著者 福岡 今日一
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 3
ページ 199‑212
発行年 2002‑02‑28
権利 同志社大学大学院総合政策科学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004740
わが国におけるペット生体取引の現状と課題
福 岡 今 日 一
あらまし
底無しの不況で、少年による犯罪や幼児虐待が 多発するなど、暗い世相の中、バブルの頃のよう に投機の対象ではなく、「癒し」の手段としてペッ トを求める人が増え、現在に至るまでペットブー ムが続いている。ペットを飼育する人が増えるに つれ、悪臭・騒音に対する苦情、繰り返される動 物虐待、賛否両論のノラ猫騒動、昨今はやりの集 合住宅でのペット飼育、更には金銭を巡る愛犬家 同士のトラブルが殺人事件に発展するなど、ペッ トに関連するトラブルは大きな社会問題となって いる。ペットトラブルとは、ペット対人間、ペッ ト対ペットの問題ではなく、実は人間対人間の問 題である。その中でも人間とペットの出会いの場 であるペットショップでの生体取引をめぐる問題 が、ペットトラブル全体の約8割を占めている。
そこで本稿では、まず「ペット生体取引におけ る諸問題」と題して、ペット生体取引現場におけ る諸問題を取引形態別に検討し、ペット生体は 製造物責任法の製造物に該当するか否か、ペッ ト生体取引が特定物取引か不特定物取引である かの2点を中心に、ペット生体取引における法 律上の問題点を考察してみた。続いて、ペットと 人間の共生を目指したペット法整備が急務では あるが、未だペットに公共性が存在されていな いとされる我が国では、まだそれには時間が必 要である。とはいえ、現状のままでは不幸なペッ トが増えるばかりである。そこで、「ペット生体 取引の課題と展望」と題して、ペット生体取引の 適正化に向けて法規制ではなく、動物取扱業者 の自主規制を柱とした政策提言を試みた。
1.はじめに
我が国は現在、未曾有の不況に苦しめられ、社 会全体が沈滞ムードの中にある。暗い世相の中、
人々は何に安らぎを求めているのであろうか。
バブル期には「カネ」に安らぎを求める拝金主 義が跋扈していたが、今では環境問題を通して、
地球に共生する生物の一つとして人間の存在を 問う声が日増しに高まっている。人々は安らぎ の対象を「カネ」などから得られる物質的満足感 から、「自然(動植物)」から得られる精神的満足 感へと変えつつある。
従来、ペットは人間の意のままに支配される「物」
として扱われて来たが、今ではペットを「家族」や「仲 間」と考える人たちが増えている。ペットの役割が、
今まで考えられていた「人間の玩具」から、暗い世相 に沈む人々へ安らぎを与える「癒しの手段」へとなる など、人々のペット観は急激に変化しつつある。
ペットの重要性が増すにつれ、ペットとの共生 をめぐる問題が多発するようになって来ている。
共生を考慮した戸建て住宅・集合住宅・都市の公 共施設や公的空間などのあり方、ペット飼養者の 責任のあり方、ペットに関する管理規約や地域住 民間の飼育協定、捨てイヌ・捨てネコ対策、鉄道・
航空機・船舶・バスなどの公共交通機関や公共施 設・公的施設などの施設とペット、ペット税制、人 獣共通感染症、動物薬品と動物用食品の安全性、
獣医療の高度化とインフォームド・コンセント、
獣医療過誤、ペット保険(医療保険・生命保険付 医療保険)、ペットの固体識別法、法獣医学の充 実、各種のペット関連産業への法的・政策的対応 などペット問題は極めて多岐にわたっている1。
1 ペット法学会設立趣意書より
それらの問題でも、特に人間とペットの出会 いの場であるペット生体取引(以下、「生体取引」
という。)の現場で起きる問題が注目されてい る。ペットに関するトラブルの約8割が、生体取 引をめぐる問題であり、人間とペットとの共生 を考える上で避けて通れない問題である。
ペット問題とは、ペット対人間、ペット対ペッ トの問題ではなく、実は人間対人間の問題であ る。生体取引問題も例外ではなく、ペットショッ プやブリーダーなどのペット生体販売業者(以 下、「販売業者」という。)と飼い主との問題であ る。ペットは単なる被害者以外の何者でもなく、
販売業者と飼い主のエゴイズムがペットたちの 犠牲を次々と生んでいる。
生体取引問題を引き起こす原因は、
1)飼い主の意識の低さ 2)ペット法制度の未整備 3)販売業者の低いモラル の3点であると考えられる。
そこで、生体取引の課題と展望を模索する本 稿では、まず「ペット生体取引における諸問題」
と題して、生体取引の具体的な問題点を取引形 態別に明らかとする。次に「ペット生体取引の課 題と展望」と題して、人間とペットが共生できる 社会の実現に向けて、販売業者に対する政策提 言を試みることにする。
2.ペット生体取引における諸問題 2.1 ペット生体取引をめぐるトラブル 2.1.1 ペットを入手する
ペットトラブルでは、ペットの近隣に及ぼす 影響によって問題を発生させることが少なくな いが、実際にはペットをめぐる争いにおいて一 番多いのは購入時の問題である。本来、飼い主に 豊かな心と安らぎを運ぶはずであったペットが、
飼い主に悲しみと怒りを新たに持ち込むことに なるのである。
購入したペットが日を経ずして病気や、死亡 することにより、販売業者と購入者との間に責
任所在の争いが発生するのである。購入者は動 物好きで、ペットとの楽しい生活を夢みていた はずだが、販売業者との争いがこじれることに よって、やがてペット嫌いへと進行することも ある。その場合の多くでは、ペットに全く罪はな いのにもかかわらず、まるで病気や死亡したこ とが悪いかのように、責任が転嫁されているの である。
ペットは、動物であり「物」ではないことから、
生体取引を一般物の取引と同一に扱うことが出 来ないはずである。しかし、我が国の現行法制度 では、動物を「物」としているために、「生き物」
という要素が加味されず取引上で様々な問題が 多発している。
実際に、ペット生体(以下、「生体」という。) の取引形態は、
i)知人から譲り受け
ii)保健所又は動物管理事務所から譲り受け iii)ペットショップでの店頭購入
iv)ブリーダーから直接購入 v)通信販売で購入
に分類することができる。
生体取引形態としては、1960 年代の第1次 ペットブームまで主流であった「知人から譲り 受け」は減少し2、今では「ペットショップでの 店頭購入」が最も一般的となっている。またバブ ル景気以降は、「ブリーダーから直接購入」や「通 信販売で購入」が増加の傾向があり、ここ十数年 で生体取引は大きく様変わりして来ている。
