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The Ecological Society of Japan (Japanese Journal of Conservation Ecology) 18 : (2013) 1 2, * A land-cover heterogeneity index for the sta

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空間スケールと解像度を考慮した里地里山における土地利用のモザイ

ク性指標:福井県の市民参加型調査データを用いた検証

今井 淳一

1

・角谷 拓

2,

*・鷲谷 いづみ

1

1東京大学大学院 農学生命科学研究科 生圏システム学専攻 2国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター

A land-cover heterogeneity index for the state of biodiversity in the Satoyama landscape: assessment of spatial scale and resolution using participatory monitoring data in Fukui Prefecture

Junichi Imai1, Taku Kadoya2,* and Izumi Washitani1

1Department of Ecosystem Studies, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo, 2Center for Environmental Biology and Ecosystem Studies, National Institute for Environmental Studies

要旨:農業を中心とした人間活動により比較的限られた空間範囲の中に多様な土地利用形態が存在する里地里山は、 マルチハビタットユーザー種を含む多様な生物に好適な生息場所を与えてきた。本研究は、日本の代表的な里地里 山地域を有する福井県を事例とし、対象地域内の里地里山に典型的な水辺の生物の分布とよく対応する土地利用の モザイク性指標(Localized Satoyama Index)の算出に適したユニット空間サイズ(以下、ユニットサイズ)と土地被 覆解像度(指標の算出に用いる土地被覆図の解像度:以下、解像度)を検討した。  モザイク性指標(ユニット空間の内部に含まれる土地利用のシンプソン多様度指数と非農地率の積)を 3 段階(50 m、500 m、1000 m)の解像度および 4 段階(2 km 四方、5 km 四方、6 km 四方、10 km 四方)のユニットサイズを 用い計 12 通りの組み合わせで算出し、同県による市民参加型調査で把握された魚類 6 種、カエル類 8 種、カメ類 2 種、 昆虫類 5 種の計 21 種の出現率との関係を階層ベイズ法を用いて解析した。  最適なユニットサイズと解像度の組み合わせを出現率推定結果の DIC で検討したところ、解像度 50 m およびユニ ットサイズ 6 km を用いて算出されたモザイク性指標(以下、L-SI)が種の分布を最もよく説明することが明らかに なった。すなわち、対象とした 21 種のうち、カエル類、昆虫類など、マルチハビタットユーザー種を中心とした 13 種が L-SI に対し有意な正の応答を示した。また、同県の指定する福井県重要里地里山地域では、それ以外の地域に 比べ、L-SI 値が有意に高い(Mann-Whitney, p<0.001)ことが確認された。  里地里山の水辺の多くの生物の正の応答や、重要里地里山地域内外の比較結果は、L-SI 値の高い地域は里地里山 に生育・生息する多くの種にとって潜在的な生息適地であることを示唆している。L-SI 算出に適した解像度 50 m お よびユニットサイズ 6 km の組み合わせは、同じような地形、自然環境および農業形態を有する日本国内の多くの地 域において有効であると考えられる。   キーワード:階層ベイズ法、状態指標、水生生物、土地被覆、Satoyama Index

Abstract: Satoyama is a rural landscape consisting of a diverse mosaic of agricultural and nonagricultural land that provides suitable habitats not only for habitat specialists but also for multi-habitat dwellers. In the present study, we examined land-cover data at an appropriate combination of spatial scale and resolution, to calculate a land-cover heterogeneity index for the state of biodiversity in the Satoyama landscape. We used spatial distribution data of aquatic organisms typical of the Satoyama landscape in the examinations, which were obtained by participatory monitoring in Fukui prefecture.

* 〒 305-8506 茨城県つくば市小野川 16-2 国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター

Center for Environmental Biology and Ecosystem Studies, National Institute for Environmental Studies, 16-2 Onogawa, Tsukuba-City, Ibaraki, 305-8506 Japan

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序 文

 里地里山は、伝統的な農業と自然資源の採集を中心と した人間活動によって形成・維持されてきたランドスケ ープである。比較的限られた空間範囲の中に水田、ため 池、用排水路、畑地、二次林、二次草地など多様な土地 利用形態が存在する(Washitani 2001;Katoh et al. 2009)。 すなわち、特定の生育・生息環境のみに依存するハビタ ットスペシャリスト種の種数が豊かであるだけでなく、 両生類やトンボ類などに代表されるような生育・生息に 複数の環境タイプを必要とするマルチハビタットユーザ ー種の生息も可能な複合生態系である。農業生態系にお ける土地利用のモザイク性の高さと生物の種の豊かさと の間に正の相関が認められることは、近年多くの研究が 明らかにしている(Robinson and Sutherland 2002; 楠本ほ か 2006;Hendrickx et al. 2007;Billeter et al. 2008; Firbank et al. 2008)。  しかし近年、特に 1960 年代以降は、開発や農業形態 の変化などにより里地里山における特定の生息環境の喪 失や土地利用の均質化が進行し(武内ほか 2001;Katoh et al. 2009)、各地で土地利用のモザイク性が低下してい ると推測される。環境省のレッドリストには里地里山に 生息・生育する種が多く記載されており、絶滅危惧種が 集中して生息・生育する地域の 5 割以上は、里地里山に 存在する(環境省 2010)。里地里山の生物のうち、環境 省版レッドリストに記載されている種が多い代表的な分 類群は、両生類や昆虫である(環境省 2010)。 土地利用のモザイク性の指標化

