米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる 学区レベルの団体交渉 : デンバー学区の事例調査
著者 岩月 真也
雑誌名 評論・社会科学
号 120
ページ 21‑54
発行年 2017‑03‑20
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015484
要約:本稿の課題は,デンバー学区のProCompと呼ばれる業績給の制度制定をめぐる学区 団体交渉を通して,ProCompがどのように改定され制定されたのかを解明することであ る。本稿は教員組合の委員長に対するインタビュー記録及び収集資料に基づいている。
団体交渉を通じて,ProCompの報酬は保障されると同時に拡大された。次の2点が指摘 できる。第一に,団体交渉はProCompの設計,改定,制定をめぐる両者のコンフリクトを 処理する役割を果たしている。第二に教員組合は労働力の集団的取引という伝統的な労働 組合としての性格を有している。
今後の研究課題として,米国の報酬制度の理解のためには,教師の仕事を規定する仕組 みの解明が必須であることを提示した。
キーワード:アメリカ,給与制度,ProComp,労使関係
目次
1.研究の課題と方法 2.団体交渉機構
2-1.団体交渉の接点 2-2.交渉現場の風景 2-3.交渉日程
3.団体交渉を通じた提案と合意
3-1.DCTA 3月提案(2015年3月16日)
3-2.DPS 3月提案(2015年3月26日)
3-3.DCTA 4月提案(2015年4月9日)
3-4.覚書(2015年4月26日)
3-5.最優先校報酬の新設とDCTAの非難
3-6.最終協約(2015年12月21日)
4.前進の程度と組合規制
────────────
†同志社大学研究開発推進機構・社会学部特別任用助手
*2016年12月9日受付、2016年12月9日掲載決定
論文
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定 をめぐる学区レベルの団体交渉
──デンバー学区の事例調査──
岩月真也
†21
1.研究の課題と方法
日米における教員の給与制度,評価制度,労使関係は何が決定的に違うのか,なぜ違 うのか。この問いに答えるために,日本の教員給与制度,評価制度の仕組みについては 岩月(2008, 2015)が解明し,米国教員の給与制度,業績給,評価制度の仕組みについ ては岩月(2016 a, 2016 b)がすでに解明した。しかし,米国教員の給与制度,業績給,
評価制度の設計,運用,改定,制定を定める手続きの仕組みである学区レベルの団体交 渉の実態の解明については課題として残されていた。
米国教員の団体交渉に対するこれまでの研究の不備については岩月(2016 c)が指摘 している。要約すれば,主として松田(1966),太田(1988),Lieberman(1997),榊・
中嶋・笹井(2003),Baratz-Snowden(2007),高橋(2011)らの米国教員の団体交渉に 対する研究は,学区レベルの団体交渉に焦点が当てられていない。米国教員の給与制 度,業績給,評価制度の設計,運用,改定を制定する手続きは学区レベルの団体交渉に ある。この学区レベルの団体交渉に焦点を当てなければ,制度がどのように設計され,
どのように運用することとされ,さらにどのように改定され制定に至るのかが不明瞭と なる。学区の団体交渉なしには賛否の多い業績給の安定的運用はなしえない。Baratz-
Snowden(2007)は米国における様々な地域の業績給の事例を紹介した上で,業績給の
制定手続きについて,正しく次のように指摘している。「教師の合意が不可欠である。新たな制度を教師に強制させることはできない。教師とともに構築しなければならな い。新たな制度の設計,評価,運用に関するあらゆる側面に関して教師は関与する必要 があり,その制度は最終的に団体交渉に基づく覚書や協約に位置づけられなければなら ない」(Baratz-Snowden 2007 : 23)。なぜなら,理想的な業績給が構想されたとしても,
その制度の設計,評価,運用に関する細部が詰められていなくては,制度は絵に描いた 餅に帰すことになるからである。「悪魔は細部に宿る
The devil is in the details」(Baratz- Snowden 2007 : 15)という業績給に対する彼の着目は 優 れ た 観 察 で あ る。し か し,
Baratz-Snowden
は団体交渉に基づく覚書や協約が業績給の制定の要であることを正しく 認識しながらも,観察の視点を団体交渉の実態に当てることはなかった。この点で彼の 踏み込みは甘い。他の研究についても部分的には業績給が労使の「共同」や「連携」に 基づくことを指摘しているが,その「共同」や「連携」の具体的状況である学区レベル の団体交渉の観察は乏しい(1)。このようにこれまでの研究では,米国教員の業績給を論 じる上で最も肝心となる学区レベルの団体交渉の実態については十分に解明されてこな かった。したがって,学区レベルの団体交渉を丁寧に観察する必然性がここにある。本稿の課題は米国教員の業績給の制度制定をめぐる学区レベルの団体交渉を通して,
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 22
教育委員会と教員組合とがどのような提案を行い,どのように妥結したのか,その結 果,業績給の仕組みがどのように改定され制定されたのかを解明することにある。その 上で,団体交渉が業績給に果たす役割は何か,また,教育委員会とともに教師の代表と して「共同的」に制度を構築する教員組合はどのような性格を有しているのかについて 検討する。
本課題への接近方法は,伝統的な労使関係論の枠組みを用いることが適当である。労 使関係論は仕事と報酬に関する制度を分析の対象とし,制度を実体的ルールと手続的ル ールとに分類している(Dunlop 1958,中村・岡田
2001)。本稿は業績給という制度を
分析の対象とし,手続的ルールの解明に努めた。本稿が焦点を当てた手続的ルールとは 学区レベルの団体交渉に他ならない。研究方法は
2015
年11
月から12
月に実施した米国現地調査と2016
年3
月に実施し た米国現地調査に基づいた事例研究である。現地調査地はコロラド州デンバー学区であ る。デンバー学区はProComp
と呼ばれる業績給を運用しており,その設計,運用,改 定,制定をめぐってデンバー教員組合(Denver Classroom Teachers Association,以下で はDCTA
と称す)とデンバー公立学校区(Denver Public Schools,以下ではDPS
と称 す)が団体交渉を行っている。調査はDCTA
の委員長に対するインタビュー記録であ る。インタビュー・リストは表1
に記した通りである。なお,本研究は科学研究費補助 金(研究課題名:「日米における教育力の組織的基盤の解明」2015年8
月〜2017年3
月,研究活動スタート支援)の研究成果の一部である。本稿の構成については,2節において,学区団体交渉機構の接点,交渉現場の風景,
