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児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係 —進学後の変化に注目して—

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Academic year: 2021

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10. JAPANESE JOURNAL OF TRAFFIC PSYCHOLOGY. 2019, 35(1) 10-25 報 告. 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の 交通事故死傷者数の関係. ── 進学後の変化に注目して ──. 矢野 伸裕 森 健二 科学警察研究所. Relation between Student School Year and Number of Traffic Accident Casualties while Walking or Bicycling : Change when Entering a Higher Grade in School. YANO Nobuhiro and MORI Kenji (National Research Institute of Police Science). This cross-sectional study assessed quantitative differences in school student traffic accident injuries and fatalities during com- muting to school and private traffic according to students’ year of study in school. We created the working hypotheses pre- sented below.. ・ Immediately after entering a higher grade at a different school, student patterns of school commuting and private daily life activities extend and vary. The different activity patterns engender sudden increases in opportunities for passage through new and unfamiliar road environments, thereby increasing student traffic casualties.. ・ As school years advance, students gradually learn and become accustomed to new road environments. In addition, their cognitive functions develop gradually. These bring a gradual decrease in student traffic casualties.. Using a Japanese national traffic accident database, the numbers of student casualties per 100,000 population during April 2013-March 2018 were analyzed for students of elementary school through senior high school. A tendency showed that student casualties during the first year after entering a school of higher grade were more numerous than those of the prior academic year. Student casualties became fewer as the school years advanced. These results partially support the hypotheses presented above.. Keywords : commuting to school, entering a school of higher grade, private traffic, sex difference. 緒 言. 将来を担う子どもの交通事故の防止を企図した安 全教育や道路環境整備に資する知見を得るために, 子どもの交通事故実態を集計分析する研究が行われ ることが少なくない(例.交通事故総合分析セン ター,2017 ; 樋口・小早川・稲垣,2014 ; 本田, 2015 ; 宮崎・森本,2016 ; 斉藤,1997)。子どもの 交通事故の分析において重要と思われる一つの点. は,子どもが発達の途上にある年齢段階であること を考慮することである。本研究が対象とする小学生 から高校生までの期間,子どもは身体的な側面はも ちろん,認知能力や社会性といった心理的な側面で も著しい発達的変化を見せる。これらの変化は,児 童・生徒期の子どもの交通事故の様相にさまざまな 影響をもたらすであろう。したがって,子どもの交 通事故を年齢や学年との関係でみていくような分析 は,子どもの交通事故の様相を理解するうえで有用 な基礎資料を提供するものになると思われる。 歩行中の事故による死傷者数と年齢や学年との関 係について言えば,7歳,特に小学 1年生で際だっ. Correspondence concerning this article should be sent to : Nobuhiro YANO, National Research Institute of Police Science, 6-3-1, Kashiwa- noha, Kashiwa-shi, Chiba, 277-0882, JAPAN(e-mail : yano@nrips. go.jp). 11. 矢野・森 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係. たピークがあり,それ以降,学年が上がるほど減少 していく現象が知られている(道路交通研究会, 2017 ; 交通事故総合分析センター,2016)。小学 1 年生で突出して多い理由として,一般的には,就学 前は大人と一緒に行動することが多いのに対し,就 学とともに児童だけで行動する機会が増加するため と説明されている(交通事故総合分析センター, 2016)。この現象について,山口(2018)は,『就学 にともなう通学が作り出す,活動システム全体の変 化』を重視し,『通学にともなう 1 人の交通参加者 としての自立に伴う行動範囲の拡大と,子どもたち が持つ心理的な機能の発達とのマッチングが十分な のかどうかが問われる』とした。