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第 4 章志摩の自然環境 第 4 章志摩の自然環境 1. 志摩半島の地形と海 (1) 志摩半島の地形伊勢志摩地域の魅力のひとつとして その豊かな自然環境が挙げられる このテキストでは 地形地質 気候 植生などの自然環境をトピックとした自然地理学的な視点から 志摩のリアス海岸の特徴と成り立ち について

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第4章 志摩の自然環境

1.志摩半島の地形と海 (1)志摩半島の地形 伊勢志摩地域の魅力のひとつとして、その豊かな自然環境が挙げられ る。このテキストでは、地形地質、気候、植生などの自然環境をトピッ クとした自然地理学的な視点から「志摩のリアス海岸の特徴と成り立ち」 について説明し、志摩の豊かな自然がはぐくまれてきた理由に迫ってい きたい。 ① 志摩半島の地形の特徴 志摩半島の衛星写真を見ると、夫婦岩から答志島あたりを結んだラ インを境に海岸部の地形が大きく変わることがわかる。ライン北側の伊 勢方面は滑らかな砂浜海岸が、ライン南側の鳥羽志摩方面はゴツゴツし た複雑な入江が続くリアス海岸と岩石海岸が分布している。日本列島の このようなリアス海岸は多くの場合、景勝地として自然環境そのものが 重要な観光資源である。特に、東北地方の三陸海岸はリアス海岸を売り にしていることで知られているが、志摩半島南部も三陸のリアス海岸に 負けない様々な潜在能力 がある。さらに、志摩のリ アス海岸の見た目には他 地域にない個性がある。そ れは「ギザギザ」と「モコ モコ」のセットという見た 目である。 志摩半島周辺の概観(Google earth より作成)

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52 志摩のリアス海岸を日本列島のほかのリアス海岸と比較してみると、 どんな違いや個性があるだろうか。 リアス海岸といえば、断崖絶壁で山が海に迫っているイメージがある が、志摩のリアス海岸を眺めると広がりのある空間が、複雑に入り組ん だリアス海岸と融合しているのである。特に英虞湾周辺では、海岸線の 崖は高さが小規模で低く、陸上は台地状で上が平坦であるという点が志 摩のリアス海岸独特の特徴である。 海岸の森林に注目すると、三陸の 海岸は針葉樹や落葉広葉樹が多い のに対し、志摩の海岸は常緑広葉樹 が多い。太陽の光を反射しやすい葉 であることからキラキラしている ようにも見え、木の形がブロッコリ ーのような形をしているので、それ らの樹林は全体がモコモコした見 た目となり、柔らかい印象を与える。 英虞湾周辺のリアスは標高が低 く、平らで、林冠(森林の外縁部) が丸みを帯びているやわらかいイ メージを見た人に与える。入り組ん だ海岸線がギザギザして、その上に 密に生育する常緑広葉樹のブロッ コリーのような樹形の連なりが海 沿いの崖を覆い、モコモコに見える というのが英虞湾の個性的な特徴 ある。 差し替え 典型的なリアスのイメージ 横山展望台より望む英虞湾の リアス海岸 ※近藤玲介氏撮影

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53 次に、大王崎付近を横から 見てみると、上部は平坦で、 水際は崖となっている。この ような台地を「段丘」という。 段丘は、大きく分けると海 が作った海成段丘(海岸段丘) と河が作った河成段丘(河岸 段丘)の2種類があり、志摩 の段丘の多くは海成段丘で ある。 以下では、リアス海岸と海成段丘。このふたつというキーワードから 志摩半島の生い立ちや特徴を解説する。 ② リアス海岸の成り立ち リアス海岸の成り立ちを理解するために、まず志摩半島の地質学的生 い立ちを理解する必要がある。志摩周辺の地質は主に、ジュラ紀~白亜 紀(約 2 億年前~6500 万年前;恐竜時代)の岩盤と第四紀(約 260 万 年前~現在;人類の時代)の堆積物(未固結のまだ岩盤になっていない 泥・砂・砂利など)でできている。日本列島の多くの部分の形成はジュ ラ紀のころから始まっているため、志摩の岩盤を構成する地層は日本列 島ではやや古い方といえるが、46 億年の歴史を持つ地球全体からみれ ば非常に新しい生い立ちを持つといえる。

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54 コラム「地球の今までの歴史を 1 年間に例えると」 1 月 1 日 0:00 地球誕生 12 月中旬 日本列島の原型形成開始(約 2 億年前~) 紀伊半島の形成と志摩周辺の地質形成 (約1億数千万年前~数百万年前まで) 12 月 26 日 恐竜の絶滅と哺乳類の時代開始(6500 万年前~) 12 月 28 日 日本海の形成と日本列島・紀伊半島の概形完成 (1500 万年前) 12 月 31 日 19:15 人類の祖先誕生と台頭(第四紀:260 万年前) 海成段丘の形成→英虞湾周辺の台地の形成 (約 40 万年前~約 10 万年前まで) 海成段丘の侵食とリアス→英虞湾周辺の台地の侵食 (約 10 万年前~現在まで) 12 月 31 日 23:37 ホモ・サピエンス誕生(4万年前) 12 月 31 日 23:59 現在 ●中央構造線の南北で異なる地質 志摩半島の地質図をみると、南北で地質が大きく変わるところがある。 ここは前節で述べた海岸線の形が南北で変わるラインに該当する。これ が「中央構造線」である(以下で示した地質図の中で、南部の細かい縞々 状に色が塗られているエリアと、北部の青緑ないし黄土色に塗られたエ リアの境界線)。 地質を上空から見た場合、志摩はどう見えるのだろうか。志摩半島南 部を構成する岩石は堆積岩と変成岩からなる。堆積岩は砂岩や泥岩など で海底に溜まった土砂が固まったものであり、変成岩は高い圧力により 堆積岩の性質が変化したものである。志摩は海底に積み重なった地層が 強い圧力で陸側に押し付けられて立ち上がった構造となっている。これ を「付加体(ふかたい)」という。

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55 志摩周辺の地質 地質図 Navi(産業総合研究所)より引用 深谷水道(大王町船越と志摩町片田の境界)付近の岩盤の地層を見 ると縞々模様が見られる。これが志摩半島を形つくっている付加体の地 層である。急傾斜した縞々の付加体からなる岩盤が志摩半島の本体を形 づくっている。 深谷水道(船越・波切) の周辺の岩盤の露頭 縞々の地層が急傾斜し ている。 ※近藤玲介氏撮影

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56 ●付加体とは 付加体を知るには、まずプレートについて理解する必要がある。プレ ートは、地球の表面を構成する薄皮のようなものである。このプレート は地球全体でつながっている訳ではなく、複数に分かれ、相互に動いて いる。日本列島周辺では、4枚のプレートがぶつかって海側のプレート が海溝で大陸側のプレートに沈み込んでおり、プレート同士の複雑な圧 力の動きが地震の多い日本列島を特徴づけている。 日本列島周辺のプレートの分布と動き 萩原(1990)を加筆・修正 付加体の形成される流れを整理すると、 ①海底で砂や泥、サンゴやプランクトンの死骸、海底火山の噴出物など がプレート上にたまる。(ジュラ紀~白亜紀;約 2 億年前から) ②長い年月を経て海底の堆積物は硬い岩石になり、プレートのベルトコ ンベアのような動きにより大陸側に運ばれる。 ③海洋側のプレートが海溝で大陸側のプレートの下に沈み込む。その時 に、海洋プレート上の堆積物が引きはがされて、沈み込まずに大陸側 のプレートにくっつく(「付加」される=付加体の誕生)。 ④付加体が、さらにプレートの動きにより圧力を受け隆起して地上に現 れる(=日本列島の原型誕生)。 となる。

