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新卒採用における職場マッチング・職務適性 : 中 小企業に着目して

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新卒採用における職場マッチング・職務適性 : 中 小企業に着目して

著者 土居 雅弘

雑誌名 評論・社会科学

号 116

ページ 87‑104

発行年 2016‑03‑20

権利 同志社大学社会学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014603

(2)

要旨:新卒採用の現場では基礎的能力(コミュニケーション能力,問題解決能力など)が 過度に重視されている。大企業では基礎的能力を基準に画一的に採用しており,文系学生 に対してはその傾向が顕著である。しかし,採用人数が少なく,大企業と比較して採用母 集団を形成することが困難であると考えられる中小企業であれば,より深く学生の特性を 見極めている可能性が高いと考えられる。聞き取り調査を通じた実証分析の結果,幾つか の調査対象企業は基礎的能力だけでなく,資格や専門知識,配属先における職務への適性,

その職場へ馴染むことができるかという職場(配属先)へのマッチングが合否に影響を与 えている場合があるということが明らかとなった。

キーワード:新卒採用,基礎的能力,職場マッチング,職務適性

目次 1.問題意識

1-1.先行研究 1-2.調査概要 2.基礎的能力の評価

2-1.書類選考・筆記試験 2-2.面接

2-3.職場マッチングへの活用 3.資格・職務への適性の評価

3-1.語学力 3-2.職務への適性 4.結びに代えて

1.問題意識

1-1.先行研究

新規大卒者の採用現場では「基礎的能力」が重視されている。基礎的能力は,概ね

「社会でどのような仕事に就いたとしても必要な能力」と解釈されるが,その名称,具

────────────

同志社大学大学院社会学研究科産業関係学専攻博士後期課程

2015128日受付,20151222日掲載決定

論文

新卒採用における職場マッチング・職務適性

──中小企業に着目して──

土居雅弘

87

(3)

体的内容共に様々に示されている。例えば,それらをいかに教育するかという観点から は「学士力」「ジェネリックスキル」,社会や企業が求める能力という観点からは「就職 基礎能力」「社会人基礎力」などが提唱され,今日では広く知られるようになってきて いる(1)

先行研究では岩脇(2006)が「課題達成・創造力」「頭の良さ」「コミュニケーション 力」「アピアランス」を,岡部・樋口(2009)が「社会人としての常識やマナー」「チー ムワーク力」などを,企業が選考の際に重視する個別の能力として挙げている。これら は採用現場で特に注目される基礎的能力であり,主に面接を通じて見極められている が,客観的な指標があるわけではなく,どのように評価されているのか分かり辛い。そ のため,就職活動中の学生の

61% が「採用基準が明確でない」と困惑している

(2)

この問題が顕著に表れるのは,教育養成系などの一部を除く,文系学生を対象とした 採用プロセスだろう(3)。理系は大学での研究内容と就職先の職務が直結する場合が多 く,就職する際に求められる能力は比較的分かり易いが,文系学生は学びが職務に繋が り難く,入社後の配属先も不明確であり,まさにどのような業務にも対応出来る「基礎 的能力」が求められているといえる(4)

しかし,入社後の業務遂行に必要なのは基礎的能力だけだろうか。確かに,大量の学 生を採用し,入社後の研修や異動を経て徐々に本人の適性に合った職場へ配置する大企 業であれば,これらを採用の主な基準とすることに一定の合理性はある。しかし,圧倒 的多数を占める中小企業が,十分な基礎的能力を保持した応募者に恵まれるわけではな い。

確かに,中小企業は社員数が少なく,一人で様々な業務を担当しなければならない場 合もあるだろう。そのため本来であれば「何でもできる人材」が求められるはずであ る。しかし,応募者,採用者が共に少なく,基礎的能力に優れた人材を確保することが 困難であり,入社後の配属先まで意識した選考が行われる可能性のある中小企業の採用 現場では,基礎的能力に代替する能力として,配属後の職務に直結した能力,資格や職 場そのものへの適性を考慮している可能性がある,よって,本稿では関西に拠点を持つ 中小企業

10

社あまりを事例とし,文系学生の採用プロセスを詳細に検討し,その採用 実態がどのようなものなのかを検討してみる。主な論点は,以下の

3

つである。

1

に,基礎的能力の見極め方である。この種の先行研究は少ないが,大企業の事例 を対象とした岩脇(2007),小山(2010)が存在する。岩脇(2007)は,2006年に実施 した聞き取り調査を基に,企業が採用に際して態度や表情(非言語情報)から社風との 相性を,会話の進め方(メタ情報)からコミュニケーション能力を,自身の経験を中心 とする発言内容(コンテンツ)からマッチングと課題達成に必要な能力要件を判断して いると指摘している。

新卒採用における職場マッチング・職務適性 88

(4)

一方,小山(2010)は,岩脇(2007)がコンテンツ以外のメタ情報,非言語情報,

さらに企業が面接の際に用いる質問用紙の評価項目について詳しく分析していないと し,企業の採用基準が曖昧となる根拠を

13

社に対する聞き取り調査を基に分析してい る。企業により評価項目に違い差があり,その内容が抽象的であること,学生が面接準 備を周到に行っているため質問に対する答え(コンテンツ)を真に受けることが出来ず 評価対象がメタ情報や非言語情報にまで拡散し,総合的な評価になっていることを挙 げ,それが採用基準の境界線を拡張させているとしている。学生のコンテンツを面接官 が信頼しないのであれば,基礎的能力は非言語情報やメタ情報を通じて見極めるより他 ないだろう。しかしながら,これらの先行研究は分析のウェイトをコンテンツに置いて いるため,非言語情報,メタ情報,即ち態度や質問に対する受け答え方からどのように 学生の基礎的能力を見極めているのかについては詳細に検討していない。本稿では岩脇

