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経済縮小下における地域金融行政

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島袋 伊津子

Itsuko Shimabukuro

【要約】

本稿では、地域金融に関連する金融行政を概観し、地域金融機関をとりまく状況について先行研 究を展望した上で、今後のあるべき行政の方向性について提案した。すなわち預金取扱金融機関に よるリレバンでは、起業・再生段階の企業への資金供給にはリスク許容限度の面で限界があるため、

縮小する経済の中で求められる金融行政は、リレバンを推進するのみではなく、金融システムの多 様化によってリスク許容度を高めることである。

【目次】

第 1 章 はじめに

第 2 章 地域金融機関と金融行政  2.1 節 理論的背景

 2.2 節 地域金融行政の変遷とその評価 第 3 章 地域金融機関経営と日本経済  3.1 縮小する日本経済

 3.2 節 実体経済改善のために金融行政がなすべきこと 第 4 章 おわりに

第 1 章 はじめに

金融行政において、地域金融の理想的なモデルとしてリレーションシップバンキングが推進され 10 年以上が経過したが、地域金融機関の経営状況は厳しさを増すばかりで、地域経済低迷は根本 的な脱却の兆しは見られない。本稿では、地域金融に関連する金融行政を概観し、地域金融機関を とりまく状況について先行研究を展望した上で、今後のあるべき方向性について提案する。

第 2 章 地域金融機関と金融行政  2. 1節 理論的背景

地域金融機関は地域で営業活動を行い顧客の多くが中小零細企業であるため、大規模融資や海外

経済縮小下における地域金融行政

FSA policy on regional banks under shrinking economy

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に営業展開が可能なメガバンクとは異なる特色を発揮しなければならない。地域金融機関の特色を 活かせるビジネスモデルとして、「リレーションシップバンキング(以下、リレバン)」は平成 15 年に金融審議会によって報告書「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」が発表され て以来、広く認知されている。

改めて学術的な定義を確認すると、Boot(2000)は、企業特有の情報を入手するために金融機関 が投資を行う、さらに企業との複数回の通時的なやりとりを通してこの投資の収益性を評価すると している。企業特有の情報とは、誰もが簡単に入手できる公開情報ではなく、コストを支払わなけ れば入手できない種類のものといえる。財務データや経営状態などの情報開示が不十分な中小企業 の金融取引に関しては、金融機関と深い関係を構築することで金融機関と企業との間で特有の情報 を共有し、それを契約にも反映させる形態が有効となりうるだろう。これを指してリレバンを定義 することもできる。また、この企業特有の情報には、経営者の人柄など、その情報を入手した当人 以外には正確に伝えることが難しい定性情報が含まれる。Stein(2002)はこれを「ソフト情報」と 呼び、分権的な組織がよりソフト情報を効率的に活用できることを理論的に示した。リレバンでは このソフト情報を収集するためのコストが発生する。したがって、このコストを上回る便益が金融 機関側になければビジネスモデルとして持続可能とはいえない。リレバンから得られる金融機関側 の便益やコストを回収する方法として Boot(2000)では貸出契約の初期に補助金的な割安の金利で 貸し出し、その分のロス(コスト)を長期にわたる契約の後期に高い金利を課すことによって回収 する、としている。借り手企業にとっては金利変動の平準化というメリットがあるということであ る。まとめると、相対的に小規模な金融機関は分権的であるとすると、メガバンクと比較して小規 模な地域金融機関はソフト情報の活用余地の大きい中小企業向け貸出に優位性があり、借り手企業 には金利リスクの平準化というメリットがあるということである。

2.2 節 地域金融行政の変遷とその評価

金融業は規制産業であり、金融行政によってその方向性は大きな影響を受けざるを得ない。地域 経済において重要な役割を果たす地域金融機関や、その借り手の多くを占める中小企業への影響は より大きくなるだろう。地域金融機関と関連する金融行政(以下、地域金融行政とする)は経済情 勢によって変化してきた。