 Kadoya and Washitani(2011)は、里地里山における土 地利用のモザイク性を Satoyama Index(以下、SI)とし て指標化し、里地里山の土地利用面からみた生物多様性 評価の可能性を示した。SI は、少なくとも一部に農地 を含む任意のユニット空間に含まれる土地利用のシンプ ソンの多様度指数に非農業的土地利用の割合を乗じた指 数であり、土地利用の不均一性が高いほど、また農地の 占有率が低いほど、高い値をとる。  SI を、3’ × 3’ 四方(約 6 km 四方)のユニット空間に 含まれる 30” 四方(約 1 km 四方)のグリッド(6 × 6 = 計 36 個)の土地被覆を用いて算出し、グローバルスケ ー ル で そ の 値 の 分 布 を み る と、 ス ペ イ ン の デ ー サ (McNeely and Scherr 2002)、中米の環境保全型コーヒー 栽培地域など生物多様性の維持に資する土地利用がみら れる農業地帯で概してこの値が高いこと、日本国内では、 サシバ Butastur indicus の出現の有無や両生類の種数、 およびイトトンボ類の種数と SI 値が有意な正の関係を 持つことが示されている(Kadoya and Washitani 2011)。  Kadoya and Washitani(2011)では、空間の大きさ(ユ ニットサイズ)は生物の移動分散や人間の日常的な利用 の空間範囲を考え設定され、解像度は世界規模で利用可 能な土地被覆データに合わせて設定された。しかし、土 地利用のモザイク性指標(以下、モザイク性指標)の算 出に適した解像度とユニットサイズは地域による地形や 農業生態系の空間特性の違いに応じて一様でないことが 考えられ、個別の地域や生態系に特化した最適化が必要 であると考えられる。  本研究では、日本における代表的な里地里山地域をと りあげ、異なる土地被覆データの解像度とユニットサイ ズの組み合わせごとに指標を算出し(図 1)、対象地域 内の里地里山の水辺環境に生息する生物種の分布と比較 することで、それらをよく説明する土地利用のモザイク 性指標(地域版さとやま指標:Localized Satoyama Index: L-SI)をみいだすことを目的とした。  モデル地域としては、域内に典型的な里地里山ランド スケープを多く有し、かつ里地里山の水辺の詳細な生物 分布データが整備されている福井県を選定した。福井県 では 2001 年から 2002 年にかけて身近な水辺の生き物の 調査を目的とした市民参加型調査によって魚類、カエル 類、カメ類、昆虫類の計 21 種の分布の有無に関するデ ータが収集されている。本研究ではそのデータを活用し、 We calculated heterogeneity indices for 12 combinations of spatial unit sizes and land-cover resolutions: four different spatial unit sizes (2×2 km2, 5×5 km2, 6×6 km2, 10×10 km2) and three different land-cover resolutions (50 m, 500 m, 1000 m), and

analyzed the relationships between the indices and distributions of 21 aquatic species using Bayesian hierarchical models. The analysis revealed that the index calculated using a combination of 6×6 km2 spatial unit size and 50 m resolution was the

best for explaining the distribution of these species. Thirteen of the 21 species examined displayed a significant positive response to the index, suggesting that the index is useful for biodiversity assessments of the Satoyama landscape.

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複数の解像度およびユニットサイズの組み合わせで計算 された指標値との関係を分析し、生物分布と良く対応す る指標値の解像度およびユニットサイズの組み合わせを 特定した。さらに、福井県が指定した福井県重要里地里 山地域(「守り伝えたい福井の里地里山」、http://www. fncc.jp/index2.htm、2011 年 11 月 8 日確認)とそれ以外 の地域で、L-SI 値を比較することで、里地里山における 生物多様性の状態を評価するための指標としての有効性 を検証した。福井県重要里地里山地域は、福井県におい て本研究で用いたものとは独立に実施された生物調査の 結果(主として県版レッドデータブック掲載種の分布) にもとづき、現在も多様な生物が生育・生息する代表的 な里地里山地域として選定された地域である。

