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LCCの長距離航空路線の増加とその背景 調査・研究活動 : 交通経済研究所ホームページ

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Academic year: 2018

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190 運輸と経済 第77巻 第8号 ’17.8

海外トピックス

はじめに

 2017 年6月1日,LCC(Low Cost Carrier:低

費用航空会社)のレベル(LEVEL)は,バルセロ

ナとロサンゼルスを結ぶ路線の運航を開始した。 この航空会社は,イギリスのブリティッシュ・エ アウェイズ(British Airways)とスペインのイベ

リア航空(Iberia)を共同経営するインターナショ

ナル・エアラインズ・グループ(IAG)によって 設立され,バルセロナを拠点に4路線(ロサンゼ ルス,サンフランシスコ,ブエノスアイレス,ブンタ・ カナ)を運航している。

 レベルの特徴は,LCC における従来のビジネ スモデルと異なり長距離航空路線を運航している ことにある1)。LCC は中短距離航空路線を中心に 展開することがビジネスモデルの一つであった。 ただし,欧米の同路線を中心に成熟期を迎えたこ と,さらには,近年の航空機性能の向上もあって, 4,000km を 超 え る 長 距 離 航 空 路 線 を 開 設 す る LCC が相次いでいる2)。しかし,LCC における 長距離航空路線への路線開設は,必ずしも成功に は至っていない。本稿では,LCC における長距 離航空路線の取り組みの変遷と長距離航空路線が 増加する背景について紹介する。

1

LCC

における長距離航空路線の変遷

 LCC における長距離航空路線の取り組みは, 約半世紀前の 1960 年代まで遡ることができる。 1964 年,アイスランドのアイスランディック航 空(Icelandic Airways)は,ニューヨークとヨーロッ パ各地を結ぶ大西洋横断航路を開設した。この航 空会社は,航空会社の業界団体である IATA

(International Air Transport Association:国際航空

運送協会)に加盟していないため,運賃設定に関

わる制約がなかった。多くの FSC(Full Service

Carrier:既存の航空会社)が IATA に加盟する中,

同社は費用面で効率化を図り,低運賃による航空 サービスの提供を行った。

 低運賃が可能になった背景には,同社が大西洋 横断航路の経由地となるレイキャビク空港を拠点 空港としていることが挙げられる。拠点とする同 空港で乗務員の交代をすることにより,効率的な 人員の運用を図ることができるため,人件費用を 抑えることができた。また,長距離航空路線の場 合には,航続距離の長い大型の航空機を使用する 必要があり,同空港を経由することで一度のフラ イトが短くなる。その結果,航続距離は短くなり, 燃料効率に優れた中小型機を使用することにより,

LCC

の長距離航空路線の増加とその背景

まつ

ざき

あけ

よし

 

調査研究センター研究員

1) LCC のビジネスモデルは ELFAA(European Low Fares Airline Association: ヨーロッパ低運賃航空協会)を参考 にすると,①コストの削減による低運賃の航空サービスの提供,② Point-to-Point 型のネットワーク,③おも にセカンダリー空港の使用,④地方都市間における路線などが挙げられる。

(2)

191 海外トピックス

運輸調査局

燃料費用を抑えることが可能になった。アイスラ ンディック航空による低運賃の航空サービスの提 供は,新たな旅客需要の獲得に成功した。しかし, 石油危機による景気の低迷や他の航空会社との競 争の激化により業績が悪化したため,1973 年, アイスランディック航空はエア・アイスランド

(Air Iceland)と合併し,新たな事業会社となる

アイスランド航空(Icelandair)を設立した。  1970 年代になると,イギリスのレイカー航空

(Laker Airways)は,ロンドンとニューヨークを

結ぶ長距離航空路線を開設した。Skytrain と呼 ばれるノーフリル(機内食などの付加的なサービス

を提供せず,一部有償でサービスを実施)の航空サー

ビスは,低運賃での航空サービスの提供を可能と し,利用者の獲得に成功した。しかしながら,第 2次石油危機や新たな航空機材の購入における過 大な費用支出の影響もあり 1982 年に経営破たん した。

 1980 年代以降,LCC であるアメリカのピープル エクスプレス(PEOPLExpress Airlines)や香港のオ アシス香港航空(Oasis Hong Kong Airlines)が, 長距離航空路線の開設を行ったものの,それぞれ 1987 年,2008 年に経営破たんしている。このう ちオアシス香港航空は,ボーイング社の B747 型 機と呼ばれる大型の航空機を使用して運航した。 この航空機は航続距離の面で優れているが,有償 での座席の利用状況を示す有償座席利用率(ロー

ドファクター)が,オフピーク時において低迷し

たこともあり,経営破たんにつながった。  21 世紀に入ると,独立系 LCC であるエアアジ ア(Air Asia)傘下のエアアジア X(Air Asia X)や ノルウェー・エアシャトル(Norwegian Air Shuttle)

