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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

SiC/0001面上0層グラフェンの成長機構に関する理論 検討

井上, 仁人

https://doi.org/10.15017/1441237

出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Fulltext available.

(2)

平 成 2 5 年 度 博 士 論 文

SiC(0001) 面上 0 層グラフェンの 成長機構に関する理論検討

九州大学大学院

工学府 航空宇宙工学専攻

井上 仁人

(3)

目次

1.

序論

1

1. 1. 新規材料の必要性 1

1. 2. グラフェンの物性とその可能性 3

1. 3. グラフェンのデバイス応用 4

1. 4. グラフェンの成長技術 7

1. 4. 1. 劈開法 7

1. 4. 2. SiC

表面熱分解法 8

1. 4. 2. 1. 概要 8

1. 4. 2. 2. SiC

表面におけるグラフェン成長機構の報告例 11

1. 4. 2. 3. 微傾斜 SiC

基板上周期ナノファセット構造の利用 15

1. 4. 2. 4. グラフェン成長雰囲気の制御 18

1. 4. 2. 5. GOS

技術 20

1. 4. 3. CVD

法 21

1. 4. 3. 1. 概要 21

1. 4. 3. 2. Ni

薄膜による

CVD

法 23

1. 4. 3. 3. Cu

薄膜による

CVD

法 24

1. 4. 3. 4. Co

薄膜による

CVD

法 25

1. 5. 本研究の目的とアプローチ 26

1. 6. 本論文の構成 27

参考文献 28

2.

計算方法

32

2. 1. 全エネルギー計算 32

2. 1. 1. 概要 32

2. 1. 2. Tight-binding

全エネルギー計算 33

2. 1. 2. 1. Tight-binding

近似 33

2. 1. 2. 2. 電子状態の支配方程式 34

2. 1. 2. 3. 電子系全エネルギーの計算 37

2. 1. 2. 4. NRL Tight-binding

全エネルギー計算スキーム 38

(4)

2. 1. 2. 5. SCED Tight-binding

全エネルギー計算スキーム 41

2. 1. 2. 6. Slater-Koster

による拡張 43

2. 1. 3. 第一原理計算 46

2. 1. 3. 1. Kohn-Sham

方程式 46

2. 1. 3. 2. 交換相関項の近似手法 48

2. 1. 3. 3. 周期ポテンシャルにおける Kohn-Sham

方程式 49

2. 1. 3. 4. 擬ポテンシャル法 50

2. 1. 5. 構造最適化 51

2. 1. 6. 表面系のモデリング手法;周期スラブ構造 52

2. 2. 動的モンテカルロ計算 53

2. 2. 1. 概要 53

2. 2. 2. 計算アルゴリズム 53

2. 2. 3. 拡散に関する諸物理量の計算 57

2. 2. 3. 1. 拡散係数 57

2. 2. 3. 2. 平均拡散障壁の計算 58

2. 2. 3. 3. 寿命時間と拡散距離の計算 59

参考文献 60

3. SiC

表面熱分解における表面モフォロジーと

C

原子の拡散過程

61

3. 1. 目的 61

3. 2. 計算手法 61

3. 2. 1. 概要 61

3. 2. 2. SiC

表面モフォロジーの追跡方法 63

3. 2. 3. C

拡散過程の解析方法 63

3. 3. 結果・考察 64

3. 3. 1. SiC

表面モフォロジー 64

3. 3. 2. C

拡散過程 68

3. 3. 2. 1. C

拡散ポテンシャル 68

3. 3. 2. 2. 拡散係数,拡散長 71

3. 4. 結論 75

参考文献 76

(5)

4. SiC(0001)

面におけるグラフェン核形成過程

77

4. 1. 目的 77

4. 2. 計算手法 77

4. 3. 結果・考察 79

4. 3. 1. 計算手法の妥当性 79

4. 3. 2. SiC(0001)面上における 6

員環

C

クラスターの最安定配置 80

4. 3. 3. SiC(0001)面上の C

クラスタリング過程 82

4. 3. 4. 5-6-7

員環混在・マルチリング型

C

クラスターの安定化要因 85

4. 3. 5. 5-6-7

員環混在型

C

クラスターと純

6

員環

C

クラスターの構造比較 88

4. 3. 6. 最安定自立 C

クラスターの

SiC(0001)面上における安定性 89

4. 3. 7. SiC(0001)面上における単原子 C

の安定性 93

4. 4. 結論 95

参考文献 96

5. SiC(0001)

面上ステップエッジにおけるグラフェン核形成過程

97

5. 1. 目的 97

5. 2. 計算手法 98

5. 3. 結果・考察 101

5. 3. 1. 価電子数固定の妥当性 101

5. 3. 2. 各種 SiC

ステップにおける

C

クラスタリング過程 102

5. 3. 3. C-[1 ¯ 1 00]ステップにおける 5-6-7

員環混在型構造の形成メカニズム 105

5. 3. 4. Si-[1 ¯ 1 00], [11 ¯ 2 0]ステップにおける純 6

員環型構造の形成メカニズム 107

5. 3. 5. C

クラスターの形状の支配要因 112

5. 4. 結論 114

参考文献 115

6.

総括

116

研究業績

118

謝辞

123

(6)

1

1.

序論

1. 1.

新規材料の必要性

過去半世紀以上にわたるエレクトロニクス技術の発展は今日の高度情報化社会の実現に 寄与し,社会インフラとなった通信ネットワークは我々の日常生活をはじめ,政治,経済,

産業など多岐にわたって必要不可欠となっている.このような発展の背景には半導体デバ イス技術の多大な貢献がある.具体的には大口径化した

Si

基板を微細加工し,トランジス ターなどの素子を基板上に高密度に作り込むことで高性能な集積回路の大量生産を可能と し,これにより電子機器の高機能化,小型化,省電力化,低価格化が同時に実現されてき た.Si 基板の微細加工を指導原理とした急速な技術革新は,1965 年に

Moore

によって予 言されている1.この予言は

Moore

の法則と呼ばれ,「集積回路の集積度は

1

年で倍増し,

それに反比例して製造コストは減少する」と言ったものであった.Mooreの法則は

1975

に下方修正され「チップに集積されるトランジスター数は約

2

年ごとに倍増する」となっ たが,現在においてもなお有効である(図

1. 1).