材料と方法

種の分布データ  本研究では、福井県によって 2001 年 6 ∼ 10 月および 2002 年 5 ∼ 10 月の期間に各 1 回実施された市民参加型 調査(福井県自然保護センター 2003)により得られた 種の分布データを用いた。この調査には 2001 年には 50、また 2002 年には 40 の市民団体が参加し、調査方法 や対象する生物群などについて事前に説明を受けた上で 調査を実施した。  調査においては、福井県の面積の約 12.5%に相当する、 548 メッシュ(約 1 km 四方:標準 3 次メッシュ)を対 象とし、D ネットや手網、もんどり、目視などによる調 査により 141 種(うち動物 114 種、植物 27 種。また外 来生物 8 種を含む)の在不在データが記録された(図 2)。 これらの分布データのうち「特に注意して探す種」およ び「注意して探す種」に指定されており、調査努力量の 偏りや種の誤同定が少ないと考えられた種群のうち、在 データが 9 メッシュ以下のもの、および外来生物は除外 し、魚類 6 種(シマドジョウ Cobitis biwae、ドジョウ Misgurnus anguillicaudatus、ナマズ Silurus asotus、フナ類、 ホトケドジョウ Lefua echigonia、メダカ Oryzias latipes)、 カ エ ル 類 8 種( ア ズ マ ヒ キ ガ エ ル Bufo japonicus formosus、アマガエル Hyla japonica、シュレーゲルアオ ガエル Rhacophorus schlegelii、ツチガエル Rana rugosa、 トノサマガエル Rana nigromaculata、ニホンアカガエル Rana japonica、モリアオガエル Rhacophorus arboreus、 ヤマアカガエル Rana ornativentris)、カメ類 2 種(イシ ガメ Mauremys japonica、クサガメ Chinemys reevesii)、 昆虫類 5 種(ゲンジボタル Luciola cruciata、ヘイケボタ ル Luciola lateralis、タイコウチ Laccotrephes japonensis、 ミズカマキリ Ranatra chinensis、ハグロトンボ Calopteryx atrata)を以下で行う解析の対象とした。フナについては、 種の同定が困難な場合も含まれるため、まとめてフナ類 として扱った。これらの種のいずれかが出現し、解析の 図 1.土地利用のモザイク性指標の算出における解像度とユニ ットサイズの関係の概念図。 図 2.福井県によって実施された市民参加型調査の調査地およ び標高、生物地理・地域区分。実線による境界は生物地理・ 地域区分に基づく本研究における福井県の地域区分界を示 す。生物地理的な違いを考慮するため、まず嶺北と嶺南を 区分し、さらに嶺北については、大河川との関係から九頭 竜川の流域、日野川の流域、両河川の合流地点より下流に 区分し、計 4 つの地域に区分した。いずれの地域にも含ま れない調査地点は、最も近い地域に属するものとした。

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対象となったメッシュの数は、524(福井県の面積の約 11.9%)であった。 土地被覆データ  土地被覆データは、1994 年から 1998 年に実施された 第 5 回自然環境保全基礎調査(「基礎調査目次」、http:// www.biodic.go.jp/kiso/fnd_f.html、2012 年 2 月 20 日確認) によって作成された 50000 分の 1 植生図をもとに、土地 被覆区分を 25 区分に再分類したものを用いた(表 1)。  解像度は、50 m、500 m および 1000 m の 3 段階を用 いた。1000 m は SI の算出で用いられた解像度と同じも のであり、50 m は 50000 分の 1 植生図の位置精度から 妥当と考えられるもののうち最も高い解像度である。土 地被覆図を 50 m 四方の単位区画に区切り、各単位区画 に含まれる土地被覆区分のうち面積比率が最大のものを もってその単位区画の土地利用を代表させ、解像度 50 m の土地被覆図とした。解像度 500 m および解像度 1000 m の土地被覆図も同様に作成した。 モザイク性指標の算出  ユニットサイズは、生物分布の記録に標準的に用いら れている 5 km 四方(4 分の 1 メッシュ)、10 km 四方(標 準 2 次メッシュ)に、最も粗い解像度(1000 m)におい てもモザイク性指標が算出可能な最小空間スケールであ る 2 km 四方および SI の算出で用いられた 6 km 四方を 加えた 4 通りとし、3 解像度× 4 ユニットサイズの計 12 通りの土地利用のモザイク性指標を算出し、L-SI の候補 とした。  まず、各ユニット空間に含まれる土地被覆のシンプソ ンの多様度指数(SDI)を計算した。  ただし、piは、ユニット空間の面積に占める土地利用 i の面積比率である。ユニット空間に含まれる市街地は SI の算出法にならい、SDI の計算から除外した。  さらに、SI にならい農地のハビタットとしての寄与 の度合いの低さを反映させるため、ユニット空間に含ま れる土地利用のうち農地等(「畑地」、「水田」、「農耕地 および他の植生のモザイク」、「常緑果樹園」、「落葉果樹 園」および「牧草・人工草地」)以外の土地利用の占有 率(以下、非農地率)を乗じ、本研究で用いるモザイク 性指標とした。 モザイク性指標=

 Kadoya and Washitani(2011)は、少なくとも一部に農 地を含むユニット空間についてのみ SI を算出した。本 研究で算出する L-SI も基本的には農地を含むユニット 空間を対象とした指標であるが、福井県で得られた生物 分布データはすべて里地里山における調査の結果である ことを踏まえ、生物分布調査地点を含むユニットについ ては、解像度によっては農地等が含まれないと判定され る場合であってもモザイク性指標の算出対象に含めた。 生物種の分布とモザイク性指標との関係の解析  統計解析においては、2 年分の調査結果を統合するた め、分類群 i に属する種 j が 1 回の調査で地点 k に出現 表 1.植生図に用いた土地被覆の区分。50000 分の 1 植生図を もとに、Kadoya and Washitani(2011)で用いられた 20 区 分に加え、日本の里地里山の土地被覆を表現するのにふさ わしい 5 区分を加え、計 25 区分に再分類した。 区分 出典 1 常緑広葉樹林 Kadoya and Washitani (2011) 2 落葉広葉樹林 3 常緑針葉樹林 4 落葉針葉樹林 5 混交林 6 疎林 7 灌木 8 草本 9 まばらな樹木または灌木を伴う草本 10 まばらな植生 11 畑地 12 水田 13 農耕地および他の植生のモザイク 14 マングローブ 15 湿地 16 裸地および固い砂利または石 17 裸地および固くない砂 18 都市 19 雪および氷 20 水面 21 竹林 新たに追加 22 休耕田 23 常緑果樹園 24 落葉果樹園 25 牧草地および人工草地

