品質コストの問題点と
その我が国における適用の意義
−事務部門品質コストの可能性−
小野哲
はじめに
企業を取り巻く現在の経済環境下において,品質は戦略上競争優位をもた らすという意味で,その重要性をさらに増しつつある。
品質という問題は,元来経営工学や商品学などの分野において主に取り扱 ゎれてきたが,会計学の領域においても,品質コストを媒介として,近年盛
んに論じられるようになってきた。
ところが我が国の企業の現状を見てみると,品質コストを現実に利用して
いる例は必ずしも多いとはいえないようである0品質コストは,品質問題を
組織構成員の共通の認識基盤である貨幣尺度に換算することにより可視化す
るという利点を持つということと,品質の持つ重要性がかつてないほど認識
されていることの2点を考えた場合,我が国の現状はどう説明すればよいの
であろうか。その理由として考えられることは,品質コストに関わるさまざ
まな問題点が,その適用のネックになっていることであろう0そうであるな
らば,品質コストに関わるさまざまな問題点を・(1)品質コストの理論自体に
ぉける問題点と,(2)我が国の企業の実体面が品質コストの実施に即している
かという企業実体面からの問題点という観点から整理して,現状認識を行っ
た上で,品質コストの我が国における適用の意義を考察する必要性があろう0
本稿においては,以上のような問題意識のもとに,現在までに会計学と工
学の
2つの領域から提唱されている品質コストの我が国における適用困難性 という問題を,先の(
1) と(
2)の観点から検討し,それらを踏まえた上で,品質 コストの我が国の企業における意義を考察することにしたいと思う。そのた めに,品質コストにおける品質の意味,品質コストのメカニズムの説明,問 題点の検討というプロセスを経ることで,その我が国企業における意義につ いて筆者の見解を示すことにする。
無論本稿だけの考察によって,この問題のすべてを解明することは致底不 可能であり,当然、さらに検討をょうすべき課題や今後の展望なども生じてく
るであろう。これらの諸点についても,併せて本稿において記すことにする。
1
.品質の意味
通常品質とは,
r良いもの」とか「良さ」などのように非常に主観的な意 味で使用されていることが多いのが現状である。そして品質管理や品質原価 計算において論じられる品質もまったく同じものではないので,ここでは品 質管理や品質原価計算における品質の相違点を明らにかにしたい。
通常,品質管理おける品質とは市場品質
(marketquality)を意味すると されている。市場品質とは, r 消費者の欲求を満足させる品質」であり, r 買
手の要求に合った品質」である(1)
市場品質をより厳密に規定すると,狭義と広義の概念が考えられる。狭義 の市場品質とは,
r製品の販売を促進する要素であり,具体的には官能・心 理的,仕上・調整などの諸要素」である。広義の市場品質は,
r使用目的に
直接応ずる有用性の質(適合項目)と量(適合度)を評価した実質的なもの で,使用価値の直接の現象形態,すなわち特定の用途に対する有用性」を主 要因品質
(mainquality)あるいは使用品質
(qualityin use)とし,これに
(1)
米山高範著, ~品質管理のはなし~,日科技連出版,
1969年 ,
pp.90‑91。
(2)飯島義郎稿,
I市場品質論
J~品質~, Vo1. 6 ,
No.2,
pp.9‑10。
先の狭義の市場品質を加えたものである。この狭義と広義の概念の内容をを 考えると,第二次品質(付加的品質)と第一次品質(基本的品質)というよ
うに読み替えることも可能である。
一方,品質原価計算の論者達は品質を,設計品質と
(qualityof design)と適合品質
(qualityof conformance)から把握している。設計品質とは, i 製 品に関して予定された品質に関連する概念で,具体的には製品のライフサイ クル,信頼性,製造原価等の仕様」が内容である。一方,適合品質は製品が その設計仕様にどの程度合致しているかということであり,換言すれば製品 が使用目的を充足できるように当初の住様通り製造されたかどうかを問題に するものである。通常品質原価計算における品質は,後者の適合品質に限定 されて論じられることが多いようである。
品質原価計算における品質が適合品質に限定されている理由は,設計品質 とコストとの関係にある
(5)すなわち顧客の期待を汲んで、設計品質を高めると コストが高くなってしまうので,経営者が品質の向上に関してネガティヴな 態度をとる可能性が生ずる。このように品質を適合品質に限定することは,
経営者の抵抗を緩和することを目的としたからであろう。
この品質原価計算における品質の問題に関しては後に触れることにする が,品質原価計算における適合品質は先の市場品質の第一次品質(基本的品 質)に相当するものであり,適合品質は一応市場品質を充足するものの,そ の内容は品質管理とは異なり,一部の市場品質のみをカヴァーするにすぎな いことが明らかになる。
(3) Wayne J. Morse, p.16.
