米国における学区教員組合の構造と機能 : DCTAの 事例調査を中心に
著者 岩月 真也
雑誌名 評論・社会科学
号 119
ページ 41‑62
発行年 2016‑12‑30
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015479
要約:本稿の目的は,コロラド州デンバー学区の事例調査に基づいて,学区教員組合であ るDCTAの構造と機能を明らかにすることにある。
構造面に関して明らかになったことは,第一に,DCTAの組織は役員,地区代表理事,
学校代表理事,組合員という階層構造を成していた。第二に,DCTAの主要機関は団体交 渉チーム,役員会,代表理事会であった。
機能面に関しては,第一に,団体交渉チーム会議,役員会会議,代表理事会議,地区会 議,職場会議の有機的結合が,団体交渉に関する情報を組合員へ提供し,組合員の不満要 求を吸い上げる機能を果たしていた。第二に組合員の投票権は協約締結機能を有していた。
加えて,組合員の投票権の協約締結機能は,日米間の決定的な相違の一つであることが 示唆された。
キーワード:アメリカ,労使関係,団体交渉,業績給
目次
1.問題の所在
2.DCTAのプロファイル
3.組合の階層と諸機関の構造 3-1.組合の階層構造 3-2.諸機関の構造 3-3.小括
4.諸機関および組合員の機能
4-1.DCTA団体交渉チーム会議
4-2.役員会会議 4-3.代表理事会会議 4-4.地区会議 4-5.職場会議 4-6.組合員の投票権 4-7.小括
5.DCTAの構造と機能
────────────
†同志社大学研究開発推進機構・社会学部助手
*2016年9月29日受付,2016年10月12日掲載決定
論文
米国における学区教員組合の構造と機能
──DCTAの事例調査を中心に──
岩月真也
†41
1.問題の所在
近年,日本においては働きぶりに応じた報酬制度を学校現場に導入することの是非が 論じ続けられている。日本の公立学校に勤務する教師の報酬制度の特質を解明するため に,岩月(2016 a, 2016 b)は米国コロラド州デンバー学区におけるProCompと呼ばれ る業績給の仕組みを検討した。岩月(2016 a)が明らかにしたことは,第一にデンバー
学区のProCompに組み込まれていない教師の報酬制度は,学歴資格と経験年数によっ
て規定されていること,第二にProCompに組み込まれた教師の報酬制度はProCompの 評価に基づいた昇給と賞与とに規定されていること,第三にProComp は多種多様な評 価項目を有していることである。しかし,ProComp の多種多様な評価項目を詳細に検 討することについては課題として残されていた。この課題に対して検討したのが岩月
(2016 b)である。ProCompの多種多様な評価項目に関して,岩月(2016 b)は,Pro- Compによる評価項目は総じて評価者の判断が介入しづらい客観的な評価指標により構 成され,昇給や賞与といったProCompによる報酬が個人別および学校別に分配される 仕組みであったことを明らかにした。
しかし,ProCompに対する理解は未だ不十分である。不十分な点はProComp の制定 手続きの解明である。ProCompを運用するに際して,処理すべき多くの問題が浮かび 上がる。例えば,昇給額や賞与額はいくらにするのが妥当か,昇給額や賞与額の配分は 妥当か,これを変更する場合はどうするか,評価に納得できない場合はどうするのか,
評価項目の学力テストの基準が変更した場合はどうするのか,裕福な地域の学校および その学校に所属する教師たちに有利な仕組みとなってはいないか,現場の教師が理解し きれていない複雑な評価項目に基づく報酬はこのままでよいのか。このようにPro- Comp実施に伴う処理すべき問題は多く残されている。ProCompという制度の制定,運 用,変更,改定がどのような手続きを経て決められているのだろうか。このように,制 度構築に関する手続きの仕組みについては十分に解明されていないのである。
米国教員の報酬制度や労働条件は,各学区の教員組合と教育委員会との団体交渉を通 じて決定されている。デンバー学区においても同様である。すなわち,制度構築に関す る手続きを解明する上で焦点を当てるべきは,ProCompをめぐる団体交渉である。で は,これまでの研究は米国教員の団体交渉について何を明らかにしてきたのか。
米国教員の団体交渉に関する研究については,主として松田(1966),太田(1988),
Lieberman(1997),榊・中嶋・笹井(2003),高橋(2011)が挙げられる。また,米国 教員の業績給を検討したBaratz-Snowden(2007)も部分的にではあるけれど団体交渉に ついて言及している。まず,松田(1966),太田(1988),高橋(2011)は,米国の教
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員組合を代表する全米教育協会(National Education Association。以下,NEAと称す。)
とアメリカ教員連盟(American Federation of Teachers。以下,AFTと称す。)の組織概 要や変遷を踏まえた上で,学区の団体交渉を規定する州法を検討している。Lieberman
(1997)は,NEAとAFTの変遷および団体交渉が米国の教育政策に与えた影響につい て論じている。榊・中嶋・笠井(2003)は,複数の州における団体交渉の事例を扱った 論文をレビューし,団体交渉の交渉事項拡大の失敗と成功とを教職の専門性の観点から 検討を加えている。Baratz-Snowden(2007)は米国における複数の業績給の事例を検討 し,団体交渉を通じた教師の合意の重要性を指摘している。これら米国教員の団体交渉 を扱った先行研究の知見は,各州の州法を前提としながら,教師の報酬制度や労働条件 は学区の団体交渉を通じて決定されるということであった。例えば,Lieberman(1997)
は「NEAとAFT に加盟した州教員組合や学区教員組合の活動は州法によって決定され ている」(Lieberman 1997 : 5)と端的に指摘している。デンバー学区においても,団体 交渉を通じて合意された協約は,コロラド州の州法と州憲法に沿って解釈および規定さ れる(条項2-5)(1)。教師の報酬制度や労働条件に関する諸制度が最終的には学区におけ る団体交渉によって規定されるとしても,州法によってその大枠が規定されているの で,先行研究が州法を検討してきた意義は大きい。
しかし,依然として,学区における団体交渉の仕組みについては不明瞭なままであ る。やはり,教師の報酬制度や労働条件の決定の仕組みを明らかにするためには,学区 における団体交渉がどのような仕組みで行なわれているかについての観察が不可欠とな る。Baratz-Snowden(2007)は新たな業績給を制定する際の条件を次のように述べてい た。「教師の合意が不可欠である。新たな制度を教師に強制させることはできない。教 師とともに構築しなければならない。新たな制度の設計,評価,運用に関するあらゆる 側面に関して教師は関与する必要があり,その制度は最終的に団体交渉に基づく協約や 覚書に位置づけられなければならない」(Baratz-Snowden 2007 : 23)。もっともな指摘で ある。また,高橋(2011)は,近年の教員組合−氏は「教員団体」と表現している−の 運動に関して,「教員団体は教育行政との共同のもとに自らの専門職団体化施策を展開 しているという特徴をみることができる」(高橋 2011 : 255)と述べる。筆者はBaratz -Snowden(2007)と高橋(2011)の指摘に同意する。とはいえ,「教員とともに構築」
