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明示的一部請求と時効中断

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明示的一部請求と時効中断

著者 山中 稚菜

雑誌名 同志社法學

巻 66

号 2

ページ 541‑576

発行年 2014‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014661

(2)

   同志社法学 六六巻二号三三九五四一

最高裁平成二五年六月六日第一小法廷判決(平成二四年(受)第三四九号・未収金請求事件)民集六七巻五号一二〇八頁、判タ一三九〇号一三六頁、判時二一九〇号二二頁、金判一四二二号八頁、金法一九八五号一四〇頁。

           

【事実の概要】

  本件は、明示的一部請求訴訟後の残部請求における時効中断の成否が問題となった事件である。

  まず、Y(被告・控訴人・被上告人)は、平成一二年六月二四日、亡Aの遺言執行者であるX(原告・被控訴人・上告人)に対し、商行為に基づく未収金債権(以下、﹁本件未収金債権﹂という。)について残高証明書を発行し、その債務の承認を行った。本件未収金債権の消滅時効期間は、上記承認日から五年(平成一七年六月二四日)である。Xは、

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   同志社法学 六六巻二号三四〇五四二

消滅時効の完成前、平成一七年四月一六日到達の内容証明郵便で、Yに対し本件未収金債権の支払の催告(以下、﹁本件催告﹂という。)をした。その後、Xは、同年一〇月一四日、大阪地方裁判所に対し、Yを被告として、本件未収金債権のうち五二九三万三二四三円の支払を求める訴え(以下、﹁別訴﹂という。)を提起した。この別訴において、Xは、本件未収金債権の総額は、三億九七六一万二一四一円であり、その一部である五二九三万三二四三円を請求すると主張した。これに対してYは、本件未収金債権の総額には、相殺処理によって既に消滅した分が含まれていると主張した(以下、この主張を﹁別訴抗弁﹂という。)。大阪高等裁判所は、平成二一年四月二四日、別訴抗弁に理由があると判断し、現存する本件未収金債権の額は七五二八万三二四三円であると認定して、Xの請求を全部認容する旨の判決(以下﹁別訴判決﹂という。)をした。同年九月一八日、別訴判決は確定した。

  Xは、別訴が係属中である平成二一年六月三〇日、別訴判決の認定どおり、現存する本件未収金債権の額は、七五二八万三二四三円であり、別訴で請求しなかった残部(以下、﹁本件残部﹂という。)の額は、二二三五万円であると主張して、その支払を求めて本件訴えを提起した。これに対してYは、本件残部については、別訴の対象となっていなかった以上消滅時効が完成しているなどとして、時効を援用した。

  第一審(大阪地判平成二三年三月二四日民集六七巻五号一二三七頁)は、別訴抗弁を契機に、本件未収金債権の全部についての裁判所の審理判断を経ていることから、一部請求である別訴の提起が、本件残部についても裁判上の請求に準ずるものとして、確定的な時効中断効を有すると判断し、Xの請求を全部認容した。

  これに対し、原審(大阪高判平成二三年一一月二四日民集六七巻五号一二四九頁)は、別訴においては明示的一部請求がなされていたため、別訴の提起による時効中断効が生じるのは訴訟物となった一部に過ぎず、本件残部については、時効中断の効力が生じないこと、また、仮に別訴の提起により、本件残部につき、裁判上の催告の効力が生じると解し

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   同志社法学 六六巻二号三四一五四三 ても、Xは、本件催告から六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じなかったため、本件残部については催告を繰り返したものと評価せざるを得ないとして、本件残部につき消滅時効の完成を認め、Xの請求を棄却した。

  これを不服として、Xは、①別訴判決においては、本件未収金債権の一部が消滅している旨の別訴抗弁に理由があると判断された上、現存する本件未収金債権の額が七五二八万三二四三円であると認定されたのであるから、別訴の提起は、請求の対象となっていなかった本件残部についても、裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生じる、②仮に上記①のように解することができなくとも、別訴の提起は、本件残部について裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生じると解するべきであり、別訴の係属中に本訴が提起されたのであるから、本件残部につき確定的に消滅時効の中断の効力が生じている、と主張して上告受理申立てをし、最高裁判所はこれらについて上告受理決定をした。

【判旨】 上告棄却⑴  上告受理申立て理由①について な判おに決判、めたたれ断とてるあが由理にれこ、れさいさ上と記でのもるな異、もてしはた額れ権の総債の定がさ認 訴に係る、お訟にいてう。)のいと﹂え訴求請部一的示済弁相、滅提が弁抗の旨るいてし出消りが等によ殺債権の一部 第一集民・決判廷法小二四日〇二月二年三同号八八巻三、こ二理明﹁下以(え訴記、上はの号第てしそ)。照参頁九〇二三 )準に時滅消しとのもるずオ求の請の上判裁、ていつに部効て中な(年一三和昭裁断最(い高はをで効力の生るものず の効の中断は効力、そ滅時部消のてしと求請の上判裁るの残一て、は起提のえ訴該当、っにあでのるず生みのていつよ    ﹁起一決判みのていつに部の求権債な分可に的量数にをめ提さのえ訴該当、合場たれ起る提がえ訴てし示明を旨ア

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   同志社法学 六六巻二号三四二五四四

いというべきである。なぜなら、当該認定は判決理由中の判断にすぎないのであって、残部のうち消滅していないと判断された部分については、その存在が確定していないのはもちろん、確定したのと同視することができるともいえないからである。

  イ  したがって、明示的一部請求の訴えである別件訴えの提起が、請求の対象となっていなかった本件残部についても、裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるということはできない。﹂