平成 14 年に従来の金融検査マニュアルが規模や経営内容が大きく異なる大手行の融資先と地域

金融機関の融資先である中小企業とで画一的な運用がなされているという批判が大きくなったこと

を背景として、金融検査マニュアル別冊 [ 中小企業融資編 ] が作成され、中小企業に対する配慮が

なされた。さらに、同年公表の金融行政の強化方針である「金融再生プログラム」の中で、「金融

機関による不当な『貸し剥がし』等が発生しないように、モニタリング体制を強化するほか、必要

な場合は効果的な検査を実施する」という文言がみられ、検査の重点に金融機関の貸出態度に関す

る評価が加わったことがうかがわれる。平成 15 年 3 月に金融審議会が提出した報告書「リレーショ

ンシップバンキングの機能強化に向けて」が発表され、この中に、「中小・地域金融機関の業務の

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特性や期待される役割を踏まえれば(中略)地域社会や取引先企業へのコミットメント(地域貢献)

が収益力や財務の健全性に与える影響等の観点も取り入れた、より多面的な評価に基づく総合的な 監督体系を構築する方向で検討することが必要であると考えられる」とあり、監督する際の評価と して、「地域社会や取引先企業へのコミットメント(地域貢献)」について言及され、「多面的」「総 合的」といった表現によって不良債権処理や健全性のみに注目するスタンスからより幅広い評価を 行うように変化するべきということを示している。本報告書を受けて、金融庁は「リレーションシッ プバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を発表し、この中でリレーションシッ プバンキングの機能強化のために推進されるべき取組みを具体的に示した。そして、平成 15 年か ら平成 16 年の 2 年間を「集中改善期間」とし金融機関側に、「中小企業金融再生に向けた取組み」

と題していくつかの具体的項目を提示し、その取組みの進捗状況を「リレーションシップバンキン グの機能強化計画」として報告するよう求めた。このような当局の行政方針の変化は、金融(監督)

庁発足当時の金融危機下において不良債権処理や自己資本の充実に注力していた状況から中小企業 再生といった新たなベクトルが検査方針に加わったことを表し、金融機関側も対応を迫られるよう になる。

平成 16 年 2 月には、「金融検査マニュアル別冊 [ 中小企業融資編 ]」が改訂された。改訂の主な 内容には「検査に当たって、借り手企業に対する説明責任の履行状況を検証するとともに、これに 加え、金融機関の中小・零細企業に対する企業訪問・経営指導等の実施状況についても検証」とあ り、「債務者区分の判断において(中略)企業訪問・経営指導等を通じて収集した情報に基づく当 該金融機関の評価を尊重する」となっている。リレバンへの取組みにおいて金融機関が慎重になら ざるをえない大きな要因である債務者区分の評価について、当局の検査マニュアルに「金融機関の 判断を尊重する」と明記した点は、従来のリレバン推進からより踏み込んだ対応といえよう。同年 12 月に公表された「金融改革プログラム」の中に、 「不良債権問題の緊急対応から脱却し(中略) 『金 融システムの安定』を重視した金融行政から『金融システムの活力』を重視した金融行政へ転換す べきフェーズといっても良い」とあり、行政の方針転換を明言している。さらに、同プログラムの 地域金融行政に関する記述によれば、「各金融機関に対し、事業再生や中小企業金融の円滑化、(中 略)地域の特性等を踏まえた個性的な計画の策定を要請」するとし、「中小・地域金融機関が地域 密着という特性を活かしつつ(中略)健全性の確保、収益性の向上を図るよう、インセンティブを 重視した仕組み等を導入する」と明記している。