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57 プレートの上に堆積した土砂などが堆積岩となり、プレートに乗って ベルトコンベアのように海溝に移動していくと、大陸側のプレートがこ の堆積岩を剥がしていく。これが付加体となる。 プレートの移動にともなって次々と付加体ができていくので、押し上 げられて陸上に現れる。志摩に限らず、日本列島の多くの部分は付加体 でできている。 海溝周辺での付加体形成の概念図 長期間のプレートの動きによって押されることで、生まれた時は水 平の地層だったものが、立ち上がったり、グニャグニャに曲がったり(褶 曲)、ちぎれたり(断層の形成)した形態で陸上に現れる。そのため、 特に地層が立ち上がった地域の岩盤の種類の分布を地質図で見ると志 摩付近は縞模様となっている。

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58 ●付加体の影響でリアス海岸が生まれた シマシマの構造をもった付加体は、その構成が砂岩だったり泥岩だっ たりと種類が異なり、形成の過程で地層がちぎれるなど複雑な地質の構 造となる。もろく軟らかい地層としっかりした硬い地層、風化しやすい 地層としにくい地層など性質の違う種類の岩盤が縞状に分布するため、 浸食を受けるスピードには差が生じる。この差が、複雑なリアス地形を 生む一因である。 付加体が陸上に現れてからは、長い年月をかけて特に河川の作用によ る浸食の影響が大きかったと考えられる。海沿いでは、波浪によって浸 食が進んだり、塩の結晶の成長によって岩盤がぼろぼろになる。これら の累積によって、どんどん地形がギザギザになっていく。 岩盤の硬さは、各シマごとに異なり一定ではないので、柔らかいとこ ろ、もろいところ、風化の進んでいるところから優先的に浸食がすすみ、 岩盤の中でも硬い地層が飛び出るようなごつごつした岩場の海岸とな る。 コラム -深谷水道周辺の地層の様子- 黒っぽい地層の部分は他よりも凹んでいるので、現在の波の作用によって 相対的に浸食が進んでいることがわかる。このように積み重なった地層で は、一様に浸食を受けるのではなく、より弱い地層が選択的に浸食が進んで いく(差別浸食)

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59 ③ 海成段丘の成り立ち 波切の海岸を例にとると、立ち上がった縞々の岩盤の上に砂礫からな る土砂が水平に載っていることがわかる。この砂礫は現在の海岸の礫浜 の砂礫と形や大きさが似ており、礫の種類も同じであることから、かつ ての海岸が隆起した証拠であるといえる。 大王町波切周辺(崖の上部にかつての浜の痕跡が確認できる) ※近藤玲介氏撮影

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60 阿児町甲賀周辺の海成段丘堆積物の露頭 ※近藤玲介氏撮影 甲賀付近では砂や泥が岩盤の上に堆積している。左の写真は下から、 泥、砂、砂礫の順に水平に堆積している。地層は下の方ほど古いので、 小さな浅い湾→砂浜→砂浜、と環境が移り変わった沿岸部であった証拠 である。 さらに地層を削ってよく観察すると、丸い模様がたくさんあることが わかる(右の写真)。これらの模様は、約 40~30 万年前の、かつてこの 砂や泥の地層が堆積した時代に生きていた貝類やアナジャコなどの巣 穴の化石である。このような巣穴の化石は「生痕化石」といわれ、地層 が堆積した時代にそこがどのような場所だったかをしる手がかりであ る。ここでの生痕化石からも、かつてこの地層が堆積した時は深い海で はなく、この地層が浜、干潟などの浅い海であったということを示して いる。 このような地層の情報から、英虞湾周辺の台地はかつて浅瀬~浜の環 境であったことは明らかであり、この台地がかつての浅瀬・浜が隆起し た「海岸の化石」である「海成段丘」ということがわかる。このように 地形やそれらを構成する土砂の地層からも過去の様子を知ることが可 能である。

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61 ●「海成段丘」はなぜできるのか 現在の岩石海岸の地形断面モデル 小池ほか(1994)を改変 海岸部の地形をよく観察すると、砂浜でも岩場でも波を受ける場所 は概ね平坦な地形となっており、海底でも浅い部分は平坦な場合が多い。 岩場(岩石海岸・礫浜)の地形に注目すると、波の作用で沿岸部(陸上 ~浅い海)が浸食され、ゴツゴツしているとはいえ平坦面ができる。こ れを波食棚(ベンチ)という。海成段丘はこの波食棚が隆起することで 形成されるので、「海岸の化石」地形といえる。 海成段丘は隆起の証拠でもあるので過去数十万年間の地殻変動の傾 向を示す重要な指標となっている。リアス海岸は一般に「沈水海岸」と もいわれるので、「沈降している」と思われがちだが、海成段丘がある 志摩半島は「隆起」しているのである。 ●ギザギザ・モコモコが生み出す「里海」 志摩半島の地形を見てみると、台地の高さは一定ではなく、少なくと も3段の台地があることがわかる。つまり、英虞湾周辺では3つの時代 の海岸の化石が海成段丘として存在するといえる。

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62 これらの志摩半島の海成段丘の上は、もともと海岸の浜であった砂礫 に由来する土壌が分布しているので水はけが良い。水田を作るのは困難 であるが、畑作には適している。1950 年頃に撮影された航空写真を見 ると、段丘(台地)の上では森が極めて少ない。おそらく、森は燃料と して伐採され、殆どが畑にされて芋をはじめとした農作物を育てていた と考えられる。伊勢志摩地域において、このような土地利用が容易にで きるのは渡会町(宮川が作った河成段丘が分布)と志摩周辺の海成段丘 にしかない。伊勢志摩の海成段丘は、貴重な耕作地を提供してくれてお り、江戸時代の頃から畑として利用されている。つまり、志摩の農地は 海のおかげで形成された、ともいえよう。 志摩市周辺の海成段丘(近藤ほか(2016)学会発表資料より)

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63 英虞湾周辺に高さの異なる複数の海成段丘が発達しているというこ とは、この地域では連続的に海成段丘が形成されてきた地域であること を示しており、この周辺の浅い海底には次の段丘となる波食棚が準備さ れていることが推定される。 志摩半島周辺の海底を見てみると、すでに次の段丘となるであろう 水深 30m 以浅の広い波食棚が分布している。波食棚の面積が広く、比較 的大規模であることは志摩のリアス海岸の特徴の一つともいえ、これは 広い漁場が沿岸部に分布しているということを示している。浅瀬の岩礁 地帯(≒波蝕棚)は日光がよく届き、アラメやカジメなどの海藻が繁茂 し豊かな磯の生態系をつくりだしていることから、伊勢エビ・アワビの 漁場として最適な環境となる。広い波蝕棚の分布が志摩地域の漁業の基 盤を形成していることを意味する。 ここまで述べてきたように、志摩半島のギザギザの自然景観の地学的 バックグラウンドには、日本列島の形成に関わる地質学的生い立ち(付 加体)と、海成段丘の2つがある。そしてこれらの地形地質・自然地理 学的要因が、海底の地形や海流、段丘上の土壌にも影響を与えている。 志摩に暮らす人々は、この恵まれた地形の中で、現在の志摩半島の個 性あふれる自然景観(動植物含む)と豊かな海の幸・山の幸を生活の糧 にして暮らしてきたといえよう。 さらに付け加えれば、海成段丘からなる地形は、少し高い所に登れば 遮る山がなく、周囲を一望できる優れた眺望景観を生み出し、また洪水 や高潮、津波などの自然災害にも強い恵まれた地形であるといえる。

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64 ④「外海」の海洋環境と志摩 次に、もうひとつ志摩半島の自然地理を語る上で重要な外海との関わ りについても説明する。 志摩半島周辺の外海では、アワビやイセエビなどの漁業が営まれてい るほか、伊勢湾から流れ出してくる栄養を含んだ海水と、温かい黒潮が ぶつかって潮目を形成することで、生物の生産性が高くなり、カツオな どの回遊魚も獲れる。 志摩半島の陸域に広がる常緑広葉樹が育つためには、温暖な気候が必 要であり、この気候には黒潮が大きく影響している。水温の高い黒潮に よってもたらされる温暖な気候による常緑広葉樹林が海成段丘の上に 成立することで、ギザギザでモコモコな自然景観が生まれている。 このように、志摩半島は畑作に適した海成段丘の形成や常緑広葉樹の 豊かな森、そして豊かな漁場を形成する波食棚など、地理的・地学的に 非常にも恵まれて個性的な地域であることを理解しておきたい。 memo

