嫌気的水域における水質の生物毒性評価と通気およ び活性炭処理による浄化技術の研究
隅倉, 光博
https://doi.org/10.15017/1441301
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
九州大学大学院生物資源環境科学府環境農学専攻 学位論文
嫌気的水域における水質の生物毒性評価と 通気および活性炭処理による浄化技術の研究
隅倉光博
2014 年
本研究は,私が清水建設株式会社技術研究所において進めてきた一連の研究 のうち,嫌気的水域における水質の生物毒性評価と通気および活性炭処理によ る浄化技術に関して得られた研究成果をもとに,九州大学 大学院生物資源環境 科学府博士後期課程における学位論文研究として行われた。
本研究をまとめるのにあたり,九州大学 大学院生物資源環境科学府において は,指導教員である和田信一郎教授から研究の進め方や分析手法の選択などに ついて終始一貫して懇切丁寧なご指導とご鞭撻をいただきました。またアドバ イザリ委員として,大坪政美教授および(故)佐伯和利准教授からは研究結果 の解釈などに関して貴重なご助言をいただきました。加えて,学位論文取りま とめにおいては九州大学 大学院理学研究院の横山拓史教授および同大学農学 研究院の山川武雄准教授から丁寧なご指導をいただきました。記して深甚の謝 意を表します.
本研究を行うにあたって,清水建設株式会社に在職したまま編入学の機会を 与えて下さいました同社技術研究所の石川裕所長、川島実副所長、沼田茂生セ ンター長に深く感謝申し上げるとともに、試料採取,実験技術などに関するご 指導を賜った同社の田﨑雅晴グループ長,浅田素之グループ長,同社OBの堀内 澄夫氏,岡村和夫氏,渋谷勝利氏をはじめ,ご尽力いただいた技術研究所関係 者の皆様に深甚の謝意を表します。
最後に、私の学者へ進む願望を理解し応援してくれた妻,子供,両親に感謝 します。
第1章 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1-1水環境汚染の小史
1-2水質に関わる法の制定とその内容
1-3水環境の現状
1-3-1公共用水域における水質の現状
1-3-2水環境の課題
1-4閉鎖性水域汚染の特徴
1-5問題提起と本論文の目的
第2章 底質のバイオアッセイと好気処理によるその毒性変化・・・・・・・・・15 2-1序論
2-2材料と方法
2-2-1供試材料
2-2-2Daphnia magnaを用いた底質の毒性評価
2-2-3密閉瓶による好気処理実験
2-2-4エアレーションによる好気処理実験
2-3結果と考察
2-3-1底質試料の性状
2-3-2Daphnia magnaを用いた底質の毒性評価
2-3-3好気処理による底質間隙水の物質の変化
2-3-4好気処理による底質の毒性変化
2-3-5好気処理によるイオン変化と毒性変化
2-4 結論
3-2材料と方法
3-2-1 供試材料
3-2-2活性炭による硫化水素イオンの酸化実験方法
3-2-3硫黄成分の形態と酸化量の分析方法
3-3結果と考察
3-3-1活性炭による硫化水素イオンの酸素酸化実験
3-3-2酸化された硫黄成分の形態と量
3-4 結論
第4章 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
1
第 1 章 緒言
2 第 1 章 緒言
河川や沿岸海域は,人々にとって水産資源供給の場,交流の場,水辺での心の安ら ぎ・憩いの場,陸上での様々な汚れや廃棄物が最終的にたどり着く場,汚れが清めら れていく場でもあった。しかしながら,人口増加や産業活動の増加に伴い,家庭排水,
農業・畜産排水,工場排水などの流入が増加した結果,水質の悪化,ヘドロの堆積や 悪臭,貧酸素水塊の頻発など深刻な環境問題を引き起こされるようになった。この章 では,水環境汚染が,底質および生物相にあたえる影響の現状について考察し,本論 の目的を示す。
1-1 水環境汚染の小史
水質汚染の原因は,産業の近代化以前すなわち明治以前からあったと想像されてい る。秋田の阿仁,越前の亀山,能登の宝達,赤沢,陸中の白根などの各銅山や,生野 銀山,佐渡金山などをはじめとする金・銀・銅・鉛・水銀鉱などの鉱山が1670年まで に全国各地で開鉱され,その下流で農業被害などがあったことが記録されている(小 山田・小山田,2001)。多数の沿岸住民に被害をおもたらした最初の事件としては,明 治初期に発生した足尾銅山鉱毒事件が有名である。その後も小坂鉱山(1905),日立鉱 山(1906)と言った鉱害被害が発生した。次に,紡績・製紙・食品工場など産業の近 代化に伴う汚濁負荷の増大と多様化により,荒田川(岐阜県)の水質問題(1917)な ど各地で汚濁問題が生ずるようになった。そして,四大公害に上げられるイタイイタ イ病や,水俣病などの被害が発生し,本格的な水質対策となった水質汚濁防止法が制 定されることとなった。