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する確率を pi,j,k、地点 k における調査回数を n とし、2 年間の調査の結果、分類群 i に属する種 j が地点 k に出 現した回数 Yi,j,kが二項分布に従うと仮定した。  種の出現に対して影響を与える要因として、土地利用 のモザイク性以外に生物分布調査地点の標高および生物 地理的な違いや大河川と関連した地域性が考えられる。 本研究では土地利用のモザイク性以外の要因の効果を分 離するため、標高および生物地理・地域区分(図 2)に 基づくランダム項を説明変数に加えることとした。  以上を踏まえ、pi,j,kを決定するパラメータの推定には、 以下の回帰式を用いた。

a1i,j、a2i,jはそれぞれ、分類群 i に属する種 j のモザイク

性指標に対する応答、標高に対する応答を表す。また、 SIk、altikはそれぞれ地点 k におけるモザイク性指標、標 高を示し、rlは地点 k が属する生物地理・地域区分ごと に異なるランダム項を示す(l = 1,2,3,4)。  上記の統計モデルの推定には、階層ベイズ法を用いた。 階層ベイズ法は、各種の説明変数への応答を表す回帰係 数を推定できるのみならず、各種の回帰係数を規定する パラメータを種群ごとに設定することで、任意の種群に 共通する応答を表す回帰係数を同時に推定することがで きる(Dorrough and Scroggie 2008)。本研究においては、 各分類群に共通な応答を調べるため、各種が属する分類 群(魚類、カエル類、カメ類、昆虫類)ごとに各種の回 帰係数を規定するパラメータを設定した。また、統計モ デルでは、分類群ごとの応答は、全分類群共通のハイパ ーパラメータによって規定されると仮定した。ハイパー パラメータの事後分布は、説明変数への分類群をまたぐ 共通の応答の傾向と解釈することができる。  解析においては、分類群 i に属する種 j の回帰係数 ai,j を規定する、分類群 i に共通な回帰係数を事前分布 N(bi, σbi2) として仮定した。さらに各 biの事前分布とし て、超分類群の回帰係数を超事前分布 N(c, σc2) として仮 定した。σbiならびに c、σcを規定する事前分布は、そ れぞれ正規分布及び逆ガンマ分布に従う無情報事前分布 を仮定した。  b1i、b2iは、それぞれ分類群 i に属する種に共通なモ ザイク性指標への応答、標高への応答を表すといえる。 また、c1、c2は、それぞれ全種に共通なモザイク性指標 への応答、標高への応答を表すといえる。  また、生物地理・地域区分に基づくランダム項 rlは、 平均値 0 の正規分布に従うと仮定した。  上記のモデルのパラメータ推定は、R v.2.11.1(「The R project for Statistical Computing」、http://www.r-project.org/、 2011 年 5 月 16 日確認)および WinBUGS v.1.4.3(「The BUGS Project(Imperial College and MRC)」、http://www. mrc-bsu.cam.ac.uk/bugs/winbugs/contents.shtml、2011 年 5 月 16 日確認)を用い、R と WinBUGS の間のデータの 受 け 渡 し に は、R2WinBUGS パ ッ ケ ー ジ お よ び R2WBwrapper(「 生 態 学 デ ー タ 解 析 ―R2WinBUGS」、 http://hosho.ees.hokudai.ac.jp/~kubo/ce/RtoWbwrapper.html、 2011 年 5 月 16 日確認)を用いた。パラメータ推定の際 に は、MCMC ス テ ッ プ 数 は 15000 回 と し、500 回 の burn-in の後のデータを用い、thin の間隔は 5 とした。  以上の統計解析を、各解像度およびユニットサイズの 組み合わせについて行った後、モデル選択を行い L-SI を 決 定 し た。 モ デ ル 選 択 に は deviance information criterion(DIC)(Spiegelhalter et al. 2002)を用いた。DIC は、Akaike’s information criterion(AIC)を一般化したも のであり、階層ベイズ法におけるモデル選択に広く用い られる基準である(Wilberg and Bence 2008)。モデル間 の AIC 差が 2.0 以内のベストモデルはデータを十分によ く説明し、ベストモデルとの AIC 差が 4.0 以上あるモデ ルは説明力が低い(Anderson and Burnham 2002)とされ ており、このおおまかな目安は DIC にも適用可能であ るとされている(Spiegelhalter et al. 2002)。 生物多様性保全上重要な里地里山の内外での L-SI の比較  L-SI の里地里山における生物多様性の状態を評価する ための指標として有効性を検証するため、福井県の指定 する福井県重要里地里山地域(以下、重要里地里山)と それ以外の地域で、L-SI の値を比較した。重要里地里山 は、2003 年に実施された生物調査(本研究で用いた生 物分布データの調査とは独立した別の調査)をもとに多 様な生物が生育・生息する代表的な地域が 30 か所選定 されており、その空間分布は図 3 のとおりである。選定 においては福井県レッドデータブック掲載種(以下、県 RDB 種)のうち里地里山への依存性の高い生物種およ び旅鳥の生息地等としての重要性等を選定基準としてい るため、L-SI の検証に適している。なお、30 の地域の うち「坂井平野の水田地帯」は、県 RDB 種のうち特に 水鳥の繁殖地および越冬地として、また旅鳥の中継地と