1. 1. Intel

マイクロプロセッサーに搭載されるトランジスター数の推移1

このようにして半導体デバイス技術は現代社会の基礎を確立するに至ったが,日常生活に おける利便性の追求,産業活動の高効率化および世界規模で深刻化している環境問題への 対応を鑑みると,Moore の法則に形容される持続的な発展が強く望まれる.しかしながら

Moore

の法則に沿った,すなわち

Si

基板の微細加工による更なる技術進展のシナリオには

いくつかの問題点が指摘されている2, 3.まず経済的な観点から,微細加工を行うためには 多額の設備投資が必要となるため,仮に集積回路を開発しても製造コストを回収できない という問題が挙げられる.次に技術的な観点から,集積回路の小型化に伴う電流密度,発 熱密度の増大が挙げられる.最後に既存の半導体素子の本質的な限界が挙げられる.例え

(7)

2

ば現在広く使用されている電界効果型トランジスター(FET; Field Effect Transistor)の微細 化を進めた場合,チャネルやゲート絶縁膜が非常に薄くなりソース-ドレイン間やゲート

-チャネル間に意図しないトンネル電流が流れてしまう.また図

1. 2

に示すように,トラ ンジスターの寸法が数十原子サイズ(ここでは

30 nm)である場合,不純物原子の個数は

トランジスター全体でわずかな個数となりその制御が困難になる.現在すでにプロセスル

ール

22 nm

のマイクロプロセッサーが商用化されていることから 1,更なる微細化に付随

するこれらの問題を早急に解決することが望まれている.

1. 2. FET

チャネル部の断面透過電子顕微鏡(TEM; Transmission Electron

Microscopy)像

2.図中のソース(Source),ドレイン(Drain)に挟まれた領域

がチャネルに相当する.

このような現状において半導体デバイス技術の開発は現在,3 種類のアプローチから進 められている 4.すなわち,更なる微細化や新規材料の導入によって既存のデバイスの高 性能化を推し進める「More Moore」,集積回路に

MEMS

などを導入することで既存デバイ スに新機能を付加する「More Than Moore」,スピンデバイスに代表される新たな動作原理 に基づくデバイスの創製を目指す「Beyond CMOS(CMOS; Complementary-Metal-Oxide

Semiconductor)」である.これら 3

つのアプローチが相互補完し合うことで,次世代半導

体デバイス技術が開拓されることが期待されている.これらの技術開発の動向は,最先端 の半導体デバイスを創製するという目的であるが,その根幹技術の一つである新規材料の 開発が重要であることをも示唆している.なぜなら,微細加工に関する上述の問題点から,

More Moore

による技術開発では,これまで用いてきた

Si

材料を他の新規材料に置き換え

ることが

1

つのアプローチとして考えられるためである.また,Beyond CMOSでは新しい 動作原理に基づくデバイス作製を目指すが,従来材料にない物性を示す新規材料の発見は これを推し進める駆動力になると考えられる.

(8)

3

1. 2.

グラフェンの物性とその可能性

上述のように,新規材料の実用化による半導体デバイスのブレークスルーが期待される.

2004

年に

Novoselov

らによって初めてその存在が確認されたグラフェンはグラファイト

(石墨)1 原子層分の構造を持つ新規

C(炭素)系材料である(図 1. 3)

5.グラフェンは 従来材料にない特異な物性を示すことから,半導体デバイスへの利用をはじめとする工業 的な応用や基礎物理など幅広い観点から注目されている.半導体デバイス応用の観点から 注目されているグラフェンの物性として,非常に高いキャリア移動度が挙げられる.現在 確認されているグラフェンのキャリア移動度は理想的な条件(温度

5 K,自立状態)にお

いて

230,000 cm

2

/Vs

に達し6,この値は従来から広く用いられてきた

Si

のおよそ

100

倍,

高移動度で知られる

GaAs

20

倍に相当する.これまでに報告されたグラフェンのキャリ ア移動度の測定結果を表

1. 1

にまとめる.表中に示されるようにグラフェンのキャリア移 動度はその成長方法や支持基板などに大きく依存する 7.各成長技術によるキャリア移動 度の違いについては表

1. 1

より,劈開法によるグラフェンが

SiC

表面熱分解法や化学気相 成長法(CVD; Chemical Vapor Deposition)などの大量生産に適したボトムアップ式の手法

(後述)で得られたグラフェンよりも高いキャリア移動度を示すことがわかる.したがっ て,グラフェンの物性を損なうことなく産業応用するためにはボトムアップ手法によって 得られるグラフェンの高品質化技術を確立する必要がある.

1. 3. グラフェンの結晶構造.C(炭素)原子(黒色の球)による 6

員環で

敷き詰められた

2

次元シート状の構造をなす.グラファイト(石墨)1 層原子 層に相当.

電子輸送特性に関して高い可能性を持つグラフェンを

FET

のチャネルに利用し,集積回 路の高速化,省電力化を実現する試みがなされている.また,グラフェン

FET

を用いた集 積回路の試作も行われている 8.さらに,グラフェンは

10

7

-10

8

A/cm

2程度の高電流密度を 許容することから 9,集積回路中の配線に用いることで集積回路の小型化に伴う電流密度 の増加に対応できると考えられている 10.さらにグラフェンは室温におけるスピン注入が 可能であることを見出されており11,スピントランジスタへの応用も期待されている.

(9)

4

1. 1. 先行研究によるグラフェンのキャリア移動度(および測定温度)の報告例.

Author Mobility (cm

2

/Vs) Growth method Ref.