この山口の指摘に 基づけば,先の現象は,就学というイベントを機に, 子どもの認知能力の発達レベルを超えた行動範囲の 拡大・変化が起こって一時的に両者のバランスが崩 れたため,小学 1年生で交通事故が増加し,その後 学年が上がるほど認知能力の発達が進んでバランス が回復し,事故が減少していく,と解釈できよう。 自転車運転中の事故による死傷者数と年齢や学年 との関係についても,いくつかデータが示されてい る。それらをまとめると,自転車運転中事故の死傷 者数は,前述の歩行中事故とは逆に,就学後学年が 上がるほど増加し,高校生の年齢でピークを迎える 傾向がみられる(日野,2017 ; 本田,2015 ; 小竹・ 日 野・ 吉 田・ 春 藤,2010 ; 中 西,2016 ; 斉 藤, 1997)。本田(2015)は,中学生,高校生では進学 のタイミングで大きく増加することや,自宅から離 れた場所での事故が多くなることから,通学で自転 車を利用する生徒が増えること,走行距離が長くな ることなどの影響を指摘した。ただ,本田が行った 分析では通学時と通学時以外が区別されておらず, 自転車通学時の事故死傷者数が実際にどの程度なの かは示されていない。 ところで,山口(2018)が指摘した『マッチング が十分なのかどうかが問われる』というような問題 は,小学校への就学の際だけでなく,中学校や高校 への進学の際にも起こる可能性があると考えられ る。進学というイベントによって,通学方法や経路, 通学距離など通学環境の急な変化がもたらされる。 それだけでなく,交友関係や趣味・遊び等の活動場 所,通塾,アルバイト就労など社会的・生活的環境. も変化する。これらによって,空間的・時間的な行 動範囲の急な拡大・変化が起こると推察される。そ して,このような変化に伴い,通行経験の少ない不 慣れな道路環境を通行する機会が急に増加すると推 察される。これらは交通事故の死傷者数を増加させ る要因になり得ると思われる。このような要因によ る死傷者数の増加は,本来一時的なものと思われ, 進学後時間の経過とともに,通行経験の積み重ね, すなわち当該道路環境に対する学習が進み不慣れな 状態が徐々に解消されることや,認知能力等の発達 的変化によって,死傷者数が次第に減少すると考え られる。 以上のように考えると,進学というイベントは, 通学だけでなく,それ以外の私生活における交通行 動にも影響を与えると思われる。しかし,その影響 の与えかたが通学に対するものと同じかどうかは疑 問が残る。したがって,進学と交通事故の関係を把 握する上で,通学中と私用中(非通学時)を分けて 分析することに意義が認められるであろう。また, 児童・生徒期の男子と女子とでは,行動範囲や行動 方法などの点でさまざまな違いがあるであろう。そ れらの違いは,交通事故の様相に何らかの性差をも たらすと考えられる。しかし,これまでの研究では, 児童・生徒期の子どもの交通事故の性差について, 十分なデータが示されてきたとは言い難い。進学と 交通事故の関係を把握する上では,男女を分けて分 析する必要があると思われる。 そこで,本研究では,次章で言及する作業仮説に 基づき,過去の交通事故データの集計によって,小 学 1年生から高校 3年生までの歩行中および自転車 運転中の交通事故による死傷者数の変化について, 特に進学後の変化に注目しながら,通学中と私用中, 男子と女子をそれぞれ分けて分析を行った。 なお,本稿では以後,小学 1年生から高校 3年生 までの学年を,小 1,小 2,…,中 1,…,高 3,と 表記する。また,本文および図表中の “事故”はす べて交通事故を意味する。. 本研究の作業仮説. 1. 作業仮説. 本研究の作業仮説を Fig. 1に示す。進学をきっか. 12. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. けに通学環境や社会的・生活的環境が急に変化し, これにより行動範囲の急な拡大・変化が引き起こさ れ,このことが新規で不慣れな道路環境を通行する 機会の急な増加をもたらし,このために事故死傷者 数が急に増加する。この進学後の事故死傷者数の急 な増加を本研究では「進学効果」と呼ぶことにする (次節で詳述)。そして,道路環境に対する学習によ る不慣れの解消や,認知能力等の発達が徐々に進む とともに,事故死傷者数が減少する。以上の仮説に 基づけば,進学効果は進学直後の学年すなわち中 1 や高 1で表れると予想される。なお,図中の太矢印 (①~③)は,矢印の始点側の項目が原因となって 終点側の項目をもたらす,という関係を表している。 一方,点線矢印(④)は,始点側と終点側の間の時 間経過を,実線矢印 ⑤ は,始点側が終点側に影響・ 作用を及ぼすことを表している。 本研究は,過去の事故データの分析のみによって. 行われるため,矢印 ① と ② および ⑤ については. 直接的に検証することができない。ここでは,矢 印 ① ② ⑤ はあくまで仮定として設定され,関連す る分析が行われるのにとどまる。本研究で検証され るのは,矢印 ③ すなわち「進学後,中 1や高 1の 学年で事故死傷者数の急な増加がみられるか」と, 矢印 ④ すなわち「③ の増加の後,死傷者数の減少 がみられるか」についてである。 2. 進学効果の定義. 前節で述べたように,本研究では,進学後の中 1 や高 1で表れるであろう事故死傷者数の急な増加を 「進学効果」を呼ぶことにした。「急な」とは,それ までの傾向とは連続せずに,飛躍するように増加す ることを指している。模式図として示せば,Fig. 2 の(A)や(B)が進学効果に該当する。これに対し, Fig. 2の(C)は,進学後の事故死傷者数が進学前 より増加していても,それまでの傾向と連続してい るとみなせるので,本研究では進学効果とは呼ばな いこととした。その場合でも,必ずしも作業仮説の 矢印 ①~③ の現象が存在しなかったことを意味す るものではない。あくまで,グラフの形状として確 認できなかったということである。進学効果である か否かの判定は,学年と事故死傷者数の関係のグラ フから,目視によって不連続的な増加があるとみな せるかどうかで決めることとした。. 方 法. 1. 事故データ. 分析用データとして,令和元年 6月時点で警察庁 保有の事故統計データベースに登録されている全人 身事故から,平成 25 年 4月~平成 30年 3月の期間 に発生し,歩行中あるいは自転車運転中の小 1~高 3の者が当事者である事故をすべて抽出した。なお, それらの者の学年,性別や通行目的が不明である事 故は除いた。本研究では,抽出された事故のデータ から,歩行中あるいは自転車運転中の小 1~高 3の 者の死傷者数を学年別および性別に集計して分析に 用いた。つまり,本研究で用いる事故死傷者数の値 は,平成 25年度~平成 29年度の 5年度分の合算値 である。