平成 17 年 3 月には、「地域密着型金融の機能強化の推進に関するアクションプログラム」が公

表された。これは、 「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」 (平

成 15 年 3 月公表)を承継する新たなアクションプログラムとして策定されている(いわゆる第二

次アクションプログラム)。また、この第二次アクションプログラムに期待することについて、平

成 17 年 3 月 28 日金融審議会第二部会リレバンのあり方に関するワーキング・グループでは、次

の4つを提示している。すなわち、(1)地域密着型金融の継続的な推進、(2)地域密着型金融の

本質を踏まえた推進、(3)地域の特性等を踏まえた「選択と集中」による推進、(4)情報開示等

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の推進とこれによる規律付け等、である。

第二次リレバンアクションプログラムの中で、当時の現状は「地域密着型金融の本質が、必ずし も金融機関に正しく理解されておらず、利用者にも十分に認知されていないため、本来、その成果 として期待される高リターンの実現は未だ道半ばとなっている」と指摘されている。さらに、「地 域の利用者の利便性を向上し、信認を確保するためには、各金融機関は、情報開示の充実及び利用 者にも分かりやすい情報の積極的な提供を行うことが重要である。また、このような情報開示等を 通じて、経営判断の自主性を確保しつつ、情報開示等による規律付けを受けることの重要性を、各 金融機関は認識する必要がある」としており、さらに、「各金融機関が、(中略)自主的に、数値的 な目標を含む、具体的かつ分かりやすい目標を策定・開示することを通じて利用者の評価を受ける ことにより、地域密着型金融の機能向上を図る必要がある」としている。これらの記述から判断す ると、リレバンへの取り組みを数値などの目に見える形で公開することによって地域密着型金融の 本質を金融機関や利用者に正しく理解され成果を得る、ということが期待されていたことがうかが える。金融検査においても、この取組実績についての確認や指摘がなされたであろう。その結果、

当時の金融機関がリレバンの実績となる具体的取り組みを数値等の客観的に把握できる形で求めら れていたと思われる。

第二次リレバンアクションプログラムが終了した後、それまでの成果を総括した資料「地域密着 型金融 ( 平成 15 〜 18 年度 第二次アクションプログラム終了時まで)の進捗状況について」が平 成 19 年 7 月に公開されている。これには具体的な取り組みの実績が数値等で示され、「地域密着 型金融の機能強化に向けた取組みは、二次のアクションプログラムの 4 年間に、件数・金額を見ると、

総じて着実に実績が上がっていると言える」と評価している。さらに、利用者側の声をアンケート 調査にて分析しており、「利用者からは、事業再生への取組み、担保・保証に過度に依存しない融資、

地域貢献等が不十分であるとの指摘がある」と評価している。さらに今後の課題として、「金融審 議会金融分科会第二部会においてとりまとめられた報告書『地域密着型金融の取組みについての評 価と今度の対応について』においては、『事業再生をはじめとした取引先企業の支援強化』、『事業 価値を見極める融資手法をはじめ中小企業に適した資金供給手法の徹底』、『地域の情報集積を活用 した持続可能な地域経済への貢献』の3項目について、各金融機関に引き続き取組みを求めており、

その際『地域の利用者ニーズを的確に把握し、経営戦略へのフィードバックに繋げる』ことも必要 としているところである」とまとめている。

4 年間二次にわたる地域金融行政によっても地域金融機関の業績回復と地域再生という好循環が 確立されたとは言い難い状況の中で、平成 20 年 9 月リーマンショックが発生する。これへの対応 策として「金融円滑化法」が成立し、中小企業への金融円滑化そのものが数値目標となり検査対象 となった。

以上のように当局は、リレバン実践や中小企業金融円滑化を推進してきたが、これ以前にも、金

融機関による中小企業への貸出を促がす政策をたびたび打ち出している。例えば、バブル崩壊後の

金融危機において、金融システムが不安定化を増す中、政府は緊急的な対応として、平成 10 年に

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金融機能安定化法、平成 11 年に早期健全化法に基づいて金融機関に対する公的資金注入を実行し た。さらに、中小企業金融安定化特別保証制度 ( いわゆる特別信用保証制度 ) を創設するとともに、

政府系金融機関による融資制度を拡充した。これらの効果は実証的な検証がなされており

、社会 的費用も含めた経済厚生の点から異論が出ているが、中小企業への貸出増加や金融システムの安定 化という点からは一定の成果が認められている。

今日の地域金融行政における中小企業への貸出促進という目標に関しては、金融危機時における 金融行政と目指す方向は同じといえるが、当時とは置かれている経済環境が異なるため同様の政策 を打ち出すことは合理的ではないだろう。すなわち、金融危機時になされた政策手法の共通点は、

多額の財政出動が伴い政府がリスクを負担するという点で社会的費用が大きく、持続可能性の面か らも難しい。一方、金融危機からの回復後の地域金融行政は、政府のリスク負担、多額の財政コス トを伴わずに、中小企業への貸出促進および地域再生を目指す手法にシフトしていると考えられる。

