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地理空間技術を用いた湿原環境の平面的構造の推定

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(1)

地理空間技術を用いた湿原環境の平面的構造の推定

高田 雅之,井上 京,三島 啓雄

The estimation of the spatial structure for environment factor in the mire using GIS technology

Masayuki TAKADA, Takashi INOUE, Yoshio MISHIMA

Abstract

The spatial distribution structure of the environmental factor on hydrology, soil and vegetation was evaluated for Sarobetsu Mire in the northern part of Hokkaido. To begin with, it became clear that the space scaling of the variation differed in hydrology factor and soil factor as a result of spatial variation on the transect and semivariogram analysis according to the field study data. Next, using ALOS/AVNIR-2, ALOS/PALSAR and airborne laser data, the spatial distribution of environmental factor on hydrology, soil, vegetation and landform was estimated, and it was compared with the field study data by the multivariate analysis. As the result, it was shown that estimated spatial distribution reflected actual condition of the field.

Keywords:

湿原(Mire) ,サロベツ

(Sarobetsu),ALOS

,航空機レーザ

(Airborne laser)

1.

  はじめに

自然生態系の適切な保全管理を目的に対象地域の現状 を把握する場合,従来の現地調査による地点情報の取得 に加えて,近年技術の発達が著しい

GIS

やリモートセン シングによる面的な情報の活用が望まれる.一方,現実 の生態系においては様々な環境因子が相互に関連し合い,

複雑に空間変動しながら面的な広がりをなしている.リ モートセンシング情報等の活用に当たっては,現地の複 雑な状態を踏まえ,これをできる限り再現できるような,

環境因子の面的分布推定手法の確立が望まれる.

そこで本研究では,泥炭地湿原を対象として各種環境

―――――――――――――――――――――――――

高田雅之:〒060-0819 札幌市北区北

19西12

北海道環境科学研究 センター,

Tel; 011-747-3566,email; mtakada@hokkaido -ies.go.jp

因子の現地調査情報から空間変動の特徴を明らかにする とともに,面連続的な空間分布情報を構築する手法を提 起し,現地情報と空間情報との比較検討を行った.

泥炭地湿原は過湿または低温条件下で植物の分解が抑 制され形成される特異な環境系で,気象緩和や洪水調節,

水質浄化,産業の対象といった機能・効用を有するほか,

近年は地球規模の炭素蓄積効果が注目されている.生態 系としての貴重性・脆弱性から保護の対象となる泥炭地 湿原が増加する一方で,様々な人為影響による劣化も進 み,近年各地で自然再生の取り組みが始められ,広域的 視点に立った保全管理推進の観点から,これを効果的に 支援するための空間変動把握手法が求められている.

本研究をとおして,実用性の高い空間分布推定手法を

提起し,それをもとに環境因子の空間変動特性を明らか

(2)

にするなど,泥炭地湿原の効果的な保全管理に寄与する ことを狙いとするものである.

2.

  研究方法

2.1.

対象地域

  北海道北部の豊富町及び幌延町にかけて広がるサロ ベツ湿原の北部域「上サロベツ地域」(対象地面積

1,546ha

)を対象とした.サロベツ湿原は日本最大規模

の高層湿原を有し,利尻礼文サロベツ国立公園の一部 として保護されている.その一方で周縁部の河川改修 や周囲の農地化によって,乾燥化とそれに伴うササ植 生の拡大が近年懸念されており,環境省及び北海道開 発局により自然再生の取り組みが現在進められている.

対象地の標高は

5

7m

,地形はほぼ平坦で東側から西 側に向かって緩やかに下る傾斜(約

0.1

〜0.3%)を有 している.植生は東西で大きく異なり,東半分はミズ ゴケ群落を中心とする高層湿原が,西半分はササ草原 が大半を占め,両者の境界にはスゲ植生が見られる.

2.2.

現地情報の取得

2007

〜2008 年において水文・土壌・植生・地表面粗 度に関する現地調査を行った.

水文情報として,地下水位及び土壌水分について自 記式圧力変換センサ及び

TDRを用い,それぞれ33

地 点,14 地点において

1

時間間隔で連続観測した.次に 土壌の理化学因子として

71

地点で表層土壌(0〜

20cm)を採取し,乾燥体積密度(g cm-3

)及び有機物

含有率(強熱減量:%)を計量するとともに,

CN

コ ーダーにより炭素含有率(%)及び窒素含有率(%)

を分析し,乾燥体積密度を乗じて炭素体積含有量及び 窒素体積含有量(g cm

-3

)を算出した.また

17

地点に おいてピエゾメータ法,オーガホール法,ゲルフパミ アメータ法によって現場透水係数を計測した.次に植 生情報として植生相観及びササの高さを,それぞれ

123

地点,72 地点において調査した.さらに

28

地点 において地表面粗度を計測した.なお,地下水位観測 を行っている

33

地点では全ての項目を調査している.

2.3.

