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(1)

ウルリッヒの企業政策論

菅家正瑞

(2)

ウノレリッヒの企業政策論

一、序

一、序

二、企業管理と企業政策 三、企業政策の展開過程 四、企業政策の実現過程 五、ウノレリッヒの所論の検討

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403 

西ドイツの経営経済学が,その伝統的基盤に立ちつつも,いわゆるアメ リカ経営学の研究成果を積極的に取り入れ,面白を新たにしつつあること は周知の事実であるO 経営政策論 (Betriebspolitik)や企業政策論 (Unt ernehmungspolitik)と称される経営経済学のー研究領域においても,事情 は同じであるoアメリカ経営学に影響を受けた企業目標論あるいは経営戦略 論に関する研究成果は,それを物語っている。本稿で取り上げる,ウノレリッ

(H. Ulrich)の著, r企業政策論.] (Unternehmungspolitik, 1.  Auf1.  Bern u.  Stuttgart 1978)も,その中の一つであるD しかも,彼は,経営経 済学の伝統的名称である企業政策のもとで,その体系的叙述を行っている のであって,西ドイツの伝統的基盤の上に積極的にアメリカ経営学を取り入 れた企業政策論であると解されるのである。一般的経営(企業)政策論は,

既に,ザンディッヒ (C. Sandig) ,フィッシャー (G. Fischer) ,メレロ ヴィッツ (K. Mellerowicz)によって展開されているのであるが,それら は,アメリカの管理論の影響を受けつつも,その内容は極めてドイツ的であ

(2) 

o jレリッヒは,概念的には彼らと同一線上にありながら,内容的には,

ドイツ的色彩が混入しているとしても,アメリカ的色彩が色濃く出ていると 思われるのである。以下, jレリッヒの所論を具体的にみていく乙とにす

(1) 中村常次郎,鈴木英寿,小島三郎(編), r現代ドイツ経営学説j,同文舘,昭和 55年,1. 現代ドイツ経営学, 2. な思決定論,を参照のこと。

(3)

(2)  以下を参照されたい。

『同掲書J, 2.  意思決定論, B. 企業戦略論。

c.  Sandig, Die Fuhrung des  Betriebes,  1 Aufl.  Stuttgart  1953.  Betriebswirtschaftspolitik, 2.  Auf1.  von "DiFuhrung des Betriebes,  Betriebswirtschaftspolitik  Stuttgart 1966. 

G. Fischer, Po1itik  der Betriebsfuhrung, Stuttgart 1962. 

K.  Mellerowicz, Unternehmenspolitik, 1. 2.  3.  Bd., Freiburg im  Breisgau 1976, 1965, 1971. 

拙稿, r管理意思決定の理論としての経営経済政策論ーーザンデイツヒの所論を 中心として一一Jr経営と経済J,第61巻第l号,昭和566

rフィツシャーの経営政策論(上)()JrJ,第61巻第4号・第62 第 1号,昭和573月・ 6

r処理学としての経営政策論一一メレロヴィッツの所論を中心として一一 (上)()JrJ,第63巻第2号・第4号,昭和58年9月・昭和593

二、企業管理と企業政策

ひとが「企業政策J(Unternehmungspolitik)について語る時,そこに どのような内容を理解するだろうか。なるほど,企業政策は,将来の企業現 象を長期に渡って本質的基本方針において決める基本的意思決定の全体であ り,それを決定することは最高企業管理の最も重要な職分であるということ に関しては,ひとは大体において一致するかもしれない。しかし,企業政策 的意思決定の具体的内容の問題に一歩足を踏み入れるならば,そこに認識の 一致を見い出すことは極めて困難であることに気がつくにちがいないであろ oあるひとは,そ乙に,一般的な企業哲学や管理哲学を理解し,締麗に印 刷された P R用のパンフレットを連想するかもしれないし,またあるひと は,具体的に決定された最高企業目標を理解したり,より狭く考えて,設定 された目標を達成するための方式規則を思い浮かべるかもしれない。更にま た,企業政策が企業全体の中でいかなる具体的関連性を有すべきなのかとい う問題に関しても見解の一致が得られてはいない。従って,合理的な企業政