もし,同一の者がこの期間内に複数回事故 に遭った場合は,それぞれ別の事故死傷者としてカ ウントされる。. Fig. 1 本研究の作業仮説 太矢印(①~③)は,始点側が終点側をもた らす,という関係を表す。 点線矢印(④)は,時間経過を表す。実線矢 印⑤は,影響・作用を表す。. 13. 矢野・森 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係. 以上のように,本研究における学年と事故死傷者 数の関係の分析は,同一のコーホートを追跡する縦 断的な方法ではなく,横断的な方法によるものとい える(方法論に関しては後の「追加の考察」の章で 議論する。)。しかし,本研究の作業仮説に合わせ, 次章以降の結果や考察の記述においては,「…学年 が上がるほど死傷者が減少する…」のように,学年 を縦断的・経時的な変数として表現することとした。 2. 学年別の児童・生徒数データ. 本研究では,事故死傷者数を学年別の児童・生徒 数で調整するため,学校基本調査(文部科学省, 2017)の統計を活用した。学校基本調査には,毎年 度 5月 1日時点の調査データが掲載されている。こ の中から,まず,平成 25年度~平成 29年度の各年 度別に小学校,中学校,義務教育学校,高等学校(全 日制),中等教育学校(全日制),特別支援学校(小 学部,中学部,高等部本科),高等専門学校(本科 1~3年生)の学年別および性別の児童・生徒数を 抽出し,次に 5年度分を合算して学年別および性別 ののべ児童・生徒数を集計した。なお,義務教育学 校(9学年),中等教育学校(6学年),特別支援学 校(幼稚部を除く 12学年),高等専門学校(本科 3 年生までの 3学年)の各学年は,一般的な小 1~高 3の学年に対応させた。. 事故死傷者数とのべ児童・生徒数. Table 1は,平成 25 年 4月~平成 30年 3月の期 間の歩行中および自転車運転中の事故死傷者数を学 年別,通行目的別(通学中・私用中),および性別 に示したものである。本稿では,通学中とは,登校・. 下校のことを指し,私用中とは,登校・下校・学業 中以外で,訪問・買い物・遊戯・観光・娯楽・通院・ 業務・通勤などを指す。累計を比較すると,自転車 運転中の事故死傷者数は歩行中よりはるかに多く, 約 3.6倍であった。. Table 2は,平成 25年度~平成 29年度の 5年度 分を合算した学年別および性別ののべ児童・生徒数 を示したものである。そして,Table 1の事故死傷 者数を Table 2ののべ児童・生徒数で除して調整し, 10万人当たりの値で図示したものが Fig. 3~Fig. 6 の各図である。本稿では以降,事故死傷者数はすべ て児童・生徒 10万人当たりの値である。. 歩行中の事故死傷者数. 1. 分析結果. Fig. 3と Fig. 4はそれぞれ,歩行中・通学中と歩 行中・私用中の事故死傷者数を学年別および性別に 示したものである。 小 6までは,男女ともに,通学中より私用中のほ うが事故死傷者数が多かったが,中 1以降では通学 中のほうが多い場合もみられた。 通学中の事故死傷者数 Fig. 3の通学中では,小 学生では学年が上がるほど事故死傷者数は減少し た。小 1では男子が女子の約 2倍であるなど,小 6 までは一貫して男子の死傷者数のほうが多かった が,学年が上がるほど男女比が小さくなるように見 受けられる。そして,中 1以降は女子の死傷者数の ほうが一貫して上回り,高校生では女子が男子の 2 倍近くに達した。 進学効果について検討すると,男女ともに,小 6. Fig. 2 模式図による進学効果の説明 (A)や(B)のような,それまでの傾向とは不連続な,進学後の死傷者数の飛躍するような増加が進学効果 に該当。 (C)は,進学後の死傷者数が進学前より増加していても,それまでの傾向と連続しているとみなせるので, 本研究では進学効果とは呼ばない。. 14. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. から中 1にかけてと中 3から高 1にかけて,事故死 傷者数が不連続的に増加する進学効果がみられ,い ずれもいったん増加した後,学年が上がるにしたが い減少した。 私用中の事故死傷者数 Fig.4の私用中では,通 学中と同様に,中 2までは一貫して男子の事故死傷 者数のほうが多かったが,学年が上がるほど男女比 が小さくなり,中 3以降は女子の死傷者数のほうが 一貫して上回った。 進学効果について検討すると,事故死傷者数は,. 男女ともに,小 1から中 3まで連続的な減少傾向を 示しており,小 6から中 1にかけての進学効果はみ られなかった。中 3から高 1にかけては,女子では 事故死傷者数が不連続的に増加する進学効果がみら れ,高 1~高 3は中 3の水準を上回った。一方,男 子では進学効果は確認できなかった。男女ともに, 高校への進学後,学年が上がっても事故死傷者数が 減少する傾向はみられなかった。. 2. 考察. 歩行中の事故死傷者数は,通学中,私用中のいず れにおいても,小 1から高 3まで全体的に見れば右 下がりの減少傾向であった。この全体的な減少傾向 には認知能力の発達が関連していると考えられる。 稲垣・小早川・寺内・和田(2017)が行った,接近 する車両に対して横断不可判断を行う実験の結果で は,小 5児童は,個人差が大きいものの,小 2児童 より,車両速度の変化に応じた横断不可判断ができ る者が多く,衝突してしまうような誤判断が少な かった。Meir, Parmet, & Oron-Gilad(2013)は,横 断判断課題を用いて 7~13歳の子どもや成人のハ ザード知覚能力を比較し,年齢と経験レベルが高ま るほど潜在的なハザードに注意を向けることが増加 するとともに,横断中に起こり得る事態を予期する 能力が高まることを示した。年齢の上昇に伴う認断 能力の発達は,事故による死傷者数の減少に寄与す るであろう。一方,年齢が上がるほど横断歩道外横 断など道路での意図的な不安全行動が増えることも. Table 1 学年別および性別の事故死傷者数(平成 25年 4月~平成 30年 3月). 通行目的 性別 小 l 小 2 小 3 小 4 小 5 小 6 中 1 中 2 中 3 高 1 高 2 高 3 計. 歩 行 中. 通学中 男子 1,795 1,403 1,026 700 510 445 674 478 340 365 299 225 8,260 女子 891 788 603 450 414 293 654 561 397 627 567 426 6,671. 私用中 男子 2,925 2,679 1,994 1,332 983 742 566 454 382 363 356 373 13,149 女子 1,316 1,207 1,011 702 527 442 398 374 365 446 466 434 7,688. 計 6,927 6,077 4,634 3,184 2,434 1,922 2,292 1,867 1,484 1,801 1,688 1,458 35,768. 自 転 車 運 転 中. 