交渉の日程について概観する。3節において,DCTA 3月提案,DPS 3月提案,DCTA 4 月提案,2015年
4
月23
日に締結された覚書,2015年6
月3
日にDPS
が発表した新た な報酬,2015年12
月21
日に締結された協約それぞれの内容を検討する。4節におい て,DCTAとDPS
の提案と妥結結果とを整理し交渉の前進の程度を明らかにする。加 えて,デンバー学区の団体交渉の果たす役割とDPS
と共同的に制度を構築するDCTA
の性格とを検討し,今後の研究課題を示すこととする。表1 インタビュー・リスト
対象者 所属 年月日 調査項目
委員長 DCTA 2015/11/27 給与制度,ProComp,団体交渉
委員長 DCTA 2015/11/30 給与制度,ProComp,団体交渉
委員長 DCTA 2015/12/4 給与制度,ProComp,団体交渉
委員長 DCTA 2016/3/4 給与制度,ProComp,団体交渉
委員長 DCTA 2016/3/7 団体交渉(ゲストとして参加)
委員長 DCTA 2016/3/9 給与制度,ProComp,団体交渉
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 23
2.団体交渉機構
2
節ではデンバー学区における団体交渉の接点,実際の交渉現場の風景,交渉の日程 について概観する。まず,団体交渉の接点に位置する主体から言及しよう。2-1.団体交渉の接点
デンバー学区の教育政策の全般を担っているのが
DPS
である。DPS の組織はどうな っているのか。教育政策を策定するのは教育委員会(DPS Board of Education)である。その教育委員会は教育長(Superintendent)を選出し,その教育長がデンバー学区の教 育政策の最終責任者となる。「DPSのトップは教育長です。教育委員会が教育長を雇い ます」(2)。このように教育長をトップとする教育委員会によってデンバー学区の教育政 策の方針が定められることとなる。
教員の給与制度や
ProComp
に関わるDPS
の部署は人的資源部(Department of Hu-man Resources)である。人的資源部は DPS
に設置されている複数の部の一つである。人的資源部は教育委員会が策定した政策を実施する役割を担っている。とはいえ,人的 資源部と教育委員会は頻繁に意思疎通を行っており,人的資源部は実質的にはデンバー 学区の教員の給与制度や
ProComp
に関する政策の立案から実施について関与すること となる。委員長によると,「教育委員会には独自性がある。彼らは人的資源部と話し合 います。しかし,政策は教育委員会が作ります。これを学区に導入すべきだというよう に。それで人的資源課はその政策を実施しなければなりません」(3)。このように給与制度や
ProComp
に関する政策については,教育委員会と人的資源部とが議論し,制度の立案や実施の役割を果たしている(4)。
では,実際に
DPS
の誰がDCTA
と交渉するのか。DCTAと交渉するのは,DPS団 体交渉チーム(DPS Bargaining Team)である。DPS団体交渉チームは,教育長,人的 資源部長(Chief Human Resources),2名から4
名の人的資源部担当者,DPS法務部の 弁護士(Lawyer, Legal Department),校長から構成されている。これらDPS
団体交渉チ ームの選出方法については,「教育長がチームを任命する」(5)こととされている。ただし,DPS団体交渉チームの全メンバーが団体交渉に毎回出席するわけではない。
毎回出席するのは人的資源部の担当者と法務部の弁護士である。適宜出席するのは,人 的資源部長,校長,教育長である。教育長については,交渉の妥結時に出席するのが慣 例である。とりわけ,団体交渉の際の
DPS
団体交渉チームの主要メンバーは,人的資 源部の担当者である。彼らは団体交渉の情報を人的資源部長や教育委員会へ提供し,次 回の団体交渉に臨むこととなる。米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 24
DCTA
側の交渉の主体についても確認しておこう。団体交渉の接点に位置するのは,DCTA
団体交渉チームである。「DCTAの団体交渉チームのメンバーは,委員長,副委 員長,事務局長,小学校教師の代表者,中学校教師の代表者,高校教師の代表者,スク ールサイコロジストの代表者,スクールナースの代表者,スクールソーシャルワーカー の代表者,軍学校代表の陸軍将校(Military Officer)により構成されている。ただし,2016
年3
月9
日時点においては,スクールナースは不在である」(岩月2016 c : 50)。
以上,DPSと
DCTA
の団体交渉の接点はDPS
団体交渉チームとDCTA
団体交渉チ ームであり,表2
のように整理することができる。DCTA側の人数の多さが際立って いる。両者の力関係を表しているのかもしれない。団体交渉の主たる争点は,ProCompの報酬額,報酬獲得条件,評価方法,報酬指標 額等の設計,改定,制定である。その他,賃金,労働条件についても交渉されるけれ ど,中心的な争点は
ProComp
である。「一番大きいのはやはりProComp
だ。ProComp は常に改定している。チェンジ,チェンジ,チェンジだ。最後の変更は2013
年だった。今年の末に,また新たに変更することになるかもしれない。……ProCompは大きな大 きな争点なんだ」(6)。このように,業績給の設計,報酬配分,報酬獲得条件,評価方法 等を
DCTA
とDPS
とが交渉して決定できる点は日本と決定的に異なる。日本では管理 運営事項ということでデンバーのような交渉は制限されている。なお,団体交渉チーム間の接点とは別に,DPS 教育長と
DCTA
委員長との個人的な 会合がある。時に,「教育長は私と一対一で会います。彼は私とだけ会いたいのです。彼は全員とは会いたくない。そして,ある合意をします」(7)。このように,交渉は団体 交渉の場以外にもトップ同士で行なわれることもある。
しかしながら,デンバー学区の
ProComp
をめぐる交渉の主軸は,DPS 団体交渉チー ムとDCTA
団体交渉チームとの交渉である。両者の交渉を通じて,ProCompの仕組み が形作られていくのである。次に実際の交渉の場へと視点を移してみよう。表2 デンバー学区における団体交渉の接点
DPS団体交渉チーム DCTA団体交渉チーム 教育長(妥結時)
人的資源部長(適宜)
人的資源部担当者(2〜4名)
法務部弁護士(毎回)
校長(適宜)
委員長 事務局長 副委員長(適宜)
小学校教師代表(1〜2名)
中学校教師代表(1〜2名)
高校教師代表(1〜2名)
スクールサイコロジスト代表 スクールナース代表(不在)
スクールソーシャルワーカー代表 軍学校代表
注:2016年3月9日時点の構成である。
出所:インタビュー調査より(DCTA委員長,2016年3月4日,2016年3月9日)。
