処分禁止の仮処分と不動産物権の変動
園
田
格
一
処
分
禁
止
の
仮
処
分
と
債
務
者
の
処
分
行
為 二
処
分
禁
止
の
仮
処
分
と
他
の
債
権
者
の
強
制
執
行 三
仮
処
分
登
記
と
移
転
登
記 四
む
す
ぴ
一処分禁止の仮処分と債務者の処分行為
一不動産に処分禁止の仮処分がなされた場合に︑債務者がこれに違背して当該不動産を処分できるか︒この間項
は三つの場合に分けて考えられる︒川には︑処分禁止の仮処分が先に行なわれ︑しかる後に債務者がその不動産を議
渡した場合であり︑用には︑不動産の譲渡が先に行なわれ︑その後に債務者たる譲渡人の債権者から処分禁止の仮処
分が行なわれた場合であり︑糊には︑不動産の譲渡がなされ︑しかる後に債務者たる譲渡人の債権者が処分禁止の仮
処分をなしたが︑不動産の移転登記が譲渡人と譲受人との間に了された場合である︒
二 右の個々の場合を考察するためには︑民事訴訟法上︑譲渡禁止ないし処分禁止の仮処分の効力とこれに違背す
経 営 と 経 済
一 一 一 一 一 八
る債務者の処分行為の効力との関係が一般にどのように受取られているかをみなければならないことになる︒この点︑
処分禁止の仮処分に違背した債務者の処分行為の効力に関しては︑仮処分の効力として︑これを絶対的無効と解する
立場と相対的無効と解する立場とがあるが︑現在の通説・判例は相対的無効の立場をとっている︒絶対的無効の立場
からは︑債務者の処分行為自体が無効となるわけであるが︑相対的無効の立場では︑債務者の処分行為自体を無効に
することはできないわけで︑ただ仮処分債権者に対する関係で︑乙の仮処分によって保全せられる債権者の権利の終
局的満足を要する範囲内での無効ということになる︒
そこで︑通説の立場││相対的無効説ーーでは︑処分禁止の仮処分に違背する処分行為は仮処分債権者に対抗し得
ないだけであり︑しかも︑仮処分登記前の処分行為にはこの効力を及ぼし得ない︒したがって︑仮処分登記前になさ
れた処分行為に基づき︑既にそれ以前にその旨の仮登記の完了せる場合とか︑抵当権設定登記ある場合には︑たとい
仮処分登記後に至り︑右仮登記に基づく本登記がなされたり︑抵当権の実行により所有権移転登記がなされたときに
は︑これをもって仮処分債権者にも対抗できることとなる︒
もっとも︑純理を推せば︑絶対的無効の立場からは
ωの場合││仮処分後の処分行為も仮処分の結果無効としなけ
ればならないから︑以後の問題としての
ωゃ
ωの現象は生じない乙とになるであろう︒相対的無効の立場からは︑
ωの場合に処分行為を無効とすることはできないが︑だからといって︑仮処分前に処分行為があり且つ仮登記があった
からといって︑仮処分後に仮登記に基づく本登記がなされた場合に仮処分債権者に対抗できると︑直ちにいえるかに
ついては若干の疑問が残る︒そとで︑仮登記に基づく本登記自体が処分行為に準じるものであると解せられるならば︑
その登記は仮処分債権者には対抗できないのではないかとの批判の生じる余地がある︒仮登記と仮処分の関係をどう
考えるかの問題が残ることになろう︒
仮差押とこれに違背する処分行為については︑既に明治二七年五月一四日の民刑局長回答において︑ ﹁差押または
仮差押の登記をした不動産でも差押債権者の権利を害しない限り︑債務者は︑これを処分す一位乙とができる︒したが
って︑これを売買したときは売買登記をすることができる﹂とせられていた︒しかし︑仮処分についてはこれとは逆
乙 ︑
﹁所有権移転禁止の仮処分の登記があるときは︑売買登記の申請は︑不登法四九条二号により却下せらるべきも
の﹂とされたし︑仮処分に反する処分行為につき絶対無効説をとった判例(大審院判決明治三七年二月一
O日 民
録 一
O
紹一七九頁)もある︒この判例は大正六年頃まではそのまま踏襲されていたものとみられてい一勺
明治三四年五月二四日民録七輯五巻一二五頁は︑ ﹁債務者ノ処分ヲ禁止スル仮処分命令ナルモノハ︑将来ニ於ケル
行為ヲ禁ズルモノニシテ其ノ以前ノ行為ニ付テハ縦令其ノ行為ガ売買ノ予約ニ係ルト錐モ︑其ノ予約ノ実行マデヲ禁
︒スルガ如キ効力ヲ有スルモノニ非ズ﹂といい︑また大正九年二一月二三日民録二六輯二
O七八頁は︑﹁債務者ノ処分
ヲ禁止スル仮処分命令ハ将来ノ債務者ノ処分行為ヲ禁ズルモノニシテ︑其ノ命令以前ニ為サレタル行為ノ効力トシテ
債務者ノ為スベキ行為ヲモ禁ズル効力ヲ有スルモノニ非ズ﹂という︒その他幾っか同趣旨の判例もある︒それからい
えば︑所有権譲渡の契約をすることはまさに処分行為であるが︑対抗要件を具備するための登記は︑本来処分行為そ
のものではないのだから︑問題を素朴的に考えれば︑右のような見解ーーー仮処分前の処分行為に基づく仮処分後の登