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65 (2)志摩市の海の特徴 志摩市は、大きく分けると太平洋、英虞湾、的矢湾の3つの海に面し ている。それぞれの海域ごとで行われている漁業については、第5章で 説明するが、ここではそれぞれの海の特性が異なることを知っておこう。 また、海に関して知っておくと役に立つ一般的な知識については資料 編に記載するので参考としていただきたい。 ①太平洋 志摩市の東から南に位置 する。定義によっては大王崎 より北方は伊勢湾に含まれ る場合と、伊勢市の夫婦岩あ たりより北側を伊勢湾とす る例がある。 大王崎を境に北方沖合を 遠州灘、南方沖合を熊野灘と 呼ぶことが多い。『灘』とい うのは海洋交通の難所につけられるもので、志摩周辺は海洋交通の難所 であったことが伺える。 ・海況 志摩半島沿岸は、日本列島の南東方向を通過する台風や低気圧の影響 を受けやすい。台風の進路がそれて、志摩の天気が良好であっても海況 が悪い場合がある。ツアーを行う際は外洋の状況も把握しておきたい。 太平洋沿岸でも現場や風向などの条件により、海況はさまざまである。 現地の人に海況が悪くなる条件をよく聞いておいたほうが良い。一般的 には東から風が吹けば、東海岸で波が立ち、南から風が吹けば南海岸で 波が立つ。 漁業体験の場合、出港可否の判断は経験豊富な漁師に求めることが多 いが、参加者は海の素人であることから、十分に安全を確保できる海況

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66 を見定めて、ツアー実施の判断を行う必要がある。 ・海底地形 ほかの太平洋沿岸地域と比較し、特徴は岩礁や転石で構成された遠浅 の海底である。浅い場所である『瀬』が点在し、岩礁の浅海に暮らすイ セエビやアワビなどの格好の生息地となっている。沿岸域の水深 50m ほどまでは緩やかであるが、その後、急激に深くなる。志摩町和具の沖 合がもっとも遠浅である。 ・海岸地形 転石海岸と岩礁が交互に位置する。国府白浜、市後浜、南張海岸など 砂浜礫浜も点在する。砂浜は遠浅地形のため、サーフィンのポイントに もなっている。 磯観察に適した岩礁が豊富である。砂浜ではシーグラスなどの漂着が 多く、ビーチコーミング(漂着物収集)などに適している。 リアス海岸特有の地形として、もとも と海だった海跡湖がある。入江の入口が 砂礫の堆積によって封鎖され、海と隔て られた環境である。汽水か淡水湖となっ ていることが多い。こうした淡水湖はい ずれ湿地となり、陸地化する。海跡湖の 船越大池では希少な動植物が記録され ている。 海跡湖(船越大池)

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67 ②的矢湾 志摩の北東に位置する。安乗崎と鳥羽側の菅崎を結んだ先の西側が的 矢湾である。湾奥には伊雑ノ浦が位置し、東西方向に長い湾である。英 虞湾と異なり流入河川が多い。 湾の中には渡鹿野島があり、現在も 200 名ほどが住む有人離島である。 ・海況 複雑な地形で湾口が細いため、太平洋側のうねりの影響を受けにくく、 荒れにくいが、東風が吹くと荒れるらしい。 荒れにくいため、カヤックには向いているが、透明度が低いため、シ ュノーケルには不向きである。 ・海底地形 湾口の 16m に向かって徐々に深くなる勾配のある海底地形である。伊 雑ノ浦は水深が浅く、2級河川の野川、神路川、池田川などが流れ込ん でいる。 的矢湾の地形と水深(三重県 HP より引用)

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68 ・海岸地形 英虞湾同様リアス海岸を呈し、伊雑ノ浦では湾奥に河口干潟が発達す る。遠浅な入江の奥は干拓され農地として利用されている場所も多い。 ③英虞湾 前志摩(前島)半島に囲まれた湾である。一般的には御座岬から浜島 の矢取島を結ぶ線より東側が英虞湾とされる。リアス海岸の非常に複雑 な形の湾である。湾内には約 60 の島々があるが、有人島は横山島と人 口 90 名ほどの間崎島のみである(賢島は島であるが架橋されているの で除く)。 湾口以外に、人工の水路である深谷水道によって太平洋とつながっ ている。細い半島によって囲まれているため、流入河川が少ない湾であ ることも特徴である。 ・海況 複雑な地形と湾口が狭いことから、太平洋側のうねりの影響を受けに くく、基本的に荒れにくいが、西風が強く吹き込むと荒れる。湾奥でな ければ透明度も悪くなく、カヤックやシュノーケルに向いている。 英虞湾の水深(三重県 HP より作成)

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69 ・海底地形 沿岸のリアス地形が海底にも続いており、大変複雑である。水深は最 深部で 40m近くあるが、湾口部は浅いため、湾内の海水が滞留しやす い。 ・海岸地形 海岸は典型的なリアス海岸であり、無数に存在する大小さまざまな入 江の奥には泥干潟が発達し、それぞれ個性的な生物相を呈している。 入江の入口を堤で仕切り、 干拓した場所が英虞湾全域 に散在しており、古いものは 江戸時代に干拓が行われて いる。 志摩市では遊休化してい る干拓地を干潟に戻す干潟 再生事業を進めている。 memo 遊休地化している干拓地

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71 2.志摩市の動植物 この節では、志摩市に特徴的な動植物や観察の仕方のコツについて、 市内で自然観察を実践している方々から紹介していただく。自然観察な どを主体とするガイドを目指す場合の基礎的な知識として活用してい ただきたい。 (1)海岸生物 ここでは潮汐により干上がったり海に戻ったりする「潮間帯」と呼ば れる区域に生息する生き物を中心に紹介する。潮間帯に生息する生物は 干潮時に容易に観察することができる。水族館などとは違い、自然のま まの生物を観察できるのが里海ツアーの醍醐味である。生き物を探せる 楽しさ、生き物の感触を体感させたり、生き物の自然のままの動きをみ せたりする工夫をしたい。 海洋の生物の分類は陸上よりも多岐にわたる。体の構造はもちろん、 生態も多様で複雑である。一見、植物のようにみえて動物であるという 種類も存在する。海岸には海洋生物だけではなく、鳥の死骸や海藻に依 存する独特な昆虫も生息する。種類を覚えなくとも、大まかな分類群に そって、どんな生き物かを解説するだけでも、参加者の海洋の生き物へ の理解がえられる。 ①海岸環境の種類とその特徴 海岸生物の観察は、海際で遠浅ならどこでも可能である。遠浅の岩盤 で構成された「岩礁海岸」や沿岸に傾斜のついた「砂浜海岸」は志摩市 では外洋に多い。英虞湾や的矢湾にできる沿岸の傾斜が緩やかな「干潟」 も海岸生物の観察に適している。

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72 ●岩礁海岸 干潮時は岩のくぼみに海水が残される潮だまり(タイドプールともい う)が現れる。潮だまりに干潮で取り残された生き物や好んで潮だまり に生息する生き物が観察の対象になる。 冬~春季にはウミウチワやヒジキなど、形がしっかりした海藻が観察 され、動物は海藻に擬態したような地味な生き物が多い。 夏~秋季では季節到来魚といった南方の魚が迷い込み、潮だまりの中 を彩る。 潮だまりの魚たち 左:アケボノチョウチョウオ 夏から秋にみられる季節到来魚 右:カエルウオ、年中みられる浅い磯が好きな魚 潮だまり(タイドプール)

