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ソ連 国有企業の株式会社への転換

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(1)

ソ連 国有企業の株式会社への転換

小 田 福 男

目 次 1.は じめに

2. 法律的規定 の検討

3.事例研究 :ソ連 自動車工場の事例分析

4. おわ りに

1 .はじめに

現在,ソ連では従来の国家的所有車心の社会主義企業体制の所有制転換の試 みが始まっている。所有の脱国家化の主な方法 としては,賃貸制,労働集団買 い取 り制,株式会社化がある。 ここで取 り上げるのは,株式会社化である。 こ のような株式会社化の一般的メリッ トを溝端佐登史氏は次のようにまとめてい る。 *1

( 1 ) 一時的に自由な遊休資金の調達‑生産向上,イ ンフレ防止

( 2 ) 物的資源の追加的調達 ;物的出資,既存企業による資材調達会社の設立 ( 3) 産業構造の転換 ;高効率‑高配当の株式会社への資金 シフ ト

( 4 ) 企業の自主性強化‑国家支配か らの離脱

( 5) 労働者‑の刺敦 ;主人公意識の形成,企業への労働者の実質的統合

* 1 溝端佐登史 「ソ連における株式会社 と民営化 ( 上 )」 『 経済 』1 9 90 年 1 0 月号 , 1 28

‑1 29 ページ。

〔 2 3 3 〕

(2)

234 商 学 討 究 第 42 巻 第 2・3 号

( 6 ) 所有の多様化 ;集団的所有に適合的な,よ く整備 された企業形態 ( 7) 経済の対外開放化に対応す る企業形態,合弁企業 に適合的な企業形態

さて,本稿の研究対象は,大規模国有企業の株式会社形態への転換である。

その際,次の二つの点 に注 目したい。

第一 は,連邦 と共和国 との対立の問題である。連邦 とロシア共和国との 「 法 律戦争」や連邦の官僚層を中心 としたいわゆる保守勢力 とロシア共和国のエ リ

ツィンを中心 としたいわゆる改革派勢力 との政治闘争 は企業 レベルにも当然波 及 して くることになる。

第二 に,株式会社形成にともなって,株主主権原理,労働者 自主管理原理, 経営者支配原理の三原理の交錯 ・絡み合いの問題である。 この問題 は,上述の メ リッ トの内 ,( 4) 企業の自主性強化 ‑国家支配か らの離脱 ,( 6) 所有の多様化, に関連す る。株式会社制度の もとでは,株主が会社の本来の構成員 ‑ 「 社員」

であ り,その出資の持 ち分 に応 じて株主権 (自益権 と共益権)を保有す る。従 っ

て,株主主権原理は,株式会社においては自明の原理である それは,私有財

産制度の もとでの 「 所有に基づ く支配」の原理である。ソ連国有企業の株式会

社‑の転換の場合, 転換以前 には株主 はいないのであって, 転換 にともな って,

誰が株主 にな り,株主権を行使す るかが問題 になる。他方,労働者 自主管理の

原理 は,広い意味においては本来,社会主義の理念の中に含まれているもので

ある.狭義には,ユ‑ゴスラビアで本格的にその原理の実現が試み られた. こ

の原理 は本来, 「 労働に基づ く支配」の原理であるが,株式会社の もとでは労

働集団持株制度の形をとることもある。最後 に,経営者支配原理 は,株式会社

の発展 にともな う 「 所有 と支配の分離」の歴史的傾向を背景 にもっている。 こ

の原理の核心 にあるのは,企業間競争 の もとでの,高度 な経営能力 ・知識 を

もった専門経営者による効率的 ・合理的経営の必要性である。その意味で これ

は, 「 経営 に基づ く支配」の原理 といえ る。なお,国有企業の株式会社への転

換による所有 ・経営の脱国家化 とい う方向性 に対 しては, これ ら 3 原理 は一応

肯定的に作用す ると理解 してよい。

(3)

ソ連 国有企業 の株式会社へ の転換 2 35

2. 法律的規定の検討 2. 1 . ソ連邦所有法 ( 9 0 年 3 月採択, 7 月 1 日施行)

株式会社 に関す る部分の要点を取 り出 してみよう

第 4 条 において,基本的所有形態 としてソビエ ト市民の所有,集団的所有, 国家的所有が規定 されている。

第 1 0 条において,集団的所有の一形態 としての株式会社所有が明記 され,そ の所有形態の主要な形成経路 として,国有企業の株式会社への改造,市民 ・法 人の財産結合 による株式会社設立が示 されている。

第1 5 条 において,株式会社所有が次のように規定 されている。

第 1 項 :株式会社その ものがその財産の直接的所有者である。

第 2 項 :株式を保有できるのは,企業 ・機関および当該会社の従業点,そ の他の市民である。

第 3 項 :国有企業は,労働集団 とその全権国家機関 ( 上位機関) との共同 決定 によ って,企業 の資産総額分の株式 を売却す ることによ っ て,株式会社 に改組 しうる。株式売却 によって得た資金 は,国有 企業の債務返済後,当該の国家予算 に組み込まれ る。 この項の規 定 は,国有企業の株式会社への改組の基本原則になっている。

2. 2. ソ連邦企業法 ( 9 0 年 6 月採択 ,9 1 年 1 月施行)

第 1 条の第 2 項 において,企業の主たる課題 は,社会の需要の充足による労 働集団成点 と資産所有者の利害の実現にある, と規定 している。

第 2 条において,企業の基本的種類が次のように明記 されている。 ソビエ ト 市民所有,集団的所有,国家的所有。

第1 4 条において,企業一般の管理の原則が規定 されている。

第 1 項 :労働集団自主管理原理 と所有者原理に基づ く企業管理 第 2項 :企業指導者の任命 は所有者の権限である。

第 3 項 :企業活動の意志決定 は,労働集団の参加の もとで企業管理機関が

行 う。

(4)

236 商 学 討 究 第 42巻 第 2・3 号

第 1 6 条において,労働集団総会 ( 協議会)の権限 として,企業資産買い取 り に関す る決定,企業評議会への代表選 出等が明記 されている。

第 1 8 条 において,企業評議会 ( 理事会)が規定 され,それは労働集団側 と所 有者側が同一人数の代表を選出す る事 によって構成 される。 ( 所有 と労働の共 同決定体制)

第 4 項 :企業評議会の権限事項 ;企業の全般的発展方向の決定,純利益の 配分,子会社設立,等

第1 9 条 において,企業管理者が一般的に規定 され,企業管理者 はその権限の 範囲内で 自主的に決定 し,それを実行す ることが明記 されている。

第 2 0 条 においては,作業班長の作業班 による選 出,その他の管理者 は企業の 管理者によって任命 され る, と規定 している。

2. 3. 株式会社 ・有限会社規則 ( 90 年 6 月 ソ連閣僚会議承認)

