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産業衛生学雑誌 J-STAGE 早期公開 (2017 年 9 月 13 日 ) 1 表題 : インドネシア共和国の労働衛生に関する制度および専門職育成の現状 2 - 日本企業が海外拠点において 適切な労働衛生管理を実施するために 3 ランニングタイトル : インドネシア共和国の労働衛生に関する制度お

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1 表題:インドネシア共和国の労働衛生に関する制度および専門職育成の現状 1 -日本企業が海外拠点において、適切な労働衛生管理を実施するために 2 ランニングタイトル:インドネシア共和国の労働衛生に関する制度および専門職育成の現状 3 4

著者:平岡晃1,2梶木繁之2小林祐一2,3Nuri Purwito Adi4Dewi Sumaryani Soemarko4 5 上原正道5、中西成元1,6、森晃爾2 6 7 1) 株式会社小松製作所 8 2) 産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学 9 3) HOYA 株式会社 10

4) Division of Occupational Medicine, Department of Community Medicine, Faculty of 11

Medicine, University Indonesia 12 5) ブラザー工業株式会社 13 6) 国家公務員共済組合連合会 シミュレーション・ラボセンター 14 15 代表著者の通信先: 平岡晃 16 〒107-8414 東京都港区赤坂2-3-6 17 株式会社小松製作所 健康増進センタ 18

(2)

2

TEL:03-5561-2627, FAX:03-5561-2690, e-mail:khiraoka320@gmail.com 1 2 原稿の種類:調査報告 3 表および図の数:表5 枚、図 3 枚 4 フィールド:産業保健活動/産業保健職 5

(3)

3

Title: The System and Human Resources for Occupational Health in Republic Of 1

Indonesia for Japanese Enterprises to Manage Proper Occupational Health Activities at 2

Overseas Workplaces 3

Running title: The system and human resources for occupational health in Republic of 4

Indonesia 5

6

Authors: Ko Hiraoka1,2, Shigeyuki Kajiki2, Yuichi Kobayashi2,3, 7

Nuri Purwito Adi4, Dewi Sumaryani Soemarko4, Masamichi Uehara5, 8

Shigemoto Nakanishi1,6, Koji Mori2 9

1) Komatsu, Ltd. 10

2) Department of Occupational Health Practice and Management, Institute of 11

Industrial Ecological Science University of Occupational and Environmental Health, 12

Japan 13

3) Hoya Corporation 14

4) Division of Occupational Medicine, Department of Community Medicine, Faculty of 15

Medicine, University Indonesia 16

5) Brother Industries, Ltd. 17

6) Simulation Lab Center, Federation of National Public Service Personnel Mutual Aid 18

(4)

4 Associations

1 2

Corresponding Author: Ko Hiraoka 3

Health Promotion Center, Komatsu, Ltd. 4

Address: 2-3-6, Akasaka, Minato-ku, Tokyo 107-8414 5

Phone: 03-5561-2627, Fax: 03-5561-2690, E-mail: khiraoka320@gmail.com

6 7

Abstract 8

Objectives: To consider the appropriate occupational health system for Japanese 9

enterprises in Indonesia with information on the regulations and development of the 10

specialists. Methods: In this study, we used the information-gathering checklist 11

developed by Kajiki et al. Along with literature and internet surveys, we surveyed local 12

corporations owned and operated by Indonesians, central government agencies in 13

charge of medical and health issues, a Japanese independent administrative agency 14

supporting subsidiaries of overseas Japanese enterprises, and an educational 15

institution formulating specialized occupational physician training curricula. Results: 16

In Indonesia, the Ministry of Manpower

and

the Ministry of Health administer 17

occupational health matters. The act No. 1 on safety serves as the fundamental 18

(5)

5

regulation. We confirmed at least 40 respective regulations in pertinent areas, such as 1

the placement of medical and health professionals, health examinations, occupational 2

disease, and occupational health service agencies. There are some regulations that 3

indicate only an outline of activities but not details. Occupational physicians and safety 4

officers are the two professional roles responsible for occupational health activities. A 5

new medical insurance system was started in 2014, and a workers’ compensation 6

system was also established in 2017 in Indonesia according to the National Social 7

Security System Act. Discussion: Although safety and health laws and regulations exist 8

in Indonesia, their details are unclear and the quality of expert human resources 9

needed varies. To conduct high-quality occupational health activities from the 10

standpoint of Japanese companies’ headquarters, the active promotion of employing 11

highly specialized professionals and cooperation with educational institutions is 12

recommended. 13

14

Key words: human resources, Indonesia, medical insurance, occupational health, safety 15

and health regulations, workers’ compensation system 16

17

(6)

6 抄録: インドネシア共和国の労働衛生に関する制度および専門職育成の現状-日本企業が 1 海外拠点において、適切な労働衛生管理を実施するために: 平岡晃ほか. 株式会社小松製 2 作所 3 目的:インドネシア共和国の労働衛生に関する制度および専門職育成に関する情報をもとに、 4 日本企業の同国における適切な労働衛生体制の在り方を検討すること。 5 対象と方法:梶木らが開発した情報収集チェックリストを用いて情報収集を行った。調査 6 の対象として、文献およびウェブサイトとともに、現地事業場 2 社、医療・保健を担当す 7 る中央行政機関、海外で日本企業の支援を行っている日本の独立行政法人、専門産業医養成 8 カリキュラムを設置する現地教育機関を訪問して情報を聴取した。 9 結果:インドネシアにおける労働衛生行政は労働省(Ministry of Manpower)と 保 健 省 10 (Ministry of Health)の 2 つの省庁が管掌している。労働衛生に関する法令については、労 11

働 安 全 衛 生 に 関 す る 法 律 (Act No.1 on Safety)を 基 本 法 令 と し て 、医 療・保 健 専 12 門 職 の 配 置 に 関 す る 法 令 、 健 康 診 断 お よ び 事 後 措 置 に 関 す る 法 令 、 職業関連性疾 13 患の報告を義務付ける法令、労働衛生サービス機関について定めている法令など少なくとも 14 40 以上の法令を確認した。しかし、活動の概要のみで、詳細を定めていない法令も存在し 15 た。労 働 衛 生 を 担 う 専 門 人 材 と し て は 、医 師 (産 業 医 )と 安全管理者(Safety Officer) 16 の2 つの職種があり、そのうち特に高い専門性を有する産業医が存在することを確認した。 17 また、国家社会保障制度法に基づき、2014 年より新しい医療保険制度が、2017 年より労災 18

