(1)中学校技術科に見 られる経験主義教育の考察 ‑問題 と克服の視角‑ S hd i e so IEmp i r i c i s mEd u c a t io ni nTe c l mo l o g yEd u c a t io n ‑Pr o b l e msa nd A ng l eo ICo nq ue s t 一 大 谷 良 光 * Yos hi mi t uOTANI * 論文要 旨 技術科におけるカ リキ ュラムの問題 と課題 を, 中学校学習指導要領技術 ・家庭 の教科の性格 とそれに基づ く技術科の実際を検討す ることで明 らかに した。その結果,技術科の性格 は新教育に系譜 を もつ経験主義教 育 と 1 9 6 9 版学習指導要領技術 ・家庭 に登場 した題材論 に よ り,国際的動 向 とは軸が異なる様相を示 し,技術 科教育に対す る社会的評価を低下 させた と思われた。そ こでその克服は,教育 目的論 と学力論 の視角か ら考 察す ることが適切である と考え られ,教育 目的はユネスコ 「 技術教育及び職業教育に関す る条約」を踏 まえ, 「 すべての子 どもが技術及び労働の世界をわが もの とす ること」の内実を学力論 に求め,学力の構成要素を、 技術に関す る科学的認識,生産技能,技術観 ・労働観 と概念づ けた。 キー ワー ド :中学校学習指導要領技術 ・家庭,経験主義教育,題材論,学力論,教育 目的論 1 . は じめに 本小論は, 中学校技術科のカ リキュラム開発論 の基礎的研究の一つであ り,別稿 「 カ リキュラム 開発論の問題 と課題 」1 ) を踏 まえ,技術科における カ リキュラムの問題 を考察 し,その克服の視角を 明 らかにす ることを目的 としている。 さて,現代社会 と公教育では 「 ひ とつの鬼子」 ( 中内敏夫) とみ られている技術教育には,問題 が山積 し解明 しなければな らない課題 をい くつ も 抱 えている。 これ らの課題 を,我々の問題意識, カ リキュラム開発論に焦点を絞 り整理 してみ る と, 技術科教育の性格 を規定す る課題に限定 されて く る。特 に,技術科教育を規制 している中学校学習 指導要領技術 ・家庭で述べ られている教科の性格 と教育 目標,それに基づ く技術科の実際を中心に 検討す ることで,その間題 と課題が焦点化でき, それ らの克服の視角が明確 になる と思われ る。 2 . 技術科に見 られ る経験主義教育の実際 検討をまず,技術科における教科の性格 とその 特徴か ら試み ることとし,その対象を, 中学校学 習指導要領技術 ・家庭 とそれ に準拠 した教科書に お く。その教科書は,教科の性格 を実質的に規制 した と言われている2),後述す る題材論が登場 し た 1 9 6 9 年版 中学校学習指導要領に注 目し,その改 訂後に出版 された,開隆堂教科書男子用 『 技術 ・ 家庭』全国職業教育協会編 ( 1 9 7 1 年)をみてみ る。 それ による と,た とえば ,2 年生の教科書の 「 木 材加工」 と 「 機械」の 目次は次の ようにな ってい た。 ◎ 「 木材加工」角材 ( 木)製品の製作 1 .設計 ① いろいろな家具 ②設計のすすめ方 ③製作の計画 2.製作 ①木取 り ②部品加工 ③組立 ④塗装 [ 参考 1 ] 折 りたたみ腰掛の製作 [ 参考 2] 作業腰掛の製作 木材 と生活 ◎ 「 機械」 1 .動 く模型の製作 1 .設計 ①動 く模型や機械の しくみ *弘前大学教育学部技術科教室 De pa r t me n tofTe c hn ol ogyEd uc a t i on, Fa c ul t yofEdu c a t i on, Hi r os a k iUni ve r s l t y (2)1 4 0 大 谷 良 光 ②設計のすすめ方 ③製作の計画 2 . 製作 ①部品加工 ②組立 [ 参考]いろいろな動 く模型 の製作例 2.機械の整備 1 .機械の しくみ ①身近な機械の しくみ ②伝動の しくみ 2. 自転車の整備 ①整備用工具 ②整備の留意事項 ③作業の安全 ④主要部 の分解 ・組立 ⑤ 日常の点検 と整備 3 . 機構 ・機械材料 ①伝動の機構 ②機械材料 4.機械 と生活 ① 日常生活における機械の選択 ②機械 と生活 ③生活や産業 と機械 [ 資料] 裁縫 ミシンの構造 と動力の伝達経路 木材加工においては,腰掛を題材に,設計 ⇒製 作 と展開 し,材料 と材料の強度,構造,工具や機 械等の,いわゆる教育内容 ( 教育 目標 と同義)3) に相当す る ものは,結果的に,その展開に従 って 取 り入れ る とい うものになっていた。 また機械は, 動 く模型 と自転車が題材であ り,動 く模型では設 計 う製作, 自転車ではその整備に基づいて展開 し ていた。 これ らは,腰掛の製作, 自転車の整備 とい うよ うに課題 ・問題に取 り組む問題解決的学習型であ り, ここで教育内容は,題材の もつ要素に制約 さ れ,教育内容の もつ内容の系統制や順次制は軽視 されていた といえる。 このよ うな問題解決的学習型,言い換 えればプ ロジェク ト法による一貫 した編成は,他の領域 に おいて も基本的に同 じであ り,教育内容の系統制 を重視す る 「 系統主義」教育論者か ら厳 しく批判 されてきた4)。 また,高度経済成長文化が もた ら した使い捨て生活様式が一般化 してきた1 98 0 年代 になる と,子 どもの ものづ くりの経験の少な さや, 不器用の問題がマスコ ミで も指摘 され,その状況 に対応 した教育実践 を反映 し,題材の構成を,塞 礎的題材, 中核的題材,応用 ・発展的題材 とした り,学習段階の位置づ けか ら,導入題材,主題材,捕 助題材な どとす るバ リエーシ ョンが学習指導要領 解説書5) で も取 り上げ られ るよ うにな り, また各 教科書会社で も一領域一題材 とい う形態は見 られ な くな り,複数題材での構成が主流になった。 しか し題材の形態は変わ って も,教育内容は学 習指導要領で決め られ, さらに教育内容が題材に 制約 され る構造は変わ らず,学習指導要領の教科 の 目標 ( 目的 一筆者)が 「 実践的態度 を育てる」 ことにあることも不変であった。 