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破産債務者の法的地位 と破産債権催定手続

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(1)

河 野 憲一郎

Ⅰ.序

Ⅱ.破産債権確定手続と破産者の異議

Ⅲ.破産債権の行使と免責手続

Ⅳ.破産者の異議をめぐる手続の構造

V.

結語

Ⅰ.序

破産法 (平成1662日法律 第75号)第1条は,「支払不能又は債務超過 にある債務者の財産等の清算 に関する手続 を定めること等 によ り,債権者その 他 の利害関係人の利害及び債務者 と債権者 との間の権利関係 を適切 に調整 し, もって債務者の財産等の適正かつ公平 な清算 を図ること」 と 「債務者 について 経済生活の再生の機会の確保 を図ること」 とをこの法律の 目的 として掲 げてい る。前者 は,伝統的な破産手続の 目的であ り,破産手続での債権者の権利行使 に向け られている。後者は,主 として比較的最近 になって とり入れ られた 目的 であ り,破産手続終結後の免責手続 による債権者 ・債務者間の新たな関係の規 律 に関係する

こうした破産法の 目的 との関連で注 目すべ きは,破産手続終了後の破産債権 の処理 についての規律 である。すなわち,破産法 は,「確定 した破産債権 につ いては,破産債権者表の記載は,破産者 に対 し,確定判決 と同一の効力 を有」

,破産債権者 は,確定 した破産債権 について,当該破産者 に対 し,破産債

〔107〕

(2)

権者表の記載 によ り強制執行 をすることがで きる」と規定 している (破221条)

このことは破産債権者は破産手続終了後 に,債権者表の記載 を債務名義 として, 債務者 に対す るさらなる権利行使 をす ることが認め られてい ることを意味す る。 もっとも, この ような破産債権者表の記載の効力は,調査手続 において破 産者が異議 を述べた場合 には妥当 しない。 これに関連 して,旧法 (大正114 25日法律第71号) は,破産者の異議 を除去するための制度 として,破産者 を 相手方 とする破産債権確定訴訟 を置いていたが,免責制度 との関係 を顧慮 して, 平成16年の法改正で廃止 された。 これ らの法的規律 をどのように理解すべ きで あろうか。

破産債権確定手続 における債務者の地位 に焦点 を当てて,破産者の異議 をめ ぐる手続の構造 を解 明することが,本稿の 目的である。以下では, まず,破産 債権確定手続全体 との関係 における破産者の異議の位置づけ,わが国の立法の 特色,従来の議論の問題点 を母法国である ドイツの法的規律 と比較 しつつ明 ら か にする (Ⅰ.)。次 に,破産者 を相手方 とする破産債権確定訴訟の廃止が 「 権者の経済的再生の機会の確保」 とい う破産法の三つ 目の 目的を実現す るため の免責制度 と連関 していること,お よび今次の改正で非免責債権の範囲が拡大 されている点に鑑みて,破産債権の行使 と免責制度の関係 につ き検討 を加 える (Ⅲ.)。 これ らを踏 まえた上で,わが国における問題解決のあ り方 を手続構造 に即 して考えて行 く (Ⅳ.)。そ して,最後 に結び としたい (V.)。

Ⅰ.破 産債権確 定手 続 と破 産 者 の異議 1.破産債権確定手続の概観

(1) 配当に向けられた手続 としての破産債権確定手続

破産債権 は,破産手続 によらなければ,行使することがで きない (破100条)

破産債権 を行使するには,常 に届出が必要である (破111条)。届出のなされた 破産債権 については調査がなされ (破116条),破産管財人が,その額 (不存在 を含む),優先 ・劣後の有無,別除権 の予定不足額 について認否 を しなければ

(3)

な らない (117条,1194項,1211項,122条)。 また,届 出を した破産 債権者は,裁判所 に対 して,破産管財人の認否の対象 となる破産債権の届出事 項 について異議 を述べ ることがで きる(破1181項,1195項,1212項, 122条)。債権調査 において破産管財人か ら否認 されず,かつ他の債権者か らも 異議が述べ られなか った債権 については,その存在 ・額,優先劣後の有無など はそのまま確定する (破1241項)。 これに対 して,管財人か ら否認 され,又 は他の債権者か ら異議 を述べ られた届 出債権 については,裁判所の判断を経て, 確定がなされることとなる (破125条以下)0

旧法は,債権調査 において異議が述べ られた場合 には,常 に訴訟手続 によ り 確定 を しなければな らない もの としていた (旧法244条以下)。 しか し,それで は確定に必要以上 に時間を要す ることもあ り,手続の迅速な進行 を阻害するお それがある。そ こで現行法 は,第一次的には狭義の破産裁判所が決定手続で破 産債権 の額等 を判断することとした1)。すなわち,異議等のある破産債権 を有 す る破産債権者は,その額等 を確定す るために,異議者等の全員を相手方 とし て,裁判所 に査定の申立てをす ることがで き (1251項本文), この申立て についてなされた決定に不服がある者 は,その送達 を受 けた 日か ら1月の不変 期 間内に破産債権査定異議の訴 えを提起することがで きる(破1261項)。もっ とも異議等のある破産債権 に関 して破産手続開始当時訴訟が係属す る場合お よ び執行力ある債務名義が異議等の対象 となっている場合 には,査定の申立ては で きない もの とされている (破1251項但書)。破産手続開始当時訴訟が係属 す る場合 には,破産債権者 は異議者等の全員を相手方 として訴訟手続の受継 を 申し立てなければな らず (破1271項), また執行力ある債務名義が存在する 場合 には,異議者等 は破産者のすることがで きる訴訟手続 によってのみ異議 を 主張す ることがで きる (破1291項。 さらに同2項) もの とされている。以 上のような破産債権 の届出 とこれに対する破産管財人の認否ない し他の債権者 の異議, さらには裁判所 における破産債権 の額等の判断を経て破産債権 は確定

