システム工学 I 第 12 回
安定性
安定性 (1)
「安定」という言葉の意味は (大辞林 第 3 版)・ ・ ・
• 落ち着いて変動の少ないこと
• ある系が外からの作用により微小な変化を与 えられても, もとの状態からのずれが一定の 範囲に収まるような状態
システム工学における「安定」は第二の意味に近い
安定性 (2)
JIS Z8116 自動制御用語–一般 では・ ・ ・
安定性: 系の状態が, 何らかの原因で一
時的に平衡状態又は定常状態からはず
れても, その原因がなくなれば, もとの
平衡状態又は定常状態に復帰するよう
な特性.
安定性 (3)
• 安定性に関する議論をする際には, 内部状態 に着目する場合と, 入出力関係に着目する場 合がある.
• 対象となるシステムは時不変で因果的である
ものと仮定するが, 非線形系を含む形で定義
を述べる.
入出力関係から見た安定性 (1)
• システムの入出力関係が y(t) = S [u(t)] と いう形で与えられているものとする. u(t) ∈ R m , y(t) ∈ R p とする. 作用素 S [·] は時不変 で因果的であると仮定するが, 線形とは限ら ない. また, 初期値は無視できると仮定する.
• 具体例としては, 初期値が零の線形時不変シ
ステムを考えればよい.
入出力関係から見た安定性 (2)
• ∀M > 0, ∀t ≥ 0, ku(t)k < M となるとき, 信 号 u は有界であるという.
• 時刻 t における信号の値を問題にしているわ
けではないときに, 「信号 u 」などといった
書き方をすることがある.
入出力関係から見た安定性 (3)
• 複素平面の部分集合 {z ∈ C : Re z < 0} を (開) 左半平面という.
• 複素平面の部分集合 {z ∈ C : Re z > 0} を (開) 右半平面という.
• この講義では, {z ∈ C : Re z ≥ 0} (右半平面
と虚軸の和集合) を閉右半平面という.
入出力関係から見た安定性 (4)
• y(t) = S[u(t)] という入出力関係を持つ因果 的なシステムが, u が有界なら y も有界とい う性質を持つとき, このシステムは BIBO 安 定 (Bounded Input Bounded Output Stable) という.
• 伝達関数 (行列) で記述されたシステムが BIBO
安定であるための条件を考える.
入出力関係から見た安定性 (5)
• 以下では, 伝達関数 G(s)(あるいは G(s)) に よって定められたシステムが BIBO 安定であ ることを, 「G(s)(あるいは G(s)) は BIBO 安 定である」という.
• Laplace 変換 を L[ ], 逆 Laplace 変換を
L
−1[ ] であらわす. また, U (s) = L[u(t)],
Y (s) = L[ y (t)] とする.
入出力関係から見た安定性 (6)
• まず 1 入力 1 出力系: Y (s) = G(s)U(s) を取 り扱う. G(s) はプロパーな有理関数とする.
• G(s) のインパルス応答 g(t) は Laplace 逆変 換によって得られる. これは指数関数と t の 多項式の組み合わせである.
• y(t) = Z t
0
g(t − τ )u(τ )dτ である.
入出力関係から見た安定性 (7)
• 多項式 p(s) と q(s) の最大公約多項式が 1 で あるとき, p(s) と q(s) は既約であるという.
• 以下では, 伝達関数および伝達関数行列の各
要素の分母と分子は既約であると仮定する.
入出力関係から見た安定性 (8)
• 多項式 p(s) に対し, p(s) = 0 の解 (根) を
p(s) の零点 というのであった. また, G(s) =
p(s)/q(s) に対し, p(s) の零点を G(s) の零点,
q(s) の零点を G(s) の極と言うのであった.
入出力関係から見た安定性 (9)
• プロパーな G(s) が BIBO 安定であるための 必要十分条件は, G(s) のすべての極が左半平 面にあることである.