また指導の展開 と方法 も 「 実習 を中心 に して」 ( 1 98 9 年版以前) 「 実践的 ・ 体験的な学習活動 を中心 として」 「 問題 解決的な学習を充実す る 」 ( 1 9 98 年版)とい うよ う に学習指導要領 と指導書によ り規制 されていた。 よって これ らの教科の特徴は,「 生活経験 との連 続性 の 中で,プ ロジ ェク ト,問題,作業な どを通 し て,経験 を連続的に改造す ることによって,一定 の概念 ・ 知識 を子 どもに獲得す ることができる」 6) とす る,新教育に系譜を もつ経験主義教育の特徴 と一致 している と思われ,それ は,技術 ・家庭科 発足か ら現在 まで変わ っていない といえる。 さて,1 9 9 0 年の前半か ら 「 新学力観」が登場 し, 「 新学力観」に基づ く指導計画,学習指導案の作 成がいいだ された。技術 ・家庭科 も例外な くそれ らの指導が行政サイ ドか ら強め られ,各地の技術 ・ 家庭科研究会で取 り組 まれた よ うである。その一 つの 「 成果」 を元文部省教科調査官であった浅見 匡の編著によ り 『 新 しい指導法 ・題材で授業を改 革す る中学校技術 ・家庭科』 ( 明治図書,1 9 97 年) の 4 分冊 シ リーズが出版 された。 その中で氏 は 「 技術 ・ 家庭科では,生徒の興味 ・ 関心や学習の仕方に応 じた学習指導 を行な うこと によって,生徒の積極的な学習活動を促す ことが 多い。 とりわけ学習課題 を設定 した課題解決型の 授業は,学習の成果 を高めることができる。」と述 べ, ここで 「 課題解決学習」風な教育方法を取 り 上げた。 しか し,「 系統学習の主張 を取 り入れ よ り 真正な問題解決学習を打 ち出 した」 とされ る 「 課 題解決学習」 7)の展開 と定義 は見 られない し,各実 践報告において もそれ を意識 している と思われ る ものは,少数 といえる8)0 これは 「 課題 を学習す る課題解決型」 と,表現 を変 えた ものの基本的に問題解決的学習 と基本的 に変わ らない と思われ る。 このことは,1 9 98 年版 中学校学習指導要領技術 ・家庭の 「 第 3 章指導計 画の作成 と内容の取 り扱い」で,「 生徒が 自分の生 活に結び付 けて学習できるよ う,問題解決的な学 習を充実す ること。」と述べているいることか らも, 技術科が 「 課題解決学習」に転換 した と思われな い 。 「 新学力観」登場後 も技術 ・ 家庭科の性格は,間 (3)題解決的学習型,すなわち,教育内容それ 自体の 教育的価値の問題は軽視 され る ところの経験主義 教育にある と思われ,時間削減のなかで よ りその 性格は強 まってい くといえる。 では次に,経験主義教育の色濃い技術科におい て,実際いかなる問題が生 じているか,い くつか の例をあげて検討 してみ よ う。 第 1に,技術科における問題解決的学習,特に 作業課題学習における問題点は , 「ものを作 らせて いれば子 どもたちは喜ぶ」 とい う側面に依存 し, 結果的に教師のカ リキュラム開発,特に教育内容 研究が遅れている現状 を生 じさせている と思われ ることにある。それは,安易なキ ッ ト題材に頼 り 「 授業はただ作 らせて終わ り」 とい う実態が全国 的にあ り9 ) ,未熟な教師の授業にいた っては,加 工学習の終了後,子 どもたちが作品を技術科室に 大量に残 してい く状況 もみ られ る。 このことは, 感動 と達成観が少な く,ただ作 らされている子 ど もに とって,評定の終了 した作品‑の愛着はわか ず,その よ うな行為が生 じた と言えないだ ろ うか。 また別の例では,電気領域の題材であった ラジ オ とかイ ンターホンのキ ッ トの修理が , 「 領域」の 学習が終了 した後大量に教材会社に依頼 され る と の事実 も聞か されている10)。都市部以外の学校で, 仮免許で技術科 を持た されている教師な らともか く,免許があ りしか も,他教科を兼任 しな くてす む大都市の教師か らの依頼 も多数ある とのことで ある。学力の形成を重視す る教師な らば,それ ら のものを教育内容に対応 した教材 として位置づけ, 授業を展開す るであろ う。な らば修理箇所 を自分 で発見できる し, またその事が学習になる。 この よ うな傾向は,回路はブラ ックボ ックスで , 「 完成 の喜び」の側面を重視す る結果起 こっている と考 え られないこともない。 これ らの事 実か ら言 え る こ とは, この現 実 を 個々の教師の資質 と責任にだ け返す ことはできな い とい うことである。つま り,何を教えるか,教 育 目標 ‑内容を常に教師が 自覚 していれば,電気 教材の修理は飛込み教材に転化 し, よ りよい授業 に発展 してい くと思われ る。 ことの本質は , 「 作 ら せておけば授業が成立す る」 とい う安易な教師の 姿勢を生み出す,教育内容を軽視す る経験主義教 育の性格 にこそあるのではないだ ろ うか。 事実 「 作 らせてお く授業」は,時間数の削減の なかで,できるだ け失敗がな く,見栄 えが よく, 「 家庭生活に役に立つ」 となる と安易なキ ッ ト題 材に頼 らざるを得な くなる傾向 もある。た とえば こんな事実 もある。東京某区の学校で授業参観 に みえ られた保護者である文部省の役職の方が,木 材加工におけるカセ ッ トラック題材のキ ッ ト製作 の授業 を見学 された よ うだ。その授業は,板材の 横 引き切断, こぐち とこぼを鉄やす りとサ ン ドペ ーパーでやす りが け,釘 とボン ドで接合,接合箇 所を真鎗金具で補強 ( 接合面の失敗 を隠す役割 と 見栄えのよさ) ,すでに加工 されている溝に背版の ベニヤ板 をはめ込み,素地磨きを して塗装で完成。 進度のはやい子 どもは,素地磨きで時間調整 して いた よ うである。その後,全 日本 中学校技術 ・家 庭科研究会の役員の方が文部省 に要請にいかれた 時,その役職の方がち ょうど対応 され子 どもの授 業参観の話 を持ち出され , 「 あのよ うな授業に教育 的価値があるのか」 と問われ,要請者一同なに も 反論できなか った とい うことである1 1 ) 0 別の事例あげよ う。