や「教育行政との共同」とは,学区の団体交渉においてどのようになされているのか。
とりわけ,団体交渉における組合側と学区側との間に生じるコンフリクトはどのように 処理されているか。この点についてはきちんと記述されていない。
デンバー学区においては,教師の報酬制度や労働条件はデンバー教員組合(Denver Classroom Teachers Association。以下,DCTAと称す)とデンバー公立学校区(Denver
Public Schools。以下,DPS と称す)との団体交渉を通じて制定される。両者の間に不
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満要求の不一致は生じていないのだろうか。また,教員組合内においても,組合の要求 と組合員の要求とに不一致は生じていなのだろうか。教員組合と学区との間および組合 と組合員との間それぞれにおいて,不満要求の不一致が一切生じていないのであれば,
「教師とともに構築」することや教員組合と「教育行政との共同」は円滑に展開され得 るかもしれない。しかし,現実に不満要求の不一致が生じていないことがありえるのだ ろうか。ないのではないか。現実には学区の団体交渉において,組合側と学区側との要 求内容が異なり,その要求内容の不一致をなんとか処理して制度が制定されているので はないか。また,組合員の不満要求を組合側は何とか吸い上げ,組合の要求として団体 交渉の場で学区側に提示しているのではないか。
すなわち,学区の団体交渉においては,教員組合側と学区側はお互いにどのような事 項を要求項目とし,どのように妥結したのか,両者のコンフリクトがどのように処理さ れたのか,また,教員組合は組合員の不満要求をいかに吸い上げているのか,団体交渉 の状況をどのように組合員に提供しているのか等が処理されなくてはならない。これら 処理すべき課題に対する教員組合の活動なしには団体交渉は展開されない。しかし,団 体交渉の仕組みや学区教員組合の構造や機能に関する言及は乏しい。だから,団体交渉 に関する研究が一定程度の蓄積をみせているけれど,団体交渉自体は不明瞭なままなの である。
まとめよう。教師の報酬制度や労働条件は学区における団体交渉によって決まる。し かし,団体交渉の内実は明らかにされていない。したがって,ProComp をはじめとす る報酬制度や労働条件がどのように制定されるのかは分からない。学区における団体交 渉の仕組みこそが解くべき課題である。団体交渉において,DCTAとDPSの交渉がど のような仕組みで行なわれ,何が争点となり,どのような結果に至ったのか,である。
しかしながら,この団体交渉の仕組みに関する課題に答えるためには,まずDCTA の構造と機能とを明らかにしておく必要がある。団体交渉の場における組合要求に関し て,DCTAはどのようにして現場の教師たちの不満要求を吸い上げているのだろうか,
また団体交渉の状況はどのように組合員に提供されるのか。すなわち,DCTAの組織 はどのような構造をなしているのか,またどのような機能を有しているのか。ProComp の仕組みが団体交渉を通じてどのように制定されているのかを検討するために,まず は,教員組合の組織構造とその機能を明らかにする必要がある。
したがって,本稿の目的はProComp の仕組みを規定する団体交渉の前提となる,
DCTAの組織構造と機能とを解明することにある。具体的な課題は,第一に DCTA組 織がどのような構造を形成しているのか,第二にDCTA内の諸機関は,団体交渉に関 わる情報の共有と組合員の不満要求の吸い上げ対してどのような機能を有しているのか について,それぞれ検討することである。加えて,第三にDCTAの構造と機能に関す
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る知見を踏まえた上で,日米間の相違に関する検討を行う。
研究枠組みは制度の制定,運営,改定に関する手続的規則に焦点を当てた労使関係論 を採用した(2)。本研究の対象地域はコロラド州デンバー学区である。本稿の記述は 2015年11月〜12月および2016年3月に実施した米国現地調査におけるDCTAの委員 長(President)に対するインタビュー記録と収集資料に基づいている。また,2016年4 月26日,フォローアップ調査を実施した。フォローアップ調査では,DCTAの委員長 とのメイルでのやり取りを通じて,事実確認および追加的な質問を行った。なお,米国 現地調査については科学研究費補助金(研究課題名;「日米における教育力の組織的基 盤の解明」平成27年8月〜平成28年3月,研究活動スタート支援)の研究成果の一部 である。インタビュー・リストは表1に記した。
本稿の構成については,2節ではDCTAのプロファイルを示す。3節では DCTAの 組織構造を検討するために,組織階層および諸機関の構造を明らかにする。4節では DCTAの諸機関の機能を検討する。5節では明らかになったことを整理し,日米間の相 違に関する検討を行う。その上で,今後の研究課題を示すこととする。
2.DCTA のプロファイル
本節では,DCTAのプロファイルを示す。主として,組合組織率,組合員の範囲,
組合費,加盟団体,争議権の有無について言及する。加えて,DCTAに対する理解を 深めるために,現在のDCTAの最高責任者である委員長の経歴についても示しておき たい。
DCTAのプロファイルは次のようである(3)。デンバー学区の教員数は約5500名であ る。この5500名には公立小中高学校に勤務する教員および教員以外の専門職(Student Services Professionals;以 下,SSP)も 含 ま れ て い る。SSPに は 聴 覚 訓 練 士(Audiolo- gists),作業療法士(Occupational Therapists。病気や怪我をした子どもを治療する。),
理学療法士(Physical Therapists),スクールカウンセラー(School Counselor),スクー
表1 インタビュー・リスト
対象者 所属 年月日 調査項目
委員長 DCTA 2015/11/27 賃金制度,ProComp,団体交渉
委員長 DCTA 2015/11/30 賃金制度,ProComp,団体交渉
委員長 DCTA 2015/12/4 賃金制度,ProComp,団体交渉
委員長 DCTA 2016/3/4 賃金制度,ProComp,団体交渉
委員長 DCTA 2016/3/7 団体交渉(ゲストとして参加)
委員長 DCTA 2016/3/9 賃金制度,ProComp,団体交渉