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73 砂浜 サーファーにどんな生き物がいるか 聞くのも情報収集の一つ ●砂浜 干潟より傾斜があり、潮間帯 があまり広がらない上、干潟より 波が立つ。 独特の生物が生息するが、種数 に乏しく、観察しづらいため、観 察自体はツアーの主対象にはな りにくい。砂浜のツアーや砂浜を 通過する際に補助的に用いるこ とが中心になると考えられる。 生物がいる環境は砂利の隙間 や漂着ゴミの下、波打ち際となる。 地味な種類が多いが、ナミノコガ イなど、行動が面白い種類もいる。 砂浜の生き物 左:キンセンガニ / 全ての足にヒレがついたカニで隠れ身の術をする。 中:スジエボシガイのついた瓶:漂着生物も砂浜の見ものである。 右:ツノメガニ / 子供の頃に海からやってくるある種の『季節到来魚』とい える

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74 ●干潟 志摩では砂や泥で構成された干潟が英虞湾や的矢湾でみられる。英虞 湾は場所によって干潟の環境が異なり、生物も異なる。希少動物や分布 の北限や南限になっている種類も多い。 干潟に住む生物は、地味で分類の難しいものが多い。干潮時は潮だま りや澪筋ができ、魚類はそこに集中する。干出した表面だけでなく、土 中にも生物達が生息しているため、巣穴などを目安に掘り起こすことな どにより、さまざまな生物をみることができる。また、陸側にはヨシ帯 が発達することがあり、ヨシ帯独特の貝やカニを観察できる。海藻類は 少なく、アオサ類など、紙状やヒモ状のものが中心となる。沿岸にはア マモなどの海草が群生していることがあり、さまざまな生物を観察する ことができる。 冬季は多くの貝類や魚類が冬眠をしており、姿がみえにくいため、観 察には向かない。春~秋季が最盛期である。 干潟の環境 上:干潟 / 底質や位置によりさまざまな呼び名がある 下:アマモ場 / アマモと呼ばれる植物が群生する場所

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75 memo アマモ場の生き物 左:オヨギイソギンチャク/イソギンチャクなのに泳ぐ。中:アミメハギの 稚魚、右:イカの卵/アマモ場は産卵場や子供の成育場になっている。 干潟の生き物と痕跡 左:ヤマトオサガニの巣/干潟はカニの巣穴が良く残っている。種類によって 特徴がある。中:ドロアワモチ/干潟にいる珍しい生物 右:ハボウギガイ/カ クレエビというエビが中に寄生していることもある。

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76 ②海岸生物のみせ方(探し方) 海岸生物のみせ方はさまざまである。生物を採集して観察する場合と、 自然のままの様子を観察する場合の2タイプにわけられる。 ツアーの形はさまざまだが、参加者に生き物を探してもらう場合、ガ イドは探すことに集中せず、参加者の安全を確保することを優先する。 ●採集して観察 里海ツアーは、生物を採集して体の構造や触感などを観察することが できるのが特徴である 。生物を探す場合、みて捕まえるだけになりが ちだが、さまざまな探し方がある。環境に合わせた探し方を参加者へ伝 える必要がある。 採集の仕方と観察の仕方について、代表的な例を紹介する。 [採集の仕方] めくる・・・・石やゴミ(打ち上がった海藻などの漂着物)の裏に生き 物が張り付いていたり、貝やカニ、昆虫などが潜んでい たりする。光や空気を嫌う種類がいるため、めくった石 は元に戻してダメージを少なくしたい。 すくう・・・・底を引きずるよう網をひくと魚やイカなどの泳いでいる 生物がとれる。陸地に向かうようにすくうことがコツで ある。英虞湾では表層にウミアメンボが浮いている。水 面をすくう方法もある。 藻場を探る・・藻場を網ですくう。魚やエビなど、藻場を好む生物がみ られる。 藻をとる・・・藻に張り付いているワレカラやウミウシなどの生物を観 察することができる。やりすぎると藻がなくなるので注 意が必要である。 掘る・・・・・スコップを用いて砂ごと掘り、フルイにかける。二枚貝 やゴカイなど、普段みかけない生物達をみることができ る。カニの巣穴を掘ればカニをとることもできる。掘っ

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77 た後にできる潮だまりを網ですくっても生物をとること ができる。 抜く・・・・・潮だまりの水をホースで抜く。捕まえにくい遊泳力のあ る生き物が捕まえやすくなる。 はがす・・・・岩に張り付いている生き物をスクレイパーなどの道具で はがす。 崩す・・・・・カキ礁の中にもさまざまな生物が生息する。カキ礁を崩 して探と魚や甲殻類、ゴカイの仲間などが採集できる。 一回崩すと再生するまで時間がかかるので、団体での行 為は推奨しない。 [観察の仕方] 触る・・・・・感触を体験できる。ナマコであれば触っていくうちに堅 くなっていく様子やムラサキウニであればトゲがあまり 鋭くないことなどがわかる。 水中で触る・・貝やウニを手に乗せたまま海水に浸すと、移動する感触 を実感できる。 水槽で観察・・干潮時、陸上にいるフジツボやイソギンチャクの水中で の姿を観察したり、狭い環境だからこそカニが水流を起 こす様子がみられるなど、海水の有無で観察できる内容 の濃さが異なる。 調べる・・・・簡単な図鑑を用いて種類を調べる。その種類や分類の特 徴を意識的に観察することができる。このほかにも方法 はある。 ●自然のままの様子を観察 自然界で観察する生物がどんなところに生息しているか、ほかの生物 との関係性などを観察する事ができる。行動を制御しやすい少人数の時 でないと難しい。採集とセットにする場合は、最初に観察をもって来る と良い。観察することによって採集しやすくなる生物もいる。

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78 [観察方法] 水中をのぞく・・シュノーケルや箱眼鏡を用いて水中を覗く。浅ければ 肉眼でも可能である。クサフグが砂の中に潜っていた り、タコが擬態していたりなど生物たちの普段の行動 をみて取ることができる。 痕跡をみる・・・ナマコの糞やコメツキガニの食痕など生物が作り出す 幾何学的で不思議なものをみることができる。カンザ シゴカイの巣など、はがせないようなものも観察の対 象になる。 岩壁をみる・・・貝が水中の生物である先入観があるため、気付いても らうためにも水面上の水生生物をみせても面白い。子 供向けに潮汐の話ができる。 じっとする・・・干潟では5分ほど気配を消してじっとしていると、土 中に隠れていたカニ達が行動する様子がみられる。ハ クセンシオマネキやチゴガニのダンスをみることがで きる。巣穴の近くで待ちかまえれば目の前で踊り出す。 光を当てる・・・夜に光を海面に当てると生物が寄ってくる。事前に周 囲の住民に光を使って生物観察をすることを伝えてい ないと通報されることがある。 memo

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79 ③志摩市で海岸生物が観察しやすい場所 志摩で海岸生物を観察できる場所を説明する。 ●伊雑ノ浦奥部 / 河口干潟 河口干潟は河川の河口にできる干潟である。伊雑ノ浦奥部は磯部川を はじめとする河川の影響を受けて、河口干潟が構成されている。 淡水の影響に強いオキシジミやケフサイソガニなどの種類がみられ る。カキ礁が発達しやすくケガをしないよう注意が必要である。 ●英虞湾入江奥部 / 前浜干潟 河川水の影響を受けない干潟が前浜干潟である。谷奥に無数の干潟が 発達している。規模こそ小さいものの、干潟の数は日本有数である。 ●阿児の松原 / 砂浜海岸 波を好む種類が生息する。砂浜にはスナガニやツノメガニなどが走り 回り、波打ち際ではキンセンガニやナミノコガイがいる。 ●矢取島 / 岩礁海岸 無数の潮だまりがある。麦埼と異なり、タテジマイソギンチャクやイ シダタミガイなど、内湾の動物が中心になる。 ●麦埼 / 岩礁海岸 無数の潮だまりがある。外洋に面しているため、外洋に多いウメボシ イソギンチャクやヨメガカサなどがみられる。