通学中 男子 8 13 35 82 81 91 2,839 2,090 1,578 10,035 7,537 5,189 29,578 女子 5 7 7 30 31 54 1,921 l,682 1,313 8,640 6,642 4,800 25,132. 私用中 男子 2,102 3,016 4,128 4,393 4,176 4,115 4,694 4,366 4,257 5,496 4,532 4,057 49,332 女子 766 1,141 1,519 1,644 1,657 1,519 1,810 1,823 1,831 4,160 3,589 3,126 24,585. 計 2,881 4,177 5,689 6,149 5,945 5,779 11,264 9,961 8,979 28,331 22,300 17,172 128,627. 注. 通学中とは,登校・下校のことを指す。私用中とは,登校・下校・学業中以外で,訪問・買い物・遊戯・観光・ 娯楽・通院・業務・通勤などを指す。スケードボード等の遊戯機や車椅子を使用中の場合,自転車に同乗中の 場合は含まれない。. Table 2 学年別および性別の児童・生徒数(平成 25年度~平成 29年度ののべ人数). 小 l 小 2 小 3 小 4 小 5 小 6. 男子 2,784,295 2,779,776 2,794,529 2,815,177 2,841,350 2,884,009 女子 2,645,091 2,643,015 2,658,660 2,677,573 2,704,070 2,743,371. 中 1 中 2 中 3 高 1 高 2 高 3. 男子 2,945,333 2,990,226 3,031,549 2,880,483 2,809,191 2,745,637 女子 2,800,486 2,842,073 2,882,627 2,769,528 2,723,362 2,667,152. 注.文部科学省(2017)の学校基本調査に基づき集計。. 15. 矢野・森 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係. 報告されている(金・上林・ 三輪,2004 ; Wang, Tan, Schwebel, Shi, & Miao, 2018)。一見矛盾する知 見であるが,Wangらは,年長の子どもはすでに十 分発達した歩行者安全スキルを持っているが,安全 行動を効率的に行っているのではないかと指摘して いる。 性差については,通学中,私用中のいずれにおい. ても,事故死傷者数は,小学生の間は男子のほうが 多かったが,高校生では逆に女子のほうが多かった。 斉藤(1997)は,小学生男子は道路でよく走ること を指摘しているが,このような児童・生徒期におけ る行動傾向の性差や,通学時や私用時の移動手段の 性差が,以上のような結果に関連している可能性が 考えられる。性差の影響を考慮すると,この時期の 子どもの事故を分析するにあたっては男女を分ける ことが望ましいと思われる。. Fig. 3の通学中では,進学効果がみられた後,学. 年が上がるほど事故死傷者数が減少した。すなわち, Fig. 1の本研究の作業仮説の矢印 ③ と ④ が確認さ れた。作業仮説に沿って解釈すれば,進学によって 通学環境が変化し,不慣れな道路を通行するように なって事故が増加した後,繰り返し同じ通学経路を 通行することで道路環境に対する学習が進み不慣れ が次第に解消したことや,前述のような認知能力の 発達の影響で,事故が減少したことが推察される。 一方,Fig. 4の私用中では,進学効果がみられたのは, 中 3から高 1にかけて女子のみであり,しかも,そ の後学年が上がっても事故死傷者数に減少傾向はみ られなかった。すなわち,中 3から高 1にかけての 女子のみ作業仮説の矢印 ③ が確認され,矢印 ④ は 確認されなかった。私用中におけるこのような結果 の理由は本研究のデータでは明らかにならない。小 6から中 1にかけては,私生活面での社会的・生活 的環境や行動範囲がそれほど変化しないことや,高. Fig. 3 児童・生徒 10万人当たりの歩行中・通学中の事故死傷者数(平成 25年 4月~平成 30年 3月) 注.ゴシック文字の斜体は女子の値. Fig. 4 児童・生徒 10万人当たりの歩行中・私用中の事故死傷者数(平成 25年 4月~平成 30年 3月) 注.ゴシック文字の斜体は女子の値. 16. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. 校男子では私用では自転車の使用頻度が高いといっ たことがあるかもしれないが,ここでは推測の域を 出ない。この点を検討するためには,日常生活にお けるトリップに関する行動データが必要である。. 自転車運転中の事故死傷者数. 1. 分析結果. Fig. 5と Fig. 6はそれぞれ,自転車運転中・通学 中と自転車運転中・私用中の事故死傷者数を学年別 および性別に示したものである。小 1から中 3まで は,中 1の女子を除き,事故死傷者数は通学中より 私用中のほうが多かったが,高 1以降では逆に通学 中のほうが多かった。また,通学中,私用中のいず れにおいても,男子の事故死傷者数は一貫して女子 を上回った。 通学中の事故死傷者数 もともと小学生の自転車. 通学自体が極めて少ないためか,Fig. 5の通学中で は,小学生の事故死傷者数は極めて少なかった。し かし,中学生以降では,歩行中よりはるかに死傷者 数が多かった(Table 1,Fig. 3参照)。 進学効果について検討すると,男女ともに,小 6. から中 1にかけてと中 3から高 1にかけて,事故死 傷者数が不連続的に,しかも大幅に増加する明瞭な 進学効果がみられ,いずれもいったん増加した後, 学年が上がるにしたがい減少した。 私用中の事故死傷者数 Fig. 6の私用中では,事 故死傷者数は,全体的にみれば,Fig. 4の歩行中と は逆に,小 1より学年が上がるほど増加し,高 3ま で高水準が保たれた。小学生では,男女ともに,事 故死傷者数のピークは小 4で,その後小 6まで若干 減少した。一貫して男子の死傷者数が女子を上回っ たが,小 1から中 3までは,男子が女子より 2倍以 上も多く,高 1以降では差が縮小した。. Fig. 6 児童・生徒 10万人当たりの自転車運転中・私用中の事故死傷者数(平成 25年 4月~平成 30年 3月) 注.ゴシック文字の斜体は女子の値. Fig. 5 児童・生徒 10万人当たりの自転車運転中・通学中の事故死傷者数(平成 25年 4月~平成 30年 3月) 注.ゴシック文字の斜体は女子の値. 17. 矢野・森 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係. 進学効果について検討すると,男女ともに,小 6 から中 1にかけてと中 3から高 1にかけて,事故死 傷者数が不連続的に増加する進学効果がみられ,特 に後者の効果のほうがより大きく,いずれもいった ん増加した後,学年が上がるにしたがい減少した。 2.考察. Fig. 6の私用中で,男女ともに小 1から小 4にか けて事故死傷者数が増加したが,これには,この時 期における自転車の乗り方の習得と使用頻度の増加 が影響していると考えられる。