大学に入学 した学生に 「 中 学校 の技術科の授業で何を教わ ったか」 と聞 くと, 「 本立て,文鎮,動 く模型,イ ンターホン」等 と 製作 した題材 をあげる傾向が強い。「 製作 した もの でな く何を教わ ったか」 と再度聞 くと返答に困る。 時には, 「 旋盤で文鎮削 りを したあの美 しさ 」 「ド ライバーの先端 を水に入れてジュ とさせた ( 焼 き 入れ) 」とい う内容 もだ され る。 中学校生活の記憶 の中で授業のひ と駒 を,卒業後 3 年以上立 ってい る学生に聞けば,作 り上げた作品が まず思い出さ せ るのは当然であるが,感動 した授業のひ と駒を なかなか思い出せない ことは,過ぎ去 った時間だ け とは思 えない。授業で感動 した場面や, 目か ら 鱗の授業は記憶に鮮明に残 っているものではない だ ろ うか。 筆者が在 中学校職 中の卒業生の同窓会 における 聞き取 り調査では,同様 の質問に , 「 ずぶ濡れ にな った水車の動力測定実験 」 「 小刀の焼 き入れ,鍛造, 手を擦 り剥いたナイ フの研ぎ」等々 と授業の場面 が応え られ,我々の知 らなか ったエ ピソー ドも聞 か され感嘆 させ られた。学んだ教育内容 と豊かな 感動 した経験がた くさんあれば,記憶は蘇 るもの と思われ る。 第 2 に,技術科教育に対す る外部か らの評価の 面でみ るな らば, 中学校の教師の中で技術科が仮 免許 ( 無免許)の割合が一番高い とい う現実1 2 ) , 新規採用 にあた り他教科 を優先 し技術科は講師や 非常勤講師で補 う傾向が強い教育委員会の姿勢1 2 ) 等があげ られ る。 (4)1 4 2 大 谷 良 光 また, 「 技術科は実技教科 」 「ものを作 らせてい れば よいので技術科は楽でいいね」等職場の技術 科教師‑の陰 口,私立 中学校,特に進学校での最 低規定に も達 しない技術科授業時間数, また技術 科教師を講師のみで対応 させているなどがある。 さらに , 「 大学入試の共通テス トの得点が他教科 よ り低い技術科の入学情況 」 「 偏差値で技術科 しか なか ったので来た とい うや る気のない学生」等の 実態 , 「 機会があれば他教科‑移 りたい」 , 「 入試科 目でないのだか ら息抜 き教科 としてやれば よい」 等 とい うあき らめ技術科教師の声等の事実 もある。 これ らの事実は,受験教科科 目でない主側面や 他教科に比べて教科 としての歴史が新 しい, また 技術教育が鬼子であ った とい う歴史的な側面はあ るに して も,社会的評価が低いのはそれだ けであ ろ うか。 日本においては普通教育 としての技術教 育は 「 技術 ・家庭科」に しかな く,つ ま り技術教 育を国民が評価 しているのは, 40 年間存在 した 「 技 術 ・家庭科」の現実の姿を見ての評価 とい う側面 もある といえるのではないだ ろ うか。 この論拠 として諸外国 と比較 して考えてみる と, 国際的には1 97 4 年のユネスコ総会 において , 「 技術 教育お よび職業教育に関する改正勧告」が議決 さ れ , 「 技術お よび労働の世界‑の手ほ どきは,これ がなければ,普通教育が不完全になるよ うな普通 教育の本質的な要素 となるべ きである」 13)とす る 原則が確認 されている。そ して,先進諸国は技術 教育を初等教育か ら中等教育後半 まで実施 し,そ の総時間数 も数学や 自然科学教科 と肩を並べ る も の とな っている14)。 もちろん,国の科学技術政策 や科学技術教育政策,労働資格制度,労働 力政策, 企業内教育の違いがあるので一概 にはいえないが, この諸外国 との大きな違いは,4 0 年間の技術科の 性格 に規制 された技術科の実際に対 しての外部評 価に起 因 している とみ ることもあながち誤 りでは ない と思われ る。 もちろん,技術科に対す る低い評価のみでな く, 技術教育を愛する熱心な教師達の努力によ り , 「も のづ くりが好 きななった子 ども 」 「 技術科の授業を 契機に工学系の高校,高専,大学‑進んだ子 ども」 「 技術や科学に興味 と生きがいを感 じた子 ども」 をた くさん育て,周囲の関係者か ら高い評価を得 ていることも事実ある。そのよ うな子 どもたちを 生み出 した教師の授業記録を読む と,這い回 りの 経験主義教育の欠点を補い, またそれ を乗越え, 子 どもに技術のお もしろさ,すぼ らしさを感動的 に捉 えさせ, また確かな技術の学力をつ けさせて いる と思われ る15)0 3 . 技術科における経験主義教育論 このよ うに永 らく技術科を制約 し,問題 を生 じ ている思われ る経験主義教育の理論的背景を次に 検討す ることとす る。 周知のよ うに,1 958 年学校教育法施行規則の改 正により,技術 ・家庭科が発足 した。同時に告示 された中学校学習指導要領技術 ・ 家庭において「 オ ー トメー シ ョンや原子力産業 を主導力 とす る技術 革新の時代に対応す る国民教育の問題 を考える場 合には,生産や技術の基本 となっている工作的技 術や機械的技術 を重点的に習得 させ ることが必要 にな って くる 。」 16)と 「 近代技術」教育‑の転換 を 見せた。 しか し,そ こでは技術科の教育 目的を 「 技能の 習熟 とい うよ うな外面的な結果 よ りも,技術的活 動の実践 とい う教育の過程その ものにある」1 7 ) と されていた。 さらに教育 目標 ‑内容については, 「 技術 ・家庭科や体育では学習内容それ 自体は絶 対的な意味を もたず,それ らを通 じて習得 され る 技能や態度がむ しろ基礎的 ・基本的事項 としての 意味を もって くる」 18)とされ,技術科は,囲語や 数学な どと違い形式陶冶をめざす ものである と性 格づ けられていた。 そのため技術科は , 「 生徒が学校で しか体験でき ない よ うな経験 ( 原体験)を精選 して与 え,その 経験 を通 して知性や理性 をみがき」 19)とい うよ う に,経験す ること自体,あるいは 「 技術的活動の 実践 とい う教育過程」( 細谷俊夫)に重きを置 くも の となった。 