⊲
まずG(s)
のすべての極が左半平面にあればG(s)
がBIBO
安定であることを示す⊲
続いてG(s)
が閉右半平面に極を持てばG(s)
がBIBO
安定でないことを示すG(s)
のすべての極が左半平面にあれば・・・∀t, |u(t)| < M
とする.
|y(t)| ≤
R t
0 g(t − τ )u(τ )dτ
≤ M R t
0 |g(t−τ )|dτ
である.
変数変換により, R t
0 |g(t − τ )|dτ = R t
0 |g(τ )|dτ
であり, g(t)
はt → ∞
で零に減衰する指数関数とt
の多項式の 線形結合だから, R t
0
R t
0 |g(τ )|dτ ≤ R
∞0
R t
0 |g(τ )|dτ < ∞
である.
よってG(s)
はBIBO
安定.
G(s)
が閉右半平面に極を持つと・・・• G(s)
にひとつでも実部が正の極があれば,
単位 ステップ応答はt → ∞
で無限大に発散するから, G(s)
はBIBO
安定でない.
すべての極が原点に あるときも同様.
• G(s)
のすべての極が原点を除く虚軸上にある場 合には,
その極に対応する周波数の正弦波を入力 すると, t
の多項式と正弦波の積の形の応答が得 られるから,
やはりG(s)
はBIBO
安定でない.
入出力関係から見た安定性 (12)
• 次に伝達関数行列 G(s) = (G ij (s)) 1≤i≤p,1≤j≤m
を考える. ただし, すべての i, j に対し G ij (s) はプロパーな有理関数であると仮定する (G ij (s) = n ij (s)/d ij (s) とする).
• G(s) が BIBO 安定であるための必要十分条
件は, すべての G ij (s) が BIBO 安定であるこ
とである.
G ij (s)
のどれかがBIBO
安定でない場合には・・・ どの要素がBIBO
安定でない場合でも議論は同じなので,
G 11 (s)
がBIBO
安定でない場合を考える.
あるu 1 (t)
が 存在し, u 1 (t)
は有界でかつL
−1[G 11 (s)U 1 (s)]
は有界と ならないから, u(s) = (u 1 (s), 0, . . . , 0) T
とし, U 1 (s) =
L[u 1 (t)]
とおくと, u(s)
は有界で, L
−1[G(s)u(U )] =
L
−1[G 11 (s)U 1 (s)]
は仮定により有界とならないから,
G(s)
はBIBO
安定でない.
すべての
G ij (s)
がBIBO
安定である場合には・・・ku(t)k
が有界であると仮定し,
その上界をM
とすると
, ∀j, |u j (t)| < M
である.
また, |u(t)| < M
のと き, ∀i, j, ∃M ij > 0,
L
−1[G ij (s)U (s)]
< M ij U
であ る.
よって, M = max i,j {M ij }
とすると, ∀i, |y i (t)| =
P m
j=1 G ij (s)U j (s)
≤ P m
j=1 |G ij (s)U j (s)| < mM U .
したがってG(s)
はBIBO
安定.
入出力関係から見た安定性 (15)
G(s) が BIBO 安定であるための必要十分条件 (∀i, j, G ij (s) の極が閉右半平面にない) は, 次のよ うにも言い換えられる:
• {d ij (s) : 1 ≤ i ≤ p, 1 ≤ j ≤ m} の最小公倍 多項式が閉右半平面に零点を持たないこと
• G(s) が閉右半平面に伝達極を持たないこと
安定性判別法 (1)
• BIBO 安定性の判定のためには, 伝達関数行 列の分母の最小公倍多項式の零点をすべて求 めれば良かった.
• 今日ではコンピュータによって根を求めるこ
とは簡単であるが, 古典制御が発達した 20 世
紀前半にはコンピュータなどなかった.
