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特集 : 栄養管理のピットフォール 理論と実際のはざま 必要エネルギー量の算定 ストレス係数 活動係数は考慮すべきか? * keywords:h a r r i s - B e n e d i c t e q u a t i o n ストレス係数 活動係数 エネルギー必要量 井上善文 Yoshifu

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(1)

【はじめに】

 正直なところ、このタイトルでの執筆は、できたら避け たいと考えておられる諸氏が多いと思われる。筆者もその 一人である。これは、ある意味、積極的にNSTを推進して おられる方々に『モノ申す』ことになる可能性があるし、多 くの方からの反発が予想されるからである。確かに、必要 エネルギー量の算定には、さまざまな考え方がある。必要 エネルギー量の算定方法として、ストレス係数と活動係数 を用いることが、レベルアップした栄養管理には必須のも のと考えておられる方が多いことは間違いない。しかし一 方では、このストレス係数と活動係数の数値としての信頼 性に疑問をもっておられる方もいる。また、基本的に、必要 エネルギー量を充足させるために同量のエネルギーを投 与する必要があるのか、という問題もあるが、本章では、

必要エネルギー量をどのように考えて算定すべきか、とい う基本的な問題に限定して筆者の考え方を述べさせてい ただく。

【本邦における必要エネルギー量算定 方法の歴史】

 Harris-Benedictの式(Harris-Benedict equation1)

:HBE)からBEE(Basal Energy Expenditure:基礎 エネルギー消費量)を求め、これに活動係数(activity factor;活動因子または活動係数として使用されている)

と傷害係数(injury factor;ストレス係数stress factor/

indexとしても用いられており、同義と理解してよい)を乗 じてエネルギー投与量を決定する方法は、1979年に Long CLら2)が発表したものである(本稿では、以後、

『Long法』として記載する)。今から30年以上前の論文で 報告されたものであるが、本邦においては、いつ頃から使 用されるようになったのであろうか?

 実は、この方法が『もっとも理論的な方法である』と認識 されて使われるようになったのは、日本静脈経腸栄養学会

(JSPEN)のTNT(total nutritional therapy)プロジェ クト3)が活動を始めてからである。このTNTプロジェクト 特集:栄養管理のピットフォール –理論と実際のはざま–

必要エネルギー量の算定

―ストレス係数・活動係数は考慮すべきか?―*

keywords:

Harris-Benedict equation、ストレス係数、活動係数、エネルギー必要量

井上善文 Yoshifumi INOUE

◆医療法人川崎病院外科 

Department of Surgery , Kawasaki Hospital

 必要エネルギー量の算定方法として、Harris-Benedictの公式 (HBE)から基礎エネ

ルギー消費量 (BEE) を求め、これに活動係数とストレス係数をかけて計算する方法が

用いられている。しかし、HBEからBEEを求める方法は過剰評価になる場合が多いこ

とが認められている、本邦で用いられている活動係数およびストレス係数の多くは根

拠となる検討結果に基づいたものではない、またその数値としての選択は結果的に主

観的なものとなる、などの問題がある。基本的投与量として25 ~ 30kcal/kg/日を設定

し、ストレスの度合に応じて増減し、積極的なモニタリングを行いながら投与量・組成

を調整する方法の方が臨床的ではないかと考える。

(2)

は、米国のアボットインターナショナルがFederation Latinoamericana de nutricion Parenteraly Enteral

(FELANPE:ラテンアメリカ静脈経腸栄養学会)と提 携して開発した栄養教育プログラムで、栄養療法の世界 的標準として全世界に広げることを目論んだものであ る。1995年にプログラムの開発が始められ、1999年6月 に米国、シカゴで開催されたTNTグローバル研修会に 本邦から10人の医師が参加して本邦におけるTNTプロ ジェクトがスタートした。その後、講師育成のためのセミ ナーが2回開催され、2000年8月から全国展開が開始さ れた。JSPENのNSTプロジェクトの活動と共にTNT 受講者は増え、2009年12月の時点で累積セミナー開催 回数356回、総受講者数13064人という実績が積み重ね

られている。このTNTの内容として、図1に示すように HBEを用いてBEEを求め、これにactivity factorと injury factorを乗じてtotal energy need:総エネル ギー必要量を求める方法が紹介されている。この方法 が、TNT受講者の増加と共に本邦におけるエネルギー 投与量決定の『標準』であるかのように認識されるように なってきたのである。