1)小川秀樹 『一間‑答 新 しい破産法』(商事法務,2004年)167頁。

(4)

されるが, これ ら一連の手続 は破産債権者 間での配当の基礎 を確定す ることに 向け られている2)。

(2) 破産者の異議

破産法 は,破産者 に も調査手続 において裁判所 に対 して異議 を述べ ることを 認 めてい る (1182項,同1195,同1214項,同1222項)。ただ し, 破 産者の異議 は,他 の債権者の異議 とは異 な り,配当 とは無関係 の ものであ る

そのため異議の対象 は破産債権 の額 に限 られ,優 先 ・劣後の有無や別除権 の予 定不足額 には及ばない もの とされてい る (1182項)。 また,破 産者 の異議 には,破 産債権の確 定 を妨 げる効果 も与 え られてはいない。

破産者 の異議が意味 を持つのは,破 産手続内においてではな く, む しろ破産 手続終結後の関係 においてであ る。破 産債権者表 の記載が破 産者 に対 して確定 判決 と同一の効力 を有 し (2211項前段,2項),破産債権者 は,債権者表 の記載 に もとづ き,破産者 に対 して強制執行 をす ることがで きる ところ (221

1項後段),破 産者が異議 を述べ た場合 には この ことは妥 当 しない もの とさ れている。換言すれば,破産者 の異議 には破産手続終了後の破産債権者表の執 行力 を妨 げる効果が与 え られている (2212項参照)0

旧法の規律 によれば,破産者が異議 を述べた場合 については, さ らに(a)既 に その債権 について破 産宣告前か ら係属 している訴訟で,破産宣告 によって中断 している ものがあれば,破産者 を相手方 として これを受継 して続行 で きること (旧法2402項),(b)破産者が異議者 の一人であ る場合 に, これを共同被告 と す ることが規定 されていた (2442項後段,2482項)。 しか し,平成16

2)ここから拙稿 「破産債権確定手続の基本構造」商学討究602・3合併号 (2009

年)161頁以下は,破産法1243項にいう 「確定判決と同一の効力」 とは,そ もそ も他の債権者 らの争わない意思によるのであるから (既判力)ではなく,配当に向 けられた (確定効)であるとし,また破産債権の確定に関する訴訟における判断の 結果は,たしかに訴訟当事者間では (既判力)をも有するものの,破産手続との関 係でより重要な破産法1311項による判決効の拡張については,むしろ (確定効) の問題とみるべ きであると論 じた。

(5)

年 の改正 によ り, この ような破 産者 を相手方 とす る債権確 定訴訟の制度 は廃止 された。 これは, わが国の現在 の免責制度 の下 で は,破 産者 が個 人であ る場合 には,一般 に免責許可 の決定が な され ることを考慮す る と,破 産債権者 に とっ て債務名義 を取得す るため に訴訟 を追行す る意味 は少 な く, また破 産者 に とっ て も破 産者 を相手方 とす る破 産債権確 定訴訟の続行等 に よって無用 な負担 を生

じさせ る との立法論 的な批判が あ ったの をふ まえた ものであ る3)。

2.破産 者 を相手方 とす る破産債権確定訴訟の廃 止論 (1) 廃 止論 の背景

平成16年改正 に よ り, 旧法2402項 な どが定 めていた破 産者 を相手方 とす る破 産債権確 定訴訟 の制度が廃 止 され ることとな ったが,旧法下 において,有 力 な論者 らほ, この制度 について,免責制 度 との関連で立法論 な疑 問 を提起 し ていた4)。学説 にお け るこ うした傾 向の背景要 因 と して見落 と して ほな らない の は,係属 中の訴訟が ない場合 に,債権者 が新 訴 を提 起す る ことが で きるか ど

うか とい う問題 につ いての わが 国の学説 の態度決定であ る

この間題 について, ドイツの通説 は肯定説 の立場 であ った に対 して, わが国 において は否定説が通説 と して定着す ることとな ったが, この ことに大 き く寄 与 したの は, 中田淳一博士 の主張 であ った。 それ によれ ば,破 産手続 の継続 中 は,破 産債権 に もとづ いて破 産者 (自由財 産) に対 して個別執行 をす るこ とが 禁止 され るのは もちろん,破 産終了後 の執行 を準備す るため に個別訴訟 を提起 す るこ と も,原則 と して許 され ない, とい う5)。許 され ない理 由は, 第一 に,

3)小川編 ・前掲注1)171頁。

4)現行法の立法担当者が立法論的な批判 として意識 していたのは,その表現の類似 性か らして,伊藤異 『破産法』 (有斐閣,全訂第3版補訂版,2001年)400頁を指 し ているのではないか と思われる。なお,比較的早い段階で免責手続 との関係で疑問 を提起 していたのは,後に詳 しく見てゆ くように,中日淳一 『破産法 ・和議法』( 斐閣,1959年)219頁であ り,その後の育山善充 ‑伊藤異‑井上治典 ‑福永有利 『 産法概説‑ 倒産処理法の基礎‑ 』(有斐閣,新版増補2訂版,2001年)128頁 ( 永執筆) もこれに従っているようである0

5)以下の叙述につ き,中田 ・前掲注4)218頁以下 (注三) (特 に,219頁)。なお,

(6)