Bolotin et al. 230,000 (5 K) Cleavage, suspended 6 L. Liao et al. 23,600 (RT) Cleavage, suspended 12 S. Masubuchi et al. 150,000 (4 K) Cleavage, transferred to h-BN 13

K. Nagashio et al. 10,000 (-) Cleavage, transferred to SiO

2

14 Y. Wu et al. 3,000 (RT) SiC(0001) decomposition 15

T. Otsuji 6,000 (-) SiC(0001) decomposition

by Graphene On Silicon method 16 S. Tanabe et al. 3,000 (RT) SiC(0001) decomposition

and H atom intercalation 17 J. L. Tedesco et al. 150,000 (RT) SiC(000 ¯1 ) decomposition 18 A. Reina et al. 100-2,000 (RT) CVD on Ni single-crystal 19

X. Li et al. 4,050 (RT) CVD on Cu film 20

Y. Lee et al. 1,530-1,770 (-) CVD on Cu film 21

W. Gannett et al. 10,000 (RT) CVD on Cu film,

transferred to h-BN 22

1. 3. グラフェンのデバイス応用

上述のようにグラフェンは

FET

のチャネル,集積回路の配線およびスピントランジスタ のチャネルへの応用が考えられている.この他にも化学的安定性は化学センサーの検知部

への(図

1. 4(a)),また光透過性や導電性は液晶ディスプレイや太陽電池の透明電極への

(図

1. 4(b))利用を期待させる

23, 24.さらに,複合材料やリチウムイオン電池の負極,電

気二重層キャパシターといったエネルギーデバイスへの応用についても研究が進められて

いる(図

1. 4(c, d))

25, 26, 27.このようにグラフェンをデバイスに応用する可能性は多岐に

わたるが,ここではそれらの中でも集積回路技術に高速化,省エネ化などの点に対して大 きな影響をもたらすと考えられる

FET

への応用について,その研究動向をまとめる.

(10)

5

1. 4. グラフェンのデバイス応用例. (a)化学センサー

23,(b)ディスプレイ

用透明電極24,(c)複合材料26,(d)キャパシター27

1. 5(a)に各種 FET

のサイズ(チャネル長)と動作速度(遮断周波数)をまとめる.図

中に示されるように,現在,グラフェン

FET

の高速動作は

Wu

らによってチャネル長

40

nm,遮断周波数 350 GHz

SiC

基板上グラフェン

FET

が試作された段階にある(図

1.

5(c))

15.Wuらによるグラフェン

FET

と同程度のチャネル長を持つ

Si-金属酸化膜半導体

FET(MOSFET; Metal Oxide Semiconductor FET)や GaAs-HEMT(High Electron Mobility Transistor)デバイスと遮断周波数を比較すると,同程度であることがわかる.上述のよう

に理想的なグラフェンのキャリア移動度は

Si

100

倍,GaAs

20

倍に達し,また遮断周 波数がチャネル移動度に比例することから,現状のグラフェン

FET

にはグラフェンの突出 した物性による優位性は見受けられない.Otsuji らはグラフェン

FET

のデバイス特性の劣 化原因として,グラフェンの成長過程で生じる不均一な層数や結晶粒界による物性の劣化,

およびグラフェン面内垂直方向の低い導電性に起因したグラフェン/金属電極間の接触抵 抗の存在を挙げている 16.2 次元材料であるグラフェンは表面と接する物質の影響を受け やすいため,グラフェン

FET

の高性能化には適切な基板やゲート絶縁膜の選定が重要とな る.

(11)

6

1. 5. 先行研究によって報告されたグラフェン FET.(a)グラフェンおよび

他材料系による

FET

のチャネル長および遮断周波数の推移28.(b)Linらによる

SiC

上グラフェン

FET(2010

年報告);チャネル長

240 nm,遮断周波数 100 GHz

29.(c)Wu らによる

SiC

上グラフェン

FET(2012

年報告);チャネル長

40

nm,遮断周波数 350 GHz

15.(d)グラフェン

FET

を搭載した集積回路のレイア

ウト30

なお,図

1. 5(b-d)に示したように,これまでに報告されている高速動作可能なグラフェ

FET

は主に

SiC

表面熱分解法によって作製されたものである.CVD グラフェンのキャ リア移動度は

SiC

表面熱分解によるグラフェンよりも低いと言われてきたが,近年の発表 では

Cu

上に

CVD

成長させたグラフェンを用いて,チャネル長

40 nm,遮断周波数 300

GHz

FET

が製作されている15

(12)

7

1. 4.

グラフェンの成長技術

このように様々な応用が期待されるグラフェンであるが,その実現には高品質グラフェ ンを低価格で提供する成長技術の確立が必須である.ここでは代表的なグラフェン作製手 法である劈開法,SiC表面熱分解法,CVD法について,その概要をまとめる.

1. 4. 1.

劈開法

劈開法は

2004

年に

Novoselov

らによって提案された手法であり,彼らはこの手法によっ てグラファイトから自立グラフェンを取り出すことに初めて成功した 5.劈開法は別名ス コッチテープ法とも呼ばれ,スコッチテープを用いてグラファイトからグラフェンを機械 的に剥離する.具体的な手順は以下の手順①-③のとおりである31

① スコッチテープに付着させたグラファイトを繰り返し引き剥がすことでグラファイ トの層間を剥離させる(図

1. 6(a, b)).

② スコッチテープに付着したグラファイトを

SiO

2表面に転写する(図

1. 6(c)).

SiO

2上のグラフェンの層数分布が光学顕微鏡像のコントラストにより判別可能であ るので,グラファイト

1

層分に相当する自立グラフェンを選別して取り出すことが できる(図

1. 6(d)).

1. 6. 劈開法による単層グラフェンの取り出し

31.(a)-(d)は作業フローに対

応.(a, b)スコッチテープに付着させたグラフェイトを繰り返し引き剥がす.

(c)スコッチテープ上のグラファイトを SiO

2 基板上に転写.(d)光学顕微鏡によ

るグラフェンの層数特定.

(13)

8

このように劈開法は特別な設備を必要としない.また劈開法によってトップダウン式に 得られるグラフェンは高品質であり,その結晶粒径は数m に達する 32.このような簡便 なサンプル作製手法によって,グラフェンに関する実験室レベルでの研究が加速されたと 考えられる.しかし上述のように劈開法はトップダウン式の手法であるため,生産性の向 上は本質的に困難である.デバイス応用の観点からは大面積グラフェンを効率よく得られ るボトムアップ式の成長技術が望まれる.

1. 4. 2. SiC

表面熱分解法

1. 4. 2. 1.

概要

SiC

表面熱分解法は高温加熱により

SiC

表面の表面改質を誘起し,これにより表面上に グラフェンを成長させる手法である.加熱中の表面改質は以下のプロセスによって進行す る(図

1. 7(a)).