(2006)に倣い,企業が選考の際に着目し,評価する専門的能力以外の汎用的な能力全 てを「基礎的能力」としてとらえ,この点を明らかにすることを第一に試みる。

2

に,職場とのマッチングである。岩脇(2009)は,コンピテンシー評価に関する 調査を行い,対象企業

23

社中,企業と学生のマッチングをコンピテンシー評価の対象 としている企業は僅か

1

社であることを明らかにした。受験者に対し質問を掘り下げる コンピテンシー評価は,より感覚的に判断される可能性が高いと考えられるマッチング を見極めるには不適切であるということが伺える。前述したが,中小企業は採用者の配 属予定先をある程度見通していると予想される。岩脇(2009)における「マッチング」

は学生と社風の相性であるが,本稿における「職場マッチング」は,配属先,つまり職 場との相性を指す。面接官は将来自分の部下となる可能性の高い学生を面接しているの であり,自部署と学生のマッチングをも視野に入れているであろう。

3

に,基礎的能力を補完する能力として個別職務への適性をどのように捉えている のかについて分析する。調査対象企業の多くは新入社員の大半を営業へ配属しており,

コミュニケーション能力や明るさを求めている場合が多い。しかし,海外部門や管理部 門など,専門スキルが必要とされる部門への配属を企図している企業も存在する。これ らの部門に配属を予定されている学生はどのような特性を求められているのか考察す る。

以上,コンテンツ,非言語情報,メタ情報を中心に企業が基礎的能力をどのように見 極めているのかについて分析することで先行研究をより深め,そして本稿独自の論点で ある職場マッチング,職務への適性について紹介する。まずは,中小企業がどのような 採用を行っているのか,その特徴を精査する。

新卒採用における職場マッチング・職務適性 89

(5)

1-2.調査概要

1

に,調査企業の概要を示した。100〜500人規模の製造業を中心に選んだ理由は,

営業から管理部門,技術職まで社内に様々な職種が存在し,毎年

10

名前後定期的に採 用しているからである。調査対象企業には化学系企業が多いが,取り扱う製品はゴム製 品(A社),電源装置(B社),殺 虫 剤(D社),フ ィ ル ム タ ッ ク(E社),ゼ ラ チ ン,

コラーゲン(F社),塗料(H社),調味料,飲料(J社),機械(K社)など多様であ る。その他の業界では,断熱事業(C社),不動産デベロッパー(G社),ロープ,住 宅資材(I社)である。多くの企業が長い歴史を有し,明治,大正期に創業している。

調査対象者の大半は課長職相当の人事担当者であったが,若手の人事担当者であった企 業もあり,調査に制限があったこと,東証

1

部上場企業が数社含まれるなど,中小企業 の中でも比較的大規模な企業が多いことには留意が必要である。

調査で尋ねた主な点は,「①どのような人材を求め,その特性を面接の中でどのよう に見極めているのか」,「②特定職務に関する適性を評価しているのか」,「③TOEICや 簿記等,資格や専門知識に関しては選考通過にどれ程影響を与えているのか」の

3

点で ある。調査対象者が選考合否の決定権を持たない場合は(A社,J社),求める人材像 や採用に当たって注目していることなどを中心に質問した。①〜③以外には,筆記試験 や適性検査,学生の学校歴をどれ程重視しているのかなど面接以外の選考,入社後の配 属先についても尋ねた。

分析の結果,調査対象企業を,入社後の研修を経て配属先を決定する大企業型グルー プ(A, F社),初任配属は営業であるが異動の可能性がある営業中心型グループ(D, I,

K

社),新入社員のほぼ全て(文系)を営業に配属する営業型グループ(C, E, J社),

事実上,職種別の採用を実施している職種型グループ(B, G, H社)の

4

つに類型化し た。営業中心型と営業型の企業は新入社員の全てを営業に配属するという点では同じだ が,営業中心型の企業の方がやや大規模企業が多く,K社は数年に一度は管理部門で の採用を実施している(5)

1 調査対象企業概要

名前 産業 従業員数(単独) 調査対象者 備考 調査時期

A B C D E F G H I J K

製造(化学)

製造(電機)

建設 製造(化学)

製造(化学)

製造(食品)

不動産 製造(化学)

製造(繊維,環境)

製造(食品)

製造(機械)

432 300 317 498 296 255 87 357 160 300 447

総務グループ人事チーム社員 総務部(係長)

総務部人事課(課長)

総務部(部長)

総務部(部長)

人事チーム(チームリーダー)

執行役員、総務部社員2名(計3名)

(連結)総務部人事課(課長)

管理部部長、人事課長(計2名)

社長室採用担当社員 人事部主任

東証1部上場

東証1部上場 東証1部上場

東証1部上場

20132 20133 20134 20136 20136 20138 20138 20139 20139 20139 20141 新卒採用における職場マッチング・職務適性

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(6)

分析の軸は,採用後の配属先が未定であり,どのような部署に配属したとしても対応 可能な基礎的能力を重視しているのか,若しくは,入社後の配属先がある程度明確であ り,配属先の職場への適性や,専門知識,資格などを考慮しているのか,という点であ る。

2.基礎的能力の評価

2-1.書類選考・筆記試験

2 タイプ別分類

グループ 名前 初任配属先 採用数(文理計) 職種別採用

大企業型 A F

3〜4人が営業 未回答

7名(2013年入社)

10名(2014年入社)

なし なし 営業中心型

D I K

全員営業 全員営業

基本は営業に配属,数年に一度管理部門

13名(2011年入社)

1〜2名(例年)

45名(例年)

なし なし なし 営業型

C E J

全員営業,工事(現場監督)

殆どが営業 全員営業

6名(2013年入社)

3名程(例年)

20名(2014年入社予定)

なし なし なし 職種型

B G H

営業(海外含む),総務経理,生産管理 営業,事務系総合職(管理部門),理系は建築。

営業(海外含む),経理など

15名程(例年)

14名(2013年入社)

15名(2014年入社)