破 産者 を して一 日も早 く更生‑ の途 を歩 ませ るた め には,破 産者 を破 産 中の個 別 訴訟へ の応 訴 の負担 か ら解 放 す るのが望 ま しい とい うこ と, 第二 に, 強制執 行 で平等 主義 を とる 日本法 の下 で は,債権 者 と して も優 先 主義 の ドイツ法 にお け るほ ど,破 産終 了後 の執 行名 義 を早 や手 廻 しに とってお く必要 が あ るか どう か は頗 る疑 問で あ る こ とで あ る。 か くて 中 田博 士 は,解 釈論 と して破 産手続 の 継 続 中の個 別 訴訟 の提 起 の可 否 につ き否定説 を と り,破 産債権 者 が ,破 産継続 中 にかか わ らず,破 産者 との関係 で訴 訟が で きるの ほ, 旧法2402項 や 同244 条 の明文規 定 に直接 該 当す る場 合 に限 られ るべ き と した。 さ らに これ らの明文 規 定 につ いて も, わが 国が免責 主義 の採 用 に踏 み切 った際 にその整 理 を考 えて

しか るべ きで は なか ったか と立 法論 的 な疑 問 を も提 起 した。

以上 の よ うな 中田博 士 の議論 の影響 は大 き く,破 産手続継 続 中の個 別 訴訟 の 提 起 の可 否 につ き, わが 国で は否定説 が通 説 の座 を 占め る こ と とな った6)。母 法 国 ドイ ツで は新 訴 の提 起 を許 す立場 が通 説 で あ ったが7), これ とは異 な る立 場 が意識 的 に と られ る こ と とな ったの であ る

対応する216頁の本文 もあわせて参照。

6)例 えば,山木戸克己 『破産法』 (青林書院新社,1974年)248頁は,これを通説 と している。青山 ‑伊藤 ‑井上 ‑福永 ・前掲注4)128頁 (福永執筆)。さらに,伊藤 ・ 前掲注4)400頁 も否定説であるが,旧法16条 〔100条〕か ら当然のことと考えて いるようである。ちなみに,この通説 とは異なる立場 をとるもの としては,井上直 三郎 「破産者 を相手方 とす る破産債権 に付 ての訴訟」同 『破産 ・訴訟の基本問題』( 斐閣,1971年)321頁以下 〔初出は,法学論叢第216 (1929年)〕がある。

7) ドイツの通説が説いて きたところについて,中田博士の叙述 を引用 してお こう( 田 ・前掲注4)219頁)「ドイツの通説 は,その破 産法1442項 (日 〔旧〕破240 2項 に当る) を根拠 とし,これによって破産手続中の受継が認め られる以上,釈 訴の提起 も許されないはず はな く,その請求の趣 旨として も,単に破産者の異議 を 排除するものに限 らず,通常の給付訴訟で もよ く,ただ後の場合には, これを認容 する判決においては,これに基づ く強制執行は破産終了後においてのみ許す と制限 を附せ ば足 る としている (Vgl.Jaeger,[KommentarzurKonkursordnungund derEinftihrungsgesetzen,6ノ7.Auf1.,1932]Ann.4zu§144)。」

ドイツ法については後述す るが (Ⅱ. 3.),結論か ら言 えば,1994年の ドイツ倒産 法は,その184条で異議 を述べた破産者 に対する訴えを明文で認めた。

(7)

(2)廃止反対論の根拠 と しての非免責債権

破産者 を相手方 とす る債権確 定訴訟の廃止論 に対 しては,反対論 もあ った こ とを見落 としてはな らない。す なわち,法制審議会 において,破産者の異議 を 残すのであれば,普通 は免責不許可が予想 される場合や非免責債権 が行使 され るような場合 に異議が出されるのであ って,そ うだ とす ると債権者 のために, 破 産者 を相手方 とす る債権確定訴訟 を維持す る理 由はあ るのではないか との指 摘 もなされていた8)

た しか にこの ような廃止反対論の指摘 は見過 ごす ことので きない重要 な指摘 を含んでいる。殊 に,現行法 は,旧法が非免責債権 として掲 げていた請求権 の ほか に,故意 または重過失 によって人の生命 または身体 を書す る不法行為 に も とづ く損害賠償請求権お よび扶養義務 に係 る請求権 を も新 たな非免責債権 とし て加 えている (破25313号, 4号)。 そ うだ とす る と,免責制度 を援用す ることのみ によって破産者 に対す る訴訟 を廃止す るとい う結論 を引 き出すわけ にはいかず,なお子細 に検討 を してみ る必要があ るのではないか。

いずれ にせ よ現行法 もまた,旧法 と同様 に破産者か らの異議がない場合 につ いては債権者表 に もとづ く強制執行 を認めている (221条)。そ うだ とす ると 単 に免責制度 との関連のみで破 産者 を相手方 とす る訴訟の廃止 を論ず るのは事 柄 の本質 を見誤 らせ る ものであ り,わが国破産法 の手続構造 との関連で議論が な されな くてはなるまい。 こうした問題意識の下 に,母法国である ドイツの状 況 を見てみ よう

3.ドイツ法 における状況 (1) ドイツ旧破産法

わが国の旧破産法 の母法 は,1877年 の ドイツ旧破産法 (以下 「KO」とす る

1898年 に ドイツ民法典の成立 にあわせ て大改正 された。)であ る。 同法 は,138 条以下 に破産債権 の届 出 ・調査 ・確定 に関す る諸規定 を置いていた。

8)伊藤異‑松下淳一‑山本和彦編 『新破産法の基本構造と実務』(有斐閣,2007年)