SiC

表面からの

Si

原子の優先的な脱離と

C

原子の解放・表面拡散

C

原子同士の凝集による

C

クラスタリング(グラフェン核形成)過程

③ グラフェン核の沿面成長によるグラフェンシートの形成(図

1. 7(b))

ここで,C クラスタリング(核形成)とは,結晶が成長する初期段階で複数個の原料原子 が集まり微小な結晶相(クラスター,核)を形成する過程である.このように

SiC

表面上

C

原子がグラフェンを自己形成する性質を利用することから,SiC 表面熱分解法はボト ムアップ的なグラフェン成長技術と言える.

SiC

表面熱分解法を用いるメリットとして,近年の

SiC

パワーデバイスへの需要を背景 とした飛躍的な大口径化,高品質化,低価格化が進む

SiC

基板の表面全体に大面積グラフ ェンの成長が可能であることが挙げられる 33.また,SiC 表面熱分解法は

SiC

基板の洗浄 と高温加熱によりグラフェンを成長させるので,グラフェン成膜のプロセスが簡便である.

さらに

SiC

基板が絶縁性基板であることから,SiC 表面に成長させたグラフェンを転写す ることなく直接デバイス化することができる 29.このように直接デバイス作製が可能であ ることは,グラフェンの転写プロセスを必要とする後述の

CVD

法とは対照的に,デバイ ス作製プロセスの簡略化,および転写プロセスにおけるグラフェン結晶品質の低下を防止 することを可能とし,グラフェンデバイスを生産する上での大きな利点となる.したがっ て,SiC 表面熱分解法はデバイス化プロセスも含めて生産性に優れた成長技術であると言 え,このような特徴はグラフェンのデバイス応用を検討する上で重要である.

(14)

9

1. 7. SiC

表面熱分解法によるグラフェン成長.(a)成長フローの概略 34

SiC

基板の加熱によって

Si

原子(黄色)が優先的に脱離し,表面上に残存した

C

原子(黒色)がグラフェンを形成する.(b)SiC(0001)面上に成長したグラフ ェンの原子模型.図中の黒,灰,黄色の球は各々,C原子(グラフェン中),C 原 子 (

SiC

基 板 中 ),

Si

原 子 に 対応 す る .

(c)SiC(0001)

面 (Si 極 性 面 ) と

SiC(000 ¯1 )(C

極性面)の構造

SiC

表面熱分解法に用いられる

SiC

表面は主に

Si

極性面である

SiC(0001)面と C

極性面 である

SiC(000 ¯1 )

面である(図

1. 7(c)

).SiC(000

¯1 )

面上におけるグラフェン成長では

SiC(0001)面を用いた場合よりもキャリア移動度が大きいことが報告されているが,層数制

御が困難であり多層グラフェンが成長することやドメインが[000

¯1 ]方向を軸として回転す

ることが知られている 35.一方,SiC(0001)面上のグラフェンは

SiC

表面との強い相互作用 によって結晶方位が揃えられ,グラフェンの積層構造は互いに

180回転した関係にある 2

通りの配向に限定される(図

1. 8(c)).[000 ¯1 ]を軸とした自由度の原因として,SiC(000 ¯1 )面

上のグラフェンは

SiC(0001)面での成長と異なり,SiC

表面と強く相互作用しないためであ ると考えられている. SiC(000

¯1 )面上では回転の自由度によって結晶方位は無秩序となり,

結果としてグラフェンの結晶粒の拡大が本質的に困難になる.グラフェンの結晶品質の向 上を目的とする本研究では,層数制御と結晶方位の制御が容易な

SiC(0001)面におけるグラ

フェン成長に着目し,議論を進める.

上述のように

SiC

表面熱分解法は産業応用上優れた側面を持つが,得られるグラフェン の結晶品質に改善の余地を残している.デバイス特性に対して大きな影響を与える結晶品 質の指標として,グラフェンの層数分布と結晶粒径が挙げられる 36.従来の超高真空中で

(15)

10

SiC(0001)面上に成長させたグラフェンは,500  500 nm

2程度の領域で不均一な層数分布を

示し(図

1. 8(a))

37,また結晶粒径が

100 nm

のオーダーであった(図

1. 8(b))

35, 38.近年 提案された

Ar

雰囲気(1 bar)におけるグラフェン成長によって結晶品質は大幅に改善し,

層数均一の領域と結晶粒径は下地となる

SiC(0001)面上のステップ構造によって制限される

ことが示唆されている 39.SiC ステップにおけるグラフェン結晶の不均一性に付随し,グ ラフェンの電子輸送特性も著しく損なわれることが知られている 36.今後,SiC(0001)面上 のグラフェンの結晶品質をさらに向上させるためには,SiC(0001)面におけるグラフェン成 長機構を把握した上での体系的な取り組みが必要である.特に,グラフェンの結晶品質お よび特性に大きく影響する

SiC(0001)ステップ構造について,グラフェン成長機構に及ぼす

影響を明らかにすることは重要なトピックであると考えられる.以下ではグラフェンの成 長機構に関する先行研究をまとめる.また,SiC 表面熱分解法によって得られるグラフェ ンの高品質化,低コスト化に寄与すると考えられる代表的な手法についてその概要を示す.

1. 8. LEEM(LEEM; Low-Energy Electron Microscopy)による SiC(0001)面上

グラフェンの結晶品質の評価.(a)明視野像;層数分布37.コントラストはグラ フェンの層数(図中に数値で記載)に対応.(b)暗視野像;結晶粒径38.コント ラ ス ト の 境 界 は 結 晶 粒 界 に 対 応 . 結 晶 粒 界 は 積 層 の 違 い に 起 因 す る .

(c)SiC(0001)上グラフェンの積層パターン

38.互いに

180回転した関係にある

AB

積層と

AC

積層が存在する.