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2-2.交渉現場の風景
2016
年3
月7
日の17
時から19
時にかけて,デンバー学区のある高校の会議室にて,DPS
とDCTA
の団体交渉が行われた。私は団体交渉の場にゲストとして参加する機会 に恵まれた。ここに団体交渉の風景を記しておきたい。団体交渉に関わる実際のメンバーは図
1
の通りである。団体交渉チームの人数は圧倒 的にDCTA
の方が多い。図1
の右側および下はDCTA
団体交渉チームとDCTA
側の ゲストである。私を除くゲストをDCTA
のメンバーに加えると,DCTA側のメンバー 数の合計は14
人である。一方,DPS のメンバーの合計は4
名であった。DCTA
団体交渉チームのメンバーは委員長,副委員長,事務局長,弁護士,小学校 教師代表,中学校教師代表(2名),高校教師代表(2名),スクールソーシャルワーカ ー代表,軍学校代表である。事務局長,弁護士はDCTA
の委員長に雇われている。こ のDCTA
団体交渉チームのメンバーに加えて3
名のゲスト(高校教師,スクールドラ イバー組合委員長(President of Transportation),不明)がDCTA
側に加わっている。ゲ ストは団体交渉の場において発言する権利を与えられていない。発言権を有するのは,あくまでも
DCTA
団体交渉チームのメンバーのみである。一方,DPS 団体交渉チーム図1 交渉の場における構成と配置
注:図 中 の 略 語 の 意 味 は 次 の 通 り で あ る。「M:」:男 性,「F:」:女 性,「G」:ゲ ス ト,
「MO」:軍学校代表,「HSR」:高校教師代表,「MSR」:中学校教師代表,「ESRC」:小学校 教師代表兼議長,「Pre」:委員長,「VP」:副委員長,「SSW」:スクールソーシャルワーカ ー代表,「ED」:事務局長,「Law」:弁護士,「PTG」:スクールドライバー組合委員長(ゲ スト),「HR」:人的資源部担当者,「Pri」:校長,「Arb」:調停者,「PC」:パソコン。
出所:団体交渉への参加記録(DPSとDCTAの団体交渉,2016年3月7日)及びインタビュ ー記録(委員長,2016年3月9日)より作成した。
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 26
のメンバーは,人的資源部(2名),法務部弁護士,校長であった。校長は当日の争点 が「包 括 的 専 門 職 評 価」(Comprehensive Professional Evaluation,以 下 で は
CPE
と 称 す)(8)や「児 童・生 徒 の 学 習 目 標」(Student Learning Objectives,以 下 で はSLO
と 称 す)(9)に関わる交渉だったので,出席したものと考えられる。CPE に使用される「効果 的教育実践」(10)(Leading Effective Academic Practice,以下ではLEAP
と称す)の「観 察」項目および「専門職気質」項目とSLO
の評価者は校長であるからである。図上中 央は中央政府の調停者である。交渉を促進する中立の立場にある(11)。出席者の男女比についても確認しておこう(12)。DCTA側は,ゲストを除くと,11名 のうち
5
名が女性である。ゲスト3
名のうち1
名が女性であった。DPS 側の4
名のう ちの2
名は女性であった。男女比に大きな偏りはないように思われる。調停者は男性で あった。当日の争点は,SLOの評価基準と
CPE
での授業観察後のフィードバックのあり方に ついてである。17時に始まり,まず,DCTAが提案をする。その後,DPSがその提案 に対して質問をする。45分のやり取りであった。ここでいったん休憩を入れる。お互 いに席を外して,1時間程度の間,作戦を考える。18時50
分より再開し,次はDPS
が 提案を行い,その提案に対してDCTA
が質問をする。SLOについては評価の際の判定 基準(criteria)をどのように明確化すべきかが話し合われていた。CPEでの校長による 授業観察について,観察時間の短さ,フィードバックの遅さについて話し合われてい た。また,CPEにおいて「基準未満」(not meeting)の評価を受け取った教師の割合を 示すようDCTA
は要求していた。以上が団体交渉の場の簡単なスケッチである。次に,このような交渉が年間を通じて どの程度行われているのかを確認しておきたい。
2-3.交渉日程
DCTA
とDPS
の団体交渉は7
月の休暇期間を除き,月に1
度かそれ以上の頻度で行 われている。交渉の状況によっては月に複数回行われることとなり,最低月に1
回,時 に2
回,3回,4回,毎週ということになる。一方,状況によっては,数か月間,交渉 が行われないこともあるという。「基本的には8
月から交渉を開始します。ただし,7 月は交渉しません。休暇です。7月以外は年中交渉を続けています。かつて,だいたい1
年間,我々は交渉しなかった時期もありました」(13)。このように,団体交渉は通常は7
月を除き年間を通じて行われている。なぜ,団体交渉の頻度は月によってばらつきが生じるのか。とりわけ,交渉の頻度が 増加する月は
DCTA
とDPS
との意見が合わない時である。その際,どのようにして意 見の一致までたどり着かせているのか。「我々はDPS
団体交渉チームとの交渉を延長す米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 27
る。今日交渉がまとまらなければ来週にまた交渉をする。それを続けているとどういう わけか合意に至る。時には,時間がかかる。今年の年末まで今年の賃金は決まらないか もしれない。時々だけどね。とにかく,DPSとひたすら議論を続ける。合意するまで 議論する」(14)。このように,DCTAと
DPS
との意見の不一致はとにかく根気強く交渉 を続けて合意が図られている。なお,ここでのインタビュー実施日は2015
年11
月27
表3 団体交渉と提案・妥結の日程 2015年1月8日(木):団体交渉
2015年1月12日(月):団体交渉 2015年1月13日(火):団体交渉 2015年2月11日(水):団体交渉 2015年2月18日(水):団体交渉
2015年3月16日(月):団体交渉,DCTA 3月提案を提示 2015年3月23日(月):団体交渉
2015年3月26日(木):団体交渉,DPS 3月提案を提示 2015年4月9日(木):団体交渉,DCTA 4月提案を提示 2015年4月20日(月):団体交渉
2015年4月23日(水):覚書の締結 2015年5月6日(水):団体交渉 2015年5月7日(木):団体交渉 2015年5月28日(木):団体交渉 2015年6月1日(月):団体交渉
2015年6月3日(水):DPSが「最優先校報酬」の導入を発表 2015年8月17日(月):団体交渉