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しての寄与が評価されて重要里地里山に選定されたもの であり、里地里山の生物多様性指標としての L-SI の評 価には適していないと判断し、検証の対象から除外した。  検証は、Mann-Whitney の有意差検定を用い、重要里 地里山に含まれる地点と含まれない地点との間で L-SI の値を比較することで行った。

結 果

モザイク性指標値の空間パターン  解像度 50 m およびスケール 6 km の組み合わせにおけ るモザイク性指標値の空間分布を図 3 に示した。指標値 は市街地の周辺などでは低く、平野部と山地の境界域に おいて高い傾向がみられた。指標値の空間パターンは他 の解像度およびユニットサイズの組み合わせにおいても 概ね同様の傾向が得られた。 最適な解像度およびユニットサイズの組み合わせ  各解像度およびユニットサイズの組み合わせの DIC の一覧を表 2 に示す。DIC によるモデル選択の結果、解 像度 50 m およびユニットサイズ 6 km の組み合わせを用 いて算出されたモザイク性指標を説明変数としたモデル が最適モデルであることが示された。以下、上記組み合 わせによって算出されたモザイク性指標を、L-SI と呼ぶ。 解像度 50 m およびユニットサイズ 5 km の組み合わせは 最適な組み合わせに次ぐ適切な組み合わせ(ΔDIC = 11.3)であることが示された。 農地等を含まないユニットの数  解析対象となった全 524 ユニットのうち、各解像度お 図 3.解像度 50 m およびユニットサイズ 6 km を用いて算出されたモザイク性指標(L-SI)の値お よび重要里地里山地域の空間分布。重要里地里山地域は、福井県により 2003 年に実施された 生物調査をもとに選定された、多様な生物が生育・生息する代表的な 30 か所の地域である。 出典:「守り伝えたい福井の里地里山」、http://www.fncc.jp/index2.htm、2011 年 11 月 8 日確認

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よびユニットサイズの組み合わせにおいて、ユニット内 に農地等を含まないと判定されたユニット数を表 3 に示 した。当然のことながら解像度が低いほど、また、ユニ ットサイズが小さいほど、その内部に農地等を含まない と判定されるユニット空間の数が多くなるが、最適な組 み合わせ(解像度 50 m・ユニットサイズ 6 km)および その次に適切な組み合わせ(解像度 50 m・ユニットサ イズ 5 km)におけるそのようなユニット空間数はいず れも 1 で、解析対象ユニットの 0.2%以下であった。 各生物種群の各モザイク性指標への応答  各解像度およびユニットサイズの組み合わせにおける モザイク性指標に対する各種の回帰係数 a1i,j、各分類群 の回帰係数 b1iおよび超分類群の回帰係数 c1が従う確率 分布の、中央値が正の場合は正の応答、95%信用区間が ゼロをまたがない場合は 5%の有意水準で統計的に有意 な応答(以下、有意な応答)といえる。各解像度および ユニットサイズの組み合わせにおける各種、各分類群お よび超分類群の応答(表 4)をみると、各種、分類群お よび超分類群の応答は、解像度および組み合わせによっ て異なるものの、概して同様の傾向が認められた。  超分類群は L-SI に対し有意ではない正の応答を示し た。また、各分類群の応答に着目すると、カエル類と昆 虫類は有意な正の応答を示し、魚類とカメ類は有意では ない正の応答を示した。また、各種ごとの応答に着目す ると、カエル類では 8 種中 5 種が、昆虫類では 5 種中 5 種が有意な正の応答を示した。魚類では、6 種中 2 種が 有意な正の応答を示した一方、3 種が有意な負の応答を 示した。カメ類には、有意な応答を示す種がなかった。  各組み合わせを用いて算出されたモザイク性指標に対 する各種、分類群および超分類群の応答を、L-SI(すな わち解像度 50 m およびユニットサイズ 6 km を用いて算 出されたモザイク性指標)と他の組み合わせを用いて算 出されたモザイク性指標との間で比較したところ、L-SI 以外のあるモザイク性指標に対して有意な応答を示した 種および分類群は、L-SI に対しても全て有意な応答を示 していた。このことから、L-SI は各種および分類群の有 意な応答を最もよく検出するモザイク性指標であるとい える。  また、L-SI とその次に適切な組み合わせ(解像度 50 m およびユニットサイズ 5 km)を用いて算出したモザ イク性指標との間で結果を比較すると、超分類群の応答 および各分類群の応答については両者の間で差はなかっ た。各種の応答に関しても、タイコウチとハグロトンボ を除く全ての種において、両者の間で各種の応答に差は なかった。 重要里地里山の内外での L-SI の比較  重要里地里山の内の L-SI の値(図 4)は、それ以外の 地域に比べ統計的に有意に高いことが、有意水準 0.1% で示された(U = 31,144, n1(域内) = 97, n2(域外) = 444, p = 5.582E-12)。 表 2.DIC によるモデル選択の結果。各解像度およびユニット サイズの組み合わせにおける、DIC とΔ DIC の一覧を示す。 解像度 ユニットサイズ DIC ΔDIC 50 m 6 km 9534.53 0 50 m 5 km 9545.80 11.3 500 m 5 km 9548.31 13.8 500 m 6 km 9550.14 15.6 50 m 10 km 9551.53 17.0 1000 m 5 km 9560.68 26.1 500 m 10 km 9561.45 26.9 1000 m 10 km 9562.90 28.4 50 m 2 km 9565.04 30.5 1000 m 6 km 9579.16 44.6 500 m 2 km 9614.48 79.9 1000 m 2 km 9658.33 123.8 表 3.各解像度およびユニットサイズの組み合わせにおける、 範囲内に農地等を含まないと判定されたユニット空間の 数。全ユニット空間数は 524 である。 解像度 ユニットサイズ 農地等を含まないユニット空間数 50 m 2 km 5 50 m 5 km 1 50 m 6 km 1 50 m 10 km 0 500 m 2 km 71 500 m 5 km 4 500 m 6 km 4 500 m 10 km 1 1000 m 2 km 182 1000 m 5 km 40 1000 m 6 km 32 1000 m 10 km 14