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80 ④海岸生物の簡易な分類と特徴 海岸生物のうち、観察の対象になるものは大型のものが中心となる。 大まかな分類的特徴を覚えておくと応用が利く。磯でみかける種類に限 定して、各分類の説明をする。 ・海藻類 海洋では陸上の植物より原始的な種類が多く、種ではなく胞子で増え る海「藻」が多い。色によって、大きな分類でわける。アルギン酸など のネバネバした成分を含んでいる種類が多いそのネバネバがノリの代 わりになり、簡単に押し葉標本を作ることができる。 また、志摩と鳥羽は海藻を食べる文化が多様であり、サガラメ(アラ メ)やカヤモノリ(ムギワラノリ)など、ほかの地域ではあまり食用と しない海藻が多々ある。沿岸域でもよくみかけるため、食文化とセット に解説できる。 分類ごとではなく、大まかに区別できる海藻ごとに紹介する。 ミルの仲間 [特徴] 総じて緑色で、細胞がたくさん集まってできているので、肉厚である。 [備考] 志摩では限られた地域でミルを食べる文化がある。全国的にみても珍 しい。

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81 ホンダワラの仲間 [特徴] 茶色で葉っぱに浮きがついていることが特徴である。冬から春に長く なる。 [備考] 浮きがあるため、深い海中で立ちあがり、動物たちの育つ海中林を形 成する。また、初夏に切れたホンダワラの仲間は「流れ藻」となり、い ろんな動物が依存する場所となる。 ホンダワラの仲間 左:ヒジキ/内陸では黒いものと考えている人が多い 中:アカモク/志摩市では食用に勧めている。 右:流れ藻/春~夏に流れ着く。厄介者だが、小動物の貴重な隠れ家になる ミルの仲間 左:ナガミル / 英虞湾内に多い。 右:コブシミル/英虞湾内で夏によく漂着する。

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82 コンブの仲間 [特徴] 茶色で総じて大型になる。台風の後には太平洋側に大量に流れ着く。 [備考] 志摩にコンブは生息していない。サガラメとカジメは海中林を形成す る水産上重要な海藻類である。志摩ではサガラメをアラメとよぶ。サガ ラメを食用とする地域は珍しい。 サンゴモの仲間 [特徴] 淡水の影響の少ないところに多い。炭酸カルシウムで作られた堅い骨 格とピンク色であることが特徴である。一見、海藻にみえない。 [備考] 磯焼けの原因の海藻とされている。サンゴモがウニを呼び、海中林を 形成する海藻を食べ散らかすとされている。サンゴによく似た、白くな った死骸が浜辺に打ち上がることもある。 コンブの仲間 左:サガラメ/志摩ではアラメと呼ばれている。 中:カジメ林/アバタと呼ばれ、肥料にされる。 右:ワカメ:生えているワカメは緑色ではない解説も面白い。)

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83 その他の海藻 ウミウチワ 太平洋側や英虞湾でみられる。団扇 状であることが特徴である。 オニアマノリ 波当たりの強い太平洋側でみられる。志 摩でいう岩ノリである。海際でしか消費 しないため、内陸の人には珍しい。 サンゴモの仲間 左:ヒライボ/一見石の様である。 中:カニノテ 右:フサカニノテ

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84 ●海綿動物門 [特徴] 岩礁や岩に特定の形状がないかのように広がる。ところどころに穴が 開いており、そこから海水を噴出している。海岸に生息する種類はスポ ンジ状になっているものがほとんどである。 [備考] 英語でスポンジ、すなわち古来使われていたスポンジがこの仲間であ る。動かないが原始的な動物で、水流を起こして、海水から餌をこしと って食べている。 ●刺胞動物門 体は袋状構造をしており、目にみえない毒針(刺胞)を持っているこ とが特徴である。 イソギンチャク類 [特徴] 基本的に何かに引っ付いている。水中では触手を広げているが、干出 すると丸く萎んで耐える。 [備考] 餌を刺胞でマヒさせて食べる。口と肛門が同じであるため、食べたカ スをそのまま口から吐き出す。種類によっては移動もする。卵で増える が、分裂して増える種類もいる。 海綿の仲間 左:ダイダイイソカイメン/英虞湾内に多い。 右:ムラサキイソカイメン/やや深いところに多い。

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85 ・クラゲ類 [特徴] 透明でゼリー質のものがほとんどである。クシクラゲ(有櫛動物門) のようにクラゲと名がついて透き通っているが、袋状になっていない、 まったく別の種類もいる。 [備考] 海岸に打ち上がったものをみる機会が多い。透き通っているため、胃 の中など、体の中の観察ができる。ハナガサクラゲのように海藻に絡み ついている種類もいる。 クラゲの仲間 左:アカクラゲ 中:タコクラゲ/光合成をする。右:ハナガサクラゲ イソギンチャクの仲間 左:ウメボシイソギンチャク/縮むとウメボシの様である。 右:ヨロイイソギンチャク/帯壁にヨロイの語源となる石を付けている。

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86 ●扁形動物門(へんけいどうぶつもん) ・ヒラムシ類 [特徴] 平たいナメクジのような形をしている。理科の教科書にでてくるプラ ナリアに近い種類である。 [備考] 日中は石の裏などに潜んでいることが多いが、夜間は泳ぎ回る種類も いる。 ●軟体動物門 骨格は存在しない。殻をもつものが中心となる。 ・カサガイ類 [特徴] 傘のような低い円スイ形の殻をもつことが特徴。種類によっては貝殻 の裏側の模様が特徴になる。似たものが多く、種類を調べるのが難しい。 [備考] 磯を中心に生息する種類である。生えたての海藻を食べてしまう事と 海藻が長くなるとカサガイ類が食べられなくなり、吸着する場所もなく なるため、概ね、カサガイ類が多いか、海藻が多いかの二択である。 ヒラムシの仲間 左:オオツノヒラムシ/よく隙間に納まっている。右:ウスヒラムシ

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87 ・ヒザラガイ類 [特徴] ウロコの様な7枚の殻がついていることが特徴である。岩に張り付い ている様子は化石のようにみえる。 [備考] 岩からはがすとダンゴムシのように丸まる。決まった巣穴があり、潮 が満ちると餌を取りに行動し、干出するころには元の場所に戻る習性に ある。 ヒザラガイの仲間 左:ヒザラガイ 中:ケムシヒザラガイ 右:ケハダヒザラガイ カサガイの仲間 左:アオガイ/似た種類が多い。 中:マツバガイ/カサガイの中では最大級 右:キクノハナガイ

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88 ・巻貝類 [特徴] 渦巻き状の殻が特徴である。アワビやトコブシのように口が大きすぎ て一枚の板のようにみえる種類もいる。 [備考] 非常に種類が多く、その生態は多様である。個別に調べていきたい。 干潟に生息する種類は泥の上の有機物を食べ、海を綺麗にする働きをす るものもある。岩礁海岸には真珠層がある種類が多数生息しており、死 貝を酢につけるなどすると簡単に真珠層をとり出すことができる。 レイシガイの仲間 左:イボニシ/貝紫の材料になる 右:レイシガイ 殻の正面がボコボコしており、全ての種類が肉食である。 タマキビの仲間 左:アラレタマキビ 右:タマキビ 水が嫌いな貝で満潮時の水面より高いところにいることが多い。

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89 そのほかの貝類 左からトコブシ、イソニナ、ウミニナ、オトメガサ サザエの仲間 左:スガイ/カイゴロモというコケを常に身に着けている 中:コシダカサザエ 右:サザエ/波の荒いところはツノが育つ。) 厚い貝蓋が特徴。殻は真珠層がある。 ニシキウズガイの仲間の仲間 左から、バテイラ、クマノコガ、クボガイ、イシダタミガイ 「磯もん」の主構成。真珠層を持つため、磨くと綺麗になる。

