博 士 ( 理 学 ) 川 崎 郁 斗
学位論文題名
h/Iagnetic Clustering and Non ― Fermi − Liquid Behavior AccompanylngSuppreSS10nof
LOng ― RangeFerronlagnetiCOrderinCePt1 一 Rh エ (CePtl ―xRhx における強磁性長距離秩序の抑制に伴う
磁気ク ラスター形成と 非フェルミ液体異常)
学 位 論 文 内 容 の 要旨
研究背景
金属 中の 電子 は 低温 にお いて フェ ル ミ統計の強い 支配をうけ、多くの場合、 物理量が相互作用 の ない フェ ルミ 気 体と 同様 の温 度依 存 性を示すこと が知られている。この状態 はブェルミ液体と よ ばれ 、ラ ッテ ィ ンジ ャー の定 理に よ れば、フェル ミ気体から相転移すること なく連続的に電子 間の相互作用 を導入できる限り、相互作 用の強さに関わらず実現する 。
しか し、1991年 にY1‑xUxPd3にお いて 相転 移 のな い常 磁性 金属 であるにもか かわらず、低温で フ ェル ミ液 体論 の 予想 に従 わな い「 非 フェルミ液体 異常」が観測され、それ以 来、多くの系で同 様 の非 フェ ルミ 液 体異 常の 報告 がな さ れている。そ の起源をめぐって現在まで 精力的な研究が行 わ れ、 多重 チャ ン ネル 近藤 モデ ルを 含 む様々なモデ ルが提案されているが、統 一的な理解には至 っ てい ない 。非 フ ェル ミ液 体異 常を 示 す多くの系は 磁気秩序が消失する磁気的 量子臨界点の近傍 に ある こと が知 ら れて いる 。こ のこ と から、量子相 転移に伴う量子ゆらぎが非 フェルミ液体異常 の 起源 の有 カな 候 補の ーっ と考 えら れ ている。量子 相転移とは絶対零度におい て、温度以外のパ ラ メー タを 変化 さ せる こと によ って 起 きる相転移と して定義され、量子相転移 点近傍では量子ゆ ら ぎが 系の 性質 を 支配 する ため に、 熱 ゆらぎが重要 となる古典的な相転移とは 本質的に異なる物 性が期待され る。
f電子 系 化合 物は 、比 較 的低 温卜10K)で反強磁性 秩序を示す物質が多い。そ のため、反強磁性
―非磁性の量 子相転移に関する実験の報 告は多くある。一方、強磁性 ―非磁性の量子相転移に関す る 研 究 は 非 常 に 少 な く 、現 在ま でCePtの圧 力実 験や 置 換系URhl‑xRUxGe等の 数例 の 報告 しか な い 現状 にあ る。 強 磁性 量子 臨界 点で は その特徴とし て以下に述べる性質を持ち 、反強磁性の量子 臨 界点 とは 異な る ダイ ナミ クス が期 待 され 興味 深い 。(1) q‑ニOの相転移であ るために、秩序変 数が保存量で ある。(2)動的臨界係数凪が3であり、反強磁性体(凪二二二2)とは異なる。(3)量子臨 界 点 近 傍 の 非 フ ェ ル ミ 液体 異常 を 記述 する 代表 的な 理 論で あるSCR理論 で予 想さ れ る非 フェ ル ミ液体異常の 温度依存性が反強磁性の場 合とは異なる。
しか し、 強磁 性量子相 転移の特徴を議論する以前 にD. Belitzによる拡張され たランダウの自由 エ ネル ギー を用 い た議 論よ ると 、乱 れ のないクリー ンな系においては、強磁性 体特有の非解析項 の 影響 によ り量 子 臨界 点近 傍で は強 磁 性転移は必ず 一次転移になり、強磁性量 子臨界点は存在し な いこ とが 指摘 さ れて いる 。実 際、 臨 界点近傍で強 磁性転移が一次転移になる 振る舞いは遍歴強 磁 性体2r2n2、UGe2等で 観 測さ れて いる 。一 方 、系 に乱 れを 導入 することによ って、ー次転移の 発 現を 抑制 し連 続 的に 転移 点を 絶対 零 度に近づける ことが可能であることも理 論的に指摘されて い る。 以上 のこ と から 、強 磁性 を抑 制 した場合に、 量子相転移が存在しうるの かどうか、また、
強 磁性 消失 に伴 い 、ど うの よう な金 属 状態が現れる かを実験的に調べることは 、重要な問題であ る。
本 研 究 で は こ の 目 的 の た め にCe系 化 合 物 で は稀 な強 磁性 体 のー っで あるCePt(乃 =6K)と 同
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一 の 結晶構造 で磁気 秩序の ないCeRhに着目し 、混晶 系CePtl‑ yRhxにおける 強磁性 の消失 過程に 関 す る 研 究を 行 っ た 。
実験手法
