著者 三浦 健
著者別名 Miura Takeshi
雑誌名 生命科学
号 2009
ページ 145‑151
発行年 2010‑03‑31
URL http://id.nii.ac.jp/1060/00000104/
エコテクノロジー研究室
(第26研究室 三浦 健 准教授) Laboratory ofecotechnology
研究室紹介
はじめに
地球環境を守りながら、「持続可能な発 1.地殻コア掘削ポイントおよびサンプ 展」を可能とするための研究を行なって
いる。
例えば、未知生物圏である地殻内生物 資源や深海生物資源(極限環境微生物)
を用いて、新バイオエネルギー生産のた め、未利用バイオマス分解酵素生産菌な ど有用微生物の発見・応用・開発研究を 行なっている。
また、様々なサンプルから分離・単離 した微生物も、未知な能力を秘めている ため、後世に財産として残す必要性もあ り、 微生物バンク として、多くの微生 物を保存している。
研究内容
駿河湾沖から得られた地殻コア中からの 有用微生物の探索
駿河湾沖から取得された地殻コアサン プル(水深:756 m、掘削深度:65.54 mbsf:
m below seafloor)中に酵素活性を検出し た。これらの酵素は地殻コアサンプル中 に存在していた好気性細菌が生産するこ とが示唆された。そこで、各地殻コアサ ンプル中の好気性細菌の存在を明らかに した。また、分離・単離した微生物がど のような酵素を生産するかを調べること にした。
ルNo.
2009年3月に海洋研究開発機構により 建造した地球深部探査船 ちきゅう' (図
1)による駿河湾沖の掘削試験に参加した。
掘削作業は、図3(A)に示すポイントの 水深756 m 地点から65.54 mbsfまで非ラ イザー掘削(Hydraulic pistoncoring system)によって地殻コアが得られた(図 2)。図3(B)に示すように、0.6 mbsfか ら約5mずつ最深64.8 mbsf まで、14ヵ所 でサンプリングした。
図1 地球深部探査船 ちきゅう
図2 地殻コア掘削作業
i^;‑̲̲:̲・ノ
ー
(A)
3 5α W
3 4 W
i f H I
i l
ミ∃F゛
s.J
頴 ミ;
4
ぬ 匿
メ
ズ│
11
願 詔 白j
リ
ド属 琉緬 隔
(B)
Core No.
Ill・IT 1H‑4T
TTTTTTTTTTTT
(‑‑I'r.r‑l■。=r"<:f.‑C<■‑。t^r'。r‑
HHHHHHHHHHH
〃ー1・1.441. ぺ.66﹃?︷︲
掘削深度
067440k0 ︲t0.Lt0 m 112くI I I I I
'^o ,^0,8
811゛0778
4040494
f.‑1‑‑tT.‑r。・/‑。\C
I38'≫' ^X'X m(
図3 掘削ポイントおよび地殻コアサ ンプルN0.
2。地殻コアサンプル中の酵素活性(メタ エンザイム)
掘削試験により得られた地殻コアサン プルは解析時まで4°Cで保管した。まず、
地殻コアサンプルを3%NaCl (pHフ)で懸 濁し、遠心分離(14,000xg,10分、4゜C)を 行い、上清液を0.22 μrnのフィルターに て濾過した。この濾液を市販の酵素活性 検出キット(APIZXM, Bio Merieux, France)に供し、30゜C、18時間の反応を 行った。また、過酸化水素水を用いた気 泡発生の有無によりカタラーゼ活性を検 出した。チトクローム・オキシダーゼ活 性は市販試験紙(ニッスイ)を用いた。
その結果、強弱はあるものの、全ての コアサンプル中において、ナフトールー AS−フォスフォヒドロラーゼ、カタラー ゼおよびチトクローム・オキシダーゼが
検出でき、多くのコアサンプルからエス テラーゼ(C4)、エステラーゼリパーゼ (C8)、フォスファクーゼが検出できた。
また、2H‑2T、7H‑3TおよびフH‑フT中にお いて、β−グルコシダーゼが検出できた(図 4、表1)。全てのコアサンプルで、様々な
酵素活性が検出され(微)生物の存在が 示唆された。その中でも、一般的にカタ
ラーゼは好気性細菌が構成的に菌体外に 生産していることから、地殻コアサンプ ル中にはかなりの量の好気性菌が存在し ている可能性が示唆された。
lH‑lT (Top)
ぶ ぶ
柘 硲
7H‑7T (bottom)
l.Alblinephoipbatasi!