空間分布の推定

  まず航空レーザ測量データ(2003.5.20 ,環境省・朝 日航洋㈱)を用いて,標高(3×3m 内の最低値)及び

傾斜を求めるとともに,

10

×10m 内の平均値と最低値 の差を植生の高さ,標準偏差を植生粗度,標高から求 めた標準偏差を地表面粗度とした.植生の高さ及び地 表面粗度については現地情報により精度を検証した.

また標高から集水面積を求め,水文条件を表すパラメ ータとした.

  次に

ALOS/AVNIR-2(Level 1B2,2006〜2007年

9

シーン)を反射率に変換し,植生を表す指標とし て

NDVI

(正規化植生指数:NIR-R /NIR+R )の平均 値及び標準偏差を算出した.

  さらに

ALOS/ PALSAR(Level 1.5

,2006 〜2007 年の

18

シーン) を後方散乱係数に変換し平滑化処理 (5

×5 pixel 平均)を行い,上記で作成した植生の高さ,

植生粗度,地表面粗度,

NDVI

の情報と併せて重回帰 分析により土壌理化学因子(乾燥体積密度,炭素含有 率,窒素含有率,炭素体積含有量,窒素体積含有量,

有機物含有率) の分布を推定した (Takada et al.,

2009

) .

2.4.

空間変動と相関特性

  対象地の中地区及び南地区にそれぞれ約

2,000m,

2,800m

の東西の観測ラインを設定し,現地調査で得た

地下水位,土壌理化学因子,透水係数,植生相観及び ササの高さのラインに沿った変化について分析した.

次に二次元セミバリオグラムにより空間相関分析を 行った.地下水位観測を行っている

33

地点における,

地下水位変動(平均値,最小値,変動幅,標準偏差) , 土壌理化学因子(乾燥体積密度,炭素含有率,窒素含 有率,

CN

比,炭素体積含有量,窒素体積含有量,有 機物含有率)を用いて,地点間の距離に依存するセミ バリアンスとラグ(サンプリング間隔)の関係から求 まる相関係数及びレンジ(空間依存性の限界距離)と,

シル(S :最大値に達するレベル≒分散)及びナゲット

(N :誤差)から計算されるQ値(Goerres et al.,

1998

Q = (S−N)

/S)により評価を行った.なお

Q

値は

1

に近いほど誤差が少ないと評価できる.

2.5.

多変量解析による現地情報と空間情報の比較

地下水位観測を行っている

33

地点における現地情

報と,推定された空間分布情報をそれぞれ多変量解析

し比較した.使用した現地情報は土壌理化学因子(乾

燥体積密度,炭素体積含有量,窒素体積含有量,CN

(3)

比,有機物含有率)及び水文因子(地下水位の最低値,

平均値,変動幅,標準偏差)で,空間分布情報につい ては土壌因子(乾燥体積密度,炭素体積含有量,窒素 体積含有量,有機物含有率,透水係数) ,地形因子(傾 斜) ,植生因子(植生の高さ,NDVIの平均値及び標準 偏差) ,及び水文因子(集水面積の平均値及び標準偏差)

を,半径

15m

の平均値をとった.

解析はまずクラスター分析(重心法)を行い,植生 タイプと距離(ユークリッド距離)を考慮してそれぞ れ

5

つのグループに区分した.次に同じ属性データを 用いてそれぞれ主成分分析を行い,各グループの主成 分空間上の位置,及び主成分に寄与している因子から,

グループごとの特性について,両者の結果を比較した.

3.

結果と考察

3.1.

空間分布の推定

  航空レーザ測量データから推定した植生の高さ及び 地表面粗度を現地情報により検証した結果,相関係数 はそれぞれ

0.74

,0.76 となり,現地の状況を反映して いることが示された(Takada et al.,2009) .

また,

ALOS/ PALSAR

から推定した土壌理化学因子

の分布について,別に現地調査を行った

47

地点のデー タを用いて検証した結果,

1

ないし

2

データを除いて 分散から求めた

95

%の信頼区間内にいずれも収まって おり信頼性を有するものと判断された.

3.2.

空間変動と相関特性

1

に西端を基点とした南地区の東西ラインに沿っ た土壌,植生,水文に関する代表的項目の変化を示し た.その結果,植生に応じて増減する傾向が見られる とともに,土壌理化学因子の変動に対して地下水位の 空間変動が緩慢である傾向が示された.このことは中 地区の東西ラインについても同様であり,環境因子に よって異なる空間スケールで変動することが示された.

次にセミバリオグラムによる空間相関分析より得ら れたレンジ,相関係数,及びQ値を表

1

に,またレン ジとQ値との関係を図

2

に示した.その結果,空間依 存性の限界を示すレンジは地下水位で

2000m

前後,土 壌理化学因子で

700〜1500m

と異なるレベルを示した.

このことは,水の動きの方がより空間依存性の範囲が 広いことを意味し,土壌理化学因子の変動がより局地 的であることを示唆するものであり,上記の現地情報 によるライン変化における傾向と一致した.これは水 文因子が地形に依存しやすい性質をもつことを表すも のと考えられる. また

Q

値については, 乾燥体積密度,

炭素含有率,窒素含有率,窒素体積含有量で

0.8

前後 と相対的に高い数値が見られ誤差が少ないと判断され た.相関係数は水文因子で概ね

0.45

〜0.54 であったの に対して,土壌因子では

0.25

0.60

と幅が見られた.