(7)

7 補償制度が施行されている。 1 考察:インドネシアにおいては、安全衛生に関する法令は存在するものの、詳細まで定めら 2 れていないことや実施すべき専門人材の質にばらつきが大きいという課題がある。質の高い 3 産業保健活動を行うためには、日本企業の本社の立場から、積極的に専門性の高い人材を雇 4 用するように勧奨したり、育成機関との連携を促したりするなどの対応が必要と考えられる。 5

(8)

8 【はじめに】 1 経済活動のグローバル化に伴い、日本企業の海外進出は盛んである。外務省の海外在留邦 2 人数調査統計1)によると,2015 年 10 月 1 日現在の集計で本邦の領土外に進出している日本 3 企業の総拠点数は 7 万 1,129 拠点で過去最多となっており,地域別ではアジアが総拠点数 4 の約70%(4 万 9,983 拠点)を占めている.日本企業が行っている海外拠点において現地労働 5 者を対象とした労働衛生活動については、現地の安全衛生部門などの担当者が現地の法令に 6 準拠して行っていることがほとんどであると考えられる。しかし、先進国に比べて発展途上 7 国や新興国においては、法令の整備に比べて安全衛生の専門的な知識を有する人材(以下: 8 専門人材)の養成が遅れており、また外部サービス資源の質についても十分には標準化され 9 ていないと考えられている。そのため、法令遵守のみでは必ずしも労働者の健康保持増進に 10 繋がらない可能性がある。そのような課題に対して欧米の大規模企業は、法令遵守とともに 11 自社のグローバル基準を適用するとともに、本社の支援によって労働衛生活動を図ったりし 12 ている事例が認められる 2-4)。現地での人員配置や投資の意思決定に対して、資本関係を通 13 じて大きく関与する本社の立場を考えれば、日本企業についても企業の社会的責任として、 14 進出先における一定レベル以上の労働衛生活動を実施するための体制の構築が必要である。 15 そして、その検討のためには、労働衛生に関する情報収集と整理を行わなければならない。 16 インドネシア共和国(以下、インドネシア)に進出している日本企業は、2015 年 10 月 1 17 日時点で、1,697 社(全体の 2.4%)である。国別の日本企業の進出先としては全体の 6 番目、 18

(9)

9 アジアでは中華人民共和国(47%)、インド(6.1%)、タイ王国(2.4%)に次いで 4 番目であり、 1 2005 年の調査開始以降、常に日本企業の進出先の上位 10 位以内を維持している1)。インド 2 ネシアには本研究のモデルとなった企業の主要事業場があり、安全衛生体制の構築に前向き 3 な姿勢を示した。また、産業医学研究や専門職育成分野において中心的な役割を果たす大学 4 が存在し、同大学や行政機関へのアクセスも容易であり、十分な情報が得られると考えられ 5 た。 6 そこで我々は、日本企業が海外拠点を含むグローバルな事業展開において、企業全体の安 7 全衛生体制の構築を検討する目的で、必要な情報を効率的に収集するための「海外事業場の 8 労働安全衛生体制構築のための情報収集チェックシート(以下、情報収集チェックリス 9 ト)」5)を使用することとした。インドネシアの労働衛生関連の行政機関・法体系、労働衛 10 生活動を担う専門人材、医療・労災補償制度について調査を行ったので報告する。 11 12 【方法】 13 1.調査対象項目と対象機関の選定 14 情報収集チェックリスト5)は、Ⅰ:現地事業場の基本情報、Ⅱ:安全衛生概要、Ⅲ:安全 15 衛生体制、Ⅳ:安全衛生スタッフ、Ⅴ:計画・実施・評価・改善(PDCA)、Ⅵ:安全衛生活 16 動、Ⅶ:法令および行政機関、Ⅷ:現地医療制度と公衆衛生、Ⅸ:駐在員への医療サポート 17 の 9 つの大項目から構成される。情報収集チェックリストのすべての情報の収集を行った 18

(10)

10 が、このうち、本調査の目的である事業場の安全衛生体制構築に必要な安全衛生に関わる法 1 体系・行政機関(Ⅶ:法令および行政機関)、安全衛生活動を担う専門人材(Ⅳ:安全衛生スタ 2 ッフ)、医療制度(Ⅷ:現地医療制度と公衆衛生)、および労災補償制度(Ⅶ:法令および行政 3 機関)を報告する。事業場の情報(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅴ、Ⅵ)は個別性があり、駐在員への医療サ 4 ポート(Ⅸ)は現地での労働衛生体制の構築とは関係がないため、今回の報告の対象外とした。 5 情報収集チェックリストでは、調査の対象として、文献・ウェブサイトから得られる情報 6 に加え、現地事業場、日本本社、現地の大使館・領事館等の公的機関、ISO 認証機関、大 7 学等の教育機関、日本人向け医療機関、現地労働者向け医療機関を挙げている。このうち、 8 今回の目的に合った情報を入手することができると期待される情報源として、文献およびウ 9 ェブサイトとともに、訪問先として現地事業場、現地の大使館・領事館、大学等の教育機関 10 を想定し、調査チームのネットワークを用いて依頼を行い、その結果、協力が得られた以下 11 の各機関を訪問することとした。 12 1) 現地事業場 13 A. 日系の製造業の海外拠点 14 ブルドーザ、油圧ショベル、ダンプトラックなどの建設機械・鉱山用機械の開発・設 15 計を行う企業で、日本の東京に本社を置く。世界中に50 の生産拠点を持ち、グループ 16 全体で総従業員数は約5 万人である。インドネシアの海外拠点は 1982 年 12 月に設立 17 され、従業員数は約1,000 人である。安全衛生面については、類似製品を製造する日本 18

(11)