⑵  上告受理申立て理由②について

。て行利権もていつに部、しのと則原、は中属係の訟使残意る思きでがとこるみとのもるいに継続的が表示されて けあで常通がのいなはでどわるいてめととに部一を求る訴解的にる係にえ訴の求請部一示さ明、とるみ鑑にとこるれ請 下す訴と者権債るす起提をえのて求請部一的示明、とこるしはのそ思意ういといなし求請よ、おを部残てったわに来将    ﹁じに部たれさ求請ていおえと訴の求請部一的示明く分請同請に的本基を実事因原求、求はと部残いないてれさア   したがって、明示的一部請求の訴えが提起された場合、債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り、当該訴えの提起は、残部について、裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであり、債権者は、当該訴えに係る訴訟の終了後六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講ずることにより、残部について消滅時効を確定的に中断することができると解するのが相当である。

  イ  もっとも、催告は、六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じなければ、時効の中断の効力を生じないのであって、催告から六箇月以内に再び催告をしたにすぎない場合にも時効の完成が阻止されることとなれば、催告が繰り返

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   同志社法学 六六巻二号三四三五四五 された場合にはいつまでも時効が完成しないことになりかねず、時効期間が定められた趣旨に反し、相当ではない。   したがって、消滅時効期間が経過した後、その経過前にした催告から六箇月以内に再び催告をしても、第一の催告から六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じなかった以上は、第一の催告から六箇月を経過することにより、消滅時効が完成するというべきである。この理は、第二の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異なるものではない。

  ウ  これを本件についてみると、Xは、本件催告から六箇月以内に、別件訴えを提起したにすぎず、本件残部について民法一五三条所定の措置を講じなかったのであるから、本件残部について消滅時効が完成していることは明らかである。﹂

  裁判所は、以上のように述べ、Xの請求を棄却した原審の判断は、是認することができ、Xの上告受理申立て理由は採用することができないとして、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判示した。

【批評】

一  はじめに   本件は、数量的に可分な明示的一部請求訴訟において、裁判外の相殺により債権の一部が消滅した旨の抗弁に理由があるとされ、判決において上記債権の総額が認定された場合に、当該明示的一部請求訴訟の提起が残部についての消滅時効の中断効を生じるかという点が争われた事件である。本判決において、最高裁判所は、以下の三つの点において重要な判示をした。

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   同志社法学 六六巻二号三四四五四六

  第一に、本判決は、明示的一部請求訴訟の提起による消滅時効の中断効はその一部の範囲(訴訟物としての一部請求)についてのみ生じ、残部についての時効は請求の拡張の書面を裁判所に提出した時に中断するとした最二小判昭和三四年二月二〇日民集一三巻二号二〇九頁(以下、﹁昭和三四年判決﹂という。)を引用し、従来の判例理論を踏襲することを明らかにした。さらに、本判決は、明示的一部請求訴訟において、弁済、相殺等により債権の一部が消滅している旨の抗弁が提出され、判決において債権の総額が認定された場合でも同様である旨の判示を行った

)1

(以下、この部分を﹁判示1﹂という。)。

  第二に、本判決は、明示的一部請求訴訟において、請求された部分と請求されていない残部の請求原因事実の基本的共通性に加えて、原告が残部請求をおよそ請求しないという意思の下に請求を一部にとどめているわけではないという理由を挙げ、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情がない限り、原則として、明示的一部請求訴訟の提起は、残部について、﹁裁判上の催告﹂として消滅時効の中断効を生じるということを最高裁として初めて判示した。また、この時点では、裁判上の催告としてあくまで暫定的な時効中断効が生じるにすぎないため、債権者は、確定的な時効中断効を生じさせるために、当該訴訟終了後六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じなければならないとした(以下、この部分を﹁判示2﹂という。)。

  第三に、本判決は、催告について、六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じなければ、時効の中断効が生じないことを確認した上、消滅時効期間が経過した後、その経過前にした第一の催告から六箇月以内に第二の催告をしたとしても、第一の催告から六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じなかった以上は、第一の催告から六箇月を経過することより、消滅時効は完成すると判示した。また、この理は、第二の催告が明示的一部請求訴訟の提起による裁判上の催告であっても同様であるとした(以下、この部分を﹁判示3﹂という。)。

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   同志社法学 六六巻二号三四五五四七   以下では、明示的一部請求訴訟と時効中断効の範囲に関する判例、学説を概観した上で、本判決について検討していくこととする。二  明示的一部請求訴訟と時効中断効の範囲

   

  明示的一部請求訴訟における消滅時効の中断効が債権のどの範囲で生じるかという点に関して、従来、リーディングケースと目されてきた大判昭和四年三月一九日民集八巻四号一九九頁(以下、﹁昭和四年判決﹂という。) 2

は、一部請求が残部について時効中断を生じない旨の判示をした。その後、本判決でも引用された昭和三四年判決も、最高裁として、同様の立場を採用することを明らかにした。

  昭和三四年判決は、明示的一部請求訴訟において、後日、請求を拡張して残部を請求したところ、当該部分について、既に時効期間が経過してしまっていた場合に、消滅時効の中断効が債権のどの範囲で生じるかという点が争われた事案であった。最高裁は、昭和三四年判決において、昭和四年判決が、裁判上の請求による時効中断は﹁請求アリタル範囲﹂にのみ限られると判断していた部分を、﹁裁判上の請求があったというためには、単にその権利が訴訟において主張されたというだけでは足りず、いわゆる訴訟物となったことを要する﹂と示し、裁判上の請求による時効中断が認められる範囲を明確化した上で、﹁債権の一部についてのみ判決を求める旨明示した訴の提起があった場合、訴提起による消滅時効中断の効力は、その一部の範囲においてのみ生じ、その後時効完成前残部につき請求を拡張すれば、残部についての時効は、拡張の書面を裁判所に提出したとき中断するものと解すべきである。(民訴二三五条参照︹現一四七条︺)