記は仮処分債権者に結局対抗できる││の存することも否定しえないであろう
Dしかし︑もしそのような考えが是認
されるとすれば︑債務者は仮処分の登記後氏︑日附を遡らせて第三者と売買契約を締結したことを装い︑たやすく仮
円品
処分の効果を免れうる乙ととなるであろう︒そうすれば︑仮処分前の処分行為はすくなくとも仮登記が具わっていた
ものでなければ︑仮処分後にはその効果を仮処分債権者に主張しえないとする解釈が妥当であるという乙とになるも
の と 思 わ れ る ︒
処 分
禁 止
の 仮
処 分
と 不
動 産
物 権
の 変
動
二 三 九
経 営 と 経 済
二 四
O
処分行為は不動産に対する処分禁止の仮処分の登記前になされたが︑処分行為による登記だけが仮処分登記後
になされた場合はどうであろうか(仮登記はない)︒最高裁判決昭和一二
O年 一
O
月二五日
q u
六七八頁は次のようにいっている︒ (第三小法延)民集九巻
﹁処分禁止の仮処分前に仮処分債務者の処分行為により目的不動産につき権利を
取得した場合であっても︑仮処分当時未にその登記を経由しない場合にあっては︑その権利取得をもって第三者に対
抗する乙とができない関係にあるのであり︑従ってその登記前すでに処分禁止の仮処分登記がなされた以上その後続
利取得の登記をしても︑その権利取得が仮処分前なることを理由としてはもはやこれをもって仮処分債権者に対抗す
ることはできないものといわなければならない﹂と︒
大審院時代の判例の態度はどうであったろうか︒右の最高裁の判決を異なり︑処分禁止の仮処分は既存の原因に者
づく登記を妨げる効力はなく︑その登記は仮処分債権者に対抗できると論じたもの(たとえば大審院判決昭和一四年
一月ゴ二日新聞四三八二号一六頁)が一般的であったし︑反対の趣旨のものは︑仮差押と抵当権の設定に関してでは
あるが︑大正三年二一月二四日民録二
O輯一一六頁が︑ ﹁債権者が債務者所有ノ不動産一一対シ仮差押ヲ為シ其ノ仮差
押命令ノ登記簿ニ記入セラレタル場合ニ於テ︑其ノ以前他ノ債権者ガ該不動産ニ付抵当権ヲ取得シタルモ仮差押後其
ノ登記ヲ為シタルトキハ︑対抗条件欠如ノ為其ノ抵当権ヲ仮差押債権者一一対抗スルコトヲ得ズ﹂としているだけであ
る︒仮差押も処分禁止の効力を有することは仮処分と同様であると考えられることからすれば︑処分禁止の仮処分前 4 の処分行為に基づく仮処分後の登記の効力については︑大審院の態度は必らずしも明白ではなかったといい得る吋
前掲の昭和三
O年 一
O
月二五日の最高裁第三小法廷の判決は︑控訴審および第一審が大審院時代の一般的態度を踏
襲して問題を肯定的に解したのに反し︑かかる移転登記の効力を制限する解釈をとることを明白にしたものと考えら
FD
れる︒其の後の昭和三
O年ご一月二六日民集九巻二一一四頁において︑最高裁第二小法廷も︑ ﹁不動産の譲受人がい
まにその登記をなさないうちに︑その不動産につき︑譲渡人を債務者として処分禁止の仮処分の登記がなされ︑譲受
人がその後に所有権取得登記をしても︑これを
4内って仮処分債権者に対抗する乙とができない﹂と述べており︑さら
EU
に昭和三二年九月一九日民集一一巻一五六五頁も︑﹁債務者所有の不動産につき債務者の処分を禁止する仮処分命令
のあった場合に︑債務者は右不動産の処分をなしえないものではなく︑ただその処分が仮処分に低触する範囲内にお
いて︑仮処分債権者に対抗しえないに過ぎない﹂として︑同趣旨の見解に立っている︒したがって︑最高裁の立場は︑
大審院時代の一般的見解とは逆の見解をとることを明確にしたということができよう︒さらに︑昭和三二年九月一九
日の判決は︑ ﹁:::不動産の譲渡後登記義務の履行期前に︑同不動産につき第三者から処分禁止の仮処分をうけたか
らといって︑右移転登記義務が履行不能になったものということはできない﹂とも述べておるし︑昭和三
O年二一月
二六日の判決も︑別に︑ ﹁本案訴訟で勝訴した仮処分債権者から所有権取得登記者に対する登記抹消請求の認容せら
れるべき旨﹂を明白にしている︒
( 6 ) ( 5 ) ( 4 ) ( 3 ) ( 2 ) ( 1 )
宅 間 達 彦 ・ 仮 処 分 登 記 後 の 登 記 の 抹 消 ・ 民 商 法 雑 誌 三 四 巻 四 号 ご ニ O
頁 ︒
三 測 乾 太 郎 ・ 処 分 禁 止 の 仮 処 分 前 の 処 分 行 為 に 基 づ く 仮 処 分 後 の 登 記 の 効 力 ・ 法 律 時 報 三 O
巻 七
号 六
回 頁
︒
吉 川 大 二 郎 ・ 仮 処 分 登 記 後 の 仮 処 分 以 前 の 取 得 登 記 の 効 力 ( 判 例 批 評 ) ・ 民 商 法 雑 誌 三 四 巻 三 号 一 一 八 頁 ︒