小 4でピークに達し た後,小 6まで死傷者数が若干減少するのは,認知 能力の発達や自転車運転スキルの上達によるもので あろう。しかし,全体的にみれば,死傷者数は小 4 から高 3まで高水準で保たれており,Fig. 4の歩行 中の場合との相違は顕著である。その理由として, 自転車の使用頻度が中学生以降も増加し続けること や危険行動が増加することが推察される。宇佐美・ 元田(2009)は,小学生~高校生に対する自転車の 安全利用についての意識調査により,学年が上がる につれて交通ルールを守らなければならないという 意識が減り,交通法規に反する危険な行動が増加す ることを明らかにした。歩行中でも年齢が上がるほ ど不安全行動が増えることが報告されているが(金 ら,2004 ; Wang et al., 2018),自転車運転中の不安 全行動のほうが事故に結びつきやすいのかもしれな い。 性差については,特に私用中で表れており,小 1. から中 3まで,男子のほうが女子より 2倍以上も事 故死傷者数が多かった。これには,自転車の使用頻 度の性差や,男子のほうが高速運転が多い(斉藤, 1997)など,より危険な行動が多いことなどが関連 していると推察される。そして,高 1以降,女子の 事故死傷者数が急増して性差が縮小した。この急増 の理由は明らかでない。 進学効果は,通学中,私用中のいずれにおいても,. 男女ともに確認され,進学効果の後,学年が上がる ほど事故死傷者数は減少した。すなわち,Fig. 1の 本研究の作業仮説の矢印 ③ と ④ が確認された。特 に中 3から高 1にかけての進学効果がかなり大き かった。作業仮説に沿って解釈すれば,自転車通学 の急増など通学環境の変化や,交友関係やアルバイ ト就労など私生活面における社会的・生活的環境の. 変化による自転車を利用した行動の範囲の拡大・変 化が,高校進学を機に多く発生することが背景理由 として推察される。また,進学効果の後の減少傾向 についても作業仮説に沿って解釈すれば,道路環境 に対する学習による不慣れの解消や認知能力の発達 の影響が推察される。道路環境に対する学習は,ほ ぼ毎日一定の経路を繰り返し通行する通学道路だけ でなく,通学道路よりは一定性・固定性が低いと思 われる私用で利用される道路においても,一定程度 生じ得ると考えられる。 ただし,それらの影響によって自転車運転中の事 故死傷者数が減少するとしても,歩行中に比べれば はるかに高い水準であることは前の「事故死傷者数 とのべ児童・生徒数」の章で言及した通りである。 Table 1をみると,小 3以降は自転車運転中のほう が一貫して多い。また,進学効果は,歩行中よりも 自転車運転中のほうが大きく明確にみられた。した がって,児童・生徒を対象とした交通安全教育では, 小学生の初期の段階を除き,自転車利用時を想定し たもの,特に,進学直後の中 1と高 1を対象にした ものが重要と思われる。. 月別事故死傷者数の年度内変化. 1. 分析の考え方. 進学効果の後,学年が上がるほど事故死傷者数が 減少する傾向の原因として,Fig. 1の本研究の作業 仮説では,道路環境に対する学習による不慣れの解 消と認知能力等の発達的変化を仮定している(矢印 ⑤)。このうち,道路環境に対する学習は,より速 く進むと思われる。すなわち,1年生の 1年間のう ちにも学習はある程度進み,年度の前半よりも後半 のほうが不慣れの解消が進んでいると思われる。も しそうであれば,1年生と,道路環境に対する不慣 れの解消が進んだと考えられる 2年生の事故死傷者 数を比較すると,年度の前半ほど 1年生のほうが多 くて差が大きく,後半になるほど差が小さくなる(1 年生のほうが少ないことも含む)と予想される。た だ,実際の事故死傷者数は,長期休暇など季節的要 因による変動の影響を受けやすいので,ここでは両 者の比で検討することとした。つまり,1年生の 10 万人当たり事故死傷者数を 2年生のその値で除した. 18. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. 下傾向となり,3月には 1を下回った。Fig. 8をみ ると,年度最初の 4月は男女ともに 1を下回ったが, 男子では,1~3月の比は 5~10月の水準を下回り, 女子でも,年度後半の比の水準は 5~6月より低く, 3月は 1を下回った。 自転車運転中の月別事故死傷者数の比 Fig. 5お よび Fig. 6の自転車運転中の事故死傷者数について は,通学中,私用中のいずれにおいても,男女とも に,進学効果とその後の減少がみられた。. Fig. 9~Fig. 12は,Fig. 7や Fig. 8と同様に,中 1 と中 2の比や高 1と高 2の比を,年度最初の 4月か ら年度末の 3月まで月別に示したものである。4つ の図にほぼ共通するパターンとして,男女ともに, 比は,4月は多くの場合低いものの,5月以降に増 加して年度前半では 1より大きく,後半では減少し て 1に近づくか 1を下回る傾向がみられた。. 比は,年度の前半では 1より大きく,後半では 1に 近づくか 1を下回る,と予想される。 本章ではこの点について分析を行った。なお,進. 学効果がみられ,かつ,中学生あるいは高校生の間 は学年が上がるほど事故死傷者数が減少した場合だ けを分析した。 2. 分析結果. 歩行中の月別事故死傷者数の比 Fig. 3および Fig. 4の歩行中の事故死傷者数について,進学効果 とその後の減少がみられたのは,通学中のみであっ た。. Fig. 7は,中 1と中 2の歩行中・通学中の事故死 傷者数の比を,Fig. 8は同様に,高 1と高 2の比を, 年度最初の 4月から年度末の 3月まで月別に示した ものである。Fig. 7をみると,男子では,年度の後 半で比が低下して 1に近づくような傾向は確認でき なかった。これに対し,女子では,9月以降比が低. Fig. 8 高 1と高 2の歩行中・通学中の事故死傷者数の 比. 注.高 1の児童・生徒 10万人当たり死傷者数 を高 2のそれで除した値。. Fig. 7 中 1と中 2の歩行中・通学中の事故死傷者数の 比. 注.中 1の児童・生徒 10万人当たり死傷者数 を中 2のそれで除した値。. Fig. 10 高 1と高 2の自転車運転中・通学中の事故死 傷者数の比. 注.高 1の児童・生徒 10万人当たり死傷者数 を高 2のそれで除した値。. Fig. 9 中 1と中 2の自転車運転中・通学中の事故死傷 者数の比. 注.中 1の児童・生徒 10万人当たり死傷者数 を中 2のそれで除した値。. 19. 矢野・森 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係. 3. 考察. 年度の後半から終盤にかけて,1年生と 2年生の 事故死傷者数の相対的な差が縮小する場合が多く, 前述の予想とほぼ合致した。道路環境に対する学習 により,年度の後半のほうが不慣れの解消が進んで いると解釈できるが,もちろん認知能力の発達の影 響も多少はあるかもしれない。 