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氏 名 ( 本 籍 )
ちゃん黎
り(中国)
学 位 の 種 類 博士(国際文化学)
学 位 記 番 号 甲 国第 9 号 学 位 授 与 年 月 日 令和 2 年 3 月 19 日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第 4 条第 1 項
論 文 題 目 中 国 語 と 日 本 語 の 流 行 語 に 見 ら れ る 文 法 的 バ リ エ ー シ ョ ン に 関 する対照研究
論 文 審 査 委 員 主査 戦 慶勝 教授
副査 大西 智和 教授
副査 外薗 幸一 鹿児島国際大学名誉教授
博士(国際文化学)鹿児島国際大学 博士(文学)九州大学
博士(文学)九州大学
内容の要旨
張黎氏は大連外国語大学日本語学院の事務職員である。2010年大連外国語大学修 士課程を修了し、2016年9月鹿児島国際大学大学院国際文化研究科博士後期課程に入 学した。修士論文では社会言語学の観点から日本語の流行語と中国語の流行語の対照研究 を行ったが、多くの課題を残した。本学の博士後期課程に入学した後、改めて修士論文の 内容を精査し研究範囲を絞り、研究テーマを『中国語と日本語の流行語に見られる文法的 バリエーションに関する対照研究』に換えた。
本論文は従来の研究の問題点を洗い出して高度の対照言語学知識に基づいて独創 的な 研究成果を出している。鹿児島国際大学大学院国際文化研究科博士後期課程に在学中、2 篇の査読付き論文を公表し、数回の学会報告を行っている。今回提出した博士学位申請論 文はそれまでの研究業績を踏まえて作成したものである。
流行語に関する従来の研究は社会言語学の観点から文化や社会との関わりで見るもの が多い。しかし、第二言語習得の観点から見れば、社会言語学の観点だけでは流行語の意 味・用法を明らかにすることができない。本論文は中国語の流行語としての“山寨”“ 蜗 居”“光 盘”“二代”“达人”“纠结”“ 卖萌”“断舍离”“裸”“亲 ”“高富帅”“忐忑”“任 性”“雷”“奇葩”“帝”“控”“微”“被就业 ”と、日本語の流行語としての「大食い」「爆買 い」「壁ドン」「政権交代」「イナバウアー」「神ってる」「サプライズ」「アラフォー」「エロカ ッコイイ」「パラパラ」「なう」「ちょいモテオヤジ」などを研究の対象とし、文法的バリ エーションの立場からそれぞれの意味・用法を明らかにしたものである。
中国語の“山寨”“ 蜗居”“光盘”“二代”“达人”“ 纠结”“卖 萌”“断舍离”“裸”“亲”
“高富帅”“忐忑”“任性”、及び日本語の「大食い」「爆買い」「壁ド ン」「政権交代」「イナバウ
アー」「神ってる」「サプライズ」「アラフォー」「エロカッコイイ」「パラパラ」は統語的バ
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リエーションや意味的バリエーションのもたらした結果であることには間違いない。しか し、なぜそのようなバリエーションが可能になったかについては、語彙論の観点だけでは なく、統語論や意味論の観点から考察する必要もある。
統語論の観点から見れば、中国語の“山寨”“蜗居”“光 盘”“二代”“达人”“纠结”
“卖萌”“断舍离”“裸”“ 亲”“高富帅”“忐忑”“任性”、及び日本語の「大食い」「爆買い」
「壁ドン」「政権交代」「イナバウアー」「神ってる」「サプライズ」「アラフォー」「エロカッコ イイ」「パラパラ」は品詞の脱カテゴリー化現象がもたらした結果であり、意味論の観点 から見れば、これらのものはもとの意味カテゴリーを逸脱したものである。
一方、中国語の“雷”“奇葩”“帝”“控”“微”“被就业”及び日本語の「なう」「ちょ いモテオヤジ」における「ちょい」の文法的バリエーションは品詞の脱カテゴリー化や意 味派生を通して実現したものである。つまり、中国語の流行語は品詞の脱カテゴリー化現 象によって文法的バリエーションを増やし、これと同様に、日本語の流行語も品詞の脱カ テゴリー化現象によって文法的バリエーションを増やしたのである。