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   同志社法学 六六巻二号三四六五四八

若し、これに反し、かかる場合訴提起と共に債権全部につき時効の中断を生ずるとの見解をとるときは、訴提起当時原告自身裁判上請求しない旨明示している残部についてまで訴提起当時時効が中断したと認めることになるのであって、このような不合理な結果は到底是認し得ない。﹂と判示した。

  つまり、昭和三四年判決は、時効中断の根拠として権利確定説に依拠し、判決による権利の確定によって、これまで継続してきた事実状態が判決の既判力により否定されるのは、訴訟物たる明示された一部に限られるとし、残部について時効消滅前に請求を拡張した場合、残部にかかる時効中断効は、請求を拡張する旨を記した書面を裁判所に提出したときに発生するとし、残部についてまでの時効中断を﹁不合理な結果﹂と評価して、全部中断説には立たない旨を示した。そのため、昭和三四年判決の事案では、訴訟係属後の請求の拡張部分が消滅時効完成後の請求であったため、残部についての時効中断効は実体法上認められないと判断された。

  また、昭和三四年判決には、法廷意見(多数意見)と対立する藤田裁判官の少数意見が付されている 3

。同裁判官は、裁判上の請求とは、訴訟という形式で確実に権利主張がなされることを必要としたにすぎず、訴訟において権利の主張があれば足りるとの見解を示され、一部請求に関しては、いつでも請求拡張の方法により判決を求め得るという点で、潜在的訴訟係属があること、また一部請求の給付訴訟においても損害賠償請求権(残部も含む)の確認請求を含んでいるということを根拠として、残部についても時効中断の効力が生じると判断されている。

  しかし、明示的一部請求訴訟が提起された場合に、訴訟物となるのは明示された一部のみであり、時効中断効も当該一部にのみに生じるとし、﹁裁判上の請求=訴訟物=時効中断の範囲﹂という図式を明らかにした昭和三四年判決は、その後の判例(最一小判昭和四三年六月二七日集民九一号四六一頁、最二小判昭和四五年七月二四日民集二四巻七号一一七七頁 4

)にも引用されている。

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   同志社法学 六六巻二号三四七五四九

     

  明示的一部請求訴訟における時効中断効が、債権のどの範囲で生じるかという問題を検討する前に、以下の二つの論点に関する学説を押さえておく必要がある。

  「

  民法上の時効中断事由には、﹁請求﹂﹁差押等﹂﹁承認﹂の三類型があり(民一四七条)、﹁訴え提起﹂は三類型のうちの﹁請求﹂にあたるとされている(同一四九条) 5

。﹁訴え提起﹂、すなわち﹁裁判上の請求 6

﹂が時効中断事由とされる根拠をどのように解するかという点については、従来から二つの見解が対立している。つまり、﹁裁判上の請求﹂が時効中断事由とされる根拠を、訴訟物である権利関係の存在が判決の既判力により確定され、継続した事実状態が法的に否定される点に求める見解(権利確定説・訴訟法説 7

)と、訴えが権利者のもっとも確固たる権利主張の態度と認められることに基づくとする見解(権利行使説・実体法説 8

)である。

  権利確定説は、訴訟法的に見た考え方であり、既判力の客観的範囲が基準になるため、基準としては比較的明確であるが、その範囲は訴訟物に限られるという帰結を導きやすい 9

(つまり、﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂という図式になる)。昭和三四年判決の多数意見をはじめ、右記で見た一連の判例は、この見解に立つ ₁₀

。他方、権利行使説は、実体法的に見た考え方であり、訴訟物や既判力の客観的範囲に関係なく、権利主張に時効中断効の根拠を見出すため、権利確定説よりも広く時効中断の範囲を捉えることができ、被告の主張にも時効中断効を観念できる。昭和三四年判決の少数意見もこの見解に立つが、権利確定説に比べ基準としての明確性を欠くともいわれている ₁₁

。このように、﹁裁判上の請求﹂としての時効中断の範囲は、権利確定説より権利行使説の方が広くなり、時効中断時期については、

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   同志社法学 六六巻二号三四八五五〇

権利確定説が一律に訴え提起時であるとしているのに対して、権利行使説では、権利主張のときということになるであろう。

 

  明示的一部請求訴訟における時効中断効の範囲は、明示された一部のみに生じるのか、それとも、残部を含む債権全体に生じるのかという点に関して、学説を大別すると、イ  一部中断説、ロ  全部中断説、ハ  裁判上の催告説の三つに分かれる。前二説は、﹁裁判上の請求﹂による時効中断をめぐる議論であり、後説は、﹁催告﹂による時効中断を認める考え方である。

イ  一部中断説   一部中断説は、当該権利関係が訴訟物となり既判力の対象となることが時効中断事由の中核をなすという伝統的な理解のもとに ₁₂

、明示的一部請求訴訟において訴訟物になるのは、当該一部のみであるから、提訴による時効中断の範囲も当該訴訟物に限られ、残部において時効中断効は生じないとする見解である ₁₃

。これは、昭和三四年判決と同じ立場に立ち、時効中断効を狭く解する見解であり、﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂という図式をとる。

ロ  全部中断説   これに対して、全部中断説は、昭和三四年判決に批判的である。なぜなら、昭和三四年判決の判例理論では、一方で、明示的一部請求訴訟において勝訴した場合に残部請求を肯定しながら、他方で、残部について消滅時効にかかるという

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   同志社法学 六六巻二号三四九五五一 結果を導くこととなり、いわば右手で与えたものを左手で奪うことになるからである ₁₄

。全部中断説は、明示的一部請求訴訟が提起された場合であっても、明示された一部のみならず、残部を含む債権全体についても民法一四七条一号により確定的な時効中断効が生じるとする見解である。

  もっとも、この分類は、一応の分類にすぎず、全部中断説の中には、そもそも明示的一部請求訴訟の後に続けて、残部を請求することができるか否かという一部請求論の問題 ₁₅