 それでは、本邦においては、それまではどのような方法 でエネルギー投与量が決定されていたのであろうか。さま ざまな方法が用いられていたようであるが、代表的な方法 は、(1)厚生労働省が管理する生活活動強度別に設定さ れた栄養所要量から計算する方法、(2)HBEからBEE を計算し、その値に重症度によって増加する分を推定し て加える方法、(3)30 ~ 40kcal/kg/日を基準とし て侵襲の程度によって増減させる方法、などが用いら れていた。現在のような数多くの病態に応じたストレス 係数は用いられておらず、ストレスの程度を飢餓、軽 度、中等度、高度に分類した程度のものが考慮されて いたにすぎない。ちなみに、いわゆるストレス係数とし て提示すると、飢餓の場合は1.0、軽度ストレスでは 1.3、中等度ストレスでは1.5、高度ストレスでは2.0、な どの数値が用いられていた。

【Long法の問題点】

 現在、本邦における栄養管理に関する成書や論文で は、Long法(図2)が一般的に推奨されている。もっと も理論的な計算方法であり、単純に体重あたり何kcal と計算する方法よりも正確であると認識されているよう である。しかし、この方法にはさまざまな問題がある。

❶Harris-Benedict equationによる  BEE計算の問題点

 このHBEは1918年に発表されたものである1)。性 別、年齢、身長、体重の4つの数値を入力することに よって基礎エネルギー消費量BEEを計算することが できる。計算式自体が非常に複雑であることを問題点 として指摘する向きもあるが、これは、パソコンや計 算機を用いることにより簡単に解決できる問題であろ う。筆者が問題点として指摘したいのは、まず、欧米人 のデータから求められた式であることである。人種に 図1 TNTテキスト  

英語版のものを示す。Harris-Benedict equation、活動係数と傷害係数を用いたエ ネルギー必要量の決定方法、エネルギー必要量の簡易計算方法が示されている。

(3)

たのであるが、残念ながら、HBEに代わる合理 的方法はまだ報告されていないのが現状である。

❷活動係数の問題点

 活動係数は、データとしては、1979年にLong CLら2)によって報告された、ベッド上安静

(confined to bed)が1.2、ベッド外の活動有(out of bed)が1.3と、極めて単純な分類しかなされて いないデータしかない。本邦で報告されているさま ざまな総説的論文に記載されている活動係数を 表1に示す。状態の表現もさまざまである。安静、

寝たきり(意識低下)、寝たきり(覚醒状態)、臥床、

ベッド上安静のみ、などの表現を、どう理解してど の数値を採用するべきか、という選択も問題であ る。また、これらの区別しにくい状態の表現に対する活動 係数としての数値もさまざまで、さらに数値に幅がある記 載も多いことに気づく。HBEで求めたBEEに、活動係数 として1をかける場合と1.2をかける場合では大きく数値 が異なることも重大な問題である。『ベッド上安静のみ』に 対しても1.0から1.2までの幅がある。ベッド上での動きを 判断して1.0から1.2の数値を選択することになるのである が、実際には、結局のところ、主観的に判断して数値を選 択することになる。さらに、考えておくべき内容は、これら の数値がどういう根拠で記載されているかであり、根本的 なデータは、Long CLらの1.2と1.3しか、データとして報 告されていないのである。

よってさまざまな代謝的な違いがあることも指摘されてい るので、欧米人のデータをそのまま本邦に適応するのには 問題があるとも考えられる。また、身長は151cmから 200cm、体重は25.0kgから124.9kgの範囲に限定され ているため、身長が151cm未満の場合には適用できない ことも問題であろう。最も重要な問題は、HBEの場合に はエネルギー消費量を過剰評価する傾向がある4)ことで ある。特に若年者ではBEEは過剰評価することになる傾 向がある。間接熱量測定法との比較において、HBEで求 めたBEEが過剰評価することになる、という見解は一般 的に認められている。また、より正確な計算式が求めら れ、BEEを推定するためのさまざまな検討が行われてき 図2 Long CLの論文  

Long CLの論文の、BMR 計算方法、Activity factorとInjury factorが記載されている 部分を示す。Activity factorは2つの場合、Injury factorは4つの場合のみが記載さ れているにすぎない。

