神戸女子大学文学部紀要 50 巻 147-164 2017
Ⅰ.はじめに
本論はフランスの生んだイラストレーター、画家であるレイモン・ペイネ(Raymond Pey- net,1908-1999)について、ペイネの作品に込められた作家のメッセージとは何か、またそのメッセー ジが鑑賞者に伝わっているか、またペイネの作品が持っている雰囲気がどのようなものであるのかと いうことを、ペイネへのインタビュー資料等から解析し、ペイネ作品の鑑賞者に作品についてのアン ケートを実施し、統計的に処理し、分析しようとしたものである。
ペイネは第二次世界大戦中の1942年、フランスのヴァランス(Valence)の野外音楽堂を見ていて、
山高帽をかぶったスーツ姿でバイオリンを弾く男の子と彼を見つめる女の子という「ペイネの恋人た ち(Les Amoureux de Peynet)」のイメージを得た。そして雑誌「リック・エ・ラック(Ric et Rac)」に「ペイネの恋人たち」が掲載されたのを皮切りに、その後「ペイネの恋人たち」は画集や ポスター、ポストカード、人形、磁器などのあらゆる商品にモチーフとして取り入れられ、映画にも なるなど世界中で大ブームを引き起こした。世界が戦争という悲惨な時代にある中で、ペイネが世に 送り出した「ペイネの恋人たち」は世代や国境、時代を越えて愛された。このような功績を残したペ イネの生涯と作品のコレクションについては、アンドレ・ルノードの著書(注1)に詳細に書かれて おり、著者はその翻訳を行い、そのほかにもペイネの作品の研究をしている(注2)。
美術作品の鑑賞は、作り手である作家側と、作品を見て作家のメッセージを受け取る側の鑑賞者に よって成立する。この作家と鑑賞者という二者の間では、作品に込めた作家のメッセージ(思いや希 望)が鑑賞の場において無言のままやり取りされる。作家が伝えたいと思っているメッセージが、受 け手側の鑑賞者にはわからず、鑑賞しても最終的にメッセージがうまく届かない場合もある。それは 現代アート作品の鑑賞の場でしばしば起こりうる。美術作品の作家はそれぞれの作品に自分の心の中 の思いを込めて制作する。その思いは言葉として発せられる場合もあれば、作家の心の中に秘めて不
レイモン・ペイネについて
―作家のメッセージと作品の雰囲気の分析―
守 本 智 美
A Study of Raymond Peynet
― An Analysis of His Message and the Mood of His Works ―
Tomomi M
ORIMOTO明の場合もある。
また作家が制作した美術作品には一種のムード、すなわち雰囲気が存在しており、それが作品の放っ ている印象であり、魅力でもある。一般的に人は作品を鑑賞することで、作品からある印象を得て、
心の中で様々な感情を抱く。その一連の作業の中で鑑賞者は作品の雰囲気を感じ取っている(注3)。
しかし、鑑賞者が美術作品から感じていることを言葉で表現することは、鑑賞者の右脳で感じ取った ことを左脳で言葉に置き換えなければならない作業であり、言葉になりにくい感覚の世界を具現化し ようとすることで、困難を極める作業である(注4)。
さてペイネが生み出した「ペイネの恋人たち」は爆発的な人気を世界各地で博したわけであるが、
ペイネは鑑賞者にどのようなメッセージつまりペイネの作品に込めた思いや希望を伝えたかったのか ということについてはまとまった研究がなく、またペイネの作品に込めた思いが果たして鑑賞者に はっきりと伝わっているのかどうか不明である。幸いペイネの場合はインタビューなどに応じて、自 分が作品に込めた思い、鑑賞者に伝えたかったメッセージを言葉に残してきている。世間は愛という 言葉を用いてペイネの作品を語ることが多いが、実際ペイネの作品を見た鑑賞者は、ペイネが作品に 込めたどのような具体的なメッセージを作品から強く感じ取っているのかということについて、今ま でにアンケートなどの統計的な手法を用いて研究されてきていない。またペイネの作品には何か特別 の魅力があるがために鑑賞者がペイネの作品の虜になったと考えられるが、その魅力としての作品を とりまく雰囲気についても、今までに統計的手法を使って客観的に研究されたことはなく、鑑賞者の 作品に対する印象をその時々で偶発的に記録してきたに過ぎない(注5)。
そこで本論では、ペイネが作品に込めたメッセージ(思い)とは何か、またそのメッセージが果た して作品を見た鑑賞者に伝わっているのかという、作家と鑑賞者におけるメッセージの受け取り方の 相違について明らかにすることと、人々の心を虜にしたペイネの作品が持つ雰囲気とはどのようなも のか明らかにすることを中心に、女子大学生を対象にアンケート調査及び統計的手法を用いて解明す ることを主たる目的とした。さらに付帯的に、ペイネが作品に込めたメッセージは、鑑賞者側が癒さ れたいと思う時に美術を鑑賞する習慣があるかないかによって、メッセージの伝わり方に差があるの かということについても検討した。なお、美術を鑑賞する習慣についての調査は、本論の主たる目的 に対する付帯事項であるため、今回は鑑賞者が癒されたいと思った時にという鑑賞者側の内的な要求 にまかせた条件設定にして調査し、鑑賞の頻度や回数などの厳格な区別はしないことにした。
Ⅱ.研究方法
1.ペイネのメッセージの伝達性について
(1)ペイネのメッセージの選定
ペイネが作品に込めたメッセージについて検討するため、ペイネへのインタビュービデオ(注6)
とインタビュー記事(注7)を参考にした。ペイネは1990年春、フランスのアンティーブ(Antibes)