(4)

ウノレリッヒの企業政策論 405 

策を展開し実現するための方式について論議が進められることもないのであ る。ウルリッヒがその企業政策論を展開する出発点は,乙のような企業政策 をめぐる見解に対する状況判断にある。彼は,従来の企業政策論に次のよう な,抽象性,孤立性,非合理性という三つの欠陥を指摘するo

まず第lに,企業政策の概念が抽象的であり,その具体的内容に之しい乙 とである。すなわち,企業政策は,単なる「哲学Jもしくは「事業倫理」と してしばしば理解されており,それは,確かに道徳的意思表示としては重要 なのではあるが,将来に努力すべき具体的な目標や守るべき規則を何も示し ていないのであるO また第 21乙,企業活動全体の中での企業政策の関連性が 顧慮されないで,それ自体のみが孤立して取り扱われていることであるo なわち,企業政策が, しばしば孤立的に「別個のものJとして理解されるの で,企業政策的意思決定に続くべき具体的意思決定に継ぎ目なく結びつける 努力が怠られるのである。そして第3に,企業政策に関して合理化が進めら れないことであるoすなわち,企業政策的意思決定が,しばしば個人の創造 的直観的洞察の結果として理解されるので,企業政策的意思決定を合理的に 行うための方法を展開することが重視されないのである。

このような,企業政策論に関する現状認識が,おのずからウルリッヒの課 題を形成することとなるD すなわち,企業政策の具体的内容を明らかにする とともに,それを企業活動の全体関連性の中で位置づけ,その意思決定過程 を客観化し合理的方法を示す乙とがそれであるo彼は,その著書の目的に関

(2) 

して r実践で企業政策を展開するための構想と方式を叙述する乙とJとの べているのであるが,企業政策の「構想J(Konzept)と「方式J(Vorge hensweise)の叙述において,まさに乙のような課題が解決されるものと考 えられる。その場合,彼の意図は,決して理想的企業政策を呈示することに あるのではなく,企業政策の実践に実践的方式を示すという,極めて実践的 で技術的な課題を負うものであることが注意されなければならない。

さて,まずわれわれは,企業政策の「構想」に関するウJレリッヒの見解を 明らかにしなければならない。企業政策の「方式」は

r

構想」という基本

的枠組が明らかになってはじめて,それを前提として展開されうるものと考

(5)

えられるからであるo jレリッヒの企業政策「構想Jの基礎にあるのは,

システム論とサイパネテックスの認識が採用された「統合された管理」

(integrierte Fuhrung)のモデルであり,そこでは,企業政策は,包括的 な全体管理システムの不可欠な部分システムをなしているのである。乙の管

(4) 

理モデノレに基づいて,企業政策が次のように説明される。

まず,乙のモデノレでは,企業は環境適応システムとしての社会的制度とし て把握されていることが注意されなければならない。すなわち,企業は,生 産的社会的システム (einproduktives soziales  System)であると同時に,

開放的社会的制度 (eineroffenen, gesellschaftsbezogenen Institution)  であり,常に環境との相互依存的関連性の中にあり,その目標設定と行動の 自律性が制限されているのであるD 企業管理 (Unternehmungsfuhrung) 乙の生産的社会的システムの形成 (Gestal tung)と運営 (Lenkung) の行為の総体であり,それは,管理システム (Fuhrungssystem)として,

執行 (Ausfuhrung)という具体的な市場給付の生産活動を営む作業システ (operativesSystem)と一体となって企業システムを構成するD

さて, ウルリッヒは,管理過程を

r

機能J(Funktionen), 

r

階層J (Stufen), r段階J (Phasen)という三つの次元から分析し,企業管理 を立体的に捉え,そこに得られた認識を基礎にして,企業政策を考察してい

o

管理過程は情報処理(Informationsbearbeitung)の 過 程 で あ り , そ れはまた,意思決定 (entscheiden),実行(in Gang setzen) , 統 制 (kontrollieren)という機能の循環過程をなしている口管理とは,入力情報 を出力情報に変形し,出力情報を執行的システムに引き渡し,執行的システ ムの情報を統制情報として入力し処理するシステムとみなされるoすなわち,