11 国内の生産拠点の指示に従い、労働災害や健康障害防止のための活動を進めている。 1 B. 欧州に本社を置く製造業の事業場 2 セメント 、骨材 、コンクリート 等の製造・販売を行う企業で、スイスのチューリヒ 3 に本社を置く。世界中の77 カ所にブランチを持ち、総従業員数は約 9 万人である。イ 4 ンドネシアの事業場は同社の中も最も規模の大きい拠点の一つで、従業員数は2,600 人 5 である。安全衛生面については、労働安全衛生マネジメントシステム(OHSAS18001) 6 の認証を取得し、本社が定めた要求事項に基づいて活動を進めている。 7 2) 現地の大使館・領事館 8 C. 医療・保健を担当する中央行政機関 9 インドネシアでは2005 年から 2025 年にかけて、健康開発に関する 20 カ年計画を実 10 施中である。計画の主な目的は、疾病に対しての治療・リハビリ的介入(三次予防)から 11 ヘルスプロモーション・疾病予防的な介入(一次・二次予防)へシフトすることである。 12 第3 期である 2015~2019 年の計画には、国民への保健サービスの拡充が掲げられてい 13 て、対象に労働者も含まれる。また、国民皆保険化も現在進められており、国民皆保険 14 制度では、2019 年までに全ての企業に対して保険加入登録の義務化を目指している。 15 ヒアリングの対象としたのは、産業医学およびスポーツ医学を担当する部門であり、 16 ヒアリングを行った2015 年時点での労働者の健康管理に関する課題は労働災害、職業 17 性疾病、感染症、生活習慣病である。 18

(12)

12 D. 海外で日本企業の支援を行っている日本の独立行政法人6) 1 2003 年設立の日本の貿易促進と対日直接投資に関する事業の総合的な実施と、開発 2 途上国地域の総合的な調査研究を通じて、諸外国との貿易拡大および経済協力を促進し、 3 日本の経済・社会のさらなる発展を目指している。55 カ国に 74 の事務所を持ち、海外 4 で働く日本人スタッフは736 名である。ヒアリングの対象としたのは、介護、ファッシ 5 ョンなどサービス業の担当窓口である。 6 3) 大学等教育機関 7 E. 専門産業医養成カリキュラムを設置する教育機関7) 8 1950 年創立の 14 の学部を設置するインドネシアの国立大学である。医学部の卒後教 9 育として、産業医養成カリキュラムを設置している。1970 年代から産業医学に対する 10 取り組みが始まっており、ASEAN 加盟諸国の中で産業医学の卒前教育や卒後研修カリ 11 キュラムがあるのはインドネシアのみである。2006 年より開始された産業医学の卒後 12 研修カリキュラムを卒業し、専ら産業医をしているのは150 名程度で、国営企業や外資 13 系企業で労働衛生の総括管理などをしているケースが多い。 14 15 2.調査の実施 16 1) インターネットを用いた文献調査 17 まず,現地訪問前にインターネットにより一般情報に加えて、学術情報の検索エンジ 18

(13)

13

ン(医中誌、Pubmed、Google Scholar)を用いた検索(検索式の例:“労働衛 1

生”AND“法”AND“インドネシア”、“occupational health”AND “regulation”AND 2 “Indonesia,”)を行い、日本国内において入手可能な情報(現地の法令や行政機関、現 3 地の医療制度、公衆衛生に関する情報の一部)を調査した。 4 2) 現地調査 5 外資系企業での専属産業医経験を有する教育研究機関の医師2 名に加えて、海外拠 6 点の労働衛生活動に携わった経験を持つ4 名の産業医が調査チームを形成して、2011 7 年12月から2015年6月にかけて、合計6回インドネシアを訪問した。調査機関ごとに調 8 査を行ったチェックリスト上の項目を表1に記す。 9 現地事業場のAとBに対しては、大規模な事業場として安全衛生スタッフの大項目の 10 中から、事業場で労働衛生活動を主に担当しているスタッフについて、有している資格 11 や資格を取得するためにどのような教育を受けたか確認した。また、法令および行政機 12 関の大項目から、事業場の安全衛生活動のレベルを評価することができる安全衛生関連 13

の法令の遵守状況や、労働安全衛生マネジメントシステム(Occupational Safety and 14

Health Management System: OSHMS)の認証の取得状況なども併せて確認した。 15 医療・保健を担当する中央行政機関Cに対しては、法令および行政機関の大項目から 16 安全衛生関連の法体系、企業の法令遵守状況、国や地方の行政機関が各企業にどのよう 17 に関わっているかを調査した。現地医療制度と公衆衛生の大項目より、医療制度、医療 18

(14)

14 レベルや公衆衛生分野の課題などを調査した。 1 海外で日本企業の支援を行っている日本の独立行政法人Dからは、主に在留日本企業 2 がインドネシアにおいてビジネスを展開する上での、安全衛生関連の法令遵守状況やイ 3 ンドネシアの医療レベル、公衆衛生上の問題点を聴取した。 4 産業医養成カリキュラムを設置する教育機関Eに対して、安全衛生分野、医療・公衆 5 衛生分野の幅広い制度について調査した。産業医養成カリキュラムを有しているため、 6 インドネシアでの産業医に関する制度や産業医が担う役割について、特に詳細な調査を 7 行った。 8 9 3.倫理的な配慮 10 本研究では、現地事業場で働く労働者(日本人、現地労働者等)の個人情報は扱わず、調 11 査対象の企業(事業場)、機関、組織等に対しては当該研究の趣旨を書面および口頭にて説 12 明し、承諾が得られた内容に関してのみ調査を実施した。また、本研究による報告すべき利 13 益相反はない。 14 15

(15)

15 【結果】 1 1.法令および行政機関 2 1) 安全衛生を担当する行政組織 3 労 働 及 び 雇 用 関 係 を 所 掌 す る 中 央 行 政 機 関 は 、 労 働 省(Ministry of 4 Manpower)8)で あ る 。労 働 問 題 を 担 当 す る 行 政 体 制 の 整 備 は 、イ ン ド ネ シ ア 独 立 5 宣 言 の1945年 に 遡 る5)1945年 8月 19日 に 第1回 閣 議 に お い て 設 置 さ れ た 社 会 省 6