つまり金融機関自身がリスクを取ることが求められ、地域金融機関の行動に変革が必要とされてい る。しかし、このような行政の効果を分析した、次にあげる研究では否定的な結果が出ている。

播磨谷 (2009) は、確率的フロンティア関数から計測された金融機関の費用効率性を比較し、リ

レーションシップバンキング推進前後の違いは見られないとしている。また、播磨谷・吉原 (2009) は、京都府内の地域金融機関を対象に、貸し手の競争的な環境がリレバンを推進すると仮定し、貸 し手の競争環境と開廃業率の関係をリレバン推進前後で比較している。その結果、競争環境の違い が開廃業率に明確な影響を与えておらず、リレバン推進前後においても違いは認められないという。

そして、この結果から、金融から実体経済への因果関係という行政的リレバン推進の前提について 疑問が持たれるとしている。

家森・近藤 (2007) は、愛知県産業労働部のアンケート調査をもとにリレバンの実態を検証して いる。その結果、金融機関が密接な関係を築こうとする先は経営状態が良い企業であり、リレバン の機能強化によって経営状態の悪い企業に対する金融円滑化を実現することは難しいとしている。

店舗配置に関して、リレバンの推進の観点からは、衰退する本店所在地を離れ都市部への営業活 動を広げる行為は理念に反する行為とも

いえる。一方、金融機関が健全性を保つ ためには一定の収益を上げねばならず、

リレバンによって地元活性化が容易では ない場合は、収益源を広げるために地元 以外への進出もやむをえないといえ、実 際、後者の行動をとっている地方銀行の 県外店舗開設が近年盛んである(表 1)。

近藤・播磨谷 (2009) は、行政的なリ レバン推進下における東海地方の信用金 庫による名古屋市内への事業展開に関す

表 1 2015 年の地方銀行による県外店舗開設

(出所)各種報道より筆者作成 銀行名(本店所在地) 開設店舗所在地

秋田銀行(秋田県) 仙台市 群馬銀行(群馬県) 川崎市 千葉銀行(千葉県) 渋谷区 山陰合同銀行(鳥取県) 大阪市 鹿児島銀行(鹿児島県) 那覇市 阿波銀行(徳島県) 横浜市

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る分析を行い、どのような属性の信金が名古屋進出に対して積極的かを示している。これによると、

高齢化が進行している地域の信金は名古屋での事業展開に力を入れているという。

近藤 (2012) は、東海 3 県に本店を置く地域銀行を対象に店舗展開の現状を分析している。その

結果、愛知県に本店を置く銀行は、県内に手厚く店舗を配置しているが、岐阜県と三重県はそうで はないところが多く、愛知県で店舗網を充実させている銀行ほど高い利益があげられており、岐阜 県と三重県の地域銀行が名古屋市に多くの店舗を設け、利益を求めて経済水準の高い地域へ進出し ていることを明らかにしている。

このように、これまでの研究によっても、また現状をみてもリレバンの推進によって地域再生が なされ、これにより地域金融機関の収益性が確保される、という好循環が達成されたとは言い難い。

しかしながら、2.1 節で言及したように、地域金融機関の実践すべきビジネスモデルとしてリレバ ンが掲げられた背景に理論的な裏付けがあり、方向性として必ずしも間違っているとはいえない。

ではなぜリレバンが地域再生に貢献できていないのか、次章で検討する。

第 3 章 地域金融機関経営と日本経済  3.1 節 縮小する日本経済

内閣府「平成 25 年度年次経済財政報告」は、地域金融機関の融資総額は増加しているものの、

預金がより増加する中で、預貸率は低下傾向にあり、地域金融機関におけるこうした動向は、需要 の不足によるところが否めず、自らが新たな資金需要を発掘することの必要性を主張している。実 際、GDP の変動に関わらず預貸率は一貫して低下している(図 1)。このような中では貸出業務に よる収入減少、利鞘の低下(図 2)をカバーするために経費削減が必要となるだろう。図 3 のとお

図1 預貸率とGDP前年比の推移

(出所)預貸率:日本銀行、GDP前年比:内閣府より筆者作成

30 40 50 60 70 80 90 100

-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

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り人件費率が減少し続けている背景にはこのような経済環境が有る可能性が高い。

