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子 どもの権利

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第66巻  第 2号 ,2007(167〜 170)

教育講演 2

子 どもの権利

は じ め に

人権 とは生 まれなが らに して人 に備 わってい る ものであるが,こ の人権 は18世紀 の欧米 の革 命 時 に ようや く 「発見」 された もの,と されて い る。発見後,人 は少 しずつそれ を育てて来た が,当 初 ,法 的な人権 の享有主体 は白人成人男 性 に限定 されてお り,奴 隷や女性,子 どもの権 利が誕生 す るの は20世紀 まで待 たなければな ら なか った。 これ らの権利 の成立が遅れ たの は, 特 に女性 や子 どもは,男 性 や親 に よる保護の対 象 と観念づ け られ,保 護の客体 と権利 の主体 は 両立 しない と考 え られて きたか らであ る。その 後,女 性 は保護 を超 えて権利 を主張 し,今 や一 人の人間 として権利 を行使す る人権 の主体 であ るこ とに異議 を唱 える者 はいない。 これに対 し て子 どもの権利 の主体性 については:今 で も議 論 な しに承認 されてい るわけではない。 なぜ な ら,子 どもは未成熟であ り,保 護 と権利 の両立 を どの ように とらえるべ きかについて,解 明 さ れ ない議論が続 いているか らである。

本稿 で は,子 どもとは何 であるのか を明 らか に してい くことで,子 どもの保護 と権利 の両立 について考 え,さ らに1989年に国連で採択 され た 「子 ど もの権利条約」 を素材 として,日 本 の 子 どもの権利状況 を検討 してい きたい。

I.子 どもの定義

子 どもとは何 か について,学 説上次の考 え方 が示 され てい るD。 それ は一つ に,子 どもは人 間である, ということである。 したがって子 ど もも,戦 後初めてわが国に人権をもたらした日

子 ( 山梨大学教育人間科学書6 )

本 国憲法で定める基本的 な権利 の享有主体 であ る と言 える:

次 に,子 どもは子 どもである。 しか し,過 去 の歴史の中では,子 どもは小 さな大人 と観念 さ れていた時代があ り,子 どもは安い労働力 とみ な され,教 育 の機会 も与 え られてい なか った。

不幸 な こ とに現代 で もまだその ような観念 を持 つ 国 も存在 しているため,「子 どもの権利条約」

は,必 要 な医療や保健サー ビス を利用す る権利 の確保,初 等教育の義務化,経 済的搾取お よび 有害労働 か らの保護 を締約 国に求め子 ども特有 の権利 を盛 り込 んでいる。

そ して,子 どもとは成長 ・発達 し,や がて大 人 になる存在 である。 したが って,子 どもには 成長発達権が必要であるこ とが 「子 どもの権利 条約」 で明 らか に された。子 どもが成長 ・発 達 で きるために必要 な ものは,社 会生活 において 子 どもがイ国人 と して尊重 され,子 どもが人 間 と して無視 され ない こ とであ る。 そのため には, 子 どもに意見 を表明す る権利が与 え られなけれ ばな らない。子 どもの意見表明権 を定め る 「子 どもの権利条約」第12条が,当 条約 の最重要 な 条文の一つ とされ る所 以であ る。

しか しここで,子 どもの権利 と子 どもの 自己 決定権 とを結 びつけて考 えるべ きではない こと を指摘 しておかなければな らない。 自己決定権 という権利は非常に高度なものであ り,大 人で さえ自分が どのような進路を取るべ きなのか, どのような治療 をすべ きかあるいはしないの か,常 に迷い失敗 しながら選択 して生活 してい る。人が自己決定時に躊躇を伴 うのは,そ の責 任 も自分で負わなければならないからである。

山梨大学教育人間科学部   〒 4 0 0 ‑ 8 5 1 0 山梨県 甲府市武 田4 ‑ 4 ‑ 3 7 Teli 055‑220‑8004  Fax:055=220‑8024