入力情報として重要な事実に関する基礎情報が管理システムに流入し,努力 さるべき成果(理想値 Sollwerte)とそのために必要な手段に関する意思決 定 が 行 わ れ るo 乙の固有の意思決定過程は情報処理過程であり,決定され た手段が出力情報として命令等の規範の形で執行的システムに伝達されるの が実行であるD そして,実際の活動と達成された成果〈実際値 Istwerte)

(6)

ウルリッヒの企業政策論 407 

に関する情報が統制情報として管理システムに流入し,乙れが先の意思決定 と比較されて統制が行われ,新たな情報処理過程が再び始まるのであるo

また,企業管理は階層的な過程であり,それは,企業政策,計画(Planung) 処理 (Disposition)という三つの階層に区分され,それらは,全体システム である企業管理システムの部分システムをなしているのであるo管理の最下 階層の処理システムでは,執行的活動の直接的な指導が行われるo この階層 における個々の処理的意思決定や命令は,執行的活動が調和し一定の意図に 向けられるためには,さまざまな計画の中で秩序づけられなければならない から計画システムが処理システムの上に重ねられるo計画システムでは,

いろいろな期間のさまざまな計画が設定されるのであるが,それらは与えら れた範囲条件すなわち計画方針 (Planungsricht1inien)によって制限され ているo計画方針は,最上位システムである企業政策システムの最も重要な 出力情報であり,その内容は,計画設定にあたって守らるべき一般的長期的 な最高目標と原則であるo

管理過程は意思決定過程をなすのであるが,意思決定の対象が関連せしめ られると,そ乙に,管理過程の段階が把握されるoすなわち,意思決定は,

努力さるべき目標 (Ziel) ,投入さるべき手段 (Mittel) ,用いらるべき方 (Verfahren)に関連し,これらの三つの意思決定範鴎は内容的に相互に 関係しており,目標のみならず,手段と方策が決定されてはじめて全意思決 定過程が終わるのであるO そこで,ここに,目標,手段,方策という,管理 過程の段階が区分されることになる。

以上が, ウノレリッヒの位・理モデノレの概要であるD この管理モデノレを,階層 的にみるならば,図 1のように示されるであろうo このモデJレに基づいて,

企業政策へと考察が進められていくのであるが,まず,企業政策の基本的で 一般的な特質を見てい乙うo

まず,企業政策は最上位のむ理階居であるから,企業政策的意思決定は,

根源的,一般的,長期的な特質を有するものであるo 企業政策的意思決定 は,企業の最高位の13思決定であり,全てのな思決定の出発点である根源的 (originar)志思決定なのであるO それは,環境によって制限される企業の

(7)

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1 管理の階層

自律性の中で,最も大きな自由度をもった,最高階層の企業者的意思形成な のであり,まさに,目標関数を決定することなのであるo更に,企業政策的 意思決定は,具体化の度合は少なく,一般的 (al1gemein)なものであり,

企業全体に関連するものであるD 従って,それは,直接的に執行的活動に転 換されるのではなく,方針あるいは範囲決定として計画と処理の階層に与え

(8)