三 閃
・ 前
掲 六
五 頁
︒
宅 間
・ 前
掲 は
本 件
の 判
例 批
評 で
あ る
︒
山 木
一 戸
克 己
・ 処
分 禁
止 仮
処 分
と 譲
渡 人
の 移
転 登
記 の
能 否
( 判
例 批
評 )
・ 民
商 法
雑 誌
三 七
巻 三
号 一
二 三
頁 以
下 ︒
園 田
登 記 義 務 と 第 三 者 の し た 処 分 禁 止 の 仮 処 分 ( 判 例 解 説 ) ・ 別 山 ジ ュ リ ス ト 不 動 産 取 引 判 例 百 選 目 ︒ 格・移転
処 分 禁 止 の 仮 処 分 と 不 動 産 物 権 の 変 動
二 四
経 営 と 経 済
二四二
処分禁止の仮処分と他の債権者の強制執行
民事訴訟法上の問題として
ω債権者甲が譲渡禁止ないし処分禁止仮処分を得た不動産に対して︑他の債権者乙
が強制執行をなすことができるかということと︑
ωそれが許されるとした場合に︑仮処分との関係すなわち甲と乙と
がどのような法律的な地位に立っかという点があげられる︒さらに︑
ω乙が強制執行手続により権利を取得し︑他方
甲もまた本案訴訟において勝訴の確定判決を得た場合︑甲は譲渡禁止仮処分の債権者であったことにより︑その権利
噌i
を乙に対して主張できるかが︑重要な問題として残される
Dここでも︑まず仮処分と強制執行の関係が一般にどうみられているかが考察されねばならない︒
仮処分の効力につき絶対的無効説をとるときは︑他の債権者の強制執行を任意処分と別個に考慮する立場をとらな
い限り︑この強制執行も無効と解する余地があり得る︒しかし︑通説のように相対的無効説をとるならば︑そして債
務者の任意処分と債権者の強制処分とを処分としては同質のものとみる限り︑債務者の任意処分自体を無効とする ζ
nL
とができないものである以上︑他の債権者乙の強制執行は許されるものと解さざるを得な川が
判例では︑大審院昭和八年四月二八日第二民事部決定(民集二一巻九号八八八頁)は︑
特定ノ債権者の保護ヲ目的トスルモノニ過ギザルヲ以テ︑仮処分ノ効力ハ此ノ目的ノ範囲外ニ出ヅルヲ得ズ︒故ニ禁
﹁ :
: :
譲 渡
禁 止
ノ 仮
処 分
ハ
止ニ反シテ債務者ノ為シタル譲渡ハ仮処分ニ依リ保護ヲ受クル特定ノ債権者一一対抗スルコトヲ得ザルニ止マリ︑其ノ
他ノ関係ニ於テハ完全ニ効力ヲ保有スルモノト謂ハザルベカラズ︒殊‑一右特定債権者ニシテ譲渡ニ承諾ヲ与フルトキ
ハ其ノ者ニ対スル関係ニ於テモ又完全ナル効力ヲ生ズルモノトス︒市シテ強制執行手続ハ一種ノ譲渡手続ナル点ニ於・
テハ債務者ノ為セル譲渡ト異ナル所ナキヲ以テ︑譲渡禁止ノ仮処分ガ債務者ノ為セル譲渡ヲ絶対一一無効トナスモノニ
非ザル以上︑強制執行手続ニ付テモ又同一ノ論結ヲ生ズルモノニシテ︑従ツテ譲渡禁止ノ仮処分アル不動産一一対シ強
制競売手続ヲ開始スルハ之ヲ絶対一一無効ナリト為スヲ得ザルナリ︒:::﹂という︒
しかしながら︑電話加入権につき︑昭和二年四月一二日の大審院判決(民集六巻四号一五一頁)は︑
﹁ 仮
処 分
ア リ
タル場合ニ於テハ︑被申請人ガ其ノ禁止一一反シテ為シタル任意処分ハ固ヨリ之ヲ以テ申請人ニ対抗シ得ザルコト論ヲ
侯タザルトコロナリト雌モ︑斯ル仮処分ノ存スル間ハ其ノ目的タル木件電話加入権ニ付テハ︑被申請人ニ対スル他ノ
債権者ガ︑其ノ債権ニ基ヅキ強制執行ノ方法ニ依リ之ガ処分ヲ為スコトモ又之ヲ許サザルモノト解スルヲ相当トス︒
q a
i ‑
‑ ・﹂︑と述べていることからすれば反対の趣旨がうかがわれる︒
すなわち︑判例では︑相対的無効││任意処分の許容││強制執行の許容という理論の運び方が必らずしも統一さ
れていないように考えられる︒
また︑仮処分の効力として︑違背行為につき絶対的無効説をとるか相対的無効説をとるかにかかわらず︑仮処分と
強制執行との関係に関するかぎり︑仮処分の在在にとくに意義を認めて︑他の債権者乙の強制執行は単にその結果を‑
もって債権者甲に対抗し得ないだけではなく︑甲は強制執行に対する異議によってその執行を阻止しうると立論する
d唖
ものあ私大審院判決昭和四年四月三
O
日(民集八巻四三頁)は︑電話加入権についてであるが︑﹁有クモ仮処分・
ノ存スルニ於テハ︑同決定後ニ於テ仮処分ノ目的物ニ対シ強制執行ヲ為スモ同執行手続中仮処分権利者ニ於テ之ニ対
シテ異議ヲ主張シタルト否トヲ問ハズ右仮処分権利者ノ権利ノ保全ト相容レザル範囲ニ於テハ実体法上強制執行ノ結・
果ヲ仮処分権利者ニ対抗スル能ハザルモノト解ス﹂と述べる︒したがって︑この考え方によれば︑結局他の債権者乙
の強制執行は許されないことになろう︒
しかし︑右の見解に対しては︑乙の強制執行が窮極において甲の権利を害することを得ないと解しても︑それは甲