生体取引形態の多様化につれ、生体取引をめ ぐる争いも複雑化して来ている。
2.2 ペット生体取引方法Ⅰ(無償取引)
2.2.1 知人からの譲り受け
「知人から譲り受け」は、従来の我が国の生体 取引では最も一般的であった。1960年代までは、A A A ペットの役割は、イヌは番犬、ネコはねずみ取 り、そして小鳥と金魚(熱帯魚を含む)は鑑賞用 と決まっており、ハムスターなどの小動物を飼 養する例は少なかった。またイヌ・ネコとも純血
2 イヌは、徘徊犬が現在ほとんどいないため、飼い主の営利目的以外の繁殖は事実上考えられない。一方ネコは現在でもほとんど
が徘徊状態にあるため、飼い主の想定外の繁殖が多い。そのため、イヌの譲り受けによる入手は減少しているが、ネコは現在で も譲り受けによる入手が主流である。
種にこだわらず、一般に利口といわれる雑種が 非常に多く、ペットフードは、イヌ・ネコとも飼 い主の残飯を与えられるのが一般的であり、
ペット用品も首輪などの必要最小限だけが購入 されていた。我が国では、生体は購入するもので はなく譲り受けるものであり、その飼養には金 銭を余り消費しないという風潮があったのであ る。
法律上では、譲り受けによる生体取引は、物の 給付を受ける側が経済的な負担を負わない無償 契約として、贈与に該当する(民法 549 条)。贈 与の場合でも、その目的物が特定物であるとき は、贈与者は売買と同様に瑕疵担保を追求され る(民法 551 条)。また、不特定物であるときは、
贈与者は中等な品質を有する生体を引き渡す義 務があり(民法401条)、瑕疵があった場合は、一 般の債務不履行の規定にしたがって責任を負う とされる。
しかし実際の取引では、生体自身に何らかの 欠陥があった場合でも、無償かつ当事者同士が 旧知であることから、トラブルまで発展する ケースは非常に希であった。
しかし 1980 年以降、純血種を尊ぶペットブー ムと近隣関係が希薄になるにつれ、生体取引上 で最もトラブルの少なく、生体にとっても環境 変化による負担が少ないこの形態は減少の一途 をたどっている。
2.2.2 保健所などでの譲り受け
「保健所・動物管理事務所から譲り受け」は、
「知人から譲り受け」による生体取引の変形とい える。旧来の濃厚な近隣関係が崩れ、希薄となっ ている現在では、不用になった生体を譲り渡す 知人が少なくなったことに起因している。
譲り渡す人がいないという理由で、生体を遺 棄すること3は禁止されており、結局保健所等に 引き取ってもらうことになる(動物愛護法 1 8 条)。保健所も引き取った生体を一定期間預かっ た後、通常は処分することになっている4が、保 健所ではむやみに動物を処分することはせずに、
新しい飼い主を探すためにペット交換会を催し ている。飼い主に見捨てられた生体たちで、幸運 にも引き取り先が決まったものは新しい飼い主 の下での生活が、決まらなかったものは殺処分 が待っているという運命が、そこで決まるので ある5。
実際の取引では、公的機関が仲立ちとなった 無償による方法であり、取引上のトラブルは事 実上皆無である6ことから、最近は譲り受け希望 者が増加している。にもかかわらず、現実にこの 形態で生体を取得している人は非常に少なく
(表1)、その理由としては、交換会に関する情報 の絶対量が不足しているからである。
不用になった生体が少数でも遺棄されず、ま た殺処分されないことは、動物愛護の観点から も、行政側(保健所)の積極的な取り組みと交換 会情報のなお一層の充実が望まれる。
3 イヌの場合、引取り以外に狂犬病予防法に基づいて徘徊犬を捕獲・拘留している(1996年度 拘留数は 210,851頭、うち返還数 14,926
頭である。厚生省調べ)
4 1996 年度 殺処分数は、イヌ 235,387 頭、ネコ 302,829 頭で、一般譲渡数は、イヌ 10,849 頭、ネコ 1,799 頭である(総理府調査)。
5 犬及びねこの引取り並びに負傷動物の収容に関する措置要領の第4で「保管動物の処分は、所有者への返還、飼養することを希
望する者又は動物を教育、試験研究若しくは生物学的製剤の製造の用その他の化学上の利用に供する者への譲渡及び殺処分とす る。」と規定されている。
6 生体に瑕疵があって、新しい飼い主が飼養できないとなると、その生体は再度引き取られ殺処分される。
表1 犬・ねこの保険所の一般譲渡状況
2.3 ペット生体取引方法Ⅱ(有償取引)
2.3.1 ペットショップでの店頭購入
生体取引(表 2)は、一般物品と違い「生命」がある商品であるにもかかわらず、現行法上で は、一般の商品取引(民法 555 条)と同じものと して扱われていることが、生体取引全般におけ る諸問題の原因である。
1980 年代以降、生体取引は、「ペットショップ での店頭購入」が主流となっている。また、その 変形としてペットショップを介さずに生体の繁 殖者である「ブリーダーから直接購入」も増加傾 向にある。
まず、「ペットショップでの店頭購入」である が、この形態は前節の無償取引と異なり、商行為 である有償取引であるために、購入者と販売業 者との争いが絶えない。その争いの多くは、購入 直後におこる生体の病気や先天的異常の有無に 起因しており、その生体のほとんどが、病気の場 合は死亡し、先天的異常の場合は一生不具のま
まとなっている。たとえその障害が平癒したと しても責任所在の争いが残されることになる。
生体取引に関するトラブルは頻発しており、
日本動物愛護協会などの動物愛護団体や日本獣 医師会、消費者相談組織などで構成される「ペッ ト動物の購入問題に関する協議会」が行った
「犬・ねこの購入トラブル 110 番」7では、延べ1 週間で 131 件もの相談があったと報告されてい る。
一般のペットショップでは、生後 40 〜 50 日の 生体が展示されており、その中から購入希望者 が生体を選び、店員から飼養上や契約上の注意・
説明を受けた後、売買契約を結ぶという形が一 般的である。購入希望者の多くは、生体の愛嬌や 元気さに選別の基準をおいているため、見かけ 上は健康でも病気又は先天異常(隠れたる瑕疵)
がある生体(欠陥生体)を、購入してしまう例が 後を絶たない。これが生体取引をめぐる最大の 問題点である。
生体取引の責任所在の争点は、製造物責任(製 造物責任法3条)、債務不履行責任(民法415条)、 瑕疵担保責任(民法 570 条)などである。
表2 ペット産業市場規模
7 報告書によると、総相談件数 131 件で、相談内容は、病気が 99 件、血統書が 26 件など。病気の内 49 件が死亡し、死亡までに要
