熊本大学蔵永青文庫本﹁壁草﹂︵下︶
︐
岩
下
紀 之
本稿をもって永青文庫本の翻刻は完了する︒翻刻を許可
された永青文庫ならびに熊本大学図書館に謝意を表する︒
なお︑現時点における﹁壁草﹂に対する私見は︑五十七年刊行の﹃鴎友学園教育研究シリーズ﹄第3号に掲載され
た︑﹃﹁壁草﹂注の問題点﹄と題する拙稿に尽きているが︑
その間︑古典文庫で﹃壁草注・壁草く三手文庫本V﹄が公
刊された︒そこに影印された吉田幸一氏蔵本は︑編者重松
氏の解説の通り︑甲類注を付した古写本と思われ︑今後の
研究課題としたい︒
一7一
旅連歌
δ究 とをきはあともしらぬ古郷
δ吾空にさへ立やわかるとかへりみて
はるくと別きて空をかへりみれは︑いつくともおほえ
ぬ旅也︑空さへかはりたるかとふしんしたるにや
一〇゚ なくさめをくもいかs古郷
一呈=今こんはわかれ行世のちきりにて
今こんと古郷人をなくさめをきたること也︑いまこむと
いふは︑たsつゐに別るsとにやと︑ふる里人の心なる
へし
δ五ヨ 道をおもはsなくさみやせん
δ五四わかるとも心をそへよたひの空
道のほとをもおもはsなくさみやせん︑心を成ともそへ
よといへり︑旅人の心成へし
一〇W おさふる袖もなみたおちけり
≡蹴六行人にこといみしもやたへさらん
旅の門出なとにこといみして︑さらは聴而なといへと︑
涙はたへかねてこほるs様也
δ五七 いまはのきはsおもひみたれぬ
δ五へ別路にしのひしなみた前立て サヰ 是もおなし心也︑別路を祝て涙をも忍ふれと︑其きはに なれはおもひ乱て泪の先立事也δ五九 いとs古郷なにsたへまし
一〇
Z〇よしや誰えやはわかれのかたからん 古郷人の︑我もくと別行跡には︑いかsひとりは堪忍
すへきと也︑えやは別のかたからむとは︑誰も別はかた
からし︑みなわかれんとにや\酬ば一鹸韻椎肋捌⑭袖批いめんイ
一〇 Z一@とをく行道はおもふも猶つらし
一〇
Z二とまるこsうそたひにまされる
旅人にをくれてとまる︑人の旅より猶かなしきと也
δ六三 秋はおもはぬ思ひをそする
さ六四鳩はくるころなと人のわかるらん
鷹はくる時分に︑人にわかるsは思かけぬことにゃ
δ杢 こなたかなたのあとのおも影\嫡孔ハ励蹴研脳ん
一〇六六足引の山ちをとをみけふこえて 鮪は祐倣航に
山路をはるくとこえくれは︑あとはそことも見えぬ事
也︑面影は古郷のおも影也
≡六七 心やはをくらす山ちけさの雪
δ六へこえん雲ゐのみねのはるけさ
是は脇也︑甲州にてありし会也︑其席にておほえ侍り
\限なき雲ゐのよそにわかるとも人を心にをくらさんや
は
一.W一
≡六九 みな国sのとをきたひ人
言七〇誰をけふしるへにごゆる山ならて
旅行の友はみなしらぬ国の人なれは︑山ちのしるへにな
りかたしと也
δ三 わかれおしみし人のおも影
δ吉名残こそあふ坂山の関ならめ
旅行の人をはかならす相坂の関迄をくる事︑昔よりのこ
と也︑彼関まてきて別おしみし人︑旅行のおも影に立へ
し
≡七三 あひのる舟のはやきなみ風
δ七四手向せし道をや神もをくるらん
手向の神も舟にやのり給らん︑波風もはやきと也︑あひ
のるとは神と人と也
δ圭 舟にさはらぬをちのしら波
一〇
オ六旅にとるぬさのしるしもけふ見えて
是も手向のしるし見えて︑波かせも舟にさはらぬ由也
δ七七 けふとしなれは秋はいぬめり
δ七へあらし吹紅葉をぬさに旅たちて
付所は︑秋の旅たちて行事也︑一句は旅行のこと也
δ七九 旅たつはやかてかへるもうき物を
δへOとをくはましてつてもやはきく
是は源氏大将須磨へ左遷の時︑春宮に御いとま乞し給ひ し時︑春宮の返事に︑しはし見ぬたに恋しき物を︑遠く はましていかにといへかし︑との給ひし詞をとりてつく るなり一〇