処 分
禁 止
の 仮
処 分
と 不
動 産
物 権
の 変
動
二 四 三
経 営 と 経 済
二 四 四
が本案の勝訴確定判決を得た場合に︑乙が強制執行の結果を甲に対して有効に主張し得ないことをもって足るのであ
り︑他方仮処分の故をもって強制執行を阻止することは︑疏明のみによって得られる仮処分が証明によって得られた
FD
債務名義による執行を直接排除しうることとなり︑不合理であるとの批判がなされる︒
乙の仮処分によって禁止せられるのは債務者
の任意処分のみであって︑他の債権者乙が右仮処分とは無関係に取得した債務名義に基づく強制執行は︑右禁止の対
ロU
象とは本来ならないとの立場をとる判例もある︒大阪地裁決定昭和二年一
O月一三日(評論一七巻民訴四七頁)は︑ さらに︑仮処分に違背する処分行為の相対的無効を説くまでもなく︑
﹁仮処分ノ効果ハ債務者ノ任意処分ヲ禁止スルニ止マリ︑然ラザル第三者ノ行為殊ニ国家ノ権利保護行為トシテ為ス
強制執行ヲ宅モ禁止スルモノニ非ザルコトハ云フヲ倹タザル処ナリ﹂とし︑その理由として︑付﹁仮処分の理由は専
ら債務者の行為に基因する行為に限られ︑第三者が強制執行をなすや否やは仮処分の理由とはならないこ白﹁我が民
事訴訟法に於ては優先主義を採用しておらず︑又独逸民法二二五条︑独逸民事訴訟法七七二条前段のような明文の規
定がないので︑強制執行による処分を直ちに法律行為による処分と同一に律することは出来ないよ国﹁現行法制度に
於ては仮差押中の有体動産に対し更に強制執行を許し︑差押えられた債権に対し更に差押が許されている︒﹂同﹁仮処
分債権者は多く物権的請求権を有しているから第三者異議や主張し得るし︑金銭債権に換えることが出来る請求であ
る限り︑金銭債権として満足を得ることが出来る︒﹂同﹁仮処分は殆んど口頭弁論を経ずに単に疏明を以って許される
ことが多い現状に於て︑確定した請求権に基づく強制執行を排除せしめることは︑民事訴訟法第五四四条の目的とす
る所か否か疑わしいのみならず︑疏明を以って証明に勝たしめる結果となる
o﹂ことがあげられている︒
そこで︑民訴法上の問題としては︑ つまるところ︑処分禁止の仮処分中の物件に対し︑仮処分義務者に対する他の
債権者が︑その一般債権に基づいて執行した場合︑仮処分と強制執行のいずれが優先するかということになるであろ
か
っ0 ( 7 )
まず︑判例の動向を眺めてみよう︒大審院は︑はじめ︑仮処分権利者甲が他の債権者乙のなした強制執行に対して
異議を主張せず︑乙の強制執行が終了した以上乙は甲にその権利を対抗し得るとしていた︒たとえば前掲昭和二年四
月一二日判決は︑﹁:::仮処分権利者ハ民事訴訟法第五四四条ノ規定一一依リ強制執行ノ方法一一関スル異議ヲ主張スル
コトヲ得︒﹂といい︑大審院決定昭和三一年六月二一日(評論一八巻民訴三七頁)においても︑
﹁ 一
譲 渡
禁 止
の 仮
処 分
中 の
電話加入権に対し他から差押を受けたときは︑執行方法の異議の申立をすることができる﹂とされている︒然しなが
ら︑これらの判例に於ては︑いずれも仮処分権利者が何ら異議を主張することなくして強制執行による処分が完了し
たときは︑その処分は有効であり︑これにより権利を取得した第三者が仮処分権利者に対してその権利を対抗するこ
とができるものとされたために︑仮処分権利者に於て強制執行に対して民事訴訟法第五四四条による異議を主張する
機会が与えられなかった場合に︑仮処分権利者に実際上不利益を蒙らしめることになる口そこで後に︑仮処分権利者
甲が他の債権者乙の強制報行に対して異議を主張したと否とを問わず︑譲渡禁止仮処分による保全と相容れない範囲
において乙は実体上強制執行の結果を仮処分権利者たる甲に対抗できないとするに至った︒前掲大審院判決昭和四年
四月三
O日(民集八巻四二一一貝)は強制執行手続終了後に関するものであみが︑前掲大審院制決定昭和八年四月二八
日(民集一二巻九号八八八頁)は︑強制執行手続終了前に関して︑﹁:::然レドモ︑右強制競売手続ニ依ル譲渡ハ之
ヲ以テ仮処分権利者ニ対抗スルコトヲ得ザルモノナルヲ以テ︑仮処分権利者ハ右強制執行ノ目的物ノ譲渡ヲ妨グル権
利ヲ有スルモノニシテ︑民事訴訟法第五四九条ノ規定ニ依リ該強制執行一一対シ異議ヲ主強スル権利ヲ有スルモノト解
スルヲ相当トスルノミナラズ︑仮処分権利者ハ民事訴訟法五四四条ノ規定ニ依リ強制執行ノ方法ニ関スル異議ヲモ主
張スルコトヲ得ルモノト解セザルベカラズ︒:::﹂として︑先行的仮処分と強制執行の優劣の問題につき︑ともかく
処 分 禁 止 の 仮 処 分 と 不 動 産 物 権 の 変 動 二 四 五
経 営 と 経 済
二 四 六