図 4 は、全国の平成 11 年から平成 26 年の事業所数および新設事業所数の推移を示している。

新設は平成 21 年に大きく落ち込んではいるが平成 26 年には回復しており、増減を繰り返している。

一方、存続も含めた全体の事業所数は減少傾向にあり、平成 11 年から平成 26 年の間に 66 万以上 の事業所が減少している。つまり、廃業が新設を上回っていることを示し、企業は「少産多死」の 状況といえる。これは「需要の不足」を示唆する数値となっている。

図 5 は、資本金規模別でみた企業の設備投資額の推移を示している。資本金 10 億円以上の企 業は平成 19 年まで増加傾向であったが、リーマンショックがあった平成 20 年に大きく落ち込み、

図2 預貸金利鞘

図3 人件費率

(出所)「全国銀行財務諸表分析」、「全国信用金庫概況・統計」より筆者作成

(出所)「全国銀行財務諸表分析」、「全国信用金庫概況・統計」より筆者作成

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その後若干回復するもその後横ばいとなっている。リーマンショック以前に回復できないまま低迷 しているといってよいだろう。一方、資本金 10 億円未満の企業については、平成 14 年以降多少 の増減があり、近年は増加傾向にある。設備投資が順調に回復すれば、「需要の不足」改善につな がる可能性もでるだろう。

需要を大きく左右する要因として、人口の変動は無視しえないものである。地域に根差した活動 を行う金融機関にとって拠り所となる地域の人口減少という外部環境の変化は個別の経営改善だけ では乗り越えることが難しい問題である。日本の総人口の将来推計は大幅な減少を見込んでおり、

生産年齢人口の割合は、平成 2 年以降減少し続けている(図 6)。「過疎地域のデータバンク」によ 図4 事業所数と新設事業所数の推移

図5 資本金規模別企業の設備投資

(出所)「事業所・企業統計」、「経済センサス」より筆者作成

(出所)「法人企業統計調査」より筆者作成 6203249

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れば、2014 年時点の状況で、日本の全市町村の 46.4%が過疎市町村となっており、北海道、秋田、

島根、愛媛、高知、大分、鹿児島では過疎市町村の割合が 80%を越えている。

日本銀行(2015)は、人口減少やこれに基づく地域経済への下押し圧力は、地方での資金需要 の縮減をもたらしてきており、このことが地域金融機関の利鞘の縮小、貸出収益の減少をより厳し くしているという。

堀江(2015)は人口減少という地域金融機関の営業基盤の変化を店舗配置に基づいて分析して いる。これによれば、2010 年から 2014 年で信金 ・ 信組については、営業地盤内の人口減が 3 割 以上と見込まれる先は 48、同 2 割以上 3 割未満が 105 に達し、362 の信金 ・ 信組のうち 4 割強が 2 割以上の人口減少に見舞われるとしている。そして、このような地域金融機関の依って立つ営業 基盤の変化により、貸出等金融面を通じた経済活性化はかなり困難であるとしている。

大庫(2016)は、生産年齢人口に基づいて将来の都道府県別預貸率を試算している。これによれば、

2025 年で 27 都道府県が、2040 年には 37 都道府県が預貸率 50%を下回り、このような地域で従 来型の預金を集めて貸出にまわす銀行ビジネスを続けていくことは厳しいとしている。

金融審議会(2003)が発表した報告書「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」

では、当時の金融機関の現状に対して、金融機関の経営力不足、借り手企業の弱体化やモラルハ ザード、ガバナンスの限界あるいは公的金融の存在、地域経済・財政の厳しさといった外部環境を 背景に、地域金融機関が負担している地域経済に対するコミットメントコストが顕在化しているこ とが指摘されている。さらに「コミットメントコストの負担は、地域に根ざして営業を展開する中 小・地域金融機関にとっては避けることが困難な面があることは否定できないが、中小・地域金融 機関においても健全性の確保が求められるのは当然であり、コミットメントコストの負担がリレー ションシップバンキングの当然の前提であるといった認識は改め、金融機関の経営に対する適正・

図6 総人口と生産年齢人口割合の推移(推計値)