のペイネ美術館におけるインタビューで、「あなたが一番望むものは何ですか。愛(l’amour)ですか、
それとも・・・」という問いに対して、次のように答えている。「愛情(l’tendresse)、優しさ(l’
gentillesse)、バラ色の人生(la vie en rose )です」。この言葉から「愛情」、「優しさ」、「バラ色の人 生」、この3つはペイネが作品制作において一貫して重要視していたテーマであったことがわかる。
また「少しでも私の望む優しさ、幸せ、平和をテーマにした、私の作品がいつの時代でも人々に安ら ぎ(d’évasion=escape)を与えることが出来たらと思っていました」とペイネはインタビューに答え、
「幸せ」、「平和」、「安らぎ」も伝えたかったメッセージであることがわかる。さらにペイネは「作品 の中で沢山のあたたかさ、柔らかさを表現しています」と答え、「あたたかさ」、「柔らかさ」も伝え たかったメッセージであることがわかる。そして「非常に多種多様な分野での活躍ですね」との問い に、「そうですね。私にとってデッサンの表現分野を変えることは非常に楽しいことなのです。私は 思うのですが、我々はいつまでも同じ題材の中にとどまる事は出来ません。現在起こっている新たな ものを常に選び出し題材にしているのです。しかしそこには常に優しさ、人生の中の幸せな部分を見 つけ出し表現するのです。人々の中には不幸な人、悲しい人が沢山います。私はその人々に私のデッ サンを通し、明るさ、優しさ、陽気さを少しでも与えると同時に、人生の中の汚れたみにくい部分を 少しでも忘れる事が出来たらと思っています」と答えている。これらの言葉から「明るさ」、「陽気さ」
も伝えたかったメッセージであることが読み取れる。そして「私は今でも夢見る者です。夢を見るこ とは妨げにはなりません。生きることの助けになります。少し夢を見ようとすることです」とペイネ は語っている。この言葉から「夢」も彼のメッセージの一つであることがわかる。さらにペイネは「ど のようにデッサンを始められたのですか」という問いに対して、幼少のころからデッサンを描き始め たこと、そして学校を出てからの状況を語っている。「まずは新聞・雑誌の挿絵から入りました。そ の当時は政治力ばかり強く、デッサンが少なかったため私の仕事に息抜きのようなものを感じたので しょう・・・」。ペイネのこの言葉から、「息抜き」ということ、これはほぼ「癒し」という言葉に該 当すると考えられるものを、当時の鑑賞者がペイネのデッサンから感じていたということをペイネ自 身が語っているのである。「癒し」はペイネの作品に最終的に鑑賞者側が求めていたものであり、ペ イネが意図して伝えたかったメッセージとはやや趣を異にする。
以上のことから、「愛」、「平和」、「幸せ」、「夢」、「優しさ」、「安らぎ」、「明るさ」、「バラ色の人生」、
「あたたかさ」、「柔らかさ」、「陽気さ」の11の用語を、ペイネが自身の作品に込めたメッセージとし て取り上げた。
(2)アンケートについて
① 被験者
18 ~ 19歳の女子大学生124名。有効回答数も同数。
② 調査日時 2016年7月。
③ アンケート方法
ペイネが作品に込めたメッセージについて、ペイネの作品を見た鑑賞者にペイネのメッセージがど の程度伝わっているかということについて検討するため、アンケートを実施した(注8)。さらに鑑 賞者が癒されたいと思う時に美術作品を鑑賞するという習慣があるかないかで、ペイネのメッセージ
の伝わり方に差があるのかということもあわせて調査するため、この項目もアンケートの質問に加え た。
被験者にはペイネの作品についての作品調査を行うためのアンケートであること、アンケートに協 力するかしないかは自由であり、協力してもらえる場合には回答して欲しいことをあらかじめ伝え た。被験者にレイモン・ペイネの画集(注9)から、作品60点をモノクロにプリントしたものを見て もらい、ペイネの作品に関するアンケート用紙(図1)に記入してもらった。なお色彩のついた作品 は色彩によっても作品から受ける印象が様々に変わってくるため、今回は純粋に作品に描かれた対象 を見てもらうために白黒のモノクロ作品とした。
一般的に絵画作品は、主として形と色で画面が構成される。色は作品の雰囲気を左右する大きな要 素となりうるが、ペイネの作品の場合、彼の画家としての本領が発揮されるのはペン画であり、彼が デビューしたのも白黒のモノクロのペン画による表現であった。彼は色彩に重きをおいた「色彩画家」
というよりは、細い黒い輪郭線によって対象を具象的に描き、恋人たちがどのような状況(場面設定)
にあるのかということを表現するマンガ家、イラストレーター的「線描画家」であった。また、大衆 向けに出版されたペイネの画集及び彼の絵画作品の量としても、圧倒的にモノクロのものが多い(本 論のアンケート用で取り上げたペイネの作品60点のうち、カラー作品はごく部分的に色が使われたも のも含めて17点であった)。また、ペイネの作品では著者の過去の研究(「ペイネの作品における眼の 印象に関する研究」、注2の文献参照)から、恋人たちの眼の表現が2タイプに分かれ、鑑賞者に与え る印象が全く異なることが明らかになっており、白眼の描かれた白眼タイプの表現は、カラー作品(特 に版画)で出現することが多い。従って、カラー作品をペイネ作品の主流と位置づけることは出来な い。さらに、絵画作品の場合は、画集などにプリントされるとオリジナルの色の再現性は完璧とは言 えず、ましてやコピーなどされるとますますオリジナルの雰囲気は損なわれていき作品の雰囲気は別 ものになり(「アウラ」の消失または減衰を引き起こし)、オリジナルに忠実な調査は不可能である。