本章で検討した Fig. 7~Fig. 12の 6つの図をみる と,1年生と 2年生の比は,年度最初の 4月は小さく, 5月以降に増加するパターンが多いことに気づく。 すなわち,中 1や高 1の 4月は事故死傷者数が比較 的少ない傾向があるように見受けられる。4月初め から 5月末まで週単位で,高 1と高 2の通学中と私 用中を合わせた自転車運転中の事故死傷者数を比較 したデータによると(道路交通研究会,2017),4 月初旬は高 1のほうが少なかったが,その後増加し. 続けて,4月第 3週以降は高 2よりも多くなった。 この理由として,進学直後の 4月初旬は,新生活の 緊張感などの影響でかえって事故が少ないのではな いかと考えられている(道路交通研究会,2017)。 本研究の結果のように,中学生と高校生のいずれに おいても,通学中,私用中ともに,4月の 1年生と 2年生の比が小さい場合が多かったのは,これと同 じ現象かもしれない。すなわち,進学効果をミクロ にみると,4月初旬はあまり表れていないが,4月 後半から徐々に表れ,5月以降にさらに大きく表れ る,と考えられる。もしそうであれば,進学効果が 表れる直前の 4月初旬は,1年生に対する通学中や 私用中の事故防止のための安全教育を行うタイミン グとして重要といえよう(道路交通研究会,2017)。. 自宅と事故発生地点の距離と学年の関係. 1. 分析の考え方. Fig. 1の本研究の作業仮説では,進学に伴う通学 環境や社会的・生活的環境の変化により,行動範囲 が急に拡大・変化することを仮定している(矢印 ①)。もし,進学効果に行動範囲の急な拡大が関わっ ているとすれば,進学後に,事故発生地点の自宅か らの距離が不連続的に,飛躍するように増加するこ とが予想される。 そこで本章では,自宅と事故発生地点の距離と学 年との関係について分析を行った。本章の分析は, 作業仮説の矢印 ① に関連する分析として行われる。 分析においては,各学年の事故死傷者に占める,自 宅から 1 kmよりも離れた地点で事故に遭った死傷 者の割合を指標とすることにした。なお,ここでの 自宅と事故発生地点の距離とは道路に沿っての距離 を指し,不明である場合は分析から除外した。 2. 分析結果. 通学中における自宅と事故発生地点の距離 自宅 から 1 kmよりも離れた地点で事故に遭った死傷者 の割合について,歩行中・通学中の場合を Fig. 13に, 自転車運転中・通学中の場合を Fig. 14に示す。 Fig. 14で,小 1~小 6は,母数となる自転車運転中・ 通学中の事故死傷者数が極めて少なかったため (Table 1),ここでは分析を行わなかった。 通学中の場合,自宅から 1 kmよりも離れた地点. Fig. 11 中 1と中 2の自転車運転中・私用中の事故死 傷者数の比. 注.中 1の児童・生徒 10万人当たり死傷者数 を中 2のそれで除した値。. Fig. 12 高 1と高 2の自転車運転中・私用中の事故死 傷者数の比. 注.高 1の児童・生徒 10万人当たり死傷者数 を高 2のそれで除した値。. 20. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. で事故に遭った死傷者の割合と学年の関係は,歩行 中と自転車運転中とでほとんど同じ傾向であった。 同割合は,男女ともに,小学生,中学生,高校生そ れぞれの中ではあまり変化がなく,進学のたびに不 連続的に階段状に増加した。 私用中における自宅と事故発生地点の距離 Fig. 13や Fig. 14と同様に,歩行中・私用中の場合を Fig. 15に,自転車運転中・私用中の場合を Fig. 16 に示す。 私用中の場合も,自宅から 1 kmよりも離れた地. 点で事故に遭った死傷者の割合と学年の関係は,歩 行中と自転車運転中とでほとんど同じ傾向であっ た。すなわち,同割合は,男女ともに,小学生の間 は学年が上がるほど増加し,その後,女子の歩行中・ 私用中の小 6から中 1にかけてを除き,進学のたび に不連続的に,飛躍するように増加した。なお, Fig. 4より,歩行中・私用中の小 6から中 1にかけ ては,もともと男女ともに進学効果がみられていな かった。. 3. 考察. 自宅から 1 kmよりも離れた地点で事故に遭った 死傷者の割合が,進学のたびに不連続的に,飛躍す るように増加した,という結果は,前述の予想と合 致する。この結果から,進学を機に,通学において も私生活においても,行動範囲が急に拡大する可能 性が示唆される。ただし,自宅からの距離の構成率 の分析結果だけでは厳密には不十分であり,行動範 囲は変わらないまま,何らかの理由で自宅に近い地 点での事故が減少しただけという可能性も否定でき ないことに留意する必要がある。この点の正確な検 証には,日常生活におけるトリップに関する行動 データが必要になる。. Fig. 13の歩行中・通学中の場合,中 3から高 1 にかけて,1 km超の死傷者の割合が特に大きく増 加している。高校生では,鉄道やバスを利用する通 学も多く,その場合は歩行中の事故であっても,自 宅から遠い地点である場合も多いであろう。進学に 伴って自宅から遠い地点での交通行動が急に増えれ. Fig. 13 自宅と事故発生地点の距離が 1 kmを超える死 傷者の割合(歩行中・通学中). Fig. 14 自宅と事故発生地点の距離が 1 kmを超える死 傷者の割合(自転車運転中・通学中). Fig. 15 自宅と事故発生地点の距離が 1 kmを超える死 傷者の割合(歩行中・私用中). Fig. 16 自宅と事故発生地点の距離が 1 kmを超える死 傷者の割合(自転車運転中・私用中). 21. 矢野・森 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係. ば,新規で不慣れな道路を通行することも急に増加 すると考えられる。. 事故発生時刻と学年の関係. 1. 分析の考え方. Fig. 1の本研究の作業仮説では,「行動範囲の急 な拡大・変化」は,空間的なものだけでなく時間的 なものも指している。そして,進学に伴って,クラ ブ活動,塾・予備校通い,アルバイト,交友など, 社会的・生活的環境の変化が起こり,行動時間がよ り遅い方向にシフトすることを仮定している(矢印 ①)。そうなれば,より遅い時刻に事故に遭うこと が急に増加すると予想される。 そこで本章では,事故発生時刻と学年の関係につ. いて分析を行った。本章の分析は,作業仮説の矢印 ① に関連する分析として行われる。分析において は,各学年の事故死傷者に占める,18時以降と 21 時以降に事故に遭った死傷者の割合を指標とするこ. とにした。 2. 分析結果. 通学中における事故発生時刻 事故発生時刻が 18時~翌 5時の時間帯内であった死傷者の割合に ついて,歩行中・通学中の場合を Fig. 17に,自転 車運転中・通学中の場合を Fig. 18に示す。Fig. 18で, 小 1~小 6は,母数となる自転車運転中・通学中の 事故死傷者数が極めて少なかったため(Table 1), ここでは分析を行わなかった。 