議 決 権 の 代 理 行 使 と 経 営 者 支 配 中 村
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議決権の代理行使に関しては︑従来商法第二三九条第三項に﹁株主ハ代理人ヲ以テ其ノ議決権ヲ行使スルコトヲ得
但シ代理人ハ代理権ヲ証スル書面ヲ会社ニ差出ダスコトヲ要ス﹂と規定されていたに過ぎなかったのが︑戦後アメリ
カ法の影響を受けて︑第四項﹁前項ノ代理権ノ授与ハ総会毎ニ之ヲ為スコトヲ要ス﹂という規定が加えられ︑さらに
証券取引法第一九四条およびそれに基く証券取引委員会規則第二ニ号により︑上揚株式に関する議決権代理行使の勧
誘につき︑相当詳細な法的規制が設けられるに至ったのである︒
この議決権の代理行使制度は︑企業規模の拡大に伴う広範囲な株式の分散︑所有と経営の分離現象と不可分の関係
に 立 つ も の で あ っ て ︑ 一方において株主の議決権の行使を容易ならしめると共に︑他方会社にとってもその総会につ
いて定足数を必要とする場合︑それをみたし総会を成立させる上に重要な機能を果してきたものであるが︑近時は最
初に予想した機能をはるかに越えて︑巨大会社においては︑白紙委任状による株主の議決権代理行使の慣習と共に︑
﹁経営者支配﹂を確保継続せしめるための有力な手段となっている︒
わが商法の議決権代理行使の規定は︑諸外国特に英米法のそれに較べて︑なお簡単である︒そのためか︑議決権代
議 決
権 の
代 理
行 使
と 経
営 者
支 配
︵ 中
村 ︶
五
富大経済論集
五 四
‑142‑
理行使に関する諸問題について学説は区々である︒私は本稿では問題を議決権代理許容の根拠︑代理行使の制限とし
て代理人を株主に限ることの可否︑白紙委任状による代理行使の慣習等に限って︑この制度を議決権の本質との関連
というよりも︑むしろ専ら所有と経営の分離ないしは経営者支配という観点から考察し︑私見を述べたいと思う︒
代 理 許 容
の 根 拠
先ず株主の議決権の代理行使が商法上認められている︵商二三九条三項︶根拠については︑株主の議決権代理の法
的性質に関する次の二つの見解から判断される︒
第一説は株主の議決権行使は本来は代理に親しまないものであるが︑法は例外的にこれを認めているとなす見解で
①
ある︒主として議決権の本質を株主の一身専属的人格権とする立場からのものである︒第二説は株主の議決権行使は
②
木来代理に親しむ行為であるとなす見解からのもので︑議決権行使は表決という方式でなされる法律効果を伴う株主
の意思表示または少なくとも株主の意思の表明として意思表示に準ずるものであり︑原則として民法の諸規定の適用
をうけ︑従って代理行使は民法の原則︵民六五条二項︶により当然許されるとする︒代理行使の許容を前説は例外と
し︑後説は当然としながら︑しかも︑両説いずれも︑代理人による議決権行使を禁止する旨の定款を無効と解すると
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深 い
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株主の議決権行使は本来は代理に親しまないという見解に立てば︑定款をもって議決権代理行使を禁止することは
何ら不合理なことにならないのではなかろうか︒何故代理行使を例外として認めねばならないか︑しかも例外規定を
強行規定と解し︑代理行使を禁止する旨の定款を何故無効としなければならないかという点に検討すべき問題があろ
それだけでは代理許容の根拠としては充 ぅ︒また代理行使は民法の原則により当然許されるという見解についても︑
分納得できるものではない︒
代理行使の許容の根拠は法律上︑成法上のものも︑勿論必要てあるが︑ それを裏付ける実際上の根拠を関却しえな
いのであって︑この場合はむしろ実際上の必要に基づいて︑代理行使が成立したことを吟味すべきである︒実際上︑
株式が譲渡され未だ名義の書換がなされていない場合や︑株式が証券会社名義または仲買人名義になっている場合に
株式の譲受人や真の株主たる顧客が代理人として議決権行使をする必要があるが︑これは代理許容の決定的な根拠と
はならない︒企業規模の拡大︑株式分散に基づいたいわゆる﹁所有と経営の分離﹂こそ︑その決定的根拠と考える︒
昭和三一十五年九月末現在で︑株主数の著大なわが国の会社を挙げると︑ 日立製作所︑東京芝浦電気等が二十万人以上
で︑十万人以上のものに︑八幡製鉄︑東京電力︑新三菱重工等があるが︑これらの会社で十万人以上の株主が自ら総
③
会に出席することが可能であると仮定することは馬鹿げたことである︒議決権代理行使を例外とする見解が﹁株主の
静決静一千骨台骨身からレゆか
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b ﹂と一吉川︑議決権代理行使を当然とする見解が﹁株会か骨骨任時怯静から見れば︑
⑤
議決権の行使は本来代理に親しむ行為とみとめられる
Lとなすのは︑所有と経営の分離問題にふれているものと解せ
ら れ
る ︒