した日数は約1ヶ月以内が 33 件となっている。交渉結果は、61 件が泣き寝入り、56 件が交渉中で、返金(一部含む)又は代替は 13 件となっている。(ペット動物の購入問題に関する協議会「犬、ねこの購入トラブル 110 番」報告書より 1995 年 12 月、1996 年 7月、1997 年5月実施)
2.3.2 ブリーダーから直接購入
生体取引の形態は、現在では「ペットショップ での店頭購入」が主流となっているが、ペット ショップと購入者の間で生体の欠陥についての 争いが絶えない。
先天的な欠陥を除いた生体の異常の原因が、
ペットショップでの劣悪な飼育環境であるとの 指摘が多いことや、生体を余りにも早く親から 引き離すことが問題視されていること、そして 中間業者であるペットショップを介さないほう が、安価でかつ、より良い生体が取得できること などから、バブル期以降「ブリーダーから直接購 入」による生体取引が注目されている。
しかし、「ブリーダーから直接購入」は、生体 にとっては、流通期間が少しでも短くなること から望ましいといえるが、この場合でも親離れ の時期は、やはり生後 40 〜 50 日であり生体には まだ早すぎるといえる。購入者にとっては、ペッ トショップからの購入よりも、少しでも健康で かつ安価なものが取得できる点で優れていると いえる。しかし購入以後の関係がペットショッ プの場合と異なり疎遠になりがちになるため、
身近な相談相手がいないこと8など飼養に関する 情報の不足の点で問題があるといえる。また生 体の飼育環境では、展示販売を基本としている ペットショップと異なり、関係者以外の接触が極 端に少ないため、ブリーダーによってはペット ショップよりはるかに劣悪である場合もある9。 欧米では一般的ともいえる「ブリーダーから 直接購入」だが、我が国ではまだルールが充分確 立されておらず、「ペットショップでの店頭購 入」と比べて発生頻度が少ないとはいえ、取引件 数の増加につれ、生体取引のトラブルが頻発し てきている。
2.3.3 通信販売で購入
「通信販売10で購入」であるが、この取引形態 は、従来の雑誌広告だけでなく近年のインター
ネットの普及により大幅に増加の傾向がみられ ている。通信販売では売主が、ペットショップで ある場合とブリーダーである場合があって、生 体取引による問題は他の形態と同様である。
通信販売の場合は、訪問販売等に関する法律
(以下、「訪問販売法」という。)8条と同法施行 規則7条によって、①販売代金、②その支払時期 と方法、③商品の引き渡し時期、④返品に関する 事項(返品出来ない場合はその旨)、⑤商品に隠 れたる瑕疵がある場合の販売業者の責任、を通 信販売の広告に明示しなければならないとされ ている。したがって生体取引の大きな問題の一 つである、返品・交換に関する事項が既に取り決 めされていることになる。つまり、契約書が存在 しないことの多い店頭や直接販売と異なり、双 方の齟齬や錯誤による問題は少ないといえる。
実際の取引では、購入者が現品を見ないで、業 者の提供したカタログ、商品説明、取引条件など を判断して、生体のイメージを自分本意に捉え るため、現物との食い違いが生ずることが予想 されることや、生体の健康状況が確認できない こと[伊藤85]など、逆に多くの問題をはらんでい る。例えば、ほとんどの販売契約では、「返品不 可」や「瑕疵担保責任免除」などの特約があるた め、カタログの生体とは異なっているとき、又は 身体的に瑕疵があるときでも、返品は出来ない ことになっているなど、購入者側に不利な契約 となっている場合が多い。
通信販売は、比較的安価で購入するというメ リットがある一方で、生体は一般の物品と違い、
同じものは絶対に存在しないことを注意しなけ ればならない。また、返品・交換条項に関しても、
購入者の不利な場合(返品不可など)が多く、債 務不履行責任や瑕疵担保責任についての問題が 残る。それゆえに、店頭や直接販売と違い生体販 売業者が目に見えないため、より一層の業者選 別が必要となる。
「通信販売で購入」は、今後も情報技術の発達 につれ拡大していくと予想されるが、カタログ だけで生体の現物を確認しないこの取引形態は、
生体を「生き物」であって「物」ではないことを 充分考慮しているかの点で大いに疑問が残る。
8 人間にたとえると、子供誕生したとき、身近に祖母や子育て経験者がいるといないでは、母親の安心感はまるでちがう。
9 1998 年 10 月 27 日、愛知県西尾市のブリーダーが、狂犬病予防法・動物管理法(当時)違反の疑いで立ち入り調査を受けた。
10 訪問販売法の指定商品に、イヌ及びネコ並びに熱帯魚その他の鑑賞用動物は含まれる(訪問販売法2条2項、同施行令2条及び 同施行規則2条)。
2.4 ペット生体取引契約の問題点 2.4.1 ペット購入契約の特約の有効性
現在、生体の購入の際に契約書をかわすこと は、まだ一般化していない11。そのために生体の 欠陥による返品・交換に関するトラブルが頻発 しており、また契約書が存在する場合でも、特約 である返品・交換条項については多くの論議が ある。特約の内容は、当事者間の合意によって、原則 として自由にその内容が定めることが出来る
(私的自治の原則)が、その特約が公序良俗に反 する場合には無効(民法 90 条)となるとされて いる。また公序良俗に反するとはいえない場合 でも、その内容によっては、当事者がその特約に 拘束される意思がなかった(例文解釈)とした り、信義則の適用(民法1条2項)によってその 効力を否定されたり、特約の内容を制限的に解 釈されることがあるとしている。
生体の売買契約の中には、特約として以下の 様な、返品・交換条項が取り決められているのが 一般的である。
i)ペット売買の慣習ですので、ペットの返品・
交換等には一切応じません。
ii)販売価格の1割に相当する保証料をお支払 い頂いた方には、販売日から3ヶ月の間に お買い上げのペットが病死した場合、代わ りのペットをお渡しします。
iii)販売価格の1割に相当する保証料をお支払 い頂いた方には、販売日から1ヶ月の間に、
お買い上げのペットが病気に罹った場合、
当店指定の獣医師の診察を受けたときに限 り、診察料の全額を負担します。ただし、そ れ以外の獣医師の診察を受けた場合、診察 料は買主の負担とします。
上記の特約の有効性は、i)の特約では、契約 の自由の原則に基づいて、取引を特定物売買と した場合の瑕疵担保責任を免除、不特定物売買
とした場合の債務不履行責任の免除を約したも のとするならば有効であるといえる。しかし、販 売業界の慣習としてこの特約を購入者に強要す ることは、この慣習が一般化(普遍化)していな いことから、不合理であり有効性には乏しい。ま た ii)や iii)の特約は、一定期間の間、一定の金 品を支払うことによって、返品・交換・金銭負担 などを、責任の有無を問題とせずに応じるとい うものであり、特に不合理なものでなく有効で ある。しかし、売主側に責任があった場合でも、