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なお , 大 人 は 自己決 定 を必 ず しも一 人 で行 って い るわ けで は ない。他 者 と語 らい,専 門家 の意 見 を聞 きなが ら,   さ ま ざ まな プ ロセス を経 て行 い,時 には人 に選んで もらうこともあるであろ う。 自己決定 は人間 にす ぐに備 わる能力 ではな く,育 て られてい くものなのである。 したが っ て,そ の重 い権利 を,ま してや 自らの思いや考 えに耳 を傾 け られていない子 どもに与 えさえす れば,子 どもの権利 を尊重 したことになる, と い うのは大 きな誤解 である。子 どもは子 どもで あ り,成 長発達段 階 にある とい う定義か ら考 え る と,子 どもには 自己決定権 自体 ではな く,そ れがで きる大人 に成長す るために意見表明権 が 与 え られ るこ とこそが重要 なのである。子 ども には一 人 で放 り出 され る 自己決定権 ではな く, 自らの思 い を無視 されず,そ の叫 びを聞いて も らう,話 し合 いのテーブルにつ くとい う権利が 必要 なのである。

Ⅱ.日 本 にお ける 「子 どもの権利条約」 の意義

「子 どもの権利条約」 は1989年に国連で採択 され,日 本 は1994年に158番目の批准 国 となっ た。 日本政府 は当初 , これは主 に第三諸 国にお ける子 どもの生存的権利 を保障す るための権利 を定めている もの と認識 していたために,批 准 が遅れた。 しか し,本 条約 はその ような物理的 な権 利保 障 だ け を 目的 と していた わけで は な い。子 どもの意見表明権が この条約の精神的権 利 の最重 要規 定 とい うこ とか らも分 か る とお り,こ の条約 は子 どもが人 として脇 に追いや ら れず,無 視 されない存在 であることを保障す る もの で あ る。 そ して ま さに,精 神 的 に抑圧 さ れ,声 を奪 われている 日本の子 ども達 に対 して こそ,こ の保障は必要 な ものである。

Ⅲ.国 連 が認定 した 日本の子 どもの状況 本条約 は,批 准 した締約 国が この条約 を遵守 してい るか,あ るいは 自国で広報活動 を通 して 権利 の確保 に努 めてい るか を国連 で定期 的に審 査す ることをその条文で義務づ けている。審査 す るのは世界各 国か ら選 出 された18名の権利委 員 であ り,締 約 国は批准後 2年 以内,そ の後 は 5年 ご とに この権 利 委 員会 に国内状 況 を報 告 し,審 査 を受 けなければな らない。そ して国連

小 児 保 健 研 究 の委員会 は審査 した所見 を述べ,勧告書 を出す。

日本 はこれ まで 2回 審査 を受け,1998年 と2004 年 に勧告 を出 されてい る。 国連 の委員が世界的 に普遍的な権利 に鑑 みて,日 本の子 どもをどの ように見ているか,そ の勧告書 を読むことで 日 本の子 どもを巡る状況 を見ていこう。

権利委員会はこれまでに特に次の事実を把握 している。

① 子 ども達が高度に競争的な教育制度のス トレスにさらされ,そ の結果 として余暇, 運動,休 息の時間が欠如 していることによ

り発達障害にさらされている0。

② 青少年の間にス トレスや鬱 を含 む精神的 感情的障害が多 く見 られるめ。

③ 若者の自殺率が高い水準 にある°。

まず委員会は,日 本において学歴偏重社会が 存在 していることを踏まえ,そ れを懸念 してい る。良い学校へ行 って良い大学 を出て良い就職 をするというレールのうえで,子 ども達が喘い でいることは,今 や世界 も認める周知の事実で ある。現代のこの重圧 に耐 えきれず非行 を起 こ した り,親 を殺 した り,あ るいは友達 をい じめ た り,自 殺 をした りする子 ども達が後 を絶たな い。競争的な過度のス トレスがそれ らの原因の 一つ となっていることが指摘できる。

④ 学校 における暴力の頻度お よび程度,特 に体罰が幅広 く行われていること,お よび 生徒間のい じめの事例が多数存在する9。

⑤ 児童虐待の予防に関 し包括的かつ多分野 に亘 った戦略が欠如 し,訴追件数が少数で あるの。

体罰は法律 において禁止 されているにも拘 わ らず,教 育, しつけという名の下に,子 ども達 は家庭で も学校で も依然 として暴力にさらされ ている。止むことのない学校 における生徒間の い じめや権利侵害 と大人による心身の暴力 との 因果関係 を明 らかに していか なければな らな い。 日本国はその防止プログラムを考案するよ う,権 利委員会か ら第 1回 目の審査で勧告され ているが, 2回 目の審査で も十分にフォローさ れていないことが指摘 され,再 度勧告 を出され ている。