さらに , 「 プ ロジェク ト ( 仕事)を中心に配列 し て指導す る方式」20),いわゆるプ ロジェク ト法 を唯 一の指導方法 として技術科に求め,技術の科学を 系統的に教授す ることや技能 を教授す ることを, 前者を技術者の養成,後者を技能者の養成を 目的 とす る場合 として退 けていた21 ) 0 このよ うな技術 ・家庭科の性格づ け と教育方法 の一元化は,1 95 0 年後半か ら 1 97 0 年代にか けて展 開 された,他教科における 「 教育内容の現代化」 の動き,すなわち経験主義教育の克服の課題 と逆 行 し,現在 まで強い影響 力を保持 している といえ る。 それ らの事実はまた,学習指導要領の改訂の度 に顕著に現われてきた。例えば,1 96 9 年版 中学校 (5)学習指導要領では,技術科教育の教育 目標 の要で ある 「 近代技術の理解」が 「 生活に必要な技術の 理解」に転換 し ,1 97 7 年版では,1 7 領城 中か ら 7 領域以上を学校 ごとに選択す る と変わ り ,1 98 9 年 版では,履修率が高か った とい う理由だ けで木材 加工 と電気領域 を必修 とし,他領域は選択 とされ るな どに見 られ るよ うに,教 え学ぶべき教育 目標 ‑内容それ 自体の教育的価値の問題は常に軽視 さ れてきた。 このよ うに,教育 目標 ‑内容の位置づ けが教育 論議を経ずい とも簡単 に変え られ るのは,技術 ・ 家庭科の教科の性格が,経験主義教育論 に基づ く ものであったか らと思われ る。 ここでは,子 ども にどのよ うな学力を形成すべ きか,言い換 えれば 技術の国民的教養 とい う概念は見 られなか った と いえる。 4. 経験主義教育論の特質と教育における経験の性格 さて ここで,我々の論議 に関わ る限 りにおいて, 経験主義教育論の特質を整理 しておきたい。 とい うの も,経験主義教育の批判は,子 どもの経験 を 軽視 した りす ることを何 ら意味す るものではない に もかかわ らず,技術科では,時 として,それが,も のをつ くることや経験 を大切 にす ることを非難 し ている とうけ とられて しま う傾向があるよ うに思 うか らである。 経験主義教育論 の特質は,何 よ りもまず 「 なす ことによって学ぶ 」l e a mi n g b yd o i n g とい う主張 に 見出 され る。それは一面では,知識 と実践 の統一 を主張 している とみなす ことができるか もしれな い。子 どもは経験を通 して学習す る, とい うよ り も経験がすなわち学習なのである。子 どもの経験 の再構成が学習であって, またそれがすなわち成 長である とする。そ して,子 どもの経験の再構成 としての学習を有効にするためには,子 どもの 日 常生活の経験的事象に学習の内容を求めるべきで あ り,学習の活動は人間の経験 自体の中に構造的 に潜在す る問題解決活動でなければな らない とし た22)0 ここには確かに一定の正 しさが含 まれている。 すなわち,一つには,子 どもの成長は子 どもの 自 己活動である学習活動を通 してのみ達成 され る と い う観点である。教師による一方的な教えこみや 教化は,子 どもの発達を うなが さない。 また,い ま一つには,子 どもは家庭や社会 との交渉を通 し て経験 している,すなわち学習 しているのであっ て,学校では じめて学習が行われ るのではない と い う観点である。子 どもは 日常生活の経験の中で 多 くの知識な どを身につけてお り,学校の教育 も こうしたいわゆる経験的ない し生活概念 との関わ りのなかで営まれ る。 したが って ここか ら,経験主義教育論は,学校 で こ うした子 どもたちの経験 に連続 しなが ら,子 どもたちの生活か らでて くる興味をひきたてつつ, 知的活動を誘導 し問題解決の経験を通 して知的能 力を育てる とす る。そ してその際,教科の内容は, それ 自体に意味があるのではな く,子 どもの問題 解決の活動のための手段にはかな らない とす る。 この よ うに経験主義教育論は,子 どもたちがそ の生活の中で外的環境 と交わ りなが ら経験 を重ね, 自ら経験を再構成 して発達 してい くとする。 しか しそれは,人間の発達の一面にすぎない。人間の 発達は, 日常経験の連続的な再構成ですすんでい くよ うな面に とどまることな く,他の動物 とは異 な り,歴史の中で蓄積 ・発展 させてきた人類の経 験 の結晶である 「 言語や科学技術そ して芸術の本 質的な構造を支え合 う基本的な原則や概念,ある いは実現形式の基本型」 23)をわが ものにす ること によって もた され る。 したが って,教育において経験を重視す る とは, 経験主義教育論のよ うに経験 を絶対化す ることで はな く,科学的概念や芸術的形象な どの形でいわ ば結晶 されている人類の経験 との関係 において, 子 どもの経験 を適切 に位置づ けることを意味す る。 勝 田守一は , 「 経験主義 を批判す ることは,人間経 験 を無視す ることではない。 このことを忘れ る と, 混乱が起 こる。経験 をだい じにす ることは, これ を絶対化す ることではない。経験 を絶対化す るこ とは,‑ヰ 略・ ・ そ れは逆に経験の真の意味を見失 うことに通 じる。」24)と,経験 を重視す ることと,そ れ を絶対化す ることの区別を説いていた。 経験主義教育論の特質で もう一つ大切な事は, 学習 とは子 どもの経験の再構成であ り,それがす なわち成長だ とする教育論の立場 よ り , 「 技術的活 動の実践 とい う教育の過程その もの」 ( 細谷俊夫) の経験的事象が教育内容 とな り,それ を経験す る 過程その ものに教育的価値を求めることにある。 そのため,結果的には,何を教 えるのかがはっき りしな くな り,その一つの帰結 として,経験主義 教育論は , 「 教育内容 と教材 との混同」 25)とい うこ とにつなが っていか ざるをえない。ちなみに勝 田 は,経験主義教育は 「 形の上の無統制が選択の 自 (6)1 4 4 大 谷 良 光 主性に とってかわ り, じっさいには教科書や参考 書に盛 られた知識 をひそかに教科内容 として覚え こませ るほかはな くなって しま う 。」26)と,教育 目 標 ‑内容 と教材の混同することの現実的な機能を 指摘 している27)0 したがって,求め られる ところの教育における 経験の性格は,経験主義教育論のよ うに,経験 を 絶対化 した り,経験その ものを教育内容にす る と い うことでな く,文化遺産な どの形でいわば結晶 されている人類の経験 との関係 において,豊かな 経験を重視することにある と考え られ る。 