第 9 条の規定 :国有企業の株式会社への改組の場合 は,会社登記の際に労働 集団 と全権国家機関の共同決定の写 しが必要である0

第 4 6 条の規定 :国有企業 は,労働集団 と全権国家機関 との共同決定で,企業 の資産総額分の株式を発行す ることによって,株式会社に改 組す ることがで きる。株式の売却 による資金 は当該企業の債 務を返済 した後,国家予算に組み込 まれ る。全権国家機関が 売れ残 った株式を保有する。

第49 条 においては,株式会社の管理機関が次のように規定 されている。

*株主総会 ‑株式会社の最高機関。会社事業の基本方向の決定,定款変更, 株式会社評議会 ( 監督評議会) ,執行機関,監査委員会の構成員の任免等 の権限を持つ

*株式会社評議会 ( 監督評議会)‑執行機関の監督機関。労働集団,労働組 合,その他の社会団体の代表がそれに加わることがで きる。取締役会 との 併任禁止。

*執行機関‑取締役会,代表取締役。

*監査委員会 ‑取締役の職務執行に対す る監督機関。株主 と労働集団の代表

(5)

ソ連国有企業 の株式会社への転換 237 者か ら構成 され る。

2. 4. 株式会社模範定款 (ソ連閣僚会議付属経済改革国家委員会 ・ソ連法務 省 ・ソ連財務省の共同作成)

上述の規則 に則 って作成 されている。 ( 訳出 して本稿の付録に添付 したので 参照のこと)

2. 5. ロシア共和国企業法 ( 90 年 1 2 月採択 ,91 年 1 月施行)

これまでの法律等 は,全連邦 レベルの ものであった。本節 と次節では, ロシ ア共和国の議会 によって承認 された法律ない し承認 され る予定の法案をみてい こう

まず, この ロシア共和国企業法 は,前述の ソ連邦企業法 と同 じく 1 9 91 年 1月施行であるが,その際ロシア共和国最高会議 は, ロシア共和国内でのソ 連邦企業法の効力排除規定を採択 している。

第 4 条 においては,企業活動の目的が次のように規定 されている。社会的需 要充足 と利潤獲得。

第二部では企業の組織 一法律的諸形態 として,国有企業, 自治体企業,個人 的私企業,合名会社,合資会社,有限会社 ( 閉鎖株式会社),公開株式会社, 企業連合等が規定 されている。その内,

第 1 2 条では,公開株式会社が規定 されている。

第 1項 :株主の有限責任制

第 2項 :公募方式での株式販売等による株式会社の資産形成,法定条件で の株式 自由販売

第 3 項 :国有企業, 自治体企業,国家ない し地方 ソビエ トの出資がその資 産の 5 0% を越える企業 ( 以下国有企業等 と表示す る)の株式会社

‑の転換 は, 「 私有化 に関す るロシア共和国の法律」 ( 1 9 91 年 7 月採択)に則 って,労働集団の意見を考慮 して,所有者ない し 権限ある機関によって行われ る。 (この規定のみをみると,共同 決定原理が連邦 レベルの規定 よりも後退 しているような印象を受

けるが,詳 しくはこの私有化法をみる必要がある。)

第 4 項 :法人性,定款,固有名称

(6)

2 38 商 学 討 究 第 42 巻 第 2・3 号

第 1 3 条 においては,国有企業等が企業連合 に参加す る場合,労働集団 との合 意に基づいて行われることが規定 されている。

第五部 :企業の管理

第30 条では,財産所有者が企業管理権を有す る, と明記 され,所有者原理が 強調 されている。

第 31 条では,企業管理者が規定 され,管理者任命 は所有者の権利である。た だ し,国有企業等では企業設立者が労働集団 と共同でそれを実行す る, と記述

されている。 ( 所有 と労働の共同決定原理)

第32 条では,企業の労働集団が規定 されている。

第 2 項 :労働集団が,企業における政党,宗教組織,社会組織の活動の形 態や条件を決定す る。つまり,政治や宗教等 は労働集団の自治の 範囲内の問題であるとしている。

第 3 項 :国有企業等の労働集団の共同決定事項 :定款の変更,管理者の雇用 条件。労勘集団は, 賃貸借,買い取 りの方法で新会社を創出しうる。

以上 によって明確 になったように, ロシア共和国企業法の最大の特色 は,国 有企業等における所有 ・労働共同決定体制 と民間企業 における所有者原理の強 調 にある。

2. 6. ロシア共和国株式会社法草案 ( 9 0 年 8 月 「シャタ リン案」付属文書) 第 7 部第 21 条 :株主総会 ;会社の最高管理機関

第 22 条 :取締役会 ;総会 と総会の間の期間における最高管理機関,投票権を 有す る労働集団代表の取締役会‑の参加。

第23 条 :業務執行取締役 ;株主総会が 2人以上指名する。更にその うちの一 人を代表業務執行取締役 ( プ レジデ ン ト)に指名す る。業務執行取 締役 と主要下部単位管理者が中央執行機関 としての経営幹部会を組 織す る。株主総会,取締役会の閉会中は,経営幹部会が会社の全活 動を指導す る。代表業務執行取締役が この会議を主宰す る0

第 2 4 条 :監査委員会 ;株主総会が,株主の中か らこの委員会のメンバーを選

出す る。取締役 との兼任禁止。

(7)

ソ連 国 有 企 業 の株 式 会 社 へ の. 転換

表 1 企業法制の比較

2 39

連邦企業法 連邦株式会社規則

企 業 管 理 の 原 理 自主管理原理 と所有者原理 株主総会 企業管理者 の任免 所有者の権限

企 業 管 理 機 関 国 有 企 業 の 株 式 企業評議会 ‑同数代表 労働集団総会 ( 協議会) 株式会社評議会 ( 取締役会 代表取締役 監査委員会 ‑株主 と労働集団 労働集団 と全権機関 との共 同 の代表か らな る ‑労働集団等の参加 監督評議会)

ロシア共和国企業法 ロシア共和国株式会社法草案

企 業 管 理 の 原 理 企業管理者 の任免 企 業 管 理 機 関

国 有 企 業 の 株 式 所有者原理,ただ し国有企業 等 は共同決定原理 所有者の権限,ただ し国有企 業等 は共同決定 ( 個別の企業形態の特殊性 は 取締役会 ‑労働集団代表の参 株主総会 ロシア共和国の関係法令 によ 加

り規制 され る)

労働集団の意見を考慮 しつつ, 監査委員会 ‑株主総会で株主 営幹部会 か ら選 出 ( ( 代表)業務執行取締役 ‑経 国有企業の株式会社への改

(8)