資料 a 資料 b 資料 c 資料 d 資料 e 資料 f 資料 g TNT

安静 1

寝たきり(意識低下) 1 1

寝たきり(覚醒状態) 1.1 1.1

ベッド上安静のみ 1.2 1.2 1.0 ~1.2 1.2

ベッド以外での活動あり 1.3 1.3 ~1.4 1.3

ほとんど臥床していない 1.4

入院歩行 1.2 ~1.3

積極的なリハビリを受けている 1.5 以上

一般職業従事者 1.5 ~1.7

臥床 1.2

離床 1.3

歩行可能 1.2

歩行 1.2

自力歩行不可能 1.2

労働作業 1.3 ~1.8

軽度労働 1.4 1.3

中等度労働 1.6 1.4 ~1.5

重度労働 1.8 1.5 ~ 2.0

表1 活動係数 

(4)

資料 1 資料 2 資料 3 資料 4 資料 5 資料 6 資料 7 資料 8 資料 9 資料 10 Kinney Long ASPEN Barak TNT

慢性低栄養状態 0.6 ~1.0 0.6 ~ 0.8 0.85 1

飢餓 0.7

中等度の飢餓 0.75 ~1

術前および退院直前 1

術前(合併症なし) 1

手術後 ( 合併症あり) 1 ~1.05 1 ~1.1 1 1.1 1.2 1.05 ~1.15

手術後 ( 合併症なし) 1.25 ~1.40

小手術 1.00 ~1.10 1.1

大手術 1.2

定時手術 1.2

外科手術 1.2(中)~1.5(大)

軽度手術後 * 術後 3 日間 1.2 1.1

軽度侵襲 1.1

中等度手術後 * 術後 3 日間 1.4 1.2

中等度侵襲 1.2 ~1.4

高度手術後 * 術後 3 日間 1.6 1.8

臓器移植 1.2

高度侵襲 1.5 ~1.8

超高度手術後 * 術後 3 日間 1.8

腹膜炎 1.05 ~1.25 1.1 ~1.3 1.1 ~1.3 1.1 ~1.3

骨折 1.15 ~1.3

長管骨骨折 1.15 ~1.3 1.4 1.15 ~1.3 1.15 ~1.3 1.15 ~1.3

頭部外傷でステロイド投与中 1.6 1.6

ステロイド使用 1.6 ~1.7

内臓損傷を伴わない鈍的外傷 1.2 ~1.4

複合外傷:人工呼吸器使用 1.5 ~1.7

外傷 1.35

外傷:筋肉 1.25 ~1.5

外傷:頭部 1.6

閉鎖性頭部外傷 1.3

骨折 1.15 ~1.3

外傷(骨格) 1.35

外傷(鈍傷) 1.35

多発性外傷 1.3 ~1.55 1.2 ~1.4 1.2 ~1.4 1.4

重症外傷 1.35

1.1 ~1.3 1.10 ~1.30 1.10 ~1.30 1.1 ~1.45 1.1 ~1.3 1.2

白血病 / リンパ腫 1.25

COPD 1.1 ~1.3

褥瘡 1.2 ~1.6

炎症性腸疾患 1 1.05 ~1.1

膵炎 1.1 ~1.2

肝疾患 1 ~1.05

敗血症 1.10 ~1.30 1.1 ~1.3 1.20 ~1.25 1.6 1.20 ~1.40 1.3 ~1.35

感染症 1.25 ~1.45

感染症(軽度) 1.2 1.2 ~1.5 1.2

感染症(中等度) 1.5

感染症(重度) 1.5 1.5 ~1.8 1.6

高度感染症 1.3 ~1.55 1.2 ~1.4 1.6 1.20 ~1.40 1.2 ~1.4

多臓器不全症候群 1.2 ~1.4 1.20 ~1.40 1.20 ~1.40 1.2 ~1.4

臓器障害        1.2+1臓器に

つき0.2ずつup

熱傷(受傷面積 %) 1.2 ~ 2 1.20 ~ 2.00 1.20 ~ 2.00 1.2 ~ 2 1.50 ~ 2.00 2.1 2 1.6

 0 ~ 20% 1.0 ~1.5

       10% 1.25

       20% 1.5

 20 ~ 40% 1.5 ~1.85

表2 ストレス因子        *軽度手術:胆嚢・総胆管切除、乳房切除  *中等度手術:胃亜全摘、大腸切除  *高度手術:胃全摘、胆管切除          *超高度手術:膵頭十二指腸切除、肝切除、食道切除 