J. M. Juran and F. M. Gryna
,
Quality Planning and Ana!ysis,
McGraw‑Hill,
197 ,1 pp. 38‑47.(4)
木島淑孝稿,
I品質コストについてー最近のアメリカにおける研究を中心にJ
W商摩論纂~ (中央大学),第
29巻,第
6号 ,
(1988年3月 ) ,
p.148o(5) Wayne J. Morse, Op. cit., p.17.
また,市場品質は顧客の要求条件を満たすことと換言することが可能であ るので,品質原価計算における品質は使用目的を充足する上での顧客の要求 条件との一致と読み替えることもできるであろう。
2
.品質コス卜とは
その理論的妥当性は技きにして,品質原価計算における品質が市場品質の 一部といえる適合品質を意味することが明白になったので,今度は品質コス
トの内容について吟味したし、。
品質コストは通常,ファイケ守ンパウムの外部失敗コスト
(externalfailure cost),内部失敗コスト(i
nternalfailure cost),評価コスト
(appraisalcost)および予防コスト
(preventioncost)の
4つを指すが,これらのコストはす べてメーカーの費用であるから,製造者品質コストというべきものである。
ユーザーの立場に立てば使用者品質コスト,さらにはもっと広い立場からの 社会的品質コストも考えられるが,ここで問題となるのは主として,製造者
(6)
狩野紀昭稿,
I品質コストの問題点とその導入について
JW品質管理~,
Vo.127,
No. 4 , ( 1
976年4月 ) ,
p.6o(7)
内部失敗コストと外部失敗コストを併せて失敗コスト
(fai1urecost)と表記すること も多い。
(8)
使用者品質コストは,製品の使用にあたり使用者の品質に関するロスである。これは 使用者に渡った製品の品質が良ければ低減したはずのロスであり,①修理・保全の費 用,②修理・保全のための休止損失,①誤用による損失,④不良探求の費用,⑤騒音な どの公害処理のための費用,⑥使用のため必要な燃料・補給部品などの費用,⑦製品の 品質欠陥のために発生した危害による損失などである。
水野滋稿, I品質新時代における品質コスト JW品質管理~,
Vo1.26,
No.7, ( 1
975年11月),
p.l0o(9)
社会的品質コストとは,売手・買手の問題だけでなく,第三者を考慮する場合の品質 コストであり,①法廷裁判のための費用・保検金,②欠陥製品回収費,①回収・裁判な どによる会社の悪評を回復するのに要するコスト,④修理サービスなどユーザーの不満 を解消するためのコスト,⑤政府の規制に適合していることを証明するための試験費用 などが属することになる。
水野滋稿,前掲書,
p.ll。
品質コストであるので,使用者品質コストや社会的品質コストについての検 討は別の機会に譲ることにする。
先の適合品質概念から(製造者)品質コストを規定するとケ)それは製品が その使用目的を充足できるように,当初の設計仕様通りに製造されたかどう かということに関連して発生する費用であり,それは「不本意ながら発生す る原価
J(外部失敗コストや内部失敗コスト」と「経営者や管理者の意思に よって自由に増減できる原価
J(評価コストや予防コスト)に区別して考え ることができるものである。以下にそれぞれのコストの内容を示すことにす る 。
①外部失敗コスト
外部失敗コストとは,品質の粗悪な製品が顧客に出荷されることにより生 じるコストである。外部失敗コストには,苦情処理,製品保証による製品の 取替えや修理,製品責任
(PL)訴訟に要する費用及び品質の組悪な製品が 企業の評判を失墜させ,そのことで失う売上額(機会原価)が含まれる。
②内部失敗コスト
内部失敗コストとは,顧客への出荷前に品質標準に適合せず製造ロスとい う結果をもたらした原材料や製品に関わるコストである。内部失敗コストに は,作業屑のコストや仕損品の補修コストなどが含まれる。
①評価コスト
評価コストとは,原材料や製品が品質標準に適合していることを保証する ために必要となるコストである。評価コストには,原材料の検査,完成品の 実験室でのテスト,最終製品引渡前段階で顧客側が行うフィールド・テスト
(10) 拙稿, I品質コストの現実的適用における必要条件Jr商経論集J] (早稲田大学大学院),
第
58号, (1990年3月), p.42。
(11) 中村輝夫稿, I品質コストシステムとその展開Jr品質管理J], Vo1.20, 11月臨時増刊号,
(1969年11月), p.185o
(
1
2 )
拙稿,前掲吉, p.42。
などで要するコストが含まれる。
①予防コスト
予防コストとは,品質管理システムを設計・実行・維持するために必要と なるコストである。予防コストには,品質エンジニアリング・品質管理教育 などに要するコストが含まれ,我が国で盛んな