240 商 学 討 究 第42巻 第2・3 号

2.7. まとめ

連邦の企業法制 とロシア共和国の企業法制を比較す ると,連邦の企業法制に おいては, 自主管理原理 と所有者主権原理の共存が明記 されている

そ して, それは,企業評議会 における両者の同数代表制,労働集団総会 ( 評議会)の公 認,株式会社評議会 ( 監督評議会)への労働集団 ・労働組合 ・その他の社会団 体の代表者の参加,監査委員会が株主 と労働集団の代表か ら構成 されること, 労働集団 と全権管理機関の共同決定による国有企業の株式会社‑の転換 に具体 化 されている。 ( 表 1 を参照)

それに対 して,ロシア共和国の企業法制においては,所有者主権原理が前面 に出ている。ただ し,取締役会に労働集団の代表が参加す ることが明記 されて いる。他方,国有企業や自治体企業,出資の過半数が公的資金である企業の場 合 は,設置者 と労働集団 との共同決定原理が前面に出ている

これは,民間企 業 と公的企業 とを区別 し,民間企業 は所有者原理に基づいて管理 し,企業の活 性化をめざ し,公的企業は公的官僚層の企業支配を労働集団が さび しく監視 し

うるようにす ることを狙 っているもの と思われ る ( 国有企業の経営の脱国家化 の確保) 。また,経営体制の整備 ・強化の狙いが うかがわれ る。業務執行取締 役のポス トを明記 し,彼 らと主要下位単位の管理者 とで経営幹部会を構成す る ことが明記 されている。全般的にみて, こち らの法制の方が西側諸国の株式会 社法制により近づいている

3. 事例研究 :ソ連 自動車工場の事例分析 3. 1 . カマズの事例 *2

1 )カマズの概要

カマズは, ソ連最大の大型 トラック工場で,傘下 に 1 6 工場を抱え,約 1 6 万人 が働いている (トヨタ自動車の約 2 倍の人数) 0

* 2 文献 < 3 >, < 4 >, < 5 >, < 7 >を参考にした。

(9)

ソ連国有企業 の株式会社への転換 2 4 1 1 969 年 に設立が決 ま り, 1 97 6 年か ら本格的生産を開始す る。 8トンか ら 11 トンの トラ ックを製造 してお り, これまでに合計で1 25 万台を出荷 した。その 他, 軽乗用車,ジーゼルエ ンジン, 工作機械, 自動化 ライ ン等 も生産 している。

現在,年間約 5 億ルーブルの利潤をあげている。カマズの今 日の技術水準を西 側先進諸国のそれ と比較す ると,それ らの国の7 0 年代初期の レベルにある。つ まり約20 年遅れている *3。 しか も世界的 レベルか らますます後退 しっっある。

2) 株式会社‑の転換の経過 と目的 ;転換 は基本的には前述の株式会社規則 に 準拠 している。

1990 年 6 月30 日に,連邦閣僚会議が国有生産合 同カマズの株式会社‑の改 組を決定 した。それ以前 に労働集団評議会拡大会議での審議 ・転換の発議が あった。同年 8 月,労働集団が移行を批准 した。 この場合,株式会社規則 には ない,閣僚会議決定が行われたが, この点 について, S. ゼ ンキ ンは次のように 評価 している。 「明 らかに,カマズ と自動車農機省 は政府の協力な しには合意 に達す ることに成功 しなか ったであろ う 。」*4 これは,カマズ側 と省側 との問 に大 きな意見の食 い違いがあったことを示唆するものである。 これ以前に,企 業管理部 はカマズを賃貸制に移すように省 に提案 した際,省 によって拒否 され たこともあった。*5

カマズの経済 ・計画化担当理事長代理,L. N. コムによれば,転換の 目的は, 次の ことにある。( 1 ) 戦略的発展計画の実現に必要な資金の調達 一今後 1 0 年間に 6 0 億か ら 1 00 億ルーブル必要 。( 2 ) 市場経済体制‑の柔軟な対応能力の形成。辛6

3) 株式の発行

1 株 1 00 ルーブルで5, 000 万株,総額50 億ルーブル発行 され るが ( 総数 の90

%が普通株,1 0%が優先株) ,当初全株式を国家が所有 し,その後売却す る。

その際,過半数株式 ( 51%)が省の手元に残 され る。

* 3 文献 < 7 >, C.45 .

* 4 文献 <4> , C. 7.

* 5 しか し,結局カマズは賃貸制に移行 した。文献 < 7 >, C.45 .

* 6 文献 <3> , C. 4.

(10)

242 42 巻 第 2・3 号

従業員への記名株の優先的販売が行われている。その際,一人で 1万ルーブ ル以上株券を購入す る場合 は,所得申告書を提出す る必要がある。 しか し従業 員の株式購入能力 は余 り高い ものではない。約 8 0 % の従業員 は給料の前借 り制 度を利用 している。か りに平均一人あた り千ルーブルだけ購入 したとして も, 1 億 6 千万ルーブルに しかな らず ( 従業員総数 1 6 万人) , 株式発行総額50 億ルー ブルの 3 . 2% である。その他,勤続年数 と労働貢献度 に応 じて,四半期 ない し 半年の賃金額 に相 当す る株が ボーナス として無償で交付 され る。*7平均月賃 金 は, 3 6 0 ルーブルであるか ら,最大で 2 千ルーブル余 りの株が交付 されるこ

とになり,その場合年率 1 0 % の配当率で計算すると,それによる毎年の追加所 得 は 2 0 0 ルーブルになる。

そのほか,関連企業‑の販売, 一般市民への記名株の販売が予定 されている。

( 記名株の転売 は株主総会の許可が必要)ただ し,一般市民への販売 はさしあ た り少な くとも数カ月は停止 され る。その理 由は,株券の印刷が間に合わない の と取引所が整備 されていないことである。外国向けに株式の 1 0 % が販売 され る予定である。

雑誌 『 経済 と生活』の 3 6 号 ( 1 9 9 0 年 9 月号) にソ連 内外 の法人 向けの株式 購入勧誘の広告が出た ( 購入予約 申込締切 日は 1 9 91 年 3 月 1 日 )。*8 「あなた は 『カマズ』の株主 になることができる ! 」 というフレーズを見出 しとしてい る。その広告 において,優先株には議決権が与え られていないが,年率 6%の 配当が保証 されている。また一般 に, 株主 には優先的製品購入権を与えている。

すなわち ,1 5 万ルーブルの株式所有者 は,年に 1 台のカマズ製 トラ ックを購入 す る権利を得 る

昨年 ( 1 9 9 0 年)末 頃までの購入 申込状況を見てみよ う。合計で約 2 5 億ルー ブルの申込が きている。大 口申込法人 としては次の ものがある。 *9

* 7 この種の,従業員向け無償交付株式にはより高い配当率が付与されている。文献

< 7 > C.49 .

* 8 文献<6> を参照のこと。

* 9 文献< 5 >, C.1 3 .