近年における水質汚染状況をみると,内湾,内海あるいは湖沼といった閉鎖性水域 における水質の改善が進んでいないこと,有害化学物質による汚染が顕在化してきて いることなどが課題となってきた。このため数次にわたる水質汚濁防止法の改正によ る地下水汚染対策,生活排水対策及び海域における富栄養化対策等の強化並びに環境 基準の健康項目の拡充,ダイオキシン類対策特別措置法の制定等がなされた(環境省,
2006)。
3 1-2 水質に関わる法の制定とその内容
環境省の資料「水・土壌環境行政のあらまし−きよらかな水・安心快適な土づくり−」
を参考に水質の法制定に関わる出来事をまとめた年表を表1-1に示す。
わが国最初の水質汚染防止設備に関わる設置命令は,1897年の足尾銅山妨害排除命 令とみなすことができる。その内容は,廃水に対する沈殿池の設置,残滓に対する堆 積場の設置,砂防工事や脱硫装置の設置などを強制したものであった。しかしながら,
この足尾の特殊事例を例外として,わが国の鉱山精錬所の鉱害対策は,それ以降はほ とんど進展しなかった。また,第一次世界大戦後の重化学工業の発展により,それ以 前の鉱害といった特定地域の汚染問題に加え,工場廃水による河川湖沼と沿岸海域の 汚染と漁業被害が拡大したため,1938年に「水質保護法案」が策定されたが,第二次 大戦の激化によって途絶した。結局,水質汚染に関する法規制は,第二次大戦終結か ら十余年を経た1958年に「公共用水域の水質保全に関する法律」,「工場排水等の規制 に関する法律」といった水質二法が制定された。しかしながら,その内容は,規制水 域や規制対象業種を個別に指定する制度であっため,水質汚濁の未然防止ができない など,十分に機能するものではなかった(大森,1986)。
産業活動の発達や人口の増加と共に公害による被害が顕著化し,日本の4大公害であ る水俣病,第二水俣病,四日市ぜんそく,イタイイタイ病の発生などを受けて,公害 対策の原則を明確化するための基本法とし公害対策基本法が1967年に施行された。公 害対策基本法では,公害の1つとして水質汚濁が規定されおり,水質汚濁の防止やその 被害者保護を目的に,水質汚濁防止法が1970年に制定された。水質汚濁防止法は,個 別の規制対象指定では不十分であった水質二法を踏まえて,一律排水基準を設けた規 制となっているが,対象となる施設や排水量に条件があるなど限定的な規制であるた め,水質保全が難しい場合は,地方自治体の条例による「横出し規制」「上乗せ規制」
「脚きり規制」が認められている。そのため,多くの自治体で何らかの規制を定めて おり,水質汚濁防止法と各自治体の条例で補完しながら水質汚濁の防止が図られてい る。
1933年には,地球規模の環境問題に国際的な視野にたって適用するために,環境基
4
本法が,公害対策基本法を継承しつつ自然環境保全法を補うかたちで制定された。こ のような社会情勢や基本法の改正に合わせて,水質汚濁防止法も数回の改正が行われ,
H24年5月の改正(環境省令第十五号)時点では,一律排水基準の健康項目として有害
物質28項目(表1-2),生活環境項目として15項目(表1-3)の規制値が設けられている。
一方,環境基本法に基づく水質汚濁に係る環境基準は,水質保全行政の目標として 公共用水域の水質等について達成し,維持することが望ましい基準として定められ,
排水基準と同様に人の健康の保護に関する環境基準(健康項目)と生活環境の保全に 関する環境基準(生活環境項目)の二つが制定されている。前者の健康項目について は公共用水域及び地下水におのおの一律に定められているが,後者の生活環境項目に ついては,河川,湖沼,海域ごとに利用目的に応じた水域類型を設け,それぞれの基 準値を定め,各公共用水域の水域類型によって水域の環境基準が具体的に示されてい る。平成24年8月の改訂(環境省告示127号)時点では,健康項目については,カドミ ウム,全シアン等27項目について環境基準が定められており,生活環境項目について は,BOD,COD,DO等の環境基準が定められている。また,閉鎖系の湖沼及び海域 については,富栄養化を防止するために全窒素及び全燐に係る環境基準も定められて いる。
近年では,水生生物の減少や生物多様性の減少が各地で見られるようになるにつれ,
「健全な生態系の維持・再生」,「良好な水環境の保全」のためには,水生生物への影 響も考慮した基準が必要であると認識されるようになったため,2003年11月には,水 生生物保全に関わる水質環境基準として全亜鉛についてのみ基準が設定されていたが,
2012年8月には,ノニフェノールに係る環境基準が追加された。
水質汚濁に関わるその他環境基準としては,ダイオキシン類対策特別措置法に水質 の環境基準が制定されている。
5 表1-1水質の法制定に関わる出来事
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6 表1-2水質汚濁防止法排水基準(健康項目)
有害物質の種類
カドミウム及びその化合物 0.1 mg/L
シアン化合物 1 mg/L
有機燐化合物