(Ministry of Social Affairs) の 内 部 組 織 と し て 労 働 部 ( Labour Office Unit) 7 が 設 置 さ れ た 。 さ ら に こ の 組 織 は 、1947年 7月 3日 に 拡 充 ・ 格 上 げ さ れ 、 省 8 (Ministry) に な っ た 。 そ の 後 、 頻 繁 に 組 織 改 変 が 行 わ れ 、 現 在 に 至 る 。 9 一方、健康関連の担当する中央行政機関として保健省(Ministry of Health)がある。イン 10 ドネシアでは、2005-2025年にかけて健康推進に関する20カ年計画が進められており、5年 11 ごとに重点方針が決められている。その第3期である2015-2019年の方針として、就労世代 12 に対しての健康サービスの質の向上とアクセスの改善が含まれている。 13 そのため、労働省と保健省内の担当部門である産業保健・スポーツ保健局とが、省庁間で 14 協働して、計画に基づく施策を推進している。 15 16 2) 労 働 衛 生 に 関 す る 法 令 17 ① 基 本 法 令 18

(16)

16

労 働 安 全 衛 生 の 基 盤 と な っ て い る 法 令 と し て 、1970年 に 制 定 さ れ た 労 働 安 全 1

衛 生 に 関 す る 法 律(Act No.1 on Safety) 8,9)が あ る 。こ の 法 令 に は 、労 働 安 全 衛 生 2 の 適 用 範 囲 、 要 件 、 事 業 を 行 う 使 用 者 お よ び 作 業 場 所 を 直 接 管 理 す る こ と を 職 3 務 と す る 管 理 者 の 責 務 、 労 働 者 の 責 務 と 権 利 、 罰 則 等 の 基 本 的 枠 組 み が 述 べ ら 4 れ て い る 。 5 ② 医 療 ・ 保 健 専 門 職 の 配 置 に 関 す る 法 令 6 2008 年 に 出 さ れ た 労 働 省 雇 用 促 進 局 の ガ イ ド ラ イ ン 7 (KEP.22/DJPPK/V

/

2008)10)で は 、 企 業 に 従 業 員 数 と 有 害 業 務 の 有 無 に 応 じ た 医 8 療 サ ー ビ ス の 提 供 を 求 め て い る ( 表2)。 こ の 有 害 業 務 と は 、 化 学 物 質 使 用 作 業 9 や 粉 じ ん 作 業 な ど 、 日 本 で 用 い ら れ る 場 合 と ほ ぼ 同 義 で あ る 。 特 に 、 従 業 員 数 10 500人 以 上 で 有 害 業 務 が あ る 企 業 に 対 し て は 、直 接 雇 用 し た 医 師 に よ る サ ー ビ ス 11 提 供 を 義 務 付 け て い る 。 し か し 、 求 め ら れ る 具 体 的 な サ ー ビ ス の 内 容 は 明 確 で 12 は な い が 、 主 に 治 療 的 な 医 療 サ ー ビ ス を 想 定 し て い る と 考 え ら れ 、 医 師 に よ る 13 健 康 障 害 防 止 の た め の 予 防 サ ー ビ ス に 関 す る 規 定 を 見 出 す こ と が で き な い 。 14 また、企 業 で 雇 用 さ れ る 医 師 に つ い て は 、「 産 業 医 に 対 す る 労 働 衛 生 研 修 を 行 15 う 義 務 づ け に つ い て の1976年 労 働 移 住 協 同 組 合 大 臣 規 則 第 1号 」8)に よ っ て 、 労 16 働省が指定する労働衛生に関する基本事項について最 低56時間の研修を受けなければなら 17 ないとされている。したがって、企 業 で 診 療 に 従 事 す る 医 師 の 多 く は 、 基 本 的 な 産 18

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17 業 保 健 に 関 す る 研 修 を 修 了 し た 一 般 診 療 医(GP)と 考 え ら れ る 。一 方 、「 保 健 大 1 臣 規 則2016年 56号 」 で 、 職 業 病 の 診 断 や 予 防 医 学 に 携 わ る た め に は 、 実 地 研 修 2 を 含 む80時 間 の 研 修 を 受 講 す る こ と が 義 務 付 け ら れ た 。 そ の た め 、 労 働 衛 生 に 3 携 わ る 医 師 に は2つ の 異 な る 立 場 が あ り 、 管 轄 省 庁 の 異 な る 2つ の 研 修 制 度 が 存 4 在 し て い る こ と に な る 。 た だ し 、 現 在 、 保 健 省 の 研 修 内 容 は 卒 前 の 医 学 教 育 カ 5 リ キ ュ ラ ム に 含 ま れ て い る た め 、2017年 度 以 降 に 医 学 部 を 卒 業 す る 医 師 に は 卒 6 後 に 改 め て 受 講 す る 必 要 は な い 。 す な わ ち 、2016年 度 以 前 に 卒 業 し た 医 師 は 、 7 企 業 内 の 診 療 所 で 働 き 、 か つ 職 業 病 の 診 断 を 行 う た め に は 、 労 働 省 、 保 健 省 の2 8 種 類 の 研 修 を 修 了 す る 必 要 が あ る こ と に な る 。 9 ③ 健 康 診 断 お よ び 事 後 措 置 に 関 す る 法 令 10 健康診断については、「 インドネシア安全衛生法令、労働安全衛生の推進における労働 11 者健康診断に関する1980 年労働大臣規則第 2 号」8)が制定されている。この規則では、事 12 業者に対して、全ての労働者に一般健康診断を受けさせるとともに、特定の有害業務に従事 13 している労働者に対して業務に応じた特殊健康診断を実施することを義務付けている。しか 14 し、具体的な健診項目を定めていないため、各企業においては、自社で雇用している医師や 15 契約している医療機関の医師と相談した上、実施する項目を選定することができる。 16 「 保 健 大 臣 規 則 2016 年 56 号」に基づく 一般健康診断の判定区分を表 3 に示す。 17 日本では「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」11)に基づき、一般健 18

(18)

18 康診断の判定として診断区分と就業区分が付けられることになっているが、それと比較した 1 場合、就業区分に相当するものである。ただし、日本と異なり、各就業区分について健康状 2 態に応じたより具体的な判定基準や事後対応が定められている。たとえば、”temporary 3 unfit”の場合、健診機関による精査を行うことになる。また、心血管疾患で精査中の場合、 4 結核に罹患している場合、コントロール不良の糖尿病の場合は、適切な治療を受けることを 5

