『就実大学大学院教育学研究科紀要 2020(第5号)』 抜刷 就実大学大学院教育学研究科 2020年3月10日 発行
稲 谷 祐 理
小学生における不表出性攻撃と 思考抑制がキレる行動に及ぼす影響
Effects of Inexpressive Aggression and Thought Suppression on Going
Berserk in Elementary School Students
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小学生における不表出性攻撃と 思考抑制がキレる行動に及ぼす影響
教育臨床心理学コース 3618001 稲谷祐理
Ⅰ.はじめに
1990年代ごろから「キレる」という行動が中学生を対象に注目され始めたが,小学生に おける「キレる」という行動が,どのような要因を媒介するか検討した研究は多くはない。
本研究では,「キレる」という行動は不表出性攻撃(山崎・島井,2002)が主な要因とし て存在し,思考抑制が媒介することで「キレる」という行動が生起すると仮定した。仮説 1として,「不表出性攻撃傾向の高さが思考抑制を促進する」,仮説2として「不表出性攻 撃傾向とキレ行動を思考抑制が媒介しキレ行動を導きやすくなる」とし検討した。
Ⅱ.方法
A県の市立小学校に通う小学6年生106名(男子53名,女子53名,平均年齢は11.3歳)
に実施し,実施校の校長に許可を得て実施した。「1.キレた頻度」,「2.不表出性攻撃」,
「3.思考抑制」についての項目を記載し,調査実施校の校長と検討し表現を変更した項 目を用いて実施した。また不表出性攻撃尺度の項目をポジティブな内容に変更した6項目 をダミー項目として追加した。
Ⅲ.結果と考察
配布した児童106名(男子53名,女子53名)全員分の回答が得られたが,欠損値が多く 児童65名(男児28名,女児37名)のデータを用いた。
①キレた頻度
1度もキレたことが無い児童は全体の10%未満であり,頻度に差はあるが多くの児童が キレた経験があるといえる。
②不表出性攻撃,思考抑制尺度の因子分析
質問項目の表現を変更して行ったため,適切に不表出性攻撃と思考抑制を測定できてい るか検討するために探索的因子分析を行った。その結果,不表出性攻撃尺度,思考抑制尺 度ともに一因子が抽出できた。
③不表出性攻撃,思考抑制,キレ行動の関係
不表出性攻撃とキレ行動の関連について,思考抑制の影響を検討するために媒介分析を 行った。また思考抑制の間接効果をより正確に評価するために,ブートストラップ法(標 本数2000)を用いて95%信頼区間を計算した。不表出性攻撃からキレ行動への総合効果は 5%水準で有意だった(.27, p < .05)。媒介変数として思考抑制を組み込んでも直接効果 は5%水準で有意だった(.30, p < .05)。間接効果は-0.007(95%Cl:-0.032 – 0.005)で有 意ではなかった。
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Ⅳ.考察
結果より思考抑制が不表出性攻撃とキレ行動を媒介していないこと,不表出性攻撃はキ レ行動を促進する可能性があること,不表出性攻撃が思考抑制を促進する可能性があるこ とが示された。不表出性攻撃が思考抑制を促進する可能性について,1つ目に怒りに対し て回避的な方略をとっていることが挙げられる。怒りを抑制するために回避的な方略とし て思考抑制を用いると,思考抑制の逆説的効果が生じ,怒りに関する思考が増幅し,キレ ることにつながりやすくなる可能性がある。2つ目に気分状態との関連が挙げられる。ネ ガティブな気分が生じている状態では思考抑制の逆説的効果が生じやすくなることを明ら かにされている(野添ら,2008)。敵意を持ち不信感を抱きながら,人と接することはネ ガティブな気分を生じさせるといえる。ネガティブな気分状態では抑制に失敗しやすくな り,敵意に関連した思考が増加している可能性がある。3つ目に個人の特性との関連が挙 げられる。湯川・日比野(2003)は特性怒りが高いほど,忘却を行いやすくなることを示 した。不表出性攻撃傾向が高い児童は攻撃行動は抑制しているが,本来は怒りを感じやす いといえる。怒りの感じやすさが忘却を行うことを導きやすいということは,忘却のプロ セスの中に思考抑制が関連していることを示唆している。
不表出性攻撃と思考抑制の間に有意な係数があり,仮説1を部分的に支持する結果と なった。また不表出性攻撃傾向が高い児童ほど,これまでにキレた経験が多かったが,思 考抑制の媒介効果は無く,仮説2を部分的に支持した結果となった。
Ⅴ.引用文献
野添健太・服部雅史・嶋田洋徳(2008).思考抑制の逆説的効果と気分の相互作用 日本 心理学会大会発表論文集,72,354
山崎勝之・島井哲志(2002).攻撃性の行動科学―発達・教育編― ナカニシヤ出版 湯川進太郎・日比野桂(2003).怒り経験とその鎮静化過程 心理学研究,74(5),428
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指導教員:井芹 聖文