(16)

11

1. 4. 2. 2. SiC

表面におけるグラフェン成長機構の報告例

ここで

SiC(0001)面でのグラフェン成長機構に関する報告例を示す.まず始めに,グラフ

ェンを成長させるために

SiC(0001)面の温度を室温から昇温させる過程を考える.このとき SiC(0001)面上では環境(温度,雰囲気など)に応じた表面再構成構造が現れる.グラフェ

ンの成長機構や結晶品質の向上を検討する上で特に重要であると考えられるのは,グラフ ェン成長の開始とともに出現する

SiC(0001)-(6363)R30構造である.この再構成構造は

1. 9

に示すように,グラフェンが

SiC(0001)面と結合を持ちながら被覆する構造であると

考えられているが40, 41,詳細な構造については明らかにされていない42

1. 9. 予測される SiC(0001)-(6363)R30再構成表面の構造

41.緑,灰,黄 色の球は各々,C 原子(グラフェン中),C 原子(SiC 基板中),Si 原子を表 す.青線で囲まれた領域が

SiC(0001)-(6363)R30再構成表面のユニットセ

ルである.

最表面のグラフェンは自身の



電子軌道を

SiC(0001)面上のダングリングボンドと重ね合

わせることで結合する.



電子はグラフェンにおける電気伝導のキャリアとなるので,こ のようなグラフェン/SiC 界面における結合はグラフェンの導電性を変調する.この効果

によって

SiC(0001)-(6363)R30構造におけるグラフェンは自立グラフェンとは異なり絶

縁性を示す.このような理由から

SiC(0001)面直上のグラフェンを 0

層グラフェンまたはバ ッファ層と呼び,自立(状態に準ずる)グラフェンと区別する.なお,0 層グラフェンの 上部に存在するグラフェンは

0

層グラフェンとファンデルワールス結合のみで相互作用す

(17)

12

るため自立グラフェンと同様に高い電子輸送特性を示す.

0

層グラフェンの形成後,表面熱分解を継続するとグラフェンの成長が進行し,その層 数が増加する.Norimatsuらは透過電子顕微鏡(TEM; Transmission Electron Microscopy)に よる断面観察から

SiC(0001)面上のグラフェンは沿面成長することを示した(図 1. 10(a-d))

43.Kageshimaらは第一原理計算によるエネルギー論から新たなグラフェン層はグラフェン

/SiC界面で成長することを示している(図

1. 10(e))

44.この計算結果は

Tromp

らによる

C

同位体

C

13を用いた実験からも支持される 45.Norimatsu らは

0

層グラフェン成長時にお けるグラフェン/SiC(0001)面間の距離を第一原理計算によって求め,その結果を断面

TEM

像と比較することで,Kageshimaらと同様の結論を得ている43

1. 10. SiC(0001)テラス面上におけるグラフェン成長過程.(a-d)成長過程に

おける断面

TEM

像.各々の成長温度(C)/成長時間(hour)は以下のとお り;(a)1350 / 0.5,(b)1450 / 0.5,(c)1450 / 1.0.(d)1500 / 0.5,である.(e)第一原 理 計 算 に よ る グ ラ フ ェ ン の 成 長 モ ー ド .

0

層 グ ラ フ ェ ン で 被 覆 さ れ た

SiC(0001)面に供給された C

原子はグラフェン/SiC(0001)面間に配置される 43,

46

上述のように,SiC(0001)面においてグラフェンはグラフェン/SiC(0001)面の界面で成長 する.界面で成長したグラフェン層は

SiC

表面を被覆していたグラフェンとファンデルワ ールス結合を持つが,一方で上述のように

SiC(0001)面と共有結合を形成する.この共有結

(18)

13

合によって界面で新たに成長するグラフェンは,SiC(0001)面上に存在する原子ステップな どの構造の影響を受け,その成長機構および結晶品質が変化するものと考えられる.換言 すれば,SiC(0001)面ではこの表面の持つ原子テンプレート機能がグラフェン品質に強く影 響することが示唆される.

実際に

SiC(0001)面の構造とグラフェンの成長には密接な関係があることが報告されてい

る.例えば,グラフェン成長後の断面

TEM

観察から,SiC(0001)面上のステップでは上流 から下流に向けてグラフェンの層数が減少することが示されている 47, 48.この報告は

SiC(0001)面上でステップ端が優先的に熱分解し,これに伴ってステップ端で解放された C

原子が随時グラフェン端に供給され,結果としてグラフェンがステップの後退とともに成 長することを示唆している.Norimatsu らは一連の断面

TEM

観察からステップの後退を伴 う成長モードの存在を確かめている(図

1. 11(a))

49.グラフェン

1

層分の

C

原子数密度は

Si-C

原子層

1

層分の約

3

倍であるので,SiCステップが掃引した領域をグラフェンが完全 に被覆するためには

Si-C

原子層

3

層分のステップの後退が必要となる.ステップ高さが

Si-C

原子層

3

層分に満たない場合,ステップの後退に伴ってグラフェン島やフィンガー構 造が形成し,グラフェンが

SiC

表面上に均一に成長しないことが指摘されている(図

1.

11(b))

50, 51

1. 11. SiC(0001)面上グラフェンの沿面成長におけるステップの機能.(a)グ

ラフェンの沿面成長とステップ後退の関係 49.(b)後退するステップの

Si-C

子層数と形成するグラフェンの

SiC(0001)面被覆率

50.(c)SiC(0001)面に対する グラフェンの不完全な被覆による局所的なステップ熱分解およびピット形成.

図はグラフェン成長後の

SiC(0001)面の AFM

高さ(左),位相(右)像.位相 像の黒色の領域はグラフェンで被覆されている52.矢印は局所バンチングによ り形成したピットを示す.ピットは核形成サイトとして機能する.

(19)

14

SiC

表面が完全にグラフェンで被覆されない場合,SiC ステップの熱分解による後退が一 様に行われず,局所的にステップがバンチングすることが知られている.ここで,ステッ プのバンチングとは,ステップ同士が集合することを意味する.ステップバンチングが起 こることで局所的に表面上のステップ密度が高まる.局所的なバンチングは

SiC(0001)面上

にピットを形成し,表面ラフニング(表面への原子サイズの凹凸構造の形成)を促進する.