なし あり あり

3 書類選考・筆記試験

グループ 名前 書類選考 ES 論文・筆記試験 学校歴

大企業型 A

基本的に全員通過。

言葉遣いなどを確認する 程度。

(計算,時事,英語):参考程度

(論文試験):過去の成功体験,

きちんとした文章を書けるか。

上位校は多少優遇してい る。

F 読み手を意識し,丁寧に

書いているか。 SPIを実施。参考程度。 上位校は優遇している。

営業 中心型

D 誤字脱字,入社の意思,

意欲,学生時代の経験。 最終面接の段階で若干考 慮。

I

参考程度。志望動機の論 文,適性検査の結果を含 めての総合評価。 ×

(志望動機の論文):誤字脱字。

(適性検査)参考程度。

(筆記試験):漢字,計算,時事。

(専門の論文試験):文章力など。

考慮せず。

K 筆記試験の結果を含めて

の総合評価。 × 英語,数学,国語 ある程度重視している。

営業型

C 筆記試験,グループ面接

を含めての総合評価。 (適性検査,SPI):グループ面 接を含めての総合評価。

考慮せず。

E 会社説明会にてアンケー

トを提出。 × 適性検査のみ実施。 考慮せず。

J

新卒採用における職場マッチング・職務適性 91

(7)

企業が学生の基礎的能力や職務特性を見極めているのは面接からであるということは 容易に想像出来るが,採用母集団から面接にまで進むことの出来る学生をどのように選 抜しているのであろうか。過半数の企業は面接の前にエントリーシート選考や筆記試 験,適性試験を課しており,2〜3度の面接を経て内定に至る形となっている。ここに 関しては大企業との差は見られない。全ての企業が会社説明会を開催しており,その場 でエントリーシートを記入して提出(C社,D社,F 社),もしくは履歴書などの書類 を提出させるなど,何等かの選考を行っているため会社説明会への参加が必須となる。

大半の企業はエントリーシートの提出と同時に筆記試験を課しており,その結果と併せ ての総合評価となるケースが多い(6)

3

に面接以前の各社の選考について示した。大企業型は書類選考に関して読み手を 意識した,理解し易い文章を書くことが出来るか,誤字脱字がないかというところを重 視しており,それ自体が合否に関わることは少ないが,A社は,過去の成功体験を記 述させ,その内容を面接に反映させている。F社は就職活動の内容について記述させ,

その学生の就職活動が一貫しているかを把握しようとしている。大企業型の企業に共通 しているのは学校歴を重視していることである。F社は,各大学に採用枠を設けてお り,採用実績のない大学からの採用は少なく上位校からの採用が多い。筆記試験は両社 共に参考程度にしているだけであり,最低限の基礎学力があれば問題はない。

営業中心型では,D社は会社説明会の前後に,計

2

回エントリーシートの提出を義 務付けている。筆記試験も相対評価である。K社は,採用実績校を中心に学校歴によ る選抜を行っており,筆記試験の結果が悪かったとしても,上位校の学生であれば通過 させるとしている。一方,I社は,会社説明会での態度や雰囲気が合否に占める割合が 高い。エントリーシートの内容に関しては,協調性を求めることからクラブ活動の経験 を重視している。

営業型は

3

社共に面接を重視しており,書類選考や筆記試験をそれほど考慮してはい ない。C社は営業向きの学生を求めており,そのため適性検査の結果を若干重視してい る。内向的な性格,又はメンタルヘルスに不調があると判断すれば不合格となる場合が ある。C社,E社は学校歴を重視しておらず,あくまで面接の印象が重要であるとして いる。

職種型

B 基本的に全員通過。

英語,数学

(最終面接前にSPI):参考程度

考慮せず。

G 会社説明会での印象を補

完する程度。 × 会社説明会での印象を補完する 程度。

ある程度重視している。

H 事前に自社についてどれ

程調べているか。 論述試験を実施。誤字脱字,最 後まで書いているか。

考慮せず。

ES=エントリーシート 新卒採用における職場マッチング・職務適性

92

(8)

職種型では,書類選考や筆記試験における共通点は特に見当たらないが

B

社,H社 は文系学生にはエントリーシートの内容を,理系学生に対しては専門知識を重視してお り,学校歴よりも筆記試験の結果にてそれを確認しようとする傾向が伺える。

B

社は,自分をしっかりとアピール出来ているかどうかを重視しており,内容も考慮 している。具体的には困難をどのようにして乗り越えてきたのか注意して見ている。H 社は,エントリーシートの中で自社についてどれだけ触れているかについて見ている。

例えば,HPに記載されている内容が盛り込まれていれば,事前に自社について調べて きたということになり,その意欲を評価し選考を通過させるとのことである。

2-2.面接

4 面接における注意点

グループ 名前 注目する特性 見極め方

大企業型

A 1次面接

最終面接

ストレス耐性 体育会系

プラスアルファの能力(語学など)

F

グループ討論 1次面接 2次面接 最終面接

コミュ能力,リーダーシップ ストレス耐性 環境適応力 1次面接からどれだけ成長したか ストレス耐性

周囲の意見を吸い上げ,結論を導き出せ るか。

素早く的確に返答出来るか。圧迫面接 も。

1次面接にて聞きそびれたことを質問。

役員の前でしっかりと話すことが出来る か。

営 業 中 心

D

1次面接 2次面接

コミュ能力,素直さ 1次面接と同じである。

面接官の意図に沿って話せるか。受け答 えの早さ。

1面接と同じである。

I

グループ討論 最終面接

リーダーシップ 特になし。

話を切り返すタイミング。他人の話を聞 いているか。

態度などをみている。

K

1次面接 2次面接 最終面接

コミュ能力,頭の良さ,タフさな

明るさ,前向きさ,素直さ 年上の社員との話し方,専門知識 役員との話し方

質問への受け答え方,内容の正確さ,部 活動。

面接官(現場管理職)との相性など。

営業型 C

グループ討論 1次面接 2次・最 終 面

積極性,リーダーシップ,バイタ リティ

コミュ能力

1次面接と同じである。

積極的に発言するか。

短時間で相手の話を理解し,意見を伝え られるか。

学生が想定していないような質問。身振 り手振りも。

E

1次面接 2次面接 最終面接

コミュ能力 熱意 入社の意思

話の受け答え方,明るさ,利発さ。

学生時代取り組んだ事,希望職種。

J

新卒採用における職場マッチング・職務適性 93

(9)