QC(quality circ1e)や
TQCに要する費用は予防コストに属する。
以上が各コストの内容であるが,これらのコストには予防・評価コストを 増大させれば,失敗コストの大きな削減につながり, トータル品質コストが 減少するという関係が成立するとされる。(この意味においては,予防コス
トが最も重要であろう)
品質コストの各要素にいま述べたような関係が成立するのであれば, トー タル品質コストを最適な最小の水準にしながら,品質水準を維持するという ことが企図されることになる。
このことはつぎのようにして達成されるであろう。すなわち,予防コスト や評価コストを増大させて,内部失敗及び外部失敗の失敗コストの大きな削 減がもうこれ以上起きないとき,予防コストならび、に評価コストと失敗コス トの関係は最適点に到達したのであり,この最適点を越えて予防コストや評 価コストを追加支出しでも,両コストの支出が失敗コストの削減をもたらす という便益を得ることができないので,両コストは 飽和"状態になってい ることになる。つまり,予防コスト及び評価コストと失敗コストの関係を最 適点に到達させるようにすれば, トータル品質コストは最適な最小の水準に 維持されるとともに,品質水準が保持されるということになる。(図
2‑ 1を参照されたい)
しかし
4つのコストの最適配分によるトータル品質コスト削減のみを強
調することは危険であろう。なぜならば,最適水準に達したとするとそれ以
上の品質向上が望めなくなり,時の経過とともに品質が悪化しているかもし
れないからである。このような理由から,現在では品質コストの各要素の最
適配分が強調されることは少なくなり,むしろ適性に予防・評価コストを費 やし,失敗コストを削減してゆきながら,品質を向上させてゆくとういうこ
とに重点がシフトしてきている。(図
2‑2を参照されたい)
コスト
O
図2‑1
品質コスト対品質の価値 品 質
コスト l ¥ ¥ トータル品質コスト
予防及び評価コスト
失敗コスト
最適製造 100%良品率
[出典:
Wayne ].Morse, 1983, p .17. J 図2‑2新しい品質コストの変動態様
予防費と 検査費
100
品質(%)
[出典:小倉昇稿,
p.17oJ表
2‑1 品質コス卜報告書 19XX年
9月
月 直占接め労る務割費合に 直接労務費に
今 年
占 め る 割 合予防
品質エンジニアリング $ 2
,
500 1. 25 $ 20,
000 1. 67 品質サークル 3,
000 1. 50 15,
000 1. 25 品質訓練 5,
000 2.50 5,
000 0.42 1,
200 0.60 1, 1
000 0.92 合 計 $1, 1
700 5.85 $ 5, 1
000 4.26評 価
検査
$ 12,
000 6.00 $ 96,
000 8.00 テスト 3,
000 1. 50 2, 1
000 1. 75 スーパーピィジョン 2,
000 1. 00 16,
000 1. 33 合 計 17,
000 8.50 133,
000 11.08内部失敗
スクラップの正味コスト $ 20
,
000 10.00 $ 180,
000 15.00 再及加び工間接の費ための直接労務費 50,
000 25.00 420,
000 35.00 ダウンタイム 5,
000 2.50 50,
000 4.17 その他 4,
300 2. 15 36,
000 3.00 合 計 79,
300 39.65 686,
000 57.17外部失敗
保証 $ 8
,
000 4.00 $ 50,
000 4.17 保証外 5,
000 2.50 38,
000 3.17 合 計 13,
000 6.50 88,
000 7.34 トータル品質コスト 12, 1
000 60.50 958,
000 79.85[出典 Wayne]. Morse
,
1983,
p.18. ]以上のような品質コストを用いた品質原価計算の目的は,つぎのようなも のであるとされている。
①品質管理活動の予算化
②業績評価
③品質コストの識別
①と②により品質コストの管理と収益性の改善が企図されることになる し,①により品質コストの大きさや内訳が知れることとなり,これにより組 織の人間の注意を品質管理活動へ向けることが可能になるであろう。
以上のような説明を考慮すれば,品質コストとは,一般的に主として製造 段階でのロスを防ぐことが主眼とされたもので,品質管理活動の実態を企業 内の人々が理解できうるコストという「共通の言語」に翻訳することで,彼 等の注意を品質管理活動に積極的に向け,定期的な報告がなされることで,
品質コストの原価管理と企業収益性を改善することを企画して実行されるも のであるとすることができょう。なお参考の意味で,品質コスト報告書の一 例を記すことにする。もちろんこの報告書を作成するのは会計部門である。
その理由は,報告書の内容が偏りのあるものになることを防ぐためである。
3.