(出所)総務省統計局「日本の統計 2016」より筆者作成

40.0 45.0 50.0 55.0 60.0 65.0 70.0 75.0

100,000 105,000 110,000 115,000 120,000 125,000 130,000

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有効な規律づけにより、適正な金利・手数料を確保しつつコミットメントコストの発生を抑制して いく必要がある」としている。この報告書が発表されてから、10 年以上が経過した現在では低金利、

需要不足という環境は特に地方部においては厳しさを増しており、行政からは、金融円滑化・地域 再生という役割をより一層求められ、コミットメントコストの負担はますます重くなっているよう に思える。つまり、リレバンによる地域再生にはコミットメントコストの負担を地域金融機関側に 求めるものであり、需要不足という外部要因による収益低迷に見舞われている地域金融機関経営に とってさらなる足かせとなっているのではないか。まずは、初期条件である需要不足が解消されて こそ金融面でのサポートが地域経済活性化という実態経済への貢献が実現でき、あらたなる需要を 生み、さらにこれが地域金融機関の収益につながるという好循環が生まれると考えられる。かつて の「貸し渋り問題」といった金融サイドの要因による経済低迷ではなく、人口減少や事業所数の純 減という需要不足によるものであれば、まずはこの実体経済の課題を解決しなければ、リレバンと 地域再生の好循環はスタート地点に立つことができないのではないだろうか。

 3.2 節 実体経済改善のために金融行政がなすべきこと

前節で検討したように、現状の地域経済は人口減少、企業数減少といった経済の縮小、需要不足 の中にある。これらは、前提となる経済構造が変化しているということであり、従来型の金融手法、

金融システムでは対応できない問題である。個別金融機関のみならず、金融システム自体が変化を 迫られていると言ってよい。金融システムの転換により金融手法の多様化が進み、創業支援、企業 再生といった企業年齢に応じた適切な金融によるサポート主体の層が厚くなることで、金融が実体 経済の改善に好影響を与えうる。預金を取り扱う金融機関では取ることができないリスクを吸収で きる金融手法が増えれば、その分企業活動の幅も広がるだろう。リレバン実行には企業の成長段階 でも「適齢期」が存在し、これを無視することは、金融機関と企業の双方にとって有益とは言い難 い。企業の創業や再生には、投資ファンド等の預金を原資としないリスク許容度の高い主体に適性 があり、資本市場の強化など、乗り越えるべき課題が別にあるといえる。

大庫(2013)は、銀行は、預金という資金の性格上返済確度の低い顧客にはお金を貸すことは でない、経営に苦しんでいる会社を救うための存在ではないと主張する。さらに、業績不振の企業 を立ち直らせるための資金は、預金とは違う、リスクマネーと称する損失をこうむってもよいかわ りに高いリターンが欲しいという資金をつかうべきで、そうした分野に特化しているファンドもあ るとしている。

全国地方銀行協会(2014)から引用した図 7 は、企業の経過年数を創業期〜再生期の5期に分 類し、そのすべての期間を地方銀行によるリレバンの対象として実績を提示している。対照的に、

Berger and Udell(1988) は、企業の成長段階を零細企業(創業期)〜大企業の4期に分類しそれ

ぞれに適した資金調達手段が変化することを示している(図 8)。これは、金融理論では常識的な

ことであり、企業の成長段階によって信用リスクが異なるため、それぞれに適したリスク許容度の

資金を原資とする金融手法が求められることは当然である。つまり、リレバンは預金を原資として

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図7 企業の成長段階(地方銀行協会の図) 

図8 企業の成長段階と資金調達手段(Berge and Udell の図)

(出所)全国地方銀行協会(2014)「成長資金の供給に向けた地方銀行の取組」

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出所

)Berger and Udell(1998)

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いるため、これを実践するには対象企業の「適齢期」があるともいえる。情報の非対称性が大きい 創業期や、追い貸しによる損失拡大のリスクが大きくなる再生期までも、リレバンの名目で預金取 扱機関による貸出で対応することは合理的とはいえない。図 7 および図 8 の、第 2 期・3 期にあ たる企業がリレバンの対象としては適しており、それ以外の段階にある企業に対する資金提供は預 金を原資とする金融手段ではなく、リスクマネーを資金源とした手法で対応すべきである。しかし 日本の現状では、市場やファンド等による資金供給が限られており、その意味でわが国の金融シス テムは単線的なものに留まっているため預金取扱金融機関に多くの役割が求められている。