前提に”fit with note”とすることが定められている。 6 ④ そ の 他 の 産 業 保 健 に 関 す る 法 令 ・ 施 策 7 職業関連性疾患の報告を義務付ける「職業性疾病の報告に関する1981年労働移住大臣規 8 則第1号」8)により、労働災害、職業病(大統領令1993年22号に定められている31疾患)、業 9 務起因性疾患疑い(31疾患以外の業務に起因性の可能性の高い疾病)が集計されている。31 10 疾患について表4に示す8)。いずれも2011年から2014年の3年間で増加傾向(労働災害:9,871 11 件→25,338件、職業病:79,818件→99,144件、業務起因性疾患疑い:65,674件→122,232 12 件)にある。そのため、行政の重点施策として、リスクアセスメントを適切に実施し、予防 13 を強化する方針が示されている。 14 また、労働衛生サービス機関について定めている「インドネシア安全衛生法令、労働者の 15 健康管理のための事業に関する1982年労働移住協同組合大臣規則第3号」8)がある。昨今、 16 各サービス機関の質のばらつきが大きいことが明らかになり、行政の重点施策としてその格 17 差を是正する方針も示されている。その他に、少なくとも40以上の安全衛生と関連する法 18

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19 令の存在を確認した。 1 2 2.安全衛生スタッフ(労働衛生を担う専門人材) 3 1) 産業医 4 事業場において労働衛生活動を担う専門人材として期待されているのは、労働衛生に関す 5 る一定の研修を修了した医師(産業医)である。前述したような法令に基づく医師の研修は、 6 労働省や保健省が主体となり実施されている。さらに国内の複数の大学において、産業医と 7 しての専門性を高める卒後研修プログラムが提供されている。 8 その中の主要大学であるインドネシア大学では、1970年代より労働衛生に関する卒後研 9

修プログラムであるMaster of Occupational Medicine(通称: MSコース)が設置されており、 10

2006年よりさらに専門的な知識を持つ産業医を養成するための卒後研修であるSpecialist 11

in Occupational Medicine (通称:SpOKコース)を開始している。この大学においてMSコ 12 ースおよびSpOKコースの修了までの概要を図1に示す。MSコースを修了するには、医学 13 部卒業後2年間の研修が必要である。MSコースを修了した後、SpOKコースを修了する場合、 14 さらに1.5年間の研修が必要となる。一方、医学部卒業後、直接SpOKコースに進む場合は、 15 修了までに必要な期間は合わせて3年間に短縮される。調査を行った2017年3月時点で、MS 16 コース修了者が約400人、SpOKコース修了者が約150人ということであった(図2)。 17 SpOKコース修了者は専属の産業医になることが多く、国営企業や外資系企業で労働衛生 18

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20 の総括管理などをしている。鉱山や石油業など特殊な業種の企業を除いて、専属産業医の選 1 任に関する規定はないため、多くの企業・事業場を兼務している修了者も多い。インドネシ 2 アでは、職場環境による健康影響が大きな課題であるとともに、メンタルヘルス不調や冠動 3 脈疾患などの作業関連疾患も増加しており、労働者の多様な健康課題に対応できる専門性を 4 有する産業医の需要も大きくなってきている。 5 2) 安全管理者(Safety Officer) 6 「労働安全衛生推進委員会と安全衛生専門家の指名の方法に関する1987 年労働大臣規則 7 第 4 号」5)に、労 働 安 全 衛 生 の 向 上 及 び 実 践 の た め に 、 経 営 者 あ る い は 管 理 者 を 8 援 助 し 、労 働 安 全 衛 生 の 分 野 に お け る 法 令 の 規 定 の 遵 守 の 監 督 を 補 助 す る 者 とし 9 て安全管理者の役割が規定されている。 10 事業場の規模や従業員数による選任要件はないが、資格要件として、労 働 省 あ る い は 11 労 働 省 の 認 可 を 受 け た 教 育 機 関 が 主 催 し た 特 定 の 研 修 を 修 了 し て い る こ と が あ 12 る 。 安 全 管 理 者 の 研 修 カ リ キ ュ ラ ム は 2 週 間 が 基 本 と な っ て お り 、 そ の 内 容 は 13 労 働 安 全 に 関 す る 内 容 が 主 で あ る が 、 労 働 衛 生 管 理 に つ い て 有 害 業 務 に 従 事 す 14 る 労 働 者 の 健 康 管 理 に 関 す る 内 容 も 含 ま れ る 。 ま た 、 安 全 管 理 者 の 中 に は 、 大 15 学 の公衆衛生学部を卒業し、その中で資格要件を満たしたより専門性の高い者もいる。 16 安全管理者の主な役割は労働安全管理であるが、日本のように衛生管理者が別途選任され 17 ていないため、実質的に安全管理者が労働衛生管理についても医療サービス機関や健康診断 18

(21)

21 実施機関との連携などの調整業務を中心的に担っていると考えられる。 1 2 3.医療制度・労災補償制度 3 1) 医療制度 4 インドネシアでは、2014 年 1月に、国家社会保障制度法に基づく国民皆保険制度(通称: 5 JKN)12)が開始された。これまでインドネシアには全国民を対象とする公的医療保険制度は 6 存在せず、無保険者の数は、国民の約 4 割に及んでいた。政府は、順次加入者を拡大しつ 7 つ、2019年までに全国民への普及を図る計画である。加入対象者は、インドネシアの全国 8 民だけでなく、同国に6か月以上滞在する外国人にも加入が義務づけられている。 9 国民皆保険制度は、政府が保険料を全額負担する貧困層(通称:PBI)向けの保険と、それ 10 以外の者(通称:Non-PBI)が加入する保険料方式の保険の2種類の制度で構成される。国民 11 皆保険制度概要を表4に示す。保障内容については、PBIとNon PBIで受けられる医療サー 12 ビスに違いは設けられていない。両制度とも、定められた医療施設であれば、外来診療、入 13 院、検査、薬の処方まで治療上必要なものは限度額なく全て無料で利用することができる。 14 治療範囲はインフルエンザなどの感染病から心臓の開胸手術、透析、がん治療まで幅広くカ 15 バーされている。加入者間で差が生じるのは入院の際の病室グレードであり、貧困層向け 16 PBIは一番低いグレードのクラスⅢのみ利用可能となっている。賃金労働者はクラスⅠとⅡ 17 の利用が可能である。自営業者は、利用できる病室のグレードに合わせて3種類の保険料が 18