、また、右記二⑵ⅰでみてきたように、時効中断の根拠を﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂という図式でパラレルに捉えるか否かという問題などから、それぞれの見解のなかでの根拠づけに相違がみられ、複雑な様相を呈している。以下では、全部中断説を五つに分けて概観することとする。

  ⓐ  一部請求後の残部請求を否定する見解   一部請求論に関する学説について、一回の訴訟で全部解決できるはずの紛争につき数回の応訴を強いられる被告の負担や、請求された一部についての判断のためにその権利の成立・存続を全面にわたって審理せざるを得ない裁判所の不利益に着目し、残部債権が時効消滅したか否かに関わりなく、後訴における残部請求を許さないとする一部請求全面否定説 ₁₆

がある。この説によれば﹁訴訟物または主要な争点となった権利関係については、その全部について時効が中断されるから、その一部請求の訴訟係属中に残部について時効が完成することはない ₁₇

﹂と解される。つまり、一部請求全面否定説は、明示的一部請求訴訟が提起された場合であっても債権全体が訴訟物になるとし、﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂という図式を維持するのである。

  また、一部請求の場合にも債権全体が訴訟物となるので、時効中断効も債権全体について認められるとする見解 ₁₈

もある。この見解は、特定の基準があるかどうか、または一部であることが明示されているかどうかを問わず、常に債権全

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   同志社法学 六六巻二号三五〇五五二

体が訴訟物となり、既判力の客観的範囲もそれを基準として決定されるとする一部請求否定説をとるものである ₁₉

。この見解によれば、明示的一部請求後の残額請求においては、原告が既判力をもって存在を確定された債権の残額についてその給付を求めるのであるから、残額請求は既判力によって遮断されず、残部請求について訴えの利益がある限り残部請求を可能と考えるのである ₂₀

。このように訴えの利益がある場合に限り残部請求ができるとしている点で、一部請求後の残部請求を全面的に否定する一部請求全面否定説とは異なる。しかし、明示的一部請求訴訟が提起された場合であっても訴訟物を債権全体とし、既判力も債権全体に及ぶとした上で、時効中断の範囲に関しても﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂という図式を維持する点は同様である。

  ⓑ  一部請求論と切り離して時効中断の範囲を一般に論じる見解   右記のように、従来、学説は、判例と同様、権利確定説に立ち、﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂をパラレルに捉えることによって、明示的一部請求訴訟における時効中断の範囲を画するアプローチが大勢であった ₂₁

。しかし、時効中断の範囲を必ずしも訴訟物や既判力の客観的範囲に限定する必要はないとして、一部請求にせよ債権があるかどうかについてはその訴訟で争われ、裁判所の判断が示されるのだから、提訴の段階で全体について中断の効力を認めるべきとして、一部請求論と切り離して、権利関係全部の一般的な時効中断を論じる見解 ₂₂

もみられるようになった。

  ⓒ  権利関係の同一性の範囲内の全部について時効中断の効力を認める見解   また、時効中断の問題については、明示的一部請求か否か、あるいは残額請求が許されるか否かを問わず、その権利関係の同一性の範囲内の全部について時効中断の効力を認めるべきであるとする見解 ₂₃

も主張されてきた。この見解は、権利確定説に立つことを前提に、請求権自体の存否が訴訟において攻撃防御方法の対象とされ、判決理由中でその存否

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   同志社法学 六六巻二号三五一五五三 の判断がなされる以上、時効中断効は常に債権全額に及ぶと解するものである。

  ⓓ  昭和三四年判決における藤田裁判官の少数意見を支持する見解   その後、このような学説の流れを受け、時効中断の範囲を訴訟物や既判力の客観的範囲に完全に一致させる必然性はないとして、一部請求による時効中断の効力が残部請求の時効を中断するか否かという問題は、訴訟物が全部か一部かという観点からではなく、時効制度あるいは時効中断制度の趣旨、または実質的理由に基づいて考慮すべきであるとする見解が有力に唱えられるようになってきた ₂₄

。つまり、一部とはいえ訴訟を提起し権利を行使する以上は、権利の上に眠る者とはいえず、残部についても権利者はいつでも請求拡張の方法で全部について容易に判決を求めることができ、また一部について権利関係の存在が判決で確定されるならば、同一権利である以上は残部についても継続した事実状態が法的に否定されたと解することができるため、全部について時効中断効を認めるべきとする見解 ₂₅

である。これは昭和三四年判決の少数意見において藤田裁判官が述べられた見解を支持するものである。

  なお、明示的一部請求訴訟の場合には、原告が、勝訴後に残部請求を別訴で提起したり、後日残部につき請求の拡張で訴求したりするという、明白な権利行使の意図が伺えるため、残部の時効中断を認めるべきとする見解、つまり当事者(ここでは、原告)が究極的に求める救済利益を基準とした考え方も主張されている ₂₆

。この見解も、結論的には、昭和三四年判決の少数意見において藤田裁判官が述べられた見解を支持するものと考えられる。

  ⓔ  残部を﹁裁判上の請求﹂または﹁それに準ずるもの﹂として残部を含む債権全体に確定的な時効中断を及ぼす見解   また、金銭債権の明示的一部請求につき既判力は当該請求部分についてのみ生じるが、﹁裁判上の請求﹂としての時効中断の効果は、一部請求の基盤となった債権全体に生じるとする見解 ₂₇

もある。これは、一部請求を訴訟物とし、残額の存在につき判決主文と密着した判断がなされれば、﹁裁判上の請求﹂または﹁それに準ずるもの﹂と評価し、債権全

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   同志社法学 六六巻二号三五二五五四

体に時効中断効を確定的に生じさせるものであり、訴訟物を意識しながらも﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂という図式を破る ₂₈