2015年8月26日(水):団体交渉 2015年9月1日(火):団体交渉 2015年9月14日(月):団体交渉 2015年9月23日(水):団体交渉 2015年9月29日(火):団体交渉 2015年10月5日(月):団体交渉 2015年10月28日(水):団体交渉 2015年11月16日(月):団体交渉 2015年12月2日(水):団体交渉 2015年12月9日(水):団体交渉
2015年12月16日(水):暫定協約の発表,暫定協約への投票開始(12月16日〜21日)
2015年12月21日(月):協約の締結 2016年2月22日(月):団体交渉 2016年3月7日(月):団体交渉 2016年3月21日(月):団体交渉 2016年4月11日(月):団体交渉 2016年4月18日(月):団体交渉 2016年5月2日(月):団体交渉 2016年5月16日(月):団体交渉 2016年5月25日(水):団体交渉
出所:インタビュー記録(DCTA委員長,2016年3月9日),PAST SESSIONS-2014-15 School Year(16), PAST SESSIONS-2015-16 School Year(17)より作成。
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 28
日であり,本来ならば,2015-16年の
ProComp
報酬は,2015-16年の当初に支払われて いるはずであった。しかし,2015-16年のProComp
報酬の配分方法が一部合意に至っ ていなかったので,ProComp報酬の一部が支給されていなかった。その配分方法が合 意に達したのは2015
年12
月21
日である。この点については後述する。団体交渉の日程については表
3
の通りである。表3
は確認することのできた2015
年1
月から2016
年5
月までの日程である。そこには団体交渉の実施日に加えて,DCTA とDPS
の提案提示日,覚書と協約の締結日及び後述する「最優先校報酬」(Highest Pri-ority Incentives)
(15)の導入発表日についても記した。次節以降,デンバー学区の団体交渉は,2015年
3
月16
日のDCTA 3
月提案,2015 年3
月26
日のDPS 3
月提案,2015年4
月9
日のDCTA 4
月提案,2015年4
月23
日に 締結された覚書,2015年6
月3
日に発表された「最優先校報酬」,2015年12
月16
日 に暫定協約が締結され同年12
月21
日に締結された最終協約に沿って論じることとす る。この間,DCTAとDPS
はどのような提案を行い,それらの提案はどのように妥結 されたのかについて論じることとする。3.団体交渉を通じた提案と合意
3
節 で はDCTA 3
月 提 案,DPS 3月 提 案,DCTA 4月 提 案,2015年4
月23
日 覚 書,2015
年6
月3
日発表「最優先校報酬」,2015年12
月21
日最終協約それぞれの内容を 確認する。DPSとDCTA
は何を提案していたのか,それらの提案はどのように妥結さ れたのか,その結果,ProCompはどのように改定されることとなったのか。DCTA 3月 提案から確認しよう。3-1.DCTA 3
月提案(2015年3
月16
日)2015
年3
月16
日の団体交渉において,DCTA団体交渉チームがDPS
団体交渉チー ムに提示した提案内容は表4
の通りである。2015
年3
月16
日のDCTA 3
月提案は(1)協約延長,(2)報酬獲得条件の維持,(3)「CPE 報酬」の保障と拡大,(4)「期待の凌駕報酬」(Exceed Expectations Incentive)(19),
「高成長校報酬」(High Growth Schools Incentives)(20),「高業績校報酬」(Top Performing
Schools Incentives)
(21)の保障と配分方法の協議,(5)賃上げに分類できる。(1)協約延長に関する提案は①と②である。①では
ProComp
協約を2015
年12
月20
日まで延長するよう提案し,②基本協約を2019
年8
月31
日まで延長するよう提案して いる。(2)報酬獲得条件の維持に関する提案は③である。注目すべき点は,ここでは
2015-
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 29
表4 DCTA 3月提案
ProCompは次のように改訂されるものとする。
①ProCompの協約は2015年12月20日まで延長される。
②基本協約はさらに2019年8月31日まで延長される。
③2015-2016年度の間,DPSがSLOの手法を継続する場合,SLO/SGOの報酬は2014-2015年度に使用して いたSLO Engagement Participation Rubricに従って獲得されるものとする。DPSがSLOの実施を継続し ない場合,SGOの報酬は2014-2015年度以前に実施していたSGO報酬の手法に戻されるものとする。
④a 2014-2015年度の間,ProComp下のCPE報酬のための「満足」( satisfactory )の規定は,2015年6月 5日の時点において,改善計画(Remediation Plan/PIP)中ではない教師とする。しかし,2015年6月5日 の時点において改善計画中であるけれど,その計画をみごとに終えた教師はその計画を終えた時点で「満 足」と判断されるものとし,その計画を終えた日以降,2014-2015年度のCPE報酬の資格が与えられる ものとする。
④b 2015-2016年度の間,ProComp下のCPE報酬のための「満足」の規定は,2016年6月3日の時点にお いて,改善計画中ではない教師と,LEAPもしくはSSP-Growth and Performance System(SSP GPS)にお いて,「接近」(approaching),「効果的」(effective),「卓越」(distinguished)の評価を受けた教師とする。
しかし,2016年6月3日の時点において改善計画中であるけれど,その計画をみごとに終えた教師はそ の計画を終えた時点で「満足」と判断されるものとし,その計画を終えた日以降,2015-2016年度のCPE 報酬の資格が与えられるものとする。
④c 2014-2015年度に獲得した報酬から,CPE報酬は年に1度の評価サイクルに調整するよう改定される ものとする。CPE報酬を受け取る基準を満たし,その資格を有する終身教員(non-probationary teachers)
は3年に1度の報酬指標(index)の3% 分ではなく1年ごとに報酬指標の1% 分の報酬を受け取る。
④d 終身教員が再調整以前の評価サイクルの下で2015年9月に3% 分の増加の権利を有していた場合,そ の教員は2015年9月に3% 分の増加を受け取る資格を有し,2015-2016年にCPE報酬のための1年ごと の評価サイクルを開始する。
③e 終身教員が再調整以前の評価サイクルの下で2015年9月に2% 分の増加の権利を有していた場合,そ の教員は2015年9月に2% 分の増加を受け取る資格を有し,2015-2016年にCPE報酬のための1年ごと の評価サイクルを開始する。