(11)

ソ連 国有企業 の株式会社‑の転換 243 自動車輸送省 : 3 億ルーブル

木材 ・紙工業省 :1 .5 億ルーブル

レニ ングラー ド市執行委員会 : 1 .5 億ルーブル 一連の連邦共和国 ;合計 1 0 億ル‑ブル

その他の申込者 :農工 コンプ レックスの諸企業,製鉄企業など

なお, トラック製造関連企業には優先的に株式が売却 され る予定である こ れ らの申込状況をみると,優先的製品購入権の付与が大 きく作用 していると推 定 され る。 とい うのは,その際の価格 は国定価格 1 4,7 00 ルーブルであ り,罪 常 に割安の価格が適用 され るのである。ちなみに,コ‑ベラチーフや個人 には 68,000 ルーブルで販売す ることが許 されている。

株式売却金 は,まず企業債務 6 億ルーブルの返済に充て られ,次に,賃貸企 業の株式会社への再編成のために自動車農機省 によって 1 990 年 に設置 された 集中化 フォン ド資金の不足が補填 され,その後 は国庫 にはいる ( 企業 自身 はも

ちろんの こと,労働集団の口座 に も入 らない) 。省 は,前述の51%の国家所有 株 と売れ残 った株の管理者 となる。従 って省 としては,株式売却量を最小化す る志向を持つか も知れない。省の保有す る株 に対す る配当は企業内に残 され, 企業の発展のために使 うことがで きる。

いずれに して もこの株式売却 は,企業にとって債務返済以外の追加的資金の 獲得 に直接 には役立たない。そ こで,株式発行 による追加 的資金獲得 ( 40‑

8 0 億 ルーブル)のために, カマズは特別 な株式っまり 「 発展株」 を発行 しう る ( いわば増資 ) 。S. ゼ ンキ ンが推奨 している販売方法 は,通常の 「 定款 フォ ン ド株」 と 「 発展株」 との同時販売 ( 抱 き合わせ販売)の方法である。 もちろ ん これは,省や政府機関 との調整が必要である。 ヰlo

4) 管理機構

株式総会 においては,閣僚会議決定及び設立総会の決定によって,国家所有

* 1 0 もちろん株式会社化の間接的効果か ら追加的資金が生 じることは色 々考え られ

る。例えば,株式会社化に伴 う企業組織の合理化 ・効率化,単一固定税制の通用,

減価償却控除金の全額 自主使用。

(12)

244 商 学 討 究 第 42巻 第 2・3 号

株式の投票権の半分すなわち総投票数の 2 5 .5 % は労働集団が行使す る。他方, 取締役会 に対 しては,定款 によって,労働集団は 3 分の 1 の発言権を与え られ ている。残 りの 3 分の 1 は管理部に,最後の 3 分の 1 が一般の株主 に与え られ ている。* 11 その際,経営幹部の一人 は取締役会 における管理部の発言権の意 義を次のようにとらえている。それは,利害調整機能である。つまり,国有企 業か ら株式会社に移行す ることによって,新たに株主の利害が生 じる。それは 例えば,配当の増大要求に現れる。他方,非株主従業員 は労働 ・生活条件改善 の要求がある。 このような利害対立状況に対 して管理部 は, 「中立的」立場か ら利害の均衡を達成す る, とい うことである 。*1 2 ここには,明 らかに米国の バー リ ・ミ‑ンズ以来の経営者支配論的発想がみ られる。

5 )企業内共産党組織の動揺

周知のよ うに,共産党 は憲法において明記 されていた 「 共産党の指導的役割 の原理」の削除に同意 した ( 90 年 2 月) 。カマズにおいて も株式会社への移行 後,取締役会 は,党委員会の側か らの人事への介入を拒否す ることに した。す なわち,非公式人事管理制度 としての党 ノーメンクラツーラ制度の廃止の方向 を明確 に した。また,従来,共産党書記 は自動的に労働集団評議会のメ ンバー になっていたが,現在進行中の多党化の もとではそうはな らないであろう

カ マズにおいて民主同盟, 民主 ロシア,タタール青年同盟,タタ‑ル社会セ ンター といった政治組織が活発に活動 している。特に,タタール社会セ ンターは,タ タール民族主義を全面 に出 している 。 ( 「タタールをタタール人の手に !ロシ ア人 は出て行け ! 」 のスローガ ン )*13 カマズは, ロシア連邦共和国の中のタ タール (自治)共和国に位置 している。

このような雰囲気の中で,共産党の職場組織の動揺がみ られ る。 ここ 1 年半 の間に党か らの脱退者が,そ こでの党員の約 3分の 1,約 4千人にも上 ってい る。更に,残 っている党員の約 3 分の 1は党か ら脱退すべ きかどうかで悩んで

*1 1 文献 < 7 >, C.48 .

* 1 2 文献 < 7 >, C.50 .

* 1 3 文献 <5 >, C.1 5 .

(13)

ソ連 国有 企業 の株式会社 へ の転 換 2 45 いる状態である。それで,かな りの職場組織ではその維持が困難 にな り,職場 党組織の統合 ・再編成が必要になっている。それ と同時に, 専従 の党員 ( 書記) の削減が必要 になっている。

6) 問題点

*財産評価の問題 ;株式会社規則では,省,労働集団,財政当局の代表者か らなる委員会が時価で財産評価を行い,それに基づいて株式を発行す るこ とになっている。 しか しカマズではこのような個別的資産再評価 は実施 さ れなか った。 ( その理由は資産が膨大な額になるのでその作業 コス トが掛 か りす ぎることといわれている)西側のある監査会社の推定では,時価 は 50 億ではな くて約 1 20 億ルーブル と評価 されている 。 *14

*意志決定の脱国家化 ;カマズの経営幹部である L N. コムによれば,予定 どうり株式売却が進 めば省の持っ投票権 は25.5%にす ぎず,その他 は労 働集団や関連企業,その他の株主が持っため,省庁支配か ら解放 され る。

しか し,現実はもっと悲観的であろう 。 確かに形式的には,上級国家機関 はこの転換 によって他の株主 と同列の 「同権的パー トナー」になる。その 際,問題 は大 きくふたっに分かれ る。一つは,予定 された株式 ( 全体の49

%)が 自動車農機省以外の個人 ・法人 に全部売れるかどうかである。株式 会社規則の問題点の一つは,一般販売株式分 ( 49%)の内の売れ残 り分ゐ 管理権が もっぱ ら省 に委ね られ,労働集団はそれか ら排除されていること である。 もう一つ は,仮 に全部売れた と して も,省 は 25.5% の投票権 を 有す る大株主であ り,企業 は大株主 としての省か ら支配的影響力を受 ける 可能性があるということである。* 15

*前述のように,カマズは株式売却の際,関連企業に優先的に売却す ること に している。それは金属,鉄板等の原料及び購入部品の供給業者を株主 と

*1 4 文献 < 5 >, C.1 3 .