ウノレリッヒの企業政策論 409 

られ,それらの意思決定の自由を制限する。企業政策は,包括的管理過程の l階層であり,計画と処理の意思決定によって具体化されなければならな いのである。そして,企業政策によって,将来の企業行動の基本方針が長期 的に決定されるのであり,それは,長期的 CIangfristig)に有効な意思決定 なのであるo

l乙,企業政策的意思決定も,目標,手段,方策の三段階に関連するが,

乙の最高管理階層で決定さるべき乙とは次のものである。まず,長期的で一 般的な企業目標が決定されなければならない。その場合,企業目標は単一で はなく,多くの目標を含む目標体系の観念に基づいていることが注意されな ければならない。次に,手段に関する企業政策的意思決定では,企業が長期 的に使用しうる給付能力 (Leistungspotential)が決定され,方策に関して は,長期的目標の達成のために用いらるべき基本的な戦略 (Strategien) 決定されなければならない。現実的目標設定は,投入される給付能力と使用 される戦略の裏づけによってはじめて可能となるから,企業政策の階層にお い7ても,乙の三つの管理の段階は意思決定過程の必要な要素なのであるo

吏に,企業政策の意思決定は確かに極めて重要な機能ではあるが,それで 終わるのではなしそれが実行に移され,達成された成果が統制されなけれ ばならない。実行と統制の機能が,意思決定と結びつけて行われなければ,

それが企業所属者の活動に何の影響も及ぼさない危険が極めて大きいこと は,企業政策の階層では特に強調されなければならないのである。従って,

企業政策は,計画システムと処理システムと一体になって,包括的な管理シ ステムに統合化されなければならないのであるD

乙のように,ウノレリッヒは,その管理モデルに基づいて,管理過程の三次 元,すなわち,管理の階層,段階,機能の側面から企業政策の一般的な特 質づけを行っているO そこでは,企業政策は,統合された管理システムの不 可欠の部分システムとして位置づけられており,管理システムの全体的関連 性の中で企業政策と他の部分システムの結合を確保し,その具体的内容を充 実させるという既述のi果題に答え,そしてこのような構想の中で合理的方式 を示すことを意図しているものと解されるのであるo

(9)

企業政策は,更に企業モデノレとの関連からも特質づけられるD 企業は開放 システムとして把握されていたが,その場合,企業政策で最も重要なとと は,企業環境との精神的対決である。企業の内部要因は影響しうるが,環境 は本質的に影響しえない要因であり,従って,外部の要請に対して企業の全 体行動を調整すること,すなわち適応 (Anpassung)が企業政策にとって 最も重要である。企業政策の目標は,企業と環境との聞に継続的均衡を達成

し,変化する環境の中で企業の存続を確保する乙となのであるo

また,企業は生産的システムであり,元来経済的給付の生産のためのシス テムであるから,企業にとって最も重要なことは,市場に合致した給付を決 定する乙とに外ならないであろうD 従って,市場や市場給付に関する,企業 の将来にとって基本的な意思決定は,企業政策に属するのである。

以上,ウノレリッヒは企業政策の特質を極めて概略的に述べているのである が,われわれは,こ乙に,企業政策の本質的特質を把握することができるo

すなわち,企業政策は,環境適応システムとしての企業の中核をなすものに 外ならず,環境適応による企業の維持存続のための本質的手段であるという ととであるo更に,企業政策的意思決定は,企業目標のみならず,そのため の手段と方策にも関連し,しかも,意思決定を行うだけに止まらず,その実 行と統制へと進まなければならないことが注意されなければならない。以 下,更に詳しく見ていくととにするが,その場合,企業政策の意思決定過 程,すなわち,企業政策の展開過程と,企業政策的意思決定の実行と統制の 過程,すなわち,企業政策の実現過程とが区別されて考察されるo

(1)Vgl.  H.  Ulrich, Unternehmungspolitik, Bern  u.  Stuttgart 1978,  S. 1l"'13. 

(2)  Ulrich, a.  a.  0., S.  5.  (3)  Vgl.  Ulrich, a.  a.  0., S.  5. 

(4)  ウルリッヒの「管理モデノレ」に関する説明は,彼の著書の13"'18頁に拠った。

(5)  Ulrich, a.  a.  0., S.  16. 