4.Ii)a帥(C14) T.Cystineaiylamidase lO.Acidphosplulase lZ.a‑Galactoadase I5.をGliic<≫i(lsi≫
13.a・Manuoeidase
2.E8(era8e(C4) 5. Leuciae anlamida曹 8.Tijpsm
3.E8la!i≫liin.≪e(C8) 6. Valise aiylimui跨 9. a・Chyiiiol叩Bin 11・Nai>htol・超・BI・pho¥h≒&laK lJ.C‑(辿aciondiiie μ・卜nciiKinidai*
16.fMHiio)8i(h≫
1蛉nKuii(la≪
17. N‑ic吻'i‑│)‑(lucc<siiiiiaiida≪
20.CoiilroI
図4 APIZXMによる酵素活性
表1 地殻内コアサンプル中の酵素活性
︱tr rj ≫n f‑i‑o *^ o el o r^ r‑ 1*1 r*
︱︱ ri r^ m "^ T "fT w". '/■・・c o t‑‑ t‑' ○△△
○○△ △ ○ ○
△
△ ○
○
○○0000000△○ △
○
③△ △△○○
○○○○○○○○○○○○△○
○○ ○ ○○△△
△
全てのサンプル中で. *タラ‑ゼおよびチf.クローム・オキシダーゼが検出できた
A AlkniiiiepUofiβEit.iseB EsteiaieiOli C Esl≪aschpase(CS) D Tft'卜m E a‑tlivtitotiyp刈i F AClit ]>Il叫plial!Ke G Naivh沁l‑AS,BI‑jjIiospliolnililiBC H β‑Gtncosidaiw
3。好気性細菌の分離
地殻コアサンプル中の好気性細菌を分 離するために、前処理として3%NaCl (pH 4、フ、10)で各コアサンプルを懸濁し、
それぞれをMarine Broth 2216 (Difco) (pHフ)寒天培地に塗布し、30゜Cにおいて 2日間培養を行い、生育したコロニー数を
計測し生菌数を調べた。
その結果、図5に示すように、明らか にフH‑3T (59.7 mbsf)において好気性細 菌が最も多く生存しており、地殻コアサ ンプルIg当たり1.2×10^ cellsの生菌数が 確認できた。一方、地殻コアサンプル中 に酵素活性が検出されたにも関わらず、
2H‑2T、2H‑5T、4H‑6、6H‑7Tおよび7H‑7T では、Ig当たり10^ cellsオーダー以下の 生菌数しか確認できなかった。このよう に深度によって生菌数が異なることが明 らかになった。また、コアサンプルを処 理する際、懸濁液のpHを変化させること で、出現するコロニー数、形状が異なっ ていた。
次に、それぞれの条件下での平板培地 から優占種はもとより、形や色の異なる コロニーを選抜し、生育条件と同条件で 培養を繰り返し行い純化した346株を分 離した((図6)。そのすべての菌株を−80(C においてグリセロール保存した。
lH‑lT 1H‑4T 2H‑2T 2H‑5T 3H‑2T 3H‑6T 4H‑3T 4H‑6T 5H‑3T 5H‑6T 6H‑3T 6H‑7T 7H‑3T 7H‑7T
Core No. 0 lH‑lT36
1H‑4T33 2H‑2T19 2H‑5T36 3H‑2T26 3H‑6T29 4H‑3T33 4H‑6T24 5H‑3T31 5H‑6T 9 6H‑3T24 6H‑7T 8 7H‑3T24 7H‑7T14 total346
0
研究室紹介
生菌数(cells g‑1)
1.0×107 1.5×107
●pH4
■pH7
■pH10
図5 深度別の生菌数
菌数(株) 20
図6 深度別の単離菌数
40
現在、16S rRNA 配列による系統解析を 4.分離菌の生産する酵素
行い、深度別の棲み分けを解析している。 分離菌346株を用いてそれらがどのよ うな酵素を生産するのかをMarine Broth 2216 (pH7)寒天培地を用いたプレートア ッセイ法にて調べた。6種類の酵素につい