* 1 5 国有財産 を私有化す る際,国有資産管理機関 (「 国有資産基金」)が最近設立 さ れた。 これが実際に機能 し始 めることになれば,省の位置 ・機能 に大 きな変化が生

じるであろ う。 ( 『ニ ューズ ウィー ク 』1 9 9 1 .8. 1 ,4 5 ペ ー ジ)

(14)

246 第42巻 2・3

して迎え入れ ることによって,自動車製造 に関す る生産的関連を強化,整 備 しようとす るものである。 このような, 自動車最終組立工場を中心 とし てその関連諸企業を自動車製造企業 グループとして統合す る試みは,興味 深いものである。それは, 日本や中国において既 に見 られるような自動車 製造企業集団をソ連において確立す る端緒 になる。 *16

*従来の大衆的心理すなわち高賃金,金持ちに対す るねたみや不信感等の否 定的態度の克服の必要性の問題。更に,将来 においてカマズの従業員のか な りの部分が 自社の株主になることによって,所有者的心理が普及す るこ とが期待 されている。 例えば , 「 雨にさ らされて錆 びた輸入機械をみて黙 っ ていないで,株主総会 においてそれによって失 って しまった経済的損失 に ついて企業長 に回答を要求す る」 *17 よ うな従業員 ‑株主が期待 されてい る。そ してカマズの共産党組織はそれを, 「 生産手段 と労働結果か らの労 働者の疎外の克服」 とみな している 。*18

3. 2. ボルガ自動車工場 ( バズ)の事例 *19

1 )バズの概要

バズは, ソ連最大の乗用車生産企業であり,イタ リアのフィア ッ ト社の技術 協力を受 けてボルガ河畔 トリア ッチ市 に建設 された 。1 970 年操業開始 され, 従業員 は 1 2 万人 ( 1 9 8 8 年現在) ,年産 7 2 万台 ( 1 9 8 5 年)である。

2)1 9 90‑1 991 年初めの労使対立状況

労働集団側の目標 は,バズを労働集団の所有 に移す ことである。そ して,労 働集団所有に基づいて,管理者 と雇用契約を締結 し,管理者を労働集団評議会 のコン トロール下 にお くことを目標に している。同時に,企業の非政治化‑共 産党支配の解消,労働者の生活 レベルの大幅向上 も活動 目標に している。

1 9 90 年冬に,労働集団評議会 は,工場を集団的所有 に移す ことを宣言 した。

*1 6 日本の自動車企業集団については文献 < 2 >,中国の自動車企業集団については 文献 <1 6> を参照のこと。

*1 7 文献 < 5 >, C.1 7 .

*1 8 文献< 5 >, C.1 7‑1 8 .

*1 9 文献 <8> を参照 した。

(15)

ソ連 国有企業の株式会社へ の転換 247 工場管理部はこれを拒否 した。参考までに, これに関係すると思われる法律的 規定を見てお くと,前述のように,ソ連企業法の 1 6 条では,企業の労働集団総 会 ( 評議会)が企業資産の買い取 りに関する問題を決定する, と規定 されてい る。また,ロシア共和国企業法で も第 1 2 条 3 項で,国有企業等の株式会社‑o L ) 転換 は労働集団の意見を考慮 しつつ所有者ない し全権機関が行 うこと ,3 2 条 3 項では,国有企業等の労働集団は買い取 りの方法で新会社を創出 しうることが 規定 されている 。*20

このようなさび しい対立状況の中で,労働集団側は企業管理部に対す る次の ような批判 ・告発活動を展開 している。

( 1) 米国の大企業 「ジェネラル・ モータース」 との,排ガス規制の世界的水準を クリアするための電子雰霧装置の生産のための設備 ・補充部品の納入契約。批 判の要点は,それを輸入ではな くて自主開発すべきであるということである。

( 2 ) 管理部はバズを中心に 「コンツェル ン 」を形成 しようとしているが労働集 団には具体的な内容を知 らせていない。

( 3) 管理部 は,バズを株式会社に して,外国に売 り渡そうとしている。労働集 団が株式の過半数を持たずに外国企業家に支配 されることは許容できない。

( 4) 一部の経営幹部による不明朗な自動車の販売。

( 5) 家具やコデージを製造 ・建設するための合弁企業 「ラーダ ・エルコン株式 会社」が設立 され,それの工場建設資金をねん出するために乗用車 5 千台を 小売 り価格の半値で この会社に売 り渡 した。 しか し,工場建設は遅々として 進まず,それよりも外国か ら商品を輸入 してそれをバズの経営幹部を中心 と

した一部の人たちに販売することに力をいれている。

他方,経営幹部 は次のように反論す る。

( 1 ) 「ジェネラル ・モータース」 との契約は,西側先進諸国の市場に進出す る ための不可欠 な国際協力の一つである. この電子雰霧装置の本格的生産 を 1 9 9 5 年 までには始め る予定である 。

*2 0 労働集団評議会の宣言が, どのような法律 に依拠 しているかは不明である。

(16)

248 商 学 討 究 第 4 2 巻 第 2・3 号

( 2 ) 「コンツェル ン」形成の目的は,取引関係 による諸企業 との間の結び付 き を強化することである。すなわち,バズに製品を納入 している化学,石油化学 等の部門の関連諸企業が参加 し, 参加企業は, 株式を相互 に交換 して持ち合い, 株式に対 して配当を支払い,自由意志で生産 フォン ドの一部を集中 して利用す

ることを予定 している。また参加企業は,結び付 き強化によって,信頼できる 製品販売先を確保 しうる。

( 3) 株式会社‑の転換 は進めるべ きで,更に重要なことは,労働集団を含めて どの株主 にも過半数を占めさせ るべ きではない。また輸入設備の更新を確保 す るためにも外国に株の一部を売却す る必要がある。

注 目すべ きことは,労働集団側が企業管理部を告発す る文書を持 ってロシ ア共和国最高会議議長のエ リツィンの所 に行 ったことである。そ して,まも な くロシア共和国の内務省,検事局,財務省の担当者か らなる調査団がバズ を訪れた。まさに,政治闘争の要素を含みなが ら,企業の支配権をめ ぐる争 いが進行 している。* 21

4. おわ りに

1 )連邦 とロシア共和国の企業法制を比較 してみると,所有の多様化,経営の 脱国家化 といった基本的方向では一致 している。他方,相違点 としては,連邦 の側 は,社会主義の理念である 「 労働者主権」 ( 広義の労働者 自主管理)を企 業 レベルにおいて保持 しているが, ロシア共和国の場合は,比較的大胆に株式 会社制度を導入 し,株主権を重視 している。 ( ただ し,その株主権を行使する 主体の決定 は今後の問題である)