品質コストの問題点一会計学サイドから
品質コストにおける品質概念及びその内容は以上の通りであるが,実際に 品質コストを導入している事例は,官頭でも触れたように我が国の場合あま り多くないのが実情であるが,その理由に関して会計学,経営工学サイドか らさまざまな指摘がなされている。そこで本節では,まず会計学サイドから 指摘されている問題点を,
(1)品質コストの理論自体における問題点と
(2)我が 国の企業の実体面からの問題点という形で整理してみることにするが,それ
(13) Thomas N. Tyson
,QUALITY & PROFITABILITY‑Have C
otrol1ers Made the Con‑ nection?, "
Management Accounting,
(Nov . 1987),
p.41.は次のようなものになるであろう。
(1 )品質コストの理論自体における問題点
①品質コストにおける品質の問題(1
4)②我が国おける品質の考え方。
(2)
企業実体面からの問題点
①既存の原価計算システムからの問題了)
②品質管理活動の実態からの問題(7)
(1)‑
①はすでに触れたように品質コストにおける品質が市場品質を意味す るといっても,それが適合品質に限定されていることから起こる問題である。
特に我が国においては,工場での高度の自動化が進展しており,品質は製造 段階というよりも製品の開発・設計段階で決定されてしまうことが多い。し たがって,設計・開発段階における品質コストが重要になるということにな る。また適合品質に関連していえば,適合品質が充足されるということは,
特に我が国の場合基本的前提になっており,この意味からすれば適合品質よ りも設計品質の方がより重要だといえるだろう。ただし設計品質とコストと の間にも問題が残されている。この点に関しては後述することにしたい。
(1)‑②は我が国の場合,図
2‑ 1で示したように品質と原価をトレード・
オフの関係で把握することは少なく,品質を目指すべき第一義のものとして 考えているから,品質と原価の関係が問題とされることが少ないというもの である。
(2)‑
①は我が国の原価計算システムが,財務諸表作成のための製品原価の
付近藤恭正稿.
I品質コストの概念の発展とその概要J W 同志社商学~,第42巻,第 l 号,
( 1
990年
7月 ) ,
pp.24‑50。
制捜井通晴稿,
I品質原価の測定と評価J W経営実務~,第436号, ( 1
990年 ) ,
pp.17‑27。
(lt) i 末尾一秋稿, I品質コストの諸問題JW産業と経済~ (奈良産業大学), 第
5巻 ,
1号 , ( 1
990年6
月 ) ,
pp.1‑16。
制 小倉昇稿,
Iクオリティ・コスティングの新展開J W音計~,第 139巻,第 2 号,
pp.1 l
‑25。
算定と,経営管理者の業績評価を主要な目的にしているので,当初から品質コ ストの各カテゴリー別に品質コストを収集ないしは報告するように設計され ていないとするものである。加えて,外部失敗コストには機会原価が含まれて おり,この種の金額は会計システムにおいて記録されることはないのである。
よって,現行のシステムでは品質コストのごく限られたものしか把握でき ず,品質コストの大部分はさまざまな間接費の中に埋没することになるであ ろうし品質コストを算定する場合には,多額の費用を要する可能性が大き いことが指摘されている。
(2)‑
②は我が国の品質管理活動の実態が,数々の業務改善策と統合化され 実施されているので,品質コストとして特定化してしまうことは,かえって 我が国の実態と訴離してしまう危険性を指摘するものである。より具体的に いえば
;18)「我が国では品質管理や
TQCは
VE・IE.TPMなどの原価低減の 諸方策とともに,ひとつの手段として位置づけられるので,原価との関係を 単独で考察することは意味がないと思われている。各社では,常になんらか の改善運動を運営しているが,実際にはその中に品質管理,購買管理や設計 管理など各種の原価低減の活動が統合されているのが現状で,また,それゆ
え各活動の相互作用も最大限活用されている」ということになる。
以上が,会計学サイドから提起されている品質コストの理論自体における 問題点と,企業実体面から問題点である。このような指摘は,経営工学サイ ドからもてなされているので,次節ではそれらのものを検討してみることに する。
4.