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表 4. 各 組 み 合 わ せ で 算 出 さ れ た モ ザ イ ク 性 指 標 に 対 す る 各 種 、 分 類 群 お よ び 超 分 類 群 の 応 答 。 分 類 群 は 分 類 群 内 に 共 通 な 応 答 を 、 超 分 類 群 は 全 種 に 共 通 な 応 答 を 、 そ れ ぞ れ 示 す 。 解 像 度 ユ ニ ッ ト サ イ ズ 50 m 50 0 m 10 00 m 2 km 5 km 6 km 10 k m 2 km 5 km 6 km 10 k m 2 km 5 km 6 km 10 k m 分 類 群 対 象 種 応 答 超 分 類 群 全 種 共 通 + + + + + + + + + + + + 分 類 群 魚 類 共 通 + + + + + + + + + + + + カ エ ル 類 共 通 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + カ メ 類 共 通 + + + + + + + + + + + + 昆 虫 類 共 通 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 魚 類 シ マ ド ジ ョ ウ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + ド ジ ョ ウ + + + + + + + + + + + + ナ マ ズ -フ ナ -ホ ト ケ ド ジ ョ ウ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + メ ダ カ -カ エ ル 類 ア ズ マ ヒ キ ガ エ ル + + + + -+ + + + + + + ア マ ガ エ ル + -+ -シ ュ レ ー ゲ ル ア オ ガ エ ル + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + ツ チ ガ エ ル + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + ト ノ サ マ ガ エ ル + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + ニ ホ ン ア カ ガ エ ル + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + モ リ ア オ ガ エ ル + + + + + + + + + + + + + + + + -+ + + + + + ヤ マ ア カ ガ エ ル + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + カ メ 類 イ シ ガ メ + + + + -+ + + -+ + + ク サ ガ メ + + + + + + + + -+ + + 昆 虫 類 ゲ ン ジ ボ タ ル + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + タ イ コ ウ チ + + + + + + + + + + + + + + + + + + ハ グ ロ ト ン ボ + + + + + + + + + + + + + + + + ヘ イ ケ ボ タ ル + + + + + + + + + + + + + + + -+ + + + + ミ ズ カ マ キ リ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + 正 の 応 答 ( 95 % 信 用 区 間 が 0 を ま た が な い ) + 正 の 応 答 - 負 の 応 答 -負 の 応 答 ( 95 % 信 用 区 間 が 0 を ま た が な い )

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考 察

適切な解像度とユニットサイズ  本研究では、福井県における市民参加型調査によって 取得された里地里山に生息する水辺の生物種の分布デー タとの適合性を基準とした評価を行い、里地里山の水辺 の生物の分布をよく説明する L-SI の算出に適した解像 度およびユニットサイズを検討したところ、検討した組 み合わせのうちでは解像度 50 m およびユニットサイズ 6 km が最適であることが示された。