歩行中では,18時以降の死傷者割合が,男女と もに,進学のたびに不連続的に階段状に増加した。 一方,自転車運転中では,中 3から高 1にかけて, 男女ともに,不連続的な増加が認められるがその幅 は歩行中よりずっと小さく,高 1以降,学年が上が るほど減少した。. Fig. 17と Fig. 18の指標の基準を変更し,21時以 降に事故に遭った死傷者の割合で示したものがそれ ぞれ Fig. 19と Fig. 20である。Fig. 19の歩行中・通 学中のグラフの形を Fig. 17と比べると,中 1以降,. Fig. 17 事故発生時刻が 18~翌 5時である死傷者の割 合(歩行中・通学中). Fig. 18 事故発生時刻が 18~翌 5時である死傷者の割 合(自転車運転中・通学中). Fig. 19 事故発生時刻が 21~翌 5時である死傷者の割 合(歩行中・通学中). Fig. 20 事故発生時刻が 21~翌 5時である死傷者の割 合(自転車運転中・通学中). 22. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. 学年が上がるほど割合が増加する傾向があるように みえる。また,Fig. 20の自転車運転中・通学中の グラフの形を Fig. 18と比べると,高 1以降,学年 が上がっても割合は減少せず,横ばいか微増の傾向 にみえる。 私用中における事故発生時刻 事故発生時刻が 18時~翌 5時の時間帯内であった死傷者の割合に ついて,歩行中・私用中の場合を Fig. 21に,自転 車運転中・私用中の場合を Fig. 22に示す。 歩行中と自転車運転中のどちらにおいても,18. 時以降に事故に遭った死傷者の割合は,男女ともに, 小学生の間は徐々に増加し,小 6から中 1にかけて は不連続的に,飛躍するように増加した。なお, Fig. 4より,歩行中・私用中の小 6から中 1にかけ ては,男女ともに進学効果がみられていなかった。 中 3から高 1にかけては,割合の不連続な増加は認 められなかった。Fig. 22の自転車運転中・私用中 のグラフでは,高校進学後,割合はほとんど変化が なく,しかも中 2~中 3の水準を下回った。. Fig. 21と Fig. 22の指標の基準を変更し,21時以 降に事故に遭った死傷者の割合で示したものがそれ ぞれ Fig. 23と Fig. 24である。Fig. 23の歩行中・私 用中のグラフの形を Fig. 21と比べると,高 1以降 の割合の増加傾向がより明瞭であるようにみえる。 また,Fig. 24の自転車運転中・私用中のグラフの 形を Fig. 22と比べると,中 1から高 3まで連続的 に増加する傾向があるようにみえる。 3. 考察. 私用中の中 3から高 1にかけてを除き,18時以 降の死傷者の割合は,進学後に不連続的な増加を示 した。前述の予想とほぼ合致し,進学を機に,時間 的な行動範囲がより遅い時間帯へ急拡大したことに よるものではないかと推察される。また,21時以 降の死傷者の割合を指標にすると,中 1以降,学年 が上がるほど割合が増加する傾向が示唆された。中 1以降は,特に進学自体と関連しなくとも,学年が 上がるほど時間的な行動範囲が遅くなっていく傾向 があるように推察される。同じ道路でも,通行する. Fig. 21 事故発生時刻が 18~翌 5時である死傷者の割 合(歩行中・私用中). Fig. 22 事故発生時刻が 18~翌 5時である死傷者の割 合(自転車運転中・私用中). Fig. 23 事故発生時刻が 21~翌 5時である死傷者の割 合(歩行中・私用中). Fig. 24 事故発生時刻が 21~翌 5時である死傷者の割 合(自転車運転中・私用中). 23. 矢野・森 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係. 時間が変化する,特に夜間に通行することが多くな るとすれば,それは新規で不慣れな道路環境といえ よう。なお,ここでも,事故発生時刻の構成率の分 析結果だけでは厳密には不十分であり,正確な検証 には,日常生活のトリップに関する行動データが必 要である。. 追加の考察. Table 3は,進学効果の有無について整理したも の,Table 4は,進学効果の後,学年が上がるほど 事故死傷者数が減少する傾向の有無について整理し たもの,Table 5は,進学効果があり,1年生と 2年 生の事故死傷者数の比が年度前半で大きく後半で小 さい傾向の有無について整理したものである。 1. 進学効果について. Fig. 1の本研究の作業仮説の矢印 ③,すなわち進 学効果について,歩行中・私用中の小 6から中 1に かけてと男子の中 3から高 1にかけてを除き,合致 する結果が得られた(Table 3の○の箇所)。本研究 のような事故データの分析では直接的には検証でき ないが,進学効果には,作業仮説で仮定されたよう な,進学に伴うさまざまな環境の変化が関わってい ると考えられる。一部に進学効果がみられなかった 場合があるが,その理由は不明である。その場合で は,進学効果をもたらすほどの環境変化が少ないこ とや,環境変化があっても事故死傷者数の不連続的 で飛躍的な増加という形では表れなくなるような他 の要因の関与などが考えられるが,本研究のデータ では明らかにならない。今後に残された研究課題の 一つは,作業仮説の矢印 ① や ② で示したような関 係やそれに関与する未知の要因について,日常生活 のトリップに関する行動データに基づいて検証する ことであろう。パーソントリップ調査(国土交通省, 2019)や社会生活基本調査(総務省統計局,2017) など,既存のデータは汎用的で大まかなものが多い。 交通事故実態をもとに設定した仮説の検証を念頭に 置いたより詳細な行動データの収集と分析が必要で ある。山口(2018)は,就学直前の 3月,小 1の 9月, 小 2の 8月の 3回にわけて行動範囲を計測する調査 を行い,就学後に行動範囲が著しく広がることを報 告したが,こういったデータがより幅広い対象と項. 目で求められる。 2. 進学効果の後の事故死傷者数の減少について. 本研究の作業仮説の矢印 ④,すなわち進学効果 の後の事故死傷者数の減少について,歩行中・私用 中の場合を除き,合致する結果が得られた(Table 4 および Table 5の○の箇所)。本研究の事故データで は,その背景要因すなわち作業仮説の矢印⑤につい て検証することは困難であり,本研究では推測の域 を出ない。進学効果が,作業仮説で仮定されたよう に,進学に伴って新規で不慣れな道路環境を通行す る機会が急に増加することによるものであるとすれ ば,道路環境に対する学習や認知能力の発達等によ る通行スキルの上達によって事故死傷者が次第に減. Table 3 進学効果の有無についての整理. 歩行中 自転車運転中 通学中 私用中 通学中 私用中. 小 6→中 1 男子 〇 × 〇 〇 女子 〇 × 〇 〇. 中 3→高 1 男子 〇 × 〇 〇 女子 〇 〇 〇 〇. 注.