ヨ一@しはしのまさへおもふちsはs
δヘニはるかにもめかれはいかsつらからん
父母はしはしの程みぬも︑おもふに旅行なとにむかひ︑
いかほとつらからんと也︑親子の心なるへし
δへ≡ 行ゑしらるsおきの舟みち
一〇
ヨ四みやこさへうきに出たつたひの空
都のうちさへはや都たてはうきに︑まして興の舟道なと の︑いかにかなしからんと也
さへ五 さすらへいつる雲の上人
δへ六夢にたに都のほかはいつか見し.是も源氏の心也︑都の外にはならひ給はぬ事也
δへ七 都やおもひこしちゆく人
≡へ八立わかれいかにくやしき旅ならん
\つれてこし人の心はあらち山こしちくやしき旅にそあ
りける
此寄にて心得へし︑こしちにくやしき旅と付侍るなり
≡へ九 つらきかたには友なふもなし
δ九〇誰きsて心つくしにさそはれん
心つくしといふをつらきかたとなり︑つくしへはたれさ
一9一
パ ジ ロ び し そはれんと也
δ九一 いてしをおもふ宮城のsはら
一〇
纉みちのくやこのよの外ととをくきて
出しをおもふとは都のこと也︑みちのくは鉄に遠けれ
は︑この世の外かと思はかり也
δ九三 かたるもきかす我すみしかた
言九四いかにしてむつましき名そ都鳥
彼鳥を伊勢物語には︑見えぬ鳥なれはとあれは︑かたる
もきかすと付るにや︑此あつまにある鳥なれ共︑名はむ つましき宮こ鳥といへり
δ窒 山にてはなをうさそまされる
δ九六きsなれし古郷恋し松の風
山ちの松風のさひしきをきsて︑古郷の査風のきsなれ
しを恋しとおもふ也
一〇九古 恋しさは心のうちにことつきぬ
一〇九へ三の千さとのほかのふるさと
三千里へたてたる古郷は︑恋しき事も心のうちにことつ
・きぬへし
一〇?@数ならはやもなにのかひなし
二〇〇ふるさとの恋しきに行鷹をみて
古郷をおもふ折節︑空飛鷹をみて︑我も数にならはやと
おもへとかひなきこと也︑前句述懐なとの句にや 一δ一 たひのなみたをたれにうれへん二〇二郭公山こえわひぬまてしはし 旅の涙は︑山路の時鳥にはうれへんとなり︑されはまて しはしとにや サニ〇三 あつさをいとふみちのやすらひ二〇四旅人のくれて山こすをとすなり 炎天のころは︑かならす旅人なとも︑夕かけて山をこゆ る事をいへり二〇五 ほとsきす一声すくる雨おちて二〇六雲は木すゑをうつむやまこえ 三躰詩に︑雲埋老樹空山中といふ詩の心也二〇七 木のしたみちは日こそくれぬれ二〇へとをく行旅をや花にわするらん 旅人の花をみて日を暮したる旅にや︑心有旅人にや二〇九 しのふもちすり花の香そする二δ朝霧の野をわけ衣露もひす 秋の花野を分行衣はしのふもちすり成へし︑露もひすは 花の香するよし也
一二一 いかてかりねは夢もみるへき
一二=旅ころもうす花すsきおり敷て
花すsきおり敷たるかりねは︑夢も見えかたくや︑旅衣 うす花薄といへる詞つsき︑いふはかりなし
一10一
一=三 ほのくあくる手まくらの児
一二四しく袖もうす花すsき露見えて
ほのくあくるといふに露見えてと付るにゃ︑いつしか
妹か手まくらにせん︑此嵜の面影也
=≡ あへすもたひの袖の露けさ
一二六あし火たくやとはすsうに月もおし
\難波人芦火たくやに宿かりてすsうに
此寄心得へし︑あへすもとは︑とりあへぬ事也
二一七 旅はいつくも名残こそあれ
二天なれゆけは古郷よりのやとりにて
しらぬ宿もなれゆけは古郷の心ちしたるよし也=元 おもひをそふる秋のよなく
ニニO夢にわれみゆらん物を草まくら
是は古郷にて旅を思やる心也︑古郷人の思ふ心は︑草の まくらの夢にもみゆらんと也
二三 夢よころもをかへしてや見ん
二一三いとせめて゜都恋しき草まくら
衣をかへしてぬれは夢みゆる物也
\いとせめて恋しき時はむは玉の
いとせめてとはいたく恋しき事也