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90 ・二枚貝類 [特徴] 2枚の貝殻をもつ。 [備考] 水中の有機物を食べて海を綺麗にする働きがある。参加者はスーパー で生きたアサリをみる機会があるものの、生きたヒオウギガイなどをみ る機会は少ない。泳いだり、良く動くさまをみせたりすると良い。 ・ウミウシ類 [特徴] 派手な色彩を持つ種類が多い。分類上は巻貝に非常に近いが殻をもっ ていない。 [備考] 偏食が強い。食べる餌の種類を覚えておくと良いネタになる。近年、 人気があり、里海ツアーの中で紹介するには最適である。種類によって は光合成をしたり、水面に浮いたりしているものもいる。 二枚貝の仲間 左:カリガネエガイ 右:ケガキ

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91 ・アメフラシ類 [特徴] ウミウシと比べ比較的大型である。 [備考] 殻が肉に埋没しており、ウミウシより巻貝に近い種類である。 ウミウシの仲間 左上:マダラウミウシ 右上:アオウミウシ/かなり知名度が高いウミウシで ある。左下:ミヤコウミウシ 下中:シロウミウシ 下右:キイロウミウシ アメフラシの仲間 左:アメフラシ 中:クロヘリアメフラシ 右:アメフラシの卵/ウミソーメン と呼ぶ

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92 ・タコ・イカ類 [特徴] 一般的に知られているため、特 徴は特に説明する必要はないが、 足が8本か 10 本あることが特徴 である。 [備考] 浅瀬で繁殖する種類がおり、岩 礁海岸や干潟で卵をみかける機 会もある。 ●環形動物門 ・ゴカイ類 [特徴] 長細い蛇状の形をしており、シマシマの窪み(体節)があることが特 徴である。体節を隠すウロコをもつ種類でウロコムシ類もいる。 [備考] さまざまな生活のものが存在する。棲管(せいかん)と呼ばれる長細 い巣を作る種類が多数おり、複雑な構造をした巣をみかける機会が多い。 素材は石灰質のものや砂利でできたもの、粘膜でできたものなどさまざ まである。不気味な形とは裏腹に、カンザシゴカイのように、水中に花 のように赤や青などのエラを広げている種類もいる。 マダコ

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93 memo ゴカイの仲間 左:ケヤリムシ/水中では綺麗だが、粘膜でできた巣を解体するとただのゴカ イに。中:ウズマキゴカイの仲間/石灰質の巣を持つ 右:タマシキゴカイの 卵/干潟では良くみられる

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94 ●節足動物門 ・エビ類・カニ類・ヤドカリ類 [特徴] 外骨格があり 10 本の脚をもつ点で、エビ、カニやヤドカリは近い仲 間である。実際には腹だが、エビの尾にみえる部分が腹部に畳まれたの がカニで、巻貝の貝殻の中に納まっているのがヤドカリである。 [備考] 磯では総じて、海の掃除屋である。死骸を食べたり泥の上の有機物を 食べて団子状にしたりする種類もいる。 ヤドカリの仲間 左:イソヨコバサミ 中:ケアシホンヤドカリ 右:コブヨコバサミ イソスジエビ

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95 イソガニの仲間 左、中:ヒライソガニ/いろんな模様がある。磯で最もポピュラーな種類で、 似たものが多く、区別しにくい 右:ケフサイソガニ イワガニの仲間 左:イワガニ 右:ショウジンガニ/味噌汁の具材として食べられている クモガニの仲間 左:イソクズガニ 右:ヨツハモガニ

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96 ・フジツボ類 [特徴] 石化質の殻に覆われ、石や岩盤にへばりついている。 [備考] 水中の懸濁物をこしとって食べている。水中に入れると蔓脚(まんき ゃく)と呼ばれるエラに値する部分を必死に降って、懸濁物をこしてい る様子がみられる。 memo フジツボの仲間 左:クロフジツボ 中:イワフジツボ 右:カメノテ

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97 ・ヨコエビ類 [特徴] 総じて小さく、甲殻類と分かりやすいみた目である。エビ・カニ類と 異なり、足の数がたくさんある。 [備考] 海藻や死骸などの分解者である。横向きに底をはう種類が多い。 ・フナムシ類 ・フナムシ類 [特徴] ダンゴムシに近い仲間で足が多いことが特徴である。平べったい。 [備考] 海岸に打ち上がったゴミを食べる掃除屋である。フナムシ以外にもこ の仲間は多い。 ヨコエビの仲間 フナムシの仲間 左:ハマダンゴムシ/夜に砂の中から現れる 右:イソコツブムシの仲間/石の裏や木のさけ目にいる

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98 ●棘皮動物門(きょくひどうぶつもん) 五放射相称といい、星型の様な、中心を軸に五方向に同じ構造する。 ナマコを除き、口が下に、肛門が上にくる構造となる水圧で動く触手(管 足)をもつ。 ・ウミシダ類 [特徴] 一見植物のようだが、動物である。どの種類もよく似ている。長い羽 状の腕が多く、巻枝という長い脚をもつ。 [備考] 水中に入れると良く動き回る。腕を中心の口に向かって餌を運ぶ。 ・ウニ類 [特徴] 関節の見当たらない外骨格が特徴である。一見、ハリのない種類もい る。 [備考] 水中に入れると、全身から管足が伸びてくるのがわかる。浜辺にはウ ニの殻が転がっていることもあり、殻から種類を特定することもできる。 memo

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99 ・ヒトデ類 [特徴] 通常、5本の腕をもち、総じて星形をしている。 [備考] 生息環境ごとの種類によって、管足の先端の形が、吸盤状や錨状にな っており、異なる。 水中で手のひらに乗せると管足を用いて移動する様子が感覚でわか る。口からぶよぶよした胃袋を外に出して、獲物を食べていることがあ る。 ヒトデの仲間 左からイトマキヒトデ、アカヒトデ、ヤツデヒトデ、トゲモミジガイ ウニの仲間 左上:バフンウニ 中上:ムラサキウニ 右上:ガンガゼ 左下:ヨツア ナカシパン 中下:サンショウウニ 右下:サンショウウニの殻

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100 クモヒトデ類 [特徴] ヒトデ類によく似ているが、足と胴体が はっきりと分かれている。 [備考] 基本的に光を嫌うため、石の下にいる。 動きが早く、影を求めて動き回る。 ・ナマコ類 [特徴] 体は細長く、一般的には厚い体壁がある。 [備考] 有機物をなめとって食べる海の掃除屋である。触っていると防御反応 で堅くなる。さらに触ると内臓を吐き出す。 ●原索動物門 脊椎動物の先祖に値する。 ・ホヤ類 [特徴] 単体で生息する種類と群体をつくる種類がいる。両種とも岩やロープ ナマコの仲間 左:マナマコ 中/トラフナマコ 右/テツイロナマコ ニホンクモヒトデ

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101 などに張り付いて動かない。単体ボヤは体表に2つ穴が開いており。中 でつながっている。触ってみると中が空洞という事がわかる。群体ボヤ は単体ボヤの集合体のようなデザインをしており、一見、海綿に似て、 平たく、いたるところに孔が開いているだけであるが、スポンジ状では ない。 [備考] 海中の有機物を濾しとって食べており、海を綺麗にする役割がある。 ●脊椎動物門 ・魚類 [特徴] 背骨があり、外骨格がないことが特徴である。エイやサメ、ハゼの仲 間などが魚類である。素早い種類が多いため、網なしでは捕まえるのは 困難である。 [備考] 岩礁海岸に生息する種類は陸上を飛び跳ねるように移動し、潮だまり を渡り歩くものもいる。 ホヤの仲間 左:マンンジュウボヤ/集合体である。右:シロボヤ/単一個体である。

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102 そのほかの魚類 左上から右下にかけて、ギンユゴイ、ダイナンギンポ、ウバウオ、クサフグ、 アナハゼ、ヘビギンポ、ゴンズイ ハゼの仲間 左:ドロメ 中:アゴハゼ 右:キヌバリ イソギンポの仲間 左:ナベカ 中:イソギンポ 右:カエルウオ

