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日本小児循環器学会雑誌 14巻5号 635〜637頁(1998年)

<Editorial Comment>

川崎病後の冠動脈造影における微小血管叢と冠動脈痩

東京逓信病院小児科 鈴木 淳子  本論文中の 左冠状動脈から微小血管叢を通して冠状静脈へ早期還流が認められた ものを 冠動脈痩 に 入れるか, 異常微小血管叢 とするか微妙な点である.Levinら1)の報告では先天性冠動脈痩の7%が冠動脈 洞に流入すると報告している.問題は川崎病の心筋炎に起因する新生血管叢であるのか,あるいは先天性かと いう点である.過去20年間の文献を調べたところ後天性の冠動脈痩形成の原因として,最も多いのが胸部外傷 で,医原性のものとして心臓外科手術や冠動脈造影,最近では心臓移植後の頻回の右心生検に起因したものな どが挙げられている.心筋症の合併や心内膜炎の併発の報告は散見するが心筋炎に起因する報告は皆無であっ た.興味深い報告としては,心筋梗塞後の初回冠動脈造影で認めた両側冠動脈痩が,本論文の冠動脈痩に類似 した異常微小血管叢の造影像を呈しており,この例では血管叢部位の冠動脈閉塞も伴い,心筋梗塞に起因して 冠動脈痩が形成された可能性も考えられると報告している2).しかしながらこの報告以後既に21年が経過し,心 エコーやEBT, MRIなど非侵襲的に冠動脈痩が検出可能となった現在でも,心筋梗塞後に冠動脈痩が発生し た報告は無い.

 川崎病の冠動脈造影において,私どもは小児に認める先天性冠動脈痩の頻度が予想外に高いことを報告3)し た.成人の頻度は0.21%4),0.30%5)と報告されているのに比べ,私どもが川崎病児例に偶然に認めた冠動脈痩 は1.9%3)であった.成人では心腔内への流入が多い2)のに反し,川崎病児例の冠動脈痩は,ほぼ全例が肺動脈 基部に流入する細い痩血管の小さなシャント血流であり(図1),連続性雑音も聴取されず,心電図異常を認め ない.さらに冠動脈障害の経過観察のために年余の間隔で行なわれた造影で,冠動脈痩の消失を認める例も あった3).このタイプの冠動脈痩の発生は,肺動脈基部より副冠動脈が起始し,本来の冠動脈と交通したものと 考えられている6).川崎病冠動脈障害の程度や部位にまったく関連がなく,私どもは,川崎病に原因したもので

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図1 7歳男児:川崎病既往例:左前下行枝から起始  し,肺動脈主幹部に流入する冠動脈痩.このような  タイプは川崎病の冠動脈造影例の1.9%に認められ

 た.

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636−(44) 日小循誌 14(5),1998 はなく,臨床上問題とならず発育途上で消失し,成人における出現頻度を下げているような先天性冠動脈痩の 偶然の発見と考えた.しかしながら本論文における異常血管叢はあきらかにこのタイプとは異なっている.

 先天性心疾患に合併する冠動脈痩には,上記のタイプ以外にも,右心系に流入するものが多くみられた.ま た連続性心雑音などで気付かれた無症状の先天性冠動脈痩単独の例では,先のタイプの他に,心腔内に流入し シャント血量も比較的多いものが多く認められた3).その中に本論文の 微小血管叢 に似た造影像(図2)も 経験した.このようなタイプの冠動脈痩の発生については,胎生初期に存在した心外膜血管網と心筋内類洞の 交通が,心筋内類洞が退縮せず残存しているもの7)と考えられている.

 ところで本論文の異常血管叢の起因について,私自身は先天性の可能性が強いと考えている.理由として,

1)病理組織学的に心筋炎が新生血管形成する可能性があるとしても,顕微鏡下の微小血管形成でなく,造影で 描出可能なサイズの血管を広範囲に形成しえるものかとの疑問である.また,もし形成可能であるとしても心 筋炎は短期間で終焉しており,その後わずか3カ月間でこれだけのサイズのものを形成しえるものだろうか.

私どもの川崎病の冠動脈造影による経過観察の経験では,冠動脈瘤が閉塞してから瘤の周囲を中心に微小血管 が形成され,造影で血管叢として描出されるまでに発達するには冠動脈閉塞後数年を経ているのが観察されて

いる8).

 2)第二に,本文で微小血管叢の出現の原因として挙げられている川崎病の心筋炎は,罹患者の大多数9)が subclinicalに有するものであり,心筋シンチグラムにおける原因不明の低還流領域の出現もしばしば認めら れるユ゜).しかるにこの新生血管の出現は極めて稀であり,心筋炎と微小血管障害の存在の可能性をもって異常 血管叢の原因とするには,頻度上いささか無理があるのではないかと考える.

 3)第三に,先天性冠動脈痩にもよく似た造影像(図2)が存在する点である.

 しかしながら先天性と断定するには,これらの根拠も薄弱であり,川崎病に原因する可能性を全く否定しき れるものではない.先天性か後天性か,現時点での判別は困難であるが,川崎病後の冠動脈造影において,こ のように稀な冠動脈異常血管叢の造影が得られたことを報告することで,今後さらに何らかのevidenceが提 出され,その病態が明らかにされることが期待される.

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図2 12歳男児.胸痛精査で来院し,冠動脈痩に気付  かれた.左前下行枝から起始し左室に流入する網状  の血管叢を認める.胸痛は有意なものではなく,精  査後消失した.手術適応なく,経過観察のみ行われ  ている.

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平成10年10月1日 637−(45)

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