  類似の見解として、明示的一部請求の訴訟自体を全額についての﹁裁判上の請求﹂として、その勝敗の見込みが明らかになるまではこれに時効中断効を認めるべきとする見解 ₂₉

もある。

ハ  裁判上の催告説   最後に裁判上の催告説についてみる。右記二⑵ⅰでみてきたように、民法学では、民法一四九条が規定する時効中断事由としての﹁裁判上の請求﹂をどのように解すかという点を考える際に、﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂という図式を採用することに対して、早い段階から疑問が呈されてきた。この点に関し、初めて言及したのが、我妻博士である。同博士は、権利行使説の立場に立った上で、裁判上の主張と裁判上の請求を同視し得ないまでも、裁判上の主張が裁判外の主張(催告)より遥かに明確な権利主張であることを挙げ、裁判外の主張と同様に、裁判上の主張にも﹁裁判上の催告﹂として暫定的な時効中断効を生じさせるべきであると主張された ₃₀

。つまり、裁判上の催告説は、明示的一部請求が提起された場合、当該一部については、民法一四七条一号により確定的な時効中断効が生じるが、残部については、﹁裁判上の催告﹂として暫定的な時効中断効が生じ、訴訟の終了から六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講ずれば、確定的な時効中断効が生じるという見解 ₃₁

である。

   

  このように、学説が対立していることからも分かるように、明示的一部請求訴訟における消滅時効の中断効の範囲に

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   同志社法学 六六巻二号三五三五五五 関して、昭和三四年判決に代表される判例理論を今日もなお維持するべきかについては疑わしいとの評価が示されている ₃₂

。そのような評価がされる主な理由は、時効中断効の範囲に関するその他の判例が複雑な様相を呈していることにあると考えられる。

  まず、以下では、一部請求の事案も含めながら、時効中断効の範囲に関して錯綜する判例の状況について、本判決に至るまでの最上級審の判決を中心に概観することとする。右記でも確認してきたように、判例は、従来、昭和三四年判決の立場である権利確定説を採用し、﹁裁判上の請求(典型的には、訴えの提起)﹂による時効中断効が認められるためには、単にその権利が訴訟において主張されただけでは足りず、当該請求権が訴訟物となっていることを求めてきた ₃₃

。しかし、判例は、現在に至るまで、必ずしも当該立場を維持してきたとはいえず、それどころか、場面によっては、権利行使説的な理解を示すものもある。つまり、訴訟物以外の権利関係であったとしても、訴訟物たる権利関係と先決的・派生的関係にある権利関係、また請求原因事実を共通にする権利関係等が、攻撃防御方法として主張された場合には、﹁裁判上の請求﹂または﹁それに準ずるもの﹂として、それらに確定的な時効中断効を認めてきたのである ₃₄

  例えば、訴訟中の攻撃防御方法として被告の権利主張等がなされた場合に時効中断効を認めたものとして、最大判昭和四三年一一月一三日民集二二巻一二号二五一〇頁(以下、﹁昭和四三年判決﹂という。)は、原告が所有権に基づき所有権移転登記抹消請求訴訟を提起した事案の上告審において、被告が抗弁として本件係争物件につき自己に所有権があることを主張した場合に、これを﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として、占有者である原告の取得時効を中断することを認めた。さらに、最一小判昭和四四年一二月二七日民集二三巻一一号二二五一頁は、債務不存在を理由に原告が提起した根抵当権設定登記手続請求訴訟において被告が被担保債権の存在を主張した場合に、これを﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として被担保債権の消滅時効を中断することを認めた。つまり、これらの判例は、権利者が原告として訴訟物

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   同志社法学 六六巻二号三五四五五六

を提示していない場合であっても、被告が攻撃防御方法として行った主張等が訴訟物となっているのと同視することができる場合には、これを﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として扱い、確定的な時効中断効を生じさせることを肯定しており、権利行使説的な見解に傾斜しているようにも見える ₃₅

。このように、訴訟物の範囲と時効中断効の範囲が常に一致しなくとも、訴訟物となっていない権利関係についても訴訟により時効中断効が生じる可能性があることを判例自身が認めているのである。

  さらに、﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として確定的な時効中断効を生じさせることができない場合であっても、当該権利につき権利者の権利行使の意思が現れていると評価できる場合には、先に述べた裁判上の催告説を採用し、訴訟係属中に催告が継続しているものとみて(いわゆる﹁裁判上の催告﹂として暫定的な時効中断効を生じさせ)、当該裁判手続の終了後六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講ずることにより、確定的な時効中断効を生じさせることを肯定する判例もある。

  例えば、最大判昭和三八年一〇月三〇日民集一七巻九号一二五二頁 ₃₆

(以下、﹁昭和三八年判決﹂という。)は、﹁裁判上の催告﹂という文言を用いていないものの、債権者が債務者からの物の引渡請求訴訟の被告として留置権を主張した場合につき、被担保債権の継続的催告にあたるとして、この概念を実質的に採用した初の判例と評価されている ₃₇

。また、最一小判昭和五三年四月一三日訟月二四巻六号一二六五頁 ₃₈

(以下、﹁昭和五三年判決﹂という。)は、退職金債権の明示的一部請求訴訟において、残部請求権についても原告がその債権の存在の主張を維持し、債務の履行を欲する意思を表し続けていたものと認められる場合に、右主張に、残部債権に対する﹁裁判上の催告﹂として暫定的な時効中断効を生じさせ、前訴終了後六箇月以内の残部請求訴訟の提起には、残額請求権についての確定的な時効中断効を生じさせる、とする原審の判断を支持した。昭和五三年判決の原審である東京高判昭和四九年一二月二〇日判タ三二二号一三五頁は、

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   同志社法学 六六巻二号三五五五五七 その認定する事実関係のもとで、前訴における一部請求には、﹁裁判上の請求﹂としての確定的な時効中断効は認められないが、﹁裁判上の催告﹂としての暫定的な時効中断効は認められる旨を判示している。