④2015年4月より,DCTAとDPSは別紙A(基本協約の条項10)を含めて,同僚支援・評価の覚書(the Peer Assistance and Review MOU)の将来的付加(potential extension)と改訂について交渉を始める。
⑥新しい州テストへの移行と2014-2015年度に獲得された期待の凌駕報酬を算出するのに必要なデータの利 用の不確かさを考慮して,DCTAとDPSは,算数または国語に関して,報酬を計算するための成長度の データを州から入手できない場合,どのように期待の凌駕報酬を支払うかについて協議することに合意す る。
⑦州のデータが利用できれば,2014-2015年度に獲得された期待の凌駕報酬,高成長校報酬及び高業績校報
酬は2015-2016年度中に支払われるものとする(現在のところ2016年3月末までには支払われるものと
想定される)。2015年のDPS SPFに成長評価(growth rating)もしくは総合的評価(overall rating)が含 まれていない場合−それは現在の協約において提供される報酬の支払いに影響を及ぼす−,DCTAと DPSはどのように高成長校報酬と高業績校報酬を支払うのかについて協議するものとする。
⑧DCTAとDPSは,この合意の条件がDCTAとDPSにとっての前例とはしないこと,また両者は将来の 交渉における議題,範囲,構想,戦略もしくは結果に制限をかす意志ももたないことに合意する。ここで の合意は教員評価・給与・解雇法(Teacher Evaluation, Compensation and Dismissal Act(TECDA))の不十 分な実施に対するDCTAとDPSの基準とはならない,また教員評価・給与・解雇法や認定された人事評 価法(Licensed Personnel Performance Evaluation Act)もしくは付随する州の規制(accompanying State regulations)等の「無効」の規定にはまったく影響を及ぼさない。
コロラド州議会で審議されている下院議案(HB)1251が通過した場合,DPSの公的職員退職金協会
(Public Employee’s Retirement Association(PERA))の負担金は毎年約2500万ドル減少する。この財源は次 のように配分するものとする。
⑨a 3年間,教師の勧誘と保留に資する指導困難校への給付金の試行に資金を供給するために,3年間毎年 100万ドルを配分する。
⑨b 2014-2015年度から生計費調整(Cost of Living Adjustment(CoLA))を3.0% 分追加する。
⑨c 賃金表のBA級1号を42000ドルへと増額させる。他のセルについては適切に調整する。
出所:DCTA ProComp Proposal 3. 16. 2015より作成した(18)。
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 30
2016
年度の「SLO報酬」は2014-2015
年に使用していた「SLO Engagement ParticipationRubric」に従って獲得するよう提案している点である。2014-2015
年度に使用していた「SLO Engagement Participation Rubric」とは,「SLO報酬」は評価結果に関わらず
SLO
への参加に基づいて獲得できるという規定である。「1つ申し込めば賞与で,2つ申し込 めば昇給です」(22)。「申し込む」とは参加するという意味である。前年度より新設され たSLO
はその初年度ということで特別に評価結果ではなく参加さえすれば,その報酬 が獲得されることとされた。DCTAはその規定を維持するよう提案している。言い換 えれば,DCTAは「SLO 報酬」の獲得者の減少を回避しようとしている。(3)「CPE 報酬」の保障と拡大に関わる提案は④である。ここでは
4
つの提案を行っ ている。④aでは改善計画下の教師への報酬拡大を提案している。改善計画にはCPE
評価において「不満足」(unsatisfactory)の教師が入ることとされている。CPE評価の「不満足」は
LEAP
評価において「基準未満」と評定された教師である。これまでは改 善計画下におかれた教師については,「CPE報酬」を受け取る資格が与えられていなか ったけれど,その計画を完了したと認定されれば,「CPE 報酬」を獲得する権利を付与 するよう提案している。これは「CPE報酬」の獲得条件の拡大を意味する。④bは真正面から「CPE 報酬」の獲得条件の拡大を提案している。これまでの「CPE 報酬」の獲得条件は「満足」の獲得であった。「満足」を獲得するためには,「基準未 満」,「接近」,「効果的」,「卓越」という
4
段階のLEAP
評価において,「効果的」もし くは「卓越」を獲得する必要があった。しかし,④bの提案は,「満足」の獲得条件を「接近」をも含めることである。つまり,これまで「接近」と評定され,「CPE 報酬」
の資格のない教師にもその報酬資格を与えよということである。④bはまさに真正面か らの報酬獲得条件の拡大を提案している。
④c,④d,④eは「CPE 報酬」の保障を提案している。まず④cは,前年度以前は
3
年に1
度実施されていたCPE
評価が2014-2015
年度より毎年実施することに伴い,報 酬額を報酬指標の3% 分から 1% 分へと変更することを提案している。3
年に1
度の報 酬が報酬指標の3% 分なので,年に 1
度の報酬が報酬指標の1% 分とすることは妥当な
提案であろう。④cは報酬指標の1% 分という報酬額を保障する提案である。④d
の提 案は,2014-2015年のCPE
評価が3
年に1
度の年であった教師の報酬保障のための提 案である。前回のCPE
評価が2011-2012
年であった教師の場合,従来の制度では報酬 指標3% 分の昇給となる。しかし,2014-2015
年の報酬額が報酬指標の1% 分となって
しまえば,2% 分の不利益を被る。したがって,報酬指標3% 分の昇給を保障するよう DCTA
は提案している。④eの提案についても同様に,2014-2015年の評価が2
年に1
度の年であった教師の報酬保障のための提案である。その教師は前回の評価が2012- 2013
年である。この場合も,本来報酬指標の2% 分の昇給が 1% 分になってしまえば 1
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 31
%分の不利益を被る。したがって,報酬指標
2% 分の昇給を保障するよう DCTA
は提 案している。(4)「期待の凌駕報酬」,「高成長校報酬」,「高業績校報酬」の配分方法に関わる提案 は⑥と⑦である。⑥の提案は,新しい州テストへの移行に伴い,従来通りの評価方法を 採用することができなくなったので,2014-2015年「期待の凌駕報酬」をどのように配 分するのかについて協議することを提案している。⑦の提案については,まず
2014-15