も仮処分権利者優位の線で一応の終止符をうたれもたのとみられる︒そして︑その立場は現在なお踏襲せられている
(電話加入権につき福岡高裁判決昭和三五年八月九日高裁民集二ニ巻五号二五頁︑不動産につき仙台高裁決定昭和三
六年一一月七日高裁民集一四巻七号五
O五 頁
) ︒
乙の点︑学説はどうみているであろうか︒一説にあっては︑わが国の強制執行法が平等主義を徹底している乙と︑
譲渡禁止の仮処分は文字通り債務者に任意の譲渡行為を禁じるのみで︑それ以上に債権者になんらかの優先権ないし
優先的地位を与えるものではないことを根幹として次のように説いている︒すなわち︑譲渡禁止仮処分は将来の強制
執行のために現状の保全を目的とするもので︑仮処分債権者甲のためその本案の請求に何ものかをプラスするもので
はなく︑本来平等である他の債権者乙に対して何らの優先的地位を与えるものではないから︑右仮処分も債務者の任
意処分を禁ずる効力があるに止まり︑他の債権者乙が目的物に対してなす強制執行は右仮処分により制肘せられる限
りではなく︑乙は強制執行による権利取得をもって完全に甲に対抗し得るとする︒
右の説はさらに︑他の債権者に対して優先的地位を得ようと思う者については︑不動産に関する限り仮登記仮処分
の制度があること︑判例のように仮処分優位説をとる場合は︑確定した債務名義による強制執行を︑疏明をもって筒
易迅速に許される暫定的処分である仮処分によって左右することとなり︑不当であるとし︑また︑仮処分債権者は多
くの場合に他の債権者の強制執行に対し第三者異議の訴を主張しうるのであるから︑それによる救済を求めうること︑
n u
などを主張すら︒
右の説に対し︑他の説は︑次のようにいう︒平等主義がわが国の強制執行法の原理となっているといっても︑それ
は金銭債権執行の範囲内における乙とであって︑その範囲を出れば︑あるいは金銭執行に他の問題がからまってくる
ときには︑それぞれの状況の特殊性において合理的判断を下すべきであって︑譲渡禁止仮処分は︑本来︑強制執行に
よる処分であっても︑債務者の財産として処分せられることを防止することによって自己の権利を保全するものであ るから︑その権利の終局的満足を害する範囲で一切の処分の効力を排除する意味で優先的地位を債権者に与える結果
となるのも︑仮処分の機能上本来当然である︑と︒
その根拠として主張するところは︑強制執行の手続開始ならびに進行を仮処分債権者において党知しえない場合が 多いこと︑不動産につき順位確保のためには仮登記仮処分を利用すべしといっても︑仮登記仮処分が発せられる場合
は限定せられ︑その日認容も厳格であって︑順位保全のために必ずしも十分ではないこと︑また現在の不動産登記法に
関する登記手続上の扱いや当事者の意図から考えても︑両者間に要件︑手続の差異はあるが︑処分禁止仮処分にも仮
登記仮処分と同一の効果を認めて︑当事者が選択し得ると解すべきこと︑にある︑ということである吋
( 5 ) ( 4 ) ( 3 ) ( 2 ) ( 1 )
中 務 俊 昌 ・ 譲 渡 禁 止 仮 処 分 の 目 的 物 に た い す る 強 制 執 行 の 許 否 ・ ジ ュ リ ス ト 三 百 号 記 念 学 説 展 望 三 七 二 頁 ︒
申 務
・ 右
掲 二
七 二
頁 ︒
佐々木吉男・仮処分と強制執行・別冊ジュリスト続判例百選第二版一三 O 頁
中 務
・ 前
掲 二
七 二
頁 ︒
中 務
・ 前
掲 二
七 二
頁 ︒
なお︑最高裁判決昭和三七年六月八日民集一六巻七号一二八三頁は︑処分禁止仮処分違反行為の相対的無効を説き︑物件を買 受けた第三者は登記を経ても仮処分債権者に対して所有権取得の効力を対抗できないが︑仮処分の登記が適法に抹消されたと
き は 爾 後 そ の 効 力 を 対 抗 す る こ と が で き る ︑ と す る ︒ 佐々木・前掲二三頁︒
佐 々 木 ・ 前 掲 二 ニ O
頁 ︒
佐々木・前掲ご三頁︒
( 8 ) ( 7 ) ( 6 )
処分禁止の仮処分と不動産物権の変動
二 四
七
経 営 と 経 済
二四八
u o ) ( 9 )
中務・前掲二七三頁︒
中務・前掲二七三頁︒
仮処分登記と移転登記
不動産を買受けた乙が売主甲が移転登記手続をなさないので︑移転登記手続を求める訴訟を起すきい︑売主が
第三者丙にその不動産を処分して登記手続がなされてしまうと︑勝訴判決を得てもその目的を違することができない
から︑訴提起前または同時に次のような仮処分がなされるのが普通である︒その内容は︑ ﹁債務者甲は不動産に対し︑
譲渡︑抵当権︑賃借権等の設定その他一切の処分をしてはならない﹂というのが普通で︑右仮処分命令は裁判所の嘱
託で登記がなされあがしかし︑乙の命令の効力が絶対的のものでなく︑相対的のものであることが現在の通説・判例