  このように、判例は、﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として確定的な時効中断効を認められない場合でも、﹁裁判上の催告﹂を広く認めることによって、時効中断効の範囲を拡張する傾向を示している ₃₉

。つまり、﹁裁判上の催告﹂は﹁裁判上の請求﹂の外延を補充的に拡張する場合に用いられているのである ₄₀

  以上では、時効中断効の範囲に関して錯綜する判例の状況を概観してきた。このような判例を前提に、明示的一部請求訴訟における時効中断効の範囲について考えると、最高裁が、全部中断説に立っていないことは明らかである。しかし、最高裁は、明示的一部請求訴訟が提起された場合に、昭和三四年判決のように一部中断説に立ち一律に残部について時効中断効を生じさせないとする見解に立つのか、それとも、残部について﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として確定的な時効中断効を生じさせる見解に立つのか、はたまた、昭和三八年判決や昭和五三年判決のように﹁裁判上の催告説﹂に立ち残部について暫定的な時効中断効を生じさせる見解に立つのか、これまで明らかにはされてこなかった ₄₁

  また、明示的一部請求に関する近時の判例においても、弁済または相殺による債務の一部消滅が主張された場合に債権総額を確定する必要があるとする最三小判平成六年一一月二二日民集四八巻七号一三五五頁や、明示的一部請求の一部または全部が棄却された場合に債権全体を審理の対象とするとした最二小判平成一〇年六月一二日民集五二巻四号一一四七頁 ₄₂

が存在しており、これらの判例も、昭和三四年判決の基本的な立場を維持できるのかという学説からの疑問を、さらに強める要因になったのかもしれない。

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   同志社法学 六六巻二号三五六五五八

三  近時の立法の動き   また、近時の法制審議会民法(債権関係)部会による﹁民法(債権関係)の改正に関する中間試案﹂においても、裁判上の請求を時効の停止事由 ₄₃

とした上で、﹁裁判上の請求による時効の停止の効力は、債権の一部について訴えが提起された場合であっても、その債権の全部に及ぶものとする﹂ ₄₄

として、一部請求の場合には、一部と残部とを区別せず、残部についても時効停止の効力を生じるという案が示された。その根拠として、昭和三四年判決では、明示的一部請求をした場合に、その後に請求の拡張をしようとしても、その時までに既に当該債権の残部について時効が完成しているという事態が生じ得ることから、一部請求を選択した債権者の保護に欠けると説明されている ₄₅

。そこで中間試案では、判例とは異なり、学説上の有力説に従って、債権の一部について訴えが提起された場合でも、時効停止の効力は、その債権の全部に及ぶものとしているのである ₄₆

。しかし、残部については訴訟物とはならないという判例理論を変更するものか、そうでないとすれば訴訟物ではない残部について訴訟物たる一部と扱いを同じくする理論的根拠は何かについては説明されていない ₄₇

四  本判決とその検討

   

  上告受理申立て理由①において、Xは、別訴判決において本件未収金債権の一部が消滅している旨の別訴抗弁に理由があると判断され、現存する本件未収金債権の額全体について認定されたことを挙げ、別訴である明示的一部請求訴訟

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   同志社法学 六六巻二号三五七五五九 の提起が請求の対象となっていなかった本件残部についても、﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として消滅時効の中断効が生じると主張した。これは、昭和三四年判決を前提に、全部中断説を採用することができないにしても、一部請求訴訟において弁済または相殺による債務の一部消滅が主張された場合には、債権総額を確定する必要がある(最三小判平成六年一一月二二日民集四八巻七号一三五五頁)から、このような場合には、明示的一部請求訴訟の提起が残部についても﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として、訴訟物としての判断がなされたと同視し、確定的な時効中断効を認めるべきとする主張であると解される ₄₈

  ここでは、﹁裁判上の請求﹂(民一四九条)の時効中断の範囲を訴訟物に限定するのか、それとも、判決理由中の判断である当該事実認定がされた場合までも含むのか否かという点が問題となってくる。右に述べたように、判例は、昭和三四年判決等において、裁判上の請求による時効中断効が認められるためには当該請求権が訴訟物となっていることを要するとして権利確定説に立ち、明示的一部請求訴訟が提起された場合の消滅時効の中断効は当該明示された一部についてのみ生じ残部には生じないとする一部中断説に立つことを明らかにした一方で、昭和四三年判決等では、裁判上の権利主張を﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂とすることにより、訴訟物以外の権利関係についても、確定的な時効中断効を生じさせることを認めており、一見、権利行使説のようにみえる構成を取っており、最高裁がどちらの見解を採用するのか明らかにはされていなかった。

  このように、判例や学説が錯綜する状況で言い渡された本判決は、昭和三四年判決の立場を踏襲し、﹁裁判上の請求﹂が時効中断事由となる根拠について権利確定説に立ち、明示的一部請求訴訟の提起による消滅時効中断の効力は、明示された当該一部の範囲についてのみ生じるとし、残部についての時効は、請求の拡張の書面を裁判所に提出した時に中断するとする一部中断説を採用することを明らかにした。さらに、本判決は、明示的一部請求訴訟において、弁済、相

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   同志社法学 六六巻二号三五八五六〇

殺等により債権の一部が消滅している旨の抗弁が提出され、判決において債権の総額が認定された場合でも、残部について確定的な時効中断効が生じるものではないと判示し、上告受理申立て理由①の主張を採用しなかった ₄₉