品質コストの問題点一経営工学サイドから
品質コストの研究は近年になって会計学で盛んになってきたが,品質コス トの研究に関しては経営工学の方が歴史が古く,ここにおいても会計学サイ
(
1
8)小倉昇稿,前掲書,
p.18。
ドでは指摘されていない問題点を見出だすことができるので,本節において はこの点に触れることにする。
前節においてと同様に工学サイドから指摘されている問題点を整理すると 以下のようになる。
(1)品質コスト理論自体における問題点
①品質コストにおける前提条件。
②設計品質とコストの関係。
①クレームの潜在化に適応できない。
④公差や規格の幅に言及していない。
①前向きの品質問題を把握できない。
(2)
企業実体面からの問題点
予防コストの計上の困難性と品質管理教育・訓練費用の運用。
(1 )一①に関していえば,予防コストをかけ失敗コストを減少させるという
品質コストの適用には,充足されるべき前提条件が存在するということにな る。それは, i 検討中のどの方策を採ろうとしても,設備や材料などが変わ らないという条件が満たされねばならない」というものである。例えば,既 存の設備が古く能率も低く不良も多かったので,新しい設備を導入し,その 結果能率の向上と不良の減少がもたらされたとしよう。この場合の設備投資 に要した費用は予防コストになるのであろうか。この点について品質コスト
(19) 千住鎮雄稿, iQCと経済性一基本的問題の概観(その1) J
~品質管理~,
V01.19, No. 4 (1969年4月 ) ,
pp.20‑24。
M Hitoshi Kume
,
Business Management and Quality Cost:The ]apanese View, "
Quality Progress,
(May 1985),
pp.13‑18.~1)
B. W. ]enny,
Quality Cost,
"The Quality Engineer,
Vol .
38,
No. ,1( J
an. 1974),
pp.5‑11.
仰狩野紀昭稿,前掲書, p. 7
。
ω 狩野紀昭稿,前掲書, p.7‑8
。
帥狩野紀昭稿,前掲書, p.8
。
の祖といえるべきファイゲンパウムの見解を参照してみると,彼は何ら言及 していないことが判明する。
彼の見解によれば,測定装置に要する経費を装置品質コストとして,一般 的な
4つのカテゴリーを持つ品質コストを操業品質コストとし,品質コスト として両者を合計することを提唱しているが,生産設備のコストを含めるこ とについては何ら指摘がないのである。
また高価な材料に変更することで,加工工程が簡略化され不良が減少した 場合,材料費の増加分の何%を予防コストにするのかという問題も残ること になる。先のファイゲンバウムによれば,この問題について間接品質コスト という名称で言及しているが,その具体的な算出方法は提示されていない。
(1 )ー②は顧客期待と設計住様との議離度である設計品質をコストで把握す
ることが可能かどうかということである。すなわち,設計品質が顧客の期待 にそぐわないケースでは,製品が売れないという結果が生じるだけで,クレー ムなども生じないであろう。そうすると,売れる製品に対してのみ設計品質 に関する品質コストが適用できるのであり,売れない製品には設計品質コス
トを適用することは困難ということになるであろう。
(1)‑①はブランドイメージ・ダウンはクレームとして顕在化するものは外 部失敗コストとして捕捉することができるが,クレームが潜在化すると品質 コストには反映されなくなることを指摘している。クレームとして顕在化す るかどうかは,製品の価格と密接な関係があり,一般的に低価格の製品の場 合は顧客に不満を与えた際に,顧客が製品の購入拒否を起こすことが考えら れる。これは無形外部失敗コストCi
ntangibleexternal cost)である。
(1)‑
①は品質コストの理論において,予防・評価・失敗のコストの総和が 最小になる不良率を達成することを最適な品質水準としているが,この場合 公差や規格の幅をどのように設定するのかという統計的な面からの説明が,
的 A. V. Feigenbaum
,
Total Quality Cotrol,
McGraw‑H1 , i l
1961.日立製作所訳,
r総合的品 質管理J], 日科技連出版, 1966年。品質コストにおいてはなされていないということである。
(1)‑
①は品質管理教育・訓練がヒントとなり,商品のヒットに繋がった状 況について,品質コストが何も語ることができないことを示している。この ようなことは,前向きの品質問題であると換言できょうが,品質コストにお いては,品質管理教育・訓練費を予防コストとして計上することができるが,