167頁 (小川発言,田原発言)

(8)

それ らの うちの破 産者 の異議 に関係 す る規律 を見てみ よう。 まず(i)破 産者が 調査期 日に債権 を明 らか に争 わなか った ときは,債権者 は債務者 に対 して,債 権 表 の記載 に基づ き強制執 行 をす る こ とが で きる (KO1642)9)。 次 に, (ii)破 産者 が異議 を述べ た場合 には,破 産手続終結後,債権表 に もとづ き,破 産 者 に対 し強制執行 をす るこ とが で きないため,(ili)破 産者 の異議 を除去す るため ,(a)破 産者 が,調査期 日にお いて異議 を述べ た債権 につ き,破 産手続 開始 の 当時訴訟が係属す る ときは,債権者 は破 産者 を相手方 と してその訴訟 を受継 ぐ こ とがで きる もの と していた (KO1442項)10)。 これ に加 えて,(b)KOの中 で は明示 的 に規律 が な されてい なか ったが,訴訟係属が ない場合 で も新 たな訴 えによ り債務者 の異議 を除去す る可能性 を認 め るのが,通説 であ った11)。

以上 の よ うな破 産者 の異議 をめ ぐるKOの規律 は, わが 国 旧法 の それ とほ ぼ同内容 の もの と言 い うるが, ドイツの通説が,訴訟係属が ない場 合 で も新 た な訴 えに よ り債務者 の異議 を除去す る可能性 を認 めていたの は,前述 の ご と く, わが 国 とは異 な る点 で あ った12)。 ち なみ にKOは,強制和 議 に よるほか は免 責 の制度 は知 らず,破 産手続終結後 は,弁 済 を受 けない破 産債権者 はその債権 9)KO第164条 【満足 を受けなかった破産債権者 ;執行名義 としての債権表の抄

本】 ① 破産手続終結後は,弁済を受けない破産債権者はその債権を債務者に対 して無限に主張することができる。

債権が確定 し,かつ破産者が調査期 日に債権を明 らかに争わなかったときは, 債権者は債務者に対 して,債権表の記載に基づ きZPO724条乃至第793条 を準用 し て強制執行 をすることがで きる。

③ 執行文付与の訴え及び債権 自体に関する異議 を主張する訴え,叉は債権表の 記載により執行 をなすに必要にしてかつ執行文付与の時証明 したと認め られる事実 の到来若 しくは発生 したと認め られる権利の承継 を争 う訴えは,本法第1462 に掲げた裁判所がこれを管轄する。

10)KO第144条 【債権の確定】 ① 調査期 日において,管財人及び破産債権者が 異議 を述べ なかった範囲内において,叉は異議 を述べたるもその排斥された範囲内 において,債権は確定 した もの とみなされる。

破産者が,調査期 日において異議を述べた債権につ き,破産手続開始の当時 訴訟が係属するときは,債権者は破産者を相手方としてその訴訟を受継 ぐことがで

きる。

11)Kirchhof/Lwowski/SttirnerSchumacher,MtinchenerKommentarzurInsolven‑

zordnung,2.Auf1.,2008,S.1407.また,前柱 7) も参照。

12) Ⅱ. 1.(2)

(9)

を債務 者 に対 して無 限 に主張 す る こ とが で きる もの とされ てい た (KO164 1項)13)。 このためKOの下 では,債務者 は,通常 は消滅時効 が完成 しない限 り,債務 を弁 済 し続 ける責任 を負 っていた。

(2)ドイツ倒産法

その後,1994年 の ドイツ倒 産法 (以下 InsO」 とす る。) が制定 され, これ は199911日付 けで施行 された。この法律 は,倒産処理手続 の 目的 につ き,

倒産手続 は,債務者 の財 産 を換価 して売得金 を配当 し,又 は倒産処理計画 に お いて特 に企業 の存 続 のため にそれ と異 なる規制 を定め るこ とによ り,債務者 の債権者 に対 して共 同の満足 を与 える ことを 目的 とす る。誠実 な債務者 は,そ の残債務 を免 除 され る機会が与 え られ る」 と述べ (InsOl条)14),286条以下 に 免責 (Restschuldbefreiung)に関す る諸規定 を置いている15)0

破 産者 の異議 に関す るInsOの規律 を見てみ よう。 まず,(1)債権 が債務 者 に よって争 われなか った場合 には,当該倒産債権者 は,債権者表へ の記載 によ り 執行力 のあ る判決 に よるの と同様 に債務 に対す る強制執行 を申 し立 て るこ とが で きる (InsO2012項)16)。逆 に,(ii)破 産者 が異 議 を述べ た場 合 には,破 産 手続終結後,債権 表 に もとづ き,破 産者 に対 し強制執行 をす るこ とはで きない。

そ こで(iii)債権 者 は債務者 の異議 を除去 す るため に, (a)債務者 に対 して債権 の確

13)前柱 9)参照。

14)本稿においては,InsOの条文の訳文につ き,木川裕一郎 『ドイツ倒産法研究』( 文堂,1999年) を参照 した。

15)InsO第286条 【原則】 債務者が 自然人であるときは,債務者は,第287条乃至 303条の規定により,倒産手続において履行 されなかった倒産債権者に対する債 務か ら免責 される。

16)InsO第201条 【手続終決後の倒産債権者の権利】 ① 倒産債権者は,倒産手続 終結後にその残余債権を債務者に対 して無制限に行使することがで きる。

債権が確定されかつ債権が調査期 日において債務者によって争われなかった 倒産債権者は,債権者表への記載により執行力のある判決によるの と同様に債務に 対する強制執行 を申し立てることができる。申し述べ られた異議が排斥 された債権 は,争われなかった債権 と同様 とする。