以上より,水文因子と土壌理化学因子とで空間的な相 関範囲が異なること,またいずれの因子とも空間的に 一定の相関をもった環境連続性が存在することが明ら かになった.

  図

1

  現地情報の東西ラインに沿った環境変動(南地区)

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

0 500 1 0 0 0 1 5 0 0 2000 2 5 0 0 3000

距離 (m)

体積密度 窒素含有率 炭素含有率 窒素体積含有量 炭素体積含有量

(1)

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2

0 5 0 0 1000 1500 2000 2500 3000

距離(m)

最低水位 平均水位 水位変動幅

(2)

(4)

1

  セミバリオグラム分析の結果

2

  レンジとQ値との関係

3.3.

多変量解析による現地情報と空間情報の比較

  クラスター分析によるグループ区分の結果,現地情 報及び空間情報ともに植生タイプに対応した区分がな された.これに基づき,主成分分析で得られた第一主 成分と第二主成分をグループ別にプロットした結果を 図

3

に示した.現地情報では,第一主成分は炭素体積 含有量,窒素体積含有量,及び地下水位に関する因子 を,第二主成分は乾燥体積密度と有機物含有率を示し たのに対して,空間情報では,第一主成分は炭素体積 含有量,窒素体積含有量,乾燥体積密度及び透水係数 を,第二主成分は

NDVI

と集水面積に関する因子を示 した.第二主成分までの累積寄与率は現地情報で

82.3%,空間情報で72.8%となった.

これらのことから,環境総体を考えた区分において,

いずれの情報も土壌理化学因子が最も寄与しているこ とが明らかとなった.また両者が同様の傾向を示した ことは,空間情報による特性評価が現地の実態を反映 していることを裏付けるものと言え,実用的な空間分 布推定手法を提起できたと考える.

4.

  おわりに

本研究の結果,各種環境因子の空間分布を推定する

3

  主成分分析の結果

実用的な手法を提起できたとともに,水文因子と土壌 因子の空間変動特性の違いを明らかにすることができ た.今後はこれらの空間情報を用いて,湿原の保全管 理に向けた環境変化の兆候や偏在性の検知,人為的影 響の有無と程度,空間技術を用いたモニタリング方法 などについてさらに研究を進める考えである.

謝辞

宇宙航空研究開発機構(JAXA)及び財団法人リモート・

センシング技術センター(RESTEC)には衛星画像を提供い ただきました.また現地調査及び解析においては,環境省北 海道地方環境事務所,佐々木伸宏氏,島崎暁啓氏,北海道環 境科学研究センター棗庄輔研究員に協力いただきました.こ こに記して心より謝意を表します.

参考文献

Görres JH, Dichiaro MJ, Lyons JB, Amador JA(1998)

Spatial and temporal patterns of soil biological activity in a forest and an old field. Soil Biol. Biochem., 30, 219-230.

Takada, M., Mishima, T., Natsume, S.

(2009)

Estimation of surface soil properties in peatland using ALOS/PALSAR.

Landscape and Ecological Engineering, 5:1, 45-58.

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

0 500 1000 1500 2000 2500 レンジ(m)

Q 水文因子

土壌因子

(1)  現地調査情報

-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5

-4 -2 0 2 4 6 8

第一主成分

第二主成分

ササグルーフ ゚ ス ゲグループ(ヌマガヤ)

ミ ズゴケグルーフ ゚ ス ゲグルーフ ゚(ホロムイスケ ゙)

ヨシグルーフ ゚

(2)  空 間 情 報

-5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5

-4 -2 0 2 4 6 8

第一主成分

第二主成分

ササク ゙ループ ササ-ス ゲグルーフ ゚ ミス ゙ゴケグループ ス ゲ-ヨシグループ ヨシ-ササグループ

レンジ( m) 相関係数 Q値

乾燥体積密度 1190 0.25 0.82

C含有率 2150 0.38 0.92

N含有率 1190 0.55 0.85

CN比 1470 0.43 0.54

C体積含有量 1190 0.31 0.39

N体積含有量 1190 0.60 0.77

有機物含有率 708 0.31 0.65

地下水位( 平均値) 2270 0.54 0.69

地下水位( 最低値) 1820 0.45 0.62

地下水位( 変動幅) 2190 0.45 0.54

地下水位(標準偏差) 2240 0.53 0.60

(5)

表 1   セミバリオグラム分析の結果  図 2   レンジとQ値との関係  3.3.  多変量解析による現地情報と空間情報の比較   クラスター分析によるグループ区分の結果,現地情 報及び空間情報ともに植生タイプに対応した区分がな された.これに基づき,主成分分析で得られた第一主 成分と第二主成分をグループ別にプロットした結果を 図 3 に示した.現地情報では,第一主成分は炭素体積 含有量,窒素体積含有量,及び地下水位に関する因子 を,第二主成分は乾燥体積密度と有機物含有率を示し たのに対して,空間情報で

参照

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