5. 経験主義教育 と同根 ‑技術科固有の題材論 技術 ・家庭科発足か らの経験主義教育 とい う技 術科の性格づ けを, よ り徹底 し学校に定着 させた ものが,1 96 9 年版 中学校学習指導要領技術 ・家庭 で登場 した題材論 と考え られ る2) 。そ こで,題材 論 とその影響 について検討することにす る。 教材 とい う用語は, 中学校学習指導要領技術 ・ 家庭の過去 5 回の改訂おいていずれ も使用 されて いず,それ に該 当す る用語 に,1 9 58 年版では 「 実 習例 」 「 取 り上げる製品」とされてお り ,1 9 69 年版 以降には 「 題材」が当て られていた。ただ し,指 導書 ・解説書には稀 に使用 されているが,1 98 9 年 版学習指導要領 『 技術 ・家庭科の解説 と展開』に おいて, 担 当執筆者の村田昭治は , 「 題材 ( 教材)」28) とし題材 と教材 を同義 として理解 していたよ うに 思われ る。 しか し,教育学において題材は,国語,英語, 美術な ど限 られた教科において,それ も単元 と同 義で使用 されている場合が多い と思われ,教育学 で使用 され る概念である教材 に,題材 をあてが う とい う論法は,題材が技術科において固有の内容 と役割を もっているか らと考え られ る。 この固有 の題材 とい う概念が,中学校学習指導要領技術 ・ 家庭 に登場 したのは,技術 ・家庭科発足の1 958 年 版でな く,次ぎの改訂にあたる1 9 6 9 年版であ り, そ こには教科の性格 を変 えよ うとする一定の意図 が働いていた とみ られ る。 もっとも重大な意図は,1 9 69 年版学習指導要領 において,前述 した ように技術 ・ 家庭科の 「目標」 か ら 「 近代技術の理解」を削除 し,一方 「 第 3 指 導計画の作成 と各学年にわたる内容の取 り扱い」 において,新たに 「 題材選定の観点」を入れ,そ の 4 項 目目に 「 家庭 生活 の充実 発展 に役立つ も の。」を導入 した ことにある。 それは,技術科の教材 を 「 家庭生活に焦点を し ぼる」 ことによって,それ以外の もの,つ ま り現 代産業の生産過程 を例示 し典型化 した よ うな教材, 言い換 えれば,技術及び労働の世界の手ほどきを 典型化 した教材 を排除 した といえる。事実,1 96 9 年版準拠の教科書か らは,産業や社会的生産に関 わ る教材がすべて削除 された。 これ ら題材論の影響 と役割については,佐藤史 人他の労作 「 中学校技術科学習指導要領 ・指導書 における題材概念 について」 2)で明 らか にされ て いるので,それ らを踏 まえカ リキュラム開発論に とって大切な点を指摘 してお くことにす る29)0 それ は, 「 実習 の題材 ( プ ロジェク ト)は,技 術 ・家庭科の各領域 にお ける知識 と技能の同時的 な形成 を図るための,媒体であ り,手段であ り, 指導単位である と考えるべ きものです。つま り, 題材それ 自身が学習の対象でな く,題材 を核 とし て学習の対象である知識 と技能 とが ま とま りを も つ ものです」 30)とされているよ うに,題材 は, ま とま りをもった指導単位を構成す るための各領域 の教育 目標‑内容 を統合する核 とされている点で ある。 このことは,教育 目槙 ‑内容の面では,その系 統制を軽視 してお り,教材論の面では,教育 目標 ‑内容に対応 した教材 を研究す る とい う視点を後 退 させ る危険性 をもつ もの といえる。前述 した腰 掛 け題材の ように一領域一題材でな く,副題材の よ うな場合で も, ま とまった時間数を配当するこ とが常であ り,それ を,統合 させた一 つの指導の ま とま りとす ることは,それ を単位 とした教材の 研究に傾斜 させ ることは必須である。事実,研究 会や報告書において 「 教材開発」よ り 「 題材開発」 が多 く用い られ ることが この ことを示 している。 他の教科では当た り前の,教育内容に対応 した教 材研究の視点を,題材論が後退 させた といえる。 したがって,題材論は,技術科における経験主 義教育の問題を克服するどころか,拡大 したこと にその役割があ り,前述 した技術科の社会的評価 の低下の一因にな っていると考え られ る。 6. 技術科の経験主義教育を克服す る視角 技術科の性格は,経験主義教育論 と題材論 とい う,根源は同一のプラグマテ ィズムによって制約 されていた といえる。 よってその弊害の克服 と社 会的評価の向上のためには,新たな教科の性格が 求め られるため,次にその克服 の視角を検討する (7)ことにする。 ところで,題材論 を取 り入れた 1 9 6 9 年版 中学校 学習指導要領技術 ・家庭 における教育 目的 ( 学習 指導要領では 「目標」 と記 されているが, この叙 述は 「 意図」と理解 し目的 と表す)は,「 生活に必 要な技術を習得 させ,それ を通 して生活を明る く 豊かにす るための くふ う創造の能力お よび実践的 な態度 を養 う」 と述べ,子 どもが習得す る技術科 教育の対象を, 「 生活に必要な技術」 としていた。 また,技術 ・家庭科 を形態 として分離 させた, 1 9 9 8 年版学習指導要領の [ 技術分野]の 目的は, 「 実践的 ・体験的な学習活動 を通 して, ものづ く りやエネルギー利用及びコンピュータ活用等に関 する基礎的な知識 と技術 を習得する とともに,技 術が果たす役割 について理解を深め,それ らを適 切 に活用す る能 力 と態度 を育てる」 と,習得の対 象に 「ものづ くりやエネルギー利用 ・・」 と生産 に関す る技術の復活の兆 しがみ られた。 これは, 技術科発足 ( 1 9 5 8 年版)にお ける目的 , 「 近代技術 に関す る理解」の再来 ともいえる。 