  その理由について、本判決は、残額を含めた総債権の認定は、理由中の判断にすぎず、残部のうち消滅していないと判断された部分についてその存在が﹁確定していない﹂上、﹁確定したのと同視することはできない﹂からと述べている。つまり、本判決は、単なる権利主張を無制限に﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂と扱うのではなく、訴訟物となっていない権利について確定的な時効中断効を認める場合、当該訴訟における判決によって、﹁請求の対象となっていなかった権利の存在が確定し﹂、あるいは﹁確定したのと同視でき、あたかも債権者が当該権利を訴訟物として訴えを提起したのと実質的に異ならないもの﹂と評価できる場合に限られるという立場を堅持しているのである ₅₀

  このように、本判決は、従来の判例理論を踏襲し、権利確定説に立ち、当初から原告が総債権額を把握している場合だけでなく、一部請求訴訟を通じて総債権額が明らかになる場合でも、﹁裁判上の請求﹂を﹁訴訟物=既判力の客観的範囲=時効中断の範囲﹂という図式に当てはめて理解することによって、明示的一部請求訴訟の提起は、残部について、﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として確定的な時効中断効を生じるものではないことを確認した ₅₁

。また、これは、民法一四七条及び一四九条の文言上の帰結であると同時に、明示的一部請求訴訟における審判対象(訴訟上の請求=訴訟物)と審理の対象(実体法上の請求権)とを区別する判例の論理の顕れであり、二重の基準(訴訟法基準と実体法基準)を内蔵したものと解すること ₅₂

ができるであろう。

   

  上告受理申立て理由②において、上告人は、仮に上告受理申立て理由①のように解することができなくとも、別訴の

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   同志社法学 六六巻二号三五九五六一 提起は、本件残部について﹁裁判上の催告﹂として暫定的に消滅時効の中断効を生じると解するべきであり、別訴の係属中に本訴が提起されたのであるから、本件残部につき確定的に消滅時効の中断効が生じていると主張した。

  ここでは、審理の対象、つまり、明示的一部請求訴訟において請求された部分と請求されなかった部分を含む総額が裁判所によって審理され、かつ、認定された場合に、昭和四三年判決等のように、訴訟物以外の権利関係について、﹁裁判上の請求に準ずるもの﹂として確定的な時効中断効を認めることができない場合であっても、これを実体法的にみたときに﹁権利主張﹂がなされているとみて、昭和三八年判決をはじめとする判例のように、訴訟物以外の権利主張に債権者の権利行使の意思が現れているとみられる場合には、裁判手続の係属中は催告が係属しているものとみて(いわゆる、﹁裁判上の催告﹂として暫定的な時効中断効を生じさせ)、当該裁判手続の終了後六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講ずることにより、確定的な時効中断効を生じさせることができるか否かが問題となってくる。

  明示的一部請求訴訟の提起及び係属により、残部につき﹁裁判上の催告﹂としての暫定的な時効中断効を認めた判例として、上記でみてきた通り、例えば、昭和五三年判決、高松高判平成一九年二月二二日判時一九六〇号四〇頁(以下、﹁高松高裁平成一九年判決﹂という。)等がある。昭和五三年判決では、明示的一部請求訴訟において、残部請求権についても、その権利存在の主張を維持し、債務の履行を欲する意思を表し続けていたものと認められる場合に、右主張に残部債権に対する﹁裁判上の催告﹂を認めている。また、高松高判平成一九年判決においても、損害賠償を求める明示的一部請求の係属中に請求が拡張された場合に、明示的一部請求訴訟の提起及び係属により、残部請求部分についてもこれを行使する意思が継続的に表示されていたとして、損害賠償債権の残部につき、﹁裁判上の催告﹂としての暫定的な時効中断効を認める判断がなされている。

  さらに、一部請求の事案ではないが、最二小判平成一〇年一二月一七日判時一六六四号五九頁 ₅₃

では、原告による権利

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   同志社法学 六六巻二号三六〇五六二

主張がない場合であっても、﹁基本的な請求原因を同じくする請求﹂であり、﹁経済的に同一の給付を目的とする関係にある﹂場合、不法行為請求訴訟の係属中は、不当利得返還を求める権利行使の意思が継続的に表示されている(催告の継続)とし、裁判上の催告による暫定的な時効中断効を認めた上で、不当利得返還請求の追加により確定的な時効中断効を認めている。

  このような判例の流れを受け、本判決は、明示的一部請求訴訟において請求された部分と請求されていない残部の請求原因事実の基本的共通性に加えて、明示的一部請求訴訟を提起する原告が残部請求をおよそ請求しないという意思の下に請求を一部にとどめているわけではないというのが通常であることを鑑み、原則として、明示的一部請求訴訟の提起に、残部による﹁裁判上の催告﹂としての暫定的時効中断効を生じさせ、当該裁判手続の終了後六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講ずることにより、確定的な時効中断効が生じるとの判断をした。もっとも、本判決は、原告が将来にわたって残部を請求しない旨の意思を明らかにしている場合や、残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない﹁特段の事情﹂ ₅₄

がある場合には、﹁裁判上の催告﹂を認める前提を欠くため、﹁裁判上の催告﹂は生じないとした。このように、本判決は、明示的一部請求訴訟の提起及び係属により、残部につき﹁裁判上の催告﹂としての暫定的な時効中断効を認めた従来の判例の立場を集約した上で、最高裁が初めて﹁裁判上の催告説﹂に立つことを明らかにし、明示的一部請求訴訟による残部についての暫定的な時効中断効を原則として承認したものである。

  したがって、従来から残部請求における催告の継続の証明が容易ではないとの指摘がなされていたところ、催告が継続するとの原則を確認し、それに対する例外を明示することによって、その証明の困難から権利者を解放するという効果が期待でき ₅₅

、一部請求訴訟の係属中に残部請求が消滅しかねないという一部請求と時効中断との間に生じる問題について判例上の解決策を提示したものである ₅₆

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   同志社法学 六六巻二号三六一五六三

   