保証料が必要や、保証期間や診療獣医師が限定 されているなど、消費者保護の観点からすれば 問題点が多い特約といえる[長尾・小林・小松・篠 宮・岩知道 97] 。
2.4.2 ペットと製造物責任法
生体取引をめぐる法律上の問題点は2点ある。
まずは、生体は製造物責任法(以下、「PL法」と いう。)の製造物に該当しPL法の適用を受ける か否かの点と、生体取引は特定物売買か不特定 物売買であるかの点である。
生体が製造物にあたるかどうか12は、通説では 一般の家畜などと同様に製造物にはあたらない とされている。しかし一方では、もはや生体は自 然産物ではないとしてPL法の製造物に該当す べきという説もある[池本 95]。
PL法では「製造物」とは、「この法律では『製 造物』とは、製造又は加工された動産をいう。」
(PL法2条)と定義されている。その製造物の 要件は、1)有体物であること、2)動産である こと、3)製造又は加工された動産であること、
の3点である。
一般的に「製造」とは、「原材料に手を加えて 新たな物品を作り出すこと。生産よりは狭い概 念で、いわゆる第2次産業に係る生産行為を指 し、1次産品の産出、サービスの提供には用いら れない」とされ、「加工」とは「動産を材料とし て、これに工作を加え、その本質を保持されつつ 新しい属性を付加し、価値を加えること」とされ
11 全国消費者生活相談員協会が 1993 年に行ったアンケートによると、契約書を使ってペットの売買が行われた比率は、約 15%との 結果が出ている)
12 オウム病事件(判時 1390 号 121 頁)において、生体の製造物責任については判断されず。傍論で「動物購入後に、その動物が保 有していた雑菌により病気になり、あるいは死亡することは当然にあり得べきことであり(買主もその前提で買っている)、かよ うな場合に売主が一般的に責任を負うとするのは酷といわなければならない。」としている。
ている。したがって、自然の力を利用した行為と される作物の栽培、家畜の飼育、水産物の養殖な どによって生産された自然産物は、PL法に該 当しないと解されている[経済企画庁 95]。
一方、製造物責任法要綱試案では、「製造物」と は「完成品たると否とを問わず、自然産物たると 否とを問わず、流通過程におかれたすべての物 をいう」(要綱試案2条1項)と定め、但し書き で「自然産物であって、なんら加工せずに販売さ れる場合は、これを除外することも考えられる」
としている。実際、ECでは自然産物を製造物と するか否かは、各国の判断に任せており(EC司 令 15 条1項(a))、その理由としては、現在の 農水産物は、完全に近代化されており、各種の高 度技術を応用した、農薬、化学肥料、漁具、成長 ホルモンといった工業製品の利用の上になり 立っており、他の産業と区別する必要がないと されているからである[小林 94]。
それゆえに、自然産物を製造物責任の対象か ら外すのは、政治・経済的な配慮からくるもので あるとする説もある[竹内 90]。
私見としては、飼養目的が食肉や用役などの 家畜とは全く異なっており、生体の疫病や先天 異常といった瑕疵だけでなく容姿や運動特性な どの個性までが、その生体の価値基準とされる ことから、ペットショップで販売されている血 統書付きの生体に関しては、PL法を適用すべ きである。
2.4.3 特定物売買と不特定物売買
特定物とは、不特定物に対する概念で、取引当 事者が目的物の個性に着眼して取引する場合を いう。その特定物の引き渡しを目的とする債権 が特定物債権である(民法 400 条)。特定物売買において注意すべき事項として、
保存義務、現状引き渡しの原則(民法483条)、債 権者危険負担主義(民法 534 条)そして担保責任 などがある。
特定物債権の債務者は、特定物の引き渡しま で「善良なる管理者の注意を以って」その物を保 管しなければならない(民法 400 条)と保存義務
を規定している。善良なる管理者の注意義務(以 下、「善管注意義務」という。)とは、債務者自身 の注意能力を基準とするのではなく取引におい て一般に要求される注意義務のことである[林 86]。
売主の担保責任(瑕疵担保責任)について、通 説では不特定物(種類物)売買の場合と異なり、
目的物が完全なものであることは意思表示の内 容になっていないとする。このため、目的物に欠 陥があるとき、債務不履行責任は生ぜず、法定責 任である瑕疵担保責任(民法 570 条)の問題とす るとしている。
不特定物債権(種類債権)とは、債権の目的物 を種類と数量のみによって定めた場合の債権で ある。不特定物売買において債務者は、中等の品 質のものを給付することを要し、それで足りる
(民法401条1項)とされている。したがって、債 務者は瑕疵のない完全な物を給付しなければ、
債務を履行したことにはならず(民法493条本文 参考)、債権者は完全な物の履行を請求する権利
(完全物履行請求権)を有するとされている[甲斐 87]。
また、債務者が履行しようとするとき、当然不 特定物の中から目的物が特定され(不特定物債 権の集中)、それ以後債務者は目的物についての み引き渡し義務を負うとされる。通説では、債権 の集中以後、不特定物債権は特定物債権に転化 するとされている。したがって債権集中以後、債 務者は債務不履行責任ではなく瑕疵担保責任の 追求を受けることになる。一方判例では、受領し た後でも、瑕疵担保責任を問いたいと思えばそ れでよく、そうしなければ不完全履行責任を問 いうるとしている13。
生体取引は特定物取引か、それとも不特定物 取引であるかの点については、ペットショップ やブリーダーで、購入者自身が生体を特定して 購入した場合は特定物取引とされ、また通信販 売で、現物を見ないで生体を購入したときは不 特定物取引とされる。しかし通信販売の場合で も、生体の特定が必要なため、債権の集中によっ て不特定物取引から特定物取引になる。した がって、すべての形態による生体取引は、特定物 取引と解すべきである。
13 瑕疵担保責任の範囲を狭め、不完全履行の範囲を広げた。すなわち買主が受領した場合には、買主が瑕疵の存在を認識した上で
これを履行として認容し瑕疵担保責任を問うような事情があれば格別、そうでなければ、買主は、受領後も不完全履行責任の追 及が出来るものと解すべきである。(有線放送用スピーカー事件 最判 昭和 36・12・15 民集 15 巻 11 号 2852 頁)
2.4.4 ペット生体取引のトラブルへの対処