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ルナース(School Nurse),歩行訓練士(School Orientation and Mobility Specialist),スク ールサイコロジスト(School Psychologist),スクールソーシャルワーカー(School So- cial Worker),言語セラピスト(Speech Language Pathologist)等が含まれる。チャータ ースクールに勤務する教員は含まれていない。5500名の内,DCTAの組合員は約3000 名であり,DCTAの組合組織率は約55% であった。
組合員の範囲は,まず公立小中高校に勤務する教師である。テニュア,ノンテニュア も含まれている。教師に加えて,学校に勤務するSSPも組合員である。一方,チャー タースクールの教師は組織化されていない。チャータースクールに勤務する教師の数は 分からないけれど,デンバー学区には185校の公立学校が存在し,そのうち30校ほど がチャータースクールなので,相当数は存在する(4)。
組合費に関しては,組合員は毎月67ドルの組合費を支払っている。組合員以外の者 は,交渉代理費用(Agency Fee)を支払う義務はない。毎月67ドルの交渉代理費用を DCTAに支払うか否かは個人の自由意思に委ねられている。「コロラド州では,DCTA に入るかどうかは個人の選択だ。入る義務はない。例えば,あなたと私の二人がいて,
あなたがDCTAに入りたければ入れる。私は入らない。私は追加の費用は払わなくて もよい。ボランタリーだ。ある州では交渉代理費用が義務付けられている。でも,コロ ラド州では個人の自由だ。ほとんどの教師は誘うと入る。何人かは入らないけどね」(5)。 100% 近くの組織率を誇るMCEA(6)と55% 程度の組織率のDCTAの差は,交渉代理費 用が自由か義務かの違いに起因していると考えられる。
コロラド州では組合加入および交渉代理費用が義務付けられていないので,DCTA に加入せず交渉代理費用も払わない教師は存在する。その者の待遇はどうなるのだろう か。「何も払っていない教師もいます。その教師が支払うのはゼロだ。あなたと私がデ ンバーで働いていて,私は組合員でなくてあなたは組合員としましょう。例えば後に私 に何か問題が起こったとしましょう。DCTAは私に法的な支援することはないでしょ う。私に弁護士はつかない。あなたにはつきます。私には最低限の代理人しかつきませ ん。DCTAは最低限のことしかしません。きちんと助けることはしません。最低限し かしません。しかしあなたは組合員のための支援をすべて得ることができます」(7)。こ のように,教師に何か問題が起こった際,DCTAは組合員でない者に対しては,最低 限度のことしかしない。DCTAへの加入は一種の保険の機能を有している。
DCTAの 加 盟 団 体 は コ ロ ラ ド 州 教 員 組 合(Colorado Education Association。以 下,
CEAと称す。)である。CEAもまたNEAに加盟している。DCTAはCEAおよびNEA の下部組織である。委員長によると,デンバー学区の公立小中高校に所属する教師は,
NEAとならぶ米国教員組合の一つであるAFT には加入していない(8)。カフェテリアの 従業員や清掃員らがAFTに加入している。したがって,教師にとって,デンバー学区
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はNEA加盟の組合が優勢の地である。
また,DCTAには争議権が付与されている。1994年,給食時間をめぐるストライキ が生じていた。委員長は次のように説明する。「(交渉を続けても;岩月)本当に本当に 本当に合意に至らなければ,ストライキに突入する。我々は働かない。はっはっはっは っはっは(笑)。でもそれはなかなかないよ。一回だけやったんだ。1994年だ。唯一の 一回ね。我々は労働条件に合意しなかったんだ。給食時間についてだった。我々は給食 時間がとりたかったのにとることができなかった。……この不一致はお金の問題じゃな いんだ。労働条件の問題なんだ」(9)。このストライキが唯一のストライキであった。も ちろん,日本の組合には争議権が付与されていない。この日米の争議権の有無という相 違は,教師の報酬制度や労働条件をめぐる組合の規制力と関連していると考えられる。
以下,DCTAの最高責任者である委員長の経歴を示しておきたい。DCTA委員長の 経歴を示す こ と は,DCTAと い う 教 員 組 合 に 対 す る 理 解 を 促 進 さ せ る だ ろ う。現 DCTAの委員長は,コロラド大学経済学部の助手,小学校の教師,DPS 教授と学習課
(DPS Teaching and Learning)を経て,現職に至っている。
コロラド大学経済学部の助手時代,委員長は経済学の修士資格を有しており,労働経 済学を教えていた。統計データを分析するのが好きだという。ProCompに関する調査,
評価,実施方法も勉強していた。その後,彼は小学校教諭の資格も有していたので,小 学校の教師として働くこととなる。3, 4, 5学年を担当した。さらにその後,DPS教授 と学習課で働くこととなる。その課は学区の教育プログラムを処理している。委員長は 専門性向上単元(Professional Development Units。以下,PDUsと称す)の責任者であっ た(10)。「PDUsは分かるよね。私はそこの担当者だった。PDUsの計画をすべて作成し ている」(11)。委員長はかつてDPS で務めていたのである。そして,2009年,DCTAの 委員長に就任し,現在に至るまで委員長の職務を続けている。DCTAの組合役員選挙 は2年に一度行われている。委員長はこれまで3度の選挙を経て今に至っている。「通 常,組合役員は2年経つと辞めたいと言うんだ。しかし,我々は本当に良いチームを抱 えている。疲れる仕事ではありますが,私はたぶんあと2年は続けると思う。自分から よろしくと言うだろうね」(12)。
このように現在のDCTAの委員長はコロラド大学経済学部時代に身につけた統計デ ータの分析に長けているだけではなく,小学校教師およびDPS での職を経て委員長に 就任している。教師の立場にもDPSの立場にも立つことのできる優れた人物である。
それゆえ,委員長を7年以上も継続しているのだと考えられる。それが現在のDCTA の委員長であった。このような人物が委員長であれば組合員にとっては心強く,誠に貴 重な人物である。
以上,DCTAのプロファイルを簡単に示した。次節では,DCTAの組織構造に焦点
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を当てることとする。
3.組合の階層と諸機関の構造
3節ではDCTAの階層と諸機関の構造を明らかにする。第一に組合内の階層構造に 関しては,各階層に加え,選出方法,専従者の有無それぞれについても確認する。第二 に組合内の団体交渉チーム(Bargaining Team),役員会(Board of Directors),代表理事 会(Representative Council)等の諸機関の構造を明らかにする。
3-1.組合の階層構造