私は︑所有と経営の分離論を基礎として︑次に比較法的に代理行使の許容根拠を求めたい︒アメリカにおいては︑
株主総会における議決権は株主自ら︵ E
匂28 ロ︶行使すべきであって︑議決権代理行使は認めないとするのが普通法上
の原則であっか
oこのような普通法上の原則はイギリスにおける初期の法人が王の特許状によって設立せられたため
当初︑人的関係を有する公法人守口 EWS 召
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召 ロ︶と金銭的利害関来を基礎とする私法人守口 5
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との区別が認識されずに︑政治的法人に適合する普通法上の原則がそのまま事業会社に持ち越されたものであると言
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る ︒
議 決
権 の
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行 使
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営 者
支 配
︵ 中
村 ︶
五 五
富大経済論集
五 六
‑144
ー
ところが︑株式会社の実情として企業規模の拡大︑株主数の増加および株式の地理的分散という傾向が増加してく
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るに従って︑この原則は崩れはじめた︒先ず︑基礎定款によって代理行使を認める企てが一八世紀末以後設立された
@
会社において行われた︒しかし︑当時の殆んどの会社の基礎定款は代理行使について何ら規定していなかったので︑
この目的のために附属定款がしばしば利用された︒制定法または基礎定款に代理行使の規定がない場合に附属定款の
みによって︑代理人による議決権行使が認められるか否かについては︑判例上争われた︒例えばこのような附属定款
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名で︑その後の多数の判例によって︑その有効性は確立されたのである︒
右のように︑定款または附属定款によって代理行使を認めんとする努力が進み︑現代では﹀
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接定め︑或はその会社の定款文は附属定款をもってこれを認めうることを明定している︒この例外である
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判例上代理行使が認められており︑叶巾同国剖においても普遍的慣習によって極めて初期から代理行使が認められている
⑬
ので︑事件があれば裁判所は当然これを認めるであろうと言われている︒
イギリスにおいても︑株主総会に出席し議決権を行使するのは株主自身であるというのが普通法上の原則であっ
た︒ところが一九
O八年の会社法は代理行使一般については規定していなかったが︑附表 A に投票による決議に際し
ては議決権の代理行使が許されることが規定され︑ 一九二九年会社法附表 A 五八条も同様の規定を設けており︑実際
には定款が議決権の代理行使について規定するのが常であった︒しかし︑その後︑企業規模の拡大︑様式の分散等の
いわゆる所有と経営の分離現象に伴い︑新に大衆株主の保護をはかる必要が生じ︑ 一九四八年法は議決権代理行使に
⑬
関する第一一一一六条を新設して︑代理行使をなし得る株主の権利を制定法上の権利として保障したのである︒
わが商法の母法であるドイツ株式法は今日︑議決権代理行使の許容を明定している︵一一四条三項︶︒
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イツ法上の治革においては︑会社の定款をもって︑或は株主自身が議決権を行使しうべき旨規定した例があり︑
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べたが︑今日では定款または株主総会の決議によっては︑代理行使を排除しえないことが認められている︒
株主の議決権代理行使は以上述べたように所有と経営の分離という経済上の必要に迫られて認められたものである
から︑沿革上の考察としてはともかく︑株式会社構造の変革を見た今日では議決権の法的性質としても︑その代理行 は法律が代理人の許容を強行法的に定めない限り︑
使は当然のことと考えるべきで︑従って商法第二三九条第三項は強行法的保障規定であって︑定款をもってするも︑
代理行使を禁止して︑ 必ず株主自身が議決権を行使すべきものとすることはできないと解する︒
註①松田博士﹃会社法概論︵新訂︶﹄一二四頁︒﹁株式会社の基礎理論﹄六四 O 頁 ︒ 実 方 教 授 は 議 決 権 は 株 主 白 か ら 行 使 す べ き 性 質 の も の で あ る が ︑ 経 済 的 生 活 体 に お い て は 利 益 の 帰 属 主 体 ︵ 会 社 ︶ と 権 利 の 帰 属 主 体 ︵ 株 主 ︶ と が 異 な る た め ︑ 権 利 行 使 の