(6)  以下の企業政策の特質に関する論述は,ウjレリッヒの著書の18"'21頁に拠っ f

(10)

lレリッヒの企業政策論 411 

三、企業政策の展開過程

管理活動は問題解決過程であり,それは,問題解決を選択する精神的局面 と,問題解決を実現する行動関連的局面とに二分され,前者の局面が意思決 定過程と称され,後者の局面が実施過程 (Prozessder Implementierung) 

と称されるのであるが,ウノレリッヒによれば,企業政策もまた一つの問題解 決過程に外ならず,従ってそれも,二つの部分過程に区分されうる乙とにな o企業政策の意思決定過程はまた,展開 (Entwicklung)の過程と称され,

(1) 

後者の過程は実現 (Verwirklichung)の過程と称されているのであるが,

展開過程は,管理過程の意思決定の機能に,実現過程は,同じく実行と統制 の機能に相応するものと解されるであろうO ここでは,まず, IlIJ者の,企業 政策の展開過程である意思決定過程を取り上げる乙とにしようo

既述の如く,ウノレリッヒは,管理システムを情報処理システムとして捉え ており,従って,企業政策システムもまた情報処理システムに外ならず,企 業政策的意思決定過程は情報処理過程をなすのである。すなわち,インプッ

トとして,重要な事実に関する情報が,企業政策システムに流入し,それら がそこで適切な方法で企業政策的意思決定に処理され,アウトプットとし て,意思決定が計回方針等として産出されるのであるD それでは,まず,ア ウトプットとしての企業政策的意思決定は,いかなる性格を有し,どのよう な内容のものなのであろうか。

ウルリッヒによれば,企業政策的意思決定には,次のような一般的必要条 (allgemeineAnforderungen)が要求されるというO それらのものは,

普遍妥当性,本質性,長期的有効性,完全性,真実性,実現可能性,緊密 性,明瞭性の八つの特性であるo もちろん,乙れらの必要条件は,実践にお いて,完全に備えられるものでもなく,企業所属者の判断もまちまちであろ うから, これらは,絶対的な条件ではなく,企業政策的意思決定に際して の,常識的な,注;なすべき方針として理解されるべきものなのである。とこ ろで,普遍妥当性,本質性,長期的有効性という↑古報特性は,既述の企業政

(11)

策の特質に相応するものであり,企業政策に固有の特性と解されるであろ う。ところが, ここでは,更にそれ以上の特性が要求されているのである が,それらは,必ずしも企業政策のみに要求されるものではなく,企業管理 の意思決定一般に要求される情報特性であろう。ウjレリッヒが企業政策にそ れらの特性を求めるのは,従来の抽象的で孤立的な企業政策の欠陥を克服 し,管理システムに統合された,実践的企業政策論を展開しようとする意図 のあらわれであると解されるのである。

l乙,企業政策的意思決定の内容はいかなるものであろうか。先の一般 的必要条件から明らかなように,その内容は,企業活動の部分に限定され るものではなく,その全ての局面と領域とを含む,包括的特質を有する ものであるが, ウルリッヒは,その全体的内容として r理恕的企業像J

(Unternehmungsleitbi1d), r企業構想J(Unternehmungskonzept), 

「管理構想J(Fuhrungskonzept)という構成 (Ordnungsgerust)を示し ている。

まず,理想的企業像とは,企業政策の最も一般的な部分であり,その第1 次的で最も根源的部分であるD とれは,多くの具体的企業政策的意思決定を 総括するものであり,乙れによってはじめて,特定の目標設定,目標方向,

行動方法が確定され,将来の企業行動の自由が極めて一般的に限定され制限 されるのであるO 理想的企業像で問題になるのは r自己の企業を将来きわ だたせるべき最も本質的メjレクマーノレを作り出すことだけ」であり, しかも

(4) 