(5)

資料 1 資料 2 資料 3 資料 4 資料 5 資料 6 資料 7 資料 8 資料 9 資料 10 Kinney Long ASPEN Barak TNT

慢性低栄養状態 0.6 ~1.0 0.6 ~ 0.8 0.85 1

飢餓 0.7

中等度の飢餓 0.75 ~1

術前および退院直前 1

術前(合併症なし) 1

手術後 ( 合併症あり) 1 ~1.05 1 ~1.1 1 1.1 1.2 1.05 ~1.15

手術後 ( 合併症なし) 1.25 ~1.40

小手術 1.00 ~1.10 1.1

大手術 1.2

定時手術 1.2

外科手術 1.2(中)~1.5(大)

軽度手術後 * 術後 3 日間 1.2 1.1

軽度侵襲 1.1

中等度手術後 * 術後 3 日間 1.4 1.2

中等度侵襲 1.2 ~1.4

高度手術後 * 術後 3 日間 1.6 1.8

臓器移植 1.2

高度侵襲 1.5 ~1.8

超高度手術後 * 術後 3 日間 1.8

腹膜炎 1.05 ~1.25 1.1 ~1.3 1.1 ~1.3 1.1 ~1.3

骨折 1.15 ~1.3

長管骨骨折 1.15 ~1.3 1.4 1.15 ~1.3 1.15 ~1.3 1.15 ~1.3

頭部外傷でステロイド投与中 1.6 1.6

ステロイド使用 1.6 ~1.7

内臓損傷を伴わない鈍的外傷 1.2 ~1.4

複合外傷:人工呼吸器使用 1.5 ~1.7

外傷 1.35

外傷:筋肉 1.25 ~1.5

外傷:頭部 1.6

閉鎖性頭部外傷 1.3

骨折 1.15 ~1.3

外傷(骨格) 1.35

外傷(鈍傷) 1.35

多発性外傷 1.3 ~1.55 1.2 ~1.4 1.2 ~1.4 1.4

重症外傷 1.35

1.1 ~1.3 1.10 ~1.30 1.10 ~1.30 1.1 ~1.45 1.1 ~1.3 1.2

白血病 / リンパ腫 1.25

COPD 1.1 ~1.3

褥瘡 1.2 ~1.6

炎症性腸疾患 1 1.05 ~1.1

膵炎 1.1 ~1.2

肝疾患 1 ~1.05

敗血症 1.10 ~1.30 1.1 ~1.3 1.20 ~1.25 1.6 1.20 ~1.40 1.3 ~1.35

感染症 1.25 ~1.45

感染症(軽度) 1.2 1.2 ~1.5 1.2

感染症(中等度) 1.5

感染症(重度) 1.5 1.5 ~1.8 1.6

高度感染症 1.3 ~1.55 1.2 ~1.4 1.6 1.20 ~1.40 1.2 ~1.4

多臓器不全症候群 1.2 ~1.4 1.20 ~1.40 1.20 ~1.40 1.2 ~1.4

臓器障害        1.2+1臓器に

つき0.2ずつup

熱傷(受傷面積 %) 1.2 ~ 2 1.20 ~ 2.00 1.20 ~ 2.00 1.2 ~ 2 1.50 ~ 2.00 2.1 2 1.6

 0 ~ 20% 1.0 ~1.5

       10% 1.25

       20% 1.5

 20 ~ 40% 1.5 ~1.85

表2 ストレス因子        *軽度手術:胆嚢・総胆管切除、乳房切除  *中等度手術:胃亜全摘、大腸切除  *高度手術:胃全摘、胆管切除          *超高度手術:膵頭十二指腸切除、肝切除、食道切除  ❸ストレス係数の問題点

 ストレス係数は、基本的にはLong CLらの報告に 基づいている。1968年のKinney JMら5)の報告の 後に、同グループで研究していたLong CLらが報告し ているのであるが、Barak Nら6)の報告は過去の測定 結果の報告7)8)をまとめて記載している。本邦で報告さ れているさまざまなマニュアル的な論文に記載されて いるストレス係数をリストアップして表2に示す。Long CLらの論文から派生してこれだけの状態、数値が生 みだされているということは驚きでもある。具体的に、