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103 (2)海岸植物 ①海岸植物とは 海岸植物とは、「海と陸との境界部に特有の立地を主な生育地とし、 それ以外の立地にはほとんど出現しない在来の維管束植物種」(澤田ほ か 2007 日本の海岸植物チェックリスト)と、定義されているように、 内陸にはほとんどみられず、海岸にしか生育していない植物(狭義の海 岸植物)を指す。しかしながら、本テキストでは志摩市の海岸に良くみ られる種類を対象にしたいため、トベラやサルトリイバラなど沿岸のみ ならず、山間にも生育している植物も紹介する(広義の海岸植物)。 ウバメガシをはじめ、植物は志摩市の文化や産業と密接な関係にあり、 里海ガイドとして植物に関する知識は重要である。 ②海岸植物の特徴 海岸は、潮風や波しぶき、強い風や砂の移動・強い日差しや高温・乾 燥・砂地の貧栄養など、植物が生育するには厳しい環境である。これら の環境に適応するため、特徴的な形態がみられる。 1:背が低い ・・・強い風や飛んでくる砂から身を守るための工夫である。 2:地下茎が発達している ・・・砂の移動に耐えたり、水分を得たりすることができる。 3:葉を厚くする ・・・強い日差しや乾燥に耐えることができる。 ③志摩市の海岸環境と植物の成帯構造 志摩市の植物にとっての海岸環境として次の5つがあげられる。 ・海岸環境の特徴 1:「リアス海岸」と呼ばれる入り組んだ地形 2:太平洋側には「砂浜」が点在 3:湾奥には「干潟・塩性湿地」が存在

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104 4:「海跡湖」、「海崖」なども点在 5:護岸されていない「自然海岸」は少ない memo 砂浜 海崖 干潟 海跡湖

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105 ④海岸植物の成帯構造 波打ち際である汀線からの距離によって生育する種類は変わってく る。植物をみることによって、高潮線の位置など、さまざまな環境を読 み取ることができる。 志摩市は、リアス海岸特有の入り組んだ地形で海岸線が長く、英虞湾 や的矢湾、太平洋という異なる海岸環境を持つ。ゆえに海浜性(砂地)、 湿地・干潟性、海崖性といった幅広い海岸植物が生育している。 日本の海岸植物として 64 科 280 種が選定され、海岸に特有の植物が 日本の全植物の約4%を占める。このうち 82 種(亜種・変種・品種を 含む)は日本の固有種と考えられる。83 種はレッドデータブック(環 境庁自然保護局野生生物課 2000)に記載のある絶滅のおそれのある植 物である。 汀線からの距離と植物の種類

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106 ⑤海岸植物の役割 海岸植物はさまざまな役割を担っている。以下の役割が知られている。 1:砂を堆積させる 2:水分の蒸発を抑える 3:砂浜の温度上昇を抑える 4:昆虫や鳥類の生息環境となる 5:生物学的な多様性をもたらす 6:景観の多様性をもたらす ⑥植物図鑑 海岸の植物について代表的な種類を紹介する。花の咲く時期や絶滅 危惧種と国外からの外来種についても紹介する。

絶滅危惧種は環境省が指定している Red Data Book 2014〈植物 I〉 と三重県が指定している三重県レッドデータブック 2015(以下、とも に RDB とする)を参考にした。 コラム-絶滅危惧種のランクと選定条件- 【絶滅】 我が国(県)ではすでに絶滅したと考えられる種 【野生絶滅】 飼育栽培下、あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態での み存続している種 【絶滅危惧 IA 類】 ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの 【絶滅危惧 IB 類】 IA 類ほどではないが近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの 【絶滅危惧 II 類】 絶滅の危機が増大している種 【準絶滅危惧】 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危 惧」に移行する可能性のある種 【情報不足】 評価するだけの情報が不足している種 【絶滅の恐れのある地域個体群】 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの

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107 【ハマヒルガオ】(砂浜) 葉は典型的な海岸植物 の『艶のある丸い』形態を している。 アサガオやヒルガオと 同じ仲間なので、似た花を している。普通は地面をは って伸びるが、ほかの植物 の影になるような場所で は、ときどきツルのように 上に伸びている様子がみ られる。 花期:初夏 【コウボウムギ】(砂浜) 花穂が筆のような形をしているので、筆といったら弘法大師だからコ ウボウムギとなったという説や、花穂ではなく根を実際に筆として使っ たから、というような説がある。 左の写真は雌の花穂で、この隙間にたくさんの種子が入っている。種 子は水に浮かび、硫酸などによる休眠打破措置をとらないと発芽しにく い。コウボウムギは雌雄異株で、同じ株は地下茎でつながっているので、 雌花だけの群落、雄花だけの群落のように分かれてみられることが多い。 コウボウムギ(左:雌株 右:雄株) 種子 ハマヒルガオ

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108 【ハマエノコロ】 エノコログサ(猫じゃらし)の海岸型である。街中でみかけるエノコ ログサに比べ、小型。穂は太く短いので垂れ下がらない。全体的に横に 広がるような形で生育している。 【アゼトウナ】(海崖) 海岸の岩場に生育。暖かい 地方に生える多年草である。 伊豆半島から西の太平洋 側に分布する。 花期:11 月半ばころ アゼトウナ ハマエノコロ(左)とエノコログサ(右) エノコログサの穂より、小さくたれさがらない様子が分かる

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109 【フクド】(干潟・塩性湿地) (三重県 RDB の絶滅危惧 II 類・環境省 RDB の準絶滅危惧) 河口部の塩性湿地などに 生育する多年草である。花が 咲くと枯れる。ヨモギの仲間 でハマヨモギという別名も ある。メロンに似た香りが特 徴。ガイド中にみつけたら是 非、嗅がせたい。 花期:9月~10 月 【ハマサジ】(干潟・塩性湿地) (環境省と三重の RDB で準絶滅危惧) 一日に 1 回は満潮時に海水に浸る環境に群生する。1 年目はさじ形の 葉が根元に集まった状態で過ごし、2年目の秋に開花して、その株は枯 死する2年草である。『さじ(スプーン)形』の葉の形態が名前の由来 である。 花期:9月~11 月 ハマサジ(左:1年目 右:2年目の花) フクド

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110 【ネコノシタ】(海岸の砂地) (三重県 RDB の絶滅危惧 II 類) 触ると猫の舌のようにざ らざらしている葉の形態が 名前の由来である。別名、ハ マグルマとも呼ばれる。花が 車輪のようであることが由 来である。 砂地に匍匐茎(ほふくけい) を伸ばして広がる多年草で ある。 花期:7月~10 月 memo コラム -砂浜を守る植物たち- ネコノシタやハマヒルガオ、ハマゴウなど、匍匐茎を伸ばして生育する植 物は、風に飛ばされてきた砂を堆積させ、砂丘を作る働きがある。海水浴場 やサーファーポイントに欠かせない砂浜海岸を維持する陰の立役者である。 ※匍匐茎・・・地面を這って伸び広がる蔓状の茎の形態。匍匐植物ともいう。 ネコノシタ

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111 【ハマボウ】(内湾・河口付近)(三重県 RDB の絶滅危惧 II 類) 日本原産の野生のハ イビスカス。 海から離れた場所で もみられるが、本来は内 湾や河口付近の汽水域 に生育する。 花は一日花だが、大き な株は次から次へと花 をつける。 自生なのか植栽されたものなのか分からないものが多いが、英虞湾と 的矢湾には多くの群生地がある。志摩以外の地域でハマボウの群生地は 観光スポットになっている。 ハマボウチビガとカクモンノメイガという蛾の食草となっており、ど ちらも近年まで三重県では記録されていなかった。ハマボウチビガは 2007 年に和歌山県で初めて採集されて、2010 年に新種とされた。 花期:7月~8月 memo ハマボウ