(22)

22 選択できるようになっている。 1 保険料は、PBIは国の貧困対策の一環として全額が政府負担で賄われており、一人あたり 2 月額19,225ルピア(約160円)が政府から保険料として拠出される。公務員については、月 3 給の5%相当額を政府3%、本人2%の割合で負担し、民間の賃金労働者は月給の4.5%相当 4 額を雇用主4%、本人0.5%の割合で負担することとなっている。自営業者は、前述のとおり 5 3種類の保険料から選択して負担額を決定する。なお、これらの保険料は家族分(妻、子供 6 含め4名まで。それ以上は保険料追加で加入)の保険料も含めた額である。 7 国民皆保険制度における医療サービス供給の流れを図3に示す。国の医療保険を利用して 8 受診するためには、加入者はまず、一次医療機関として自分が登録されている医療機関リス 9 トにある保健センター、クリニックなどで診察を受ける必要がある。国民皆保険制度は、日 10 本のようなフリーアクセス制にはなっておらず、一次医療機関に位置づけられている保健セ 11 ンター等がゲートキーパーの役割を担っている。したがって、一次医療機関での受診と、そ 12 の機関からの紹介がなければ高次医療を担う公・私立病院で保険を利用することはできない。 13 国民皆保険制度は始まったばかりだが、貧困層向け制度にかかる巨額の政府負担の持続可 14 能性、貧困層以外の者からの保険料徴収の確実性、医療設備・医療人材不足による医療サー 15 ビス供給体制の脆弱さなど、インドネシアの挑戦には制度の確立および持続性を左右する難 16 しい課題が内在している。また、国家社会保障制度法に基づく社会保障制度改革は医療保険 17 制度のみにとどまらず、年金、老齢保障など多岐にわたる社会保障を全国民へ提供すること 18

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23 を目指している。 1 2) 労災補償制度 2 1992年 に 民 間 の 従 業 員 の 社 会 保 障 に つ い て 規 定 し た 労 働 者 社 会 補 償 法 (Act 3

No.3 on Employment Social Security) 8)が 制 定 さ れ た 。 こ の 法 律 に 基 づ き 、 労 4 働 災 害 補 償 制 度(通 称 : JKK)、 死 亡 補 償 (通 称 : JKM)、 老 齢 補 償 (通 称 : JHT)、 5 健 康 管 理 補 償(通 称 : JPK)の 4つ の 要 素 か ら 構 成 さ れ る 、 社 会 保 障 制 度 (通 称 : 6 JAMSOSTEK)が 運 用 さ れ て き た 。し か し 、JAMSOSTEKは 正 規 労 雇 用 の 労 働 者 7 に し か 適 応 さ れ ず 、 補 償 内 容 に も 不 足 が あ っ た 。 そ の た め 、2014年 に 制 定 さ れ 8 た 国家社会保障制度法に 包 含 さ れ る 形 で 、4つ の 要 素 に つ い て 補 償 す る 制 度 が 2017 9 年より試行されることになった。その財源は、労働者の給与に応じて雇用主と本人が一定の 10 割合で負担する国民皆保険制度のNon-PBIと同じ仕組みである。新しい制度は非正規労働 11 者や同国に6か月以上滞在する外国人にも適用される。 12 13 4.その他の情報 14 訪問した日本企業の海外拠点は安全管理者を選任しているものの、産業保健の専門性の高 15 い産業医の選任はなく、従業員の健康管理について改善の余地があった。その一方で欧州に 16 本社を置く製造業の事業場では、専門性の高い専属産業医を選任し、労働安全衛生マネジメ 17 ントシステムに則って質の高い労働衛生活動を行っていた。このように比較的規模の大きな 18

(24)

24 事業場においても労働衛生活動の質にばらつきがあるのが現状である。さらに、医療・保健 1 を担当する中央行政機関より、中小規模所事業場においては、法令の遵守率が高いとは言え 2 ず、労働災害や職業病の発生率が高いという情報を確認した。 3 4 【考察】 5 1.グローバル労働安全衛生マネジメントシステムを用いた体制構築 6 日本企業が海外拠点を含むグローバルな事業展開において、企業全体の労働安全衛生マネ 7 ジメントシステム(グローバル労働安全衛生マネジメントシステム:グローバルOSHMS) 8 を構築して労働安全衛生管理を行うことを前提に、先行研究で作成した「情報収集チェック 9 リスト」2)を用いて、インドネシアについて、インターネットや文献調査、複数回の現地調 10 査で労働衛生に関する法体系、法令で求められる活動を行う専門人材や現地の医療制度・労 11 災補償制度の情報を得ることができた。 12 グローバルOSHMSとは、同一の基本方針とマネジメントシステム規格を前提として、企 13 業全体で統一した労働安全衛生上の要求事項および各国・地域の法令を遵守するとともに、 14 国や拠点ごとのニーズに合わせた活動を継続的に展開して、労働安全衛生上の成果を上げる 15 ことを目的とした仕組みである2)。グローバルOSHMSの構築・運用では企業全体の要求事 16 項には、リスクアセスメント手法や傷病統計など事業場間で比較すべき評価に関する基準、 17 設備基準や個人保護具基準など一定の投資や費用が必要な事項に関する基準、内部監査の基 18