それは失敗の予防という観点が強いものである。
(2)
は予防コストが,我が国の実情からして特定しにくいということである。
我が国では,ラインとスタッフの職務が明確に区分され,工程の改善などの 予防活動がスタッフの仕事とされる欧米などと異なり,ラインとスタッフの 関係が暖昧なまま
QCサークルなどの工程改善活動が行われている。ライン とスタッフが明確に区分されているならば,品質管理部門のコストを予防コ ストとして計上することは,実態に即した処理であると考えられる。
一方,我が国の現状を考慮した場合,ラインとスタッフの関係が暖昧で,
多面的な工程改善を行っているので,要する費用は一般経費や製造原価の中 の人件費に入り込んでいる可能性が高く,これらの費用を洗い出すことには,
多くのコストと膨大な事務工数が必要になるかもしれない。
また失敗コスト消減のために教育・訓練費を費やすといっても,厳密にい えば,どのような人間にどのような教育を受けさせるのかを慎重に吟味しな ければ,その費用の効果が十分なものにならないであろう。この点について
も,品質コストにおいては何ら記述がされていない。
以上が工学サイドから指摘されている問題点である。
2節に渡り会計学と 工学の両サイドから指摘されている問題点を示してきたが,さらに検討を加 える必要性が高いものが多いと思われる。次節では,この点に関してさらに 考察を続行することにしたい。
5
.品質コス卜の問題点の検討
2
つの節にわたって会計学,工学の両サイドから提起された品質コストの
問題点について論じてきたわけだが,本節においては提起された問題点を筆 者の見解に基づき絞り込みながら,個別的にさらに論じてみたいと思う。
まず両サイドから提起された問題点を,ここで今一度整理してみれば,そ れは以下のようになるであろう。
(1)品質コスト理論自体………①適合品質及び設計品質とコストの関係
②計測不能なコストの存在
(2)
企業体面………①会計システムと品質コスト計上の困難性
②品質管理運動の実態
ここでは,両サイドから提起された問題点のうち内容が関連するものをま とめるとともに,いくつかのものを本稿における考察対象から,一応外すこ とにした。以下では,まずその理由を述べることにする。
‑品質とコストの関係‑確かに我が国では,品質とコストをトレード・オ フの関係で考えることは少ないように思われる。このことは,アメリカと我 が国における工程内での不良品の処置によく表れているであろう。アメリカ の場合は,工程内で不良品が発生しでもラインを停止するようなことは行わ ず,検査によって対処しようとするのであるが,我が国の場合,不良品が発 生すればアメリカのようなことは行わず,直ちラインを停止することが多い のである。
品質コストの各カテゴリーの最適配分によるトレード・オフの関係を重視 しすぎることの危険性は,本稿でもすでに述べたことであるが,アメリカに よる対応では,検査コストのみがいつまで経っても過大なままの状況が考え られる。これでは,適性に予防・評価コストを費やし,失敗コストを削減さ
制 アメリカにおける多くの企業では,検査費が増大しているにも関わらず,品質コスト
の検査費にそれが十分反映されていないことから,検査費の集計を最大限拡張すべきだ
との主張がある。詳しくは,
Hagan,
Quality Cost II : The Economics of Quality Im‑ provement, "
Quality Progress, ( 1
985 Oct.).を参照されたい。
せながら,最終的に予防・評価コスト自体も低減させることで,品質水準の さらなる向上に力点がおかれている最近の品質コストの議論における主張 に,必ずしもそぐわないということがいえるかもしれない。この面のみを考 慮すれば,我が国の方が最近の論調に適しているのではなかろうか。
‑品質コストにおける前提条件ーこれは,品質コストと不良品低減のため に投下される設備や材料などの関係を問うものである。
近年製品の品質向上を志向して
FAや
CIMへの投資が盛んに行われてい るが,このような投資の結果不良品が減少し,品質が向上した場合に,これ らの投資額を予防コストに含めるべきかが問題になる。投資により品質が向 上したならば,予防コストの増過分がないという処理では非現実的であると の批判を招く可能性もあるだろう。