しかし、文法的バリエーションを持つプロセスにおいて、中国語の流行語と日本語の 流行語との間に相違点がある。例えば、“雷”“山寨”“ 蜗居”“光 盘”“奇葩”のような名 詞としての中国語の流行語は、ほかの語とのインタラクティブな関係によって文法的バリ エーションを増やしているのに対して、「大食い」「爆買い」「壁ドン」「政権交代」「イナバウ アー」「神ってる」「サプライズ」「アラフォー」のような名詞としての日本語の流行語は語形 変化という語構成上のバリエーションによって文法的バリエーションを増やしているので ある。
また、中国語における流行語には、動詞(“纠结”“ 卖萌”“断舍离”“裸”“控”)の脱 カテゴリー化現象が見られるのに対して、日本語における流行語は、動詞の意味・機能か ら逸脱して他の品詞の意味・機能を果たすことはできない。日本語の場合は、文法規則に 反することによって、副詞(「パラパラ」「ちょいモテオヤジ」における「ちょい」)の脱 カテゴリー化を実現するのである。しかし、中国語の場合は副詞の脱カテゴリー化現象が あまり見られていない。
本論文は中国語の流行語と日本語の流行語に具体的にどのような相違点が見られるか について体系的に考察したものである。この論文は主に次の 4 つの問題について答えを導 き出すことを目的としている。
① 中国語の流行語はどのような文法的バリエーションを有しているのか。文法的バ リエーションを実現した流行語はどのような構造的特徴を持っているか。
② 日本語の流行語はどのような文法的バリエーションを有しているのか。文法的バ リエーションをもたらした流行語はどのような構造的特徴を持っているか。
③ 中国語の流行語と日本語の流行語は文法的バリエーションを実現する上でどのよ
うな相違点を持っているのか。中国語の流行語とそれにあたる日本語の表現はど
のような対応・非対応の関係を有しているのか。
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④ 中国語の流行語と日本語の流行語の類似点や相違点は第二言語の習得にどのよう な影響を与える可能性があるのか。
本論文では第 3 の問題と第 4 の問題に答えるために、まず中国語の流行語と日本語の流 行語ではそれぞれどのように文法的バリエーションを増やしているか、どのように新たな 統語的・意味的役割を果たしているかについて、大量の用例に基づいて説明した。そのよ うな研究の結果を踏まえて中国語と日本語における流行語に見られる文法的バリエーショ ンの在り方を解明し言語研究の新たな可能性を示唆した。
本論文は序章と終章を含めて 8 章からなっている。第 1 章ではいくつかの用語につい て検討し、自分の立場を明確にした。第 2 章から第 6 章までの議論で、中国語の流行語と 日本語の流行語について、文法的バリエーションの観点からそれぞれの意味的特徴や統語 的特徴を記述した。そのような記述に基づいて両言語における流行語がどのような対応・
非対応の関係を持っているか、その内実を明らかにし、終章では研究の意義についてまと めた。第 2 章から第 6 章までの議論の言語学的意義は次のようにまとめられる。
① 中国語における流行語の名詞はほかの語とのインタラクティブな関係によって文 法的バリエーションを増やしているのに対して、日本語における流行語の名詞は 語構成上の語形変化によって文法的バリエーションを増やしている。
② 中国語の流行語においては、動詞の脱カテゴリー化現象が見られるのに対して、
日本語の流行語においては、動詞から逸脱して他の品詞の意味・機能を果たす現 象はない。一方、日本語の場合は、文法規則に反することによって、副詞の脱カ テゴリー化現象が見られる。それに対して、中国語の場合は副詞の脱カテゴリー 化現象が見られていない。