こういう研究結果を基にこれらの数値がデータとして 存在する、というものではなく、ある論文を参照し、そ れに著者達が色づけして新しい数値として出されてい る、としか判断できない。これは、学術的な数値ではな いと言わざるをえなく、これらの数値が信頼できるもの ではない、と言わざるをえない。

❹Long法使用上の問題点

 Long法は広く用いられるようになってきており、

NST活動が、通常の栄養管理よりもレベルアップして いる、詳細な検討を行って栄養管理を実施している、と いうことを示すツールとして用いられている。すなわち、

病棟で主治医が計算するエネルギー投与量が体重あた り何kcalというものであるのに対し、NSTに依頼すれ ば、複雑な計算式であるHBEでBEEを求め、患者の 活動度を判定して活動係数を決定し、ストレスの状態を 判断してストレス係数を決めて計算する、という、あたか もハイレベルの活動をする、という雰囲気が醸し出され ている。それを、さらにレベルアップするため、活動係数 もさまざまな状況での数値が創作され、ストレス係数に おいても同様の操作がなされてきたものと考える。しか し、そこに本来の学問的な根拠が認められないのであ れば、それは重大な問題であると考えるべきではないで あろうか。また、Long法の場合、さまざまな数値を掛け 合わせるので、非常に客観的な計算方法であると考え られているが、仮にこれらの数値を信頼するとしても、

現在のLong法の活用状況としては主観的な方法と なっている。すなわち、活動係数にどの数値を選択する のか、ストレス係数としてどの数値を選択するのか、とい うことは、主治医あるいはNSTメンバーの主観によって 決まることになる、と言う点にも注意が必要である。

(6)

と考えるからである。生活上の活動度として身体活動レベ ル(physical activity level:PAL)10)が総エネルギー必要 量の計算に用いられているが、これは、普通に活動して食 事を摂取している健康人に対する考え方であり、病院内 で栄養管理を行っている症例に対して活動状況を勘案す ることの意義は小さいと考えている。日本人の生活活動強 度による区分も、同様に考えている。また、現在、われわれ が使用している経腸栄養剤や輸液製剤は、規格が決まっ ている。24時間持続投与する場合は、5mL/時の単位で 投与速度を変更しても、120mL/日あるいは120kcal/日 程度の差が出てくる。経腸栄養剤も同様で、これらの差が 体重あたりで計算しても5kcal/kg/日程度以内ではある が、差として出現してくる。従って、ある程度の幅をもって エネルギー投与量を決定していることになる。

 この考え方で基本投与量を決定し、その後、栄養治療 効果を厳重に観察することが最も重要な点である。最初 に決定した投与量で、その後の栄養管理が安心して実施 できるかというと、それはむずかしいと言わざるを得な い。経過を観察しながら治療効果を判定し、適宜、微調整 をしていくところに栄養管理の真髄があるのではないで あろうか。

 また、例えばTPN施行症例において、TPN開始後に 肝機能障害が発生した場合、投与量が多すぎたのではな いか、という判断をくだす必要がある。この場合、通常は 体重当たりの投与量で判断することになるので、こういう 意味でも、体重当たりの投与量として考えることの方が臨 床的には有用であるのではないかと考える。さらに、きめ 細かな栄養管理を行うには、エネルギー投与量を決める

【必要エネルギー量の算定−ストレス係数

・活動係数は考慮すべきか?−】

 Long法は、必要エネルギー量算定の方法として、理論 的には正しいと考えている。必要エネルギー量を算定する には、『基礎エネルギー消費量を測定/計算し、活動度と ストレスの状態を判断すべきである』という理論を説明す る上で、極めて有用であることは間違いない。しかし、そ の数値自体に問題があることは、極めて重大な問題であ る。また、信頼性の低い3つの数値を掛け合わせて計算す る方法であるため、この点でもLong法の信頼性は低いと いわざるを得ない。現在の段階では、Long法を必要エネ ルギー算定の標準的方法と認めるには問題がある、とい うのが筆者の考えである。

 以下、筆者がどのように考えて、実際の臨床の場で必要 エネルギー量を算定、あるいは決定・変更しているかにつ いて述べる9)

 基本的に、ストレスのない状態では、25 ~ 30kcal/

kg/日を基準としてエネルギー投与量を決定している。こ の数値を考える時に、ストレスの状態を考慮しているの で、結果的に、ストレス係数をある程度加味している、とい うことになると思われる。すなわち、ストレスがない状態、