DCTAの組織は,組合役員(Executive Officers),地区代表理事(Sector Directors),
学校代表理事(Representative),組合員(DCTA Members)という階層から構成されて いる。
DCTAの 役 員 は 委 員 長,副 委 員 長(Vice-president),書 記 長(Secretary),財 務 長
(Treasurer)の4名である。組合規約(DCTA Bylaws)によると各職務は次のように規 定されている(条項2)。委員長は組合の最高責任者である。副委員長は委員長が不在 の際には委員長の職責を果たす。書記長はすべての会議において議事録を作成する。財 務長は組合の財務を管理する。これら4名の役員はDCTAの全組合員からの投票によ って選出される。任期は2年であり,再任も可能である。現在の組合役員は全て教師に よって構成されている。
DCTAの専従者は委員長と委員長に雇われている事務局長(Executive Director)(13)で ある。専従者を追加するためには,「DCTAはDPSとの協約が必要となる」(14)。他の組 合役員や次に言及する地区代表理事,学校代表理事,団体交渉チームは非専従であり,
学校で授業を行いながら組合活動をしている。「私だけが学校で教えることを免除され ている。ただし,ここのオフィスには,私たちを毎日フルタイムで支援してくれる人
(事務局長;岩月)がいる。……でも他の人々は全員まずは学校に行くよ」(15)。つまり,
専従者は委員長と事務局長であり,他の副委員長,書記長,財務長,地区代表理事,学 校代表理事,団体交渉チームは非専従であった。
組合運動の保障の程度という点でみれば,委員長と事務局長の組合活動は終日保障さ れているものの他の組合役員,団体交渉チームのメンバー,地区代表理事,学校代表理 事らの組合活動は,学校での仕事の前後もしくは給食時間に限られている(16)。とはい え,組合役員,団体交渉チーム,地区代表理事,学校代表理事らは,通常16時30分か ら開始される代表理事会会議(Representative Council meeting)に出席している。また,
2016年3月7日(月)の16時30分に開始された団体交渉では,DCTA側の出席者は
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委員長と事務局長を除いて,学校での授業後に集まっていた(17)。
役員の下には16名の地区代表理事が存在する。地区代表理事はデンバー学区の北西 地区,北東地区,南西地区,南東地区の4つの地区に4名ずつ配置されている(18)。各 地区に配置された地区代表理事はその地区に位置する複数の学校を担当することとな る。例えば,北西地区の4名の地区代表理事は,10校,8校,7校,12校の学校をそれ ぞれ担当している(19)。地区代表理事は地区内の組合員の投票によって選出される。例 えば,北西地区代表理事は北西地区の組合員の投票によって選出される。南東地区の組 合員は北西地区代表理事を選出する際に投票する権利は与えられていない。地区代表理 事はその地区の組合員によってのみ選出される。地区代表理事の任期についても2年で あり,再任も可能である。16名の全地区代表理事についても,現在のところ,教師で 占められている。
各地区代表理事それぞれが担当している学校には,各校の組合員を代表する学校代表 理事が1名以上の割合で各学校に配置されている。100名以上の教師が在籍する大規模 校の場合は2名の学校代表理事が配置される。したがって,8校を担当する地区代表理 事は8名以上の学校代表理事を担当することとなる。現在のところ,デンバー学区の約 150校の各公立学校には学校代表理事が170名ほど配置されている。各学校代表理事た ちは自身の所属する学校の組合員を担当している。学校代表理事は各学校の組合員の投 票によって選出される。学校代表理事は教師もしくはSSPである。この両者の割合は 確認できていない。おそらく,大部分は教師に占められているものと推察される。
これまでに言及した組合役員,地区代表理事,学校代表理事の選出方法は組合員によ る投票であった。「ただし,決めることができるのはDCTAの組合員だけです。例え ば,私は組合員ではなくて,あなたは組合員だとすると,あなたは投票できるけれど,
私は投票できません」(20)。組合役員,地区代表理事,学校代表理事の選出にあたって は,非組合員には投票権が与えられていない。あくまでも投票権は組合員にのみ与えら れている。
学校代表理事の下には約3000名のDCTAの組合員が在籍している。組合員たちは,
後に詳しく言及するように,学校理事代表との意見交換を通して自身の不満要求を学校 代表理事に伝える役割を担っている。
以上がDCTAの組織階層である。その階層は,4名の組合役員,16名の地区代表理 事,約170名の学校代表理事,約3000名の組合員から構成されている。組合役員,地 区代表理事,学校代表理事たちは組合員の投票によって選出されていた。専従者は委員 長と事務局長であった。
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3-2.諸機関の構造
次にDCTA内の諸機関について言及しよう。DCTAの組織運営に関わる主要機関は,
役員会,団体交渉チーム,代表理事会である。役員会からみてみよう。
役員会はDCTAの基本政策を決定し実施する執行機関兼決議機関である。組合規約 によると,「役員会は組合の共同的な業務執行を果たすものとする。役員会は基本的な 目標を決定し,諸委員会,他の補助的な諸グループの責任を有する」(条項4-2)。役員 会の構成メンバーは4名の組合役員,16名の地区代表理事,事務局長,2名のコロラド 州教員組合理事(Colorado Education Association directors)である(21)。コロラド州教員 組合理事はDCTAから選出された組合員であり,両組合に所属している。以上が役員 会の人員構成である。
役員会は組合の主要政策の決定および執行を任務とするものの,団体交渉については 団体交渉を専門とする機関が別途組織化されている。デンバー学区の教師たちの給与,
ProComp,労働条件に関する制度の制定やその運用をめぐって DPS(22)と交渉するのが
DCTA団体交渉チームである。デンバー学区の団体交渉において,主たる争点はPro- Compに関する規則の制定とその運用である。したがって,ProCompはこの団体交渉に 基礎づけられている。DCTA団体交渉チームは,学区内で勤務する教師たちの報酬に 影響を及ぼしている。
DCTAの団体交渉チームのメンバーは,委員長,副委員長,事務局長,小学校教師 の代表者,中学校教師の代表者,高校教師の代表者,スクールサイコロジストの代表 者,スクールナースの代表者,スクールソーシャルワーカーの代表者,軍学校代表の陸 軍将校(Military Officer)(23)により構成されている。ただし,2016年3月9日時点にお いては,スクールナースは不在である。役員会と団体交渉チームとを兼務しているの は,委員長,副委員長,事務局長の3名である。他の団体交渉チームのメンバーは役員 会のメンバーではなく,団体交渉に特化した代表者として配置されている。