安定性判別法 (2)
• 5 次以上の方程式は代数的に解けず, コンピ
ュータがなければ高次多項式の零点を精度良
く求めることは難しい. そこで, 手計算で高
次方程式の (閉) 右半平面に零点の有無を判
定する方法や, (実験などで得られる) システ
ムの周波数応答の波形から安定性を判定する
方法が発達した.
安定性判別法 (3)
• 今日では, そのような手法の価値は低下して
いるが, 前者には (係数が有理数であれば) 数
値計算の影響を受けないという長所があり,
後者には実験データから安定性の判定ができ
るという長所があるので, この講義でも紹介
する.
Routh の方法 (1)
• Routh の方法による安定性判別について述べ
る. d(s) = a 0 s n +a 1 s n−1 · · ·+ a n を, 伝達関数 行列 G(s) の各要素の分母の最小公倍多項式 とする. d(s) の係数は実数で, a 0 6= 0 とする.
• d(s) を使って G(s) の BIBO 安定性を判定す
るためには準備が必要.
• a 0 < 0
の場合にはd(s)
の全係数に−1
を掛ける ことで, a 0 > 0
となるようにする.
• d(s)
の零点がすべて左半平面にあれば, d(s) = a 0 Q k
i=1 (s + β i )(s + ¯ β i ) Q n
i=k+1 (s + α i )
という形 になり(β i
は複素根, α i
は実根とする), β i
の実 部は正, α i
は正である. (s + β i )(s + ¯ β i ) = s 2 + 2Reβ i + |β i | 2
の係数はすべて正だから, d(s)
の全 係数は正である.
•
待遇を取ると, d(s)
の係数に零以下のものがあれ ば, d(s)
は閉右半平面に零点を持つ.
Routh の方法 (3)
• 以上により, d(s) の係数にひとつでも零以下
(零を含む) のものがあれば, G(s) は BIBO 安
定でないことがわかった.
• 続いて, d(s) のすべての係数が正の場合に (こ
の場合には G(s) の BIBO 安定性の判定はま
だできていない), Routh 表と呼ばれる表を
作って, G (s) の BIBO 安定性を判定する.
Routh
表:
ステップ1
d(s)
のn
次, n − 2
次, n − 4
次, . . .
の係数を第1
行に, n − 1
次, n − 3
次, n − 5
次, . . .
の係数を第2
行になら べた2
行の表を作る(
第2
行の要素数が第1
行より少な いときには,
右端に零を追加する).
このように並べた 表の列の数がq
個であったものとする.
a 0 a 2 a 4 · · ·
a 1 a 3 a 5 · · · ⇒ x 1,1 x 1,2 · · · x 1,q
x 2,1 x 2,2 · · · x 2,q
帰納法を使うために,
変数名を上記右のように変更する.
Routh
表:
帰納法Routh
表が第k
行まで(k ≥ 2)
計算され,
次のような形 になっているものとする.
x 1,1 x 1,2 · · · x 1,q
· · · · · · · · · · · · x k,1 x k,2 · · · x 1,q
第
k + 1
行の要素を, 1 ≤ j < q
に対し, x k+1,j =
− 1 x k,1 det
x k−1,1 x k−1,j+1 x k,1 x k,j+1
とする
.
また, x k+1,q =
0
とする.
Routh
表:
安定性の判定•
以上の計算を, 2
行連続で第1
列以外の数がすべ て零になるまで続ける.
•
計算終了時点でRouth
表の第1
列の数がすべて 正であることが,
すべての係数が正の多項式p(s)
に対し, p(s)
が閉右半平面に零点を持たない,
す なわちG(s)
がBIBO
安定であるための必要十分 条件である.
•
証明は極めて繁雑.
この講義では取り扱わない.
Routh
表:
停止条件• Routh
表が有限回の計算で構成できることを見る.
•
定義から,
第3
行と第4
行の第q
列は零である.
•
定義から,
第2j + 3
行と第2j + 4
行の第q − j
列 からq
列までが零であると仮定する(j ≥ 0).