であることは既にみた通りである︒したがって︑甲は右仮処分の登記後も︑右不動産を丙に処分しても絶対的に無効
ではなく︑仮処分債権者である乙に対抗できないだけなのである︒そこで︑乙の移転登記を請求する本訴が敗訴する
等の原因で︑仮処分が取消された場合には︑丙が無条件に右不動産の所有権を取得し︑乙の本訴が勝訴し登記さえす
れば︑丙は甲に絶対的に所有権の主張ができなくなる︒丙の地位は右のようなものであるから︑後に乙の関係で抹消
されることになることがあるにせよ︑乙以外の第三者の関係もあるから︑丙の所有権取得について登記をなす必要が
あるとされるのである︒
判例は︑早くから丙のために登記をなすことを認めており(大審院判決大正一二年五月二一日民集二巻一ニ
O五 頁
︑
道話加入権につき大審院判決昭和一四年七月一九日民集一八巻七六一頁)︑右判決に対しては学者も賛成していた(
末弘・判民大正一二年度五九事件︑来栖・判民昭和一四年度五三事件︑吉川・民商一
O巻 一
O
三九頁)︒けれども登
記所の取扱いでは︑丙の登記を認めなかったが︑昭二四年四月一日に︑民事局長通達によって初めてこれを認めるよ
うになった︒しかしながら︑登記所の取扱いでは︑甲から丙へ移転登記がなされてしまうと︑乙が甲に対する所有権
移転登記を求める勝訴判決が確定しても︑不動産は登記簿上丙名義で甲名義ではないから︑乙の右判決による登記申
請は却下されていた(不登法四九条六号)︒したがって︑乙は丙に対し︑取得登記の抹消求の訴訟を起し︑勝訴判決
を得て抹消した上でないと︑甲からの移転登記ができなかったのである︒すなわち︑乙は結局目的を達しはするが手
数がかかり仮処分をした効果は半減していたのである︒
ところが︑昭和二八年一一月一二日に法務省民事局長通達で︑次のように取扱りが改められた︒右通達は第一項で︑
﹁甲所有の不動産につき︑仮処分権利者乙のため譲渡その他一切の処分禁止の記入登記に次いで︑丙に対する所有権
移転の本登記がなされた後︑甲から乙への所有権移転の登記を申請する場合には︑その前提として又はその申請と同
時に︑甲から丙への所有権移転の登記のまっ消を申請する乙とを要する﹂とし︑その第二項では︑ ﹁前項の場合にお
いて︑甲から丙への所有権移転のまっ消を申請するには︑甲から乙への所有権移転の登記の申請と同時に申請する場
合に限り︑乙単独で申請することができる︒この場合には︑登記所は︑不動産登記法第四七条第一項但書の規定によ
り同一の受付番号をもって登記することを要し︑若し甲から乙への所有権移転の登記を却下すべきときは︑甲から丙
への所有権移転の登記まっ消の申請をも却下すべきである﹂といっている︒
しかしながら︑右の登記所の取扱いについては︑ 一つは︑仮処分債権者の保護が十分にされて︑むしろその保護が
厚すぎるのではないか︒というのは︑登記の申請は判決または相続による登記以外は︑当事者の申請によってなされ
なければならないのに(不登法二五条︑二八条)︑この場合には︑丙の申請がないのに︑乙のみの申請によって丙の
登記を抹消している点が問題とされ︑また︑乙からの申請が仮処分の本案訴訟の判決による場合に限定するのならま
処 分
禁 止
の 仮
処 分
と 不
動 産
物 権
の 変
動
二 四 九
経 営 と 経 済
だ問題は少いが︑現在の取扱いは︑乙が和解調書によって申請する場合にも︑訴訟に関係なく甲乙の共同申請による
ワ 臼
場合にも丙の登記の抹消している点が疑問視されている︒
二民法第一七七条にいう対抗の意義については︑種々議論の多いところであるが︑舟橋教授にしたがって学説を
向 ︒
分類すれば次の如くになっている︒
第一説(債権的効果説)登記がなければ︑当事者間にも物権変動の効果を生ぜず︑単に債権的効果を生ずるにすぎ
二 五
O
pι10
&
'1 11 v
第二説(相対的無効説﹀登記がなくても︑当事者間では完全に物権変動の効力を生ずるが︑第三者に対する関係で
は︑全く物権変動の効力を生じない︒さらに乙れは次のように分れる︒
ω第三者の側から認めることも許されない︒
ω第三者の側から有効と認めることはできる︒
ω第三者に対する関係では︑第三者の利益と抵触する範囲内で物権変
動の効力を生じない︒
ω内部関係では無権利者︑外部関係上はなお﹁関係的所有権﹂を保有する︒
第三説(不完全物権変動説)登記のない限り当事者問︑対第三者間で物権変動は完全な効力を生じない︒
第四説(第三者主張説)登記がなくても︑物権変動は当事者問︑対第三者間では完全に効力を生じ︑ただ︑第三者
側から一定の主張があれば第三者に対する関係ではその効力がなかったものとされる︒これはさらに次のように分れ
る ︒
ω登記欠散の積極的主張ないし否認権の行使(いわゆる否認権説)︒