年の「期待の凌駕報酬」,「高成長校報酬」,「高業績校報酬」それぞれの保障を提案して いる。その上で,「高成長校報酬」,「高業績校報酬」それぞれの配分方法について協議 するよう提案している。⑥と⑦の提案は報酬の保障と報酬分配方法についての協議の提 案である。(5)賃上げに関する提案は,⑨a,⑨b,⑨cの提案である。まず,退職金の負担金の 削減を前提として,削減された約
2500
万ドルを次のように分配するよう提案している。⑨aの提案は「指導困難校報酬」(Hard to Serve School Incentives)(23)の拡大である。
DCTA
は2015
年2
月の時点において,すでに「指導困難校報酬」を拡大することをDCTA
の方針としていた(24)。なぜ,DCTAはさらに「指導困難校報酬」の拡大を要求 しているのか。「昨年も『指導困難校報酬』はありました。しかし,十分ではありませ んでした。この提案は報酬の追加です」(25)。このようにDCTA
はこれまでの「指導困 難校報酬」では不十分であるとして「指導困難校報酬」の拡大を提案した。⑨bの生計 費調整の増額の提案に加えて,⑨cの提案では賃金表のBA
級1
号を42000
ドルへと引 き上げる提案をしている。このBA
級1
号額はProComp
報酬の報酬指標とされてい る。つまり,BA級1
号の増額はProComp
報酬全体の増額を意味するのである。端的 に言えば,DCTAはProComp
の報酬指標の増加を提案しており,それは賃上げとな る。なお,2014-15年の報酬指標は38,765.182
ドルである。約3,250
ドルの増加を提案 していることになる。その他,⑤は協約内容の付加や改訂について協議することを提案し,⑧についてはこ の
DCTA
提案の内容の取扱いを規定する提案である。以上,DCTA 3月提案は,主として(1)協約延長,(2)報酬獲得条件の維持,(3)
「CPE 報酬」の保障と拡大,(4)「期待の凌駕報酬」,「高成長校報酬」,「高業績校報酬」
の保障と配分方法の協議,(5)賃上げに整理することができる。これらの
DCTA
提案 は④a,④b,⑨a,⑨cの提案を通じた報酬の拡大と,③,④c,④d,④e,⑦の提案を 通じた報酬の保障とを意図したものであった。このようにProComp
をめぐる団体交渉 を通じて,DCTAが報酬の保障とその拡大とを獲得しようとしている姿が浮かび上が る。米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 32
3-2.DPS 3
月提案(2015年3
月26
日)2015
年3
月26
日の団体交渉において,DPS団体交渉チームはDPS 3
月提案を提示 した。そのDPS
提案の内容は表5
の通りである。その提案は(1)報酬配分方法,(2)報酬拡大,(3)報酬減額に分類できる。
(1)報酬配分方法に関する提案は①,②,⑤の提案である。①の提案は,前年度まで は別々の報酬として支払われていた「高成長校報酬」と「高業績校報酬」とを統合し,
「高成長校報酬」の資格を有する学校で働く教員へ「高業績校報酬」を支払うというも のである。この
DPS
の提案は,2015年3
月16
日DCTA
提案⑦にあった「高成長校報 酬」と「高業績校報酬」を支払うことに対する保障とその支払方法について協議するこ とに対するDPS
回答である。まず,3月16
日の団体交渉の時点では,どのように支払 うかを協議するという段階であり,3月26
日ではDPS
がその支払い方を提示したこと から,「高成長校報酬」と「高業績校報酬」の支払い方法に関する交渉は一歩前進した表5 DPS 3月提案
①2014-15年のProComp報酬に関して,高成長校報酬と高業績校報酬とを統合する。
・2014-2015年度において,高業績校報酬はこれまでと同様の手続きで支払えない。
・高成長校報酬と高業績校報酬は相当程度重複している。例えば,高業績校報酬を受け取った教師の91%
は高成長校報酬も受け取っている。
・2014-2015年度に限り,高成長校報酬の資格を有する学校で働く教員へ高業績校報酬を支払うことを提案 する。
②2014-15, 2015-16年のPDUs報酬は現行水準を維持する。
③最優先校で働く教師へ指導困難校報酬を与える。
・SPFとTSSF(26)(Tiered School Support Framework)に従って最優先(Highest Needs)の30校を認定す る。
・30校の最優先校はDPSの教員の約25% に相当する。
・2015-2016年の最優先校:小学校10校,中学校・高校10校,指定された追加の学校10校
・LEAP評価に基づいて,「効果的」もしくは「卓越」であれば5800ドルの報酬,「接近」であれば4000ド ルの報酬とする。
④指導困難校報酬の資格をタイトルⅠで働く教師へ拡大する。
・最優先校報酬の資格のないタイトルⅠへ指導困難校報酬を拡大する。
・報酬額は指導困難校報酬と同額とする。
・タイトルⅠの学校で働く全ての教師が現行水準の指導困難校報酬を受け取るには90万から100万ドルの 費用が必要となる。指導困難校報酬を受け取る教師の現在の割合は57% である(2013-14年に分配され た指導困難校報酬の割合と2013-14年のProCompに参加した教員数に基づく)。一方,タイトルⅠで働く 教師の割合は65% である(DPSの全学校のタイトルⅠの割合に基づいている)。
・ProCompの指導困難校報酬を受け取っていないタイトルⅠの学校:小学校(ElementaryとK-8)が20校,
中学校・高校は7校である。
⑤期待の凌駕報酬の資格を全ての教師へ拡大する。
・特定の科目の教師を制限することなく,報酬資格を拡大する。
・この報酬は1つのテストスコアではなく総合的な業績に基づいて支払う。
・LEAPにおいて「卓越」に到達した教師に報酬を支払う。
・報酬額は現行水準と同額とする。
⑥高成長校報酬の額は維持し,高業績校報酬の額を減額する。
・高成長校報酬と高業績校報酬を受け取っている教師が相当程度重複している。−例えば,高業績校報酬を 受け取っている教師の91% は高成長校報酬も受け取っている。高業績校報酬を500ドル減額するごとに,
最優先校で働く教師への報酬の約1000ドルの増加分の資金供給を可能とする。
・高業績校報酬は2481ドルから1000ドルへ減額する。
出所:DPS ProComp Proposal 2015. 3. 26より作成した(27)。
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 33
といえる。また,3月
16
日の団体交渉の時点においては,両報酬が支払われることが 保障されていなかったけれど,DPSはこの両報酬を支払うことを保障した。報酬の支 払いの保障という点でも交渉は一歩前進している。②の提案は
PDU
報酬の維持を提示している。このPDU
報酬の維持はDPS
とDCTA
の争点とはならず,確認という形で終結することとなる。⑤の提案は,「期待の凌駕報酬」の資格を全ての教師へ拡大すること,その報酬獲得 条件は
LEAP
評価において「卓越」を獲得した教師に限ること,その報酬額は現行水 準と同額とすることを提案している。これまでの「期待の凌駕報酬」の資格は,読解,筆記,算数・数学を担当する教師が指導している