生体がPL法の製造物であるとすれば、生体 に欠陥があるときの賠償責任は当然として製造 者にある(PL法3条)。この場合の生体の製造 者とは、販売者であるペットショップではなく、繁殖者のブリーダーが賠償責任を負うことにな る。また製造物でないとすれば、賠償責任の所在 は民法の取り決めに従うことになる。
生体取引は特定物取引と解されるため、売買 の際、生体に瑕疵があった場合は、売主側は瑕疵 担保責任(民法 570 条等)を負うことになる。ま た生体取引の現場では瑕疵担保責任免除の特約 付きの契約がなされているが、この特約によっ て販売業者に瑕疵担保責任が全くの追求できな いわけではない。
生体販売業者(売主)には、特定物取引とした 場合は善管注意義務(民法 400 条)があり、また 不特定物売買とした場合は、中等な品質の商品 を引き渡す義務(民法 401 条)を負っているとさ れている。瑕疵ある生体を販売した業者の中で 誠意のない対応をする販売業者の多くは、前記 の義務を怠っている場合がほとんどである。し たがって、瑕疵担保免除の特約が結ばれている としても、瑕疵の発生する可能性があるにもか かわらず、事前にその発生を防ぐ努力を怠った として、民法572条の類推適用によって販売業者 側にその責任を追求することは充分可能である。
当然、販売業者側では、その責任追求から逃れる には生体の適正な飼養・管理を行う必要がある ことになる。
生体取引においての瑕疵担保責任問題は、生 体は一般物と異なり、瑕疵のない完全なものは 存在しないことに留意しなければならない。
2.4.5 望まれるペット生体取引の法整備化
生体取引について、無償による形態を2例、有 償による形態を3例、論じて来たが、それぞれに 問題がある。特に生体の取引が特定物売買であ るのか、それとも不特定物売買であるのかは最大 の問題である。販売業者にとっては多くの商品 の一つであるが、購入者(飼い主)にとっては、かけがいのない1匹(この世にただ一つの生命)
であることが、生体取引トラブルの根幹にある。
販売業者の営利主義による生体管理の不備、生 体に対するモラルの低さ、そして購入者(飼い 主)の生体に関する無知からくる利己主義など は、我が国の動物愛護精神の未熟さに起因して いる。
一方、ペット先進国である欧米での生体取引 は、ブリーダーからの直接購入が主流である。そ こには動物愛護の精神が徹底しており、その精 神に基づいて生体取引に関しての様々な法規制 が存在するからである。
イギリスでは、1951 年に「ペット動物法」が 制定され、販売業者の許可制、青空市場での販売 禁止、12 歳未満の子供に対する販売が禁止とさ れており、更に 1983 年の改正により、街頭や公 共の場での販売が全面禁止されている。販売業 者では、わが国の様に店頭での生体の展示はさ れておらず、また販売できる生体の日齢や、購入 時直後にトラブルが発生した場合の取り決めも 定められている。
歴史・風土・宗教が、我が国と全く異なる欧米 と動物観を単純に比較できないが、ペット自身 にとって欧米と我が国のどちらが望ましいかは 明らかである。
本来、ペットは幸せをつれてくるのであって、
トラブルを持ち込んでくるものではない。その ためにも、ペットの生存権を認めた欧米並みの 生体取引の法整備が必要である。しかし、我が国 では法整備にはまだ相当の時間が要すると予想 され、この間にも次々と罪のない不幸なペット が生まれ、死んでいるのである。不幸なペットを 少しでも減らすには、まずペット業界や飼い主 を含めた全てのペットを取り巻く人たちの意識 改革を、今すぐにでも始めなければならない。
3.ペット生体取引の課題と展望 3.1 ペット生体取引を適正化する 3.1.1 ペット政策と公共性
我が国では、法制度上の動物の地位はさてお き、食肉用や役務用の家畜に対する取引や飼養 に関しての法整備は進んでいるが、その他の動
物に対しては全く整備が進んでいない。その他 の動物は人間に対する役割、必要性そして存在 意義によって、ペットと実験動物、野生動物に区 分されるが、特にペットと実験動物は、家畜と比 べてもそん色のないほど、現在では人間生活と 密着している。今後、ペットと人間との関係がよ り密接になると予想されることから、現行の家 畜だけの法制度ではなく、ペットや実験動物を 含めた動物管理の法制度の整備が急務となる。
しかし一方で、同志社大学の真山達志教授は、
「ペットにかかわる諸問題が、政策課題たりうる かという政策レベルの論議を抜きに、具体的な 対策である施策、事業レベルの論議だけ行うこ とは、政策学としては不充分だ14。」として、ペッ ト法整備に向けてのペット政策論議が充分され 尽くしていないとしている。
従来、政府や自治体では、ペット自体に公共性 が存在するとはみなさず、ペットが生活する空 間に公共性が存在するとの立場をとって来た。
それゆえにペットに対する法令が存在しなかっ た。つまり公共性のないペットに対する法制度 は必要ないと考えられて来た。しかし、ペットの 役割が従来の「玩具(おもちゃ)」から「癒しの 手段」へと変化するにつれ、人間の情操に対する 影響は大であるとして、充分とは言えないまで もペットの公共性が社会に認知されつつある。
今日では、ペットの存在しない人間生活は考 えられず、ペットに公共性はあると考えられる。
しかし、社会的認知は充分とはいえないために、
更なるペットの公共性に対する論議は必要であ る。
3.1.2 契約書がないペット生体取引
生体取引は、民法及び商法上では「物」として 一般動産契約の規制しか受けず、有生物権であ る「動物」としての考慮は全くされていない。販売業者と購入者との間に、生体取引のルー ルが確立していないため、商品としての生体を
「物」とするか、それとも「動物」とするかの定 義が曖昧のまま、生体取引が行われている。現在 の我が国の生体取引では、契約を書面で交わさ ず口頭による説明のみの場合がまだ多く、書面
での契約の場合も債務不履行責任や瑕疵担保責 任の免除など売主に有利な契約しか用意されて いないなど、生体販売契約上の改善すべき問題 が多い。今後もペットブームは続くと予想され ことから、販売業界全体でこの問題を取り組む 必要がある。したがって、未だ生体取引に関する 法制度が整備されていない現状では、生体取引 問題の改善には、販売業者ごとに異なっている 生体販売契約書を、販売業者の自主規制によっ て統一する必要がある。
しかし販売業界の中では、今のところ統一契 約書の作成への動きはない。その理由として、不 適正な飼養や販売方法などの前近代的な経営形 態をとっている販売業者の存在や、ペット産業 全体のモラルの低さ、及び産業構造自体の劣悪 さなどが起因している。一部の販売業者では、モ ラルの向上と構造の正常化しようとする動きが あるが、未だに販売業者の全国組織は出来ず、都 道府県単位の団体すらも確立していない状況で ある。