2 )事例のまとめ ;次の ことが確認できる。

( 1 ) ソ連 自動車企業の両事例 において,企業の経営幹部 と労働集団側に意見 ・ 立場の相違ない し対立がみ られる。それは, 自主管理原理の担い手 と経営者

* 2 1 1 9 91 年に入って,バズも株式会社化の方向に動きだしたように見える。 ( 1 9 91

年 2 月 1 8 日のソ連国営テレビの番組 「プレーミャ」の報道)

(17)

ソ連国有企業の株式会社への転換 249 支配原理の担い手 との分離 ・対立である。

( 2 ) 自主管理原理の現れ ;カマズでの従業員への優先的株売却,株主総会での 2 5 . 5% の投票権な らびに取締役会での 3 分の 1 の発言権 ( 投票権)の労働 集団‑の付与。

( 3) 経営者支配原理の現れ ;関連企業 による株式所有推進 の兆候,経営者 に とっての安定株主形成。

3 )所有 ・経営の脱国家化 につ いて 。 従来の,国家的所有 に基づ く国家 ( 省 庁)の圧倒的支配力の部分的後退が生 じつつ ある。そ して,その空間 ( 権力 の空白)をどの集団が 占めるかに関す る争 いが生 じている。その候補者 は,経 営幹部,労働集団,その他の株主である。 もちろん 従来の省庁の官僚集団 も かなりの影響力を依然 として持っであろう

4) 株式所有 ( 株式持ち合い)を利用 した自動車製造関連企業集団の強化の問 題。カマズもバズ もこの方向での発展を内包 していると推測 され る。 日本の自 動車製造企業集団を参考例 として考えて も,それは,原材料 ・資材確保,技術 的情報の交流による技術水準の向上 ・市場志向的製品政策,所有 ・経営の脱国 家化の確保, といったメ リッ トが考え られる。ただ し,企業集団の強化が市場 競争の制限を生 まないように,反独 占 ・集団問競争促進策が必要である。いず れに して も, このような企業集団の強化 は,企業の経営幹部層の力を強化す る ことになる ( 経営者支配原理の強化)。現在, ソ連経済は市場経済導入,経済 再建を課題 に している。それは経営の合理化 ・効率化,市場競争力強化を必要 としてお り,そのためには経営者の高度な経営能力の発揮が必要である。それ は経営者支配原理の比重が増大す ることを意味す る

換言すれば,株式会社 とい う,株主主権を中心 として構成 された制度が導入

され,いわば新 しい 「 入れ物」が作 られた。その 「 入れ物」に何が入 るのかが

今後の問題であるが,基本的方向としては企業の経営幹部層が入 るであろうと

予想 される。そ してその中には,以前の省庁の官僚層を構成 した人々もかな り

流入 して くるであろう。労働集団の自主管理原理 もある程度残 るが,それが支

配的な ものにはな らないと思われる。 ( 1 991 年 8 月1 3 日 脱稿)

(18)

250 4 2 巻 第 2・3 号

主 要 参 考 文 献

1.溝端佐登史 「ソ連における株式会社 と民営化( 上) , ( 下 ) 」 ,『 経済 』1 9 9 0 年 1 0 月, 1 1 月。

2. 坂本和一 ・下谷政弘編著 『 現代 日本の企業 グループ』 ,東洋経済新報社 ,1 9 8 7 年。

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1 2 . 「ソ連邦 における所有 に関す るソ連邦法律」, 『日ソ経済調査資料 』1 9 9 0 / 5

0

1 3 . 「ソ連 における企業 についてのソビエ ト社会主義共和国連邦の法律」 ,『日ソ経済調 査資料 』1 9 9 0 / 8 0

1 4 . 「 珠式会社および有限会社規則」 , 『日ソ経済調査資料 』1 9 9 0 / 9 0

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1 6 . 任文挟 『 現代中国の企業経営』 ,文展堂 ,1 9 91 年。

(19)

ソ連国有企業 の株式会社への転換

く 付録資料)株式会社模範定款

( 名 称)

第 1 条 株式会社 "( 名 前)" ( 以後 は当会社 と表記す る)は,

25 1

( 活動対象) のために設立

された。

第 2 条 当会社の発起人 は次の通 りである。

第 3 条 当会社の所在地 は, ( 地名)

第 4 条 当社 は次の業務を目的 として設立 された。

第 5 条 当会社 は法人であり,独立 した貸借対照表を有 し, 自らの名前で契約 を締結す ること,財産権および人格的な非財産権を取得す ること,義 務を負 うこと,調停,裁判,仲裁裁判において原告および被告 になる

ことができる

当会社 は,社名入 りのスタンプおよび用紙を持つ ことができる。

第 6 条 当会社 は, ( 市,州,地方) の地区,市,市内地区人民代議員 ソ ビェ トの執行委員会での登記の時点か ら法人の権利を取得す る。

第 7 条 当会社 は, ( 公開ない し閉鎖) 会社であ って,当社の株式の保持 者 は, ( 閉鎖会社であれば,全株式保持者の一覧表が示 され る。公開 会社であれば,あ らゆる法人,市民が保持者 に成 り得 る。)

第 8 条 株主 は次の権利を有す る。

1 )当定款によって規定された仕方で, 当会社の諸問題の管理に参加すること。

2) 当会社の活動 によって得 られた利潤の一部 ( 配当)を取得す ること。

3) 当会社の簿記,活動報告書,その他の文書のデータを知 り得 ることを

含めて,当社の活動の完全 な情報を得 ること

(20)

252 商 学 討 究 第 42 巻 第 2・3 号 4) ( その他の権利を規定す ることがで きる。 )

株主 は,当会社によって生産 され る生産物 ( 活動,サー ビス)を優先 的に獲得す る権利を有す る

第 9 条 株主 は次の義務を有す る。

1 )株式に対 して払込をす ること。

2 )当会社の活動 に関す る秘密情報を口外 しない こと。

3) ( その他の義務を規定す ることがで きる。 )

第 1 0 条 当会社 は,所定の手続 きで,ソ連邦内外において, 自己の子企業,支 所,代表部を設立す る権利を有す る。支所および代表部 は,当会社 に

よって承認 された規程に基づいて活動 し,子企業は,自ら承認 した定 款 に基づいて活動す る。外国での子企業,支所ない し代表部の設立 に 関す る決定 は,現行の法制に応 じて,当会社 によって採択 される。