4
学年から10
学年の子どもの50% が
州テストの「学力成長」項目において,州内で55
分位数以上であった者に制限されて いた。⑤の提案は読解,筆記,算数・数学以外を担当する教師にも報酬機会を与え,報 酬獲得条件を州テストではなくLEAP
評価における「卓越」のみとした。また報酬額 は維持される。この提案により報酬が拡大するのか縮小するのかはよく分からない。全 教師に報酬機会が与えられるという点では報酬獲得範囲が拡大されるといえるが,一 方,LEAP評価で「卓越」を獲得した教師に限られる点では報酬獲得範囲が制限され る。したがって,報酬の拡大を招くのか縮小を招くのかは不明である。しかし,いずれ にせよ,「期待の凌駕報酬」の支払い方法が未定であった段階から一定の回答が提示さ れたという点においては,「期待の凌駕報酬」の交渉もまた一定の前進をみせたことは 確かである。(2)報酬の拡大に関する提案は③と④である。③の提案は,「最優先校報酬」の新設 である。具体的には
DPS
がSPF
とTSSF
に基づいて30
校の最優先校を選定し,その 最優先校で勤務する教師に対して報酬が支払われる。その報酬額はLEAP
評価によっ て異なる。LEAP評価が「効果的」もしくは「卓越」であれば5800
ドルの報酬が付与 され,「接近」であれば4000
ドルの報酬とされる。個々の教師に報酬差が生じる仕組み である。すなわち,DPS 提案の③は「最優先校報酬」という新たな報酬の創設によっ て報酬を拡大させる一方で教師間に報酬差が生じるものである。DCTAからすれば報 酬の拡大は歓迎される一方で教師間に報酬者が生じることは好ましくはない。このDPS
提案の③は,指導困難校で勤務する教師への報酬の増額というDCTA
提案⑨aに 対する一定の回答であった。ただし,DCTA提案⑨aは給食費の無料および減額が適用 されている子どもの割合に基づいて認定される指導困難校で勤務する教師に対する報酬 の増額であるのに対して,DPS 提案③は給食費の無料および減額の適用割合だけでは なく学業成績も加味したSPF
やTSSF
という枠組みに基づいて「最優先校」を選定す るという点で異なっている。さらに,教師間に報酬差を生じさせるか否という点におい ても異なっている。DCTA提案⑨aの場合,指導困難校で務めている教師の報酬はすべ米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 34
て同額である。このように
DPS
提案③はデンバー学区の教師たちに報酬増と報酬差を もたらす「最優先校報酬」を導入するものであった。提案④は「最優先校報酬」の資格のないタイトルⅠ(28)−貧困な児童・生徒に対する 教育上の支援として連邦補助金が交付されている学校−で働く教師に対して「指導困難 校報酬」を与えるというものである。DCTA提案⑨aは給食費の無料および減額の児童
・生徒の割合に基づいて選定された「指導困難校」への報酬を提案している。一方,
DPS
提案④は上記のDPS
提案③の「最優先校報酬」の資格のないタイトルⅠに報酬を 与えることを提案している。DPS提案④は教師への報酬を拡大させる一方で,その認定方法が
DCTA⑨a
とは異なっている。(3)報酬減額に関する提案は⑥である。DPS提案⑥は「最優先校報酬」を新たに導 入するために必要な
ProComp
の財源を確保するために,「高業績校報酬」を減額するこ とを提案している。報酬額は2014-15
年報酬の2481
ドルから1000
ドルへと約1500
ド ルの減額を提案している。つまり,DPSは提案①において,「高成長校報酬」と「高業 績校報酬」を統合させて支払うことを提案したものの,その報酬額については「高業績 校報酬」分を減額するということを提案している。「最優先校報酬」を導入する代わり に「高業績校報酬」を縮小させることを意味する。これがDPS
提案⑥である。Pro-Comp
の財源を確保するためには,報酬を増やせばその財源を確保することは必然であ る。それが「高業績校報酬」の削減であった。2015
年3
月26
日のDPS
提案を整理すれば,第一に報酬分配方法に関しては「高成 長校報酬」と「高業績校報酬」の統合すること,PDUs報酬の維持すること,「期待の 凌駕報酬」の資格をLEAP
評価の「卓越」を有する全教員とすることをそれぞれ提案 した。第二に報酬の拡大に関しては,選定された30
校で勤務する教師に対してLEAP
評価に基づいて報酬を分配する「最優先校報酬」を創設すること,「最優先校報酬」を 得ていないタイトルⅠで勤務する教師に指導困難校報酬を分配することが提案されてい る。第三に報酬の減額に関して,「最優先校報酬」を創設することに伴うProComp
財源 を確保するために「高業績校報酬」を減額することが提案された。この
DPS
提案が提示された直後に行われた2015
年4
月9
日の団体交渉において,再 度DCTA
からの提案が提示されることとなる。3-3.DCTA 4
月提案(2015年4
月9
日)2015
年4
月9
日の団体交渉において,DCTA団体交渉チームは新たな提案を提示し た。その提案内容は,同年3
月16
日の提案とほぼ同一の提案であるけれど,いくつか の点で異なっていた。このDCTA 4
月提案は先のDPS
提案に対する回答でもある。DCTA 4
月提案の主要な内容は,(1)報酬配分方法においては,「期待の凌駕報酬」の米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 35
表6 DCTA 4月提案
ProCompは次のように改訂されるものとする。
①ProCompの協約は2015年12月20日まで延長される。
②2016年8月31日まで延長されたDPS/DCTA基本協約と追加協約はさらに2019年8月31日まで延長さ れる。
③2015-2016年度の間,DPSがSLOの手法を継続する場合,SLO/SGOの報酬は2014-2015年度に使用して いたSLO Engagement Participation Rubricに従って獲得されるものとする。DPSがSLOの実施を継続し ない場合,SGOの報酬は2014-2015年度以前に実施していたSGO報酬の手法に戻されるものとする。
④a 2014-2015年度の間,ProComp下のCPE報酬のための「満足」の規定は,2015年6月5日の時点にお いて,有給休暇中ではない教師もしくは解雇係争中の無休休暇中ではない教師あるいは改善計画中ではな い教師とする。しかし,2015年6月5日の時点において改善計画中であるけれど,その計画をみごとに 終えた教師はその計画を終えた時点で「満足」と判断されるものとし,その計画を終えた日以降,2014- 2015年度のCPE報酬の資格が与えられるものとする。