4

は各企業が面接にて学生の基礎的能力をどのように見極めているのかをまとめた ものである。それでは,岩脇(2007)に倣い,コンテンツは言うまでもなく,メタ情 報,非言語情報からも分析を行う。

大企業型は両社共にストレス耐性を重視する傾向にある。A社は入社後に社員が定 着することを志向しており,体育会系で年の離れた社員とも円滑にコミュニケーション をとることの出来る人材を欲している。F 社は,ストレス耐性の有無について,クラブ 活動の経験を聞くなどコンテンツから見極めようとしている。又,服装や髪形などの非 言語情報,メタ情報に関しては質問に対する回答の素早さや的確さを見ている。

営業中心型はどうであろう。D社は営業に必要な能力を,相手から信頼されること であると認識しており,コミュニケーション能力の中でも,相手の気持ちをくみ取るこ との出来る能力を重視しており,面接官が何を言おうとしているのかを考えながら話す ことが出来るか,というところを見極めようとしている。これは,質問に対して的確に 回答することが出来るか,ということである。

K

社は営業にとって必須の要素としてコミュニケーション能力,明るさ・前向きさ,

タフさ,素直さを考えている。コミュニケーション能力は会話のテンポや言葉遣い,タ フさと前向きさは部活動などの学生時代の経験,明るさは目線,素直さは自らの短所に ついてどう把握し改善しようとしているかを聞くことで拘りが強すぎる学生でないか,

というところに注意している。又,出来るだけ履歴書の自己

PR

欄に書いていない内容 について質問し,その受け答え方や,具体的な数字を聞き,すぐに答えが出てくるかと いうところから学生の話している内容に嘘がないかを見極めようとしている。

営業型は文系出身者全員を営業に配属する。面接では主にメタ情報を中心に見極めて いる。質問に対して的確に答えることが出来るか,一方的に喋らないか,相手の目を見 て喋ることが出来るか(C社),質問への受け答え方や態度(E社)を重視している。

両社共,学生が予め用意した答えを言うのではなく,本音で話しているかというところ も重視しており,大企業型,営業中心型と比較してコミュニケーション能力と営業への

職種型 B

1次面接 2次面接 最終面接

志望動機,希望配属部署 配属先への適性

ESに対する質問(困難を乗り越えた事 例など)。

希望配属先部門長による面接。

社長からの多角的な質問に答えられる か。

G

1次面接 2次面接 最終面接

明るさ,熱心さ 1次面接と同じである。

主に入社後の話

学生時代に注力したこと,就職活動に関 する質問。

H

1次面接 最終面接

コミュ能力,元気の良さ 態度,爽やかさ

質問への受け答え方。学生が想定してい ない質問。

身嗜み,髪型などの清潔さ。

コミュ能力=コミュニケーション能力 新卒採用における職場マッチング・職務適性

94

(10)

適性を結び付けて考えている傾向が見られた。

職種型は職種毎に採用を実施している。B社は事前に自社についてどれだけ調べてい るか質問することで志望動機を,営業への適性として重視している粘り強さをアルバイ トや部活動のエピソードから見極めようとしている。これはコンテンツに該当するが,

メタ情報では,質問に対する回答の的確さを見ている。H社は,明るさや,学生が想 定していないような質問を投げかけその受け答え方を見極めようとしている。具体的な 事例として,学生に対し,①客を接待する場合,自社に興味をもってもらうにはどうし たらよいか,②客を怒らせてしまった場合,どのように対処するか,などの質問をす る。②の質問の場合,「そのまま帰ってきます」などと答えた場合は粘りが足りないと マイナス評価になる。このように,回答の内容が評価の対象にならないことがないこと はないが,基本的には受け答え方,後は,回答が相手に伝わりやすく表現できている か,文章になっているかというところを見ている。

G

社は,大学時代に頑張ったことや就職活動の状況について聞くことで,物事への 取り組み方を見ている。ここから,比較的コンテンツを中心に多角的に見極めようとし ている。コミュニケーション能力を中心に粘り強さや忍耐力といった,各社が営業に必 要と考えている資質を重視している傾向にあり,営業配属予定者にはそれをより求める 傾向にある。

以上,書類選考・筆記試験から面接まで分析した。書類選考・筆記試験までの選考で は,大企業型,営業中心型共に学校歴を重視する傾向が伺えた。大企業型,営業中心型 に属する

F, D, K

社は何れも学生のエントリー数が最低でも

2,000

名以上である。一 方,営業型の

C

社(応募者),E社(会社説明会参加者)は

200〜400

名であり,職種 型に属する

H

社も

200〜300

名(会社説明会参加者)と,大きな格差がある。学生を絞 り込むためにも学校歴を重視せざるを得ない状況であることは容易に想像できる。

営業型の

C

社,E 社は書類選考・筆記試験を重視していない。C社は個人面接の前 に集団面接を実施しており,その結果が合否に占める割合が高い。E社は会社説明会に 参加した学生全員が面接に進むことが出来る。一方,職種型は,G社が学校歴をある 程度重視している,H社が,エントリーシートに自社の

HP

の内容をどれ程盛り込んで いるかを重視している,というところ以外には特に目立った傾向は伺えなかった。

面接に関して,大企業型はコミュニケーション能力や明るさ,質問への受け答え方な ど,対話の中から判断出来る要素だけでなく,学校歴,服装や髪型などの非言語情報,

学生時代の経験といったコンテンツなどから総合的に判断しようという傾向があること がわかった。会社に定着してくれるか,入社後に成長する学生であるか,というポテン シャルを重視している。営業中心型も同様の傾向にあり,その可能性を表す要素として

「素直さ」,「ストレス耐性」を見極めようとしている。

新卒採用における職場マッチング・職務適性 95

(11)