(パラチオン、メチル パラチオン、メチルジメトン及び EPNに限る。)
鉛及びその化合物 0.1 mg/L
六価クロム化合物 0.5 mg/L
砒素及びその化合物 0.1 mg/L
水銀及びアルキル水銀その他の水銀化合物 0.005 mg/L アルキル水銀化合物
ポリ塩化ビフェニル 0.003 mg/L
トリクロロエチレン 0.3 mg/L
テトラクロロエチレン 0.1 mg/L
ジクロロメタン 0.2 mg/L
四塩化炭素 0.02 mg/L
1,2-ジクロロエタン 0.04 mg/L
1,1-ジクロロエチレン 1 mg/L
シス-1,2-ジクロロエチレン 0.4 mg/L
1,1,1-トリクロロエタン 3 mg/L
1,1,2-トリクロロエタン 0.06 mg/L
1,3-ジクロロプロペン 0.02 mg/L
チウラム 0.06 mg/L
シマジン 0.03 mg/L
チオベンカルブ 0.2 mg/L
ベンゼン 0.1 mg/L
セレン及びその化合物 0.1 mg/L
海域以外 10 mg/L 海域 230 mg/L 海域以外 8 mg/L 海域 15 mg/L アンモニア、アンモニウム化合物亜硝酸化合物及び硝酸化合物 (*)100 mg/L
1,4-ジオキサン 0.5 mg/L
(*) アンモニア性窒素に0.4を乗じたもの、亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素の合計量。
備考
ふっ素及びその化合物
「検出されないこと。」とは、第2条の規定に基づき環境大臣が定める方法により排出水の汚染状態を検 定した場合において、その結果が当該検定方法の定量限界を下回ることをいう。
砒(ひ)素及びその化合物についての排水基準は、水質汚濁防止法施行令及び廃棄物の処理及び清掃 に関する法律施行令の一部を改正する政令(昭和49年政令第363号)の施行の際現にゆう出している温 泉(温泉法(昭和23年法律第125号)第2条第1項に規定するものをいう。以下同じ。)を利用する旅館業に 属する事業場に係る排出水については、当分の間、適用しない。
許容限
検出されないこと 1 mg/L
ほう素及びその化合物
7 表1-3水質汚濁防止法排水基準(生活環境項目)
項目
水素イオン濃度(水素指数)
生物化学的酸素要求量 120
(日間平均120) mg/L
化学的酸素要求量 160
(日間平均120) mg/L
浮遊物質量 200
(日間平均 150) mg/L ノルマルヘキサン抽出物質含有量(鉱油類含有量) 5 mg/L ノルマルヘキサン抽出物質含有量(動植物油脂類含有量) 30 mg/L
フェノール類含有量 5 mg/L
銅含有量 3 mg/L
亜鉛含有量 2 mg/L
溶解性鉄含有量 10 mg/L
溶解性マンガン含有量 10 mg/L
クロム含有量 2 mg/L
大腸菌群数 日間平均 3,000 個/cm3
窒素含有量 120
(日間平均 60) mg/L
燐含有量 16
(日間平均 8) mg/L 備考
6. 窒素含有量についての排水基準は、窒素が湖沼植物プランクトンの著しい増殖をもたらすおそれがある 湖沼として環境大臣が定める湖沼、海洋植物プランクトンの著しい増殖をもたらすおそれがある海域(湖沼 であって水の塩素イオン含有量が1Lにつき9,000mgを超えるものを含む。以下同じ。)として環境大臣が定 める海域及びこれらに流入する公共用水域に排出される排出水に限って適用する。
7. 燐含有量についての排水基準は、燐が窒素が湖沼植物プランクトンの著しい増殖をもたらすおそれがあ る湖沼として環境大臣が定める湖沼、海洋植物プランクトンの著しい増殖をもたらすおそれがある海域とし て環境大臣が定める海域及びこれらに流入する公共用水域に排出される排出水に限って適用する。
許容限度
海域以外の公共用水域:5.8 - 8.6 海域:5.0 - 9.0
1. 「日間平均」による許容限度は、1日の排出水の平均的な汚染状態について定めたものである。
2. この表に掲げる排水基準は、1日当りの平均的な排出水の量が50m3以上である工場又は事業場に係 る排出水について適用する。
3. 水素イオン濃度及び溶解性鉄含有量についての排水基準は、硫黄鉱業(硫黄と共存する硫化鉄鉱を採 掘する鉱業を含む。)に属する場又は事業場に係る排出水については適用しない。
4. 水素イオン濃度、銅含有量、亜鉛含有量、溶解性鉄含有量、溶解性マンガン含有量及びクロム含有量 についての排水基準は、水質汚濁防止法施行令及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令の一 部を改正する政令の施行の際現にゆう出している温泉を利用する旅館業に属する事業場に係る排出水に ついては、当分の間、適用しない。
5. 生物化学的酸素要求量についての排水基準は、海域及び湖沼以外の公共用水域に排出される排出水 に限って適用し、化学的酸素要求量についての排水基準は、海域及び湖沼に排出される排出水に限って 適用する。
8 1-3 水環境の現状