す ると,
上記の構成法から,
第2(j + 1) + 3
行と第2(j + 1) + 4
行の第q − j − 1
列からq
列までが零 となる. 2
行単位で下の行ほど左端の零列が増え るから,
計算は有限回で終了する.
Scilab
による実行例-->s=poly(0,"s");
-->p=1+s+s^2+s^3+s^4+s^5;
-->roots(p) ans =
0.5 + 0.8660254i 0.5 - 0.8660254i - 1.
- 0.5 + 0.8660254i
- 0.5 - 0.8660254i
-->routh_t(p) ans =
1. 1. 1.
1. 1. 1.
4. 2. 0.
0.5 1. 0.
- 6. 0. 0.
1. 0. 0.
第
5
行1
列が負だからp(s) = 0
は閉半平面に解を持つ.
フィードバックシステムの安定条件 (1)
以下のようなフィードバックシステムを考える.
+
−
+ + G
1(s)
G
2(s) u
1u
2e
2e
1y
2y
1G 1 (s)G 2 (s) をこのシステムの一巡伝達関数という.
先の図で加算の部分に + 符号と − 符号が (不自然 に) 混在しているのは, 制御理論でよく用いられる, 以下のフィードバックシステムの安定条件に関す る記述との整合性を取るため.
+
−
G(s)
u
1y
1フィードバックシステムの安定条件 (3)
• u 1 と u 2 は外部入力, e 1 と e 2 はサブシステム G 1 (s), G 2 (s) への入力, y 1 と y 2 はサブシステ ム G 1 (s), G 2 (s) からの出力である.
• G 1 (s), G 2 (s) はプロパーな伝達関数とする.
• 前述のフィードバックシステム意味を持つた
めの条件を考える.
フィードバックシステムの安定条件 (4)
• L[u 1 (t)] = U 1 (s) とする. 他も同様.
• E 1 (s) = U 1 (s)−Y 2 (s), E 2 (s) = U 2 (s)+Y 1 (s), Y 1 (s) = G 1 (s)E 1 (s), Y 2 (s) = G 2 (s)E 2 (s) だ から, これらをまとめると,
Y 1 (s) = G 1 (s)U 1 (s) − G 1 (s)Y 2 (s),
Y 2 (s) = G 2 (s)U 2 (s) + G 2 (s)Y 1 (s).
フィードバックシステムの安定条件 (5)
• 1 G 1 (s)
−G 2 (s) 1
! Y 1 (s) Y 2 (s)
!
= G 1 (s)U 1 (s) G 2 (s)U 2 (s)
!
が (Y 1 (s), Y 2 (s)) について解け, (U 1 (s), U 2 (s))
から (Y 1 (s), Y 2 (s)) への伝達関数行列がプロ
パーになるようにしたいのであるが, これは
いつでも可能であるとは限らない.
•
多項式p(s)
の次数をdeg p(s)
であらわす.G
i(s) =
ndii(s)(s)= D
i+
nd0ii(s)(s), deg n
0i(s) < deg d
i(s), d
iはモニックとする(i = 1, 2). Y
1(s)
Y
2(s)
!
= 1 G
1(s)
−G
2(s) 1
!
−1U
1(s) U
2(s)
!
なので,
1 G
1(s)
−G
2(s) 1
!
−1がプロパーにならなければならない.
• 1 G
1(s)
−G
2(s) 1
!
−1= 1
1 + G
1(s)G
2(s)
1 −G
1(s) G
2(s) 1
!
だ か ら,
1 G
1(s)
−G
2(s) 1
!
−1が プ ロ パ ー で あ る た め に は
1
1
1 + G
1(s)G
2(s) = 1
1 + (D
1+
nd011(s)(s))(D
2+
nd022(s)(s))
= d
1(s)d
2(s)
d
1(s)d
2(s) + (D
1d
1(s) + n
01(s))(D
2d
2(s) + n
02(s))
•
上記の有理関数は,D
1D
26= −1
であればプロパーであるが,D
1D
2= −1
の場合はプロパーにならない.•
したがって,1 G
1(s)
−G
2(s) 1
!