一方国際的には前述 した よ うに ,1 9 7 4 年のユネ スコ総会の改正勧告における原則,つま り 「 技術 お よび労働の世界‑の手ほどきは, これがなけれ ば,普通教育が不完全になるよ うな普通教育の本 質的な要素 となるべきである」 ,また 1 9 8 9 年の 「 技 術教育及び職業教育に関す る条約」において,「 普 通教育におけるすべての子 どものための技術お よ び労働の世界‑の手ほどき‑‑・ %提供 しなければ な らない」31 ) と,生産 に関す る技術‑の手ほ どきが 確認 されている。 したが って,経験主義教育の克服の第 1 の視角 は,教育 目的論において技術科教育の対象を国際 的に確認 されている ところの原則,つま り生産に 関す る技術 を対象にす る方向で検討す ることにあ る考 え られ る。 この視角を明 らかにす る意味で,学習指導要領 の 目標 (目的 一筆者) ,つま り教育 目的の具現 を考 察 してみ ることにする。中学校学習指導要領技術 ・ 家庭は,「 生活を明る く豊かにするための くふ う創 造の能力お よび実践的な態度 を養 う 」( 1 97 7 年版) , 「 進んで生活を工夫 し創造す る能力 と実践的な態 度を育てる 」 ( 1 9 98 年版技術 ・ 家庭 目標) とその 目 標 を述べているが, この 目標がいかなる方法で, 教育成果 としていかに形成 され,そ してその結果 をいかに評価 ・測定 しているかを実践報告集か ら み ることとす る。 これ ら先行研究の全てを検討す ることは不可能 なため,技術科教育のす ぐれた代表的な実践 を集 約 した といわれている 『 技術科教育実践講座』全 1 5 巻32)に限定 して調べてみ る。 実践題 目に 「 創造力を育てる」「 実践的態度 を育 てる」「 問題解決能力を育てる」等の文言の入 って いた報告書は,第 1 巻 「 製図」 0/2 0 ( 分母はそ の領域の実践報告数,分子は上記の文言の入 った 実践報告数) ,第 2 巻 「 木材加工 」2/2 7 ,第 3 巻 「 電気」 1/3 0 ,第 4 巻 「 金属加工」 1/2 3 ,第 5 巻 「 機械」 3/2 5 ,第 6 巻 「 栽培」 1/2 8 ,第 7巻 「 情報基礎」 0/2 9 ,他の巻では第 9巻 「 指 導 と評価」に 1 実践が報告 されお り,学習指導要 領 に記載 された 目標 (目的)に も関わ らず, これ らの研究 ・実践が極めて少ないことがわかる。 し か も, これ らの報告書の主題設定の理 由を調べて み る と,題 目ど うりその文言を追求 した報告書で ない ものがほ とん どであ り,触れてあった として も,結論で 「 ○ ○が育った と思われ る」 と,実践 者の感想が述べ られている ものである。 この中にあって,「 創造性 を伸ば し,実践 力を育 てる学習指導はど うすれば よいか 一大輪ギクの栽 培の指導 を通 した実践」33)と「 創造性 を伸ば した実 践力を育てる学習指導」 34)は,「 創造性育成を」を 中心主題 とした実践報告である。両実践は,福島 県技術 ・家庭科研究会の共同研究の成果であ り, 研究手順 と考察には学ぶ ところが多い。 しか し, この実践は創造性の因子を分析 し,育成 された状 態像を想定 して評定尺度 を作成 し,教師の評定 と 子 どもの 自己評価によるデータを因子分析解析 に よ り求め,それ らの因子で伸ば したい要素を把握 し,その原因を明 らかに して,指導計画に生かす ものである。 これ らの手法による創造的思考の研究に対 して, 「 実験心理学の科学性の基準を満足 させ るよ うな 形での知識はまだ 固め られていない し,応用科学 として広い一般性 を持 ち うるよ うな形での創造思 考 開発 の方法 は見 出だ され てい る とはいいがた い」 とい う批判35)もある。事実,創造性が向上 し た とされ る 「 感受性」 「 柔軟性」 「 再構成力」等が, 具体的に どの よ うに向上 したか, この実践報告で は読み取れないのは,我々の読解 力のな さであろ うか。 これ らのことは, 「 創造力の育成 」 「 思考力の育 成」等,いわば耳触 りのよい言葉 を並べた実践報 告において,それは,それ らの大切 さを主観的に (8)1 4 6 大 谷 良 光 保つのみであって,研究課題 として位置づかず, 科学的に明 らかにす ることが困難であることを示 している と思われ る。 したが って,問題が山積み す る技術科の現実にあっては,具体的な手順や, や り方が用意できる範囲に研究の課題を限定す る ことが大切 といえる。 以上によって,技術科教育の対象を生産に関す る技術,つ ま りユネスコ 「 技術教育及び職業教育 に関す る条約」の原則である 「 技術お よび労働の 世界‑の手ほどきは, これがなければ,普通教育 が不完全になるよ うな普通教育の本質的な要素 と なるべきである」を踏 まえるな らば,教育 目的は, 技術及び労働の世界‑の手ほどきにあ り,すべて の子 どもが技術及び労働 の世界をわが もの とす る こと36), と考 え られ る。そ して,具体的に手順が 用意できる範囲,つ ま り技術科教育の対象である 技術及び労働の世界か ら,文化遺産 として何 を子 どもたちに伝 えるのか,すなわち学力論の視角か ら検討す ることが,経験主義教育論 を克服す る道 と考え られ る。 そ こで,最後に学力について検討す ることにす る。学力をどうとらえるかをめ ぐる諸学説におい て,広岡亮蔵 に代表 され る学力の 「 三層説」が, 問題解決学習,単元学習 と不可分の関係 にあ り, 一種 のわか り易 さをもっているため少な くない影 響 力をお よぼ してきた。技術科教育において も, 細谷俊夫は学力 とい う表現は使用 していないが, 教授の概念 として, 「 知識」, 「 理解 ・技能」 ,そ し て,技術教育の終局の 目標 として 「 態度」を掲げ ていた。氏は,「 技術教育の 目標は,基礎的な技術 に基づ く実践的な活動を通 して,一定の技能 を習 得 させる とともに,その技術に関する知識 を習得 させ,技術的世界ない し技術的環境に対する合理 的な態度 を育成することにある」 37)としている。 この論は技術 ・家庭科の学習指導要領の一貫 し た考え方であ り,技術 ・家庭科発足時の文部省の 担 当者であった鈴木寿雄は, この論 に広岡の 「 三 層説」を重ね合わせ, 「 技術 ・ 家庭科 の学力 と教材 類型」を表 している38)。