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25 準などのグローバル基準を明確化することが必要である。各国の拠点でグローバルOSHMS 1 を基本に労働安全衛生活動が行われるためには、各国・地域の法令をグローバル基準と併せ 2 て事業場のOSHMSに盛り込むことが基本となる。また、それらの基準等を用いて安全衛生 3 上の成果を上げるためには専門人材の確保が欠かせない。そのため、グローバルOSHMSを 4 前提とした各国の労働安全衛生に関する情報の収集においては、法令と専門人材に関する情 5 報が欠かせない。 6 2.法令および行政機関 7 インドネシアにおいても、様々な労働衛生に関連する法令が制定されている。たとえば 8 健 康 診 断 に つ い て 、 事 業 者 に 対 し て 一 般 健 康 診 断 や 特 殊 健 康 診 断 の 実 施 が 義 務 9 付 け ら れ て い る が 、 そ の 項 目 に つ い て 詳 細 な 事 項 が 定 め ら れ て い な か っ た り 、 10 労 働 衛 生 サ ー ビ ス 機 関 の 品 質 に ば ら つ き が 大 き か っ た り す る な ど の 課 題 が あ り 、 11 企 業 側 で 、 事 業 場 の 状 況 に 合 っ た 適 切 な 活 動 内 容 の 決 定 、 品 質 の 高 い 外 部 サ ー 12 ビ ス 機 関 の 選 定 な ど が 必 要 で あ る 。 そ の た め に は 専 門 人 材 の 活 用 が 不 可 欠 で あ 13 る 。 14 3 . 安全衛生スタッフ(労働衛生を担う専門人材) 15 調査の結果、インドネシアには、専門性の高い産業医が存在しており、卒後の研修期間や 16 カリキュラム内容を鑑みると、日本産業衛生学会の産業衛生専門医に相当する知識を持って 17 いると考えられる。法定の安全管理者に加えて、このような産業医が企業の労働衛生に加わ 18

(26)

26 ることで、職場の労働衛生上の課題を明確にするとともに、労働者の特徴に合わせた一般健 1 康診断項目や有害要因に応じた特殊健診項目を選定し、良質な労働衛生サービス機関を活用 2 するとともに、その結果に基づく事後措置を実施して、健康障害リスクを低減させることが 3 可能となると期待される。 4 日本企業の本社の立場からは、単にグローバル基準を出し、それらの基準の実効性を評価 5 するための本社監査を行うだけでなく、労働安全衛生活動の向上のための支援を行う必要が 6 ある。インドネシアにおいては、労働衛生活動の質を担保するための鍵となる高い専門性を 7 もった産業医の数は限定されている上に、予防医学的の視点から設置された保健省の研修プ 8 ログラムの修了者もけっして多くないのが現状である。そのため、海外拠点に対して、積極 9 的にそのような人材を雇用するように勧奨したり、育成機関との連携を促したりするなどの 10 対応が必要と考えられる。 11 4.医療制度・労災補償制度 12 インドネシアでは近年医療・労災補償制度を含めた新しい社会保障制度の仕組みの運用が 13 開始されている。医療保険や労災補償の制度は、現地で雇用された労働者が安心して働ける 14 ための条件となるため、海外拠点で雇用される労働者にとっては大きな価値がある。しかし、 15 制度がカバーする範囲や内容が十分とは言えないこともありうるため、追加的な補償が行わ 16 れることが少なくない。現地の労働安全衛生を支援する本社の立場からも、理解しておくべ 17 き事項である。また、新しい制度では6ヶ月以上滞在する外国人も対象に含まれているが、 18

(27)

27 医療機関へのアクセスが制限されているなど、その内容から考えて日本からの派遣者が利用 1 することは現実的ではないため、引き続き海外旅行傷害保険に加入するなどの対応が必要と 2 考えられる。 3 5.情報収集チェックリストを用いた情報収集 4 インドネシアにおいて、海外拠点がグローバルOSHMSを前提とした労働衛生活動を推進 5 するための方策を検討する上で必要な情報を「情報収集チェックリスト」を用いて収集する 6 ことができた。情報収集に当たっては、同じ項目に対する情報を複数の機関から聴取するこ 7 とによって、その同一性や差異を検討することができ、情報の正確性や多角性が高まったと 8 考える。今回の調査では、文献等の調査に加えて6回の現地訪問を要したが、訪問ごとに情 9 報収集以外の目的があったことや、当初は情報収集チェックリストの開発段階にあり、どの 10 機関からどの情報が得られるかについて試行錯誤したため、同じ機関に複数回の訪問が必要 11 であった。しかし、訪問を繰り返すことによって同国内での人的ネットワークが構築されて 12 精度の高い情報を有している機関への訪問が可能になるなどの進展もあった。情報収集に特 13 化した訪問を計画したり、予め国内外のネットワークを用いて有効な調査先を確保したりす 14 ることができれば、より少ない回数で必要な情報を収集できると考えられる。 15 経済発展の過程にあるインドネシアについて、今回の調査で得た海外拠点で労働衛生活動 16 を進める上で不可欠な労働衛生関連の法体系、労働衛生活動を担う専門人材、医療・労災補 17 償制度などの情報は、今後も大きく変化していくと考えられる。そのため、常に情報を更新 18

(28)

28 していくことが重要である。 1 2 【謝辞】 3 本研究は、株式会社小松製作所から産業医科大学への受託研究によって行われた。情報収 4 集に参加した多くの産業医科大学産業医学卒後修練課程修練医、情報収集のための訪問を快 5 く引き受けていただいた皆様に深謝いたします。 6 7 【参考文献】 8 1) 海外在留邦人数調査統計(平成 28 年版) 9 http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000043.html (2017 年 3 月 7 日アクセス) 10 2) 梶木繁之,森晃爾,小林祐一.海外事業場を含めた労働衛生管理体制の構築.労働安全衛 11 生コンサルタント会報. 2012; 32: 38-41. 12 3) 森晃爾,永田智久,梶木繁之,ほか.企業全体で産業保健を展開するための統括産業医の 13 機能と位置づけ-統括産業医に対するインタビュー調査-.産衛誌 2013; 55(5): 14 145-153. 15 4) 福澤義之.グローバル化と労働安全衛生研究 -特集 労働安全衛生分野における新技術- 16 労働安全衛生研究.2014; 7(2): 57-58

.