一方,営業型は営業への適性としての基礎的能力を,質問への受け答え方を中心とす るメタ情報から知ろうとしている傾向があることが感じられた。職種型は,営業配属予 定者に対しては営業型と同様にメタ情報から営業への適性を確認している。営業中心型 は,大企業型と営業型の中間に位置する。

2-3.職場マッチングへの活用

本調査の事例からは,調査対象企業の全てが基礎的能力を重視していることは明らか であるが,配属予定部署の雰囲気や人間関係に上手く溶け込めるかという部分も評価の 対象となるケースが多いという知見も得ることが出来た。基礎的能力ではない,例えば 配属先の人間関係や雰囲気との相性を「職場マッチング」と呼ぶ。

A

社の担当者は「社員同士が仲の良い社風であるため,コンサルティング会社に就 職するようなガツガツした特性をもつ学生は基礎的能力が高かったとしても採用しな い」と発言している。これは

A

社全体の社風とのマッチングに関する事例であるが,

面接に参加する現場管理職は,配属予定部署と面接している学生がマッチング出来るか という点まで視野に入れているであろう。K社では,部署毎の雰囲気の違いが少ない ため,配属予定先への相性までは考慮していないが,2次面接において学生と面接官と の相性が合否に影響することが多いと指摘しており,基礎的能力以外の要素が合否に影 響を与えていることが伺える。

職場へのマッチングは同時に配属先部門へのマッチングをも意味する。A社,I社の 部門へのマッチングに関する事例を紹介する。A社は,文系出身者の多くを営業に配 属しているが,営業に必要とされる能力は担当する業界により様々であると認識してい る(例えば,医療業界であれば看護師を相手にすることが多いため,女性と接すること が得意な者に適性があるなど)。この点に関しては,A社の人事チームは重視してお り,適性検査を作成している企業の協力の下,現在社内アンケートの実施を企画してい る。

一方

I

社は,社内に存在する事業部毎に求められる適性が異なっている。勿論,その 適性を「求める人材像」として公表しているわけではないが,選考の過程で学生の特性 を見極めながら配属先を考えているという。配属先は環境緑化,産業資材,物流住宅資 材の各部門である。環境緑化部門は,面倒見の良い部署であるが,役所への飛び込み営 業が多く,話を聞いてもらうための積極性が,産業資材部門では取り扱う品目が多いた め各商品の知識が,物流住宅資材部門は扱う品目は少ないが新しい部署であり若い社員 が多いため,協調性が求められる。

基礎的能力と配属先への適性が同時に見極められている可能性は高いと考えられる。

就職活動の現場では,「この人と働きたい」,と思われる人が採用される,とよく言われ

新卒採用における職場マッチング・職務適性 96

(12)

ている。本調査の事例を一般化することは困難であるが,中小企業の採用では雰囲気や 相性といった要素が大企業以上に重視されるのではないだろうか。

3.資格・職務への適性の評価

3-1.語学力

語学力は,企業が学生に対して求めるとされる代表的な要素であるが,どれ程重視し ているのであろうか(7)。成田(2012)では,英語力に関する企業と学生の視点が一致し ていないことを指摘しているが,具体的に分析してみる必要がある。各社が学生の語学 力をどのように評価しているのかを表

5

にまとめた。

調査対象企業が語学力を評価する場合,入社後に海外部門へ配属させることを前提と し,職務への適性として評価する企業と,継続して学習する能力など,基礎的能力の一 部として評価する企業の

2

種類に大別できる。大企業型は,入社時の職務は未確定であ り,研修期間も他グループと比較して長いため,評価のベースは基礎的能力であり,語 学力はプラスアルファの能力として捉えているというところで共通している。

営業中心型,営業型は,入社後の業務における語学力の必要性については様々である が,基礎的能力をより重視しているという点では一致しており,中には重視していない 企業もある。語学力を評価する企業も,K社を筆頭に,あくまで基礎的能力の一部と して評価している企業が全てである。A社は,基礎的能力が低いと日常的な業務に支 障を来すということ,将来的に海外事業が縮小した場合の異動が困難となるという理由 から語学力を重視した採用には慎重である。同様に

E

社も,基本的に基礎的能力を重 視する傾向であり,語学力はプラスアルファの能力として考慮している程度である。E

社は

TOEIC

の点数が高い学生は内定を出したとしても大企業へ流れてしまう可能性が

あるということから警戒している。C社も同様に基礎的能力重視であるが,日常会話が

5 語学力の評価

グループ 名前 重視する度合 選考への影響 評価基準 評価分類 大企業型 A

F

重視している 重視している

基本は基礎的能力 基本は基礎的能力

TOEIC(基準点なし),留学経験

基礎的能力 基礎的能力 営業中心型 D

I K

重視していない 無回答 重視している

考慮している

TOEIC 800

基礎的能力 営業型 C

E J

重視している 重視している

無回答

基本は基礎的能力 基本は基礎的能力

TOEIC,留学経験

基礎的能力 基礎的能力

職種型 B

G H

重視している 無回答 重視している

海外部門では重視

海外部門では重視

未回答

TOEIC 800点,留学経験

職務

職務 新卒採用における職場マッチング・職務適性 97

(13)

出来る程度の人材は欲しいということである。本音では,語学力のある学生を採用した いが,大企業と比較して人材を集めることが困難であるため,表

5

における評価基準も 参考程度である。D社は語学に注目してはいるが,新入社員に語学力はそこまで求め ていない。

職種型は職種別採用を実施している企業であり(B社は実施していないが,選考過程 で配属先が決定する),不動産業である

G

社を除き,B社,H社共に海外部門への配属 を前提に評価している。B社は海外営業を希望する学生に対しては,語学力を求めてい る。採用基準については回答を得ることは出来なかったが,採用に際して

7〜8

割のウ ェイトを占め,多少基礎的能力に不足があったとしても採用されている。無論,日常業 務を遂行するには基礎的能力が必要である。語学力を主な基準として採用した学生は,