の各 LCC が,短距離航空路線に加え,長距離航 空路線の運航を始めた。また FSC が設立した LCC においても同様の動きが見られ,カンタス 航空(Qantas Airways)のジェットスター(Jetstar Airways),シンガポール航空のスクート(Scoot), エアカナダ(Air Canada)のルージュ(Rouge)に おいても,長距離航空路線を運航している。この 場合,関係の深い FSC からの資金的な援助や, 運航業務を FSC が担うなどの協力関係が見られ る。一方でヨーロッパにおいても,先に紹介した レベルに加えて,FSC であるルフトハンザドイ

ツ航空(Lufthansa)の子会社であるユーロウイン

グス(Eurowings)が 2015 年に長距離航空路線を すでに開設しており,今後,エールフランス

KLM(Air France-KLM)が 2017 年の冬をめどに LCC の事業会社を設立し,ヨーロッパとアジア を結ぶ長距離航空路線を開設するなど,独立系 LCC および FSC 系双方が同路線を開設する予定 である。

2

LCC

における長距離航空路線の開設

の背景

 近年,LCC による長距離航空路線が増加する 背景には,欧米を中心とする中短距離航空路線が 成熟期を迎えていることがある。欧米の中短距離 航空路線は,LCC が3割から4割のシェアを占 めている3)。すでに一定の利用客を獲得した中で, 競争の激化から FSC との運賃やサービスにおけ る差異が小さくなってきていることから,新たな 旅客の獲得が難しいのが現状である。そのため, LCC は新たな路線開設による旅客獲得を目指す

(3)

運輸と経済 第77巻 第8号 ’17.8 192

べく,長距離航空路線への参入を世界各地で行っ ている。

 これまでの LCC における長距離航空路線の取 り組みを振り返ると,必ずしも成功を収めていな い。しかしながら,近年では,新たな航空機の開 発も進展し,かつての同路線を取り巻く環境も大 きく変化している。使用する航空機にもよるが, LCC においては運航費用の6割から7割を燃料 費用が占める。オアシス香港航空の経験が示すよ うに,長距離航空路線の場合,航続距離が長くな る分,燃料効率のよい航空機の活用は欠かせない。 近年では,航空機の性能が大幅に向上し,中小の 航空機であっても航続距離が長く,燃費効率の良 いエアバス社の A330 やボーイング社の B787 が 開発されている。長距離航空路線を開設する大部 分の LCC は,燃料費用を2割から3割程度抑え ることができるこれらの航空機を導入している。  ほかにも,長時間のフライトとなることから, FSC と同様にファーストクラスやビジネスクラ スなどの座席を設ける LCC も見られる。このよ うな取り組みは,長距離という航空路線の性格を ふまえての試みと理解できる。先に述べたように, 中短距離航空路線においては,LCC と FSC にお ける価格やサービスの違いが小さくなってきてい るが,長距離航空路線においても同様に,二つの ビジネスモデルの間で差異が小さくなる可能性も ある。

 一方で解決すべき課題も依然として残されてい る。LCC の中短距離航空路線における一度のフ ライトでは,最大でも4時間が限度とされてきた。 この時間を超えると乗務員の拘束時間が長くなる だけでなく,航空機材の効率的な運用にも支障が 出るとされている。また長時間のフライトとなる ことから,従来の LCC が費用削減のため付加的

なサービスとしてきた食事のサービスなどへの ニーズが大きくなることも考えられることから, 長距離航空路線特有の課題へも対処する必要が ある。

おわりに

 本稿では,LCC における長距離航空路線の取 り組みの変遷と同路線が増加している背景につい て紹介した。日本では,海外と異なり本格的な LCC が就航してから5年程度しか経過しておら ず,開設されている航空路線を概観すると大部分 は中短距離航空路線である。一方で先述したよう に大西洋横断航路からスタートした長距離航空路 線は,アジア域内にも広がってきており,日本を 発着する一部の路線の中にも同様の路線がある。 世界的な状況に鑑みると,LCC による長距離航 空路線の運航は今後,日本においても増加する可 能性がある。その場合,FSC における長距離航 空路線との競争により,新たな航空旅客の創出に つながる反面,FSC と関係の深い LCC の場合には, 既存路線との運賃やサービスにおいて,どのよう な戦略をとっていくのか,今後の動向について注 視していく必要がある。

[参考文献]

[1] 花岡伸也(2015)「LCC の本質と国内 LCC の将来」 『ていくおふ』,No. 137, pp. 12-21, ANA 総合研究

[2] Eurocontrol (2011), Study into the impact of the global economic crisis on airframe utilisation, Eurocontrol, January 2011.

[3] Linda Perry and Charles Williams (2015), The viability of Long-Haul Low-Cost Carrier Service, focus, LeighFisher, May 2015.

参照

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