これまでの水環境に対する法の制定,および地方公共団体や事業者の取組により,
近年の水質汚濁は改善傾向にあるが,まだ水環境が良好でない公共水域も多い。
水質汚濁防止法等の規定に基づき実施されている水質測定の結果(平成23年公共用 水域水質測定結果を参考)(環境省 水・大気環境局,2012)から,水環境の現状と課 題について整理した。
1-3-1 公共用水域における水質の現状
環境基準項目は,カドミウム,全シアンといった人の健康の保護に関する項目「健 康項目」と,有機汚濁の代表的指標である生物化学的酸素要求量(BOD)又は化学的 酸素要求量(COD),水素イオン指数(pH),全窒素及び全燐など生活環境保全に関す る項目「生活環境項目」の2つ大別されており,2つの大項目で環境基準の達成状況 が異なっている。
「健康項目」には,1-2水質に関わる法の制定とその内容で述べたように27項目有り,
全体の環境基準達成率は98.9%と,これまで水質汚濁防止法による工場・事業場に対す る排水規制の強化等により,全国的にほぼ環境基準を達成している状況である(表1-4)。 一方「生活環境項目」については,水質汚濁防止法に基づく排水規制や下水道等の 排水処理施設の整備等が推進され,河川の有機汚濁(BOD)は90%以上の環境基準達 成率を確保しているが,湖沼や海域では有機汚濁(BODおよびCOD)(図1-1)や,そ れと密接に関わる全窒素及び全燐による水質汚濁の改善には,なお努力が必要な状況 にある(図1-2)。
9
表1-4 健康項目の環境基準達成状況(非達成率)
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図 1-1 公共用水域の環境基準(BOD および COD)達成率の推移
図1-2 湖沼および海域の全窒素と全燐の環境基準達成率の推移
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11 1-3-2 水環境の課題
水質汚濁防止法の排水基準の規制等により,水質汚濁が極めて著しい海域の改善や 河川水質の改善,悪臭等の改善に一定の成果を挙げている。しかしながら,水質汚濁 防止法による排水規制だけでは水質を保全するには十分ではない湖沼や海域があり,
その水質保全のために湖沼水質保全特別措置法が1984年に制定され,これまでに琵琶 湖や霞ヶ浦等の11湖沼が指定湖沼として指定されている(図1-3)。また,海域でも,
人口,産業等が集中し排水の濃度規制のみでは環境基準を達成維持することが困難な 海域のために汚濁負荷量全体の削減を目的とした水質総量削減が1978年に制度化され,
東京湾,伊勢湾および瀬戸内海が広域的な閉鎖性海域として指定されている(図1-4)。 これらの指定された水域に共通するのは,水の流出入が少ない閉鎖性の水域という 点である。このような閉鎖性水域では,過去から膨大な量の汚濁物質が底質に蓄積さ れているため,汚濁負荷量削減の効果がすぐには現れにくく,底質を含む水環境全体 の改善には長い時間を要すると考えられる。1-3-1公共用水域における水質の現状で上 げた湖沼や海域のBODやCOD,および全窒素や全燐の環境基準達成率が低いのは、閉 鎖性水域が汚濁物質を蓄積しやすい構造となっているため,蓄積した有機物質が微生 物により分解され溶出していることが原因と考えられている。したがって,水環境を 改善し環境基準達成率を今後上げて行くためには,閉鎖性水域の水質や底質を含めた 改善が必要である。
12
図 1-3 指定湖沼位置図
図 1-4 水質総量削減の対象となっている広域的な閉鎖性海域
八郎潟[秋田]
釜房ダム貯水池
[宮城]
野尻湖[長野]
諏訪湖[長野]
琵琶湖[滋賀・京都]
中海[鳥取・島根]
宍道湖[島根]
児島湖[岡山]
霞ヶ浦
[茨城・栃木・千葉]
印旛沼[千葉]
手賀沼[千葉]
伊勢湾 東京湾 瀬戸内海
13 1-4 閉鎖性水域汚染の特徴
閉鎖性水域では,湖沼の底や海底へ長年にわたり堆積した有機物等の影響により,
貧酸素水塊が発生するなど生物が生息しにくい状態となっている。堆積した有機物等 は徐々に分解され,BODやCOD,および全窒素や全燐の濃度を上昇するため,環境 基準達成率を下げている原因の一つと考えられている。また,貧酸素水塊は,酸素欠 乏により直接生物の生息に悪影響を及ぼすだけでなく,嫌気性細菌である硫酸還元菌 により無酸素状態で有機物の分解を進行し,有害な硫化水素を発生させ,底生生物の 絶命の原因となっている。さらに,貧酸素水塊は底泥からの栄養塩類の溶出や,絶滅 した生物の分解に伴うさらなる酸素消費及び分解された遺骸からの栄養塩類の放出を 引き起こし,富栄養化を促進するため,再び貧酸素水塊の発生の原因となるとの指摘 がある(今後の閉鎖性海域対策に関する懇談会,2007)。
このように,閉鎖性水域は負の循環を繰り返しており,水質を改善するためには,
流入水の負荷の削減だけではなく,負の循環を断つための底質や貧酸素の改善も必要 である。
1-5 問題定義と本論文の目的