それは r現実的な理想像」であらねばならないのであるロ乙れは,最高企 業管理の基本的な意思声明であり,一般的に,多くの企業によって公表され ている企業目標や原則の説明が乙れに相応するものなのであるO

l乙,企業構想とは,理想的企業像で示された極めて一般的な意図が計画 設定へと移行しうるように,具体化された企業政策的意思決定の全体であ D ウノレリッヒによれば,企業構想は,企業政策の具体的な部分であり,数 多くの意思決定からなり,それは

r

我々の企業政策のモデノレでは中心的地 位を占める

j

のである。これらの個々の企業政策的意思決定は,次のように 包括的全体の中に体系的に整理されるoすなわち,一方では,企業構想が,

(12)

ウルリッヒの企業政策論 413 

給付経済的構想,財務経済的構想,社会的構想に区分されるo他方では,そ れぞれの各部分構想内で,企業目標,給付能力,戦略に関する企業政策的意 思決定が区分されるのであるo

最後に,管理構想とは,企業の管理体系の形成と管理者の行動に関する基 本的意思決定であるO 企業の質は企業管理の質に依存するから,質的に高 度な企業管理の展開が企業政策の課題となるのであるO 管理構想は r 理を管理する」という意味での基本的意思決定であり,企業管理の継続的 展開に関する基本的範囲決定なのであるO 従って,乙乙では,管理の諸手段 (Fuhrungsinstrumentarium)の形成と管理者によるそれらの利用に対し

(7) 

て,目標と原則を設定することが問題となるのであるo

以上が,アウトプットとしての企業政策的意思決定の特性と内容に関する

(8) 

ウノレリッヒの説明の概略である。次に,インプットに関する彼の説明を見て

1乙うO

企業政策的意思決定は情報処理過程の成果であるから,それは,この過程 に流入する情報の種類と質に決定的に依存するであろうo従って,体系的な 情報収集が必要であり,いかなる出発情報が要求されるかは,処理の成果で ある企業政策的意思決定の特質から導き出されるであろうoすなわち,企業 政策的意思決定は,普遍妥当的で,企業全体の将来にとって本質的な,長期 的な特質を有すべきであるから,出発情報もこの特質を示すべきであり,必 要なのは,詳細な情報ではなく全体的な情報であり,個別的事実ではなく発 展傾向に関する情報であり,企業にとって本質的なととを含む情報なのであ る。従って,出発情報も,企業政策的意思決定と同様に,何らかの抽象度を有 する乙とになるo ウノレリッヒは,企業政策の展開に必要なそのような出発情 報を次の四つに分類しているO それらは,1. 現在の企業の状態(Zustand)

に関する情報, 2.現在と将来の環境の展開(Entwicklungen der U we1t)  に関する情報, 3.  企業に関連する価値観念 (Wert vors tel1 ungen)に関す る情報, 4.  統制情報,である。

まず,企業政策的意思決定にとって,企業と環境に関する情報は不可欠で あり, しかも現在の出発状態 (Ausgangslage)と並んで,長期的な将来に

(13)

おける予測的な変化 (Veranderung)に関するそれらの情報が必要である。

現在の企業の状態に関する情報は,その企業の強みと弱み (Starkenund  Schwachen)の判断を可能にし,環境の展開に関する情報は,その企業に 将来現れる機会と危険 (Chancenund Gefahren)の把握を可能にする。

次に,企業政策的意思決定のためには,これらの情報に加えて,意思決定規 則あるいは基準として何らかの価値観念 (Wertvorste11ungen)が必要であ

D 下位の管理階Aiでは,既に企業政策的意思決定がこのような基準として 与えられているが,企業政策的階層では,まさに,乙れらの,最高の,本初、

的な,目標,手段,方式が決定されなければならないのであるから基準は 与えられていないのであるO この階層における基準は,企業政策的意思決定 を行うか,それに影響を及ぼしうる人々の価値観念であるo ここに,価値観 念とは,一般的に,人間の行動を原則的に決定する,価値,評価,態度,行 動規範であり,それは,主観的なものではあるが,その企業に関するもので あって,全く別の生活領域でのものではない。そこで,企業政策的意思決定 に参加している多くの人々の,さまざまな企業関連的価値観念を説明し統一 化することが必要となるのであるo最後に,企業政策的意思決定の実現と変 更のために,統制情報が必要であるO それは,計画,処理,執行において,