栄養摂取障害による、いわゆる単純な栄養障害の場合に は20~25kcal/kg/日を用いているし、ストレスがかかっ ている状態では、30 ~ 35kcal/kg/日という数値を用い ている。活動係数は、ある意味、無視しているが、それは、

入院中の症例では、活動することを目的としているのでは なく、必要な時以外はベッド上で臥床していることが多い

資料 1 資料 2 資料 3 資料 4 資料 5 資料 6 資料 7 資料 8 資料 9 資料 10 Kinney Long ASPEN Barak   TNT 

       30% 1.7

       40% 1.85 1.5 1.5

  40 ~100% 1.85 ~ 2.05 2.1

       50% 2 1.95

60 ~100% 2.1

       100% 2

体温 1.0℃上昇で 1.0℃上昇で

0.2 ずつ up 0.1ずつup

37℃ 1.2

38℃ 1.4

39℃ 1.6

40℃以上 1.8

発熱< 37.8℃ 1.2 ~1.21

発熱> 37.8℃ 1.41~1.47

(7)

だけでなく、栄養障害の程度によってはカロリーアップの タイミングを調節したり、低たんぱく血症が高度の場合に はNPC/N比を下げてたんぱく質投与量を増やしたりす る、などの微調整をしていくことも重要である。単純にキッ ト製品を用いた栄養管理しかできないようでは、本物の 栄養管理もできていないことになるであろう。

参考文献

1) Harris JA, Benedict FG. A biometric study of human basal metabolism. Proc Natl Acad Sci USA 4(12):

370-373,1918.

2) Long CL, Schaffel N, Geiger JW, et al.Metabolic response to injury and illness: estimation of energy and protein needs from indirect calorimetry and nitrogen balance. JPEN 1979;3:452-456,1979.

3) 井上善文、小越章平.TNTプロジェクトとその活動状況.静脈経腸栄養17:49-58,2002.

4) Daly JM, Heymsfield SB, Head CA, et al.Human energy requirements: overestimation by widely used prediction equation. Am J Clin Nutr42:1170-1174,1985.

5) Kinney JM, Long CL, Gump FE, et al. Tissue composition of weight loss in surgical patients.I. Elective operation. Ann Surg168:459-474,1968.

6) Barak N, Wall-Alonso E, Sitrin MD. Evaluation of stress factors and body weight adjustments currently used to estimate energy expenditure in hospitalized patients. JPEN 26:231-238, 2002.

7) Knox LS, Crosby LO, Feurer ID, et al. Energy expenditure in malnourished cancer patients. Ann Surg 197:152-163,1983.

8) Hyltander A, Drott C, Korner U, et al. Elevated energy expenditure in cancer patients with solid tumors.

Eur J Cancer 27:9-15,1991.

9) 井上善文.栄養素投与量の決定(処方作成の実際).日本静脈経腸栄養学会編.コメディカルのための静脈経腸栄養ハン ドブック.南江堂、東京、2008、pp155-161.

10) Westerterp KR. Impacts of vigorous and non-vigorous activity on daily energy expenditure. Proc Nutr Soc 62:645-650,2003

資料 1 資料 2 資料 3 資料 4 資料 5 資料 6 資料 7 資料 8 資料 9 資料 10 Kinney Long ASPEN Barak   TNT 

       30% 1.7

       40% 1.85 1.5 1.5

  40 ~100% 1.85 ~ 2.05 2.1

       50% 2 1.95

60 ~100% 2.1

       100% 2

体温 1.0℃上昇で 1.0℃上昇で

0.2 ずつ up 0.1ずつup

37℃ 1.2

38℃ 1.4

39℃ 1.6

40℃以上 1.8

発熱< 37.8℃ 1.2 ~1.21

発熱> 37.8℃ 1.41~1.47

【おわりに】

 Long法はエネルギー投与量の算定方法として理論 的には正しいであろう。しかし、HBE、活動係数、スト レス係数のどれにもさまざまな問題があるため、この 方法を標準的方法として認めるには、これらの問題を 解決しなければならない。筆者は、実際の臨床では25

~ 30kcal/kg/日を基本投与量として計算し、ストレス の状態に応じて投与量を加減し、その後の栄養治療効 果を厳重に観察して投与量の微調整を行っている。こ こに、ある意味、臨床的な『経験』と『勘』が生きていると 言えるのかもしれない。

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