DCTA団体交渉チームのメンバーは組合員による投票によって選出されるわけでは ない。どのようにして選出されているのか。DCTAは組合員に対して団体交渉チーム の募集を行っている。その応募者の中から面接を経て団体交渉のメンバーが決定され る。しかし,時には,委員長自身が任命するケースもある。「我々はすべての組合員に 調査票を送って尋ねるんだ。『あなたは何に関心がありますか。交渉チームに入りたい ですか』と。それでその人たちが申し込むんだ。その後に私たちが面接をする。『君は グッド。あなたの心遣いに感謝します』と。面接がほとんどです。時々,私が任命しま す。時々ね」(24)。このように団体交渉チームの選出については,応募を募り,面接を経 て選出される。時に,委員長の任命によって選出される。その結果,組合役員,地区代 表理事は教師に占められていたけれど,団体交渉チームについては,スクールサイコロ
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ジスト,スクールナース,スクールソーシャルワーカー,陸軍将校もその一員に加わっ ている。小学校,中学校,高校の教師以外のSSPの団体交渉への参加が一定程度は確 保されている。とはいえ,DCTAは組合役員,地区代表理事,学校代表理事と同様に 団体交渉チームについても教師が優勢である点に変わりはない。
以上確認してきた役員会,団体交渉チームに加えて,DCTAは代表理事会を組織し ている。代表理事会はDCTAの決議機関である。組合規約によると,「代表理事会は組 合の政策に影響を及ぼす全ての案件に対する措置を決定する権限,組合の政策に影響を 及ぼす委員会報告や勧告を承認する権限,組合員が重要な争点に対して発言する権限を 有している」(条項6-2)。代表理事会のメンバーは役員会メンバーと約170名の学校代 表理事たちである。この代表理事会において組合の政策や方針が共有され決定される。
しかし,役員会での決定が代表理事会で覆ることはない。したがって,DCTAの実質 的な決議機関は役員会ということになる。
3-3.小括
以上,DCTAの組織階層および役員会,団体交渉チーム,代表理事会という諸機関 の構造を明らかにした。ここから,図1にあるようなDCTAの組織図を描くことがで きる。
次節では,DCTAは,団体交渉に関する情報をどのように組合員に提供しているの か,また組合員からの不満要求をどのように吸い上げているのかについて検討する。こ
図1 DCTAの組織図 出所:インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月9日)。
米国における学区教員組合の構造と機能 51
の情報の提供と組合員の不満要求の吸い上げがなされなければ,DCTAは団体交渉を 進めることはできない。デンバー学区の団体交渉もまた進まないということになる。学 区における団体交渉の仕組みを解明するためには明らかにしておかねばらならない課題 である。
4.諸機関および組合員の機能
4節ではDCTA内において,団体交渉の状況がどのように組合員に伝達され共有さ れるのか,反対に組合員の不満要求がどのように吸い上げられているのかを検討する。
団体交渉をめぐる情報の共有と組合員の不満要求の吸い上げを行うDCTAの仕組みを 解明することなしには,米国における団体交渉を理解することはできない。そのため に,ここでは団体交渉チーム,役員会,代表理事会の諸機関の会議がどのような機能を 有しているのか明らかにする。また,これら諸機関の会議を支える下部会議である地区 会議(Meeting of Sector Directors and Representatives),職場会議(Meeting of Representa- tive and DCTA members)の機能についても言及する。加えて,DCTAの組合員が有す る機能についても検討したい。以下,団体交渉チームの会議から言及しよう。
4-1.DCTA団体交渉チーム会議
DCTA団体交渉チームの機能は,基本協約(Master Agreement)(25)とProComp協約を めぐり,DPSと交渉することである。
団体交渉チームは毎週月曜日に団体交渉チーム会議を開催している。この団体交渉チ ーム会議が団体交渉に関わる中心的な会議体である。この会議について委員長は次のよ うに説明する。「ほとんど毎週月曜日に学校が終わった後にやっています。時々中止に なることもありますが,主としてほとんどの場合,我々は月曜日会議を開いています。
時々,月曜日にDPS と団体交渉が入りますが,基本的には会議をしています」(26)。 DPSとの団体交渉の日程は,毎週月曜日というわけではなく,適宜行われている。し たがって,団体交渉の予定の無い月曜日は基本的にDCTA団体交渉チーム会議が開催 されているということである。「我々は月曜会議は終わりがないとよく言っている。は っはっはっはっはっは(笑)。とても疲れるんだ。はっはっはっはっはっは(笑)」(27)。 団体交渉チームの会議は,前述のメンバーによって構成され,毎週月曜日に会議は開催 されており,会議時間はとても長いという。
団体交渉チーム会議では賃上げ,基本協約,ProComp協約に関する全ての事項が議 論される。団体交渉におけるDCTAの要求についてもこの会議で立案される。団体交 渉の状況確認や今後の戦略についても議論されている。ただし,組合要求の作成につい
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ては団体交渉チームが担ってはいるものの,最終的に組合要求を承認するのは役員会で ある。
では,団体交渉チームはどのようにして団体交渉の状況を役員会,学校代表理事,現 場の組合員へ伝達しているのか。また,どのようにして組合員の不満要求を吸い上げて いるのか。
第一に,団体交渉に関する情報の提供や組合員の不満要求の吸い上げは,刊行物とオ ンラインを通じて行われる。「団体交渉チームは全ての教師に向けて毎週発行している
e-Slateという刊行物で交渉の最新情報を提供しています」(28)。また,団体交渉後,適
宜,全組合員および非組合員に向けてオンラインを通じて情報の提供と教師からの意見 を求めてその結果を分析している。つまり,デンバー学区で勤務する全教員は,オンラ インを通じて情報を受け取りつつ団体交渉チームに意見を発信することができるという ことである(29)。このように,団体交渉に関する情報提供及び非組合員も含めた教員の 不満要求の吸い上げは,刊行物やオンラインを通じてなされていた。ただし,この手段 は補助的な手段である。
第二に,団体交渉チームは団体交渉の状況を役員会会議(Board of Directors Meeting)
および代表理事会会議という会議にて提供し,役員会会議および代表理事会会議にて組 合員の不満要求を吸い上げている。こちらが情報共有の主要な手段である。では,どの ようにして団体交渉チームは,役員会会議および代表理事会会議にて団体交渉の状況を 提供し,同時に組合員からの不満要求を吸い上げることが可能となるのか。役員会会議 と代表理事会会議とを検討する必要がある。
4-2.役員会会議