④b 2015-2016年度の間,ProComp下のCPE報酬のための「満足」の規定は,2016年6月3日の時点にお いて,有給休暇中ではない教師もしくは解雇係争中の無休休暇中ではない教師あるいは改善計画中ではな い教師と,LEAPもしくはSSP-Growth and Performance Systemにおいて,「接近」,「効果的」,「卓越」の 評価を受けた教師とする。しかし,2016年6月3日の時点において改善計画中であるけれど,その計画 をみごとに終えた教師はその計画を終えた時点で「満足」と判断されるものとし,その計画を終えた日以 降,2015-2016年度のCPE報酬の資格が与えられるものとする。
④c 2014-2015年度に獲得した報酬から,CPE報酬は年に1度の評価サイクルに調整するよう改定される ものとする。CPE報酬を受け取る基準を満たし,その資格を有する終身教員は3年に1度の報酬指標の3
%分ではなく1年ごとに報酬指標の1% 分の報酬を受け取る。
④d 終身教員が再調整以前の評価サイクルの下で2015年9月に3% 分の増加の権利を有していた場合,そ の教員は2015年9月に3% 分の増加を受け取る資格を有し,2015-2016年にCPE報酬のための1年ごと の評価サイクルを開始する。
④e 終身教員が再調整以前の評価サイクルの下で2015年9月に2% 分の増加の権利を有していた場合,そ の教員は2015年9月に2% 分の増加を受け取る資格を有し,2015-2016年にCPE報酬のための1年ごと の評価サイクルを開始する。
④2015年4月より,DCTAとDPSは別紙A(条項10:成績評価[すなわちLEAP]の基本協約)を含め て,同僚支援・評価の覚書の将来的追加と改訂について交渉を始める。
⑥新しい州テストへの移行と2014-2015年度に獲得された期待の凌駕報酬を算出するのに必要なデータの利 用の不確かさを考慮して,DCTAとDPSは,算数または国語に関して,報酬を計算するための成長度の データを州から入手できない場合,どのように期待の凌駕報酬を支払うかについて協議することに合意す る。
⑦州のデータが利用できれば,2014-2015年度に獲得された期待の凌駕報酬,高成長校報酬及び高業績校報
酬は2015-2016年度中に支払われるものとする(現在のところ2016年3月末までには支払われるものと
想定される)。2014-2015年度に限り,高業績校報酬と高成長校報酬は,ProComp報酬指標の12.8% 分と して高成長校報酬に統合されるものとする。
⑧DCTAとDPSは,この合意の条件がDCTAとDPSにとっての前例とはしないこと,また両者は将来の 交渉における議題,範囲,構想,戦略もしくは結果に制限をかす意志ももたないことに合意する。ここで の合意は教員評価・給与・解雇法の不十分な実施に対するDCTAとDPSの基準とはならない,また教員 評価・給与・解雇法や認定された人事評価法もしくは付随する州の規制等の「無効」の規定にはまったく 影響を及ぼさない。
コロラド州議会で審議されている下院議案(HB)1251が通過した場合,DPSの公的職員退職金協会の負 担金は毎年約2500万ドル減少する。2015-2016年度から,これらの財源のDCTA交渉ユニットへの配当 は次のように配分するものとする。
⑨a 2008年ProComp協約に従って,指導困難校に認定されていないタイトルⅠで働いている教員は,Pro- Compの指導困難校報酬と同額の報酬指標6.4% 分が支払われるものとする。これらの追加的報酬はPro- Comp財源からではなくDPS一般財源から支払われるものとする。
⑨b すでに以前合意した2015年のデンバー・ボルダ−・グリーリーの消費者物価指数に基づいた生計費調 整に加えて,学区は教員給与の開始額(starting teacher salary)を41500ドルへ引き上げ,教員以外の DCTA交渉ユニットの賃金を1500ドル引き上げるものとする。
出所:DCTA ProComp Proposal 4. 9. 2015より作成した(29)。
米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 36
配分方法の協議の継続,「高業績校報酬」と「高成長校報酬」の配分方法,(2)賃上げ 関連においては,「指導困難校報酬」の拡大,ProComp報酬指標の増額がそれぞれ提示 されている点にある。2015年
4
月9
日DCTA
提案の内容は表6
のとおりである。DCTA 4
月提案の多くは,3月16
日提案の内容とほぼ同様である。提案①,②,③,④,⑤,⑥,⑧は⑤の少々の文言の変化(30)を除いて同様であった。提案①と②は協約 の延長を,③は「SLO 報酬」の維持を,④は「CPE報酬」の保障と拡大を,⑤は協約 の付加と改訂について協議することを,⑥は「期待の凌駕報酬」の分配方法を協議する ことを,⑧は協約の制限をそれぞれ引き続き提案している。内容が変更されたのは,提 案⑦,⑨a,⑨bである。前回の団体交渉における
2015
年3
月26
日DPS
提案と関連す る箇所は,2015年4
月9
日DCTA
提案の⑥,⑦,⑨a,⑨bである。それぞれ確認して いこう。DCTA
提案⑥は引き続き「期待の凌駕報酬」の配分方法を協議することを提案して いる。これは3
月26
日DPS
提案⑤に対するDCTA
の回答である。DPS 提案⑤は「期 待の凌駕報酬」をLEAP
評価において「卓越」を獲得した全教員に付与する提案であ った。このDPS
提案⑤に対するDCTA
の回答は引き続き協議することである。すなわ ち,DCTA 4月提案⑥はDPS
提案⑤を否とする提案である。したがって,この時点に おいて,「期待の凌駕報酬」をどのように配分するかのルールは定まっておらず,協議 は続けられることとなる。提案⑦は
DCTA 3
月提案⑦とは異なっている。DCTA 3月提案⑦では「高成長校報酬」と「高業績校報酬」を付与することと,どのように配分するかを協議することが提 案されていたにすぎない。この
DCTA 4
月提案⑦では,DPS提案①にあった「高成長 校報酬」と「高業績校報酬」を統合するという提案を受け入れて,「高成長校報酬」と「高業績校報酬」を統合し,12.8% 分の報酬を提案するにまで発展している。ここで言 えることは,第一に
DCTA
はDPS
が提案した「高成長校報酬」と「高業績校報酬」と の統合には合意したということである。両報酬の統合についてはDCTA
とDPS
の提案 内容は一致した。しかし,第二にDCTA
が統合された「高成長校報酬」と「高業績校 報酬」の報酬額を報酬指標の12.8% 分と提案したことは,DPS
提案⑥の「高業績校報 酬」の削減に対する拒否でもある。これまでの「高成長校報酬」と「高業績校報酬」は,それぞれ報酬指標の
6.4% 分であった。DCTA
の提案⑦は両報酬額を足し合わせた 額となる。「高業績校報酬」は削減されておらず,現行水準が維持されている。したが って,「高業績校報酬」の報酬額をいくらにするかについては,DCTAとDPS
との間 には合意が形成されていない。合意に達するまで,協議が続けられることとなる。DCTA 4
月提案⑨a, b については,まずその前文がDCTA 3
月提案から具体化され た。DCTA 3月提案は浮いた年金負担額の「財源を次のように分配する」という文言で米国教員の業績給の設計,運用,改定,制定をめぐる学区レベルの団体交渉 37