入社後,製品に関する知識を習得することが困難であったことなど基礎的能力の部分に 問題があり,結果として退職してしまったという例も存在する。しかし,その学生の将 来的な可能性をも視野に入れて採用していた。H社は近年,語学力に注目しており,

特に

2013

年の採用に関しては

TOEIC

の点数や留学経験を評価していた。TOEICでは

800

点を

1

つの目安としている。留学に関しては,どこの国に,どれくらいの期間留学 していたのかということ,特にどれくらい喋ることが出来るのかということを重要視し ている。2013年度に採用された営業

4

人の内

1

人は,語学力を評価され採用されたた め,海外事業推進室に配属予定である。その学生は

TOEIC

の点数は提出していなかっ たが,留学経験があり,日常生活程度であれば英語を喋ることが出来るレベルであっ た。選考に影響しないが注目しているという企業を含めると語学を重視している企業は 多い。

3-2.職務への適性

本調査における対象企業の殆どが入社後の配属先が営業であることは前述したが,管 理部門への配属する企業もある。これら管理部門では営業とは異なる職務適性が求めら れる可能性もあるため分析の対象とする。無論,どのような部署に配属されても必要と なる基礎的能力は多いであろうが,管理部門であれば営業程の明るさや元気の良さ,話 術などを必要としないと考えられる。まずは表

6

から,各企業が文系出身の新入社員を どの部署に配属しているのかについて確認する。

それでは,職務への適性を重視していると考えられる職種型に属する企業の事例を中 心に考察していく。B社は,総務経理職志望者には,会計,法律の知識(会社法,労働 基準法),生産管理志望者には

PC

スキル,英語,中国語の語学力があれば望ましいと している。

G

社は,事務系総合職の新入社員は財務や社長秘書などに配属している。専門知識

新卒採用における職場マッチング・職務適性 98

(14)

はそれほど重視しておらず,入社後に勉強してもらうということであったが,例えば財 務であれば銀行との折衝があるため税務・資金関係の知識がある人材を求めている。

又,専門知識に加え教養が求められる。営業職には明るさや積極性,清潔感を重視して いるが,事務処理能力に関しては別枠で総合職を採用しているため,それほど求めては いない。

H

社も経理職での採用では簿記の資格をもっていることはプラスに評価している。

適性に関しては,背広が汚れていないかなどの部分から見極めようとしている。内向き の業務であるため,営業ほど社交性や明るさは求めないが,きっちりとした性格である ことを求める。これらの職種別採用を行っている企業は,特定の職務に必要な資格や専 門知識を評価している。

基礎的能力を重視している大企業型〜営業型はどうであろう。F 社は基礎的能力を重 視しているが,数学が得意であれば経理財務,法学部出身であれば経営企画へ配属を考 えるなど学生時代の専攻を考慮してはいる。しかし,あくまで参考程度である。A社 は,海外要員として語学力に優れた学生を採用しても,基礎的能力が低ければ他の部署 に異動させることが困難であることを指摘している。ポテンシャルを重視する大企業型

〜営業中心型の企業は,参考程度までに学生の専門知識を考慮することはあっても,そ れが採用に結び付くという結果を得ることは出来なかった。営業型も同様である。しか し,K社は若干ではあるが考慮している。基本的には新卒採用した文系学生は全員営 業に配属であるが,不定期に管理部門要因として学生を採用している。K社が営業へ の適性としてコミュニケーション能力,明るさ・前向きさ,タフさ,素直さ,の

4

つの 要素を重視していることは前節にて説明したが,これに「頭の良さ」を加えた

5

つの要 素で評価項目を作成し,それに沿って学生の評価を行う。管理部門要因で採用しようと している学生には,営業配属予定者以上に「頭の良さ」を重視するとしており,それは 質問に対する回答の早さや正確さから見極めようとしている。例えば,学生時代の経験 について質問し,何か具体的な数字を答えさせ,その時の回答の早さや表情などから見 極めようとしている。

それでは,具体的に特定職務への適性を見極めようとしている事実を表す回答とし て,B社の担当者の言説を以下で紹介したい。

『職種別採用ではなく総合職としての採用をしていますので。ただ,2つくらい候補が挙が るのですよ。「B社には色んな職種がありますよ。あなた何がしたいですか。」そう聞いて,

「営業に興味があります。でも,生産管理にも興味があります。」と言ってくれたら,そうい う目線で1次面接をして,生産管理にも適性がありそうだな,と判断すれば,2次面接以降 で営業と生産管理別々の2回面接をします。最終的に内定が出たら,「あなたは第1志望が 営業で第2志望が生産管理ですね。入社してどちらの方に適性があるかは4月以降の研修で 新卒採用における職場マッチング・職務適性 99

(15)

見させてもらいます。」と面接の段階から言っています。適性に関しては,経理とか総務は 会社の中枢ですから,性格で言えば堅いというか…,しっかりしてそうだな,という人。何 でもかんでも喋ってしまう人はまずいので,口が堅い人とか。後は,会社を経営していくと いう立場になった時に,労使という関係がありますので,会社側に立った考え方が出来るか どうかが,重要なポイントになります。従業員側に立った意見を多く発言する人は会社側の 立場にはなれないので,総務経理には向いてないですね。生産管理については…,部品の調 達をする購買部門,生産の計画を立てる生産管理部門,この2つが生産管理部の柱になるの ですが,購買部門については,外部のベンダーさんという仕入業者さんとの折衝があります ので,部品をもっと安くして下さいですとか,もっと早く納入して下さいですとか,交渉事 が絶えず付きまとうので,交渉事が苦手な人は向いてないですね。生産管理の適性ではどう いうものがあるのかというと,生産計画というものを作っているので,PCのスキルは勿論 必要ですけど,工程管理を出来る人が欲しいんですよ。工程管理というと,工場の中でA という1つの部品を組み立てるのに色々な部品が必要,Bという部品も同じようにと,どの