 Kadoya and Washitani(2011)の SI は、農地を含むユ ニット空間のみを対象として算出された。一方、本研究 で検討した土地利用のモザイク性指標は、適切な解像度 とユニットサイズの比較検討を里地里山における生物分 布との関係の下に行うため、解像度によっては農地等を 含まないと判定されるユニット空間についてもモザイク 性指標を算出した。ただし、最適な組み合わせであると 判明した解像度 50 m およびユニットサイズ 6 km の組み 合わせにおいては、農地等を含まないと判定されたユニ ット空間は 524 のうちわずかに 1 つのみ(0.2%以下) であることから、本研究で用いた L-SI は実質的には SI と同等の基準によって算出されたといえる。  選択された解像度が 50 m であったのは、地形に応じ てきめ細かい土地利用がなされている日本の里地里山ラ ンドスケープの土地被覆の構成単位を表現するために は、500 m あるいは 1000 m の解像度は粗すぎるからで あろう。図 5 に、対象地域内に多くみられた谷津の代表 的なものを、それぞれ解像度 50 m、500 m および 1000 m で示した。谷津地形は、里地里山の種の豊かさに寄与 することが知られている(Katoh et al. 2009)。解像度 50 m では谷津地形が表現されているものの解像度 500 m、 1000 m においては表現されておらず、500 m 以上の解像 度では生物分布に正に影響する土地被覆とその組み合わ せが表現できない場合があることが分かる。  一方、生物分布データが得られた 524 ユニット空間に おいて、本来は農地等を含むにも関わらず農地等を含ま ないと判定されたユニット空間の数は、解像度が低くな るにしたがって増加した。これは、解像度が低くなるほ ど、ユニット空間内に存在する農地等のうち占有度が低 いものが農地等として表現されなくなるためである。こ れらの結果は、対象地域を絞った詳細な生物多様性評価 に L-SI を用いる際には、対象地域の土地被覆の構成要 素の空間的スケールに対応する解像度を用いて L-SI を 算出する必要があることを示している。Kadoya and Washitani(2011)において、グローバルスケールでの農 地における生物多様性の状態評価のために算出された SI で用いられた解像度 1000 m は、日本の里地里山に適 用するのに必ずしも適切ではないことが示された。本研 究では、分析に用いた自然環境保全基礎調査の植生図の 解像度の限界から、50 m よりもさらに高い解像度での 解析は行わなかった。しかし、50 m の解像度で土地被 覆が十分に表現されていることを考えれば、これ以上解 像度を高くしても得られる L-SI の値はほとんど変化し ないと推測される。また、高い解像度データが得られる 地域はおのずと限られるため、L-SI の汎用性を確保する 意味からも、50 m は妥当なものといえるだろう。  ユニットサイズについては、SI の算出において動植 物の移動分散の空間範囲に近いとの仮定から用いられた 6 km 四方(Kadoya and Washitani 2011)と同様のユニッ トサイズが選択された。  最適ユニットサイズが 6 km であった別の原因として、 土地被覆の構成要素の空間分布のスケールに起因する要 因が考えられる。すなわち、ある広さの空間単位内に含 まれる土地被覆の区分数は、空間単位が大きくなるにつ れ増加し、十分広い空間単位ではやがて頭打ちになる。 多くの生物の生息が可能となるためにはある程度の土地 被覆の区分数が必要であると考えられるが、2 km 四方 の空間単位ではその内部に含まれる土地被覆の区分数が 不足していた可能性がある。一方、定義からモザイク性 指標は空間単位内に含まれる土地被覆区分数に依存して 決まることから、指標値はユニットサイズの増加にとも ない頭打ちになる傾向があると考えられる。里地里山は 集落を中心とし、地形の制約にも応じてまとまりのある 図 4.重要里地里山地域とそれ以外の地域での L-SI 値の平均値 の比較。エラーバーは標準偏差を示す。

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土地利用のセットが繰り返し現れるランドスケープ構造 を有している(武内 1991)。その繰り返しの単位がおよ そ 6 km 程度のスケールであることが、6 km より大きい ユニットサイズを用いても説明力の向上につながらなか った理由の一つだろう。ただし、生物によって生育・生 息に必要とする空間スケールは異なっているのが一般的 である。本研究の結果は、福井県の市民参加型調査にお いて「特に注意して探す種」および「注意して探す種」 とされた生物種を対象とした結果であり、特に L-SI へ の応答が顕著であったカエル類や昆虫類の必要とする空 間スケールの影響をより強く反映している可能性があ る。したがって、L-SI を算出する際のユニットサイズに ついては、より多くの分類群を対象とした分析により、 その妥当性や一般性を検証する余地が残されている。  本研究の検討においては、解像度が 50 m の場合、6 km のユニットサイズを用いたモデルと 5 km のユニット 図 5.解像度の違い(a: 50 m、b: 500 m、c: 1000 m)が典型的な谷津地形の表現のされ方に及ぼす影響の例。

(11)