−1がプロパーであるための必要 十分条件は, 1 +
D
1D
26= 0
となることである.フィードバックシステムの安定条件 (8)
• 先に述べたフィードバックシステムにおいて, G i (s) = D i + n d
0ii(s) (s) , deg n 0 i (s) < deg d i (s), d i
はモニックとしたとき (i = 1, 2), 1 + D 1 D 2 6=
0 であれば, このフィードバックシステムは
well-posed であるという.
フィードバックシステムの安定条件 (9)
• 上述のように, 先に述べたフィードバックシ ステムにおいて, 1 G 1 (s)
−G 2 (s) 1
!
が逆行
列を持ち, その逆行列がプロパーな伝達関数
行列になるための必要十分条件は, そのフィー
ドバックシステムが well-posed であることで
ある.
•
文献によっては,
1 G 1 (s)
−G 2 (s) 1
が逆行列を 持つ
,
すなわち1 + G 1 (s)G 2 (s) 6= 0
であるとき,
フィードバックシステムがwell-posed
であると 定義していることがあるので注意.
これは,
プロ パーでない伝達関数行列を許容していることに なる.
•
加算器の符号の取り方によっては, well-posed
の ための必要十分条件が1 − D 1 D 2 6= 0
のように変 わることがある.
フィードバックシステムの安定条件 (11)
• G i (s) = n d
ii(s) (s) (i = 1, 2) とし, 多項式 δ(s) を δ(s) = d 1 (s)d 2 (s) + n 1 (s)n 2 (s) と定義す ると・ ・ ・
1 G 1 (s)
−G 2 (s) 1
−1=
d
1(s)d
2(s)
δ(s) − n
1(s)d δ(s)
2(s)
n
2(s)d
1(s) δ(s)
d
1(s)d
2(s) δ(s)
!
フィードバックシステムの安定条件 (12)
(U 1 , U 2 ) T と (Y 1 , Y 2 ) T の関係は次のようになる.
Y 1 (s) Y 2 (s)
!
=
n 1 (s)d 2 (s)
δ(s) − n 1 (s)n 2 (s) δ(s) n 1 (s)n 2 (s)
δ(s)
d 1 (s)n 2 (s) δ(s)
U 1 (s) U 2 (s)
!
フィードバックシステムの安定条件 (13)
• よって, well-posed なフィードバックシステ ムが BIBO 安定であるための必要十分条件は, δ(s) の零点がすべて左半平面にあること.
• 次に, 複素平面における偏角の原理について
述べる. C : z = z(t) (a ≤ t ≤ b) を複素平面
でパラメータ表示された単一閉曲線とする.
偏角の原理 z は複素数, 関数 f (z) は z の有理関数 で, 閉曲線 C 上には極および零点を持たず, C の内 部に, 重複度も含めて, Z 個の零点と, P 個の極を 持つものとする. f (z(t)) の偏角を t に関して連続 に変化するように調整したものを θ(z(t)) とすると,
θ(z(b)) − θ(z(a))
2π = Z − P となる. すなわち, f に
よる閉曲線 C の像は, 原点を通らず, 原点のまわり
を反時計まわりに Z − P 回まわる閉曲線である.
フィードバックシステムの安定条件 (15)
• 複素解析では正に向き付けられた曲線を考え
るのであるが, システム工学では, 虚軸を −R
から +R まで移動し, 続いて閉右半平面を時
計回りに半周する曲線の R → ∞ とした極限
を考える. この曲線を C R とする. 曲線が負
に向き付けられていることに注意.
フィードバックシステムの安定条件 (16)
• C R を使う目的は, 偏角の原理を使って δ(s) の
閉右半平面における零点を調べることなのだ
が, δ(s) が虚軸上に零点を持つと偏角の原理
が使えない. そこで, 虚軸上に δ(s) の零点が
ある場合は, 経路の一部を, その零点の左側
を通過する小さな半円で置き換える (次ペー
ジ図).