て検出方法を表2にまとめた。培養は また、バイオエネルギーを生産する際、
30(Cにおいて2日間培養を行った。また、 バイオマス糖化過程で使用される酵素で カタラーゼ活性は過酸化水素水を用いた あるアミラーゼやエンドグルカナーゼ 気泡発生の有無により検出した。チトク (CMCase)を産生する微生物が存在するこ ローム・オキシダーゼ活性は市販試験紙 とに興味がもたれる。
(ニッスイ)を用いた。
表2 産生酵素の検出法
鮭 1 プロテアーゼ 2 アミラーゼ 3エンドグルカナーゼ
(CMCase)
4
5
6
キシラナーゼ アガラーゼ リパーゼ
唱加量: 0夕
培地添加物影 スキムミルク スターチアズレ CMC
キシラン 寒天 トリブチリン
剛?法 溶解斑 溶解斑 重層法(コンゴーレッド)
重層法(コンゴーレッド)
溶解
溶解斑
その結果を図フに示したが、生産する 酵素について調べたところ、プレートア ッセイ法により、90%以上の菌がリパー ゼを生産していた。 リパーゼの場合トリ ブチリンを基質にしているため、C 4エ
ステラーゼ活性とおそらく重複している と考えられる。ほとんどの深度からアミ ラーゼ(17%)、プロテアーゼ(14%)、
キシラナーゼ(11%)やエンドグルカナ ーゼ(CMCase)(11%)が生産する菌が 見出された。アガラーゼ(4%)において は、最浅部コア(lH‑lT)、1H‑4T、3H‑6T および7H‑3Tで見出された。地殻コアサ ンプルの酵素活性と同様な結果として、
ほとんどの株が、カタラーゼおよびチト クローム・オキシダーゼを生産していた。
レ
l
。ユ。II
治政 ii・:÷)
(衣)
﹂ 剔 上一﹂
﹂
﹂ ザ﹈J゛一才冲煮¨
゛ ¨
!
一︱i−−−−−−−−i−♂jjl−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ︲1 一 Ei−−j4−1−C−︱!︱・−・−−11111j 一 一 −. 一 ︱︲IIご誓E長
谷⁚↓回は↓フド↓ぐ↓麟寸↓〜
│ヽIM㎜ I,ll'㎜ │ヽHIり 図フ 分離株の産生酵素
各地殻コアサンプルにおいて、懸濁液 のpHを変えることにより分離した菌が 産生する酵素の種類に違いが見られた。
多くの深度において、酵素生産菌は懸濁 液pH7による分離菌であったが、1H‑4T ではpH10による分離菌のみがアミラー ゼを産生し、キシラナーゼはすべてのpH による分離菌が産生していた。アガラー
ゼにおいては、1H‑1TはすべてのPHによ コアNo ‑
る分離菌、1H‑4Tと3H‑6TはpHlO、フH‑3T はpH4によるものであった。 CMCase産 生菌は、懸濁液pH7による分離菌であっ た。
5.各深度における重金属耐性菌の分布 分離菌328株を用いてそれらがどのよ
うな重金属耐性を有しているのかを硫酸 銅、硫酸カドミウム、硫酸ニッケル、硫 酸コバルト、硫酸マンガンを各濃度で添 加したMarine Broth 2216寒天培地を用い て調べた。培養は30℃において4日間培 養を行った。その結果から、3mMの銅耐 性を有する菌が1H‑4T、6H‑3T。 30 mM の ニッケル耐性を有する菌が4H‑3T、6H‑3T。
30 mM のコバルト耐性を有する菌が 6H‑7T、7H‑3T。 1000 mM のマンガン耐性 を有する菌が6H‑3Tから見出された。また、
本実験で用いた全ての菌株において50 mMのマンガン耐性を有していた。 6H‑3T から単離された菌の地殻の深度には生菌数 が少ないことから、銅、ニッケル、マンガ ン等の多くの重金属が存在し、生育に影響 を与えていることが考えられ、高濃度の銅 イオン、ニッケルイオン、マンガンイオン に耐性を有する菌でなければ生育すること が出来ない環境であることが考えられる。
掘削深度が深くなるにつれ、高濃度のマン ガン、ニッケル、コバルト耐性を有する菌 が見出された。また、カドミウムイオンに 対する耐性を有する菌は見出されなかった (図8)。
1H‑1T 1H‑4I 2H‑2T 2H‑5T I士2T 3H‑6工 4H‑3T 4H咀!