企業政策的意思決定が範囲条件として実際に用いられたか,またそのために いかなる成果が達成されたかを示すのである。

以上のインプット情報が企業政策システムに流入し,企業政策的意思決定 に加工されることとなるのであるが,それでは,次に,情報処理過程たる企 業政策的意思決定過程はどのように構成され,いかなる特質を有しているの

であろうか。

ウノレリッヒは,意思決定過程の一般的認識を基本的枠組として,企業政策 的意思決定過程を三つの段階に区分しているD 意思決定過程は,1. 出発状 態(実際 1st)の探求と判断, 2.  努力さるべき理想 (Sol1)状態の決定,

3.  行動代替案およびその結果の探求と決定,という三つの局面を有じてい o それに相応して,企業政策的意思決定過程でも,1. 出発状態の探求と 判断, 2.  理想的企業像の決定, 3.  企業構想と管理構想の決定,という具

(14)

jレリッヒの企業政策論 415 

体的段階を区別することができるo

1.  出発状態の探求と判断

この段階では,基礎情報が収集され,出発状態が判断されるが,その 場合, (1)  企業に関連する価値観念の明確化, (2)  企業の分析とその 強み弱みの探求, (3)  環境展開の分析と予測,そこから現れる企業に とっての機会と危険の探求,という要素に区別されるo

2.  理想的企業像の決定

理想的企業像は,実現しようとする将来の企業の理忽観念であるか ら意思決定過程における理想 CSoll)状態にあたるものである。乙 の決定も一つの意思決定過程に外ならず,そこで, (1)  代替的理想像 の探求, (2)  出発状態の判断に基づく代替案の判断, (3)  価値観念に 基づく,努力さるべき理想像の選択,という要素が区別されるO

3.  企業構想、と管理構想、の決定

企業構想と管理構想は,個々の企業政策的意思決定の全体であり,意 思決定過程における行動代替案にあたるものであるo ここでも,第2 段階と同様に, (1)  代替的企業・管理構想の探求, (2)  その結果に基 づく,代替案の判断, (3)  理想的企業像に基づく,実現さるべき企業

・管理構想の選択,という要素に区別されるo

企業政策的意思決定過程は,以上のような基本的構造をもつのであるが,

更に,それは,反復的(iterativ)な過程であると同時に,集団的 (kollektiv) な過程として,特質づけられるととが注意されなければならない。

まず第11乙,企業政策的意思決定過程は,草新的で複雑な問題の解決を目 的とするのであり,それは,不確実な状態から始まり,決して確実な最高可 能な成果をもたらしえないのであるO 従って,意思決定過程の直線的な1 限りの展開は,この問題の特質に相応しないのであり,それは,反復的過程 として形成されなければならないのであるo企業政策的意思決定過程におい ては,各局面もそれそれ一つの怠思決定であり,各要素もそれぞれ一つの怠 思決定であるo従って,それは,各要采,各局面の部分怠思決定が連続的に (sukzessiv)何回も行われ,前進と後退をくり返しながら認識が積み主

(15)

ねられ,満足的成果が得られるまで探求的意思決定が行われる学習過程 (Lernprozess)をなすのであるD かくして,企業政策的意思決定過程は,

連続的で探求的な意思決定を可能にする発見法 (Heuristik)として形成さ れなければならず,全過程は,反復的な,探求的な,何度もやり直す過程と して理解されるのであるO ウノレリッヒは,乙の関連を図2のように示してい o

出発状態

理想的企業像

2. 反復的過程としての企業政策の決定

(16)

lレリッヒの企業政策論 417 

また,第2に,企業政策的意思決定過程は,通常,それに多くの人聞が参 加している,集団的意思決定過程で、ある乙とが注意されなければならない。

事実,近代的大企業においては,ウノレリッヒが管理集団 (Fuhrungsgruppe) と呼ぶ,多くの人々が企業政策的意思形成に作用を及ぼしているのであっ て,そ乙で,実践における企業政策の展開にあたっては,次のような社会心 理学的認識が考慮されなければならないであろうD