一般的に,SiC 表面上のラフニングはグラフェンの層数分布を不均一にすると言われてい 53

このように

SiC(0001)面上のステップはグラフェンの沿面成長過程で中心的な役割を果た

す.これと同様に核形成の段階においても,SiC ステップがグラフェンの成長機構および 結晶品質に影響を及ぼしていることが指摘されている.すなわち,実験的観察からグラフ ェンが

SiC

ステップの麓で優先的に成長することが報告されている51, 52, 54.これらの報告 はグラフェンの麓がグラフェンの核形成サイトとして機能していることを示唆する.上述 の局所的なステップバンチングによって

SiC(0001)面上にピット形成が行われると,ピット

内部でグラフェンの核形成が進行し,グラフェンの層数が不均一になることが報告されて

いる(図

1. 11(c)).SiC

ステップに加えて,SiC(0001)面上の

Si

空孔欠陥もグラフェン成長

の起点になる可能性が示唆されている55

SiC(0001)面上に核形成サイトが無数に存在することによって,グラフェンの沿面成長は

多核成長モードとなる.上述のように

SiC(0001)面上でグラフェンは長周期の SiC(0001)- (6363)R30構造をとるため,異なる核に起因するグラフェン島が沿面成長し境界が接す

ると,容易に結晶粒界やリンクル構造(グラフェンシートの皺)が形成されるものと考え られる56, 57

以上に示したように,SiC(0001)面の構造とグラフェンの成長機構は密接な関係があるが,

同時に成長したグラフェンの物性とも関係を持つ.例えば,SiC(0001)面上のピットにおい て局所的に宙づりになったグラフェンでは,周囲の

SiC(0001)面上グラフェンに比べて接触

抵抗が

10,000

倍近く増加することが示されている58.また,SiC(0001)面上グラフェンの導

電性がステップにおけるキャリア散乱によって低下し,この散乱要素が

SiC(0001)面上グラ

フェン全体の電気抵抗を支配することが示されている 36, 59, 60.これらの報告から,

SiC(0001)面に成長したグラフェンを直接デバイス化しようとする場合に,グラフェンの品

質と同時に

SiC(0001)面の構造についても検討する必要があることを示唆する.

(20)

15

1. 4. 2. 3.

微傾斜

SiC

基板上周期ナノファセット構造の利用

微傾斜

SiC

基板とは,基板表面を

SiC(0001)面から意図的に特定の結晶方位へ傾斜させた

基板であり,エピタキシャル・ウエハーとして現在商用レベルで広く扱われている 61,62

[11 ¯2 0]方向に傾斜した微傾斜 SiC

基板を

H

2ガスエッチングすると,微傾斜面上のステップ

がバンチングし周期ナノファセット構造が現れることが知られている(図

1. 12(a, b))

63, 64 なお周期ナノファセット構造とは,(0001)面(テラス面)と(11

¯2 n)面(ファセット面)が数

10 nm

程度の周期で並んだ表面構造である.周期ナノファセット上の(11

¯2 n)面では SiC

ステ

ップがバンチングしており,その高さは

Si-C

原子層の積層周期(例えば

4H-SiC

では

4

子層,6H-SiC では

6

原子層)を整数倍したものに相当する.ここで

4H-,6H-とは SiC

積層周期の違いを表し,積層周期が異なる構造を構造多形という.SiC の構造多形は

4H-,

6H-の他に 3C-,2H-などが存在する.周期ナノファセット構造は[11 ¯2 0]とは異なる結晶方

位である[1

¯1 00](図 1. 12(d))へ傾斜した基板でも現れることが知られている(図 1. 12(c))

65.周期ナノファセット構造の周期や現れるファセット面は

SiC

基板の構造多形や傾斜方 向に依存する.周期ナノファセット構造の周期や現れるファセット面の面方位はエネルギ ー論を用いて説明することができる63, 64

1. 12. 微傾斜 SiC(0001)面上に形成した周期ナノファセット構造および傾斜

方向の結晶方位.[11

¯2 0]傾斜の(a)4H-,(b)6H-SiC

基板の断面

TEM

63.(c)[1

¯1 00]傾斜の 6H-SiC

基板の

AFM

66.(d)傾斜方向;[11

¯2 0],[1 ¯1 00]の結晶方位.

Tanaka

らは[11

¯2 0]方向に微傾斜した SiC(0001)面上に周期ナノファセット構造を形成し,

その表面上に

SiC

表面熱分解法によるグラフェン成長を行った 67.実験結果からグラフェ

(21)

16

ンが周期ナノファセット構造のステップと平行に異方成長し,その層数分布は

SiC(0001)テ

ラス面におけるグラフェン成長に比べて均一であることが明らかとなっている(図

1. 8(a),

1. 13(a)).さらに周期ナノファセット上で成長したグラフェンでは欠陥の発生が抑制さ

れていることが報告されている 68.また図

1. 13(a)に示すように,[11 ¯2 0]周期ナノファセッ

ト上ではグラフェン島は異方的に成長し,ステップと平行方向の伸びる.このような微傾

SiC

基板上における層数均一化,異方成長は基板の傾斜方向に依存し,[11

¯2 0]よりも[1 ¯1 00]で顕著となる(図 1. 13(b))

65

1. 13. SiC(0001)面上周期ナノファセット構造における 1-2

層グラフェンの

LEEM

像;(a)[11

¯2 0]

67,(b)[1

¯1 00]傾斜基板

65.図(a, b)中の数値はグラフェンの 層数を表す.(c)SiC(0001)面とグラフェンの配向関係.SiCステップに現れるグ ラフェンエッジは,[11

¯2 0]傾斜基板;ジグザグエッジ,[1 ¯1 00]傾斜基板;アー

ムチェアエッジとなる.

周期ナノファセット構造において均一な層数分布が得られた原因は明らかになっていな いが,ファセット面における優先的なグラフェン成長が

1

つの要因であると考えられる 67 ステップ密度の高いファセット面でグラフェンの核形成が行われ,その後テラス面上へ

C

原子が供給され,グラフェンが沿面成長することで,核形成サイトの制御およびテラス面 のラフニング抑制が実現されたと考えられる(図

1. 14(a)).周期ナノファセット構造にお

けるグラフェンの異方成長の原因ついても,ファセット面における優先成長によって説明 することができる.すなわち,グラフェンはファセット面を素早く被覆し,その後テラス 面へ広がるので,結果としてグラフェン島の形状はステップ平行方向に伸びる.