以上のことから、ペイネの作品の雰囲気を検証するにあたっては、モノクロの作品を用い、描かれた 恋人たちの状況や場面の内容を純粋に見て、ペイネの作品の雰囲気を被験者に判断してもらうことに した。
作品が印刷されたプリントはA 3サイズで計4枚あり、プリント1枚につきペイネの作品20点(作 品1点のサイズはおおむね10cm×10cm以内)を載せた。20分間かけてペイネの作品が印刷された4 枚のプリントを被験者に見てもらった後で、アンケート用紙の質問に回答を記入してもらった。被験 者にアンケートに記入してもらった後に、アンケートを回収しエクセルに数値を入力し集計した後、
統計ソフト(SPSS Statistics 24)にデータを移し、ペイネのメッセージ(思い)と鑑賞者の作品の 印象の相関分析を行った。これにより作品鑑賞において作家であるペイネが作品を見てくれる人(鑑 賞者)に伝えたかった思い(メッセージ)が伝わったかどうか、作家と鑑賞者における受け取り方の 相違が明らかになる。さらに精神的に癒されたいと思う時に美術作品を鑑賞する習慣があるかないか でペイネのメッセージ(思い)の伝わり方に差があるのか、t検定を行って検討した。
④ アンケート用紙について
アンケート用紙の最初に、「ペイネの作品を鑑賞し、以下の質問を読み、当てはまる回答番号に○
をつけてください」とし、「①あなたは精神的にいやされたいと思う時に、映画や絵画等の美術を鑑 賞することがありますか」という質問を加え、「1.ある」、「2.ない」のどちらかを選択して被験 者に○をつけてもらった。なお、質問に「いやされたいと思う時に」という文言を加えたのは、ペイ ネへのインタビューの中で息抜き、癒しといったものを鑑賞者が感じていたのではというペイネの言 葉があったのと、2015年11月に今回のアンケート調査のプリテストとして、同じペイネの作品のプリ ントを見てもらった18 ~ 19歳の鑑賞者133名に自由に感想文を書いてもらった時、癒されるという言 葉が見受けられたからである。また、近年「癒し」はストレスの多い現代社会で、美術作品の展示さ れる美術館においても芸術鑑賞で注目されている言葉であるからである(注10)。
次に「②ペイネの作品について」の質問には、ペイネのメッセージ11語、すなわち「愛」、
「平和」、「幸せ」、「夢」、「優しさ」、「安らぎ」、「明るさ」、「バラ色の人生」、「あたたかさ」、「柔らか さ」、「陽気さ」のそれぞれの用語について、「あなたはペイネの作品に~を感じますか」と質問し、
~のところにはメッセージを挿入した質問項目を用意した。そしてそれぞれの質問について、「まっ たくそう思わない 1」、「あまりそう思わない 2」、「どちらでもない 3」、「少しそう思う 4」、「と てもそう思う 5」の5段階評価で、被験者にあてはまるものに○をつけてもらった。
図1.ペイネの作品に関するアンケート用紙
2.ペイネの作品の雰囲気について
ペイネの作品を鑑賞した時、どのような雰囲気を鑑賞者は感じ取るのか、作品を見ての心理変化つ まり作品の印象というものを明らかにするために、信憑性が証明されている心理尺度を利用し、アン ケート調査をし、その結果をエクセルに入力し集計した後、SPSSにデータを移し、それぞれの項目 について心理尺度の得点の平均値を比較し、ペイネの作品が持つ雰囲気について分析を行った(注 10)。ペイネの作品からは不快な感情を感じることがないことが、2015年11月に今回のアンケート調 査のプリテストとして、同じペイネの作品のプリントを見てもらった18 ~ 19歳の鑑賞者133名に自由 に感想文を書いてもらった結果から読み取れたため、今回は作品が持っている肯定的な快に関連した 雰囲気について調査することにした。肯定的な快に関連した感情としては、『心理測定尺度集Ⅰ』(注 11)の8項目のうち、「活動的快」、「非活動的快」、「親和」の3つの項目が知られている。そこで本 論ではこの3つの項目についてアンケート調査に利用した。
(1)作品の雰囲気の項目について
『心理測定尺度集Ⅰ』の感情・気分の項より、多面的感情状態尺度の肯定的感情である「活動的快」、
「非活動的快」、「親和」の3つの項目(注12)についてアンケート調査した(図1参照)。『心理測定 尺度集Ⅰ』の中の多面的感情状態尺度は、寺崎らにより1992年より日本人向きに作成された、多様な 感情状態についての測定尺度であり(注11 ~ 13の文献参照)、高校生以上の男女に使用可能であると 考えられている。この尺度は内的整合性や妥当性も綿密にチェックされており、安定性のある尺度と されている。また尺度の作成過程では、欧米の感情状態尺度や分類語彙集(国立国語研究所、1984)
から感情状態を表す形容詞や言葉が収集され、さらに予備調査等で感情を表す言葉としては不適切と 判断された言葉が除外された。そして648語が基礎項目として採用され、感情評定や因子分析などを 施しながら新しいリストが作成された。そして「活動的快」、「非活動的快」、「親和」の3つの項目を 含む8つ(「抑鬱・不安」「敵意」「倦怠」「活動的快」「非活動的快」「親和」「集中」「驚愕」)の感情 因子が安定して出現することが確認され、最終的にこれらの各因子の項目に高い負荷量を示したもの が各10語ずつ採択してある。この尺度は映像などの刺激が感情に及ぼす影響などを検討する際にも広 く利用されている。