⑥ 法制度が婚外子を差別 し, 女 児, 障 害の ある児童, ア メラジアン, 韓 国 ・朝鮮人,

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66曜塞  角自21計, 2007

被差 別部落民 ,ア イヌや他の少数民族の子 どもお よび移民労働者の子 どもに対す る社 会 的差別が現存 してい るつ。

婚姻夕れこ生 まれた子 どもは法律上,相 続分が 差別 されている。 この非嫡 出子差別 は長年裁判 で違憲の主張が繰 り返 されて きたが,最 高裁判 所 は合憲判決 を出 し,民 法 も改正 されるに至 っ ていない。当条約批准後,諸 外 国が早 々に同様 の立法 を改正 しているの と反 して,わ が国の政 府 の無関心 さは何 に起 因 してい るのか民法学者 の間において も理解不可能である。法律 が この ような無 関心 さを示すために,社 会 的な差別が 解消 され ないの も無理 はない。

しか し問題であるのは, これ らの窮状が子 ど もの日か ら直接語 られていない とい うことであ る。あるいは,社 会が子 どもの声 に耳 を貸 して い ない, とい うことである。

Ⅳ.子 どもの権利保 障に必要 なもの

ある研 究者 は,意 見表明権 とは 「一人の人間 主体 として尊重 され,ひ と りぼっちになるので はな く,人 間関係 を形成 し,そ の ままで認めあ える人間関係 を通 して,今 の 自分 を生 き,成 長 発 達す る こ とを実現 す る権 利0」 で あ る と解釈 してい るが,特 に 日本の子 どもの権利保障 に必 要 な もの は,「子 どもの権利 条約 」12条が定 め る意見表明権 である。そ して,国 連 の子 どもの 権利委員会 は,2004年 の勧告書 のなかで,子 ど もの意見 表 明 につ い て次 の よ うに勧 告 してい る。

「依然 として子 どもに対す る社会 の旧来の指 摘 に よって,彼 らの意見の尊重が,家 庭 ,学 校 , その他の施設,そ して社会全体 において制限 さ れてい る。委員会 は,締 約 国に対 し,条 約12条 に鑑み,

(a)子 どもの意見 の尊重 を促進 し,家 庭,裁 判所 ,行 政組織,施 設お よび学校 において, 子 どもに影響 を及 ぼすすべ ての事項 や政策 策 定へ の子 ど もの参加 を円滑 にす る こ と, また子 どもが この権利 を認識す るよう確保 す る こ と,

( b ) 子 どもの意見 の尊重 に関す る子 どもの権 利 お よび子 どもに影響 を及 ぼす事項へ の子 どもの参加 についての教育面 の情報 を特 に

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親 , 教 育者, 政 府職員, 司 法官, そ して社 会全体 に提供す ること,

( C ) 子 どもの意見が どの程度 政策 に反映 され てい るか,お よび政策や計画,そ して子 ど も自身へ の影響 について定期 的に検証す る こと,

( d ) 子 ど もが学校 お よびそ の他 の教 育機 関, 余暇 その他 の子 どもの活動 のための施設 に お ける施策 を決定す る理事会,委 員会,お

よびその他 の集 団に定期 的に参加す るこ と を確保す ること,を 勧告す る"。」

具体 的 に検討 してい こう。学校 の中は, あ た か も自分 の欲求 を殺 し,意 見 を表明で きない よ うに訓練 され,育 てる場 と化 しつつあるЮ)と指 摘 されている通 り,な かで も厳 しい校則 により 子 どもの声が奪われている。なぜその ような校 則が必要なのか,説 明 もないまま,子 どもの意 見 も聞かないまま,ただ押 しつけているJ大況は, おそ らく子 どもたちを支配するための道具 とし ての役 目を呆た しているのであろう。子 どもの 進学について も,成 績により振 り分けられてい るのが現状であ り,家 庭で も進路について十分 に子 どもの意思が表明されているだろうか。 ま た,い 、じめが問題 となっている昨今,子 どもは そのい じめを誰かに相談すべ きとする主張が よ くなされているが,子 どもが 自らのことを語る 訓練,あ るいは主張する場が これまで与えられ てきたであろうか。 また,そ れに耳 を傾けるべ き教員や親の間にどれほど子 どもとの関係性 を 築いている者がいるであろうか。