役員会会議は毎月第2火曜日に開催されている定例会議である。ただし,状況に応じ て適宜臨時開催もなされている。団体交渉チーム会議が要求の立案から次の交渉での戦 略を議論するのに対して,役員会会議は,給与,ProComp,労働条件に関する方針の承 認と実施を検討する執行機関兼決議機関の会議体である。主たるテーマはProCompで ある。役員会会議では主たるテーマがProComp に関する事項であるものの,他にも幅 広いテーマについて検討されているので,団体交渉に特化した会議体として団体交渉チ ーム会議が設置されている。団体交渉チームが団体交渉の接点に位置するのに対して,
役員会会議はその要求を承認する。
役員会会議の出席者は,役員会のメンバーである委員長,副委員長,書記長,財務 長,事務局長,2名のコロラド州教員組合理事,16名の地区代表理事たちに加えて,団 体交渉チームのメンバーである(30)。役員会のメンバーに団体交渉チームを加えたもの が役員会会議の構成である。団体交渉チームのメンバーが役員会会議に出席することに
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よって,団体交渉の状況が役員会会議出席者に共有される。「団体交渉チームは月に一 度,最新情報を役員会会議で提供している」(31)。したがって,団体交渉の状況が団体交 渉チームと書記長,財務長,コロラド州教員組合理事,地区代表理事たちとで共有され る。地区代表理事たちは学校代表理事を通じて組合員の不満要求を把握しているので,
役員会会議の中で,地区代表理事たちから団体交渉チームをはじめとする全出席者は組 合員の不満要求を吸い上げることが可能となる。また,地区代表理事たちは役員会会議 に出席することによって団体交渉の最新情報を受け取り,担当している学校代表理事に 最新情報を提供すると同時に,担当している学校代表理事たちの不満要求を役員会およ び団体交渉チームに提供しているのである。
このように役員会会議は,役員会,団体交渉チーム,学校代表理事との双方向的な情 報共有の機能を果たしている。
また,役員会会議において議論された団体交渉に関する事項は,代表理事会会議を通 じて学校代表理事たちへ提供され,学校代表理事たちと共有される。反対に代表理事会 会議を通じて役員会や団体交渉チームは学校代表理事たちの不満要求を吸い上げてい る。次はその代表理事会会議について検討しよう。
4-3.代表理事会会議
代表理事会会議はDCTAの決議機関である。代表理事会会議では組合の政策に影響 を及ぼす案件が承認されると同時に,組合の政策に対する組合員による発言権が与えら れている。ProCompを中心としながら,給与,労働条件等の諸制度を議題として意見 交換がなされている。ただし,実質的な決議機関は役員会であった。役員会の決定が代 表理事会会議において否決されることない。役員会が決定を下すまでに,すでに役員会 メンバー,団体交渉チーム,学校代表理事間に役員会の決定に対するコンセンサスが構 築されているからである。では,どのようにしてコンセンサスが構築されるのだろう か。
代表理事会会議は毎月第三火曜日に開催される定例会議である。会場はDCTAの本 部から車で10分ほどのところに位置する中学校である。例えば,「代表理事会会議は 2015年 の8月 に や り ま し た。そ れ か ら,2015年9月15日(火),2015年10月27日
(火),2015年11月17日(火)にそれぞれやりました。2015年12月はクリスマスの 時 期 な の で や っ て い ま せ ん。そ れ か ら,2016年1月19日(火),2016年2月16日
(火)にやりました。来週の火曜日の2016年3月15日,2016年4月19日(火),2016 年5月17日(火)に行う予定です」(32)。役員会会議が毎月第二火曜日に開催されてい るので,代表理事会会議はその一週間後である。上記のように毎月開催されている。
代表理事会会議の出席者は,役員会メンバーと約170名の学校代表理事に加えて,団
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体交渉チームのメンバーたちである。ここでも団体交渉チームが加わる。ただし,役員 会のメンバーは毎回全員出席するわけではなく,10名程度である。とはいえ,時には 全員が出席する。なお,役員会メンバー,学校代表理事,団体交渉チーム以外の組合員 については,発言権が与えられていないもののオブザーバーとして代表理事会会議に出 席することは可能である。このように代表理事会会議は全ての組合員に開かれている。
団体交渉チームおよび役員会のメンバーはこの会議において,団体交渉の方針,団体 交渉の最新情報を学校代表理事たちに提供する。一方,役員会のメンバーや団体交渉チ ームは学校代表理事からの不満要求を吸い上げる。学校代表理事たちは所属校の組合員 とのやり取りを通じて組合員の不満要求を把握しているので,学校代表理事からの不満 要求には代表理事会会議に出席していない組合員の不満要求が内包している。したがっ て,代表理事会会議はDCTAの役員会,団体交渉チーム,学校代表理事,組合員間の 不満要求を共有する機能を有している。
4-4.地区会議
さて,地区代表理事たちが役員会会議と代表理事会会議に出席していることはすでに 述べた。とりわけ,役員会会議においては,地区代表理事たちは,組合の政策要求に対 する自身の担当する学校代表理事たちからの不満要求を団体交渉チーム,組合役員,事 務局長,コロラド州教員組合理事らに提供している。では,地区代表理事たちは具体的 にどのようにして自身の担当する学校代表理事たちの不満要求を吸い上げているのだろ うか。同様に,どのようにして地区代表理事たちは役員会会議での検討内容を学校代表 理事たちに提供しているのだろうか。それが地区会議である。この会議は,地区代表理 事が役員会会議で得た団体交渉に関する情報を学校代表理事たちに提供し,学校代表理 事たちからの不満要求を吸い上げる機能を果たす。
地区会議は,その名の通り地区代表理事と学校代表理事から構成されている。この会 議は一つには代表理事会会議には地区代表理事と学校代表理事たちが同席しているの で,その際に行われるのが慣行である。もう一つのケースとしては適宜彼らの学校で行 なわれる。こちらは不定期である。地区会議が適宜行われる場合,「各地区代表理事が 個々人や100人規模のグループや数十人のグループと会って意見交換をしている。『こ れについてはどう考えるか』ってね」(33)。つまり,地区会議は1名の地区代表理事とそ の担当学校代表理事とで行なうこともあれば,複数の地区代表理事とその担当学校代表 理事とで行なうこともある。
このように地区会議は通常は月に一度の代表理事会会議の際に行われ,その他適宜行 われている。この会議を通して,地区代表理事は団体交渉の状況を学校代表理事たちに 提供し,学校代表理事たちからの不満要求を吸い上げているのである。こうして地区代
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表理事は学校代表理事たちからの不満要求を役員会会議の場で提供し,役員会メンバー や団体交渉チームはその不満要求を吸い上げることが可能になるというわけである。こ のように,地区代表理事と学校代表理事間の情報共有機能を有しているのが地区会議で あった。