人口増加や産業活動の増加に伴い発生した深刻な水環境の問題を解決すべく排水基 準や水質基準等の法整備が進められ,河川等の水質は改善傾向にある。しかしながら,
湖沼の底や海底など底質に関する法整備が遅れていることもあり,長期にわたり有機 物等が堆積する閉鎖性の水域では,硫化水素イオンが発生するなど生物の生息が困難 な環境となっている場所もある。
このような閉鎖性水域を改善するには,水質の改善と共に水質に影響を与える底質 の改善が重要となるが,底質の環境基準はダイオキシンしか定められておらず,また 暫定除去基準としても水銀とPCBしか定められていないなど,底質の浄化目標が明確 になっていない点が問題である。また,水生生物の生物多様性が減少している観点か ら,浄化目標には「健全な生態系の維持・再生」,「良好な水環境の保全」など,水生 生物への影響を考慮した基準が必要である。さらに,閉鎖性水域の改善にエアレーシ
14
ョン等による処理が用いられているが,効率が低いといった問題点も抱えている。
そこで,本論文では,バイオアッセイを用いた底質の評価と,水生生物の斃死の原 因となる硫化水素イオンの処理技術として,活性炭に着目した効率的な硫化水素イオ ンの酸化処理技術の開発を目的に検討した内容をまとめた。
15
第 2 章
底質のバイオアッセイと好気処理によるその毒性変化
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第 2 章 底質のバイオアッセイと好気処理によるその毒性変化
2-1 序論
大陸にある河口付近の都市域の底質には,広範囲の地域から流れてきた多種多様な 物質が長期に渡って蓄積されている。特に,排水規制や下水道の整備が遅れている発 展途上国では,分解できずに蓄積された有機物等による底質汚染が問題となっている。
底質の一般的な処理方法は,浚渫除去を除くと,覆砂,現位置固化,微生物分解に分 類できる。覆砂や現位置固化は,その効果の持続性に課題が残り,有機物など有害物 質を取り除く根本的な解決にはならない。これに対し,好気処理による微生物分解で は,重金属等の処理には不向きであるが,難分解性の多環芳香族を含む底質も浄化で きることが報告されている(山根ら,1994; 岡村ら,2006; 岡村ら,2008)。また,有 機物質を分解すると同時に,貧酸素問題も解決できるため,好気処理による底質の浄 化技術の開発が注目されている。しかしながら,多種多様な物質が蓄積した都市河川 での有効性や,エアレーションによる有害物質の揮散について評価が充分にされてい ない。
一方,河川底質の環境毒性に関して言えば,有害物質の種類は多く,その毒性を物 質ごとに評価することはきわめて困難である。また,既知有害物質が低濃度の場合で も,複数の物質により複合的に毒性を生じる可能性も否定できない。このため,現行 の法規のような個々の有害物質に対する基準値だけで環境影響を評価するのではなく,
複合的に評価するべきである。また,底質を浄化する場合は,初期の有害物質が分解 されたことを評価するだけではなく,その有害物質の分解過程で生成された中間物質 が有害性をもつ可能性についても考慮して評価しなければならない。
このような複合的な毒性評価方法の一つとして,バイオアッセイ法が提案されてい る(細見ら,1998; 笹島ら,2005; 鑪迫,2006)。バイオアッセイは,未知試料などを 評価する際には,影響を与えた物質の同定や定量が困難である反面,複数の化学物質 が同時に総合的な毒性を評価することができ,未知の物質に対しても対応できるため,
多種多様な物質が堆積する底質の毒性評価には有効と考えられる。また,米国環境保
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護庁(US EPA)では,底質評価手法として急性毒性試験および生物蓄積性試験による
生物学的評価を管理方針の1つとして定めている(USEPA, 1998)。しかしながら,底 質の毒性に関する報告は少なく(中村,2006; 渡部ら,2008),底質浄化の評価方法と しての有効性については明確にされているとは言い難い。また,底質の酸素消費量に ついての報告(茂原,1986)はあるが,有機物などが微生物によって分解される過程 の毒性変化や,分解後の毒性評価についての検討例は少ない。
第2章では,実際の河川にシートパイル等で閉鎖した区画を設けた中でエアレーショ ンによる底質処理を行うことを想定し,Daphnia magna(ミジンコ)を用いたバイオア ッセイ試験による河川底質の毒性や,浄化過程での毒性変化,また浄化後の毒性につ いて検討を行った。
18 2-2 材料と方法
底質のバイオアッセイによる毒性評価と,好気処理による底質浄化を評価するため に,底質の分析と,好気処理実験を行った。好気処理実験では,エアレーションによ る有害物質の揮散の影響を少なくするために密閉瓶を用いた回分方法と,酸素との接 触効率が高いエアレーションを用いた方法の二種類の実験を行った。