「活動的快」の項目では、全部で「活気のある」、「元気いっぱいの」、「気力に満ちた」、「はつらつ とした」、「快調な」、「気持ちの良い」、「快適な」、「機嫌の良い」、「陽気な」、「さわやかな」の10の印 象語があり、これら全てを調査に用いた。「非活動的快」の項目では、全部で「のんびりした」、「ゆっ くりした」、「のどかな」、「おっとりした」、「のんきな」、「やわらいだ」、「平静な」、「気長な」、「ゆっ たりした」、「ゆるんだ」の10の印象語があり、これら全てを調査に用いた。「親和」の項目では、全 部で「いとおしい」、「愛らしい」、「恋しい」、「すてきな」、「好きな」、「かれんな」、「あこがれた」、「うっ とりした」、「かわいらしい」、「情け深い」の10の印象語があり、これら全てを調査に用いた(図1参 照)。なお、「陽気な」という印象語はペイネのメッセージとして先のアンケートに出てきているため
(「陽気さ」)、そのデータを活用することにした。そしてペイネの作品が持つ全体的な雰囲気を考察 した。
(
2)アンケート方法「活動的快」、「非活動的快」、「親和」の3つの項目のそれぞれの印象語について、「②ペイネの作 品について」のアンケートの中で、「あなたはペイネの作品に~を感じますか」と質問し、~のとこ ろにはそれぞれの項目に対応した印象語を挿入した質問項目を用意した。そしてそれぞれの質問につ いて「まったくそう思わない 1」、「あまりそう思わない 2」、「どちらでもない 3」、「少しそう思う 4」、「とてもそう思う 5」の5段階評価で、被験者にあてはまるものに○をつけてもらった。記入 後アンケート用紙を回収した。なお被験者は「1.ペイネのメッセージの伝達性について」のアンケー トの被験者と同じで、調査日時も同じであった。
Ⅲ.研究結果
1.ペイネのメッセージの伝達性についての結果
(
1)精神的に癒されたいと思う時に美術を鑑賞することがあるかということについてのアンケート結果 被験者124名に対し、「あなたは精神的にいやされたいと思うときに、映画や絵画等の美術を鑑賞す ることがありますか」という質問に対しては、84名68.0%の人が「ある」と答え、40名32%の人が「な い」と回答した(図2)。被験者全体の約7割に、精神的に癒されたいと思う時に映画や絵画等の美 術を鑑賞する習慣があるという結果になった。(
2)ペイネのメッセージの伝達性のアンケート結果被験者124名に対し、ペイネの作品を見てもらったあと、ペイネのメッセージ11語、すなわちペイ ネの作品に込めた思いを「あなたはペイネの作品に~を感じますか」と質問した結果については次の 通りであった。
「愛」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」は2名1.6%、
「どちらでもない 3」は3名2.4%、「少しそう思う 4」は24名19.4%、「とてもそう思う 5」は95 名76.6%であった(図3)。
「平和」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」は9名 7.3%、「どちらでもない 3」は20名16.1%、「少しそう思う 4」は48名39.0%、「とてもそう思う 5」
は47名38.0%であった(図4)。
「幸せ」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」は3名 2.4%、「どちらでもない 3」は9名7.3%、「少しそう思う 4」は45名36.3%、「とてもそう思う 5」
は67名54.0%であった(図5)。
「夢」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」は1名0.8%、
「どちらでもない 3」は9名7.3%、「少しそう思う 4」は39名31.5%、「とてもそう思う 5」は75 名60.5%であった(図6)。
「優しさ」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」は3 名2.4%、「どちらでもない 3」は20名16.1%、「少しそう思う 4」は47名37.9%、「とてもそう思う 5」
は54名43.5%であった(図7)。
「安らぎ」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」は4 名3.2%、「どちらでもない 3」は39名31.5%、「少しそう思う 4」は50名40.3%、「とてもそう思う 5」
は31名25.0%であった(図8)。
「明るさ」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」は4 名3.2%、「どちらでもない 3」は42名33.9%、「少しそう思う 4」は44名35.5%、「とてもそう思う 5」
は34名27.4%であった(図9)。
「バラ色の人生」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」
は30名24.4%、「どちらでもない 3」は41名33.1%、「少しそう思う 4」は35名28.2%、「とてもそう 思う 5」は18名14.5%であった(図10)。
「あたたかさ」については、「まったくそう思わない 1」は0名0.0%、「あまりそう思わない 2」
は4名3.2%、「どちらでもない 3」は14名11.3%、「少しそう思う 4」は56名45.2%、「とてもそう思 う 5」は50名40.3%であった(図11)。