その第1のものは,さまざまな個人的利害,判断,評価等が意,思決定過程 に引き入れられるから過程が複雑化し,意思決定と目標設定との間の調和 が阻害されうる乙とであるD そこで,調和過程を成立せしめうるためには,

言語・概念体系に関して,共通的な公式的枠組(forma1esBezugsrahmen)  を作り出すことや,情報供給に関して,同じ情報供袷が可能であるようなな,↑l 報プ一j (αInlformnationspO01η)を用怠することが,企業政策の実現の面から

も必要であるD

ととろで,意思決定過程は,行動科学によって,個人的利害の交渉過程 として把握され,企業の目標は成員の個人的利害から導出されるとみられて いるのであるが,ウノレリッヒはとのような見解に疑問を呈しているO すなわ ち,目的志向的社会的システムとしての企業は,個人的利害を越えた別個の 目標をもっ制度であるからであるD 従って,志思決定参加者が,自己の利害 は度外視して,企業のために行動することがありうるのであるD なるほど,

個人的利害や動機が意思決定過程でひとつの役割を演ずることは否定されて はならないが,企業との強い一体感を作り出し,佃人の利害を企業の利害の 下に置きラるような窓思決定基準を用いることが必要なのであるD

次に,その第2のものは,集団的志思決定過程には,参加者の聞に立見の 相違すなわちコンフリクト (Konflikte)が 現 れ う る こ と で あ る 。 コ ン フ リクトは,個人的利害の相違や,さまざまな情報による判断の相違から生ず るのであり,革新的で複雑な問題の解決のためには,その志識的産出が必要 であるが,共通する;立思形成によって,平和的に克服されなければならない のであるo

そして,第3のものとして,このような集団現象は,問題解決にプラスに

(17)

もマイナスにも作用しうることである。そこで,企業政策的意思決定過程に おける集団活動 (Gruppenarbeit)は , 分 業 的 協 業 の 体 系 の 枠 組 内 で 行 わ れるべきであり,その場合,参加者の特殊な能力と知識とを完全に過程内に 引き入れうる時にのみ,分業的協業の長所が完全に利用されうるであろうo

従 っ て , プ ロ ジ ェ ク ト 管 理 (Projekt ‑Management)の構想でこの集団的意 思決定過程を形成するととによって,分業と協業を最適に結合することがで

きるであろうo

以上が,企業政策の展開に関するウルリッヒの所論の大要である。

注(1) Vgl.  Ulrich, a.  a.  0., S.  29. 

(2)  I一普遍妥当性」とは,企業政策的意思決定が,個別的場合や狭い部分偵域ではな く,将;tとの数多くの管理状況における意思決定規則として利用されうるべきである ことをいう。

「本質性Jとは,企業政策的意思決定が,将来の企業現象の本質的な事柄に影響 を及ぼすべきであることをいう。

「長期的有効性Jとは,企業政策的意思決定が,企業現象をその概略において長 期的に決定すべきであることをいう。

「完全性」とは,企業政策的意思決定が,目標のみならず,給付能力と戦略にも 関連すべきであるととをいう。

「真実性」とは,企業政策的意思決定が,最高管理者の本当の考えと意図に相応 し,その自己の意思決定と行動によって明らかに確認されなければならない乙とを 1

「実現可能性」とは,企業政策的意思決定が,現実的に実現されうるものであ り,理想主義者的観念であってはならない乙とをいう。

「緊密性」とは,企業政策的意思決定が,相互に矛盾してはならないことをいう。

「明瞭性Jとは,企業政策的意思決定が,その解釈と実現に際して,誤解されな いように形成されるべきことをいう。

Vgl.  Ulrich, a.  a.  0., S.  29........30.  (3)(4)  Ulrich, a.  a.  0., S.  91. 

(5)  Ulrich, a.  a.  0., S.  99. 

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