1999 年 12 月の動物愛護法の改正によって、
ペットショップといった動物取扱業が届出制と なったが、より厳しい法規制である許可制への 見直しを求める運動が、動物愛護団体を中心に 続けられている。他方、多くの販売業者は法規制 に無関心で、その許可制に対しても「新規参入者 が減少するので歓迎する」という意見が多いな ど危機感を抱いておらず、販売業界の閉鎖性も また問題である。
3.1.3 ペット生体取引の最低限のルール
現在のところ、生体取引に関するトラブルを 未然に防ぐには、消費者自らが信頼できる販売 業者を選定するしかない方法がない。しかし、よ り良い販売業者を選定したところで、生体は生 き物であるから不測の事故が全く起きないとは 限らない。購入者は、ペット購入トラブルを未然に防ぐ 意味からも生体取引の際には、販売業者によっ て内容が異なる契約事項(債務不履行責任免除・
瑕疵担保責任免除や生命保証制度など)を充分 納得した上で、書面にて契約する必要がある。他
14 ペット法学会設立総会記念シンポジウムでの真山教授講演のレジュメより
方、生体を最後まで飼いきるということが出来 ないならば、その人に生体を購入する資格はな い。法律上では、生体はあくまでも「物」である が、やはり「生き物」であり、その生命を預かる ことを、生体を購入する人は決して忘れてはな らないのである。
販売業者は、欠陥のある生体(欠陥がでる恐れ のある生体)を販売することは、不毛なトラブル を発生させ、時間的にも金銭的にも損失を被る ことになる。
先天的な異常に関しては、一方的に販売業者 側に責任があるわけではないが、やはり生体を 商品として扱う以上、欠陥のある商品かどうか を判別する必要がある。生体が未成熟のため判 別が難しいとするならば、判別できるまで成長 するのを待って、販売するべきである。また感染 症に関しても、生体販売業者が生体の健康に注 意して適正な飼養を行えば、その多くの予防が 可能である。
少なくとも、この2点を遅滞なく履行すれば、
生体販売契約における瑕疵担保免除の特約の有 効性を、販売業者は主張15出来ることになるであ ろう。
3.2 ペットショップの自主規制
現在、ペットの必要性は認めるものも、公共性 については疑問視する声も多い。ペット法や ペット管理法制定についての国民全体の合意は、
充分得られているとは言い難い。このような現 状の中、ペットに関する法規制が早急に実現す る見込みは低い。しかし、現実に生体取引をめぐ るトラブルは多発し、多くの生体たちが犠牲と なっている。罪のない動物たちの犠牲を減らす には、現行の生体取引の仕組みを再構築する必 要性がある。
そこで、前章で明らかにした生体販売形態別
の問題点や、前節での生体取引の最低限ルール 及び法規制がない現状を踏まえつつ、生体販売 者に5つの実現可能な政策提言を試みることに する。
i)ペット販売業者の全国組織
販売業者の大半が、加盟する業者団体を設立 させる。
販売業者の代表する組織が存在しないために、
販売業者の指導・育成などの販売業界の発展向 上を目指した活動は一切行われていない。また、
販売業界内の様々な問題についての意見調整す る組織もないため、販売業界としての統一見解 が出せない状態にある。
1999 年の動物愛護法改正では獣医師会や動物 愛護団体に対し積極的に意見聴取が行われたが、
販売業界関係者からは十分な意見聴取が行われ てはいない。また、5年をめどとされる動物愛護 法の見直し作業にも、業界団体が存在しない現 状のままでは、販売業界の意見が反映されない ことが予見されることから、早急な業界団体の 設立が必要である。
(社)日本愛玩動物協会(以下、「愛動協」とい う。)が、従来販売業者の業界団体と考えられて いたが、しかし今では「愛動協」の会員約 6000 人のうち、販売業者は約 1000 人16程度あること から、販売業者の多くは「愛動協」を業界の代表 とはみなしておらず17、「愛動協」側も販売業者 の代表であることを否定している18。
他方、本来犬籍登録を行う目的で設立された 団体19である(社)ジャパンケンネルクラブ(以 下、「JKC」という。)は、ペットショップやブ リーダーに加えて、小鳥屋や熱帯魚店の総合 ペットショップ化が進んだ結果、現在では販売 業者のほとんどが会員20となっており、一般飼い 主や販売業者の多くは、「JKC」が販売業界を 代表する団体とみなしている。
15 生体の健康管理や適正な飼養を満足に行わない現状の状況では、生体に瑕疵が発生することが充分予見できるため、民法第572条 の「其知りて告げざりし事実」に該当し、瑕疵担保免除の特約は無効と考える。
16 ペット販売業者(全体で約1万社以上)の1割にも満たない。
17 近畿地区の代表的なペットショップに聞き取り調査を行ったところ、愛動協会員は従業員にはいるものの、代表者クラスにはい なかった(1998 年 11 月実施 対象 20 社)。
18 愛動協 鈴木理事より「愛動協の設立母体は日本鳥獣商組合連合会であるが、現在は会員のほとんどがペットショップの経営者で はなく当協会の認定した愛玩動物飼養管理士であり、当協会としては販売業者の代表組織とは考えていない」との回答があった。
19 本会は、各種畜犬の犬籍登録及び有能・優良犬の普及と畜犬の飼育の指導奨励を行い、広く国民の動物愛護の精神を高揚する目 的とする。(社団法人ジャパンケンネルクラブ定款第3条より)
20 調査対象のペット販売業者の全部が会員であり、JKCを業界団体と思っている業者も数名いた。
ii)統一販売契約書
全国の販売業者で同じ条件で、生体を購入す ることが出来る統一契約書を作成する。
本来、人間と生体との出会いの場を演出して、
購入希望者が安心して生体を入手できるのが販 売業者のはずである。しかし、生体取引の現状 は、取引契約書の不備や不存在、更には契約条項 の不統一によって、生体購入希望者に混乱を来 している他、販売業者のイメージ低下の一因と もなっている。人間と生体との共生を目指す上 で、安心して生体を入手できる環境作りは必要 不可欠なものである。そういった意味からも、統 一契約書を作成して、消費者が安心して購入で きる生体取引の一般ルールを確立することが必 要である。
iii)生体管理責任者制度
生体を扱う店舗ごとに、資格を持った生体管 理責任者を常駐させる。
販売店舗での生体の飼養は、本来は生体飼養 に関する専門的教育21をうけた者が、生体管理の 責任者として飼養を総括し、異常を発見したと きは適切な処置を施すのが望ましい姿ではある。