  右記でみてきたように、明示的一部請求訴訟の提起が残部につき﹁裁判上の催告﹂として暫定的な時効中断効を生じるとしても、本件において、Xは、裁判外の催告(=内容証明郵便)から六箇月以内に﹁裁判上の催告(=明示的一部請求訴訟の別訴を提起)﹂をしたのであり、実際Xとしては、催告を繰り返した(裁判外の催告+裁判上の催告)にすぎないことになる。そこで、本件のように、第一の催告(裁判外の催告)から六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じることなく、第一の催告から六箇月以内に第二の催告(裁判上の催告)を行った場合に、本件残部についての消滅時効の完成は阻止できないか否かが問題となってくる。

  民法一五三条は、催告は、六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じなければ、時効の中断効が生じないと規定している ₅₇

。したがって、当初の催告をして暫定的に時効を中断させたにもかかわらず、当初の催告から六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じず、再び催告を繰り返したにすぎない場合には、最初の六箇月という猶予期間が延長されるわけではなく、二度目の催告をもってしても時効の完成を阻止することはできないと解されている ₅₈

。なぜなら、このような場合にも再び暫定的な時効中断効が生じるというのでは、時効制度の意味を没却してしまうからである ₅₉

。この点に関して、明確に述べた最高裁の判例は見当たらないが、上記の解釈は従来から当然のことと考えられていたようである ₆₀

  しかし、本件のように、﹁裁判外の催告﹂に引き続き、﹁裁判上の催告﹂が行われた場合も同様に解すべきかについては、検討の余地があるとされている。なぜなら、学説において、﹁裁判外の催告﹂から六箇月以内に、(債権全部につき)訴訟を提起したものの、これが訴え却下または取下げにより終了した場合に、﹁裁判上の請求﹂としての時効中断効は生じ得ないが、一五三条の﹁催告﹂としての効力を有し(﹁裁判上の催告﹂としての効力を有し)、当初の催告から訴え

(25)

   同志社法学 六六巻二号三六二五六四

却下等まで催告が継続していたものとみて時効の完成を否定する見解があるからである ₆₁

。しかし、催告を繰り返しても時効は完成しないとする原則に対して十分な理由が示されていないことから、訴え却下等の場合に限って例外を求める根拠は必ずしも明らかではないとの批判もなされている ₆₂

  このような議論がなされていたところ、本判決は、消滅時効期間が経過した後、その経過前にした第一の催告(裁判外の催告)から六箇月以内に第二の催告(裁判上の催告)をしたとしても、第一の催告から六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じなかった以上は、第一の催告から六箇月を経過することより、消滅時効は完成すると判示し、催告の繰り返しを禁止する原則を確認した。ただし、この理は、第二の催告が明示的一部請求訴訟の提起による裁判上の催告であっても、同様であることを明示したことから、全部中断説とは結論にも違いが生じることとなった。つまり、第一審判決や上告受理申立て理由のように、﹁裁判外の催告﹂がなされた後に﹁裁判上の催告﹂がされた場合には、裁判外の催告が繰り返された場合と異なり、債権者の権利行使の意思が明確になっており六箇月以内に裁判上の請求等をすることにより確定的な時効中断効が生じると解するのではなく、最高裁は、﹁催告が繰り返された場合にはいつまでも時効が完成しないことになりかねず、時効期間が定められた趣旨に反し、相当でない﹂として﹁裁判外の催告﹂と﹁裁判上の催告﹂を同様に扱い、催告の繰り返しを禁止したのである ₆₃

  しかし、本判決は、第二の催告が明示的一部請求訴訟の提起による﹁裁判上の催告﹂である場合について判示したものであるため、裁判上の催告一般についておよそ催告の繰り返しによる時効中断効を否定したものではないとの見解も示されている ₆₄

。そのため、裁判外の催告から六箇月以内に裁判上の請求など民法一五三条所定の措置を講じたものの、訴え却下等により終了した場合については、別異に解する余地が残ることになるであろう ₆₅

(26)

   同志社法学 六六巻二号三六三五六五 五  おわりに   本判決は、既に多くの判例と学説の積み重ねがある明示的一部請求訴訟と時効中断効の範囲に関する問題について、昭和三四年判決等の従来の判例に代表される一部中断説の立場を確認しつつ、他方で、最高裁として、明示的一部請求訴訟の提起に残部による﹁裁判上の催告﹂としての暫定的な時効中断効を生じさせることを原則として承認する﹁裁判上の催告説﹂の立場を採用することを初めて明確にした点に、先例的な意義がある。

  また、本判決は、明示的一部請求訴訟の残部につき﹁裁判上の催告﹂が生じる旨を原則として承認したが、この趣旨は、全部中断説によって例外なく残部についても時効中断の効果を及ぼすことで原告の一方的救済に傾斜するのではなく、一部中断説になお軸足をとどめることで、催告の繰り返しを禁ずるという趣旨も踏まえつつ、事案に応じて両当事者の利益を調整する可能性を維持することに拘った結果である ₆₆

と思われる。

  しかし、本判決の結果は、提訴者が提訴前に債権総額を把握していた事案または把握することが期待された事案であるならともかく、本件のような、前訴である明示的一部請求訴訟において初めて債権の総額が明らかになる事案については、提訴者にとって酷な結果を招きやすいと思われる。また、実際、訴訟を提起する場合には、いきなり訴訟を提起するよりも、裁判外の催告を行った後に提訴する場合も少なくなく、明示的一部請求訴訟の場合には、訴訟係属中ということもあり、裁判外の催告から六箇月以内に民法一五三条所定の措置を講じることが困難な場合も、少なからず存在すると考えられる。本件は、このような事例に該当する可能性もあるであろう。

  そこで、評者としては、本件において、Xが明示的一部請求とはいえ訴訟を提起し、権利を行使した以上は、権利の上に眠る者とはいえず、残部についても、それが明らかになればXはいつでも請求拡張の方法で全部について容易に判

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