4-5.職場会議
各学校レベルにおいては,職場会議が開催されている。デンバー学区の約180校の 内,チャータースクールを除く約150校には約170名の学校代表理事が配置されてい た。学校代表理事は,所属校の組合員とのやり取りを通じて組合方針や団体交渉の状況 を提供し,組合員たちからの不満要求を吸い上げている。
職場会議は定例会議ではない。「その会議は特定の日を設定していない。我々は彼ら に月に1度の会議を奨励しています。ただ,もし差し迫った争点がなければ,2ヵ月に 1度の頻度で開催されています。毎月開催している学校や2ヵ月に1度開催している学 校というように様々です」(34)。このように職場会議の開催頻度は学校によってばらつき がある。とはいえ,2ヵ月に1度は開催されているようである。特定の開催日が設定さ れていないとはいえ,この会議は必要に応じて行われ,学校代表理事と組合員とのやり 取りが行われている。
この職場会議は,学校代表理事が組合方針や団体交渉の状況を組合員に提供し,組合 員の不満要求を吸い上げる機能を有している。それゆえ,学校代表理事は代表理事会会 議や地区会議において,組合員の不満要求を役員会メンバー,団体交渉チーム,地区代 表理事へ伝達することが可能となる。
4-6.組合員の投票権
職場会議において,組合員は所属学校の学校代表理事から団体交渉に関する情報を提 供さる。一方で自身の不満要求を学校代表理事へ伝達する。このような役割を組合員は 有していた。しかし,組合員たちの役割はそれだけではない。
組合員は最終協約を決定する役割も有している。2015年12月16日,DCTAとDPS は2015-2016年度のProCompの実施方法に関して合意した(35)。その合意は暫定協約
(Tentative Agreement)と呼ばれ,最終的な協約(Final Agreement)とはみなされていな い。暫定協約が締結された後,その協約内容がDCTAの組合員に伝達される。組合員 はその暫定協約の内容に対して承認するか否かを投票する。組合員の多数が暫定協約を 承認した場合,暫定協約は最終協約として扱われることとなる。組合員による投票の結 果,同年12月21日,暫定協約は最終協約へと至った。このように全組合員には暫定協 約に合意するか否かに対する意思表示を行うことのできる投票権が付与されている。非
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組合員にはその投票権は与えられていない。したがって,多数の組合員たちが暫定協約 に対して反対票を投じれば,その暫定協約は最終協約には至らない。再び,DCTAと DPSはその暫定協約の内容をめぐって団体交渉を開始することとなる。このように組 合員の投票権は最終協約を締結する機能を有しているのである。
しかし,デンバー学区の慣行としては,暫定協約が組合員たちの反対によって否決さ れることはない。なぜなら,暫定協約に対する組合員たちからの投票の時点において は,すでに述べた諸機関の会議を通じて団体交渉に関する情報の共有がなされており,
組合内での合意がすでに形成されているからである。それゆえ,現実には暫定協約が締 結されれば,最終協約が締結されたことを意味している。また,組合員による投票は,
団体交渉の際の組合要求の決定や労使間の覚書に関する合意の決定の際には行われてい ない。組合要求や覚書の内容もまた諸機関の会議を通じて組合内合意がすでに確保され ているからである。
とはいえ,組合員の投票権という協約締結機能を過小評価すべきではない。最終協約 を導く組合員の投票権は,自分たちの報酬に関わることを自分たちで決定するという産 業民主主義を支え得る。また,組合員が投票権を保有することの意味は,組合内民主主 義の確保とも関連する。組合員の投票権は,役員会や団体交渉チームが組合員の不満要 求と無関係な事柄を組合要求として提出することを抑制し,組合要求と組合員の不満要 求との一致を促進させる。それゆえ,諸機関の会議を通じた情報の共有と組合員の不満 要求の吸い上げが行われている。すなわち,組合員に対する投票権の付与は,組合内民 主主義をも支え得るのである。
このように組合員の投票権は,団体交渉における暫定協約を最終協約へと導く機能だ けではなく,産業民主主義や組合内民主主義を支える機能も有しているといえる。
4-7.小括
4節では諸機関での会議の構成やその機能について論じてきた。団体交渉チーム会 議,役員会会議,代表理事会会議,地区会議,職場会議という各会議の有機的結合は,
団体交渉に関する情報を組合員に提供し,組合員の不満要求を吸い上げる機能を有して いた。本節で明らかとなった諸機関の会議体の結合を整理すれば,図2のように描くこ とができる。
加えて,DCTAの組合員は団体交渉による暫定協約に対して承認するか否かを意思 表示する投票権を有している。その組合員の投票権は,協約締結機能に加え,産業民主 主義や組合内民主主義を支える機能も有していた。これら組合員の投票権の機能は,特 筆すべき点であろう。
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5.DCTA の構造と機能
以上,DCTAの組織構造と機能について論じてきた。ここではDCTAの構造と機能 とを整理した上で日米間の相違を検討する。最後に今後の研究課題を示す。
まず,DCTAの構造と機能とを整理しよう。第一に,DCTAの組織は4名の役員,
地区代表理事,学校代表理事,組合員という階層構造を形成していた。また,DCTA は団体交渉チーム,役員会,代表理事会という主要機関を設置していた。このような構 造を成していたのがDCTAである。
第二に,DCTAは団体交渉チーム会議,役員会会議,代表理事会議,地区会議,職 場会議を開催しており,各会議は団体交渉に関する情報の共有機能を有していた。すな わち,DCTAの諸機関の有機的結合は,団体交渉チームから組合員へと団体交渉に関 する情報を提供し,組合員から団体交渉チームへと組合員の不満要求を吸い上げる機能 を果たしていたということである。
加えて,第三に,組合員は暫定協約を承認するか否かについての投票権を有してお り,この組合員の投票権は最終協約を締結する機能を有していた。また,組合員の投票 権は,産業民主主義,組合内民主主義を支える機能をも有していた。これら組合員の投 票権の機能は特筆すべき機能であった。以上が,本稿が明らかにしたDCTAの構造と 機能である。
では,本稿の事例からは,日米比較という観点において,どのような含意を引き出す ことができるだろうか。ここでは,日米間における教員組合の構造と機能に関する相違 について若干ではあるけれど検討しておきたい。
図2 DCTA諸機関の会議体
出 所:イ ン タ ビ ュ ー 記 録(DCTA委 員 長,2016年3月9日)お よ び フ ォ ロ ー ア ッ プ 調 査
(DCTA委員長,2016年4月26日)より。