しかし現実には生体管理責任者がいないか、又 は知識が十分でないもの22が生体管理責任者と なっている例が多い。適正な生体飼養・管理に は、専門教育を受けた生体管理責任者を店舗ご とに常駐させることを義務付ける必要がある。
iv)獣医師会との協力体制
獣医師会と協力して、販売用生体の健康管理 制度をつくる。
現在、獣医師と販売業者の関係は、癒着か23、 対立であり、互いに反目しあっている。生体の普 及に関して、両者は協力しなければならない関 係であるはずが、生体や飼い主のことを等閑に して両者とも営利を最優先している。一部の優 良な販売業者では、生体の飼養・管理について近 隣の獣医師の指導を仰いでいるが、獣医師業界
内での誹謗中傷24を恐れるため積極的な協力が得 られていない例が多い。とはいえ生体の適正な 飼養・管理や、生体取引時における瑕疵の有無の 判断には、獣医師の協力が必要不可欠である。
そこで、生体販売業者と獣医師との個別の協 力関係ではなく、まず生体販売業の団体を設立 した上で、地域の獣医師会に正式に要請して、協 力体制を築く必要がある。
v)販売生体に関する自主規制
生後2ヶ月未満の生体や、飼養が困難又は危 険な生体の取引を自主規制する。
現在、販売業者では生後 45 日前後の生体をブ リーダーからの購入して、店頭で展示・販売され ている。しかし、生後2ヶ月以上経ったころの生 体は、母胎からの免疫が切れるため病気に対す る抵抗力がなく、予防接種も出来ないために、生 体取引業者から販売されたころに、感染症を発 症する例が多い。また生体を、あまり早くから母 体と引き離すと、動物としての基本的習性が学 習できないために、問題行動を起こす確率が高 くなること25から、生後 60 日未満の生体取引を 自主的に制限する。
次に、販売業者では、イヌ・ネコ以外にも様々 な生体が販売されているが、狂犬病や他の感染 症発生の恐れがあるといった公衆衛生の観点か ら、狂犬病予防法及び感染症予防法などに照ら して、取り扱う生体を制限することである。
狂犬病は、イヌだけに感染するものではなく、
ほ乳類一般に感染する人獣共通病で死亡率も非 常に高い危険な感染症である。現在我が国では、
約 40 年あまり発症例はないが、アメリカなど諸 外国では、イヌを含めアライグマやコウモリな どに発症例がみられ、現在でも人間に感染して 犠牲者が発生している。また、都市部で大発生し ているクマネズミが媒介するペストは、人類に 多大な被害をもたらした歴史があり、モルモッA A トやハムスターなどのげっ歯類を通じて人間に 感染する可能性がある。また、その他の未知の感
21 例えば、日本愛玩動物協会の愛玩動物飼養管理士など
22 多くの経営者が生体管理責任者を兼務している。また経営者の多くは、専門的な生体飼養に関する教育を受けておらず、ほとん どの場合経験上によるか、又は人づての話を鵜呑みして、生体の飼養管理を行っている。
23 毒・劇物や要指示薬などの薬品の横流し、診断書の不正交付、病院紹介のバックマージンなどで、マスコミに取り上げられ問題 が顕在化しつつある。
24 販売業者の適正飼養に好意的な獣医師が、販売業者の生体管理を行っている場合、「犬屋の手先になったか」「獣医師としてのプ ライドはないのか」などと、誹謗中傷されることが多い。
25 (社)日本動物福祉協会 山口千津子獣医師より
A
染症26が、熱帯のサルやは虫類などの動物たちを 中間宿主として存在するといわれている。
それゆえに、安全性が確認されていない動物 を生体として販売することは、十分検討の余地 がある。特に、イヌについては、狂犬病予防法に 基づいた予防接種や登録しているものだけを販 売の対象とするべきである。
以上、5つの政策提言を試みたが、販売業者が これらの施策を実行するならば、生体取引にお ける諸問題が解決する他、販売業者の地位向上 及びペット産業全体の更なる発展に寄与すると 信じる次第である。
3.3 ペットと人間の共生を目指して 3.3.1 環境倫理とペット
現在、環境問題が叫ばれているが、ペット問題 の背景も同じところに存在する。環境問題が注 目され始めたことにより、従来人間の倫理の規 範は、個人対個人、又は個人対社会を基本として 来たが、今では個人(人間)対自然が倫理規範の 中心となっている。
自然環境保護の2つのアスペクトとは、「人類 の生存権」つまり人間を主体・中心とする自然観
(人間のための自然)と、「自然の生存権」つまり 人間を客体=自然の一部とする自然観(自然の ための自然)である。エコロジー(ecology)の 考えは、「自然の生存権」の立場に立ち、生物の 生活を周囲の他の生物や、生物以外の自然環境
(土、空気、水、気温、光などを含む)全体の関 係の中で捉えようとしている。つまり、全ての自 然(生命)への畏敬や、それらに対する責任の自 覚を要求している。環境保護の思想は、従来人間 に限定されていた社会契約論を超える新しい倫 理観の上に立脚している。
ペット動物との共生の中で、「個人(人間)と 自然」という新しい契約を考えることにより、
「自然の生存権」とは何かを学ぶことが、万物の 霊長たる人間の使命である[内嶋 94]。
我が国は戦後、経済を中心として、急速な復興
発展をとげて来た。その結果、GNP世界第2位 の経済大国となり、その後のバブル崩壊の痛手 に苦しみながらも、なおも経済においては世界 をリードする立場を保ち続けている。
しかしながら、先進国といわれて久しい我が 国は、まだまだ決して理想的な社会の姿である とは思われない。経済面においては、産業の空洞 化をはじめ、地球環境や貿易摩擦の問題など ボーダーレスの視野をもって解決すべき難問が 山積みしている。また、生活面においても、高齢 化社会の到来による介護や福祉問題が懸念され、
オウム真理教事件や神戸の小学生連続殺傷事件 などの凶悪犯罪も多発している。
潤いある人間関係や生きがいの喪失、思想や 道義道徳の混迷など物的繁栄の裏側で、かえっ て国民の精神は、混乱に陥りつつあるとの指摘 もある。この原因は、個人主義に力点がおかれ、
他人への思いやり、つまり生きとし生けるもの への愛情(生命の尊厳)に欠けるからではないだ ろうか。
特に我が国では、経済性を重んじる傾向から、
生命を軽んじる傾向が強くなって来ている。大 きな社会問題となっている「いじめ問題」は、い まや学校現場だけでなく、家庭や社会へも波及 している。この問題は弱者虐待として、今後は今 以上の社会問題となっていくであろう。いじめ の対象は常に、体の弱い子や気が弱い子などの