一 身
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に お
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五 九
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社 員 又 は 組 合 員 の 表 決 権 は 一 身 専 属 権 で あ り ︑ 原 則 と し て ︑ 本 人 自 ら こ れ を 行 使 す べ く ︑ 定 款 ︑ 法 人 等 に 特 則 の 定 が あ る と き
議 決
権 の
代 理
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営 者
支 配
︵ 中
村 ︶
五 七
~ 146
宮大経済論集
五 八
に限って代短行使が認められるとする判例がある︒昭・一一了五・二 0 ・ 横 浜 地 裁 民 判 決 ︑ 法 律 新 聞 四 一 五 九 賞 ︒
英米では議決権は株式という財産権の価値を保障するために不可分な手段としてそれ自身一つの財産権守口聞広♀甘 3
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であるとされている︵出口主の
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社法研究﹄一五二頁︶が︑株主総会で株主自ら行使することを本来の性質としている︒
②大偶教授﹃会社法論中巻︵全訂︶﹄二八頁︒田中︵誠︶博士﹁株主の議決権に就て﹂法協四二一巻八号二九頁︒菱田助教授﹁株
主の議決権行使と会社支配﹄六二頁以不︒大森教授﹁議決権﹂株式会社法講座一二巻九一九頁︒
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④松田博士﹃会社法概倫︵新訂︶﹄一二四頁︒
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代理人資格の制限
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代理人の資格を株主に制限することの可否
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は取締役︑監査役または会社の使用人に限るとか︑或は取締役︑監査役または会社の使用人は代理人となりえないと
か︑或は一人で若干株以上を代理することができないとか︑特別の条件を附することが許されるか否かについては間
①
題がある︒ここではわが国の多くの会社の定款で規定されている代理人の資格を株主に制限することが認められるか
否かにつき検討したい︒
①
このような定款の規定は有効とするのが︑多数説であって︑諸外国の法制でも︑先ずドイツにおいては株式法第一
一四条第七項が法に規定する以外の場合について﹁議決権の行使の条件及び方式は定款に従いこれを定む﹂と規定し
①
ているので︑代理人資格を定款で株主に制限することが可能であり︑これは一般にも認められている︒またアメリカ
③
においても制定法または定款で代理人の資格を株主に制限することは認められている︒しかし︑制定法または定款が
議 決
権 の
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行 使
と 経
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五 九
富大経済論集
7
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‑148
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代理人の資格を株主に制限していない場合に︑附属定款でこれを株主に制限することは許されないとされる ω
これに対して︑代理人の資格を株主に制限する定款の規定を無効とする説も我国においてかなり有力であれ︒これ
と同旨の立法例としてはイギリス法の立場がある︒同国では一九二九年会社法附表 A 五九条は代理人は株主たること
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﹁通常定款﹂によって議決権行使の代理人は株主たることを要すとすることが多かったが を要しないとしていたが︑
一九四八年法第二二六条第一項は代理人は株主たることを要しないと規定したので︑従来の大多数の定款の︑代理人
の資格を株主に限る旨の定は無効となったのである︒
有効説がわが商法の解釈に当って︑その有効とする理論的根拠は必ずしも同一ではなく幾つかあるが︑その大要を
まとめると結局︑第三者による総会荒しの防止と︑株主総会をして株主の総会たらしめようとする古い社団法理論の
固守につきると思われる︒松田博士は議決権が株主の人格権であり︑任意代理に親しまないという立場から︑代理人