それは,表層 としての学 力‑知識,技能,wha t 型,中層 としての学力ー理 解,w hy 型 と処理能 九 Ho w 型,深層 としての学 カー態度 とい う構造化である。一見分か り易い よ うに見えるこの 「 構造化」が, 日本の技術科の実 際の中で どのよ うな役割を果た し, どのよ うな問 題を生 じさせてきたかは充分な検討が必要である と思 う。ただ ここでは,問題の山積 した技術科教 青において, 「 実践的な態度 を形成す る」 とい う 「 三層説」による学力論が,技術教育学の発展に 貢献 したのかの疑問を指摘 しておきたい。 とりわ け,教科における態度の形成はいかに して実現 さ れ るか, またそれ をいかに して測定 しうるか等に ついて,前述 した よ うに研究の具体的手続きを設 定す ることが,容易ではない よ うに思われ る点は, 重大な問題だ と考え られ る。 これ に対 し,教育内容をわかち伝 えることがで きる文化に限定 し,学力 とは , 「 学校で育て られる 認識の能力を主軸 として とらえ られ,文化的価値 体系に即 し,その成果が計測可能な よ うに組織 さ れた教育内容を学習 して到達 した能力である」( 勝 固守一)39)とす る学力論は,研究手続きの具体化の 点で多 くの優れた面を もっている とい える.そ し て,須藤敏昭はこの勝 田守一の学力論を踏 まえ, 技術科教育の学力の構成要素を 「 技術学的認識, 技能,お よび技術観」の三つ と考 えている40)0 この考 え方 による と,態度や学習意欲は,具体 的な対象についての学習過程 に随伴 して生起 して いる行動や心理の状態であ り,それ ら自身を抽象 して育て られ るものではな く,常に教育内容の習 得を基本 として,それ との関連で形成 されてい く ものである とす る。ゆえに,学力の構成要素 とし ては 「 態度」 とか, 「 関心 ・態度,情意 」( B.S. ブルーム) とい う学習過程 において生起する規定 要 因ではな く,生産 に関す る技術 に対す るものの 見方,すなわち技術観 ( 感)や労働観が形成 され たか とい うことが よ り本質的である と考え られ る。 しか しこのことは,関心 ・態度や学習意欲 とい うものを軽視 しているのではない。 これ らは学力 の構成要素の課題ではな く,教材論や指導過程論 における重要なテーマである と考 えるか らである。 そ こで我々は,子 どもたちにつ けるべき学力を よ り明確に してい くため,学力の構成要素を子 ど もの側か らみた場合, 「 技術学的認識」 ,言い換 え れば,技術に関す る科学的認識,生産技能 ( 運動 的肉体的技能 ‑狭義か ら科学的認識に裏付 けられ た精神的技能 ‑広義 にお よぶ)お よび技術観 ( 低 学年の場合は技術感)・ 労働観 と考 え られ る。 また, 客観的に存在す る文化遺産の側か らみた場合は, 技術の科学的概念や技術に関す る科学の基本,労 働手段を使用 しての 「 分かち伝える」 ことができ る作業の基本 ( 操作 ・オペ レーシ ョン) ,技術観 ・ 労働観41)であ り, これ らが教育 目標 ‑内容の対象 と考え られ る。 (9)7 . 結論 技術科の実際の検討か ら, 中学校学習指導要領 技術 ・ 家庭による技術科の性格は, 「 生活経験 との 連続性の中で,プ ロジェク ト,問題,作業な どを 通 して,経験 を連続的に改造す ることによって, 一定の概念 ・知識 を子 どもに獲得す ることができ る」 6)とす る,新教育に系譜 をもつ経験主義教育の 特徴 と一致 している。そ して技術科 においては, 教え学ぶべき教育 目棲 ‑内容それ 自体の教育的価 値の問題は常に軽視 され, したが って ここでは, 子 どもにどのよ うな学力を形成すべ きか,言い換 えれば技術の国民的教養 とい う概念は見 られなか った と思われ る。 ここに,技術科のカ リキュラム 開発論の問題が集約 されている と考え られ,技術 科の社会的評価が低い と思われ る要因の一つ とい える。 そ して,経験主義教育 を問題の主因 としたが, それは子 どもの経験 を軽視す る ものではな く,求 め られ る ところの教育における経験の性格は,経 験主義教育論のよ うに,経験 を絶対化 した り,経 験その ものを教育内容にす る とい うことでな く, 文化遺産な どの形でいわば結晶 されている人類の 経験 との関係において,豊かな経験 を重視す るこ とにある と考え られ る。 また ,1 9 6 9 年版 中学校学習指導要領技術 ・家庭 に登場 した題材論 は,カ リキュラム開発論に とっ て,教育 目標 ‑内容論の面では,その系統制を軽 視 してお り,教材論の面では,教育 目標 ‑内容に 対応 した教材 を研究す る とい う視点を後退 させる 危険性 を もつ もの といえ,他の教科では当た り前 の,教育内容に対応 した教材研究の視点を,技術 科では題材論が後退 させた といえる。 したが って,題材論は,技術科にお ける経験主 義教育の問題 を克服す るどころか,拡大 した こと にその役割があ り, 「 教育内容の現代化」, さらに 学ぶ意味 と喜びの獲得の授業の創造 とい う現代的 課題に照 らして,技術科における経験主義教育, 題材論の克服が課題 となる。 そ こで,2つの課題の克服は,教育 目的論 と学力 論の視角か ら考察す ることが適切である と考 え ら れる。すなわち,教育 目的を,ユネスコ国際条約 の原則である 「 技術お よび労働の世界への手ほど きは, これがなければ,普通教育が不完全になる よ うな普通教 育の本質的 な要素 とな るべ きであ る」を踏 まえるな らば,学習 目的は,技術及び労 働の世界‑の手ほどきでによ り,すべての子 ども が技術及び労働の世界をわが もの とす ること36), と考え られ る。 そ して,具体的に手順が用意できる範囲,つま り技術科教育の対象である技術及び労働の世界か ら,文化遺産 として何を子 どもたちに伝えるのか, すなわち学力論 の視角か ら検討 し,なおまた , 「 わ が もの とす る」の形態 と実体はいかなるものかを, 別稿 「 カ リキュラム開発論の課題 についての検討 の視角」42)で考察 した,子 どもの生活概念の再構成 とい う視角で検討す ることが克服の道 と考 え られ る。 