ニニ三 はつせのかねに月かたふきぬ
二二四かたしきのふしみのまくら露ふけて 此伏見とは大和国のふしみ也︑すかはらの伏見と云は× 和也︑くれ竹の伏見とよめるは山城也︑心はかくれたる 所なし二呈 草のまくらの妹は更けり二一宍かり衣かへす夢ちにうつやたれ 草まくらに夢をみむとて︑衣をかへしてぬれは︑砧うつ 音に夢も見えされは︑さては秋も深ぬらん︑今はや衣う つ音のするはと也二=七 世のましはりやいとひきぬらん一三へ都いてsうつふしそめのかりころも うつふしそめとは山伏のきるふし染といふ衣也︑いとひ きぬらんといふに︑衣を付る也 \よをいとふ木の本毎に立よりてうつふし染の麻の衣也二元 ひとへに袖やとをくみゆらん二三〇都にもかへす夢ちかさ夜ころも 宮古の人は旅人を夢にみむとおもひ︑旅人は都の人をみ んとて︑衣をかへしてねぬるはかりなり︑旅にていへる 事也︑みゆらんは夢也二三 かたしきの袖は涙の浮木にて二三二おもふ宮こや夢にかへらん 是は明石の上の︑彼浦よりのほり給ふときの冴に
\幾かへり行かふ妹を過しつs浮木に乗て我かへるらん
11一
うき木にのりてとは思ひの外にかへることをいへり︑涙
の浮木大事なれは︑都に夢にやかへらんと也
二雪三 宮この月にわれやかへらん
二三四夢もみをさそひてさめね旅まくら
都の夢のさむるにさそはれは︑我も宮こにかへらんと也
二三五 旅衣なれ来し月は有明に
二三六夢はあらしのさ夜の中山
さよの山まてなれしこし月は有明成へし︑夢はあらしと は︑嵐に夢もみゆましきといふ心也
二三七 はかなしや野かみの里のかり枕
一ご元いふきおろしをかたしきの夢
野上の里は傾城の在所なれは︑はかなきちきりと云心
也︑付る心は︑伊吹おろしをかたしきの夢は︑いかにも
はかなきこと也︑野上は彼山の麓也
二三九 野山もわかすさくらさくやと
二四〇夕かすみ旅ねいつくとさそふらん
野山もひとつに桜さく比は︑夕霞はいつくへ旅ねをさそ
ふらんと也
二竺 世中はみなかりそめとしる物を
二四二旅ねのみやははかなかるへき
・旅ねのはかなくかりそめなる事にて︑世間を観したる心 ママ ・也︑旅ねのみははかなからし︑世はみなかりそのとなり 二四三 夢のいほりはまくらもそうき二四四かりのよと旅ねにさへやしらさらん
︑草庵に旅ねしても︑世をはかり初ともしらぬをうかなる
心をいへり
二四五 あくるもくらしをちの山もと
二四六からすなく夜や旅人もさはくらん
山もとの明ほのはくらけれは︑旅人はわかぬに︑鷹なく
・こゑにてあくるを知りて︑旅人もさはくと也
二四七 たかなみたともしらぬ露けさ
二四へしのsめの道のさs分る朝のぞて
篠分る朝の袖は︑露けきことによめり︑この露はたか涙
ともしらぬとにや︑あさの袖は朝の袖也
二究 かへるへきかたこそなけれ旅のみち
二五〇夕の雲にふみまよふやま
夕の雲はかへる物也︑山路にまよふ人は︑かへるへきか
たなきとにや
二五一 ころもかさねよさむくなり行
二吾日も袖もうすき夕の嶺の雲
衣かさねよとは︑旅の袖にみねの雲をかさねよと也︑さ
れは日も袖も薄き夕と有
二玉三 山かけは明ほのとをく深き夜に
二五四鐘たにをくれおきまよふみち
﹁ 一 ︹ ° ↑ d 戸 ﹀
一12
山かけの明ほのくらき道はをくる人もなし︑せめて鐘た
にをくれとにや︑旅行の便なき事也
二五五 旅をなくさむ山さくらはな
ニエ六名もしらぬ峯の岩木をしのく日に
名もしらぬ岩木の中にしのく山路にて︑思ひかけす桜の
一本有躰にてくるしき道をなくさむ心也︑花より外にし る人もなしと云寄のおも影にや
二五七 こなたかなたに行たひそうき
一三へ深山ちも一すちならはまよはめや
山路のこなたかなたへわかれたるをふみまよふ事也︑一