順番でAB,どちらが先に出来た方がいいのかなど,メインのラインを走る物に対して

色々な物がくっついてきます。この辺の順番を間違えると工程が止まってしまいます。その 辺を計算出来る能力や,シミュレーションする能力が必要になってきます。

……(中略)……

うーん,そうですね。100点満点でなくても,70点でも採用しているか,ということです よね。していますよ。まぁ上を求めれば100点満点に近い人を求めるのですが,そういう人 は中々来ないですしね。2次面接では各部門長が入ってきますから,それで部門長がOK 出せば,後は役員の決裁だけですから。その辺でミスマッチは無くしたいと考えています。』

この

B

社の事例が示すように,基礎的能力のみならず,職務への適性が評価の対象 となっていることが分かる。無論,基礎的能力に優れた学生であればそれに越したこと はない。上記の発言からも,職務への適性を評価しているのは消極的な理由からである ことが分かる。しかし,大企業と比較し人材を集めることが困難である中小企業の中に は,それらも評価の対象としているのである。

4.結びに代えて

本稿は,調査対象の中小企業が学生の基礎的能力と職務への適性をどのように見極 め,評価しているのかについて検証した。全ての調査対象企業は大企業と同じく基礎的 能力を重視している。しかし,学生の特性をどのように把握しているのかは企業により 多様である。A社,D社は消費者に馴染みの深い商品を生産している他,K社は大型 の設備を製造,開発している。又,F社はその分野では世界でもトップクラスのシェア を誇る。これらの大企業型,営業中心型は学生のエントリー数も多く,書類選考の段階 で,学校歴を中心に多くの学生が選抜されており面接を受けるのは基礎的能力の高い学

新卒採用における職場マッチング・職務適性 100

(16)

生が多い。学生に求める能力も,入社後の成長度や定着の可能性,即ち職場マッチング を重視し,非言語情報,メタ情報,コンテンツを均等に見極めようとする傾向にある。

一方,営業型,職種型はより職種に特化した採用を行っている。営業型はコミュニケ ーション能力以外にも積極性や質問に対する受け答え方などメタ情報を重視している。

これは営業への適性を考慮しているものと考えられる。選考は全ての企業が面接,グル ープ討論から始まり,書類選考や筆記試験で振るいにかけることはない。職種型では,

基礎的能力の見極め方に関する共通点は見られなかったが,語学を始め,専門知識や職 務への適性を考慮していることは

3

節にて検討した通りである。

先行研究では,企業が基礎的能力を重視しており,特定職務への適性を考慮している ケースは少ないという結果が出ている。例えば,岩脇(2006)では,調査対象企業の多 くは特定職務への適性が採用に直結することは少なく,語学力に関しても入社後の勉強 を重視しているとしている。同様に,永野(2007)も職種別採用に関する事例を紹介 し,企業は潜在能力を重視しているため導入している企業は少ないと示している。両先 行研究の調査対象企業は職務への適性を評価しているとは言え,求める基礎的能力の水 準も高い。確かに,中小企業も採用の指標として基礎的能力を最も重視している。しか し,消極的な理由ながらも,職務への適性を基礎的能力に代替する能力として考慮して いる中小企業は職種型を中心に存在するという知見が得られた。

本研究では,11社の事例を通じて,調査対象企業を

4

つのグループに類型化し,学 生の基礎的能力,職務への適性をどのように評価しているのかについて,出来る限り詳 細に分析した。その結果,大企業と同じように採用後の配属先が未確定である企業は,

コミュニケーション能力,ストレス耐性,素直さ,マナーなど,基礎的能力を幅広く見 極め,どの職種にも対応できる学生を採用しようとしている意図が感じられた。一方,

採用後の配属先がある程度はっきりとしている企業であれば,その配属先への適性,能 力がマッチしているのかという点について見極めようとしている。

尚,ここで注意すべきは,基礎的能力と営業への適性では,重複する部分が大きいと いうことである。基礎的能力とは汎用性の高い能力であるということは疑いないが,営 業型はコミュニケーション能力や積極性,明るさを中心に,より対人能力を重視してい ることは明らかである。新卒採用時で企業が求める能力を産業別,規模別に分析した小 林・梅崎・佐藤・田澤(2015)では,産業に関わらず大企業が学生に対し強く求める能 力として,実行力,発信力,働きかけ力を挙げている。これらの能力が求められる理由 として,大企業程,同僚や上司など関与者の幅が広いということを指摘している。その 他にも,上場企業であれば社会的責任が大きいからか,ストレスコントロール力も重視 している。ここから,大企業は社内で円滑なコミュニケーションをとることが出来る人 材か,ということを重視しているのではないだろうか。ストレス耐性も含め,離職せず

新卒採用における職場マッチング・職務適性 101

(17)

に定着する素質を中心に基礎的能力を見極めようとしている可能性が高い。

最後に本研究に残された課題について触れる。本研究では,特定の産業(製造業)に 属する中小企業の採用実態を

4

つに類型し分析しているが,それが中小企業の特徴なの か,という点についてはまだわからない。本研究では大企業に対する調査を行っておら ず,比較検討することが出来ないからである。大企業であっても,本研究で示唆してい るように職場マッチングや職務適性を考慮している企業は存在するかもしれない(最 も,大企業の方が基礎的能力の高い学生を採用し易く,調査対象企業が職務適性を考慮 するのは消極的理由によるものであるため,その可能性は低いであろう)。

又,本研究の調査対象企業は規模(従業員数,採用者数)をある程度統一しているた め,中小企業の中でも規模が大きくなる程,大企業のように基礎的能力重視の採用にな るとも言えない。しかし,2節で指摘したように,大企業型,営業中心型に属する企業 は学生のエントリー数が多い傾向にあるため,比較的,基礎的能力の高い学生を採用す る機会に恵まれているとは考えられる。そうであれば,重視する能力も大企業のそれに 近づくであろう。

大学進学率が上昇を続ける今日,学卒者と中小企業のマッチングはより重要な課題と なるだろう(8)。しかし,企業の掲げる「求める人材像」は抽象的で分かり辛い。職場マ ッチングや職務への適性などを考慮し,より詳細な情報を学生に開示することが必要で あろう。そうすることで採用の精度を上げ,ミスマッチを減らすことが出来るのではな いだろうか。