5H‑3T 5H‑6T 6H‑3T 6H‑7工 m:3T 7I±ZI
研究室紹介
握削逞度凶
ゞ,・‑・j.㎝
←!ヱ
←ユ4
←・A
←20.0
←‑‑25.3
4 30.8 4 .34.6
(一一4(3 4 44.3 4 50.0
←立7
−59,7 ぐ・ 64.8
図8.重金属耐性菌の分布 (2010年度卒業研究佐藤 勇太)
関東における地質調査コア中からの有用 微生物の探索
新実験棟(5号館)建築に伴う地質調 査(図9)により得られたコアサンプル(掘 削深度:5〜38.75 m)中に酵素活性を検出 した。これらの酵素はコアサンプル中に 存在していた好気性菌が生産することが 示唆された。そこで、各コアサンプル中 の好気性菌の存在を明らかにし、これら の微生物がどのような酵素を生産するか を調べることにした。
図9 地質調査の作業
1。好気性細菌の分離
3%NaCl (pH 7)で各コアサンプルを
懸濁し、Nutrient Broth(Difco)寒天培地 (pH4、フ、10)に塗布し、25゜Cにおいて 3日間培養を行い、生育したコロニー数を
計測し生菌数を確認した。3%NaCl (pH 7)
で各コアサンプルを懸濁し、生菌数を確 認したところ、深度10mが最も存在して おり、pH7で、10^ cells/cm^オーダーの生 菌数が確認された。ほとんどの深度にお いて、酸性よりアルカリ性で増殖可能な 微生物が多く見られた。しかし、30、35 m では、酵素活性が検出されたにもかかわ らず、pH4〜10で、ほとんどコロニーの 出現が見られなかった。(図10)。次に、
それぞれの条件下での平板培地から優占 種はもとより、形や色の異なるコロニー を選抜し、生育条件と同条件で培養を繰 り返し行い純化した155株を分離した。
そのすべての菌株を−80℃においてグリ セロール保存した。
5
川 抒 20 お
(Ul︶赳錐
3(1 35 JS.K
生菌数(cells/ml)
w 陣 10'
ら
‑ |
¬
I i |
‑ l
‑ |
|
‑ j
|
▽
|
図10 深度別の生菌数
−!−−−−−−−−−−−
47川
・III一"a.*S."c.
: ■I−
2。分離菌の生産する酵素
分離菌155株を用いてそれらがどのよ うな酵素を生産するのかをNutrient Broth (pHフ)寒天培地を用いたプレートアッセ
イ法にて調べた。ほとんどの菌が、カタ ラーゼおよびチトクローム・オキシダー ゼを生産していた。プレートアッセイ法 により、80%の菌がプロテアーゼを生産 し、リパーゼ、アミラーゼ、キシラナー ゼなどを生産する菌が見出された。(図
11)
表3
a b
分離株の産生酵素
C d e f
5 0 5 1 1
20 25 30 35 38.8
7 17 5 0 31 31 9 16 8 0 29 29 2 10 3 0 18 18 7 12 0 0 21 21 12 12 0 0 21 21
1 2 0 0 3 3 8 8 0 0 10 10 9 20 0 0 22 22
単離株数 31 29 18 21 21 3 10 22 a:アミラーゼ.b:プロテアーゼ、c:キシラナー‑ゼ、
():セルラーゼ、e:カタラーゼ、f:チトクロムオキシダーゼ
【学会発表】
1. Takeshi Miura, Akira Inoue, Tohru Kobayashi and Koki Horikoshi : Extracel‑
lular enzyme activities of subseafloor aerobic microorganisms isolated from Suruga Bay in Japan, gth International Congress on Extremophiles (2010 年9月)
2. Tomonori Takashina, Taro Hosogai Take‑
shi Miura and Akira Inoue : Analysis of enzyme activities produced by aerobic microorganisms isolated from core samples of North Kanto, 8th International Con‑
gress on Extremophiles (2010年9
3
帽
三浦 健、細貝 太郎、井上 明:北 関東における地質調査コア中からの 有用微生物の探索、第10回極限環境 微生物学会年会(2009年10月)
4。三浦健、井上明、小林徹、掘越弘 毅:駿河湾沖から得られた地殻コア中 からの有用微生物の探索、第11回極 限環境微生物学会年会(2010年11月)
5。芝崎弘毅、小林徹、三浦健、宇佐美 論、掘越弘毅:地管内微生物が生産 する耐熱性キチナーゼ第11回極限環 境微生物学会年会(2010年11月)
【助成金】
1.平成21年度 2.平成22年度
東洋大学特別研究 東洋大学特別研究
研究室紹介