しかしながら,筆者は品質コストにおいては,人間の側面が強調されるも のであり,例えば各人が仕事を正しく行わないことから生ずるミスを防ぐこ とにその重点が置かれているものではないだろうかと考えている。品質向上 を志向した自動化投資の例でいえば,設備投資額そのものが予防コストにな るのではなくて,機械のオペレーターが誤った作業を行わないようにするこ とに必要な費用(例えば,機械運転に関する教育・訓練費など)が予防コス
トになるでろう。
設備投資額を予防コストに含めるか否かという観点で,品質コストと設備 投資の問題を論ずるのではなしむしろ投資により品質コストのある部分が 低減されることに注目して,投資効率性の測定に品質コストを利用するとい う形で,両者を関連付ける方がより現実的であろう。この意味で大いに参考 となるのは,オムロン社の事例である。同社では測定尺度として,
Qコス ト率を使用している。
Qコスト率とは,
Qコスト(品質コスト)/生産金 制 伊 藤 嘉 博 稿
r品質原価計算の実際ーオムロン株式会社のケースを中心に
JW企業会計~,
Vo.144
,
No. 8, ( 1
992年8月 ) ,
pp.32‑40。
額(月次完成品原価を標準原価で評価した数値)で算出されるものであり,
同社では Q コスト率の低減を月次のごとの工場の目標に利用している。こ のように,投資効果の測定尺度に品質コストを使用するという考えは,今後 大いに議論されるべきテーマであろうし,品質コストのメリットある活用法 のーっと考えられるであろう。
材料費の問題である間接品質コストについても,設備投資と同じことがい えるであろう。つまり材料費の何%が予防コストになるのかというよりも,
品質向上を目指し高価な材料を購入することに対して,間違いなく対象の材 料を確保するということに品質コストは大きく関与するものと思われる。
‑公差や規格の幅に言及していない‑この問題点は,統計的見地からよく 指摘されるものである。確かに品質コストの理論において,設定すべき公差 や規格の幅に言及したものはほとんど存在しない。品質コストとは,筆者の 考えによればむしろ統計的手法をあまり意識しないことで,組織への浸透度
を高めるという意図のもとに生出されたように思われる。
しかし品質コストも品質管理活動に関するものであり,品質管理が統計 的手法に支えられていることを考えれば,両者を全く切り離すことにも問題 がないわけではないので,統計的手法は必要に応じて活用されればいいので はなかろうか。
‑品質管理,教育訓練費の運用‑確かに誰に対して,どの様な内容の教育 を受けさせるかは大きな問題であるが,これは何も品質管理教育だけでなく,
企業で行われる様々な教育,訓練に共通したことであるので,品質コストの 固有の問題点として処理することには疑問が残るのである。
ただしコストの効果を高めるという意味で,品質管理部門が教育,訓練を うける人員やその内容を事前にチェックするということは必要になるであろ
フ。‑前向きの品質問題を把握できない‑この問題に関しては,後ろ向きであ
るとの批判を招くかもしれないが,品質コストにおいては失敗より予防とい
う観点がより重視されるのであって,ここでいう前向きの品質問題は対象外 とされていたのではなかろうか。
確かに教育,訓練によりヒントが生まれ,それが商品のヒットにつながる ことも十分に考えられるが,この状況は予防コストとして品質管理教育,訓 練費を支出した結果もたらされるものであろうから,問題点というよりも導 入を促進させるプラスの要素として考えた方がよいと思われる。
以上のような見解から,筆者は提示された問題点のうちいくつかのものを,
本節の冒頭で示したように,一応除くことにした。以下では,冒頭に示した 問題点について検討を加えることにする。
(1 )ー①適合品質及び設計品質とコストの関係...・H
・..まず適合品質について だが,品質コストの議論において適合品質よりも,設計品質がより重視され てきている現状については,筆者も異論がない。原価企画の普及している我 が国では,原価企画の中において設計品質としての品質コストを考えてゆく 必要があるであろうとの主張にも同感である。
しかしながら,適合品質概念は我が国において,なおも重要な意味を持つ 領域が存在するのではないかという考えを筆者は持っている。この点につい ては,後述することにしたい。
設計品質については,原価企画などの関連もあり,設計品質のコストそれ 自体が筆者に特定できていないが,設計品質コストが確定できたとしても,
設計品質が劣る製品は売れないという結果には変わりがなく,なおもコスト と関わらせることが困難である状況はそのままであろう。そうすると,設計 品質に関わるコストの場合は,まず売れる製品である条件を付しながら,コ ストのみを切り離して考えることは危険であるので,当該製品の売上高の推 移を慎重に考察してゆく必要がある。いずれにしても,この問題は今後に大 きな課題を残すものであり,特に売れる製品との条件が最大のネックになろ