2-2-1 供試材料
実験には,経済発展が著しいが,まだまだ下水道等の整備が遅れているホーチミン
(ベトナム)の河川2箇所より採取した底質を供した。採取位置は,同じ河川の3 km 離れた上流側と下流側で,その間には,生活排水や染色工場排水が流入していた。底 質の採取地点の状況を図2-1に示した。どちらの採取地点も黒く懸濁しており,下流側 は,嫌気発酵によって発生したと思われるガスが確認できた。採取した底質は,現地
で2 mmのふるいで粗大物を除去し,20 Lのキュービーテナーに14 L(7割程度)入れ
分け,容器内の空気を抜いて保管した。底質の分析や好気処理実験は,国内に持ち帰 り実施した。
底質試料を3,000 rpmで,15 min遠心分離し,その上澄みを0.45 µmのメンブレンフ ィルターでろ過した溶液(底質の間隙水と呼ぶ)と底質試料を,それぞれJIS K 0102 に準じた分析及び環水管第127号「底質調査法」による含有量試験を実施した。また,
底質の粒度分布はマイクロトラックMT3000(日機装株式会社製)を用いて測定した。
図 2-1 底質の採取地点の状況(左:上流側,右:下流側)
19 2-2-2 Daphnia magnaを用いた底質の毒性評価
底質の毒性評価方法として,OECD - TG202や化審法(H15 改正)等に採用されて いるミジンコの一種であるDaphnia magnaの急性遊泳阻害試験法を行った。Daphnia magnaの急性遊泳阻害試験の様子を図2-2に示した。Daphnia magnaには,Micro Bio Tests社製のDAPHTOXKIT FTMMAGNAを用いた。今回,バイオアッセイとしてミジン コを用いた理由は,(1)河川底質が淡水域であったこと,(2)エアレーションで底質を巻 き上げた時に,底質の間隙水に含まれる有害物資や,底質が分解されて溶解してくる 物質について評価する必要があったこと,(3)溶液の毒性評価として十分な知見がある と考えたためである。
Daphnia magnaの急性遊泳阻害試験には,底質試料の分析と同様に間隙水を採取し
て使用した。この間隙水を原液とした100%の溶液と,原液を50%,25%,12.5%にな るように蒸留水で希釈した溶液を調整し,それぞれの溶液に孵化後 24 時間以内の Daphnia magnaを20個体ずつばく露させた。ばく露後,24,48時間後に遊泳阻害を受 けた各個体数を計測し,ECOTOX(日本環境毒性学会提供ソフト)を用いて 48 時間 後のEC50(50% Effective Concentration)を求めた。EC50とは,ばく露させたDaphnia
magnaのうち,50%(本試験では10個体)が阻害を受ける濃度(ここでは原液比率)
を指す。
図 2-2 Daphnia magnaの急性遊泳阻害試験
20 2-2-3 密閉瓶による好気処理実験
エアレーションによる処理では,有害物質が揮散して減少することが懸念されたた め,密閉瓶を用いた回分実験で好気処理の浄化効果について検討した。密閉瓶による 好気処理実験の概略図と実験状況を図2-3に示す。実験には,385 mL容のブチルゴム 栓付ガラスビンを用いた。ガラスビンの中に含水率75%に調製した底質を100 ml入れ,
気相を純酸素で置換後,密栓した。その後,ホーチミンの年間平均気温が28℃である ことと,エアレーションによる温度の上昇を考慮して,実験温度30℃にて150 rpmで連 続振とうした。経時的に,気相部の酸素濃度をガスクロマトグラフィー(GLサイエン ス社製 GC323)で分析し,酸素濃度が常に50%以上になるように気相部を純酸素で再 置換した。試験系は,上流側,下流側共に10本ずつ準備し,1日,3日,7日,14日,28 日後に二本ずつ順次開栓し,試料間隙水中の各イオン濃度をイオンクロマトグラフ
(DIONEX社製),pHをpH電極,酸化還元電位(ORP)をORP電極でそれぞれ分析し た。また,バイオアッセイ試験によりEC50を測定した。さらに,追加実験では,上流 側,下流側共に再度10本ずつ用意し,上流側は,8時間,16時間,2日,19日,23日後 に,下流側は,2日,14日,35日,42日,49日後に二本ずつ開栓し,同様に分析した。
図 2-3 密閉瓶による好気処理実験の概略図と実験状況
21 2-2-4 エアレーションによる好気処理実験
エアレーション処理実験には,図2‐4に示したような直径15 cm,高さ60 cmの小型 エアレーション装置を用いた。含水率を75%に調製した底質を5 L入れ,密閉瓶による 好気処理実験と同様に30℃で実験を行った。リアクター底部からのエアレーション速 度は0.5 L min-1で一定とした。処理実験中は装置の中心に設置した撹拌翼により150 rpmで撹拌した。上流側は,実験開始直後,1日,3日,7日,14日,21日,28日,35日 後と,追加実験は,1日,2日,5日,7日,12日,14日,20日後に試料を100 mLずつサ ンプリングした。下流側は,実験開始直後,1日,2日,3日,7日,11日,15日,28日