〇は進学効果あり,×はなし。. Table 4 進学効果の後,学年が上がるほど事故死傷者 数が減少する傾向の有無についての整理. 歩行中 自転車運転中 通学中 私用中 通学中 私用中. 中学生 男子 〇 - 〇 〇 女子 〇 - 〇 〇. 高校生 男子 〇 - 〇 〇 女子 〇 × 〇 〇. 注. -は Table 3で×がつけられたもの,〇は減少傾向 あり,×は減少傾向なし。. Table 5 進学効果があり, 1年生と 2年生の事故死傷 者数の比が年度前半で大きく後半で小さい傾 向の有無についての整理. 歩行中 自転車運転中 通学中 私用中 通学中 私用中. 中学生 男子 × - 〇 〇 女子 〇 - 〇 〇. 高校生 男子 〇 - 〇 〇 女子 〇 - 〇 〇. 注. 1年生と 2年生の事故死傷者数の比とは, 1年生 の事故死傷者数を 2年生のそれで除した値。-は Table 4で-や×が付けられたもの, 〇は年度前半 で大きく後半で小さい傾向あり, ×はその傾向な し。. 24. 交通心理学研究 35巻 1号 2019年. 少に向かうことが予想され,実際,本研究ではその ような傾向の結果が得られている。学習と認知能力 の発達は相互に密接に関連するものと思われるが, それらが進学効果とともに,児童・生徒期の子ども の交通事故の様相に影響を与えると考えられる。 3. 学年と事故死傷者数の関係を分析する方法につ. いて. 本研究では,前の「方法」の章で記述したように, 学年と事故死傷者数の関係を分析する上で,平成 25 年 4月~平成 30年 3月の期間で小 1~高 3の全 対象学年のデータを集計する,いわば横断的な分析 方法を採用した。これに対し,例えば,平成 12年 4月に小学校に入学した者,平成 13年 4月に小学 校に入学した者,平成 14年 4月に小学校に入学し た者……,のように,特定のコーホートの小 1から 高 3までの事故死傷者数の推移を経時的にみてい く,というような縦断的な分析方法も考えられる。 この方法も研究の一つのやり方として十分に成立す るものである。ただ,この方法の場合,本研究のよ うな課題であれば,小 1から高 3まで 12年間に及 ぶことになる。この間,交通安全施設のストックは 基本的に増え続け,その点では物理的な道路環境は ますます良くなっていくと考えられるので,どの コーホートでも学年が上がるほど道路環境が良いこ とになる。加えて,ある時点で法制度が変更された り,交通安全活動の取り組みが新規に開始されたり ということも少なくない。また,交通事故全体の経 年変化の趨勢の影響を受けることも考えられる。こ のように,縦断的な分析方法では,児童・生徒の発 達や学年以外の,時間とともに変化する要因の影響 が混入する可能性があり,それを回避するなら横断 的な分析方法が望ましいと思われる。 また,学年と事故死傷者数の関係は,通行方法(歩. 行/自転車)や通行目的(通学/私用),性別によっ て多かれ少なかれ異なることが本研究の結果で明ら かとなった。例えば,両者の関係を示すグラフは, 歩行中と自転車運転中とで,量や形状の点でまった く異なった。また,歩行中の事故死傷者数は,小学 生では男子が女子よりはるかに多いが,高校生では 逆に女子が男子を上回るなど,学年により男女比が 大きく異なった。児童・生徒期の交通事故の様相を より良く把握するためには,通行方法,通行目的,. 性別で分けて分析するのが望ましいと考えられる。. 結 語. 交通事故には多様な要因が関わっていることは疑 いない。事故データの分析結果として表される交通 事故の様相は,多様な要因の重層的な影響の結果と 考えられる。したがって,本研究の作業仮説で取り あげた諸項目・諸概念によって,事故死傷者数の変 化を含め児童・生徒期の交通事故の様相がすべて説 明できるわけではもちろんない。また,本研究では, 事故データによって進学効果の現象面を検証した が,進学効果の背景要因については推測に留まって いる。それは事故データでは明らかにならず,行動 データの蓄積を待つ必要がある。しかし,本研究で は,学年と事故死傷者数の関係の観点から児童・生 徒期の交通事故の様相を概観するデータが得られ た。このようなデータは,児童・生徒のための交通 安全教育や道路環境整備を検討する上で重要な基礎 になると思われる。. 文 献. 道路交通研究会 (2017).交通警察の基礎知識 共有して おきたい小学 1年生の歩行者事故の実態.月刊交通, 48(11),76-81.. 交通事故総合分析センター (2016).子供の歩行中の事故. イタルダ・インフォメーション,116.. 交通事故総合分析センター (2017).小学一年生が登下校 中に遭った死傷事故 ~登下校中の交通事故ゼロを 目指して~.イタルダ・インフォメーション,121.. 樋口恵一・小早川悟・稲垣具志 (2014).通学路における 児童の交通事故発生状況の分析─千葉県船橋市・松 戸市・市川市を対象として─.第 34回交通工学研究 発表会論文集,89-92.. 日野泰雄 (2017).自転車事故からみた交通安全教育の視 点と課題.交通科学,48(2),3-7.. 本田正英 (2015).子供の交通事故分析(5)自転車運転中 の事故(1)~子供の自転車事故の特徴~.月刊交通, 46(10),65-69.. 稲垣具志・小早川悟・寺内義典・和田大輔 (2017).車両 認知条件に着目した子どもの道路横断判断特性に関 する研究.交通工学論文集,3(2),A_215-A_222.. 金應周・上林研二・三輪泰司 (2004).小学校児童の通学 路における社会的行動に関する考察 … 歩行空間の 設計手法に関する基礎的研究 ….日本都市計画学会 都市計画報告集,3,63-70.. 国土交通省 (2019).パーソントリップ調査.国土交通省. 25. 矢野・森 児童・生徒の学年と歩行中および自転車運転中の交通事故死傷者数の関係. 都市局都市計画課都市計画調査室,https://www.mlit. go.jp/toshi/tosiko/toshi_tosiko_tk_000031.html, (閲覧日 2019年 8月 14日). 小竹雄介・日野泰雄・吉田長裕・春藤千之 (2010).自転 車利用に伴う交通事故防止のための学校教育の実態 と課題.第 30回交通工学研究発表会論文集,137- 140.. 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図

Fig. 9 〜 Fig. 12 は, Fig. 7 や Fig. 8 と同様に,中 1 と中 2 の比や高 1 と高 2 の比を,年度最初の 4 月か ら年度末の 3 月まで月別に示したものである。 4 つ の図にほぼ共通するパターンとして,男女ともに, 比は, 4 月は多くの場合低いものの, 5 月以降に増 加して年度前半では 1 より大きく,後半では減少し て 1 に近づくか 1 を下回る傾向がみられた。比は,年度の前半では1より大きく,後半では1に近づくか1を下回る,と予想される。本章ではこの点につ

参照

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