資格を株主に限定することを有効とし︑﹁株主たらざる第三者が代理人として︑総会に出席するを拒み︑株主総会を
して依然株主のみの総会たらしむるものである︒:::然るに我が国従来の有力説が斯る定款を以て無効なりと解する
⑨
は︑議決権の本質を看過したものと謂はざるを得ぬのである﹂とされるが︑株主の議決権行使が本来代理に親しむ行
為であるという立場からも﹁株主総会が株主以外の第三者により撹乱されるのを防止し︑会社の利益を保護しようと
する趣恥﹂の下に有効説があることは興味がある︒
ωまず︑代理人は株主でなくとも差支えないとすると︑その会社と経済的にも法律的にも何んらの関係のない第
三者が委任状を集めて総会に臨み︑いわゆる会社荒しが行われる危険があるという有効説の根拠を検討しよう︒もち
ろん第三者が総会を撹乱する可能性はある︒しかし︑代理人が株主であれば総会撹乱ないし︑会社荒しの可能性が少
いとでも言うのであろうか︒もし第三者が議決権代理行使制度を悪用して総会を撹乱する意思があればたとえ定款で
代理人資格を限定している場合でも︑ 一株の株主でも総会に出席できるのであるから︑自ら株主となり︑その目的を
達することは容易である︒いわゆる﹁会社ゴロ﹂
る︒従って︑代理人の資格を株主でなくともよいとすることは︑第三者によって議決権代理行使の濫用の危険があり ﹁総会屋﹂といわれる者はむしろ株主であるのが実際上の常であ
うることは事実であるが︑それと代理人の資格を株主に限定することの有効性とは別問題である︒むしろ代理の法律
的性質から考えるならば︑株主が代理人に自己の議決権の行使を委任する場合︑株主は自己の株主としての利益に従
って代理人を選任し︑代理人も株主のためにその任務を遂行すべきものである︒従って︑代理人がその会社の株主で
⑮
あると否とによって︑その議決権行使の方法にとくに差異の生ずべき理由はない︒従って︑このような理由でもって
株主の議決権行使を制限することは許きれないであろう︒
次に株式会社は株主が創ったものであり︑株主総会は﹁株主﹂の﹁総会﹂であるから︑株主でないものが一人
でも出席することはその名突が背馳することになり︑株主のみの参加が最も好しいとする有効説の根拠を検討しょ
(2)
ぅ︒なるほど代理人たるものもまた株主であれば︑株主総会は真に株主だけの総会となり︑それを実現する方法とし
て︑定款をもって代理人資格を株主に限ることは限定的意味で首肯できないこともない︒株主総会という名称からみ
ても︑株主自らが出席することが望しいが︑それが困難であるから︑議決権の代理行使が認められたが︑株主に知り
合が見出せるような︑株式の自由譲渡性が制限せられ︑株主聞の人的関係がある程度認められるような会社において
は︑所有と経営の分離現象という見地からみても︑その一過渡期の形態として理由が存するものと考えられる︒ドイ
ツ株式法において︑或はアメリカ各州の制定法または定款において︑或はわが国における多くの会社の定款において
‑149
ー
或は従来の多数説において︑代理人資格が株主に限定されるということは︑以上のような意味においてのみ把握され
る︒しかし︑企業規模の拡大︑株式分散等の所有と経営の分離現象が進み︑株主はその会社の株主の中に信頼するに
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富大経済論集
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足る代理人としての友人︑知人を見出しえないような会社においては︑
の信頼しうる第三者を株主に選んでも︑会社は定款でこれを否認するならば︑彼は議決権行使を棄権するか︑ めくら
判を押した白紙委任状を会社に返送する以外にないであろう
oこのような結果は株主のための議決権代理行使を不可
能とすることになり︑従って︑右の有効説を採ることはできない︒所詮︑定款をもって代理人資格を株主に限定する
ことを認める見解は︑株式会社の沿革に由来したセンチメンタリズムに過ぎないと言えるであろう︒松田博士は既述
のように議決権の本質を株主の一身専居間的人格権とする立場に固執して︑代理人資格を株主に限定することは任意代
理に親しまない議決権の本質に合致するとして有効とされるが︑代理人たる株主はわか会社の株主ではあるが︑代理
権を授与したわか長平一ではないのであるから︑株主の議決権が人格権たる理論は崩れ始めているのであり︑代理行為
自体を例外とされたのと同じように︑代理人資格を第三者に認めてもよいということを例外として認めるべきではな
かろうか︒また大隅教授は既述のように株式の非個性的性格から議決権の代理行使を認め︑商法第二三九条第三項は
その代理人による行使を強行法的に保障するものであると解されているが︑更に一歩を進めて非個性的な多数の株主
が広範囲に分散し︑ かつ株式の自由譲渡性が強行法的に認められる現行商法︵商二
O四条一項︶の下では︑株主中か
ら信頼しうる代理人としての友人︑知人を見出すことも容易でないことを認め︑定款による代理人資格の制限を無効
とすべきではなかろうか︒また鈴木教授は﹁株主は代理人によって議決権を行使しうる︵商二三九条三項︶︒必らず
