5 16 0 0 26 0

(11) 9 38 34 15 14 0 0 13 1

(12) 9 32 19 2 8 0 0 30 0

(13) 5 27 9 0 7 1 1 17 0

(14) 4 23 13 5 13 0 1 24 0

(15) 16 100 358 22 18 0

(16) 9 80 20 3 26 0

(17) 11 67 26 26 27 0 0 4 0

(18) 11 39 43 32 6 0 2 19 4

(19) 10 53 21 11 19 0 0 4 0

(20) 18 45 17 6 12 0 0 19 5

(21) 0 65 29 0 0 0 6 37 2

(22) 16 47 20 20 9 0 3 19 2

全員,松山市内の中堅で共学の県立進学高校(全員が大学進学希望).同高校の 2 年生全員を対象に,調査への希望者 を募り,応募があった全員を選定.全員,部活加入.恋人がいたのは,ID(15)(20)(いずれも女性)

表-2-2 首都圏高校生男子の 2 年後の分析結果

ID 性別 グループ数 合計 1.性別 2.年齢 3.頻度

男性 女性 DK DK DK

(6) 男性 9 77 45 18 14 9 51 3 14 4 0 59 14

(7) 男性 6 114 70 40 4 10 84 15 5 31 25 58 0

(8) 男性 5 74 61 4 9 10 55 0 9 18 25 26 5

(9) 男性 なし 92 66 26 0 8 79 5 0 19 19 54 0

ID 4.親しさ 5.一緒だった場所 6.連絡先の種類

A B C DK クラス 部活 中高 小学 ケータイのみ アドレスのみ 固定電話

(6) 9 4 50 14 0 0 32 8 4 3 6 4

(7) 52 39 18 5 42 14 60 4 26 1 27 3

(8) 14 42 7 11 14 20 48 11 1 1 3 1

(9) 22 40 30 0 13 13 61 5 38 2 24 1

※ ID( 6 )〜( 9 )とも,東京都内の中高一貫の私立進学男子高校生.同校の担任の教諭に,タイプの違う 4 名の選定 を依頼.部活は,( 6 )が未加入,( 7 )硬式テニス,( 8 )サッカー( 9 )演劇.恋人は,2 年後の調査時にID( 6 ) のみ.( 6 )( 7 )は慶應義塾大学経済学部,( 8 )は東京大学理科 1 類,( 9 )は早稲田大学法学部にそれぞれ進学した.

(11)

表-4 地方都市(愛媛県松山市)大学 3年生の分析結果

ID 性別 グループ数 合計 1.性別 2.年齢 3.頻度 4.親しさ

男性 女性 DK DK DK A B C DK

(23) 男性 10 257 175 75 7 69 159 22 7 32 43 174 8 41 95 102 19

(24) 男性 12 219 158 49 12 75 100 28 16 4 19 180 16 53 98 52 16

(25) 男性 9 182 143 35 4 32 109 38 3 4 36 138 4 12 126 41 3

(26) 男性 11 125 68 51 6 30 64 25 6 3 3 119 0 31 73 15 6

(27) 男性 8 125 68 52 5 20 86 14 5 5 7 113 0 25 33 67 0

(28) 男性 なし 42 29 11 2 8 29 3 2 4 3 29 6 7 21 8 6

(29) 男性 3 33 15 15 3 8 22 0 3 2 16 12 3 3 12 15 3

(30) 男性 4 32 28 4 0 8 15 9 0 4 17 11 0 8 22 2 0

(31) 女性 3 343 103 200 40 78 172 55 38 9 20 311 3 55 165 92 31

(32) 女性 16 219 50 162 7 81 106 31 1 16 34 169 0 46 130 43 0

(33) 女性 9 205 59 103 43 38 86 38 43 5 8 146 46 18 95 45 47

(34) 女性 9 135 27 101 7 35 68 11 21 4 6 103 22 4 4 107 20

(35) 女性 4 120 45 43 32 27 44 17 32 0 6 82 32 8 36 44 32

(36) 女性 6 118 38 66 14 46 44 14 14 26 18 74 0 27 54 37 0

(37) 女性 なし 105 27 72 6 13 85 1 6 2 4 92 7 14 24 61 6

(38) 女性 8 103 28 60 15 28 47 13 15 4 5 82 12 15 61 15 12

(39) 女性 12 95 32 44 19 23 46 6 20 0 4 71 20 3 18 54 20

(40) 女性 9 89 28 58 3 24 60 2 3 5 20 64 0 9 68 9 3

(41) 女性 なし 72 14 48 10 19 34 3 16 1 2 54 15 3 17 38 14

(42) 女性 なし 68 19 42 7 12 44 5 7 4 3 59 2 10 11 45 2

(43) 女性 7 61 13 48 0 13 37 11 0 3 8 50 0 31 27 3 0

(44) 女性 なし 60 13 43 4 9 44 3 4 4 3 47 6 20 29 5 6

(45) 女性 なし 51 0 35 16 0 36 0 15 0 0 36 15 7 23 5 16

(46) 女性 5 41 11 27 3 14 25 1 1 3 3 35 0 6 10 24 1

ID 性別 5.一緒だった場所 6.連絡先の種類

大学 高校 中学 小学 部活・サークル バイト ケータイのみ アドレスのみ 固定電話

(23) 男性 77 62 29 23 65 43 49 4 8

(24) 男性 75 71 23 19 15 24 90 2 3

(25) 男性 94 79 20 12 38 1 5 14 0

(26) 男性 95 8 2 0 38 12 5 22 4

(27) 男性 54 32 22 18 0 9 13 4 1

(28) 男性 24 6 4 0 0 3 8 0 2

(29) 男性 24 2 0 0 0 5 10 0 3

(30) 男性 26 2 4 4 20 0 6 5 0

(31) 女性 170 70 18 18 48 23 21 9 44

(32) 女性 138 51 19 37 69 1 17 12 16

(33) 女性 79 36 20 5 55 28 2 18 0

(34) 女性 50 39 8 1 10 17 4 4 3

(35) 女性 22 13 9 4 0 16 0 2 28

(36) 女性 61 24 3 5 35 9 13 12 12

(37) 女性 44 42 26 17 0 0 0 3 5

(38) 女性 67 9 10 7 25 7 12 4 3

(39) 女性 52 11 1 1 17 7 3 10 0

(40) 女性 34 27 19 9 0 20 3 5 4

(41) 女性 20 20 2 2 0 16 2 1 0

(42) 女性 40 14 5 5 0 4 9 7 7

(43) 女性 48 14 3 1 16 8 7 18 0

(44) 女性 32 14 11 1 0 10 5 2 9

(45) 女性 13 22 3 3 0 0 0 0 0

(46) 女性 23 6 0 0 0 6 5 1 4

全員,松山市内の文科系中堅私立大学生.同大学で筆者の担当したゼミナールで調査協力者を募り,応募があったも の全員を選定.サークル・部活加入は,(23)(24)(25)(26)(30)(以上男性)(31)(32)(33)(34)(36)(38)(39)

(43)(同女性).恋人がいたのは,(23)(24)(25)(26)(30)(以上男性)(31)(32)(33)(34)(35)(42)(同女性)

 この点は,携帯電話の影響に加えて,加齢により所属集団が増えるといった影響が考えられ るが,まさにこうした点こそ,メモリー(アドレス帳)機能の内容分析に,ライフ・ヒストリー

参照

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