スコット(2011)によれば、1972 年から 2000 年の間にベンチャー資本の支援を受けた 2180 社の上場企業が全米の上場企業の 20%、売り上げの 11%、利益の 13%、雇用の 6%、市場価値 の三分の一を占めているという。さらに、2003 年から 2005 年の間にベンチャー資本に支援され たスタートアップ企業は上場企業の 23%に達しているという。つまり、ベンチャー資本が充実す ることによる市場価値の創造はかなり大きいと言え、ベンチャー資本が不十分であった場合は、市 場価値の三分の一が生まれなかったであろう。この点について日本の場合、過去のベンチャー資本 が充実していないことが現在につながり、現在のベンチャー資本の供給量がこれから先の新しい市 場価値誕生を左右することになる。

本庄 (2006) によれば、創業時に民間金融機関から資金調達している企業がその後成長している

傾向はみられず、友人やビジネス・エンジェル、インフォーマル・キャピタル、ベンチャーキャピ タルから資金調達している企業の方が成長性が高いという。さらに、銀行がリスクをともなう行動 をとることは難しく、日本において創業を通じた経済活性化に期待するならば、銀行などのフォー

マル・ キャピタルに代わる創業資金の供給の充実をはかる必要があるとしている。

池尾(2003)は、日本の普通銀行は産業銀行的な性質が強い商業銀行で、ほとんどの企業が若 年期であったといえる経済のキャッチアップ段階では銀行がベンチャーキャピタル的な役割を果た してきたという。しかし、現在の成熟化した日本経済では、投資銀行的機能など、より専門化した 金融機関の役割が求められるが、十分に提供されているとは言い難いと指摘し、解決すべき課題と して、高い技術力を持ったプロフェッショナル同士が取引を行う場としての資本市場の整備・確立 と市場と最終取引者をつなぐ役割を果たす多様な仲介機関の登場を挙げている。

武士俣(2002)は、中小企業の資金調達手段における日米の違いを示している。これによれば、

米国の企業の資金調達における株式のウェートが極めて高く、家計の個人投資家が保有しており、

保険や年金基金、投資信託を通じた保有も多く、市場インフラが整備され、厚みのある市場を形成 している。さらに、直接金融システムが発達しており、家計の資金が保険、年金基金、投資信託を 通じて企業に供給されている。企業金融において金融機関の貸出のウェートが低く、証券化が発達 しており株式市場や債券市場で直接資金を調達することができない中小企業は金融機関の証券化に よって貸し付けをリファイナンスすることによって市場の資金が間接的に中小企業に流れていると いう。

櫻川(2015a)は、世界全体の傾向として 2000 年以降金融技術の発達や国際統一基準に基づく

(13)

金融規制の強化、金融のグローバル化により、銀行部門に比して株式市場が成長していると指摘し ている。しかし、貸出総額 /GDP および株式時価総額 /GDP でみた銀行および株式市場の大きさの 国際比較によれば、銀行部門は過去 20 年間諸外国が伸びている一方で日本はほとんど変化してお らず、株式市場については大きく低下していることを示している。

櫻川(2015b)によれば、アメリカでは歴史的経緯により ROE が低くなると投資銀行が仲介し て合併や再編を繰り返して株主に高い ROE を保証しようという力が働くが商業銀行中心の日本で は ROE が低くても銀行が貸し続けるため過当競争を招き業界を疲弊させているという。さらに、

リーマン危機、欧州危機を経て、バーゼル合意による国際的統一基準は商業銀行の信用リスクを厳 しく評価する方向に進んでおり、商業銀行がリスクマネーを供給することは今後難しいとしている。

鹿野(2004)は、日本の金融は長年にわたって銀行を中心として構成・運営され、資本市場の 健全な育成・発展が政策目標の視野に入っていなかったとし、そうした事態を改善すると同時に日 本版ビッグバンが究極の目標としていた奥行きの深い資本市場を日本のなかに作り上げるためにも、