司法においては,親 が離婚する場合や児童虐 待の場合,子 どもの意思や証言が無視 されては ならない。 しか し,子 どもの年齢によつてはそ の聴 き方にも注意が必要であ り,短 絡的かつ直 接的な意見聴取 により子 どもが親 を選ぶ とい う 負担 を課すべ きではない とされてお り,諸 外国 では子 どもの行動学,心 理学 に精通 している専 門家が間接的な方法 を用いて,子 どもの意思 を 観察,調 査することが求め られていた り,弁 護 士 などの代理人が子 どもの意思 も含めて子 ども の法的利益 を代理するよう,す でに司法の中で 工夫 を行 っているm。 ゎが国で も早急な工夫 と 行動が必要である。

少年司法においては特 に発言 し,主 張 したい

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ことが多 くあるのではなかろうか。少年非行の なかには,社 会や大人か らの抑圧 により言葉 を 奪われたが故 に,言 葉 による主張の代わ りに, 行動 よって示 した事件が多 く見受けられる。 し たがってこの とき子 どもには,子 どもの側 に立 つ代理人を通 して適切に意見が聞かれる権利が 必要である。

医療についてはどうであろうか。基本的に親 が子 どもの利益 を代理すると推定 されてお り, 親が子 どもの医療 を決定する場合が多いが,親 の決定が子 どもの意見,あ るいは利益 に反する 場合は想定 されているであろうか。特に宗教が 関わる場合は問題である。また,勧 告では,「18 歳未満の子 どもが,親 の同意なしで も医学的カ ウンセ リングや情報にアクセスで きる方法制度 を改正すること②」 と指摘 されてお り,こ れに ついて諸外国ではすでに制度が構築 され始めて いる。わが国の医学会ではどのような議論がな されているであろうかЮ)。

V . さ い ご に

従来,「権利 を与 えることは責任 も与 えるこ とである」 という定義の もと,子 どもに権利 を 与えることを控 え,あ るいは権利の対価 として 責任 を負わせることが議論 されていた。 しか し もはやそのような一元的な議論か らは脱却すべ き時期 を迎えている。子 どもとは何か, という 議論の中か らは,子 どもを大人 と同一視すべ き ではな く,権 利 と責任 をセ ッ トで考えるべ きで はないことが導かれるはずである。また,権 利 の内容 を考察することで,責 任 を伴った自己決 定権 とい う権利ではな く,関 係性の中か ら醸成 される意見表明権 こそが子 どもに求められてい るとい うことが分かる。このように,子 どもの

小 児 保 健 研 究

権 利 を考 え る に あ た っ て は,子 ど も とは何 か, 権 利 とは何 か につ い て ,あ るい は この社 会 にお ける子 どもの現状 とは如何なるものか,と いう ところか ら検証する必要があろう。そ してこの 議論は法律 ひとりだけではな く,学 際的な研究 が重要であ り,か つ社会が一体 となって進めて い くことが求め られている。

1 ) 堀 尾輝久 「「子 ども」の発見 と子 どもの権利― 人 権 思 想 の 流 れ の な か で 」 三 上 昭 彦 他 編 『子 ど もの権利 条約実践 ハ ン ドブ ック』 ( 労働 旬報社 , 1995年 )10頁 .

CRC/C/15/Add.90,22(1998).

CRC/C/15/Add.231,45(2004) Id., at 47.

CRC/C/15/Add.90,24(1998).

CRC/C/15/Add.231,37(2004).

CRC/C/15/Add.231,24(2004)

福 田雅 章 「人 間の尊厳 の権利化」 『日本 の社会文 化構 造 と人権』 ( 明石書店, 2 0 0 2 年 ) 5 3 頁 。 CRC/C/15/Add.231,27(2004).

福 田 。前掲注51頁

山 口亮子 「アメ リカにお ける子 どもの代 理人制 度― 監 護権 訴 訟 と子 ど もの保 護 手 続 の場 合― 」 判例 タイムズ1208号 (2006年)33頁

CRC/C/15/Add.231,46(b)(2004)

「国立大学付属病院における診療情報の提供等 に 関す る指針 ( ガイ ドライ ン) 第 2 版 」 ( 平成1 8 年 1 月 ) で は, 診 療記録 の開示者 と して, 「満1 5 歳 以上 の未成年者 につ いて は, 疾 病 の内容 に よっ て は患者本人のみの請求 を認め るこ とがで きる」

と してお り, 評 価 で きる。

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