免責に関する規定は,その通用を妨げられない。

(10)

走 を求 め る訴 え を提 起 す る こ とが で き, また,(b)倒 産手続 開始 時 に債権 に関す る訴訟が係 属 してい た ときは,債権 者 は,債務者 に対 す る この訴訟 を受 継 す る こ とが で きる もの とす る (InsO184条)17)。 こ こで はKOの 中で は明示 的 に規 律 が な されて い なか った新 た な訴 えに よる債務者 の異 議 の除去 につ いて, 明示 的 に規 定 が な されて い る18)。

ところで, ドイ ツにお いて も, InsO2012項 に よる執行 な らび に債務 者 の 異 議 とこれの除去 の実 際 的意義 は,新 得財 産 の組 込み と 自然 人 につ いて の免責 の 導 入 に よって減 少 して い る こ とが指摘 され て い る19)。 しか し, こ こで はあ わせ て免 責 の な され な い故 意 の不 法 行 為 との 関係 で の重 要 性 も指摘 され て い 20)。

なお,債 務者 の異 議 に対 す る訴 えにつ い てのInsO184条 に関 して は,2007 に 「倒 産手 続 の簡 素 化 法 に関す る法律 (GesetzzurVereinfachungdeslnsol venzverfahrens;InsVerfVereinfG)」 に よる改 正 が な され,従 来 の文言 が 第1 項 とされ る とと もに, 第2項 が挿 入 され る こ ととな った。 そ れ に よれ ば,有名 義 債権 の場 合 には,債務者 は,調査期 日又 は債権 の否認 を と もな った書 面手続 にお いて 開始 す る1月の期 間内 に異議 を追 求 しな けれ ば な らない もの とされ る (InsO18421文)21)。 改 正 の趣 旨は, これ まで の法状 況 に よれ ば,有 力 説 に よる と債権 者 は新 た に訴訟 を追行 し, それ と結 びつ いた費用 を執行 しなけ

17)InsO184条 【債務者の異議 に対する訴え】 ① 債務者が調査期 日又 は書面手 続 において (177条)債権 を争 うときは,債権者 は,債務者 に対 して債権の確定 を求める訴 えを提起することがで きる。倒産手続開始時に債権 に関する訴訟が係属 していたときは,債権者は,債務者 に対するこの訴訟 を受継す ることがで きる。

その ような債権について執行力のある債務名義又 は終局判決が存在する場合 には,債務者は,調査期 日叉は債権の否認 をともなった書面手続において開始する 1月の期間内に異議 を追求 しなければならない。 この期間を徒過 した後 は,異議は 述べ られなかった もの とみなす。破産裁判所 は,債務者及びその債権が争われてい る債権者に対 して,債権者表に もとづ く公認の抄本 を与 え,期間の慨怠の効果 を指 摘す る。債務者 は裁判所 に請求権 を追求 していることを証明 しなければならない。

18)Kirchhof/Lwowski/SttlrnerSchumacher,a.a.0.(Ann.ll),S.1407. 19)Kirchhof/Lwowski/SttirnerSchumacher,a.a.0.(Ann.ll),S.1408. 20)Kirchhof/Lwowski/SttlrnerSchumacher,a.a.0.(Ann.ll),S.1408. 21)前掲注17)参照。

(11)

ればな らない ところ, この場合 には,債権者が勝訴 した場合 に もこの出費が債 務者か ら償還 されない恐れがあ るため, この ような不公平 な帰結 を回避す るた め に, InsO1792項 に対応す る規律 をInsO184条の中に置 くこととした とい

う点 にあ るが, この ような改正 は不要 であった との批判 もあ る22)0

(3) ドイツ法 にみ る手続の基本構造

ドイツ法 を概観 した結果,以下の点 を確認で きよう。 まず, ドイツ法 にあっ て はKOの下 で もっ とも典型 的 にみ られ る ように,破 産手続 は倒産 とい う混 乱状況 を整序す るための (一過怪)の権利行使 とされてお り,それゆえ破産債 権者が破 産手続 において割合的弁済 に甘 ん じるとして も, この ことは一時の こ とにす ぎない とい うことである。 む しろ,破産債権者 には破 産手続終了後 に債 務者 に対 してな され る強制執行 によって, (終局的〉 な権利行使 をす る可能性 が当然の こととして開かれてい る。異議 を述べ ない破産者 に対 して向け られた (強制執行の準備機能) は, まさにこうした終局的な権利行使の局面 にかかわ る ものであ った。 しか もKOの下 での通説 は,破 産者 を相手方 とす る債権確 定訴訟 を訴訟係属のある場合だけでな く, これのない場合 について も認 める立 場 を とっていた。 InsOの成立 に ともなって免責制度が導入 され,異議 を述べ ない破産者 に対す る強制執行 と破産者 の異議お よびこれの除去手続 の意味は小 さ くはなった ものの,先 に見た ような構造 は, この ことによって全 く変更 され てはいない。破産者 を相手方 とした債権確 定訴訟 については,非免責債権 との 関連での重要性が指摘 されてお り,わが国 とは異 な り, これ になお積極 的な意