支所,代表部 は,当会社か らの委任 に基づいて活動す る。

第 1 1 条 株主 は,所有する株式の価値の範囲内でのみ損失を負担す る。

株式に対す る払込を完全には履行 していない株主 は, の場 合 には,未払込額の範囲内で も会社の債務 に対す る責任を負担す る。

当会社 は,株主の債務に対 して責任を負わない。

第 1 2 条 当会社 は 1 四半期以内に,自己の活動報告を( 設立会議で決め られた, 印刷ない しその他の方法で)公表す る。* 1

第 1 3 条 当会社 は, 自己の経営活動 において, ソ連邦および共和国の法制,秩 式会社および有限責任会社規則,当定款に則 る。

第 1 4 条 当会社の定款 フォン ドは, ルーブルである。

定款 フォン ドは, 1株 ルーブルの株式̲̲̲ 株に分割され る。

第 1 5 条 株式 は,会社に提供 され る建物,造営物,設備その他の物財,有価証 券 と交換に,土地 ・水 ・その他の自然資源,建物,営造物,設備の利 用権,な らびにその他の財産権 ( 知的所有物を含めて), ソビエ トの

* 1 当条項 は,その株式が公開申込の方法で発行 された公開株式会社の定款 に含 まれ

る。

(21)

ソ連 国有企業 の株式会社 への転換 2 5 3 ルーブルな らびに外国通貨 と交換 に獲得 され得 る。

納付 され る財産の価値 は,当会社 の発起人の間の合意で決 め られ る。

第 1 6 条 財産が株主か ら当会社 に利用のためにのみ引 き渡 され る場合 には,出 資額 したが って株主 の持分 は, ( 定款 において決め られた当会杜 の全 活動期間ない し株主 によって合意 された期間) について計算 された賃 貸料 に基づいて決 め られ る

( 定款 において,株主 によって当会社が使用す るために引 き渡 され る 財産の評価の別 の仕方を規定す ることがで きる。 )

会社が利用す るために引き渡 された財産 の偶然的な消失 ない し破損の リスクは, (この財産 を引 き渡 した株主 ない し当会社)が負担す る。

第 17 条 当会社 に引 き渡 された財産 と引 き換えに,株主 に相応量 の株式 を供与 す る約定書が渡 され る。

第 1 8 条 当会社 の定款 フ ォン ドの額 は,法律 によって規定 された仕方で,株主 総会の決議 によ って変更 され ることがで きる。

3 分 の 1以 内の定款 フ ォ ン ド変更 は,執行機 関 一取締役会 の決議 に よ って実行で きる 。 * 2

定款 フォン ド変更 に関す る取締役会の決議 は,株主 に ( 通告,出版物 による公表ない しその他 の,設立会議 によって決め られた方法 によっ 三上 伝達 され る.

第 1 9 条 当会社 は,記名株 および無記名株 を発行す る。

発起人 は, ( 定款 フォン ドの25% 以上 の額が示 され る)の額の株式を 取得す る 。*3

第 20 条 当会社 は,普通株式 と並んで,総額 ( 定款 フォン ドの1 0%以内)ルー ブルの優先株 を発行す る 。*4

優先株 の所有者 は, ( 優先株の所有者 に与え られ る,配 当受取 におけ

* 2 定款 によって, 定款 フォン ド変更の,これ とは異なった仕方が規定 されて もよい。

* 3 定款 において,一人の株主の持 ち株の量を制限す ることがで きる。

* 4 当条項は, 設立絵会において優先株の発行が決定 された場合 に, 定款に含 まれる。

(22)

2 5 4 商 学 討 究 第4 2 巻 第2・3 号 る優先内容が示 され る。 )

優先株の所有者 は, ( 投票権を持たない,あるいは設立会議 において 採択された, その他の決議が示 される。 )

第21 条 記名株式およ び無記名株式の譲渡 は, ( 株式譲渡に対す る当会社の同 意が必要か どうかが示 され る。 )

第2 2 条 株主は,設 立総会 ( 会議)によって決め られた期限以内に,ただ し遅 くとも会 社登記後 1年以内に,株式の全額を納付 しなければな らな い。

所定の期限内での未納付の場合には, 株主 は,(もし設立総会 ( 会議) での特定の決定がない場合には,支払い遅滞期間に対 して,遅滞金額 の年率 1 0% の額を追加的に支払 う。 )

株式買 い取 りの期限満了の際には,当会社 は, 購入予約 とは無関係 に, 独 自にそれ らを売 り出す権利を持つ 。

第 2 3 条 所定の手続 きによって算定 され,法律 によって規定 された税金納入後 の純利潤は, ( 当会社の定款 フォン ドにおける株主の持 ち株に比例 し て,あるいは株主が合意 したその他の仕方で, )年間活動結果 に応 じ て成員に配分 されねばな らない。

当会社は, 定款フォン ドの ( 1 5 % 以上)の額で準備フォン ドを設立する。

準備フォンドは,規定額に達するまで純利潤か らの控除で形成される。

準備フォンドへの年間控除額は, 当会社の純利潤の (5% 以上)である。

第 2 4 条 株主総会が当会社の最高機関である。

総会の専決事項は次の通 りである。

1 )当会社の基本的活動方針の決定,会社の諸計画およびそれ らの遂行報 告の承認,

2 )定款の変更,

3) 株式会社評議会の構成員の選任 と解任 * 5

* 5 定款において,株式会社評議会の代わりに,監督評議会の設置を規定することが

で きる。

(23)

ソ連国有企業 の株式会社‑の転換 2 5 5 4) 取締役会の構成員の選任 と解任 *6

5) 監査委員会の構成員の選任 と解任,それの報告 と結論の承認,それの 活動方法の決定

6) 支所 も含めた,当会社の年間活動結果の承認,利潤分配方法,損失補 填方法の決定

7) 子企業,支所および代表部の設置 と解散,それ らの定款 と規程の承認 8) 当会社の役員の財産的責任を問 う決定の採択

9) 当会社およびその組織構造の手続 き規則およびその他の文書の承認 1 0 ) 当会社 による自己株式取得 に関す る問題の解決

ll ) 当会社,その支所 と代表部の役員の労働支払い条件の決定 1 2 ) ルーブル以上の額で締結 された契約の承認

1 3 ) 会社の解散に関す る決定の採択,清算委員会の任命,清算貸借対照表 の承認

1 4 ) ( 総会の専決事項 となる,その他の問題を指示 し得 る。 )

総会 は,議決権の60%以上を有す る株主が参加 した ときに,権限ある もの と認め られ る。

第 2 5 条 次の問題事項を株主総会で決定す るためには,総会出席株主の議決権 の 4 分の 3 の多数の賛成が必要である。

1 )定款変更

2) 会社の解散 に関す る決定の採択

3) 子会社,支所および代表部の設置 と解散

残 りのすべての問題 は,出席者の議決権の単純過半数によって決定 し 得 る。

第 2 6 条 直近の総会の召集 に関 して記名株式の保持者 は,個別に通知 され る。

それ以外に,直近の総会 に関 して ( 通知方法が指示 される)一般的な 通知が行われなければな らない。その通知では,総会の開催 日時 と場

* 6 定款 において、取締役会の代わ りに,その他の執行機関の設置を規定することが

で きる。

(24)