「柔らかさ」については、「まったくそう思わない 1」は1名0.8%、「あまりそう思わない 2」は 9名7.3%、「どちらでもない 3」は27名21.8%、「少しそう思う 4」は64名51.6%、「とてもそう思う 5」は23名18.5%であった(図12)。
「陽気さ」については、「まったくそう思わない 1」は1名0.8%、「あまりそう思わない 2」は5 名4.0%、「どちらでもない 3」は25名20.2%、「少しそう思う 4」は61名49.2%、「とてもそう思う 5」
は32名25.8%であった(図13)。
「とてもそう思う 5」を選択した者が多かったメッセージ語を、選択者が多かった順に挙げると、
「愛」被験者全体の76.6%、「夢」60.5%、「幸せ」54.0%、「優しさ」43.5%「あたたかさ」40.3%、「平 和」38.0%、「明るさ」27.4%、「陽気さ」25.8%、「安らぎ」25.0%、「柔らかさ」18.5%、「バラ色の人生」
14.5%であった。「愛」がペイネのメッセージとしては一番強く鑑賞者に伝わっていることがわかった。
次にペイネのメッセージ11語のそれぞれについて、肯定的に感じている「少しそう思う 4」と「と てもそう思う 5」を合計した人数の比率を検討すると、肯定的な比率が高い順に「愛」96.0%、「夢」
92.0%、「幸せ」90.3%、「あたたかさ」85.5%、「優しさ」81.4%、「平和」77.0%、「陽気さ」75.0%、
「柔らかさ」70.1%、「安らぎ」65.3%、「明るさ」62.9%、「バラ色の人生」42.7%であった。「愛」、「夢」、
「幸せ」については被験者の9割が、「あたたかさ」、「優しさ」については被験者の8割がペイネのメッ セージを肯定的に受け止めて、強くその印象をペイネの作品から感じているという結果になった。
次に各メッセージの被験者の平均値を求め比較したところ(図14)、平均値が高い順に「愛」4.71、
「夢」4.52、「幸せ」4.42、「あたたかさ」4.23、「優しさ」4.23、「平和」4.07、「陽気さ」3.95、「安ら ぎ」3.87、「明るさ」3.87、「柔らかさ」3.80、「バラ色の人生」3.33であった。特に「愛」、「夢」、「幸せ」、
「あたたかさ」、「優しさ」、「平和」は、平均値が4以上となり、それぞれの語について鑑賞者がメッ セージを受け止める印象が強いことが明らかとなった。また、ペイネが作品にこめたメッセージ11語 の平均値を求めると4.09となり、ペイネのメッセージが作品の鑑賞者である被験者に間違いなく届い
図2 .あなたは精神的にいやされたいと 思う時に映画や絵画等の美術を鑑賞 することがありますか
図3 .あなたはペイネの作品に
「愛」を感じますか 図4 .あなたはペイネの作品に
「平和」を感じますか
図6 .あなたはペイネの作品に
「夢」を感じますか 図5 .あなたはペイネの作品に
「幸せ」を感じますか
図7 .あなたはペイネの作品に
「優しさ」を感じますか
図9 .あなたはペイネの作品に
「明るさ」を感じますか 図8 .あなたはペイネの作品に
「安らぎ」を感じますか 図10 .あなたはペイネの作品に
「バラ色の人生」を感じますか
図11 .あなたはペイネの作品に
「あたたかさ」を感じますか
図12 .あなたはペイネの作品に
「柔らかさ」を感じますか
図13 .あなたはペイネの作品に
「陽気さ」を感じますか
ていることが明らかになった。
以上のことから、ペイネが作品に込めたメッセージとして、鑑賞者が一番強く感じているものは
「愛」であることが明らかとなった。
図14 .ペイネが作品に込めたメッセージへの被験者の平均値
(全体の平均値4.09)
(
3)ペイネが作品に込めた思いと鑑賞者の作品の印象の相関関係についてペイネが作品に込めた思い、すなわち11のメッセージが作品を見た鑑賞者に伝わっているか、つま りペイネの思いと、鑑賞者がペイネの作品から受け取る印象との間に相関関係があるのかSPSSを用 いて分析した(注14)。
ペイネの「愛」、「平和」、「幸せ」、「夢」、「優しさ」、「安らぎ」、「明るさ」、「バラ色の人生」、「あた たかさ」、「柔らかさ」、「陽気さ」の11のメッセージと、ペイネ作品をみた鑑賞者(被験者)の作品へ の印象の相関分析をした結果を表に示した(表1)。
表1. ペイネの思いと印象の相関分析結果
愛 平和 幸せ 夢 優しさ 安らぎ 明るさ バラ色の人生 あたたかさ 柔らかさ 陽気さ
愛 1.00
平和 .14 1.00
幸せ .24** .64** 1.00
夢 .20* .18* .37** 1.00
優しさ .26** .60** .68** .37** 1.00
安らぎ .17 .52** .51** .27** .68** 1.00
明るさ .12 .45** .42** .25** .50** .53** 1.00 バラ色の人生 .26** .20* .19* .27** .25** .25** .30** 1.00
あたたかさ .27** .51** .59** .32** .64** .49** .39** .18 1.00 柔らかさ .16 .35** .21* .23* .34** .34** .28** .19* .35** 1.00
陽気さ .25** .26** .15 .32** .17 .20* .27** .37** .22* .31** 1.00
*p <.05, **p <.01