「いじめられっ子」、ウサギやネコなどの「動物た ち」といった弱者に対してである。経済優先・学 業優先による抑圧された心が、そのはけ口を弱 者に求めて、「いじめ」へと向かわせている。「い じめ」がエスカレートして凶悪な犯罪を生む恐 れもあり、神戸の少年Aのように生命の存在を 見失い、動物も人間も「物」としか考えなくなっ てしまうものさえ現れている。アメリカのFB Iでは、「凶悪犯罪者の大多数は、動物虐待の経 験がある」とのレポートを出している。動物虐待 に対して厳罰で臨んでいる欧米社会でさえ、動 物虐待からくる生命軽視の増加に警鐘を鳴らし ていることから、我が国でも生命を慈しむ心を 人々が見失わないうちに、早く手当てする必要 がある。
26 人獣共通病といわれる代表的感染症に、後天性免疫不完全症候群(AIDS)やエボラ出血熱などがある。(相互感染する病気の数 人 間とイヌ 65、人間とウマ 35、人間とウシ 50、人間とネズミ 37)
3.3.2 人のいのち、動物のいのち
生き物を慈しむ心、命を大切にする心を近頃 我々日本人は忘れてはいないだろうか。山紫水 明の我が国は自然にあふれ、長い間多くの動物 たちと共生して来たのである。日本人は命の尊 さを人に教わるのではなく自然と身に付けて来 た。にもかかわらず、今では物質中心でしか物事 を考えられなくなり、命あるペットを、「たま ごっち」などの無機質な電子ペットと同じ次元 で扱い、不用になったとして保健所に引き渡し たり、棄てたりする人が多い(表3)。空前のペッ トブームの陰で多くのペットたちが、理不尽な 人間たちの犠牲となっている。小さな動物たち の命も大切に出来ないものが、他人の命を尊重 できるはずもなく、結局自分の命をも粗末にし かねない。そういった意味からも今一度、国民全 体で、「生命」とは何か、「動物」とは何かを問い 直すべきではなかろうか。人間とは、動物とは、人間と動物の関係とは何 かなど、生命の尊厳についての基本的な命題を、
我々に最も身近な動物であるペットを通じて学 びとることが出来る。生命を大切にする精神が あれば、他人への思いやりのある優しい社会が 形成され、経済活動、社会生活も安心して営むこ
とが出来、ひいては社会全体の幸福をもたらせ ることになる。
今日の社会の姿をより良いものに高め、進ん では理想的な優しい社会の実現を計っていくた めには、動物の適正な普及と正しい飼育の指導・
奨励、及び適切な医療や公衆衛生の向上など通 じて、人間と動物の関係は如何にあるべきかを 常に心に留めておかなければならない。した がって我が国の目指す理想の平和国家の建設27に は、国民一人ひとりの生命を大切にする心を啓 蒙していく必要がある[安田 94]。
動物たちとより良く共生出来る社会づくりが、
かけがえのない地球にすむ動物の一つである人 間として義務ではなかろうか[浦野94]。そのため にも、まず人間にとって一番身近のペットに関 する制度と秩序の確立が望まれるものである。
4.おわりに
皇太子妃雅子さまは、誕生日(1998 年 12 月9 日)の記者会見の折り、最近楽しみにしているこ との質問に対して、夏に御所の窓の外で弱って いたノコギリクワガタを保護し、生まれた幼虫 を飼育していることを紹介され、「小さな命一つ ひとつが大変いとおしく思えてくるもので、現
27 日本国憲法前文「...日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて...」 から。
表3 犬・ねこの引取り及び処分状況
代の子供たちにもそういう体験をすることは大 切なことではないかしら」と話され、また夫婦円 満の秘訣に対する質問では、2匹の愛犬がいる ことに触れ、「『夫婦げんかは犬も食わぬ』と申し ますけれど、けんかのタネは割とよく拾って食 べてくれる気がします」とユーモアを交えて話 された。
ペットの効用は、この雅子さまのお答えに尽 きる。家族内暴力・家庭内離婚などの家族崩壊、
不登校・いじめ・学級崩壊などの学校問題、不況・
貸し渋り・リストラなどの暗い社会状況と私た ちを取り巻く状況は最悪である。しかし、この暗 い状況に光明を投げかけてくれるのが、純粋無 垢なペットたちである。今を健気に生きる力、飼 い主を信頼する心、愛らしい行動などを通して、
ペットたちは人間の荒んだ心を癒してくれるの である。暗い世相の今こそ、ペットの効用を考 え、ペットとの共生を考えるいい機会ではなか ろうか。
愛犬家や愛猫家の一部や、狂信的な動物愛護 家には、ペット(動物)を理解しているのは自分 たちだけと自負しているが、究極の動物愛護法 である「生類憐れみの令」を発布して、犬公方と も呼ばれた徳川綱吉は、実は愛犬家ではなかっ たともいわている。事実、多くの人たちが、動物 たちを通して生命の温かさ・優しさ・恐ろしさを 学ぶ必要性、つまりペットの効用に理解を示し ているのである。
ペット生体取引のトラブルを通してペットと の共生を模索して来たが、最後に筆者が考える
「人間とは何か」を示して本稿を結ぶことにす る。
人類は万物の霊長である。しかし、その霊長と
は、万物の帝王や支配者との意味ではなく、地球 生命体(ガイア)を構成する万物の中の一つとし て、その万物の共生を目指すリーダーたる役目 を持っているということである。
参考文献
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[長尾・小林・小松・篠宮・岩知道 97] 長尾美夏子 小林覚 小松初男 篠宮晃 岩知道真吾『ペットの法律相談』青 林書院 1997 pp..36-41
[経済企画庁95] 経済企画庁消費者行政第一課編『逐条解説 製造物責任法』 商事法務研究会 1995 pp..56-64ページ [小林94] 小林秀之『製造物責任法−立法化と対策』中央経
済社 1994 pp..115-120
[竹内90] 竹内昭夫『我が国の製造物責任法−現状と立法論
−』有斐閣 1990 pp..200-205
[池本 95] 池本卯典「獣医療トラブルQ&A vol. 1」チクサ ン出版社 1995 pp..138-145
[林 86] 林良平「債権総論」青林書院 1986 pp..17-33 [甲斐 87] 甲斐道太郎「債権総論」法律文化社 1987 pp..11-
23
[内嶋94] 内嶋善兵衛「地球の全生命を産み、育んで来た環 境が、今急激に人類によって破壊されようとしてい る」『動物たちの地球』141号 朝日新聞社 1994 pp..258- 259
[安田 94] 安田喜憲「文明は人間に力を与えた。しかし、自 然への畏怖の念を失った人間は、地球の支配と破壊を 開始した」『動物たちの地球』138 号 朝日新聞社 1994 pp..162-163
[浦野94] 浦野栄一郎「地球上における生物間の多様なネッ トワーク、その中で人間はどのようにかかわったら良 いのだろうか」『動物たちの地球』142 号 朝日新聞社 1994 pp..290-291