すちならはまよはしと也
二五九 道のそらにてなきそかなしき
二六〇しるへせし人もみ山にふみまよひ
前句は旅の空にて人のうせたることにや︑付る心は︑し
るへせし人もみ山ちのとたえたるに路まよふと也︑なき
そかなしきとは︑道のなく成たる事也
二竺 みをつくさすは道もやはえん
二﹈三谷嶺にふみまよひくれはあとありて 山路に苦労して︑やうく道を尋出たる事也
二六三 ほと遠く絶にし友のめくりきて
二六四山ふみまよひいつるたひ人
もろともに分いりし山路に︑友をうしなひてからうして プ け コ リ ぬ めくりあひたる心也二藍 とへとも人のこたへせぬやま二六六こえくるや嶺のあらしにむせふらん 山路をいかにととへともこたへせぬ人は︑あらしにやむ せふらんと也二六七 まちつれてくる人もはるけし二六へしるしらすたひやかたみにおもふらん 旅行には誰ともしらぬ人もかたみにむつましきにや︑さ れは待つれとあり二六九 ゆくをわするs友とこそなれ二七〇しるしらす岩踏山ちかたらひて 岩踏山のくるしきを︑しるしらすうちかたらひてゆけは 忘るSと也二七一 おのへのかねをさそふ夕霜二七二山ちゆく私むらさむみ日は落て 尾上のかねに枚村寒み日はおちてと付るにや︑鐘は霜に さそはるsといへり二主三 しら雲のうへにはるけき山越て=七四たs空のみやたひのゆくすゑ 白雲の上の山︑是はたs空を行心ちすへし︑一句は旅の 行ゑのそこともなきを云り
二蓋 いつをかかきりわか旅のみち
一13
二七六むさしのやわくれは遠き末もみつ
限もなき武蔵野はわくれは分つくす也︑旅の行ゑいつを
限とすへきと打佗たる様にや
二七七 わかれしかねの夕くれのこゑ
二七へよこ雲にいく夜ともなく朝立て
横雲に幾夜ともなく別し旅人の︑夕のかねをきsたる様 也
二売 いくかsわくるむさしのsはら
二へO冨士のねはゆけともおなし雲井にて
むさしのに富士付合也︑ゆけともく富士は高山なれ
は︑おなし雲井に有心也︑むさしのs遠きこと也
二へ一 ころも手うすし旅の行末
二ヘニはるかなる道は春すき夏のきて
春の始つかた旅立て︑夏にいたれる道也︑衣手うすしと
云に夏のきてとにや
二へ三 はらひやいてん露のさsはら
二へ四ありま山時雨sいなのみなとふね
はらひやいてんとは湊舟の事也︑さs原にいなと付るに や
二全 あすもやかsる山ちこえなむ
二へ六いもに恋いその塩干をあかすみて
前句は辛労したる山路也︑付る心は面白山路と取なせ り︑山路をこえて磯の塩干なとの面白をみていもを思出 せる心也︑昔の寄には何事にてもあれ面白ことに妹を思 ひ出て云り二へ七 おもかけとめよよしやわかれち二へへ袖にもる清見か関のあり明に 彼磯の有明のおもしろきにねて︑別かねたる心也︑此面 影たにとまる物ならは︑別路もおしからしと也︑袖もる とは︑関によせて月のことを云り二へ九 わひつsをくるみをやなけかむ二九〇旅にしてうきを都にきかすなよ 旅行の佗しくうきをきかせは︑都人のなけくへきと也二空 今こむのみを旅のかねこと二九二たひくに国とをさかる伝もうし 今こんくとはいへとも︑次第に遠き国よりの文なとの ことにや
一.ウ三 なみたはさらにつsまれもせす
゜二茜恋しさを宮この文に巻籠て 恋しさを書やれと︑涙はつsまれぬ文のこと也
二窒 すみにそむるも袖はぬれけり
二九六一筆に旅のうれへをかきやらて
前句は衣の事也︑一筆に旅のかなしさはつくさねは︑袖
はぬれけりとにや
一14一
二九七 跡ふまんみちの末もおほえす
二九へわかまきに駒のをとする山暮て
暮行山路に駒の音はすれと︑夕になれはいつくともおほ
えぬ様也︑跡は駒の跡也
一元九 夢にみるさへとをき古郷
三〇〇足引の山こえくらし枕して