ペイネが作品に込めた思いと鑑賞者がペイネの作品から受ける印象について、変数同士の相関分析 を行った結果、「幸せ」は「平和」(r=.64, p<.01)と、「優しさ」は「平和」(r=.60, p<.01)及 び「幸せ」(r=.68, p<.01)との間に正の相関が認められた。さらに「安らぎ」は、「平和」(r=.52、
p<.01)、「幸せ」(r=.51, p<.01)、「優しさ」(r=.68, p<.01)との間に正の相関が認められた。「明 るさ」は「平和」(r=.45、p<.01)、「幸せ」(r=.42, p<.01)、「優しさ」(r=.50, p<.01)、「安ら ぎ」(r=.53, p<.01)との間に正の相関が認められた。「あたたかさ」は、「平和」(r=.51、
p<.01)、「幸せ」(r=.59, p<.01)、「優しさ」(r=.64, p<.01)、「安らぎ」(r=.49, p<.01)と の間に正の相関が認められた。
分析の結果、ペイネが作品に込めた「平和」「幸せ」「優しさ」「安らぎ」「明るさ」「あたたかさ」
の6つのメッセージは、一つの大きな強いつながりをもったイメージとして、鑑賞者に強い印象を与 えたことがわかった。相関関係で最も高かったのは、ペイネの「優しさ」というメッセージと、「幸せ」
及び「安らぎ」という2つのイメージの間の関係(r=.68, p<.01)であった。ペイネが作品に込めた「優 しさ」を感じさせる作品を見た鑑賞者は、同時に「幸せ」や「安らぎ」を感じていたことがわかった。
次に相関関係が強かったのは「幸せ」と「平和」、「あたたかさ」と「優しさ」のメッセージの間の関 係(r=.64, p<.01)であった。世界が「平和」でなくては、人々は「幸せ」にはなれないということ、
「優しさ」は「あたたかさ」のある心から発しているというペイネのメッセージが、作品を見た鑑賞 者に伝達されていたと考えられる。
(
4)鑑賞者側が精神的に癒されたいと思う時に美術を鑑賞する習慣があるかないかによるペイネの メッセージの伝達性の差について作品の鑑賞者に精神的に癒されたいと思う時に映画や絵画等の美術を鑑賞する習慣があるかないか という被験者の間で、ペイネが作品に込めたメッセージの感じ取り方に差があるかどうかSPSSによ りt検定を行って比較した。その結果を表2に示した(表2参照)。
その結果、「バラ色の人生」というペイネのメッセージは5%水準で優位さがみられ(n=124, p<.05)、鑑賞習慣がある集団の方の平均値が高かった。精神的に癒されたいと思う時に美術作品を 鑑賞する習慣のある方が、ペイネの「バラ色の人生」というメッセージがよく伝わっているという結 果となった。
表2. 鑑賞習慣あるなしでペイネの思いの受け取りに差があるかの検定結果
ペイネの思い 鑑賞習慣あるなし N 平均 標準偏差 t p
愛 ある 84 4.75 0.56 1.09
ない 40 4.63 0.67
平和 ある 84 4.08 0.95 0.19
ない 40 4.05 0.85
幸せ ある 84 4.46 0.74 0.99
ない 40 4.33 0.73
夢 ある 84 4.54 0.67 0.47
ない 40 4.48 0.68
優しさ ある 84 4.26 0.75 0.72
ない 40 4.15 0.92
安らぎ ある 84 3.94 0.78 1.36
ない 40 3.73 0.91
明るさ ある 84 3.89 0.89 0.41
ない 40 3.83 0.78
バラ色の人生 ある 84 3.45 0.99 1.98 *
ない 40 3.08 1.00
あたたかさ ある 84 4.31 0.74 1.76
ない 40 4.05 0.81
柔らかさ ある 84 3.82 0.91 0.43
ない 40 3.75 0.74
陽気さ ある 84 4.04 0.80 1.64
ない 40 3.78 0.89
*p<.05
2.ペイネの作品の雰囲気についての結果
ペイネの作品の持っている雰囲気について、ペイネの作品を被験者124名に鑑賞してもらい、「活動 的快」(図15)、「非活動的快」(図16)、「親和」(図17)の3つの項目について、アンケート調査を実 施し、統計処理を行い、平均値を算出し、有意差検定を行い(n=124, p<.05)、ペイネの作品が持 つ全体的な雰囲気を考察した。
(
1)「活動的快」について「活動的快」の「活気のある」、「元気いっぱいの」、「気力に満ちた」、「はつらつとした」、「快調な」、
「気持ちの良い」、「快適な」、「機嫌の良い」、「陽気な」、「さわやかな」という10の印象語のぞれぞれ の平均値を、平均値が高い順に見ていくと、以下の通りとなった(図15参照)。
図15.活動的快の平均値(全体の平均値3.38)
「陽気な」は3.95、「機嫌の良い」は3.52、「活気のある」は3.49、「気持ちの良い」は3.40、「さわ やかな」は3.40、「快適な」は3.37、「快調な」は3.36、「気力に満ちた」は3.24、「元気いっぱいの」
は3.07、「はつらつとした」は3.04となり、これら10語の平均値は3.38となった。「活動的快」の中で も「陽気な」は平均値が3.95と一番高かった。
「活動的快」の印象語それぞれの相関についてt検定により有意差があるかどうか調べたところ、b 群(「機嫌の良い」「活気のある」「気持ちの良い」「さわやかな」「快適な」「快調な」)はa群(「陽気な」)
に対して有意差があり、c群(「気力に満ちた」)はb群に対して有意差があり、d群(「元気いっぱいの」
「はつらつとした」)はc群に対して有意差が見られた。従って、これらの印象語は4群に分けられ、
それぞれ(a、b、c、d群)の間に、印象度合いに差があることが明らかになった。