22)改正の趣 旨については,BT‑Drucks16/3227,S.21.これに対 して批判的なのは, Frege/Keller/Riedel,Insolvenzrecht,7.Auf1.,2008,S.634[Rdnr.1649d]であ り, InsO 1842項の新たな規律は,体系的に疑問であ り,実際上は無意味であると いう。同書は,その理由として,債務者が債権者の債権を争い,その限 りでInsO201 2項が妥当しないとしても,これまでの債務名義がやはり依然として債権者の手 元にあ り,これが倒産手続終結後の時点について再び通用性を有するという。つま り,改正法が,倒産債権者が既に取得 していた債務名義の効力は,債務者が異議を 述べることによって失われてしまうという前提に立つのに対 して,同書はそうした 前提そのものがおか しいとするのである。

(12)

味が認め られていた。

このように ドイツ法 にあっては,破産債権確定手続は,配当の基礎 として破 産債権 を確定する手続 とい う側面 と並 んで,破産者 に対する権利行使手続 とし ての側面 をも強 く有 してお り,いわば両者が揮然一体 となった手続構造 をな し ているのである

4.比較法 からの示唆

ドイツにおける破産債権確定手続が,配当の基礎 として破産債権 を確定する 手続 とい う側面 と破産者 に対す る権利行使手続 としての側面 とを揮然一体 とし て有する もの として特徴づ け られるとするな らば, これに対 して,わが国破産 法 は,平成16年の法改正 に際 して,それ とは異なる立場 に踏み出 した とは言 え ないだろ うか。 この こととの関連で指摘 されるべ きは,一つは,破産者 を相手 方 とする破産債権確定訴訟 を廃止 した ことであるが, もう一つは,管財人又は 他 の債権者か らの異議等のある場合 について,破産債権査定決定申立て決定手 続 を新設 したことである。後者 は破産手続 における (競合する債権者 間の調整)

とい う側面での実効化 を狙 うものであ り,破産債権確定手続の機能 を配当の基 礎 の確定 に一元化 して きているのではないか。 もっとも, このことは母法であ る ドイツ法 にはわが国の議論 にとっての意義が もはや何等認め られない とい う ことを意味する ものではない。 む しろ逆であ り,そこか ら次のような示唆を得 ることがで きる

第一は,破産債権 の行使 と免責手続の関係 について,あ らためて考え直 して み ることの必要性である。 わが国では,免責制度 を根拠 に破産者 を相手方 とす る訴訟が廃止 されたが, ドイツ法 においてはそ うい う態度は採 られなか った。

翻 って考 えてみるに,免責がなされるのが通常であることを根拠 に破産者 を相 手方 とす る破産債権確定訴訟を廃止す るとい う行 き方は,議論 としては逆転 し ていなか ったかが問われな くてはな らない。た しかにわが国において免責がな されるのが通常ではあるとして も,一部の債権 は非免責債権 とされてお り, こ れについてはそ もそ も免責の対象か らは除外 されている。 しか も,わが国の平

(13)

16年法改正 において,非免責債権 の範囲は拡張 されていた。そ うだ とす る と, む しろ, なぜ破産債権確定手続 の段 階では破産者 に対す る権利行使 は破 産者 に 異議のない場合 にのみ とどめ,異議のある場合 には,破産手続終了後 の債権者 ・ 債務者 間の訴訟 を通 じた解決 に委ねるのか を,手続の構造 に即 して明 らか にす る必要があるのではないか。

第二 は,有名義債権 の取 り扱 いについてである。すなわち,破産者 に対す る 債権確 定訴訟が廃止 された結果, (破 産者か ら)異議 を述べ られた破 産債権 を 有す る債権者が破産者 に対 して強制執行 を行 うためには,破 産手続終了後 に, 新 た に訴訟 を提 起す る必要 があ る もの とされてい る23)。 この理屈が, はた し て無名義債権のみな らず,有名義債権 に対す る異議 について も妥当す るのかは 必ず しも論 じられていない。 しか し, もし仮 にこれを肯定す るな らば,次の よ うな問題が生 じる。すなわち, わが破 産法 は,破 産財団 を もって破 産手続の費 用 を支弁す るの に不足す る と認 めるときは,裁判所 は,破産手続 開始の決定 と 同時 に,破産手続廃止の決定 を しなければな らない もの とす る (216条)が, このいわゆる同時廃止事件 の場合 には,債権確定手続 は実施 されないため,破 産者 には異議 を述べ ることによって債務名義の執行力 を消滅 させ る機会が与 え られることはあ りえない。 この こととの不均衡 とい う問題である。 そ もそ も有 名義債権者 は本来破 産手続が開始 されていなければ当該債権 について強制執行 がで きる地位 にあったはずであ り,そ うだ とす る と,破産者 の異議 によって, 債権者が既 に取得 していた債権名義 まで失効 して しまうと考 えるのは問題では ないか。従来,わが国の議論で念頭 に置かれていたのは もっぱ ら無名義債権 の 場合であ り,有名義債権 の場合 については,明確 ではない。有名義債権 につい ての破産者か らの異議訴訟の規律 をめ ぐる ドイツの議論 は,問題 を考 えるにあ た って検討 に値 しよう

そ こで次 に,第一点 目に関連 して,破産債権 の行使 と免責手続の関係 につい

23)伊藤異‑岡正晶‑田原睦夫 ‑林道晴 ‑松下淳一 ‑森宏司 『条解破産法』(弘文 堂, 2010年)1405頁。

(14)