試料はテトラアーク炉を用いたアーク溶解法で作成した多結晶試料CePtl‑xRhx(X=0,0.2,0.5, 0.6,0.65,0.7,0.75,0.8,0.83,0.9,1)を使用した。作成した試料はX線粉末回折およぴElectron Probe X‑ray Microanalysis (EPMA)で 評価 を 行 い 、マ イ ク ロ メー ト ル の スケ ー ル でPtとRhが 均一になっていることを確認した。
物 性 測 定 はSuperconducting Quantum Interference Device (SQUID)を用 い たdc磁 化 測 定
(2Kく ア く300圃 、 緩 和 法 に よ る 比 熱 測 定(0.3Kく ア く40圃 、Hartshorn Bridge回 路 を 用 い たac帯 磁率 測 定(0.3Kく ア く10K,2.6 Hzく の ぇガ く1113 Hz)、zero‑field cool(ZFC), field cool(FC)下 のdc磁 化 測定 (2Kく アく10め 、キャ パタン スフん ラデー 法を用い た極低 温下 (100 mK)までのdc磁化測定を行った。
実験 結果およ び議論
Rh置 換 に伴 い 強 磁 性転 移 に 伴 う比 熱 お よ びXacの ピ ー クが 連続的 に低温 にシフ トし、Rh濃度 Xe二二 ニ0.75近傍 で磁気 秩序が 消失する振る舞いが観測された。ただし、xc近傍では磁気転移に伴 う 比熱 の ピ ー クは 非 常 に ブロ ー ド であり 、置換 に伴う ランダム ネスの 存在を 示唆す る結果 とな っ た。 ま たRh置 換 に 伴 い、 ワ イ ス温 度が急 激に負 に増大 するこ と、お よび転移 点で見 積もら れ る 磁気 エ ン ト ロピ ー が 局 在電 子 で 期待さ れるRln2か ら大き く減少 する振 る舞い を観測 した。こ の 結 果 はRh置 換 に伴 っ てf電 子 と伝 導 電 子 間の 混 成 が 強く な っ て いる と 理 解 する こ と が でき る 。ま た 、xe近 傍 お よ びXe以 降 の組 成(0.75く ヱ く0.9)に おいて 、低温 領域で 比熱及 び、磁 化 率 の非 フ ェ ル ミ液 体 的 な 発散 を 観 測した 。観測 された 非フェル ミ液体 異常は 、磁化 は温度 のべ キ 則=Xo +ATa,比熱はC/Tニ?y‑Bln( T/To)でよく フイッ トする ことが できた 。これら の観測 され た 非フ ェ ル ミ 液体 異 常 は 強磁 性 の 量子ゆ らぎに 起因す るものと 考えら れるが 、その 温度依 存性 お よ びXe以 降 の 幅広 い 濃 度 領域 で 異 常 が観 測 さ れ る振 る 舞 い はSCR理 論 で は説 明 で き ない 。 我 々 は こ の振 る 舞 い の原 因 と し て、Pt‑Rh置換 に よ っ て生 じるdisorderがこの 系の臨 界現象 に 大き な 影 響 を及 ば し て いる 可 能 性を考 えた。 そして 、その影 響を調 べるた めにXe近 傍の磁 気 秩序 相をXacの 周波数 応答やFC,ZFCの測 定を用 いて詳 細に調べた。その結果、xニ=ニ0.5,0.6の 組 成に お いて 、磁気 転移に 伴うXacの ピーク の位置 韜よび 強度が 強く測 定周波数 に依存 するこ と を 観測 し た 。 通常 の 強 磁 性体 で は 、この ような 低い周 波数領域 でピー ク位置 が変化 するこ とは 考 えに く い 。 観測 さ れ た ピー ク 位 置の周 波数依 存性は スピング ラス系 やクラ スタ― グラス 系の ダ イ ナ ミ ク ス を 記 述 す る の に よ く 用 い ら れ る 現 象 論 的 なVogel‑Fulcher則 の ニ ニ a)oexp(‑易/緬 臼 ト7め でよ く フ イッ トする ことが でき、 その周 波数依 存性を 詳細に解 析した 結 果 、こ の 組 成 の磁 気 秩 序 相は 強 磁 性クラ スター がグラ ス状態に 凍結し たクラ スター グラス 相と して 理解でき ること がわか った。 ま・た 、非常 に盈に 近いx二 ニO.7の 組成で も、同様に朋cのピ ーク 位置の強 い周波 数依存 性が観 測され たが、 ヱ=O.5,O.6と 同様にvogel‐Fulcher則で胤し た 結果 、vogel・Fulcher温 度 が ほば0にな る こ と を確 認 し た。こ れは、 風近傍 では磁 気クラ ス タ ー間 の 相 関 はす で に 消 失し て ク ラスタ ーはほ ぼ孤立 状態であ り、こ の組成 はクラ スター グラ ス より も 超 常 磁性 体 と し て記 述 さ れ るこ と を 示 唆し て い る。 また、 ヱ冫O.5の組成 でZFC、FC の 測定 を 行 っ た結 果 、 磁 気点 移 転 近 傍で 明 確 な 分岐 を 観 測しZFC,FCと もに他 のクラ スターグ ラス 系のもの と振る 舞いが 酷似し ている ことを 確認し た。