「活動的快」の中で、「陽気な」はペイネの作品を強く印象付ける雰囲気である一方、「元気いっぱ いの」、「はつらつとした」という、はじけるような活動性を連想させる印象はペイネの作品にはあま り強く存在していないことが明らかとなった。
(2)「非活動的快」について
「非活動的快」の、「のんびりした」、「ゆっくりした」、「のどかな」、「おっとりした」、「のんきな」、
「やわらいだ」、「平静な」、「気長な」、「ゆったりした」、「ゆるんだ」という10の印象語のぞれぞれの 平均値を平均値が高い順に見ていくと、以下の通りとなった(図16参照)。
図16.非活動的快の平均値(全体の平均値3.69)
「ゆっくりした」は3.95、「のどかな」は3.97、「のんびりした」は3.93、「おっとりした」は3.90、「や わらいだ」は3.77、「ゆったりした」は3.76、「のんきな」は3.52、「ゆるんだ」は3.44、「気長な」は3.40、
「ゆっくりした」は3.95、「のどかな」は3.97、「のんびりした」は3.93、「おっとりした」は3.27であり、
これら10語の平均値は3.69となった。
「非活動的快」の印象語それぞれの相関についてt検定により有意差があるかどうか調べたところ、
b群(「ゆったりした」)はa群(「ゆっくりした」「のどかな」「のんびりした」「おっとりした」「やわ
らいだ」)に対して有意差があり、c群(「のんきな」)はb群に対して有意差があり、d群(「ゆるんだ」)
はc群に対して有意差があり、e群(「気長な」)はd群に対して有意差があり、f群(「平静な」)はe 群に対して有意差が見られた。従って、これらの印象語は6群に分けられ、それぞれ(a、b、c、d、
e、f群)の間に、印象度合いに差があることが明らかになった。
「非活動的快」の「ゆっくりした」「のどかな」「のんびりした」「おっとりした」「やわらいだ」は、
いずれも平均値は4に近い高い数値で、ほとんど変わらなかった。これらの印象は「活動的快」の「陽 気な」とほぼ感じぐらいの強さで、ペイネの作品の雰囲気を形成している印象であることが明らかと なった。また「平静な」は「非活動的快」の中では一番平均値が小さかった。あまりにも落ち着いた ような感じはペイネの作品にはあまりない雰囲気であることが明らかとなった。
(3)「親和」
「親和」の「愛らしい」、「恋しい」、「すてきな」、「かわいらしい」、「いとおしい」、「好きな」、「うっ とりした」、「あこがれた」、「かれんな」、「情け深い」の10の印象語のぞれぞれの平均値を平均値が高 い順に見ていくと、以下の通りとなった(図17参照)。
「愛らしい」は4.30、「恋しい」は4.26、「すてきな」は4.20、「かわいらしい」は4.14、「いとおしい」
は4.09、「好きな」は3.90、「うっとりした」は3.56、「あこがれた」は3.40、「かれんな」は3.37、「情 け深い」は2.95であり、これら10語の平均値は3.82となった。
「親和」の印象語それぞれの相関についてt検定により有意差があるかどうか調べたところ、b群(「好 きな」)はa群(「愛らしい」「恋しい」「すてきな」「かわいらしい」「いとおしい」)に対して有意差が あり、c群(「うっとりした」)はb群に対して有意差があり、d群(「あこがれた」)はc群に対して有 意差があり、e群(「かれんな」)はd群に対して有意差があり、f群(「情け深い」)はe群に対して有 意差が見られた。従って、これらの印象語は6群に分けられ、それぞれ(a、b、c、d、e、f群)の 間に、印象度合いに差があることが明らかになった。
図17.親和の平均値(全体の平均値3.82)
「愛らしい」「恋しい」「すてきな」「かわいらしい」「いとおしい」はいずれも平均値が4を超えて おり、これら5語の間の平均値の差はほとんどなくペイネの絵ではこの雰囲気が主流を占めていると いうことが明らかとなった。中でも「愛らしい」は「親和」の雰囲気の中で一番強かったばかりでな く、他の肯定的感情である「活動的快」と「非活動的快」をあわせた3つの項目の中でも一番強く、
ペイネの作品の主たる雰囲気を形成していることが明らかになった。「情け深い」は2.95であり、肯 定的感情の中では一番低く、「情け深い」雰囲気はペイネの作品にはほとんどない雰囲気であった。
以上のことから、ペイネの作品の持つ雰囲気は、肯定的感情の「活動的快」、「非活動的快」、「親和」
の中では「親和」の雰囲気が強かった。「愛らしい」「恋しい」「すてきな」「かわいらしい」「いとお しい」の雰囲気はほとんど差がなかったが、その中でも「愛らしい」は一番ペイネの作品が強く持っ ている雰囲気であることが明らかになった。ペイネの作品は「親和」の雰囲気が強く、仲の良い恋人 が中心の「愛らしい」作風であるということがアンケートの統計調査により明らかになった。
Ⅳ.まとめ
本論は世界的に大ブームを引き起こした「ペイネの恋人たち」を生んだ画家レイモン・ペイネにつ いて、ペイネが自身の作品に込めたメッセージとは何か、また作品の作り手である作家側のペイネの 思い(メッセージ)が鑑賞者側に果たして伝わっているかという、作家と鑑賞者におけるメッセージ の受け取り方の相違について明らかにし、さらにペイネの作品が持つ雰囲気を明らかにすることを目 的とした。そして付帯的に、ペイネが作品に込めたメッセージは、鑑賞者側が癒されたいと思う時に 美術を鑑賞する習慣があるかないかによって、メッセージの伝わり方に差があるのかということにつ いても検討した。研究方法としては、ペイネのインタビューを分析し、また女子大学生124名を対象 にペイネの作品を鑑賞してもらい、アンケートを実施して統計的に処理した。