自身の出席を要求することは無理であり︑また個性のない株主についてはその必要もないからである一多くの定款は
代理人の資格を株主に限っているが︑この程度の制限は不当とするまでのことなく︑さしっかえない︒﹂とされるが︑
株主総会に株主自身の出席を要求することが無理であるなら︑さらに今日の株式会社では代理人を株主中から選ぶこ
とも園難なことに注意すべきであろう︒
右のような批判を有効説に加えることにより︑私は代理人資格を株主に制限する旨の定款規定については無効説に
従う者である︒無効説の中には成法上の根拠を挙げる立場もある︒例えば︑田中︵誠︶博士はかつては商法第二四一
条但書﹁但シ定款ヲ以テ十一株以上ヲ有スル株主ノ議決権ヲ制限シ叉ハ株式ノ譲受ヲ株主名簿ニ記載シタル後六月ヲ
超エザル株主一一議決権ナキモノトスルコトヲ得﹂の趣旨より︑有効説をとられたが︑現行法ではこれが削除されたか
⑬
ら無効であるとされる︒また竹田博士は議決権行使の条件につき別段の定をなしうる旨の規定なく︑法律に規定なき
⑬
限りは別段の条件を附するを得ないとされる︒しかし︑法律に別段の規定がない場合には︑代理人資格を株主に制限
することは認められないとも解されるが︑また株主に制隈することは許されると解される余地もある︒
結局︑代理人の資格を株主に限る定款規定を無効とすべき最大の根拠は︑代理許容の根拠と同様︑所有と経営の分
離現象という立場からのものに帰士一周するであろう︒株式譲渡の自由︵商二
O四条一項︶と代理人資格の制限否定は企
業規模の拡大︑株式分散等に伴う株式会社の実情が法文の上にまたは法解釈の中に反映したものとして理解すべきで
あ ろ
う ︒
なお︑比較法的にみて︑代理人の資格を株主に限ることを認めるドイツ︑ アメリカにおいても︑学説としてその無
⑬
効説があらわれており︑所有と経営の分離現象との関連が看取されるのは注目に値する︒
‑151‑
註 ①
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法 講
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法 ﹄
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八 頁
︒ 大
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全 訂
会 社
法 論
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︵ 中
︶ 二
八 頁
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︵ 中
村 ︶
7丈
‑152‑
富大経済論集
六 四 授 ﹃ 商 法
﹄ ︵ 工 ︶ 一 一 八 一 一 員
︒ 西 原 教 授 ﹃ 会 社 法 ﹄ 二 三 六 頁
︒ 鈴 木 教 授 ﹃ 会 社 法 ﹄ 一 一 四 頁
︒ 朝 山 豊 三 氏
﹁ 議 決 権 代 現 行 使 諭 ﹂ 自 由 と 正 義 七 巻 四 号 六 頁 ︒
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@ 田 中 ︵ 誠 ︶ 博 士 ﹃ 新 会 社 法 論 ﹄ ︿ 上 ︶ 一 一 一 二 八 | 九 頁 ︒ 岡 野 博 士 ﹃ 会 社 法 ﹄ ︵ 完 ﹀ 三 八 四 l − D Z−
g五 頁
︒ 竹 田 博 士 ﹁ 株 主 の 議 決 権
﹂
京都法学会雑誌七巻九号三二頁︒田中︵耕︶博士﹃改正会社法概論﹄︵下︶三五七頁︒西島教授﹃改正会社法﹄︵再訂版︶一
一 一 頁 ︒ 菱 田 助 教 授 前 掲 書
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頁 以 下 ︒
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頁 以 下 ︒
@ 大 限 教 授 前 掲 書 二 八 頁
︒
@乙の点を追及しているのが︑菱田助教授前掲書八三頁である︒
@
ζのような見地から無効説を採るのが前述の菱田助教授であり︑また清水新教授﹁議決権行使の代理人﹂法学研究二九巻一
二号三三頁以下である︒同旨︑西島教授﹁株主の議決権について﹂﹃商法の諸問題﹄一九一頁以下︒
⑫鈴木教授前掲書一一四頁︒
⑬田中︵誠︶博士前掲書二三八|九頁︒
⑬竹田博士前掲論文三ニ頁︒
⑬ドイツにおいては︑代理人資格制度の定款規定はついての o 含
場 出 色 ロ
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ロは﹁もしも︑受任者により議決権代理行使をな
さしめる権能を株主から奪うこととなるか︑又は不当にそれを妨害するような定款規定は認むべからざるものと解すべきであ
る
Lとし︑さらに﹁かような制限は株式の流通が制限されてあり︑しかも少数の限られた株主の手に株式が存在するような場