正の向きの曲線
Re Im
0
半径R
曲線C 曲線
C
R複素解析ではこちら システム工学ではこちら
フィードバックシステムの安定条件 (18)
• z(t) が C R 上を 1 周したときの δ(z(t)) の軌跡
を考える. δ(s) が閉右半平面に零点を持てば,
偏角の原理により, この軌跡は原点を時計回
りに零点の数だけ回る. よって, フィードバッ
クシステムが BIBO 安定であるための必要十
分条件は, この軌跡が原点を通過せず, かつ
原点をまわらないことである.
フィードバックシステムの安定条件 (19)
• δ(s) が原点を通過しないという条件を付けて
おけば, 虚軸上の極を横切る経路の一部をそ
の経路の左側を通る半円で置き換えるという
操作は不要なのだが, 慣習に合わせて上記の
ように経路を取った.
フィードバックシステムの安定条件 (20)
• 次に, 一巡伝達関数 G 1 (s)G 2 (s) を使って well-
posed なフィードバックシステムが BIBO 安
定性を判定することを考える G i (s) = n i (s)/d i (s) (i = 1, 2) で, これらの分母と分子は既約で あったことを思い出しておく.
• G
1(s) と G
2(s) のあいだで閉右半平面にある
極と零点が相殺されることはないと仮定する.
フィードバックシステムの安定条件 (21)
• δ(s) = d 1 (s)d 2 (s)(1+G 1 (s)G 2 (s)) であり, 1+
G 1 (s)G 2 (s) を使って BIBO 安定性を判定し たい.
• G 1 (s) と G 2 (s) のあいだで閉右半平面にある
極と零点が相殺されることがなければ, δ(s)
の虚軸上の零点と 1 + G 1 (s)G 2 (s) の虚軸上の
零点は一致することが示せる (後述).
まず
, δ(iω) = 0
のとき1 + G 1 (iω)G 2 (iω) = 0
となる ことを示すために, 1 + G 1 (iω)G 2 (iω) 6= 0
と仮定して 矛盾を導く. δ(s)
は多項式だから, ω
は有限. δ(s) =
d 1 (s)d 2 (s)(1 + G 1 (s)G 2 (s))
で, 1 + G 1 (iω)G 2 (iω) 6= 0
だから, d 1 (iω)d 2 (iω) = 0
でなければならない.
また,
δ(s) = d 1 (s)d 2 (s)+n 1 (s)n 2 (s)
だったから, n 1 (iω)n 2 (iω) =
0
である. (d i (s), n i (s))
は既約だから(i = 1, 2),
これ はG 1 (s)
とG 2 (s)
で閉右半平面にある極と零点が相殺 されていることを意味し,
仮定に矛盾する.
次に
, 1 + G 1 (iω)G 2 (iω) = 0
のとき, δ(iω) = 0
となる ことを見る.
まず,
背理法によりω
が有限であることを 示す. ω
が無限大と仮定し, i = 1, 2
に対しD i + n d
0i(s)
i
(s) , deg n 0 i (s) < deg d i (s)
とおいてs = lim ω→∞ iω
とする と, 1 + D 1 D 2 = 0
となり,
これはフィードバックシステムが
well-posed
であるという仮定に矛盾する.
以上により
, ω
は有限で, d 1 (s)d 2 (s)
は多項式だから,
d 1 (iω)d 2 (iω)
も有限,
よってδ(iω) = d 1 (iω)d 2 (iω)(1 +
G 1 (iω)G 2 (iω))
よりδ(iω) = 0
である.
フィードバックシステムの安定条件 (24)
• δ(s), (1 + G 1 (s)G 2 (s),G 1 (s)G 2 (s) による曲線 C R の像を, δ(C R ), (1 + G 1 G 2 )(C R ) および (G 1 G 2 )(C R ) と書く.