流行語は日常の言語生活において頻繁に使われるものである。中国語母語話者の日本語 学習者や日本語母語話者の中国語学習者がどのように流行語の意味・機能を把握するかと いうことは学習の効率や学習の効果に影響を与えるものである。第 2 章から第 6 章の第二 言語教育学的意義は次のようにまとめられる。
③ 名詞の脱カテゴリー化現象を持つ“雷”“奇葩”と日本語の「おかしい」は対 応 の関係にある。ただし、「ある人、物や事情の性質や状態が通常の範囲を超えて いるさまに対する客観的な説明」という意味を表す場合は、日本語の「おかし い」とは非対応の関係にある。
④ 中国語の“帝”は「ある分野あるいはある事に関して精通する人」という意味を 表す場合、日本語の「達人」と対応し、そのまま日本語の「帝」で置き換えるこ とができない。また、「具体的な人あるいは物を指す」という意味カテゴリーで あれば、「帝」とも「達人」とも対応しない。
⑤ 後置型の流行語としての“控”は人を指す名詞に後続する場合、日本語の「コン」
と対応し、物事を指す名詞に後続する場合、日本語の「依存症」「中毒」などと対
応する。一方、前置型の流行語表現としての“控”の意味は日本語の「~が
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(大)好きである」「~に夢中になる/夢中である」と対応している。しかし、統 語的機能は「コン」「依存症」「中毒」「~が (大)好きである」「~に夢中になる/
夢中である」とは対応しない。
⑥形容詞の形態素化現象としての“微”は「程度に関わる細かくてわずかでかすかな こと」という意味を表す場合、日本語の「 微」「ちょい」と対応し、「小」とは対応 しない。また「量、規模や時間に関わる短くて小さいこと」という意味を表す場合 は、「小」「ちょい」と対応し、「微」とは対応しない。一方、日本語の「小」は、
「量、規模や時間に関わる短くて小さいこと」という意味を表す場合、中国語の
“微”“小”と対応関係にあるが、「物の体積や面積などに関わる小さいこと」とい う意味を表す場合、“微”とは非対応関係にある。
⑥ 中国語の流行語としての“被就业 ”における受身マーカーとしての“被”は日本 語の受け身表現のマーカーとは非対応関係にある。
⑦ 脱カテゴリー化現象を持つ「なう」は中国語の“在/当~的时候”“在~(情况 下)”“现在(在/的)”“正在~”と非対応の関係を持っている。
このような相違点は第二言語の習得に影響を与える可能性がある。特に中国語の流行語 的表現は日本語母語話者の中国語学習者にとって難関になる恐れがある。このような研究 は言語学的意義のみならず、言語教育学的意義もある。特に第二言語教育を行う際の文法 学的研究に役立つことと思われる。
審査結果の要旨
(1)研究テーマの適切性
学位申請者の張黎さんは大連外国語大学の修士課程の時からずっと日本語と中国語 の流行語にみられるバリエーションに関する対照研究に取り組んでいる。2016年 の秋、本学の博士後期課程に入学して以来、必要な科目を履修し適切な研究指導を受 けている。言語のバリエーション現象に関する研究は多くみられるが、日本語と中国 語の流行語をターゲットとして定め、両者にみられるバリエーション現象に関する対 照研究はまだ多くはない。その意味で考えれば、当該研究は目的が明確であり、テー マの設定が適切になされている。
(2)研究方法の適切性
いわゆる流行語に関する研究は人間・文化・社会との関わりで見ようとする傾向が
ある。この論文は意味論や統語論の立場に立って現代日本語の流行語と現代中国語の
流行語の意味・用法に焦点をあてて、それぞれの意味特徴や統語特徴を考察し、個別
言語に関する研究を通して得られた研究成果をもとに、対照研究および習得研究の観
点から両者の共通点や相違点を網羅的に記述することを試みたものであり、学術性の
高い研究として認められる。用例などの分析・解釈は適切かつ主体的に行われている
ので、独創的な研究成果を出している。そのような研究成果は対照言語学のみならず
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