後に100 mLずつサンプリングした。サンプリングした試料は,密閉瓶と同様に間隙水
中のイオン濃度,pH,ORP,EC50を分析した。
図 2-4 エアレーションによる好気処理実験の概略図と実験状況
22 2-3 結果と考察
2-3-1 底質試料の性状
採取対象河川周辺は,下水様の臭気がしており,採取した底質や河川水の色は黒く 濁っていた。底質採取時に測定した表層付近の河川水のORPは,-155 〜 -290 mVと 還元状態であった。
試験に供した底質の粒度分布を図2-5に示す。底質試料は,細粒分が多く,上流側と 下流側の50%粒径D50は,それぞれ57 µm,28 µmで,下流側がより細かい成分が多い粒 度分布であった。
図 2-5 底質の粒度分布図
底質の分析結果を表2-1に示す。ベトナムでは底質や土壌汚染への規制や法整備が遅 れているため,分析結果の含有量については日本の土壌含有基準を,間隙水中の濃度 に付いてはベトナムの地表水質基準に関する国家技術基準(No.QCVN 08:
2008/BTNMT)を参考(表2-2)に評価した。
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 1 10 100 1000 10000
P erc ent age P as si ng (%)
Particle Diameter ( µ m) Upstream
Downstream
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土壌含有基準で指定されている項目については,いずれも基準値を超えていなかっ た。しかし,底質中のCODsedMn,全窒素濃度,硫化物は,日本河川(八戸市環境部,
2010; 福岡市環境局,2011; 船橋市,2012; 西宮市,2012; 神戸市,2012)の中でもそ れらの値が高いと報告されている,船橋市の真間川(柳橋)や,西宮市の新川(中津 橋)と同等の値で,また大阪湾(神戸市,2012)や東京湾(八都県市首脳会議環境問 題対策委員会水質改善専門部会,2008)で報告されている値とも同等の値であった。
よって,試料を採取した河川の底質は,貧酸素状態で未分解の有機物が多く含まれて いるとことが示唆された。
ベトナムの地表水質基準は,生活用水,水生生物の保護,灌漑など,その河川の利 用目的によってA1,A2,B1,B2に区分されており,各項目の数値は最大許容濃度を 規定している。底質を採取した河川は,利用状況から最低ランクのB2(水運及び水質 において低い要求)の区分に分類されると考えられた。よって,B2の基準で間隙水の 分析結果を評価すると,すべての基準項目を分析できていないが,基準値を超えてい るものはアンモニア性窒素であった。
間隙水中に検出された各物質が,Daphnia magnaに寄与する毒性について,US EPA のECOTOX Database(USEPA ECOTOX Datebase, 2012)を参照に検討した。その結果,
アンモニア,塩素,鉄は,48時間暴露した時のそれぞれのEC50より10〜100倍程度 の濃度が間隙水にあることが判明し,底質の毒性に寄与していると推測された。また,
間隙水中に検出されたその他の物質については,ECOTOX Databaseによる調査結果か ら毒性への寄与は低いと考えられる。
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単位上流側下流側単位上流側下流側 %64.978.7ナトリウムmg L-1 254258 -7.47.4アンモニアmg L-1 205108 mV10868カリウムmg L-1 4018 %22.838.3カルシウムmg L-1 194.6 mg L-1 3365塩素mg L-1 127111 mg kg-1 4300060000硝酸mg L-1 <0.2<0.2 ふっ素mg kg-1 5136硫酸mg L-1 <0.2<0.2 ほう素mg kg-1 <20<20ふっ素mg L-1 0.21<0.2 カドミウムmg kg-1 <10<10ホウ素mg L-1 <0.2<0.2 遊離シアンmg kg-1 <5<5カドミウムmg L-1 <0.001<0.001 鉛mg kg-1 2332全シアンmg L-1 <0.1<0.1 六価クロムmg kg-1 <10<10鉛mg L-1 0.0190.007 ひ素mg kg-1 <10<10六価クロムmg L-1 <0.04<0.04 総水銀mg kg-1 <1<1ひ素mg L-1 0.014<0.005 セレンmg kg-1 <10<10総水銀mg L-1 <0.0005<0.0005 銅mg kg-1 91100アルキル水銀mg L-1 <0.0005<0.0005 亜鉛mg kg-1 330530セレンmg L-1 <0.002<0.002 全鉄mg kg-1 42000117000銅mg L-1 0.040.01 全窒素mg kg-1 44004700亜鉛mg L-1 0.180.1 全りんmg kg-1 12002000全りんmg L-1 2.72.6 硫化物mg kg-1 11002900全鉄mg L-1 3826 DXNpg-TEQ g-1 4.59.1全窒素mg L-1 90140