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中村・岡田(2001)は,ある県の事例を素材として,日本の公立小中学校教員の仕事 と報酬に関する規則を検討し,教員組合の構造と機能や報酬制度等の運用を詳細に明ら かにしている。教師の報酬と仕事に関する制度の決定に関しては,「基本ルール,基準 はほとんど文部省と人事院レベルで定められる。……中央レベルで定められる仕事と報 酬をめぐる基本ルールは,法律,政令,規則として文書化される。だが,この文書化さ れたルールがそのままの形で都道府県レベル,市町村レベルにおりてきて,制定者の意 図とおりに運用されるわけではない。…たとえば,昇給方法をめぐって,県教組,県教 育委員会間で話し合いが行われており,なんらかのルールがあることが想定された」
(中村・岡田 2001 : 266-267)。つまり,報酬制度に関する基本ルールや基準の制定に ついては,県の独自性が一定程度はあるものの,主として中央レベルで制定されるのが 日本である。一方,米国の報酬制度の制定は,州法に規定されつつも,最終的には学区 レベルでなされる。デンバー学区についても同様である。つまり,報酬制度の制定の主 要な場が,日本は中央レベルであるのに対して,米国は学区レベルである。この日米の 相違については,すでにこれまでの先行研究が言及してきた。
注目すべき日米の相違は,団体交渉において合意された協約に対する組合員の投票権 の有無である。デンバー学区においては,団体交渉において合意された協約はまずは暫 定協約として取り扱われる。その暫定協約を承認するか否かの投票権が組合員に付与さ れ,最終協約は組合員のこの投票に委ねられていた。DCTAの組合員の投票権は最終 協約を締結する機能を有していた。筆者はデンバー学区の事例しか調べていないので,
米国の他の学区については分からない。しかし,少なくともデンバー学区については,
組合員の投票権は報酬制度を制定する機能を有していた。一方,日本の教員組合の組合 員は,報酬制度の制定をめぐる中央レベルあるいは県レベルでの団体交渉における協約 を承認するか否かの投票権を有しているのだろうか。団体交渉において合意された協約 に対する日本の組合員の投票権の有無については,中村・岡田(2001)では語られてい ない。実はそのような投票権は日本にはないのではないか。もし,日本の組合員に協約 に対する投票権が付与されていないとすれば,組合員の投票権の有無は日米間の大きな 相違といえる。組合員の投票権による協約決定機能の有無という日米の相違は,報酬制 度が学校現場の組合員から遠く離れた中央レベルもしくはやや遠く離れた県レベルで制 定されるのか,それとも学区レベルという近い場所で制定されるのかに起因しているの かもしれない。ただし,日本の教員組合の構造と機能については改めて調べる必要が る。今後の研究課題としたい。したがって,ここでは示唆的な言及に留めておかざるを 得ない。
最後に今後の研究課題を示しておこう。第一にDCTAとDPS との団体交渉におい て,双方が何を要求し,どのような結果となったのかを解明することである。デンバー
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学区において実施されているProComp という業績給の仕組みは,この団体交渉におい て制定される。その団体交渉の内実を探ることが教師の報酬を決定する仕組みを理解す るためには欠かすことはできない。本稿はその団体交渉における組合要求を支える DCTAの構造と機能を検討したにすぎない。
第二に,日本の教員組合の構造と機能とを解明することである。DCTAの構造と機 能については本稿で論じてきたけれど,実は日本の教員組合については十分な理解に達 していない。米国調査での知見をもって日本をみなければ,日本の特質を掴むことはで きない。
第三に,米国における教師の報酬制度の仕組みの裏側にある労働支出の仕組みを解明 することである。岩月(2016 b)が明らかにしたように,ProCompは多様な評価項目か ら構成されているにも関わらず,教科指導に関する評価項目に偏っている。では,児童
・生徒指導という教科外指導や学校運営に関する仕事については,デンバー学区の教師 たちはどのように処理しているのだろうか。この労働支出の仕組みを解明することなし には,ProCompの仕組みをきちんと理解したことにはならないだろう。
注
⑴ Agreement and Partnership between School District No.1 in the City and County of Denver, State of Colorado and Denver Classroom Teachers Association, Provision 2-5より。
⑵ Dunlop(1958)および中村・岡田(2001)を参照した。
⑶ ここでのDCTAのプロファイルは部分的に岩月(2016 a)に基づいている。
⑷ チャータースクールに勤務する教師たちの報酬制度や労働条件がどのように規定されているのかにつ いては,今後の研究課題としたい。
⑸ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月4日)。
⑹ MCEAはメリーランド州モンゴメリー学区の教員組合である。詳細は岩月(2016 a)を参照せよ。
⑺ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月4日)。
⑻ インタビュー記録より(DCTA委員長,2015年11月27日)。
⑼ インタビュー記録より(DCTA委員長,2015年11月27日)。
⑽ PDUsとは,特定のプログラムを選択した教師たちがグループを形成し,そのグループごとに,学習,
実践,反省という3つのプロセスを経て実施されるプログラムである。PDUsの詳細については岩月
(2016 b)が詳しい。
⑾ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月9日)。
⑿ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月9日)。
⒀ 事務局長以外にも委員長が雇ったスタッフが何名かいるようであるが,詳細については分からない。
団体交渉に直接かかわるのは少なくとも事務局長のみである。
⒁ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月9日)。
⒂ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月9日)。
⒃ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月4日)。
⒄ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月9日)。
⒅ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月9日)。
⒆ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月9日)。
⒇ インタビュー記録より(DCTA委員長,2016年3月4日)。
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