17

(29)

29 5) 梶木繁之, 小林祐一, 上原正道, ほか. 海外事業場における労働安全衛生活動と体制構 1 築に必要な情報収集ツールの開発. 産衛誌 2016; 58(2): 43-53 2 6) JETRO HP https://www.jetro.go.jp/ (2017 年 3 月 7 日アクセス) 3 7) インドネシア大学 HP http://www.ui.ac.id/en/ (2017 年 3 月 7 日アクセス) 4 8) 中 央 労 働 災 害 防 止 協 会 > 海 外 事 情 ・ 国 際 協 力 > イ ン ド ネ シ 5 アhttp://www.jisha.or.jp/international/country/indonesia.html (2017 年 3 月 7 日ア 6 クセス) 7

9) Buranatrevedh S. Occupational safety and health management among five ASEAN 8

countries: Thailand, Indonesia, Malaysia, Philippines, and Singapore. J Med Assoc 9 Thai 2015; 98: S64–S69. 10 10) 労働省雇用促進局のガイドライン(KEP.22/DJPPK/V/2008) 11 http://disnakertrans.bantenprov.go.id/upload/undang-undang/Juknis%20penyeleng 12 garaan%20kesehatan%20kerja.pdf (2017 年 3 月 7 日アクセス) 13 11) 健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針 14 http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/kouji/K151130K0030.pdf 15 12) 損保ジャパン総研レポート インドネシアの公的医療保険制度改革の動向 16 http://www.sjnk-ri.co.jp/issue/quarterly/data/qt64_5.pdf (2017 年 3 月 7 日アクセス) 17

(30)

安全衛生スタッフ 経歴と資格 ○ ○ ○ 法体系 ○ ○ 法令遵守状況 ○ ○ ○ ○ 労災保険制度 ○ 行政機関 ○ 医療制度 ○ ○ 現地の医療 ○ ○ ○ 法令および行政機関 現地医療制度と公衆衛生

(31)

1000人~ 500~999人 200~499人 0~199人 自社で雇った医師により、 毎日診療を行う 自社で雇った医師に 外部医療機関と契約し、 毎日受診の機会を提供する 外部医療機関と契約し、 毎日受診の機会を提供する

(32)

調査対象機関Eより情報収集し、著者が作成 により毎日診療を行う 外部医療機関と契約し、 毎日受診の機会を提供する 外部医療機関と契約し、 2日ごと以上に受診の機会を提供する 外部医療機関と契約し、 3日ごと以上に受診の機会を提供する

(33)

Fit with note 注意しながら作業を継続する

Temporary unfit 一時的に現在担当している作業から離れる Permanent unfit 恒久的に現在担当している作業から離れる 調査対象機関Eより情報収集し、著者が作成

(34)

2 硬質金属粉じんによる肺または気管支疾患 3 有機粉じんによる肺または気管支疾患 4 化学物質ばく露による気管支喘息 5 有機粉じん吸入によるアレルギー性肺胞炎 6 ベリリウムまたはその有毒化合物に起因する疾患 7 カドミウムまたはその有毒化合物に起因する疾患 8 リンまたはその有毒化合物に起因する疾患 9 クロムまたはその有毒化合物に起因する疾患 10 マンガンまたはその有毒化合物に起因する疾患 11 ヒ素またはその有毒化合物に起因する疾患 12 水銀またはその有毒化合物に起因する疾患 13 鉛またはその有毒化合物に起因する疾患 14 蛍石またはその有毒化合物に起因する疾患 15 二硫化炭素に起因する疾患 16 脂肪族炭化水素または芳香族毒性化合物によるハロゲン誘導体による疾患 17 ベンゼンに起因する疾患 18 ニトロ基やアミノ基をもつベンゼン化合物に起因する疾患 19 ニトログリセリンまたは硝酸エステルに起因する疾患 20 アルコール、グリコールまたはケトンに起因する疾患 21 一酸化炭素、硫化水素、硫化水素、または有毒な亜鉛、真ちゅうおよび ニッケルアンモニアなどの、誘導体による窒息または中毒を引き起こすガス または蒸気に起因する疾患 22 騒音に起因する聴覚異常 23 振動に起因する疾患または傷害 24 加圧空気に起因する疾患または傷害 25 電磁波および電離放射線に起因する疾患または傷害 26 物理的、化学的または生物学的原因による皮膚疾患 27 化学物質暴露による皮膚がん 28 アスベストによる肺がんまたは中皮腫 29 特別なリスクを伴う作業環境におけるウイルス、細菌または寄生虫による感染 30 高温、低温、高湿度に起因する疾患 31 医薬品を含むその他の化学物質に起因する疾患 出典: www.jisha.or.jp/international/country/indonesia.html インドネシア2016カントリーレポート(英語)

(35)

出典: 損保ジャパン総研レポート   インドネシアの公的医療保険制度改革の動向より改変 PBI non-PBI 月給の5% クラスⅢのみ 利用可能 クラスⅠ、Ⅱが 利用可能 支払保険料に より選択可能 クラスⅠ、Ⅱ 貧困者 低所得者層 公務員 軍人 民間従業員 自営業など 【医療費無料】 一次診療から高次診療まで、 検査、診察、外来治療、 入院治療、薬代が無料。 【ゲートキーパー制度】 高次診療を受けるには、 一次診療医の紹介が必要。 【医療格差なし】 入院病室のレベルのみが、 対象者によって異なるが、 保証される医療行為は 原則同じ。 全額政府負担 1人あたり19,255Rp/月 を拠出 月給の5% (3%政府、2%本人) 月給の4.5% (4%雇用主、0.5%本人) クラスⅠ:59,500Rp/月 クラスⅡ:42,500Rp/月 クラスⅢ:25,500Rp/月 駐在外国人

(36)

医学部卒業

MSコース

42 SKS

( 20-24時間/週)

SpOKコース

94 SKS (52 SKS)

SKSはコース修了に必要な単位で、1SKSは2時間/週

+3年間

+1.5年間

+2年間

2017年3月時点

調査対象

Eからの情報を基に著者が作成

(37)

MSコース: 400人

1970~

SpOKコース: 150人

2006~

MS

400人

150人

SpOK

労働省令に基づく基本的な研修修了者

14000人

2017年3月時点

調査対象

Eからの情報を基に著者が作成

(38)

医療保険実施機関

総合病院

専門病院

総合病院

専門病院

保健センター

クリニック

雇用主

個人・扶養家族

保険料

医療費

医療サービス

保険制度登録機関

公立病院

私立病院

保険を使わず全額自己負担

医療サービス

高次医療

一次医療

Primary Care

要紹介

ゲート

キーパー

出典:

損保ジャパン総研レポート インドネシアの公的医療保険制度改革の動向より改変

参照

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