ω登記欠散の積極的主張であることを要し
ないが︑当事者間の物権変動と両立しない事実の主張を要する︒
右の諸説は︑前のものから後のものへと次第に︑第一の譲受人の取得する権利が大きくなり︑その反面︑甲が第一
の譲渡によって保有すふ程利が小さくなる
oその意味では︑後のものほど第一七六条に強い(文字通りの)効果を認 4 めるということになろう︒
不動産に関する物権変動は︑登記をしなければともかく第三者に対抗できないので︑第三者の範囲が問題にな
↓ ︒ ︒
判例は︑明治四一年一二月一五日の大審院連合部判決以来︑﹁登記欠歓ヲ主張スル正当ノ利益ヲ有スル者﹂に限る
との立場を維持している︒学説も今日では通説は大体において判例の態度を支持する︒ただし︑具体的な標準につい
( 日
) ま
ず ︑
物 権
は 絶
対
ては相当広い範囲で判例に反対するものもあるのは勿論である︒ところで右の連合部判決は︑
権だから︑第三者を一括してすべての第三者に対抗しえないと画一的にするのがその性質に合するようだが︑登記を
もって物権変動の効力発生要件としなかった民法のもとでは︑その立法の趣旨に従ってこれを制限する乙とも決して
不 合
理 で
は な
い ︒
( 即
日 )
対 抗
と い
う の
は ︑
利害関係の ﹁彼此利害相反スル時ニ於テ始メテ発生スル事項﹂であるから︑
ない者は本条の第三者に該当しない︒(目立)﹁本条制定ノ理由ニ視テ其規定シタル保障ヲ亨受スルニ値セザル利害関係
ヲ有スル者ハ又之ヲ除外スベキハ蓋疑ヲ容ルベキニ非ズ﹂︑かかる理由をあげた後︑﹁由是之ヲ観レバ︑本条ニ所謂
第三者卜ハ当事者若クハ其包括承継人ニ非ズシテ︑不動産一一周川ハル物権ノ得喪及ピ変更ノ登記欠歓ヲ主張スル正当ノ
FD
利益ヲ有スル者ヲ指称スト論定スルヲ得ベシ﹂というのである︒
第三者の範囲について本稿で問題となるのは債権者との関係であるので︑その点について考察してみたい︒債権者
のうち︑賃借権者は占有権限の優劣という特殊な利害関係のあるため第三者とさ炉るのには異論がないとしても︑そ
にU
の他の特定物引渡債権者や一般債権者が第三者であるかには微妙な問題がみられる︒
判例は︑明治四一年の連合部判決が﹁同一不動産ヲ差押ヘタル債権者若クハ其差押ニ付テ配当加入ヲ申立テタル債
権者﹂は第三者である旨を説き︑そのことから従来︑特殊の関係を取得した債権者については一般に第三者と解して
いる︒もう少し詳しくいえば︑
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禁 止
の 仮
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と 不
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物 権
の 変
動
二 五
経 営 と 経 済
二五二
ω差押債権者︑配当加入申立債権者︑仮差押仮処分債権者︑破産債権者
113
差押債権者︑配当加入申立債権者
は不動産の所有権を取得しても︑その取得の登記がなされていない以上︑同不動産の差押債権者に対し︑所有権の取
得を対抗することができない︒配当加入を申立てた債権者に対しても同様である︒(即日)仮差押︑仮処分債権者たとえ
ば︑未登記不動産の譲渡を受けた者も︑その登記をしなければ︑同不動産につき仮差押の登記をした譲渡人の債権者
に対し︑所有権の取得を対抗することができない︒また︑本稿でとくに問題としている︑処分禁止の仮処分前になさ
れた処分行為に基づいて権利取得の登記がなされた場合でも︑その登記が仮処分の登記後になされたときは︑これを
もって仮処分債権者に対抗することはできないとされている︒(医)破産債権者不動産の譲渡を受けた者がその登
記をしない聞に譲渡人が破産したときは︑譲受人は破産債権者に対し所有権の取得を対抗することができない︒
不動産競売の売得金から配当を受けた債権者は︑競落人に競売による取得について 制すでに配当を受けた第三者
の登記がなくとも︑登記の欠散を主張するにつき正当の利益を有する第三者ということはできない︒
料相続の限定承認の場合の相続債権者被相続人から不動産の譲渡を受けた者が︑その登記をしない聞に相続が開
始し︑相続人が限定承認をしたときは︑譲受人は相続権者および受遣者に対し︑所有権の取得を対抗することができ
ない︒限定承認は相続債権者全員のための相続財産の差押ないしは相続財産の破産開始と同視されるわけである︒
同詐害行為取消の訴を提起した債権者債権者が債務者の不動産処分行為を詐害として︑その取消の訴を提起した
場合には︑当該不動産に抵当権を有する者も抵当権が未登記のときは︑これを債権者に対抗しえない︒