以上に述べたように,グラフェン成長に対する周期ナノファセット構造の利用は層数分 布の均一化の観点で大きな利点があると言える.最近の報告では,グラフェンの成長条件 を最適化することによって,周期ナノファセット構造上で

6  6 m

2程度の範囲で層数均一

2

層グラフェンが得られている.また異方成長はグラフェンをナノリボン化するため,

グラフェンにバンドギャップを自然形成させる手段として有望視されている.

(22)

17

1. 14. ファセット面におけるグラフェンの優先的な成長.(a)[11 ¯2 0]傾斜周

期ナノファセット上におけるグラフェン成長モデル 67.グラフェンはファセッ ト面を被覆した後にテラス面へ拡がる.(b)[1

¯1 00]傾斜のファセット面を有する

SiC(0001)面で成長したグラフェンの断面 TEM

69.ファセット面上のみにグ

ラフェン成長が認められる.

近年の研究では,周期ナノファセット構造をより積極的に利用することを主眼として,

表面ラフニングを誘発する

SiC

表面熱分解でなく,外部から

C

原子を供給する

CVD

法や

MBE

法によるグラフェン成長が試みられている66, 70.MBE法によって[1

¯1 00]傾斜周期ナノ

ファセットのテラス面上に作製した幅

10 nm

のグラフェン・ナノリボンは,ラマン分光測 定によってグラフェンの欠陥およびエッジ構造に起因する

D

バンド(1,350 cm-1に観察さ れるラマンピーク)の偏光依存性を示すことから,熱分解しなかった

SiC

ステップと並行 して直線状に配列したアームチェアエッジを持つナノリボンであることが示唆されている

(図

1. 13(c)).実際にナノリボンのバンドギャップは 0.14 eV

となることが推算されてお

り,この値は完全に直線状のエッジを有するナノリボンのバンドギャップに対する理論予 測と良好な一致を示す28

Sprinkle

らはファセット面におけるグラフェンの優先的な成長をグラフェンデバイスの

作製プロセスに利用している69.このプロセスでは

SiC(0001)面をリソグラフィーで異方性

エッチングすることで,表面上に現れるステップの高さを意図的に調節する.エッチング で現れたステップを加熱し表面を緩和させることで,全幅が制御されたファセット面を形 成させる.ファセット面を有する

SiC(0001)面では上述のようにファセット面でグラフェン

の優先成長が行われるので,結果としてリボン幅が制御されたグラフェン・ナノリボンが 得られる(図

1. 14(b)).

(23)

18

1. 4. 2. 4.

グラフェン成長雰囲気の制御

従来の

SiC

表面熱分解法によるグラフェン成長は超高真空中で行われてきたが,成長時 の雰囲気を制御することでグラフェンの高品質化が可能であることが報告されている.こ こでは,Si2

H

6(ジシラン)および

Ar

ガスを成長雰囲気に導入した事例を紹介する.Tromp らはグラフェンの成長雰囲気として

Si

2

H

6ガスを用い,Si 原子を供給しながら

SiC(0001)面

の熱分解を行った71.その結果,Si原子の分圧を

10

-8

-10

-6

Torr

の範囲で変化させることに よって,0 層グラフェンの成長が始まる

SiC(0001)-(6363)R30表面の相変態温度が超高

真空環境下に比べて

200 C

以上上昇することを明らかにした(図

1. 15(a)).Tromp

らはさ らに

Si

2

H

6 雰囲気でグラフェンの高温成長を行い,SiC(0001)面のラフニングを大幅に抑制 しながら層数均一のグラフェンを得ること成功している(図

1. 15(b, c)).この層数均一化

は,Si2

H

6雰囲気で均一な

0

層グラフェンを成長させたことに起因していることが示されて いる.Trompらは

SiC(0001)面のラフニング抑制によってピット形成などが抑制され,グラ

フェンが局所的に成長しなかったため,一様な層数分布が実現したと考察している(図

1.

11(c))

52.また彼らは,SiC(0001)面を高温環境下に置くことで

C

原子の拡散を促進し,グ

ラフェンの単一核形成成長を実現できたとしている.

1. 15. Si

2

H

6雰囲気中におけるグラフェン成長 72.(a)各表面における

Si

子の蒸気圧.0 層グラフェン成長時(SiC(0001)-(33)R30面がグラフェン

1

層で覆われるまでの過程)における

Si

蒸気圧は青色(“6363”)に対応す る.成長雰囲気の

Si

分圧を

10

-8

Torr

から

10

-6

Torr

にすることで,雰囲気温度

200 C

増加させても平衡状態を保つことができる.(b)超高真空中および

(c)Si

2

H

6雰囲気(2

 10

-5

Torr)中で成長したグラフェンの LEEM

像.Si2

H

6 囲気を利用することで層数均一性,表面モフォロジーが向上する.

(24)

19

Emtsev

らは大気圧

Ar

ガスをグラフェン成長雰囲気として選択し,SiC(0001)面からの

Si

原子の脱離を抑制しながらグラフェン成長を行った 39.SiC(0001)面上のグラフェンの層数 分布を異なる成長雰囲気;超高真空(図

1. 16(a)),Ar

雰囲気(図

1. 16(b))間で比較した

ところ,Ar 雰囲気を用いることでグラフェン層数の均一性および

SiC(0001)面の平坦性が

大幅に改善することが確認された.図

1. 16(b)に示されるように,Ar

雰囲気で成長したグ ラフェンの層数は

SiC(0001)面上のステップによって制限される.Ohta

らは

Ar

雰囲気で

SiC(0001)面上に均質な 0

層グラフェンを形成した後,これを超高真空中で過熱することで

均質な数層グラフェンを成長させた 51.この結果は,一度均質な

0

層グラフェンを成長さ せると,続いてグラフェン/SiC(0001)面間に成長するグラフェンは優れた結晶品質を持つ ことを示唆しており,上述の

Tromp

らによる報告とも一致する.

1. 16. Ar

雰囲気中で成長したグラフェンの

LEEM

39.コントラストおよ

び図中の数値はグラフェンの層数分布に対応.比較のため,インセットに超高 真空中で成長したグラフェンの

LEEM

像を示す.Ar 雰囲気を用いることで,

層数の均一性が

SiC(0001)面上のステップの存在によって制限されるようにな

る.