TOC CODsedMn
含有量 間隙水中濃度
含水率 pH ORP EC50
表2-1 底質の分析結果
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表 2-2 ベトナムの排水に関する基準
A1 A2 B1 B2
pH - 6 - 8.5 6 - 8.5 5.5 - 9 5.5 - 9
溶存酸素 mg L-1 ≧6 ≧5 ≧4 ≧2
遊離物質 mg L-1 20 30 50 100
CODCr mg L-1 10 15 30 50
BOD5(20℃) mg L-1 4 6 15 25
アンモニア性窒素 mg L-1 0.1 0.2 0.5 1
塩素 mg L-1 250 400 600 -
フッ素 mg L-1 1 1.5 1.5 2
亜硝酸性窒素 mg L-1 0.01 0.02 0.04 0.05
硝酸性窒素 mg L-1 2 5 10 15
燐酸塩 mg L-1 0.1 0.2 0.3 0.5
シアン化合物 mg L-1 0.005 0.01 0.02 0.02 ヒ素 mg L-1 0.01 0.02 0.05 0.1 カドミウム mg L-1 0.005 0.005 0.001 0.01 鉛 mg L-1 0.02 0.02 0.05 0.05 三価クロム mg L-1 0.05 0.1 0.5 1 六価クロム mg L-1 0.01 0.02 0.04 0.05
銅 mg L-1 0.1 0.2 0.5 1
亜鉛 mg L-1 0.5 1 1.5 2
ニッケル mg L-1 0.1 0.1 0.1 0.1
鉄 mg L-1 0.5 1 1.5 2
水銀 mg L-1 0.001 0.001 0.001 0.002
界面活性剤 mg L-1 0.1 0.2 0.4 0.5 油脂類 mg L-1 0.01 0.02 0.1 0.3 フェノール mg L-1 0.005 0.005 0.01 0.02 農薬
アルドリン+ディルドリン µg L-1 0.002 0.004 0.005 0.01 エンドリン µg L-1 0.01 0.012 0.014 0.02
BHC µg L-1 0.05 0.1 0.13 0.015
DDT µg L-1 0.001 0.002 0.004 0.005
エンドスルファン µg L-1 0.005 0.01 0.01 0.02 リンデン µg L-1 0.3 0.35 0.38 0.4 クロルデン µg L-1 0.01 0.02 0.02 0.03 ヘプタクロール µg L-1 0.01 0.02 0.02 0.05 有機リン農薬
パラチオン µg L-1 0.1 0.22 0.4 0.5 マラチオン µg L-1 0.1 0.32 0.32 0.4 除草剤
2,4D µg L-1 100 200 450 500
2,4,5T µg L-1 80 100 160 200
パラコート µg L-1 900 1200 1800 2000 全アルファ線強度 Bq L-1 0.1 0.1 0.1 0.1
全ベータ線強度 Bq L-1 1 1 1 1
大腸菌 MPN 100mL-1 20 50 100 200
大腸菌群数 MPN 100mL-1 2500 5000 7500 10000 単位 濃度
26 2-3-2 Daphnia magnaを用いた底質の毒性評価
間隙水にミジンコをばく露した時の,遊泳阻害率の変化を図2-6に示す。EC50はばく 露されたミジンコの50%が,遊泳阻害を受けたときの濃度(ここでは,間隙水の原液 比率)を示し,この数値が小さいほど毒性は高いことを示す。上流側と下流側の間隙 水のEC50は,それぞれ22.8%,38.3%であり,原液比率の低い上流側の底質の方が,や や毒性が高かった。前述のように底質には,含有量基準やアンモニア以外の地表水質 基準値を超えていないにも関わらず,Daphnia magnaに遊泳阻害が現れていた。土壌汚 染対策法の基準値は「人の健康被害」の観点から制定されているために,単純にミジ ンコへの影響と結びつけることは出来ないものの,塩素や鉄の他に,何らかの未知の 有害性物質の存在や,複数の低濃度有害物質の複合的要因が生態環境に影響を与えて いると考えられる。
ECOTOX Databaseを参照したアンモニア,塩素,鉄の毒性寄与から計算すると,試
料の間隙水は 1〜10%程度に希釈しなければ,半数以上のミジンコに遊泳阻害が観察 される計算になる。しかし,実験に用いた間隙水のEC50(原液比率)は,上流側と下 流側の間隙水をそれぞれ22.8%と 38.3%であったことから,何らかの複合作用により それぞれの毒性がマスクされるような効果あることが示唆された。