⑴ これら基礎的・汎用的能力の概念を提言している主体は,文部科学省(学士力),経済産業省(社会人 基礎力),厚生労働省(就職基礎力)である。ジェネリックスキルは学士力の中に含まれる汎用的技能 にあたる。これらはコミュニケーション能力を中心とした,どの分野にも応用可能な能力である。学 士力は「学問分野における基本的な知識を体系的に習得するための能力」,一方で社会人基礎力は「職 場や地域社会で多様な人々と共に仕事を行う上で必要な基礎的能力」とされており,両概念の提言さ れた目的は若干異なる。本稿が指す基礎的能力に一番近いのは,「企業が採用に当たって重視し,比較 的短期間の訓練により向上可能な能力」とされる就職基礎力であろう。

⑵ 本田(2008)より。日本の新卒採用の問題点については,その他にも児美川(2011),本田(2010),

森岡(2011)にて詳しく説明されている。

⑶ 現在の新卒採用は学生が就職ナビサイトを経由して応募し,エントリーシートの提出や筆記試験,数 回の面接を経て内定に至る自由応募形式が一般的である。

⑷ 例えば,内閣府が1998年に実施した「世界青年意識調査」では,日本の教育機関における「職業的意 義」が世界的に見て低いという事実が指摘されている。

I社は従業員数160名と調査対象企業の中でも少ないが,グループ全体では600名を超える。

⑹ 履歴書には学歴や取得した資格以外に自己PRや志望動機を記入させる欄がある。そのためエントリ ーシートを提出させない企業もある。

⑺ 成田(2012)は,「企業は基本的に基礎的能力を重視しており英語はプラスアルファの能力として見て いるが,近年では語学力を求める比重が高くなっている」と指摘している。

新卒採用における職場マッチング・職務適性 102

(18)

⑻ 学生の大企業志向が問題視されており,そのことが太田(2010)にて紹介されている。

参考文献

岩脇千裕(2006)「大学新卒者に求める「能力」の構造と変容−企業は「即戦力」を求めているのか−」

『Works Review』pp 37〜39

岩脇千裕(2007)「大学新卒者採用における面接評価の構造」『日本労働研究雑誌』567pp 49〜58 岩脇千裕(2009)「大学新卒者採用において重視する行動特性(コンピテンシー)に関する調査−企業ヒア

リング調査結果報告−」JILPT調査シリーズNo.56 pp 29

太田聡一(2010)『若年者就業の経済学』日本経済新聞出版社pp 231〜235

岡部悟志・樋口健(Benesse教育研究開発センター)(2009)「企業が採用時の要件として大卒者に求める能 力とその評価方法−採用担当責任者を対象とした量的・質的調査のデータ分析から−」大学教育学会 31回大会自由研究発表Ⅲ「学士課程教育」発表資料」pp 8

経済産業省編(2010)『社会人基礎力 育成の手引き−日本の将来を託す若者を育てるために』学校法人河 合塾pp 2〜7, 19, 28〜29

小林徹・梅崎修・佐藤一麿・田澤実(2015)「新卒採用時に求められる能力と採用方法−産業と企業規模別 の違いに着目して−」『日本労務学会誌』Vol.16 pp 52

児美川孝一郎『若者はなぜ「就職」できなくなったのか?−生き抜くために知っておくべきこと』日経図 書センターpp 118〜147

小山治(2010)「なぜ企業の採用基準は不明確になるのか−大卒事務系総合職の面接に着目して−」苅谷剛 彦・本田由紀[編]『大卒就職の社会学 データからみる変化』東京大学出版会pp 199〜219

永野仁(2007)「企業の人材採用の変化−景気回復後の採用行動」『日本労働研究雑誌』567pp 10 成田康郎(2012)「大学における英語教育及び対社会人英語教育−人材育成の視点から−」樋口美雄『グロ

ーバル社会の人材育成・活用 就学から就業への移行課題』財務省財務総合政策研究所pp 196〜197 本田由紀(2008)『軋む社会 教育・仕事・若者の現在』双風舎pp 57

本田由紀(2010)「日本の大卒就職の特殊性を問い直す−QOL問題に着目して」苅谷剛彦・本田由紀[編]

『大卒就職の社会学 データからみる変化』東京大学出版会pp 51〜52 森岡孝二(2011)『就職とは何か−〈まともな働き方〉の条件』岩波新書pp 2〜13

新卒採用における職場マッチング・職務適性 103

(19)

In the hiring of new graduates, much is made of basic abilities is excessively. Basic abilities include communication skills, imagination, and so on. Many big businesses adopt basic abilities as a criterion of employment. Liberal arts students are assigned to various posts, with a remark- able tendency. However, small and medium-sized businesses have more difficulty for shaping a population of employment than that of big businesses, and assignment is relatively clear. This paper sets up a hypothesis that small businesses make sure of their characteristics at a deep level.

As a result of empirical research, this paper defined there are businesses which regard licenses, specialties, fitness for the duties and matching to the workplace as vital elements as well as basic ability and that the abilities have an influence on the pass or fail decision.

Key words: Basic abilities, Small businesses, New graduates

Matching at One’s Place of Work and a Aptitude for the Type of Job in Hiring of New Graduates :

The Cases of Small and Medium-sized Businesses Masahiro Doi

新卒採用における職場マッチング・職務適性 104

表 4 は各企業が面接にて学生の基礎的能力をどのように見極めているのかをまとめた ものである。それでは,岩脇(2007)に倣い,コンテンツは言うまでもなく,メタ情 報,非言語情報からも分析を行う。 大企業型は両社共にストレス耐性を重視する傾向にある。A 社は入社後に社員が定 着することを志向しており,体育会系で年の離れた社員とも円滑にコミュニケーション をとることの出来る人材を欲している。F 社は,ストレス耐性の有無について,クラブ 活動の経験を聞くなどコンテンツから見極めようとしている。又,服装や髪形など

参照

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