サイズを用いたモデルとでは、DIC の観点からは 11.3 の違いが存在したものの、推定された各種、分類群およ び超分類群の L-SI に対する応答という観点ではほぼ同 様な結果が得られた。生物の分布データは、4 分の 1 メ ッシュ(約 5 km 四方)で整備されているものが少なく ない(たとえば、蜻蛉研究会 1998)。そのような場合には、 ユニットサイズを 5 km としてモザイク性指標を算出す ることで生物分布データとの位置関係を整合させた解 析・評価が可能になるであろう。 生物多様性の状態指標としての有効性  L-SI に対し、環境の選好性の低い種や標高に負の応答 を示す種を除き、対象とした種の多くが有意な正の応答 を示した。また、本研究で用いた生物データとは別のデ ータにもとづいて選定された重要里地里山地域の内外で の比較でも、指定地域内では L-SI 値が有意に高いこと が示された。このことも、L-SI が里地里山の水辺の生物 多様性の状態指標として有効であることを示している。  L-SI を用いた統計モデルの結果から、アズマヒキガエ ルとアマガエルを除くカエル各種および昆虫各種など、 水環境とそれ以外の環境の両方を利用するマルチハビタ ットユーザー種の多くが、L-SI に対して有意な正の応答 を示すことが明らかになった。L-SI が高いユニット空間 においては、土地被覆の多様性が高くかつ不均一性が高 いため、これらの種が利用する環境を含んでいる場合が 多かったためと考えられる。一方で、アズマヒキガエル、 アマガエル、イシガメ、クサガメはマルチハビタットユ ーザー種であるにもかかわらず、L-SI に対して有意な正 の応答を示さなかった。アズマヒキガエル、アマガエル、 イシガメ、クサガメは利用可能な環境の選好性が低く(中 村・上野 1963;前田・松井 1989)、またアズマヒキガエ ルは産卵期以外における水環境への依存性が低い(中村・ 上野 1963)とされている。それらがその応答の鈍さの 理由であると考えられる。  一方、魚類の応答については、有意な正の応答を示し た種群(シマドジョウ、ホトケドジョウ)と有意な負の 応答を示した種群(ナマズ、フナ類、メダカ)および有 意な応答を示さなかった種(ドジョウ)に分かれた。有 意な負の応答を示した種および有意な応答を示さなかっ た種は、標高に対して有意な負の応答を示していた(表 5)。したがって、これらの種は、むしろ標高によって生 息可能な地域が規定されていた種群と考えられる。  L-SI はウェブ上で公開されている情報を用いて容易に 算出することができるため、日本国内のみならず様々な 地域において利用が可能である。特に、日本国内におい ては現在、より高い解像度をもった植生図の作成が進め られている(環境省(2013)自然環境保全基礎調査 植 生調査情報提供 http://www.vegetation.jp 2 月 1 日確認 他)。これを利用することで、より高い精度で L-SI を算 出することが可能である。L-SI の高い地域は里地里山に 生育・生息する多くの種にとって潜在的な生息適地であ る可能性をもつため、L-SI の値に基づき、高いポテンシ ャルを持つにも関わらずまだ十分に保全の対策がとられ ていない場所を特定したり、自然再生の適地を選ぶ際の 手がかりの一つとしたりするなどの応用が考えられる。  本研究では、L-SI を生物多様性の状態の評価に適切に 表 5.標高に対する各種、分類群および超分類群の応答。分類 群は分類群内に共通な応答を、超分類群は全種に共通な応 答を、それぞれ示す。 分類群 対象種 応答 超分類群 全種共通 + 分類群 魚類共通 -カエル類共通 -カメ類共通 -昆虫類共通 -魚類 シマドジョウ + + ドジョウ -ナマズ -フナ -ホトケドジョウ + メダカ -カエル類 アズマヒキガエル + + アマガエル + + シュレーゲルアオガエル -ツチガエル -トノサマガエル + + ニホンアカガエル -モリアオガエル + + ヤマアカガエル -カメ類 イシガメ -クサガメ -昆虫類 ゲンジボタル + タイコウチ -ハグロトンボ -ヘイケボタル + ミズカマキリ + + 正の応答(95%信用区間がゼロをまたがない) + 正の応答 - 負の応答 - - 負の応答(95%信用区間がゼロをまたがない)

(12)

用いるためには、算出に適したユニットサイズと解像度 の評価が必要なことを明らかにした。本研究では、市民 参加型調査によって得られた水辺の生き物の分布データ にもとづき、福井県の里地里山地域の L-SI の算出には、 解像度 50 m およびユニットサイズ 6 km の組み合わせが 適していることが示された。解像度については、利用可 能場合には 50 m より高いものが、また空間スケールに ついては、より多くの分類群を対象とした妥当性検証が 必要となると考えられるものの、解像度 50 m・ユニッ トサイズ 6 km の組み合わせは、福井県と同じような地 形、自然環境および農業形態、またそれらを反映した土 地利用の空間パターンを共有する日本国内の多くの地域 においても有効であると考えられる。一方、日本国内で も北海道の一部など土地利用の空間パターンが異なる地 域や、アジアの他地域など諸条件が異なるより広域的な 地域への適用を考える場合には、それぞれに適した解像 度とユニットサイズについて個別の検討が必要である。

謝 辞

 本研究を進めるにあたって、福井県の水谷瑞希氏、平 山亜希子氏、松村俊幸氏には、多くの貴重な助言をいた だきました。特に水谷氏には、GIS データの整備に関し、 ご協力をいただきました。東京大学の石井 潤博士、吉 岡明良博士にはデータ解析に関する助言をいただきまし た。ここに記し、感謝の意を表します。最後に、本研究 で用いた生物データのもととなった市民参加型調査の参 加者の皆様、特に、当時の小学生の皆様にお礼を申し上 げます。

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参照

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