以上から,0 層グラフェンの結晶品質が

SiC(0001)面上に成長する数層グラフェン全体の

結晶品質を支配していることが示唆される.また,均質な

0

層グラフェンを得るためには,

表面熱分解過程で

SiC(0001)面の平坦性を維持することが必要であると考えられる.ここで

紹介した

Tromp

および

Emtsev

の手法は

SiC(0001)面からの Si

原子の脱離を実効的に抑制し

成長環境を平衡状態に近づけることで,0 層グラフェンの均質化を実現していると理解す ることができる.

同様のメカニズムによるグラフェン層数の均一化が先述の

Tanaka

らによる周期ナノファ セット基板上のグラフェン成長において確認されている 67.彼らの報告によれば,グラフ

(25)

20

ェンの層数分布は層数が少ない(1-2 層)時よりも,成長が進行した後(2-3 層)で均一に なる.このような実験結果が得られた原因は,グラフェン層によって

Si

原子の脱離が抑制 され,グラフェン/SiC(0001)面間が平衡状態に近づいたためであると考えられている.

Kusunoki

らは

SiC(0001)面の酸化によって形成したシリケートによって Si

原子の脱離を抑

制し,平衡状態においてグラフェンを成長させる手法を提案している53

1. 4. 2. 5. GOS

技術

SiC

表面熱分解法によるグラフェンの量産は高品質/低コストの

SiC

基板が利用可能で あることが前提条件となる.先述のように近年における

SiC

成長技術の進展は大口径

SiC

基板を低価格で提供することを可能とし,SiC 表面熱分解法の発展に貢献した.しかし,

グラフェンデバイスの実用化に向けては更なる

SiC

基板の大口径化,低価格化が求められ る.このような背景のもと

Suemitsu

らは大口径化,高品質化が進んでいる

Si

基板上に

SiC

をエピタキシャル成長させ,この

SiC / Si

基板を表面熱分解することでグラフェンを成長 させる,GOS技術(GOS; Graphene on Silicon)と呼ばれる手法を提案している72.これま でに

SiC

薄膜の成長条件の最適化が行われてきている.SiC 薄膜の原料は

CH

3

SiH

3(モノ メチルシラン)ガスを分子線領域

10

-2

-10

-3

Pa

で照射し供給する.このときの成長温度は原 料ガスの供給速度と正の相関を持ち,適切なプロセスウインドを選択する必要がある.成 長する

SiC

薄膜は単結晶の

3C-SiC

となる.3C-SiC 薄膜を形成した後,高温加熱によって グラフェンを成長させる.本手法では安価な

Si

基板上に

SiC

薄膜を形成させるので,基板 コストを抑えることができ,結果として

SiC

表面熱分解によるグラフェン成長の低コスト 化が実現できる.

Suemitsu

らは

Si

基板の面方位よって

3C-SiC

薄膜の面方位;(111),(110),(001)が得られ ることを報告している.また,高温加熱後の

3C-SiC

薄膜表面に対してラマン分光測定を 行い, 3C-SiC 薄膜の面方位(111),(110)および(100)のいずれに対してもグラフェンが成長 すること,結晶粒径が

30 nm

以上であること,3C-SiC薄膜の面方位によってグラフェンの 導電性が変化すること,を報告している(表

1. 2).

1. 2. Si

基板の面方位と

3C-SiC

薄膜の面方位およびグラフェンの導電性72

Surface orientation of Si Surface orientation of SiC Electronic structure of graphene

Si(111) 3C-SiC(111) Semi-conductor

Si(110) 3C-SiC(110) Metal

Si(100) 3C-SiC(100) Metal

(26)

21

1. 4. 3. CVD

1. 4. 3. 1.

概要

CVD(Chemical Vapor Deposition)法は化学気相成長法とも呼ばれ,C

原料となる炭化水

素ガスを高温の金属表面に供給することで金属表面上にグラフェンを成長させる手法であ る.CVD 成長において金属表面へ供給された炭化水素ガスは金属表面の触媒作用によって 分解され

C

原子が表面上に供給される73, 74.この

C

原子が

SiC

表面熱分解法と同様に自発 的な

6

員環構造をなすことでグラフェンが金属表面全体に得られる.この成長プロセスか らわかるように

CVD

法は

SiC

表面熱分解法と同様にボトムアップ的なグラフェン成長技 術であり,工業的量産手法の候補として重要である.以下では

CVD

法によるグラフェン 成長の概要を記す.

まず始めに

CVD

法によって成長するグラフェンの成長機構について述べる.CVD 法に おけるグラフェン成長には

2

通りの成長プロセスが存在する 75.プロセスの

1

つは金属表 面に供給された

C

原子が高温環境下で表面拡散をし,それらがクラスタリングすることで グラフェンが形成するプロセスである.このプロセスは

C

原子の供給元が異なる点を除い て,SiC 表面熱分解法と同様である.もう

1

つのプロセスは高温環境下で金属内部に溶解 した

C

原子が冷却過程で金属表面に析出しグラフェンを形成するプロセスである(図

1.

17).

1. 17. 金属表面での C

原子の溶解-析出過程を伴うグラフェン成長モー

ド.(a-c)は成長プロセスを表す;(a)気相からの

C

原子の供給,(b)金属表面へ

C

原子の溶解,(c)冷却過程における

C

原子の析出およびグラフェン形成

75

2

つの成長プロセスはグラフェン成長に用いる金属の溶解度と密接な関係がある.例えば 金属に対する

C

原子の溶解度が小さい場合は前者の成長機構が,大きい場合は後者の成長 機構が支配的となる.このように

CVD

法によるグラフェン成長は用いる金属表面に大き

図 1. 2.  FET チャネル部の断面透過電子顕微鏡(TEM; Transmission Electron
表 1. 1.  先行研究によるグラフェンのキャリア移動度(および測定温度)の報告例.
図 1. 5.  先行研究によって報告されたグラフェン FET.(a)グラフェンおよび
図 3. 1.  SiC 表面系.図中の破線はユニットセルを示す.(a)C-[1 ¯1 00],(b)Si- 00],(b)Si-[1 ¯1 00],(c)[11 ¯2 0]ステップ.
+5

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