ての検討 を行 う24)0

.破 産 債 権 の行使 と免 責 手 続

1.免責制度の導入 とそれが提起 した理論的問題点

わが国の破 産手続 は,破産手続それ 自体 と して残債務の免 除を予定す る もの ではない。 したが って,破産債権者 は,破 産債権 の うちで破 産手続 において弁 済がなされなか った部分 については,あ らためて破産手続終了後 にその履行 を 求めることがで きるのが通常である。 もっとも法 人破産の場合 には,破 産手続 の終了 とともに法人格が消滅す るのが通常 であることか ら (破35条,一般法人 148粂 6号,同20215号,会社法4715号,同6416号,中間法 人81 15号,同10815号),破産手続の終了 によ り,残債務 についての責任 を免除 される結果 となる。 これ に対 して,個人破 産の場合 には, この ような形 での残債務 についての責任免除はなされえないため,免責制度の導入前 にあっ ては強制和議叉は和議法上 の和議が成立 した場合 に,それによ り権利変動 な ど の実体権 の変更が生 じ,債務の一部 につ き責任免 除の効果が生 じるにとどまっ た。そのため,通常 は消滅時効が完成す るまで債務者 は債権者 に対す る自己の 責任 を免 れることはで きなか った。

個人破 産 をめ ぐるこうした法状況 を大 きく変 えたのは,破 産免責制度のわが 国‑ の導入であ る。すなわち,第2次大戦後,アメリカ合衆 国の強い影響 の下, 1952年 (昭和27年) に株式会社 の経済的再生ための制度の導入 も目的 として旧 会社 更生法が昭和27年法律 第172号 として制定 されたが, この ときにあわせ て 個 人の破 産者の更生 を 目的 として昭和27年法律 第173号 によ り,旧法3662 下 に付加す る形で,免責制度が と り入れ られた。 これによ り破産者 は破 産手続 解止 までの間いつで も免責 の申立てをす ることがで き, 申立 てがあ ると裁判所 は破産者 を審尋の上,免責不許可事 由がない限 り,免責の決定 を しなければな

24)第二点 目については,Ⅳ.で取 り扱 う。

(15)

らず,免責決定が確 定す る と,破 産者 は一定の非免責債権 を除いて,破 産手続 に よる配 当のほか は弁済の責任 を免 除 され る こととなった。

破 産免責 は,破 産債権者 の権 利 を免責許可決定 とい う裁判 によって変 更す る ものであ り, ここにそ もそ もこの ような制 度が なぜ正 当化 され るのかが,問題 となる

2.免責制度 の根拠 をめ ぐる従来 の議論 とその問題点 (1) 兼 子一博士の見解

きわめて早 い段 階で この間題 を論 じたの は,兼子博 士 であ った。博士 は,昭 27年 に出 された 「破 産免責 の法理一 財 産責任 と人格責任 の区別‑ 」 と題 す る論 文 にお いて,議論 を展 開 してい る25)。 そ こで は,法 人破 産 の場 合 との 対 比 に よ り免責 の根拠 が検 討 され26), 人の経 済活 動 は通 常財 産 を基礎 とす る 事業 の経営管理 として行 われ るか ら, その通常 の結果 と認 め られ る損失 による 債務 に対 しては清算 当時の財産 の範 囲で責任 を負 えば足 り, それ以上 の負担 を 残 さないのが当然 だ との考慮が そ こにはあ るのだ とい う。 ここか ら債務 は,原 則 と して財産責任 であ る と認 め るべ きであ るが,単 に財産責任 に止 ま らず,破 産者 に人格責 的道義 的責任 を認 め るべ きで, したが って,その財産主体性 の外 衣 を脱 ぎ捨 てて も,一 身の汚染 として拭 い去 るこ とので きない もの と観 念 され る場 合 が あ り27),実 定法上破 産免責 の障害事実 や免責 か ら除外 され る債権 が 存 在す るのは, この ことを示す ものだ とい う28)0

以上 の ような兼子博士 の議論 は,法 人 について は一般 に破 産が解 散事 由 とさ

25)兼子‑ 「破産免責の法理一 財産責任 と人格責任の区別‑ 」同 『民事法研究 〔 二巻』(酒井書店,1954年)133頁以下 〔初州は,法協701(1952年)1頁以下〕 26)兼子 ・前掲注25)139頁以下。「われわれは,少な くとも財産法上の法主体性の点

で,法人と個人とをしか く差別 して考えることが可笑 しいということに気付かなけ ればならない。 このことは,法人の主体性 を個人のそれに近づけるのではな く,む しろ個人の法主体性 も,財産法における限 り,法人特に徹底すれば財団のそれに準 じて考えるべ きであるとの傾向を示すのである」 という。

27)兼子 ・前掲注25)145頁。

28)兼子 ・前掲注25)145頁。

(16)

れてお り,その結果 ,破 産手続終了後 は残債務 につ き責任 が免 除 され る結果 と な ることのアナ ロジー によって,個 人 につ いての免責制 度の正 当化 を試 み る も のであ る。 しか し, この よ うな説 明は,あ くまで も免責制度 の存 在 を所与 の前 提 と した上 で,比輪 を用 い るこ とによって正 当化 を図 ってい るにす ぎず,免責 制 度の存 在根拠 を破 産手続 の構 造 との関係 で基礎 づ ける ことに成功 してい る と は言 い難 い。 本来,破 産債権者 と して は,破 産債権 の うち破 産手続 にお いて弁 済が な されなか った部分 について,あ らためて破 産手続終了後 にその履行 を求 め ることがで きたはずであ り, しか も破 産法 は,破 産者 の異議 のない債権 につ いては,債権 表 の記載 に もとづ いて強制執行 をす ることを認 めていた。 そ うだ とす る と, なぜ免責 許可決定が な され ることによって破 産債権者 の 同意 な しに その権利 が一律 に変 更 されて しまうのかが,憲法上 の財産権 の保障 (29条) との関連 にお いて深刻 な問題 となる。 この点が判例上 問題 となったのが,次 に 見 る最判 昭和3612月13日民集15巻 11号2803頁であ る。