結論
以上の 結果か ら、CePtl‑xRhxにおい ては置 換によ る乱れ が重要な 役割を 果たし 、磁気秩序の消 失する 濃度Xe― −0.75近傍 の磁性 状態は 単純な 強磁性 ではな く、強 磁性クラ スター がグラス状に 凍結し たクラ スター グラス相 として 記述さ れるこ とがわ かった 。また 、Xeに近 くなるに従って、
磁気ク ラスタ ーは希 薄になル クラス ター間 の相関 もなく なり、 超常磁 性体的 に振る舞 うことが明 らか に な っ た。 こ の こ とは 、 磁 気 秩序 が 消 失 するXe近 傍で は 磁 気転移 はもはや2次転移 ではな く、さ らにXeの ごく近 傍の組 成&=0.7)においては有限温度にねける熱力学的な相転移の存在す ら不明 瞭であ るとい うことを 示唆し ている 。これ らのこ とからCePt1.xRhxにおいては強い乱れの ため に 、 強 磁性 転 移 が2次 転 移の ま ま 乃 →0とな り 強 磁 性量 子 臨 界 点に 至 る と いう 従 来 の描像
とは大きく異なっているということがわかった。これらの振る舞いが強磁性量子臨界点近傍に乱 れを導入した場合の普遍的な振る舞いであるのかは不明であるが、他の系も含む包括的な研究に よって検証を進めていく必要があると考えられる。また、今回Xe近傍において、超常磁体的な性 質が観測されたが、このことから置換によって誘起される反強磁性の量子臨界点近傍でも同様の 反強磁性的な磁気クラスターによる超常磁性的振る舞いが起こる可能性が考えられる。よって、
これらの系の臨界点近傍の磁性状態を詳細に調べ直すことも興味深い問題である。また観測され た非フェルミ液体異常は、孤立した強磁性クラスターの量子ゆらぎによるものであることが強く 示 唆され るが。現状では、これを記述できる理論モデルはなく、 将来の検討課題である。
学位論文審査の要旨 主査 教授 網塚 浩 副査 教授 熊谷健一 副査 教授 大川房義 副査 准教授 根本幸児
学位論文題名
Magnetic Clustering and Non ―Fermi ―Liquid Behavior ●
AccompanylngSuppreSS10nof
LOng − RangeFerromagnetlCOrderinCePt1 一貧 Rh 劣
(CePtl −xRhx における強磁性長距離秩序の抑制に伴う 磁気クラ スター形成と非フェルミ液体異常)
希土類やアクチナイド元素を含む金属化合物において、圧カや磁場の印加、あるいは元素 置換といった非熱的な外部パラメータによって磁気秩序を発生あるいは消失させた際、極低 温 領域の 物理量が 、従来知られるランダウのフェルミ液体論に従わない特異な温度異存性
(非フェルミ液体異常)を示す例が近年、多数報告され、問題となっている。理論的には絶 対零度での相転移(量子相転移)に伴う量子ゆらぎの効果が本質的と考えられ、これを取り 入れた様々なモデルが提案されているが、現実の様々な系との対応は未だ十分とはいえず、
包括的な理解には至っていない。申請者は、この問題において最も基本的であると思われる 強磁性ー常磁性間の量子相転移に関する研究が、実験的には数例しかなされていなぃことに 着目し、Ce(Pt Rh)系における強磁性秩序の消失過程を静磁化、交流磁化、比熱測定を用いて 詳 細に調 べた。そ の結果、PtのRh置換に伴い、系の基底状態が、強磁性長距離秩序相から 強磁性クラスターのグラス秩序相を経て、超常磁性状態へと変化することを確認し、この系 で は2次相転移 として 特徴付け られる量 子臨界 点が存在しないことを明らかにした。さら に 、超常 磁性が発 現している広いRh濃度領域において、低温磁化率が温度の異常なべき則 に従い、また比熱が対数発散的に振る舞う非フェルミ液体異常を示すことを見出した。本研 究は、乱れのある系においては量子相転移の様相が均一な系とは本質的に異なる場合がある ことを実験的に初めて明確に示すとともに、その状況下で現れる非フェルミ液体異常の特徴 を明らかにした点で学術的に高い価値があると思わる。これを要するに、著者はf電子系に おける量子臨界点近傍の電子状態に関して新たな知見を得たものであり、物性物理学におけ る強相関電子系の学術分野に対して貢献するところ大なるものがある。よって著者は、北海 道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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