同特定債権者特定不動産につき単に所有権などを移転させる債権だけを取得した者︑たとえば︑立木の所有権を
自己に移転させる債権を有するにすぎない者も︑同一立木の所有権を譲り受けた他の者が所有権に基づパ主張する場
合には︑その対抗要件(明認方法)の欠散を主張する正当な利益を有する第三者に該当する︑とされる︒
付明治四一年の連合部判決は︑債権者について︑特に差し押えた債権者または差押に付て配当加入を申し出た債権者
と限定的な説明をするので︑単なる一般債権者は第三者に含まれないと解する余地がみ旬︑その趣旨を述べた判例も︾
︒ ︒
ある
oこの点について︑学説が肯定説と否定説に分れていることは周知の如くである︑何重要な理論的対立があるよ
うに思われる︒
判例の態度はあくまで個々的に当事者︑第三者の関係を比較して正当性の判断を試みる
Dその問︑学説にはこれら
に何らかの標準を類型化しようとする傾向が強く︑一面では問題を第三者の性質論から︑未登記物権変動や取得物権
の性質論や︑相衝突する利害ないし対抗問題の範囲論に移そうとする傾向もみられる︒ともあれ︑判例は終始正当性白
の具体的判断に頼っている︒したがって︑若干の問題点は残しているとしても︑法の解決が終局的には一一砲の利益衡
呈に立つものであることを田安ば︑判例の立場はこの点で問題の本質にふれており︑そのゆえに長い生命を持続して︑
n u
いるものともいえるであろう︒
( 8 ) ( 7 ) ( 6 ) ( 5 ) ( 4 ) ( 3 ) ( 2 ) ( 1 )
村 松 俊 夫 ・ 処 分 禁 止 の 仮 処 分 の 登 記 と そ の 後 の 登 記 ・ 法 律 時 報 二 八 巻 一 一 号 六 八 頁 ︒
村 松
・ 前
掲 六
九 頁
︒
舟 橋 諒 一 ・ 物 権 法 一 四 一 頁 ︑ 我 妻 栄 編 ・ 判 例 コ ン メ シ タ ー ル E
物 権
一
O
ニ 頁
以 下
︒
我 妻
・ 前
掲 判
例 コ
ン メ
ン タ
ー ル
E 物
権 一
O 三
頁 ︒
我 妻
・ 前
掲 八
一 頁
︒
林 良
平 ・
民 法
一 七
七 条
の 第
三 者
・ 別
冊 ジ
ュ リ
ス ト
判 例
百 選
第 二
版 四
一 頁
︒
我 妻 ・ 前 掲 八 八 頁 ︒ も っ と も 学 説 に は 反 対 が あ る こ と は 周 知 の 通 り で あ る ︒
肯 定
説 は
︑ た
と え
ば 我
妻 ・
講 義
九 九
頁 ︑
末 川
︑ 物
権 法
一 一
O 頁 な ど ︒ 否 定 説 は ︑ 柚 木 ︑ 判 例 物 権 法 総 論 ニ O ニ 頁 ︑ 舟 橋 ・ 前 掲
一 九
九 頁
な ど
︒
林 ・
前 掲
四 一
頁 ︒
( 9 )
処 分 禁 止 の 仮 処 分 と 不 動 産 物 権 の 変 動
二 五
三
経 営 と 経 済
二五四
四 む
す ぴ
以上︑仮処分とそれに違背してなされた任意処分ならびに強制処分について︑不動産を中心にそれらの関係を簡単
に考察したわけである︒しかしながら仮処分にいわゆる相対的効力を認めながら︑したがって所有権移転の登記がな
きれながら︑仮処分債権者に対抗できないとする結論がでてくることについて充分な理論的説明が与えられていない
ように思われる︒
す な
わ ち
︑
実体法上の権利変動にいう﹁対 民訴法上の取り扱いとしての﹁対抗﹂という意味と︑
抗﹂という意味とが混同されて使用されているのではないかとの疑問が抱かれるものである︒実体法││民法
1 1
の
上では権利変動の対抗要件としての登記にといっておきながら︑登記がなされているにかかわらず﹁登記なくば対抗
し得ない第三者﹂のなかに仮処分権利者が含めて述べられている口
また︑民訴法ーーー強制執行
1 l
の上でも︑実体権が移転し移転登記が了されておりながら︑仮処分権利者にそれを
対抗できないといわれるが︑それが如何なる意味であるのか必ずしも明確ではないように考えられる︒
右のような疑問についての詳細な論述はことではなし得ないが︑ 一応つぎのようにむすぶことができるであろう︒
処分禁止の仮処分は︑相対的に債務者の他人への処分行為を制限するだけであって︑仮処分権利者は民法第一七七条
にいうような﹁第三者﹂には該当しないものではなかろうか︒けれども︑仮処分の日的からいってその禁止する処分
行為なるものは︑第三者に対抗し得る行為を主眼とすることが明らかであるから︑対抗要件を具備させる行為
1 1
覚
記ーーも︑本来ならば禁止されるべきものであろう︒ただ︑仮処分失効などの場合を考えると︑登記そのものを禁止
するわけにはいかないので︑登記をすること自体は許すものである︒したがって︑同じく﹁対抗
Lといっても︑これ
ヮ