• d 1 (s)d 2 (s) が閉右半平面に N d 個の零点を持
つと仮定する.
フィードバックシステムの安定条件 (25)
• 上述の結果を使うと, G 1 (s) および G 2 (s) が
プロパーで, フィードバックシステムが well-
posed, G 1 (s) と G 2 (s) のあいだで閉右半平面
における極零相殺がない, という仮定のもと
で, 以下の 3 条件が等価であることがわかる.
フィードバックシステムの安定条件 (26)
• δ(C R ) が原点を通過せず, 原点のまわりを回 らない
• (1 + G 1 G 2 )(C R ) が原点を通過せず, 原点のま わりを反時計回りに N d 周する
• (G 1 G 2 )(C R ) が −1 を通過せず, −1 のまわり
を反時計回りに N d 周する
フィードバックシステムの安定条件 (27)
• 上述の第 3 の条件によってフィードバックシス テムの BIBO 安定性を判定する方法を, Nyquist の安定判別法という.
G 1 (s)
とG 2 (s)
が閉右半平面に極を持たないときには,
Nyquist
の安定判別法を用いると, G 1 (s)
とG 2 (s)
の周 波数応答からフィードバックシステムのBIBO
安定性 を判定することができる.
計算例 先の図において
, G 1 (s) = s+1 1 , G 2 (s) = K(
定 数)
の場合を考える.
一巡伝達関数はG 1 (s)G 2 (s) = s+1 K
である. G 1 (s)
の極は左半平面にあり, G 2 (s)
は極を持たない
.
よって, BIBO
安定であるための必要十分条件は
, 1+s K
によるC R
の像が−1 + i0
のまわりを回らない ことである.
Y 1 (s) Y 2 (s)
=
1
s+K+1 − s+K+1 K
K s+K+1
K(s+1) s+K+1
! U 1 (s) U 2 (s)
だから
,
こ のフィードバックシステムがBIBO
安定であるための 必要十分条件は, K > −1
である.
δ(s) = d 1 (s)d 2 (s)(1 + G 1 (s)G 2 (s))
で, d 1 (s)d 2 (s) = (s + 1)
は閉右半平面に零点を持たないから, δ(C R )
が 原点のまわりを時計回りに回る回数は, (G 1 G 2 )(C R )
が−1
のまわりを時計回りに回る回数と,
方向も含めて一 致する.
だから, (G 1 G 2 )(C R )
が−1
のまわりを時計回 りに正の回数まわれば,
不安定である.
0
−1 1
−1.2 −0.8 −0.6 −0.4 −0.2 0.2 0.4 0.6 0.8 1.2
0
−0.6
−0.4
−0.2 0.2 0.4 0.6
−0.5
−0.3
−0.1 0.1 0.3 0.5
1e+03
−1.69
1.69
−0.461
0.461
−0.0919
0.0919
−0.0392
0.0392 0.001
K= 1, BIBO安定
0
−1
−1.2−1.1 −0.9 −0.8−0.7−0.6−0.5 −0.4−0.3−0.2−0.1 0.1 0.2 0
−0.6
−0.4
−0.2 0.2 0.4 0.6
−0.5
−0.3
−0.1 0.1 0.3 0.5
1e+03
−0.806 0.806
−0.365 0.365
−0.212 0.212
−0.135 0.135
−0.0823 0.0823
−0.0392 0.0392
0.001
K=−0.99,もう少しでBIBO安定でなくなる
0
−1
−1.6 −1.4 −1.2 −0.8 −0.6 −0.4 −0.2 0.2
0
−0.8
−0.6
−0.4
−0.2 0.2 0.4 0.6 0.8
1e+03
−0.729 0.729
−0.212 0.212
−0.135 0.135
−0.0823 0.0823
−0.0392 0.0392
0.001
K=−1.5, BIBO安定でない:
参考文献