そ して,技術の学力の構成要素は,技術に関す る科学的認識,生産技能,技術観 ・労働観 と概念 づ けられ る。 註 1)大谷良光 :「 カリキュラム開発論の問題 と課題」 『 弘前大学教育学部紀要第 8 7 号』 ,p p. 1 2 3 ‑ 1 2 9 , 2 0 0 2 年。 2) 佐藤史人 :「 技術科教育における題材概念の独 自性 と役割一教材論の発展をめざして‑」東京学 芸大学教育学研究科修士論文 ,1 9 9 1 年。 佐藤史人他 :「 中学校技術科学習指導要領 ・指導 書における題材概念について 」 『 東京学芸大学紀要 第 6 部門産業技術 ・家政第 4 2 集」 】 ,1 9 9 0 年。 3 )教育内容 と教育目標は同義 として以下使用する。 ただ し,学習指導要領に関わるところは 「 教育内 容」 として用いる。大谷良光 :「 カ リキュラム開 発論の課題についての検討の視角 」 『 弘前大学教育 学部紀要第 8 7 号』 ,p p. 1 3 ト1 3 8 ,2 0 0 2 年,参照。 4) たとえば,原正敏 :「 技術科教育の現状と課題」 , 長谷川淳他編著 『 たのしくできる中学校技術科の 授業』あゆみ出版 ,1 9 8 3 年等0 5) 村田昭治 :「 題材や教材をどのように構想 した らよいか」 ,文部省内教育課程研究会監修 『 技術・ 家庭科の解説 と展開』 教育開発研究所 , p p. 1 9 6 ‑ 2 0 0 , 1 9 8 8 年。 6) 五十嵐・ 大田他編 『 岩波教育小辞典』 ,p 9 4 ,1 9 8 2 年。 7) 広岡亮蔵 :奥田真丈他編 『 現代学校教育大辞典 第 1 巻 』ぎょうせい ,p p. 4 1 4 ‑ 4 1 5 ,1 9 9 3 年。 8) 安東茂樹 :浅見匡編著 『 新 しい指導法 ・題材で 授業を改革する中学校技術 ・家庭科』木工 ・金 工 ・情報基礎,明治図書 ,p p. 4 8 ‑ 5 0 ,1 9 9 7 年等C 9) 全国規模の研究会における筆者の聞き取 りに基 づ く。 1 0 ) 東京に本社がある大手教材会社の幹部社員の話。 ll )1 9 8 9 年東京都立教育研究所での葛岡啓一全国技 (10)1 4 8 大 谷 良 光 術 ・家庭科研究会会長の講演 メモ。 1 2)隈部智雄 による文部省資料調査1 9 96 年度報告。 1 3)技術教育研究会編集部,田中喜美訳:『 技術教育 研究』第5 5 号,p. 7 4,2 00 0 年。 1 4 )田中喜美 :「 現代にお ける普通教育 としての技術 教育 の同時代像」『国民教育 にお けるテ クノ ロジ ー ・リテ ラシー育成の教育課程開発 に関す る総合 的比較研究』( 科学研究費補助金基礎研究A研究成 果報告書) ,1 9 97 年,参照。 1 5)例 えば ,4) と同掲書 の実践報告等。 1 6)細谷俊夫 :『 教育方法第 3 版』岩波書店,p. 21 0 , 1 9 80 年。 1 7 )細谷俊夫 : 1 6) と同掲書,p. 2 0 90 1 8)細谷俊夫 : 1 6) と同掲書,p. 21 2 0 1 9)鈴木寿雄 :『技術 ・家庭科の研究 と実践』東京書 籍,p p. 37‑ 38,1 981 年。 2 0)鈴木寿雄 :『原点か らの発想』ニチブ ン,p. 1 2 , 1 9 90 年。 21 )鈴木寿雄 : 2 0) と同掲書,p p. 1 2‑1 30 2 2)細谷俊夫 : 1 6) と同掲書。 23) 勝 田守一 : 『 能 力の発達 と学習教育学入門 1』国 土社,p. 2 25,1 9 6 4 年。 2 4)勝 田守一 : 23) と同掲書,p. 1 590 25)柴田義松 : 『授業の基礎理論』明治図書,p. 1 3 6 , 1 97 6 年。 2 6)勝 田守一 : 23) と同掲書,p. 1 5 90 27)経験主義教育の特質の論述は,大谷良光 ・田中 喜美他 「 機械 ・原動機 にお ける技術 の科学的概念 の構造化一技術科での経験主義教育の克服 の道 を 探 る ‑ 」 『東京学芸大学紀要第 6部 門産業技術 ・ 家政第4 0 集』1 9 88 年, に基づいている。 28)村 田昭治 : 5) と同掲書。 2 9)田中喜美 :「 中学校技術科の授業論」,河野 ・大 谷 ・田中編著 『 技術科の授業 を創 る‑学力か らの 挑戦』学文社,p 3 08,1 9 99 年,参照。 3 0)鈴木寿雄 : 1 9)の同掲書,p. 5 80 31 )1 3) と同掲書。 3 2) 技術科教育実践講座刊行会 :『 技術科教育実践講 座 』 全1 5 巻,ニチブン,1 9 89 年。 33)荻野保夫 : 3 2) と同掲書第 6 巻 「 栽培」 ,p p. 87 ‑ 1 00 。 34)中川源美 : 3 2) と同掲書第 9 巻 「 指導 と評価」 , pp. 7 5‑ 8 80 35)東洋 :『 講座心理学 8 ( 思考 と言語 ) 』東京大学 出版会,1 96 0 年。 3 6)田中喜美 : 2 9) と同掲書,p. 2 99 , を踏 まえてい るO 37)細谷俊夫 : 1 6) と同掲書,pp. 207 ‑ 2080 38)鈴木寿雄 : 1 9) と同掲書,p p. 37‑ 3 8 。ただ しこ の構造化は,1 969 年にだ された ものである。 3 9)勝 田守一 : 23) と同掲書,pp. 68‑ 73 0 4 0)須藤敏昭 :「 技術的能力の発達 」 『講座 日本の学 力 8 身体/技術』 日本標準,pp. 2 2 0‑ 2 3 4,1 97 9 年。 41 ) その研究方 向は , 「 到達度評価研 究会」と中内敏 夫 の成果 を踏 まえ,技術学的認識 と技能 を , 「 基 本性」 の段階 と 「 発展性」段階に分けて とらえ, 「 発展性」 の段階にお る 「 習熟 ( 技能でい うとこ ろの習熟 とは異なる)」が技術観 を育てる とい う, 概念装置 によって切 り開かれ てい くであろ うとい う見通 しを もっている。 4 2)大谷良光 :「 カ リキ ュラム開発論の課題 について の検討 の視角〜技術科教育を対象 として〜」『弘 前 大学教育学部紀要第8 7 号』 ,p p. 1 31 ‑1 3 8,20 02 年。 ( 2 002 年 1 月1 5 日受理)