っ
。
(1)‑
②計測不能なコストの問題………計測不能なコストには,無形外部失
敗コストと企業の評判失墜により失う売上高(機会費用)という失敗コスト カテゴリーに属すべきものが考えられるだろう。
現状では,理論においても実務においても,これらの費用の具体的計測法 についての提示は,筆者の知る限りなされていないようである。失敗コスト の低減が強調されている今日において,失敗コストの内容をより精激化して ゆくことの意義は大きなものがあろうが,具体的手法がないゆえに手がだせ ないというのが,おそらく今の状況ではないだろうか。
この問題は,設計品質と品質コストの問題とともに残された大きな課題で あろう。なお,
(1)‑②は次の会計システムにも関連がある。
(2)
ー①会計システム左品質コスト計上の困難性………既存の会計システム とラインとスタッフが暖昧なまま多面的な角度より行われる工程改善運動の 実態からすれば,品質コストを実際に集計することに困難を伴うという事実 は否定できないし,失敗コストを厳密なものにしようとすれば,既存の会計 システムでは対応することはできないだろう。
いずけにしても,品質コスト・システムを実施しようとすれば,多大な費 用を要することになろう。そうすれば,各カテゴリーに属するすべてのもの を網羅的に洗い出すというよりも,まずどの項目が自社にとって現在クリテ イカルなのかを判断した上で,それに基づき品質コストを洗いだしてゆくと いう態度が必要になるであろう。当初はこのような判断に基づき品質コスト を導入してゆき,進展具合に応じてシステムをリファインしていけば良いの ではなかろうか。
また品質という問題は,時の経過とともに変化してゆくものであるから,
品質コスト・システムにはコンピューターを利用して,必要なときにデータ を得られるようにしておくことが望ましいであろう。
これらの点からすれば,品質コスト・システムの実施には,管理会計の重
大原則ともいえるコスト・ベネフィット・アプローチが常に意識されておら
ねばならないであろう。
(2)‑
②品質管理運動の実態………我が国での品質管理や
TQCが ,
VE.IE.TPM
などの原価低減の諸方策とともに,一つの手段として位置づ けられ,各種運動の相互作用を最大限活用しているという現状を考えた場合,
品質コストとして特定化することは,かえって実態と訴離するのでないかと いうことであったが,ここにおいても品質コストの固有のメリットである品 質問題の可視化が,自社にとってベネフィットをもたらすかどうかが適用の 判断基準となることはいうまでもないであろう。
以上会計学と工学から提起され品質コストの問題点を,筆者の考えからい くつかのものに絞り込み,それらについて筆者の見解を示してきたが,それ らのものをまとめるとつぎのようなものになる。
a.
適合品質及び設計品質コストの確定と売上高との関連の必要性。
b.
無形外部失敗コストと機会費用の具体的測定法の開発。
c.
品質コスト・システム実施におけるコスト・ベネフィット・アプローチ の必要性。
これらのものが,一応本稿の考察過程を経た上での,我が国におい て品質コストを適用する際に,検討すべき問題点であろうが,これら以外に も検討を要すべき複数の問題点が存在しているだろうし,残念ながら筆者は そのすべてのものに明確な解答を提示することはできない。
確かに品質コストには問題が多いのであるが,これらの問題点の中で最大 なものは,我が国の場合
a.における適合品質や設計品質の問題ではなかろ うか。つまり,我が国の場合は,適合品質よりも設計品質に重要性がシフト してきているが,コストのみで設計品質を把握することは困難であることと,
原価企画や高度の自動化生産設備が普及しているために,適合品質も設計品 質も原価企画の中に取り込まれており,製品の製造に人的要素の介入する余 地が少ないので,品質問題の可視化というメリットを持つ品質コストも活用 範囲が限定されているのが,おそらく現状であろうと思われる。
しかしながら,これらの問題点の指摘は主に製造面に品質コストを適用す
る場合に問題となる事柄であり,品質コストを製造面だけに限定せず,事務 面に応用することはできないのであろうか。
この視点を手掛かりに,我が国における品質コストの適用の意義について,
筆者の見解を示すことにしたい。
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