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112 【ハマカンゾウ】(崖地・急斜面など) (三重県 RDB の準絶滅 危惧) 関 東 地 方 以 西 の 本 州・四国・九州に分布す る常緑性の多年草であ る。海岸の崖地・急傾斜 地などに生育する。ノカ ンゾウによく似ている が、葉が厚くて光沢があ り、常緑である点で異な る。花は早朝に開く一日 花である。花期:7月ころ 【ハマオモト・ハマユウ】(三重県 RDB の準絶滅危惧) 志摩市の花に指定され たハマユウ。ヒガンバナ科 の常緑多年草で、暖地の海 岸植物である。名前の由来 は、神事で使用する榊につ けた、垂れ下がった白い布 を『木綿』(ゆう)と言い、 花の白く垂れ下がる様子 が『木綿』のようなので浜 の木綿=浜木綿となったとされる。標準和名のハマオモトは、スズラン 亜科のオモト(万年青)に、肉厚の葉が似ることからつけられた。「君 の名は」という NHK のラジオドラマの主題歌に出てきた花として有名に なった。群生地は観光スポットになる。花が咲いていない時期でも分か りやすい大きな株の植物なので、志摩市の海沿いをガイドする際にはネ タとして押さえておきたい。 ハマカンゾウ ハマオモト

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113 豪快で大きな花は、真夏の青い空と青い海によく映えるイメージだが、 花の開花時間は日没前後である。深夜に満開になり、花の芳香も深夜が 一番強い。これは、スズメガなど夜行性の大型の蛾に花粉を媒介し、受 粉させる為だといわれる。日中の花は少しお疲れ気味の状態のようだ。 【ハマナタマメ】 (三重県 RDB の準絶滅危惧) 主に熱帯から亜熱帯の海岸に生育するマメ科の多年草である。本州 (太平洋側は千葉県以西、日本海側は山形県以西)から四国、九州、南 西諸島、小笠原に分布。豆果は大きく、長さ10cm 以上にもなる。 種子も1㎝程の大きさで、形はソラマメに似ているが、有毒成分を 含むので食用は不可である。 花が普通のマメ科の花と違って、90 度横向きに咲いている。ハマエ ンドウと花期が同じなので、両種がみられるコースがあれば、見比べて みるのも面白い。 花期:6~9月 実:10~11 月 memo ハマナタマメ(左:全体 中:横向きに咲いた花 右:豆果)

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114 【キイシオギク(キノクニシオギク)】(三重県 RDB の準絶滅危惧) 紀伊潮菊と書かれる通 り、三重県大王崎から和歌 山県日ノ岬までの海岸に 生育する。(※鳥羽市にも 生育地がある。)紀国潮菊 (キノクニシオギク)とも いう。高知県東部の海岸に 分布する母種の『シオギク』 と、千葉県犬吠埼から静岡 県御前崎までの海岸に分布する近縁の『イソギク』の中間型の形質をそ なえたものとされている。筒状花のみの頭花を茎の先端に数個まとめて つける。 花期:11~12 月 【オカヒジキ】(海岸砂地) 日当たりの良い海岸に生 育する 1 年草である。海岸植 物の中でも、主に波打ちぎわ に一番近い場所に生育する。 多肉質の葉が海藻のヒジキ に似ている様子が名前の由 来。体にはたくさんの水分を 含んでいる。若い芽や茎を食 べることができる。 memo オカヒジキ キイシオギク

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115 【ツルナ】(海岸砂地) 主に波打ちぎわに近いと ころに生育。ツルナやオカヒ ジキは、漂着したゴミなどの 有機物を栄養分として利用 しているといわれている。そ のため、より環境の厳しい波 打ちぎわの近くに生える。オ カヒジキと同様に若い葉を 食べることができる。 【ハマボウフウ】(海岸砂地) 海岸の砂地に生育する セリ科の多年草。左写真の 白いのは花で、赤っぽいの は果実になっている。セリ の仲間なので、葉を食べる ことができる。特に若い芽 は刺身のツマとして利用 される高級食材である。ま た、漢方・民間療法薬とし ても使用される。このため、盗掘被害がある。県内でもハマボウフウの 盗掘被害があった。 memo ツルナ 果実 ハマボウフウ

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116 【ツワブキ】(海辺~山地) キク科の常緑多年草で ある。葉がフキに似ている が、表面にツヤがあること から、ツヤブキ→ツワブキ になったなど、語源は諸説 ある。 波しぶきのかかるような 場所から、山地まで、生育 場所は広く、志摩市内では、 どこでもみることができ る。また、花の少ない冬場 に海岸に彩りを与えてく れる植物なので、是非覚え てもらいたい。フキ同様、葉柄を、煮物や佃煮として食してきた。花期: 10 月下旬~12 月 memo ツワブキ

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117 【サルトリイバラ】 ツル性の多年生植物で ある。日当たりがよく、水 はけの良い場所を好んで 生育する。海岸近くの丘に も多い。志摩地方をはじめ、 関西圏以南ではカシワ餅 といえばこの葉で包んだ 餅のことだった。(今はイ バラ餅などとして区別さ れる)今でも、5月ころに なると、イバラ餅用に若葉 を摘む人たちをよくみか ける。全国的にはカシワ餅 はカシワ(サルトリイバラより 3 倍ぐらい大きい葉でドングリを作る) の葉を折って使われているところが多い。サンキライ(山帰人)とも呼 び、生薬として有名である。クリスマスのリースの材料や生け花の材料 としても人気が高い。 花期:4~5月 実:11 月~12 月 【ハマダイコン】 その名の通り、ダイコンの一種 で、畑で栽培されているダイコン が野生化したものとされている。 そのため、若い葉や花、実・根な どは食べることができる。春に薄 ピンクの花が海岸を彩る。根を掘 ってみると、小さいながらもちゃ んとしたダイコンがある。 花期:3月半ば~6月 果実 サルトリイバラ ※果実は解毒作用があり、薬草としても人の生 活に関わってきた。 ハマダイコン

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118 【ハマエンドウ】(砂浜) エンドウと名前のつ いているところから分 かるように、マメ科の植 物である。若い実は食べ ることができる。マメ科 の仲間の植物は葉を閉 じたり開いたりする運 動を行うことが知られ ている。ハマエンドウも 強い日差しがあたる場 所では葉を閉じるように立てて、葉の裏側の白いところで光を反射して いる。日陰に生育しているハマエンドウの方が大きく葉を広げている。 花期:4月~7月 【マルバグミ】 グミの仲間は痩せ地や乾燥 地に強いものが多い。海岸には マルバグミという種類が生育 する。その名の通り丸い大きな 葉が特徴である。葉や枝に銀色 の鱗片(リンペン)がつく。果 実は 4 月ころに赤く熟し、食べ られる。 花期:10~11 月 果実:4月 ころ ハマエンドウ 豆果 マルバグミ

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119 【シャリンバイ】 バラ科の常緑樹。海岸近くに 分布する。枝が車輪状に(放射 状に)出て、ウメのような花を 咲かせるのが名前の由来であ る。乾燥に強く、街路樹として 使われることがある。果実はブ ルーベリーのような姿をして いる。無毒なので食べられるが、 ほとんど食べるところがなく ておいしくはないようである。 花期:春 果実:秋 【ハマヒサカキ】 同属のヒサカキより葉が丸く、分 厚く、光沢があり、乾燥などに強い。 生育立地は、海岸ではあっても持 続的な水分供給のある場所であり、 地形的にはややくぼんだ場所であ り、水道であったりする。 冬に咲く花はプロパンガスのよ うなにおいを発する。ヒサカキはサ カキの代わりに神事に使われるこ ともある。花期:冬 シャリンバイ 果実 ハマヒサカキ

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120 【トベラ】 名前の由来は「扉の木」 (玄関のドア)からで、 全体に悪臭があるため、 玄関 に魔除けとして飾 ったことからといわれ ている。しかし花はとて も良い甘い香りがする。 春に海岸で良い香りが してきたら、あたりを見 回してみるとたいてい トベラの花が咲いてい る。果実は、熟すと割れて中の赤い種子が露出する。触るとベタベタし て、透明な粘液でくっついているのが分かる。 花期:春 果実:秋 memo ハマヒサカキ(左)とヒサカキ(右)の葉による比較 ※ヒサカキに比べ葉が小ぶりで丸みがある 種子 トベラ

参照

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