足曳の山こえくらしといふ詞︑いかにも遠くきこゆ︑能 s心を付て吟味すへし
三竺 日もくれぬとやいそく旅人
ご一〇二ほのけふるやとりのかたは遥にて
夕の旅人の様はかり也︑別の事見えす
ご己三 みちの空こそたのみかたけれ
三〇四かつ晴て名残くもれる雪のやと
たのみかたけれは︑雪のかつ晴なから又やふらんと也︑ 宿を出やらておもへる心にや︑一句は雪の眺望也
三〇五 たれもたsみをおもふにや捨つらん
ご一
Z六をくれてひとり雨にあふやま
前句は述懐とみゆ︑をくれて独とは︑人に捨られたる山
路なるへし︑みを思ふにやとは︑雨にぬれしとて︑友を
捨て行心也
三〇七 たか袖ならしすくるかけ橋
三〇へ旅ころも日も夕あらし夕しくれ 夕嵐に梯を渡る人を誰ならしといへる也三〇九 はるくと山もといつる水晴て
一三〇旅ねする夜のあけのぞほふね
\春の夜のあけのぞほ舟ほのくといく山本をめくり
きつらん︑定家︑あけのぞほ舟とはうつくしく厳たる舟 イ 也\旅ねして物かなしさに山本の あけのぞ小舟おきにいつみゆ三二 まくらにきくも遠き川をと
三三舟にみなあすのわたりをおもひわひ
川のこなたの旅宿にて雨をきsて︑水まさらんことをお もへり
三三 みれはすさましよもの山く
三一四浪のをとあら海中に舟出して
あらき海中に出たる舟にてみは︑四方の山はすさましか るへし
一二O おもふもとをし古郷の空
三一六つり舟も見えぬ波路に漕いてS
人には告よあまの釣舟といふ寄の面影なるへし︑其釣舟
さへ見えぬ浪路なれは︑いかはりとをからむとなり一三七 はなれそにかたふく笛屋波かけて
一三へねぬ夜くるしむ雨のふなひと.旅泊にて雨をきsたる哀︑思ひやるへし
一三九 いかsしつめむ胸としも大し
一15一
もイ三二〇跡をなをひsきのなたの興津舟
つくしより玉かつらの君をつれてのほりし人sの心なる
へし
三三 しつみかなしひおもひをそしる
ご三二湯もたゆくとりあへぬ舟の波風に
手もたゆきまて湯をとる舟の︑なみ風ならては浮沈なる
へしご三三 手向をしてそ旅はゆかまし
ご三四風あらきゆらの御崎を舟に見て
彼御崎は難所也︑神のおはしませは︑手向をしてゆかむ
と也ご三五 心つくしになをそはるけき
ご三六もろこしにならはいつとかまつら舟
松浦舟のもろこしにいたらは︑いつとかまたむと也︑ま
つらはつくしなれは也
ご三七 遠さかる人に面影なになれや
ご三へ松浦のおきつ舟のわかれち
まつら舟の別をおしみたる心也︑おしみてもかひあらし
となり三二九 ちきり置てもをとつれはなし
三三〇ほとふれはたsもろこしの舟路にて
今こむと契りし旅人の音信ねは︑た㌧もろこし舟の心ち したると也
三三 みそきに心なをそ涼しき
ご一三二舟わたる田簑のしまの雨過て
彼嶋は御祓の在所也︑涼しきと云に雨を付る也
三三三 見よやすかたもやつれはてけり
三三四舟みちやたsあま衣たひのぞて︐連日の渡海にしほれたる袖は︑あまの袖よりもやつれた
るとにや
三三工 出にしかたや宮古なるらん
三三六こく舟にとをくなるをの変もおし︐.西国へ舟出したる人の都を思ふ事也︑松もおしとは︑な
るおの松の景気を云り
三三七 はかりもそこと分ぬとを山
ご三八浦なるs人も舟路やまよふらん 山の端も見えぬ海路は︑浦なるs人もまよふらんと也
三三九 しくれしはしのやとりとふ暮
三四〇とまるやとよせし舟行浦の杢
一時雨によせし舟︑又漕出たる事也︑浦の松のあたりに
よせし舟のこと也
三巴 いてぬはくやしをくれぬるみち
こ西二うたかひし風をまほにてゆく舟に
前句は述懐也︑疑し風もしつまりて︑追かせと成て行舟
一16一
をみて︑出やらぬ舟人のくやしといへる也
三四三 あすのみちまて旅やいそかん
三四四追かせをまほに引かけ行舟に