(2)最判昭和3612月13日民集15巻11号2803

【事実】

破産者Aを免責す る破産裁判所の決定に対 して

,

Ⅹらが抗告 して, Aには破産 法366条の915号, 3号, 1号の免責不許可事由があると主張 したが棄却 さ れた。そこでⅩらが特別抗告 をした

Ⅹらは,何等の代償な しに不正枚滑な破産 者に対 し免責 を許可 したことは憲法291項 に反 し, また同条2項で 「財産権の 内容 は公共の福祉 に適合す るように法律でこれを定める」 とされているが,破産 者の免責が どの ように公共の福祉 に適合するのか明 らかでな く,さらに3項 によ り私有財産が公共のために用い られる場合です ら正当な補償が必要であることに 鑑みれば,悪徳不信義 な破産者 を一方的に擁護す る免責制度は憲法に反する, と 主張 した。

【判旨】

特別抗告棄却。「破産法における破産者の免責は,誠実なる破産者に対する特典

(17)

として,破 産手続 において,破 産財団か ら弁済州来なかった債務 につ き特 定の も の を除いて,破 産者の責任 を免 除す る ものであって,その制度の 目的 とす るとこ ろは,破産終結後 において破産債権 を以 って無限に責任の追求 を認めるときは, 破産者の経済的再起 は甚だ し く困難 とな り,引いては生活の破綻 を招 くおそれ さ えない とはいえないので,誠実 な破産者 を更生 させ るために,その障害 となる債 権者の追求 を遮断す る必要が存するか らである。

同法366条 ノ9では,債務者 に詐欺破産,過怠破産の罪 に該 る行為があったと認 め られるとき,その他 同条列記の不信行為 があった ときは,裁判所 は免責不許可 の決定を為す ことがで きると定め られ,‑‑・また,366条 ノ12では,租税,雇人の 給料,その他 同条列記の特殊の債権 ‑‑・を除外 して,他 の一般破 産債権 につ いて のみ責任 を免れることに定め られている。 これ らの規定はいづれ も免責の効力範 囲を合理的に規制 した もの といえる。

ところで,一般破 産債権 につ き破 産者の責任 を免除す ることは,債権者 に対 し て不利益 な処遇であることは明 らかであるが,他面上述の ように破産者 を更生 さ せ,人間に値す る生活 を営む権利 を保障す ることも必要 であ り, さらに, もし免 責 を認めない とすれば,債務者 は概 して資産状態の悪化 を隠 し,最悪の事態 にま で持 ちこむ結果 となって,却 って債権者 を害す る場合が少 くないか ら,免責 は債 権者 にとって も最悪の事態 をさけるゆえんである。 これ らの点か ら見て,免責の 規定は,公共の福祉のため憲法上許 された必要かつ合理的 な財産権の制限である と解するを相当 とす る」。

以上 の多数 意見 に対 して は,池 田克裁判 官 ほか3名 の裁判 官 の補足 意 見が述 べ られて い る

免責 に よって侵害 される債権 は債務者が無資力であるか ら,少 くともその当 時においては,実質的に価値 の乏 しい ものである とい うことがで き‑‑・,債権者 の犠牲 は左程大 きい ものではない。右の如 く破産者に更生の機会 を与 えることと, 債権者に及ぼす犠牲の比較的僅少であることとの双方の事情が衡平 に勘案 されて, 始めてよく破産者免責制度の合理性が肯定で きる」。

今 日で は,免責制 度の合 憲性 は,一般 に支持 されてい る。 免責制 度が合 憲 と

(18)

い う結論それ 自体は妥当であるとして も,本判決のような理 由づけが妥当か ど うかは,別問題である。そ もそ も届出債権 について破産者か ら異議が述べ られ なければ,債権者表の記載 によ りその まま強制執行がで きる もの とされていた はずである (221条)。 こうした点に鑑みれば,多数意見では債務者 を更生 さ せ ることのみが一方的に強調 されてお り,債権者の権利が消滅すべ きことを正 当化する根拠 と しては決 して十分ではない。補足意見の指摘する券面額の低下 とい うの も非免責債権 については破産手続終結後 に券面額での実現が保障 され ていることとの比較か らも理解 され うるように,十分な説得力は もたない。む しろ結論先 にあ りきの議論 と言 えよう。 ここで も破産手続の構造 との関連で, 免責手続が十分 に説明されているとは言 えない。

(3)その後の議論

その後,学説は,消費者の 自己破産の申立て件数が増大す る中で,免責制度 の理念的根拠 に関す る2つの考 え方の対立 を背景 に,その運用のあ り方 につい て議論 を展 開 して きた。すなわち,免責 を破産手続 に協力 した破産者 に対する 特典 と考 える (特典説) と免責 を破産者更生の手段 と考 える (更生手段説)の 対立であ り29),いずれの考 え方 によるか によって,免責制度の解釈や運用 に 影響 を生 じるとされて きた。 ここでは主 として消費者破産をめ ぐるポ リシーが 問題 とされて きた といえよう。その意味で兼子博士 とは議論の対象 と関心 を異 にしていた。いずれにせ よ, この議論 も免責制度の正当化根拠 を‑ なぜ債権 者が債権 を追求で きな くなるか を‑ 手続構造 との関連で明 らかにするもので はなかった。

(4)従来の議論の問題点

まず確認 してお くべ きは,わが国の破産法 は ドイツ法系 に属するものであ り,

29)学説の分布については,例えば,宮川知法 『債務者更生法構想 ・総論』(信山社, 1994年)259頁以下参照。

参照

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