政府においてはベンチャー市場の全体像をも見据えて金融制度の改革に取り組む必要があると主張 している。

では、なぜ金融構造改革が十分に進まなかったのだろうか。堀内(1999)は銀行融資中心の金 融システムが金融制度や行政の在り方とのかかわりで「既得権益の均衡」とでも呼ぶべき一種の硬 直性を強めることに貢献し、「既得権益の均衡」は adaptive effi ciency を低下させ急速な技術的変 化などの環境変化に柔軟に対応する能力の発展を妨げたと指摘している。  

原田(2001)は、銀行を中心とする旧来型金融システムの衰退は、銀行が規制産業であったた めに情報処理能力の飛躍的な向上や情報伝達コストの低下を金融サービスに取り入れるインセン ティブに欠けており、政府も金融システムの改善、新システムのインフラ整備に積極的ではなかっ たという。齊藤(2001)は証券化が日本で普及が進まなかった原因を法律面や制度面の整備の遅 れ以上に、間接金融と直接金融の中間領域に位置するような金融活動そのものが活発でなかったこ とがより本質的であると主張している。さらに齊藤(2001)は、米国においては、民間金融機関 が間接金融と直接金融の両者の性格を併せ持つような金融技術で実績を積み、公的な金融スキーム においてもそうした金融技術を積極的に活用してきたことが洗練された証券化技術が金融市場で定 着する大前提となっており、従来からさまざまな形で担われてきた機能を洗練させ、充実させる側 面の方が強いという。一方日本の、間接金融と直接金融を完全に二分することを想定してきた従来 の金融システムが、多様な流通度を備えたローン債権取引市場の成熟を妨げてきたと指摘している。

以上で検討したように、従前から日本の金融システムは多様化の必要性が主張されてきたことが わかる。銀行以外にも資金提供手段を多様化することで日本の金融システムのリスク許容度を高め、

リレバンではカバーできない企業の資金制約を緩和し、これにより起業や再生を活発化させること

ができれば経済縮小を食い止めることができるだろう。そして起業・再生段階の企業が成長・成熟

段階に達すれば地域金融機関の顧客層となる。つまり、多様性のある金融システムにより恩恵を受

けるのは、資金制約のある企業だけでなく、需要不足に悩む地域金融機関でもある。

(14)

第 4 章 おわりに

本稿では、地域金融行政の変遷を振り返り、縮小する経済の中で、リレバンの限界、日本の金融 システムの課題について先行研究を展望し、考察した。預金取扱金融機関によるリレバンでは、起 業・再生段階の企業への資金供給にはリスク許容限度の面で限界がある。資本市場を通じた資金供 給手段の多様化が進めば、幅広い成長段階にある企業が資金制約を乗り越えられるだろう。これら 企業が成長・成熟段階まで到達すれば、経済縮小を食い止めるだけでなく、地域金融機関の顧客と して資金需要を生み収益基盤強化となる。縮小する経済の中で求められる金融行政は、リレバンを 推進するのみではなく、金融システムの多様化によってリスク許容度を高めることであると考える。

公的資金注入の効果については、飯村(1999)、 Watanabe(2007)、Montgomery and Shimizutani(2009)、

Giannetti and Simonov(2009)、深尾(2009)、長田 (2010)、中島・相馬(2010)、Allen et al. (2011)。

特別信用保証制度については、松浦・堀(2003)、中小企業庁(2000)、植杉(2008)がある。

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[5]大庫直樹(2016)「地域金融のあしたの探り方」金融財政事情研究会。

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 (http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20120528-1/01.pdf)

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 (http://www.fsa.go.jp/manual/manualj/manual_yokin/bessatu/y1-01.pdf)

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 (http://www.fsa.go.jp/news/newsj/14/ginkou/f-20021031-1.pdf)

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[13]金融庁(2003)「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」。

 (http://www.fsa.go.jp/news/newsj/14/ginkou/f-20030328-2/01.pdf)

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 (http://www.fsa.go.jp/news/19/ginkou/20070712-2.html)

[15]近藤万峰・播磨谷浩三(2009)「地域密着型金融推進行政の下における信用金庫の事業展開

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参照

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