その結果、ペイネが作品に込めたメッセージは、「愛」、「平和」、「幸せ」、「夢」、「優しさ」、「安らぎ」、
「明るさ」、「バラ色の人生」、「あたたかさ」、「柔らかさ」、「陽気さ」の11語であることが明らかとなっ た。
また、ペイネのメッセージ11語についての1から5までの5段階評価のアンケートの結果、「愛」、
「夢」、「幸せ」については被験者の9割に、「あたたかさ」、「優しさ」については8割にペイネのメッ セージが肯定的に感じられていた。各メッセージの平均値は高い順に「愛」4.71、「夢」4.52、「幸せ」
4.42、「あたたかさ」4.23、「優しさ」4.23、「平和」4.07、「陽気さ」3.95、「安らぎ」3.87、「明るさ」
3.87、「柔らかさ」3.80、「バラ色の人生」3.33となり、特に「愛」、「夢」、「幸せ」、「あたたかさ」、「優 しさ」、「平和」は、平均値が4以上となり、鑑賞者がメッセージを受け止める印象が強かった。ペイ ネのメッセージ11語全てについての平均値は4.09であった。ペイネが作品に込めたメッセージとし て、鑑賞者が一番強く感じているものは「愛」であることが明らかとなった。
さらにペイネの11のメッセージと、鑑賞者の作品の印象の相関分析をした結果、ペイネが作品に込 めた「平和」「幸せ」「優しさ」「安らぎ」「明るさ」「あたたかさ」の6つのメッセージは、一つの大 きな強いつながりをもったイメージとして、鑑賞者に強い印象を与えたことがわかった。相関関係で
最も高かったのは、ペイネの「優しさ」というメッセージと、「幸せ」及び「安らぎ」という2つの イメージの間の関係(r=.68, p<.01)であった。ペイネが作品に込めた「優しさ」を感じさせる作品 を見た鑑賞者は、同時に「幸せ」や「安らぎ」を感じていたことが明らかになった。また「幸せ」と
「平和」、「あたたかさ」と「優しさ」のメッセージの間の相関関係(r=.64, p<.01)から、世界が「平 和」でなくては、人々は「幸せ」にはなれないということ、「優しさ」は「あたたかさ」のある心か ら発しているというペイネのメッセージが、作品を見た鑑賞者に伝達されていたと考えられる。
精神的に癒されたいと思う時に美術を鑑賞する習慣があるかどうかについては、84名68.0%の人が
「ある」と答え、被験者の約7割が精神的に癒されたいと思う時に美術を鑑賞する習慣があり、その 習慣があるかどうかによる、ペイネのメッセージの伝達性の差については、鑑賞習慣のある方が「バ ラ色の人生」というペイネのメッセージが5%水準で優位さがみられ、このメッセージがよく伝わっ ていた。
また、ペイネの作品が持つ雰囲気について、「活動的快」(「活気のある」「元気いっぱいの」「気力 に満ちた」「はつらつとした」「快調な」「気持ちの良い」「快適な」「機嫌の良い」「陽気な」「さわや かな」の10語)、「非活動的快」(「のんびりした」「ゆっくりした」「のどかな」「おっとりした」「のん きな」「やわらいだ」「平静な」「気長な」「ゆったりした」「ゆるんだ」の10語)、「親和」(「いとおしい」
「愛らしい」「恋しい」「すてきな」「好きな」「かれんな」「あこがれた」「うっとりした」「かわいら しい」「情け深い」の10語)の3つの項目について、1から5までの5段階評価でアンケートを実施 し平均値を算出し、また印象語それぞれの相関についてt検定により有意差があるか調べた。その結 果、「活動的快」の平均値は3.38で印象語は4群に分けられ、「陽気な」は平均値が3.95と一番高く、
ペイネの作品を強く印象づける雰囲気である一方「元気いっぱいの」、「はつらつとした」というはじ けるような活動性を連想させる印象はペイネの作品にはあまり強く存在していないことが明らかと なった。「非活動的快」の平均値は3.69で印象語は6群に分けられ、「ゆっくりした」「のどかな」「の んびりした」「おっとりした」「やわらいだ」は、いずれも平均値は4に近い高い数値で、ほとんど変 わらず、これらの印象は「活動的快」の「陽気な」とほぼ感じぐらいの強さで、ペイネの作品の雰囲 気を形成している印象であることが明らかとなった。また「平静な」は「非活動的快」の中では一番 平均値が小さく、あまりにも落ち着いたような感じはペイネの作品にはあまりない雰囲気であること が明らかとなった。「親和」の平均値は3.82で、印象語は6群に分けられ、「愛らしい」「恋しい」「す てきな」「かわいらしい」「いとおしい」はいずれも平均値が4を超えており、これら5語の間の平均 値の差はほとんどなくペイネの絵ではこの「親和」の雰囲気が主流を占めているということが明らか となった。中でも「愛らしい」は「親和」の雰囲気の中で一番強かったばかりでなく、他の肯定的感 情の中でも一番強く、ペイネの作品の主たる雰囲気を形成していることが明らかになった。また「情 け深い」の平均値は2.95であり、肯定的感情の中では一番低く、「情け深い」雰囲気はペイネの作品 にはほとんどない雰囲気であった。以上のことから、ペイネの作品は肯定的感情の「親和」の中の「愛 らしい」「恋しい」「すてきな」「かわいらしい」「いとおしい」の雰囲気が強く、中でも「愛らしい」
は一番ペイネの作品が強く持っている雰囲気であることが明らかになった。ペイネの作品は「親和」
の雰囲気が強く、仲の良い恋人が中心の「愛らしい」作風であるということがアンケートの統計調査 により明らかになった。
注及び参考文献、参考HP