256 商 学 討 究 第 4 2 巻 第 2 ・3 号

所,議題が示 され る。上述の通知 は,総会召集 日の 45 日前 までに行わ なければな らない。

第 27 条 いかなる株主 も,総会召集 日の 40 日前までに総会の議題 に対す る提案 を行 う権利を持つ 。 同 じ期間に,合計で議決権の1 0% 以上を有す る株 主 は,ある問題を議事に取 り入れ ることを要求す る権利を持

総会は, 議題に入 っていなかった問題について決定する権限を持たない。

第 2 8 条 総会 における投票 は, 「1 株式 ‑1 議決権」の原則で行われ る。

第 2 9 条 株主 は,委任状 に基づいて,総会での権利の行使を他の株主 ( その代 理人)並びに第三者 に委ね る権利を持つ

代理人 は,恒常的であるか,あるいは一定期間のみ任命 され ることも で きる

株主 は,会社の取締役会 に通知す ることによって,最高機関

における自己の代理人を何時で も交代 させ る権利を持

第30 条 株主総会 は, ( 年 に 1 回以上,ない し設立総会 ( 会議)によって定め られた期間に 1回以上)召集 される。

臨時総会 は,定款 フォン ドの大 きな削減の恐れが生 じた場合,並びに その他の,当会社全体の利害に大 きく関わるような場合 に,取締役会 によって召集 され る。また総会 は, ( 株式会社評議会ない し監査委員 会の要請 によって)取締役会によって召集 されなければな らない。

合計で議決権の20%以上を有す る株主たちは,何時で も,いかなる事 由によって も臨時総会召集を要請する権利を有す る。取締役会が上述 の要求を20 日以内に遂行 しない場合には,彼 らは自ら総会を召集す る 権利を有する

第31 条 取締役会の活動を統制す るために,株式会社評議会が設立 され る。そ れには,労働集団,労働組合組織,当会社のその他の組織の代表者た ちが参加することがで きる。

株主総会の決定 によって,総会の権限内にある個々の機能の遂行を株

* 7 株式会社評議会‑の上述の機能の委任は,定款によって規定することができる。

(25)

ソ連 国有企業 の株式会社への転 換 257 式会社評議会 に委任す ることがで きる。 *7

第 3 2 条 株式会社評議会の構成員は,取締役会の構成員になることは出来ない。

第 3 3 条 当会社 において,当会社の活動を経常的に指導す る執行機関 一取締役 会が設置 され る。

取締役会の活動 は,( 任命された,選出された)代表取締役が指導する。

第34 条 取締役会 は,総会および株式会社評議会の専決事項を除いて,当会社 のすべての問題を処理す る。総会 は,そ こに属す る権限の一部を取締 役会の管轄 に引き渡す決定を行 うことがで きる。

取締役会 は,株主総会および株式会社評議会 に従属 し,それ らの決定 の遂行を組織す る。

第 3 5 条 代表取締役 は,委任状無 しに,当会社を代表 して活動す る権利を有す る

*8

代表取締役 は,取締役会の会議議事録の作成を組織す る。議事録 は, 何時で も株主 に呈示 されねばな らない。株主の要請 によって,議事録 の,証明付 き抄本が提供 されなければな らない。

第36 条 取締役会の財務 一経営活動の統制 は,監査委員会 によって行われ る。

この委員会 は,総会 によって,株主および労働集団代表者か ら 名 選 出され る。

第 37 条 取締役会の財務 一経営活動の検査 は, 総会, 株式会社評議会 の委任で, あるいは監査委員会 自身の意志で,あるいは合計 1 0% 以上の議決権 を 有す る株主 たちの要請で監査委員会 によって行われ る。監査委員会の 構成員 は,当会社の役員に,すべての必要な資料,会計帳簿ない しそ

の他の文書の呈示および直接の説明を求める権利を有す る。

第 3 8 条 監査委員会 は,実行 された検査結果を株主総会 ない し株式会社評議会 に送付す る。

監査委員会 は,年度報告書,貸借対照表 に対す る判定を作成す る。監

* 8 定款 において,取締役会の他の構成員に,委任状 な しに会社を代表 して活動す る

権利を認める可能性を規定す ることができる。

(26)

25 8 4 2巻 2・3号

査委員会の判定な しには,株主総会 は貸借対照表を承認す る権限を有 さない。

監査委員会構成員 は,取締役会の会議 に審議権を もって参加す ること がで きる。監査委員会 は,当会社の重大な利害に脅威が生 じた場合, ない し役員によって犯 された職権乱用が発見 された場合には,株主総 会の臨時召集を要請 しなければな らない。

第39 条 当会社 は,次の ことによって解散する。

1) 株主総会の決議によって

2) ソ連邦および連邦共和国の法律 によって規定 された,その他の根拠に よって

3) ( その他の根拠を指示 し得 る)

第 4 0 条 当会社の解散は,再編 ( 合併,併合,分割,分離,改編)ない し清算 の方法で行われる

第41 条 清算 は,当会社によって任命 された清算委員会によって行われるが, 国家仲裁委員会ない し裁判所の決定 による清算の場合には, これ らの 機関によって任命 された清算委員会によって行われ る。

清算委員会の任命の時点か ら,会社の業務の管理に関す る権限はそれ に引き渡 される。

第 4 2 条 清算委員会 は,当会社の現有財産を評価 し,当会社の債務者,債権者 を明 らかに し, かれ らと清算 し, 第三者および株主 に対す る当会社の債 務の弁済措置を取 り, 清算貸借対照表を作成 し, 株主総会 に呈示す る。

第43 条 清算の際に財産の売却 によって得 られた資金 も含めて,当会社の現有 貨幣は,予算 との決裁,当会社の働 き手 に対す る労働支払 い,債権者 との決裁,当会社によって発行 された社債の保持者に対す る義務の遂 行の後,清算委員会によって, ( 保有株式に比例 して,ない し設立会 議 において採択 されたその他の仕方で)株主 に配分 される。

優先株の保有者は,当会社の清算の際の財産配分の場合に,他の株主

に対 して優先権を もっている。

(27)

ソ連国有企業 の株式会社へ の転換 25 9 当会社における利用のために発起人 によって引き渡 された財産 は,戟 酬無 しに,現物形態で返還 され る。

第44 条 清算 は,国家登記簿‑のそれの登記の時点で,完了 した もの とみなさ れ,会社 は解散 したもの とみなされ る。

第45 条 清算委員会 は,民事法 に従 って,会社,株主な らびに第三者 に与えた 損害に対 して財産的責任を負 う。

(『 経済 と生活 』1 990 年第49 号か ら訳 出)

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