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印 ︒ 下 企 印 な お 河 島 教 綬 前 掲 論 文 一 九 二 一 良 参 照 ︒
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取締役・監査役または会社の使用人の代理人資格を否認することの可否
①
取締役・監査役または会社の使用人の代理人資格を否認する定款規定の効力については︑わが国において有効説と
②
無効説がある︒比較法制上︑イタリアにおいては会社の取締役︵﹀
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および会社の従業員︵島田宮
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項︶法は監査役︵田宮仕巳︶については何ら触れてはいないが︑立法の趣旨を考慮して︑監査役も取締役および従業員
同様︑他の株主の代理人となることは許されないと解されている︒またアメリカにおいては︑一般には定款をもって
代理人資格を株主に限定することができるとともに︑定款をもって会社の役員を代理人資格より排除することも許さ
れるとされるほ川町︑連邦銀行法︵ Z
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わが国において取締役・監査役または会社の使用人の代理人資格を否認する定款規定を有効とする説の根拠は︑取
締役その他の経営者が代理人になるときは他人の株式によって会社支配が可能となり︑会社との聞に特別の関係を有
‑153
一
および株主総会の適正な運営と株主の利益保護のためには︑経営者という他の機関の介
@
入を排除すべきであること等と思われる︒ するための弊害もあること︑
しかし︑この有効説には疑問が生ずる︒株主の議決権行使の代理人は具体的にはその会社の株主︑その会社の取締
議 決
権 の
代 理
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支 配
︵ 中
村 ︶
六 五
富 大
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論 集
六 六
‑154
ー
役・監査役・使用人及びその会社とは直接関係のない弁護士︑公認会計士その他の第三者が考えられる︒この中︑会
社の経営者が代理人になると︑他人の株式による会社支配が可能となるし︑またその地位によって株主の議決権代理
行使制度を利用しているのは現在の経営者でもある︒従ってそのために生ずる弊害も考えられる︒しかし︑経営者支
配の肯定とその弊害防止とは一応別個の問題であって︑経営者支配即ち弊畳間ではない︒それとも論者は経営者よりも
会社外の第三者が代理人になることが弊害も少く株主総会も適正に運営されると考えるのであろうか︒むしろ︑株︑王
が取締役を株主総会で選任するということはその取締役を信頼しているのであって︑かかる意味で取締役等の経営者
を代理人とすることが多いと恩われる︒むしろ代理の法律的性質から考えるならば︑代理人である経営者は株主のた
めにその任務を遂行すべきものである︒これと同趣旨の下に︑菱田助教授は先に代理人資格を株主に限る定款規定を
無効であるとされながら︑今︑経営者の代理人資格を否認する定款規定を有効とされるのは理解しがたいところであ
る
。また︑有効説は所有と経営の分離現象から考えても疑問となる︒菱田助教授は委任状勧誘に関連してではあるが︑
﹁株主総会が会社の一つの独立せる機関として︑そこにおいて出資者たる株主が会社に対する支配を行ない︑経営者
を選任監督すベく予定されていることを考えるとき︑株主総会意思決定への経営者の介入を出来るだけ排除して解釈
⑥
することが必要である﹂と述べている︒しかしこの考え方を押し進めると結局株主だけの総会が望しいことになり︑
経 営 者 の み で な く ︑ いわゆる第三者が代理人になることを否定すべきことになるのではなかろうか︒ 一方︑菱田助教
﹁株式の広範囲な分散によって︑株主自身の総会出席は 授は代理人資格を株主に限る定款を無効とする理由として︑
地理的にも時間的にも経済的にも非常に困難となっているが︑:・:自己の信頼しうる代理人を株︑王の中から選ぶこと
⑦
は不可能に近い場合が多いであろう﹂と述べている︒このような状態にある会社で︑経営者を代理人資格から排除す
れば株主は殆んど議決権行使を棄権せざるをえなくなるであろうひもちろん︑株主に白紙委任状を提出せしめて︑そ
れを通説の解するように会社をして適当な代理人に取次させれば機会は残されるわけであるが︑経営者が特に自己
と関係のない者を代理人に選定するはずもないのである︒要するに所有と経営の分離論からみれば︑企業経営におけ
る経済的な力は少数の経営担当者にいわば﹁求心的
L︵
2ロ片岡山田尚昆︶に集中し︑株式の所有は大衆にいわば﹁遠心的﹂
⑥
︵円巾ロ片岡民己主︶に分散されてゆき︑﹁目立つ程の支配をもたない富の所有と︑目立つ程の所有なき富のお配﹂守宅
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︶は株式会社発