追風をまほにてゆかは︑二日路も三日ちも一日に行へし
三呈 一よをたのむ舟の笛ふき
ご西六風そよくあしのかりねは夢もうし
かりねの夢をたのめとも︑風にて見えぬこと也︑夢もう しとは夢も見えぬを歎心也
三四七 おほゆはかりの夢もみさりき
ご茜へかせそよくあしのかりねのみしか夜に
短夜のかりねには︑おほゆる程の夢もみぬと也
三究 夢たに波のまくらをそする
三吾もしほ草かきたえねぬ夜思ひやれ
ねぬ夜なれは夢もなしと也︑もしほ草はかきたえといは
む為也︑前句に波の枕とあれはいへり
三五一 まはらなるあまの笛やの月をみて
;五二風はまくらにあらきはま荻
笛やのあたりの浜荻︑枕なるへし
三五三 磯うっ波にまつかせのこゑ
三茜見し夢もおもはぬ床のさ夜千鳥
松風のこゑとあるに千鳥を付る也︑みし夢もおもはぬと
は︑千鳥のこゑにてさむる夢もおもはぬと也︑鶴の面白 に忘たる心也三蓋 かり枕宮この夢の又とひて三五六なみかせにたにたひそなれ行 波風にもなれゆけは︑少まとろみたるよの夢也三五七 いそのまくらは夢もむすはす三五へ衣手にしきつの波の又こえて 是も波のこゑにて夢もむすはぬ心也︑一句のしたて奇特 なるへし三五九 こと葉はかりにちきる山さと三六〇誰となく旅ねわするsこのあした 山里なとに旅宿して何さま重てなと詞はかりにてちきり 捨て出たる様にや三杢 古郷ひとにあへるうれしさ三六二ゆくとくと涙はひとつたひの空 旅の空にて都の人にあふ事也︑行人もくる人もひとつ涙 といへりご宍三 あたにきsしをたのむみそうき三六四今こむと風のつてなる旅の空 あたにきsしはかせの伝也︑うはの空なる便にごんとい ママ へる人を頼みそうきと也三六五 たよりの文にむねさはく也
ご一六六いつくにてはつとかきかん旅の空
一17一
前句は恋也︑旅人なとの文をみて︑いつくにてはつると
かきかむと︑みぬ先に胸のさはくこと也
一三ハ七 あふ人まれに道のはるけさ
一二
Zへいつくにて都のつても又きかん
逢人もまれに成行は︑都の伝もきかぬと也
三六九 みはたのますよ行すゑの空
ご毛Oなからへてかへらんたひを待みはや
旅人のやかて帰こむなとなくさめたるをみは︑たのます
よと残りたる人のいふ也
三三 なきになしてや心やすめん
三七二年へたるひなのたひ人まち佗て
とし経てもかへらぬ旅人を待わひて︑はやうせたる人に やとおもひなしてや︑中く心をもやすめんと也
三七三 なかくしくもつなて引舟
三七四袖はいつひなのわかれの浦つたひ
袖はいつひなとは秀句也︑なかくしくもいへるに︑浦
つたひと付るにや\櫨勒㎎牌はひ嫌⇔洲故は枇局い脈イ
三圭 うれしきこともなからへてみつ
=毛六としへたる別にひなの文や夢
年へたる旅人はやうせたるとおもへは︑文のをとつれの あるを夢にやと疑心也
三七七 なくさむおりも旅は有けり ご宅へかへりては恋しきもうき古郷に 旅にては恋しかりし古郷も︑帰りてみれはうきと也︑旅 にては中くなくさみしと也一二
п@おもひしよりもうきそ旅なる
三へOわかさとsくれは跡のみ名残にて
旅行の程に古郷のあれはてs︑跡はかり残たること也︑
さては旅といふ物は思ひしよりもうき物なりといへり
三へ一 夕くれふかく人かへるなり
ご尺二都にや旅のやつれをしのふらむ
たひすかたをはちて︑夕くれの程にみやこへかへる事な
りご一
ヨ三 たかかへるさそこまいはふ声
三へ四宮こ人うちむれけふの関むかへ
あつまよりかへる人を︑都人うちむれてあふさかまて迎
にきたることなり
右以澄本令書写遂一校早
尤可為秘本者也
細川兵部大輔
子時永緑二年菊月日 藤孝 一囮圃
︿本学専任講師︶
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