達の論理的帰結である︒従って︑代理人資格を株主に限る定款規定を無効としながら︑代理人資格から経営者を排除
する定款規定を有効とすることは︑所有と経営の分離論から見る限り一つの矛盾と言えよう︒
以上の考察により︑私は取締役・監査役または会社の使用人の代理人資格を否認する定款規定を無効と解する︒
註 ① 菱 田 助 教 授 前 掲 幸 一 国 八 七 頁 ︒ 河 村 鉄 也 氏 ﹃ 株 主 総 会 の 研 究 ﹄ 一 六 O
頁 ︒
②竹田博士前掲論文三三頁︒
③ 国
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⑤菱田助教授前掲書八七頁参照︒なお︑松本助教授は定款規定の効力についてではないが︑前記イタリアにおける立法例は
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会 社
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他 の
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代 理
人 と
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弊 害
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め に
も ︑
ま た
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と い
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か ら
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い と
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れ る
と さ
れ る
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掲 論
文 同
頁 ︒
⑥菱田助教授﹁委任状勧誘と議決権代理行使
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二 二
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頁 ︒
⑦菱田助教授前掲書八三頁︒
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四
白紙委任状による議決権代理行使の慣行
①
以上のように議決権は代理人によって行使することができる︒そして︑その代理権の授与は委任状によってなされ︑
委任状には代理人の氏名を記載しうるのであるが︑企業規模の拡大︑株式分散等のいわゆる所有と経営の分離現象の
発展に伴って︑株主が自らの代理人となって総会に出席すべき者を選任すること自体が困難となってくる︒
主総会における定足数が充足されないおそれすら生ずるのであり︑このため会社は総会招集の通知とともに︑議決権
一 方
︑ 株
の行使に関する白紙委任状用紙を株主に送附し︑議決権代理行使の勧誘が行われる︒株主は白紙委任状に受任者の氏
名または日付を白地のまま署名または記名捺印して会社に返送する︒会社はその委任状により自己の適当とみとめる
@
者例えば株主たる株式課長または社者を受任者に指定して︑議決権を代理行使させる︒これが議決権代理行使に闘す
るわが国の実情である︒
白紙委任状による代理行使が盛んに行われているアメリカにおいても︑その事情はわが国と大体同じである︒ただ
③
アメリカでは経営者の勧誘であり︑ま わが国では実質上︑経営者のなす勧誘でも︑法形式上は会社の勧誘であるが︑
たアメリカでは勧誘に際して︑その委任状によって議決権を行使する投票委員会守
5凶可3日 吉
2 公 ︶
④
ているのが常である︒この投票委員会は通常現在の経営者によって指定され︑アメリカでは大ていの場合︑取締役の の名前を掲げ
中から選ばれ︑社長その他の役員であることが多い︒投票委員会に対する積極的争いも反対もなく︑株主の委任状は
定足数︵官︒
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︶を満たす手助けとなり︑また経営者の意思に合致するようゴム印
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なる︒さらに経営者は会社の費用で印刷され郵送される白紙委任状守宮口﹁言︒阿佐凹︶
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ゲ ゲ 巾 吋 聞 広 自 己 よ
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吊に を 有 お 利 す
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